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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】地中音源位置の測定システム
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/22 20060101AFI20230502BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
G01S5/22
E02D3/12 101
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019067865
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020165862
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100104776
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100119194
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 明夫
(73)【特許権者】
【識別番号】000151368
【氏名又は名称】株式会社東京ソイルリサーチ
(72)【発明者】
【氏名】阿部 秋男
(72)【発明者】
【氏名】稲川 雄宣
(72)【発明者】
【氏名】柳 東雲
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-158638(JP,A)
【文献】特開2012-062626(JP,A)
【文献】特開2018-199913(JP,A)
【文献】特開2018-123603(JP,A)
【文献】特開2012-058025(JP,A)
【文献】特開2006-266866(JP,A)
【文献】特開平07-133610(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0104979(US,A1)
【文献】特開2019-191024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/18- 5/30
G01S 7/52- 7/64
G01S15/00-15/96
G01V 1/00- 1/52
E02D 3/12
E21D 1/00- 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボーリングにより垂直方向に所定の深さに掘り下げた位置に設けられた掘削ロッドの噴射部から略水平方向に噴出される液体が地盤又は地中構造物に当たって発生する個体音を前記掘削ロッドの所定の位置に配置された少なくとも2個のセンサが音波を含む音情報として逐次検出して、
前記センサで検出した前記音情報をデータ収録手段が周波数成分によって特定してデータ収録し、
前記センサで検出した前記音情報を前記データ収録手段でフィルタリングして特定の周波数成分を取り出して前記個体音を特定し、
解析手段が、前記センサそれぞれの特定された前記個体音の位相差とそれぞれの前記センサ間の垂直方向の長さにより、前記音源位置を逐次特定することを特徴とする地中音源位置の測定システム。
【請求項2】
前記液体が地盤改良を行う地盤改良剤又は地中構造物の補強を行う補強剤であることを特徴とする請求項1に記載の地中音源位置の測定システム。
【請求項3】
前記掘削ロッドの管の壁材に貫通孔が設けられ、前記貫通孔の外側に鋼板が設けられ、前記鋼板の背面に前記センサが設けられ、前記センサ及び前記鋼板と前記壁材の間に緩衝材が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の地中音源位置の測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地盤中にある音源から発生する地中音をセンサで検出することにより、地中音の発生する位置を特定する測定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤中の地盤改良位置や掘削ロッドの位置等を特定するための地中音源位置の測定装置及び測定方法が提案されている。
【0003】
このような技術としては、掘削施工機械の掘削ロッドの先端に人工的な音源を設置し、人工的な音源が発生した地中音を地表に設けた複数のセンサにより検出する技術が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0004】
この技術では、人工的な音源から発生した地中音が地盤中を伝播し、これが地表面に到達したときの音波を複数のセンサで検出し、複数のセンサが検出した音波の位相差を演算装置が演算することにより掘削ロッドの位置を特定するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-58025
【文献】特開2012-58038
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2に記載されている地中音源位置の測定方法では、地表面に複数のセンサを設けるだけでなく、掘削施工機械の切削ロッドに人工的な音源を設ける必要があるため、測定の価格コストが嵩むという問題が生じていた。
【0007】
また、特許文献1及び2に記載されている地中音源位置の測定方法では、地表面にセンサを設けているため、切削ロッドの位置より高い位置に地下水があり、地層が成層地盤でない場合等の条件によっては、センサが地中からの音波を検出しにくく、計測精度が保てなくなる可能性があった。
【0008】
そこで、この発明は、条件によらず精度良く地中音源位置の測定を行うことができ、測定の価格コストも抑えることができる地中音源位置の測定システムを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を鑑みて、請求項1に記載の発明は、ボーリングにより垂直方向に所定の深さに掘り下げた位置に設けられた掘削ロッドの噴射部から略水平方向に噴出される液体が地盤又は地中構造物に当たって発生する個体音を前記掘削ロッドの所定の位置に配置された少なくとも2個のセンサが音波を含む音情報として逐次検出して、前記センサで検出した前記音情報をデータ収録手段が周波数成分によって特定してデータ収録し、前記センサで検出した前記音情報を前記データ収録手段でフィルタリングして特定の周波数成分を取り出して前記個体音を特定し、解析手段が、前記センサそれぞれの特定された前記個体音の位相差とそれぞれの前記センサ間の垂直方向の長さにより、前記音源位置を逐次特定する地中音源位置の測定システムとしたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記液体が地盤改良を行う地盤改良剤又は地中構造物の補強を行う補強剤である地中音源位置の測定システムとしたことを特徴とする。
【0011】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の構成に加え、前記掘削ロッドの管の壁材に貫通孔が設けられ、前記貫通孔の外側に鋼板が設けられ、前記鋼板の背面に前記センサが設けられ、前記センサ及び前記鋼板と前記壁材の間に緩衝材が設けられている地中音源位置の測定システムとしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、少なくとも2個のセンサを掘削ロッドに配置し、当該センサで逐次検出した音情報をデータ収録手段でフィルタリングして特定の周波数成分を取り出して個体音を特定する。そして、解析手段が、センサそれぞれの特定された固体音の強度から、特定された個体音がそれぞれのセンサに到達したことを検知し、個体音がそれぞれのセンサに到達するまでの時間と前記センサそれぞれの特定された前記個体音の位相差を演算して、個体音がそれぞれのセンサに到達するまでの時間と予め計測したセンサ間の垂直方向の長さから音源位置までの距離を特定するため、当該距離と既知の液体の噴射位置の深さと噴射方向とで、条件によらず地中音源位置を三次元的に精度良く逐次特定することができる。また、人工的な音源を別に設ける必要がないため、測定の価格コストも抑えることができる。
【0013】
また、請求項2に記載の発明によれば、噴射系地盤改良工程において、地盤改良剤が地盤に当たって発生する音源の音情報を逐次センサが検出してデータ収録手段に発信し、データ収録手段が音情報をフィルタリングして特定の周波数成分に取り出して、解析手段が音源位置までの距離を特定するため、地盤改良剤が地盤に当たって発生する音源の位置を逐次三次元的に精度良く特定することができる。これにより、地盤改良剤や補強剤の到達範囲を精度良く測定することができる。
【0014】
また、老朽化した地中構造物の補強工程において、補強剤が地中構造物に当たって発生する音源の音情報をセンサが検出してデータ収録手段に発信し、データ収録手段が音情報をフィルタリングして特定の周波数成分に取り出して、解析手段が音源位置までの距離を特定するため、補強剤が地中構造物に当たって発生する音源の位置を三次元的に精度良く特定することができる。
【0015】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、センサを掘削ロッドの管の壁材に設けられた貫通孔の鋼板の背面に設け、センサ及び鋼板と壁材の間に緩衝材を設けることにより、緩衝材が地盤及び掘削ロッド内に流れる液体の振動を緩和し、センサがノイズを検出することを防ぎ、液体が地盤又は地中構造物に当たって発生する衝突音をさらに精度良く捉えることができ、計測精度をより向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明の実施の形態1に係る噴射系地盤改良工法における地中音源位置の測定システムの概要図である。
図2】同実施の形態1に係る地中音源位置の測定システムの掘削ロッドの内側を示す断面図である。
図3】同実施の形態1に係る地中音源位置の測定システムのセンサが検出した音源の重合波形を示す図である。
図4】同実施の形態1に係る地中音源位置の測定システムのセンサが検出した音源の重合波形をフーリエ変換し、周波数領域の波形で示した図である。
図5】同実施の形態1に係る地中音源位置の測定システムのセンサが検出した周波数領域の音源の周波数領域の波形をフーリエ逆変換し、時間領域で示した図で、(a)~(c)は音源の特定の周波数成分の異なる波形の例である。
図6】同実施の形態1に係る地中音源位置の測定システムの掘削ロッドの噴射部からの地盤改良剤の噴射状態を示す概略平面図である。
図7】同実施の形態1に係るデータ収録・解析装置が地盤改良剤の位置を特定する原理を説明する概略図である。
図8】この発明の実施の形態2に係る地中構造物の補強工程における地中音源位置の測定システムの概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
図1乃至図7には、この発明の実施の形態1を示す。
【0018】
この実施の形態1に係る地中音源位置の測定システム100は、図1及び図6に示すように、施工機械1の掘削ロッド3の先端の噴射部4から液体としての地盤改良剤を掘削ロッド3を回動させながら高圧で噴射して地盤改良を行う噴射系地盤改良工法において、地盤改良剤が地盤2に当たって発生する音の音源の位置5を逐次特定するものである。この実施の形態において、地中音源位置の測定システム100は、改良範囲の外延部に高速度で噴射された地盤改良剤が、地盤2にあたることにより発生する個体音15を、掘削ロッド3に配置した3個のセンサ7により検出して、解析することにより、音源の位置5を特定し、これにより、地盤2の改良範囲を特定するものである。
【0019】
また、この実施の形態1においては、図1に示すように、地盤2中に地盤改良剤が1箇所に噴射されており、センサ7で捉える音情報には、地盤改良剤が地盤2に当たって発生する音が含まれている。
【0020】
さらに、この実施の形態1では、地盤2中に地盤改良剤を噴射している状態で音情報を検出するようになっており、図6の矢印Aに示すように、地盤改良剤を噴射する方向が地盤2中で変化する(回動する)状態で地中の音源の位置5の測定を逐次行っている。
【0021】
この実施の形態1の地中音源位置の測定システム100は、図1に示すように、音源の位置5で発生した個体音15を含む音波を音情報として検出し、当該音情報の信号を有線13により発信するセンサ7と、センサ7の信号を増幅するアンプ8と、アンプ8が増幅した信号を受信してデータを収録し、解析して音源の位置5を特定するデータ収録・解析装置9を備えている。なお、この実施の形態では、このデータ収録・解析装置9がデータ収録手段と解析手段の双方を兼ね備えた装置となっている。
【0022】
このセンサ7は、個体音15を測定できる20Hzから20000Hzの広範囲の周波数成分の音を検出するものであり、この実施の形態では、音場音圧型のマイクロフォンが設けられている。なお、このセンサ7は、音場音圧型のマイクロフォンだけでなく、音場音圧型のジオフォン、又は、加速度計でもよい。
【0023】
また、このセンサ7は、図2に示すように、掘削ロッド3の壁材に所定間隔で設けられた3つの貫通孔12のそれぞれの外側に設けられた鋼板10の背面にそれぞれ1個ずつ計3個設けられ、センサ7及び鋼板10と掘削ロッド3の壁材の間には、緩衝材11が設けられて、センサ7、鋼板10及び緩衝材11が掘削ロッド3の壁材の壁面と同一面となるように設けられている。なお、緩衝材11は、防水材も兼ねている。
【0024】
さらに、センサ7は、地盤改良剤を噴射する噴射部4の向きと同一方向の面に取り付けられ、各センサ7は全て同一方向の壁面に、垂直方向に沿って設けられる。そして、掘削ロッド3の回動に伴って、噴射部4が回動するのと同時に、各センサ7も噴射部4と同じ方向を向くように回動するようになっている。
【0025】
また、これらのセンサ7は、音源の位置5で発生した個体音15を検出し、図5に示す音源の個体音15とその他の工事等で発生する雑音が重合した、図3に示すような波形の音波を音情報(ここでは信号化している)としてアンプ8を経由してデータ収録・解析装置9に発信するように構成されている。
【0026】
一方、アンプ8は、図1に示すように、3個のセンサ7のそれぞれと掘削ロッド3の内菅に設けられた有線13で接続され、それぞれのセンサ7により検出して発信された個体音15を含む音波の信号を増幅して、データ収録・解析装置9に送信するように構成されている。
【0027】
また、一方で、データ収録・解析装置9は、アンプ8によって増幅された個体音15を含む音波の信号を受信してA/D変換し、周波数成分ごとに分離して、リアルタイムで個体音15が有する特定の周波数成分と位相と振幅の強度を解析し、音源の位置5を特定するコンピュータを備えている。
【0028】
データ収録・解析装置9は、このコンピュータにより、3個のセンサ7から受信した信号を、図3に示すように、横軸を検出時間、縦軸を電圧、電流等の成分とした時間領域で、音源の波形が重合した波形で検知するように構成されている。
【0029】
また、このコンピュータは、音源の時間領域の波形をフーリエ変換して、図4に示すように、横軸を周波数成分、縦軸を振幅又は位相とした周波数領域の波形に演算するように構成されている。
【0030】
さらに、このコンピュータには、地盤改良剤が地盤2に当たって発生する個体音15の特徴的な特定の周波数が複数、収録されている。コンピュータは、収録されている特徴的な特定の周波数と、図4に示すような音源の周波数領域の波形で振幅がある周波数とを比較して、音源の特定の周波数成分15を特定する。コンピュータは、特定した音源の特定の周波数領域の波形のうち、他の周波数成分の波形をフィルタリングすることにより、音源の特徴的な周波数成分のみの波形をそれぞれ分離して抽出するように構成されている。
【0031】
また、コンピュータは、この分離して抽出した音源の特徴的な周波数成分の周波数領域の波形をフーリエ逆変換して、それぞれ、図5(a)、(b)、(c)に示すような時間領域の波形に演算するように構成されている。
【0032】
さらにまた、このコンピュータは、3個のセンサ7のそれぞれが検出した音源の個体音15の音波の波形のそれぞれから音源の特徴的な周波数成分をフィルタリングして分離して抽出し、各センサ7の図5(a),(b),(c)に示すような音源の波形をそれぞれ3つずつ検知するように構成されている。
【0033】
また、コンピュータは、この各センサ7からの信号を解析して得られた3つずつの音源の特定の周波数成分の波形の横軸方向の時間成分の位相の差を解析して、個体音15が各センサ7に到達するまでの時間を演算し、音源の位置5を特定するように構成されている。このデータ収録・解析装置9が、コンピュータにより、音源の位置5を特定する原理及び解析手順については、測定方法で詳細に説明する。
【0034】
また、データ収録・解析装置9には、成分が異なる複数の種類の地盤改良剤と地盤2との接触面で発生する個体音15の周波数及び周波数成分の振幅の強度のデータが収録されており、コンピュータにより、個体音15が有する特定の周波数成分の周波数特性及び振幅の強度と比較分析し、接触している地盤2の硬さや物質成分などを特定するように構成されている。
【0035】
さらに、データ収録・解析装置9は、コンピュータにより、噴射されて地盤2中を常に移動する地盤改良剤が地盤2と衝突して接触面で発生する個体音15の信号を解析して音源の位置5を特定するように構成されている。
【0036】
次に、この実施の形態に係る地中音源位置の測定システム100による測定方法について説明する。
【0037】
まず、作業者は、センサ7a,7b,7cを掘削ロッド3の所定の位置の貫通孔12の外側に設けられた鋼板10の背面に設け、センサ7a,7b,7c及び鋼板10と掘削ロッド3の壁材の間に緩衝材11を設けて、センサ7a,7b,7c、鋼板10及び緩衝材11が掘削ロッド3の壁材の壁面と同一面となるように設ける。このとき、センサ7a,7b,7cは、地盤改良剤を噴射する噴射部4の向きと同一方向の面に取り付け、各センサ7a,7b,7cは全て掘削ロッド3の同一方向の壁面に、垂直方向に沿って設ける。
【0038】
また、図7に示すように、噴射部4からセンサ7aまでの垂直方向の長さH、噴射部4からセンサ7bまでの垂直方向の長さH、噴射部4からセンサ7cまでの垂直方向の長さHを計測する。また、噴射部4から掘削ロッド3を掘削している地表面までの距離を計測する。
【0039】
次に、作業者は、掘削ロッド3に地表面から地盤2へ垂直方向に掘削させる。このとき、作業者は噴射部4が地盤改良剤を噴射する方向を確認しておく。そして、作業者は、地中音源位置の測定システム100のセンサ7、アンプ8、データ収録・解析装置9を起動し、図1及び図6に示すように、施工機械1の掘削ロッド3の噴射部4から、地盤改良剤を噴射させる。
【0040】
そして、地盤改良剤が地盤2に当たり、その接触面である音源の位置5から個体音15を含む音波を発生する。この音波は、地盤2中の個体音伝播経路6を伝播して各センサ7a,7b,7cに到達する。この到達した音源の個体音15を含む音波の音情報をセンサ7a,7b,7cが検出し、それぞれのセンサ7a,7b,7cが個体音15を含む音情報の信号を、有線13、アンプ8を経由して、データ収録・解析装置9に受信される。
【0041】
データ収録・解析装置9は、センサ7から受信した音源の情報の信号を、図3に示すような、横軸を検出時間、縦軸を電圧、電流等の成分とした時間領域の音源の音波の波形が重複した波形で検知する。
【0042】
また、データ収録・解析装置9は、コンピュータにより、この音源の時間領域の波形の信号をフーリエ変換して、図4に示すような、横軸を周波数成分、縦軸を振幅又は位相とした周波数領域の波形に演算する。
【0043】
このとき、データ収録・解析装置9は、コンピュータにより、図4に示すような、この周波数領域の音源の波形で振幅がある周波数と予め収録されている地盤改良剤と地盤との接触面で発生する個体音15の特定の周波数を比較する。そして、コンピュータにより、図4に示すような、特定の周波数領域の音源の波形で振幅がある周波数に対して、予め収録されている地盤改良剤と地盤2との接触面で発生する個体音15の特徴的な特定の周波数を取り出すようにフィルタリングして、ほぼ一致するものの波形を分離して抽出する。
【0044】
さらに、データ収録・解析装置9は、コンピュータにより、この分離して抽出した個体音15の特徴的な周波数成分の周波数領域の波形をそれぞれフーリエ逆変換して、図5の(a)、(b)、(c)に示すような音源の波形を抽出する。これらの音源の波形は、3個のセンサ7a,7b,7cで検出されたものであるため、3つずつ抽出される。また、この3つ抽出された音源の波形は、音源の位置5と各センサ7の距離が異なるため、伝播時間の差により、横軸の時間成分の位相に差が生じている。
【0045】
ここで、データ収録・解析装置9のコンピュータが、それぞれのセンサ7の音源の波形の横軸方向の時間成分の位相の差を解析して、地盤改良剤の位置を特定する原理を、図7を用いて説明する。
【0046】
まず、図7に示すように、特定する音源の位置5から噴射部4までの略水平距離をLとする。また、音源の位置5からセンサ7aまでの距離をL、音源の位置5からセンサ7bまでの距離をL、音源の位置5からセンサ7cまでの距離をLとする。さらに、センサ7aが個体音15を検出するまでの時間をt、センサ7bが個体音15を検出するまでの時間をt、センサ7cが個体音15を検出するまでの時間をtとして、センサ7bとセンサ7aが個体音15を検出するまでの時間の差(t-t)をS、センサ7cとセンサ7aが個体音15を検出するまでの時間(t-t)をSとする。
【0047】
このとき、個体音15の速度は音速cであるため、S×cの長さは(L-L)に相当し、S×cの長さは(L-L)に相当する。
【0048】
従って、SとSの比は、以下の式(1)の通りになる。
【0049】
【数1】
また、L,L,Lは、ピタゴラスの定理により、それぞれ以下の式(2)~(4)の通りになる。
【0050】
【数2】
【0051】
【数3】
【0052】
【数4】
従って、式(1)に式(2)、式(3)、式(4)を代入することにより、以下の式(5)の通りになる。
【0053】
【数5】
データ収録・解析装置9は、式(5)により、音源の位置5から噴射部4までの水平距離Lを算出し、算出した音源の位置5から噴射部4までの水平距離Lと予め計測した噴射部4から掘削ロッド3の地表面までの距離から音源の位置5を三次元的に特定する。
【0054】
作業者は、データ収録・解析装置9が特定した音源の位置5を確認し、作業工程を進める。
【0055】
以上のように、この実施の形態1の地中音源位置の測定システム100によれば、3個のセンサ7を掘削ロッド3に配置し、当該センサ7で逐次検出した音情報をデータ収録手段でフィルタリングして特定の周波数成分を取り出して個体音15を特定する。そして、解析手段は、前記センサ7それぞれの特定された個体音15の位相差を演算して、個体音15が各センサ7に到達するまでのそれぞれの時間を算出し、算出した個体音15がそれぞれのセンサ7に到達した時間と予め計測した噴射部4から各センサ7までの垂直方向の長さと噴射部4の深さと噴射方向から、音源の位置5を特定するため、条件によらず地中音源位置を三次元的に精度良く特定することができ、地盤改良工程において、地盤改良剤が地盤に当たって発生する音源の位置を三次元的に精度良く逐次特定することにより、地盤2の改良範囲を精度良く特定することができる。また、人工的な音源を別に設ける必要がないため、測定の価格コストも抑えることができる。
【0056】
また、この地中音源位置の測定システム100では、データ収録・解析装置9が、センサ7で検出した音情報をフィルタリングして、地盤改良剤と地盤2との接触面で発生した音源の特徴的な特定の周波数成分を分離して検出する。そのため、地盤2中のノイズに妨げられることなく、音源の特徴的な周波数を選択して検出でき、正確に音源の位置5を特定することできる。
【0057】
さらに、この地中音源位置の測定システム100では、データ収録・解析装置9が、センサ7で逐次検出した音情報をフィルタリングして、音源で発生した個体音15の有する特徴的な特定の周波数成分を分離して個別に検出するため、高精度に音源の位置を特定することができる。
【0058】
また、この地中音源位置の測定システム100では、データ収録・解析装置9が、複数のセンサ7で検出した音情報をA/D変換して、コンピュータで音源の周波数分析と位相の解析を行い、リアルタイムで地盤2中の音源の位置5を特定するため、作業者は、噴射式地盤過料工程の最中に音源の位置5を確認することができ、工程の進行具合(地盤改良範囲)の確認や工程の設定(改良径や仕様)の見直し等の対処をすることが可能となる。
【0059】
さらにまた、この地中音源位置の測定システム100では、データ収録・解析装置9が、音源の特徴的な周波数成分15と予め収録されている複数の種類の成分の地盤改良剤と、成分が異なる複数の種類の地盤改良剤と地盤2との接触面で発生する個体音15の周波数のデータとを比較分析し、地盤改良剤が接触する地盤2の硬さや物質成分を特定するため、作業者は、施工中の地盤2の硬さや物質成分から作業工程(改良径や仕様)を変更等できる。
【0060】
また、この地中音源位置の測定システム100では、データ収録・解析装置9が、噴射式地盤改良工程の最中に、噴射されて地盤2中を水平方向に進行して地盤2にあたる祭の個体音15をリアルタイムで解析して、地盤改良剤と地盤2の境界位置を逐次特定するため、作業者は、移動する音源の位置5を逐次確認して、移動する音源の個体音15にも対処することができる。
【0061】
さらに、この地中音源位置の測定システム100では、センサ7を掘削ロッド3の管の壁材に設けられた貫通孔12の鋼板10の背面に設け、センサ7及び鋼板10と壁材の間に緩衝材11を設けて、センサ7、鋼板10及び緩衝材11が掘削ロッド3の壁材の壁面と同一面となるように設けていることにより、緩衝材11が地盤2及び掘削ロッド3内に流れる地盤改良剤の振動を緩和し、センサがノイズを検出することを防ぎ、地盤改良剤が地盤に当たって発生する衝突音をさらに精度良く捉えることができ、計測精度をより向上することができる。
【0062】
また、緩衝材11は、防水材を兼ねているため、掘削ロッド3内に流れる地盤改良剤がセンサ7に接触しても、故障することを防ぐことができる。
[発明の実施の形態2]
次に、この発明の実施の形態2について説明する。
【0063】
なお、この実施の形態2の説明においては、前記した実施の形態1と異なる部分のみ説明し、前記した実施の形態1と重複する部分は省略する。
【0064】
図8には、この発明の実施の形態2を示す。
【0065】
この実施の形態2に係る地中音源位置の測定システム100は、図8に示すように、施工機械1の掘削ロッド3の先端の噴射部4から地盤2中の老朽化した地中構造物16を補強するための液体としての補強剤を高圧で噴射して地中構造物16の補強を行う噴射系構造物補強工法において、補強剤が地中構造物16に当たって発生する音の音源の位置5を特定するものである。
【0066】
この実施の形態2において、地中音源位置の測定システム100は、改良範囲の外延部に高速度で噴射された補強剤が、地中構造物16にあたることにより発生する個体音を、掘削ロッド3に配置した3個のセンサ7により検出して、解析することにより、音源の位置5を特定するものである。
【0067】
この実施の形態2のデータ収録・解析装置9には、補強剤が地中構造物16に当たって発生する個体音の周波数及び周波数成分の振幅の強度のデータが複数収録されており、センサ7が検出した音波の音情報の周波数が収録されている個体音の周波数及び周波数成分の振幅の強度を比較して、補強剤が地中構造物16に到達したか特定するように構成されている。
【0068】
この実施の形態2に係る地中音源位置の測定システム100のその他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0069】
次に、この実施の形態2に係る地中音源位置の測定システム100による測定方法を説明する。
【0070】
まず、作業者は、実施の形態1と同様に、センサ7a,7b,7cを掘削ロッド3の所定の位置の貫通孔12の外側に設けられた鋼板10の背面に設け、センサ7a,7b,7c及び鋼板10と掘削ロッド3の壁材の間に緩衝材11を設けて、センサ7a,7b,7c、鋼板10及び緩衝材11が掘削ロッド3の壁材の壁面と同一面となるように設ける。このとき、センサ7a,7b,7cは、補強剤を噴射する噴射部4の向きと同一方向の面に取り付け、各センサ7a,7b,7cは全て掘削ロッド3の同一方向の壁面に、垂直方向に沿って設ける。
【0071】
このとき、実施の形態1と同様に、図7に示すように、噴射部4からセンサ7aまでの垂直方向の長さH、噴射部4からセンサ7bまでの垂直方向の長さH、噴射部4からセンサ7cまでの垂直方向の長さHを計測する。また、噴射部4から掘削ロッド3を掘削している地表面までの距離を計測する。
【0072】
次に、作業者は、掘削ロッド3に地表面から地盤2へ垂直方向に掘削させる。このとき、作業者は噴射部4が補強剤を噴射する方向を確認しておく。そして、作業者は、地中音源位置の測定システム100のセンサ7、アンプ8、データ収録・解析装置9を起動し、図8に示すように、施工機械1の掘削ロッド3の噴射部4から、補強剤を噴射させる。
【0073】
そして、補強剤が地中構造物16に当たり、その接触面である音源の位置5から個体音を含む音波を発生する。この音波は、地盤2中の個体音伝播経路6を伝播して各センサ7a,7b,7cに到達する。この到達した音波の音情報をセンサ7a,7b,7cが発信し、アンプ8を経由して、データ収録・解析装置9に受信される。
【0074】
データ収録・解析装置9は、センサ7から受信した音波の情報の信号を、横軸を検出時間、縦軸を電圧、電流等の成分とした時間領域の音波の波形が重複した波形で検知する。
【0075】
また、データ収録・解析装置9は、コンピュータにより、この音波の時間領域の波形の信号をフーリエ変換して、横軸を周波数成分、縦軸を振幅又は位相とした周波数領域の波形に演算する。
【0076】
このとき、データ収録・解析装置9は、コンピュータにより、この周波数領域の音源の波形で振幅がある周波数と予め収録されている補強剤と地中構造物16との接触面で発生する個体音の特定の周波数を比較する。そして、コンピュータにより、特定の周波数領域の音源の波形で振幅がある周波数に対して、予め収録されている補強剤と地中構造物16との接触面で発生する個体音の特徴的な特定の周波数を取り出すようにフィルタリングして、ほぼ一致するものの波形を分離して抽出する。
【0077】
さらに、データ収録・解析装置9は、コンピュータにより、この分離して抽出した個体音の特徴的な周波数成分の周波数領域の波形をそれぞれフーリエ逆変換して、横軸を時間成分、縦軸を振幅又は位相とした時間成分の波形に演算する。
【0078】
この時間成分の音源の波形は、3つのセンサセンサ7a,7b,7cで検出されたものであるため、3つずつ抽出される。また、この3つ抽出された音源の波形は、音源の位置5と各センサ7の距離が異なるため、伝播時間の差により、横軸の時間成分の位相に差が生じている。
【0079】
データ収録・解析装置9のコンピュータが、それぞれのセンサ7の音波の波形の時間成分の位相の差を解析して、補強剤が地中構造物16に到達して当たり、発生する音源の位置5を特定する原理は、実施の形態1と同様である。
【0080】
作業者は、データ収録・解析装置9が特定した音源の位置5を確認し、作業工程を進める。
【0081】
以上のように、この実施の形態2の地中音源位置の測定システム100によれば、3個のセンサ7を掘削ロッド3に配置し、当該センサ7で逐次検出した音情報をデータ収録手段でフィルタリングして特定の周波数成分を取り出して個体音を特定する。そして、解析手段は、前記センサ7それぞれの特定された個体音の位相差を演算して、個体音が各センサ7に到達するまでのそれぞれの時間を算出し、算出した個体音がそれぞれのセンサ7に到達した時間と予め計測した噴射部4から各センサ7までの垂直方向の長さと噴射部4の深さと噴射方向から、音源の位置5を特定するため、条件によらず地中音源位置を三次元的に精度良く特定することができ、老朽化した地中構造物16の補強工程において、補強剤が地中構造物16に当たって発生する音源の位置を三次元的に精度良く逐次特定することができる。また、人工的な音源を別に設ける必要がないため、測定の価格コストも抑えることができる。
【0082】
また、この地中音源位置の測定システム100では、センサ7を掘削ロッド3の管の壁材に設けられた貫通孔12の鋼板10の背面に設け、センサ7及び鋼板10と壁材の間に緩衝材11を設けて、センサ7、鋼板10及び緩衝材11が掘削ロッド3の壁材の壁面と同一面となるように設けていることにより、緩衝材11が地盤2及び掘削ロッド3内に流れる補強剤の振動を緩和し、センサがノイズを検出することを防ぎ、補強剤が地中構造物16に当たって発生する衝突音をさらに精度良く捉えることができ、計測精度をより向上することができる。
【0083】
なお、上記実施の形態1及び2は本発明の例示であり、本発明が上記実施の形態1及び2のみに限定されることを意味するものではないことは、言うまでもない。
【0084】
例えば、実施の形態1及び2では3個のセンサ7を掘削ロッド3に配置しているが、2個以上であれば、いくつセンサ7を配置しても良い。
【0085】
また、実施の形態1及び2では、センサ7を掘削ロッド3の噴射部4より上の位置に配置しているが、噴射部4より下に掘削ロッド3が伸びており、そこにセンサ7を配置してもよい。
【0086】
さらに、実施の形態1及び2では、センサ7とアンプ8が掘削ロッド3の内菅を通る有線13で接続されているが、掘削ロッド3に設けられ、地盤2中に存在するセンサ7が、検出した個体音15を発信して、地上に設けているアンプ8及びデータ収録・解析装置9に受信できるように構成されていればよく、例えば、センサ7が検出した個体音15の信号の波長を長波にして無線でアンプ8に発信する構成であってもよい。
【0087】
また、実施の形態1及び2では、3個のセンサ7とデータ収録・解析装置9の間にアンプ8を1つ設けているが、センサ7が発信する個体音15の信号がデータ収録・解析装置9で受信、解析できるほどの大きさであればよく、アンプ8がなくても良く、また、センサ7のそれぞれに1つずつアンプ8が接続されていても良い。
【0088】
さらにまた、実施の形態1及び2において、データ収録・解析装置9に、特定した地盤中音源の位置を表示するモニタが備えられていても良い。
【0089】
さらに、実施の形態1では噴射式地盤改良工程における地盤改良剤が地盤に当たって発生する音源の位置の特定に、実施の形態2では老朽化した地中構造物の補強工程における補強剤が地中構造物に当たって発生する音源の位置の特定に地中音源位置の測定システム100を用いているが、地盤中の音源であれば、この地中音源位置の測定システム100を用いて、水が流れている位置や他の機械が動作している位置等、他の音源の位置を特定することも可能である。
【0090】
さらにまた、前記した実施の形態1及び2では、データ収録手段と解析手段の双方を兼ねたデータ収録・解析装置を有していたが、これに限るものではなく、データ収録手段と解析手段とが異なる装置で構成されていても良い。
【符号の説明】
【0091】
1……施工機械
2……地盤
3……掘削ロッド
4……噴射部
5……音源の位置
6……個体音伝播経路
7(7a,7b,7c)……センサ
8……アンプ
9……データ収録・解析装置(データ収録手段、解析手段)
10……鋼板
11……緩衝材
12……貫通孔
13……有線
15……個体音
16……地中構造物
100……地中音源位置の測定システム
……噴射部からセンサ7aまでの垂直方向の長さ
……噴射部からセンサ7bまでの垂直方向の長さ
……噴射部からセンサ7cまでの垂直方向の長さ
L……噴射部から個体音発生位置(音源)までの略水平距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8