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  • 特許-エンジンの制御装置及び車両 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】エンジンの制御装置及び車両
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20230501BHJP
   F02D 19/02 20060101ALI20230501BHJP
   F02D 19/06 20060101ALI20230501BHJP
   F02M 21/02 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
F02D45/00 368A
F02D19/02 A
F02D19/06 B
F02D45/00 369
F02M21/02 L
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021170414
(22)【出願日】2021-10-18
(65)【公開番号】P2023060688
(43)【公開日】2023-04-28
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000153122
【氏名又は名称】株式会社ニッキ
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 操
(72)【発明者】
【氏名】後藤 康二
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 武相
(72)【発明者】
【氏名】足立 良太
【審査官】池田 匡利
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-082741(JP,A)
【文献】特開2011-012551(JP,A)
【文献】特開2004-162649(JP,A)
【文献】特開2003-148187(JP,A)
【文献】特開2021-092202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
F02D 19/02
F02M 21/02
F02D 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料としての液化天然ガスと圧縮天然ガスと切り替えて使用することが可能なエンジンの制御装置において、
前記エンジンのノッキングを回避するための点火リタード制御量を示す進角値を取得する取得部と、
取得された前記進角値を示す指標値に基づいて、前記液化天然ガスのメタン価を推定する推定部と、
前記進角値が0よりも低い場合、推定された前記メタン価に基づいて、前記燃料を前記液化天然ガスから前記圧縮天然ガスに切り替える制御を実行する制御部と、
を備える、
エンジンの制御装置。
【請求項2】
前記取得部は、前記エンジンが有する複数の気筒のそれぞれにおける前記進角値を取得し、
取得された前記複数の気筒のそれぞれにおける前記進角値の中の他の気筒よりも低い二以上の気筒のそれぞれにおける前記進角値の平均値を、前記指標値として算出する指標値算出部をさらに備える、
請求項1に記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
前記指標値をエンジン回転数およびエンジン負荷に基づいて補正する指標値補正部をさらに備え、
前記推定部は、前記指標値補正部により補正された前記指標値に基づいて、前記液化天然ガスのメタン価を推定する、
請求項1または2に記載のエンジンの制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のエンジンの制御装置を備える、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジンの制御装置及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
液化天然ガス(Liquefied Natural Gas:LNG)を燃料として使用するエンジンが搭載されたLNG車が知られている。LNG車には、LNGを貯留するためのタンクが搭載されている。タンクに貯留されたLNGは、エンジンに供給され、エンジンで燃焼されて消費される(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平08-158950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、LNG燃料(以下、燃料)は、メタン、エタン、プロパン、ブタン等の成分を有している。各成分の沸点は、相互に異なる。タンク内のメタンがボイルオフし、燃料性状が変化(重質化)した燃料は、メタンが抜けたメタン価の低下した燃料であるため、オットーサイクルの燃料として使用する場合、燃料燃焼時にノッキングが発生し易くなる。その結果、燃費の悪化や、エンジンの故障などが発生する場合がある。
【0005】
ノッキングが発生する時にノックセンサからの信号を演算し、気筒別の点火リタード制御を行いノッキングの発生を回避する。
【0006】
LNG燃料に含まれる成分および成分の割合である性状の変化によってメタン価が低下するとき、ノッキングの発生を起点に点火リタード制御を行うため、大きなメタン価の変化が起こった場合、過大なノッキングが発生し、エンジンの不調が発生するおそれがある。そのため、メタン価を推定する必要がある。
【0007】
本開示の目的は、LNG燃料のメタン価を推定することが可能なエンジンの制御装置および車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本開示におけるエンジンの制御装置は、
燃料としての液化天然ガスと圧縮天然ガスと切り替えて使用することが可能なエンジンの制御装置において、
前記エンジンのノッキングを回避するための点火リタード制御量を取得する取得部と、
取得された前記点火リタード制御量を示す指標値に基づいて、前記液化天然ガスのメタン価を推定する推定部と、
前記進角値が0よりも低い場合、推定された前記メタン価に基づいて、前記燃料を前記液化天然ガスから前記圧縮天然ガスに切り替える制御を実行する制御部と、
を備える。
【0009】
本開示における車両は、上記のエンジンの制御装置を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、LNG燃料のメタン価を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の実施の形態におけるエンジンの制御装置の構成の一例を概略的に示す図である。
図2図2は、指標値補正部の構成の一例を示す図である。
図3】気筒における点火リタード制御量を示す指標値および修正指標値のそれぞれの一例を示す図である。
図4】エンジンの制御装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本開示の実施の形態におけるエンジンの制御装置10の構成の一例を概略的に示す図である。
【0013】
車両には、例えば、LNG燃料をエンジン1に供給するLNG燃料供給系統(不図示)が搭載されている。LNG燃料供給系統は、例えば、LNG燃料を貯留するLNGタンク(不図示)と、LNG燃料供給路(不図示)と、LNG燃料を気化させる気化器(不図示)と、LNG燃料供給路を開閉する遮断弁(不図示)と、気化器で気化されたLNG燃料(ガス)を減圧するLNG用レギュレータ(不図示)とを有する。LNG燃料供給路は、遮断弁を介してLNGタンクとLNG用レギュレータとを接続するとともに、LNG用レギュレータとエンジン1とを接続する。エンジン1は、気化されたLNG燃料(ガス)を点火により燃焼させる火花点火式内燃エンジンである。エンジン1は、複数の気筒(不図示)を有している。
【0014】
なお、さらに、車両には、圧縮天然ガス(Compressed Natural Gas:CNG)をエンジン1に供給するCNG燃料供給系統(不図示)が搭載されてもよい。CNG燃料供給系統は、例えば、CNG燃料を貯留するCNGタンク(不図示)と、CNG燃料供給路(不図示)と、CNG燃料供給路を開閉する遮断弁(不図示)と、CNG燃料を減圧するCNG用レギュレータ(不図示)とを有する。CNG燃料供給路は、CNGタンクを遮断弁およびCNG用レギュレータを介してエンジン1に接続する。車両にLNG燃料供給系統とCNG燃料供給系統とが搭載される場合、例えば、LNG燃料のメタン価が低下し、かつ、エンジン1が高負荷状態であるとき、LNG燃料からCNG燃料に切り替えて使用することが可能となる。
【0015】
ノックセンサ2は、エンジン1のノッキングを検出する。ノックセンサ2は、例えば、エンジンブロック(不図示)の振動を検出する圧電素子を有している。なお、ノックセンサ2の検出結果が制御装置10に入力される。
【0016】
クランクアングルセンサ3は、エンジン回転数を検出する。なお、クランクアングルセンサ3の検出結果が制御装置10に入力される。
【0017】
トルクセンサ4は、例えば、クランク軸の回転変動の度合いに基づいてエンジン負荷を検出する。なお、エンジン負荷は、アクセルペダル開度やスロットル開度に基づいて検出されてもよい。また、トルクセンサ4の検出結果が制御装置10に入力される。
【0018】
制御装置10は、点火プラグ(不図示)の点火時期補正等の各種制御を行うもので、例えば電子制御ユニット100(Electronic Control Unit:ECU)により構成される。ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入力ポート、出力ポート等を備えている。CPUは、ROMに格納されたプログラムをRAMに展開して、後述する各機能を実行する。制御装置10は、取得部11、指標値算出部12、指標値補正部13、推定部14、及び制御部15としての各機能を有する。また、補正用マップ20は、ECU100の記憶部(例えば、ROM)に格納されている。
【0019】
取得部11は、ノックセンサ2から検出結果を取得する。また、取得部11は、クランクアングルセンサ3からエンジン回転数を取得する。また、取得部11は、トルクセンサ4からエンジン負荷を取得する。また、取得部11は、後述する進角値(点火リタード制御量)を取得する。
【0020】
制御部15は、ノックセンサ2の検出結果に基づいて、複数の気筒のそれぞれにおける点火リタード制御量を算出する。ここで、点火リタード制御量とは、点火時期に対する進角値Δθ(°)をいう。制御部15は、進角値(点火リタード制御量)に基づいて点火プラグの点火時期を気筒別に補正する。
【0021】
制御部15は、進角値Δθが0である場合、点火時期を補正しない。これに対して、制御部15は、進角値Δθが-Δθである場合、所定の点火時期(補正が行われない点火時期)よりもΔθだけ遅くするように点火時期を補正する(Δθ遅角する)。また、制御部15は、進角値Δθが-Δθである場合、所定の点火時期よりもΔθだけ遅くするように点火時期を補正する(Δθ遅角する)。ここで、進角値Δθのそれぞれの大きさが0>-Δθ>-Δθである場合、進角値(点火リタード制御量)-Δθは、進角値0よりも低いという。また、進角値-Δθは、進角値-Δθよりも低いという。
【0022】
指標値算出部12は、取得された複数の気筒のそれぞれにおける点火リタード制御量の中の他の気筒よりも低い二以上の気筒のそれぞれにおける点火リタード制御量の平均値を算出する。
【0023】
例えば、複数の気筒のそれぞれの進角値(点火リタード制御量)が0,-Δθ,…,-Δθn-k,-Δθn-(k-1),…,-Δθn-1,-Δθであって、進角値のそれぞれの大きさが0>-Δθ>,…,-Δθ-k>-Δθn-(k-1),…,>-Δn-1>-Δθである場合(n,kは自然数)、指標値算出部12は、他の気筒よりも低いk個の気筒のそれぞれにおける進角値(-Δθn-(k-1),…,-Δθn-1,-Δθ)の和をkで除算した平均値を算出する。以下の説明で、k個の気筒のそれぞれにおける進角値の平均値を「指標値」という。
【0024】
図2は、指標値補正部13の構成の一例を示す図である。
指標値補正部13は、運転状態(エンジン回転数およびエンジン負荷)に基づいて補正用マップ20を参照して指標値(平均値)の補正項を算出する。補正用マップ20は、エンジン回転数およびエンジン負荷と補正量との関係を示すマップであって、実験やシミュレーションにより求めることが可能である。補正項は、運転状態(エンジン回転数、エンジン負荷)取得時の指標値(平均値)を基準となる運転状態(エンジン回転数:1000rpm、エンジン負荷:100Nm)の指標値に修正するためのパラメータである。
【0025】
図3は、気筒における点火リタード制御量を示す指標値(平均値)および修正指標値のそれぞれの一例を示す図である。
指標値補正部13は、指標値(平均値)に補正項を積算することによって修正指標値を算出する。
【0026】
推定部14は、算出された修正指標値に基づいて、予め定められた変換テーブルを参照してLNG燃料のメタン価を推定する。ここで、変換テーブルは、修正指標値とメタン価との関係を示すテーブルをいう。
【0027】
制御部15は、推定されたメタン価が閾値以下に低下し、かつ、エンジン1が高負荷状態である場合、LNG燃料供給路を閉じ、かつ、CNG燃料供給路を開くように、LNG燃料供給系統およびCNG燃料供給系統のそれぞれの遮断弁を制御する。これにより、LNG燃料からCNG燃料への切り替えが行われるため、過大なノッキングの発生や、エンジンの不調の発生を抑えることが可能となる。また、制御部15は、LNG燃料のメタン価が閾値以下に低下した旨が表示されるように表示部(不図示)を制御する。その結果、ユーザーにより、新たなLNG燃料がLNGタンクに充填される。
【0028】
次に、エンジンの制御装置10の動作の一例について図4を参照して説明する。図4は、エンジンの制御装置10の動作の一例を示すフローチャートである。本フローは、エンジン1の始動後に開始され、エンジン1の運転中に所定時間毎に実行される。なお、以下の説明では、制御装置10の各機構をECU100が行うものとして説明する。
【0029】
先ず、ステップS100において、ECU100は、進角値(点火リタード制御量)を取得する。
【0030】
次に、ステップS110において、ECU100は、クランクアングルセンサ3からエンジン回転数を取得する。
【0031】
次に、ステップS120において、ECU100は、トルクセンサ4からエンジン負荷を取得する。
【0032】
次に、ステップS130において、ECU100は、取得された複数の気筒のそれぞれにおける進角値(点火リタード制御量)の中の他の気筒よりも低い二以上の気筒のそれぞれにおける進角値の平均値を算出する(指標値を算出)。
【0033】
次に、ステップS140において、ECU100は、エンジン回転数およびエンジン負荷に基づいて補正用マップを参照して指標値の補正項を算出し、算出した補正項を指標値に積算することによって修正指標値を算出する。
【0034】
次に、ステップS150において、ECU100は、算出された修正指標値に基づいて、予め定められた変換テーブルを参照してLNG燃料のメタン価を推定する。その後、図4に示すフローは終了する。
【0035】
本開示の実施の形態に係るエンジンの制御装置10は、燃料としてのLNG燃料を使用することが可能なエンジンの制御装置10において、エンジン1のノッキングを回避するための点火リタード制御量を取得する取得部11と、取得された点火リタード制御量を示す指標値に基づいて、液化天然ガスのメタン価を推定する推定部14とを備える。
【0036】
上記構成により、推定されたメタン価により適切な点火進角を設定することができるため、過大なノッキングの発生や、エンジンの不調の発生を抑えることが可能となる。さらに、エンジン1のパフォーマンスを適切な状態に維持することが可能となる。
【0037】
また、本開示の実施の形態に係るエンジンの制御装置10では、取得部11は、複数の気筒のそれぞれにおける進角値(点火リタード制御量)を取得し、取得された複数の気筒のそれぞれにおける進角値の中の他の気筒よりも低い二以上の気筒のそれぞれにおける進角値の平均値を、指標値として算出する指標値算出部12をさらに備える。これにより、LNG燃料の性状の変化を確実に検出することができるため、メタン価の低下を検出する確実性を向上させることが可能となる。
【0038】
また、本開示の実施の形態に係るエンジンの制御装置10では、指標値をエンジン回転数およびエンジン負荷に基づいて補正する指標値補正部13をさらに備え、制御部15は、指標値補正部13により補正された修正指標値に基づいて、LNG燃料のメタン価を推定する。これにより、指標値が標準化されるため、メタン価の推定精度を向上させることが可能となる。
【0039】
なお、上記開示の実施の形態では、ECU100がトルクセンサ4からエンジン負荷を取得したが、本開示はこれに限らない。例えば、ECU100がインテークマニホールド圧力よりエンジン負荷を推定してもよい。この場合、インテークマニホールド圧力は、圧力センサにより検出される。
【0040】
その他、上記実施の形態は、何れも本開示の実施をするにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本開示の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本開示はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本開示は、LNG燃料のメタン価を推定することが要求される制御装置を備えた車両に好適に利用される。
【符号の説明】
【0042】
1 エンジン
2 ノックセンサ
3 クランクアングルセンサ
4 トルクセンサ
10 制御装置
11 取得部
12 指標値算出部
13 指標値補正部
14 推定部
15 制御部
20 補正用マップ
100 ECU
図1
図2
図3
図4