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特許7271846モータ制御システム、およびパワーステアリングシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】モータ制御システム、およびパワーステアリングシステム
(51)【国際特許分類】
   H02P 23/04 20060101AFI20230502BHJP
   H02K 15/02 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
H02P23/04
H02K15/02 Z
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020501672
(86)(22)【出願日】2019-02-08
(86)【国際出願番号】 JP2019004543
(87)【国際公開番号】W WO2019163554
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2022-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2018028068
(32)【優先日】2018-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018068925
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018197969
(32)【優先日】2018-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】ニデック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 慶
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 修司
(72)【発明者】
【氏名】原田 昆寿
(72)【発明者】
【氏名】上田 智哉
(72)【発明者】
【氏名】綿引 正倫
(72)【発明者】
【氏名】森 智也
(72)【発明者】
【氏名】舘脇 得次
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-328814(JP,A)
【文献】特開2004-064909(JP,A)
【文献】特開2014-150604(JP,A)
【文献】特開2013-085439(JP,A)
【文献】特開2009-207236(JP,A)
【文献】特開2016-088106(JP,A)
【文献】特開2017-017912(JP,A)
【文献】特開2006-262668(JP,A)
【文献】特開2012-215412(JP,A)
【文献】特開2015-033265(JP,A)
【文献】特開2016-035676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 23/04
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
当該モータに結合されて当該モータによって駆動される駆動体とを含んだ結合系について当該モータを駆動してノイズを測定する測定工程と、
前記測定工程で測定されたノイズに基づいて、前記モータの回転におけるk次成分および1/k次成分(kは整数)のうち、前記ノイズの補償に寄与する成分の次数Bを特定する次数特定工程と、
前記次数特定工程で特定された次数Bの成分を補償値として前記モータの駆動を制御し、当該次数Bの成分値を調整して前記ノイズを低減させる調整工程と、
前記調整工程によって調整された前記次数Bの成分値を、前記ノイズを低減させる補償値として記録する記録工程と、を備えるノイズ補償調整方法。
【請求項2】
前記結合系が、モータとステアリング機構の少なくとも一部とが結合された結合系である請求項1に記載のノイズ補償調整方法。
【請求項3】
前記調整工程では、前記次数Bの成分値としてゲインおよび位相を調整する請求項1または2に記載のノイズ補償調整方法。
【請求項4】
前記次数特定工程は、前記測定工程で測定されたノイズについて、前記モータの回転における各次数成分を互いに比較し、ノイズの大きい成分の次数Bを特定する請求項1から3のいずれか1項に記載のノイズ補償調整方法。
【請求項5】
前記次数特定工程は、前記測定工程で測定されたノイズについて、前記モータの回転数の帯域のうちノイズの大きい帯域に着目し、当該帯域中で、ノイズの大きい成分の次数Bを特定する請求項4に記載のノイズ補償調整方法。
【請求項6】
前記記録工程は、前記次数Bの成分値をテーブルマップとして記録する請求項1から5のいずれか1項に記載のノイズ補償調整方法。
【請求項7】
前記次数Bが前記モータのポール数とスロット数との公倍数である請求項1から6のいずれか1項に記載のノイズ補償調整方法。
【請求項8】
モータの駆動を制御するモータ制御システムを製造する製造方法であって、
請求項1から7のいずれか1項に記載のノイズ補償調整方法で前記次数Bの成分値を前記モータ制御システム内の記憶部に記録するモータ制御システムの製造方法。
【請求項9】
前記算出条件を前記モータ制御システム内の記憶部にテーブルマップとして記録する請求項8に記載のモータ制御システムの製造方法。
【請求項10】
前記記憶部が、マイクロコンピュータ内の記憶素子である請求項8または9に記載のモータ制御システムの製造方法。
【請求項11】
3以上の相数nのモータを駆動するモータ制御システムであって、
前記モータを駆動させるインバータと、
前記インバータから前記モータに供給させる電流を示す電流指令値を、外部から前記モータの制御目標として与えられる目標電流指令値に基づいて演算する制御演算部と、を備え、
前記制御演算部は、
前記モータの回転におけるk次成分および1/k次成分(kは整数)の少なくとも一方を補償する補償演算部と、を備え、
前記補償演算部は、記録されたノイズの補償に寄与する成分の次数Bを用いて、前記インバータへと流れる信号値を補償し、
前記補償演算部は、駆動時のノイズについて、前記モータの回転における各次数成分を互いに比較し、ノイズの大きい成分の次数Bを特定して補償するモータ制御システム。
【請求項12】
前記補償演算部が、前記モータとステアリング機構の少なくとも一部との結合によって生じるノイズを補償する請求項11に記載のモータ制御システム。
【請求項13】
前記次数Bの成分値としてゲインおよび位相を補償する請求項11または12に記載のモータ制御システム。
【請求項14】
前記補償演算部は、駆動時のノイズについて、前記モータの回転数の帯域のうちノイズの大きい帯域に着目し、当該帯域中で、ノイズの大きい成分の次数Bを補償する請求項11に記載のモータ制御システム。
【請求項15】
前記補償演算部は、前記次数Bの成分値をテーブルマップとして補償する請求項11から14のいずれか1項に記載のモータ制御システム。
【請求項16】
前記次数Bが前記モータのポール数とスロット数との公倍数である請求項11から15のいずれか1項に記載のモータ制御システム。
【請求項17】
請求項11から16のいずれかに記載のモータ制御システムと、
前記モータ制御システムによって駆動が制御されるモータと、を備えた駆動装置。
【請求項18】
請求項11から16のいずれかに記載のモータ制御システムと、
前記モータ制御システムによって駆動が制御されるモータと、
前記モータによって駆動されるパワーステアリング機構と、を備えるパワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ制御システム、およびパワーステアリングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータの制御技術として、制御装置が指令値を用いてモータをフィードバック制御する方法が知られる。例えば、トルクリップルとは逆位相となる電流指令値を制御装置がフィードバックして基本指令値に加算する構成が知られる。このような構成において、制御装置が基本指令値に電流値の高調波成分の電流指令値を重畳してトルクリップルの補償を行う手法が知られる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4019842号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、モータ単体で作動音の低下が図られた場合であっても、モータがステアリング機構などといった他の要素と結合されると、共振などの要因で騒音が発生する虞がある。そこで、本発明では、モータが他の要素と結合された場合における低作動音を実現させることを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るノイズ補償調整方法の一態様は、モータと、当該モータに結合されて当該モータによって駆動される駆動体とを含んだ結合系について当該モータを駆動してノイズを測定する測定工程と、上記測定工程で測定されたノイズに基づいて、上記モータの回転におけるk次成分および1/k次成分(kは整数)のうち、上記ノイズの補償に寄与する成分の次数Bを特定する次数特定工程と、上記次数特定工程で特定された次数Bの成分を補償値として上記モータの駆動を制御し、当該次数Bの成分値を調整して前記ノイズを低減させる調整工程と、上記調整工程によって調整された上記次数Bの成分値を、上記ノイズを低減させる補償値として記録する記録工程と、を備える。
【0006】
また、本発明に係るモータ制御システムの製造方法の一態様は、モータの駆動を制御するモータ制御システムを製造する製造方法であって、上記ノイズ補償調整方法で上記補償値を上記モータ制御システム内の記憶部に記録する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の例示的な実施形態によれば、モータが他の要素と結合された場合における低作動音を実現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第一実施形態のモータ制御システムの概略図である。
図2図2は、第一実施形態の制御演算部の概略図である。
図3図3は、目標q軸電流Iq_targetに対するゲイン特性図である。
図4図4は、目標q軸電流Iq_targetに対する位相曲線図である。
図5図5は、2Dマップによる演算処理のフローを示す概略図である。
図6図6は、第一実施形態におけるトルクリップルのシミュレーション結果を示す図である。
図7図7は、第二実施形態にかかるモータ制御システムの概略図である。
図8図8は、第二実施形態の制御演算部の概略図である。
図9a図9aは、本実施形態に係る第1のモータの平面図である。
図9b図9bは、本実施形態に係る第2のモータの平面図である。
図10図10は、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置の概略図である。
図11図11は、トラクションモータを備えたモータユニットの概念図である。
図12図12は、モータユニットの側面模式図である。
図13図13は、第三実施形態のモータ制御システムの概略図である。
図14図14は、第三実施形態の制御演算部の概略図である。
図15図15は、記憶部に記憶されたルックアップテーブルを示す図である。
図16図16は、補償値γを調整して記録する手順を示す図である。
図17図17は、ノイズ測定の状況を模式的に示す図である。
図18図18は、ノイズ測定で得られたノイズデータの例を示すグラフである。
図19図19は、モニタされるノイズレベルを例示した図である。
図20図20は、トルクリップルに対する補償の効果を示すグラフである。
図21図21は、ノイズに対する補償の効果を示すグラフである。
図22図22は、第四実施形態のモータ制御システムの概略図である。
図23図23は、第四実施形態の制御演算部の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付の図面を参照しながら、本開示のコントローラ、当該コントローラを有するモータ制御システム、および当該モータ制御システムを有する電動パワーステアリングシステムの実施形態を詳細に説明する。但し、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするため、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。<第一実施形態>
【0010】
補償演算部として、トルクリップルを補償するトルクリップル補償演算部を備え、トルクリップル補償演算部の出力が「電流値」である第一実施形態にかかるモータ制御システムについて説明する。第一実施形態のモータ制御システムは、例えば3相ブラシレスモータを制御する制御システムである。以下、便宜上、d軸電流Id及びq軸電流Iqが互いに正の場合、すなわち回転が一方向となる場合について説明を行う。本実施形態におけるモータ制御システムでは、主に、トルクリップルの低減を行うことができる。
【0011】
一般に、3相モータにおけるトルクの発生には、d軸電流Idよりもq軸電流Iqの影響が大きい。そのため、トルクリップルの低減には、q軸電流Iqが主に制御されて、本制御システムが適用されること好ましい。なお、誘起電圧(BEMF:Back Electromotive Force)を低減する制御システムの場合にも、本発明と同様の構成によってフィードバック制御を行うこともできる。つまり、本発明の制御方法では、q軸電流のみを指令値として利用しても良く、q軸電流Iqおよびd軸電流Idの両方を指令値として利用しても良い。なお、本明細書では、d軸電流Idに関する制御方法の説明は省略する。
【0012】
図1は、第一実施形態のモータ制御システムの概略図であり、図2は、第一実施形態の制御演算部の概略図である。図1に示すように、モータ制御システム5は、モータ回転角度センサ51と、インバータ52と、制御演算部53と、を備える。制御演算部53は、いわゆる電流制御器として機能する。図2に示すように、制御演算部53は、トルクリップル補償演算部531、電流制限演算部532、電圧制御演算部533、誘起電圧補償演算部534、2軸/3相変換部535、デッドタイム補償演算部536、および、PWM制御演算部537を備える。
【0013】
モータ制御システム5は、インバータ52を介してモータ1を制御する。モータ1は、ロータ3と、ステータ2と、モータ回転角度センサ51と、を有する。モータ回転角度センサ51は、モータ1のロータ3の回転角度を検出する。検出されたロータの回転角度は任意の角度単位で表され、機械角からモータ電気角θ、またはモータ電気角θから機械角に適宜に変換される。機械角とモータ電気角θとの関係は、モータ電気角θ=機械角×(磁極数÷2)という関係式で表される。なお、モータの回転を検出するセンサとしては、回転角度センサに替えて例えば角速度センサが備えられてもよい。
【0014】
本実施形態のモータ制御システム5は、インバータ52に流れる電流値(実q軸電流値IQR)をフィードバックする制御を行う。また、図示していないが、本モータ制御システム5は、弱め界磁制御など公知の演算処理をさらに行うこともできる。本モータ制御システム5は、弱め界磁制御を行うことにより、モータ1のトルク変動を抑えることができる。
【0015】
モータ制御システム5には、外部から目標q軸電流Iq_targetが入力される。外部からは、目標q軸電流Iq_targetの増減によってモータ出力の増減が指示される。本モータ制御システム5は、入力される目標q軸電流Iq_targetに対して電流制限を行う。電流制限は、電流制限演算部532によって処理される。電流制限演算部532は、目標q軸電流Iq_targetの入力を受けて適応制御を実行することで、目標q軸電流Iq_target(出力値)を所定の電流値以下に制限する。
【0016】
目標q軸電流Iq_targetが制限されずに上記所定の電流値を越えた場合には、後述する処理の結果、モータ印加電圧が飽和する虞がある。このようにモータ印加電圧が飽和する場合、モータトルク変動を抑える補償電流を目標q軸電流Iq_targetに加算する余地がなくなる。この結果、トルクリップルが急増し、作動音が発生するという問題が生じる。この問題の回避のためには、電流制限演算部532が目標q軸電流Iq_targetを制限することによって補償電流の余地を残すことが有効である。モータ印加電圧の飽和は、モータ電流とモータ回転角速度との双方に依存して発生する。そのため、本実施形態の電流制限演算部532は、モータ回転角速度をパラメータとする関数を用いてモータ電流(目標q軸電流Iq_target)を制限する。このような電流制限により、常時(電圧が飽和していない時)のトルクリップルに対する補償の余地が確保される。そのため、静かで滑らかなモータの回転が実現される。
【0017】
より詳細には、電流制限演算部532による適応制御は、モータ回転角速度をパラメータとする関数でレンジの縮小を行う。この関数は、入力される目標q軸電流Iq_targetに対して連続な関数である。即ち、電流制限演算部532は、例えば電流のピーク値カットなどという不連続な制限を行うのではなく、入力電流値が大きい程、大きく電流を制限する連続的なレンジ縮小を行う。なお、電流制限演算部532でレンジ縮小に用いられる関数は、線形縮小を表した関数でもよいし、非線形(かつ連続)な縮小を表した関数であってもよい。 レンジ縮小による縮小幅は、下記の不等式が満たされるように電流値iを縮小する縮小幅となる。



Vsat>(Ls+R)i+keω ・・・(1)



ここでVsatは飽和電圧、Lsはモータのインダクタンス、Rはモータの抵抗、keωはモータの回転に伴う誘起電圧を示す。
【0018】
また、電流制限演算部532による適応制御では、バッテリー電源による駆動時に、レンジ縮小による電流の制限値がバッテリー電圧Vbatに応じた制限値となる。バッテリー電源は、オルタネータによる供給量に不足が生じた場合に用いられる。バッテリー電源には内部抵抗が存在するため、バッテリー電源の劣化などに伴って内部抵抗が変化して実効的な出力電圧が変化する。このため、バッテリー電圧Vbatに応じた適応制御が行われる。
【0019】
モータ制御システム5は、目標q軸電流Iq_targetおよびロータの角速度ωを利用してトルクリップル補償制御を行う。トルクリップル補償制御は、トルクリップル補償演算部531によって処理される。トルクリップル補償演算部531は、補正前の目標q軸電流Iq_targetと角速度ωをパラメータとして演算処理を行う。角速度ωは、モータ回転角度センサ51が検出したロータ3の回転角度に基づいて算出される。より詳細には、トルクリップル補償演算部531は、位相補償部5311を備える。また、位相補償部5311が上記トルクリップル補償制御を行う。なお、本実施形態において、トルクリップル補償演算部531と位相補償部5311の機能は同等である。
【0020】
一般に、トルクリップルは、電流におけるリップルの影響を受ける。そのため、モータ1に対して与えられる電流を示した目標q軸電流Iq_targetに、あらかじめ、トルクリップルを抑えるための電流指令値(補償電流)が重畳されるなどの補正が行われることにより、モータ1において発生するトルクリップルの抑制(すなわち、トルクリップル補償を行うこと)ができる。
【0021】
本実施形態におけるトルクリップル補償演算部531は、いわゆるルックアップテーブルを有する。このルックアップテーブルは、角速度ωおよび目標q軸電流Iq_targetを入力として参照し、入力に応じた参照値としてゲインαおよび位相βを出力する。かつ、トルクリップル補償演算部531は、出力された参照値であるゲインαおよび位相βをパラメータとして、後述の式(2)および式(3)に示すαsin6(θ+β)の演算を行う。この演算結果を、図2および後述の式(2)に示すように、電流制限演算部532から出力された目標q軸電流Iq_targetに重畳させて、新たな電流指令値である補正後の目標q軸電流Iq_correctを算出する。
【0022】
次に、角速度ω、目標q軸電流Iq_target、ゲインα、および位相βの互いの相関について説明する。図3は、目標q軸電流Iq_targetに対するゲイン特性図である。図4は、目標q軸電流に対する位相曲線図である。図3のゲイン特性図および図4の位相曲線図は、それぞれ、一次遅れ特性を示す。但し、ゲインαおよび位相βは、二次応答以降の遅れが加味された特性によって求められてもよい。
【0023】
図4における位相曲線図は、初期値を目標q軸電流Iq_targetとして正規化したものである。図3において、横軸は角速度ω、縦軸はゲインα(ω)の値を示す。図4において、横軸は角速度ω、縦軸は位相β(ω)である。ここで、トルクリップルを補償するための電流(補償値)は、正弦波であり、トルクリップルの振動成分の中で支配的である6次の高調波成分が用いられた近似で表される。このとき、補正後の目標q軸電流値Iq_correctは、補正前の目標q軸電流Iqt_target、モータ電気角θ(θ=ωt)を変数として以下の式(2)で表される。なお、tは時間を表す変数である。



Iq_correct=Iq_target+αsin6(θ+β) ・・・(2)


【0024】
また、ゲインα(ω)および位相β(ω)は、ルックアップテーブルが用いられた以下の演算式(3)で表される。このとき、ゲインα(ω)および位相β(ω)は、補正前の目標q軸電流Iq_targetの絶対値をU1、角速度ωの絶対値をU2とした2Dマップが用いられた演算処理が行われることにより、算出される。また、このときの演算処理の関係図を図5に示す。なお、角速度ωは、モータ回転角度センサ51によって得られたモータ電気角θに基づいて算出される。



αsin6(θ+β)



α=Lookuptable_α(Iq_target,ω) ・・・(3)



β=Lookuptable_β(Iq_target,ω)


【0025】
図5に示すように、トルクリップル補償演算部531には、目標q軸電流Iq_targetおよび角速度ωが入力され、目標q軸電流Iq_targetの絶対値U1および角速度ωの絶対値U2が算出される。ルックアップテーブル(2Dマップ)は、絶対値U1,U2から、対応するゲインαおよび位相βの値を返す。
【0026】
図5に示すルックアップテーブル(2Dマップ)は、モータ制御システム5とモータ1とを含んだ製品の個々について、例えば製品出荷前の個別計測によって伝達特性が計測され、その計測された伝達特性に基づいて個別に作り込まれたものであることが好ましい。 但し、ルックアップテーブル(2Dマップ)は、例えば同一種類のモータ1およびモータ制御システム5について伝達特性が代表値や平均値として計測され、その伝達特性に基づいて作成されたルックアップテーブルが同一種類のモータ1について汎用されてもよい。あるいは、伝達特性が互いに近似することが知られた複数種類のモータ1およびモータ制御システム5について汎用のルックアップテーブルが採用されてもよい。
【0027】
トルクリップル補償演算部531は、ルックアップテーブルから返された値を用いて、式(2)および(3)にある補償値αsin6(θ+β)を演算し、その値を出力する。トルクリップル補償演算部531から出力された補償値αsin6(θ+β)は、電流制限演算部532から出力された補正前の目標q軸電流Iq_targetに重畳される。
【0028】
本実施形態のモータ制御システム5は、電流制限演算部532によって処理されたq軸電流値に、トルクリップル補償演算部531から出力されたq軸電流値の補償値を加算する。なお、補償値αsin6(θ+β)は、q軸電流のうちトルクリップルに起因する成分を打ち消すために利用される値である。すなわち、補償値αsin6(θ+β)は、角速度成分と指令値の6次高調波成分(トルクリップルの次数成分)に対する逆位相成分に基づいて算出される。
【0029】
言い換えると、本実施形態では、電流制御器の逆特性がゲインと位相(進角)とに分けられた関係式に基づいて、トルクリップル補償演算部531が、ゲインおよび位相を調整する値をそれぞれ求め、それらの値に基づいた補償値が指令値に重畳される。進角(すなわち、電流制御器の応答性)およびトルクリップル(すなわち、トルクリップルの振幅)の両方の観点から補償が行われることでトルクリップルが抑制される。このように、トルクリップル補償演算部531では、q軸電流の指令値に対して、進角制御による電流制御器の応答性の補償(以下、進角補償と称する。)およびトルクリップルの逆位相成分加算によるトルクリップル補償を行う補償値が生成される。トルクリップルの次数成分が指令値の6次高調波成分という高い周波数成分であるため、進角制御による応答性の補償が有効に機能する。また、トルクリップル補償演算部531で処理される進角制御における値βは、電流制御器の応答性を補償する値であるため通常は180°とは異なる値になる。
【0030】
さらに、モータ制御システム5は、上述のように補償値が加算されたq軸電流値から、インバータに流れる実q軸電流値IQRを減算し、q軸電流の電流偏差IQ_errを算出する。すなわち、本実施形態のモータ制御システム5は、このq軸電流の電流偏差IQ_errを用いてPI制御等を行ってモータの出力等を制御する、フィードバック制御を行う。
【0031】
なお、上記説明では補償値αsin6(θ+β)が電流制限後の目標q軸電流Iq_targetに加算されるが、補償値αsin6(θ+β)は、電流制限前の目標q軸電流Iq_targetに加算されてその後に電流制限が行われてもよく、あるいは、補償値αsin6(θ+β)は、目標q軸電流Iq_targetと実q軸電流値IQRとの電流偏差IQ_errに加算されてもよい。
【0032】
以上の通り、第一実施形態のモータ制御システム5は、電流制御器の応答性をあらかじめ補償する制御を行う。つまり、モータ制御システム5は、フィードバック制御を利用して、トルクリップル補償および進角補償を行う。また、進角補償は、目標電流値におけるトルクリップルの次数成分の逆位相成分および角速度成分が用いられて算出されたパラメータに基づいて行われる。本実施形態では、電流制御器の逆特性をゲインと位相とに分けた関係式に基づいて、トルクリップル(の振幅)を調整するゲインが算出されるとともに、進角の調整を行う位相が算出され、それらの値を用いた補償値が導出される。
【0033】
この補償値が用いられることにより、モータ1で発生するトルクリップルに対して、振幅の点から補償するトルクリップル補償および位相の点から補償する進角補償が行われる。これにより、モータ制御システム5におけるハイパスフィルタ演算に伴う量子化ノイズおよびセンサノイズに対する感度の低減が可能となり、その結果、トルクリップルが低減されるとともに、作動音の悪化も防止される。さらに、上記により、モータ制御のロバスト性も向上する。
【0034】
また、電流値におけるトルクリップルの次数成分の逆位相成分が用いられてトルクリップル補償が行われることにより、モータの低速領域において電流制御器の応答性が向上する。そして、上述の電流値の逆位相成分のみでなく、角速度の成分が用いられてパラメータが算出されることにより、モータの高速領域においても電流制御器の応答性が向上する。したがって、低速から高速までの広範囲の領域においても電流制御器の応答性が向上する。
【0035】
上述の電流値の逆位相成分が用いられたトルクリップル補償の方法として、補償値がモータ電流指令値に加算される方法と補償値がモータ印加電圧指令値に加算される方法とが知られるが、本実施形態では補償値がモータの電流指令値に加算される。これにより、モータの特性変動にかかわらず、安定したトルク変動補正が行われる。
【0036】
上述のようにq軸電流の電流偏差IQ_errを求めた後、モータ制御システム5は、q軸電流の電流偏差IQ_errに基づいてモータ印加電圧指令値を演算する電圧制御を行う。電圧制御は、電圧制御演算部533によって行われる。本実施形態では、電圧制御としてPI制御が用いられる。なお、電圧制御としては、PI制御に限られず、PID制御など他の制御方法が採用されてもよい。電圧制御演算部533は、q軸電流の電流偏差IQ_errに基づいてq軸PI制御部5331でq軸電圧指令値VQ1を算出し、これに非干渉処理部5332から出力される非干渉要素COR_Qを加算して、q軸電圧指令値VQ2を算出する。非干渉要素COR_Qは、例えば、d軸電流(電圧)とq軸電流(電圧)とが互いに干渉することを避けるために加えられる電流要素である。
【0037】
そして、モータ制御システム5は、q軸電圧指令値VQ2に対して誘起電圧補償を行う。誘起電圧補償は、誘起電圧補償演算部534によって行われる。モータの駆動時には、モータに流れる電流以外にもモータの誘起電圧の影響が考慮された上でモータが制御される。誘起電圧補償演算部534では、モータで生じる誘起電圧(BEMF)の逆数に基づいた進角制御が行われて誘起電圧(BEMF)が補償される。
【0038】
すなわち、誘起電圧補償演算部534は、モータで生じる誘起電圧(BEMF)の逆数を求めて、その逆数に基づいて、電圧(または電流)の進角を調整する補償(進角補償)を行うための補償値を算出する。本実施形態では、誘起電圧補償演算部534において、誘起電圧補償のための補償値がq軸電圧指令値VQ2に加算され、q軸電圧指令値VQ3が算出される。なお、誘起電圧モデルの逆数に基づいた補償値が用いられるのであれば、その補償値はq軸電圧指令値VQ2に対して、加算されるのではなく減算されてもよい。また、この補償値は、2軸/3相変換後の各相の電圧値に加算されてもよい。
【0039】
さらに、モータ制御システム5は、q軸電圧指令値VQ3に対して2軸/3相変換を行う。2軸/3相変換は、モータ電気角θに基づき、2軸/3相変換演算部535によって行われる。2軸3相変換演算部535は、q軸電圧指令値VQ3に基づいて、対応するq軸電圧とd軸電圧を算出し、U,V,W相の各相における3相の電圧指令値に変換する。
【0040】
その後、モータ制御システムは、2軸/3相変換演算部535から出力された各相の電圧指令値に基づいて、デッドタイム補償を行う。デッドタイム補償は、デッドタイム補償演算部536によって行われる。まず、デッドタイム補償演算部536は中点変調部5363で、電圧の基本波のn倍である高次高調波(例えば、3次の高調波)を重畳する中点変調による演算を行う。nは正の整数である。中点変調が行われることにより、電圧の波形は、正弦波状の波形から台形状の波形に近づく。これにより、インバータ52における有効電圧率が向上する。
【0041】
次に、デッドタイム補償演算部536は、デッドタイムの補償を行う。中点変調部5363までは、上述した電流偏差IQ_errに対する処理が行われ、電流偏差IQ_errを減少させる電圧成分が算出される。これに対し、目標IQ2軸/3相変換部5362には目標q軸電流Iq_targetが入力され、目標q軸電流Iq_targetに相当する電圧指令値に対して2軸/3相変換が行われる。即ち、目標IQ2軸/3相変換部5362は、目標q軸電流Iq_targetに対応するq軸電圧とd軸電圧を算出し、U,V,W相の各相における3相の電圧指令値に変換する。
【0042】
2軸/3相変換演算部535における2軸/3相変換と同様に、目標IQ2軸/3相変換部5362における2軸/3相変換でもモータ電気角が演算に用いられる。但し、本実施形態のモータ制御システム5では、目標IQ2軸/3相変換部5362に入力されるモータ電気角として、センサで検出されたモータ電気角θが位相補償されたモータ電気角θ2が用いられる。この位相補償は補正位相補償部5361で行われ、この位相補償により、モータの回転に伴う電圧の位相ずれが補償される。
【0043】
最後に、モータ制御システムは、デッドタイム補償演算部536から出力された電圧指令値に基づいて、PWM制御を行う。PWM制御の指令値は、PWM制御演算部537によって演算される。PWM制御演算部537は、演算した指令値に基づいてインバータ52の電圧を制御する。このPWM制御により、上述した電流指令値に相当する電流がモータ1へ流れる。なお、上述したとおり、インバータ52内を流れる実q軸電流値IQRは、フィードバックされる。
【0044】
なお、本システムにおいて、上述した電圧制御、誘起電圧補償、2軸/3相変換、デッドタイム補償、PWM制御などの各処理としては、上述した例に限らず公知の技術が適用されても良い。また、本システムでは、必要に応じて、これらの補償および制御は行われなくても良い。また、以下の説明では、これらの要素(すなわち、上述した電圧制御、誘起電圧補償、2軸/3相変換、デッドタイム補償、PWM制御などの各処理)の結合をコントローラ要素C(S)と呼ぶ。なお、PI制御などのフィードバック制御を行う主なブロックのみの結合をコントローラ要素C(S)として扱ってもよい。なお、モータ及びインバータの結合を、プラント要素P(S)と呼ぶ。
【0045】
上記第一実施形態に関して、シミュレーションにて得られた結果を図6に示す。図6は、モータの回転速度に対してトルクの24次の成分(電気角の6次の成分)の変動を示したグラフである。本シミュレーションにおいては、回転速度の範囲が0[min-1]から3000[min-1]であり、デッドタイムのON/OFFの2通りおよびトルク変動補正のON/OFFの2通りが互いに組み合わされた計4つの組み合わせにおける、トルクリップルの結果が求められた。図6から分かる通り、デッドタイム補償およびトルク変動補正が共にONとなった場合、モータトルクの変動(即ちトルクリップル)は小さくなることが分かる
。したがって、第一実施形態により、トルクリップルの低減が実現し、低作動音が実現することがわかる。



<第二実施形態>
【0046】
次に、トルクリップル補償演算部の出力が『電圧値』である本発明の第二実施形態について説明する。第二実施形態のモータ制御システムは、3相ブラシレスモータの制御システムである。なお、以下では、第一実施形態と同様の内容については記載を省略することがあるが、同様の手法を採用してもよく、異なる手法を採用してもよい。なお、本実施形態において、第一実施形態と同様に、トルクリップル補償演算部531と位相補償部5311の機能は同等である。
【0047】
図7は、第二実施形態のモータ制御システムの概略図であり、図8は、第二実施形態の制御演算部の概略図である。図7に示すように、モータ制御システム5は、モータ回転角度センサ51と、インバータ52と、制御演算部53と、を備える。図8に示すように、制御演算部53は、トルクリップル補償演算部531、電流制限演算部532、電圧制御演算部533、誘起電圧補償演算部534、2軸/3相変換部535、デッドタイム補償演算部536、およびPWM制御演算部537を有する。モータ制御システムは、インバータ52の電流値をフィードバックするフィードバック制御を行う。また、図示していないが、本モータ制御システム5は、弱め界磁制御など既知の演算処理を加えて行ってもよい。本モータ制御システム5は、弱め界磁制御を行うことにより、モータ1のトルク変動を抑えることができる。
【0048】
モータ制御システム5には、外部から目標q軸電流Iq_targetが入力される。外部からは、目標q軸電流Iq_targetの増減によってモータ出力の増減が指示される。本モータ制御システム5は、目標q軸電流Iq_targetに対して電流制限処理を行う。そして、本モータ制御システムは、電流制限を行った後のq軸電流に対して、フィードバックされた実q軸電流値IQRを減算するフィードバック制御を行う。
【0049】
さらに、本モータ制御システム5は、フィードバック制御により得られた電流偏差IQ_errに対して電圧制御を行う。電圧制御演算部533は、電流偏差IQ_errに基づいて電圧指令値VQ1を算出し、電圧指令値VQ1にさらにd軸およびq軸の対外の干渉を抑える非干渉要素COR_Qを加算する。そして、誘起電圧補償演算部534は、誘起電圧補償のための補償値をq軸電圧指令値VQ2に加算する。
【0050】
また、本モータ制御システム5は、目標q軸電流Iq_targetおよび角速度ωに基づいて、トルクリップルを抑制するための補正電圧値(トルクリップル補償値)を、トルクリップル補償演算部531において、算出する。そして、第一実施形態とは異なり、第二実施形態では、モータ制御システム5は、誘起電圧補償演算部534の出力VQ3(すなわち、VQ2と誘起電圧補償値との加算値)に、上述の電圧補正値を加算する。これにより、モータ制御システム5は、インバータ52に対する電圧指令値に、トルクリップルを抑制するための補償値を加え、モータ1におけるトルクリップルを抑制することができる。
【0051】
以上の通り、第二実施形態のモータ制御システム5は、電流制御器の応答性をあらかじめ補償するトルクリップル補償を行う。つまり、モータ制御システム5は、フィードバック制御を用いたトルクリップル補償および進角補償を行う。進角補償は、第一実施形態と同様に、目標電流値におけるトルクリップルの次数成分に対する逆位相成分と角速度成分とを用いて算出したパラメータに基づいて行われる。本実施形態では、電流制御器の逆特性をゲインと位相の要素に分けた関係式に基づいて、ゲインを目標電流値に応じた値とするとともに位相を電流の進角調整値にする補償を行う。このような補償により、モータ制御システムにおけるハイパスフィルタ演算に伴う量子化ノイズおよびセンサノイズに対する感度の低減が可能となり、その結果、モータにおいて生じるトルクリップルが低減されるとともに、作動音の悪化も防止される。さらに、モータ制御システムにおける制御のロバスト性も向上する。
【0052】
また、第一実施形態と同様に第二実施形態においても、指令電流値におけるトルクリップルの次数成分の逆位相成分に基づいて補償値が算出されるトルクリップル補償が行われることにより、モータの低速領域において電流制御器応答性が向上する。そして、第一実施形態と同様に第二実施形態においても、電流値の逆位相成分のみでなく、角速度ωに基づいてパラメータが算出されることにより、モータの高速領域においても電流制御器の応答性が向上する。したがって、低速から高速までの広範囲の領域においても電流制御器の応答性が向上する。
【0053】
ここで、第一実施形態と第二実施形態との差異は、トルクリップル補償演算部531からの出力が電流値から電圧値となった点、および、これに付随して制御フローにおける加算点が変更された点にある。これにより、トルク変動補償による出力がモータの電気的特性のみで決められるため、トルク変動の調整が容易であるという利点がある。また、トルクリップルの補償値が電圧値に加算されることにより、電流値に加算される場合に較べて演算処理が速いことも利点である。
【0054】
なお、第二実施形態における電流制御、誘起電圧補償、2軸/3相変換、デッドタイム補償、およびPWM制御は、第一実施形態と同様であるため、説明を省略する。なお、第二実施形態においては、これらの補償及び制御は、既知の技術が適用されても良い。また、第二実施形態においては、必要に応じて、これらの補償および制御は行われなくても良い。また、これらの要素の結合をコントローラ要素C(S)としてもよく、フィードバック制御を行う主なブロックのみの結合をコントローラ要素C(S)として扱ってもよい。なお、モータ及びインバータの結合を、プラント要素P(S)と呼ぶ。



<他の実施形態>



次に、他の実施形態について説明する。他の実施形態にて記述された内容は、第一実施形態および第二実施形態のいずれの場合であっても適用可能である。
【0055】
ここで、上述の実施形態により制御され得るモータの概略について説明を行う。図9aは、本実施形態に係る第1のモータの平面図であり、図9bは、本実施形態に係る第2のモータの平面図である。図9aおよび図9bに示すモータ1は、ステータ2と、ロータ3と、を有する。図9aおよび図9bに示す通り、モータ1は、インナーロータである。なお、モータ1として、インナーロータ以外に、アウターロータ構造が採用されてもよい。 図9aに示す第1のモータ1はIPM(Interior Permanent Magnet)モータであり、図9bに示す第2のモータ1はSPM(Surface Permanent Magnet)モータである。
【0056】
ステータ2は、軸方向に延びる円筒形状の外形を有する。ステータ2は、ロータ3の径方向外側に、ロータ3に対して所定の隙間を設けて配置される。ステータ2は、ステータコア21と、インシュレータ22と、コイル23と、を有する。ステータコア21は、軸方向に延びる筒形状の部材である。ステータコア21は、複数枚の磁性鋼板が軸方向に積層されて形成される。ステータコア21は、コアバック21aと、ティース(図示略)と、を有する。コアバック21aは、円環形状の部分である。ティースは、コアバック21aの内周面から径方向内側に延びる。ティースは、複数が周方向に所定間隔で並べて設けられる。また、隣り合うティース間の空隙はスロットSと称される。図9aおよび図9bに示すモータ1では、スロットSは例えば12個設けられる。
【0057】
ロータ3は、軸方向に延びる円筒形状の外形を有する。ロータ3は、ステータ2の径方向内側に、ステータ2に対して所定の隙間を設けて配置される。ロータ3は、シャフト31と、ロータコア40と、マグネット32を有する。ロータ3は、上下方向(図9aおよび図9bの紙面に垂直な方向)に延びるシャフト31を中心に回転する。ロータコア40は、軸方向に延びる円筒形状の部材である。ロータコア40の径方向中心部に位置する孔部41dに、シャフト31が挿入される。ロータコア40は、複数枚の磁性鋼板が軸方向に積層されて構成される。マグネット32は、図9aに示す第1のモータ1ではロータコア40の内部に配置され、図9bに示す第2のモータ1ではロータコア40の表面に取り付けられる。マグネット32は、複数が周方向に所定の間隔で並べて配置される。図9aおよび図9bに示すモータ1では、マグネット32は例えば8個設けられる。すなわち、図9aおよび図9bに示すモータ1では、ポール数Pは8である。
【0058】
上述したポール数Pとスロット数Sによって、モータの磁気特性は異なる。ここで、作動音の発生要因として、主にラジアル力やトルクリップルなどが挙げられる。ポール数Pが8、スロット数Sが12である8P12Sのモータの場合、ロータとステータとの間において生じる電磁力の径方向の成分であるラジアル力は互いに相殺されるため、トルクリップルが主な作動音の原因となる。つまり、上述のモータ制御システムによりトルクリップルのみが補償されることで、8P12Sのモータは作動音が効率的に低減される。したがって、本発明のモータ制御システムは、8P12Sのモータにおいて特に有用である。
【0059】
ラジアル力の相殺は特にSPMモータで効果的であるため本発明のモータ制御システムはSPMモータにおいて特に有用である。より詳細に述べると、SPMモータにおいて、リラクタンストルクは生じず、マグネットトルクのみが寄与する。そのため、本発明が採用されることによりマグネットトルクのみ補償されることで振動低減が実現される。逆に、ラジアル力の相殺は、SPMモータおよび8P12Sのモータで限定的に生じる作用では無く、IPMモータ、あるいは例えば10P12Sモータでも生じる作用であるため、本発明のモータ制御システムは、IPMモータでも有用であり、あるいは例えば10P12Sモータでも有用である。
【0060】
次に、電動パワーステアリング装置の概略について説明を行う。図10に示す通り、本実施形態において、コラムタイプの電動パワーステアリング装置について例示する。電動パワーステアリング装置9は、自動車の車輪の操舵機構に搭載される。電動パワーステアリング装置9は、モータ1の動力により操舵力を直接的に軽減するコラム式のパワーステアリング装置である。電動パワーステアリング装置9は、モータ1と、操舵軸914と、車軸913と、を備える。
【0061】
操舵軸914は、ステアリング911からの入力を、車輪912を有する車軸913に伝える。モータ1の動力は、ギヤなどを備えたカップリング915を介して操舵軸914に伝えられる。コラム式の電動パワーステアリング装置9に採用されるモータ1は、エンジンルーム(図示せず)の内部に設けられる。なお、図10に示す電動パワーステアリング装置9は、一例としてコラム式であるが、本発明のパワーステアリング装置はラック式であってもよい。
【0062】
ここで、電動パワーステアリング装置9のように低トルクリップルと低作動音が求められるアプリケーションでは、上述したモータ制御システム5によってモータ1が制御されることでその両立が図れるという効果がある。その理由として、電流制御の応答性を超えた周波数のトルクリップルに対し、ノイズを増幅するハイパスフィルタが用いられずに電流制御器の応答性が補償され、トルクリップル補償の効果が創出されるためである。そのため、本発明はパワーステアリング装置において特に有用である。
【0063】
本発明はパワーステアリング装置以外のアプリケーションについても有用である。例えばトラクションモータ(走行用モータ)、コンプレッサ用のモータ、オイルポンプ用のモータなどといった作動音の低減が求められるモータについて本発明は有用である。 以下、トラクションモータを備えたモータユニットについて説明する。
【0064】
以下の説明において特に断りのない限り、モータ102のモータ軸J2に平行な方向を単に「軸方向」と呼び、モータ軸J2を中心とする径方向を単に「径方向」と呼び、モータ軸J2を中心とする周方向、すなわち、モータ軸J2の軸周りを単に「周方向」と呼ぶ。ただし、上記の「平行な方向」は、略平行な方向も含む。 図11は、トラクションモータを備えたモータユニット100の概念図であり、図12は、モータユニット100の側面模式図である。
【0065】
モータユニット100は、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、電気自動車(EV)等、モータを動力源とする車両に搭載され、動力源として使用される。 本実施形態のモータユニット100は、モータ(メインモータ)102と、ギヤ部103と、ハウジング106と、モータ制御システム5と、を備える。
【0066】
図11に示すように、モータ102は、水平方向に延びるモータ軸J2を中心として回転するロータ120と、ロータ120の径方向外側に位置するステータ130と、を備える。ハウジング106の内部には、モータ102およびギヤ部103を収容する収容空間180が設けられる。収容空間180は、モータ102を収容するモータ室181と、ギヤ部103を収容するギヤ室182と、に区画される。
【0067】
モータ102は、ハウジング106のモータ室181に収容される。モータ102は、ロータ120と、ロータ120の径方向外側に位置するステータ130と、を備える。モータ102は、ステータ130と、ステータ130の内側に回転自在に配置されるロータ120と、を備えるインナーロータ型モータである。
【0068】
ロータ120は、図示が省略されたバッテリからモータ制御システム5を介してステータ130に電力が供給されることで回転する。ロータ120は、シャフト(モータシャフト)121と、ロータコア124と、ロータマグネット(図示略)と、を有する。ロータ120(すなわち、シャフト121、ロータコア124およびロータマグネット)は、水平方向に延びるモータ軸J2を中心として回転する。ロータ120のトルクは、ギヤ部103に伝達される。 シャフト121は、水平方向かつ車両の幅方向に延びるモータ軸J2を中心として延びる。シャフト121は、モータ軸J2を中心として回転する。
【0069】
シャフト121は、ハウジング106のモータ室181とギヤ室182とを跨いで延びる。シャフト121の一方の端部は、ギヤ室182側に突出する。ギヤ室182に突出するシャフト121の端部には、第1のギヤ141が固定される。
【0070】
ロータコア124は、珪素鋼板(磁性鋼板)が積層されて構成される。ロータコア124は、軸方向に沿って延びる円柱体である。ロータコア124には、複数のロータマグネットが固定される。
【0071】
ステータ130は、ロータ120を径方向外側から囲む。図11において、ステータ130は、ステータコア132と、コイル131とを有する。ステータ130は、ハウジング106に保持される。ステータコア132は、図示を省略するが、円環状のヨークの内周面から径方向内方に複数の磁極歯を有する。磁極歯の間には、コイル線(図示略)が掛けまわされてコイル31が構成される。
【0072】
ギヤ部103は、ハウジング106のギヤ室182に収容される。ギヤ部103は、モータ軸J2の軸方向一方側においてシャフト121に接続される。ギヤ部103は、減速装置104と差動装置105とを有する。モータ102から出力されるトルクは、減速装置104を介して差動装置105に伝達される。
【0073】
減速装置104は、モータ102のロータ120に接続される。減速装置104は、モータ102の回転速度を減じて、モータ102から出力されるトルクを減速比に応じて増大させる機能を有する。減速装置104は、モータ102から出力されるトルクを差動装置105へ伝達する。
【0074】
減速装置104は、第1のギヤ(中間ドライブギヤ)141と、第2のギヤ(中間ギヤ)142と、第3のギヤ(ファイルナルドライブギヤ)143と、中間シャフト145と、を有する。モータ102から出力されるトルクは、モータ102のシャフト121、第1のギヤ141、第2のギヤ142、中間シャフト145および第3のギヤ143を介して差動装置105のリングギヤ(ギヤ)151へ伝達される。
【0075】
差動装置105は減速装置104を介しモータ102に接続される。差動装置105は、モータ102から出力されるトルクを車両の車輪に伝達するための装置である。差動装置105は、車両の旋回時に、左右の車輪の速度差を吸収しつつ、左右両輪の車軸155に同トルクを伝える機能を有する。
【0076】
モータ制御システム5は、モータ102と電気的に接続される。モータ制御システム5はインバータでモータ102に電力を供給する。モータ制御システム5は、モータ2に供給される電流を制御する。モータ制御システム5によってトルクリップルが補償されることでモータ102の作動音が低減される。



<結合系における作動音の低減>
【0077】
例えば図10に示すような電動パワーステアリング装置9にモータ1が組み込まれている場合には、モータ1と他の要素との結合による共振などが原因で音振動(ノイズ)が生じ、上述したトルクリップルの低減だけでは低作動音の実現が不十分となる虞がある。 以下では、このような音振動(ノイズ)を低減させる実施形態について説明する。 図13は、第三実施形態のモータ制御システムの概略図であり、図14は、第三実施形態の制御演算部の概略図である。
【0078】
この第三実施形態のモータ制御システム5は、第一実施形態におけるトルクリップル補償演算部531に替えて音振動補償演算部538を備える。なお、ここでは説明の簡便のため、トルクリップル補償演算部531に替えて音振動補償演算部538を備える例で説明するが、モータ制御システム5はトルクリップル補償演算部531と音振動補償演算部538との双方を備えてもよい。
【0079】
図14に示すように音振動補償演算部538は、ルックアップテーブルを記憶した記憶部5382と、ルックアップテーブルを参照して補償値を得る参照部5381とを備える。記憶部5382に記憶されたルックアップテーブルは、目標q軸電流値Iq_targetとモータの回転速度ωとを用いて参照値を求める2次元ルックアップテーブルである。 音振動補償演算部538によって求められる補償値γは、以下の式(4)によって得られる。 γ=Asin(Bθ+C)



A=Lookuptable_A(Iq_target,ω) ・・・(4)



C=Lookuptable_C(Iq_target,ω)


【0080】
つまり、記憶部5382に記憶されたルックアップテーブルでは、参照値としてゲインAと位相Cが得られる。また、モータの電気角θに対する次数Bは、ルックアップテーブルに対して付与された固定値であり、k次および1/k次(kは整数)のうちから選択された次数である。ルックアップテーブルは、言い換えるならば、次数Bにおける補償値γが記録された記録表である。なお、補償値γの記録方式としては、ルックアップテーブル以外に、補償値γの近似式による記録方式が用いられてもよい。
【0081】
ルックアップテーブルとしては、次数Bが異なる複数のルックアップテーブルが記憶されてもよい。その場合、音振動補償演算部538では、各ルックアップテーブルから得られるゲインAおよび位相Cから上記式(4)で各補償値γを算出し、それらの補償値γを互いに加算した値を補償値として出力することになる。つまり、音振動補償演算部538は、モータの回転におけるk次成分および1/k次成分の少なくとも一方を補償する。 図15は、記憶部5382に記憶されたルックアップテーブルを示す図である。 記憶部5382には、ゲインAが参照値として得られる第1テーブルT1と、位相Cが参照値として得られる第2テーブルT2が記憶されている。
【0082】
各ルックアップテーブルT1,T2では、モータ回転速度ωの変化が行変化に対応し、目標電流値の変化が列変化に対応する。即ち、モータ回転速度ωが高い程下方側の行が参照され、目標電流値が大きい程右方側の列が参照される。図15に示す例ではm行n列のルックアップテーブルが示されているが、一般的に、モータ回転速度ωや目標電流値は行の間や列の間に相当する値を有する。このため参照値は、各ルックアップテーブルT1,T2に記載の値に基づいて例えば線形補間などによって求められる。
【0083】
図14に示す参照部5381は、ルックアップテーブルの参照で得たゲインAと位相Cをγ=Asin(Bθ+C)に代入して補償値γを算出する。この補償値γは、第一実施形態と同様に、電流制限演算部532から出力された補正前の目標q軸電流Iq_targetに重畳(加算)される。このような補償値γの加算により、第三実施形態のモータ制御システム5では結合系における共振などに起因した音振動(ノイズ)が低減される。 以下、共振などに起因した音振動(ノイズ)を低減させる補償値γを調整してルックアップテーブルとして記録する手順について説明する。 図16は、補償値γを調整して記録する手順を示す図である。
【0084】
先ず、ステップS101では、モータと、当該モータに結合されて当該モータによって駆動される駆動体とを含んだ結合系として、モータとステアリング機構の少なくとも一部とが結合された結合系についてノイズが測定される。このような測定は、図10に示すようなコラム式のパワーステアリング機構について好適に用いられる。なお、ラック式のパワーステアリング機構の場合には、コラム式のパワーステアリング機構に対する測定結果に基づいて補償値γを求めることができる。図17は、図16のステップS101におけるノイズ測定の状況を模式的に示す図である。


【0085】
ここでは、モータ1と操舵軸914とがカップリング915によって結合された結合系が防音室6内に設置された状況が示されており、この防音室6内で結合系が駆動されてノイズが測定される。図18は、図16のステップS101におけるノイズ測定で得られたノイズデータの例を示す。
【0086】
図18のグラフの横軸は、ノイズを周波数成分に分解した各周波数を示し、縦軸はモータの回転数を示す。また、ノイズ(の成分)の大きさは、グラフ中の点の濃さで表され、点の色が黒い程ノイズが大きい。
【0087】
グラフ中には、ノイズの高い点が斜線状に連なった領域R1,R2,R3が示される。これらの領域R1,R2,R3は、ノイズの周波数がモータの回転数に比例した領域であり、1つの領域が、モータの回転の次数成分における1つの次数に対応する。
【0088】
また、グラフ中には、ノイズの高い点が特定のモータ回転数付近に帯状に集中した領域R4も示される。この領域R4は、モータとステアリング機構とを結合したカップリングにおける共振帯域に相当する。
【0089】
このようなノイズデータが図16のステップS101で得られると、次に、ステップS102では、上述した次数Bが特定される。即ち、モータの回転における次数成分のうち、ノイズの補償に寄与する成分の次数Bが特定される。ノイズの補償に寄与する成分とは、例えばノイズに多く含まれている成分である。
【0090】
次数特定の手法としては、ここでは2種類の手法を説明する。第1の手法では、モータの回転における各次数成分が互いに比較され、ノイズの大きい成分の次数Bが特定される。つまり、図18に示す各次数成分の領域R1,R2,R3が互いに比較され、ノイズが大きい領域の次数が特定される。
【0091】
第2の手法では、モータの回転数の帯域のうちノイズの大きい帯域が着目され、当該帯域中で、ノイズの大きい成分の次数Bが特定される。つまり、図18に示す帯状の領域R4が着目され、その帯状の領域R4内でノイズが大きい次数成分の次数が特定される。
【0092】
図18に示すノイズデータの場合、上記2種類の手法のいずれか用いられた場合でも、図18に示す領域R1に対応した次数である24次(電気角での次数)が特定されることになる。この特定された24次という次数は、図9a、図9bに例示されたモータ1におけるポール数(8)とスロット数(12)との公倍数(特にここでは最小公倍数)に相当する。
【0093】
ステップS102で次数Bが特定されると、次に、ステップS103で、ゲインと位相の調整が行われる。即ち、特定された次数B(例えば電気角で24次の場合、機械角では6次)の成分を補償値としてモータ1の駆動が制御され、当該次数Bの成分値が調整されてノイズが低減される。より具体的には、図13および図14に示す音振動補償演算部538の出力値として、任意に調整されるゲインAおよび位相Cに基づいた補償値γ=Asin(Bθ+C)が用いられる。ここで、補償値γの算出には機械角の次数成分Bの値が用いられる。そして、制御演算部53による制御の下でモータ1が、ノイズの大きい特定の回転数で駆動され、ノイズのレベルがモニタされながら、ノイズレベルが低下する値にゲインAおよび位相Cが調整される。即ち、次数Bの成分値としてゲインおよび位相が調整される。 図19は、モニタされるノイズレベルを例示した図である。 図19の横軸はノイズの周波数を示し、縦軸はノイズのレベルを示す。
【0094】
図19に例示されたノイズ波形は、図18中の領域R4内における一定回転数のノイズ波形に相当し、図18中では点の濃度で表されたノイズレベルが、図19では縦軸方向の高さで表される。図19のノイズ波形中に生じている各ピークが、各次数成分に相当し、図19中の右端に近くに示された破線の位置が上記の特定次数B(例えば電気角で24次)に相当する。特定次数BにおけるゲインAおよび位相Cが適宜に調整されると、次数B(例えば電気角で24次)のピークだけでなく、図19に例示されたノイズ波形が全体として低減される。
【0095】
つまり、特定次数BにおけるゲインAおよび位相Cが適宜に調整されることで、モータとステアリング機構とを結合したカップリングにおける共振帯域に相当する領域R4全体のノイズが低減(補償)される。
【0096】
図16のステップS103では、そのようにノイズを低減するゲインAおよび位相Cの調整が、複数のモータ回転数それぞれで実行されて、一連のゲインAおよび一連の位相Cが得られる。そして、ステップS104では、その一連のゲインAおよび一連の位相Cが、図15に示すルックアップテーブルT1,T2の1列分として記録される。即ち、次数Bの成分値がテーブルマップとして記録される。
【0097】
ステップS103では、更に、複数の目標q軸電流Iq_targetそれぞれについて、上述した手順が繰り返され、ステップS104では、図15に示すルックアップテーブルT1,T2の各列にゲインAと位相Cが記録される。
【0098】
ステップS104でゲインAと位相CがルックアップテーブルT1,T2に記録されると、ステップS105で、そのルックアップテーブルT1,T2が、モータ制御システム5内の音振動補償演算部538の記憶部5382に記録(格納)される。モータ制御システム5は、例えばマイクロコンピュータによって実現され、ルックアップテーブルT1,T2は、マイクロコンピュータの記憶素子に記録(格納)される。
【0099】
このように記録(格納)されたルックアップテーブルT1,T2が音振動補償演算部538で用いられて上記式(4)で補償値γが算出されることにより、モータと他の要素とが結合した結合系で生じるノイズの低減が実現される。上述したように、ルックアップテーブルT1,T2としては、次数Bが異なる複数種類のルックアップテーブルが記憶されてもよい。その場合の補償値γは、例えば、上述したように各ルックアップテーブルの参照値から算出される各補償値が加算された補償値であってもよい。あるいは補償値γは、例えば、図16のステップS102で説明した手法で次数Bが特定され、その特定次数BのルックアップテーブルT1,T2が用いられて算出された補償値γであってもよい。この次数Bの特定に用いられるノイズデータは、例えばステアリングが駆動中の車室内で測定されたノイズのデータである。 図20および図21は補償値γによる補償の作用を示すグラフである。
【0100】
図20および図21の横軸はモータの回転数を示し、図20の縦軸は、トルクリップルを示し、図21の縦軸は、ノイズを示す。また、図20および図21には、補償無しの状態が点線で示され、補償有りの状態が実線で示されている。
【0101】
図20に示すように、トルクリップルは補償値γによる補償の結果、モータ回転数の全域に渡って減少する。但し、約900回転/分付近のピークはあまり低下していない。一方ノイズは、図21に示すように、モータ回転数の全域に渡って大幅に減少する。従って、補償値γによる補償は、結合系のノイズ低減に特に作用することが分かる。
【0102】
このような作用は、位相Cによる進角制御が、モータのトルクリップルの低減に適した制御条件よりも、ノイズの低減に適した制御条件で実行された結果と考えられる。言い換えると、補償値γによる補償は、モータのトルクリップルを使って結合系の共振などを打ち消す。 図22は、第四実施形態のモータ制御システムの概略図であり、図23は、第四実施形態の制御演算部の概略図である。 この第四実施形態のモータ制御システム5は、第二実施形態におけるトルクリップル補償演算部531に替えて音振動補償演算部538を備える。
【0103】
図23に示すように音振動補償演算部538は、ルックアップテーブルを記憶した記憶部5382と、ルックアップテーブルを参照して補償値を得る参照部5381とを備える。音振動補償演算部538は、目標q軸電流値Iq_targetとモータの回転速度ωとを用いてゲインAと位相Cを求め、補償値γ=Asin(Bθ+C)を算出する。但し、第四実施形態の音振動補償演算部538で算出される補償値γは、q軸電圧指令値VQ4に加算される補償値である。
【0104】
第四実施形態の記憶部5382に記憶されるルックアップテーブルも、図16のフローチャートで示される手順と同様の手順によって作成されて記録される。そして、モータ1と他の要素とが結合した結合系によって生じる音振動(ノイズ)が、補償値γによる補償により、第三実施形態と同様に低減される。
【0105】
結合系の例として、上記では、モータ1とステアリング機構の要素とが結合した結合系が示されているが、補償値γによるノイズ補償の対象としては、例えば図11および図12に示す、トラクションモータを備えたモータユニットなども考えられる。
【0106】
以上に、本発明の実施形態および変形例を説明したが、実施形態および変形例における各構成およびそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはない。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本開示の実施形態は、掃除機、ドライヤ、シーリングファン、洗濯機、冷蔵庫およびパワーステアリング装置などの、各種モータを備える多様な機器に幅広く利用され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9a
図9b
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23