(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】パティキュレートフィルタ
(51)【国際特許分類】
B01J 35/04 20060101AFI20230501BHJP
B01J 23/63 20060101ALI20230501BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20230501BHJP
F01N 3/022 20060101ALI20230501BHJP
F01N 3/035 20060101ALI20230501BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20230501BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20230501BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
B01J35/04 301L
B01J35/04 301E
B01J23/63 A ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
F01N3/022 C
F01N3/035 A
F01N3/24 E
F01N3/28 301Q
F01N3/28 301A
F01N3/10 A
(21)【出願番号】P 2021100551
(22)【出願日】2021-06-17
【審査請求日】2022-12-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅也
(72)【発明者】
【氏名】尾上 亮太
(72)【発明者】
【氏名】田▲崎▼ 凌
(72)【発明者】
【氏名】岩井 桃子
(72)【発明者】
【氏名】松下 大和
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-154223(JP,A)
【文献】特表2006-502842(JP,A)
【文献】国際公開第2013/145266(WO,A1)
【文献】特表2018-537265(JP,A)
【文献】特開2021-003678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
F01N 3/00-3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウォールフロー型の基材と、該基材に形成された触媒層とを備えたパティキュレートフィルタであって、
前記基材は、
排ガス流入側の端部のみが開口した入側セルと、
排ガス流出側の端部のみが開口した出側セルと、
前記入側セルと前記出側セルとを仕切り、当該入側セルと当該出側セルとを連通する複数の細孔が形成されている隔壁と
を備え、
前記隔壁の前記入側セルと接する表面の上に、第1触媒層が形成されており、
前記第1触媒層は、前記基材の前記排ガス流入側の端部から前記排ガス流出側の端部に向かって、前記基材の全長の80%を超える領域に設けられており、
前記第1触媒層は、少なくとも前記基材の前記排ガス流入側の端部から前記基材の全長の20%における位置から80%における位置までの領域において、その厚みが前記排ガス流入側の端部から前記排ガス流出側の端部に向かって小さくなるように傾斜しており、
前記基材の前記排ガス流入側の端部から前記基材の全長の80%における位置での前記第1触媒層の厚み(D80)に対する、前記基材の前記排ガス流入側の端部から前記基材の全長の20%における位置での前記第1触媒層の厚み(D20)の比(D20/D80)が、2以上4以下であり、
前記基材の前記排ガス流入側の端部から前記基材の全長の80%における位置での前記第1触媒層の厚み(D80)が、11μm以上25μm以下であり、
前記隔壁の前記出側セルと接する表面から前記入側セルに向かう所定の領域には、前記細孔の壁面に第2触媒層が形成されており、
前記隔壁の厚み方向における前記第1触媒層と、前記第2触媒層の形成領域との間には、触媒層が実質的に形成されていない触媒未形成領域が設けられている、
パティキュレートフィルタ。
【請求項2】
前記第1および前記第2触媒層は、COおよびHCを酸化し、かつ、NO
xを還元する三元触媒と、当該三元触媒を担持する担体とを含有している、請求項
1に記載のパティキュレートフィルタ。
【請求項3】
前記三元触媒は、Pt、Pd、およびRhからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項
2に記載のパティキュレートフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気系に配置されるパティキュレートフィルタに関する。詳しくは、ウォールフロー型の基材と、該基材に形成された触媒層とを備えたパティキュレートフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンなどの内燃機関から排出される排ガスには、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)などの有害ガス成分や、粒子状物質(パティキュレートマター:PM)などが含まれている。このため、内燃機関の排気系には、PMを捕集すると共に、上述の有害ガス成分を浄化するパティキュレートフィルタが配置されている。
【0003】
パティキュレートフィルタの典型的な一例は、ウォールフロー型の基材と、当該基材に形成された触媒層とを備えている。ウォールフロー型の基材は、排ガス流入側の端部のみが開口した入側セルと、排ガス流出側の端部のみが開口した出側セルと、両セルを仕切る多孔質の隔壁とを備えている。そして、当該基材の隔壁には、触媒層が形成されている。かかる構造のパティキュレートフィルタに供給された排ガスは、入側セルに流入して隔壁を通過した後に出側セルから排出される。このとき、多孔質の隔壁にPMが捕集されると共に、当該隔壁に形成された触媒層によって有害ガス成分が浄化される。
【0004】
上記ウォールフロー型のパティキュレートフィルタに関する従来技術文献として、例えば、特許文献1が挙げられる。特許文献1には、白金族元素含有触媒層を、入側セルを取り囲む隔壁の内表面側にのみ配設したハニカムフィルタであって、当該白金族元素含有触媒層を、基材の排ガス流入側の端部からセルの全長の少なくとも35%までの範囲に配設し、基材の排ガス流出側の端部からセルの全長の少なくとも30%までの範囲には、配設していない、ハニカムフィルタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ウォールフロー型のパティキュレートフィルタは、圧力損失抑制性能および有害ガス浄化性能の両方が高いことが求められている。しかしながら、ウォールフロー型のパティキュレートフィルタでは、圧力損失抑制性能と有害ガス浄化性能とがトレードオフの関係にある。具体的には、触媒層の形成領域を大きくすると、有害ガス浄化性能を高くすることができるが、PMの捕集に伴う圧力損失が大きくなる。このことは、特許文献1の表2の結果にも表れており、特許文献1に示された従来技術においては、触媒層の形成領域が大きい場合、特に、触媒層が基材の全長の80%を超える領域に形成されている場合において、圧力損失の抑制が不十分である。
【0007】
本発明は、上記課題を解決すべく創出されたものであり、その目的は、触媒層の形成領域が大きいにもかかわらず、圧力損失が抑制されたウォールフロー型のパティキュレートフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するべく、本発明によって以下の構成のパティキュレートフィルタが提供される。
【0009】
ここに開示されるパティキュレートフィルタは、ウォールフロー型の基材と、該基材に形成された触媒層とを備える。前記基材は、排ガス流入側の端部のみが開口した入側セルと、排ガス流出側の端部のみが開口した出側セルと、前記入側セルと前記出側セルとを仕切り、当該入側セルと当該出側セルとを連通する複数の細孔が形成されている隔壁とを備る。前記隔壁の前記入側セルと接する表面の上に、第1触媒層が形成されている。前記第1触媒層は、前記基材の前記排ガス流入側の端部から前記排ガス流出側の端部に向かって、前記基材の全長の80%を超える領域に設けられている。前記第1触媒層は、少なくとも前記基材の前記排ガス流入側の端部から前記基材の全長の20%における位置から80%における位置までの領域において、その厚みが小さくなるように傾斜している。
【0010】
このような構成によれば、基材の入側セルの下流部において、第1触媒層の厚みが小さくなっているため、基材の入側セルの下流部側において排ガスが隔壁を通過し易くなっている。その結果、基材の入側セルの下流部側での排ガスの圧力が小さくなり、PMの隔壁内への排ガス流入速度が小さくなって、PMの深層堆積を抑制することができる。これにより、触媒層の形成領域が大きいにもかかわらず、パーティキュレータフィルタの圧力損失を小さくすることができる。
【0011】
ここに開示されるパティキュレートフィルタの好ましい一態様では、前記基材の前記排ガス流入側の端部から前記基材の全長の80%における位置での前記触媒層の厚み(D80)に対する、前記基材の前記排ガス流入側の端部から前記基材の全長の20%における位置での前記触媒層の厚み(D20)の比(D20/D80)が、2以上4以下である。このような構成によれば、パーティキュレータフィルタの圧力損失低減効果が特に高くなる。
【0012】
ここに開示されるパティキュレートフィルタの好ましい一態様では、前記基材の前記排ガス流入側の端部から前記基材の全長の80%における位置での前記触媒層の厚み(D80)が、11μm以上25μm以下である。このような構成によれば、パーティキュレータフィルタの圧力損失低減効果が特に高くなる。
【0013】
ここに開示されるパティキュレートフィルタの好ましい一態様では、前記隔壁の前記出側セルと接する表面から前記入側セルに向かう所定の領域には、前記細孔の壁面に第2触媒層が形成されており、前記隔壁の厚み方向における前記第1触媒層と、前記第2触媒層の形成領域との間には、触媒層が実質的に形成されていない触媒未形成領域が設けられている。
【0014】
このような構成では、第1触媒層の下部に触媒未形成領域があり、触媒未形成領域では、細孔が触媒層によって狭くならない状態で残っている。このため、第1触媒層および触媒未形成領域においてPMを十分に捕集することができ、触媒層によって細孔が狭くなった第2触媒層の形成領域にPMが到達することを防止できる。このため、第2触媒層の形成領域において細孔が閉塞して圧力損失が急激に増大することを防止できる。さらに、このような構成によれば、第2触媒層がPMで覆われにくい。このため、第2触媒層と排ガスとの接触頻度を十分に確保することができ、高い有害ガス浄化性能を発揮することができる。すなわち、このような構成によれば、有害ガス浄化性能と圧損抑制性能とをより高いレベルで両立させることができる。
【0015】
ここに開示されるパティキュレートフィルタの好ましい一態様では、前記第1および前記第2触媒層は、COおよびHCを酸化し、かつ、NOxを還元する三元触媒と、当該三元触媒を担持する担体とを備えている。触媒層の触媒として三元触媒を使用することによって、有害ガス成分であるCO、HCおよびNOxの各々を効率よく浄化できる。
【0016】
また、上記三元触媒を含有する態様において、三元触媒は、Pt、Pd、Rhからなる群の少なくとも1種を含むことが好ましい。これらを三元触媒として用いることによって、有害ガス浄化性能をより好適に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】排ガス浄化装置が配置された内燃機関の排気系を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るパティキュレートフィルタを模式的に示す斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るパティキュレートフィルタの筒軸方向に沿った断面を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るパティキュレートフィルタの第1触媒層の断面を模式的に示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るパティキュレートフィルタの基材の隔壁の断面を模式的に示す拡大断面図である。
【
図6】実施例1のパティキュレートフィルタの、基材の排ガス流入側の端部から基材の全長の20%の断面SEM画像である。
【
図8】実施例1のパティキュレートフィルタの、基材の排ガス流入側の端部から基材の全長の20%~80%の位置での触媒層の厚みを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化することがある。各図における寸法関係(長さ、幅、厚みなど)は、実際の寸法関係を必ずしも反映するものではない。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、排気系におけるパティキュレートフィルタの設置に関する一般的事項など)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術知識とに基づいて実施することができる。
【0019】
<排ガス浄化装置>
先ず、本発明の一実施形態に係るパティキュレートフィルタを備えた排ガス浄化装置について説明する。
図1は、排ガス浄化装置が配置された内燃機関の排気系を模式的に示す図である。なお、
図1中の矢印Aは、排ガスの流通を示している。説明の便宜上、本明細書では、排ガスが供給される方向を「上流」といい、排ガスが排出される方向を「下流」という。
【0020】
排ガス浄化装置1は、内燃機関(エンジン)2の排気系に設けられている。内燃機関2には、酸素と燃料ガスとを含む混合気が供給される。内燃機関2は、この混合気を燃焼させ、燃焼エネルギーを力学的エネルギーに変換する。一例として、内燃機関2は、ガソリンエンジンを主体として構成される。なお、内燃機関2は、ガソリンエンジン以外のエンジン(例えばディーゼルエンジン等)であってもよい。
【0021】
上記内燃機関2にて燃焼された混合気は、排ガスとなって排気系に排出される。上記内燃機関2の排気系には、上流側から順に、エキゾーストマニホールド3、排気管4および排ガス浄化装置1が設けられている。排ガス浄化装置1は、内燃機関2から排出された排ガスに含まれる有害ガス成分(CO、HC、NOx)を浄化すると共にPMを捕集して除去する。
【0022】
具体的には、排ガス浄化装置1は、エキゾーストマニホールド3と排気管4とを介して、内燃機関2の排気ポート(図示省略)に接続されている。また、
図1に示す排ガス浄化装置1は、温度上昇触媒9を備えている。温度上昇触媒9は、排気ガスの温度を上昇させる機能を有している。温度上昇触媒9の具体的な構成は、ここに開示される技術を特徴付けるものではないため詳細な説明を省略する。加えて、温度上昇触媒9は、排ガス浄化装置1の必須構成ではなく、省略することもできる。
【0023】
なお、
図1に示す内燃機関2の排気系では、排ガス浄化装置1の下流に圧力センサ8が配置されている。この圧力センサ8は、ECU(Engine Control Unit)5と接続されている。ECU5は、内燃機関2の稼働を制御する制御装置である。ECU5は、制御プログラムの命令を実行する中央演算処理装置(CPU:central processing unit)と、CPUが実行する制御プログラムを格納したROM(read only memory)と、制御プログラムを展開するワーキングエリアとして使用されるRAM(random access memory)と、各種情報を格納するメモリなどの記憶装置(記録媒体)とを備え得る。例えば、ECU5は、内燃機関2の稼働を制御する際の情報の一つとして、圧力センサ8で検出された圧損値を利用する。
【0024】
そして、本実施形態に係るパティキュレートフィルタ10は、排ガス浄化装置1の内部(典型的には温度上昇触媒9の下流側)に配置される。かかるパティキュレートフィルタ10において、PMの除去と有害ガス成分の浄化が行われる。以下、本実施形態に係るパティキュレートフィルタ10の具体的な構造を説明する。
【0025】
<パティキュレートフィルタ>
図2は、本実施形態に係るパティキュレートフィルタを模式的に示す斜視図である。
図3は、本実施形態に係るパティキュレートフィルタの筒軸方向に沿った断面を模式的に示す図である。
図4は、本実施形態に係るパティキュレートフィルタの第1触媒層の断面を模式的に示す図である。
図5は、本実施形態に係るパティキュレートフィルタの基材の隔壁の断面を模式的に示す拡大断面図である。なお、上記
図1と同様に、
図2~
図5中の矢印Aは排ガスの流通を示している。また、
図2~
図5中の符号Xは「隔壁の延伸方向」を示しており、符号Yは「基材の隔壁の厚み方向」を示している。
【0026】
図2~
図5に示すように、本実施形態に係るパティキュレートフィルタ10は、ウォールフロー型の基材11と、該基材11に形成された第1触媒層20とを備えている。
【0027】
1.基材
基材11は、パティキュレートフィルタ10の骨組みを構成するものである。
図2に示すように、本実施形態では、円筒形の基材11が用いられている。なお、基材の外形は、特に限定されず、楕円筒形、多角筒形などであってもよい。また、基材11の全長や容量についても特に限定されず、内燃機関2(
図1参照)の性能等に応じて適宜変更できる。また、基材11には、この種の用途に従来から用いられている種々の素材を適宜採用することができる。一例として、基材11の素材には、コージェライト、チタン酸アルミニウム、炭化ケイ素(SiC)などのセラミックや、ステンレス鋼などの合金に代表されるような高耐熱性素材を用いることができる。
【0028】
本実施形態における基材11は、ウォールフロー型の基材である。具体的には、
図2および
図3に示すように、基材11は、排ガス流入側の端部のみが開口した入側セル12と、排ガス流出側の端部のみが開口した出側セル14と、入側セル12と出側セル14とを仕切る多孔質な隔壁16とを備えている。具体的には、入側セル12は、排ガス流入側の端部が開口し、かつ、排ガス流出側の端部が封止部12aで塞がれたガス流路である。一方、出側セル14は、排ガス流入側の端部が封止部14aで塞がれ、かつ、排ガス流出側の端部が開口したガス流路である。また、隔壁16は、排ガスが通過可能な細孔が複数形成された仕切り材である。この隔壁16は、入側セル12と出側セル14とを連通させる細孔18(
図5参照)を複数有している。なお、本実施形態に係るパティキュレートフィルタ10では、隔壁16の延伸方向Xに垂直な断面における入側セル12(出側セル14)の形状が正方形である(
図1参照)。しかし、延伸方向に垂直な断面における当該入側セル(出側セル)の形状は、正方形に限定されず、種々の形状を採用できる。例えば、平行四辺形、長方形、台形などの矩形状、三角形状、その他の多角形状(例えば、六角形、八角形)、円形など種々の幾何学形状であってもよい。
【0029】
なお、基材11の隔壁16は、PM捕集性能や圧損抑制性能などを考慮して形成されていることが好ましい。例えば、隔壁16の厚みは、25μm~100μm程度が好ましい。さらに、隔壁16の気孔率は、20体積%~70体積%程度が好ましく、50体積%~70体積%がより好ましい。また、隔壁16の通気性を十分に確保して圧損の増大を抑えるという観点から、細孔18の平均細孔径は、8μm以上が好ましく、12μm以上がより好ましく、15μm以上がさらに好ましい。一方、適切なPM捕集性能を確保するという観点から、細孔18の平均細孔径の上限値は、30μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましい。なお、隔壁16の気孔率および平均細孔径は、水銀圧入法によって測定された値である。
【0030】
2.第1触媒層
図3~
図5に示すように、第1触媒層20は、基材11の隔壁16の入側面16a上に形成されている。入側面16aは、入側セル12と接する表面であり、基材11に触媒層20が形成されていない状態において、入側セル12内で露出する隔壁16の面(すなわち、外表面)である。
【0031】
第1触媒層20は、触媒を含有した多孔質な層である。第1触媒層20によって、隔壁16の細孔18の入側セル12側の開口部が覆われる。このため、排ガス中のPMの大部分は、細孔18内に侵入する前に、第1触媒層20の上流側であって入側セル12内に捕集される。これによって、細孔18の内部に多量のPMが堆積し、細孔18が閉塞することを防止することができる。
【0032】
また、基材の隔壁の入側面上に触媒層を有しないパティキュレートフィルタの場合、PMは隔壁の細孔内で捕集される。そのため、PM堆積量増加とともに隔壁の細孔が閉塞されてしまい圧力損失が急激に増加する。さらにPM堆積量が増加すると、隔壁内部がPMで満たされてしまい、隔壁表面にPMが堆積し始め圧力損失の上昇が緩やかになる。
【0033】
これに対し、本実施形態では、排ガス中のPMの大部分が隔壁表面で捕集されるため、PM堆積量が増加しても、隔壁16の細孔18内にPMが入り込まず、圧力損失の上昇を緩やかにすることができる。
【0034】
第1触媒層20に含有される触媒の種類は特に限定されず、パティキュレートフィルタに使用される公知の触媒であってよく、具体的には、三元触媒、SCR触媒、NSR触媒またはこれらを組み合わせた触媒等であってよい。
【0035】
第1触媒層20は、例えば、担体に触媒金属が担持された複合粒子が集合することによって形成される。好適には、第1触媒層20には、三元触媒と、当該三元触媒を担持する担体とが含まれている。三元触媒とは、排ガス中のCOおよびHCを酸化し、かつ、NOxを還元する触媒金属を指す。かかる三元触媒を含む第1触媒層20を形成することによって、排ガス中の有害ガス成分を効率良く浄化することができる。かかる三元触媒の一例として、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)などの白金族元素を主体として含む粒子が挙げられる。なお、これらの白金族元素の中でも、Pt、Pd、およびRhは、酸化活性が高いため、特に好適な有害ガス浄化性能を発揮できる。
【0036】
また、有害ガス浄化性能を向上させる観点から、基材11の容量1Lあたりの三元触媒の含有量は、0.1g/L以上が好ましく、0.5g/L以上がより好ましく、1g/L以上が特に好ましい。一方、材料コスト低減の観点から、上記三元触媒の含有量は、10g/L以下が好ましく、7.5g/L以下がより好ましく、5g/L以下が特に好ましい。なお、基材11は、第1触媒層20以外の触媒層(例、後述の第2触媒層40)を含んでいてもよい。よって、「基材11の容量1Lあたりの三元触媒の含有量」は、基材11の容量1Lあたりの第1触媒層20と、任意に形成される他の触媒層とにおける合計含有量を指す。
【0037】
一方、触媒金属を担持する担体には、金属酸化物が好ましく用いられる。かかる金属酸化物の一例として、アルミナ(Al2O3)、セリア(CeO2)、ジルコニア(ZrO2)、シリカ(SiO2)、チタニア(TiO2)などが挙げられる。これらの金属酸化物は、比表面積が大きく、かつ、高い耐久性(特に耐熱性)を有しているため、触媒金属(典型的には、三元触媒)による有害ガス浄化性能を効率よく発揮させることができる。
【0038】
また、第1触媒層20は、他の添加剤を含有していてもよい。かかる他の添加剤の一例として、OSC材が挙げられる。OSC材とは、酸素ストレージ能(OSC:Oxygen Storage capacity)を有し、酸素を吸蔵・放出する材料を指す。このOSC材を添加することによって、触媒層20に接する排ガス雰囲気を安定的にストイキ(理論空燃比)近傍に維持できるため、三元触媒の触媒作用を安定化させることができる。かかるOSC材の一例として、セリア-ジルコニア複合酸化物などが挙げられる。また、OSC材以外の添加剤として、NOx吸蔵能を有するNOx吸着剤や安定化剤などが挙げられる。さらに、第1触媒層20は、原料や製造工程に由来する微量成分を含有していてもよい。例えば、第1触媒層20は、アルカリ土類金属(Be、Mg、Ca、Baなど)、希土類金属(Y、La、Ceなど)、アルカリ金属(Li、Na、Kなど)、遷移金属(Mn、Fe、Co、Niなど)の酸化物または硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、塩化物のいずれかを1種または2種以上含んでいてもよい。
【0039】
第1触媒層20は、隔壁16の細孔18よりも粒子径が小さな複合粒子によって構成されていることが好ましい。具体的には、第1触媒層20に含まれる複合粒子の平均粒子径は、5μm以下が好ましく、2.5μm以下がより好ましく、2μm以下がさらに好ましく、例えば1μm程度である。このような微小粒子を使用することによって、細孔18の内部へPMが侵入することを確実に防止できる。また、上記複合粒子の平均粒子径の下限値は、特に限定されず、0.01μm以上であってもよく、0.05μm以上であってもよく、0.1μm以上であってもよく、0.5μm以上であってもよい。なお、本明細書において「平均粒子径」とは、レーザ回折・散乱法に基づく粒度分布測定装置により測定される体積基準の粒度分布における積算50%粒径(D50)である。具体的には、平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、LA-920)を用い、屈折率を1.20+0.01i(iは虚数項)に設定して測定した値を採用できる。なお、ここでの「一次粒子」とは、凝集やシンタリングなどによって集合した二次粒子を構成する微小粒子を指す。
【0040】
本実施形態に係るパティキュレートフィルタ10において、基材11の容量1Lあたりの触媒層の形成量は、有害ガス浄化性能の向上させる観点から、20g/L以上が好ましく、30g/L以上がより好ましく、50g/L以上がさらに好ましい。一方、上記触媒層の形成量の上限値は、圧損抑制性能を向上させる観点から、200g/L以下が好ましく、150g/L以下がより好ましく、120g/L以下がさらに好ましい。なお、上記のように基材11は、第1触媒層20以外の触媒層(例、後述の第2触媒層40)を含んでいてもよい。よって、「基材11の容量1Lあたりの触媒層の形成量」は、基材11の容量1Lあたりの第1触媒層20と、任意に形成される他の触媒層との合計形成量を指す。
【0041】
そして、
図3および
図4に示すように、本実施形態に係るパティキュレートフィルタ10では、有害ガス浄化性能を高くするために、第1触媒層20は、基材11の排ガス流入側の端部から排ガス流出側の端部に向かって、基材11の全長の80%を超える領域に設けられる。なお、基材11の全長とは、基材11の入側セル12が開口する端面と、出側14が開口する端面との間の距離を言い、
図4の矢印Lで表される寸法である。
【0042】
第1触媒層20は、入側セル12の排ガス流出側の封止部12aまで形成されていてもよいし、封止部12aまで形成されずに、封止部12a近傍では隔壁16の入側面16aが露出していてもよい。第1触媒層20は、基材11の排ガス流入側の端部から排ガス流出側の端部に向かって、好ましくは基材11の全長の90%以上の領域に設けられ、より好ましくは、入側セル12の排ガス流出側の封止部12aまで形成される。
【0043】
図4に示すように、本実施形態に係るパティキュレートフィルタ10では、圧損抑制性能を高めるために、前記第1触媒層は、少なくとも基材11の排ガス流入側の端部から基材Lの全長の20%における位置から80%における位置までの領域(
図4の20%~80%の範囲の領域)において、その厚みが排ガス流入側の端部から前記排ガス流出側の端部に向かって小さくなるように傾斜している。
【0044】
ここで、本明細書において、厚みが小さくなるように傾斜しているとは、基材11の排ガス流入側の端部から基材の全長の20%、40%、60%、および80%の位置における触媒層の厚みをそれぞれD20、D40、D60、およびD80としたとき、D20>D40>D60>D80の関係を満たし、かつD20/D80で表される比が2以上であることを意味する。
【0045】
なお、D20、D40、D60、およびD80は、次のようにして求めることができる。
(1)基材11の排ガス流入側の端部から基材の全長の20%、40%、60%、および80%の位置における断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を、それぞれ取得する。
(2)それぞれのSEM画像に対して、二次元画像解析ソフト(製品名:ImageJ(登録商標))を用いて、第1触媒層20と隔壁16とを2値化処理し、入側セル12の周の長さと、基材11の入側セル12内の触媒層の面積を求める。
(3)触媒層の面積/入側セル12の周の長さを、触媒層の厚みとする。
(4)4個以上の入側セル12について、触媒層の厚みを求め、この平均値を算出する。
(5)20%、40%、60%、および80%の位置におけるSEM画像より求めた平均値をそれぞれ、D20、D40、D60、およびD80とする。
【0046】
従来のパティキュレートフィルタにおいては、基材の入側面上に形成されている触媒層の厚みは、ほとんど均一である。ここで、パーティキュレータフィルタにおいては、上流側にPMがまず堆積し、その後下流側においてPMが堆積する。基材の入側面上に形成されている触媒層の厚みがほとんど均一である場合、上流側にPMが堆積した後は、入側セルにおいては、下流側に排ガスが集中して圧力が高くなる。このため、下流部でのPMの隔壁内への排ガス流入速度が大きくなって、隔壁の深層部に到達し易くなる。その結果、隔壁内でのPMの深層堆積が促進され、パーティキュレータフィルタの圧力損失が大きくなる。
【0047】
これに対し、本実施形態においては、入側セル12の下流部において、第1触媒層20の厚みが小さくなっている。このため、上流側にPMが集中して堆積しにくくなっており、さらに下流部側において排ガスが隔壁16を通過し易くなって、下流側での排ガスの圧力が小さくなる。その結果、下流部でのPMの隔壁内への排ガス流入速度が小さくなって、PMの深層堆積を抑制することができ、これにより、パーティキュレータフィルタ10の圧力損失を小さくすることができる。
【0048】
触媒層20の傾きの一つの指標として、上記D20/D80で表される比を採用することができる。D20/D80で表される比が、小さ過ぎると、下流部側における圧力低減効果が小さくなって圧力損失抑制効果が小さくなる傾向にある。そのため、上記D20/D80で表される比は、好ましくは2.2以上であり、より好ましくは2.5以上であり、さらに好ましくは3以上である。一方、D20/D80で表される比が、大きすぎても、圧力損失抑制効果が小さい傾向にある。そのため、上記D20/D80で表される比は、好ましくは4以下であり、より好ましくは3.8以下である。
【0049】
基材11の排ガス流入側の端部から基材11の全長の80%の位置における触媒層の厚みD80は、特に限定されないが、より高い圧力損失抑制効果の観点から、好ましくは11μm以上25μm以下であり、より好ましくは12μm以上20μm以下である。
【0050】
なお、基材11の排ガス流入側の端部から基材の全長の20%の位置までの第1触媒層20の厚みは、特に限定されず、この部分の平均厚みが、好ましくはD20×0.5以上であり、より好ましくはD20以上である。よって、例えば、基材11の排ガス流入側の端部から基材の全長の20%の位置までの第1触媒層20の厚みは、一定である、端部から当該20%位置まで徐々に厚みが小さくなっている、または所定の位置まで一定であるがその後徐々に厚みが小さくなっている、等である。
【0051】
またなお、基材11の排ガス流入側の端部から基材の全長の80%を超える位置における第1触媒層20の厚みは、特に限定されないが、この部分の平均厚みが、好ましくはD80以下である。よって、例えば、基材11の排ガス流入側の端部から基材の全長の80%超える部分での第1触媒層20の厚みは、一定、徐々に厚みが小さくなっている、または所定の位置まで徐々に厚みが小さくなってその後一定である、等である。
【0052】
上述のように本実施形態においては、基材11の隔壁16の外表面である入側面16a上に第1触媒層20が形成されている。本実施形態に係るパティキュレートフィルタ10においては、基材11が、触媒層として第1触媒層20のみを有していてもよく、第1触媒層20以外の触媒層をさらに有していてもよい。好ましくは、基材11の隔壁16の内部にも第1触媒層20以外の触媒層がさらに形成されている。
【0053】
3.任意の触媒層の好適な態様
隔壁16の内部にも触媒層がさらに形成される場合の好適な一態様では、例えば
図5に示すように、隔壁16の出側セル14と接する表面から入側セル12に向かう所定の領域には、細孔18の壁面に第2触媒層40が形成されて、隔壁16の厚み方向における第1触媒層20と第2触媒層40との間には、触媒層が実質的に形成されていない触媒未形成領域30が設けられている。
【0054】
この好適な一態様によれば、有害ガス浄化性能と圧損抑制性能とをより高いレベルで両立させることができる。以下、当該好適な一態様について詳細に説明する。
【0055】
〔触媒層未形成領域〕
触媒未形成領域30は、触媒層が実質的に形成されていない領域である。この触媒未形成領域30は、隔壁16の厚み方向Yにおける第1触媒層20と第2触媒層40の形成領域50との間に設けられている。換言すると、触媒未形成領域30は、隔壁16の入側面16aから出側セル14に向かって設けられた領域であって、細孔18の壁面18aの大部分が露出している領域である。
図5に示すように、本実施形態に係るパティキュレートフィルタ10の好適な一態様では、排ガス中のPMの大部分が第1触媒層20によって捕集される。しかし、細孔18の壁面に触媒層が形成されていると細孔が非常に狭くなるため、第1触媒層20を通過した少量のPMが堆積しただけでも細孔18が閉塞する可能性がある。これに対して、当該好適な一態様では、第1触媒層20の下流側に、触媒層が形成されていない触媒未形成領域30が設けられている。これによって、触媒層によって細孔18が狭くなった第2触媒層40の形成領域50にPMが到達することを確実に防止できる。
【0056】
本明細書において「触媒層が実質的に形成されていない」とは、触媒層が細孔の壁面に意図的に形成されていないことを指す。したがって、製造時の誤差などによって、第1触媒層20と第2触媒層40の形成領域50との間の領域に微量な触媒層が存在している場合は、本明細書における「触媒層が実質的に形成されていない」の概念に包含される。なお、所定のパティキュレートフィルタにおいて触媒未形成領域が設けられているか否か(すなわち、第1触媒領域と第2触媒領域との間の領域において、積極的な触媒層の形成が行われているか否か)は、後述の「4.各領域の判定」にて説明する手順に従って判断することができる。
【0057】
また、隔壁16の厚み方向Yにおける触媒未形成領域30の寸法t2は、10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、20μm以上が特に好ましい。これによって、第1触媒層20を通過したPMが第2触媒層40に到達して圧損を増加させることを抑制できる。一方、上記厚み方向Yにおける触媒未形成領域30の寸法は、100μm以下が好ましく、90μm以下がより好ましく、80μm以下が特に好ましい。これによって、第2触媒層40が形成される領域を確保して、有害ガス浄化性能を十分に発揮させることができる。
【0058】
〔第2触媒層〕
図5に示すように、第2触媒層40は、隔壁16の細孔18の壁面18aに形成された触媒層である。すなわち、第1触媒層20が隔壁18の外表面上の触媒層であるのに対し、第2触媒層40は、隔壁18内部の触媒層(すなわち、隔壁18の内部表面上の触媒層)である。第2触媒層40に使用可能な成分等については、第1触媒層20に使用可能な成分として例示したものが挙げられる。
【0059】
この第2触媒層40は、隔壁16の出側セル14と接する表面(出側面16b)から入側セル12に向かう所定の領域(
図5の領域50)に設けられている。
【0060】
隔壁内部に触媒層を有する従来のパティキュレートフィルタでは、一般的に、隔壁の厚み方向のすべてにおいて、細孔の壁面に触媒層が形成されている。このような従来のパティキュレートフィルタにおいては、細孔の壁面に触媒層が形成されているために細孔が狭くなっている。このため、一定量の排ガスが供給されて細孔内にPMが堆積すると、細孔が閉塞して圧損が急激に増大し得る。さらに、堆積したPMによって触媒層が覆われるため、触媒層と排ガスとの接触頻度が少なくなり、有害ガス浄化性能が低下し得る。
【0061】
これに対して、
図5に示すように、本実施形態に係るパティキュレートフィルタ10のこの好適な一態様においては、第1触媒層20の下部に触媒未形成領域30があり、触媒未形成領域30では、細孔18が触媒層によって狭くならない状態で残っている。このため、第1触媒層20および触媒未形成領域30においてPM(
図5に示される黒丸ドット)を十分に捕集することができ、触媒層によって細孔18が狭くなった第2触媒層40の形成領域50にPMが到達することを防止できる。このため、第2触媒層40の形成領域50において細孔18が閉塞して圧損が急激に増大することを防止できる。さらに、当該好適な一態様では、第2触媒層40がPMで覆われにくい。このため、第2触媒層40と排ガスとの接触頻度を十分に確保することができ、高い有害ガス浄化性能を発揮することができる。このように、この好適な一態様では、PMの捕集を行う領域と、有害ガス成分を浄化する領域とが分割されており、有害ガス浄化性能と圧損抑制性能とをより高いレベルで両立させることができる。
【0062】
第2触媒層40は、第1触媒層20と同じ組成を有していてもよいし、異なる組成を有していてもよい。好ましくは、第2触媒層40は、第1触媒層20と共に、COおよびHCを酸化し、かつ、NOxを還元する三元触媒と、当該三元触媒を担持する担体とを含有する。
【0063】
第2触媒層40は、細孔18を閉塞させず、かつ、排ガスとの接触頻度を十分に確保できるように構成されている方が好ましい。かかる観点から、第2触媒層40は、第1触媒層20と同様に、隔壁16の細孔18よりも粒子径が小さな複合粒子によって構成されていることが好ましい。すなわち、第2触媒層40に含まれる複合粒子の平均粒子径は、基材10の隔壁16の細孔径にもよるが、5μm以下が好ましく、2.5μm以下がより好ましく、2μm以下がさらに好ましく、例えば1μm程度である。このような微小粒子を使用することによって、細孔18の閉塞を防止すると共に、排ガスとの接触頻度を十分に確保できる。また、上記複合粒子の平均粒子径の下限値は、特に限定されず、0.01μm以上であってもよく、0.05μm以上であってもよく、0.1μm以上であってもよく、0.5μm以上であってもよい。
【0064】
なお、隔壁16の厚み方向Yにおける第2触媒層40の形成領域50の寸法t3は、上記触媒未形成領域30の寸法t2に基づいて求めることができる。上述したように、触媒未形成領域30の寸法t2を大きくし、第2触媒層40の形成領域50の寸法t3を小さくすると、圧損抑制性能が向上する傾向がある。一方、触媒未形成領域30の寸法t2を小さくし、第2触媒層40の形成領域50の寸法t3を大きくすると、有害ガス浄化性能が向上する傾向がある。
【0065】
隔壁の延伸方向における第2触媒層40の形成領域50の範囲は特に限定されないが、基材11の排ガス流入側の端部から基材11の全長の20%以上の範囲であることが好ましく、50%以上の範囲であることがより好ましく、70%以上の範囲であることが特に好ましい。なお、残部には、隔壁16内の厚み方向の全域に触媒層が設けられていてもよいし、触媒未形成領域が設けられていてもよい。
【0066】
〔各領域の判定手順〕
上述した当該好適な一態様における第1触媒層20と、第2触媒層40の形成領域50と、触媒未形成領域30は、以下の(a)~(k)の判定手順に基づいて特定されたものである。すなわち、所定のパティキュレートフィルタにおいて、第1触媒層と、第2触媒層の形成領域と、触媒未形成領域の3つの領域が設けられているか否かは、以下の判定手順に基づいて判断できる。
【0067】
(a)検査対象のパーティキュレータフィルタを分解し、基材の隔壁を樹脂で包埋した試料片を10個準備する。
(b)試料片を削り隔壁の断面を露出させる。そして、露出した隔壁の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、断面SEM観察画像(反射電子像、観察倍率200倍)を得る。
(c)二次元画像解析ソフト(例、製品名:ImageJ(登録商標))を使用し、上記断面SEM観察画像に自動2値化処理を行い、触媒層だけを映した2値画像を得る。
(d)上記自動2値化処理前後の画像を比較し、隔壁の入側面上に確認された触媒層を「第1触媒層」とみなす。
(e)上記2値画像において確認された「触媒層の総ピクセル数」と「2値画像全体のピクセル数」をカウントする。そして、「触媒層の総ピクセル数」を「2値画像全体のピクセル数」で除した値を算出し、これを「隔壁全体の触媒層存在率」とする。
(f)自動2値化処理前後の画像を比較して隔壁の出側面から入側セルに向かう任意の領域を設定し、「設定領域における触媒層のピクセル数」を「設定領域の総ピクセル数」で除した値を算出し、これを「設定領域における触媒層存在率」とする。
(g)「設定領域における触媒層存在率」を「隔壁全体の触媒層存在率」で除した値を算出し、この値が第1閾値以上であるか否かの判定を行う。なお、本処理での第1閾値は例えば、1.05(好ましくは1.1、より好ましくは1.15、さらに好ましくは1.2、特に好ましくは1.25)に設定される。
(h)上記(f)に記載の「隔壁の出側面から入側セルに向かう任意の領域」を入側セルに向かって少しずつ拡大し、その都度、「設定領域における触媒層存在率」を算出し、「設定領域における触媒層存在率」を「隔壁全体の触媒層存在率」で除した値を算出する。そして、この値が第1閾値を下回るまで設定領域の拡大を行う。
(i)上記(h)の処理の結果、第1閾値を下回る領域が確認された場合、一つ前の判定を行った領域を「第2触媒層の形成領域」とみなす。そして、「第1触媒層」と「第2触媒層の形成領域」との間の領域を「第3の領域」とする。
(j)「第3の領域における触媒層のピクセル数」を「第3の領域の総ピクセル数」で除した値を算出し、これを「第3の領域における触媒層存在率」とする。さらに、「第3の領域における触媒層存在率」を「画像全体における触媒層存在率」で除した値を算出する。そして、この値が第2閾値以下である場合、「第3の領域」が「触媒未形成領域」である(すなわち、第1触媒層と、第2触媒層の形成領域との間に触媒未形成領域が設けられている)と判定する。なお、本処理での第2閾値は、例えば、0.65(好ましくは0.5、より好ましくは0.4、さらに好ましくは0.3、特に好ましくは0.25)に設定される。
(k)10個の試料片の全てに対して(b)~(j)の処理を実施し、50%以上の試料片において、第1触媒層と、第2触媒層の形成領域と、触媒未形成領域とが確認された場合、検査対象のパティキュレートフィルタは、「第1触媒層と、第2触媒層の形成領域との間に触媒未形成領域が設けられている」と判定する。
【0068】
なお、上述した「厚み方向Yにおける各領域の寸法t1~t3(
図5参照)」は、何れも上述の判定手順において認定された各領域の境界に基づいて測定することができる。具体的には、本明細書における「厚み方向Yにおける各領域の寸法t1~t3」は、10個の試料片の各々で確認された各領域の寸法の平均値である。
【0069】
<パティキュレートフィルタの製造方法>
本実施形態に係るパティキュレートフィルタ10は、例えば、次の手順に基づいて製造することができる。
【0070】
1.有機固形分の充填
この製造方法では、最初に、入側セル12から隔壁16の細孔18内に有機固形分を充填する。具体的には、有機固形分を所定の分散媒に分散させた細孔充填用スラリーを調製し、当該細孔充填用スラリーを入側セル12から基材11の内部に導入する。そして、基材11の出側セル14から吸引を行うことによって、細孔18内に細孔充填用スラリーを浸透させる。そして、乾燥工程を実施して分散媒を除去することによって、細孔18内に有機固形分が充填された基材11を得る。なお、有機固形分は、後述する焼成工程にて焼失するものであれば、従来公知の材料を特に制限なく使用できる。有機固形分の一例として、ポリエチレン、ポリプロピレン、メラミン樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂などを主体として構成された樹脂ビーズが挙げられる。また、他の例として、セルロースマイクロファイバーなどの樹脂繊維を使用することもできる。また、有機固形分は、隔壁16の細孔18内に好適に充填できるように大きさが調節されていることが好ましい。例えば、有機固形分として樹脂ビーズを使用する場合には、その平均粒子径を100μm以下(より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下)程度にすることが好ましい。また、分散媒は、有機固形分を溶解しない液体材料であれば、特に制限なく使用できる。かかる分散媒の一例として、水、アルコールなどが挙げられる。また、上記細孔充填用スラリーにおける有機固形分の濃度は、基材11の隔壁16の気孔率等を考慮して適宜調節することが好ましい。
【0071】
2.触媒層形成スラリーの調製
次に、第1触媒層20の前駆物質である第1触媒層形成スラリーを調製する。具体的には、担体となる金属酸化物と、触媒金属の供給源となる化合物とを所定の比率で混合して混合液を調製する。そして、調製した混合液を乾燥させた後に所定の温度および時間で焼成することによって、担体に触媒金属が担持された複合粒子を作製する。そして、かかる複合粒子を所望の添加物(例えばOSC材)と共に適当な溶媒(例えばイオン交換水)に混合する。これによって、触媒層形成スラリーが得られるが、第1触媒層20に傾斜を付与するために、第1触媒層形成スラリーの高せん断粘度が高くなるように、溶媒に不溶な有機物(以下、不溶性の有機物ということもある。)を混合する。このような有機物としては、溶媒に水を用いる場合には、例えば水に不溶なセルロースなどが挙げられる。なお、高せん断粘度を高くするために溶媒に可溶な有機物(以下、可溶性の有機物ということもある。)をさらに加えてもよい。溶媒に水を用いる場合には、可溶性の有機物としては、例えば水溶性のセルロースなどを用いることができる。ここで、第1触媒層形成スラリーに含まれる有機物の粒子径が大きい方が、第1触媒層形成スラリーの高せん断粘度が高くなる傾向にある。よって、第1触媒層形成スラリーへの溶媒に可溶な有機物の添加によって、第1触媒層20に傾斜を付与することができるようになり、第1触媒層20に傾斜の程度を、不溶性の有機物の配合量および粒子径を変更することによって調整することができる。なお、触媒金属、担体、他の添加物に関する具体的な内容は既に説明しているため、重複した説明を省略する。
【0072】
3.第1触媒層の形成
本工程では、隔壁16の入側面16aに第1触媒層形成スラリーを付与した後、乾燥・焼成することによって隔壁16の入側面16aに触媒層20を形成し、第1触媒層20を形成する。具体的には、基材11の入側セル12に触媒層形成スラリーを供給した後に出側セル14から吸引を行う。このとき、隔壁16の細孔18に有機固形分が充填されているため、スラリーが隔壁16内部に浸透せずに入側面16aに付着する。この状態で乾燥処理と焼成処理を行うことによって、隔壁16の入側面16aに触媒層20が形成された第1触媒層20が形成される。また、この焼成処理において有機固形分が焼失し、細孔18の閉塞が解消される。また、この焼成処理において溶媒に不溶な有機物が焼失する。なお、有機固形分および溶媒に不溶な有機物を確実に焼失させるという観点から、焼成処理の温度は、400℃以上が好ましく、500℃以上がより好ましく、600℃以上がさらに好ましい。同様に、有機固形分および溶媒に不溶な有機物を確実に焼失させるために、焼成時間は2~4時間程度であることが好ましい。また、乾燥処理の条件は、特に限定されず、第1触媒層形成スラリーが適切に乾燥する条件に適宜調節できる。なお、基材11の入側セル12に触媒層形成スラリーを供給した後に出側セル14から吸引を行う際の吸引条件によっても、第1触媒層20に傾斜の程度を調整することができる。なお、第1触媒層形成スラリーに不溶性の有機物と可溶性の有機物とが混合されていた場合、この焼成処理において不溶性の有機物と可溶性の有機物とが焼失する。
【0073】
4.第2触媒層の形成
本工程では、まず、隔壁16の出側面16bから隔壁16の内部へ第2触媒層形成スラリーを浸透させ、細孔18の壁面18aに第2触媒層形成スラリーを付着させる。具体的には、基材11の出側セル14内に触媒層形成スラリーを供給し、入側セル12から吸引を行う。本工程では、スラリーが隔壁16の入側面16aまで浸透しないように、スラリーを浸透させる領域を制御する。なお、本工程におけるスラリーの浸透には、スラリーの供給量、スラリーの粘度、スラリーの成分(複合粒子、添加剤等)の粒子径、基材の隔壁の細孔率、吸引時の圧力、吸引時間などの多くの条件が影響する。このため、これらの条件を適宜変更した予備試験を行い、当該試験で得られた知見に基づいてスラリーを浸透させる領域を制御することが好ましい。なお、本工程において使用する第2触媒層形成スラリーは、第1触媒層形成スラリーと同じでもよいし、異なるスラリーでもよい。
【0074】
次に、本工程では、乾燥工程と焼成工程を行う。これによって、第2触媒層形成スラリーが浸透した領域に第2触媒層40が形成される。そして、第2触媒層形成スラリーが浸透していない領域は、第1触媒層20および第2触媒層40が実質的に形成されていない(細孔18の隔壁18aが露出した)触媒未形成領域30となる。なお、本工程における焼成温度は、上述した第1触媒層20を形成する時と同様に、400℃以上が好ましく、500℃以上がより好ましく、600℃以上がさらに好ましい。また、焼成時間も2~4時間程度であることが好ましい。これによって、溶媒に不溶な有機物および細孔18内に残留した有機固形分を確実に除去することができる。
【0075】
以上のようにして、本実施形態に係るパティキュレートフィルタ10を製造することができる。なお、上述した製造方法は、本実施形態に係るパティキュレートフィルタ10を製造する手段の一例であり、ここに開示されるパティキュレートフィルタを限定することを意図したものではない。
【0076】
<パティキュレートフィルタの用途>
本発明の一実施形態に係るパティキュレートフィルタ10は、ガソリンパティキュレートフィルタ(GPF)、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)等として使用することができ、好ましくはGPFである。
【0077】
<試験例>
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明をかかる試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0078】
1.試験用サンプルの作製
〔実施例1,2および比較例1~3〕
先ず、基材Aとして、基材容積1.4L、長さ101.6mmの円筒状のハニカム基材を準備した。
【0079】
次に、平均粒子径1μmの樹脂ビーズ(ポリエチレン)をイオン交換水に分散させた細孔充填用スラリーを調製した。そして、この細孔充填用スラリーをハニカム基材の入側セル内に供給した後、出側セルを吸引することによって隔壁の細孔内へ浸透させた。そして、乾燥処理(100℃、30分間)を実施することによって、隔壁の細孔内に樹脂ビーズが充填されたハニカム基材を得た。
【0080】
次に、硝酸ロジウム溶液(Rh含有量:0.2g)と、担体としての針状Al2O3(γ-Al2O3)の粉末(40g)とを適量のイオン交換水と混合し、当該混合液を乾燥した後、焼成(500℃、1時間)することによって、触媒が担持された複合粒子(Rh担持-Al2O3粉末)を得た。そして、かかるRh担持-Al2O3粉末と、OSC材(セリア-ジルコニア複合酸化物)とを1:1の割合で混合し、さらに水に不溶なセルロース粉末A(粒径25μm)を表1に示す量(固形分量)で添加し、これらを均一に分散させて触媒層形成スラリーを調製した。そして、触媒層形成スラリーをハニカム基材の入側セル内に、表1に示すコート量となるように供給した後に出側セルを吸引することによって、隔壁の入側面に触媒層形成スラリーを付与した。次に、乾燥処理(100℃、30分間)と焼成処理(600℃、120分間)を実施し、樹脂ビーズを焼失させると共に触媒層を形成した。
【0081】
次に、触媒層形成スラリーをハニカム基材の出側セル内に、基材1Lあたりのコート量として、30g/Lのコート量となるように供給した後に入側セルを吸引することによって、隔壁の出側面から入側セルに向かってスラリーを浸透させた。なお、このときのコート幅は、基材の全長の45%とした。そして、乾燥処理(100℃、30分間)と焼成処理(500℃、60分間)を実施し、隔壁内部の細孔の壁面に触媒層を形成した。このようにして、実施例1,2および比較例1~3のパティキュレートフィルタを得た。
【0082】
〔実施例3,4および比較例4~6〕
先ず、基材Bとして、基材容積1.3L、長さ114.3mmの円筒状のハニカム基材を準備した。
【0083】
次に、平均粒子径1μmの樹脂ビーズ(ポリエチレン)をイオン交換水に分散させた細孔充填用スラリーを調製した。そして、この細孔充填用スラリーをハニカム基材の入側セル内に供給した後、出側セルを吸引することによって隔壁の細孔内へ浸透させた。そして、乾燥処理(100℃、30分間)を実施することによって、隔壁の細孔内に樹脂ビーズが充填されたハニカム基材を得た。
【0084】
次に、硝酸ロジウム溶液(Rh含有量:0.2g)と、担体としての針状Al2O3(γ-Al2O3)の粉末(40g)とを適量のイオン交換水と混合し、当該混合液を乾燥した後、焼成(500℃、1時間)することによって、触媒が担持された複合粒子(Rh担持-Al2O3粉末)を得た。そして、かかるRh担持-Al2O3粉末と、OSC材(セリア-ジルコニア複合酸化物)とを1:1の割合で混合し、さらに水に不溶なセルロース粉末A(粒径25μm)、および水に不溶なセルロース粉末B(粒径6μm)を表2に示す量(固形分量)で添加し、これらを均一に分散させて触媒層形成スラリーを調製した。そして、触媒層形成スラリーをハニカム基材の入側セル内に、表2に示すコート量となるように供給した後に出側セルを吸引することによって、隔壁の入側面に触媒層形成スラリーを付与した。次に、乾燥処理(100℃、30分間)と焼成処理(600℃、120分間)を実施し、樹脂ビーズを焼失させると共に第1触媒層を形成した。
【0085】
次に、触媒層形成スラリーをハニカム基材の出側セル内に、表2に示すコート量となるように供給した後に入側セルを吸引することによって、隔壁の出側面から入側セルに向かってスラリーを浸透させた。そして、乾燥処理(100℃、30分間)と焼成処理(500℃、60分間)を実施し、隔壁内部の細孔の壁面に第2触媒層を形成した。このようにして、実施例3,4および比較例4~6のパティキュレートフィルタを得た。
【0086】
2.評価試験
(1)第1触媒層の厚み測定
各実施例および各比較例のパティキュレートフィルタについて、基材の排ガス流入側の端部から基材の全長の20%、40%、60%、および80%の位置における断面サンプルを、エポキシ樹脂を用いた包埋法により作製した。この断面のSEM画像を取得し、画像解析ソフトウエア(製品名:ImageJ(登録商標))を用いて、2値化処理した。2値化画像より、基材の入側セル内の触媒層の面積(μm
2)と、入側セルの周の長さ(μm)とを求め、触媒層の面積(μm
2)/入側セルの周の長さ(μm)=触媒層の厚み(μm)として、触媒層の厚み(μm)を算出した。4個の入側セルについて、触媒層の厚み(μm)を求め、この平均値を算出した。20%、40%、60%、および80%の位置におけるSEM画像より求めた平均値をそれぞれ、D20、D40、D60、およびD80とした。結果を表1に示す。参考として、基材の排ガス流入側の端部から基材の全長の20%の位置における実施例1のパティキュレートフィルタの断面のSEM画像と、2値化画像を
図6および
図7にそれぞれ示す。
【0087】
さらに、触媒層の傾斜の指標としてD20/D80で表される比を求めた。結果を表1に示す。また、実施例1のパティキュレートフィルタについては、基材の排ガス流入側の端部から基材の全長の30%、50%、および70%の位置における触媒層の厚みを上記と同様にして求めた。結果を
図8に示す。
【0088】
(2)圧力損失の測定
各実施例および各比較例のパティキュレートフィルタをスス発生装置(DPG、Cambustion製)に設置し、軽油を燃焼させることによって、ススを含むガスをパティキュレートフィルタに供給した。そして、パティキュレートフィルタの上流側の配管内の圧力と、下流側の配管内の圧力を測定し、これらに基づいて圧損(kPa)を算出した。なお、本試験では、触媒内へのPM堆積量が1g/Lになった際の圧損を「PM堆積圧損」とした。結果を表1に示す。
【0089】
【0090】
図8のグラフが示すように、実施例1のパティキュレートフィルタおいては、基材の排ガス流入側の端部から基材の全長の20%における位置から、80%における位置までの領域において、第1触媒層の厚みが排ガス流入側の端部から排ガス流出側の端部に向かって徐々に小さくなって、
図8に示す式での直線近似が可能であり、よって第1触媒層が傾斜していることがわかる。
【0091】
D20、D60、D40、およびD80が正の値であることから、各実施例および各比較例において第1触媒層は、基材の排ガス流入側の端部から排ガス流出側の端部に向かって、基材の全長の80%を超える領域に設けられていることがわかる。また、表1の結果が示すように、各実施例のパティキュレートフィルタおいては、D20>D40>D60>D80の関係を満たしつつ、D20/D80の比が、2以上となっていることがわかる。
【0092】
一方、各比較例においては、D20/D80の比は、2未満であり、特に、比較例2は、水に不溶なセルロース粉末を使用していない従来の触媒層形成用スラリーを用いた試験例であるが、D20/D80の比が、1.1であった。
【0093】
そして、実施例1,2と比較例1~3との比較、および実施例3,4と比較例4~6との比較より、各実施例のパティキュレートフィルタおいては、圧力損失が小さくなっていることがわかる。よって、ここに開示されているパティキュレートフィルタによれば、触媒層が基材の全長の80%を超える領域に形成されているのにもかかわらず、圧力損失を抑制できることがわかる。
【0094】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明によれば、触媒層の形成領域が大きいにもかかわらず、圧力損失が抑制されたウォールフロー型のパティキュレートフィルタを提供できる。かかるパティキュレートフィルタによれば、自動車用エンジンなどの内燃機関の性能を低下させることなく、当該内燃機関から排出された排ガスを好適に浄化できる。
【符号の説明】
【0096】
1 排ガス浄化装置
2 内燃機関
3 エキゾーストマニホールド
4 排気管
5 ECU
8 圧力センサ
9 温度上昇触媒
10 排ガス浄化用触媒
11 基材
12 入側セル
12a 封止部
14 出側セル
14a 封止部
16 隔壁
16a 隔壁の入側面
16b 隔壁の出側面
18 細孔
18a 細孔の壁面
20 第1触媒層
30 触媒未形成領域
40 第2触媒層
50 第2触媒層の形成領域
A 排ガスの流通
X 隔壁の延伸方向
Y 隔壁の厚み方向