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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】手すりの止水処理方法及び手すり構造体
(51)【国際特許分類】
   E04F 11/18 20060101AFI20230502BHJP
【FI】
E04F11/18
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022146496
(22)【出願日】2022-09-14
【審査請求日】2022-11-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522365890
【氏名又は名称】三和テクノス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391003624
【氏名又は名称】サンユレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(74)【代理人】
【氏名又は名称】柿本 恭成
(74)【代理人】
【識別番号】100178906
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 充和
(72)【発明者】
【氏名】森 博章
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 龍乃
(72)【発明者】
【氏名】中村 元気
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-052063(JP,U)
【文献】特開2010-133166(JP,A)
【文献】特開2014-095177(JP,A)
【文献】特開2005-146834(JP,A)
【文献】特開平06-346574(JP,A)
【文献】特開2006-097411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の筒状の支柱を複数本間隔をあけて立設して下端側でコンクリート構造体に固定するとともに複数の前記支柱の上端に笠木を固定した手すりの止水処理方法であって、
前記支柱の上端側に上部貫通孔を設け、
混合することで発泡して硬化する2液型樹脂であって、混合後発泡前における粘度が100mPa・s以上2,000mPa・s以下であるとともにクリームタイムが1分以上10分以下である発泡性液を用い、
該発泡性液を前記支柱の前記上部貫通孔から中空部に注入して底部に到達させ、前記発泡性液を底部から発泡させて前記上部貫通孔まで到達させて硬化させることで、通水不能の発泡体を前記支柱の内面に接着した状態で、前記中空部の底部から上端側まで充填する、手すりの止水処理方法。
【請求項2】
前記2液型樹脂のライズタイムを10分以上30分以下とする、請求項1に記載の手すりの止水処理方法。
【請求項3】
前記支柱の下端側に下部貫通孔を設けて該下部貫通孔から前記中空部内に溜まった水を排出させ、前記下部貫通孔を閉塞した後、前記上部貫通孔から前記発泡性液を注入して発泡させる、請求項1に記載の手すりの止水処理方法。
【請求項4】
前記支柱は、筒状の支柱本体と該支柱本体の中空部に挿入された筒状の補強材とを有し、前記補強材と支柱本体との間隙の底部と前記補強材の内側の底部とに前記発泡性液を到達させて発泡させる、請求項1に記載の手すりの止水処理方法。
【請求項5】
前記支柱の内表面には長手方向に連続した複数の筋状突起が設けられ、該複数の筋状突起間の間隙内と前記中空部とに連続するように前記発泡性液を発泡させて前記発泡体を一体に連続して充填する、請求項1に記載の手すりの止水処理方法。
【請求項6】
前記発泡性液の発泡倍率を5倍~10倍に調整する、請求項1に記載の手摺りの止水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手すりの止水処理方法及び手すり構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の建築物に設置された手すりは、金属製の筒状の支柱が複数本間隔をあけて立設されて下端側でコンクリート構造体に固定されるとともに複数の支柱の上端に笠木が固定された構造を備えている。多くの手すりでは、支柱として外表面がアルマイト処理されたアルミニウムの押出材が使用されており、コンクリート構造体に固定された鋼材からなる補強材が支柱内部に挿入されて補強されている。
【0003】
近年、手すりの接合部分から浸入した水や結露で生じた水が手すりの支柱内部に溜まり、支柱や補強材を内部から腐食させたり、溜まった水が支柱を固定するコンクリート構造体内部にまで浸入してコンクリートを劣化させることが明らかになってきた。そのため支柱内部に溜まった水を排出するための補修方法などが提案されている。
【0004】
例えば特許文献1、2では、支柱の根元部やコンクリート構造体に水抜き用の穴を設けて溜まっている水を抜き取り、支柱の根元部分に硬化性樹脂やセメント材を供給して充填している。
特許文献3では、支柱の下方に水排出孔を設けるとともに上方に空気孔を設け、水より高比重の充填材を支柱の下方に注入することで、排水と充填とを同時に行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3743721号公報
【文献】特許第3929386号公報
【文献】特許第4811684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の手すりの止水処理方法は、金属製の筒状の支柱を複数本間隔をあけて立設して下端側でコンクリート構造体に固定するとともに複数の支柱の上端に笠木を固定した手すりの止水処理方法であって、支柱の上端側に上部貫通孔を設け、混合することで発泡して硬化する2液型樹脂として、混合後発泡前の粘度が100mPa・s以上2,000mPa・s以下であるとともにクリームタイムが1分以上10分以下である発泡性液を用い、この発泡性液を支柱の上部貫通孔から中空部に注入して底部に到達させ、発泡性液を底部から発泡させて上部貫通孔まで到達させて硬化させることで、通水不能の発泡体を支柱の内面に接着した状態で、中空部の底部から上端側まで充填することを特徴としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の手すりの止水処理方法では、既に長期間使用されている手すりの場合、支柱の下端側に下部貫通孔を設け、下部貫通孔から中空部内に溜まった水を排出させて下部貫通孔を閉塞した後、上部貫通孔から発泡性液を注入して発泡させることが好ましい。
【0008】
本発明の手すりの止水処理方法では、新設又は既設の手すりに止水処理を施す場合、支柱の上端側に上部貫通孔を設け、上部貫通孔から発泡性液を注入して底部に到達させ、発泡性液を底部から発泡させて上部貫通孔まで到達させる。
また既に長期間使用されている手すりの場合、支柱の下端側に下部貫通孔を設け、下部貫通孔から中空部内に溜まった水を排出させて下部貫通孔を閉塞した後、上部貫通孔から発泡性液を注入して発泡させることが好ましい。
【0009】
本発明の手すりの止水処理方法において、発泡性液の2液型樹脂は、ライズタイムを10分以上30分以下とすることがより好ましい。発泡性液の発泡倍率を5倍~10倍に調整してもよい。
【0013】
さらに、金属製の筒状の支柱を複数本間隔をあけて立設して下端側でコンクリート構造体に固定するとともに複数の前記支柱の上端に笠木を固定した手すりにおいて、前記支柱の中空部内に該支柱の底部を貫通して下方に突出した補強材が設けられ、該補強材の下部がコンクリート構造体中に埋設されて成る手すり構造体であって、
前記支柱の上端側に発泡性液注入用の上部貫通孔が設けられ、前記支柱の底部から上端側の中空部に該上部貫通孔から発泡性液が充填硬化され、前記上部貫通孔が密栓されることで、支柱の中空部が中実体として支柱内部への水の浸入を阻止するよう構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の手すりの止水処理方法によれば、支柱の中空部に発泡性液を注入して発泡及び硬化させることで、通水不能の発泡体を支柱の内面に接着した状態で中空部の底部から上端側まで充填するので、支柱内部に水が浸入したり滞留することがない。そのため支柱の中空部内に水が浸入することがなく、浸入した水や溜まった水により手すりやコンクリート構造体が劣化することを確実に防止できる。またコンクリート構造体の表面に支柱からの流出物や水垢等が付着することも防止できる。
【0015】
しかも発泡性液を支柱の上端側から注入して発泡及び硬化させることで発泡体を支柱の略全長にわたって内部に充填するため、施工が容易である。また発泡体のため軽量であるので手すりの重量増加も少なく抑えることができ、何らの補強作業も不要である。
従って本発明によれば、手すりの支柱内部への水の浸入を防止でき容易に施工可能な手すりの止水処理方法を提供することができる。
【0016】
本発明の手すりの止水処理方法において、支柱の上端側に上部貫通孔を設け、上部貫通孔から発泡性液を注入して底部に到達させ、発泡性液を底部から発泡させて上部貫通孔まで到達させれば、支柱の底部から上端側までの範囲に容易に且つ確実に発泡性液を発泡させることができる。
さらに、支柱の下端側に下部貫通孔を設けて下部貫通孔から中空部内に溜まった水を排出させ、下部貫通孔を閉塞した後、上部貫通孔から発泡性液を注入して発泡させれば、既設の手すりを止水処理する際に内部の水を排出させることができ、既設の手すりの劣化の進行を防止することができる。
【0017】
さらに本発明の手すりの止水処理方法において、支柱が筒状の支柱本体と、支柱本体の中空部に挿入された筒状の補強材とを有し、補強材と支柱本体との間の間隙の底部と補強材の内側の底部とに発泡性液を到達させて発泡させれば、中空部に筒状の補強材が挿入されていても、支柱内に水が溜まるような空間が形成されないので、外部からの水の浸入を確実に防止することができる。
【0018】
また本発明の手すりの止水処理方法において、支柱の内表面に長手方向に連続した複数の筋状突起が設けられ、複数の筋状突起間の間隙内と中空部とに連続するように発泡性液を発泡させて発泡体を一体に連続して充填すれば、長手方向に連続する間隙が設けられていても、支柱内に水が浸入し移動することを発泡体により確実に防止できる。しかも連続した複数の筋状突起により支柱の内表面の表面積を増大でき、支柱内表面と発泡体との接着力を増加できるため、支柱の内表面と発泡体とをより強固に接合することができ、水の浸入や移動を防止することが可能である。
【0019】
本発明の手すりの止水処理方法において、発泡性液を、混合することで発泡して硬化する2液型樹脂を用い、混合後発泡前の粘度を100mPa・s以上2,000mPa・s以下とし、クリームタイムを1分以上10分以下に調整すれば、発泡性液を支柱に注入して発泡させる際、支柱の底部に到達させてから発泡させ易く、発泡体を支柱内部の略全長にわたって充填てきる。その場合、2液型樹脂のライズタイムが10分以上30分以下であれば、支柱内部の隅々に発泡を充填させ易く、止水性が向上する。また本発明の手すりの止水処理方法において、発泡性液の発泡倍率を5倍~10倍に調整することで、手すりの重量の増加を抑えつつ十分な止水効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る止水処理が適用される手すり構造体を示す正面図である。
図2】上記実施形態に係る止水処理が適用される支柱の一部を拡大して示す縦断面図である。
図3】上記実施形態に係る止水処理が適用される手すりの支柱を示す横断面図である。
図4】上記実施形態に係る止水処理の手順を説明する図であり、上部貫通孔及び下部貫通孔を設けた状態を示す。
図5】上記実施形態に係る止水処理の手順を説明する図であり、支柱に発泡性液を注入する状態を示す。
図6】上記実施形態に係る止水処理の手順を説明する図であり、支柱に発泡体を充填した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図を用いて詳細に説明する。
止水処理を施す対象は、各種の建築物のベランダ、バルコニー、廊下、階段、踊り場などに使用される手すりである。本実施形態の手すり10は、図1示すように、金属製の筒状の支柱11が複数本間隔をあけてコンクリート構造体12に立設され、複数の支柱11の上端に架け渡すように笠木13が固定され、支柱11間に二重笠木14、下弦材15、格子部材16等が設置されている。
【0022】
支柱11は、図2に示すように、下端側でコンクリート構造体12に固定して設けられている。支柱11は、コンクリート構造体12に固定して立設された補強材17と、補強材17に接続して立設された支柱本体18と、を有する。補強材17は鋼材からなり、コンクリート構造体12中の鉄筋等に固定されたアンカー部17aと、アンカー部17aから上方に突出する筒状の補強用芯材17bと、を有する。補強用芯材17bの下端側はアンカー部17aとともにコンクリート構造体12中に埋設され、上端側がコンクリート構造体12から上方に突出して配置されている。
【0023】
支柱本体18は、図3に示すようにアルミニウム製の筒状の押出材からなる。本実施形態では外周断面形状が略四角形状を有し、外表面にアルマイト処理が施されている。
支柱本体18の内表面には、長手方向に全長に連続して延びる複数の筋状突起18aが設けられている。本実施形態ではビスホールを構成するための一対の筋状突起18aが全長にわたって突出し複数位置に設けられている。各筋状突起18a間の間隙18bは全長にわたって内側に開口しているため、内側の中空部21と間隙18bとが全長にわたって連続している。
【0024】
支柱本体18における複数の筋状突起18aより内側の中空部21に、補強材17の補強用芯材17bが挿入されて、図示しないビスにより固定されている。支柱本体18の下端は、この状態でコンクリート構造体12中に埋設されている。また支柱本体18の上端は、中空部21を閉塞するように笠木受け材13aがビス止めされるとともに、笠木13が笠木受け材13aに固定されている。
【0025】
このような支柱11の内部を本実施形態により止水処理を施すには、手すり10をコンクリート構造体12に設置した状態で行う。手すり10は設置直後のものであってもよく、使用が開始されてから既に長期間が経過した既設のものであってもよいが、本実施形態では後者の例を用いて説明する。
【0026】
止水処理は支柱11の中空部21に発泡体22を充填することで行う。手すり10が既設状態のため、支柱11の中空部21、即ち、支柱本体18及び補強材17の内部は、上端側及び下端側のいずれも閉塞された状態である。そのため発泡体22の充填は、所定の発泡性液22aを中空部21内に注入して発泡及び硬化させることで行う。発泡性液22aとしては、ポリウレタン樹脂組成物を含有する流動性の高い液を用いることができ、本実施形態では2液を混合することで発泡して硬化する2液型樹脂を用いる。
【0027】
このような発泡性液22aとしては、2以上の水酸基を有する化合物であるポリオール成分を含有する第1液と、疎水性を有するイソシアネート成分を含有する第2液とを用いることができる。ポリオール成分としては、ポリエーテル系ポリオール,ポリエステル系ポリオール,ジエン系ポリオール,多価アルコール,ひまし油ポリオール,ひまし油変性ポリオール,水酸基含有ジエチレン系ポリマーなどが挙げられる。
【0028】
ポリエーテル系ポリオールとしては、エチレングリコール,ジエチレングリコール,ポリエチレングリコール,プロピレングリコール,ジプロピレングリコール,ポリプロピレングリコール,ポリテトラメチレングリコール,1,4-ブタンジオール,ネオペンチルグリコール,ビスフェノールA,ビスフェノールF,またはこれらにアルキレンオキシドを1又は2種以上付加重合した2官能性ポリオール,トリメチロールプロパン,ヘキサントリオール,グリセリン等,またはこれらにアルキレンオキシドを付加重合した3官能性ポリオール,ペンタエリスリトール,ソルビトールまたはこれらにアルキレンオキシドを付加重合した多官能ポリオール,その他アニリンにアルキレンオキシドを付加重合したものやアルカノールアミンにアルキレンオキシドを付加重合したものなどが挙げられる。
【0029】
イソシアネート成分としては、各種多官能性の脂肪族,脂環族及び芳香族イソシアネートを使用できる。例えばヘキサメチレンジイソシアネート(HDI),イソホロンジイソシアネート(IPDI),4,4-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI),2,4-トリレンジイソシアネート(2,4-TDI),2,6-トリレンジイソシアネート(2.6-TDI),4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI),オルトトルイジンジイソシアネート(TODI),ナフタレンジイソシアネート(NDI),キシリレンジイソシアネート(XDI),リジンジイソシアネート(LDI)およびこれらイソシアネート類を用いたイソシアネート含有プレポリマーなどが挙げられる。ポリイソシアネートとして,NCO含有量が5から40%、好ましくは20から30%が好ましい。
【0030】
第1液又は第2液には、触媒成分、発泡剤成分、整泡剤成分等を適宜含有させることができる。触媒成分としては、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン,N,N,N’,N’-テトラメチルプロパン-1,3-ジアミン,N,N,N’,N’-テトラメチルヘキセン-1,6-ジアミン,N,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン,N,N-ジシクロヘキシルメチルアミン,ビス(N,N-ジメチルアミノエチルピペラジル)エタン,N,N’,N”-トリス(ジエチルアミノプロピル)ヘキサヒドロトリアジン等の第3級アミンおよび,ジブチル錫ジラウレート,ジブチル錫ジアセテート等が挙げられる。
【0031】
発泡剤成分としては、水、フッ素化炭化水素、メチレンクロライド、ペンタン、シクロペンタン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル等の低沸点溶剤などが挙げられる。また、整泡剤成分としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン型、オルガノポリシロキサン等のシリコーン型等の界面活性剤などが挙げられる。
【0032】
このような発泡性液22aは、第1液と第2液とを施工直前に均一に混合することで使用される。2液を混合後発泡前の状態における発泡性液22aは、後述のように支柱11の上端側に注入することで、支柱11内を流下して支柱11の下端に到達可能な程度に低粘度であることが望ましい。
粘度は、例えばフタル酸エステル系可塑剤,トリメリット酸エステル系可塑剤,セバシン酸エステル系可塑剤,スルフォン酸エステル系可塑剤などにより調整してもよい。特に限定されるものではないが、本実施形態では、混合した後の発泡前の発泡性液22aの粘度を100mPa・s以上2,000mPa・s以下とするのが好適である。
【0033】
本実施形態の発泡性液22aは、発泡とゲル化の競争反応を利用して発泡ウレタンとして充填するものであるため、発泡の開始時期とゲル化の開始時期とを調整する必要があり、発泡が開始すると同時にゲル化の反応が開始するように調整するのが望ましい。この調整は触媒,触媒種の組み合わせ及びそれら触媒量の調整によって行うことができる。
【0034】
この発泡性液22aでは、発泡及び硬化の速度が適度に穏やかであることが望ましい。これらは、例えば触媒、イソシアネートのプレポリマー率及びポリオールの分子量などにより調整してもよい。
発泡ウレタンが液状を保つことが出来る時間はクリームタイムと呼ばれ、可使時間の指標となる。本実施形態では流し込み性を確保するため、クリームタイムを1分以上10分以下とするのが好ましい。発泡が過剰に速いと、支柱11の上端側に注入した発泡性液が底部に到達する前に発泡が進行するため、底部まで発泡体を充填することが困難になる。一方、発泡が過剰に遅いと作業性に劣る。
【0035】
一方、発泡ウレタンが発泡を完結するまでの時間はライズタイムと呼ばれ、硬化時間の指標となる。本実施形態では、タクトフリーになるための短時間硬化性を確保するため、ライズタイムを10分以上30分以下とするのが好ましい。この場合、タクトタイムとの差を9分以上設けてもよい。ライズタイムをこの範囲にすることで、発泡途中の発泡性液22aを支柱11内部の隅々まで充填させることができ、支柱11内部の広い中空部21から連続するビスホールなどのような筋状突起18aの間隙18b内にも気泡を連続して充填させることができる。
【0036】
2液を混合した発泡性液22aによる発泡倍率は、例えば5倍~10倍に調整する。発泡倍率が過剰に低いと支柱11に充填される発泡体22の重量が大きくなり、手すり全体の重量が増加するため好ましくない。一方、過剰に発泡倍率が大きいと、発泡体22が疎状態となり通水を阻止し難くなるので止水効果が低減する。また発泡後に得られる発泡体22の状態で、より多く独立気泡を有するのが好ましく、例えば整泡剤を調整することで独立気泡率を高くしてもよい。この独立気泡率は通水不能な範囲であることが望ましい。
【0037】
さらに本実施形態の発泡性液22aは、発泡後に得られる発泡体22の状態で、支柱11の内面との境界部分において、浸水を防止できる程度に接着性又は粘着性を有することが好ましい。例えば第1液のポリオール成分、第2液のイソシアネート成分、触媒成分などの選択、添加等により接着性又は粘着性を調整してもよい。また、発泡後に得られる発泡体22の状態では、吸水しにくいことが望ましく、本実施形態では、第2液のイソシアネート成分として疎水性の成分を選択することで、吸水性を低減している。
【0038】
このような発泡性液22aを用いて、支柱11の中空部21に発泡体22を充填して止水処理を行うには、図4に示すように、支柱11の上端側における笠木13に近い位置に上部貫通孔23を設ける。また支柱11の下端側に下部貫通孔24を設けることで、支柱11の中空部21内に溜まった水を下部貫通孔24から排出させる。下部貫通孔24より下方に溜まった水はポンプ等により汲み出すこともできる。
【0039】
下部貫通孔24は、支柱本体18の下端側において補強材17の補強用芯材17bの下端側まで貫通して設ける。これにより、補強材17の外面と支柱11の内面との間の間隙21aと、補強材17の補強用芯材17bの内側との両方に溜まった水を排出することができる。溜まった水を排出した後、図5に示すように、補強用芯材17bの下部貫通孔24を開口させたまま、支柱本体18の下部貫通孔24をプラグ等により閉塞する。
【0040】
次に、第1液と第2液とを混合して発泡性液22aを調製し、図5に示すように、この発泡性液22aを上部貫通孔23から中空部21内に注入する。本実施形態では、上部貫通孔23から注入した発泡性液22aを支柱11内でそのまま流下させることで、クリームタイムの期間内に底部に到達させることができる。
底部に到達した発泡性液22aは、図5に示すように、補強材17の補強用芯材17bに設けられている下部貫通孔24を通して、補強材17と支柱11間の間隙21aと、補強材17の内側空間21bとの間で適宜流動することで、補強材17と支柱11間の間隙21aと補強材17の内側空間21bとの両方の底部に発泡性液22aを到達させることができる。
【0041】
底部に到達した発泡性液22aは、底部から順次発泡し、支柱11の中空部21内に充填される。このとき補強材17と支柱11間の間隙21aの底部と補強材17の内側空間21bとの底部から発泡性液22aを発泡させることで、補強材17と支柱11間の間隙21aと補強材17の内側空間21bとの両方に発泡した気泡を充填することができる。さらに発泡が進むことで、補強材17より上方における支柱11の中空部21にも連続して発泡させることができ、支柱11の中空部21全体に気泡を連続して充填することができる。
【0042】
そして支柱11の中空部21全体に気泡が充填されて発泡が上部貫通孔23まで到達すると、上部貫通孔23から溢れる。この状態で気泡が十分に硬化することで、図6に示すように、発泡体22を支柱11の中空部21の底部から上端側までの全体に一体に連続して充填することができる。その後、上部貫通孔23から溢れて硬化した発泡体を切除して上部貫通孔をプラグ等で閉塞することで、支柱11の止水処理を終了することができる。これにより支柱11の中空部21が、中空部22内の隙間を含む全体で緻密な発泡体22で充填されるので、支柱11全体が中実体として形成される。
【0043】
以上のような手すり10の止水処理方法によれば、支柱11の中空部21に発泡性液22aを注入して発泡及び硬化させることで、通水不能な発泡体22が支柱11の内面に接着した状態で中空部21の底部から上端側まで充填するので、支柱11の内部を完全に止水でき、支柱11の内部に雨水や結露水などが浸入したり滞溜することがない。そのため水により手すり10の内部が腐食等により劣化することを確実に防止でき、手すり10の強度の低下が防止される。また支柱11が固定されたコンクリート構造体12の内部に水が浸入することがないことに加え、コンクリート構造体12の表面に支柱11内から水が流出することもなく、コンクリート構造体12の内部が劣化したり、表面に支柱11内からの流出物や水垢等が付着せず、外観品質が悪化することもない。
【0044】
しかも発泡性液22aを支柱11の上端側から注入して発泡及び硬化させることで、発泡体22が支柱11の内部全体に充填するため、各部の封止や接合などの前処理も不要であるとともに特別な注入作業も不要であり、施工が容易である。また軽量の発泡体22を支柱11に充填するため、手すり10の重量増加も出来るだけ少なく抑えることができ、補強等も不要になる。従ってこの実施形態の止水処理方法によれば、支柱11内部への水の浸入や移動を防止でき、容易に施工可能な止水処理方法を実現することができる。
【0045】
上記実施形態では、支柱11の上端側に上部貫通孔23を設け、上部貫通孔23から発泡性液22aを注入して底部に到達させ、発泡性液22aを底部から発泡させて上部貫通孔23まで到達させている。そのため支柱11の底部から上端側までの範囲に容易且つ確実に発泡性液22aを発泡させることができる。
【0046】
また支柱11の下端側に下部貫通孔24を設け、下部貫通孔24から中空部21内に溜まった水を排出させた後、上部貫通孔23から発泡性液22aを注入して発泡させている。そのため既設の使用中の手すり10を止水処理する際に、支柱11の内部に既に溜まっている水を先に排出させることができ、既設の手すり10の劣化の進行を防止できる。
【0047】
さらにこの実施形態では、支柱11が、筒状の支柱本体18と、支柱本体18の中空部21に挿入された筒状の補強材17とを有し、補強材17と支柱本体18との間の間隙21aの底部と補強材17の内側の底部にも発泡性液を到達させて発泡させている。従って支柱本体18中空部21に筒状の補強材17が挿入されていても、支柱11全体の内部に水が溜まるような空間が形成されることがなく、外部からの水の浸入を確実に防止することができる。
この実施形態では、補強材17に下部貫通孔24が開口した状態で発泡性液22aが注入されるので、発泡性液22aが下部貫通孔24を通して内外に移動できる。そのため補強材17と支柱11間の間隙21aと補強材17の内側空間21bとの両方で発泡性液22aを発泡させて硬化させることができる。
【0048】
またこの実施形態では、支柱本体18の内表面に長手方向にリブとして、連続した複数の筋状突起18aが形成され、支柱本体18の内部の中空部21と複数の筋状突起18a間の間隙18bとに連続するように発泡体22を一体に連続して充填している。そのため長手方向に連続して間隙18bが設けられていても、支柱本体18内に水が移動可能な隙間などが生じることがなく、支柱の内部空間の全てを止水することができる。しかも支柱本体18の内表面に複数の筋状突起18aが設けられていれば、支柱11の内表面の表面積を増大でき、支柱11内面と発泡体22との接着力を増加できるるため、支柱11の内面と発泡体22とを強固に接着でき、水の浸入や移動を防止することが可能である。
【0049】
なお、上記実施形態は本発明の範囲内において適宜変更可能である。
上記実施形態では、使用が開始されてから既に長期間が経過した手すり10の支柱11に止水処理を施した例を説明したが、この例に限られるものではなく、設置直後の、使用中の手すり10の支柱11であっても本発明を適用することが可能である。その場合、上記では、発泡性液22aの注入前に、支柱本体18の下端側及び補強材17の補強用芯材17bの下端側に下部貫通孔24を設け、中空部21内に溜まっている水を排出させたが、設置直後の手すり10の場合は、下部貫通孔24を設けなくてもよい。但し、発泡性液22aを支柱本体18の上端側から注入した際、補強材17の外面と支柱11の内面との間の間隙21aと、補強材17の内側と、の両方に発泡性液22aが十分に注入できない場合には、補強材17には下部貫通孔24を設けておくことが好ましい。また上記実施形態では、支柱11の上端側に上部貫通孔24を設けて発泡性液22aを注入したが、例えば笠木11及び笠木受け材13aを取り外すなどにより支柱11の上端を開口させて発泡性液22aを注入することも可能である。その場合は気泡が上端から溢れることで、支柱11の内部全体に気泡を充填したことを確認することができる。
【0050】
また上記実施形態では、補強材17と支柱本体18とを接合した支柱11の例について説明したが、補強材17を用いることなく、アルミニウム製の筒状の支柱本体18のみからなる支柱11をコンクリート構造体12に固定したものであっても本発明を同様に適用することができる。
さらに上記では、支柱11を含め手すり10の各部がアルミニウムの押出材により形成される例を説明したが、一部又は全部が他の金属からなるものであってもよい。
また上記では発泡性液としてポリウレタン樹脂組成物を含有する液を用いた例について説明したが、特に限定されるものではなく、流動性を有する液体であって、発泡させて硬化可能な液であれば適宜使用することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
10 手すり
11 支柱
12 コンクリート構造体
13 笠木
13a 笠木受け材
14 二重笠木
15 下弦材
16 格子部材
17 補強材
17a アンカー部
17b 補強用芯材
18 支柱本体
18a 筋状突起
18b 間隙
21 中空部
21a 間隙
21b 内側空間
22 発泡体
22a 発泡性液
23 上部貫通孔
24 下部貫通孔
【要約】
【課題】手すりの支柱内部への水の浸入や移動を阻止でき容易に施工可能な手すりの止水処理方法及び手すり構造体を提供する。
【解決手段】金属製の筒状の支柱11を複数本間隔をあけて立設して下端側でコンクリート構造体12に固定するとともに、複数の支柱11の上端に笠木13を固定した手すり10の止水処理方法であって、支柱11の上端側から発泡性液22aを中空部21に注入して発泡及び硬化させることで、通水不能な発泡体22を支柱11の内面に接着した状態で中空部21の底部から上端側まで充填して支柱内部への水の浸入を防止する。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6