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特許7271561分光学的手法を用いて微生物を識別する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】分光学的手法を用いて微生物を識別する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3577 20140101AFI20230501BHJP
   G01N 21/552 20140101ALI20230501BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
G01N21/3577
G01N21/552
C12Q1/04
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020541868
(86)(22)【出願日】2019-01-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 IT2019050025
(87)【国際公開番号】W WO2019150408
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2022-01-25
(31)【優先権主張番号】102018000002353
(32)【優先日】2018-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】518079770
【氏名又は名称】アリファックス ソチエタ レスポンサビリタ リミタータ
【氏名又は名称原語表記】ALIFAX S.R.L.
【住所又は居所原語表記】VIA PETRARCA 2/1 35020 POLVERARA (PD) ITALY
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】ガリアーノ パオロ
【審査官】越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/210783(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/042579(WO,A1)
【文献】特表2018-502275(JP,A)
【文献】特表2015-516570(JP,A)
【文献】特表2015-507182(JP,A)
【文献】特開2005-195586(JP,A)
【文献】米国特許第06379920(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/17 - G01N 21/61
C12Q 1/00 - C12Q 3/00
G01N 33/48 - G01N 33/98
G06N 3/00 - G06N 3/12
G06N 7/08 - G06N 99/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全反射赤外分光計(ATR-FTIR)を用いて生体サンプル内の微生物を識別する方法であって、
既知の微生物の種、亜種及び下位分類の既知のサンプルに関連するリファレンススペクトルのデータベースを準備する工程(A1,A2,A3)と、
前記データベースから開始して、既知の微生物の種、亜種又は下位分類の各々についての最も重要な識別分光特性に基づき、計算済モデルを作成する一以上の工程(A4)と、
固体培地又は液体培地で発育させられ場合によっては生体液を含む未知のサンプルをサンプリングする工程(B)と、
前記未知のサンプルのスペクトルを取得する一以上の工程(C)と、
前記未知のサンプルの前記スペクトルを処理する一以上の工程(D)と、
前記未知のサンプルの前記スペクトルを前記計算済モデルと比較することで解析する一以上の解析工程(E)と、
一以上の制御工程(F)と、を有し、
各前記解析工程(E)において、前記既知の微生物の種、亜種又は下位分類の一以上に前記未知のサンプルが所属するスコアである少なくとも複数の所属スコアと、前記所属スコアの信頼性パラメータと、を提供し、
前記一以上の制御工程(F)において、前記所属スコア及び前記信頼性パラメータから開始して、前記未知のサンプルのスペクトルを新たに取得する工程(C)を要求し、あるいは、前記方法の最終結果を提供し、
前記最終結果は、識別不成功(J)又は識別成功(G,H,I)を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
既知の微生物の種、亜種又は下位分類の既知のサンプルに関連するリファレンススペクトルのデータベースを準備する工程(A1,A2,A3)は、各既知のサンプルについて、
生体液の存在下又は非存在下で固体培地又は液体培地で発育させられて得られた前記既知のサンプルをサンプリングする工程(A1)と、
前記既知のサンプルのスペクトルを取得する一以上の工程(A2)と、
前記既知のサンプルのスペクトルを処理する一以上の工程(A3)と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リファレンススペクトルは、異なる種、亜種若しくは下位分類の微生物のサンプル及び/又は同じ種、亜種若しくは下位分類の微生物の異なる株のサンプル及び/又は生体液と共に若しくは生体液なしで可変な培地で発育させたサンプルに関連するスペクトルを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記未知のサンプルは固体培地上で発育させたものであることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記既知のサンプルの少なくとも1つは固体培地上で発育させたものであることを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記未知のサンプルは、少なくとも1つの発育液体ブロス内で発育させられ、その後遠心分離又はろ過又は濃縮されてペレット又は濃縮サンプルとされ、
前記スペクトルは、前記ペレット又は濃縮サンプルから分析物を除去することで取得されたものであることを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記既知のサンプルの少なくとも1つは、少なくとも1つの発育液体ブロス内で発育させられ、その後遠心分離又はろ過又は濃縮されてペレット又は濃縮サンプルとされ、
前記スペクトルは、前記ペレット又は濃縮サンプルから分析物を除去することで取得されたものであることを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記処理する工程(D,A3)は、予め定められたスペクトル範囲における前記サンプルの最も重要な識別分光特性を自動的に特定するアルゴリズムを用いることを含むことを特徴とする請求項1~7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記解析工程(E)は、多変量解析などの統計的手法を用いることを含むことを特徴とする請求項1~8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記解析工程(E)は、主成分分析(PCA)に基づく方法を用いることを含むことを特徴とする請求項1~9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記解析工程(E)はニューラルネットワークに基づく方法を用いることを含むことを特徴とする請求項1~10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記解析工程(E)は、スペクトルのクラスターの解析に基づく方法を用いることを含むことを特徴とする請求項1~11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記計算済モデルは、未知のサンプルと既知のサンプルの両方について、各サンプルについての前記識別分光特性のリストを備えることを特徴とする請求項1~12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記取得する工程(C,A2)は、前記サンプルの乾燥レベルが所定の基準乾燥レベルに達した時にのみ前記スペクトルが取得されるように前記乾燥レベルを分光的にモニターすることを含むことを特徴とする請求項1~13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~14の何れか一項に記載の、生体サンプル内の微生物を識別する方法を実行する装置であって、
コンピュータ(15)に組み込まれた処理システム及びデータ表示システムと連結した全反射(ATR)取得モードのフーリエ変換型赤外分光法(FTIR)用の分光光度計と、
赤外線(17)の線源(13)と、
反射素子(16)と、
結晶(12)などの内部反射素子と、
検出器(14)と、
解析される前記生体サンプルが配置される、前記結晶(12)の表面上において画定された取得ゾーン(18)と、を備え、
前記コンピュータ(15)には、既知の微生物の種、亜種及び下位分類の既知のサンプルに関連する計算済モデルが記憶されている、ことを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、従来方法と比べて非常に短い時間で微生物の発育に関する指標を取得するために、例えばスペクトルプロファイル又はニューラルネットワークの多変量解析法などの統計的手法を用いて微生物を識別する方法に関する。
【0002】
特に、本発明は、未知のサンプルのスペクトルプロファイルを解析すること(ATR-FTIR)と、このスペクトルプロファイルを以前収集されデータベース内に記憶されたサンプルのスペクトルプロファイルと比較することと、を介して微生物を識別するための解析機器の発展に基づくものである。
【背景技術】
【0003】
フーリエ変換型赤外分光法(FTIR)は非破壊的な解析手法であり、これを用いて解析対象サンプルの化学成分の情報を取得することができる。この手法は1990年代に入ってから生体サンプルの解析に用いられてきた(Diem M.et al.,The Analyst[27 Aug. 2004,129(10):880-885])
【0004】
同時に、未知の微生物を識別及び分類するFTIRの能力が示された(Helm D.et al.,Journal of General Microbiology(1991,137,69-79)及びMarley L.et al.,Vibrational Spectroscopy 26,2,2001,151-159)。
【0005】
異なる種、亜種又は下位分類の微生物は、タンパク質、脂質、核酸及び多糖に関する詳細な生化学成分によって特徴づけられ、これらは離散的な振動スペクトルに反映される(ed.Griffiths及びChalmers,2001 Handbook of vibrational spectroscopy,John Wiley& sons,New York,volume 5)。
【0006】
FTIR手法により示唆された微生物学におけるいくつかの考え得るアプリケーションには以下のものが挙げられる。即ち、
(i)例えば臨床検査施設などの人又は獣医フィールドにおける病原体の特定
(ii)疫学調査、研究トピック、病原体のスクリーニング、衛生チェック、感染の鎖の解明、コントロール療法及び回帰的感染症の検出
(iii)周囲環境の微生物の特徴づけ及びスクリーニング
(iv)生物工学的プロセスのモニタリング
(v)食品又は医薬品産業における微生物学的品質コントロール
(vi)採取後の株の管理
【0007】
微生物を識別する方法について、未知のサンプルのスペクトルとデータベースに格納された既知の微生物の種のスペクトルとの間で比較解析する手法に基づくものが知られている。
【0008】
このタイプの公知の識別方法の例は、US5660998A、CN103217398A、US63799290B1、WO2006002537A1、US9551654B2、US20170167973A1、WO2017/210783A1、Sousa et al.,European Journal of Clinical Microbiology&Infectious Diseases(2014)33:1345-1353、Whittaker et al.,Journal of Microbiological Methods 55(2003)709-716、Wang et al.,International Journal of Food Microbiology 167(2013)293-302において報告されている。
【0009】
しかしながら、多くの公知の方法では、透過、反射又はイメージングモードでスペクトル取得が行われる。
【0010】
例えば、透過又は反射取得モードについてはUS5660998及びUS6379920において報告されており、一方、イメージングモードはWO2006002537A1、US9551654B2、US20170167973A1で用いられている。
【0011】
これらの方法については、直接得られた信号はサンプルの厚さ及び形態に依存し、つまり厚すぎると飽和が生じたりあるいは不均一だと散乱によるゆがみが生じたりするという事実に関するデメリットがある。
【0012】
また、例えばマルチピクセルなどのイメージングアプローチに基づく方法においては、シングルポイント検出器と比べると各ピクセルで得ることができる信号対ノイズ比が低いために個別のスペクトルについて解像度が制限される場合がある。
【0013】
先行技術における別のデメリットとして、スペクトルにおいて水又は他の混入物質の存在に起因する信号が含まれる可能性があり、これが微生物の特異的信号を隠してしまうことが挙げられる。
【0014】
例えばCN103217398Aなどの一部のケースでは乾燥処理が行われるが、WO2017/210783A1において報告されているようにこの処理は微生物に重大かつ不可逆的な影響を及ぼし、さらには微生物のスペクトルを変えてしまう可能性もある。
【0015】
例えばWO2017/210783A1などの一部のケースでは、スペクトルに存在する水成分を除去するための複数取得を使用可能である。しかしながら、この解決法は、解析時間が増大するとともにスペクトル比較のための解析手順の複雑さが増すことに関するデメリットがある。
【0016】
先行技術における別のデメリットとして、多くの場合参照用データベースには限られた数の微生物種しか含まれておらず、したがって幅広い範囲の考え得る種をカバーしていないことが挙げられる。
【0017】
例えば、CN103217398Aの中で報告されているデータベース及び関連する識別方法では13個の細菌種を参照している。
【0018】
さらに、参照用データベースのサイズが大きくなると、スペクトル取得手順及び比較解析手順において、微生物の種を培養及び発育させる手順に関する一連の問題が生じることとなる。
【0019】
例えば、データベースのサイズが大きくなるにつれ、未知のサンプルのスペクトルをデータベースに含まれる多数のスペクトルと比較しなければならないために、未知のサンプルの解析時間も増大する。
【0020】
さらに、同じ種の微生物でも分光特性に大きなばらつきがあることから、これらをデータベースに含まれるスペクトルと比較することが困難となる。
【0021】
このばらつきは、各々の種についての異なる株(strains)の存在、あるいは、培地の化学成分及び/又は発育条件のばらつきによる同じ種についての異なる培養間での差異に起因する可能性がある。
【0022】
したがって、微生物の多数の種、亜種又は下位分類について、多様性に富んだ参照用データベースとともに用いることができる、微生物を識別するための新規の方法を提供する必要がある。
【0023】
したがって、本発明の目的の1つは、多数の異なる種、亜種又は下位分類の微生物を識別するのに十分な汎用性を備えるとともに判別能力及び精度が高い微生物を識別する方法を提供することである。
【0024】
本発明の別の目的は、同じ種、亜種又は下位分類の微生物の異なる株を、たとえこれらが異なる培地で異なる培養で発育させた場合又は生体液の存在下若しくは非存在下における異なる環境条件で発育させた場合であっても識別可能な微生物を識別する方法を提供することである。
【0025】
本発明の別の目的は、データベースが大きい場合でも正確でかつ個々の解析に要する時間が短い微生物を識別する方法を提供することである。
【0026】
本発明の別の目的は、解析の異なる工程及び機器の部品を全て含み、微生物を識別する方法を簡単に実行可能な装置を提供することである。
【0027】
本出願人は、先行技術の欠点を克服するとともにこれらの及び他の目的及び利点を得るために、本発明を考案し、試験し、そして具現化した。
【発明の概要】
【0028】
本発明は特許請求の範囲の独立請求項に記載され特徴づけられており、また特許請求の範囲の従属請求項には本発明の他の特徴及び主な発明思想のバリエーションが記載されている。
【0029】
本発明は、微生物を識別する方法に関し、具体的には、未知のサンプルの赤外スペクトルと前もってデータベースに保存された既知のサンプルの赤外スペクトルとを比較することで、未知のサンプル内に存在する多数の種、亜種及び下位分類の微生物を識別することを可能とする方法に関する。
【0030】
本発明による微生物を識別する方法は、
既知の微生物の種、亜種及び下位分類の既知のサンプルに関連するリファレンススペクトルのデータベースを準備する工程と、
前記データベースから開始して、既知の微生物の種、亜種又は下位分類の各々についての、例えば吸収の形状、サイズ、強度及びピーク面積の情報又は前記強度間若しくは異なる前記ピーク面積間の相関関係及び比率に関連する最も重要な識別分光特性に基づき、計算済モデル又はリファレンスライブラリを作成する工程と、
患者から採取され場合によってはその後に固体培地又は液体培地で発育させられ場合によっては生体液も含む未知のサンプルをサンプリングする一以上の工程と、
前記未知のサンプルのスペクトルを取得する一以上の工程と、
前記未知のサンプルの前記スペクトルを処理する一以上の工程と、
前記未知のサンプルの前記スペクトルを前記計算済モデルと比較することで解析する一以上の解析工程と、
一以上の制御工程と、を有し、
各前記解析工程において、前記既知の微生物の種、亜種又は下位分類の一以上に前記未知のサンプルが所属するスコアである少なくとも複数の所属スコア(場合によってはパーセンテージで表される)と、前記所属スコアの信頼性パラメータと、を提供し、
前記一以上の制御工程において、前記所属スコア及び前記信頼性パラメータから開始して、前記未知のサンプルのスペクトルを新たに取得する工程を要求し、あるいは、最終結果を提供し、
前記最終結果は、識別不成功又は識別成功を含む。
【0031】
一部の実施形態では、既知の微生物の種、亜種又は下位分類の既知のサンプルに関連するリファレンススペクトルのデータベースを準備する工程は、各既知のサンプルについて、
場合によっては患者から採取され、その後場合によっては生体液の存在下又は非存在下で固体培地又は液体培地で発育させられて得られた既知のサンプルをサンプリングする工程と、
前記既知のサンプルのスペクトルを取得する一以上の工程と、
前記既知のサンプルのスペクトルを処理する一以上の工程と、を含む。
【0032】
一部の実施形態では、前記データベースを準備する工程は前記データベースを作成するために1度のみ実行することができ、前記データベースを、後続の未知のサンプルの解析の各々に用いてもよい。
【0033】
一部の実施形態では、前記データベースを準備する工程は、微生物の新たな種、亜種又は下位分類を含むことが望まれた時に実行される前記データベースの更新を含んでもよく、したがって上記方法の用途範囲が拡張される。
【0034】
同様に、前記計算済モデルは、作成された後に、後続の未知のサンプルの解析の全てに用いることができ、あるいは、微生物の新たな種、亜種又は下位分類の追加が望まれたならばその度に更新することもできる。
【0035】
本発明によれば、前記スペクトルは、FTIR-ATR分光光度計を備える装置を用いて取得される。
【0036】
この取得モードには、サンプルの厚さ及び形態に依らずにスペクトルを得ることができ、これにより透過又は反射に基づく手法と比べて高再現性を有することが保証されるという利点がある。
【0037】
さらに、非常に小さいサンプルに対して動作することができるとともに、非常にシンプルかつ高速動作処理で動作することができる。
【0038】
本発明の一部の実施形態では、FTIR-ATR分光光度計は、例えばマルチピクセル及び/又はイメージングベースの方法よりも信号対ノイズ比が高くなることを保証するシングルポイント検出器を備える。
【0039】
この特徴により、信号散乱及び飽和の現象を制限又は抑制することができ、サンプルの準備をより簡単化することが保証される。
【0040】
一部の実施形態では、分光光度計は連続取得モードを有し、これにより機器のクリーニングが容易となるとともに、水及び/又は他の混入物質の存在をリアルタイムで診断することが可能となり、これによって、水及び/又は混入物質の存在が微生物の特異的信号を覆い得るといった従来技術における欠点を制限することが可能となる。
【0041】
有利には、本発明によれば、サンプルの乾燥レベルが所定の基準レベルに達したときにのみスペクトルが取得されるように、サンプルの乾燥レベルを分光的にモニターすることが含まれる。
【0042】
したがってこのモードで取得されたスペクトルは、実質的に同じ乾燥レベルを有するサンプルに関するものであるので、より互いに対応している。
【0043】
この特徴により、サンプルから水を除去するためのオーブンによる乾燥作業が不要な為、微生物に、したがって対応するスペクトルに、不可逆的な影響が生じることを回避できるので、従来技術の一部の欠点を克服又は少なくとも制限することができる。
【0044】
一部の実施形態では、本発明は、予め定められたスペクトル範囲におけるサンプルの最も重要な識別分光特性を自動で特定するアルゴリズムを使用する。
【0045】
この特徴により、解析工程に要する時間が大幅に減少でき、よって時間を短縮できるとともに識別の精度を高めることができる。
【0046】
有利なことに、計算済モデルを用いることにより、従来技術の方法と比べて各未知のサンプルについての識別時間を短縮することができる。
【0047】
これらの特徴により、データベースのサイズを大きくすることが可能となり、これによって、多くの異なる種、亜種又は下位分類の微生物を、そして同じ種、亜種又は亜科の異なる株を、場合によっては生体液の存在下で、場合によってはこれらが異なる培地で異なる培養で又は異なる環境条件で発育したものであっても、識別することが可能となる。
【0048】
本開示のこれらの及び他の態様、特徴及び利点は、以下の記載、図面及び特許請求の範囲を参照することで理解されるであろう。本明細書の一部を構成する図面は、本発明の一部の実施形態を示しており、本明細書の記載とあわせて本開示の原理を説明することを目的としている
【0049】
本発明を以下の図面を用いてよりよく記述及び示す。
【0050】
理解を深めるために、図面において可能な場合には同じ共通の要素には同じ参照符号を付している。また、1つの実施形態に含まれる要素及び特徴部を追加の説明なしに他の実施形態に簡便に組み込むことができることは理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】本発明の方法に係る考え得る装置の模式図である。
図2】本発明の方法の一実施形態における工程を例示するブロック図である。
図3】FTIR-ATR手法を用いて収集された実験データを示し、(a)は収集された生データを示し、それぞれの種が異なる色で表されており、(b)は、変換後のデータを示す。
図4】異なる種の微生物のスペクトルに対応する、2つの主要成分からなる空間内におけるPCAを用いて得られたクラスターのゾーンを模式的に示す。
図5】最初の2つの成分の空間内におけるLDAを用いて得られたクラスターのゾーンの例を模式的に示す。
図6】異なる種の微生物のスペクトルに対応する、2つの主要成分からなる空間内におけるPCAを用いて得られたクラスターのゾーンの例を模式的に示す。
図7】パネルaはグラム陽性(薄い灰色)及びグラム陰性(濃い灰色)として色付けされたPCA描写であり、パネルbは前記方法により得られた「実際の」データに対する「予測した」データを示す混同行列であり、パネルcはグラムのタイプを予測する際に本明細書に記載の実施形態に適用された数学的方法を実行した結果を示す。
図8】データベースのスペクトルを用いて本明細書に記載の実施形態による方法の交差検証を用いた検証によって得られた混同行列である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下に本発明の種々の実施形態について詳細に説明する。その1つ又は複数の例を図面に示す。各例は本発明を説明するために示されており、本発明を限定するものではない。例えば、1つの実施形態の一部として図示又は記載される特徴は、他の実施形態に適用又は関連付けて別の実施形態とすることができる。本発明はそのような変更及びバリエーションの全てを備えることは理解されるであろう。
【0053】
これらの実施形態について記載する前に、本明細書の記載は図面を用いて以下に説明する構成要素の詳細な構成及び配置への適用に限定されないことを明記しておく。本明細書の記載は他の実施形態を提供することができるとともに、他の様々な形で適用及び除外することができる。また、本明細書で用いる表現及び用語は単に説明を目的とするものであり、限定的なものと捉えるべきではない。
【0054】
特に記載のない限り、本明細書で用いる全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する分野の当業者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。
【0055】
本明細書に記載のものと類似又は同等の方法及び材料を実際に又は本開示を検証するための試験に用いることができるが、前記方法及び材料は例として以下に記載するものである。コンフリクトが発生した場合にはこれらの定義を有する本願が優勢となるべきである。材料、方法及び例は純粋に説明を目的とするものであり限定的に理解してはならない。
【0056】
本明細書において、サンプルとは、例えば微生物(これに限らない)などの微細な生物を含む生物学的物質のより大きい均一なセットから、解析のために採取した最低量を意味する。
【0057】
場合によっては、必要に応じて、生物学的物質の微生物の組成がそれぞれ未知又は既知である場合には、未知のサンプルか既知のサンプルかを記載する。
【0058】
一部の実施形態では、微生物の種、亜種及び下位分類は臨床的関心の対象である場合がある。
【0059】
さらに、「スペクトル」との用語は、使用される取得機器に対応する一連の電磁放射線に関して用いられ、したがって「赤外スペクトル」や「振動スペクトル」との用語や振動遷移若しくは特定のスペクトル範囲を参照する用語は、本発明の方法の適用可能性を限定するものと理解すべきではない。
【0060】
図1は、本発明に係る微生物を識別する装置10を模式的に示す。
【0061】
例として、前記装置は、処理システム及びデータ表示システムに連結された、ATR(Attenuated Total Reflectance:全反射)取得モードのFTIR(Fourier Transform Infra-Red:フーリエ変換型赤外)分光のための分光光度計、即ちFTIR-ATR分光光度計を備える。
【0062】
処理システム及び表示システムは、例えば、1つの処理表示システムに組み込まれてもよく、及び/又は例えばスクリーンを有するパーソナルコンピュータなどのコンピュータ15の中に備えられていてもよい。
【0063】
一部の実施形態では、処理システムはコンピュータプログラムを備えており、当該コンピュータプログラムは、コンピュータ可読媒体に記憶させることができるとともに、装置10によってその都度実行可能な命令を含むことができる。
【0064】
以下では、説明を簡単にするために、装置10を管理可能かつデータを処理及び表示可能なソフトウェア及びハードウェアシステムのセットを示すものとして、コンピュータ15を参照する。
【0065】
主要構成要素についてそれ自体知られているFTIR-ATR分光光度計は、赤外線17の線源13と、反射素子16と、内部反射素子と、検出器14と、を備える。
【0066】
簡単化のため、モノクロメータ、チョッパー、干渉計などの分光光度計の他の構成要素は図1には示していない。
【0067】
一部の実施形態では、線源13は、Globarタイプのブラックボディソースとすることができる。
【0068】
例として、線源13によって発せられる赤外線17、即ち入射線17aは、反射素子16によって内部反射素子に当たるように方向づけられる。
【0069】
一部の実施形態では、内部反射素子は、例えば結晶12とすることができる。
【0070】
一部の実施形態では、結晶12は屈折率が高い結晶12とすることができる。
【0071】
一部の実施形態では、結晶12はダイヤモンド、ZnSe、シリコン又はゲルマニウムの結晶12とすることができる。
【0072】
有利なことに、結晶12がダイヤモンドの結晶12の場合、同等の測定に用いられるZnSe、シリコン又はゲルマニウムよりも耐久性が高く、透明範囲も広いという利点がある。
【0073】
結晶12内での赤外線17の反射によって、結晶12の表面上にエバネッセント場が生成され、当該表面上に取得ゾーン18を画定することができるとともに、当該表面上に解析される生体サンプルが位置付けられる。
【0074】
エバネッセント場は、場合によって、サンプル内に最大数ミクロンの深さ範囲まで達することができる。
【0075】
具体的には、この深さ範囲は入射線17aの入射角度及び波長の関数であるとともに、結晶12に用いられる材料の屈折率の関数であり、したがって、解析される全サンプルについて実質的に一定とみなすことができる。
【0076】
このため、有利なことに、ATRモードによって、サンプルを通る放射線の光路に依らずにしたがってサンプルの厚さに依らずにスペクトルを取得することができ、これにより透過又は反射を用いるアプローチと比べて高い再現性を保証することができる。
【0077】
さらに、このモードによって、スペクトルの質に悪影響を及ぼし得る散乱及び/又は信号飽和といった現象を抑制又は回避することができる。
【0078】
したがって、このモードによって、より高い測定反復可能性が保証されるとともに、サンプルのよりシンプルな準備が保証される。
【0079】
サンプルとの相互作用後に結晶12から出た赤外線17、即ち出射線17bは、次に反射素子16によって検出器14に向けられる。
【0080】
一部の実施形態では、検出器14はDLaTGS(Deuterated L-alanine doped triglycine sulphate)検出器とすることができる。
【0081】
代替的な実施形態では、検出器14はDTGS検出器とすることができる。
【0082】
例えば、検出器14は出射線17bに含まれる光学的情報を、コンピュータ15に送られる電気信号に変換する。
【0083】
一部の実施形態では、前記装置は、NIR(近赤外)及び/又はMIR(中赤外)及び/又はFIR(遠赤外)領域のスペクトルを取得するよう設けられる。
【0084】
一部の実施形態では、装置10は連続取得モードで動作することができ、即ち、取得ゾーン18内でその都度取得されたものを、コンピュータ15のスクリーン上にリアルタイムで表示することができる。
【0085】
本発明は、さらに、図2に模式的に示す微生物を識別する方法に関し、当該方法は、
既知の微生物の種、亜種及び下位分類の既知のサンプルに関連するリファレンススペクトルのデータベースを準備する工程(A1,A2,A3)と、
前記データベースから開始して、既知の微生物の種、亜種又は下位分類の各々についての最も重要な識別分光特性に基づき、計算済モデルを作成する工程(A4)と、
患者から採取され場合によっては採取後に固体培地又は液体培地で発育させられ場合によっては生体液を含む未知のサンプルをサンプリングする工程(B)と、
前記未知のサンプルのスペクトルを取得する一以上の工程(C)と、
前記未知のサンプルの前記スペクトルを処理する一以上の工程(D)と、
前記未知のサンプルの前記スペクトルを前記計算済モデルと比較することで解析する一以上の解析工程と、
一以上の制御工程(F)と、を有し、
各前記解析工程において、場合によっては前記既知の微生物の種、亜種又は下位分類の一以上に前記未知のサンプルが所属するパーセンテージの形での少なくとも複数のスコアと、前記所属スコアの信頼性のパラメータと、を提供し、
前記一以上の制御工程(F)において、前記所属スコア及び前記信頼性パラメータから開始して、前記未知のサンプルのスペクトルを新たに取得する工程(C)を要求し、あるいは、前記方法の最終結果を提供し、
前記最終結果は、識別不成功(J)、又は、異なる基準に応じた識別成功(G,H,I)を含む。
【0086】
本発明の一部の実施形態では、前記データベースを準備する工程(A)は、
場合によっては患者から採取され、場合によっては採取後に固体培地又は液体培地で発育させられ場合によっては生体液を含む既知のサンプルをサンプリングする工程(A1)と、
前記既知のサンプルのスペクトルを取得する一以上の工程(A2)と、
前記既知のサンプルのスペクトルを処理する一以上の工程(A3)と、を含む。
【0087】
一部の実施形態では、前記工程(A1,A2,A3)は、前記データベースにおいて既知の新たなサンプルを挿入する度に繰り返すことができる。
【0088】
一部の実施形態では、サンプルをサンプリングする前記工程(B,A1)は、患者からサンプルを採取することを含んでもよい。
【0089】
一部の実施形態では、患者から採取したサンプルに対し、微生物に栄養物を追加する事前解析処理を施してもよい。
【0090】
一部の実施形態では、サンプルを固体培地上で発育させてもよい。
【0091】
一部の実施形態では、サンプルをペトリ皿上で発育させてもよい。
【0092】
一部の実施形態では、サンプルを液体培地で発育させ、その後遠心分離して濃縮ペレットを得てもよい。
【0093】
一部の実施形態では、サンプルを液体培地又は液体発育ブロスで発育させ、その後ろ過してもよい。
【0094】
一部の実施形態では、サンプルを液体培地又は液体発育ブロスで発育させてもよく、あるいはサンプルに対して濃縮化又は濃厚化処理を施して存在している微生物の濃度を高めてもよい。
【0095】
一部の実施形態では、サンプルは、場合によっては人間又は動物由来の生体液を含んでもよい。
【0096】
一部の実施形態では、スペクトルを取得する工程(C,A2)は、前記装置におけるサンプルと接する表面、例えば図1に示す取得ゾーン18の表面をクリーニングする事前工程を有してもよい。
【0097】
一部の実施形態では、例えば取得ゾーン18上に蓄積された不純物に関連する吸収バンドの消失を確認することでそのようなクリーニングの効果を検証するために、例えば連続取得モードを用いて背景スペクトルを取得することが可能である。
【0098】
一部の実施形態では、スペクトルを取得する工程(C,A2)は、サンプルの分析物を採取し、スペクトルを取得するために分光光度計の結晶12上、例えば取得ゾーン18上に配置することをさらに含む。
【0099】
一部の実施形態では、前記分析物は、例えば使い捨てロッドを用いて除去して配置することで、固体の形態で取得ゾーン18上に配置される。
【0100】
一部の実施形態では、前記分析物を、例えばダイナモメトリックプレス機を用いて、取得ゾーン18に押し付けてもよい。
【0101】
一部の実施形態では、サンプルの乾燥レベルが分光的にモニターされる。
【0102】
一部の実施形態では、含水量の評価について、装置を連続取得モードにしたままで、水の分光特性に関する各波長範囲内の吸収バンドを、場合によってはこれが完全に消えるまでその減少をモニターすることで、含水量を評価することが可能である。
【0103】
本発明によれば、サンプルの乾燥レベルが所定の基準レベルに達したときにスペクトルが取得される。
【0104】
有利なことに、この特徴によって、微生物の特異的信号を覆う又はこれと干渉するような水の存在に起因する信号がスペクトルに含まれる場合があるという従来技術における問題を克服又は少なくとも制限することができる。
【0105】
さらにこの特徴によって、解析される微生物を不可逆的に改変させ得るサンプル乾燥処理を避けることができる。
【0106】
また、スペクトルを取得する工程(C,A2)は、サンプルから得られた分析物のスペクトルを記録することを含む。
【0107】
一部の実施形態では、スペクトルは所定の期間記録される。
【0108】
一部の実施形態では、スペクトルは、30秒よりも短い所定の期間記録される。
【0109】
一部の実施形態では、スペクトルの記録によって、所定の数の一連のスペクトル(sequential spectra)が取得され、これらはその後、信号対ノイズ比を高めるために平均化される。
【0110】
一部の実施形態では、スペクトルの数として、各分析物について8~512個、好適には各分析物について32~256個、より好適には各分析物について64~128個のスペクトルを取得して平均化することができる。
【0111】
一部の実施形態では、スペクトル又は場合によってはスペクトルの平均値がスクリーン上に表示される。
【0112】
スペクトル又はスペクトルの平均値を処理する工程(D,A3)は、
線形及び/若しくは非線形補間並びに/又はフィッティングアルゴリズム(スペクトルプロファイル)を用いることと、
スペクトルプロファイルの1階微分及び/又は2階微分を計算することと、
全スペクトル範囲にわたってベクトル正規化アルゴリズムを用いて微分値を正規化することと、
微生物の種、亜種又は下位分類の分類において最も有用なスペクトルゾーンを選択することと、を含むことができる。
【0113】
例として、スペクトルゾーンは、核酸、炭水化物及び多糖について950~1280cm-1の範囲であり、澱粉、例えばタンパク質、メチル基及びメチレン基、例えば脂質、について1280~1480cm-1の範囲であり、カルボニル基、例えば脂質のカルボニル基について1700~1800cm-1の範囲であり、脂肪族鎖、例えば脂質、について2800~3000cm-1の範囲である。
【0114】
一部の実施形態では、スペクトル範囲の選択処理を改善するために人工学習アルゴリズム(機械学習)を用いることができる。
【0115】
例として、図3(a)は異なるサンプルについて収集できるスペクトルを示し、図3(b)は処理されたスペクトルを示す。
【0116】
また、図3(a)は、本発明の方法の目的に重要ないくつかの識別分光特性の例を示している。
【0117】
一部の実施形態では、その後、スペクトル領域及び識別分光特性が用いられて、微生物の種、亜種又は下位分類が個別に分類されその後識別される。
【0118】
一部の実施形態では、最も関心のあるスペクトル範囲及び識別分光特性を特定するために、自動認識システムが提供される。
【0119】
有利なことに、微生物を構成する異なる化学組成、例えば核酸、脂質、タンパク質、炭水化物及びその他の成分などの存在によって、微生物のそれぞれの種、亜種又は下位分類の特徴的信号を取得することができ、これにより予測手法を得ることが可能となる。
【0120】
複数の既知のサンプルについて工程(A1,A2,A3)を繰り返すことによって、既知の微生物の種、亜種又は下位分類のリファレンススペクトルのデータベースを準備することが可能となる。
【0121】
しかしながら、本方法の一部の実施形態では、データベースは、他の方法を用いて得られた既知の微生物の種、亜種又は下位分類のスペクトルを含むことができる。
【0122】
一部の実施形態では、データベースは、既知の微生物の異なる種、亜種又は下位分類に属する単独菌感染培養物に関するスペクトルを含む。
【0123】
一部の実施形態では、データベースは、既知の微生物の種、亜種又は下位分類の各々について、既知の微生物の異なる株に関連するスペクトルを含む。
【0124】
一部の実施形態では、データベースは、例えば寒天、CNA寒天、CLED寒天、血液寒天、発色寒天などを含むがこれらに限定されない異なる培地上で発育させたサンプルに関連するスペクトルを含む。
【0125】
一部の実施形態では、データベースは液相発育ブロス内で発育させ、ペレット又は濃縮サンプルを得るために遠心分離又はろ過又は濃縮されたサンプルに関するスペクトルを含む。
【0126】
有利なことに、液体ブロス内での発育とその後のペレット化又はろ過により得られたスペクトルは、固体相発育媒体のマトリックスに由来する干渉を含まないので、基準リファレンススペクトルとして用いることができる。
【0127】
有利には、液体ブロス内で発育させられその後ペレット化又はろ過又は濃縮することで得られたスペクトルを測定することによって、例えば体液などの生体液の存在下で直接スペクトルを特定することができる。
【0128】
データベースに含まれるこのスペクトルの異質性及び多様性によって全体的な解析を行うことが可能となり、これによって、異なる培地で発育させたことによる影響も含め、微生物の多くの種、亜種又は下位分類、そして個々の種、亜種又は下位分類についての多くの異なる株を識別することができる。
【0129】
各スペクトルの多重取得を行う場合、繰り返された個別スペクトル及び/又は繰り返しにおいて計算された平均スペクトルをデータベースに挿入することが可能である。
【0130】
工程(A4)で作成又は更新された計算済モデル又はリファレンスライブラリは、選択されたスペクトル範囲内での解析の目的に最も重要な識別分光特性に基づくことができる。
【0131】
一部の実施形態では、最も重要な識別分光特性は、例えば、吸収ピークの形状、サイズ、強度及び面積の情報と関連付けることができ、あるいは異なるピークの強度間又は面積間の相関関係及び比率とも関連付けることができる。
【0132】
一部の実施形態では、計算済モデルは、既知の微生物の種、亜種又は下位分類の既知のサンプルの各々に関する重要な識別分光特性のリストを含むことができる。
【0133】
一部の実施形態では、最も重要な識別分光特性は、上記の統計的解析手法並びに/又はニューラルネットワーク及び/若しくは人工学習に基づくアプローチによって特定することができる。
【0134】
これらの計算済モデルによって、比較のための最も重要な識別分光特性を迅速にかつ自動的に特定することができる。
【0135】
このようにして、2つのスペクトルを比較する度に、全スペクトル範囲及び/又は全分光特性ではなく、最も関心のあるスペクトル範囲のみで及び/又は最も関心のある分光特性との関連のみで、比較を行うことができる。
【0136】
例えば、全スペクトル範囲のうち、1cm-1の分解能で取得された未知のサンプルのスペクトルを、同じ分解能で取得された18000個のリファレンススペクトルを含むデータベースと比較したいような場合、このような比較は、従来技術の方法を用いると6千5百万個のポイントの評価を要するであろう。
【0137】
本出願人は、選択されたスペクトル範囲について計算済モデルを用いる作業を介する本発明の方法を用いることによって、このような比較に要するのが、従来技術の方法よりも20~80倍少ない数のポイントの評価とすることができることを見出した。
【0138】
したがって、計算済モデルを用いることによって、大規模データベースであっても各未知のサンプルについての解析時間を大幅に減少させることができる。
【0139】
したがって、この特徴により、データベースのサイズを、より多数の既知の微生物の種、亜種又は下位分類を含むことができるようにかなり大きくすることができ、これによって本発明の方法の予測性能及び識別性能が向上及び拡大する。
【0140】
また、この特徴により、高分解能のスペクトルでも作業することができるようにもなり、これによって本方法の精度及び正確さが向上する。
【0141】
さらに、例えば、上記のリストがあることで、最小二乗法の使用を不要とすることができ、及び/又は場合によっては全スペクトルについての全波長範囲についての二乗平均平方根(average square)の計算を除くことができる。
【0142】
他の実施形態では、自動認識システム及び計算済モデルを改善するために、本方法が用いられる際に漸進的に、人工学習(機械学習)及び人工知能モデルが用いられる。
【0143】
一部の実施形態では、解析工程(E)は、未知のサンプルのスペクトルをリファレンスデータベースに含まれるリファレンススペクトル及び/又は計算済モデルと比較することを含む。
【0144】
本発明の一部の実施形態では、この比較を行うために統計的手法を用いることができる。
【0145】
本発明の一部の実施形態では、統計的手法は、多変量解析、例えば主成分分析(PCA)、又は線形判別分析(LDA)、線形部分最小二乗判別分析(LDPLS)、二次判別分析(QD)を含むことができる。
【0146】
一部の実施形態では、上記の比較を行うために、ニューラルネットワークに基づくアプローチを実行する方法、手法又はアルゴリズムを用いることができる。
【0147】
一部の実施形態では、上記の比較を行うために、人工学習(機械学習)に基づくアプローチを実行する方法、手法又はアルゴリズムを用いることができる。
【0148】
本発明の一部の実施形態では、上記の比較は、スペクトルを1階微分及び/又は2階微分したものを比較することを含むこともできる。
【0149】
一部の実施形態では、統計的重みを用いて、スペクトルの異なる領域をさまざまに重み付けすることが可能である。
【0150】
本発明の一部の実施形態では、2つのスペクトル間の比較は、例えば最小二乗法に基づく方法を用いて、2つのスペクトル間の距離といった定義を用いて行うことができる。
【0151】
一部の実施形態では、上記の距離は、統計的解析及び/又は計量化学解析を行うための測定基準として用いることができる。
【0152】
一部の実施形態では、スペクトル間のばらつきをPCA分析に用いることができる。
【0153】
一部の実施形態では、解析工程(E)は、データベースにおいて表される種、亜種又は下位分類の一以上に未知のサンプルが所属するスコア、例えばパーセンテージ、を提供する。
【0154】
一部の実施形態では、解析工程(E)は、解析の信頼性、特に所属スコアの信頼性を推定する信頼性パラメータを提供する。
【0155】
一部の実施形態では、制御工程(F)は、所属スコア及び信頼性パラメータを処理することを含む。
【0156】
一部の実施形態によれば、解析の信頼性パラメータが予め設定された合格判定レベルよりも高い場合に所属スコアは即座に信頼性があると考えられる。例えば、パーセンテージスコアを用いた場合、合格判定レベルは80%~100%の範囲内で選択することができる(図2のブロックG)。
【0157】
一部の実施形態では、最初の試みにおいて微生物の未知の種、亜種又は下位分類をはっきりと識別することができない場合には、データを追加して解析結果を改善するために、工程(C,D,E及びF)を繰り返すことができる。
【0158】
一部の実施形態では、これは、信頼性パラメータが予め設定された第2合格判定レベルよりも低い場合に行うことができる。例えば、パーセンテージで表されるスコアを用いる実施形態においては、この第2合格判定レベルは70%~80%の範囲内で選択することができる。
【0159】
この場合、上記方法は、未知のサンプルから得られた第2の分析物に対して行われる第2取得工程(C)、第2処理工程(D)及び第2解析工程(E)を含む。
【0160】
例えば、第2の分析物は、未知のサンプルを培養し発育させたものと同じペトリ皿から得られた微生物の別のコロニーとすることができる。
【0161】
サンプルがペレット状の場合には、第2の分析物は、例えば、第1の分析物を採取したものと同じ濃縮ペレットから使い捨てロッドを用いて採取することができる。
【0162】
その後、第2解析の結果の信頼性が再度、例えば第2合格判定と数字的に等しい予め設定された第3合格判定レベルよりも低い場合には、上記方法は、第1取得工程(C)と第2取得工程(C)とで得られた2つのスペクトル間の類似点を比較する。
【0163】
これらのスペクトルが類似していると認められた場合(図2のブロックH)には、上記方法は、微生物の一以上の種、亜種又は下位分類に未知のサンプルが所属する所属スコアが2つの取得間で合致する旨を、解析の結果として提供する。
【0164】
これらのスペクトルが一致しないと認められた場合には、第2の分析物が採取され、第3取得工程(C)、第3処理工程(D)及び第3解析工程(E)が行われる。
【0165】
3つのスペクトルのうち少なくとも2つが類似していると認められた場合(図2のブロックI)には、上記方法は、データベースの微生物の種、亜種又は下位分類にサンプルが所属する所属スコアが、3つのスペクトルのうち2つの間で合致する旨を、解析の結果として提供する。
【0166】
さもなければ(図2のブロックJ)、スペクトル及び3つの取得に関連する3つの所属スコアとともに、識別できない旨のメッセージが表示される。
【0167】
一実施形態では、データを収集して、データベースに関してこれらを解析するのに用いられるコンピュータプログラム又はソフトウェアが提供され、前記データベースは、コンピュータ可読媒体に記憶されるとともに、微生物の分類及び識別のための解析装置によって実行されたときに本開示による方法の遂行を決定する指示を含むことができる。
【0168】
[例1]
例として、図4は、本発明によるデータベースに含まれるスペクトルのPCA解析の結果を模式的に示す。
【0169】
特に、図4の各ポイントは、最初の2つの主要成分に沿って配置された、微生物の種、亜種又は下位分類に関連する取得されたスペクトル又はスペクトルの平均に対応する。
【0170】
また、これらのスペクトルは複数のゾーンにグループ化され、その広がりは、各サンプルについての異なる株及び/又は異なる培地に基づく、微生物のそれぞれの種、亜種又は下位分類についての複数のスペクトルのばらつきと関係がある。
【0171】
[例2]
例として、図5は、本発明によるデータベースに含まれるスペクトルのLDA解析の結果を模式的に示す。
【0172】
特に、図5における各ポイントは、最初の2つの主要成分に沿って配置された、微生物の種、亜種又は下位分類に関連する取得されたスペクトル又はスペクトルの平均に対応する。
【0173】
また、これらのスペクトルは複数のゾーンにグループ化され、その広がりは、各サンプルについての異なる株及び/又は異なる培地に基づく、微生物の種、亜種又は下位分類の各々についての複数のスペクトルのばらつきと関係がある。
【0174】
[例3]
一実施形態では、本発明によるデータベースは、選択され認定されたNNCCLSタイプのAtlanta微生物をペトリ皿又は液体培地上に植え付けることによって得られた。
【0175】
この実施形態では、ペトリ皿又は液体培地上に植え付けられた各個別の微生物について特有のスペクトルが取得され、さらに、発育条件に関するスペクトルのばらつきを検証するために、様々な液体培地の製造者から入手したペトリ皿を用いて様々な発育培地に株が1つ1つ植え付けられた。
【0176】
用いた培地は以下のものから選択された。
・CLED寒天
・マッコンキー寒天
・CNA寒天
・血液寒天
【0177】
各微生物について、現在用いられている他の方法と比較した際のデータの相関関係を検証するための数的なクラスターを得ることに関する幅広い完全なケーススタディを行うために微生物を発育させたものを500個得た。
【0178】
図6は最初の2つの主要成分からなる空間で取得されたデータを表し、このなかでそれぞれの種は灰色の異なる色調で表されている。
【0179】
[例4]
一実施形態において、本発明の方法は、微生物のグラムのタイプを予想するのに用いることができる。図7に、グラムとグラム分類との結果の例を示す。
【0180】
図7のパネルaは、グラム陽性(薄い灰色)及びグラム陰性(濃い灰色)として色付けされたPCA空間の描写である。
【0181】
図7のパネルbは、上記方法により得られた「実際の」データと比較した「予測した」データを示す混同行列である。
【0182】
図7のパネルcは、グラムのタイプの予測に用いた数学的方法を実行した結果を示す。
【0183】
[例5]
一実施形態では、上記方法は、微生物の種、亜種又は下位分類を識別するのに用いることができる。図8を参照すると、本発明によるデータベースのスペクトルを用いた上記方法の検証から得られた混同行列が示されており、実際のものと予測されたものとは99.9%~96%一致することが認められた。
【0184】
本明細書に記載の方法及び/装置に対して、本発明のフィールド及び範囲から逸脱することなく、部品又は工程の変更及び/又は追加を行うことができることは明らかである。また、本発明についていくつかの具体的な例を参照して記載したが、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された特徴を有する方法及び/又は装置の多くの他の同等の形態を得ることができることは明らかであり、したがってそれらは全て特許請求の範囲に記載された保護範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8