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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】軟包装材用紙、および軟包装体
(51)【国際特許分類】
   B65D 65/40 20060101AFI20230501BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20230501BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20230501BHJP
   D21H 27/30 20060101ALI20230501BHJP
   B32B 23/08 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
B65D65/40 D
B32B7/022
D21H27/00 Z
D21H27/30 C
B32B23/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022140630
(22)【出願日】2022-09-05
(62)【分割の表示】P 2022095488の分割
【原出願日】2022-06-14
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2022043545
(32)【優先日】2022-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】堀越 達也
(72)【発明者】
【氏名】大木 孝将
(72)【発明者】
【氏名】紺屋本 博
【審査官】植前 津子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-134463(JP,A)
【文献】特開2021-155076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/00-65/46
B65D 67/00-79/02
B32B 1/00-43/00
D21H 11/00-27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材と、少なくとも一方の最表面にヒートシール層を有し、
前記紙基材が、パルプ全体に対する化学パルプの配合量が100重量%であり、厚さ25μm以上100μm以下であり、KES法によるMD方向の曲げ剛性Bが0.2g・cm/cm以上1.8g・cm/cm以下であることを特徴とする軟包装材用紙(ただし、芯鞘構造繊維を含むものを除く)
【請求項2】
前記紙基材の坪量が、20g/m以上70g/m以下であることを特徴とする請求項1に記載の軟包装材用紙。
【請求項3】
前記紙基材の密度が、0.5g/cm以上0.95g/cm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の軟包装材用紙。
【請求項4】
被包装物が、請求項1または2に記載の軟包装材用紙からなる包装材に内包されていることを特徴とする軟包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟包装材用紙と、これを用いた軟包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック廃棄物や地球温暖化等の環境問題に端を発して脱石油、脱プラスチックの風潮が高まっており、工業製品における化石資源に由来する樹脂材料や非生分解性の樹脂材料の使用量を極力低減することが望まれている。
このような風潮下において、包装体についても環境負荷の低減が望まれている。例えば、プラスチック製フィルムを用いた包装材の厚みを薄くする等の方法も考えられるが、このような薄い包装材は、包装体の形成工程等における取扱い性が低下し、熱圧着部での欠損や破れが発生しやすくなってしまう。また、樹脂の使用量は減少するものの、環境中に流出した場合に分解されずに半永久的に残存するという問題はそのままである。
【0003】
特許文献1、2には、紙基材にヒートシール層を積層したヒートシール紙を包装材に用いることが提案されている。これらは、ヒートシール性樹脂の種類によっては環境中で分解されるため、環境負荷を大幅に軽減することができる。しかし、ヒートシール紙は、プラスチック製フィルムと比較して物性が大きく異なるため、プラスチック製フィルムと同様の操業条件でヒートシール紙を製袋機に通すと、紙が蛇行する、破断する、得られた軟包装体に折れ・シワ等が発生する、所望の形状で製袋できない等の不具合が生じる場合があり、ラインスピードを遅くする等の操業条件を最適化する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-163675号公報
【文献】特開2021-046234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、製袋機で製袋可能な軟包装材用紙と、この軟包装材用紙を用いた軟包装体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題を解決するための手段は、以下の通りである。
1.紙基材と、少なくとも一方の最表面にヒートシール層を有し、
前記紙基材が、厚さ25μm以上100μm以下であり、KES法によるMD方向の曲げ剛性Bが0.16g・cm/cm以上1.8g・cm/cm以下であることを特徴とする軟包装材用紙。
2.前記紙基材の坪量が、20g/m以上70g/m以下であることを特徴とする1.に記載の軟包装材用紙。
3.前記紙基材の密度が、0.5g/cm以上0.95g/cm以下であることを特徴とする1.または2.に記載の軟包装材用紙。
4.被包装物が、1.~3.のいずれかに記載の軟包装材用紙からなる包装材に内包されていることを特徴とする軟包装体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の軟包装材用紙は、従来の樹脂製フィルムからなる包装材の代替として用いることができる。本発明の軟包装材用紙は、従来のプラスチック製フィルムと同様の操業条件で製袋機に通して、軟包装体を製造することができる。操業条件を変更する必要がないため、樹脂製フィルムと本発明の軟包装材用紙を切り替えて、素材の異なる軟包装体を製造することが容易である。
本発明の軟包装材用紙は、紙を主体としているため樹脂材料の使用量を大幅に削減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
「軟包装材用紙」
本発明の軟包装材用紙は、紙基材と、少なくとも一方の最表面にヒートシール層を有する。
【0009】
・紙基材
紙基材は、その少なくとも一方の面にヒートシール層が形成される基材である。紙基材は、主としてパルプからなるシートであり、パルプ、填料、各種助剤等を含む紙料を抄紙して得られた原紙をそのまま、または、原紙の少なくとも一面上に、目止め層、インク受容層、耐水層、耐油層、水蒸気バリア層、ガスバリア層等の機能層を1層または2層以上形成したもの等を用いることができる。
本発明で使用する紙基材は、厚さ25μm以上100μm以下である。紙基材の厚さは、JIS P8118:2014に準拠して測定される。
紙基材の厚さが25μm以上100μm以下であることにより、従来のプラスチック製フィルムを用いる製袋機に通すことが容易である。紙基材の厚さは、30μm以上であることが好ましく、35μm以上であることがより好ましく、40μm以上であることがさらに好ましく、また、90μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましく、70μm以下であることがさらに好ましい。
【0010】
本発明の紙基材は、KES法によるMD方向の曲げ剛性Bが0.16g・cm/cm以上1.8g・cm/cm以下である。また、KES法によるMD方向の曲げのヒステリシス2HBが0.02g・cm/cm以上1.2g・cm/cm以下であることが好ましい。
なお、KES法とは、Kawabata Evaluation Systemの略称であり、不織布や布帛等の柔軟なものの物性を測定するための方法の一つである。KES法による曲げ剛性B、曲げのヒステリシス2HBは、例えば、カトーテック株式会社製の自動化純曲げ試験機KES-FB2-Sにより測定することができる。
【0011】
曲げ剛性Bは、値が小さいほど柔らかいことを示す。この曲げ剛性Bが0.16g・cm/cm未満では、軟包装材用紙が柔らかすぎて、軟包装体としたときに張りがなくなり、所定の包装形態を維持することが難しくなる場合がある。一方、この曲げ剛性Bが1.8g・cm/cmを超えると、製袋時に曲げにくくなり、特に横方向の寸法が設計寸法からズレる場合がある。この曲げ剛性Bは、0.2g・cm/cm以上であることが好ましく、0.3g・cm/cm以上であることがより好ましく、0.4g・cm/cm以上であることがさらに好ましく、また、1.7g・cm/cm以下であることが好ましく、1.5g・cm/cm以下であることがより好ましく、1.2g・cm/cm以下であることがさらに好ましく、1.0g・cm/cm以下であることがよりさらに好ましく、0.8g・cm/cm以下であることがよりさらに好ましい。
【0012】
ヒステリシス2HBは、値が小さいほど曲げた後に元に戻りやすいことを示す。このヒステリシス2HBが0.02g・cm/cm未満では、曲げ加工、罫線加工、折り加工等が難しくなるとともに、製袋後に元の形状(平板状やロール状)に戻ろうとする力が発生するため、軟包装体に反りや丸みが生じ、美粧性や形態維持性が低下する場合がある。一方、このヒステリシス2HBが1.2g・cm/cmを超えると、曲げた後に元に戻りにくくなるため、特に、製袋機のフォーマーと接触して曲げ加工や折り加工の際に負荷が生じる部分にシワが生じやすくなる場合があり、また、破れやすくなる場合がある。このヒステリシス2HBは、0.025g・cm/cm以上であることがより好ましく、0.03g・cm/cm以上であることがさらに好ましく、0.04g・cm/cm以上であることがよりさらに好ましく、0.05g・cm/cm以上であることがよりさらに好ましく、また、1.1g・cm/cm以下であることがより好ましく、1.05g・cm/cm以下であることがさらに好ましく、1.0g・cm/cm以下であることがよりさらに好ましく、0.9g・cm/cm以下であることがよりさらに好ましく、0.8g・cm/cm以下であることがよりさらに好ましく、0.7g・cm/cm以下であることがよりさらに好ましい。
【0013】
本発明の紙基材は、坪量20g/m以上70g/m以下であることが、柔軟性と強度の観点から好ましい。紙基材の坪量は、24g/m以上であることがより好ましく、28g/m以上であることがさらに好ましく、また、65g/m以下であることがより好ましく、60g/m以下であることがさらに好ましく、55g/m以下であることがよりさらに好ましい。紙基材の坪量は、JIS P8124:2011に準拠して測定される。
【0014】
本発明の紙基材は、密度0.5g/cm以上0.95g/cm以下であることが、柔軟性と強度の観点から好ましい。紙基材の密度は、0.55g/cm以上であることがより好ましく、また、0.9g/cm以下であることがより好ましく、0.85g/cm以下であることがさらに好ましく、0.75g/cm以下であることがよりさらに好ましい。紙基材の厚さは、密度と坪量から算出される。
【0015】
本発明の紙基材は、突き刺し強度が、1.0N以上であることが好ましい。紙基材のこの突き刺し強度が1.0N以上であると、突起等が接触した際に軟包装体を破れにくくすることができる。紙基材のこの突き刺し強度は、1.1N以上であることがより好ましく、1.2N以上であることがさらに好ましい。紙基材の突き刺し強度は、JIS Z1707:2019 7.5突刺し強さ試験に準拠して測定される。
【0016】
本発明において、軟包装材用紙の一面に紙基材が露出する場合は、紙基材の露出している面(表面)の平滑度(王研式)が50秒以上700秒以下であることが好ましい。本発明の軟包装材用紙は、ロール状に巻回され、ロールから繰り出されて製袋機に通され、ローラ、フォーマー、製袋板等の様々な部材と接触しながら搬送され、罫線入れ工程、折り工程、熱融着工程、裁断工程等を経て軟包装体となる。この際、紙基材の露出している面の平滑度(王研式)が50秒以上700秒以下であると、紙基材と製袋機との摩擦や滑り性が良好となり、生産不良を少なくすることができる。この平滑度(王研式)が50秒未満であると、摩擦が大きく通紙時に軟包装材用紙に大きな負担がかかり、紙基材が破れやすくなる。一方、この平滑度(王研式)が700秒を超えると、摩擦が小さく軟包装材用紙が滑りやすくなるため、軟包装材用紙が製袋機を通る際に蛇行しやすくなり、ヒートシール部や裁断部に位置ずれが起こりやすくなる。紙基材の露出している面の平滑度(王研式)は、70秒以上であることがより好ましく、100秒以上であることがさらに好ましく、また、650秒以下であることがより好ましく、600秒以下であることがさらに好ましく、500秒以下であることがよりさらに好ましく、450秒以下であることがよりさらに好ましい。
なお、紙基材の他面(裏面)は、その上にヒートシール層等が積層されるため、平滑度(王研式)の値は特に制限されない。ただし、他面上に積層される層との密着性が向上するため、紙基材の他面の平滑度(王研式)は、紙基材の露出している面の平滑度(王研式)よりも小さい(面が荒い)ことが好ましく、具体的には、平滑度(王研式)の値が30秒以上小さいことが好ましい。
【0017】
本発明の紙基材は、MD方向のヤング率が、3GPa以上10GPa以下であることが好ましい。このヤング率が3GPa未満では、紙基材が変形しやすく、製造時のテンション(張力)により紙基材が伸びた状態で製袋されてしまうため、製袋後に縮んで縦方向の寸法にズレが生じやすくなり、また、シワが発生しやすくなる。一方、このヤング率が10GPaを超えると、製造時にテンションを大きくすることができないため、軟包装材用紙を所定のとおりに搬送できない搬送不良が起こりやすくなり、裁断間隔のずれ等が生じやすくなる。このヤング率は、4GPa以上であることがより好ましく、5GPa以上であることがさらに好ましい、また、9GPa以下であることがより好ましく、8GPa以下であることがさらに好ましい。紙基材のMD方向のヤング率は、JIS P8113:2006、第二部定速伸張法に準拠して測定される。
【0018】
パルプとしては、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未漂白パルプ(NUKP)、サルファイトパルプなどの化学パルプ、ストーングラインドパルプ、サーモメカニカルパルプなどの機械パルプ、脱墨パルプ、古紙パルプなどの木材繊維、ケナフ、竹、麻などから得られた非木材繊維などを用いることができ、2種以上を混合して用いることもできる。これらの中でも、異物混入が発生し難いこと、使用後に古紙原料に供してリサイクル使用する際に経時変色が発生し難いこと、高い白色度を有するため印刷時の面感が良好となることなどの理由から、木材繊維の化学パルプ、機械パルプを用いることが好ましく、化学パルプを用いることがより好ましい。具体的には、LBKP、NBKP等の化学パルプの配合量が80重量%以上であることが好ましく、化学パルプの配合量が100重量%であることがより好ましい。また、パルプ中の広葉樹パルプ配合率は30重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましい。
パルプのろ水度(カナダ式標準ろ水度:CSF)は、紙基材の強度等の点から、600ml以下であることが好ましく、550ml以下であることがより好ましく、500ml以下であることがさらに好ましい。
【0019】
填料としては、タルク、カオリン、焼成カオリン、クレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、ホワイトカーボン、ゼオライト、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどの無機填料、尿素-ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール系樹脂、微小中空粒子等の有機填料等の製紙用として公知の填料を使用することができる。なお、填料は、必須材料ではなく、使用しなくてもよい。
【0020】
各種助剤としては、ロジン、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニルコハク酸無水物(ASA)などのサイズ剤、ポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、カチオン化澱粉、各種変性澱粉、尿素・ホルマリン樹脂、メラミン・ホルマリン樹脂などの乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、歩留剤、濾水性向上剤、凝結剤、硫酸バンド、嵩高剤、染料、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、紫外線防止剤、退色防止剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等が例示可能であり、必要に応じて適宜選択して使用可能である。
【0021】
原紙の製造(抄紙)方法は特に限定されるものではなく、長網抄紙機、円網抄紙機、短網抄紙機、ギャップフォーマー型、ハイブリッドフォーマー型(オントップフォーマー型)等のツインワイヤー抄紙機等、公知の製造(抄紙)方法、抄紙機が選択可能である。また、抄紙時のpHは酸性領域(酸性抄紙)、疑似中性領域(疑似中性抄紙)、中性領域(中性抄紙)、アルカリ性領域(アルカリ性抄紙)のいずれでもよく、酸性領域で抄紙した後、紙層の表面にアルカリ性薬剤を塗工してもよい。また、原紙は1層であってもよく、2層以上の多層で構成されていてもよい。
【0022】
さらに、原紙の表面を各種薬剤で処理することが可能である。使用される薬剤としては、酸化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉、酵素変性澱粉、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、表面サイズ剤、耐水化剤、保水剤、増粘剤、滑剤などを例示することができ、これらを単独あるいは2種類以上を混合して用いることができる。さらに、これらの各種薬剤と顔料を併用してもよい。顔料としてはカオリン、クレー、エンジニアードカオリン、デラミネーテッドクレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、マイカ、タルク、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイトなどの無機顔料および密実型、中空型、またはコアーシェル型などの有機顔料などを単独または2種類以上混合して使用することができる。
原紙の表面処理の方法は特に限定されるものではないが、ロッドメタリングサイズプレス、ポンド式サイズプレス、ゲートロールコーター、スプレーコーター、ブレードコーター、カーテンコーターなど公知の塗工装置を用いることができる。
【0023】
さらに、原紙の少なくとも一面上に、目止め層、インク受容層、耐水層、耐油層、水蒸気バリア層、ガスバリア層等の機能層の1層または2層以上を形成することができる。機能層は、塗工層、ラミネート層のいずれでもよいが、塗工層であることが、紙基材の柔軟性を保持する点から好ましい。
【0024】
・ヒートシール層
ヒートシール層とは、ヒートシール適性を付与する層であり、具体的には、加熱・加圧することで接着対象に接着することができる層である。本発明の軟包装材用紙は、ヒートシール適性を有することにより、軟包装材への成形や形状の維持、密封性の確保などが容易となる。
【0025】
ヒートシール層は、軟包装材用紙の少なくとも一方の最表面に設けられる。ヒートシール層は、塗工層、ラミネート層のいずれでもよい。
ヒートシール層が含む熱可塑性樹脂は特に制限されず、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、スチレン-アクリル酸エステル系共重合樹脂、アクリル系樹脂、エチレン-アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ乳酸系樹脂等のヒートシール用途に用いられる熱可塑性樹脂を特に制限することなく使用することができる。これらの中で、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、スチレン-アクリル酸エステル系共重合樹脂、アクリル系樹脂、エチレン-アクリル系樹脂が、ヒートシール強度の点から好ましい。また、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)等の生分解性樹脂が、ゴミとして流出した場合の環境負荷軽減の点から好ましい。
ヒートシール層は、アンチブロッキング剤、シランカップリング剤等の添加剤を含むことができる。アンチブロッキング剤としては、顔料、ワックス、金属石鹸等を特に制限することなく使用することができる。ただし、本発明の軟包装材用紙において、コストの点から、ヒートシール層は添加剤を含まないことが好ましい。
【0026】
ヒートシール層が塗工層である場合、ヒートシール層の乾燥重量は、片面あたり3g/m以上20g/m以下であることが好ましい。乾燥重量が3g/m未満では、ヒートシール適性が低下する場合がある。また、乾燥重量が20g/mを超えてもヒートシール適性はほとんど向上せず、コストが増加する。ヒートシール層は、1層であってもよく、2層以上の多層で構成してもよい。ヒートシール層を2層以上の多層で構成することにより、単層の場合と比較して塗工ムラ等の欠陥を少なくすることができる。ヒートシール層を2層以上の多層で構成する場合は、全てのヒートシール層を合計した乾燥重量を上記範囲とすることが好ましく、また、乾燥重量の塗工量が2g/m以上であることが好ましい。
ヒートシール層がラミネート層である場合、ヒートシール層の厚さは、20μm以上100μm以下であることが好ましい。厚さが20μm未満では、ヒートシール性を確保できない場合がある。また、厚さが100μmを超えるとコストの観点から好ましくない。
【0027】
ヒートシール層が塗工層である場合、塗工方法は特に限定されるものではなく、公知の塗工装置および塗工系で塗工することができる。例えば、塗工装置としてはブレードコーター、バーコーター、エアナイフコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、サイズプレスコーター、ゲートロールコーター等が挙げられる。
塗工系としては、水等の溶媒を使用した水系塗工、有機溶剤等の溶媒を使用した溶剤系塗工のいずれでもよいが、安全衛生上の観点から水系塗工であることが好ましい。水系塗工する場合、熱可塑性樹脂としては、水分散性樹脂、または水溶性樹脂を用いるため、ヒートシール層は、水分散性樹脂または水溶性樹脂の塗工層であることが好ましい。
ヒートシール層がラミネート層である場合、その形成方法は特に限定されるものではなく、例えば、押出しラミネート法、ウェットラミネート法、ドライラミネート法等の各種方法を適宜使用して積層することができる。
【0028】
「軟包装体」
本発明の軟包装体は、上記した本発明である軟包装材用紙からなる包装材に、被包装物が内包されている。
軟包装体の形状は特に制限されず、縦ピロー包装袋、横ピロー包装袋、サイドシール袋、二方シール袋、三方シール袋、ガゼット袋、底ガゼット袋、スタンド袋等とすることができる。本発明の軟包装体は、包装材が紙を主体としているため、従来の樹脂製の包装材を用いたものと比較して破りやすく、どこからでも容易に破くことができる。
また、本発明の軟包装材用紙は、従来の樹脂製フィルムを用いる包装機械に、製造条件をほとんど変更することなく樹脂製フィルムに代えて流すことができる。本発明の軟包装体は、従来の製造機械をそのまま用いて製造することができるため、新たな設備が不要である。
【実施例
【0029】
「実施例1」
パルプ原料として、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP、CSF:500ml)80重量部と針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、CSF530ml)20重量部使用した。この混合パルプ100重量部に対して、乾燥紙力増強剤として分子量250万のポリアクリルアミド(PAM)を0.1重量部(対パルプ乾燥重量)、サイズ剤としてアルキルケテンダイマー(AKD)を0.35重量部、湿潤紙力増強剤としてポリアミドエピクロロヒドリン(PAEH)系樹脂を0.15重量部、さらに歩留剤として分子量1000万のポリアクリルアミド(PAM)を0.08重量部配合した紙料を調成した。抄紙機を用いてこの紙料から湿紙を抄造して、ヤンキードライヤーによって湿紙を乾燥して、さらにスーパーカレンダー処理を行い、紙基材を得た。得られた紙基材の平滑度(王研式)は表面610秒、裏面103秒であった。
この紙基材上に、押出しラミネートにより、厚さ25μmの低密度ポリエチレンからなるヒートシール層を設け、軟包装材用紙を得た。
【0030】
「実施例2」
パルプ原料として、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、CSF:460ml)50重量部と広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP、CSF:300ml)50重量部を使用した。この混合パルプ100重量部に対して、苛性ソーダで活性化処理を行ったポリアミンエピクロルヒドリン樹脂(WS4010、星光PMC製湿潤紙力増強剤)を0.9重量部(対パルプ乾燥重量)、ポリアクリルアミド(乾燥紙力増強剤)を0.3重量部、硫酸アルミニウム、サイズ剤を配合した紙料を調成した。抄紙機を用いてこの紙料から湿紙を抄造して、ヤンキードライヤーによって湿紙を乾燥して、紙基材を得た。得られた紙基材の平滑度(王研式)は表面197秒、裏面9秒であった。
この紙基材上に、押出しラミネートにより、厚さ25μmの低密度ポリエチレンからなるヒートシール層を設け、軟包装材用紙を得た。
【0031】
「実施例3」
パルプ原料として、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP、CSF:500ml)80重量部と針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、CSF530ml)20重量部使用した。この混合パルプ100重量部に対して、乾燥紙力増強剤として分子量250万のポリアクリルアミド(PAM)を0.1重量部(対パルプ乾燥重量)、サイズ剤としてアルキルケテンダイマー(AKD)を0.35重量部、湿潤紙力増強剤としてポリアミドエピクロロヒドリン(PAEH)系樹脂を0.15重量部、さらに歩留剤として分子量1000万のポリアクリルアミド(PAM)を0.08重量部配合した紙料を調成した。抄紙機を用いてこの紙料から湿紙を抄造して、ヤンキードライヤーによって湿紙を乾燥して、紙基材を得た。得られた紙基材の平滑度(王研式)は表面141秒、裏面8秒であった。
この紙基材上に、押出しラミネートにより、厚さ25μmの低密度ポリエチレンからなるヒートシール層を設け、軟包装材用紙を得た。
【0032】
「実施例4」
坪量約50g/mの紙基材(原紙)を得た以外は、実施例3と同様である。得られた紙基材の平滑度(王研式)は表面83秒、裏面10秒であった。
この紙基材上に、押出しラミネートにより、厚さ25μmの低密度ポリエチレンからなるヒートシール層を設け、軟包装材用紙を得た。
【0033】
「実施例5」
パルプ原料として、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、CSF:500ml)50重量部と広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP、CSF:350ml)50重量部を使用した。この混合パルプ100重量部に対して、苛性ソーダで活性化処理を行ったポリアミンエピクロルヒドリン樹脂(WS4010、星光PMC製湿潤紙力増強剤)を0.9重量部(対パルプ乾燥重量)、ポリアクリルアミド(乾燥紙力増強剤)を0.3重量部、硫酸アルミニウム、サイズ剤を配合した紙料を調成した。抄紙機を用いてこの紙料から湿紙を抄造して、ヤンキードライヤーによって湿紙を乾燥して、紙基材を得た。得られた紙基材の平滑度(王研式)は表面299秒、裏面10秒であった。
この紙基材上に、押出しラミネートにより、厚さ25μmの低密度ポリエチレンからなるヒートシール層を設け、軟包装材用紙を得た。
【0034】
「実施例6」
エンジニアードカオリン(イメリス社製、バリサーフHX、平均粒子径9.0μm、アスペクト比80-100)に分散剤としてポリアクリル酸ソーダを添加し(対顔料0.2%)、セリエミキサーで分散して固形分濃度55%のカオリンスラリーを調製した。得られたカオリンスラリー中に、顔料100部(固形分)に対し水蒸気バリア性樹脂としてスチレン・ブタジエン系ラテックス(日本ゼオン社製、PNT7868)を200部(固形分)となるように配合し、固形分濃度50%の水蒸気バリア層用塗工液を得た。
ポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA117)水溶液を固形分濃度10%となるよう調製し、ガスバリア層用塗工液を得た。
【0035】
実施例4で得られた原紙の裏面に、水蒸気バリア層用塗工液を乾燥重量で塗工量12g/mとなるようブレードコーターを用いて片面塗工、105℃、2分乾燥した後、その上にガスバリア層用塗工液を乾燥重量で塗工量3.0g/mとなるようロールコーターを用いて片面塗工、105℃、2分乾燥し、機能層を有する紙基材を得た。得られた紙基材の平滑度(王研式)は表面83秒、裏面34秒であった。
この紙基材の機能層側の表面に、押出しラミネートにより、厚さ25μmの低密度ポリエチレンからなるヒートシール層を設け、軟包装材用紙を得た。
【0036】
「比較例1」
パルプ原料として、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、CSF:40ml)60重量部と広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP、CSF:40ml)40重量部を使用した混合パルプを原料とし、長網抄紙機で坪量30.0g/mの基紙を抄造し、オンマシン2ロールサイズプレスを使用して、変性PVA(RS4104(クラレ) 含有量1.0g/m)及び湿潤紙力剤(WS-4020(星光PMC) 含有量0.05g/m)を含有させ、ドライヤー乾燥を行って水分8.0%の基紙を得た。その後、この基紙に水分を付与して水分15.0%の湿紙とし、温度130℃、線圧250kg/cmの条件でスーパーカレンダー処理し、紙基材を得た。得られた紙基材の平滑度(王研式)は表面1234秒、裏面1085秒であった。
この紙基材上に、押出しラミネートにより、厚さ25μmの低密度ポリエチレンからなるヒートシール層を設け、軟包装材用紙を得た。
【0037】
「比較例2」
パルプ原料として、針葉樹未晒クラフトパルプ(NBKP、CSF530ml)100重量部使用した。このパルプ100重量部に対して、乾燥紙力増強剤として分子量250万のポリアクリルアミド(PAM)を0.1重量部(対パルプ乾燥重量)、サイズ剤としてアルキルケテンダイマー(AKD)を0.35重量部、湿潤紙力増強剤としてポリアミドエピクロロヒドリン(PAEH)系樹脂を0.15重量部、さらに歩留剤として分子量1000万のポリアクリルアミド(PAM)を0.08重量部配合した紙料を調成した。抄紙機を用いてこの紙料から湿紙を抄造し、乾燥して、紙基材を得た。得られた紙基材の平滑度(王研式)は表面15秒、裏面12秒であった。
この紙基材上に、押出しラミネートにより、厚さ25μmの低密度ポリエチレンからなるヒートシール層を設け、軟包装材用紙を得た。
【0038】
得られた紙基材、または、軟包装材用紙について、下記評価を行った。結果を表1に示す。
・KES法によるB、2HB
トーテック株式会社製の自動化純曲げ試験機KES-FB2-Sを用いて、試験片100mm×100mm、曲げスピード0.5cm-1/sec、最大曲率2.5cm-1の条件にて測定した。
・突き刺し強度
軟包装材用紙の紙基材側から、JIS Z1707:2019 7.5突刺し強さ試験に準拠して、IMADA社テクスチャーアナライザーにて測定した。
・平滑度(王研式)
紙基材のヒートシール層を設ける面とは反対側の面(表面)、およびヒートシール層を設ける面(裏面)について、JIS P8155に準拠して、デジタル型王研式透気度平滑度試験機(旭精工株式会社製)を用いて測定した。
・ヤング率
JIS P8113:2006、第二部定速伸張法に準拠して、L&W引張試験器にて測定した。
【0039】
・製袋性
得られた軟包装材用紙を幅250mmに裁断してロール状に巻回した。これを横ピロー包装機(大森機械工業社、S-5000X BX)、製品ダミー幅75mm×長さ75mm×高さ28mm(重さ45g)を用いて、製袋器間口の幅80~85mm×高さ35mmに設定し、カットピッチ150mm、回転数60cpmの条件で横ピロー袋を1000個作成し、下記基準で評価した。また、センターシール温度140℃、トップシール温度110℃とした。
【0040】
・縦方向寸法安定性(N=30)
1:縦方向の寸法が、いずれも設計から±3%未満。
2:縦方向の寸法が、いずれも設計から±5%未満。
3:縦方向の寸法が設計から5%以上乖離したものが1個以上。
・横方向寸法安定性(N=30)
1:間口の寸法が、いずれも設計から±10%未満。
2:間口の寸法が、いずれも設計から±25%未満。
3:間口の寸法が設計から25%以上乖離したものが1個以上。
【0041】
・美粧性(N=100)
1:横ピロー袋としての形状を維持している。
2:僅かな反りや丸みが生じたものがあるが、外観上問題とならない(実用OK)。
3:大きな反りや丸みが生じ、形状が乱れているものがある(実用NG)。
・張り(N=100)
1:横ピロー袋に張りがあり、形状を維持している。
2:横ピロー袋の張りが弱く、わずかに撓んでいるが、外観上問題とならない(実用OK)
3:横ピロー袋に張りがなく柔軟で、形状を維持できない。
・しわ(N=100)
1:しわがない、または注視しなければ気づかない程度の僅かなしわが発生している。
2:小さなしわは発生しているものの局所的であり、外観上問題とならない(実用OK)。
3:ひと目で気付く大きさのしわが発生しているものがある(実用NG)。
【0042】
【表1】
【0043】
結果
実施例1~6で得られた軟包装材用紙は、設計寸法に近い横ピロー袋を製造することができ、また、得られた横ピロー袋の外観は実用上問題がなかった。実施例4で得られた軟包装材用紙から得られた横ピロー袋は、開口の寸法の設計からのズレがいずれも20%未満であり、実施例6で得られた軟包装材用紙から得られた横ピロー袋は、開口の寸法の設計からのズレがいずれも25%未満であり、そのほとんどは20%未満であったが、20%以上25%未満のものも含まれていた。
それに対し、比較例1で得られた軟包装材用紙から得られた横ピロー袋は、張りがなく、水平の状態で持ち上げると重力に逆らえずに垂れ下がってしまった。これは、比較例1で用いた紙基材は、KES法によるB値が0.151g・cm/cmと小さく、柔らかすぎるためであると推測される。また、比較例2で得られた軟包装材用紙から得られた横ピロー袋は、横方向の寸法が設計寸法から25%以上と大きくずれたものが複数個含まれていた。これは、比較例2で用いた紙基材は、KES法によるB値が1.93g・cm/cmと大きく、曲げ加工が難しい紙であるため、筒状に丸める際にズレが生じたためであると推測される。
【要約】
【課題】製袋機で製袋可能な軟包装材用紙と、この軟包装材用紙を用いた軟包装体を提供すること。
【解決手段】紙基材と、少なくとも一方の最表面にヒートシール層を有し、
前記紙基材が、厚さ25μm以上100μm以下であり、KES法によるMD方向の曲げ剛性Bが0.16g・cm/cm以上1.8g・cm/cm以下である軟包装材用紙。
【選択図】なし