(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】コンクリート補強用繊維
(51)【国際特許分類】
C04B 16/06 20060101AFI20230501BHJP
B29C 48/05 20190101ALI20230501BHJP
B29C 48/345 20190101ALI20230501BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20230501BHJP
D01F 6/46 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
C04B16/06 A
B29C48/05
B29C48/345
C04B16/06 E
C04B16/06 Z
C04B28/02
D01F6/46 D
(21)【出願番号】P 2021522538
(86)(22)【出願日】2019-08-29
(86)【国際出願番号】 EP2019073100
(87)【国際公開番号】W WO2020088821
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-07-19
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521169505
【氏名又は名称】アドフィル エヌ.フェー.
【氏名又は名称原語表記】Adfil N.V.
【住所又は居所原語表記】Industriestraat 39, 9240 Zele, Belgium
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アイヴス スヴェネン
(72)【発明者】
【氏名】エツレム アスラン
(72)【発明者】
【氏名】イェレン スメト
(72)【発明者】
【氏名】リエン ファン デア シューレン
(72)【発明者】
【氏名】ルーク ルイス
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-537241(JP,A)
【文献】国際公開第2008/038658(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B7/00-32/02
C04B40/00-40/06
C04B103/00-111/94
D01F6/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
85重量%~98重量%のポリプロピレンおよび2重量%~10重量%のポリカーボネートを含み、EN 14889-2に従って測定されるように、少なくとも600MPaの引張強度および少なくとも6GPaの弾性係数を有することを特徴とする、コンクリート補強用繊維。
【請求項2】
前記繊維が、85重量%~98重量%のポリプロピレン、2重量%~10重量%のポリカーボネート、および5重量%までの相溶化剤を含む、請求項1記載のコンクリート補強用繊維。
【請求項3】
前記繊維が、85重量%~98重量%のポリプロピレン、2重量%~10重量%のポリカーボネート、および5重量%までの相溶化剤を含むブレンドから紡糸される、請求項1または2記載のコンクリート補強用繊維。
【請求項4】
前記繊維が、3重量%~8重量%のポリカーボネート、好ましくは4重量%~6重量%のポリカーボネートを含む、請求項1から3までのいずれか1項記載のコンクリート補強用繊維。
【請求項5】
前記繊維が、1重量%~5重量%の相溶化剤を含み、前記相溶化剤が、好ましくは、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンコポリマー、またはマレイン酸グラフト化ポリマー、好ましくはマレイン酸グラフト化ポリプロピレンポリマーまたはマレイン酸グラフト化スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンコポリマーである、請求項1から4までのいずれか1項記載のコンクリート補強用繊維。
【請求項6】
前記繊維が、EN 14889-2に従って測定されるように、少なくとも300μm、好ましくは500μm~1000μmの範囲の等価繊維直径を有する、請求項1から5までのいずれか1項記載のコンクリート補強用繊維。
【請求項7】
前記繊維が、非円形断面形状、好ましくはドッグボーン断面形状を有する、請求項1から6までのいずれか1項記載のコンクリート補強用繊維。
【請求項8】
前記繊維が、EN 14889-2に従って測定されるように、少なくとも650MPa、より好ましくは少なくとも700MPaの引張強度を有する、請求項1から7までのいずれか1項記載のコンクリート補強用繊維。
【請求項9】
前記繊維が、EN 14889-2に従って測定されるように、少なくとも7GPa、より好ましくは少なくとも8GPa、より好ましくは少なくとも9GPa、最も好ましくは少なくとも10GPaの弾性係数を有する、請求項1から8までのいずれか1項記載のコンクリート補強用繊維。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項記載の繊維を含む、コンクリート要素。
【請求項11】
前記コンクリート要素が、10kg/m
3以下の量、好ましくは5kg/m
3以下の量、より好ましくは4kg/m
3以下の量、最も好ましくは3kg/m
3以下の量の繊維を含む、請求項10記載のコンクリート要素。
【請求項12】
前記コンクリート要素が、3.5mm(f
R,4)の亀裂開口変位で少なくとも1.0MPaのひび割れ後残留曲げ引張強度を有する、請求項10または11記載のコンクリート要素。
【請求項13】
EN 14889-2に従って測定されるように、少なくとも600MPaの引張強度および少なくとも6GPaの弾性係数を有するコンクリート補強用繊維の製造方法であって、85重量%~98重量%のポリプロピレン、2重量%~10重量%のポリカーボネート、および5重量%までの相溶化剤を含むブレンドを押出機に供給する工程、前記ブレンドを1つ以上のキャピラリーを含む紡糸口金を介して押し出して1つ以上の押し出された繊維を形成する工程、前記押し出された繊維を冷却する工程、前記押し出された繊維
を、少なくとも10の延伸比で延伸する工程、および前記繊維を所定長さに切断する工程を含
む、方法。
【請求項14】
前記ブレンドが、3重量%~8重量%のポリカーボネート、好ましくは4重量%~6重量%のポリカーボネートを含む、請求項13記載のコンクリート補強用繊維の製造方法。
【請求項15】
前記ブレンドが、単一スクリュー押出機に供給される、請求項13または14記載のコンクリート補強用繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
説明:
本発明は、コンクリート補強用の合成繊維に関する。
【0002】
繊維補強コンクリート(FRC)は、新しい概念ではない。聖書の時代以来、繊維は、藁や馬毛の形で建設材料を接着するのに使用されていた。近年、アスベスト繊維は、壁パネル、屋根およびゲートなどの構造部材に広く使用されていた。1960年初頭にアスベスト繊維の製造および使用による健康リスクが明らかになり、代替繊維が代替品として導入された。
【0003】
アスベスト繊維に次いで、スチール繊維は、鉄筋補強に代わる可能性のある最初の選択肢の1つであり、1874年に最初の特許が申請された。しかしながら、これらの繊維の大規模な使用が米国、日本および欧州で注目されたのは、1970年初頭になってからだった。
【0004】
繊維は、コンクリートの機械的特性を高め、コンクリートの体積安定性を改善し、かつコンクリートの収縮による亀裂を防止するためにコンクリートに使用されている。それらは、また、乾燥割れや塑性収縮割れの発生を最小限に抑え、コンクリートの耐火性、耐衝撃性、および耐摩耗性を向上させることによりコンクリートの特性を改善する。
【0005】
スチール繊維に比べて、合成繊維には、腐食性がなく、したがって湿気の多い環境でも耐久性があるという利点がある。
【0006】
合成繊維、特にポリプロピレン繊維は、コンクリート補強用繊維として、特に圧縮荷重を受けるコンクリート、例えばサブフロアに適用されるコンクリート床スラブ、またはショットクリート用途に使用され得る。合成繊維は、概して、コンクリート中の亀裂の形成を防止、または少なくとも低減するために、かつ/またはコンクリートのひび割れ後残留曲げ引張強度を増加させるために適用され、これにより、コンクリートのひび割れ後の変形を低減することができる。
【0007】
ポリプロピレン(PP)繊維は、様々な形で、特に短繊維として、コンクリートに適用することができ、短繊維は、小さいまたは大きい繊維径および/または様々な表面構造を有する。
【0008】
比較的小径のポリプロピレン繊維は、一般に「マイクロファイバー」として知られている。EN14889コンクリート用繊維、パート2:ポリマー繊維に従って測定した、マイクロファイバーの等価繊維径は、10μm未満から約300μmの範囲である。ポリプロピレン(PP)のマクロファイバーは、少なくとも300μmの等価繊維径を有する。
【0009】
ポリプロピレンマクロファイバーは、特にコンクリートのひび割れ後挙動を改善するために適用されている。それらは、地面支持床スラブや圧縮荷重用途などの非構造用途で、スチールメッシュやスチール繊維と置き換えることができる。
【0010】
合成繊維の引張強度および/または弾性係数の増加は、繊維補強コンクリートのひび割れ後残留曲げ引張強度の増加に重要な役割を果たす。
【0011】
コンクリート中の合成繊維の量を増加させると、概してコンクリート中の亀裂の形成が減少し、コンクリートのひび割れ後残留曲げ引張強度が増加する。しかしながら、コンクリート中の合成繊維の量が多すぎると、コンクリート混合物の作業性が損なわれ、それによってコンクリート要素を形成する際にコンクリート混合物の取り扱いに問題が生じ、かつ/またはコンクリート要素の品質が低下する。
【0012】
したがって、繊維補強コンクリートのひび割れ後残留曲げ引張強度を改善するためにおよび/またはコンクリート中の合成繊維の量を減少できるようにするために、引張強度および/または弾性係数を増加させた合成繊維を提供する必要性が残っている。
【0013】
本発明の課題は、引張強度および/または弾性係数を増加させたコンクリート補強用の合成繊維を提供することである。
【0014】
本発明の課題は、請求項1記載のコンクリート補強用繊維によって達成される。
【0015】
85重量%~98重量%のポリプロピレンおよび2重量%~10重量%のポリカーボネートを含むコンクリート補強用繊維は、ポリプロピレンからなる繊維に比べて引張強度および/または弾性係数が増加しており、コンクリートのひび割れ後残留曲げ引張強度を増加させることができる。代替的には、コンクリート中の繊維の量を一定のひび割れ後残留曲げ引張強度で減少させることができ、これにより、コンクリート混合物の取り扱い、特に作業性を向上させることができる。
【0016】
コンクリートのひび割れ後残留曲げ引張強度は、試験方法EN 14651“Test method for metallic fibre concrete - Measuring the flexural tensile strength (limit of proportionality (LOP), residual)”に従って、長さ60cm、幅15cmおよび高さ15cmの長方形のコンクリート梁であって、幅に沿って梁の下側の長さに対して横方向にノッチが形成された梁での三点曲げ試験によって求められる。荷重は、ノッチとは反対側の梁の上側に適用される。ノッチの規定開口幅における垂直変位および強度は、亀裂開口変位またはCMODとしても知られ、繊維補強コンクリート(FRC)の関連特性である。特に、0.5mm(fR,1)のCMODおよび3.5mm(fR,4)のCMODにおいてMPaでの測定された強度は、繊維補強コンクリートの重要な特性である。
【0017】
代替的に、特にショットクリート用途の場合、コンクリートの強度は、直径80cmおよび厚さ7.5cmの円形コンクリート板を用いて、たわみ40mmに対する総エネルギー吸収量を求めるASTM C1550に準拠した円形板試験に従って求められるか、または長さおよび幅60cmならびに厚さ10cmの正方形コンクリート板を用いて、たわみ30mmに対する総エネルギー吸収量を求めるEN14488/5に準拠した正方形板試験に従って求められる。
【0018】
85重量%~98重量%のポリプロピレンおよび2重量%~10重量%のポリカーボネートを含むコンクリート補強用繊維は、ポリプロピレンからなる繊維と比べて改善された耐クリープ性を有し得る。なぜなら、85重量%~98重量%のポリプロピレンおよび2重量%~10重量%のポリカーボネートを含む繊維は、ポリプロピレンからなる繊維と比べて高い延伸率で延伸することができ、それによって繊維補強コンクリートのひび割れ後の安全性が向上するからである。好ましくは、繊維は、15%以下、より好ましく10%以下の平均クリープを有する。クリープは、繊維の引張強度の50%に相当する垂直持続荷重を繊維に加えた960時間後の繊維の伸びとして、画像取得によって求められた。3本の繊維の平均値が求められる。
【0019】
好ましい実施形態では、本発明による繊維は、85重量%~98重量%のポリプロピレンおよび2重量%~10重量%のポリカーボネートを含むブレンドから紡糸される。完全には理解されていないが、85重量%~98重量%のポリプロピレンおよび2重量%~10重量%のポリカーボネートを含むブレンドから繊維を紡糸することにより、ポリプロピレンからなる繊維、すなわち2重量%~10重量%のポリカーボネートを含まない繊維と比べて増加した引張強度を有する繊維が得られることが分かっている。さらに、85重量%~98重量%のポリプロピレンおよび2重量%~10重量%のポリカーボネートを含むブレンドから紡糸された繊維は、より高い延伸率で延伸することができ、それによって繊維の弾性係数を高めることができる。
【0020】
一実施形態では、繊維は、88重量%~95重量%のポリプロピレンを含み、引張強度の最適な増加および/または繊維の弾性係数の最適な増加を達成する。
【0021】
一実施形態では、繊維は、3重量%~8重量%のポリカーボネート、好ましくは4重量%~6重量%のポリカーボネートを含み、引張強度のより高い増加および/または繊維の弾性係数のより高い増加を達成する。
【0022】
本発明によるコンクリート補強用繊維は、好ましくは、EN 14889-2に従って測定されるように、少なくとも600MPa、好ましくは少なくとも650MPa、より好ましくは少なくとも700MPaの引張強度を有する。
【0023】
本発明によるコンクリート補強用繊維は、好ましくは、EN 14889-2に従って測定されるように、少なくとも6GPa、より好ましくは少なくとも7GPa、より好ましくは少なくとも8GPa、さらにより好ましくは少なくとも9GPa、最も好ましくは少なくとも10GPaの弾性係数を有し、その際、繊維の弾性係数を求めると、繊維の引張強度の10%~30%の間である。
【0024】
85重量%~98重量%のポリプロピレンおよび2重量%~10重量%のポリカーボネートを含む繊維は、ポリプロピレンおよびポリカーボネートが腐食を受けにくく、高アルカリ環境に耐久性があるので、コンクリートの補強に有利に使用され得る。
【0025】
一実施形態では、本発明によるコンクリート補強用繊維は、1重量%~5重量%の相溶化剤を含む。繊維が紡糸されるブレンドに相溶化剤を適用することにより、同等の延伸比で繊維の引張強度を増加させ、高い延伸比で繊維の弾性係数を増加させることができるが、この高い延伸比は、相溶化剤を用いずにブレンドから繊維を紡糸する場合、適用できないこともあり得る。理論に拘束されないが、相溶化剤は、繊維が紡糸されるブレンド中のポリカーボネートドメインのサイズを減少させ、それによって、繊維中のポリプロピレンとポリカーボネートとの間により大きな界面領域を作り出し、繊維中のポリプロピレンの配向を改善することができると考えられる。
【0026】
相溶化剤は、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンコポリマーであり得る。
【0027】
好ましくは、相溶化剤は、マレイン酸グラフト化ポリマー、好ましくはマレイン酸グラフト化ポリプロピレンポリマーまたはマレイン酸グラフト化スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンコポリマーである。
【0028】
一実施形態では、本発明によるコンクリート補強用繊維は、繊維とコンクリートとの接着性を高めるための無機添加剤を含み、無機添加剤は、好ましくは、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、タルクおよび硫酸バリウムからなる群から選択される。好ましくは、繊維は、1重量%~5重量%の無機添加剤を含む。
【0029】
好ましくは、繊維は、EN 14889-2に従って測定されるように、繊維の線密度および材料密度から計算され得るように、少なくとも300μm、好ましくは500μm~1000μmの範囲の等価繊維直径を有し、繊維を含むコンクリート混合物の作業性に悪影響を及ぼすことなく十分な残留曲げ引張強度を与える。好ましくは、繊維は、2000μm以下の最大寸法、より好ましくは1500μm以下の最大寸法を有し、最大寸法は、繊維断面領域の対向する二辺間の直線、すなわち断面領域の重心を横切る直線によって規定される最大距離である。2000μmより大きい最大寸法を有する繊維またはテープは、コンクリート混合物の取り扱い、特にコンクリート混合物の作業性の低下、および/またはコンクリート要素の品質の低下の問題を引き起こし得る。本発明による繊維は、繊維補強コンクリートにおいて、コンクリートの同等のひび割れ後残留曲げ引張強度で、より小さい等価直径の繊維を使用することができる。
【0030】
繊維は、円形の断面形状、三角形の断面形状、例えば三葉形の断面形状などの多葉形(multi-lobal)の断面形状、またはドッグボーン断面形状を含む任意の断面形状を有し得る。繊維は、また、非対称の断面形状を有してもよく、その結果、繊維は、螺旋構造を形成し、繊維とコンクリートとの間の摩擦を増加させて、3.5mm(fR,4)の亀裂開口変位で繊維補強コンクリートの強度を増加させるように構成されている。
【0031】
好ましくは、繊維は、非円形断面形状、より好ましくはドッグボーン断面形状を有し、繊維とコンクリートとの間の摩擦を増加させ、3.5mm(fR,4)の亀裂開口変位で繊維補強コンクリートの強度を増加させる。
【0032】
繊維は、好ましくは、繊維とコンクリートとの間の摩擦を増加させるエンボス加工された表面を有し、3.5mm(fR,4)の亀裂開口変位で繊維補強コンクリートの強度を増加させる。繊維の表面上のエンボス加工は、任意の形状を有してよく、好ましくは、エンボス加工された表面は、好ましくは千鳥状配置で、ダイヤモンド形の刻み目を含む。
【0033】
繊維は、20mm~100mmの範囲、好ましくは30mm~70mmの範囲の長さを有してよく、それによって、繊維を含むコンクリート混合物を取り扱う際の問題、特にコンクリート混合物の作業性の問題を防止し、または少なくとも低減しながら、繊維補強コンクリートに十分なひび割れ後残留曲げ引張強度を与える。
【0034】
一実施形態では、85重量%~98重量%のポリプロピレンおよび2重量%~10重量%のポリカーボネートを含むコンクリート補強用繊維は、0.5mm(fR,1)の亀裂開口変位での強度よりも高い、3.5mm(fR,4)の亀裂開口変位での強度を有する、すなわち、1を超えるfR,4/fR,1比を有する繊維補強コンクリートを提供することができる。
【0035】
本発明による繊維に含まれるポリプロピレンは、任意のポリプロピレンポリマーであり得る。好ましくは、ポリプロピレンポリマーは、繊維の引張強度をさらに高めるために、230℃/2.16kgでISO 1133に従って測定されるように、10g/10分以下、好ましくは5g/10分以下、より好ましくは3g/10分以下のメルトフローインデックスを有する。
【0036】
本発明による繊維に含まれるポリプロピレンは、アタクチックポリプロピレンポリマー、シンジオタクチックポリプロピレンポリマーまたはアイソタクチックポリプロピレンポリマー、またはそれらの任意のコポリマーであり得る。好ましくは、本発明による繊維に含まれるポリプロピレンは、繊維の引張強度をさらに高めるために、アイソタクチックポリプロピレンポリマーである。
【0037】
ポリカーボネート(PC)は、当業者には公知のポリマーである。ポリカーボネートポリマーは、ポリマー鎖中にカーボネート基を有することを特徴とし、例えばビスフェノールA(BPA)とホスゲン(COCl2)との重合反応により得ることができる。
【0038】
本発明による繊維に含まれるポリカーボネートは、任意のポリカーボネートポリマーであり得る。好ましくは、ポリカーボネートポリマーは、繊維の引張強度をさらに高めるために、300℃/1.2kgでISO 1133に従って測定されるように、25g/10分以下、好ましくは20g/10分以下、より好ましくは15g/10分以下、より好ましくは10g/10分以下、さらにより好ましくは5g/10分以下、最も好ましくは3g/10分以下のメルトフローインデックスを有する。
【0039】
本発明による繊維は、繊維補強コンクリート(FRC)要素を提供するために有利に使用され得る。
【0040】
コンクリート要素は、好ましくは、上記の繊維の実施形態のいずれかによる繊維を含む。
【0041】
本発明によるコンクリート補強用繊維は、繊維補強コンクリートの繊維量を、コンクリートの特性に悪影響を与えることなく低減することができる。好ましくは、繊維補強コンクリートは、繊維を含むコンクリート混合物の取り扱い上の問題、特にコンクリート混合物の作業性の問題を回避するために、または少なくとも低減するために、および/またはコンクリート要素の品質を改善するために、10kg/m3以下の量、より好ましくは5kg/m3以下の量、さらにより好ましくは4kg/m3以下の量、最も好ましくは3kg/m3以下の量の繊維を含む。
【0042】
本発明によるコンクリート補強用繊維は、0.5mm(fR,1)の亀裂開口変位で少なくとも1.5MPaの残留曲げ引張強度を有する繊維補強コンクリートであって、好ましくは10kg/m3以下の量、より好ましくは5kg/m3以下の量、さらにより好ましくは4kg/m3以下の量、最も好ましくは3kg/m3以下の量の繊維を含む、繊維補強コンクリートを提供することができる。
【0043】
本発明によるコンクリート補強用繊維は、3.5mm(fR,4)の亀裂開口変位で少なくとも1.0MPaの残留曲げ引張強度を有する繊維補強コンクリートであって、好ましくは10kg/m3以下の量、より好ましくは5kg/m3以下の量、さらにより好ましくは4kg/m3以下の量、最も好ましくは3kg/m3以下の量の繊維を含む、繊維補強コンクリートを提供することができる。
【0044】
本発明によるコンクリート補強用繊維は、EN 14488-5に従って測定されるように、少なくとも950J、好ましくは少なくとも1000J、より好ましくは少なくとも1050Jの総エネルギー吸収量を有する繊維補強コンクリートであって、好ましくは10kg/m3以下の量、より好ましくは5kg/m3以下の量、さらにより好ましくは4kg/m3以下の量の繊維を含む、繊維補強コンクリートを提供することができる。
【0045】
本発明によるコンクリート補強用繊維の製造方法は、85重量%~98重量%のポリプロピレン、2重量%~10重量%のポリカーボネート、および5重量%までの相溶化剤のブレンドを押出機に供給する工程、ブレンドを1つ以上のキャピラリーを含む紡糸口金を介して押し出して1つ以上の押し出された繊維を形成する工程、押し出された繊維を冷却する工程、押し出された繊維を、好ましくは少なくとも10の延伸比で延伸してコンクリート補強用繊維を形成する工程を含む。
【0046】
好ましくは、本発明による繊維の製造方法は、押し出された繊維を、少なくとも10の延伸比で延伸してコンクリート補強用繊維を形成する工程を含む。好ましくは、本発明による繊維の製造方法は、押し出された繊維を、少なくとも11の延伸比で、より好ましくは少なくとも12の延伸比で、さらにより好ましくは少なくとも13の延伸比で延伸する工程を含む。85重量%~98重量%のポリプロピレンと2重量%~10重量%のポリカーボネートとを含むブレンドを供給することを含むブレンドを押し出すことにより、押し出された繊維は、ポリプロピレンからなる繊維よりも高い延伸比で延伸することができる。
【0047】
好ましくは、本発明による繊維の製造方法は、コンクリート補強用繊維を、所定長さ、好ましくは20mm~100mmの範囲の長さ、好ましくは30mm~70mmの範囲の長さに切断する工程を含む。
【0048】
好ましくは、本発明による繊維の製造方法は、繊維の引張強度の最適な増加および/または弾性係数の最適な増加を達成するために、88重量%~95重量%のポリプロピレンを含むブレンドを押出機に供給する工程を含む。
【0049】
好ましくは、本発明による繊維の製造方法は、繊維の引張強度の最大の増加および/または弾性係数の増加を達成するために、3重量%~8重量%のポリカーボネート、好ましくは4重量%~6重量%のポリカーボネートを含むブレンドを押出機に供給する工程を含む。
【0050】
驚くべきことに、本発明による繊維は、ポリプロピレンおよびポリカーボネートを単一スクリュー押出機に供給するプロセスにより得ることができる。単一スクリュー押出機は、2つ以上のポリマーを完全には混合しないことが知られているが、それでも改善された繊維が得られる。
【0051】
好ましくは、本発明による繊維の製造方法は、1重量%~5重量%の相溶化剤を含むブレンドを押出機に供給する工程を含み、押し出された繊維により高い延伸比を適用することができる。
【0052】
相溶化剤は、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンコポリマーであり得る。
【0053】
好ましくは、相溶化剤は、マレイン酸グラフト化ポリマー、好ましくはマレイン酸グラフト化ポリプロピレンポリマーまたはマレイン酸グラフト化スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンコポリマーである。
【0054】
好ましくは、本発明による繊維の製造方法は、ブレンドを押出機に供給する工程を含み、ブレンドは、繊維のコンクリートへの接着を高めるための無機添加剤を含み、無機添加剤は、好ましくは炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、タルクおよび硫酸バリウムからなる群から選択されている。好ましくは、繊維は、1重量%~5重量%の無機添加剤を含む。
【0055】
好ましくは、本発明による繊維の製造方法は、繊維がEN 14889-2に従って測定されるように、少なくとも300μm、好ましくは500μm~1000μmの範囲の等価繊維直径を有するような延伸比で押し出された繊維を延伸する工程を含む。好ましくは、繊維は、2000μm以下、より好ましくは1500μm以下の最大寸法を有する。
【0056】
好ましくは、本発明による繊維の製造方法は、1つ以上のキャピラリーを含む紡糸口金を通してブレンドを押し出して、1つ以上の押し出された繊維を形成する工程を含み、キャピラリーは、円形断面形状、三角形断面形状、多葉形断面形状、例えば、三葉断面形状、またはドッグボーン断面形状、好ましくは非円形断面形状、より好ましくはドッグボーン断面形状を有する。非円形断面形状を有する繊維をより効率的に加熱することができ、それによって、より高い延伸比を適用することができる。
【0057】
好ましくは、本発明による繊維の製造方法は、押し出された繊維を、好ましくはダイヤモンド形の刻み目で、好ましくは千鳥状配置で、エンボス加工する工程を含む。
【0058】
好ましくは、本発明による繊維の製造方法は、所定の長さ、好ましくは20mm~100mmの範囲、好ましくは30mm~70mmの範囲の長さに繊維を切断する工程を含む。
【0059】
好ましくは、本発明による繊維の製造方法は、85重量%~98重量%のポリプロピレンと、2重量%~10重量%のポリカーボネートとを含むブレンドを供給する工程を含み、ポリプロピレンポリマーは、繊維の引張強度をさらに増加させるために、230℃/2.16kgでISO 1133に従って測定されるように、10g/10分以下、好ましくは5g/10分以下、より好ましくは3g/10分以下のメルトフローインデックスを有する。本発明による方法で供給されるポリプロピレンは、アタクチックポリプロピレンポリマー、シンジオタクチックポリプロピレンポリマーまたはアイソタクチックポリプロピレンポリマーであり得る。好ましくは、本発明による方法で供給されるポリプロピレンは、繊維の引張強度をさらに高めるために、アイソタクチックポリプロピレンポリマーである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1a】比較例1による繊維のクリープを示す図である。
【
図1b】実施例1による繊維のクリープを示す図である。
【0061】
比較例1
95.5重量%のポリプロピレン、3.5重量%の無機充填剤、および1重量%の核剤のブレンドから繊維を紡糸した。
【0062】
繊維は、11.9の延伸比で延伸され、0.70mmの等価直径を有していた。
【0063】
比較例2
98重量%のポリプロピレンと2重量%の相溶化剤とのブレンドから繊維を紡糸した以外は、比較例1と同じ条件で繊維を紡糸した。繊維は、0.70mmの等価直径を有していた。
【0064】
実施例1
93重量%のポリプロピレン、5重量%のポリカーボネートおよび2重量%の相溶化剤のブレンドから繊維を紡糸した以外は、比較例1と同じ条件で繊維を紡糸した。
【0065】
繊維は、20の延伸比で延伸され、0.70mmの等価直径を有していた。
【0066】
実施例2
89.5重量%のポリプロピレン、5重量%のポリカーボネート、2重量%の相溶化剤および3.5重量%の無機充填剤のブレンドから繊維を紡糸した以外は、比較例1と同じ条件で繊維を紡糸した。繊維は、0.70mmの等価直径を有していた。
【0067】
繊維補強コンクリート梁は、繊維の種類ごとに形成され、コンクリートは、5kg/m3の繊維添加量を含む。コンクリートは、EN 12390-3“Testing hardened concrete - compressive strength of test specimens”に従って測定される、C25/30のコンクリート強度クラス、およびEN 14651に従って測定される、4.3±0.3MPaの曲げ引張強度を有していた。
【0068】
3.5mm(f
R,4)の亀裂開口変位でのコンクリート梁のひび割れ後残留曲げ引張強度を、第1表に示すように、試験方法EN 14651“Test method for metallic fibre concrete - Measuring the flexural tensile strength (limit of proportionality (LOP), residual)”に従って測定した。
【表1】
【0069】
第1表は、繊維補強コンクリート中のポリプロピレンで主に構成されている合成繊維の性能を、5重量%のポリカーボネートを添加し、ポリプロピレンとポリカーボネートとを含むブレンドから繊維を紡糸することにより、約20%向上させることができることを示す。
【0070】
第1表は、繊維補強コンクリート中の合成繊維の性能を、無機充填剤をさらに添加し、ポリプロピレン、ポリカーボネート、相溶化剤および無機充填剤を含むブレンドから繊維を紡糸することにより、さらに約40~45%向上させることができることを示す。
【0071】
第2表では、実施例1の繊維のクリープを、比較例1の繊維のクリープと比較した。第2表および
図1a~bは、実施例1による繊維のクリープが比較例1による繊維と比較して47%減少することを示す。
【表2】
【0072】
実施例3
実施例1の繊維を、440kg/m3のCEM I 42.5 Nセメントおよび5kg/m3の繊維を含むコンクリート混合物とともに、ショットクリートとしても知られる、吹付けコンクリートに適用した。
【0073】
比較例3では、業界標準と考えられている5kg/m3のBarchip54繊維を、繊維の種類のみが異なっている、実施例3のコンクリート混合物とともに吹付けコンクリートに適用した。
【0074】
第3表では、実施例3のショットクリートによって吸収されたエネルギーの量が、ASTM C1550-12a:2013円形プレート試験に従って、4つのサンプルの平均として測定された、比較例3のショットクリートによって吸収されたエネルギーの量と比較されている。
【0075】
第3表は、実施例3のショットクリートのたわみ40mmでの全エネルギー吸収が、比較例3の繊維を含むショットクリートと比較して27%増加することを示す。
【0076】
また、第3表は、実施例3のショットクリートのたわみ5mm、10mmおよび20mmでのエネルギー吸収が、比較例3の繊維を含むショットクリートと比較して17%~24%増加することを示す。
【表3】
【0077】
実施例4
実施例1の繊維を用いて繊維補強コンクリート梁を形成し、コンクリートの繊維添加量は、4kg/m3であった。EN 14651に従って測定された、コンクリートの曲げ引張強度は、4.5±0.3MPaであった。
【0078】
試験方法EN 14651に従って測定されたコンクリート梁の3.5mm(fR,4)の亀裂開口変位でのひび割れ後残留曲げ引張強度は、3.20MPaであり、0.5mm(fR,1)の亀裂開口変位でのひび割れ後残留曲げ引張強度は、1.87MPaであった。