(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-28
(45)【発行日】2023-05-11
(54)【発明の名称】サイトメガロウイルスのgBとペンタマーとの融合タンパク質及び該融合タンパク質を含むワクチン
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20230501BHJP
A61K 39/245 20060101ALI20230501BHJP
A61P 31/22 20060101ALI20230501BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230501BHJP
C07K 14/045 20060101ALI20230501BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230501BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230501BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230501BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230501BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230501BHJP
C12N 15/38 20060101ALI20230501BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230501BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
A61K39/245
A61P31/22
A61P37/04
C07K14/045
C07K19/00
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/38
C12N15/63 Z
(21)【出願番号】P 2022530580
(86)(22)【出願日】2021-06-08
(86)【国際出願番号】 JP2021021752
(87)【国際公開番号】W WO2021251384
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2020100100
(32)【優先日】2020-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】318010328
【氏名又は名称】KMバイオロジクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100140888
【氏名又は名称】渡辺 欣乃
(72)【発明者】
【氏名】鳥飼 正治
(72)【発明者】
【氏名】森 泰亮
(72)【発明者】
【氏名】枦山 紘輔
(72)【発明者】
【氏名】松本 みゆき
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/153954(WO,A1)
【文献】CHIUPPESI, Flavia et al.,Vaccine-Derived Neutralizing Antibodies to the Human Cytomegalovirus gH/gL Pentamer Potently Block Primary Cytotrophoblast Infection,Journal of Virology,2015年,Vol.89, No.23,P.11884-11898
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイトメガロウイルス(CMV)のエンベロープ糖タンパク質B(gBタンパク質)とペンタマーとの融合タンパク質であり、
前記gBタンパク質が、配列番号15、配列番号16、配列番号3又は配列番号31に記載のアミノ酸配列からなるgBタンパク質のエクトドメインと90%以上の配列同一性を有するgBタンパク質のエクトドメインを含み、
前記ペンタマーが、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるgHと90%以上の配列同一性を有するgH、配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるgLと90%以上の配列同一性を有するgL、配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるUL128と90%以上の配列同一性を有するUL128、配列番号7に記載のアミノ酸配列からなるUL130と90%以上の配列同一性を有するUL130、及び配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるUL131と90%以上の配列同一性を有するUL131を含む、融合タンパク質。
【請求項2】
3つのgBタンパク質構成分子からなるgBタンパク質のホモ三量体と、5つのペンタマー構成分子からなるペンタマーのヘテロ五量体とが、少なくとも1つのgBタンパク質構成分子と少なくとも1つのペンタマー構成分子とがそれぞれ遺伝子工学的に融合することによって、タンパク質複合体を形成している、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
少なくとも2つのgBタンパク質構成分子と、少なくとも2つのペンタマー構成分子とがそれぞれ遺伝子工学的に融合している、請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
3つのgBタンパク質構成分子と、5つのペンタマー構成分子のうちのいずれか3つのペンタマー構成分子とがそれぞれ遺伝子工学的に融合している、請求項2又は3に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
3つのgBタンパク質構成分子と、ペンタマー構成分子であるgL、UL128及びUL130とがそれぞれ遺伝子工学的に融合している、請求項2~4のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
3つのgBタンパク質構成分子と、ペンタマー構成分子であるUL128、UL130及びUL131とがそれぞれ遺伝子工学的に融合している、請求項2~4のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
遺伝子工学的な融合のうち少なくとも1つの融合が、gBタンパク質構成分子のN末端側にペンタマー構成分子が結合している融合である、請求項2~6のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
遺伝子工学的な融合のうち少なくとも2つの融合が、gBタンパク質構成分子のN末端側にペンタマー構成分子が結合している融合である、請求項3~6のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項9】
3つの遺伝子工学的な融合がすべて、gBタンパク質構成分子のN末端側にペンタマー構成分子が結合している融合である、請求項4~6のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項10】
gBタンパク質構成分子とペンタマー構成分子との間にリンカー及び/又はタグを有する、請求項2~9のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項11】
リンカーが配列番号22記載のアミノ酸配列単位を1~3回繰り返したアミノ酸配列からなるリンカーである、請求項10に記載の融合タンパク質。
【請求項12】
gBタンパク質がCMV gBタンパク質のエクトドメインである、請求項1~11のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項13】
gBタンパク質が配列番号15に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるヒトサイトメガロウイルス(HCMV)のgBタンパク質のエクトドメインである、請求項12に記載の融合タンパク質。
【請求項14】
gBタンパク質が、配列番号15に記載のアミノ酸配列からなるgBタンパク質のエクトドメインと90%以上の配列同一性を有するgBタンパク質のエクトドメインである、請求項12又は13に記載の融合タンパク質。
【請求項15】
gBタンパク質がドメインIVを欠失したgBタンパク質改変体である、請求項1~
11のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項16】
gBタンパク質が配列番号16に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるヒトサイトメガロウイルス(HCMV)のgBタンパク質のエクトドメインである、請求項15に記載の融合タンパク質。
【請求項17】
gBタンパク質が、配列番号16に記載のアミノ酸配列からなるgBタンパク質のエクトドメインと90%以上の配列同一性を有するgBタンパク質のエクトドメインである、請求項15又は16に記載の融合タンパク質。
【請求項18】
gBタンパク質が、野生型gBタンパク質に比べて、凝集体の形成を低減させ、ホモ三量体構造の割合を増加させる改変が導入されたgBタンパク質改変体である、請求項1~
11のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項19】
gBタンパク質が配列番号3に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるヒトサイトメガロウイルス(HCMV)のgBタンパク質のエクトドメインである、請求項18に記載の融合タンパク質。
【請求項20】
gBタンパク質が、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるgBタンパク質のエクトドメインと90%以上の配列同一性を有するgBタンパク質のエクトドメインである、請求項18又は19に記載の融合タンパク質。
【請求項21】
gBタンパク質が、野生型gBタンパク質に比べて、ヘッド領域の免疫原性を低減させる改変が導入されたgBタンパク質改変体である、請求項1~
11のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項22】
gBタンパク質が配列番号31に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるヒトサイトメガロウイルス(HCMV)のgBタンパク質のエクトドメインである、請求項21に記載の融合タンパク質。
【請求項23】
gBタンパク質が、配列番号31に記載のアミノ酸配列からなるgBタンパク質のエクトドメインと90%以上の配列同一性を有するgBタンパク質のエクトドメインである、請求項21又は22に記載の融合タンパク質。
【請求項24】
ペンタマーが、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)のgH、gL、UL128、UL130及びUL131からなる、請求項1~23のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項25】
gHがgHタンパク質のエクトドメインである、請求項24に記載の融合タンパク質。
【請求項26】
ペンタマーが、
配列番号4に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるgH、
配列番号5に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるgL、
配列番号6に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるUL128、
配列番号7に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるUL130、及び
配列番号8に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるUL131
を含むヒトサイトメガロウイルス(HCMV)のペンタマータンパク質である、請求項24又は25に記載の融合タンパク質。
【請求項27】
ペンタマーが、
配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるgHと90%以上の配列同一性を有するgH、
配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるgLと90%以上の配列同一性を有するgL、
配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるUL128と90%以上の配列同一性を有するUL128、
配列番号7に記載のアミノ酸配列からなるUL130と90%以上の配列同一性を有するUL130、及び
配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるUL131と90%以上の配列同一性を有するUL131
からなるHCMVのペンタマータンパク質である、請求項24~26のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項28】
請求項1~27のいずれか一項に記載の融合タンパク質をコードする核酸断片。
【請求項29】
請求項28に記載の核酸断片を含む組換え発現ベクター。
【請求項30】
請求項28に記載の核酸断片又は請求項29に記載の組換え発現ベクターが導入された形質転換体。
【請求項31】
請求項1~27のいずれか一項に記載の融合タンパク質を含む、CMVの感染を予防又は治療するためのワクチン。
【請求項32】
CMVの感染がCMVの先天性感染である、請求項31に記載のワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイトメガロウイルスのgBとペンタマーとの融合タンパク質、及び該融合タンパク質を含む、サイトメガロウイルスの感染を予防又は治療するためのワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
サイトメガロウイルス(CMV)感染症には、大きく移植、AIDS、先天性免疫不全などの免疫抑制状態の患者において発症するCMV肺炎、腸炎、網膜炎などの臓器障害と、妊婦が初感染した場合に胎児が発症する先天性CMV感染症との2つがある。このうち、先天性CMV感染症は、TORCH症候群の1つであり、胎児に奇形又は重篤な臨床症状を引き起こす重要な先天性感染症である。妊婦がCMVに初感染した場合、およそ40%で胎盤を通して胎児の先天性感染が発生する(本明細書においては、「先天性感染」という用語と「経胎盤感染」という用語を同じ意味で用いている)。また、死産の約15%が先天性CMV感染によるという報告もある。先天性感染児の年間発生件数は、日本で3000人以上、米国で約4万人であり、症候性は日本で約1000人、米国で約8000人とも言われ、このうち約9割に中枢神経障害や難聴などの後障害が残る。
【0003】
日本におけるCMV抗体保有率は欧米諸国に比して高く、日本人成人の80%~90%はCMV抗体陽性であり、ほとんどの人が乳幼児期に感染を受けている。しかし、最近の傾向として、若年者のCMV抗体保有率は90%台から60%台に低下傾向を示しており、先天性CMV感染症の予防対策の必要性はさらに高まっている(非特許文献1)。
【0004】
米国医学研究所(the Institute of Medicine)は、先天性CMV感染症が先進国における先天性の中枢神経障害の原因としてダウン症候群を凌ぐインパクトを持っており、障害が残った先天性感染児の生涯に及ぶQOLの低下と社会経済的損失をQALYs(quality-adjusted life years)として算出すると、CMVワクチンは、最も医療経済効果が高いカテゴリーに分類されると分析している(非特許文献2)。
【0005】
感染症を引き起こす病原体は、従来型ワクチンで十分な効果を得ることができるClass I群病原体と、従来型ワクチン又は病原体感染歴では十分な防御免疫を獲得できないClass II群病原体とに大別されるが、CMVは後者に分類される。Class II群病原体の克服が難しい理由として、それらが有する巧妙な免疫逃避機構が指摘されている。人類はこれまでにClass I群病原体に対する数多くの有効なワクチンを開発し、それらの引き起こす感染症の脅威に打ち勝ってきた。そして今後のワクチン開発の焦点は、Class II群病原体へと移りつつある。
【0006】
先天性CMV感染症の被害を最小限に留めるために、妊婦スクリーニングで未感染妊婦を同定し、生活上の注意を啓発することも行われているが、十分ではない。さらに初感染妊婦を同定して、CMV抗体高力価免疫グロブリンを妊婦に投与することで胎児への感染予防や重症化の軽減に有効であったとする報告もあるが、現在のところ有効性に疑問が出てきている(非特許文献3)。一方、低分子薬としてガンシクロビル(ganciclovir)も上市されているが、その効果は限定的であり、副作用の問題もある。現時点においてワクチンは存在せず、また前述の通り十分に有効な治療法も無いことから、そのアンメットニーズは高いと考えられる。
【0007】
CMVワクチン開発に関しては、これまで複数の製薬企業やアカデミアにおいて弱毒生ワクチンやサブユニットワクチン、DNAワクチンなどを用いた検討が試みられてきたが、いずれもT細胞免疫、B細胞免疫共に応答が不十分であり、結果としてワクチンとして実用に耐え得る効果は得られていない。
【0008】
その中でSanofi社のワクチンは、CMV糖タンパク質のgBを抗原とした遺伝子組換えサブユニットワクチンであるが、未感染成人女性を対象とした臨床試験において約50%程度の感染予防効果を示した。効果が限定的だったため、開発は事実上中断しているが、「gB抗原のみで一定の効果を示しうる(だが十分ではない)」という意義のある知見が得られた(非特許文献4)。
【0009】
CMVのワクチン候補品の効果の実験的証明については、CMVの種特異性についての考慮が必要となる。CMVには種特異性があるため、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)を用いた動物実験は基本的に不可能である。動物実験はマウス、ラット、モルモット、サルなどを用いて行われるが、各種動物種に固有のCMVを用いて実施される。経胎盤感染については、モルモットのみが、母体へのウイルス感染を起こさせることで、特殊な処置をせずとも胎仔への感染が確認できる動物モデル系であり、モルモットの経胎盤感染試験系は広く利用されている(非特許文献5)。
【0010】
gBワクチンの経胎盤感染に対する効果に関しては、組換えモルモットサイトメガロウイルス(GPCMV)のgBタンパク質+アジュバントの雌モルモットへの投与により、雌モルモットの初感染が抑制され、また、胎仔への経胎盤感染も抑制されたことが報告されている(非特許文献6)。
【0011】
非特許文献7では、GPCMVのgBタンパク質を組み込んだアデノウイルスベクターワクチンを用いて、モルモットの経胎盤感染モデルにおいて胎仔への経胎盤感染をgBが抑制することが示されている。
【0012】
一方、CMVの主要抗原としてここ数年で大きな注目を集めているのがペンタマー(Pentamer)抗原である。ペンタマーはCMVの細胞指向性決定因子であり、ヒトCMVではgH、gL、UL128、UL130及びUL131(gH/gL/UL128/UL130/UL131)の5つのサブユニットから構成される分子である(非特許文献15)。
【0013】
ペンタマーの経胎盤感染における寄与に関しては、ペンタマー遺伝子を欠失したGPCMVは上皮・内皮細胞への感染性と経胎盤感染能を失っており、欠失した遺伝子を異所性に発現させることによりそれらが復活することが報告されている(非特許文献8)。
【0014】
また、ペンタマーワクチンの効果に関しては、ペンタマーを発現させたベクターワクチンMVA-PCをマウスに投与し誘導されたモノクローナル抗体について詳細に解析した結果、抗gH抗体に比べて抗ペンタマー抗体の上皮及び内皮細胞系での中和能が明らかに高く、経胎盤感染において重要と考えられる栄養膜細胞での中和能についても同様であったことが報告されている(非特許文献9)。
【0015】
その一方で、相反する報告もある。非特許文献10では、ヒトの胎盤における栄養芽前駆細胞はCMVのターゲットであり、当細胞へのCMVの感染にはペンタマーの寄与はほぼ認められず、gBの寄与は明確に認められたとしている。
【0016】
また、非特許文献11では、ex vivoの胎盤感染試験系を用いて、GPCMVの胎盤組織への感染及び増殖にはペンタマーの寄与がほとんど認められないとしている。
【0017】
このように、ペンタマーのワクチン抗原としての有用性を示唆する報告は散見されるものの、経胎盤感染におけるペンタマーの役割が明白ではなく、ペンタマーワクチンの経胎盤感染に対する抑制効果については未だ結論が出ているとは言えない状況にある。
【0018】
ペンタマーとgBの併用の効果については、特許文献1において、サルを対象とした感染防御試験において、組換えペンタマーと組換えgBの併用が有効であったとする報告がなされているものの、経胎盤感染への影響については何らの示唆も与えていない。また、ペンタマー単独群及び非免疫群と比較して、ペンタマー+gBの併用群が優れていることは示されているが、gB単独群が設定されていないため、正確には併用の効果を示していることにならない。
【0019】
また、非特許文献12では、抗gBモノクローナル抗体と抗ペンタマーモノクローナル抗体との併用効果についてin vitroで検証し、中和能と耐性株出現抑制に関して併用の利点があるとしているが、生体における感染防御能について併用の効果を証明してはいない。
【0020】
さらに、特許文献2では、gB+ペンタマーの2価ワクチンで免疫することで、いくつかのサイトカインの産生が単独群より高いというデータがあるが、中和能では併用群は優位ではなく、また、感染実験もされていない。また、特許文献4には、改変CMV gBタンパク質及びこれを含むCMVワクチンが開示されている。
【0021】
非特許文献15ではペンタマーのX線結晶構造が明らかにされている。これによれば、ペンタマーはらせん状構造をとる長径約18nmの分子であり、その末端にgHが存在し、gHの一部がgLと絡み合う形でgH/gLドメインを形成している。UL128/UL130/UL131は緩やかに湾曲した形をとりながら、gLのN末端と相互作用している。UL128/UL130/UL131のうち、UL131は3者の中心に存在している。UL130はそのC末端側で、UL131のβストランドとともにシート構造を形成しており、その片面をUL131のヘリックス構造により覆われている。UL128とUL130は、ともにN末端側でそれぞれ球状構造を形成しており、これらはコア構造を挟んで正反対に位置している。UL128のC末端側は5nmに達する柔軟性に富んだリンカーでgLと相互作用しており、gLの溝にはまり込む形で小さなヘリックス構造を形成している。このように、ペンタマーは内部分子間で多数の相互作用をしている。しかし、その界面が小さいために、非常に柔軟性に富んだ構造を取っているが、Fabとの結合によりペンタマーを安定化できることが示されている。そのため、適切な部位特異的変異を導入することで安定性を向上させられる可能性がある。
【0022】
非特許文献13では部位特異的変異により凝集性を改善したgBの細胞外ドメイン(エクトドメイン)のX線結晶構造が明らかにされている。これによれば、gBはホモ三量体がスパイクのような構造を取っており、そのプロトマーは5つのドメインから構成されている。ドメインI及びドメインIIは細胞膜に近い側に隣接して位置しており、ドメインIIIは非常に長いヘリックス構造によりコイルドコイル構造を形成している。ドメインIVは細胞膜と正反対側に位置し、ドメインVはドメインIからドメインIIIにかけて、gB全長に沿う形で存在している。N末端はドメインIV近傍に位置し、C末端はドメインVに存在している。
【0023】
CMV gBタンパク質の立体構造は解析されており(非特許文献13)、例えば、AD169株由来のgBタンパク質(配列番号1)において、配列番号1における109-319番目のアミノ酸残基からなるドメインI、97-108番目のアミノ酸残基と320-414番目のアミノ酸残基とからなるドメインII、71-87番目のアミノ酸残基と453-525番目のアミノ酸残基と614-643番目のアミノ酸残基とからなるドメインIII、65-70番目のアミノ酸残基と526-613番目のアミノ酸残基とからなるドメインIV、及び、644-675番目のアミノ酸残基からなるドメインVを有することが知られている。
【0024】
gBには抗原ドメイン(antigenic domain、AD)が5つ存在しており(AD-1~AD-5)、AD-1が最も抗原性が高いとされる。AD-1はドメインIVに位置しており、ドメインIVにはN型糖鎖が比較的少なく抗原が露出しているため、抗体がアクセスしやすいと考えられる。さらに、特許文献4では、ドメインIVを含む領域(ヘッド領域)に非中和抗体が集中していることが報告されており、ヘッド領域を除いたgBのワクチンとしての可能性について報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【文献】国際公開第2017153954号
【文献】特表2017-515503号公報
【文献】国際公開第2003004647号
【文献】国際公開2020085457号
【非特許文献】
【0026】
【文献】Azuma H et al., “Cytomegalovirus seropositivity in pregnant women in Japan during 1996-2009” J Jpn Soc Perin Neon Med 46 (2010) 1273-1279
【文献】Kathleen R.Stratton et al., “Vaccines for the 21st centrury : a tool for decision making” The National Academies Press, 2000
【文献】Revello MG et al., “Randomized trial of hyperimmune globulin to prevent congenital cytomegalovirus” N Engl J Med 370 (2014) 1316-1326
【文献】Rieder F et al., “Cytomegalovirus vaccine: phase II clinical trial results” Clin Microbiol Infect 20 Suppl 5 (2014) 95-102
【文献】Yamada S et al., “Characterization of the guinea pig cytomegalovirus genome locus that encodes homologs of human cytomegalovirus major immediate-early genes, UL128, and UL130” Virology 391 (2009) 99-106
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【文献】Hashimoto K et al., “Effects of immunization of pregnant guinea pigs with guinea pig cytomegalovirus glycoprotein B on viral spread in the placenta” Vaccine 31 (2013) 3199-3205
【文献】Coleman S et al., “A Homolog Pentameric Complex Dictates Viral Epithelial Tropism, Pathogenicity and Congenital Infection Rate in Guinea Pig Cytomegalovirus” PLoS Pathog 12 (2016) e1005755
【文献】Flavia Chiuppesi et al., “Vaccine-Derived Neutralizing Antibodies to the Human Cytomegalovirus gH/gL Pentamer Potently Block Primary Cytotrophoblast Infection” J Virol 89 (2015) 11884-11898
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【文献】Burke HG et al., “Crystal Structure of the Human Cytomegalovirus Glycoprotein B” PLoS Pathog 11 (2015) e1005227
【文献】Ciferri C et al., “Structural and biochemical studies of HCMV gH/gL/gO and Pentamer reveal mutually exclusive cell entry complexes” Proc Natl Acad Sci USA 112 (2015) 1767-1772
【文献】Chandramouli S et al., “Structural basis for potent antibody-mediated neutralization of human cytomegalovirus.” Sci Immunol 2(2017) eaan1457
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
上述したように、CMVの感染予防において、特にCMVの先天性感染を抑制し得る有効なCMVワクチンが存在しない。したがって、本発明は、CMVの感染を予防及び治療できる有効なワクチンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明者らは、以前の研究(国際出願PCT/JP2019/047966号、2020年6月18日付けWO2020/121983として公開)では、CMV gB抗原とペンタマー抗原とを含む、CMVの先天性感染を予防又は治療するためのワクチンを提案した。本発明者らはさらなる有効なワクチンを提供すべく鋭意研究の結果、CMVの主要な抗原であるgBとペンタマーとを遺伝子工学的に融合させたタンパク質複合体を作出し、1種類のタンパク質からなるサブユニットワクチンとすることで、モルモットにおける先天性CMV感染を強く抑制しうること、並びに当該融合タンパク質の形態においてペンタマー分子の安定性が向上することを見出し、本発明の完成に至った。
【0029】
すなわち、本発明は、以下の各発明に関する。
[1] サイトメガロウイルス(CMV)のエンベロープ糖タンパク質B(gBタンパク質)とペンタマーとの融合タンパク質。
[2] 3つのgBタンパク質構成分子からなるgBタンパク質のホモ三量体と、5つのペンタマー構成分子からなるペンタマーのヘテロ五量体とが、少なくとも1つのgBタンパク質構成分子と少なくとも1つのペンタマー構成分子とがそれぞれ遺伝子工学的に融合することによって、タンパク質複合体を形成している、[1]に記載の融合タンパク質。
[3] 少なくとも2つのgBタンパク質構成分子と、少なくとも2つのペンタマー構成分子とがそれぞれ遺伝子工学的に融合している、[2]に記載の融合タンパク質。
[4] 3つのgBタンパク質構成分子と、5つのペンタマー構成分子のうちのいずれか3つのペンタマー構成分子とがそれぞれ遺伝子工学的に融合している、[2]又は[3]に記載の融合タンパク質。
[5] 3つのgBタンパク質構成分子と、ペンタマー構成分子であるgL、UL128及びUL130とがそれぞれ遺伝子工学的に融合している、[2]~[4]のいずれかに記載の融合タンパク質。
[6] 3つのgBタンパク質構成分子と、ペンタマー構成分子であるUL128、UL130及びUL131とがそれぞれ遺伝子工学的に融合している、[2]~[4]のいずれかに記載の融合タンパク質。
[7] 遺伝子工学的な融合のうち少なくとも1つの融合は、gBタンパク質構成分子のN末端側にペンタマー構成分子が結合している融合である、[2]~[6]のいずれかに記載の融合タンパク質。
[8] 遺伝子工学的な融合のうち少なくとも2つの融合は、gBタンパク質構成分子のN末端側にペンタマー構成分子が結合している融合である、[3]~[6]のいずれかに記載の融合タンパク質。
[9] 3つの遺伝子工学的な融合がすべて、gBタンパク質構成分子のN末端側にペンタマー構成分子が結合している融合である、[4]~[6]のいずれかに記載の融合タンパク質。
[10] gBタンパク質構成分子とペンタマー構成分子との間にリンカー及び/又はタグを有する、[2]~[9]のいずれかに記載の融合タンパク質。
[11] リンカーが配列番号22記載のアミノ酸配列単位を1~3回繰り返したアミノ酸配列からなるリンカーである、[10]に記載の融合タンパク質。
[12] gBタンパク質がCMV gBタンパク質のエクトドメインである、[1]~[11]のいずれかに記載の融合タンパク質。
[13] gBタンパク質が配列番号15に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるヒトサイトメガロウイルス(HCMV)のgBタンパク質のエクトドメインである、[12]に記載の融合タンパク質。
[14] gBタンパク質が、配列番号15に記載のアミノ酸配列からなるgBタンパク質のエクトドメインと80%以上の配列同一性を有するgBタンパク質のエクトドメインである、[12]又は[13]に記載の融合タンパク質。
[15] gBタンパク質がドメインIVを欠失したgBタンパク質改変体である、[1]~[14]のいずれかに記載の融合タンパク質。
[16] gBタンパク質が配列番号16に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるヒトサイトメガロウイルス(HCMV)のgBタンパク質のエクトドメインである、[15]に記載の融合タンパク質。
[17] gBタンパク質が、配列番号16に記載のアミノ酸配列からなるgBタンパク質のエクトドメインと80%以上の配列同一性を有するgBタンパク質のエクトドメインである、[15]又は[16]に記載の融合タンパク質。
[18] gBタンパク質が、野生型gBタンパク質に比べて、凝集体の形成を低減させ、ホモ三量体構造の割合を増加させる改変が導入されたgBタンパク質改変体である、[1]~[14]のいずれかに記載の融合タンパク質。
[19] gBタンパク質が配列番号3に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるヒトサイトメガロウイルス(HCMV)のgBタンパク質のエクトドメインである、[18]に記載の融合タンパク質。
[20] gBタンパク質が、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるgBタンパク質のエクトドメインと80%以上の配列同一性を有するgBタンパク質のエクトドメインである、[18]又は[19]に記載の融合タンパク質。
[21] gBタンパク質が、野生型gBタンパク質に比べて、ヘッド領域の免疫原性を低減させる改変が導入されたgBタンパク質改変体である、[1]~[14]のいずれかに記載の融合タンパク質。
[22] gBタンパク質が配列番号31に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるヒトサイトメガロウイルス(HCMV)のgBタンパク質のエクトドメインである、[21]に記載の融合タンパク質。
[23] gBタンパク質が、配列番号31に記載のアミノ酸配列からなるgBタンパク質のエクトドメインと80%以上の配列同一性を有するgBタンパク質のエクトドメインである、[21]又は[22]に記載の融合タンパク質。
[24] ペンタマーが、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)のgH、gL、UL128、UL130及びUL131からなる、[1]~[23]のいずれかに記載の融合タンパク質。
[25] gHがgHタンパク質のエクトドメインである、[24]に記載の融合タンパク質。
[26] ペンタマーが、
配列番号4に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるgH、
配列番号5に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるgL、
配列番号6に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるUL128、
配列番号7に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるUL130、及び
配列番号8に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるUL131
を含むヒトサイトメガロウイルス(HCMV)のペンタマータンパク質である、[24]又は[25]に記載の融合タンパク質。
[27] ペンタマーが、
配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるgHと80%以上の配列同一性を有するgH、
配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるgLと80%以上の配列同一性を有するgL、
配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるUL128と80%以上の配列同一性を有するUL128、
配列番号7に記載のアミノ酸配列からなるUL130と80%以上の配列同一性を有するUL130、及び
配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるUL131と80%以上の配列同一性を有するUL131
を含むHCMVのペンタマータンパク質である、[24]~[26]のいずれかに記載の融合タンパク質。
[28] [1]~[27]のいずれかに記載の融合タンパク質をコードする核酸断片。
[29] [28]に記載の核酸断片を含む組換え発現ベクター。
[30] [28]に記載の核酸断片又は[29]に記載の組換え発現ベクターが導入された形質転換体。
[31] [1]~[27]のいずれかに記載の融合タンパク質を含む、CMVの感染を予防又は治療するためのワクチン。
[32] CMVの感染がCMVの先天性感染である、[31]に記載のワクチン。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、CMVの先天性感染防御において、gBとペンタマーとの融合タンパク質を抗原とすることで、それぞれの単独投与による効果を上回る感染抑制効果を有するワクチンを提供することができる。これにより、CMVワクチンの実用化が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】実施例1の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の精製品のゲル濾過クロマトグラフィーの結果を示す図である。
【
図2】実施例1の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の精製品のゲル濾過クロマトグラフィーの結果を示す図である。
【
図3】実施例1の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の精製品のゲル濾過クロマトグラフィーの結果を示す図である。
【
図4】実施例2の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の、HCMV-gB免疫血清及びペンタマー免疫血清を用いた反応性解析の結果を示す図である。
【
図5】実施例2の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の精製品のゲル濾過クロマトグラフィーの結果を示す図である。
【
図6】実施例3-1の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の、HCMV-gB免疫血清及びペンタマー免疫血清を用いた反応性解析の結果を示す図である。
【
図7】実施例3-1の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の、HCMV-gB免疫血清及びペンタマー免疫血清を用いた反応性解析の結果を示す図である。
【
図8】実施例3-1の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の、HCMV-gB免疫血清及びペンタマー免疫血清を用いた反応性解析の結果を示す図である。
【
図9】実施例3-1の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の、HCMV-gB免疫血清及びペンタマー免疫血清を用いた反応性解析の結果を示す図である。
【
図10】実施例3-1の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の精製品のゲル濾過クロマトグラフィーの結果を示す図である。
【
図11】実施例3-1の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の精製品のゲル濾過クロマトグラフィーの結果を示す図である。
【
図12】実施例3-1の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の精製品のゲル濾過クロマトグラフィーの結果を示す図である。
【
図13】実施例3-1の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の精製品のゲル濾過クロマトグラフィーの結果を示す図である。
【
図14】実施例3-1の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体免疫血清の抗体価測定の結果を示す図である。
【
図15】実施例3-1の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体免疫血清の中和活性の結果を示す図である。
【
図16】実施例3-2-1の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の精製品の、Δd4免疫血清を用いた反応性解析の結果を示す図である。
【
図17】実施例3-2-1の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の精製品の、ペンタマー(PC)免疫血清を用いた反応性解析の結果を示す図である。
【
図18】実施例3-2-1の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の精製品の、gH(His-)/gL-Δd4/UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131(Δd4/PC)免疫血清を用いた反応性解析の結果を示す図である。
【
図19】実施例3-2-1の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の精製品の、saline免疫血清を用いた反応性解析の結果を示す図である。
【
図20】実施例3-2-1の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の精製品のゲル濾過クロマトグラフィーの結果を示す図である。
【
図21】実施例3-2-1の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の精製品の粒子径評価の結果を示す図である。
【
図22】実施例4の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の精製品の粒子径分布の結果を示す図である。
【
図23】実施例4の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の精製品の粒子径分布の結果を示す図である。
【
図24】実施例5の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の精製品のスコアを示す図である。
【
図25】実施例6の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の精製品のゲル濾過クロマトグラフィーの結果を示す図である。
【
図26】実施例6の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の精製品の経胎盤感染防御試験の結果を示す図である。
【
図27】実施例7の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の精製品の経胎盤感染防御試験の結果を示す図である。
【
図28】実施例3-2-2の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の精製品のゲル濾過クロマトグラフィーの結果を示す図である。
【
図29】実施例3-2-2の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の精製品の粒子径評価の結果を示す図である。
【
図30】実施例3-2-3の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体免疫血清の抗体価測定の結果を示す図である。
【
図31】実施例3-2-3の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体免疫血清の中和活性の結果を示す図である。
【
図32】実施例4のgH(His-)/gL-Δd4/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131の精製品の粒子径分布の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0033】
〔融合タンパク質〕
本発明の融合タンパク質は、サイトメガロウイルス(CMV)のエンベロープ糖タンパク質B(gBタンパク質)とペンタマーとの融合タンパク質である。当該融合タンパク質は、3つのgBタンパク質構成分子からなるgBタンパク質のホモ三量体と、5つのペンタマー構成分子からなるペンタマーのヘテロ五量体とが、少なくとも1つのgBタンパク質構成分子と少なくとも1つのペンタマー構成分子とがそれぞれ遺伝子工学的に融合することによってタンパク質複合体を形成したものである。ここで、構成分子とは、gBタンパク質のホモ三量体又はペンタマーのヘテロ五量体を構成するタンパク質をいい、サブユニットともいう。当該融合タンパク質は抗原としてCMVの予防及び治療に有用なワクチンの作製に用いられる。
【0034】
融合タンパク質は、好ましくは少なくとも2つのgBタンパク質構成分子と、少なくとも2つのペンタマー構成分子とがそれぞれ遺伝子工学的に融合することによって形成されたタンパク質複合体であり、より好ましくは、3つのgBタンパク質構成分子と、5つのペンタマー構成分子のうちのいずれか3つのペンタマー構成分子とがそれぞれ遺伝子工学的に融合することによって形成されたタンパク質複合体である。
【0035】
サイトメガロウイルス(CMV)は、任意のCMV株を含み、例えば、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)、モルモットサイトメガロウイルス(GPCMV)、マウスサイトメガロウイルス(MCMV)、ラットサイトメガロウイルス(RCMV)及びアカゲザルサイトメガロウイルス(RhCMV)などが挙げられる。HCMVであることが好ましい。
【0036】
本実施形態におけるCMVのgBタンパク質は、野生型CMV gBタンパク質であっても、改変型CMV gBタンパク質であってもよい。
【0037】
野生型CMV gBタンパク質とは、任意のCMV株に由来するgBタンパク質を意味し、例えば配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するHCMV AD169株由来のgBタンパク質(GenBankの登録番号:X17403.1)、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するGPCMV 22122株に由来するgBタンパク質(GenBankの登録番号:AB592928.1)などが挙げられる。
【0038】
改変型CMV gBタンパク質(「gBタンパク質改変体」、「gB改変体」又は「改変体」ともいう。)とは、野生型CMV gBタンパク質に対して、少なくとも一つのアミノ酸残基又は連続したアミノ酸残基領域が、置換、欠損(欠失)又は付加されたタンパク質をいい、アミノ酸残基の置換又は欠損によって糖鎖導入されたタンパク質などの野生型に存在しないタンパク質修飾がされたタンパク質も含む。
【0039】
gB改変体は、野生型CMV gBタンパク質のアミノ酸配列において、1以上、例えば、1~50個、1~40個、1~30個、1~20個、1~15個、1~10個、1~5個、1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有してもよく、置換、欠損(欠失)又は付加は同時に生じてもよい。ここで、アミノ酸の付加とは、元のアミノ酸配列の中に挿入すること、及び、元のアミノ酸配列の末端に追加することの両方を含む。なお、本明細書において、アミノ酸残基は、アミノ酸残基であることが明確な場合、単にアミノ酸という場合がある。
【0040】
gB改変体としては、元のgBタンパク質の立体構造及び機能に影響を与えない改変を有する改変体であってもよく、性状が改善されたものであってもよい。性状が改善されたgB改変体としては、例えば、凝集体が形成しない又は低減し、ホモ三量体構造の割合を増加させるための改変が導入された改変体、或いは、抗体誘導能又は中和抗体誘導能を向上させるための改変、例えば特許文献4に記載されているようなgBタンパク質のヘッド領域の免疫原性を低減させる改変が導入された改変体などが挙げられる。「中和抗体誘導能」とは、抗原タンパク質に対する中和抗体を誘導できる能力をいい、抗原タンパク質を被検動物に接種することで得られる免疫血清中の中和抗体価(neutralizing antibody titer)で評価され得る。「中和抗体」とは、ウイルス粒子の感染性を失わせることができる抗体をいい、例えば被検ウイルスのプラーク数を50%減少させるのに必要な抗体の濃度(NT50)にてその抗体の中和活性の高さを評価することができる。
【0041】
また、本実施形態におけるCMVのgBタンパク質は、CMV gBタンパク質の全長であっても、CMV gBタンパク質の抗原性断片であってもよい。
【0042】
gBタンパク質の全長としては、例えば、上記の配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるHCMV gBタンパク質が挙げられる(GenBankの登録番号:X17403.1)。但し、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、1番目から24番目のアミノ酸配列(配列番号19)はシグナル配列である。したがって、CMV gBタンパク質の全長としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列から上記シグナル配列(配列番号19)を除いたHCMV gBタンパク質であってもよい。
【0043】
本発明の融合タンパク質は抗原として、CMVの予防及び治療に有用なワクチンの作製に用いられるため、gBタンパク質の抗原性断片としては、抗原性があり、かつ、ホモ三量体を形成できる断片であればよく、例えばCMVのgBタンパク質の細胞外ドメイン(エクトドメイン)又はエクトドメインの断片若しくは改変体が挙げられる。エクトドメインとしては、例えば、HCMV AD169株由来のHCMV(配列番号1)に記載のアミノ酸配列のうち、25番目から706番目のアミノ酸配列からなるHCMV gBタンパク質の断片が挙げられ、この断片を野生型HCMV gBタンパク質のエクトドメイン(配列番号15)として定義する。また、他のCMV gBタンパク質のエクトドメインの場合、上記HCMV AD169株由来のHCMVのエクトドメイン(配列番号15)との配列アライメントに基づく相当位置で定義される。本実施形態におけるgBタンパク質のエクトドメインは、野生型CMV gBタンパク質のエクトドメインであっても、改変型CMV gBタンパク質のエクトドメイン(gBタンパク質のエクトドメイン改変体)であってもよい。
【0044】
gBタンパク質のエクトドメイン又はその改変体としては、配列番号15に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上、例えば、1~50個、1~40個、1~30個、1~20個、1~15個、1~10個、1~5個、1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるHCMVのgBタンパク質のエクトドメインであってよい。
【0045】
gBタンパク質のエクトドメイン又はその改変体としては、また、配列番号15に記載のアミノ酸配列からなるgBタンパク質のエクトドメインと80%以上、例えば85%以上、90%以上、93%以上、95%以上又は98%以上の配列同一性を有するgBタンパク質のエクトドメインであってよい。ここで、配列同一性とは、複数の配列をアライメントした際の、(配列間で一致しているアミノ酸残基数)/(アミノ酸配列全長)の百分率を指す。例えば、遺伝情報処理ソフトウェアGENETYXにて対象配列をアライメントし、ギャップを計算から除外して作成した%Identity Matrixが配列同一性にあたる。
【0046】
また、gBタンパク質のエクトドメインの改変体としては、例えば、ドメインIVを欠失した改変体であってよい。例えば、配列番号15に記載のアミノ酸配列の97-468アミノ酸と631-682アミノ酸とを直接又は適切なペプチドリンカーを介してつないだものであってよい。また、該ドメインIVを欠失した改変体に対して、さらにY131A、I132A、Y133A、W216A、R432T及びR434Qにアミノ酸置換を導入したものであってよく、例えば、配列番号15の97-468アミノ酸と631-682アミノ酸との間をGGGSGSGGG(配列番号20)の9アミノ酸でつなぎ、さらにY131A、I132A、Y133A、W216A、R432T及びR434Qにアミノ酸置換を導入した改変体(「gBΔd4」)(配列番号16)が挙げられる。
【0047】
ドメインIVを欠失した改変体としては、また、配列番号16に記載のアミノ酸配列において1以上、例えば、1~50個、1~40個、1~30個、1~20個、1~15個、1~10個、1~5個、1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるヒトサイトメガロウイルス(HCMV)のgBタンパク質のエクトドメインであってもよい。
【0048】
ドメインIVを欠失した改変体としては、また、gBタンパク質が、配列番号16に記載のアミノ酸配列からなるgBタンパク質のエクトドメインと80%以上、例えば85%以上、90%以上、93%以上、95%以上又は98%以上の配列同一性を有するgBタンパク質のエクトドメインであってよい。
【0049】
凝集体の形成を低減させ、ホモ三量体構造の割合を増加させる改変が導入されたgBタンパク質改変体としては、配列番号15に記載のアミノ酸配列からなるHCMV gBタンパク質のエクトドメインを基として、非特許文献13を参考に、132番目のアミノ酸残基をヒスチジン残基(His)に、133番目のアミノ酸残基をアルギニン残基(Arg)に、215番目のアミノ酸残基をグルタミン酸残基(Glu)に、216番目のアミノ酸残基をアラニン残基(Ala)に、432番目のアミノ酸残基をトレオニン残基(Thr)に、434番目のアミノ酸残基をグルタミン残基(Gln)に置換したHCMV gBタンパク質エクトドメイン改変体(配列番号3)が挙げられる。
【0050】
上記gBタンパク質改変体としては、また、配列番号3に記載のアミノ酸配列において1以上、例えば、1~50個、1~40個、1~30個、1~20個、1~15個、1~10個、1~5個、1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるヒトサイトメガロウイルス(HCMV)のgBタンパク質のエクトドメインであってもよい。
【0051】
上記gBタンパク質改変体としては、また、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるgBタンパク質のエクトドメインと80%以上、例えば85%以上、90%以上、93%以上、95%以上又は98%以上の配列同一性を有するgBタンパク質のエクトドメインであってよい。
【0052】
抗体誘導能又は中和抗体誘導能を向上させるための改変が導入されたgBタンパク質改変体としては、例えばgBタンパク質のヘッド領域の免疫原性を低減させる改変が導入されたgBタンパク質改変体が挙げられ、例えば、配列番号15に記載のアミノ酸配列において、配列番号3と同じ変異を導入したうえ、さらにS128-L138を欠損させ、末端のR127とG139をグリシンリンカーGGGでつなぎ、W216-Y218を欠損させ、N型糖鎖を4か所導入(D77N、I79T/E544N、P546T/L588N、P589G/K609N、R610T、M611T)したもの(gBVC37、配列番号31)が挙げられる(特許文献4)。
【0053】
上記gBタンパク質改変体としては、また、配列番号31に記載のアミノ酸配列において1以上、例えば、1~50個、1~40個、1~30個、1~20個、1~15個、1~10個、1~5個、1~3個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるヒトサイトメガロウイルス(HCMV)のgBタンパク質のエクトドメインであってもよい。
【0054】
上記gBタンパク質改変体としては、また、配列番号31に記載のアミノ酸配列からなるgBタンパク質のエクトドメインと80%以上、例えば85%以上、90%以上、93%以上、95%以上又は98%以上の配列同一性を有するgBタンパク質のエクトドメインであってよい。
【0055】
CMVのgBタンパク質抗原は、CMVを用いてタンパク質精製によって作製してもよく、遺伝子工学の手法によって作製することができる。作製方法は特に限定されないが、たとえば、野生型gBタンパク質のcDNAをテンプレートとし、プライマーを設計して、PCRによって核酸を得て、発現プロモーターと機能的に連結し、場合によってタグも連結し、適切な発現ベクターに導入し、発現させることによって得ることができる。作製されたCMV gBタンパク質抗原は、必要に応じて精製してもよい。精製方法は特に限定されないが、アフィニティクロマトグラフィーカラムなどによる精製が挙げられる。
【0056】
改変型gBタンパク質抗原が変異導入による改変体の場合、目的の変異を導入するためのプライマーを設計して、PCRによって変異が導入された核酸を得て、発現プロモーターと機能的に連結し、場合によってタグも連結し、適切な発現ベクターに導入し、発現させることによって得ることができる。
【0057】
また、改変型gBタンパク質抗原が糖鎖導入(糖鎖修飾)による改変体の場合は、通常の方法であればよく、特に限定されないが、たとえば、N型糖鎖を導入する場合、野生型gBタンパク質のcDNAをテンプレートとし、N型糖鎖を導入する目的部位の3つの連続したアミノ酸配列が、N-X-S/T(Xはプロリン以外の任意のアミノ酸)となるように、プライマーを設計し、PCRによって変異を導入する。目的の改変型gBタンパク質の核酸配列、さらに必要あれば6×Hisなどのタグを連結した核酸配列を適切なベクターにクローニングし、発現させることによって改変型CMV gBタンパク質を得ることができる。そして、gB改変体の目的部位のアスパラギンに通常の方法によってN型糖鎖を付加する。
【0058】
CMVのペンタマーは、5つの異なる構成分子(サブユニット)からなる五量体複合体、又はヘテロ五量体若しくは単に五量体ともいう。野生型CMVペンタマーであっても、改変型CMVペンタマーであってもよい。
【0059】
野生型CMVペンタマーとは、任意のCMV株に由来するペンタマーを意味し、例えばヒトサイトメガロウイルス(HCMV)のgH、gL、UL128、UL130及びUL131からなる五量体、モルモットサイトメガロウイルス(GPCMV)のGP75(gH)、GP115(gL)、GP129(UL128)、GP131(UL130)及びGP133(UL131)からなる五量体などが挙げられる。
【0060】
HCMVペンタマーは、例えば配列番号4(gH)、配列番号5(gL)、配列番号6(UL128)、配列番号7(UL130)及び配列番号8(UL131)に記載のアミノ酸配列からなるHCMV Merlin株由来のペンタマータンパク質(GenBankの登録番号:AY446894.2)(但し、UL128の塩基配列には変異を含んでいるため、他のCMV株の配列情報を基に修正を加えている)などが挙げられる。
【0061】
GPCMVペンタマーは、例えば配列番号10(GP75)、配列番号11(GP115)、配列番号12(GP129)、配列番号13(GP131)及び配列番号14(GP133)に記載のアミノ酸配列からなるGPCMV 22122株由来のペンタマータンパク質(GenBankの登録番号:AB592928.1)(但し、GP133の塩基配列には変異を含んでいるため、他のCMV株の配列情報を基に修正を加えている)などが挙げられる。
【0062】
改変型CMVペンタマーのサブユニット(構成分子)としては、元のサブユニットの立体構造及び機能に影響を与えない改変を有する改変体であってもよく、性状が改善されたものであってもよい。性状が改善されたサブユニットの改変体としては、例えば、凝集体が形成しない又は低減し、それによって五量体の含有量が増加するようにするための改変が導入された改変体、抗体誘導能又は中和抗体誘導能を向上させるための改変が導入された改変体などが挙げられる。改変型CMVペンタマーは、野生型CMVペンタマーを構成する5つのサブユニットのうち少なくとも1つが改変タンパク質(サブユニットの改変体)であるペンタマーをいう。サブユニットの改変体は、対応する野生型のサブユニットに対して、1以上のアミノ酸残基又は連続したアミノ酸残基領域が、置換、欠損(欠失)又は付加されたタンパク質をいい、アミノ酸残基の置換、欠損(欠失)又は付加によって糖鎖導入されたタンパク質などの野生型に存在しないタンパク質修飾がされたタンパク質も含む。ここで、アミノ酸の付加とは、元のアミノ酸配列の中に挿入すること、及び、元のアミノ酸配列の末端に追加することの両方を含む。
【0063】
一実施形態のHCMVペンタマーが、
配列番号4に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるgH、
配列番号5に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるgL、
配列番号6に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるUL128、
配列番号7に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるUL130、及び
配列番号8に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるUL131
を含むHCMVのペンタマータンパク質であってよい。ここで、1以上のアミノ酸残基の欠失、置換若しくは付加は、例えば、1~50個、1~40個、1~30個、1~20個、1~15個、1~10個、1~5個、1~3個のアミノ酸残基の欠失、置換若しくは付加であってよい。
【0064】
一実施形態のHCMVペンタマーが、
配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるgHと80%以上の配列同一性を有するgH、
配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるgLと80%以上の配列同一性を有するgL、
配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるUL128と80%以上の配列同一性を有するUL128、
配列番号7に記載のアミノ酸配列からなるUL130と80%以上の配列同一性を有するUL130、及び
配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるUL131と80%以上の配列同一性を有するUL131
を含むHCMVのペンタマータンパク質であってよい。ここで、80%以上の配列同一性は、例えば85%以上、90%以上、93%以上、95%以上又は98%以上の配列同一性であってよい。
【0065】
一実施形態のGPCMVペンタマーが、
配列番号10に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるGP75、
配列番号11に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるGP115、
配列番号12に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるGP129、
配列番号13に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるGP131、及び
配列番号14に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるGP133
を含むGPCMVのペンタマータンパク質であってよい。ここで、1以上のアミノ酸残基の欠失、置換若しくは付加は、例えば、1~50個、1~40個、1~30個、1~20個、1~15個、1~10個、1~5個、1~3個のアミノ酸残基の欠失、置換若しくは付加であってよい。
【0066】
一実施形態のGPCMVペンタマーが、
配列番号10に記載のアミノ酸配列からなるGP75と80%以上の配列同一性を有するGP75、
配列番号11に記載のアミノ酸配列からなるGP115と80%以上の配列同一性を有するGP115、
配列番号12に記載のアミノ酸配列からなるGP129と80%以上の配列同一性を有するGP129、
配列番号13に記載のアミノ酸配列からなるGP131と80%以上の配列同一性を有するGP131、及び
配列番号14に記載のアミノ酸配列からなるGP133と80%以上の配列同一性を有するGP133
を含むGPCMVのペンタマータンパク質であってよい。ここで、80%以上の配列同一性は、例えば85%以上、90%以上、93%以上、95%以上又は98%以上の配列同一性であってよい。
【0067】
各サブユニットが全長であってもよく、例えばエクトドメインのみであってもよい。gHがgHタンパク質のエクトドメインであることが好ましい。
【0068】
CMVペンタマー抗原は、CMVを用いてタンパク質精製によって作製してもよく、遺伝子工学の手法によって作製することができる。作製方法は特に限定されないが、たとえば、野生型CMVペンタマーを構成する5つのタンパク質のcDNAをテンプレートとし、プライマーを設計して、PCRによって核酸を得て、発現プロモーターと機能的に連結し、場合によってタグも連結し、適切な発現ベクターに導入し、発現させ、フォールディングさせ五量体構造を形成させることによって得ることができる。CMVペンタマー抗原は、必要に応じて分泌型蛋白として発現させることもできる。例えば、gHを全長(配列番号9)ではなく、エクトドメイン(配列番号4)の断片として発現させることで、分泌型蛋白としての発現が可能となる。作製されたCMVペンタマー抗原は、必要に応じて精製してもよい。精製方法は特に限定されないが、アフィニティクロマトグラフィーカラムなどによる精製が挙げられる。
【0069】
改変型CMVペンタマー抗原が変異導入による改変体、又は糖鎖導入(糖鎖修飾)による改変体の場合は、上述のように作製することができる。
【0070】
本発明の融合タンパク質はgBとペンタマーの立体構造を部分的に併せ持つ。gBとペンタマー構成分子は一分子以上連結していればよく、その組み合わせも適宜選択できる。また、gBとペンタマー構成分子が一分子以上連結し、他の分子は融合せず発現する場合であっても、これらは連結した分子とともに複合体を形成しうるため、gB-ペンタマー融合タンパク質といえる。gB-ペンタマー融合タンパク質は、どのような組み合わせで連結してもよい。
【0071】
一実施形態の融合タンパク質においては、gBタンパク質構成分子と遺伝子工学的に融合するペンタマーのサブユニットは特に限定されず、1つのgBタンパク質構成分子とペンタマーのサブユニットのうち任意の1つと遺伝子工学的に融合すればよく、2つまたは3つのgBタンパク質構成分子のそれぞれと遺伝子工学的に融合するペンタマーのサブユニットの組み合わせも特に限定されず、例えば、ホモ三量体の3つのgBタンパク質構成分子のそれぞれと融合するペンタマーの構成サブユニットが、gL、UL128及びUL130であってもよく、gBタンパク質と融合するペンタマーの構成サブユニットが、UL128、UL130及びUL131であってもよい。
【0072】
一実施形態の融合タンパク質においては、遺伝子工学的な融合は、N末端側からgBタンパク質、ペンタマーの順で結合された融合(すなわち、gBタンパク質構成分子のC末端と、ペンタマーの構成分子のN末端とが連結された融合)であってもよく、N末端側からペンタマー、gBタンパク質の順で結合された融合であってもよい。N末端側からペンタマー、gBタンパク質の順で結合された融合タンパク質、すなわち、gBタンパク質のN末端側にペンタマーが結合したものが凝集体を形成しにくい傾向があるため、好ましい。すなわち、遺伝子工学的な融合のうち少なくとも1つの融合は、gBタンパク質構成分子のN末端側にペンタマー構成分子が結合している融合であることが好ましく、遺伝子工学的な融合のうち少なくとも2つの融合は、gBタンパク質構成分子のN末端側にペンタマー構成分子が結合している融合であることがより好ましく、3つの遺伝子工学的な融合がすべて、gBタンパク質構成分子のN末端側にペンタマー構成分子が結合している融合であることが特に好ましい。
【0073】
融合タンパク質において、gBタンパク質とペンタマーとが直接結合してもよいが、好ましくは適切なリンカー及び/又はタグを介して結合されていることが好ましい。融合タンパク質は、gBタンパク質とペンタマーとの間に適切な長さのリンカーを有することで、互いに立体障害を及ぼさず、各々が適切な構造を形成できると考えられる。また、融合タンパク質は、gBタンパク質とペンタマーとの間にタグを有することで、アフィニティ精製による精製が可能となる。また、融合タンパク質は、gBタンパク質とペンタマーとの間に限らず、融合タンパク質のN末端側又はC末端側にリンカー及び/又はタグを有してもよい。
【0074】
リンカーとしては特に限定されず、当業者が適宜に設計できるものである。例えば、Gly-Gly-Gly-Gly-Serを単位とする5アミノ酸のリンカー(配列番号22)などが挙げられ、例えば、配列番号22記載のアミノ酸配列単位を1~3回繰り返したアミノ酸配列からなるリンカーが挙げられる。
【0075】
タグとしては特に限定されず、当業者が適宜に選択できるものである。例えば、複数のヒスチジン残基が連なったHisタグ(例えば、配列番号30に記載のアミノ酸配列を有するHisタグ)などが挙げられる。
【0076】
さらに、CMVのgBとペンタマーの融合タンパク質は、実施例に記載するように、gBとペンタマーを遺伝子工学的に融合させることで作出できる。
【0077】
〔核酸断片、組換え発現ベクター、形質転換体〕
本発明の核酸断片は、本発明のCMVのgBとペンタマーとの融合タンパク質をコードする核酸断片であり、本発明の組換え発現ベクターは、本発明の核酸断片を含む組換え発現ベクターであり、本発明の形質転換体は、本発明の核酸断片又は本発明の組換え発現ベクターが導入された形質転換体である。
【0078】
融合タンパク質をコードする核酸断片としては、当該核酸断片を宿主において転写、発現させる際に、最終的にgB及びペンタマーが結合した融合タンパク質として発現できるものであれば、特に限定されない。例えば、gBタンパク質をコードする核酸断片、及び、ペンタマーのそれぞれのサブユニットをコードする核酸断片を機能的連結することによって得ることができる。これらの核酸断片の間には、終止コドン等の転写を途中で止めるコドンを含まないほうが好ましい。
【0079】
野生型のgBタンパク質をコードする核酸断片は、例えば、配列番号1又は配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する野生型gBをコードする遺伝子に基づき設計することができるプローブDNAを用いた、各種CMVのDNAに対するサザンハイブリダイゼーション、又は該遺伝子に基づき設計することができるプライマーセットを用いた、各種CMVのDNAを鋳型としたPCRにより取得することができる。
【0080】
gBタンパク質の改変体をコードする核酸断片は、例えば、配列番号1で表される塩基配列からなるDNAを鋳型としてエラープローンPCR等に供することにより取得することができる。または、部位特異的変異を導入することによっても得ることができる。
【0081】
gBタンパク質をコードする核酸断片は、配列番号1~3、15、16、31等のアミノ酸配列に基づき設計したアミノ酸配列をコードする核酸断片を人工合成によって得ることができる。
【0082】
野生型又は改変型のペンタマーの各サブユニット、例えば、配列番号4~8、又は配列番号10~14の各サブユニットをコードする核酸断片も同様に取得することができる。
【0083】
取得した上記の核酸断片は、そのまま、又は適当な制限酵素等で切断し、常法によりベクターに組み込み、得られた組換え発現ベクターを宿主細胞に導入した後、通常用いられる塩基配列解析方法、等の塩基配列分析装置を用いて分析することにより、該核酸断片の塩基配列を決定することができる。
【0084】
組換え発現ベクターに利用できるベクターは特に限定されないが、例えば、CAGプロモーターを用いたpCAGGSベクター、CMVプロモーターを用いたpCMVベクターなどを挙げることができる。
【0085】
形質転換体は、上記核酸断片又は組換え発現ベクターを宿主細胞に導入することによって得ることができる。導入は常法によって行えばよい。宿主細胞としては、特に限定されないが、例えば、CHO細胞やHEK293細胞、SP2/0細胞、BHK細胞、NS0細胞などを挙げることができる。
【0086】
形質転換体を適切な培地にて培養し、必要に応じて発現誘導することによって、本発明の融合タンパク質を発現させ、それを回収し、必要に応じて精製することで、本発明の融合タンパク質を得ることができる。
【0087】
〔ワクチン〕
本発明のワクチンは、本発明の融合タンパク質を含む。一実施形態のワクチンは、サイトメガロウイルス(CMV)のエンベロープ糖タンパク質B(gBタンパク質)とペンタマーとの融合タンパク質を抗原として含むCMVの先天性感染を予防又は治療するためのワクチンである。すなわち、本実施形態のワクチンは2種類の抗原タンパク質の機能を併せ持つ融合タンパク質からなるサブユニットワクチンである。
【0088】
本実施形態のワクチンにおけるタンパク質抗原の含有量は、CMVのgBタンパク質抗原及びCMVペンタマー抗原について、それぞれ0.1~1000μgであればよく、1~100μgであることが好ましい。
【0089】
本実施形態のワクチンの剤形は、例えば、液状、粉末状(凍結乾燥粉末、乾燥粉末)、カプセル状、錠剤、凍結状態であってもよい。
【0090】
本実施形態のCMVワクチンは、医薬として許容されうる担体を含んでいてもよい。上記担体としては、ワクチン製造に通常用いられる担体を制限なく使用することができ、具体的には、食塩水、緩衝食塩水、デキストロース、水、グリセロール、等張水性緩衝液及びそれらの組み合わせが挙げられる。ワクチンは、乳化剤、保存剤(例えば、チメロサール)、等張化剤、pH調整剤、不活化剤(例えば、ホルマリン)などが、更に適宜配合されてもよい。
【0091】
本実施形態のワクチンの免疫原性をさらに高めるために、アジュバントを更に含むことも可能である。アジュバントとしては、例えば、アルミニウムアジュバント又はスクアレンを含む水中油型乳濁アジュバント(AS03、MF59など)、CpG及び3-O-脱アシル化-4’-モノホスホリル lipid A(MPL)などのToll様受容体のリガンド、サポニン系アジュバント、ポリγ-グルタミン酸などのポリマー系アジュバント、キトサン及びイヌリンなどの多糖類が挙げられる。
【0092】
本実施形態のワクチンは、CMVのgBとペンタマーの融合タンパク質である抗原と、必要に応じて、担体、アジュバントなどと混合することにより得ることができる。アジュバントは、用時に混合するものであってもよい。
【0093】
本実施形態のワクチンの投与経路は、例えば、経皮投与、舌下投与、点眼投与、皮内投与、筋肉内投与、経口投与、経腸投与、経鼻投与、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、口から肺への吸入投与であってもよい。
【0094】
本実施形態のワクチンの投与方法は、例えば、シリンジ、経皮的パッチ、マイクロニードル、移植可能な徐放性デバイス、マイクロニードルを付けたシリンジ、無針装置、スプレーによって投与する方法であってもよい。
【0095】
本実施形態のワクチンによれば、CMVの経胎盤感染を予防又は治療することができる。経胎盤感染の予防とは、母体にワクチンを投与することにより、胎児へのCMVの垂直感染を抑制すること、或いは、先天性感染により生じる各種症状の発現を抑制することである。これらは、胎児の羊水や新生児の体液を用いた核酸増幅法による検査や、新生児の頭部超音波検査、頭部CT検査、頭部MRI検査、又は聴覚スクリーニングなどによって評価することができる。経胎盤感染の治療とは、先天性感染児にワクチンを投与することにより、先天性感染により生じる各種症状の発現や進展を抑制することである。これらは、先天性感染児の聴力検査、視力検査、その他の身体学的検査や精神発達検査などによって評価することができる。本実施形態のワクチンは、妊娠可能年齢の女性或いは女子児童を対象に投与することが好ましい。集団免疫の観点から、男性や男子児童、高齢者までを対象とすることも考えられる。また、投与回数は1回から3回、但し、2ヶ月から数年の間隔を置いて複数回接種することが望ましい。血中の抗体価を測定し、抗体が陰性或いは抗体価が低い人を接種対象とすることもできる。
【実施例】
【0096】
以下、実施例等に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0097】
実施例1
<抗原調製>
AD169株に由来するHCMV gBのエクトドメイン(配列番号15)をコードする遺伝子を人工合成し、pCAGGS1-dhfr-neo(特許文献3)にクローニングした。C末端には9アミノ酸のHis-tag(配列番号30)が付加されるように設計した。これをベースに、I132H、Y133R、T215E、W216A、R432T及びR434Qのアミノ酸置換を行ったもの(配列番号3)をgB1-682-fm3Mv9(以下、「gBv9」と呼ぶ)とした(特許文献4)。gBv9を発現する際は、N末端にHCMV-gBのシグナル配列(MESRIWCLVVCVNLCIVCLGAAVS)(配列番号19)を挿入した。
【0098】
発現には、Expi293発現システム(ライフテクノロジーズ社)を用いた。発現プラスミドを細胞にトランスフェクションし、4~6日で培養上清を回収した。gBv9を含む培養上清から、Ni NTA Agarose(QIAGEN社)を用いて精製し、PBS+0.5M Arginineに対して透析を行い、HCMV gBタンパク質のエクトドメインの精製品を得た。
【0099】
また、gBエクトドメイン(配列番号15)の97-468アミノ酸と631-682アミノ酸の間をGGGSGSGGG(配列番号20)の9アミノ酸でつなぎ、さらにY131A、I132A、Y133A、W216A、R432T及びR434Qにアミノ酸置換を導入したものを「gBΔd4」(配列番号16)とし、人工合成遺伝子をもとに、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によってgBΔd4をコードするDNA断片を作製し、該DNA断片をpCAGGS1-dhfr-neoにクローニングした(特許文献4のD1D2と同一分子)。gBΔd4を発現する際は、N末端にHCMV-gBのシグナル配列(MESRIWCLVVCVNLCIVCLGAAVS)(配列番号19)を挿入し、C末端には9アミノ酸のHis-tag(配列番号30)を挿入した。発現及び精製はgBv9と同様の方法で行った。
【0100】
UL128(配列番号6)をコードする遺伝子、UL130(配列番号7)をコードする遺伝子、及びUL131(配列番号8)をコードする遺伝子をそれぞれ人工合成し、pCAGGS1-dhfr-neoにクローニングした。
【0101】
次に、UL128(配列番号6)のシグナル配列(1-27アミノ酸)を除き、同じ位置にヒトイムノグロブリン軽鎖シグナルペプチド配列(MRLPAQLLGLLMLWVPGSSG)(配列番号21)を挿入した「シグナルペプチド置換UL128」、又は、
UL130(配列番号7)のシグナル配列(1-25アミノ酸)を除き、同じ位置にMRLPAQLLGLLMLWVPGSSG(配列番号21)のアミノ酸配列を挿入した「シグナルペプチド置換UL130」、又は、
UL131(配列番号8)のシグナル配列(1-18アミノ酸)を除き同じ位置にMRLPAQLLGLLMLWVPGSSG(配列番号21)のアミノ酸配列を挿入した「シグナルペプチド置換UL131」
のC末端側に5アミノ酸のリンカー(GGGGS)(配列番号22)を介してgBv9を付加した融合タンパク質をコードするDNA断片をPCRによって作製し、pCAGGS1-dhfr-neoにクローニングした。このうち、シグナルペプチド置換UL128とgBv9を連結したものをN-UL128-gB、シグナルペプチド置換UL130とgBv9を連結したものをN-UL130-gB、シグナルペプチド置換UL131とgBv9を連結したものをN-UL131-gBとした。
【0102】
また、gBv9のN末端にHCMV-gBのシグナル配列(MESRIWCLVVCVNLCIVCLGAAVS)(配列番号19)を挿入し、gBv9のC末端側からHis-tag(配列番号30)を除き、5アミノ酸のリンカー(GGGGS)(配列番号22)を介して、
UL128(配列番号6)のシグナル配列(1-27アミノ酸)を除いたシグナル除去UL128、又は、
UL130(配列番号7)のシグナル配列(1-25アミノ酸)を除いたシグナル除去UL130、又は、
UL131(配列番号8)シグナル配列(1-18アミノ酸)を除いたシグナル除去UL131
を連結し、さらにそのC末端側に9アミノ酸のHis-tag(配列番号30)を付加した融合タンパク質をコードするDNA断片をPCRによって作製し、pCAGGS1-dhfr-neoにクローニングした。このうち、シグナル除去UL128とgBv9を連結したものをC-UL128-gB、シグナル除去UL130とgBv9を連結したものをC-UL130-gB、シグナル除去UL131とgBv9を連結したものをC-UL131-gBとした。
【0103】
次に、gBΔd4(配列番号16)の373aa-381aaを除き、同じ位置にシグナル除去UL128、又はシグナル除去UL130、又はシグナル除去UL131を挿入した融合タンパク質をコードするDNA断片をPCRによって作製し、pCAGGS1-dhfr-neoにクローニングした。なお、いずれについても、N末端にHCMV-gBのシグナル配列(MESRIWCLVVCVNLCIVCLGAAVS)(配列番号19)を挿入した。このうちシグナル除去UL128を挿入したものをΔd4-UL128-gB、シグナル除去UL130を挿入したものをΔd4-UL130-gB、シグナル除去UL131を挿入したものをΔd4-UL131-gBとした。
【0104】
発現及び精製はHCMVのgBタンパク質と同様の方法で行い、N-UL128-gB、N-UL130-gB、及びN-UL131-gBをそれぞれ単独で発現させた場合と、N-UL128-gB、N-UL130-gB、及びN-UL131-gBの3種を共発現させた場合(N-UL128-gB/N-UL130-gB/N-UL131-gB)、C-UL128-gB、C-UL130-gB、及びC-UL131-gBをそれぞれ単独で発現させた場合と、C-UL128-gB、C-UL130-gB、及びC-UL131-gBの3種を共発現させた場合(C-UL128-gB/C-UL130-gB/C-UL131-gB)、Δd4-UL128-gB、Δd4-UL130-gB、及びΔd4-UL131-gBをそれぞれ単独で発現させた場合と、Δd4-UL128-gB、Δd4-UL130-gB、及びΔd4-UL131-gBの3種を共発現させた場合(Δd4-UL128-gB/Δd4-UL130-gB/Δd4-UL131-gB)、計12種類のgBとペンタマー構成タンパク質との融合タンパク質の精製品を得た。ここで本明細書において、混同しない限り、gB又はその一部とペンタマー構成タンパク質又はその一部との融合タンパク質、及びこれら融合タンパク質を細胞において発現させて得られた単量体又は多量体、並びにこれらの融合タンパク質をコードする遺伝子又はそのDNA断片を、総じて「gB-ペンタマー構成タンパク質融合体」と呼ぶ場合がある。
【0105】
<タンパク精製品のゲル濾過クロマトグラフィー>
取得した精製品の性状はゲル濾過クロマトグラフィーによって評価した。カラムはSuperdex200 Increase 5/150 GL(GE Healthcare)を使用し、濃度100μg/mLの各精製品をアプライした。流速は0.4mL/minで移動相はD-PBS(Wako)を使用し、波長280nmの吸光度を測定した。
【0106】
<結果>
ゲル濾過クロマトグラフィーの結果を
図1~3に示す。全ての発現物において、凝集体が確認された。しかし、N-UL128-gB、N-UL130-gB、N-UL131-gB及びN-UL128-gB/N-UL130-gB/N-UL131-gBを発現した場合に比べ、C-UL128-gB、C-UL130-gB、C-UL131-gB及びC-UL128-gB/C-UL130-gB/及びC-UL131-gBを発現した場合、並びに、Δd4-UL128-gB、Δd4-UL130-gB、Δd4-UL131-gB及びΔd4-UL128-gB/Δd4-UL130-gB/Δd4-UL131-gBを発現した場合は、凝集体含量が増加していることが確認された。このことからUL128、UL130又はUL131をHCMVgBタンパク質と融合する場合、HCMV gBタンパク質のN末端側に融合した方が凝集体を形成しにくく、凝集体以外の含量が増加すると示唆された。
【0107】
実施例2
<抗原調製>
実施例1の検討によりUL128、UL130、又はUL131をgBのN末端側に融合すると凝集体含量の低下が認められたため、UL128、UL130、又はUL131をgBのN末端側に融合させた次のような各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体をデザインした。
UL128(配列番号6)にC162Sアミノ酸置換を加え、更にC末端側に5アミノ酸のリンカー(GGGGS)(配列番号22)を介してgBv9を付加したものをUL128(C162S)-gBとした。
UL128(配列番号6)にC162Sアミノ酸置換を加え、更にC末端側に15アミノ酸のリンカー(GGGGSGGGGSGGGGS)(配列番号23)を介してgBΔd4を付加したものをUL128(C162S)-Δd4とした。
UL128(配列番号6)、UL130(配列番号7)又はUL131(配列番号8)遺伝子のC末端側に15アミノ酸のリンカー(GGGGSGGGGSGGGGS)(配列番号23)を介してgBΔd4を付加し、このうち、N末端側がUL128のものをUL128-Δd4、N末端側がUL130のものをUL130-Δd4、N末端側がUL131のものをUL131-Δd4とした。
gBv9のS128aa-L138aaを欠損させ、末端のR127とG139をグリシンリンカーGGGでつなぎ、W216aa-Y218aaを欠損させ、N型糖鎖を4か所導入(D77N、I79T/E544N、P546T/L588N、P589G/K609N、R610T、M611T)したものをgBVC37(配列番号31)とした(特許文献4)。gBVC37を発現する際はN末端に HCMV-gBのシグナル配列(MESRIWCLVVCVNLCIVCLGAAVS)(配列番号19)を挿入した。
UL128(配列番号6)にC162Sアミノ酸置換を加え、C末端側に5アミノ酸のリンカー(GGGGS)(配列番号22)を介してgBVC37を付加したものをUL128(C162S)-VC37とした。
UL128(配列番号6)、UL130(配列番号7)又はUL131(配列番号8)遺伝子のC末端側に5アミノ酸のリンカー(GGGGS)(配列番号22)を介してgBVC37を付加し、このうち、N末端側がUL128のものをUL128-VC37、N末端側がUL130のものをUL130-VC37、N末端側がUL131のものをUL131-VC37とした。
【0108】
各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体をコードするDNA断片をPCRによって作製し、pCAGGS1-dhfr-neoにクローニングし、gB-ペンタマー構成タンパク質融合体発現プラスミドとした。
【0109】
また、HCMV Merlin株に由来するペンタマーのエクトドメインのうち、gH(1-715aa、配列番号4)をコードする遺伝子、gL(1-278aa、配列番号5)をコードする遺伝子をそれぞれ人工合成し、pCAGGS1-dhfr-neoにクローニングした。ここで、gHのC末端には9アミノ酸のHis-tag(配列番号30)が付加されるように設計した(以下、gHと呼ぶときはこのHis-tagを付加した配列を指す)。
【0110】
発現時には各種gB-ペンタマー構成タンパク質融合体発現プラスミドを組み合わせて共発現を行った。組み合わせた発現プラスミドは、
N-UL128-gB/N-UL130-gB/N-UL131-gB、
UL128(C162S)-gB/N-UL130-gB/N-UL131-gB、
UL128(C162S)-VC37/UL130-VC37/UL131-VC37、
UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4、
UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4、
gH/gL/UL128/UL130/UL131(ペンタマー)、
gBv9
の計7種類であった。gH/gL/UL128/UL130/UL131はHCMVペンタマーのエクトドメインに相当し、以下「ペンタマー」と呼ぶ。発現はHCMV gBタンパク質と同様の方法で行い、各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の培養上清を得た。また、ペンタマーの精製はHCMV gBタンパク質と同様の方法で行った。
【0111】
<免疫>
gBv9、ペンタマーを抗原として、モルモット(Hartley)に免疫を行った。各抗原は5μg/匹になるように、生理食塩水(大塚製薬)で調製し、アジュバントとして10v/v%のAlum(Invivogen vac-alu250)及び50μg/匹のCpG ODN1826(ユーロフィン)を使用した。調製した抗原液を2週間間隔で3回、モルモット(雌 3匹/群)に筋肉内接種(100μL/片足、両足投与)し、最終免疫の2週間後にイソフルラン吸入麻酔下での心臓採血により全採血した。得られた血液は凝固促進剤入り分離管で血清分離した。血清分離後、3匹分の血清をプールし、gBv9免疫血清とペンタマー免疫血清を得た。これを用いて、gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の、gBv9免疫血清及びペンタマー免疫血清に対する反応性評価を行った。
【0112】
<血清を用いた反応性解析>
取得したgB-ペンタマー構成タンパク質融合体の培養上清の、各種免疫血清に対する反応性(結合活性)をELISAによって評価した。Rabbit anti 6 His Ab(BETHYL A190-114)をPBS(SIGMA)で1μg/mLに希釈し、MaxiSorp plate(Nunc)に100μL入れ、4℃でオーバーナイトインキュベートすることによって固相化した。固相化後、plateをPBSで洗浄し、1%BSA/PBS液を300μL/well添加し、1時間以上静置してブロッキングを行った。ブロッキング後に1%BSA/PBS液を捨て、取得した培養上清を10倍希釈し、plateのwellに100μL加え、室温でインキュベーションした。1時間後、PBSTで洗浄し、各種免疫血清をplateのwellに100μL加え、室温でインキュベーションした。1時間後、PBSTで洗浄し、検出抗体HRP-Rabbit anti Guinea Pig IgG(Invitrogen 614620)をplateのwellに100μL加え、室温でインキュベーションした。1時間後、PBSTで洗浄し、TMB(SIGMA T-4444)をplateのwellに100μL加えることによって発色させた。30分後、1N 硫酸で反応を停止させ、マイクロプレートリーダー(モレキュラーデバイス)で発色値(O.D.450nm/650nm)を測定した。
【0113】
<タンパク精製品のゲル濾過クロマトグラフィー>
取得した精製品の性状はゲル濾過クロマトグラフィーによって評価した。カラムはSuperdex200 Increase 5/150 GL(GE Healthcare)を使用し、濃度100μg/mLの各精製品を50μLアプライした。流速は0.4mL/minで泳動BufferはD-PBS(Wako)を使用し、波長280nmの吸光度を測定した。
【0114】
<結果>
HCMV-gB免疫血清(gBv9免疫血清)及びペンタマー免疫血清を用いた反応性解析の結果を
図4に示す。
図4によれば、UL128(C162S)-gB/N-UL130-gB/N-UL131-gB、UL128(C162S)-VC37/UL130-VC37/UL131-VC37、UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4、N-UL128-gB/N-UL130-gB/N-UL131-gBのいずれの組み合わせのgB-ペンタマー構成タンパク質融合体もHCMV-gB免疫血清及びペンタマー免疫血清両方に対する反応性を有していた。また、UL128に対してC162Sの点変異を導入した場合、ペンタマー免疫血清に対する反応性の向上が認められた。さらに、gB-ペンタマー構成タンパク質融合体のgB部分がgBv9のものに比べ、gB部分をgBVC37若しくはgBΔd4としたgB-ペンタマー構成タンパク質融合体の方がペンタマー免疫血清との反応が大きかった。
【0115】
また、UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4及びUL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4の精製品をゲルろ過クロマトグラフィーにて評価した結果を、
図5に示す。各ピークの位置から推定される、それぞれのピークの主な成分を図示した。
図5によれば、これらの精製品の三量体含量の増加が認められた。このことから、gB-ペンタマー構成タンパク質融合体では、HCMV gBタンパク質及びペンタマーが野生型配列でもHCMV-gB免疫血清とペンタマー免疫血清に対する反応性を有し、さらにHCMV gBタンパク質又はペンタマーに適切な変異を導入することで、特にペンタマー部分をより本来の構造を維持した形でgB-ペンタマー構成タンパク質融合体として発現できることが示された。
【0116】
実施例3-1
<抗原調製>
実施例2の検討により、HCMV gBタンパク質若しくはペンタマーに相当する領域に変異を導入したgB-ペンタマー構成タンパク質融合体発現プラスミドを3種組み合わせて共発現することで、gB及びペンタマーとしての構造を保ったgB-ペンタマー構成タンパク質融合体を発現できていることが示された。よってHCMV gBタンパク質又はペンタマーの構成タンパク質又はgB-ペンタマー構成タンパク質融合体のうち3種以上のタンパク質を組み合わせて共発現させることを目的として、さらに次の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体発現プラスミドをデザインした。
【0117】
gH(配列番号4)をpCAGGS1-dhfr-neoにクローニングしたものをgH(His-)とした。また、gL(配列番号5)にC144Sアミノ酸置換を加えたものをコードするDNA断片をpCAGGS1-dhfr-neoにクローニングしたものをgL(C144S)とした。
【0118】
また、gL(配列番号5)のC末端側に15アミノ酸のリンカー(GGGGSGGGGSGGGGS)(配列番号23)を介してgBVC37若しくはgBΔd4を付加した。このうち、C末端側がgBVC37のものをgL-VC37-L15aa、C末端側がΔd4のものをgL-Δd4とし、各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体をコードするDNA断片をPCRによって作製し、pCAGGS1-dhfr-neoにクローニングした。
【0119】
また、UL128(配列番号6)又はUL130(配列番号7)又はUL131(配列番号8)のC末端側に15アミノ酸のリンカー(GGGGSGGGGSGGGGS)(配列番号23)を介してgBVC37を連結した。このうち、N末端側がUL128のものをUL128-VC37-L15aa、N末端側がUL130のものをUL130-VC37-L15aa、N末端側がUL131のものをUL131-VC37-L15aaとし、各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体をコードするDNA断片をpCAGGS1-dhfr-neoにクローニングした。
【0120】
これら各種gB-ペンタマー構成タンパク質融合体発現プラスミドを組み合わせて共発現を行った。組み合わせた発現プラスミドは、表1に示す計31種類であった。発現はHCMV gBタンパク質と同様の方法で行い、各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の培養上清を得た。また、精製はHCMV gBタンパク質と同様の方法で行い、各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の精製品を得た。
【表1】
【0121】
<血清を用いた反応性解析>
取得したgB-ペンタマー構成タンパク質融合体の培養上清若しくは精製品の、各種免疫血清に対する反応性(結合活性)を実施例2と同様の方法により評価した。ただし、培養上清は100倍に希釈したものを使用している点、また培養上清の代わりに精製品を用いて試験を行う場合は1μg/mLで固相抗体と反応させている点が実施例2と異なる。
【0122】
評価の結果を
図6~9に示す。
図6~9の結果から、まずUL128(C162S)-VC37/UL130-VC37/UL131-VC37に比べ、gH(His-)/gL(C144S)/UL128(C162S)-VC37/UL130-VC37/UL131-VC37ではペンタマー免疫血清に対する反応性が向上しており、またUL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4に比べ、gH(His-)/gL(C144S)/UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4ではペンタマー免疫血清に対する反応性が向上していることが確認された。このことから、gH及びgLが含まれることでgB-ペンタマー構成タンパク質融合体は本来のペンタマーの構造を取りやすいと考えられる。
【0123】
また、UL128(C162S)-VC37/UL130-VC37/UL131- VC37に比べ、UL128(C162S)-VC37/UL130/UL131ではペンタマー血清に対する反応性が低く、UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4に比べ、UL128(C162S)-Δd4/UL130/UL131ではペンタマー血清に対する反応性が低いこと、gH(His-)/gL(C144S)/UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4に比べ、gH(His-)/gL(C144S)/UL128(C162S)-Δd4/UL130/UL131ではペンタマー血清に対する反応性が低いことが観察された。このことから、ペンタマー構成分子のうち3分子はgB-ペンタマー構成タンパク質融合体として発現させた方が良いと考えられた。
【0124】
また、UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4に比べ、UL128(C162S)-Δd4/UL130/UL131/Δd4、UL128(C162S)/UL130-Δd4/UL131/Δd4、UL128(C162S)/UL130/UL131-Δd4/Δd4では反応性が低いことが観察された。このことから、gB-ペンタマー構成タンパク質融合体においてペンタマー部分に天然構造を形成させるために、ペンタマー構成タンパク質と融合させていないgBを共発現させることは有効ではないと考えられる。
【0125】
また、gH(His-)/gL-VC37-L15aa/UL128-VC37-L15aa/UL130-VC37-L15aa/UL131、gH(His-)/gL-VC37-L15aa/UL128-VC37-L15aa/UL130/UL131-VC37-L15aa、gH(His-)/gL-VC37-L15aa/UL128/UL130-VC37-L15aa/UL131-VC37-L15aaと比べ、gH(His-)/gL-Δd4/UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131、gH(His-)/gL-Δd4/UL128(C162S)-Δd4/UL130/UL131-Δd4、gH(His-)/gL-Δd4/UL128/UL130-Δd4/UL131-Δd4の方が、gBv9免疫血清、ペンタマー免疫血清との反応性が高く、gH(His-)/gL-Δd4/UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131は、gH(His-)/gL-Δd4/UL128(C162S)-Δd4/UL130/UL131-Δd4、gH(His-)/gL-Δd4/UL128/UL130-Δd4/UL131-Δd4に比べ、gBv9免疫血清及びペンタマー免疫血清との反応性が高いことが観察された。このことから、UL128とUL130とUL131のいずれかをgBと融合していない分子としてgB-ペンタマー構成タンパク質融合体を発現させた場合、gB部分をΔd4型とすることでgB、ペンタマーが天然に近い構造として発現され、特にUL131をgBと融合していない分子とした場合に、ペンタマーの構造に関して、その傾向が顕著となると考えられる。
【0126】
<タンパク精製品のゲル濾過クロマトグラフィー>
取得した精製品の性状はゲル濾過クロマトグラフィーによって評価した。カラムはSuperdex200 Increase 5/150 GL(GE Healthcare)を使用し、濃度100μg/mLの各精製品を50μLアプライした。流速は0.4mL/minで泳動BufferはD-PBS(Wako)を使用し、波長280nmの吸光度を検出した。
【0127】
評価の結果を
図10~13に示す。ペンタマー構成タンパク質のうちの1つのペンタマー構成分子とgBとしてのVC37又はΔd4とを融合させたgB-ペンタマー構成タンパク質融合体、他の4つのペンタマー構成タンパク質、及びペンタマー構成タンパク質と融合させていないVC37又はΔd4を共発現させたものでは凝集体以外の含量が高いことが確認された(
図10)が、ペンタマー構成タンパク質のうちの1つのペンタマー構成分子とgBとしてのVC37又はΔd4とを融合させたgB-ペンタマー構成タンパク質融合体、及び他の4つのペンタマー構成タンパク質を共発現させたものでは(ペンタマー構成タンパク質と融合させていないVC37又はΔd4を共発現させていない)、凝集体がメインピークであった(
図11(b))。ペンタマー構成タンパク質の中で3つのペンタマー構成分子とgBを融合させた場合には、凝集体以外の含量が高い傾向が認められた(
図11~13)が、gH(His-)/gL-Δd4/UL128/UL130-Δd4/UL131-Δd4(
図13(b))の場合は、凝集体がメインピークであった。
【0128】
<抗体価測定>
取得したgB-ペンタマー構成タンパク質融合体を実施例2と同様の方法により免疫し、免疫血清を取得した。この血清を用いて、HCMVのgBタンパク質、ペンタマーに対する結合抗体価及び中和抗体価を評価した。
【0129】
結合抗体価を評価するために、まずgBv9又はペンタマーをPBS(Wako)で1μg/mLに希釈し、MaxiSorp plate (Nunc)に100μL入れ、4℃で一晩静置し抗原を固相化した。固相化後、plateをPBSで洗浄し、1%BSA/PBS液を300μL/well添加し、1時間以上静置してブロッキングを行った。ブロッキング後に1%BSA/PBS液を捨て、1%BSA/PBS液で段階希釈した血清を100μL/well添加し、室温で1時間静置後、PBSTで洗浄した。これに1%BSA/PBS液で5000倍に希釈したHRP-Rabbit anti Guinea Pig IgG(H+L)(invitrogen:614620)を100μL/well添加し、室温で1時間静置後、PBSTで洗浄した。これにTMB(sigma:T4444)を100μL/well添加し、室温で30分静置後、1N硫酸を添加することで反応を停止させ、マイクロプレートリーダー(モレキュラーデバイス)で発色値(O.D.450nm/650nm)を測定した。
【0130】
結果を
図14に示す。
図14の結果から、gH(His-)/gL-VC37-L15aa/UL128-VC37-L15aa/UL130-VC37-L15aa/UL131及びgH(His-)/gL-Δd4/UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131を免疫したモルモット血清中にgB結合抗体(
図14の(a))及びペンタマー結合抗体(
図14の(b))が確認されたため、両gB-ペンタマー構成タンパク質融合体はワクチン抗原として免疫することでgB抗体及びペンタマー抗体を誘導しうると考えられた。
【0131】
続いて、中和抗体価を評価するために、MRC-5細胞を用いて線維芽細胞中和試験を、またARPE-19細胞を用いて上皮細胞中和試験を行った。線維芽細胞中和試験では、試験用のウイルスとしてHCMV AD-169株をMRC-5細胞にて継代したもの、上皮細胞中和試験では、HCMV AD-169株をARPE-19細胞にて継代したものを使用した。
【0132】
線維芽細胞中和試験では、MRC-5を用いて以下の手順にて行った。まず、MRC-5懸濁液を準備し、CellCarrier-96(PerkinElmer:6055700)に2×10
4cells/well播種し、5%CO
2濃度、37℃のCO
2インキュベーター内で一晩培養した。翌日、ウイルス希釈用培地(10 mM HEPES、0.21% BSA、Penicillin-Streptomycinを含むMEM培地)にて免疫血清を希釈し、これにHCMV AD-169株を終濃度200TCID
50/mLとなるよう添加し、37℃で1時間静置することでウイルス-血清混合液を調製した。このとき、ポジティブコントロールとして、免疫血清を含まないウイルス液も同様にして調製した。培養したMRC-5細胞をPBSにて洗浄し、ウイルス-血清混合液若しくはウイルス液を30μL/well添加後、室温で400g、30分の遠心を行った。その後、ウイルス-血清混合液若しくはウイルス液を除去し、Penicillin-Streptomycinを含むMEM培地にて洗浄後、同培地を100μL/well添加して5%CO
2濃度、37℃のCO
2インキュベーター内で一晩培養した。翌日、細胞を同培地にて洗浄し、50%アセトン/PBS液を100μL/well添加し、室温で20分静置した。その後50%アセトン/PBS液を除去し、0.5% BSA/PBS液にて洗浄後、さらに0.1% TritonX-100/PBS液を100μL/well添加し、室温で10分静置した。その後再び0.5% BSA/PBS液にて洗浄し、0.5% BSA/PBS液で100倍に希釈したCMV pp72/86抗体(Santa Cruz:sc-69748)を100μL/well添加し、37℃で1時間静置した。これを0.5% BSA/PBS液にて洗浄後、0.5% BSA/PBS液でGoat Anti-Mouse IgG H&L(Alexa Fluor488)(abcam:ab150113)を終濃度1000倍、Hoechst 33342(Dojindo:346-07951)を終濃度500倍に希釈した染色液を100μL/well添加し、室温にて1時間静置した。これを0.5% BSA/PBS液にて洗浄し、測定サンプルとした。測定はImage Express Micro(モレキュラーデバイス)にて行い、Hoechst染色により全細胞数を、Alexa Fluor染色によりHCMV感染細胞数を計数し、(HCMV感染細胞数)/(全細胞数)により感染率を算出した。さらに、1-(被検ウェルの感染率)/(ポジティブコントロールの感染率)とすることで感染阻害率(%)を算出した。この結果を
図15の(a)に示す。この結果から、gB-ペンタマー構成タンパク質融合体を投与することにより、HCMVの線維芽細胞への侵入に対する中和抗体を誘導できることが示された。
【0133】
上皮細胞中和試験では、ARPE-19を用いて、線維芽細胞中和試験とほぼ同様の手順にて行った。ただし、ウイルスとしてARPE-19細胞にて継代馴化したHCMV AD-169株を使用した点、またこれを終濃度7~8×10
4TCID
50/mL含むものをウイルス血清混合液若しくはウイルス液とした点が線維芽細胞中和試験と異なる。結果を
図15の(b)に示す。gB-ペンタマー構成タンパク質融合体を投与することにより、HCMVの上皮細胞への侵入に対する中和抗体を誘導できることが示された。
【0134】
実施例3-2-1
<抗原調製>
実施例3-1の検討により各種gB-ペンタマー構成タンパク質融合体発現プラスミドを5種組み合わせて共発現してもgB、ペンタマーとしての構造を保っていることが示されたため、さらにgLのC144及びUL128のC162の点変異の影響を精査すべく、次の各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体発現プラスミドをデザインした。gL(配列番号5)にC144Sアミノ酸置換を加えC末端側に15アミノ酸のリンカー(GGGGSGGGGSGGGGS)(配列番号23)、Δd4を付加した融合タンパク質をコードするDNA断片をPCRによって作製し、該DNA断片をpCAGGS1-dhfr-neoにクローニングしたものをgL(C144S)-Δd4とした。発現時には各種gB-ペンタマー構成タンパク質融合体発現プラスミドを組み合わせて共発現を行った。組み合わせた発現プラスミドは、gH(His-)/gL-Δd4/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131、gH(His-)/gL(C144S)-Δd4/UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131、gH(His-)/gL-Δd4/UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131の計3種類であった。また、精製はHCMV gBタンパク質と同様の方法で行い、各gB-ペンタマー構成タンパク質融合体の精製品を得た。
【0135】
<免疫>
実施例2と同様の方法により、gBΔd4又はペンタマー又はgH(His-)/gL-Δd4/UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131又はsalineをモルモット(Hartley)に免疫し、gBΔd4免疫血清及びペンタマー免疫血清及びgH(His-)/gL-Δd4/UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131免疫血清及びsaline免疫血清を得た。
【0136】
<血清を用いた反応性解析>
取得したgB-ペンタマー構成タンパク質融合体について、gBΔd4、ペンタマー(PC)、gH(His-)/gL-Δd4/UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131(Δd4/PC)及びsaline免疫血清に対する反応性(結合活性)を実施例2と同様の方法によって評価した。これを
図16~19に示す。この結果から、gLのC144及びUL128のC162の点変異は血清との反応性に影響しないことが示唆された。
【0137】
<タンパク精製品のゲル濾過クロマトグラフィー>
取得したgH(His-)/gL-Δd4/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131、及び、gH(His-)/gL(C144S)-Δd4/UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131の精製品の性状をゲル濾過クロマトグラフィーによって評価した。カラムはSuperdex200 Increase 5/150 GL(GE Healthcare)を使用し、濃度100μg/mLの各精製品を50μLアプライした。流速は0.4mL/minで泳動BufferはD-PBS(Wako)を使用し、波長280nmの吸光度を検出した。結果を
図20に示す。この結果及び
図12(d)から、gLのC144及びUL128のC162の点変異導入は、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分離パターンに変化を及ぼさないことが示された。
【0138】
<タンパク質精製品の粒子径評価>
取得したgH(His-)/gL-Δd4/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131、gH(His-)/gL(C144S)-Δd4/UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131、gH(His-)/gL-Δd4/ UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131融合タンパク質の粒子径分布を動的光散乱によって評価した。各組換えタンパクをPBS(SIGMA)で0.2又は0.3mg/mLに希釈し、Zetasizer Nano ZS(Malvern)により粒子径分析を実施した。測定には石英セルを用い、測定条件は温度25.0℃であった。これを
図21に示す。なお、
図21の(a)、(b)、(c)のピークは3回の結果を示し、表に示す数字は3回の平均値である。この結果から、gLのC144及びUL128のC162の点変異導入は、粒子径分布に影響を及ぼさないことが示された。
【0139】
実施例3-2-2
<抗原調製>
各種gB-ペンタマー構成タンパク質融合体発現プラスミドを組み合わせて共発現を行った。組み合わせた発現プラスミドは、gH(His-)/gL/UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4、gH(His-)/gL/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4の計2種類であった。また、精製は全てHCMVのgBタンパク質と同様の方法で行い、タンパク質精製品を得た。
【0140】
<タンパク精製品のゲル濾過クロマトグラフィー>
取得した精製品の性状はゲル濾過クロマトグラフィーによって評価した。カラムはSuperdex200 Increase 5/150 GL(GE Healthcare)を使用し、濃度100μg/mLの各精製品を50μLアプライした。流速は0.4mL/minで泳動BufferはD-PBS(Wako)を使用し、波長280nmの吸光度を検出した。結果を
図28に示す。この結果から、UL128のC162の点変異導入は、ゲルろ過クロマトグラフィーによるピークの溶出位置には変化を及ぼさないことが示された。
【0141】
<タンパク質精製品の粒子径評価>
取得したgH(His-)/gL/UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4、gH(His-)/gL/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4融合タンパク質の粒子径分布を動的光散乱によって評価した。各組換えタンパクをPBS(SIGMA)で0.2又は0.3mg/mLに希釈し、Zetasizer Nano ZS(Malvern)により粒子径分析を実施した。測定には石英セルを用い、測定条件は温度25.0℃であった。これを
図29に示す。なお、
図29のピークは3回の結果を示し、表に示す数字は3回の平均値である。この結果から、UL128のC162の点変異導入は、粒子径分布に影響を及ぼさないことが示された。
【0142】
実施例3-2-3
<抗原調製>
各種gB-ペンタマー構成タンパク質融合体発現プラスミドを組み合わせて共発現を行った。組み合わせた発現プラスミドは、gBv9、ペンタマー、gH(His-)/gL-Δd4/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131及びgH(His-)/gL/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4の計4種類であった。また、精製は全てHCMVのgBタンパク質と同様の方法で行い、タンパク質精製品を得た。
【0143】
<免疫>
実施例2と同様の方法により、gBv9、ペンタマー、gH(His-)/gL-Δd4/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131、gH(His-)/gL/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4、又は、salineをモルモット(Hartley)に免疫し、gBv9免疫血清、ペンタマー免疫血清、gH(His-)/gL-Δd4/UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131免疫血清、gH(His-)/gL-Δd4/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131免疫血清、gH(His-)/gL/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4免疫血清及びsaline免疫血清を得た。
【0144】
<血清を用いた結合抗体価測定>
取得したgB-ペンタマー構成タンパク質融合体について、gBv9免疫血清、ペンタマー免疫血清、gH(His-)/gL-Δd4/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131免疫血清、gH(His-)/gL/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4免疫血清及びsaline免疫血清に対する反応性(結合活性)を実施例2と同様の方法によって評価した。結合抗体価の評価結果を
図30に示す。この結果から、gB-ペンタマー構成タンパク質融合体を投与することにより、gB抗体及びペンタマー抗体を誘導しうると考えられた。
【0145】
<血清を用いた中和抗体価測定>
取得したgBv9免疫血清、ペンタマー免疫血清、gH(His-)/gL-Δd4/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131免疫血清、gH(His-)/gL/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4免疫血清及びsaline免疫血清を用いて、実施例3-1と同様の方法によって、中和抗体価を評価した。ただし、MRC-5細胞を用いた線維芽細胞中和試験、ARPE-19細胞を用いた上皮細胞中和試験のいずれもウイルスとしてARPE-19細胞にて継代馴化したHCMV AD-169株を使用した点が実施例3-1と異なる。中和抗体価の評価結果を
図31に示す。
【0146】
図30から、gH(His-)/gL-Δd4/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131免疫血清、及び、gH(His-)/gL/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4免疫血清にgB結合抗体(
図30の(a))及びペンタマー結合抗体(
図30の(b))が確認されたため、両gB-ペンタマー構成タンパク質融合体はワクチン抗原として免疫することで抗gB抗体及び抗ペンタマー抗体を誘導しうると考えられた。
図31からgB-ペンタマー構成タンパク質融合体のgH(His-)/gL-Δd4/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131、及びgH(His-)/gL/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4を投与することにより、HCMVの線維芽細胞及び上皮細胞への侵入に対する中和抗体を誘導できることが示された。
【0147】
実施例4
<gB-ペンタマー融合タンパク質の安定性評価>
各種gB-ペンタマー構成タンパク質融合体発現プラスミドを組み合わせて共発現を行った。組み合わせた発現プラスミドは、gBv9、ペンタマー、gH(His-)/gL-Δd4/UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131、gH(His-)/gL/UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4、gH(His-)/gL/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4、gH(His-)/gL-Δd4/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131の計6種類であった。また、精製は全てHCMVのgBタンパク質と同様の方法で行い、タンパク質精製品を得た。
【0148】
取得した組換えgB、組換えペンタマー、組換えgB及び組換えペンタマーの等量混合物、組換えgB-ペンタマー構成タンパク質融合体の安定性は、動的光散乱によって評価した。各組換えタンパク質をPBS(SIGMA)で0.2mg/mLに希釈し、37℃で0日、1日、3日、7日静置することによって加速試験を行った。この時、1日以上静置するタンパク質にはプロテアーゼインヒビター(Wako、165-26021)を1/100量添加し、各試験後のタンパク質は、Zetasizer Nano ZS(Malvern)により粒子径分析を実施した。測定には石英セルを用い、測定条件は温度25.0℃であった。得られた粒子径分布のうち、目的物と考えられる粒子径(<100nm)の粒子を「単粒子」、目的物よりも大きく、かつ粒子径1000nm未満のものを「凝集(小)」、粒子径が1000nmを超えるものを「凝集(大)」とした。
【0149】
各粒子の分布を表したものを
図22、23及び32に示す。この結果から、ペンタマーは経時的に凝集(大)の含量が増加していることが観察されたが、gH(His-)/gL-Δd4/UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131、gH(His-)/gL/UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4、gH(His-)/gL/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4、及びgH(His-)/gL-Δd4/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131、は、ほとんどが単量体のまま存在していた。このことから、gH(His-)/gL-Δd4/UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131、gH(His-)/gL/UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4、gH(His-)/gL/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4、及びgH(His-)/gL-Δd4/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131では、ペンタマーと比べ安定性が向上していることが明らかとなった。
【0150】
実施例5
<抗原調製>
刺激抗原として、実施例4と同様の手順でgBv9、ペンタマー、gH(His-)/gL-Δd4/UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131、gH(His-)/gL-Δd4/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131、gH(His-)/gL/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4を発現精製した。
【0151】
<細胞性免疫評価>
ヒトPBMCを用いた細胞性免疫評価は、Human IFN-γ ELISpotPLUS(MABTECH 3420-4HST-2)を用いたELISpot assayにより行った。ヒトPBMCはCTL社製のうち、HCMV抗原刺激に対するIFNγ誘導が認められるドナー23名のものを選択した。
【0152】
CTL Anti-Aggregate Wash(20×)(CTL)を37℃に設定したウォーターバスで10min温め解凍し、RPMI-1640で希釈してCTL Anti-Aggregate Wash(1×)を調製し、使用まで37℃のCO2インキュベーターで20min以上静置した。CTL-Test MediumはL-Glutamine(100×)を1vol%添加し37℃のCO2インキュベーターで20 min以上静置した。PBMCが入ったバイアルを37℃のウォーターバスで8min温め、解凍後CTL Anti-Aggregate Wash(1×)を穏やかに加え、細胞溶液とした。細胞溶液を遠心(330g、10min、RT)し上清を除去後、CTL Anti-Aggregate Wash(1×)を10mL添加し再度遠心(330g、10min、RT)し上清を除去後、37℃のCO2インキュベーターで静置していたCTL-Test Mediumで希釈してELISPOT assayに用いた。
【0153】
Human IFN-γ ELISpotPLUSのストリップの必要数を200μL/wellのPBSで4回洗浄し、CTL-Test Mediumを200μL/well添加し、30min以上室温に静置した。CTL-Test Mediumをプレートから除き、細胞懸濁液を100μL/well添加した後、2μg/mLに希釈した抗原溶液を100μL/well添加し、懸濁した。プレートを遮光し37℃、5%CO2インキュベーター内において12~48hr静置培養した。培養後、培地とともに細胞を除去し200μL/wellのPBSで5回洗浄した。Human IFN-γ ELISpotPLUSに付属の検出抗体溶液(7-6-1-biotin)をPBS-0.5% FBSで1μg/mLに希釈し100μL/well添加し、2hr室温にて静置した。反応後、200μL/wellのPBSで5回洗浄し、Human IFN-γ ELISpotPLUSに付属の標識抗体溶液(Streptavidin-HRP)をPBS-0.5% FBSで1000倍希釈し100μL/well添加し、1hr室温にて静置した。反応後、200μL/wellのPBSで5回洗浄し、Human IFN-γ ELISpotPLUSに付属のTMB溶液を必要量0.22μmフィルターに通し100μL/well添加し、明瞭にスポットが観察されるまで室温に静置した(約5~30min)。プレートを200μL/wellのDWで3回洗浄した後乾燥させ、ELISPOTカウンターにてスポット数のカウントを行った。
【0154】
2ウェル分のスポット数の平均値を測定結果とした。なお、ネガティブコントロールのみ4ウェル分のスポット数の平均値を測定結果とした。スポット数の平均値が、0より大きく5未満の場合に「0」、5以上50未満の場合に「1」、50以上100未満の場合に「2」、100以上の場合に「3」のスコアを付与し、抗原毎に全ドナーのスコアを合計した。これをグラフ化したものを
図24に示す。この結果から、gBv9及びペンタマーと比べ、gH(His-)/gL-Δd4/UL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131、gH(His-)/gL-Δd4/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131、gH(His-)/gL/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4では、より高いIFNγ産生が起こっていると考えられた。
【0155】
実施例6
<GPCMV-gBの調製>
モルモット経胎盤感染モデル系を用いて評価するため、モルモットに感染性を示すモルモットサイトメガロウイルス(GPCMV)を用いた。組換えGPCMV gBタンパク質は凝集体を含む場合があるため、凝集体を含まない、性状改善した改変GPCMV gBタンパク質を作製した。
【0156】
GPCMV 22122株に由来するgBのエクトドメイン(1-656aa)にシグナル配列を付加し、さらに性状改善のためのアミノ酸変異を導入したgB(配列番号17、1-692aa;GPCMV-gBエクトドメイン改変体)をコードする遺伝子を人工合成し、pCAGGS1-dhfr-neoにクローニングした。gBのC末端には9アミノ酸のHis-tag(配列番号30)が付加されるようにデザインした。発現には、Expi293発現システム(ライフテクノロジーズ社)を用いた。発現プラスミドを細胞にトランスフェクションし、4~6日で培養上清を回収した。GPCMV gBを含む培養上清から、Ni NTA Agarose(QIAGEN社)を用いて精製し、PBS+0.5M Arginineに対して透析を行い、改変GPCMV gBタンパク質のエクトドメイン(以下、「GPCMV-gB」と呼ぶ)の精製品を得た(国際出願PCT/JP2019/047966号)。
【0157】
<GPCMVペンタマーの調製>
次に、GPCMV 22122株に由来するペンタマーのエクトドメインを調製した。GPCMVペンタマーのエクトドメインの可溶性発現に関しては報告例がなかったため、HCMVペンタマーのエクトドメインの可溶性発現の報告例(非特許文献14)を参考に、以下に述べるようにデザインし、発現プラスミドを構築した。
【0158】
HCMVのgHのオルソログであるGPCMVのGP75(配列番号10)のうちエクトドメインである1-698aa(配列番号18)をコードする遺伝子を人工合成し、pCAGGS1-dhfr-neoにクローニングした。GP75のC末端には9アミノ酸のHis-tag(配列番号30)が付加されるようにデザインした。さらに、HCMVのgLのオルソログであるGPCMVのGP115(1-258aa、配列番号11)をコードする遺伝子、HCMVのUL128のオルソログであるGPCMVのGP129(1-179aa、配列番号12)をコードする遺伝子、HCMVのUL130のオルソログであるGPCMVのGP131(1-192aa、配列番号13)をコードする遺伝子、HCMVのUL131のオルソログであるGPCMVのGP133(1-127aa、配列番号14)をコードする遺伝子をそれぞれ人工合成し、pCAGGS1-dhfr-neoにクローニングした。以上の5種類のタンパク質を共発現させた。発現及び精製はGPCMV-gBと同様の方法で行い、GPCMVペンタマーのエクトドメイン(以下、「GPCMVペンタマー」と呼ぶ)精製品を得た(国際出願PCT/JP2019/047966号)。
【0159】
<GPCMV-gB-ペンタマー融合タンパク質の調製及び性状解析>
次に、GPCMV-gBエクトドメイン改変体(配列番号17)の111-475aaと641-692aaとをGGGSGSGGG(配列番号20)の9アミノ酸でつなぎ、さらに、このC末端にHis-tag配列(配列番号30)を付加したものをGPCMV-Δd4(配列番号32)とし、GPCMV-Δd4をコードするDNA断片をPCRによって作製し、該DNA断片をpCAGGS1-dhfr-neoにクローニングした。また、GP75のエクトドメインをコードする遺伝子のC末端にHis-tagが付加されないものをデザインし、該タンパク質をコードするDNA断片をPCRによって作製し、該DNA断片をpCAGGS1-dhfr-neoにクローニングしたものをGP75(His-)とした。
【0160】
次に、上記遺伝子をもとにGP115、GP129、GP131又はGP133のC末端側に15アミノ酸のリンカー(GGGGSGGGGSGGGGS)(配列番号23)を介してGPCMV-Δd4を連結した融合タンパク質をコードするDNA断片をPCRによって作製、該DNA断片をpCAGGS1-dhfr-neoにクローニングしたものを、それぞれGP115-Δd4、GP129-Δd4、GP131-Δd4、又はGP133-Δd4とした。発現時には各種gB-ペンタマー構成タンパク質融合体発現プラスミドを組み合わせて共発現を行った。組み合わせた発現プラスミドは、GP75(His-)/GP115-Δd4/GP129-Δd4/GP131-Δd4/GP133、GP75(His-)/GP115/GP129-Δd4/GP131-Δd4/GP133-Δd4であった。発現及び精製はGPCMV-gBと同様の方法で行った。
【0161】
ゲル濾過クロマトグラフィーによる分析(
図25の(a)、(b))を実施したところ、GP75(His-)/GP115-Δd4/GP129-Δd4/GP131-Δd4/GP133では、HCMVのgH(His-)/gL-Δd4/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131(実施例3-2-1、
図20の(a))と同様の位置にピークが確認され、GP75(His-)/GP115/GP129-Δd4/GP131-Δd4/GP133-Δd4では、HCMVのgH(His-)/gL/UL128-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4(実施例3-2-2、
図28の(b))と同様の位置にピークが確認された。
【0162】
<GPCMV-Δd4-ULsの調製及び性状解析>
次に、上記遺伝子をもとに、GP133のC末端側に15アミノ酸のリンカー(GGGGSGGGGSGGGGS)(配列番号23)を介してGPCMV-Δd4を連結した融合タンパク質をコードするDNA断片をPCRによって作製し、該DNA断片をpCAGGS1-dhfr-neoにクローニングしたものを、GP133-Δd4とした。また、GP129-Δd4をベースにGP115とGP129のジスルフィド結合部位を解離させると考えられるC167S改変を加えたものをGP129(C167S)-Δd4とした。発現時には各種gB-ペンタマー構成タンパク質融合体発現プラスミドを組み合わせて共発現を行った。組み合わせた発現プラスミドは、GP129(C167S)-Δd4/GP131-Δd4/GP133-Δd4であった。発現及び精製はGPCMV-gBと同様の方法で行い、GP129(C167S)-Δd4/GP131-Δd4/GP133-Δd4(GPCMV-Δd4-ULs)精製品を得た。
【0163】
ゲル濾過クロマトグラフィーによる分析(
図25の(c))を実施したところ、GP129(C167S)-Δd4/GP131-Δd4/GP133-Δd4では、HCMVのUL128(C162S)-Δd4/UL130-Δd4/UL131-Δd4(実施例3-1、
図11の(c))と同様の位置にピークが観察された。
【0164】
<胎盤感染防御試験>
Hartleyモルモット(雌、5週齢)に対し、GPCMV-gB、GPCMVペンタマー、GP75(His-)/GP115-Δd4/GP129-Δd4/GP131-Δd4/GP133及びGP129(C167S)-Δd4/GP131-Δd4/GP133-Δd4(GPCMV-Δd4-ULs)を免疫した。各抗原は0.0016μg/匹になるように生理食塩水(大塚製薬)で調製し、アジュバントとして10v/v%のAlum(Invivogen vac-alu250)及び50μg/匹のCpG ODN1826を使用した。調製した抗原液を2週間間隔で2回、モルモットに筋肉内接種(100μL/片足、後肢両足投与)し、2回免疫の2週後からHartleyモルモット(♂、9週齢以上)と交配を行い、妊娠モルモットを作製した。この時、PBS投与群も同様にして交配を行った。免疫群、PBS群(saline群)ともに、妊娠4週齢時点で野生型GPCMVを1×10
6pfu/匹皮下投与し、3週後にペントバルビタールナトリウムにて安楽殺後、胎盤を採取した。採取した胎盤はgentleMACS(ミルテニーバイオテク)により破砕し、MagNA Pure96(Roche)にてDNA抽出を行った。得られたDNAは7500FastリアルタイムPCRシステム(Thermo)を用い、表2に示すプローブ、プライマーセット(国際出願PCT/JP2019/047966号)にてGPCMV gp83遺伝子、細胞由来のβactin遺伝子の定量を行った。
【表2】
【0165】
細胞10
5個当たりのgp83遺伝子、すなわちウイルスコピー数を
図26に示す。このとき、定量下限値は細胞10
5個当たり10コピーとした。
図26の結果から、GP75(His-)/GP115-Δd4/GP129-Δd4/GP131-Δd4/GP133はGPCMV-gB、GPCMVペンタマー及びGPCMV-Δd4-ULsよりも高い感染防御能を持つことが示された。
【0166】
実施例7
<経胎盤感染防御試験>
実施例6と同様の方法により、GPCMV-gB、GPCMVペンタマー、GP75(His-)/GP115-Δd4/GP129-Δd4/GP131-Δd4/GP133、GP75(His-)/GP115/GP129-Δd4/GP131-Δd4/GP133-Δd4を発現、調製した。
【0167】
Hartleyモルモット(雌、5週齢)に対し、GPCMV-gB、GPCMVペンタマー、GPCMV-gB及びGPCMVペンタマーの混合、GP75(His-)/GP115-Δd4/GP129-Δd4/GP131-Δd4/GP133、GP75(His-)/GP115/GP129-Δd4/GP131-Δd4/GP133-Δd4を0.2μg/匹の用量で実施例6と同様の方法により免疫、交配を行った。GPCMV-gB及びGPCMVペンタマーの混合については0.1μgずつを混合し、0.2μg/匹とした。またこの時、PBS投与群も同様にして交配を行った。免疫群、PBS群(saline群)ともに、妊娠4週齢時点で野生型GPCMVを1×107pfu/匹皮下投与し攻撃した。攻撃から3週後にペントバルビタールナトリウムにて安楽殺後、母体、胎仔の解剖を行い、母体から唾液腺と胎盤、胎仔から膵臓の採取を行った。母体の唾液腺と胎盤は適量のPBSとともに、それぞれgentleMACS(ミルテニーバイオテク)により破砕した。胎仔の膵臓は適量のPBSとともにFastPrep24(MP Biomedicals)により破砕した。母体の唾液腺、胎盤、胎仔の膵臓は、それぞれのホモジネート液をMagNA Pure96(Roche)にてDNA抽出を行った。得られたDNAから、実施例6と同様の方法により、細胞105個当たりのウイルスコピー数の定量を行った。このとき、定量下限値は細胞105個当たり1コピーとした。
【0168】
この結果を
図27に示す。GP75(His-)/GP115-Δd4/GP129-Δd4/GP131-Δd4/GP133、GP75(His-)/GP115/GP129-Δd4/GP131-Δd4/GP133-Δd4の免疫群では、胎仔において完全な感染防御が確認された。また、母体、胎盤においても、明確な感染抑制効果が見られた。GP75(His-)/GP115-Δd4/GP129-Δd4/GP131-Δd4/GP133、GP75(His-)/GP115/GP129-Δd4/GP131-Δd4/GP133-Δd4が母体と胎仔の両者に対して効果を示したことから、本発明のワクチン抗原は先天性感染予防に有用であることに加えて、健常者や移植患者、AIDS患者等におけるサイトメガロウイルス感染症の予防にも有効であることが強く示唆された。
【配列表】