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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】神経再生誘導材
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/26 20060101AFI20230501BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20230501BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20230501BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20230501BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20230501BHJP
   C08L 5/04 20060101ALI20230501BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
A61L27/26
A61L27/20
A61L27/58
A61L27/50
A61L27/18
C08L5/04
C08L67/04
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021127033
(22)【出願日】2021-08-03
(62)【分割の表示】P 2018070831の分割
【原出願日】2017-03-14
(65)【公開番号】P2021176584
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2021-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2016049955
(32)【優先日】2016-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年9月15日、石川奈美子、鈴木義久、平井達也、武田紘司、井出千束、谷原正夫、岡野純子、中江由希、「管状構造でないゲル状の人工神経用材料による末梢神経分岐部の神経治癒過程の新知見」、第24回日本形成外科学会基礎学術集会 プログラム・抄録集、第114頁において発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年1月27日、鈴木義久、石川奈美子、谷原正夫、齊藤 晋、「Nontubulation Repair of Peripheral Nerve Gap Using Heparin/Alginate Gel Combined with b-FGF」(b-FGFと組み合わせたヘパリン/アルギネートゲルを用いた末梢神経ギャップの非管状修復)、Plastic and Reconstructive Surgery Global Open,2016,4(1),e600<URL:http://journals.lww.com/prsgo/Fulltext/2016/01000/Nontubulation_Repair_of_Peripheral_Nerve_Gap_Using.8.aspx>においてウェブサイトに掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年10月8日、石川奈美子、鈴木義久、平井達也、武田紘司、井出千束、谷原正夫、岡野純子、中江由希、「管状構造でないゲル状の人工神経用材料による末梢神経分岐部の神経治癒過程の新知見」、第24回日本形成外科学会基礎学術集会において発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年2月22日、平井達也、鈴木義久、石川奈美子、井出千束、谷原正夫、「シート状人工材料を用いた離断末梢神経再生の評価」<URL:http://www.myschedule.jp/jsrm16/search/detail_program/id:588>においてウェブサイトに掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年2月1日、平井達也、鈴木義久、石川奈美子、井出千束、谷原正夫、「シート状人工材料を用いた離断末梢神経再生の評価」、再生医療 日本再生医療学会雑誌、2017、16(Suppl)、第16回日本再生医療学会総会 プログラム・抄録、第331頁、O-45-5において発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、[医療分野研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)]「アルギン酸を使用した再生医療技術のための新規scaffoldの開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】516076865
【氏名又は名称】公益財団法人田附興風会
(73)【特許権者】
【識別番号】000181147
【氏名又は名称】持田製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100149010
【弁理士】
【氏名又は名称】星川 亮
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義久
(72)【発明者】
【氏名】谷原 正夫
(72)【発明者】
【氏名】伊佐次 三津子
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0081297(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0276066(US,A1)
【文献】特開2000-198738(JP,A)
【文献】特開2007-075425(JP,A)
【文献】特開2002-078792(JP,A)
【文献】特開2005-270237(JP,A)
【文献】特表2013-509963(JP,A)
【文献】日本泌尿器科学会雑誌,2006年,97(2),p.267, APP-089
【文献】Yoshihisa Suzuki et al.,Cat peripheral nerve regeneration across 50mm gap repaired with a novel nerve guide composed of freeze-dried alginate gel,Neuroscience Letters,1999年,Vol.259,No.2,pp.75-78
【文献】石川奈美子 他,管状構造でないゲル状の人工神経用材料による末梢神経分岐部の神経治癒過程の新知見,第24回 日本形成外科学会基礎学術集会 プログラム・抄録集,2015年,第114頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルギン酸、そのエステルおよびその塩からなる群から選択される少なくとも1種が、下記の一般式(I)で表される化合物およびその塩から選択される少なくとも1種の架橋性試薬で共有結合架橋された架橋体、並びに(B)ポリグリコール酸、ポリ乳酸、およびそれらの共重合体、並びに、ポリカプロラクトンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、神経の損傷部の再生のために用いられる非管状の神経再生誘導用材料であって、非管状が平板状、湾曲状、または凹凸のある平板状である神経再生誘導用材料。
HN-(CH-NHR (I)
[式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または式:-COCH(NH)-(CH-NHで表される基を示し、nは2~18の整数を示す。]
【請求項2】
架橋性試薬が、上記の一般式(I)で表される化合物のN-ヒドロキシコハク酸イミド塩である請求項1に記載の神経再生誘導用材料。
【請求項3】
上記の一般式(I)で表される化合物のN-ヒドロキシコハク酸イミド塩が、ジアミノエタンの2N-ヒドロキシコハク酸イミド塩、ジアミノヘキサンの2N-ヒドロキシコハク酸イミド塩、N,N’-ジ(リジル)-ジアミノエタンの4N-ヒドロキシコハク酸イミド塩、および、N-(リジル)-ジアミノヘキサンの3N-ヒドロキシコハク酸イミド塩からなる群から選択される少なくとも1種である請求項2記載の神経再生誘導用材料。
【請求項4】
キセロゲルの形態である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材料。
【請求項5】
電子線及び/又はγ線が吸収線量1kGy~100kGyで照射された、請求項1ないしのいずれか1項に記載の神経再生誘導用材料。
【請求項6】
前記材料を、縦2cm×横2cmのサイズ(厚さは問わない)となるように裁断し、その裁断面の1つから5mm離れた位置で該材料を挟むようにダブルクリップで把持し(把持部A)、該材料の把持部Aに相対する裁断面(B)から10mmまでの領域を生理食塩水に15分間浸漬した後、該材料の該裁断面(B)から5mm離れた位置の中央部に、針付き縫合糸を貫通させて、縫合糸の両端を器具に固定し、該把持部Aを材料の正方形面に水平に、速度10mm/分で引っ張る引き裂き試験を行ったときの最大試験力(荷重)が、0.10(N)~10.0(N)である、請求項1ないしのいずれか1項に記載の神経再生誘導用材料。
【請求項7】
前記アルギン酸、そのエステルおよびその塩からなる群から選択される少なくとも1種のエンドトキシン含有量が、500EU/g以下である、請求項1ないしのいずれか1項に記載の神経再生誘導用材料。
【請求項8】
前記材料中のアルギン酸、そのエステルおよびその塩からなる群から選択される少なくとも1種の含量が、アルギン酸ナトリウムに換算して、0.2mg/cm~12mg/cmである、請求項1ないしのいずれか1項に記載の神経再生誘導剤用材料。
【請求項9】
前記材料中のポリグリコール酸、ポリ乳酸、およびそれらの共重合体、並びに、ポリカプロラクトンからなる群から選択される少なくとも1種の含量が、0.05mg/cm~30mg/cmである、請求項1ないしのいずれか1項に記載の神経再生誘導剤用材料。
【請求項10】
末梢神経および/または中枢神経の損傷部の再生のために用いられる、請求項1ないしのいずれか1項に記載の神経再生誘導剤用材料。
【請求項11】
神経の分岐部および/または神経叢部の損傷部の再生のために用いられる、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の神経再生誘導剤用材料。
【請求項12】
神経の分岐部および/または神経叢部の損傷部が、前立腺、膀胱、陰茎海綿体、腕、四肢、脳、脊髄、顔面、頸、腰、仙骨、腰仙骨、陰部、心臓、腹腔、下腹、骨盤、胸腔内及び腸壁内からなる群から選択される少なくとも1種に存在する、請求項11に記載の神経再生誘導用材料。
【請求項13】
腫瘍切除、リンパ節の郭清、および/または外傷に伴う神経損傷部の再生、並びに、組織再建に伴う神経損傷部の再生からなる群から選択される少なくとも1種の神経損傷部の再生のために用いられる、請求項1ないし12のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材料。
【請求項14】
少なくとも以下の工程を含む、請求項1ないし13のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材料を製造する方法。
(1)アルギン酸、そのエステルおよびその塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む溶液と、下記の一般式(I)で表される化合物およびその塩から選択される少なくとも1種の架橋性試薬とを混合する工程、
(2)(1)で得られた混合物と、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、およびそれらの共重合体、並びに、ポリカプロラクトンからなる群から選択される少なくとも1種とを型に入れて一定時間静置し、架橋体とする工程、
(3)(2)で得られた架橋体を洗浄し、その後、凍結乾燥する工程、
(4)(3)で得られた架橋体に対して、電子線および/またはγ線を照射する工程。
HN-(CH-NHR (I)
[式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または式:-COCH(NH)-(CH-NHで表される基を示し、nは2~18の整数を示す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経の損傷部を再生するための神経再生誘導用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
外傷や腫瘍切除などによる神経損傷に対する治療方法として、切断された神経同士を直
接縫合する神経縫合、又は患者自身の健常な神経を採取して損傷部に移植する自家神経移
植等が行われている。しかし、神経を直接縫合する方法では張力がかかって知覚異常や痛
みが残る場合があり、自家神経移植は、健常な部位の神経を犠牲にし、かつ、神経採取部
に痛みやしびれが現れる場合がある等の問題があった。
【0003】
生体適合性材料を用いて末梢神経の断裂部位を連結して神経を再生させようという試み
が1980年代初め頃から行なわれ、直線状の神経の欠損部に対しては、神経再生のためのデ
バイスはいくつか存在する。例えば、「ナーブリッジTM」はポリグリコール酸とコラー
ゲンとからなる神経再生誘導チューブである。しかし、ナーブリッジは円柱状で内腔のコ
ラーゲンを覆っている外側の素材が硬く、手足指などの関節や関節近傍部位などの可動閾
が大きな部分や三次元的な湾曲が必要な部分の神経再建には使いづらい。また、断裂した
神経の末端をチューブ内に引き込んで縫合による固定を必要として手術が煩雑であり、そ
の内径も固定されているので、複数の内径の規格を常に準備しておかなくてはならない。
また、神経の分岐部や神経叢部の欠損部には使用できず、必ず、断裂した神経の断端が明
瞭である神経を1:1で接合するしかない。その他、神経を1:1で接合するチューブとし
て、ポリ乳酸とεカプロラクタムとの共重合体からなる「NEUROLAC(登録商標)
」等が存在する。
【0004】
エチレンジアミンで共有結合架橋して作製されたアルギン酸スポンジを用いて、直線状
の神経の欠損部に対する神経再生効果が開示されている(特許文献1)。
【0005】
アルギネートゲルを管状に加工したポリグリコール酸で覆い、凍結乾燥して得られた材
料がネコの坐骨神経の大腿部の50mmのギャップを再生したことが開示されている(非
特許文献1)。アルギネートゲルは、ネコ坐骨神経ギャップの再生において、管状のデバ
イスと非管状のデバイスとで効果に差がなかったとされている。非管状のデバイスは、2
枚のスポンジで神経のギャップを挟んで設置された(非特許文献2)。これらに関連する
技術が開示されている(非特許文献3~6)。
【0006】
ラットの脊髄の2mmのギャップに対してアルギネートスポンジが用いられた例がある
(非特許文献7)。
【0007】
アルギン酸スポンジを用いて、ネコの顔面神経の後枝の5mmのギャップを再生したこ
とが開示されている。しかし、神経の切断部位は分岐部ではなかった(非特許文献8)。
【0008】
アルギネートゲルスポンジシートを用いてラット陰茎海綿体神経の2mmのギャップを
再生したとの文献がある(非特許文献9~14)。神経の切断部位は、骨盤神経節から1
mm下流の海綿体神経とされているため、分岐した神経とは考えにくい。陰茎海綿体神経
の再生に関しては、アルギネートゲルスポンジシートがヒト骨髄由来CD133+細胞投
与の基材として用いられた例があるが、アルギネートゲルスポンジシートのみでは有意な
再生効果が得られていない(非特許文献15)。また、ラット骨盤神経叢の約2mmの神
経欠損部に対してアルギン酸ゲルを貼りつけてその再生が試みられた例がある(非特許文
献16、17)。これらの文献で、用いられたアルギネートシートの詳細は明らかではな
く、また、その効果はまだ十分とはいえない。
【0009】
上記知見におけるアルギネートスポンジは、低エンドトキシン処理されていないアルギ
ン酸ナトリウムが用いられており、低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムを用いて作製
されたものではなかった。
【0010】
このように、これまでデバイスを用いて試みられてきた神経の再生は、そのほとんどが
直線状の神経の欠損部に対するものであり、神経の分岐部や神経叢部の欠損部の再生を促
すことができる実用化可能な材料は知られていない。
【0011】
生体吸収性材料からなる不織布とアルギン酸ナトリウムを含有する生体組織補強材料キ
ットが開示されている(特許文献2)。しかし、アルギン酸ナトリウムは架橋されずに用
いられており、また神経再生を目的とする材料ではない。
【0012】
多糖類などの高分子材料とγ線や電子線との関係をみた文献がいくつか存在する。特許
文献3は、ヒアルロン酸単独で形成されたゲルにガンマ線、電子線、プラズマ等を照射し
て得られるゲルを開示する。ヒアルロン酸単独のゲルとは、ヒアルロン酸以外に化学的架
橋剤などを使用せず、自己架橋したゲルを意味すると説明されている。特許文献4は、化
学的、熱又は放射線などの条件において、生体分解性ポリマーからなるインプラントを開
示している。非特許文献18は、組織エンジニアリング用アルギネートナノファイバーに
γ線を照射して、γ線照射量により崩壊率をコントロールする技術を開示する。また、ア
ルギン酸を用いた神経再生材料に関する文献では、アルギン酸ゲルの生体吸収性はγ線照
射線量によりコントロールが可能であると記載されている(非特許文献19)。しかしな
がら、これまで、材料へのγ線や電子線の照射と、神経再生との関係は具体的には明らか
になっていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特許第4531887号明細書
【文献】特開2013-165884号公報
【文献】特開2000-237294号公報
【文献】米国特許出願公開2007/0203564号明細書
【非特許文献】
【0014】
【文献】Neuroscience Letters 259 (1999) 75-78
【文献】Journal of Neurotrauma Vol.18 No.3 (2001) p.329-338
【文献】J Biomed Mater Res,(2000) 49, p.528-533
【文献】Exp Brain Res (2002) 146: p.356-368
【文献】J Materials science: Materials in medicine 16 (2005) p.503-509
【文献】J Biomed Mater Res Pt A : 71A(4) (2004) p.661-668
【文献】Journal of Biomedical Materials Research Vol.54 p.373-384 (2001)
【文献】Scandinavian Journal of Plastic and Reconstructive Surgery and Hand Surgery 2002; 36: 135-140
【文献】Urology 68: 1366-1371 (2006)
【文献】日本泌尿器科学会雑誌(2006)97巻2号 APP-089 http://togodb.dbcls.jp/yokou_abstract/show/200601893130275
【文献】The Journal of Urology (2006) Vol.75.No.4 Supplement, p.421,1307
【文献】日本泌尿器科学会雑誌(2007)98巻2号 http://togodb.dbcls.jp/yokou_abstract/show/200701846760209 WS5-6
【文献】Urology View Vol.4 No.4 p.74-79
【文献】泌尿器外科(2009)22(2) p.133-138
【文献】J Sex Med 2014; 11:p.1148-1158
【文献】日本泌尿器科学会雑誌(2005)96巻2号 OP4-026 http://togodb.dbcls.jp/yokou_abstract/show/200501884320564
【文献】The Journal of Urology (2005) Vol.173, No.4 Supplement p.333 1228
【文献】Tissue Engineering and Regenerative Medicine Vol.11 Suppl.2 p.64-71 (2014)
【文献】医学のあゆみ (2005) Vol.215 No.10 ,p.867-873
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題の一つは、神経の分岐部及び/又は神経叢部の損傷部の再生を誘導しうる
医療用材料を提供することである。
また、本発明の別の課題は、直線状の神経の損傷部にも、神経分岐部及び/又は神経叢
部の損傷部にも適用可能で、神経再生誘導効果が高く、安全で生体適合性に優れる医療用
材料を提供することである。
また、本発明のまた別の課題は、縫合可能な適度な強度を備えつつ、縫合しない場合で
も神経再生効果を発揮しうる、様々な場所や形状の損傷に適用しやすい非管状の神経再生
誘導用材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムを後述の一般式(I)で表される化
合物及び/又はその塩で共有結合架橋して作製したキセロゲル状のアルギン酸架橋体を含
む神経再生誘導用材料が、ラット坐骨神経のY字状の分岐部のギャップを再生誘導したと
の知見に基づいてなされたものである。これまで、デバイスを用いて坐骨神経の分岐部の
ギャップの再生誘導が試みられたことはなかった。本発明の神経再生誘導用材料が、坐骨
神経の分岐部のギャップにおいて、1の神経断端部と複数の神経断端部とをつなぐことに
より神経の再生を誘導したことは、これまでの知見からは想到し得ない驚くべきことであ
った。
【0017】
本発明の別の態様では、低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムを後述の一般式(I)
で表される化合物及び/又はその塩で共有結合架橋し、電子線を照射したキセロゲル状の
アルギン酸架橋体を含む神経再生誘導用材料を用いて、ラットの神経欠損部の再生誘導効
果を評価したところ、電子線を照射した神経再生誘導用材料は、電子線を照射していない
ものと比較して、神経再生誘導の効果が高まることが見出された。また、アルギン酸架橋
体を含む神経再生誘導用材料の生体内消失(残存)時間が神経再生誘導効果に影響するこ
と、電子線やγ線線量などにより材料の生体内消失をコントロールできること、さらに、
神経再生に望ましい架橋体の消失パターンを見出した。また、さらに生体内吸収性高分子
を含む神経再生誘導用材料は、生体内吸収性高分子を含まない材料と比較して、再生不十
分の例が少なく、安定的に神経損傷部を再生する可能性が示唆された。これは予想外の効
果であった。また、生体内吸収性高分子を含む神経再生誘導用材料は、必要に応じて縫合
も可能であり、凍結乾燥時の材料の変形も抑制でき、取扱い性にも優れることを見出し、
本発明を完成した。
【0018】
すなわち、本発明は、第1の態様として、以下の神経再生誘導用材料を提供する。
(1-1)低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類が、
下記の一般式(I)で表される化合物およびその塩から選択される少なくとも1種の架橋
性試薬で共有結合架橋された架橋体を含む、神経の分岐部及び/又は神経叢部の損傷部の
再生のために用いられる神経再生誘導用材料。
HN-(CH-NHR (I)
[式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または式:-COCH(NH)-
(CH-NHで表される基を示し、nは2~18の整数を示す。]
(1-2)分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類が、アルギン酸、そのエ
ステルおよびその塩からなる群から選択される少なくとも1種である(1-1)に記載の
神経再生誘導用材料。
(1-3)架橋性試薬が、上記の一般式(I)で表される化合物のN-ヒドロキシコハク
酸イミド塩である(1-1)または(1-2)のいずれかに記載の神経再生誘導用材料。
(1-4)上記の一般式(I)で表される化合物のN-ヒドロキシコハク酸イミド塩が、
ジアミノエタンの2N-ヒドロキシコハク酸イミド塩、ジアミノヘキサンの2N-ヒドロ
キシコハク酸イミド塩、N,N’-ジ(リジル)-ジアミノエタンの4N-ヒドロキシコ
ハク酸イミド塩、および、N-(リジル)-ジアミノヘキサンの3N-ヒドロキシコハク
酸イミド塩からなる群から選択される少なくとも1種である(1-3)に記載の神経再生
誘導用材料。
(1-5)キセロゲルの形態である、(1-1)ないし(1-4)のいずれか1つに記載
の神経再生誘導用材料。
(1-6)分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類が、100EU/g以下
のエンドトキシン含有量である、(1-1)ないし(1-5)のいずれか1つに記載の神
経再生誘導用材料。
(1-7)神経の分岐部及び/又は神経叢部の損傷部が、前立腺、腕、脳、脊髄、顔面、
頸、腰、仙骨、腰仙骨、陰部、心臓、腹腔、及び腸壁内からなる群から選択される少なく
とも1種に存在する、(1-1)ないし(1-6)のいずれか1つに記載の神経再生誘導
用材料。
(1-7a)神経の分岐部及び/又は神経叢部の損傷部が、前立腺、膀胱、陰茎海綿体、
腕、四肢、脳、脊髄、顔面、頸、腰、仙骨、腰仙骨、陰部、心臓、腹腔、下下腹、骨盤、
胸腔内及び腸壁内からなる群から選択される少なくとも1種に存在する、(1-1)ない
し(1-6)のいずれか1つに記載の神経再生誘導用材料。
(1-8)リンパ節の郭清に伴う神経損傷部の再生のために用いられる(1-1)ないし
(1-7a)のいずれか1つに記載の神経再生誘導用材料。
(1-9)低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類が、
上記の一般式(I)で表される化合物及びその塩から選択される少なくとも1種の架橋性
試薬で共有結合架橋された架橋体を含む神経再生誘導用材料を、神経の分岐部及び/又は
神経叢部の損傷部に適用する工程を含む、神経の再生を必要とする対象において神経の分
岐部及び/又は神経叢部の損傷部の再生を誘導する方法。
(1-9a)(1-1)ないし(1-8)のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材料を
、神経の分岐部及び/又は神経叢部の損傷部に適用する工程を含む、神経の再生を必要と
する対象において神経の分岐部及び/又は神経叢部の損傷部の再生を誘導する方法。
(1-10)低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類が
、上記の一般式(I)で表される化合物及びその塩から選択される架橋性試薬で共有結合
架橋された架橋体を含む神経再生誘導用材料を用いる、神経の分岐部及び/又は神経叢部
の損傷部の損傷部の再生において使用されるための前記低エンドトキシンの分子内にカル
ボキシル基を有する生体内吸収性多糖類。
(1-10a)(1-1)ないし(1-8)のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材料
を用いる、神経の分岐部及び/又は神経叢部の損傷部の損傷部の再生において使用される
ための前記低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類。
(1-11)(1-1)ないし(1-8)のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材料を
製造するための、前記低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性
多糖類及び/又は前記一般式(I)で表される化合物およびその塩から選択される少なく
とも1種の架橋性試薬の使用であって、前記神経再生誘導用材料が神経の分岐部及び/又
は神経叢部の損傷部に適用し神経を再生するように用いられる、前記使用。
【0019】
また、本発明は第2の態様として、以下の神経再生誘導用材料を提供する。
(2-1)低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類が、
下記の一般式(I)で表される化合物およびその塩から選択される少なくとも1種の架橋
性試薬で共有結合架橋され、電子線及び/又はγ線が照射された架橋体を含む、神経再生
誘導用材料。
HN-(CH-NHR (I)
[式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または式:-COCH(NH)-
(CH-NHで表される基を示し、nは2~18の整数を示す。]
(2-2)分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類が、アルギン酸、そのエ
ステルおよびその塩からなる群から選択される少なくとも1種である(2-1)に記載の
神経再生誘導用材料。
(2-3)架橋性試薬が、上記の一般式(I)で表される化合物のN-ヒドロキシコハク
酸イミド塩である(2-1)または(2-2)のいずれかに記載の神経再生誘導用材料。
(2-4)上記の一般式(I)で表される化合物のN-ヒドロキシコハク酸イミド塩が、
ジアミノエタンの2N-ヒドロキシコハク酸イミド塩、ジアミノヘキサンの2N-ヒドロ
キシコハク酸イミド塩、N,N’-ジ(リジル)-ジアミノエタンの4N-ヒドロキシコ
ハク酸イミド塩、および、N-(リジル)-ジアミノヘキサンの3N-ヒドロキシコハク
酸イミド塩からなる群から選択される少なくとも1種である(2-3)に記載の神経再生
誘導用材料。
(2-5)キセロゲルの形態である、(2-1)ないし(2-4)のいずれか1つに記載
の神経再生誘導用材料。
(2-6)分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類が、100EU/g以下
のエンドトキシン含有量である、(2-1)ないし(2-5)のいずれか1つに記載の神
経再生誘導用材料。
(2-7)電子線及び/又はγ線が、吸収線量1kGy~100kGyで照射された、(
2-1)ないし(2-6)のいずれか1つに記載の神経再生誘導用材料。
(2-8)7日~270日で適用部位から消失する、(2-1)ないし(2-7)のいず
れか1つに記載の神経再生誘導用材料。
(2-9)さらにポリグリコール酸、ポリ乳酸、およびそれらの共重合体からなる群から
選択される少なくとも1種を含有する、(2-1)ないし(2-8)のいずれか1つに記
載の神経再生誘導用材料。
(2-10)末梢神経及び/又は中枢神経の損傷部の再生のために用いられる、(2-1
)ないし(2-9)のいずれか1つに記載の神経再生誘導用材料。
(2-11)リンパ節の郭清に伴う神経損傷部の再生のために用いられる(2-1)ない
し(2-10)のいずれか1つに記載の神経再生誘導用材料。
(2-12)体内の適用部位から消失するまでの時間が、電子線及び/又はγ線が照射さ
れていない材料と比較して短い、(2-1)ないし(2-11)のいずれか1つに記載の
神経再生誘導用材料。
(2-13)(2-1)ないし(2-12)のいずれか1つに記載の神経再生誘導用材料
を神経の損傷部に適用する工程を含む、神経の損傷部の再生を必要とする対象において神
経の損傷部の再生を誘導する方法。
(2-13a)(2-1)ないし(2-12)のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材
料を用いる、神経の損傷部の損傷部の再生において使用されるための前記低エンドトキシ
ンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類。
(2-13b)(2-1)ないし(2-12)のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材
料を製造するための、前記低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸
収性多糖類及び/又は前記一般式(I)で表される化合物およびその塩から選択される少
なくとも1種の架橋性試薬の使用であって、前記神経再生誘導用材料が神経の損傷部に適
用し神経を再生するように用いられる、前記使用。
(2-14)低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類が
、上記の一般式(I)で表される化合物及びその塩から選択される少なくとも1種の架橋
性試薬で共有結合架橋された架橋体を含む神経再生誘導用材料に対して、電子線及び/又
はγ線を照射する工程を含む、神経再生誘導用材料の体内残存時間を調節する方法。
(2-15)低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類と
、上記の一般式(I)で表される化合物及びその塩から選択される少なくとも1種の架橋
性試薬とを用いて共有結合架橋した架橋体を含む材料に対して電子線及び/又はγ線を照
射する工程を少なくとも含む、神経再生誘導用材料を製造する方法。
【0020】
また、本発明は第3の態様として、以下の神経再生誘導用材料を提供する。
(3-1)GPC-MALSにより測定された重量平均分子量が9万~70万の低エンド
トキシンのアルギン酸、そのエステルおよびその塩からなる群から選択される少なくとも
1種が、下記の一般式(I)で表される化合物およびその塩から選択される少なくとも1
種の架橋性試薬で共有結合架橋された架橋体を含む、神経再生誘導用材料。
HN-(CH-NHR (I)
[式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または式:-COCH(NH)-
(CH-NHで表される基を示し、nは2~18の整数を示す。]
(3-2)低エンドトキシンのアルギン酸、そのエステルおよびその塩からなる群から選
択される少なくとも1種のM/G比が0.5~3.0である、(3-1)に記載の神経再
生誘導用材料。
(3-3)(3-1)または(3-2)に記載の神経再生誘導用材料を神経の損傷部に適
用する工程を含む、神経の損傷部の再生を必要とする対象において神経の損傷部の再生を
誘導する方法。
(3-3b)(3-1)または(3-2)に記載の神経再生誘導用材料を用いる、神経の
損傷部の損傷部の再生において使用されるための前記低エンドトキシンのアルギン酸、そ
のエステルまたはその塩。
(3-3c)(3-1)または(3-2)に記載の神経再生誘導用材料を製造するための
、前記低エンドトキシンのアルギン酸、そのエステルまたはその塩及び/又は前記一般式
(I)で表される化合物およびその塩から選択される少なくとも1種の架橋性試薬の使用
であって、前記神経再生誘導用材料が神経の損傷部に適用し神経を再生するように用いら
れる、前記使用。
【0021】
また、本発明は第4の態様として、以下の神経再生誘導用材料を提供する。
(4-1)低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類が、
下記の一般式(I)で表される化合物およびその塩から選択される少なくとも1種の架橋
性試薬で共有結合架橋された架橋体を含む、神経再生誘導用材料。
HN-(CH-NHR (I)
[式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または式:-COCH(NH)-
(CH-NHで表される基を示し、nは2~18の整数を示す。]
(4-2)分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類が、アルギン酸、そのエ
ステルおよびその塩からなる群から選択される少なくとも1種である、(4-1)に記載
の神経再生誘導用材料。
(4-3)架橋性試薬が、上記の一般式(I)で表される化合物のN-ヒドロキシコハク
酸イミド塩である(4-1)または(4-2)のいずれかに記載の神経再生誘導用材料。
(4-4)上記の一般式(I)で表される化合物のN-ヒドロキシコハク酸イミド塩が、
ジアミノエタンの2N-ヒドロキシコハク酸イミド塩、ジアミノヘキサンの2N-ヒドロ
キシコハク酸イミド塩、N,N’-ジ(リジル)-ジアミノエタンの4N-ヒドロキシコ
ハク酸イミド塩、および、N-(リジル)-ジアミノヘキサンの3N-ヒドロキシコハク
酸イミド塩からなる群から選択される少なくとも1種である(4-3)記載の神経再生誘
導用材料。
(4-5)キセロゲルの形態である、(4-1)ないし(4-4)のいずれか1つに記載
の神経再生誘導用材料。
(4-6)低エンドトキシンのアルギン酸、そのエステルおよびその塩からなる群から選
択される少なくとも1種のGPC-MALSにより測定された重量平均分子量が9万~7
0万である、(4-1)ないし(4-5)のいずれか1つに記載の神経再生誘導用材料。
(4-7)低エンドトキシンのアルギン酸、そのエステルおよびその塩からなる群から選
択される少なくとも1種のM/G比が0.5~3.0である、(4-1)ないし(4-6
)のいずれか1つに記載の神経再生誘導用材料。
(4-8)分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類が、100EU/g以下
のエンドトキシン含有量である、(4-1)ないし(4-7)のいずれか1つに記載の神
経再生誘導用材料。
(4-9)さらにポリグリコール酸、ポリ乳酸、およびそれらの共重合体からなる群から
選択される少なくとも1種を含有する、(4-1)ないし(4-8)のいずれか1つに記
載の神経再生誘導用材料。
(4-10)7日~270日で適用部位から消失する、(4-1)ないし(4-9)のい
ずれか1つに記載の神経再生誘導用材料。
(4-11)電子線及び/又はγ線が照射された、(4-1)ないし(4-10)のいず
れか1つに記載の神経再生誘導用材料。
(4-12)電子線及び/又はγ線が、吸収線量1kGy~100kGyで照射された、(4-
11)に記載の神経再生誘導用材料。
(4-13)末梢神経および/または中枢神経の損傷部の再生のために用いられる、(4
-1)ないし(4-12)のいずれか1つに記載の神経再生誘導用材料。
(4-14)神経の分岐部および/または神経叢の損傷部の再生のために用いられる、(
4-1)ないし(4-10)のいずれか1つに記載の神経再生誘導用材料。
(4-15)神経の分岐部および/または神経叢部の損傷部が、前立腺、腕、脳、脊髄、
顔面、頸、腰、仙骨、腰仙骨、陰部、心臓、腹腔、及び腸壁内からなる群から選択される
少なくとも1種に存在する、(4-14)に記載の神経再生誘導用材料。
(4-15a)神経の分岐部および/または神経叢部の損傷部が、前立腺、膀胱、陰茎海
綿体、腕、四肢、脳、脊髄、顔面、頸、腰、仙骨、腰仙骨、陰部、心臓、腹腔、下下腹、
骨盤、胸腔内及び腸壁内からなる群から選択される少なくとも1種に存在する、(4-1
4)に記載の神経再生誘導用材料。
(4-16)リンパ節の郭清に伴う神経損傷部の再生のために用いられる、(4-13)
に記載の神経再生誘導用材料。
(4-17)(4-1)ないし(4-14)のいずれか1つに記載の神経再生誘導用材料
を神経の損傷部に適用する工程を含む、神経の損傷部の再生を必要とする対象において神
経の損傷部の再生を誘導する方法。
(4-17a)(4-1)ないし(4-14)のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材
料を用いる、神経の損傷部の損傷部の再生において使用されるための前記低エンドトキシ
ンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類。
(4-17c)(4-1)ないし(4-14)のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材
料を製造するための、前記低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸
収性多糖類及び/又は前記一般式(I)で表される化合物およびその塩から選択される少
なくとも1種の架橋性試薬の使用であって、前記神経再生誘導用材料が神経の損傷部に適
用し神経を再生するように用いられる、前記使用。
【0022】
また、本発明は第5の態様として、以下の神経再生誘導用材料を提供する。
(5-1)(A)低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖
類が、下記の一般式(I)で表される化合物およびその塩から選択される少なくとも1種
の架橋性試薬で共有結合架橋された架橋体、並びに(B)生体内吸収性高分子を含む、神
経の損傷部の再生のために用いられる非管状の神経再生誘導用材料。
HN-(CH-NHR (I)
[式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または式:-COCH(NH)-
(CH-NHで表される基を示し、nは2~18の整数を示す。]
(5-2)分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類が、アルギン酸、そのエ
ステルおよびその塩からなる群から選択される少なくとも1種である、(5-1)に記載
の神経再生誘導用材料。
(5-3)架橋性試薬が、上記の一般式(I)で表される化合物のN-ヒドロキシコハク
酸イミド塩である(5-1)または(5-2)のいずれかに記載の神経再生誘導用材料。
(5-4)上記の一般式(I)で表される化合物のN-ヒドロキシコハク酸イミド塩が、
ジアミノエタンの2N-ヒドロキシコハク酸イミド塩、ジアミノヘキサンの2N-ヒドロ
キシコハク酸イミド塩、N,N’-ジ(リジル)-ジアミノエタンの4N-ヒドロキシコ
ハク酸イミド塩、および、N-(リジル)-ジアミノヘキサンの3N-ヒドロキシコハク
酸イミド塩からなる群から選択される少なくとも1種である(5-3)記載の神経再生誘
導用材料。
(5-5)キセロゲルの形態である、(5-1)ないし(5-4)のいずれか1項に記載
の神経再生誘導用材料。
(5-6)生体内吸収性高分子が、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、およびそれらの共重合
体、並びに、ポリカプロラクトンからなる群から選択される少なくとも1種である、(5
-1)ないし(5-5)のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材料。
(5-7)電子線及び/又はγ線が吸収線量1kGy~100kGyで照射された、(5-1)
ないし(5-6)のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材料。
(5-8)前記材料を、縦2cm×横2cmのサイズ(厚さは問わない)となるように裁
断し、その裁断面の1つから5mm離れた位置で該材料を挟むようにダブルクリップで把
持し(把持部A)、該材料の把持部Aに相対する裁断面(B)から10mmまでの領域を
生理食塩水に15分間浸漬した後、該材料の該裁断面(B)から5mm離れた位置の中央
部に、針付き縫合糸を貫通させて、縫合糸の両端を器具に固定し、該把持部Aを材料の正
方形面に水平に、速度10mm/分で引っ張る引き裂き試験を行ったときの最大試験力(
荷重)が、0.10(N)~10.0(N)である、(5-1)ないし(5-7)のいず
れか1項に記載の神経再生誘導用材料。
(5-9)前記材料中のアルギン酸、そのエステルおよびその塩からなる群から選択され
る少なくとも1種の含量が、アルギン酸ナトリウムに換算して、0.2mg/cm~1
2mg/cmである、(5-2)ないし(5-8)のいずれか1項に記載の神経再生誘
導用材料。
(5-10)前記材料中の生体内吸収性高分子の含量が、0.05mg/cm~30m
g/cmである、(5-1)ないし(5-9)のいずれか1項に記載の神経再生誘導用
材料。
(5-11)末梢神経および/または中枢神経の損傷部の再生のために用いられる、(5
-1)ないし(5-10)のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材料。
(5-12)神経の分岐部および/または神経叢部の損傷部の再生のために用いられる、
(5-1)ないし(5-11)のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材料。
(5-13)神経の分岐部および/または神経叢部の損傷部が、前立腺、膀胱、陰茎海綿
体、腕、四肢、脳、脊髄、顔面、頸、腰、仙骨、腰仙骨、陰部、心臓、腹腔、下下腹、骨
盤、胸腔内及び腸壁内からなる群から選択される少なくとも1種に存在する、(5-12
)に記載の神経再生誘導用材料。
(5-14)腫瘍切除、リンパ節の郭清、および/または外傷に伴う神経損傷部の再生、
並びに、組織再建に伴う神経損傷部の再生、からなる群から選択される少なくとも1種の
神経損傷部の再生のために用いられる、請求項(5-1)ないし(5-13)のいずれか
1項に記載の神経再生誘導用材料。
(5-15)前記低エンドトキシンのアルギン酸、そのエステルおよびその塩からなる群
から選択される少なくとも1種は、GPC-MALS法により測定された重量平均分子量
(絶対分子量)が8万以上である、(5-2)ないし(5-14)のいずれか1項に記載
の神経再生誘導用材料。
(5-16)前記低エンドトキシンのアルギン酸、そのエステルおよびその塩からなる群
から選択される少なくとも1種のM/G比が0.4~3.0である、(5-2)ないし(
5-15)のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材料。
(5-17)(5-1)ないし(5-16)のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材料
を、治療を必要とする対象の神経損傷部に適用する工程を含む、神経損傷部の再生を誘導
する方法。
(5-18)(5-1)ないし(5-16)のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材料
を、治療を必要とする対象の神経損傷部に適用することを含む、神経の損傷部の再生にお
いて使用されるための前記低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸
収性多糖類。
(5-18a)(5-1)ないし(5-16)のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材
料を製造するための、前記低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸
収性多糖類及び/又は前記一般式(I)で表される化合物およびその塩から選択される少
なくとも1種の架橋性試薬の使用であって、前記神経再生誘導用材料が神経の損傷部に適
用し神経を再生するように用いられる、前記使用。
(5-19)少なくとも以下の工程を含む神経再生誘導用材料の体内残存時間を調節する
方法。
(A)低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類が、上記
の一般式(I)で表される化合物およびその塩から選択される少なくとも1種の架橋性試
薬で共有結合架橋された架橋体、並びに(B)生体内吸収性高分子を含む架橋体に対して
、電子線および/またはγ線を照射する工程。
【0023】
また、本発明は第6の態様として、以下の神経再生誘導用材料の製造方法を提供する。
(6-1)少なくとも以下の工程を含む神経再生誘導用材料を製造する方法。
(1)低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類を含む溶
液と、上記の一般式(I)で表される化合物およびその塩から選択される少なくとも1種
の架橋性試薬とを混合する工程、
(2)(1)で得られた混合物と、生体内吸収性高分子とを型に入れて一定時間静置し、
架橋体とする工程、
(3)(2)で得られた架橋体を洗浄し、その後、凍結乾燥する工程、
(4)(3)で得られた架橋体に対して、電子線および/またはγ線を照射する工程。
【0024】
また、本発明は第7の態様として、以下の神経再生誘導用材料を提供する。
(7-1)低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類が、
下記の一般式(I)で表される化合物およびその塩から選択される少なくとも1種の架橋
性試薬で共有結合架橋された架橋体を含む、非管状の神経再生誘導用材料であって、
HN-(CH-NHR (I)
[式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または式:-COCH(NH)-
(CH-NHで表される基を示し、nは2~18の整数を示す。]
前記材料を縦1cm×横1cmのサイズ(厚さは問わない)となるように裁断した該材
料4個と生理食塩水25mLを50mLの容遠沈管に入れて、恒温振とう水槽で、振とう
数を往復120回/分、温度50℃で振とうする分解性試験を行うとき、振とう開始から
72時間後の材料の残存率が10%~80%である、該材料。
(7-2)前記分解性試験において、開始から72時間後の残存率が、開始から4時間後
の残存率と比較して低下を示す、(7-1)に記載の神経再生誘導用材料。
(7-3)前記分解性試験において、開始から4時間後の残存率が55%以上である、(
7-1)または(7-2)のいずれかに記載の神経再生誘導用材料。
(7-4)分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類が、アルギン酸、そのエ
ステルおよびその塩からなる群から選択される少なくとも1種である、(7-1)ないし
(7-3)のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材料。
(7-5)架橋性試薬が、上記の一般式(I)で表される化合物のN-ヒドロキシコハク
酸イミド塩である(7-1)ないし(7-4)のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材
料。
(7-6)上記の一般式(I)で表される化合物のN-ヒドロキシコハク酸イミド塩が、
ジアミノエタンの2N-ヒドロキシコハク酸イミド塩、ジアミノヘキサンの2N-ヒドロ
キシコハク酸イミド塩、N,N’-ジ(リジル)-ジアミノエタンの4N-ヒドロキシコ
ハク酸イミド塩、および、N-(リジル)-ジアミノヘキサンの3N-ヒドロキシコハク
酸イミド塩からなる群から選択される少なくとも1種である(7-5)記載の神経再生誘
導用材料。
(7-7)キセロゲルの形態である、(7-1)ないし(7-6)のいずれか1項に記載
の神経再生誘導用材料。
(7-8)電子線及び/又はγ線が、吸収線量1kGy~100kGyで照射された、(7-1
)ないし(7-7)のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材料。
(7-9)さらに、生体内吸収性高分子を含有する、(7-1)ないし(7-8)のいず
れか1項に記載の神経再生誘導用材料。
(7-10)生体内吸収性高分子が、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、およびそれらの共重
合体、並びにポリカプロラクトンからなる群から選択される少なくとも1種である、(7
-9)に記載の神経再生誘導用材料。
(7-11)前記材料を、縦2cm×横2cmのサイズ(厚さは問わない)となるように
裁断し、その裁断面の1つから5mm離れた位置で該材料を挟むようにダブルクリップで
把持し(把持部A)、該材料の把持部Aに相対する裁断面(B)から10mmまでの領域
を生理食塩水に15分間浸漬した後、該材料の該裁断面(B)から5mm離れた位置の中
央部に、針付き縫合糸を貫通させて、縫合糸の両端を器具に固定し、該把持部Aを材料の
正方形面に水平に、速度10mm/分で引っ張る引き裂き試験を行ったときの最大試験力
(荷重)が、0.10(N)~10.0(N)である、(7-1)ないし(7-10)の
いずれか1項に記載の神経再生誘導用材料。
(7-12)前記材料中のアルギン酸、そのエステルおよびその塩からなる群から選択さ
れる少なくとも1種の含量が、アルギン酸ナトリウムに換算して、0.2mg/cm
12mg/cmである、(7-4)ないし(7-11)のいずれか1項に記載の神経再
生誘導用材料。
(7-13)前記材料中の生体内吸収性高分子の含量が、0.05mg/cm~30m
g/cmである、(7-1)ないし(7-12)のいずれか1項に記載の神経再生誘導
用材料。
(7-14)末梢神経および/または中枢神経の損傷部の再生のために用いられる、(7
-1)ないし(7-13)のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材料。
(7-15)神経の分岐部および/または神経叢部の損傷部の再生のために用いられる、
(7-1)ないし(7-14)のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材料。
(7-16)神経の分岐部および/または神経叢部の損傷部が、前立腺、膀胱、陰茎海綿
体、腕、四肢、脳、脊髄、顔面、頸、腰、仙骨、腰仙骨、陰部、心臓、腹腔、下下腹、骨
盤、胸腔内及び腸壁内からなる群から選択される少なくとも1種に存在する、(7-15
)に記載の神経再生誘導用材料。
(7-17)腫瘍切除、リンパ節の郭清、および/または外傷に伴う神経損傷部の再生、
並びに、組織再建に伴う神経損傷部の再生からなる群から選択される少なくとも1種の神
経損傷部の再生のために用いられる、(7-1)ないし(7-16)のいずれか1項に記
載の神経再生誘導用材料。
(7-18)前記低エンドトキシンのアルギン酸、そのエステルおよびその塩からなる群
から選択される少なくとも1種は、GPC-MALS法により測定された重量平均分子量
(絶対分子量)が8万以上である、(7-4)ないし(7-17)のいずれか1項に記載
の神経再生誘導用材料。
(7-19)前記低エンドトキシンのアルギン酸、そのエステルおよびその塩からなる群
から選択される少なくとも1種のM/G比が0.4~3.0である、(7-4)ないし(
7-18)のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材料。
(7-20)(7-1)ないし(7-19)のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材料
を、治療を必要とする対象の神経損傷部に適用する工程を含む、神経損傷部の再生を誘導
する方法。
(7-21)(7-1)ないし(7-19)のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材料
を、治療を必要とする対象の神経損傷部に適用することを含む、神経の損傷部の再生誘導
方法において使用されるための前記低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する
生体内吸収性多糖類。
(7-21a)(7-1)ないし(7-19)のいずれか1項に記載の神経再生誘導用材
料を製造するための、前記低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸
収性多糖類及び/又は前記一般式(I)で表される化合物およびその塩から選択される少
なくとも1種の架橋性試薬の使用であって、前記神経再生誘導用材料が神経の損傷部に適
用し神経を再生するように用いられる、前記使用。
(7-22)少なくとも以下の工程を含む神経再生誘導用材料の体内残存時間を調節する
方法。
低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類が、上記の一
般式(I)で表される化合物およびその塩から選択される少なくとも1種の架橋性試薬で
共有結合架橋された架橋体を含む材料に対して、電子線および/またはγ線を照射する工
程。
【発明の効果】
【0025】
本発明の神経再生誘導用材料は、現在、自家神経移植等の他に有用な治療方法のない神
経の分岐部及び/又は神経叢部の損傷部の再生を促すことが可能であり、新たな治療手段
を提供しうる。
また、本発明の態様のひとつでは、神経再生誘導用材料は、体内消失時間がコントロー
ルされており、神経再生誘導効果に優れる。
本発明の神経再生誘導用材料は、神経の損傷部が、直線状であっても、分岐部及び/又
は神経叢部であっても、あるいは、欠損部の断端部が視認できない場合にも適用でき、神
経再生を誘導するため、臨床上応用範囲が広い。
本発明のいくつかの態様では、神経再生誘導用材料はキセロゲル状及び/又はシート状
であり柔軟性に富むため、神経の断端部や接合部を神経再生誘導用材料で覆うように包む
ことができる。キセロゲル状及び/又はシート状であるため、使用する患部に適した大き
さに、その場で切断して使用できるため、予め神経の内径に応じた規格を複数用意する必
要が無い。また、内視鏡下、腹腔鏡下等で本発明の材料を神経の損傷部へ適用することも
可能である。
本発明のいくつかの態様のひとつでは、さらに生体内吸収性高分子を含む神経再生誘導
用材料は、適度な強度を備え、患部への適用時に縫合糸で縫合して用いることも可能であ
る。一方で、本発明の材料は縫合しなくても使用でき、縫合しない場合には、比較的簡易
に施術を行うことができるという利点がある。
本発明の神経再生誘導用材料は、一定期間経過後は体内から消失するため、安全性及び
生体適合性に優れる。
本発明の態様のひとつでは、さらに生体内吸収性高分子を含む神経再生誘導用材料は、
適度な強度を有し、膝などの可動部でも該材料がちぎれにくく、安定的に神経損傷部を再
生することが可能である。また、製造過程で、形状が変形しにくく、取扱い性に優れ、製
造効率も高いという利点を有する。
本発明の神経再生誘導用材料は、上記のいずれか1以上の効果を満たす。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】坐骨神経の分岐部欠損部に対してA-3EDA・PGA50を適用した術後8週の写真である。
図2】坐骨神経の分岐部欠損部に対してA-2EDA・PGA100を適用した術後8週の写真である。
図3】坐骨神経の分岐部欠損部に対してA-2EDA・PGA100を適用した術後8週の脛骨神経側の再生軸索の染色写真である。
図4】坐骨神経の分岐部欠損部に対してA-2EDA・PGA100を適用した術後8週の腓骨神経側の再生軸索の染色写真である。
図5】坐骨神経の分岐部の欠損部にアルギン酸架橋体を適用して再生誘導効果をみる試験の模式図を示す。円筒形は神経を表し、長方形はアルギン酸架橋体を表す。実施例では、2枚のアルギン酸架橋体で神経切断部を挟むように、該架橋体を設置した。
図6】坐骨神経の分岐部欠損部に対してアルギン酸架橋体A-2EDA(試料番号1)を適用した術後8週の写真である。矢印は、再生された神経軸索が細く、十分に再生していないと考えられる箇所を示す。
図7】アルギン酸架橋体の分解性をin vitro試験で評価した結果を示すグラフである。
図8】アルギン酸架橋体の分解性をin vitro試験で評価した結果を示すグラフである。
図9】アルギン酸架橋体の分解性をin vitro試験で評価した結果を示すグラフである。
図10】皮膚線維芽細胞(NHDF)の細胞接着性および細胞増殖性を評価した結果を示すグラフである。
図11】実施例10のアルギン酸架橋体の引き裂き試験の試験方法を示す模式図である。
図12】6種のアルギン酸架橋体に対して引き裂き試験を行ったときの最大試験力(N)の平均値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
1.分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類
本発明のいくつかの態様のひとつでは、分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性
多糖類を1種又は2種以上用いて神経再生誘導用材料を作製することができる。分子内に
カルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類は、例えば、アルギン酸、カルボキシメチル
デンプン、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース等の多糖類、そのエステルおよび
その塩が挙げられる。生体内吸収性多糖類は、生体内で分解され吸収されることが好まし
い。また、多糖類は、細胞接着性のない生体内吸収性の多糖類であることが好ましい。好
ましくは、アルギン酸、そのエステル及びその塩から選択される少なくとも1種である。
なお、本明細書において、「神経再生誘導用材料」は「本発明の材料」という場合がある
【0028】
2.アルギン酸、そのエステルおよびその塩
本発明で用いられる「アルギン酸」「アルギン酸エステル」「アルギン酸塩」は、天然
由来でも合成物であってもよく、天然由来であるのが好ましい。本明細書において「アル
ギン酸、そのエステルおよびその塩から選択される少なくとも1種」を「アルギン酸類」
と記載する場合がある。本発明で好ましく用いられるアルギン酸類は、レッソニア、マク
ロシスティス、ラミナリア、アスコフィラム、ダービリア、カジカ、アラメ、コンブなど
の褐藻類から抽出される生体内吸収性の多糖類であって、D-マンヌロン酸(M)とL-
グルロン酸(G)という2種類のウロン酸が直鎖状に重合したポリマーである。より具体
的には、D-マンヌロン酸のホモポリマー画分(MM画分)、L-グルロン酸のホモポリ
マー画分(GG画分)、およびD-マンヌロン酸とL-グルロン酸がランダムに配列した
画分(M/G画分)が任意に結合したブロック共重合体である。
【0029】
アルギン酸類のD-マンヌロン酸とL-グルロン酸の構成比(M/G比)は、主に海藻
等の由来となる生物の種類によって異なり、また、その生物の生育場所や季節による影響
を受け、M/G比が約0.2の高G型からM/G比が約5の高M型まで高範囲にわたる。
アルギン酸類のゲル化能力は生成したゲルの性質は、M/G比によって影響を受け、一般
的に、G比率が高い場合にはゲル強度が高くなることが知られている。M/G比は、その
他にも、ゲルの硬さ、もろさ、吸水性、柔軟性などにも影響を与える。本発明に用いるア
ルギン酸類および/またはその塩のM/G比は、通常、0.2~4.0であり、より好ま
しくは、0.4~3.0、さらに好ましくは0.5~3.0である。本明細書において「
~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値およ
び最大値として含む範囲を示す。
【0030】
本発明で用いられる「アルギン酸エステル」「アルギン酸塩」とは、特に限定されない
が、架橋剤と反応させるため、架橋反応を阻害しない官能基を有していないことが必要で
ある。アルギン酸エステルとしては、好ましくは、アルギン酸プロピレングリコールが挙
げられる。
【0031】
アルギン酸塩としては、例えば、アルギン酸の1価の塩、アルギン酸の2価の塩が挙げ
られる。
【0032】
アルギン酸の1価の塩は、好ましくは、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、
アルギン酸アンモニウムなどが挙げられ、より好ましくは、アルギン酸ナトリウムまたは
アルギン酸カリウムであり、とりわけ好ましくは、アルギン酸ナトリウムである。
【0033】
アルギン酸の2価の塩は、好ましくは、アルギン酸カルシウム、アルギン酸マグネシウ
ム、アルギン酸バリウム、アルギン酸ストロンチウムなどが挙げられる。
【0034】
アルギン酸類は、高分子多糖類であり、分子量を正確に定めることは困難であるが、一
般的に重量平均分子量で1000~1000万、好ましくは1万~800万、より好まし
くは2万~300万の範囲である。天然物由来の高分子物質の分子量測定では、測定方法
により値に違いが生じうることが知られている。
【0035】
例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)又はゲルろ過クロマトグラフィー(こ
れらを合わせてサイズ排除クロマトグラフィーともいう)により測定した重量平均分子量
は、好ましくは10万以上、より好ましくは50万以上であり、また好ましくは、500
万以下、より好ましくは300万以下である。その好ましい範囲は、10万~500万で
あり、より好ましくは50万~350万である。
【0036】
また、例えば、GPC-MALS法によれば、絶対重量平均分子量を測定することがで
きる。GPC-MALS法により測定した重量平均分子量(絶対分子量)は、好ましくは1
万以上、より好ましくは8万以上、さらに好ましくは9万以上であり、また好ましくは、
100万以下、より好ましくは80万以下、さらに好ましくは70万以下、とりわけ好ま
しくは50万以下である。その好ましい範囲は、1万~100万であり、より好ましくは
8万~80万であり、さらに好ましくは9万~70万、とりわけ好ましくは9万~50万
である。
【0037】
通常、高分子多糖類の分子量を上記のような手法で算出する場合、10~20%の測定
誤差を生じうる。例えば、40万であれば32~48万、50万であれば40~60万、
100万であれば80~120万程度の範囲で値の変動が生じうる。
【0038】
アルギン酸類の分子量の測定は、常法に従い測定することができる。
分子量測定にゲル浸透クロマトグラフィーを用いる場合の代表的な条件は、本明細書の
実施例1に記載のとおりである。カラムは、例えば、GMPW-XL×2+G2500P
W-XL(7.8mm I.D.×300mm)を用いることができ、溶離液は、例えば
、200mM硝酸ナトリウム水溶液とすることができ、分子量標準としてプルランを用い
ることができる。
【0039】
分子量測定にGPC-MALSを用いる場合の代表的な条件は、本明細書の実施例1に
記載のとおりである。検出器として、例えば、RI検出器と光散乱検出器(MALS)を
用いることができる。
【0040】
本発明で用いられるアルギン酸類の粘度は、特に限定されないが、1w/w%のアルギ
ン酸類の水溶液として粘度を測定した場合、好ましくは、10mPa・s~1000mP
a・s、より好ましくは、50mPa・s~800mPa・sである。
アルギン酸類の水溶液の粘度の測定は、常法に従い測定することができる。例えば、回
転粘度計法の、共軸二重円筒形回転粘度計、単一円筒形回転粘度計(ブルックフィールド
型粘度計)、円すい-平板形回転粘度計(コーンプレート型粘度計)等を用いて測定する
ことができる。好ましくは、日本薬局方(第16版)の粘度測定法に従うことが望ましい
。本発明においては、より好ましくは、コーンプレート型粘度計を用いることが好ましい
。この場合の代表的な測定条件は、本発明の実施例1に記載のとおりである。
【0041】
アルギン酸類は、褐藻類から抽出された当初は、分子量が大きく、粘度が高めだが、熱
による乾燥、精製などの過程で、分子量が小さくなり、粘度は低めとなる。製造工程の温
度等の条件管理、原料とする褐藻類の選択、製造工程における分子量の分画などの手法に
より分子量の異なるアルギン酸類を製造することができる。さらに、異なる分子量あるい
は粘度を持つ別ロットのアルギン酸類と混合することにより、目的とする分子量を有する
アルギン酸類とすることも可能である。
【0042】
本発明で用いられる分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類は、好ましく
は低エンドトキシンの生体内吸収性多糖類である。低エンドトキシンとは、実質的に炎症
、または発熱を惹起しない程度にまでエンドトキシンレベルが低いことをいう。より好ま
しくは、低エンドトキシン処理された生体内吸収性多糖類であることが望ましい。
【0043】
低エンドトキシン処理は、公知の方法またはそれに準じる方法によって行うことができ
る。例えば、ヒアルロン酸ナトリウムを精製する、菅らの方法(例えば、特開平9-32
4001号公報など参照)、β1,3-グルカンを精製する、吉田らの方法(例えば、特
開平8-269102号公報など参照)、アルギネート、ゲランガム等の生体高分子塩を
精製する、ウィリアムらの方法(例えば、特表2002-530440号公報など参照)
、ポリサッカライドを精製する、ジェームスらの方法(例えば、国際公開第93/131
36号パンフレットなど参照)、ルイスらの方法(例えば、米国特許第5589591号
明細書など参照)、アルギネートを精製する、ハーマンフランクらの方法(例えば、Ap
pl Microbiol Biotechnol(1994)40:638-643な
ど参照)等またはこれらに準じる方法によって実施することができる。本発明の低エンド
トキシン処理は、それらに限らず、洗浄、フィルター(エンドトキシン除去フィルターや
帯電したフィルターなど)によるろ過、限外ろ過、カラム(エンドトキシン吸着アフィニ
ティーカラム、ゲルろ過カラム、イオン交換樹脂によるカラムなど)を用いた精製、疎水
性物質、樹脂または活性炭などへの吸着、有機溶媒処理(有機溶媒による抽出、有機溶剤
添加による析出・沈降など)、界面活性剤処理(例えば、特開2005-036036号
公報など参照)など公知の方法によって、あるいはこれらを適宜組合せて実施することが
できる。これらの処理の工程に、遠心分離など公知の方法を適宜組み合わせてもよい。ア
ルギン酸の種類に合わせて適宜選択するのが望ましい。
【0044】
エンドトキシンレベルは、公知の方法で確認することができ、例えば、リムルス試薬(
LAL)による方法、エントスペシー(登録商標)ES-24Sセット(生化学工業株式
会社)を用いる方法などによって測定することができる。
【0045】
本発明に用いられる生体内吸収性多糖類のエンドトキシンの処理方法は特に限定されな
いが、その結果として、生体内吸収性多糖類のエンドトキシン含有量が、リムルス試薬(
LAL)によるエンドトキシン測定を行った場合に、500エンドトキシン単位(EU)
/g以下であることが好ましく、さらに好ましくは、100EU/g以下、とりわけ好ま
しくは、50EU/g以下、特に好ましくは、30EU/g以下である。低エンドトキシ
ン処理されたアルギン酸ナトリウムは、例えば、Sea Matrix(登録商標)(持
田製薬株式会社)、PRONOVATM UP LVG(FMCBioPolymer)
など市販品により入手可能である。
【0046】
3.架橋性試薬
本発明において好ましく用いられる架橋性試薬は、下記の一般式(I)で表される化合
物に包含されるアミン系化合物およびその塩から選択される少なくとも1種である。本明
細書において、下記の一般式(I)で表される化合物は、アミン系化合物(I)という場
合がある。
HN-(CH-NHR (I)
[式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または式:-COCH(NH)-
(CH-NHで表される基を示し、nは2~18の整数を示す。]
具体例としては、例えば、ジアミノエタン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ジアミ
ノペンタン、ジアミノヘキサン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノノナン
、ジアミノデカン、ジアミノドデカン、ジアミノオクタデカンなどのジアミノアルカン類
および/またはそれらの塩、N-(リジル)-ジアミノエタン、N,N’-ジ(リジル)
-ジアミノエタン、N-(リジル)-ジアミノヘキサン、N,N’-ジ(リジル)-ジア
ミノヘキサンなどのモノまたはジ(リジル)ジアミノアルカン類および/またはそれらの
塩などを挙げることができ、これらのジアミンおよびその塩の1種または2種以上を用い
ることができる。
【0047】
そのうちでも、アミン系化合物(I)および/またはその塩としては、上記の一般式(
I)においてnが2~8である化合物および/またはその塩が好ましく用いられる。架橋
性試薬がアミン系化合物(I)の塩からなる場合は、塩を形成する成分としては、N-ヒ
ドロキシコハク酸イミドが好ましく用いられる。
【0048】
アミン系化合物(I)および/またはその塩からなる架橋性試薬としては、特にジアミ
ノエタンの2N-ヒドロキシコハク酸イミド塩、ジアミノヘキサンの2N-ヒドロキシコ
ハク酸イミド塩、N,N’-ジ(リジル)-ジアミノエタンの4N-ヒドロキシコハク酸
イミド塩、N-(リジル)-ジアミノヘキサンの3N-ヒドロキシコハク酸イミド塩など
が、安全性、生体適合性などが一層高く、且つ該架橋性試薬で共有結合架橋して得られる
酸架橋体の神経再生作用が一層良好であることから好ましく用いられる。
【0049】
4.神経再生誘導用材料の作製
以下に、分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類の例として、アルギン酸
類を用いたアルギン酸架橋体を含む神経再生誘導用材料の作製を説明するが、他の多糖類
についても下記に準じて作製することができる。
【0050】
本発明のキセロゲル状のアルギン酸架橋体は、例えば、アルギン酸類の水性溶液と、前
記架橋性試薬と、水溶性カルボジイミド等の脱水縮合剤とを混合して溶解し、型に流し入
れてゲル化させ、ゲルを洗浄後、凍結乾燥して得ることができる。
【0051】
架橋反応の温度は、通常4℃~37℃の範囲で行いうるが、反応効率の点から20℃~
30℃の範囲で行うことが好ましい。
【0052】
神経再生誘導用材料が、アルギン酸架橋体の他に他の成分を含む場合には、他の成分を
含有させる工程の順は特に限定されず、例えば、他の成分を含有させる工程は、凍結乾燥
前でも凍結乾燥後であってもよい。
【0053】
本発明の態様のひとつでは、本発明の神経再生誘導用材料は、望ましくは、キセロゲル
の形態である。キセロゲルとは、ゲルが乾燥した状態ものをいう。ゲルは立体的な網目構
造の中に水などの溶媒を含んだものであるが、キセロゲルは、溶媒を失って網目だけにな
ったものをいう。本明細書において、キセロゲルは「スポンジ」という場合もある。
【0054】
アルギン酸類の溶液は、公知の方法またはそれに準じる方法により調製することができ
る。溶媒は、生体へ適用可能な溶媒であれば特に限定されないが、好ましくは水性溶媒で
あり、例えば、精製水、蒸留水、イオン交換水、ミリQ水、生理食塩水、リン酸緩衝生理
食塩水、DMSOなどが好ましい。これらは、滅菌されていることが好ましく、低エンド
トキシン処理されたものが好ましい。
【0055】
架橋率は、用いる架橋性試薬のモル比および架橋反応時間で制御することができる。架
橋率を低くすると柔軟で含水率の高い架橋体が得られ、架橋率を高くすると強固で含水率
が低くなる。架橋率は、架橋体の用途により適宜選択されうる。
【0056】
用いられる架橋性試薬のモル比は、特に限定されないが、好ましくは、アルギン酸類が
有するカルボキシル基の総和に対して1モル%~50モル%の範囲であり、より好ましく
は5モル%~40モル%の範囲である。
【0057】
架橋反応時間については、架橋反応は時間とともに進行するので、高い架橋率が必要な
場合は反応時間を長くすることができる。反応時間は、通常6時間~96時間の範囲であ
り、反応効率の点で24時間~72時間の範囲であることが好ましい。
【0058】
また、架橋反応は、アルギン酸類の溶液濃度が低すぎると、十分な機械的強度を有する
架橋体が得られず、また濃度が高すぎるとアルギン酸類の溶解に時間がかかり、かつ得ら
れる架橋体の含水率が低くかつ硬くなり好ましくない。従って、アルギン酸類の溶液の濃
度は、0.1%~5%の範囲にあることが好ましく、0.5%~3%の範囲にあることが
さらに好ましい。
【0059】
架橋反応によって得られた架橋体は、それ自身でも実用的な強度と安定性を示すが、用
途によりさらにイオン結合架橋、疎水結合架橋などの他のゲル化方法と併用してもよい。
【0060】
本発明のいくつかの態様では、本発明の神経再生誘導用材料が、アルギン酸、そのエス
テルおよびその塩からなる群から選択される少なくとも1種(アルギン酸類)を含む場合
、該材料1cmあたりのアルギン酸類の含量は、アルギン酸ナトリウムに換算して、0
.2mg/cm~12mg/cmであることが好ましく、より好ましくは0.5mg
/cm~7mg/cmであり、さらに好ましくは、1mg/cm~6mg/cm
であり、とりわけ好ましくは、1mg/cm~5mg/cmである。本明細書におい
て、「アルギン酸含量」の語は、該材料に含まれるアルギン酸類の量をアルギン酸ナトリ
ウムの量に換算した値を表す。
【0061】
本発明の好ましい態様のひとつとして、本発明の神経再生誘導用材料は、分子内にカル
ボキシル基を有する生体内吸収性多糖類の他に、例えば、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、
およびそれらの共重合体、並びにポリカプロラクトンなどの生体内吸収性高分子を1種又
は2種以上含んでいてもよい。ポリグリコール酸とポリ乳酸との共重合体(本明細書にお
いて「PLGA」ともいう)は、例えばポリグラクチン等として知られている。これらの
高分子は、縫合糸の材料等として使用されており、生体吸収性を有し、生体適合性に優れ
る。これらの生体内吸収性高分子の形態は、特に限定されないが、好ましくは、不織布、
織布、メッシュ、又はニードルパンチなどを用いることができ、より好ましくは不織布、
メッシュ、又はニードルパンチの形態で用いられる。例えば、シート状の不織布の生体内
吸収性高分子をトレイに敷き、生体内吸収性多糖類と架橋剤等を溶解した溶液をそのトレ
イに充填し、ゲル化させてもよい。本発明の神経再生誘導用材料における、分子内にカル
ボキシル基を有する生体内吸収性多糖類と生体内吸収性高分子との配置は特に限定されな
い。分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類の層と生体内吸収性高分子の層
とを積層したり、生体内吸収性高分子の2層の間に分子内にカルボキシル基を有する生体
内吸収性多糖類の層を挟んだり、あるいは、1層に両者が混在していてもよい。本明細書
の実施例5-(4)において、本発明のアルギン酸架橋体がPGA含有の有無に関わらず
、神経再生誘導作用を発揮したことから、PGA以外の材料もPGAに替えて同様に使用
することが可能である。これらの生体内吸収性高分子は、架橋体の強度を高め、神経再生
誘導用材料の取扱性を向上させることができる。本明細書の実施例7では、PGAを用い
て作製された架橋体と同程度の含量のPLGAを用いて作製された架橋体とは同様の分解
性を示したことから、これらの生体内吸収性高分子は、本発明において同様に使用できる
ことが示唆された。本発明の一態様では、好ましくは、本発明の神経再生誘導用材料に用
いる生体内吸収性高分子は、ポリグリコール酸を含有する高分子であり、好ましくは、ポ
リグリコール酸および/またはポリグリコール酸とポリ乳酸との共重合体(PLGA)で
あることも望ましい。
【0062】
本発明の好ましい態様のひとつでは、本発明の神経再生誘導材は、0.05mg/cm
~30mg/cmの生体内吸収性高分子を含有してもよく、より好ましくは、0.1
mg/cm~10mg/cmであり、さらに好ましくは、0.5mg/cm~7m
g/cmであり、とりわけ好ましくは、1mg/cm~5mg/cmであってもよ
い。本発明の神経再生誘導材がこれらの生体内吸収性高分子を含有することにより、縫合
もできる強度を備え、凍結乾燥による材料の変形を防ぎ、製造効率も高めることができる
。また、本明細書の実施例において、これらの生体内吸収性高分子を含有した神経再生誘
導材が、生体内吸収性高分子を含有しない材料と比較して、神経損傷の再生不十分な例が
少ない傾向がみられたことから、生体内吸収性高分子を含有させることにより架橋体の強
度が高まり、膝などの可動部においても架橋体が破断しにくく、安定的に軸索を再生させ
得る可能性が示唆された。
【0063】
本発明のいくつかの態様のひとつとして、神経再生誘導用材料は、その他の多糖類や高
分子を、本発明の神経再生誘導用材料の効果を妨げない範囲で含有してもよい。中でも、
ヘパリンは、ヘパリン結合性の成長因子の徐放などの効果が確認されているため、本発明
の神経再生誘導用材料はヘパリンを含有することもできる。なお、本発明のいくつかの態
様では、神経再生誘導用材料はヘパリンを含まない。
【0064】
また、本発明のいくつかの態様のひとつとして、神経再生誘導用材料は、神経の成長に
有用な因子を含んでいてもよい。神経の成長に有用な因子とは、例えば、塩基性線維芽細
胞増殖因子(bFGF)、神経成長因子(NGF)等が挙げられるがこれらに限定されな
い。しかしながら、本発明の神経再生誘導用材料は、神経の成長に有用な因子を含まない
場合でも神経再生の誘導効果を発揮することができる。本発明のいくつかの態様では、神
経再生誘導用材料はこれらの因子を含まない。
【0065】
架橋反応により得られたアルギン酸架橋体を含む材料は、通常、洗浄液により未反応の
試薬や脱水縮合剤を除去し、精製することができる。洗浄液は、特に限定されないが、例
えば、水、ECF(Extra Cellular Fluid)等を用いることができ
る。ECFは、精製水にCaCl(2.5mM)とNaCl(143mM)を溶解して
作製しうる。ECFは、必要に応じて滅菌用のフィルターを通じた後に用いられてもよい
。アルギン酸架橋体を含む材料をECFで洗浄した後は、残存するカルシウムを除去する
ため、水で洗浄することが好ましい。本発明の神経再生誘導用材料は、凍結乾燥する前の
ゲル状の状態で用いられてもよい。
【0066】
アルギン酸架橋体の凍結乾燥は、当業者に知られた技術常識を用いて実施しうる。凍結
乾燥の条件は適宜調節可能であり、一次乾燥工程、二次乾燥工程等を設けてもよい。
【0067】
本発明のいくつかの態様のひとつでは、本発明の神経再生誘導用材料の形状は特に限定
されず、適用する神経の損傷部の範囲などを考慮し適宜選択することができる。例えば、
キセロゲル状の形態のとき、非管状(例えば、平板状、湾曲状、凹凸のある平板状など)
、および管状の形状をとることができるが、好ましくは非管状であり、より好ましくは、
平板状である。神経再生誘導用材料が平板状のとき、神経の損傷部の範囲に合わせて神経
再生誘導用材料をさらに切断して損傷部に適用することができるため、平板のサイズは特
に限定されない。例えば、平板状の形状を、縦×横×高さ(厚さ)で表すと、縦と横の長
さは特に限定されず、高さ(厚さ)は、好ましくは0.2mm~30mmであり、より好
ましくは0.3mm~15mm、さらに好ましくは0.5mm~10mmであり、とりわ
け好ましくは1mm~10mmである。さらに好ましくは、そのような高さ(厚さ)であ
ることに加えて、縦と横の長さは、それぞれ、1mm~300mmx1mm~300mm
であり、特に好ましくは、3mm~200mmx3mm~200mmであり、さらに好ま
しくは、5mm~150mmx5mm~150mmである。なお、厚さは均一でなくても
良く、一方が厚くて他方が薄い、傾斜構造であってもよい。
【0068】
本発明のいくつかの態様のひとつでは、神経再生誘導用材料は、滅菌処理がなされてい
ることが好ましい。滅菌は、γ線滅菌、電子線滅菌、エチレンオキシドガス滅菌、エタノ
ール滅菌等が挙げられ、これらに限定されない。本発明のいくつかの態様では、架橋体に
電子線やγ線が照射されるため、滅菌効果も得ることができる。
【0069】
5.電子線及び/又はγ線照射された神経再生誘導用材料
本発明のいくつかの態様では、低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生
体内吸収性多糖類が、上述のアミン系化合物(I)および/またはその塩で共有結合架橋
され、電子線及び/又はγ線が照射された架橋体を含む、神経再生誘導用材料を提供する
。この態様において、電子線及び/又はγ線を照射する対象は、生体吸収性多糖類が前記
架橋剤で共有結合された架橋体のみでもよいし、神経再生誘導用材料が生体内吸収性高分
子や神経成長因子など他の成分を含む場合には、他の成分を含む架橋体であってもよい。
また、他の成分は、電子線及び/又はγ線を照射した後の架橋体に含ませることもできる
【0070】
電子線は、放射線の中の電荷を持った粒子線のひとつであり、滅菌などの目的で使用さ
れる。電子線は電子加速器などを用いて照射可能である。電子線は、物質を透過するので
複雑な形状や閉塞部の滅菌処理も可能であり、処理後の残留物等の心配がないのが特徴で
ある。電子線の線量には、電圧、電流、照射時間(被照射物の搬送速度)等のファクター
が関係する。電子線は、γ線と比較して浸透力が弱いため、必要な浸透力をコントロール
することが可能である。線量率(時間当りの線量)はγ線に比べ5,000~10,000倍と高く
、短時間(数秒~分)での処理が可能となる。
【0071】
γ線は、放射線の中の電磁波のひとつであり、滅菌などの目的で使用される。γ線は放
射線源の露出装置などを用いて照射可能である。γ線は透過性が強く、γ線の線量は、熱
源強度、熱源からの距離及び照射時間等のファクターが関係し、処理時間は数時間かかる
ため、被照射物の劣化が比較的大きい。
【0072】
本発明においては、電子線とγ線をいずれも使用可能であるが、照射線量を一定に制御
しやすいこと、被照射物に均一な線量を照射しやすいこと、γ線の放射線源コバルト60
の廃棄物処理等の観点から、より好ましくは電子線を用いることが望ましい。
【0073】
本発明のいくつかの態様のひとつでは、本発明の神経再生誘導用材料は、電子線及び/
又はγ線が1kGy~100kGyの吸収線量で照射されていることが好ましく、より好
ましくは、3kGy~60kGyであり、さらに好ましくは、5kGy~40kGyであ
り、とりわけ好ましくは、5kGy~25kGy、またさらに好ましくは、10kGy~
24kGyである。
【0074】
本発明のいくつかの態様の、電子線及び/又はγ線が照射された神経再生誘導用材料は
、照射されていない材料と比較して、体内の適用部位から消失するまでの時間が短い、言
い換えると、体内残存時間が短いという特徴を有する。「適用部位からの消失」とは、適
用部位に架橋体を置き、一定時間後に適用部位を観察したとき、肉眼による観察で架橋体
が視認できないことをいう。このときの体内の適用部位は、神経損傷部位であることが好
ましいが、例えば、ラット等の動物で皮下又は筋肉内での埋植試験等を行い、適用部位か
らの消失を確認してもよい。
【0075】
このような電子線及び/又はγ線が照射された神経再生誘導用材料は、照射されていな
い材料と比較して、神経再生誘導効果が高いという特徴を有する。
【0076】
本発明のいくつかの態様では、本発明の神経再生誘導用材料は、適用部位からの消失が
7日~270日であることが好ましく、より好ましくは14日~180日であり、さらに
好ましくは14日~150日であり、とりわけ好ましくは14日~120日である。また
、本発明の態様のひとつでは、本発明の神経再生誘導用材料は、本明細書の実施例6の記
載に従い、該材料を縦0.7cm×横1.5cm(厚さは問わない)のサイズとしてラッ
ト皮下埋植試験を行い、埋植から4週後に、埋植部位の組織染色による評価を行ったとき
、材料の少なくとも一部の残存がみられることが望ましい。
【0077】
本発明の別の態様では、本発明の神経再生誘導用材料は、本明細書の実施例7の記載に
従い、該材料を縦1cm×横1cmのサイズ(厚さは問わない)となるように裁断した該
材料4個と生理食塩水25mLを、50mLの容遠沈管に入れて、恒温振とう水槽で、振
とう数を往復120回/分、温度50℃で振とうする、該材料の分解性試験を行うとき、
振とう開始から72時間後の材料の残存率が10%~80%であることが望ましく、より
好ましくは、20%~80%である。ここでの「残存率」とは、分解性試験を開始する前
の材料の質量に対する、一定時間の分解性試験実施後の材料を恒量になるまで減圧乾燥(
60℃)した後の材料の質量の割合をいう。また、材料の裁断面の縦と横とは垂直に交わ
るものとする。このとき材料の厚さは、試験対象とする材料の厚さのまま用いるが、標準
的には約1mm~約10mmの厚さであることが望ましい。
【0078】
また、本発明の一態様では、本発明の神経再生誘導用材料は、前記分解性試験において
、開始から72時間後の残存率が、開始から4時間後の残存率と比較して低下を示すこと
が好ましい。本発明の実施例では、エタノール滅菌したアルギン酸架橋体が神経再生誘導
効果が十分ではないことが分かったが、これと同組成の架橋体は、実施例7の分解性試験
では、開始から72時間後も残存率は100%を超えていた。
また、本発明の一態様では、本発明の神経再生誘導用材料は、前記分解性試験において
、開始から4時間後の残存率が55%以上であり、より望ましくは60%以上であること
が望ましい。本明細書の実施例において、電子線を40kGy、60kGyと高い線量で
照射した架橋体は神経再生効果が十分ではないことが分かったが、これは、高い電子線量
を照射した架橋体が分解性試験の開始直後(4時間後)に残存率が低下したことに示され
るように、架橋体を損傷部に設置した当初から架橋体が消失してしまい、神経の足場とし
ての役目を果たせなかったことに起因すると考えられた。
本発明の一態様では、本発明の神経再生誘導用材料は、前記分解性試験において、開始
から4時間後の残存率は55%以上であり、その後残存率が低下し、開始から72時間後
には残存率が10%~80%を示すことが望ましい。
【0079】
本発明の一態様では、本発明の神経再生誘導用材料は、以下に記載の引き裂き試験(実
施例10に記載の引き裂き試験)を行ったとき、最大試験力が0.10(N)~10.0
(N)であることが好ましく、より好ましくは0.10(N)~5.0(N)である。
本発明における引き裂き試験は、次のように実施する。対象とする材料は、縦2cm×
横2cmのサイズ(厚さは問わない)となるように裁断する。ここで縦と横の裁断面は垂
直に交わるものとする。このとき材料の厚さは、材料自体の引き裂き強度をみる試験であ
るため、試験対象とする材料の厚さのまま用いるが、標準的には約1mm~約10mmの
厚さであることが望ましい。該材料の裁断面の1つから5mm離れた位置で該材料を挟む
ようにダブルクリップで把持する(把持部A)。該材料の把持部Aに相対する裁断面(B
)から10mmまでの領域を生理食塩水に15分間浸漬する。該材料の裁断面(B)から
5mm離れた位置の中央部に針付き縫合糸を貫通させて、縫合糸の両端を器具に固定する
。把持部Aを、材料の正方形面に水平に、速度10mm/分で、該材料が裂けるまで引っ
張り、この引っ張る荷重を試験力(N)として測定する。試験力の最大点を最大試験力(
N)とする。引っ張り荷重の測定は、小型物性試験機(EZ-graph,島津製作所製)を用い
て行うことが望ましいが、入手できない場合には、これに類する荷重測定機械を用いても
よい。
把持部Aに使用するダブルクリップの大きさは、把持部の幅が15mm~19mmであ
ることが望ましい。試験に用いる縫合糸は「バイクリル(登録商標)」、糸の太さは「4
-0」を用いることが好ましいが、入手できない場合には、材質が、ポリグラクチン91
0(グリコール酸/乳酸ポリエステル:90/10)であり、糸の太さが4-0である縫
合糸を用いてもよい。針は、丸針SH-1を用いることが好ましいが、入手できない場合
には、これと類似の縫合糸に合う針を用いてもよい。
好ましくは、材料の最大試験力を求める場合には、材料を裁断し、n=3~10で試験
力を測定し、その最大試験力の平均値を求め、該材料の最大試験力とすることが望ましい
【0080】
本発明はまた、低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖
類が、上述のアミン系化合物(I)および/またはその塩で共有結合架橋された架橋体を
含む神経再生誘導用材料に対して、電子線及び/又はγ線を照射する工程を少なくとも含
む、神経再生誘導用材料の体内残存時間を調節する方法を提供する。本発明はまた、(A
)低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類が、上記の一
般式(I)で表される化合物およびその塩から選択される少なくとも1種の架橋性試薬で
共有結合架橋された架橋体、並びに(B)生体内吸収性高分子を含む架橋体に対して、電
子線および/またはγ線を照射する工程を少なくとも含む神経再生誘導用材料の体内残存
時間を調節する方法を提供する。本発明の材料の体内残存時間を短くするには、電子線及
び/又はγ線の照射線量を高くする、逆に、体内残存時間を長くするには電子線及び/又
はγ線の照射線量を低くすることにより、神経再生誘導用材料の体内残存時間を調節する
ことができる。
【0081】
本発明はまた、低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖
類と、アミン系化合物(I)及び/又はその塩とを用いて共有結合架橋した架橋体を含む
材料に対して電子線及び/又はγ線を照射する工程を少なくとも含む、神経再生誘導用材
料を製造する方法を提供する。「架橋体を含む材料」は、分子内にカルボキシル基を有す
る生体内吸収性多糖類で作製された架橋体の他に、任意で、前述の生体内吸収性高分子や
神経の成長に有用な因子などの他の成分を含んでいてもよい。具体的な好ましい態様は前
述のとおりである。
【0082】
本発明はまた、少なくとも以下の工程を含む神経再生誘導用材料を製造する方法を提供
する。
(1)低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類を含む溶
液と、上記の一般式(I)で表される化合物およびその塩から選択される少なくとも1種
の架橋性試薬とを混合する工程、
(2)(1)で得られた混合物と、生体内吸収性高分子とを型に入れて一定時間静置し、
架橋体とする工程、
(3)(2)で得られた架橋体を洗浄し、その後、凍結乾燥する工程、
(4)(3)で得られた架橋体に対して、電子線および/またはγ線を照射する工程。
この製造方法の好ましい態様は、本明細書に記載のとおりである。
【0083】
6.使用方法
本発明のいくつかの態様では、神経再生誘導用材料は、外傷や腫瘍切除等により生じた
神経の損傷部に適用して、神経の再生および/または再建を誘導する。本発明の神経再生
誘導用材料は、通常神経再建に必要な数ヶ月後に吸収分解され、最終的には代謝・排出さ
れてなくなるため、安全性に優れる。
【0084】
本発明において、「神経の損傷」とは、神経の連続性が失われた状態(欠損)及び、神
経の連続性は保たれているが神経機能が損なわれている状態を含み、断裂等も含む。本明
細書において、「欠損部」は、「ギャップ」「切断部」などという場合があり、また「断
裂」も含む。
【0085】
神経の損傷は、例えば、外傷、腫瘍切除、リンパ節の郭清、中枢神経や末梢神経系の疾
患等が原因で生じるが、本発明では、神経の損傷の発生原因は問わない。例えば、神経縫
合術あるいは自家神経移植時において、神経と神経が接合された部位では、縫合糸のかか
っていない箇所は隙間ができている状態となりえるので、このような部位に対して神経再
生誘導用材料を適用することもできる。また例えば、様々な要因から欠損・脱落・切除し
た組織を再建するときの神経損傷部の再生のためにも用いることができる。
【0086】
本発明において「適用する」とは、神経再生誘導用材料を神経の損傷部に置くことをい
う。神経の損傷部が欠損部である場合には、神経再生誘導用材料と神経の断端部との接触
は必須ではないが、好ましくは、神経再生誘導用材料が欠損した神経の断端部に接触する
ように本発明の材料を置くことが望ましく、より好ましくは、神経再生誘導用材料と神経
の断端部が重なるように本発明の材料を置くことが望ましい。神経の断端部が視認できな
い場合等では、必ずしも神経再生誘導用材料と神経の断端部とを接触させなくてもよい。
【0087】
神経再生誘導用材料の適用は、例えば、再建すべき神経の両端部に対して神経再生誘導
用材料を一方向から接触させるように置いてもよいし、また例えば、神経再生誘導用材料
により神経の両端部を手術部位の状態によって上下または左右に挟むようにしてもよいし
、また例えば、神経の両端部の周囲全体を神経再生誘導用材料で覆うように置いてもよい
【0088】
神経再生誘導用材料が非管状のときは、管状の材料と比較して、神経軸索伸長に必要な
栄養や酸素が供給されやすく、一方で、組織修復に働く線維組織の侵入を防止するため、
神経軸索伸長に有利であり、好ましくは非管状であり、より好ましくは平板状である。こ
の場合、組織修復に働く線維組織は瘢痕化によって、正常な組織修復を損なうものである
。本明細書の実施例8において、本発明のアルギン酸架橋体は、コラーゲンスポンジと比
較して、線維芽細胞の接着、増殖を抑制する効果が示されており、神経再生誘導用材料と
して好ましい性能を備えることが見出された。
【0089】
本発明において「神経の再生の誘導」とは、神経細胞の増殖及び/又は神経軸索の伸長
を促すことをいう。神経の損傷部が欠損部である場合には、神経の連続性を回復するよう
に神経軸索の伸長を促すことをいう。神経に損傷や挫滅などによる欠損が生じると、欠損
部から末梢側(切断端部から遠位)の神経軸索は神経細胞体からの連続性が断たれるため
変性(末梢神経ではWaller変性という)が生じ、神経機能が失われる。欠損部から
以遠の変性した神経軸索は遺残物としてマクロファージなどに貪食される。その後、中枢
側断端から発芽した多数の神経軸索が末梢断端側まで伸長する。好ましくは、中枢側から
伸長した軸索が末梢側の断端部につながることが望ましい。あるいは、神経の再生の誘導
は、失われた神経機能や知覚を少なくとも一部回復することにより示すこともできる。本
発明における神経の再生の誘導とは、必ずしも損傷前の状態に完全に回復することを意味
するものではない。本発明の神経再生誘導用材料は、前記のいずれか1以上の効果を達成
することが好ましい。
【0090】
本発明の神経再生誘導用材料の使用方法は、対象の再建すべき神経部位を露出させ、再
建すべき神経の長さや幅に応じて、適当な大きさの神経再生誘導用材料とし、再建すべき
神経の損傷部に適用する。「対象」は、ヒト、またはヒト以外の生物、例えば、トリおよ
び非ヒト哺乳動物(例えば、ウシ、サル、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスタ
ー、ブタ、イヌ、ウサギ、ヒツジ、およびウマ)である。
【0091】
管状の材料は、適用部位の神経の太さに応じて管状材料の太さを合わせる必要があるが
、平板状であればその必要はなく、損傷部の大きさに合わせて材料を切断して適用するこ
とができる。
【0092】
神経再生誘導用材料がキセロゲル状のときは、そのまま乾燥状態で適用してもよいし、
生理食塩水あるいは精製水等を含ませた後にゲル状の状態で適用してもよい。すなわち、
本発明の神経再生誘導用材料はゲル状の形態であってもよい。
【0093】
神経再生誘導用材料を神経損傷部に適用した後、神経再生誘導用材料と神経の損傷部の
縫合は必要ないが、必要に応じて、神経再生誘導用材料と神経の損傷部(例えば、神経断
端部など)を縫合してもよい。
【0094】
本発明のいくつかの態様では、神経再生誘導用材料は、神経の分岐部及び/又は神経叢
部の損傷部に適用される。神経叢とは、神経集網ともいい、分岐した神経が網目状構造を
作っている部分をいう。本発明の神経再生誘導用材料は、神経の分岐部及び/又は神経叢
の損傷部に好ましく適用され、例えば、前立腺、膀胱、陰茎海綿体、腕、四肢、脳、脊髄
、顔面、頸、腰、仙骨、腰仙骨、陰部、心臓、腹腔、下下腹、骨盤、胸腔内、腸壁内など
に適用可能である。
【0095】
本発明のいくつかの態様では、神経再生誘導用材料が適用可能な部位は、神経の損傷部
であれば特に限定されない。末梢神経及び/又は中枢神経の損傷部の再生誘導のために用
いることができ、直線状の神経、神経の分岐部及び/又は神経叢部の損傷部などに適用可
能である。中枢神経であれば、例えば、脳や脊髄の損傷部が挙げられる。
【0096】
本発明のいくつかの態様では、本発明の神経再生誘導用材料は、神経の再生あるいは成
長に有用な因子、生理活性物質などの液性因子、あるいは細胞と併用して用いられてもよ
い。併用する方法は特に限定されないが、例えば、本発明の神経再生誘導用材料に、これ
らの因子や細胞を含有させてもよい。液性因子としては、再生組織に対して補助的に用い
ることができる因子であれば特に限定されないが、例えば、bFGF、NGF、肝細胞増
殖因子、免疫抑制剤、抗炎症剤などが挙げられる。細胞としては、例えば、自家または他
家培養による間葉系幹細胞、骨髄間葉系幹細胞、神経幹細胞、骨髄由来単核球細胞、脂肪
由来幹細胞、生体内多能性幹細胞、ES細胞、神経系前駆細胞、iPS細胞、CD133+細
胞などが挙げられるがこれらに限定されない。本発明の別の態様では、本発明の神経再生
誘導用材料は、これらの細胞や因子と併用されない態様も好ましく、より好ましくは、C
D133+細胞と併用されない。
【0097】
神経の再生の評価方法は、特に限定されないが、例えば、神経軸索の伸長は、本明細書
の実施例4及び5に記載のとおり、光学顕微鏡下、対象部位の軸索伸長を観察したり、常
法に従い、神経をエポン樹脂で包埋し、トルイジンブルー、抗ベータチューブリンクラス
3抗体、又は抗S100抗体などの試薬で染色する等して、ギャップの間又は末梢側断端
部に到達した有髄軸索の数を数える等により示すことができる。エポン樹脂など適切な方
法で包埋したあと、透過電子顕微鏡(TEM)または走査電子顕微鏡(SEM)で再生軸索の状態を
観察して評価することも可能である。
【0098】
また例えば、電気生理学的測定(electrophysiological measurement)、組織病理学的
評価(histopathological evaluation)、歩行パターン(walking pattern)、 軸索輸送
を調べるためのトレーサー試験(tracer detective study for axoplasmic transport)
、二点識別覚検査(Two-point discrimination)などにより評価されてもよい。
【0099】
電気生理学的測定は、例えば、運動神経機能の回復の指標としてCMAP(compound m
uscle action potentials)、感覚神経機能の回復の指標として、SEP(somatosensory
evoked potentials)などを用いることができる(例えば、Journal of Materials Scien
ce: Materials in medicine 16 (2005) p.503-509参照)。
【0100】
本発明は、また、前述の神経再生誘導用材料を神経の損傷部に適用する工程を含む、神
経の損傷部の再生を必要とする対象において神経の損傷部の再生を誘導する方法を提供す
る。本発明はまた、前述の神経再生誘導用材料を神経の分岐部及び/又は神経叢部の損傷
部に適用する工程を含む、神経の分岐部及び/又は神経叢部の損傷部の再生を必要とする
対象において、神経の分岐部及び/又は神経叢部の損傷部の再生を誘導する方法を提供す
る。具体的な方法は、前述の記載のとおりである。
【0101】
本発明は、さらに、前述の神経再生誘導用材料を製造するための、低エンドトキシンの
分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類及び/又は上記の一般式(I)で表
される化合物およびその塩から選択される少なくとも1種の架橋性試薬の使用であって、
前記神経再生誘導用材料が神経の損傷部、好ましくは、神経の分岐部及び/又は神経叢部
の損傷部に適用するように用いられる、前記使用を提供する。具体的な使用は、前述の通
りである。
【0102】
本発明は、さらに、低エンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性
多糖類が、上記の一般式(I)で表される化合物及びその塩から選択される架橋性試薬で
共有結合架橋された架橋体を含む神経再生誘導用材料を用いる、神経の損傷部、好ましく
は、神経の分岐部及び/又は神経叢部の損傷部の再生において使用されるための前記低エ
ンドトキシンの分子内にカルボキシル基を有する生体内吸収性多糖類を提供する。
【0103】
次に、実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定され
るものではない。
【実施例
【0104】
実施例1 アルギン酸架橋体の作製と性状の評価
アルギン酸ナトリウムと、架橋剤として(i)塩化カルシウム、(ii)塩化カルシウ
ムと塩化ナトリウムの混合物、(iii)エチレンジアミンをそれぞれ用いて、キセロゲ
ルの形態のアルギン酸架橋体を作製し、性状を評価した。
【0105】
1-(1)アルギン酸ナトリウム
アルギン酸ナトリウムは、いずれもエンドトキシン含量は50EU/g未満の低エンド
トキシンのアルギン酸ナトリウム(Sea Matrix(登録商標)発売元 持田製薬
株式会社)6種を用いた。
【0106】
A-1、A-2およびA-3は、アルギン酸ナトリウムのM/G比が0.4~1.8の
範囲であり、B-1、B-2およびB-3は、アルギン酸ナトリウムのM/G比が0.1
~0.4の範囲であった。
【0107】
各アルギン酸ナトリウムの1w/w%の水溶液の粘度および重量平均分子量を表1に示
した。
【0108】
アルギン酸ナトリウムの粘度測定は、日本薬局方(第16版)の粘度測定法に従い、回
転粘度計法(コーンプレート型回転粘度計)を用いて測定した。具体的な測定条件は以下
のとおりである。試料溶液の調製は、MilliQ水を用いて行った。測定機器は、コーンプレ
ート型回転粘度計(粘度粘弾性測定装置レオストレスRS600(Thermo Haake GmbH)センサ
ー:35/1)を用いた。回転数は、1w/w%アルギン酸ナトリウム溶液測定時は1r
pmとした。読み取り時間は、2分間測定し、開始1分から2分までの平均値とした。3
回の測定の平均値を測定値とした。測定温度は20℃とした。
【0109】
各アルギン酸ナトリウムの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)
と、GPC-MALSの2種類の測定法で測定した。測定条件は以下のとおりである。
【0110】
[前処理方法]
試料に溶離液を加え溶解後、0.45μmメンブランフィルターろ過したものを測定溶
液とした。
(1)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定
[測定条件(相対分子量分布測定)]
カラム:TSKgel GMPW-XL×2+G2500PW-XL(7.8mm I
.D.×300mm×3本)
溶離液:200mM硝酸ナトリウム水溶液
流量:1.0mL/min
濃度:0.05%
検出器:RI検出器
カラム温度:40℃
注入量:200μL
分子量標準:標準プルラン、グルコース
【0111】
(2)GPC-MALS測定
[屈折率増分(dn/dc)測定(測定条件)]
示唆屈折率計:Optilab T-rEX
測定波長:658nm
測定温度:40℃
溶媒:200mM硝酸ナトリウム水溶液
試料濃度:0.5~2.5mg/mL(5濃度)
【0112】
[測定条件(絶対分子量分布測定)]
カラム:TSKgel GMPW-XL×2+G2500PW-XL(7.8mm I
.D.×300mm×3本)
溶離液:200mM硝酸ナトリウム水溶液
流量:1.0mL/min
濃度:0.05%
検出器:RI検出器、光散乱検出器(MALS)
カラム温度:40℃
注入量:200μL
【0113】
【表1】
【0114】
1-(2)塩化カルシウムを架橋剤としたアルギン酸架橋体の作製
以下の作業は、特に断らない限り、室温環境下(20~30℃)で実施した。表1中の
各低エンドトキシンアルギン酸ナトリウム凍結乾燥品をミリQ水で溶解して1w/vol%ア
ルギン酸ナトリウム水溶液とした。塩化カルシウム無水物をミリQ水で溶解して50mM
塩化カルシウム水溶液とした。アルギン酸ナトリウム水溶液1mLを入れたチューブ(Falco
n2054)に50mM塩化カルシウム水溶液1mLを重層して終夜静置した後、ゲル化したものにつ
いてはミリQ水で3回洗浄し、凍結乾燥して、キセロゲル状のアルギン酸架橋体を得た。
【0115】
1-(3)塩化カルシウムと塩化ナトリウムを架橋剤としたアルギン酸架橋体の作製
表1中の各低エンドトキシンアルギン酸ナトリウム凍結乾燥品をミリQ水で溶解して1
w/vol%アルギン酸ナトリウム水溶液とした。塩化カルシウム無水物と塩化ナトリウム
をミリQ水で溶解し、カルシウムイオン4mMとナトリウムイオン300mM含む水溶液
を作製した(カルシウム-ナトリウム架橋剤水溶液)。アルギン酸ナトリウム水溶液1mL
を入れたチューブ(Falcon2054)にカルシウム-ナトリウム架橋剤水溶液1mLを重層して終
夜静置した後、ゲル化したものについてはミリQ水で3回洗浄し、凍結乾燥し、キセロゲル
状のアルギン酸架橋体を得た。
【0116】
別途、カルシウム-ナトリウム架橋剤水溶液のカルシウムイオンを10mM、20mM
、又は50mMとした架橋剤水溶液を作製し、A-1又はA-2のアルギン酸ナトリウム
を用いて、同様の手順でアルギン酸架橋体を得た。
【0117】
1-(4)エチレンジアミンを架橋剤として用いたアルギン酸架橋体の作製
N-ヒドロキシコハク酸イミド23gをメタノール1000mlに溶解した。エチレンジ
アミン6.7mlを100mlのメタノールに溶解して、N-ヒドロキシコハク酸イミドの
溶液へ添加し混合した。生じた結晶をグラスフィルター上に濾取し、乾燥させて、約27
.0gのエチレンジアミン2N-ヒドロキシコハク酸イミド塩(EDA・2HOSu)を得た。
【0118】
表1中の各低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムをミリQ水に溶解して得た、1w/v
ol%のアルギン酸ナトリウム水溶液1mlに、EDA・2HOSu2.2mgと、1-エチル-3-(3-ジ
メチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)16mgを加えて溶解した。
【0119】
混合物をFalcon2054チューブ中で、室温で2日間静置し、ゲル化させた。ゲルをECFで3
回/日×約7日間、次いでミリQ水で3回洗浄後、凍結乾燥し、キセロゲル状のアルギン酸架
橋体を得た。ECF(Extra Cellular Fluid)は、精製水にCaCl2(2.5mM)とNaCl(143mM)を溶解
し、滅菌フィルター及びエンドトキシン除去フィルターを通じたものを用いた。
【0120】
1-(5)アルギン酸架橋体の評価
上記1-(2)~1-(4)で得られたアルギン酸架橋体をゲル化、多孔性、及びPB
S(Phosphate buffered saline)中の残存性の観点から評価した。
ゲル化は、転倒法にて目視観察し、全ての溶液がゲル化した場合を3点、約半分の溶液
がゲル化した場合を2点、ほとんどの溶液がゲル化しなかった場合を1点とした。
多孔性は、アルギン酸架橋体の断面を走査型電子顕微鏡を用いて、金コーティング後に
、100倍で(加速電圧15kV)測定し、100μm~500μmの均一な細孔を有している場合を3
点、不規則な大きさの細孔を有している場合を2点、細孔を有していない場合を1点とし
た。
PBS中のゲル残存性試験は、各ゲル約5mm角をPBS5ml中に入れ、37℃、1週
間後のゲルの状態を観察し、ほとんど全てが残存している場合を3点、およそ半分程度が
残存している場合を2点、ほとんど全てが溶解した場合を1点とした。
【0121】
その結果、(i)塩化カルシウムを架橋剤とした架橋体、及び、(ii)塩化カルシウ
ムと塩化ナトリウムの混合物を架橋剤とした架橋体は、ゲル化の評価は一部3点もあった
が、多孔性の評価、及び、PBS中のゲル残存性評価では、そのほとんどが2点又は1点
であった。
【0122】
(iii)エチレンジアミンを架橋剤としたアルギン酸架橋体の評価結果を表2に示す
【0123】
ゲル化の評価では、A-2、A-3、B-2、及びB-3はゲル化したが、A-1とB
-1のゲル化は不十分であった。
【0124】
多孔性の評価は、A-1、A-2及びA-3については、孔の大きさが300μm~5
00μmの多孔体が得られたことが分かった。一方、B-1、B-2及びB-3について
は、細孔は認められず砕片状であった。
【0125】
PBS中のゲル残存性評価は、A-1は、1週間後に約1/2が残存していたのに対し
、A-2、A-3、B-1、B-2、B-3は、1週間後も透明な含水ゲルのほとんど全
てが残存した。
【0126】
以上より、多孔性の点から、B-1、B-2及びB-3のアルギン酸ナトリウム(M/
G比が0.1~0.4)と比較して、A-1、A-2及びA-3のアルギン酸ナトリウム
(M/G比が0.6~1.8)を用いることが好ましいことが分かった。
【0127】
また、A-1、A-2及びA-3のアルギン酸ナトリウムの中では、ゲル化、及びPB
S中のゲル残存性の点から、A-2及びA-3のアルギン酸ナトリウム、すなわち、GP
S-MALSによる重量平均分子量が9万以上のアルギン酸ナトリウムを用いることが好
ましいことが分かった。
【0128】
【表2】
【0129】
実施例2 神経様細胞の生存率の評価
実施例1において作製したアルギン酸架橋体(約1.0 cm x 1.0 cm)に、PC12細胞
(50,000 cells/mL)1 mLを、含浸した。神経成長因子(NGF)(final 100 ng/mL)を加
えて7日間培養(3日目に0.5mLの培地追加)後、WST-8試薬(DOJINDO)を150 μL/well添
加し、37℃で3時間静置した。上清100 μLずつ96穴プレートに分注し、プレートリーダー
(Tecan)を用いて450 nmの吸光度を測定した。
【0130】
アルギン酸架橋体は、A-2を(i)塩化カルシウム(iii)エチレンジアミンによ
りそれぞれ架橋した架橋体(それぞれA-2Ca,A-2EDAという)、A-3を(i
)塩化カルシウム(iii)エチレンジアミンによりそれぞれ架橋した架橋体(それぞれ
A-3Ca,A-3EDAという)の4種とした。組織培養用プレートをコントロールと
して用いた。
【0131】
その結果、コントロールにおける神経様細胞の生存率を100%としたときの、A-2
EDA、A-3Ca、及びA-3EDAにおける生存率はいずれも98%以上であった。
一方、A-2Caのみ低い生存率(63%)を示した。
【0132】
A-2Caについて、神経様細胞の生存率が低かった理由は、溶出したカルシウムの毒
性、溶解したアルギン酸による培地中の粘度増大に起因する酸素の供給不足が原因と推察
された。
【0133】
実施例3 電子線照射したアルギン酸架橋体の評価
3-(1)アルギン酸架橋体に対する電子線照射
低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムのA-2とA-3を用いて、塩化カルシウムと
塩化ナトリウムを架橋剤としたアルギン酸架橋体(それぞれA-2CaNa、A-3Ca
Naという)、実施例1-(4)に従い、エチレンジアミンを架橋剤としたアルギン酸架
橋体(それぞれA-2EDA、A-3EDAという)を作製した。塩化カルシウムと塩化
ナトリウムを架橋剤としたアルギン酸架橋体は、1%アルギン酸ナトリウム水溶液を3.
15mlずつ充填したプレートを25mlのカルシウム-ナトリウム架橋剤水溶液(塩化
カルシウム無水和物50mM、塩化ナトリウム300mM)に浸漬してゲル化させ、洗浄
後凍結乾燥して作製した。
【0134】
各アルギン酸架橋体に対して、電子線の20kGy、40kGy、60kGyをそれぞ
れ照射した。
【0135】
電子線照射装置としてRDI社製ダイナミトロン型電子加速器を、線量測定装置として
CTA線量計用島津UV1800分光光度計を用いた。線量計としてCTA線量計(富士
写真フィルム社製FTR-125)Lot No.459を用いた。電子線は、加速電圧
4.8MV、電流20.0mAの条件で、目的の照射線量となるように照射時間を調節し
て照射した。
【0136】
3-(2)電子線照射したアルギン酸架橋体の崩壊時間の評価
実施例3-(1)で作製した、電子線照射されたアルギン酸架橋体、及び、電子線照射
されていないアルギン酸架橋体について、生理食塩液中での崩壊時間を測定した。
【0137】
具体的には、各架橋体を約7mm×約7mmにカットし、生理食塩液25mlを入れた
50mlの遠沈管に入れ、37℃の恒温器内で、遠沈管を横に寝かせた状態で、60rp
mで振とうし、架橋体が完全に崩壊するまでの時間を測定した。
【0138】
結果を表3に示す。
【0139】
塩化カルシウムと塩化ナトリウムを架橋剤としたアルギン酸架橋体(A-2CaNa、
A-3CaNa)は、電子線量と溶解時間までの時間に一定の関係は見られなかった。一
方、エチレンジアミンを架橋剤としたアルギン酸架橋体(A-2EDA、A-3EDA)
については、電子線量が高くなるに従い、溶解終了までの時間は短くなった。A-3ED
Aの電子線照射量が0kGyと20kGyの架橋体は、いずれも20日後も溶解しなかっ
たが、未照射の架橋体は20日後も形状を保っていたのに対して、20kGy照射の架橋
体は、スポンジの形状は保っておらず、ピンセットで掴むことはできない硬さであった。
また、A-2EDAは、全体として、A-3EDAと比較して、溶解終了までの時間が短
い傾向がみられた。
【0140】

【表3】
【0141】
実施例4 アルギン酸架橋体を用いたラット坐骨神経損傷部の再生誘導
ラットの坐骨神経(末梢神経)の切断部位にエチレンジアミン架橋のアルギン酸架橋体
を設置し、神経再生誘導の効果を評価した。
【0142】
4-(1)エチレンジアミン架橋アルギン酸架橋体の作製
実施例1-(4)に従い、A-2とA-3の低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムを
用いて、エチレンジアミンで共有結合架橋したキセロゲル状のアルギン酸架橋体(それぞ
れA-2EDA、A-3EDAという)を作製した。このとき架橋体におけるアルギン酸
含量は3.0mg/cmとした。架橋体の厚さは約2mm~約8mmであった。
【0143】
4-(2)直線状の坐骨神経の切断とエチレンジアミン架橋アルギン酸架橋体による再生
誘導
上記4-(1)で作製したA-2EDAとA-3EDAをエタノール滅菌して下記実験
に用いた。
4週齢の雄性Wistarラットを麻酔下で、分岐していない直線状の坐骨神経の周囲
の皮膜を剥離して、神経を露出させた。神経の裏側へ糸を入れて神経を糸で結んで神経を
上部へ持ちあげ、神経の下の空間に1枚のアルギン酸架橋体を置いた。アルギン酸架橋体
の上に位置する神経を切断して、7~8mmの幅のギャップを作製した。その後、神経の
切断部位の上にもう1枚のアルギン酸架橋体を置くことにより、2枚のアルギン酸架橋体
で神経の切断部を挟むように設置した。2枚のアルギン酸架橋体は、中枢側及び末梢側の
両神経断端をカバーできる大きさにして用いた。アルギン酸架橋体は縫合による固定は行
わなかった。開いた筋肉を縫合し、皮膚も縫合した。
【0144】
4-(3)アルギン酸架橋体の回収と再生した神経軸索の評価
上記4-(2)の施術から8週目に手術部位からアルギン酸架橋体と神経を回収し、架
橋体より末梢側の神経を取り出した。取り出した神経は、2.5%グルタールアルデヒド
のPBS液で1次固定し、2.0%四酸化オスミウムのPBS液で2次固定を行った。脱
水、置換後、エポン樹脂に包埋した。1μmの厚さで薄切して、0.5%トルイジンブル
ーで染色した。光学顕微鏡下に観察し、有髄軸索の数をカウントした。
その結果、8週目の末梢側神経において、A-2EDAでは平均493本、A-3ED
Aでは平均524本の有髄軸索が確認され、アルギン酸架橋体の神経再生誘導効果が確認
された。しかし、8週時に回収したアルギン酸架橋体と神経の部分は、アルギン酸架橋体
はほとんど吸収されておらず、組織が増大し塊となっていた。
比較例として実施した、神経の切断のみ行い、アルギン酸架橋体を設置しなかった群で
は、軸索本数は平均156本 であった。また、神経を切断していない無処置のコントロ
ール群の軸索本数は平均8918本 であった。
【0145】
4-(4)坐骨神経の分岐部の切断とエチレンジアミン架橋アルギン酸架橋体による再生
誘導
上記4-(1)で作製したA-2EDAを下記実験に用いた。
4週齢の雄性Wistarラットを麻酔下で、坐骨神経から総腓骨神経と脛骨神経とに
Y字状に分岐している神経部位を確認し、周囲の皮膜を剥離して神経を露出させた。坐骨
神経に糸を結んで神経を上に持ち上げ、神経の下の空間に1枚のアルギン酸架橋体を置い
た。神経分岐部を含んで7~8mmのギャップが生じるように、坐骨神経と総腓骨神経と
脛骨神経を切断した。その後、神経の切断部位の上にもう1枚のアルギン酸架橋体を置く
ことにより、2枚のアルギン酸架橋体で神経の切断部を挟むように設置した。2枚のアル
ギン酸架橋体は、中枢側及び末梢側の神経断端をカバーできる大きさにして用いた。アル
ギン酸架橋体は縫合による固定は行わなかった。開いた筋肉を縫合し、皮膚も縫合した。
【0146】
4-(5)アルギン酸架橋体の回収と再生した神経軸索の評価
4-(4)の施術から4週目に手術部位からアルギン酸架橋体と神経を回収し、架橋体
より末梢側の神経を取り出した。抗ベータチューブリンクラス3抗体を軸索に対する抗体
として、抗S100抗体(abcam社製)をシュワン細胞に対する抗体として用いて染
色を行った。
【0147】
その結果、脛骨側断端部及び腓骨側断端部のいずれにおいても軸索の再生が認められた
。架橋体を移植した部位では、ゲル表層部に再生軸索を認めた。
【0148】
実施例5 電子線が照射されたポリグリコール酸を含むアルギン酸架橋体を用いたラット
坐骨神経損傷部の再生誘導
5-(1)電子線が照射されたポリグリコール酸を含むエチレンジアミン架橋アルギン酸
架橋体の作製
実施例1-(4)に従い、A-2の低エンドトキシンアルギン酸ナトリウム水溶液にE
DA・2HOSuとEDC・HClを溶解させた。得られた溶液を、シート状の不織布の
ポリグリコール酸(PGA)(100mg/cc,3.0mg/cmNon-woven PGA Bi
ofelt ,Biomedical Structures (USA))を敷いたトレイに充填し、凍結乾燥することによ
りPGAを含むアルギン酸架橋体を作製し、A-2EDA・PGA100とした。このと
き架橋体におけるアルギン酸の含量は2.0mg/cmとした。より詳細には、PGA
を敷いたトレイにアルギン酸溶液を充填し、十分にゲル化が進んだ後、未反応の架橋剤お
よび反応副生成物を除去するためにゲルの洗浄を行った。洗浄液は、ECF(Extra Cellula
r Fluid:精製水に CaCl2(2.5 mM、例えば0.28 g/1 L)とNaCl(143 mM、例えば8.36 g/
1 L)を溶解し、0.22μmフィルター(ミリポア社製、ミリパック20等)とエンドトキシン
除去フィルター(ミリポア社製、プレップスケールUFカートリッジPLGC CDUF 001 LG)を
通じたものを用いた。洗浄液は適宜交換し、その後蒸留水で洗浄し、過剰の塩類を除いて
から凍結乾燥した。得られた架橋体の厚さは約2mm~約8mmであった。
【0149】
同様に、A-3の低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムを用いて作製したアルギン酸
架橋体を、A-3EDA・PGA100とした。
得られた2種類の架橋体には、電子線を吸収線量20kGyで照射した。
【0150】
5-(2)直線状の坐骨神経に対する再生誘導効果
実施例5-(1)で得られた2種類の架橋体(A-2EDA・PGA100、及びA-
3EDA・PGA100)を、4-(2)、4-(3)に従い、直線状の坐骨神経のギャ
ップに適用し、架橋体の適用から8週後に直線状の坐骨神経のギャップに対する再生誘導
効果を評価した。
【0151】
その結果、いずれの群でもギャップから末梢側の断端部に向けて有髄神経の再生がみら
れた。再生した有髄神経の本数は、A-2EDA・PGA100では平均12001本、
A-3EDA・PGA100では平均7010本であった。本明細書において、再生した
有髄神経の本数は、採取した組織標本中の再生部位と判断した神経束中の有髄神経を全て
カウントした。健常ラットの軸索本数は、およそ6700本程度であり、十分な数の有髄
神経の再生が得られたことが分かった。
【0152】
5-(3)坐骨神経の分岐部の欠損に対する再生誘導効果
実施例5-(1)に準じて、低エンドトキシンアルギン酸ナトリウム(A-2又はA-
3)と、シート状の不織布のポリグリコール酸(PGA)(50mg/cc,1.5mg
/cm)を用いて2種類のPGAを含むアルギン酸架橋体を作製し、それぞれA-2E
DA・PGA50、A-3EDA・PGA50とした。架橋体におけるアルギン酸含量は
2.0mg/cmとした。得られた架橋体の厚さは約2mm~約8mmであった。得ら
れた2種類の架橋体には電子線を吸収線量20kGyで照射した。実施例5-(1)で得
られた2種類の架橋体(A-2EDA・PGA100、及びA-3EDA・PGA100
)と合わせて計4種類のPGAを含むアルギン酸架橋体について、実施例4-(4)に従
い施術を行い、架橋体の適用から8週後に坐骨神経の分岐部のギャップに対する再生誘導
効果を評価した。
【0153】
8週後に外観観察したところ、いずれの群も、坐骨神経から脛骨神経と腓骨神経へと神
経組織がつながっていることを認めた。その例として、A-3EDA・PGA50とA-
2EDA・PGA100の術後8週の写真をそれぞれ図1図2に示した。
【0154】
また、実施例4-(3)に準じて末梢側断端部より遠位部の神経の横断切片をトルイジ
ンブルーを用いて染色した結果を図3及び図4に示す。図3は、脛骨神経側の再生軸索、
図4は腓骨神経側の再生軸索の写真を示す。その結果、脛骨神経側及び腓骨神経側におい
て、有髄軸索の径は長く、数は多く、ミエリンは厚く、十分な再生が認められた。すなわ
ち、本発明の神経再生誘導用材料は、神経分岐部の欠損部に使用した場合、分岐する両方
の神経の再生を誘導することが示された。
【0155】
5-(4)坐骨神経の直線状または分岐部の欠損に対する再生誘導効果(2)
以下の各試料について、実施例4に従い、ラットの坐骨神経の分岐部のギャップに対す
る再生誘導効果を、架橋体の適用から8週後に評価した。
【0156】
実施例1-(4)に従い、A-2の低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムを用いてエ
チレンジアミン架橋したアルギン酸架橋体(アルギン酸含量2.0mg/cm)を作製
し、電子線20kGy照射し、試料番号1とした。
【0157】
実施例5-(3)で用いた、A-2EDA・PGA50と、A-2EDA・PGA10
0をそれぞれ試料番号2、3として、実施例5-(3)で得られた結果を示す。
【0158】
実施例5-(1)に従い、A-3の低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムとPGA1
00を用いて架橋体を作製した(A-3EDA・PGA100)。アルギン酸含量を2.
0mg/cmとした架橋体を試料番号4、アルギン酸含量を4.0mg/cmとした
架橋体を試料番号5とし、これらの架橋体に対しては、電子線15kGyで照射した。
【0159】
PGAを含有しないアルギン酸架橋体は、凍結乾燥時に架橋体の形状が歪み、一定の形
状の架橋体を得ることが困難であったが、PGAを含有するアルギン酸架橋体は、プレー
トに充填した形状を維持して凍結乾燥が可能であり、製造効率を高めることができた。
【0160】
なお、神経の分岐部の切断のみ行った群を試料番号6として、神経の分岐部の切断を行
っていない無処置群を試料番号7として評価した。
各群について、ギャップから末端の脛骨側と腓骨側の再生軸索本数を計数し、その平均値
を算出した(n=6~8)。神経の分岐部の欠損部にアルギン酸架橋体を適用する試験の
模式図を図5に示す。また、神経の分岐部の切断のみ行った群の平均再生本数が脛骨側で
200本、腓骨側で138本であったことを参考に、各群において、脛骨および腓骨とも
再生本数が400本以下の軸索は再生不十分として、各群における再生不十分と判断した
再生部位の割合を求めた。結果を表4に示す。
【0161】
【表4】
【0162】
その結果、試料番号1~5では、いずれも脛骨側および腓骨側とも十分な神経軸索の再
生を示し、試料番号6の分岐部の切断のみ行った群と比較して、再生軸索の本数が多かっ
た。神経分岐部の切断を行わなかった無処置群(試料番号7)と比較しても、施術後8週
の時点では十分な再生効果が得られたことが分かった。
【0163】
また、PGAを含有しない架橋体(試料番号1)の再生軸索の本数は、PGAを含有す
る架橋体(試料番号2および3)の本数と比較して有意な差がみられなかった。このこと
から、架橋体中のPGAの有無は神経再生効果には有意な影響を与えないことが示された
。一方で、再生軸索本数が400本以下の再生不十分の軸索の割合を各群で比較すると、
PGAを含有しない架橋体(試料番号1)は33%であったのに対し、試料番号2~5の
PGAを含有する架橋体は0%~19%であった。すなわち、PGAを含有するアルギン
酸架橋体では、PGAを含有しないアルギン酸架橋体と比較して、再生不十分の例が少な
い傾向がみられた。再生不十分の例では、再生神経が、ラットの膝に近い部分で細くなっ
ていた例もあった。これは膝の動きによって架橋体に圧力がかかってちぎれ(断裂し)、
架橋体の連続性が失われ、再生が不十分となったと考えられる。PGAを含有するアルギ
ン酸架橋体は、PGAを含有しない架橋体と比較して、強度が高く、膝などの可動部でも
ゲルがちぎれ(断裂し)にくく、安定的に軸索を再生させ得る可能性が示唆された。PGA
を含有しない架橋体(試料番号1)を用いた場合の再生不十分の一例を図6に示す。
【0164】
また、実施例1-(4)に従い、A-2の低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムを用
いて作製され、電子線40kGyまたは60kGy照射したPGAを含有しないアルギン
酸架橋体(A-2EDA,アルギン酸含量2mg/cm)について、術後8週時の直線
状の神経のギャップに対する再生効果を、実施例5-(2)に準じて評価した。その結果
、再生軸索の平均本数は、それぞれ平均267本 、平均275本 と少なかった。術後8
週時に患部に架橋体の残存は見られなかった。このように再生軸索本数が少なかった要因
を考察すると、これまでの試験から(i)実施例5-(2)で、電子線を20kGy照射
したPGAを含有する架橋体は、直線状の神経ギャップに対して十分な神経再生効果を示
したこと、(ii)分岐部のギャップに対してではあるが、架橋体のPGAの有無は神経再
生効果に有意な影響を与えないこと(表4)が分かっており、これらを考慮すると、電子
線量を40kGyまたは60kGyと上昇させたことが、神経再生効果に影響を与えた可
能性が示唆された。
【0165】
実施例6 アルギン酸架橋体の皮下埋植試験
6-(1)ラット長期間皮下埋植試験(1)
これまでの試験で、アルギン酸架橋体の体内消失速度(残存率)と神経再生効果の関連
が示唆されたため、種々の架橋体について、ラット皮下埋植試験を行い、体内消失速度を
検討した。
【0166】
実施例1-(4)および実施例5-(1)に従い、A-2またはA-3の低エンドトキ
シンアルギン酸ナトリウムを用いて作製したアルギン酸架橋体(一部、PGAを含有する
架橋体も含む)に対して、電子線量を変更して照射して、試料を作製した。試料の種類は
表5のとおりである。試料番号43と44は、それぞれPGA(50mg/cc,1.5
mg/cm)、PLGA(50mg/cc,1.5mg/cm)のみを試料とした。
縦0.7cm×横1.5cm(厚さは問わない)のサイズの各試料を、ラット背面部の皮
下に埋植し、4週間後に組織学的に評価した。組織学的評価は、次のように作製した標本
により評価した。すなわち、常法に従ってパラフィン包埋ブロックを作製し、ヘマトキシ
リン・エオジン染色、およびサフラニン-O染色を行った。試料の残存性を5段階のスコ
アで評価した。すなわち、各試料について、試料残存なしを0、ごくわずかに残存を1、
わずかに残存を2、中等度に残存を3、顕著に残存を4として、各群n=3または6で評
価しその平均値をその試料の残存スコアとした。
【0167】
結果を表5に示す。その結果、A-2の低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムを用い
て作製したアルギン酸架橋体のA-2EDAは、同じアルギン酸含量の架橋体においては
、電子線量が上昇するに従い、残存スコアは低下する傾向がみられた。また、アルギン酸
含量が増加すると、残存スコアは上昇する傾向がみられた。A-3の低エンドトキシンア
ルギン酸ナトリウムを用いて作製したアルギン酸架橋体のA-3EDAについても同じ傾
向がみられた。A-2EDAとA-3EDAとを比較すると、アルギン酸含量と電子線量
が同じであれば、A-3EDAは、A-2EDAと比較して、残存スコアが上昇する傾向
がみられた。
【0168】
【表5】
【0169】
実施例6-(2)ラット長期間皮下埋植試験(2)
実施例1-(4)および実施例5-(1)に従い、表6のとおり試料を作製し、6-(
1)と同様にラット背面部の皮下に埋植し、8週間後と12週間後に、試料の残存性につ
いて組織学的評価を行った。組織学的評価は、次のように作製した標本により評価した。
すなわち、埋植した皮下組織を摘出し、10%中性緩衝ホルマリン溶液で固定後、組織を
切り出し、パラフィン包埋ブロックを作製し、ヘマトキシリン・エオジン染色、およびサ
フラニン-O染色を行った。試料の残存性を5段階のスコアで評価した。すなわち、各試
料について、試料残存なしを0、ごくわずかに残存を1、わずかに残存を2、中等度に残
存を3、顕著に残存を4として、各群n=3で評価し、その平均値をその試料の残存スコ
アとした。
【0170】
【表6】
【0171】
その結果、各試料とも8週、12週と次第に残存スコアが低下した。試料番号51と5
2との残存率の比較から、PGA添加は残存率に大きな影響を与えないと考えられた。ま
た、試料番号52と53との比較から、アルギン酸含量を増加させることにより、試料の
残存率が上昇することが示された。試料番号52、53は、表4の試料番号4、5として
、試料番号54は、実施例5-(3)で神経再生効果が確認された架橋体である。このよ
うに、神経再生誘導用材料を用いてラット背面部に皮下埋植試験を行うとき、埋植から8
週後~12週後の患部の組織学的評価により、試料の残存が確認されることも神経再生効
果にとって望ましい要素のひとつと考えられた。
【0172】
実施例7 アルギン酸架橋体の水中分解性試験
アルギン酸架橋体の分解性をin vitro試験で評価した。
【0173】
縦1cm×横1cmのサイズ(厚さは問わない)に裁断した試料4個を50mLの容遠
沈管(ガラス製)に入れ、生理食塩液25mLを加えた後、恒温振とう水槽で振とうし、
経時的に試料の変化を観察した。試料の縦横の裁断面は垂直に交わるように裁断した。各
試料の厚さは、約2mm~約8mmであった。測定時点は開始から4時間時、1日(24
時間)、2日(48時間)、3日(72時間)、4日(96時間)、5日(120時間)
および6日(144時間)とした。試料は、試験開始前に秤量した。各測定時においては
、測定後の液を孔径10μmのメンブランフィルター(メルク製、オムニポア)で減圧ろ
過し、ろ取した残分の画像を取得した後、恒量になるまで減圧乾燥(60℃)した。残存
した試料を秤量し、試験開始前の試料量に対する割合を、残存率(%)として算出した。
【0174】
恒温振とう水槽(トーマス科学器械製、T-N22S型、温調;ヤマト科学製、CTA
401S)の振とう数は、往復120回/分とした。溶媒温度は、恒温振とう水槽の設定
温度として、50℃とした。
【0175】
実施例5-(3)(4)においてラット神経再生効果が確認された試料番号61~64
、および電子線を照射していない架橋体について評価した。評価した架橋体を表7に示す
。試料番号66は、実施例4-(2)でラットの試験でエタノール滅菌して用いた架橋体
と同じ組成である。試料68は、実施例5-(1)に準じて、PGAに替えてPLGA(
50mg/cc,1.5mg/cm)を用いて同様に作製された架橋体を試料とした。
【0176】
【表7】
【0177】
結果を図7に示す。その結果、試料番号61~64の架橋体は、経時的に残存率が低下
する傾向がみられ、試験開始から3日後(72時間後)の残存率は約20%~約70%の
範囲を示した。一方、PGAを含有せず、電子線を照射していない架橋体である試料65
と66は、残存率が上昇した。PGAまたはPLGAを含有する、電子線を照射していな
い架橋体である試料67と68は、残存率は経時的な低下がみられたが、試験開始から3
日後(72時間後)の残存率は80%以上を示した。
以上より、当該試験において、試験開始から3日後(72時間後)の架橋体の残存率が
、約20%~約80%を範囲とする架橋体が、神経再生にとって好ましいことが示唆され
た。
【0178】
電子線とγ線とを線量を変更して照射した架橋体について同様に評価した。評価した架
橋体は、表8のとおりである。試料番号71は、実施例5-(4)でラット神経再生効果
が確認された架橋体である。
【0179】
【表8】
【0180】
結果を図8に示す。その結果、電子線を照射した架橋体である試料番号71と72は、
同様に経時的に残存率が低下する傾向がみられたが、開始直後の4時間後の残存率を両者
で比較すると、電子線量が15kGyの試料71と比較して、電子線量が30kGyの試
料72の残存率が低かった。γ線を照射した架橋体である試料番号73~75も、電子線
照射した架橋体と同様に、経時的に残存率が低下する傾向がみられた。また、試料番号7
3~75の中では、γ線線量が50kGyの試料75は、開始直後の4時間後の残存率が
約50%程度まで低下した。この結果から、電子線およびγ線は、照射線量を上昇させる
ことにより、開始直後の残存率が低下することが示唆された。神経のギャップに架橋体を
設置して神経の再生を促す場合、架橋体が設置後早い時期に消失すると、神経の再生の初
期の足場となることができないと考えられる。実施例5-(4)に記載したとおり、電子
線量40kGyまたは60kGyで照射した架橋体が、直線状の神経ギャップの再生効果
が高くなかったのは、設置当初から架橋体が消失してしまい、神経の足場としての役目を
果たせなかった可能性が考えられた。
【0181】
実施例5-(1)に従い、PGAに替えてPLGA(50mg/cc,1.5mg/c
)を用いて同様に作製した架橋体とPGAを含有する架橋体とで同様に分解性を比較
した。評価した架橋体は、表9のとおりである。試料番号84は、実施例5-(3)にお
いて、試料番号85は、実施例5-(4)において、神経再生効果が確認された架橋体で
ある。
【0182】

【表9】
【0183】
結果を図9に示す。その結果、PLGAを含有する試料は、PGAを含有する試料と同
様に、残存率は経時的に低下した。PLGAを含有する試料番号81と82と、PGAを
含有する試料番号83、84、85とでは、ともに電子線量が高い試料ほど開始から4時
間後の残存率が低い傾向がみられ、その後は同様に残存率が低下することが示された。こ
のように、PLGAは架橋体の材料としてPGAに替えて同様に使用できることが示唆さ
れた。
【0184】
実施例8 正常ヒト皮膚線維芽細胞に対する架橋体の効果
【0185】
実施例1-(4)に従い作製されたエチレンジアミンで架橋されたアルギン酸架橋体と
市販のコラーゲンスポンジについて、正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF:Normal Human
Dermal Fibroblasts)の細胞接着性および細胞増殖性を評価し比較した。NHDFなど
線維芽細胞は神経再生のためのスペースに移動・増殖して神経再生を妨げると考えられる
【0186】
試料は、(1)A-2EDA、(2)A-3EDA、(3)ウシコラーゲンスポンジ(
SpongeCol(登録商標), Advanced BioMatrix社製)、(4)2Dコントロール(組織培
養皿)の4群とした。各試料の大きさは、(1)および(2)は縦約5mm×横約5mm×厚さ
約2mm~約7mm、(3)は直径4mm円形×厚さ約1mmとした。各試料に細胞10個を播種し
、培地中で1日、4日間培養後、試料に接着していない細胞を分離するため、各試料を新
しいウエルに移動した後、各試料に接着している細胞数をWST-8試薬を用いて、45
0nmの吸光度で評価した。培地は、10%FCS/EMEMとした。
【0187】
NHDFの接着と増殖の結果を図10に示す。その結果、培養1日後に、A-2EDA
およびA-3EDAの架橋体には、NHDFがコラーゲンスポンジと同程度接着したが、
その後、細胞数は減少した。一方、コラーゲンスポンジでは、細胞数が増加したことが示
された。このように、アルギン酸架橋体は、コラーゲンスポンジと比較して、神経再生を
妨げる線維芽細胞の接着、増殖を抑制することが示された。
【0188】
実施例9 ラット海綿体神経叢除去モデルに対する神経再生効果
9-(1)ラット海綿体神経叢除去モデルの作製
ラットを2%イソフルランの吸入による麻酔下にて、仰臥位に固定した。下腹部を正中
切開し、顕微鏡下で骨盤内を展開し、骨盤神経叢および海綿体神経を露出させた。治療群
と無治療群は、海綿体神経を確保した後、網目状に分岐している神経叢を横断するように
海綿体神経を約2mm切除した。左右同様に処置した。治療群は、実施例5-(1)に準
じて作製したPGAを含有するアルギン酸架橋体(A-3EDA・PGA100)を、神
経切除断端を十分被覆するように置き、縫合固定した。無治療群は、神経切除のみ行った
。正常コントロール群は、海綿体神経切除を行わなかった。その後、下腹部の筋層および
皮膚を縫合した。手術前に、ベンジルペニシリンカリウムを20000units/kg用量で筋肉内
注射した。また、鎮痛剤ブプレノルフィン0.01mg/kg用量を1日2回3日間1mL/kgの容量
で皮下投与した。各群n=3で行った。
【0189】
9-(2) 交尾行動の確認
9-(1)の処置から4週後、および7週後に、各群3匹は、発情を確認した雌と金網
製の床網を敷いたケージで同居させた。翌日、メスの膣プラグ(copulatory plug)の有
無により、交尾行動の有無を確認した。なお、プラグが確認できなかったラットは7日目
まで観察を続けて判定した。
その結果、各群3匹中、交尾行動がみられた(メスの膣プラグ有り)ラットの割合を表
10に示す。その結果、海綿体神経切除を行っていない正常コントロールは100%で交
尾行動がみられたが、海綿体神経を切除した無治療群は、4週後および7週後とも交尾行
動は全くみられなかった。一方、海綿体神経の切除後に前記アルギン酸架橋体を置いた治
療群は、4週後および7週後とも2/3で交尾行動が見られた。このことから、アルギン
酸を含有する架橋体は、海綿体神経における網目状構造の神経叢自体が切除された損傷部
を、施術から4週後という早い時期に再生させ、正常な交尾行動を行うことができるまで
に機能を回復させたことが示された。
【0190】
【表10】
【0191】
実施例10 アルギン酸架橋体の引き裂き試験
表11の6種のアルギン酸架橋体について、手術で架橋体を縫合する場合を想定し、引
き裂き試験を行い、各試料の強度を比較した。
試料番号101と104は、PGAを含有しないアルギン酸架橋体であり、その他の試
料は、PGAを含有するアルギン酸架橋体であり、それぞれ、実施例1-(4)、実施例
5-(1)の記載に従い作製した。試料番号101~103は、電子線を照射しておらず
、試料番号104~106は、電子線を15kGyで照射した。
試験方法は以下のとおりである。試験方法の模式図を図11に示す。各試料を、縦2c
m×横2cmのサイズ(厚さは問わない)となるように裁断した。ここで縦と横の裁断面
は垂直に交わるものとした。このとき各試料の厚さは約2mm~約8mmであった。その
裁断面の1つから5mm離れた位置で該材料を挟むようにダブルクリップ(把持部の幅が
約15mm)で把持した(把持部A)。該試料の把持部Aに相対する裁断面(B)から1
0mmまでの部分全体を生理食塩水に15分間浸漬した。該試料の裁断面(B)から5mm
離れた位置の中央部に、針付き縫合糸(バイクリル(登録商標)、4-0、丸針SH-1)を
貫通させ、縫合糸の両端を器具に固定した。前記把持部Aを、試料の正方形面に水平に、
速度10mm/分で引っ張った。縫合糸の付近で各試料が裂けるまで引っ張り続け、引っ
張る荷重を試験力として測定した。引っ張り荷重の測定は、小型物性試験機(EZ-graph,
島津製作所製)を用いて行った。各試料ともn=5で測定し、試験力の最大点(最大試験
力)の平均値を求めた。
【0192】
【表11】
【0193】
結果を図12に示す。その結果、電子線を照射していない架橋体(試料番号101~1
03)と、電子線照射した架橋体(試料番号104~106)のそれぞれにおいて、PG
Aを含有する架橋体は、PGAを含有しない架橋体と比較して、最大試験力(N)が高か
った。また、電子線照射した架橋体(試料番号104~106)は、電子線を照射してい
ない架橋体(試料番号101~103)と比較して、全体的に最大試験力はやや低下した
【0194】
別途、これらの架橋体について、手術での縫合手技、架橋体の設置部位への固定を想定
した縫合試験を行ったところ、PGAを含有しない架橋体(試料番号101および104
)は、縫合糸を固く結ぶと架橋体がちぎれてしまい、縫合が不可能であったが、PGAを
含有する試料番号102、103、105、106は十分に縫合が可能な強度を有してい
た。引き裂き強度の結果、アルギン酸含量の2mg/cm2と4mg/cm2は含量による差は
大きくなく、引き裂き試験および縫合試験の結果は、もっぱらPGAの有る、無しの差に
因ることが大きいと考えられた。これらのことから、縫合が可能な架橋体とするためには
、上記試験において、試験力が0.10(N)を超える架橋体が望ましいと考えられた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12