(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】導波路素子
(51)【国際特許分類】
G02B 27/02 20060101AFI20230501BHJP
G02B 27/01 20060101ALI20230501BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G02B27/01
G02B5/18
(21)【出願番号】P 2020544668
(86)(22)【出願日】2019-03-04
(86)【国際出願番号】 FI2019050172
(87)【国際公開番号】W WO2019185976
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-02-16
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】520184365
【氏名又は名称】ディスペリックス オサケ ユキチュア
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブロムステット、カシミール
(72)【発明者】
【氏名】バルティアイネン、イスモ
【審査官】鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0052501(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0102543(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0131546(US,A1)
【文献】国際公開第2017/162999(WO,A1)
【文献】特表2017-528739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01 - 27/02
H04N 5/64
H04N 13/344
G02B 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導波路素子であって、
全内部反射を介して光線を2次元で誘導することができる導波路と、
前記導波路上又は内に配置された回折光学素子(DOE)とを備え、
前記DOEが、前記2次元に沿って前記導波路の内側で光線の伝播が可能となるように適合され、したがって、前記光線が、
幾何学的な光路の長さは同じであるが形状が異なる経路に沿って少なくとも前記DOEの1つの第1の位置から前記DOEの少なくとも1つの第2の位置まで伝播することができ、
前記DOEが、少なくとも1つの波長範囲に対して、前記異なる経路に沿って伝播した光線に対する前記光線
の波長における波数の関数として位相関数への線形近似の勾配と定義される物理的光路長の差が、コヒーレンス長よりも長くなるようにさらに適合され、したがって、前記光線は前記第2の位置においてインコヒーレントに合計される、導波路素子。
【請求項2】
前記光線が、
幾何学的な光路の長さは同じであるが、形状が異なる経路
のいくつかに沿って前記DOEのいくつかの第1の位置から前記DOEのいくつかの第2の位置まで伝播することができ、前記いくつかの異なる経路のうちの少なくとも一部に対して、前記DOEが、前記物理的光路長の差を生じさせるように適合される、請求項1に記載の導波路素子。
【請求項3】
前記DOEが、前記いくつかの異なる経路のすべてに対して前記物理的光路長の差を生じさせるように適合される、請求項2に記載の導波路素子。
【請求項4】
前記DOEが、それの少なくともいくつかの位置上で、前記光線が前記DOEに当たったとき、前記波長に対して
位相変化を生じさせるように適合される、請求項1から3までのいずれか一項に記載の導波路素子。
【請求項5】
前記DOEが、それのほとんどの位置上で、前記光線が前記DOEに当たったとき、前記波長に対して
位相変化を生じさせるように適合される、請求項4に記載の導波路素子。
【請求項6】
前記DOEが、前記光線が前記DOEに当たったとき、光の強度を維持するように適合される、請求項4又は5に記載の導波路素子。
【請求項7】
前記DOEが、前記異なる経路の前記物理的光路長の差を生じさせるように異なる回折特性を有する複数の隣接回折領域を備える、請求項1から6までのいずれか一項に記載の導波路素子。
【請求項8】
前記DOEが、前記物理的光路長の差の発生に関与する、1つ又は複数の漏洩モード回折領域を備える、請求項1から7までのいずれか一項に記載の導波路素子。
【請求項9】
前記DOEが、前記物理的光路長の差の発生に関与する、1つ又は複数の共振回折領域を備える、請求項1から8までのいずれか一項に記載の導波路素子。
【請求項10】
前記DOEの少なくともいくつかの部分の周期が、5μm以上の範囲にある、請求項1から9までのいずれか一項に記載の導波路素子。
【請求項11】
前記DOEの前記部分の各周期が、周期ごとに繰り返す非周期的微細構造パターンを含む、請求項10に記載の導波路素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導波路ベースの表示素子に関する。詳細には、本発明は、新規種類の回折光学素子を備える導波路に関する。本発明は、ヘッドマウント表示装置(HMD:Head-mounted display)及びヘッドアップ表示装置(HUD:head-up display)などの最新の個人用表示装置に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
HMD及びHUDは、導波路を使用して実装することができる。光を導波路に結合させ、その中で回折格子を使用して向け直し、又は導波路から外へ及びユーザの目に結合させることができる。射出瞳拡大は、光線が2次元でバウンスする導波路内で回折を使用して実行することができ、したがって、光照射野をより大きな領域に効果的に拡張する。回折の各位置において、異なる光路に沿って進んだ光波が合計される。製造関連の不正確さにより、波は、そのモデルとする光路差はゼロであるが、実際は異なる位相シフト受けており、波を部分的にコヒーレントにする。例えば、そのようなEPE回折の設計において、1つの問題は、部分的インコヒーレンスにより誘発された計算課題に関する。すなわち、(ほぼ)完全にコヒーレントな波及び(ほぼ)完全にインコヒーレントな波は、相対的に合計するのが容易であるが、そのコヒーレンスの程度が正確には知られていない部分的にコヒーレントな波の合計は、問題を生じさせる。これらの設計及び計算関連問題は、最終的に、より低い品質の導波路素子及び導波路表示デバイスをもたらす。部分的にコヒーレントな波は、特に光源自体がほぼコヒーレント(レーザ光)であるとき、関心事である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Vartiainen I.ら、Depolarization of quasi-monochromatic light by thin resonant gratings、OPTICS LETTERS/Vol.34、No.11/2009年6月1日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の問題に対処するのが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
目的は、独立請求項に定義されているように、本発明によって実現される。
【0007】
一態様によれば、本発明は、全内部反射を介して光線を2次元で誘導することができる導波路と、導波路上又は内に配置された回折光学素子(DOE:diffractive optical element)とを備える導波路素子を提供し、DOEが、2次元に沿って導波路の内側で光線の伝播が可能となるように適合され、したがって、光線は、同じ幾何形状の光路長を有する異なる経路に沿って少なくとも回折光学素子の1つの第1の位置からDOEの少なくとも1つの第2の位置に伝播することができる。DOEが、少なくとも1つの波長範囲に対して、異なる経路に沿って伝播した光線の物理的光路長の差がコヒーレンス長よりも長くなるようにさらに適合され、したがって、光線は第2の位置においてインコヒーレントに合計される。
【0008】
本発明は顕著な利益を提供する。とりわけ、本発明は、少なくとも導波路内のいくつかの波長及び伝播経路に対する部分的コヒーレンス問題を解決し、したがって、コヒーレンス関連の計算上及び実際上の両方の光学的品質問題を軽減する。
【0009】
従属請求項は、本発明の選択された実施例を対象とする。
【0010】
次に、添付の図面を参照して、本発明の実施例及び本発明の利点をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明によるDOEを有する2次元導波路素子の上面図である。
【
図3】線形近似とともに波数の関数としての位相のグラフである。
【
図4A】
図4Aは、大周期回折の単一周期の微細構造の側面図である。
【
図4B】
図4Bは、大周期回折の単一周期の微細構造の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
定義
「位相関数(phase function)」は、対象の波長(波数)範囲内の波数の関数として位相分布を表す。
【0013】
「幾何形状の光路長(geometrical optical path length)」は、本明細書では、検討される波長に対する導波路材料の屈折率の実部で乗算される導波路内を進んだ距離と定義される。
【0014】
「物理的光路長(physical optical path length)」は、対象の波長における位相関数への線形近似の勾配と定義される。すなわち、相変化と波数差の比と定義される。この近似は説明を簡単にするためだけに使用され、位相関数が線形又はほぼ線形であり、又はそうであるはずであることを意味しないことが観察されている。
【0015】
「インコヒーレント(incoherent)」及び「完全にインコヒーレント(fully incoherent)」という用語は、光路長差が、該当する導波路材料中のコヒーレンス長を超える、2つの光線の関係を表す。具体的には、2つの光線の位相関数の差への線形近似の勾配がコヒーレンス長を超える場合、これらの光線はインコヒーレントである。
【0016】
選択された実施例の説明
図1は、全内部反射を介して光線を2次元で誘導することができる導波路100を備える導波路素子を示す。導波路100上又は内にDOE120が提供される。DOEは、2次元に沿って、例えば、それの第1の位置140と第2の位置150との間の第1及び第2の経路160A、160Bに沿って導波路の内側で光線を拡散するように適合される。経路160A、160Bは、同じ幾何形状の光路長を有する。各矢印は、DOEからまたDOEに戻って導波路内の全内部反射を介した光線の単一の「ホップ(hop)」を表す。DOEは、光線をDOE内で拡散するために光線を所定のやり方で折り曲げ/分割するように適切な回折構造を有する。
【0017】
DOE120の構造は、コヒーレンス長よりも長い、異なる経路160A、160Bに沿って伝播した光線の物理的光路長に差を生じさせるように構成され、したがって、光線は、少なくともある波長範囲に対して、第2の位置においてインコヒーレントに合計される。従来のDOEの場合、位相関数は、正確な意味においては制御されず、任意の経路に沿った位相関数の大部分は、製造の不正確さにより、それによって制御が及ばない。具体的には、このように誘発された位相関数は、コヒーレント加算を無効にする、等しい幾何形状の光路長に対して位相関数差を生じさせるが、コヒーレンス長に対応する線形位相関数のものを超えるのに十分に大きな(おおよその)勾配を有さない。
【0018】
いくつかの実施例において、同じことが、2つよりも多い経路に当てはまり、すなわち、さらに、例えば、同じ幾何形状の光路長を有し、第1及び第2の経路160A、160Bのものと同じか又は異なる場合がある第3及び第4の経路180A、180Bに当てはまる。
【0019】
いくつかの実施例において、及び通常、いくつかの位置対があり(対140/150に対応する)、それに対して、上述の条件の少なくともいくつかが成立する。したがって、光線は、同じ経路長を有するいくつかの異なる経路に沿ってDOEのいくつかの第1の位置からDOEのいくつかの第2の位置に伝播することができる。前記いくつかの異なる経路のうちの少なくとも一部では、DOEは、前記物理的光路長の差を生じさせるように適合される。いくつかの実施例において、DOEは、いくつかの異なる経路のすべてに対して前記物理的光路長の差を生じさせるように適合される。
【0020】
図2は、導波路100の具体的な位置におけるDOE122との光線の単一の相互作用を概略的に示す。破線の円において、DOE微細構造(詳細には図示せず)は、所定の顕著な位相シフトが起きるようになっている。したがって、入射光線は、DOEによって回折した光線とは異なる位相を有する。この効果は、好ましくは、DOEのほとんど又はすべての位置で行われるように配置される。位相シフト効率は、波長及び/又は角度依存であることができる。
【0021】
経路依存位相シフト、すなわち、異なる経路に対して全体的に異なるシフトを実現するために、DOEは、異なる回折特性を有する、いくつかの異なる領域を備える。
【0022】
図3は、本発明の目的に使用可能な回折構造の例示的な典型的位相シフト曲線を示す。少なくともいくつかの波ベクトル値に対して、したがって、少なくともいくつかの波長に対して、大きな位相シフトが生じることが分かる。勾配は、対象の波数(波長)領域を表す点線の垂直線間の位相シフトの近似を表す。
【0023】
いくつかの実施例において、DOEは、位相差の発生に関与する、1つ又は複数の漏洩モード回折領域を備える。
【0024】
いくつかの実施例において、DOEは、位相差の発生に関与する、1つ又は複数の共振回折領域を備える。
【0025】
必要とする位相シフトを生じさせることができる回折の種類についての詳細な説明は、Vartiainen I.ら、Depolarization of quasi-monochromatic light by thin resonant gratings、OPTICS LETTERS/Vol.34、No.11/2009年6月1日に見いだすことができる。
【0026】
他の実施例において、DOEは、波長に関わらず、光線がDOEに当たるとき、光の強度を本質的に維持するように適合される。
【0027】
実際には、可視スペクトルほどの、すなわち、1μm未満の、典型的には700nm未満の周期を有する従来の回折を使用して、現在のDOEを少なくとも実現可能な程度まで実装することができる。DOEは、異なる特性を有するいくつかの回折領域を備えることができる。
【0028】
いくつかの好ましい実施例において、回折(複数可)の周期は、少なくとも1つの、典型的にはそれの両方の次元において最大可視波長よりも大きい。そのような回折において、回折の各周期は、単一の回折領域内の周期ごとに繰り返す2次元の非周期的微細構造パターンを含む。
【0029】
この場合、DOEには、可視光の波長よりも実質的に大きい周期を有する回折を含む少なくとも1つの領域がある。具体的には、周期は、最大可視光波長(700nm)に比較して少なくとも5倍であり、典型的には5μm以上、例えば、5~75μm、通常1000μm未満である。そのような回折は、典型的には表示装置適用例における場合のように、周期よりも大きい入射光ビームに対してまだ回折を生じるが、それらの回折は、従来の少ない回折次数(+/-1及び0)に限定されない。そのような回折により、所望の位相シフト挙動をDOE全体にわたって実装するのに使用することができる設計の自由度がさらに得られる。
【0030】
図4A及び4Bは、断面側面図及び上面図において大周期Pに対応する横寸法を有する例示的な単位元14を示す。単位元は、回折の有効周期を減少させないために、本質的に非周期的である表面形状15を有する。構造は、平均サイズf及び最大高さhを有する超小型形状から構成される。本明細書では、fは、谷部の底部から隣接ピークの頂部までの平均距離と定義される。
【0031】
形状サイズfは例えば10~700nm及び最大高さhは例えば20~500nmであることができる。
【0032】
現在の使用に適切な大周期回折の実装例のより詳細な説明には、まだ未公開のフィンランド特許出願第20176157号が参照される。