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特許7271620優れた復元特性を有するポリイミドフィルム
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  • 特許-優れた復元特性を有するポリイミドフィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】優れた復元特性を有するポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230501BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
C08J5/18 CFG
C08G73/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021137684
(22)【出願日】2021-08-26
(65)【公開番号】P2022135876
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】10-2021-0029101
(32)【優先日】2021-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】504408236
【氏名又は名称】ドゥーサン コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ、ホヨン
(72)【発明者】
【氏名】アン、キョンイル
(72)【発明者】
【氏名】ユ、ダヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム、トンヨン
(72)【発明者】
【氏名】シム、ジェヒョン
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-104909(JP,A)
【文献】特開2019-112632(JP,A)
【文献】特表2019-506375(JP,A)
【文献】国際公開第2020/138644(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/138645(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/159035(WO,A1)
【文献】特開2020-169241(JP,A)
【文献】国際公開第2017/069165(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0063980(US,A1)
【文献】特表2022-515829(JP,A)
【文献】特表2022-515834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22
C08G 73/00-73/26
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素化芳香族第1ジアミン、及び少なくとも種の酸二無水物を含むポリアミック酸組成物をイミド化して製造されるポリイミドフィルムであって、
前記フッ素化芳香族第1ジアミンが、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(2,2’-TFDB)および1,4-ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン(6-FAPB)からなる群から選択される1種の化合物を全ジアミン100モル%を基準にして70~100モル%で含み、
前記少なくとも種の酸二無水物が、
少なくとも2種の非フッ素化芳香族第2の酸二無水物を含み、又は、
非フッ素化芳香族第2の酸二無水物と、フッ素化芳香族第1の酸二無水物若しくは脂環族第4の酸二無水物とを含み、
前記脂環族第4酸二無水物の含有量が、前記酸二無水物100モル%を基準にして40モル%以下であり、
厚さ30~100μmにおいて、ASTM D882に準拠して測定された降伏強度が、50~200MPaであり、
次の式1によるリジリエンスが、2.0~5.0MPaである、ポリイミドフィルム。
【数1】
(式中、σは、降伏強度であり、Eは、モジュラスである。)
【請求項2】
フィルム厚さ30~100μmを基準に、曲率半径1~10mmで、72時間フィルムに屈曲を施した後の最初復元高さ(H)が、5cm以下であり、少なくとも1時間経過後の復元高さ(H)が、3cm以下である、請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
ASTM D882に準拠して測定された当該フィルムの応力-歪み曲線(Stress-Strain Curve)において、引張強度20~40MPaの区間傾きに対して少なくとも80%に対応する閾値の歪み(strain)と定義される降伏歪み(Yield Strain:Y/S)が、2.0%~5.0%である、請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項4】
曲率半径1~5mmで当該フィルムを屈曲させた時、破断するまでの屈曲回数が、100,000回以上である、請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項5】
ASTM D882に準拠して測定されたモジュラスが、3~8GPaである、請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項6】
厚さ30~100μmにおいて、波長550nmでの光透過率が、85%以上であり、
ASTM E313-73規格に準拠した黄色度が、10以下である、請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項7】
前記ジアミン(a)と前記酸二無水物(b)とのモル数の比(a/b)は、0.7~1.3の範囲である、請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項8】
ディスプレイ装置のカバーウインドウに使用される、請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドフィルムに関し、より詳しくは、高いリジリエンス(Modulus of Resilience)及び降伏強度によって、優れた復元力と高屈曲特性とを同時に有することで、ディスプレイのカバーウインドウに使用可能なポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(Liquid Crystal Display:LCD)、有機電界発光表示装置(Organic Light Emitting Display:OLED)などのような表示装置の表面には、パネルを保護するためのカバーウインドウ(Cover Window)が適用されている。従来、カバーウインドウの材質としては、平坦度、耐熱性、耐化学性、及び水分や気体に対するバリヤー性能が優れており、線膨張係数(CTE)が小さく、光透過率が高い強化ガラスが主に使用されていた。
【0003】
近年、カーブドディスプレイや折り畳み式(in-folding)ディスプレイのようなフレキシブルディスプレイが開発されつつある。このようなフレキシブルに適用されるためには、カバーウインドウも柔軟性を有する必要があるが、従来、ガラス材質のカバーウインドウは、一般に重く、割れ易く、柔軟性に劣るため、フレキシブルディスプレイに適していない。
【0004】
上述のような問題点を解決するため、近来、比較的に成形性に富むプラスチック材質を用いたカバーウィンドウが提案されている。プラスチック材質を用いたカバーウィンドウは、軽量でかく割れ難く、種々にデザインを具現することができるという長所を有する。現在、カバーウィンドウ用プラスチック材料としては、主に透明性に優れたポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレートなどが使用されている。このような材料は、優れた透明性を有するという長所があるが、ガラス転移温度(Tg)が150℃以下で、耐熱特性が悪く、耐化学性及び機械的強度が低いため、適用に制限がある。
【0005】
このような不都合を補完するため、前記プラスチック材料に厚いハードコート層などを導入する試みがあるが、この場合、成形時にハードコート層にクラックが発生し、又は屈曲性が著しく低下する。特に、近年では、フレキシブル表示装置が多く使用されているが、外力による物理的変形に対する復元力の改善には限界があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の問題点を解決するために案出されたものであって、優れた復元力と高い屈曲性を有すると共に機械的強度、透明性などの諸特性に優れた、カバーウインドウに適用可能な、新規なポリイミドフィルムを提供することに技術課題がある。
【0007】
本発明の他の目的及び利点は、後述の詳細な説明及び特許請求の範囲によってより明確になる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の技術課題を達成するため、本発明は、少なくとも1種のジアミン、及び少なくとも1種の酸二無水物を含んで共重合されたポリイミドフィルムであって、厚さ30~100μmにおいて、ASTM D882に準拠して測定された降伏強度(Yield Strength)が、50~200MPaであり、リジリエンス(Modulus of Resilience)は、0.5~5.0MPaであるポリイミドフィルムを提供する。
【0009】
本発明の一実施例では、前記ポリイミドフィルムは、当該フィルム厚さ30~100μmを基準に、曲率半径1~10mmで、72時間フィルムに屈曲を施した後の最初復元高さ(H)が、5cm以下であり、少なくとも1時間経過後の復元高さ(H)が、3cm以下である。
【0010】
本発明の一実施例では、ASTM D882に準拠して測定された当該フィルムの応力-歪み曲線(Stress-Strain Curve)において、引張強度20~40MPaの区間傾きに対して少なくとも80%に対応する閾値の歪み(strain)と定義される降伏歪み(Yield Strain:Y/S)が、2.0%~5.0%である。
【0011】
本発明の一実施例では、曲率半径1~5mmで当該フィルムを屈曲させた時、破断するまでの屈曲回数が、100,000回以上である。
【0012】
本発明の一実施例では、ASTM D882に準拠して測定されたモジュラスが、3~8GPaである。
【0013】
本発明の一実施例では、厚さ30~100μmにおいて、波長550nmでの光透過率が、85%以上であり、ASTM E313-73規格に準拠した黄色度が、10以下である。
【0014】
本発明の一実施例では、前記少なくとも1種のジアミンは、フッ素化芳香族第1のジアミン、スルホン系芳香族第2のジアミン、ヒドロキシ系芳香族第3のジアミン、エーテル系芳香族第4のジアミン、非フッ素芳香族第5のジアミン、及び脂環族第6のジアミンからなる群から選択される1種以上を含む。
【0015】
本発明の一実施例では、前記第1のジアミン乃至第6のジアミンの含有量は、それぞれ全ジアミン100モル%に対して、10~100モル%である。
【0016】
本発明の一実施例では、前記少なくとも1種の酸二無水物は、フッ素化芳香族第1の酸二無水物、非フッ素化芳香族第2の酸二無水物、スルホン系芳香族第3の酸二無水物、及び脂環族第4の酸二無水物からなる群から選択される1種以上を含む。
【0017】
本発明の一実施例では、前記第1の酸二無水物乃至第4の酸二無水物の含有量は、それぞれ全酸二無水物100モル%に対して、10~100モル%である。
【0018】
本発明の一実施例では、前記ジアミン(a)と前記酸二無水物(b)とのモル数の比(a/b)は、0.7~1.3の範囲である。
【0019】
本発明の一実施例では、前記ポリイミドフィルムは、ディスプレイ装置のカバーウインドウに使用可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一実施例によれば、ポリイミドフィルムを構成する所定成分の採択、及びその含有量調節によって、高いリジリエンスと降伏強度を確保することで、物理的変形に対して優れた復元性を示すことができる。また、引張弾性領域傾きを調節し、高い降伏歪み及び高屈曲特性を実現することができる。
【0021】
また、本発明では、高い光透過度、低い黄色度、優れたモジュラス、及び表面硬度を示し、最終製品の作業性及び信頼性を向上させることができる。
【0022】
従って、本発明のポリイミドフィルムは、フラットパネルディスプレイを始めとした当該分野における表示装置、フレキシブルディスプレイなどのカバーウインドウに有用に適用可能であり、その他、当該分野で公知のIT製品、電子製品、家電製品などにも適用可能である。
【0023】
本発明による効果は、上記の例示によって制限されず、より様々な効果が本明細書中に含まれている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明に係るポリイミドフィルムを用いた引張試験において、降伏強度(Yield Strength)、降伏歪み(Yield Strain)、リジリエンス(Modulus of Resilience)が定義された応力-歪み曲線(Stress-Strain Curve)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を詳述する。本発明の実施例は、当該分野で通常の知識を有する者に、本発明をより完全に説明するために提供されるものであり、後述の実施例は、種々に変更して実施することができ、本発明の範囲がこれらの実施例によって限定されるのではない。なお、本明細書において同一の参照符号は、同一の構造を指称する。
【0026】
特に断りのない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術及び科学用語を含む)は、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が共通に理解できる意味として使用される。また、一般的に使用される辞典に定義されている用語は、特に定義されていない限り、理想的又は過度に解釈されることはない。
【0027】
また、明細書全般において、ある部分が他の構成要素を「含む」とは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。また、明細書全般において、「上に」又は「上方に」とは、対象部分の上又は下に位置する場合だけでなく、その中間に他の部分が存在する場合も含む意味であり、必ず重力方向を基準に上方に位置するという意味ではない。なお、本明細書中、「第1」、「第2」などの用語は、任意の順番又は重要度を示すのではなく、構成要素を区別するために使用されたものである。
【0028】
<ポリイミドフィルム>
本発明の一実施例に係るポリイミド樹脂フィルムは、ディスプレイ装置に設けられる透明フィルムであって、より具体的には、フレキシブルディスプレイのカバーウィンドウ(Cover Window)として使用することができる。
【0029】
ここで、カバーウインドウとは、フレキシブル表示装置の最外殻に配置され、表示装置を保護するフィルムを指称する。このようなカバーウインドウは、ウインドウフィルム単独であるか、又は光学的に透明な樹脂からなる別の基材(substrate)フィルム上に、ウインドウコーティング層が形成されたフィルムであることができる。
【0030】
一方、外部に露出されるディスプレイのカバーウインドウは、日常生活において、柔軟性(flexibility)などの加工特性や、優れた光学特性を有する必要があり、また、外部荷重による物理的変形に対して所定の復元性を有する必要がある。特に、カバーウインドウを折り畳むとき、応力による歪みが降伏歪みを超過する場合、永久変形が発生し、これ以上復元できず、復元不可となってしまう。
【0031】
本発明では、フィルム材料が本来有する固有物性のうち復元力と連関性のある特定の物性、例えば、リジリエンス(Modulus of Resilience)と降伏強度(Yield Strength)を採択し、これらの物性を、従来公知のプラスチック材質及び/又はポリイミドフィルムより高く制御することで復元性を改善しようとしている。これによって、前記ポリイミドフィルムを、折り畳み可能な(foldable)表示装置のカバーウィンドウに適用する場合、スタティックフォールディング(static folding)前と後でのフィルム復元力に優れているとともに、高い信頼性を提供することができる。このような表示装置は、当該分野で公知の表示装置に制限なく適用することができ、特に、インフォールディング(in-folding)、アウトフォールディング(out-folding)型折り畳み可能な表示装置(foldable display)であることができる。
【0032】
本発明の一具体例としては、前記ポリイミドフィルムは、少なくとも1種のジアミン、及び少なくとも1種の酸二無水物を含んで共重合されたものであって、厚さ30~100μmにおいて、ASTM D882に準拠して測定した降伏強度(Yield Strength)が、50~200MPaであり、リジリエンス(Modulus of Resilience:R)が、0.5~5.0MPaであることができる。ここで、リジリエンスは、次の式1により定義されるものであることができる。
【0033】
【数1】
(式中、σは、降伏強度であり、Eは、モジュラスである。)
【0034】
具体的にリジリエンス(R)とは、材料のレオロジー(Rheology)特性のうちの一つであって、永久変形することなく材料が吸収し得る単位体積当たりのエネルギーを意味する。例えば、所定の材料に変形を加えた時、小さな変形量での変形が弾性的であるが、ある条件下で、弾性変形から塑性変形に転換されると、これ以上復元できない永久変形が発生してしまう。即ち、リジリエンスは、弾性限度内で材料の単位体積当たりの貯蔵可能な最大エネルギーであって、即ち、弾性回復力を意味する。本発明において制御しようとするリジリエンス(R)、降伏強度(Yield Strength)、後述の降伏歪み(Yield Strain)などの物性は、応力-歪み曲線(Stress-Strain Curve:S-S Curve)を通じて知ることができる。このような応力-歪み曲線(S-S Curve)は、高分子材料の引張実験によって高分子材料に加えられた応力(stress)と、この応力に対応して示される高分子材料の歪み(strain)との関係を示すグラフ上の曲線であって、高分子材料の変形増加に伴って要求される応力量の変化を示す曲線であるともいえる。図1に示されるように、一般に、横軸(例えば、x軸)を引張歪み(strain)とし、縦軸(例えば、y軸)を応力(引張強度、stress)としている。
【0035】
本発明において、前記リジリエンス(Modulus of Resilience)及び降伏強度(Yield Strength)のパラメータ及びその数値は、当該ポリイミドフィルムの厚から影響を受ける。このようなリジリエンス及び降伏強度の数値は、当該ポリイミドフィルムの厚さ30~100μmを基準にして測定されるものであって、具体的に30~90μm、より具体的に80±5μmであることができる。
【0036】
具体的に、本発明に係るポリイミドフィルムは、降伏強度(Yield Strength)が50~195MPa、リジリエンス(R)が0.5~4.0MPaであることができ、より具体的に降伏強度(Yield Strength)が100~190MPa、リジリエンス(R)が2.0~3.5MPaであることができる。前記リジリエンスと降伏強度のパラメータを満足する本発明のポリイミドフィルムでは、永久変形が発生することなく、高弾性を確保し、優れた復元特性を示すことができる。
【0037】
本発明に係るポリイミドフィルムがモバイル通信端末やタブレットPCなどのカバーウインドウに使用されるためには、前記リジリエンス及び降伏強度特性と共に、優れた柔軟性、高透明度、及び光透過率などの優れた光学特性と、高い機械的特性とを同時に有することが好ましい。
【0038】
特に、本発明のポリイミドフィルムは、従来公知のプラスチック材質及び/又はポリイミドフィルムに対して、高い降伏強度と高い屈曲特性とを同時に有することを他の特徴としている。このようなポリイミドフィルムを、インフォールディング(in-folding)型折り畳み可能なモバイルフォンのカバーウインドウに適用する場合、高屈曲特性と高強度が得られるため、優れた耐折強度(folding endurance)効果を奏することができる。
【0039】
一具体例としては、前記ポリイミドフィルムは、ASTM D882に準拠して測定された当該フィルムの応力-歪み曲線(Stress-Strain Curve)において、引張強度20~40MPaの区間傾きに対して少なくとも80%に対応する閾値の歪みと定義される降伏歪み(Yield Stress:Y/S)が、2.0%~5.0%であることができる。
【0040】
本明細書中、降伏歪みとは、ASTM D882に準拠して測定された当該ポリイミドフィルムの応力-歪み曲線(Stress-Strain Curve)において、特定の引張強度の区間(例えば、20~40MPa)における応力-歪み勾配(Stress-Strain slope、X)に対して少なくとも80以上を有する所定の閾値(threshold slope、X≧X×0.8)のx切片値、即ち、引張歪み(Tensile strain)と定義される(図1を参照)。このような降伏歪みは、本発明において新規に定義されたものであって、ポリイミドフィルムが有する特定の組成に起因する固有物性であるため、従来のポリイミドフィルムとは区別される特徴であるといえる。
【0041】
具体的に、25℃で測定する引張試験により得られた応力-歪み曲線(S-S Curve)において、前記ポリイミドフィルムの降伏歪み(Y/S)は、2.0%~4.8%であることができる。当該降伏歪み(Y/S)は、屈曲耐性を向上させるという点から、2.0%~4.0%であることが好ましく、より好ましくは、2.0~3.8%である。このような降伏歪み(Y/S)パラメータを満足するポリイミドフィルムでは、柔軟性が著しく優れているため、繰り返される屈曲疲労によるクラックの発生を抑制し、優れた屈曲性を示すことができる。
【0042】
他の一具体例としては、前記ポリイミドフィルムは、フィルム厚さ30~100μmを基準に、曲率半径1~10mmで、フィルムに屈曲を72時間施した後の最初復元高さ(H)が、5cm以下であり、1時間経過後の復元高さ(H)が、3cm以下であることができる。具体的に、最初復元高さ(H)は、3cm以下であり、1時間経過後の復元高さ(H)は、0.5cm以下であることができる。この時、最初又は1時間経過後の当該フィルムの復元高さの下限値は、特に限定されず、例えば、0cm以上であることができる。
【0043】
また他の一具体例としては、前記ポリイミドフィルムは、曲率半径1mm~5mmで当該フィルムを屈曲させた時、破断するまでの屈曲回数が、100,000回以上であることができる。特に、曲率半径1mmで屈曲させた時、破断するまでの屈曲回数が10万回以上、具体的に20万回以上、好ましくは百万(1,000,000)回以上であることができる。この時、破断するまでの屈曲回数のばらつきの上限値は、特に限定されず、例えば、3,000,000回以下、具体的に2,500,000回以下であることができる。
【0044】
本発明に係るポリイミドフィルムは、ディスプレイの耐スクラッチ性、信頼性などを考慮して、高いモジュラスの優れた機械的特性を有することが好ましい。
【0045】
一具体例としては、前記ポリイミドフィルムは、3~8GPaのモジュラス(modulus)を有し、機械的硬度と優れた柔軟性とを同時に示すという点から、3.5~7GPaであることができる。ここで、モジュラス(modulus)は、ASTM D882に準拠して測定した値を意味する。前記モジュラスが、上述の数値より小さい場合、十分な硬度を発揮しにくく、上述の数値より大きい場合、柔軟性が低下し、折り畳み性が低下する。
【0046】
本発明に係るポリイミドフィルムは、ディスプレイ画面の視認性を向上させるため、高い透明度と光透過率などの優れた光学特性を同時に有することが好ましい。
【0047】
一具体例としては、前記ポリイミドフィルムは、厚さ30~100μmにおいて、波長550nmでの光透過率が85%以上であり、具体的に89%以上、より具体的に90%~99%以上であることができる。また、ASTM E313-73規格に準拠した黄色度(Y.I.)が10以下であり、具体的に7以下、より具体的に5以下であることができる。
【0048】
本明細書中、ポリイミドフィルムの上述のような物性は、特に断りのない限り、当該フィルム厚さ10~100μmを基準とし、具体的に30~80μmであることができる。しかし、前記厚さ範囲に限定されず、当該分野で周知の厚さ範囲内で適宜調節することができる。
【0049】
本発明に係るポリイミドフィルムは、前記リジリエンス及び降伏強度特性を満たすものであれば、ポリイミド樹脂を構成する成分及び/又はその組成などに特に制限はない。
【0050】
例えば、前記ポリイミドフィルムは、少なくとも1種のジアミン、及び少なくとも1種の酸二無水物を含んで共重合されたものであって、具体的に、ジアミン、酸二無水物、必要に応じて溶剤を含むポリアミック酸組成物を、高温でイミド化及び熱処理を行って製造されたものである。
【0051】
一般に、ポリイミド(polyimide:PI)樹脂とは、芳香族酸二無水物と芳香族ジアミン又は芳香族ジイソシアネートとを溶液重合してポリアミック酸誘導体を製造した後、高温で閉環脱水させ、イミド化して製造される高耐熱樹脂を指称する。このようなポリイミド樹脂は、イミド環を含有する高分子物質であって、イミド環が化学的に安定しているため、優れた耐熱性、耐化学性、及び電気的特性を有する。前記ポリイミド樹脂は、ランダム共重合体(random copolymer)やブロック共重合体(block copolymer)形態であることができる。
【0052】
本発明のポリイミドフィルムを構成するジアミン(a)成分としては、分子中にジアミン構造を有するものであれば、特に限定されず、当該分野で周知のジアミン化合物を制限なく使用することができる。例えば、ジアミン構造をもっている芳香族、脂環族、脂肪族化合物、又はこれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0053】
特に、本発明では、ポリイミドフィルムの高いリジリエンスと降伏強度、高屈曲性、モジュラスなどの機械的特性、及び高光透過度(High Transmittance)、低いY.I.、低いヘイズ(Haze)などの光学特性を考慮して、少なくとも1種の芳香族ジアミンを使用し、又は前記芳香族ジアミンと脂環族ジアミンとを混用することができる。
【0054】
前記芳香族ジアミンの具体例としては、フッ素化置換基を有するフッ素系、スルホン(sulfone)系、ヒドロキシ(hydroxyl)系、エーテル(ether)系、非フッ素系などのジアミンが挙げられる。従って、本発明では、ジアミン化合物として、フッ素置換基が導入されたフッ素化芳香族第1のジアミン、スルホン系芳香族第2のジアミン、ヒドロキシ系芳香族第3のジアミン、エーテル系芳香族第4のジアミン、非フッ素系芳香族第5のジアミンを、それぞれ単独で使用、又はこれらを適宜組み合わせて2種以上の混合形態で使用することができる。
【0055】
使用可能なジアミン単量体(a)としては、例えば、オキシジアニリン(ODA)、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(2,2’-TFDB)、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,3’-ジアミノビフェニル(2,2’-bis(trifluoromethyl)-4,3’-diaminobiphenyl)、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-5,5’-ジアミノビフェニル(2,2’-bis(trifluoromethyl)-5,5’-diaminobiphenyl)、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノフェニルエーテル(2,2’-bis(trifluoromethyl)-4,4’-diaminodiphenyl ether:6-FODA)、ビスアミノヒドロキシフェニルヘキサフルオロプロパン(DBOH)、ビスアミノフェノキシフェニルヘキサフルオロプロパン(4BDAF)、ビスアミノフェノキシフェニルプロパン(6HMDA)、ビスアミノフェノキシジフェニルスルホン(DBSDA)、ビス(4-アミノフェニル)スルホン(4,4’-DDS)、ビス(3-アミノフェニル)スルホン(3,3’-DDS)、スルホニルジフタル酸無水物(SO2DPA)、4,4’-オキシジアニリン(4,4’-ODA)、又はこれらの1種又は2種以上の混合形態などを適用することができるが、これらに制限されない。
【0056】
ポリイミドフィルムの高い透明性、高いガラス転移温度、及び低い黄色度を考慮して、フッ素化第1のジアミンとしては、直線状の高分子化を誘導し得る、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(2,2’-TFDB)、1,4-ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン(6-FAPB)を使用することができる。また、スルホン系第2のジアミンとしては、ビス(4-アミノフェニル)スルホン(4,4’-DDS)、又は3,3’-DDSを使用することができる。また、ヒドロキシ系第3のジアミンとしては、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(2,2-bis(3-amino-4-hydroxyphenyl)-hexafluoropropane:BIS-AP-AF)を使用することができる。また、エーテル系第4のジアミンとしては、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノフェニルエーテル(6-FODA)、又はオキシジアニリン(ODA)を使用することができる。また、非フッ素系第5のジアミンとしては、2,2-ビス(3-アミノ-4-メチルフェニル)-ヘキサフルオロプロパン(2,2-bis(3-amino-4-methylphenyl)-hexafluoropropane:BIS-AT-AF)、m-トリジン(m-tolidine)、又はp-フェニルジアミン(p-PDA)を使用することができる。
【0057】
本発明のジアミン単量体(a)において、前記フッ素化芳香族第1のジアミン、スルホン系芳香族第2のジアミン、ヒドロキシ系芳香族第3のジアミン、エーテル系芳香族第4のジアミン、非フッ素系芳香族第5のジアミンなどの含有量は、特に限定されないが、それぞれ、全ジアミン100モル%に対して、0~100モル%であることができ、具体的に10~90モル%、より具体的に20~80モル%である。但し、前記第1のジアミン乃至第5のジアミンのうちのいずれか1つの含有量は、全ジアミン100モル%を満たすように含まれている。
【0058】
本発明の一具体例では、前記ジアミン単量体(a)として、フッ素化第1のジアミンとエーテル系第4のジアミンとを混用することができる。この時、これらの使用割合は、特に制限されず、例えば、50~90:10~50モル%の割合であることができる。
【0059】
本発明の他の一具体例では、前記ジアミン単量体(a)として、少なくとも1種のフッ素化第1のジアミンを混用することができる。この時、これらの使用割合は、50~90:10~50モル%の割合であることができるが、これらに制限されない。
【0060】
脂環族ジアミンは、分子中に脂環族環を少なくとも1つ以上含むものであれば、特に制限されない。使用可能な脂環族ジアミンとしては、例えば、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン(2,2-bis(3-amino-4-hydroxycyclohexyl)hexafluoropropane)、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン(MACM)、4,4’-メチレンビシクロヘキシルアミン(PACM)、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,3-BAC)、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(1,4-BAC)、シス-1,2-シクロヘキサンジメタンアミン、トランス-1,2-シクロヘキサンジメタンアミン、1,4-シクロヘキシルジアミン(1,4-cyclohexyldiamine:CHDA)、ビス(4-アミノシクロヘキシル)エーテル、又はこれらの混合物などを使用することができるが、これらに制限されない。
【0061】
本発明では、ジアミン単量体(a)として、芳香族ジアミンと脂環族ジアミンとを混用することができ、この時、これらの混合割合は、ポリイミドフィルムの物性を考慮して適宜調節することができる。例えば、芳香族ジアミンと脂環族ジアミンとの混合割合は、全ジアミン100モル%に対して、0~100:100~0モル%の割合であり、具体的に10~90:90~10モル%の割合であることができる。
【0062】
本発明のポリイミドフィルムを構成する酸二無水物(b)単量体としては、分子中に酸二無水物構造を有する当該分野で周知の化合物を制限なく使用することができる。例えば、酸二無水物(dianhydride)構造をもっている芳香族、脂環族、脂肪族化合物、又はこれらの組み合わせなどを使用することができ、具体的に少なくとも1種の芳香族酸二無水物を使用、又は前記芳香族酸二無水物と脂環族酸二無水物とを混用することができる。
【0063】
前記芳香族酸二無水物の具体例としては、フッ素化芳香族第1の酸二無水物、非フッ素化芳香族第2の酸二無水物、スルホン系芳香族第3の酸二無水物などが挙げられる。従って、本発明では、酸二無水物化合物として、フッ素置換基が導入されたフッ素化芳香族第1の酸二無水物、非フッ素化芳香族第2の酸二無水物、スルホン系芳香族第3の酸二無水物を、それぞれ単独で使用、又はこれらを適宜組み合わせて2種以上の混合形態で使用することができる。
【0064】
前記フッ素化第1の酸二無水物単量体としては、フッ素置換基が導入された芳香族酸二無水物であれば、特に限定されない。使用可能なフッ素化第1の酸二無水物としては、例えば、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物(2,2-bis(3,4-dicarboxyphenyl)hexafluoropropane dianhydride:6-FDA)、4-(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物(4-(trifluoromethyl)pyromellitic dianhydride:4-TFPMDA)などが挙げられるが、これらに制限されない。これらは、単独で使用、又は2種以上を混用することができる。フッ素化酸二無水物のうち、6-FDAは、分子鎖間及び分子鎖内の電荷移動錯体(CTC:Charge Transfer Complex)の形成を制限する特性が非常に高いため、透明化に適した化合物である。
【0065】
また、非フッ素化第2の酸二無水物単量体としては、フッ素置換基が導入されていない非フッ素化芳香族酸二無水物であれば、特に限定されない。使用可能な非フッ素化第3の酸二無水物単量体としては、例えば、ピロメリット酸二無水物(pyroellitic dianhydride:PMDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(3,3’,4,4’-biphenyl tetracarboxylic acid dianhydride:BPDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、4,4-(4,4-イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)(BPADA)、ビス(カルボキシフェニル)ジメチルシラン酸二無水物(bis(3,4dicarboxyphenyl)dimethylsilane dianhydride:SiDA)などが挙げられるが、これらに制限されない。これらは、単独で使用、又はこれらの2種以上を混用することができる。
【0066】
また、スルホン系第3の酸二無水物単量体としては、スルホン基が導入された酸二無水物であれば、特に限定されず、例えば、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(3,3’,4,4’-diphenylsulfonetetracarboxylic dinhydride:DSDA)が挙げられる。
【0067】
本発明の酸二無水物単量体(b)において、前記フッ素化芳香族第1の酸二無水物、非フッ素化芳香族第2の酸二無水物、スルホン系芳香族第3の酸二無水物の含有量は、特に限定されない。例えば、これらは、それぞれ、全酸二無水物100モル%に対して、0~100モル%の範囲で含むことができ、具体的に10~90モル%であり、より具体的に20~80モル%である。但し、第1の酸二無水物乃至第3の酸二無水物のうちの少なくとも1つの含有量は、全酸二無水物100モル%を満たすように含まれている。
【0068】
脂環族(alicyclic)酸二無水物は、化合物中、芳香族環でなく脂環族環を有するとともに酸二無水物構造を有する化合物であれば、特に制限されない。使用可能な脂環族酸二無水物としては、例えば、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物(CPDA)、ビシクロ[2,2,2]-7-オクテン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物(BCDA)、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸二無水物(TDA)、1,1’-ビシクロヘキサン-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物(H-BPDA)、1,2,4,5-シクロヘキサン-テトラカルボン酸二無水物(H-PMDA)、シクロペンタノン ビス-スピロノルボルナン(cyclopentanone bis-spironorbornane:cpODA)、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボキシ2,3:5,6-酸二無水物(7CI、8CI)、又はこれらの1種以上の混合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0069】
本発明では、酸二無水物単量体(b)として、芳香族酸二無水物と脂環族酸二無水物とを混用することができ、この時、これらの混合割合は、ポリイミドフィルムの物性を考慮して、適宜調節することができる。例えば、芳香族酸二無水物と脂環族酸二無水物との混合割合は、全酸二無水物100モル%に対して、0~100:100~0モル%の割合であることができ、具体的に10~90:90~10モル%の割合である。
【0070】
本発明の一具体例では、前記酸二無水物(b)として、フッ素化芳香族第1の酸二無水物と脂環族酸二無水物とを、又はフッ素化芳香族第2の酸二無水物と非フッ素化芳香族第2の酸二無水物とを混用することができる。この時、これらの使用割合は、特に制限されず、例えば、10~90:90~10モル%の割合であることができ、具体的に30~80:70:20モル%の割合である。
【0071】
本発明の他の一具体例では、前記酸二無水物(b)として、脂環族酸二無水物と非フッ素化芳香族第2の酸二無水物とを混用することができる。この時、これらの使用割合は、30~80:20~70モル%の割合であることができるが、これらに制限されない。
【0072】
本発明の好適な他の一例としては、前記酸二無水物(b)として、少なくとも1種の非フッ素化芳香族第2の酸二無水物を混用することができる。この時、これらの使用割合は、50~80:20~50モル%の割合であることができるが、これらに制限されない。
【0073】
本発明のポリイミドフィルムを構成するポリアミック酸組成物において、前記ジアミン成分(a)のモル数と前記酸二無水物成分(b)のモル数との比(a/b)は、0.7~1.3であることができ、好ましくは、0.8~1.2、より好ましくは、0.9~1.1の範囲である。
【0074】
本発明のポリアミック酸組成物は、前記単量体の溶液重合反応を行うための溶媒として、当該分野で公知の有機溶媒を制限なく使用することができる。使用可能な溶媒としては、例えば、m-クレゾール、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、ジエチルアセテート、及びジメチルフタレート(DMP)のうちから選択される1つ以上の極性溶媒を使用することができる。その他に、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルムのような低沸点溶液、又はγ-ブチロラクトンのような溶媒を使用することができる。この時、溶媒(重合用第1の溶媒)の含有量は、特に制限されないが、適切なポリアミック酸組成物(ポリアミック酸溶液)の分子量と粘度を得るため、ポリアミック酸組成物の全重量に対して、50~95重量%が好ましく、より好ましくは、70~90重量%の範囲である。
【0075】
前記ポリアミック酸組成物は、少なくとも1種の酸二無水物と、少なくとも1種のジアミンとを有機溶媒に投入した後、反応させて製造することができ、例えば、ポリイミドの物性を改善するため、ジアミン(a)と酸二無水物(b)とを、当量比がおよそ1:1になるように調節することができる。このようなポリアミック酸組成物の組成は、特に制限されず、例えば、ポリアミック酸組成物の全重量100重量%に対して、酸二無水物2.5~25.0重量%、ジアミン2.5~25.0重量%、及び組成物100重量%中の残部としての有機溶媒を含んで構成することができる。ここで、有機溶媒の含有量は、70~90重量%であることができる。また、前記ポリアミック酸組成物は、当該固形分100重量%に対して、酸二無水物30~70重量%、及びジアミン30~70重量%の範囲で含まれるが、これらに制限されない。
【0076】
上述のように構成されるポリアミック酸組成物は、約1,000~200,000cps、好ましくは、約5,000~50,000cps範囲の粘度を有することができる。ポリアミック酸組成物の粘度が上述の範囲内である場合、ポリアミック酸組成物のコーティングを行う時、厚さの調節が容易であり、かつ均一なコーティング表面が得られる。
【0077】
必要に応じて、前記ポリアミック酸組成物は、本発明の目的と効果を顕著に損なわない範囲で、可塑剤、酸化防止剤、難燃剤、分散剤、粘度調節剤、レベリング剤などの少なくとも1種の添加剤を少量加えることができる。
【0078】
本発明に係るポリイミド樹脂フィルムは、当該分野で周知の常法に従って製造することができ、例えば、前記ポリアミック酸組成物を、基材(substrate)、例えば、ガラス基板上にコーティング(キャスティング)した後、30~350℃の範囲で徐々に昇温しながら、0.5~8時間イミド閉環反応(Imidazation)を誘導させ、製造することができる。
【0079】
なお、コーティング方法は、当業界で周知の常法を制限なく使用することができ、例えば、スピンコーティング(spin coating)法、ディップコーティング(dip coating)法、溶媒キャスティング(Solvent casting)法、スロットダイコーティング(slot die coating)及びスプレーコーティング法からなる群から選択される少なくとも1つの方法により行うことができる。前記無色透明なポリイミド樹脂層の厚さは、数百nm~数十μmになるように、ポリアミック酸組成物を少なくとも1回以上コーティングすることができる。
【0080】
本発明に係るポリイミドフィルムの製造方法において、重合されたポリアミック酸を支持体にキャスティングしてイミド化するステップに適用されるイミド化法としては、熱イミド化法、化学イミド化法、又は熱イミド化法と化学イミド化法とを併用して適用することができる。
【0081】
熱イミド化法は、ポリアミック酸組成物(ポリアミック酸溶液)を支持体上にキャスティングし、3~400℃の温度範囲で徐々に昇温しながら、1~10時間加熱してポリイミドフィルムを得る方法である。
【0082】
また、化学イミド化法は、ポリアミック酸組成物に酢酸無水物などの酸無水物に代表される脱水剤と、イソキノリン、β-ピコリン、ピリジンなどのアミン類などに代表されるイミド化触媒とを投入する方法である。このような化学イミド化法に熱イミド化法又は熱イミド化法を併用する場合、ポリアミック酸組成物の加熱条件は、ポリアミック酸組成物の種類、製造されるフィルムの厚さなどによって変動する。
【0083】
前記熱イミド化法と化学イミド化法とを併用する場合についてより具体的に説明すると、ポリアミック酸組成物に脱水剤及びイミド化触媒を投入して支持体上にキャスティングした後、80~300℃、好ましくは150~250℃で加熱し、脱水剤及びイミド化触媒を活性化することで部分的に硬化及び乾燥した後、ポリイミドフィルムが得られる。
【0084】
このように形成されたポリイミドフィルムの厚さは、特に制限されず、適用される分野によって適宜調節することができる。例えば、10~150μmの範囲であることができ、好ましくは、30~100μmの範囲である。
【0085】
上述のように製作された本発明のポリイミドフィルム及びその変形例は、高い復元性と高屈曲特性、優れた光学特性が要求される種々の分野において有用に使用可能である。特に、ディスプレイ装置のカバーウインドウ(Cover Window)に適用されることで、表面の傷を防止し、フレキシブル表示装置に優れた柔軟性と視認性を付与することができる。
【0086】
本発明において、ディスプレイ装置とは、画像を表示するフレキシブル表示装置又は非フレキシブル表示装置を指称し、フラットパネル表示装置(FPD:Flat Panel Display Device)だけでなく、曲面表示装置(Curved Display Device)、折り畳み可能な表示装置(Foldable Display Device)、フレキシブル表示装置(Flexible Display Device)、折り畳み可能な携帯電話、スマートフォン、モバイル通信端末やタブレットPCなどが挙げられる。具体的に前記ディスプレイ装置は、液晶表示装置(Liquid Crystal Display)、電気泳動表示装置(Electrophoretic Display)、有機発光表示装置(Organic Light Emitting Display)、無機EL表示装置(Inorganic Light Emitting Display)、電界放出表示装置(Field Emission Display)、表面伝導型電子放出表示装置(Surface-conduction Electron-emitter Display)、プラズマ表示装置(Plasma Display)、陰極線管表示装置(Cathode Ray Display)、電子ペーパーなどが挙げられる。一具体例としては、LCD、PDP、OLEDなどのフラットパネル表示装置であることができる。上述の用途に限定されず、本発明のポリイミドフィルムは、当該分野で周知のディスプレイ装置に適用可能であり、その他、フレキシブル表示装置用基板や保護膜に活用することもできる。
【0087】
上述のポリイミドフィルムが備えられるディスプレイ装置の一具体例としては、ディスプレイ部、偏光板、タッチスクリーンパネル、カバーウインドウ、及び保護フィルムを含み、前記カバーウィンドウは、本発明の一実施例に係るポリイミドフィルムを含むことができる。ここで、ディスプレイ装置を構成する各構成要素は、特に制限されず、当該分野で周知の構成要素を含むことができる。
【実施例
【0088】
以下、具体的な実施例に基づいて本発明を詳述する。後述の実施例は、本発明の理解を助けるための例示に過ぎず、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されない。
【0089】
[実施例1~4.ポリイミドフィルムの製造]
下記表1に記載のジアミンと酸二無水物とを含む組成を用いて、ポリアミック酸組成物を製造した。
【0090】
前記ポリアミック酸組成物を、LCD用ガラス板にバーコーター(Bar Coater)を用いてコーティングした後、窒素雰囲気のコンベクションオーブン中で、80℃で30分、150℃で30分、イミド閉環反応(imidazation)を行った。これによって、イミド化率が85%以上である膜厚さ80μmのポリイミドフィルムが得られた。次に、ガラス板からポリイミドフィルムを分取した。
【0091】
【表1】
【0092】
[比較例1~4.ポリイミドフィルムの製造]
前記表1に記載の組成を使用した以外は、前記実施例1~4と同様にして比較例1~4のポリイミドフィルムをそれぞれ製造した。
【0093】
[実験例.物性評価]
実施例1~4及び比較例1~4で製造されたポリイミド樹脂フィルムの物性を、後述のような方法で評価し、その結果を下記表2に示す。なお、下記表2中の各物性は、厚さ50μmを基準にしている。
【0094】
<物性評価方法>
1)光透過度の測定
550nm波長において、UV-Vis NIRスペクトロフォトメーター(島津製、型番:UV-3150)を用いて測定した。
【0095】
2)黄色度の測定
分光測色計(コニカミノルタ製、型番:CM-3600A)を用いて、500nmでの黄色度を、ASTM E131-73規格に準拠して測定した。
【0096】
3)厚さの測定
厚さ測定器(ミツトヨ製、型番:547-401)を用いて、フィルムの厚さを測定した。
【0097】
4)モジュラスの測定
UTM(インストロン製、型番:5942)を用いて、ASTM D882規格に準拠して引張強度(MPa)、弾性率(GPa)を測定した。
【0098】
5)降伏歪み(Yield Strain)の測定
UTM(インストロン製、型番:5942)を用いて、ASTM D882規格に準拠して20~40MPaの区間において応力-歪み曲線の勾配(Stress-Strain slope threshold、X)を基準に、80%以上一致する閾値(X≧X×0.8)に対応する歪みStrain、x値)を測定した。
【0099】
6)リジリエンス
前記モジュラスと降伏強度(Yield Strength)を用いて、次の式によってリジリエンスを計算した。この時、降伏強度は、降伏点のYield/Stregthであって、前記降伏歪みと同様にして計算された。
【0100】
【数2】
(式中、σは、降伏強度であり、Eは、モジュラスである。)
【0101】
7)屈曲特性(Dynamic Folding cycle)の測定
面状体無負荷U字伸縮試験装置(DLDMLS-FS、YUASA製)を用いて屈曲特性を測定し、曲率半径を1mm~5mmに調節してフォールディングサイクル(Folding cycle)を測定した。
【0102】
8)復元力の測定
スタティックフォールディングホールダー(Static Folding Holder、曲率半径1~10nm)に準備されたサンプルを固定し、72時間静置した後、当該サンプルを取り出し、経時によるフィルムの高さ変化を測定して復元力を確認した。
【0103】
【表2】
【0104】
前記表2に示されたように、本発明に係るポリイミドフィルムは、比較例に比べて、高いリジリエンス、降伏強度、及び降伏歪み特性を示すと共に、優れた復元力と高い屈曲性とを同時に示すことがわかった。また、優れた透明性、機械的特性及び熱膨張係数を有することがわかった。従って、本発明のポリイミドフィルムは、ディスプレイ装置のカバーウィンドウに有用に適用可能であることが確認された。
図1