(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】電動アクチュエータ、およびアクチュエータ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/32 20060101AFI20230502BHJP
F16H 63/34 20060101ALI20230502BHJP
B60T 1/06 20060101ALI20230502BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20230502BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
F16H61/32
F16H63/34
B60T1/06 G
B60T7/12 A
H02P27/06
(21)【出願番号】P 2019065270
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2022-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000220505
【氏名又は名称】ニデックパワートレインシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【氏名又は名称】成田 友紀
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【氏名又は名称】梶原 慶
(72)【発明者】
【氏名】有田 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 瞬
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 康平
(72)【発明者】
【氏名】及川 竜之介
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-135919(JP,A)
【文献】特開2011-174518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/32
F16H 63/34
B60T 1/06
B60T 7/12
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両操作に基づいて対象物を変位駆動させる電動アクチュエータであって、
モータ部と、
前記モータ部に接続される減速機部と、
前記モータ部を制御する制御部と、
前記モータ部の回転を検出可能な第1回転センサと、
前記減速機部に接続される出力シャフトの回転を検出可能な第2回転センサと、
を備え、
前記対象物は、基準となる第1位置と目標となる第2位置との間で移動させられる可動部を有し、
前記制御部は、前記出力シャフトを所定の目標回転角度まで回転させる場合において、
前記目標回転角度よりも小さい中間回転角度までの間の少なくとも一部において、前記出力シャフトの回転角度に関わらず前記モータ部の角速度を所定の角速度に維持し、
前記第2回転センサの検出結果に基づいて前記出力シャフトの回転角度が前記中間回転角度に到達したと判断した場合に、前記モータ部の回転の減速を開始し、
前記モータ部の回転を減速させる際、前記目標回転角度から前記出力シャフトの回転角度を減じた残角度に基づいて角減速度を算出し、算出した前記角減速度で前記モータ部の回転を減速させ、
前記第2回転センサの検出結果に基づいて前記出力シャフトの回転角度が前記目標回転角度に到達したと判断した場合に、前記モータ部の駆動を停止する、電動アクチュエータ。
【請求項2】
前記制御部は、前記モータ部の回転を減速させる間、所定の周期ごとに前記角減速度を算出し更新する、請求項1に記載の電動アクチュエータ。
【請求項3】
前記制御部は、前記中間回転角度まで前記出力シャフトを回転させる場合において、
前記モータ部の回転を一定の角加速度で加速させて前記モータ部の角速度を所定の角速度とし、
前記モータ部の角速度が前記所定の角速度となった後は、前記出力シャフトの回転角度が前記中間回転角度になるまで前記モータ部の角速度を前記所定の角速度に維持し、
前記中間回転角度は、以下の式1で表される、請求項1または2に記載の電動アクチュエータ。
θ
m=θ
t-(ω
m
2/α) …式1
ただし、
θ
mは、前記中間回転角度であり、
θ
tは、前記目標回転角度であり、
ω
mは、前記所定の角速度であり、
αは、前記角加速度である。
【請求項4】
前記制御部は、前記残角度と、前記第1回転センサの検出結果に基づいて得られた前記モータ部の角速度と、に基づいて前記角減速度を算出する、請求項1から3のいずれか一項に記載の電動アクチュエータ。
【請求項5】
前記制御部は、以下の式2から前記角減速度を算出する、請求項4に記載の電動アクチュエータ。
β=ω
2/(2*θ
r) …式2
ただし、
βは、前記角減速度であり、
ωは、前記モータ部の角速度であり、
θ
rは、前記残角度である。
【請求項6】
前記対象物は、車両のシフト操作に基づいて切り替えられるパーキング切替機構である、請求項1から5のいずれか一項に記載の電動アクチュエータ。
【請求項7】
前記目標回転角度は、前記第1位置を非パーキング位置とし、前記第2位置をパーキング位置とした場合において、前記可動部を前記非パーキング位置から前記パーキング位置に移動させる際の回転角度を含む、請求項6に記載の電動アクチュエータ。
【請求項8】
前記目標回転角度は、前記第1位置をパーキング位置とし、前記第2位置を非パーキング位置とした場合において、前記可動部を前記パーキング位置から前記非パーキング位置に移動させる際の回転角度を含む、請求項6または7に記載の電動アクチュエータ。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の電動アクチュエータと、
前記出力シャフトと、
前記対象物と、
を備える、アクチュエータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される電動アクチュエータ、およびアクチュエータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両操作に基づいて対象物を変位駆動させる電動アクチュエータが知られる。対象物としては、例えば、車両のギヤをパーキングに切り替えるパーキングロック装置、およびシフト操作に基づいて車両のギヤの切り替えを行う、または補助するシフトバイワイヤ駆動装置等が挙げられる。例えば、特許文献1には、電動アクチュエータによって変位駆動される対象物として、パーキングロッドと、パーキングロッドに外装されたカムと、パーキングギヤに噛み合い可能なパーキングロックボールと、を備えるパーキングロック装置が記載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、上記のようなパーキングロック装置においては、精度よく、かつ、短時間で車両のギヤの状態を切り替えられることが求められる。しかし、パーキングロック装置を駆動する電動アクチュエータは、モータ部と減速機部とを有するため、モータ部と減速機部との間にガタつきが生じる場合がある。したがって、精度よく、かつ、短時間で車両のギヤの状態を切り替えることが困難な場合があった。
【0005】
また、例えば、車両のパーキングロック、後進、ニュートラル、前進を切り替えるシフトバイワイヤ用の電動アクチュエータなどにおいては、アクチュエータ駆動範囲途中の後進位置、並びにニュートラル位置を目標位置とするような場合、電動アクチュエータの一方側端部から他方側端部への第一方向駆動時と、アクチュエータの他方側端部から一方側端部への第二方向駆動時とで、目標とする停止位置が一致しない場合があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みて、対象物を目標位置まで変位駆動させる際の位置精度を向上でき、かつ、対象物を目標位置まで変位駆動させる際の時間を短くできる電動アクチュエータ、およびアクチュエータ装置を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電動アクチュエータの一つの態様は、車両操作に基づいて対象物を変位駆動させる電動アクチュエータであって、モータ部と、前記モータ部に接続される減速機部と、前記モータ部を制御する制御部と、前記モータ部の回転を検出可能な第1回転センサと、前記減速機部に接続される出力シャフトの回転を検出可能な第2回転センサと、を備える。前記対象物は、基準となる第1位置と目標となる第2位置との間で移動させられる可動部を有する。前記制御部は、前記出力シャフトを所定の目標回転角度まで回転させる場合において、前記目標回転角度よりも小さい中間回転角度までの間の少なくとも一部において、前記出力シャフトの回転角度に関わらず前記モータ部の角速度を所定の角速度に維持し、前記第2回転センサの検出結果に基づいて前記出力シャフトの回転角度が前記中間回転角度に到達したと判断した場合に、前記モータ部の回転の減速を開始し、前記モータ部の回転を減速させる際、前記目標回転角度から前記出力シャフトの回転角度を減じた残角度に基づいて角減速度を算出し、算出した前記角減速度で前記モータ部の回転を減速させ、前記第2回転センサの検出結果に基づいて前記出力シャフトの回転角度が前記目標回転角度に到達したと判断した場合に、前記モータ部の駆動を停止する。
【0008】
本発明のアクチュエータ装置の一つの態様は、上記の電動アクチュエータと、前記出力シャフトと、前記対象物と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一つの態様によれば、電動アクチュエータによって対象物を目標位置まで変位駆動させる際の位置精度を向上でき、かつ、電動アクチュエータによって対象物を目標位置まで変位駆動させる際の時間を短くできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態の駆動装置を車両の左右方向一方側から視た図である。
【
図2】
図2は、本実施形態のパーキング切替機構を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の電動アクチュエータの機能構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、本実施形態の電動アクチュエータの制御手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、本実施形態の電動アクチュエータのモータ部における角速度の変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の実施形態においては、一例として、車両操作に基づいて電動アクチュエータ10が変位駆動させる対象物が、車両のシフト操作に基づいて切り替えられるパーキング切替機構70である場合について説明する。また、本実施形態の電動アクチュエータ10およびパーキング切替機構70が搭載された機器として、駆動装置1について説明する。
【0012】
以下の説明では、
図1に示す本実施形態の駆動装置1が水平な路面上に位置する車両に搭載された場合の位置関係を基に、鉛直方向を規定して説明する。また、図面においては、適宜3次元直交座標系としてXYZ座標系を示す。XYZ座標系において、Z軸方向は、+Z側を上側とし、-Z側を下側とする鉛直方向である。X軸方向は、Z軸方向と直交する方向であって駆動装置1が搭載される車両の前後方向である。本実施形態において、+X側は、車両の前後方向一方側であり、-X側は、車両の前後方向他方側である。Y軸方向は、X軸方向とZ軸方向との両方と直交する方向であって、車両の左右方向である。本実施形態において、+Y側は、車両の左右方向一方側であり、-Y側は、車両の左右方向他方側である。
【0013】
本実施形態では、Z軸方向と平行な方向を「鉛直方向Z」と呼び、X軸方向と平行な方向を「前後方向X」と呼び、Y軸方向と平行な方向を「左右方向Y」と呼ぶ。また、Z軸方向の正の側(+Z側)を「上側」と呼び、Z軸方向の負の側(-Z側)を「下側」と呼ぶ。X軸方向の正の側(+X側)を「前後方向一方側」と呼び、X軸方向の負の側(-X側)を「前後方向他方側」と呼ぶ。Y軸方向の正の側(+Y側)を「左右方向一方側」と呼び、Y軸方向の負の側(-Y側)を「左右方向他方側」と呼ぶ。
【0014】
本実施形態の駆動装置1は、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、電気自動車(EV)等、モータを動力源とする車両に搭載され、その動力源として使用される。
図1に示すように、駆動装置1は、ハウジング2と、モータ3と、減速装置4と、差動装置5と、パークロックギヤ6と、アクチュエータ装置1000と、を備える。アクチュエータ装置1000は、パーキング切替機構70と、電動アクチュエータ10と、出力シャフト100と、を備える。
【0015】
出力シャフト100は、電動アクチュエータ10に接続され、電動アクチュエータ10によって回転させられる。本実施形態において出力シャフト100は、中心軸J1を中心として前後方向Xに延びる。以下の説明においては、特に断りのない限り、中心軸J1を中心とする径方向を単に「径方向」と呼び、中心軸J1を中心とする周方向、すなわち、中心軸J1の軸回りを単に「周方向」と呼ぶ。
【0016】
ハウジング2は、モータ3、減速装置4、差動装置5、およびパーキング切替機構70を内部に収容する。図示は省略するが、ハウジング2の内部には、オイルが収容される。減速装置4は、モータ3に接続される。差動装置5は、減速装置4に接続され、モータ3から出力されるトルクを車両の車軸に伝達する。パークロックギヤ6は、減速装置4に設けられたギヤに固定される。パークロックギヤ6は、減速装置4および差動装置5を介して、車両の車軸に連結される。パークロックギヤ6は、複数の歯部6aを有する。
【0017】
パーキング切替機構70は、電動アクチュエータ10によって、車両のシフト操作に基づいて駆動される。パーキング切替機構70は、パークロックギヤ6をロック状態とアンロック状態との間で切り換える。パーキング切替機構70は、車両のギヤがパーキングである場合に、パークロックギヤ6をロック状態とし、車両のギヤがパーキング以外である場合に、パークロックギヤ6をアンロック状態とする。車両のギヤがパーキング以外である場合とは、例えば、車両のギヤがドライブ、ニュートラル、リバース等である場合を含む。
図2に示すように、パーキング切替機構70は、可動部70aと、パークロックアーム77と、支持部材75と、板バネ部材76と、を有する。
【0018】
可動部70aは、車両のシフト操作に基づいて、左右方向Yに沿って移動する。本実施形態において可動部70aは、出力シャフト100を介して、電動アクチュエータ10によって移動させられる。可動部70aにおける左右方向Yの位置は、少なくともパーキング位置P1と非パーキング位置P2との間で切り替えられる。すなわち、可動部70aは、出力シャフト100によってパーキング位置P1と非パーキング位置P2との間で移動させられる。パーキング位置P1は、車両のギヤがパーキングである場合における可動部70aの左右方向Yの位置である。非パーキング位置P2は、車両のギヤがパーキング以外である場合における可動部70aの左右方向Yの位置である。パーキング位置P1は、非パーキング位置P2よりも、左右方向一方側(+Y側)の位置である。
図2においては、パーキング位置P1に位置する可動部70aを実線で示し、非パーキング位置P2に位置する可動部70aを二点鎖線で示す。
【0019】
可動部70aは、ディテントプレート71と、ロッド72と、環状部材73と、コイルバネ74と、を有する。ディテントプレート71は、出力シャフト100に固定される。ディテントプレート71は、出力シャフト100から径方向外側に延びる。本実施形態においてディテントプレート71は、出力シャフト100から下側に延びる。本実施形態においてディテントプレート71は、板面が前後方向Xを向く板状である。ディテントプレート71の幅は、出力シャフト100から径方向外側に離れるに従って大きくなる。ディテントプレート71は、凹部71a,71bを有する。
【0020】
凹部71a,71bは、ディテントプレート71の径方向外端部に設けられる。凹部71a,71bは、ディテントプレート71の下側の端部から上側に窪む。凹部71a,71bは、ディテントプレート71を前後方向Xに貫通する。凹部71aと凹部71bとは、周方向に沿って並んで配置される。本実施形態において凹部71aと凹部71bとは、左右方向Yに並んで配置される。
【0021】
ロッド72は、左右方向Yに沿って移動可能に配置される。ロッド72は、接続部72aと、ロッド本体72bと、を有する。接続部72aは、前後方向Xに延びる棒状である。接続部72aの前後方向一方側(+X側)の端部は、ディテントプレート71を前後方向Xに貫通し、ディテントプレート71に固定される。これにより、ロッド72は、ディテントプレート71を介して出力シャフト100に連結される。ロッド本体72bは、左右方向Yに延びる棒状である。本実施形態においてロッド本体72bは、接続部72aの前後方向他方側(-X側)の端部から左右方向一方側(+Y側)に延びる。ロッド本体72bは、接続部72a寄りの部分に突起部72cを有する。ロッド本体72bの左右方向一方側の端部には、左右方向Yに延びる筒部材72dが嵌め合わされて固定される。
【0022】
環状部材73は、ロッド本体72bが通される環状である。環状部材73は、左右方向Yに延びる。環状部材73の外周面のうち左右方向一方側(+Y側)の部分は、左右方向一方側に向かうに従って外径が小さくなるテーパ面73aである。環状部材73は、ロッド本体72bに対して左右方向Yに移動可能である。
【0023】
コイルバネ74は、左右方向Yに延びる。コイルバネ74は、環状部材73と突起部72cとの左右方向Yの間に配置される。コイルバネ74には、ロッド本体72bが通される。コイルバネ74の左右方向他方側(-Y側)の端部は、突起部72cに接触する。コイルバネ74の左右方向一方側(+Y側)の端部は、環状部材73の左右方向他方側の面に接触する。コイルバネ74は、環状部材73がロッド本体72bに対して左右方向Yに相対移動することで伸縮し、環状部材73に左右方向Yの弾性力を加える。
【0024】
パークロックアーム77は、可動部70aの前後方向他方側(-X側)に位置する。パークロックアーム77は、左右方向Yに延びる回転軸J2を中心とする支持シャフト78によって、回転可能に支持される。パークロックアーム77は、パークロックアーム本体77aと、噛合部77bと、を有する。
【0025】
パークロックアーム本体77aは、支持シャフト78から前後方向一方側(+X側)に延びる。パークロックアーム本体77aの前後方向一方側の端部77cは、可動部70aに上側から接触する。端部77cの下側の面のうち左右方向他方側(-Y側)の部分は、左右方向他方側に向かうに従って上側に位置する傾斜部77dである。噛合部77bは、パークロックアーム本体77aから上側に突出する。支持シャフト78には巻きバネ79が装着される。巻きバネ79は、パークロックアーム77に対して、回転軸J2を中心として左右方向一方側(+Y側)から視て反時計回り向きの弾性力を加える。
【0026】
パークロックアーム77は、可動部70aの移動に伴って移動する。より詳細には、パークロックアーム77は、ロッド72および環状部材73の左右方向Yへの移動に伴って、回転軸J2回りに回転する。出力シャフト100の回転に伴って、ディテントプレート71が非パーキング位置P2からパーキング位置P1に移動すると、ロッド72および環状部材73が左右方向一方側(+Y側)に移動する。
【0027】
環状部材73のテーパ面73aの外径は、左右方向一方側(+Y側)から左右方向他方側(-Y側)に向かうに従って大きくなる。そのため、環状部材73が左右方向一方側に移動すると、テーパ面73aによって端部77cが上側に持ち上げられ、パークロックアーム77が回転軸J2を中心として左右方向一方側(+Y側)から視て時計回りに回転する。これにより、図示は省略するが、噛合部77bがパークロックギヤ6に近づき、パークロックギヤ6の歯部6a同士の間に噛み合う。
図2においては、パークロックギヤ6と噛み合う位置に位置するパークロックアーム77を実線で示す。
【0028】
パークロックギヤ6とパークロックアーム77とが噛み合う場合、環状部材73もパーキング位置P1に位置する状態となり、可動部70a全体がパーキング位置P1に位置する状態となる。すなわち、パークロックアーム77は、可動部70aがパーキング位置P1に位置する場合に、車軸に連結されたパークロックギヤ6に噛み合う。環状部材73は、パーキング位置P1において、支持部材75における後述する接触部75bとパークロックアーム77とに接触した状態で挟まれる。パークロックアーム77がパークロックギヤ6に噛み合うことで、パークロックギヤ6は、ロック状態となる。
【0029】
パークロックアーム77がパークロックギヤ6に近づく際、パークロックギヤ6の歯部6aの位置によっては、噛合部77bが歯部6aに接触する場合がある。この場合、パークロックアーム77は、噛合部77bが歯部6a同士の間に噛み合う位置まで移動できない場合がある。このような場合であっても、本実施形態では、環状部材73がロッド72に対して左右方向Yに移動可能であるため、ロッド72はパーキング位置P1に移動しつつ、環状部材73がパーキング位置P1よりも左右方向他方側(-Y側)に位置する状態を許容できる。これにより、出力シャフト100の回転が阻害されることを抑制でき、出力シャフト100を回転させる電動アクチュエータ10に負荷が掛かることを抑制できる。
【0030】
また、ロッド72がパーキング位置P1に位置し、環状部材73がパーキング位置P1よりも左右方向他方側(-Y側)に位置する状態では、コイルバネ74が圧縮変形した状態となる。そのため、コイルバネ74によって環状部材73に左右方向一方側向き(+Y側向き)の弾性力が加えられる。これにより、環状部材73を介して、コイルバネ74からパークロックアーム77に、回転軸J2を中心として左右方向一方側(+Y側)から視て時計回りに回転する向きの回転モーメントが加えられる。したがって、パークロックギヤ6が回転して歯部6aの位置がずれると、パークロックアーム77が回転して、噛合部77bが歯部6a同士の間に噛み合う。
【0031】
出力シャフト100の回転に伴って、ディテントプレート71がパーキング位置P1から非パーキング位置P2に回転すると、ロッド72および環状部材73が左右方向他方側(-Y側)に移動する。環状部材73が左右方向他方側に移動すると、環状部材73によって持ち上げられていた端部77cが自重および巻きバネ79からの弾性力を受けて下側に移動し、パークロックアーム77が回転軸J2を中心として左右方向一方側(+Y側)から視て反時計回りに回転する。これにより、噛合部77bがパークロックギヤ6から離れ、歯部6a同士の間から外れる。
図2においては、パークロックギヤ6から外れた状態のパークロックアーム77を二点鎖線で示す。
【0032】
パークロックアーム77がパークロックギヤ6から外れる場合、環状部材73も非パーキング位置P2に位置する状態となり、可動部70a全体が非パーキング位置P2に位置する状態となる。すなわち、パークロックアーム77は、可動部70aが非パーキング位置P2に位置する場合にパークロックギヤ6から外れる。環状部材73は、非パーキング位置P2において、パークロックアーム77よりも左右方向他方側(-Y側)に位置する。パークロックアーム77がパークロックギヤ6から外れることで、パークロックギヤ6は、アンロック状態となる。
【0033】
ここで、本実施形態においては、環状部材73は、非パーキング位置P2からパーキング位置P1に移動する場合、パークロックアーム77よりも左右方向他方側(-Y側)の位置から左右方向一方側(+Y側)に移動して、パークロックアーム77と支持部材75との鉛直方向Zの間に入り込む。このとき、本実施形態によれば、パークロックアーム77の端部77cが傾斜部77dを有するため、パークロックアーム77と支持部材75との鉛直方向Zの間に環状部材73が入り込みやすい。これにより、環状部材73によってパークロックアーム77を移動させることが容易である。
【0034】
支持部材75は、可動部70aを左右方向Yに移動可能に支持する。本実施形態において支持部材75は、可動部70aを下側から支持する。支持部材75は、ハウジング2の内側面に固定される。支持部材75は、基部75aと、接触部75bと、腕部75cと、嵌合凸部75fと、位置決め部75dと、突起部75eと、を有する。
【0035】
本実施形態において基部75aは、左右方向Yに延びる軸を中心とする円柱状である。接触部75bは、基部75aから上側に突出する。接触部75bは、可動部70aに接触して可動部70aを支持する部分である。本実施形態において接触部75bは、可動部70aのうち環状部材73あるいは筒部材72dに下側から接触して、可動部70aを下側から支持する。接触部75bにおける可動部70a側の面は、左右方向Yに沿って視て、可動部70a側と逆側に凹となる円弧状の曲面である。そのため、テーパ面73aを有する環状部材73を安定して支持できる。本実施形態において接触部75bの曲面は、接触部75bの上側の面であり、左右方向Yに沿って視て、下側に凹となる円弧状である。腕部75cは、基部75aから前後方向一方側(+X側)に延びる。腕部75cは、例えば、四角柱状である。
【0036】
嵌合凸部75fは、基部75aから左右方向一方側(+Y側)に突出する。嵌合凸部75fは、左右方向Yに延びる軸を中心とする円柱状である。嵌合凸部75fは、ハウジング2の内側面に設けられた凹部に嵌め合わされる。
【0037】
基部75aおよび嵌合凸部75fには、基部75aと嵌合凸部75fとを左右方向Yに貫通する貫通孔75hが設けられる。貫通孔75hには、左右方向他方側(-Y側)からネジ90が通される。貫通孔75hに通されたネジ90は、ハウジング2の内側面に締め込まれる。これにより、支持部材75は、ハウジング2に対して固定される。
【0038】
位置決め部75dは、腕部75cの前後方向一方側(+X側)の端部から下側に突出する。位置決め部75dの下側の端部は、ハウジング2の内側面に接触する。突起部75eは、腕部75cの前後方向一方側の端部のうち左右方向他方側(-Y側)の部分から前後方向一方側に突出する。
【0039】
板バネ部材76は、支持部材75に固定される。本実施形態において板バネ部材76は、腕部75cの上側の面に固定される。板バネ部材76は、板バネ本体部76aと、突出部76bと、回り止め部76cと、を有する。
【0040】
板バネ本体部76aは、板面が鉛直方向Zを向く板状である。板バネ本体部76aは、腕部75cから左右方向他方側(-Y側)に延びる。板バネ本体部76aは、ディテントプレート71の下側まで延びる。板バネ本体部76aの左右方向一方側(+Y側)の端部は、腕部75cにネジ91で固定される。板バネ本体部76aは、左右方向他方側の部分にスリット76dを有する。スリット76dは、板バネ本体部76aを鉛直方向Zに貫通する。スリット76dは、左右方向Yに延びる。スリット76dには、ディテントプレート71の下側の端部のうち左右方向一方側の部分が挿入される。
【0041】
突出部76bは、板バネ本体部76aから上側に突出する。より詳細には、突出部76bは、板バネ本体部76aの左右方向他方側(-Y側)の端部から上側に突出する。突出部76bは、可動部70aがパーキング位置P1に位置する場合において、凹部71aに挿入され、凹部71aの内側面に対して左右方向Yに引っ掛けられる。これにより、ディテントプレート71およびロッド72をパーキング位置P1に維持できる。
【0042】
特に、本実施形態のようにコイルバネ74が設けられる場合、噛合部77bが歯部6aに接触してコイルバネ74が圧縮変形することで生じる弾性力による反力が、ロッド72およびディテントプレート71に対して、左右方向他方側向き(-Y側向き)に加えられる。本実施形態によれば、このような場合であっても、突出部76bが凹部71aに引っ掛かることで、ディテントプレート71が左右方向他方側(-Y側)に移動することを抑制できる。したがって、ディテントプレート71およびロッド72を安定してパーキング位置P1に維持できる。
【0043】
一方、電動アクチュエータ10によって出力シャフト100が回転されてディテントプレート71がパーキング位置P1から非パーキング位置P2に移動する際には、板バネ本体部76aは、ディテントプレート71によって下側に押されて弾性変形する。これにより、突出部76bが凹部71aから外れる。突出部76bは、可動部70aが非パーキング位置P2に位置する場合において、凹部71bに挿入され、凹部71bの内側面に対して左右方向Yに引っ掛けられる。これにより、ディテントプレート71およびロッド72を非パーキング位置P2に維持できる。
【0044】
回り止め部76cは、板バネ本体部76aの左右方向一方側(+Y側)の端部における前後方向一方側(+X側)の縁部から下側に突出する。回り止め部76cは、腕部75cの先端部の前後方向一方側に位置する。回り止め部76cは、左右方向一方側から突起部75eに引っ掛かる。これにより、板バネ部材76をネジ91で固定する際に、板バネ部材76が共回ることを抑制できる。したがって、板バネ部材76の位置がずれることを抑制できる。
【0045】
電動アクチュエータ10は、車両のシフト操作に基づいてパーキング切替機構70を駆動する。本実施形態において電動アクチュエータ10は、出力シャフト100を介して可動部70aを左右方向Yに移動させることでパーキング切替機構70を駆動し、パークロックギヤ6をロック状態とアンロック状態との間で切り換える。
【0046】
図3に示すように、電動アクチュエータ10は、モータ部20と、減速機部30と、第1回転センサ51と、第2回転センサ52と、制御部40と、を備える。減速機部30は、モータ部20に接続される。減速機部30は、モータ部20の回転を減速する。減速機部30には、出力シャフト100が接続される。出力シャフト100には、減速機部30を介して、減速されたモータ部20の回転が伝達される。
【0047】
第1回転センサ51は、モータ部20の回転を検出可能なセンサである。第1回転センサ51は、例えば、ホールIC等のホール素子および磁気抵抗素子等の磁気センサである。磁気センサである第1回転センサ51は、例えば、モータ部20のロータに取り付けられたセンサマグネットの磁界を検出することで、ロータの回転、すなわちモータ部20の回転を検出できる。第1回転センサ51の検出結果は、制御部40に出力される。
【0048】
第2回転センサ52は、減速機部30に接続された出力シャフト100の回転を検出可能なセンサである。第2回転センサ52は、例えば、ホールIC等のホール素子および磁気抵抗素子等の磁気センサである。磁気センサである第2回転センサ52は、例えば、出力シャフト100に取り付けられたセンサマグネットの磁界を検出することで、出力シャフト100の回転を検出できる。第2回転センサ52によって磁界を検出されるセンサマグネットは、減速機部30の出力部に設けられており、出力シャフト100を減速機部30の出力部に接続することで、出力シャフト100に取り付けられる。第2回転センサ52の検出結果は、制御部40に出力される。
【0049】
制御部40は、モータ部20を制御する。制御部40は、角度指令部41と、角度制御部42と、角速度制御部43と、電流制御部44と、インバータ部45と、電流検出部46と、角速度計算部47と、角度計算部48と、を有する。角度指令部41には、移動指令CSが入力される。移動指令CSは、車両のシフト操作が行われることで、電動アクチュエータ10に送られる信号である。移動指令CSは、例えば、車両のエンジンコントロールユニットから送られる。移動指令CSには、車両のギヤをいずれのギヤに切り替えるについての情報が含まれる。角度指令部41は、移動指令CSに基づいて、目標角度指令41aを角度制御部42に出力する。目標角度指令41aは、出力シャフト100の目標回転角度θtを含む。
【0050】
角度制御部42は、入力された目標角度指令41aに基づいて、角速度指令42aを角速度制御部43に出力する。角速度制御部43は、入力された角速度指令42aに基づいて、電流指令43aを電流制御部44に出力する。電流制御部44は、電流指令43aに基づいてインバータ部45に信号を送る。インバータ部45には、電動アクチュエータ10の外部から電流が供給される。インバータ部45は、電流指令43aからの信号に基づいて、外部から供給された電流の周波数を変換する。インバータ部45は、周波数を変換した電流をモータ部20に供給する。
【0051】
電流検出部46は、インバータ部45からモータ部20に出力される電流を検出する。電流検出部46の検出結果は、電流制御部44に入力される。角速度計算部47には、第1回転センサ51からの信号が入力される。角速度計算部47は、第1回転センサ51の検出結果に基づいてモータ部20の角速度を算出する。角速度計算部47において算出されたモータ部20の角速度は、角速度制御部43に入力される。角度計算部48には、第2回転センサ52からの信号が入力される。角度計算部48は、第2回転センサ52の検出結果に基づいて出力シャフト100の角度を算出する。角度計算部48において算出された出力シャフト100の角度は、角度制御部42に入力される。
【0052】
制御部40は、出力シャフト100を所定の目標回転角度θ
tまで回転させる場合において、出力シャフト100の回転角度θが目標回転角度θ
tよりも小さい中間回転角度θ
mになるまでの間と、出力シャフト100の回転角度θが中間回転角度θ
mとなった以降とで、モータ部20の制御を切り替える。具体的に制御部40は、出力シャフト100を所定の目標回転角度θ
tまで回転させる場合において、例えば、
図4に示すステップS1~S6の手順に沿ってモータ部20を制御する。目標回転角度θ
tは、可動部70aをパーキング位置P1から非パーキング位置P2に移動させる際の回転角度、および可動部70aを非パーキング位置P2からパーキング位置P1に移動させる際の回転角度を含む。
【0053】
なお、本実施形態において可動部70aをパーキング位置P1から非パーキング位置P2に移動させる場合には、パーキング位置P1が基準となる第1位置に相当し、非パーキング位置P2が目標となる第2位置に相当する。また、本実施形態において可動部70aを非パーキング位置P2からパーキング位置P1に移動させる場合には、非パーキング位置P2が基準となる第1位置に相当し、パーキング位置P1が目標となる第2位置に相当する。
【0054】
ステップS1において制御部40は、モータ部20の回転を加速させる。本実施形態のステップS1において制御部40は、モータ部20を一定の角加速度αで加速させる。これにより、
図5に示すように、モータ部20の回転を開始した時点から、モータ部20の角速度ωは、線形に増加する。なお、
図5において、縦軸はモータ部20の角速度ωを示し、横軸は時間tを示す。時間tは、モータ部20の回転を開始した時点をゼロとする。
【0055】
図4に示すように、ステップS2において制御部40は、モータ部20の角速度ωが最大角速度ω
mに到達したか否かを判断する。最大角速度ω
mは、モータ部20が回転できる最大の角速度である。本実施形態において最大角速度ω
mは、所定の角速度に相当する。本実施形態において制御部40は、角速度計算部47において第1回転センサ51の検出結果に基づいてモータ部20の角速度ωを算出し、角速度ωが最大角速度ω
mに到達したか否かを判断する。
【0056】
モータ部20の角速度ωが最大角速度ω
mに到達していないと判断した場合、制御部40は、モータ部20の回転の加速を続ける。一方、モータ部20の角速度ωが最大角速度ω
mに到達したと判断した場合、制御部40は、ステップS3に移行する。ステップS3において制御部40は、モータ部20の回転の加速を停止し、モータ部20の角速度ωを最大角速度ω
mに維持する。このように、制御部40は、中間回転角度θ
mまでの間の少なくとも一部において、出力シャフト100の回転角度θに関わらずモータ部20の角速度ωを所定の角速度である最大角速度ω
mに維持する。なお、
図5の例では、時刻t1においてモータ部20の角速度ωが最大角速度ω
mに到達し、時刻t1以降、時刻t2または時刻t3まで角速度ωが最大角速度ω
mに維持される。
【0057】
図4に示すように、ステップS4において制御部40は、出力シャフト100の回転角度θが中間回転角度θ
mに到達したか否かを判断する。ここで、本実施形態において中間回転角度θ
mは、以下の式1で表される。
【0058】
θm=θt-(ωm
2/α) …式1
ただし、
θmは、中間回転角度であり、
θtは、目標回転角度であり、
ωmは、最大角速度であり、
αは、一定の角加速度である。
【0059】
上記の式1は、等加速度直線運動の方程式に対して、最大角速度ωmで回転するモータ部20を一定の角減速度で減速していく場合に、出力シャフト100の回転角度θが目標回転角度θtとなったときに、モータ部20の角速度ωがゼロになる条件を適用して導出した式である。角減速度は、負の角加速度である。中間回転角度θmを上記の式1のように決めることで、仮に出力シャフト100の回転角度θが中間回転角度θmとなった瞬間から上記一定の角減速度で減速を開始したとすると、出力シャフト100の回転角度θが目標回転角度θtとなったときに、モータ部20の角速度ωがちょうどゼロになる。
【0060】
ここで、本実施形態において上記一定の角減速度は、絶対値が一定の角加速度αの半分となる値である。上記の式1においては、この関係に基づいて、一定の角減速度を一定の角加速度αで置き換えている。すなわち、本実施形態において中間回転角度θmは、絶対値が一定の角加速度αの半分となる一定の角減速度で最大角速度ωmを減速していく場合に、角速度ωがゼロとなるときに回転角度θが目標回転角度θtとなる減速開始位置である。中間回転角度θmは、例えば、目標回転角度θtよりも1°以上、5°以下程度小さい値である。
【0061】
本実施形態において制御部40は、角度計算部48において第2回転センサ52の検出結果に基づいて出力シャフト100の回転角度θを算出し、回転角度θが中間回転角度θmに到達したか否かを判断する。
【0062】
出力シャフト100の回転角度θが中間回転角度θmに到達していないと判断した場合、制御部40は、モータ部20の角速度ωを最大角速度ωmに維持し続ける。一方、第2回転センサ52の検出結果に基づいて出力シャフト100の回転角度θが中間回転角度θmに到達したと判断した場合、制御部40は、ステップS5に移行する。ステップS5において制御部40は、モータ部20の回転の減速を開始する。
【0063】
このように、本実施形態において制御部40は、中間回転角度θmまで出力シャフト100を回転させる場合において、モータ部20の回転を一定の角加速度αで加速させてモータ部20の角速度ωを最大角速度ωmとし、モータ部20の角速度ωが最大角速度ωmとなった後は、出力シャフト100の回転角度θが中間回転角度θmになるまでモータ部20の角速度ωを最大角速度ωmに維持する。
【0064】
ステップS5において制御部40は、目標回転角度θtまでの残角度θrに基づいて角減速度βを算出し、算出した角減速度βでモータ部20の回転を減速させる。残角度θrは、目標回転角度θtから第2回転センサ52の検出結果に基づいて得られた出力シャフト100の回転角度θを減じた値である。本実施形態において制御部40は、残角度θrと、第1回転センサ51の検出結果に基づいて得られたモータ部20の角速度ωと、に基づいて角減速度βを算出する。具体的に、本実施形態において制御部40は、以下の式2から角減速度βを算出する。
【0065】
β=ω2/(2*θr) …式2
ただし、
βは、角減速度であり、
ωは、モータ部20の角速度であり、
θrは、残角度である。
【0066】
上記の式2は、等加速度直線運動の方程式に対して、角減速度βで減速していくモータ部20の角速度ωが、出力シャフト100の回転角度θが目標回転角度θtとなったときにゼロとなる条件を適用して導出した式である。
【0067】
制御部40は、モータ部20の回転を減速させる間、所定の周期ごとに角減速度βを算出し更新する。所定の周期とは、例えば、第2回転センサ52のサンプリング周期である。すなわち、制御部40は、第2回転センサ52に基づいて出力シャフト100の回転角度θが得られるごとに角減速度βを算出し更新する。第2回転センサ52のサンプリング周期は、例えば、500マイクロ秒である。
【0068】
なお、例えば、モータ部20の減速を開始した以降におけるモータ部20の角速度ω、出力シャフト100の回転角度θ、および残角度θrの変化が、モータ部20の減速を開始して初めて角減速度βを算出した際に適用した条件に沿った変化と同じになる場合には、角減速度βは一定の値となり、モータ部20の角速度ωは線形に変化する。
【0069】
ステップS6において制御部40は、出力シャフト100の回転角度θが目標回転角度θtに到達したか否かを判断する。本実施形態において制御部40は、角度計算部48において第2回転センサ52の検出結果に基づいて出力シャフト100の回転角度θを算出し、回転角度θが目標回転角度θtに到達したか否かを判断する。
【0070】
出力シャフト100の回転角度θが目標回転角度θtに到達していないと判断した場合、制御部40は、上述したようにしてモータ部20の回転を減速し続ける。一方、第2回転センサ52の検出結果に基づいて出力シャフト100の回転角度θが目標回転角度θtに到達したと判断した場合、制御部40は、モータ部20の駆動を停止する。以上のようにして制御部40は、出力シャフト100を目標回転角度θtまで回転させる。
【0071】
本実施形態によれば、制御部40は、目標回転角度θtよりも小さい中間回転角度θmまでの間の少なくとも一部において、出力シャフト100の回転角度θに関わらずモータ部20の角速度ωを所定の角速度に維持する。そのため、出力シャフト100の回転角度θをフィードバックしつつモータ部20の角速度ωを変化させる場合に比べて、目標回転角度θtまで迅速に出力シャフト100を回転させることができる。特に本実施形態において制御部40は、モータ部20の回転を加速させた後、中間回転角度θmまでの間の全体において、モータ部20の角速度ωを最大角速度ωmに維持する。そのため、より迅速に、出力シャフト100を中間回転角度θmまで回転させることができる。
【0072】
また、モータ部20を減速させて出力シャフト100を目標回転角度θtに止める場合、例えば、モータ部20の回転角度から出力シャフト100の回転角度θを理論的に算出してモータ部20の減速を行うと、モータ部20と出力シャフト100とのガタつき等により、ずれが生じて、精度よく出力シャフト100を目標回転角度θtに止められない場合がある。これに対して、本実施形態のように、出力シャフト100の回転を検出可能な第2回転センサ52を設けて、第2回転センサ52の検出結果を用いることで、モータ部20の回転角度と出力シャフト100の回転角度θとの間にずれが生じても、出力シャフト100を目標回転角度θtに精度よく止めることが可能となる。
【0073】
しかし、例えば、第2回転センサ52の検出結果に基づいて得られた出力シャフト100の回転角度θと目標回転角度θtとの偏差を用いるPID(Proportional-Integral-Differential)制御等のフィードバック制御を行うと、出力シャフト100の回転角度θが目標回転角度θtに到達するまでの時間が長くなる場合がある。
【0074】
これに対して、第2回転センサ52を用いて予め決められた減速を開始する位置、すなわち本実施形態では中間回転角度θmを検出し、検出した時点から例えば等減速による減速等、予め決められた速度変化によってモータ部20の角速度ωを減速することが考えられる。この場合、モータ部20と出力シャフト100との間のガタの影響を抑制しつつ、PID制御等に比べて、迅速に出力シャフト100を目標回転角度θtまで移動させることができる。
【0075】
具体的には、例えば、
図5において時刻t2から時刻t5の間に実線で示すように、一定の角減速度で線形にモータ部20の角速度ωを減速することが考えられる。なお、
図5において時刻t2から時刻t5の間に実線で示す角速度ωの変化における角減速度は、例えば、絶対値が一定の角加速度αの半分となる値である。
【0076】
ここで、第2回転センサ52は一定のサンプリング周期で出力シャフト100の回転角度θを検出する。そのため、例えば回転角度θの検出を行うタイミング同士の間において出力シャフト100の回転角度θが中間回転角度θmに到達すると、制御部40が減速を開始するタイミングが、出力シャフト100の回転角度θが中間回転角度θmよりも大きくなったタイミングとなる場合がある。
【0077】
具体的には、例えば、
図5に示す時刻t2において実際に出力シャフト100の回転角度θが中間回転角度θ
mとなる場合に、時刻t2が、第2回転センサ52が検出を行うタイミング同士の間となるとする。この場合、時刻t2では、制御部40は、出力シャフト100の回転角度θが中間回転角度θ
mとなったことを検出できない。そのため、制御部40は、次に第2回転センサ52が検出を行う時刻t3において、出力シャフト100が中間回転角度θ
mに到達していたことを検出し、減速を開始する。この場合、減速を開始した時点において出力シャフト100の回転角度θが中間回転角度θ
mよりも大きくなっているため、角速度ωを予め決められた速度変化によって減速させると、例えば
図5に二点鎖線で示すように角速度ωが変化し、出力シャフト100の最終到達位置が目標回転角度θ
tを過ぎてしまう。
【0078】
これに対して、本実施形態によれば、制御部40は、モータ部20の回転を減速させる際、残角度θrに基づいて角減速度βを算出し、算出した角減速度βでモータ部20の回転を減速させる。そのため、減速を開始する位置が中間回転角度θmからずれた場合に、残角度θrに基づいて予め決められた速度変化の仕方を補正できる。これにより、出力シャフト100の最終到達位置が目標回転角度θtを過ぎることを抑制できる。
【0079】
具体的には、例えば
図5に示す時刻t3からモータ部20の回転の減速を開始する場合、制御部40は、例えば、一点鎖線で示すようにモータ部20の角速度ωを減速させる。
図5において一点鎖線で示す角速度ωの速度変化の傾きは、予め決められた角速度ωの速度変化の傾きよりも大きい。例えば、予め決められた角速度ωの速度変化は、時刻t2から時刻t5の間に実線で示す角速度ωの速度変化および二点鎖線で示す角速度ωの速度変化である。なお、この場合、出力シャフト100が目標回転角度θ
tに到達する時刻t4は、出力シャフト100の回転角度θが実際に中間回転角度θ
mとなった時刻t2から予め決められた速度変化で角速度ωを減速する場合に出力シャフト100が目標回転角度θ
tに到達する時刻t5よりも早くなる。
【0080】
以上のように、本実施形態によれば、電動アクチュエータ10によって、迅速かつ精度よく出力シャフト100を目標回転角度θtまで回転させることができる。したがって、電動アクチュエータ10によるパーキング切替機構70の切り替え精度を向上でき、かつ、電動アクチュエータ10によるパーキング切替機構の切り替え時間を短くできる。すなわち、電動アクチュエータ10によって対象物を目標位置まで変位駆動させる際の位置精度を向上でき、かつ、電動アクチュエータ10によって対象物を目標位置まで変位駆動させる際の時間を短くできる。
【0081】
なお、モータ部20の回転の減速を開始する時刻が、出力シャフト100の回転角度θがちょうど中間回転角度θ
mとなった時刻t2である場合には、減速するモータ部20の角速度ωの変化は、
図5において時刻t2から時刻t5の間に示す実線のように変化することもある。
【0082】
本実施形態では、目標回転角度θtが可動部70aをパーキング位置P1から非パーキング位置P2に移動させる際の回転角度を含むため、電動アクチュエータ10によって、精度よく、かつ、短時間でパークロックギヤ6をロック状態にできる。
【0083】
また、本実施形態では、目標回転角度θtが可動部70aを非パーキング位置P2からパーキング位置P1に移動させる際の回転角度を含むため、電動アクチュエータ10によって、精度よく、かつ、短時間でパークロックギヤ6をアンロック状態にできる。
【0084】
また、本実施形態によれば、制御部40は、モータ部20の回転を減速させる間、所定の周期ごとに角減速度βを算出し更新する。そのため、モータ部20の回転の減速を開始した後に、モータ部20の回転と出力シャフト100との回転との間にずれが生じても、ずれに応じて角減速度βを補正できる。これにより、より精度よく出力シャフト100を目標回転角度θ
tまで回転させることができる。なお、モータ部20の回転を減速させている途中において角減速度βが補正された場合には、モータ部20の角速度ωの変化は、
図5に一点鎖線で示すような直線にはならず、途中で傾きが変更される。
【0085】
また、本実施形態によれば、中間回転角度θ
mは、上述した式1、すなわちθ
m=θ
t-(ω
m
2/α)で表される。上述したように、式1で表される中間回転角度θ
mは、絶対値が一定の角加速度αの半分となる一定の角減速度で最大角速度ω
mを減速した場合に、角速度ωがゼロとなるときに回転角度θが目標回転角度θ
tとなる位置である。すなわち、本実施形態では、モータ部20を減速する際には、モータ部20を加速させる際よりも緩やかに速度変化させることを前提として中間回転角度θ
mを決めている。そのため、減速開始位置が中間回転角度θ
mを過ぎて、
図5に一点鎖線で示すように角速度ωの変化の傾きが大きくなった場合であっても、モータ部20の角速度ωの速度変化を対応可能な範囲内に収めやすい。これにより、回転角度θが中間回転角度θ
mを過ぎてから減速を開始した場合であっても、出力シャフト100を精度よく目標回転角度θ
tに到達させやすい。
【0086】
また、本実施形態によれば、制御部40は、残角度θ
rと、第1回転センサ51の検出結果に基づいて得られたモータ部20の角速度ωと、に基づいて角減速度βを算出する。そのため、残角度θ
rに基づいて予め決められた速度変化の仕方をより好適に補正できる。具体的に本実施形態では、制御部40は、上述した式2、すなわちβ=ω
2/(2*θ
r)から角減速度βを算出する。そのため、補正した角減速度βによる角速度ωの変化を、
図5に一点鎖線で示すような直線変化、または直線変化に近づけることができる。これにより、出力シャフト100が目標回転角度θ
tに到達するまでの時間をより短くできる。
【0087】
本発明は上述の実施形態に限られず、他の構成および方法を採用することもできる。中間回転角度までの間の少なくとも一部において、維持されるモータ部の所定の角速度は、モータ部の最大角速度より小さくてもよい。中間回転角度までの間において所定の角速度に維持される期間は、少なくとも一部設けられればよい。中間回転角度は、目標回転角度よりも小さければ、特に限定されない。中間回転角度は、上述した実施形態の式1以外の式で表されてもよい。
【0088】
制御部は、モータ部の回転を減速させていく間、少なくとも1回、目標回転角度から出力シャトの回転角度を減じた残角度に基づいて角減速度を算出すればよく、モータ部の回転を減速させる間において所定の周期ごとに角減速度を算出しなくてもよい。すなわち、制御部は、例えば、減速を開始する際に角減速度を1回算出した後には、角減速度の算出を行わずにモータ部を減速させてもよい。角減速度の算出は、残角度に基づいているならば、特に限定されない。角減速度は、上述した実施形態の式2以外の式から求められてもよい。例えば、角減速度を求める式は、角減速度が一定の変化率で変化する運動の方程式に基づいて導出されてもよい。この場合、モータ部の角速度の変化は、曲線となりやすい。角減速度は、第1回転センサの検出結果に基づいて得られたモータ部の角速度を用いずに求められてもよい。
【0089】
モータ部の回転を検出可能な第1回転センサおよび出力シャフトの回転を検出可能な第2回転センサは、磁気センサ以外のセンサであってもよい。第1回転センサおよび第2回転センサは、例えば、光学式のセンサであってもよい。
【0090】
電動アクチュエータによって変位駆動させられる対象物は、車両操作に基づいて変位駆動させられる対象物であれば、特に限定されない。対象物は、例えば、シフトバイワイヤ駆動装置であってもよいし、車両の二駆四駆を切り替える切替機構であってもよい。
【0091】
なお、本明細書において説明した各構成および各方法は、相互に矛盾しない範囲内において、適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0092】
10…電動アクチュエータ、20…モータ部、30…減速機部、40…制御部、51…第1回転センサ、52…第2回転センサ、70…パーキング切替機構(対象物)、70a…可動部、100…出力シャフト、1000…アクチュエータ装置、P1…パーキング位置(第1位置,第2位置)、P2…非パーキング位置(第1位置,第2位置)、α…角加速度、β…角減速度、θ…回転角度、θm…中間回転角度、θr…残角度、θt…目標回転角度、ω…角速度