(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】音声処理装置
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20230502BHJP
【FI】
H04R3/00 310
(21)【出願番号】P 2018049812
(22)【出願日】2018-03-16
【審査請求日】2021-01-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(72)【発明者】
【氏名】栗原 誠
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-162212(JP,A)
【文献】特開2008-294600(JP,A)
【文献】特開2007-304446(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内空間において区分されるブース内の複数の話者の声を集音する3以上のマイクと、
前記3以上のマイクによって集音された音声信号の少なくとも振幅を調節する振幅調節手段を有する音声処理部と、
前記音声処理部によって調節された音声を前記複数の話者に向けて放音する1又は複数の指向性スピーカと、
前記3以上のマイクによって集音された音声信号の音源位置を算出する音源位置算出部と、
前記音源位置算出部で算出された音源位置に前記1又は複数の指向性スピーカの放音方向を制御する放音方向制御部と
を備え、
前記3以上のマイクが、前記複数の話者に共通に用いられるように前記複数の話者の中間位置で、各話者との間隔が相違するように、かつ前記1又は複数の指向性スピーカの指向性範囲外に配置されており、
前記3以上のマイクと前記1又は複数の指向性スピーカとが近接してテーブル上に配置され、前記1又は複数の指向性スピーカは、音声を天壁に向けて放音可能に構成されており、
前記音源位置算出部が、それぞれの前記マイクに到達する前記話者の声の時間差を基に音源位置を算出し、
前記音声処理部が、前記3以上のマイクによって集音された音声信号の特定の音域を増幅する特定帯域強調手段を有しており、
前記特定帯域強調手段が、高音域を増幅する音声処理装置。
【請求項2】
前記振幅調節手段が、前記3以上のマイクで集音された音声信号の振幅を前記1又は複数の指向性スピーカによる放音対象の話者毎に調節する請求項1に記載の音声処理装置。
【請求項3】
前記ブースを区分する1又は複数の間仕切りを備える請求項1又は請求項2に記載の音声処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オフィス等の室内空間を区分することで会議や商談等を行う打合せブースを設けることが行われている。このように室内空間の一角に打合せブースを設けることで、室内空間を効率的に利用することができると共に、この室内空間全体の活気を高めることができる。
【0003】
前記打合せブースは、室内空間の効率的な利用や室内空間の活性化の観点から、室内の事務スペース等の近くに存在する場合がある。また、この打合せブースは、前記観点から十分な数が存在することが望まれており、そのため各打合せブースの小規模化が図られている。
【0004】
しかしながら、打合せブースの小規模化が図られる場合、この打合せブース内の会話が打合せブース外に漏洩するおそれが高くなる。このような点から、今日では、打合せブースを間仕切りで区分すると共に、この間仕切りにスピーカを設け、マスキング音を放音することによって、打合せブース内での会話が外部で聞き取れないようにする技術が実用化されている(特開2012-82585号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記公報に記載されているようにマスキング音を用いる場合、周囲の環境ノイズが大きくなるという問題が生じる。つまり、複数の打合せブースが隣接して設けられる場合、隣接する他の打合せブース内の会話を聞き取れなくするためのマスキング音によって打合せブース内での会話が聞き取り難くなり、打合せブース内で比較的大きな声で会話をする必要が生じるおそれがある。
【0007】
このような不都合に鑑みて、本発明は、会話の円滑化を図ると共に、会話内容の外部への漏洩を抑制することができる音声処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するためになされた本発明は、室内空間において区分されるブース内の複数の話者の声を集音する1又は複数のマイクと、前記1又は複数のマイクによって集音された音声信号の少なくとも振幅を調節する振幅調節手段を有する音声処理部と、前記音声処理部によって調節された音声を前記複数の話者に向けて放音する1又は複数の指向性スピーカとを備え、前記1又は複数のマイクが前記1又は複数の指向性スピーカの指向性範囲外に配置される音声処理装置である。
【0009】
当該音声処理装置は、複数の前記マイクを有し、前記複数のマイクによって集音された音声信号の音源位置を算出する音源位置算出部と、前記音源位置算出部で算出された音源位置に前記1又は複数の指向性スピーカの放音方向を制御する放音方向制御部とをさらに備えるとよい。
【0010】
前記音声処理部が、前記1又は複数のマイクによって集音された音声信号の特定の音域を増幅する特定帯域強調手段を有するとよい。
【0011】
当該音声処理装置は、前記振幅調節手段が、前記1又は複数のマイクで集音された音声信号の振幅を前記1又は複数の指向性スピーカによる放音対象の話者毎に調節するとよい。
【0012】
当該音声処理装置は、前記ブースを区分する1又は複数の間仕切りを備えるとよい。
【0013】
なお、本発明において、「指向性スピーカの指向性範囲」とは、指向性スピーカから放音される音声の音圧が空間上のピーク値の80%以上である範囲をいい、好ましくは50%以上、より好ましくは20%以上の範囲をいう。また、「話者に向けて放音する」とは、直接話者に向けて放音する場合の他、室内空間を区分する間仕切り、壁等や、室内空間に設けられる他の部材に反射した反射音を話者に向けて放音する場合も含む概念である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る音声処理装置は、ブース内で会話する話者の声を1又は複数のマイクによって集音し、音声処理部によって振幅を適度に調節したうえで1又は複数の指向性スピーカから放音することができる。当該音声処理装置は、前記1又は複数のマイクが前記1又は複数の指向性スピーカの指向性範囲外に配置されるので、話者が比較的小さい声で発音した場合でも、この話者の声を前記1又は複数のマイクによって適切に集音することができる。そのため、当該音声処理装置によると、話者が大きな声で発音することを要しないので、この話者の声は自然に小さくなりやすい。また、当該音声処理装置は、前記1又は複数の指向性スピーカが前記音声処理部によって調節された音声を前記複数の話者に向けて放音するので、前記音声処理部によって振幅を比較的低くした場合でも、話者に会話内容を十分に伝達することができる。従って、当該音声処理装置は、話者の声を小さく抑え、かつ前記1又は複数の指向性スピーカから放射される音響出力を比較的低くしても会話の円滑化を図ることができ、これにより会話内容の外部への漏洩を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る音声処理装置を備える室内空間を示す模式的平面図である。
【
図2】
図1の室内空間に備えられる音声処理装置を示す模式的側面図である。
【
図3】
図2の音声処理装置の音声処理部の詳細を示す図である。
【
図4】
図2の音声処理装置とは異なる実施形態に係る音声処理装置を示す模式的側面図である。
【
図5】
図4の音声処理装置の集音ユニットを示す模式的平面図である。
【
図6】
図4の音声処理装置の制御ユニットの詳細を示す図である。
【
図7】
図2及び
図4の音声処理装置とは異なる実施形態に係る音声処理装置を示す模式的側面図である。
【
図8】
図2、
図4及び
図7の音声処理装置とは異なる実施形態に係る音声処理装置を示す模式的側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0017】
[第一実施形態]
<音声処理装置>
図1~
図3を参照して、本発明の第一実施形態に係る音声処理装置について説明する。当該音声処理装置は、
図1に示すように、室内空間において区分されるブースXに備えられる。当該音声処理装置は、ブースXを区分する1又は複数の間仕切り10を備える。当該音声処理装置は、メイン空間Yと、このメイン空間Yと間仕切り10によって区分される複数のブースXとを備える室内空間に備えられる。前記室内空間としては、特に限定されるものではないが、例えばオフィス空間が挙げられる。また、この室内空間がオフィス空間である場合、メイン空間Yは典型的には事務スペースであり、ブースXは会議や商談等を行う打合せブースである。本実施形態では、前記室内空間の一端側に3つのブースXが設けられている。
【0018】
ブースXは、1又は複数の間仕切り10と室内空間を形成する側壁W1とによって左右方向の外縁が区画されている。また、ブースXは、室内空間を形成する底壁W2によって底縁が区画され、室内空間を形成する天壁W3によって天縁が区画されている。これにより、ブースXは、必要に応じて設けられる出入用の開放領域O、並びに1又は複数の間仕切り10及び天壁W3間の隙間を除き、密閉状に構成されている。間仕切り10の具体的構造は、特に限定されるものではなく、移動式のものであってもよく、室内空間を形成する壁等に固定される固定式のものであってもよい。なお、一般に天壁W3との間に隙間が形成されるタイプの間仕切りは、ブースX内の話者P1,P2の声がこの隙間からメイン空間Yに漏れやすい。これに対し、当該音声処理装置は、このような天壁W3との間に隙間が形成されるタイプの間仕切り10を用いた場合でも、ブースX内の話者P1,P2の声がメイン空間Yに漏れることを十分に抑制することができる。
【0019】
図2に示すように、本実施形態において、各ブースX内には、テーブルAと、複数の椅子Bとが備えられている。テーブルAは、例えば平面視略矩形状の天板を有している。また、この天板の対向する一対の側縁の近傍にそれぞれ椅子Bが配置されている。本実施形態において、前記天板の一方の側縁の近傍に配置される椅子Bには、例えば商談の一方の当事者(話者P1)が着席し、前記天板の一方の側縁と対向する他方の側縁の近傍に配置される椅子Bには商談の他方の当事者(話者P2)が着席する。
【0020】
図2に示すように、当該音声処理装置は、1つのブースXに対応して備えられる。そのため、当該音声処理装置によると、話者P1,P2は自身の声がどの程度相手に聞こえているかを相手の態度や発言によって確認しつつ会話を行うことができる。
【0021】
当該音声処理装置は、前記室内空間において区分されるブースX内の複数の話者P1,P2の声を集音するマイク1(以下、「集音マイク1」ともいう)と、集音マイク1によって集音された音声信号の少なくとも振幅を調節する振幅調節手段を有する音声処理部2と、音声処理部2によって調節された音声を話者P1,P2に向けて放音する複数の指向性スピーカ3a,3bとを備える。各指向性スピーカ3a,3bは、それぞれ各話者P1,P2に対して1対1対応で設けられている。当該音声処理装置は、集音マイク1によって集音された複数の話者P1,P2の声を、複数の指向性スピーカ3a,3bによってこれらの話者P1,P2に向けて放音することができるので、話者P1,P2が比較的小さい声で発音した場合でもこの話者P1,P2の声を相手の話者P1,P2に聞き取らせやすい。
【0022】
(集音マイク)
当該音声処理装置は、1つの集音マイク1を有する。集音マイク1は、複数の話者P1,P2の声を集音し音声信号を生成する。集音マイク1は、例えばテーブルAの天板上に配置される。集音マイク1は、複数の指向性スピーカ3a,3bの指向性範囲外に配置されている。集音マイク1は、複数の話者P1,P2の中間位置に配置されることが好ましい。集音マイク1としては、単一指向性マイク、双指向性マイク等の指向性マイクや、無指向性マイク等を用いることができるが、話者P1,P2と対面する側に指向性を有する双指向性マイクが好ましい。なお、集音マイク1によって生成された音声信号は、集音アンプを経てアナログデジタル変換部(A/D変換部)に入力される(集音アンプ及びA/D変換部についてはいずれも不図示)。このA/D変換部は、集音マイク1によって生成されたアナログ音声信号をデジタル音声信号に変換する。このA/D変換部によって変換されたデジタル音声信号は、音声処理部2に出力される。
【0023】
(音声処理部)
音声処理部2は、
図3に示すように、振幅調節手段2aと、特定帯域強調手段2bとを有する。音声処理部2は、例えば人の声の主成分帯域を通過帯域とするバンドパスフィルタ(不図示)を有しており、このバンドパスフィルタを通過した音声信号が振幅調節手段2a及び特定帯域強調手段2bに出力されるよう構成されている。
【0024】
〈振幅調節手段〉
振幅調節手段2aは、集音マイク1に集音され、音声処理部2に出力された音声信号の振幅を調節する。振幅調節手段2aは、音圧調節回路を含んで構成される。振幅調節手段2aは、例えば集音マイク1から出力される音声信号と想定受聴者位置から、受聴者位置での話者の声の音圧を推定する音圧推定手段(不図示)と、音圧推定手段で算出された音圧に基づいて音声信号の振幅を調整する振幅調整手段(不図示)とを有する。前記振幅調整手段は、例えば前記音圧推定手段で算出された音圧が所定の音圧以上であった場合に出力音声信号の振幅を低くするよう調節する。また、前記振幅調整手段は、前記音圧算出手段で算出された音圧が所定の音圧以下であった場合に出力音声信号の振幅を高くするよう調節する。
【0025】
〈特定帯域強調手段〉
特定帯域強調手段2bは、集音マイク1によって集音された音声信号の特定の音域を増幅する。特定帯域強調手段2bは、例えば公知のイコライザーを含んで構成される。特定帯域強調手段2bは、集音マイク1によって集音された音声信号の中音域又は高音域を増幅することが好ましく、中でも高音域を増幅することがより好ましい。前述のように、当該音声処理装置は、室内空間において区分されるブースXに備えられるもので、話者P1,P2から発せられる声は、天壁W3、側壁W1、1又は複数の間仕切り10等に反射しやすい。この場合、話者P1,P2の声は、高音域の音が天壁W3、側壁W1、1又は複数の間仕切り10等に吸収されやすい。そのため、特定帯域強調手段2bが集音マイク1によって集音された音声信号の高音域側を増幅することによって、天壁W3等に吸収された音を補完することができ、相手の話者P1,P2が一方の話者P1,P2の肉声に近い音声を受聴することができる。また、一般に話者P1,P2が小声で会話する場合、話者P1,P2の発する声は高音になりやすい。そのため、特定帯域強調手段2bで高音域を増幅することで、相手の話者P1,P2により違和感の少ない音声を放音しやすい。
【0026】
音声処理部2は、振幅調節手段2a及び特定帯域強調手段2b以外の音声処理手段を有していてもよい。例えば、音声処理部2は、集音マイク1に集音され、音声処理部2に出力された音声信号に時間的遅延を施す遅延手段(不図示)を有していてもよい。このように、音声処理部2が前記遅延手段を有することで、音声処理部2によって天壁W3等に吸収された音の反射音を模した音声信号を出力することができる。
【0027】
また、音声処理部2は、出力信号において急峻なピークが一定時間以上持続した場合にこのピーク成分をハウリング音と判定し、この周波数成分を除去するハウリング抑制手段等を有していてもよい。
【0028】
音声処理部2から出力された音声信号は、デジタルアナログ変換部(D/A変換部)(不図示)に入力される。このD/A変換部は、音声処理部2から出力されたデジタル音声信号をアナログ音声信号に変換する。また、このD/A変換部によって変換されたアナログ音声信号は、放音アンプ(不図示)を介して指向性スピーカ3a,3bに出力される。
【0029】
(指向性スピーカ)
当該音声処理装置は、2つの指向性スピーカ3a,3bを有する。指向性スピーカ3a,3bは、ブースX内の天壁W3又は天壁W3近傍に配置される。各指向性スピーカ3a,3bは、放音対象の話者P1,P2の上方に配置され、音声処理部2から出力された音声信号を下方に放音可能に構成されている。そのため、指向性スピーカ3a,3bは、例えば放音面がテーブルAの天板と対向するよう配置されている。この指向性スピーカ3a,3bとしては、例えば平面スピーカ、アレイスピーカ、パラメトリックスピーカ等を用いることができる。また、この指向性スピーカ3a,3bとしては、振動板がアクチュエータで支持された構成のものを用いることも可能である。当該音声処理装置は、指向性スピーカ3a,3bを用いることで、話者P1,P2の近傍領域の音圧を選択的に高めることができ、外部への音声の漏洩を抑えやすい。
【0030】
<利点>
当該音声処理装置は、ブースX内で会話する話者P1,P2の声を集音マイク1によって集音し、音声処理部2によって振幅を適度に調節したうえで複数の指向性スピーカ3a,3bから放音することができる。当該音声処理装置は、集音マイク1が複数の指向性スピーカ3a,3bの指向性範囲外に配置されるので、話者P1,P2が比較的小さい声で発音した場合でも、この話者P1,P2の声を集音マイク1によって適切に集音することができる。そのため、当該音声処理装置によると、話者P1,P2が大きな声で発音することを要しないので、この話者P1,P2の声は自然に小さくなりやすい。また、当該音声処理装置は、複数の指向性スピーカ3a,3bが音声処理部2によって調節された音声を複数の話者3a,3bに向けて放音するので、音声処理部2によって振幅を比較的低くした場合でも、話者P1,P2に会話内容を十分に伝達することができる。従って、当該音声処理装置は、話者P1,P2の声を小さく抑え、かつ複数の指向性スピーカ3a,3bから放音される音響出力を比較的低くしても会話の円滑化を図ることができ、これにより会話内容の外部への漏洩を抑制することができる。
【0031】
当該音声処理装置は、ブースXを区分する1又は複数の間仕切り10を備えるので、ブースXを略密閉状に保ちやすい。これにより、当該音声処理装置は、ブースX外で発せられた音が集音マイク1に集音されることを抑制すると共に、話者P1,P2の声や複数の指向性スピーカ3a,3bから放音される音声が外部に漏洩することを的確に抑制することができる。そのため、当該音声処理装置によると、会話の円滑化及び会話内容の外部への漏洩を十分に抑制することができる。
【0032】
[第二実施形態]
<音声処理装置>
図4~
図6を参照して、本発明の第二実施形態に係る音声処理装置について説明する。
図4の音声処理装置は、室内空間において区分されるブースXに備えられる。当該音声処理装置は、
図2の音声処理装置と同様、メイン空間Yと、このメイン空間Yと1又は複数の間仕切り10によって区分される複数のブースXとを備える室内空間に備えられる。当該音声処理装置は、1つのブースXに対応して設けられる。
【0033】
当該音声処理装置は、前記室内空間において区分されるブースX内の複数の話者P1,P2の声を集音する複数のマイク11a(集音マイク11a)と、複数の集音マイク11aによって集音された音声信号の少なくとも振幅を調節する振幅調節手段を有する音声処理部2と、音声処理部2によって調節された音声を話者P1,P2に向けて放音する指向性スピーカ13とを備える。当該音声処理装置は、複数の集音マイク11aによって集音された音声信号の音源位置を算出する音源位置算出部15と、音源位置算出部15で算出された音源位置に指向性スピーカ13の放音方向を制御する放音方向制御部16とを備える。より詳しくは、当該音声処理装置は、複数の集音マイク11aを有する集音ユニット11を備えている。また、当該音声処理装置は、音声処理部14、音源位置算出部15及び放音方向制御部16を有する制御ユニット12を備えている。
【0034】
(集音ユニット)
集音ユニット11は、複数の集音マイク11aを有しており、好ましくは3以上の集音マイク11aを有している(
図4では3つの集音マイク11aを有する場合を例示)。集音ユニット11は、例えばテーブルAの天板上に配置される。集音ユニット11は、複数の話者P1,P2の中間位置に配置されることが好ましい。
【0035】
複数の集音マイク11aは、複数の話者P1,P2の声を集音し音声信号を生成する。複数の集音マイク11aは、指向性スピーカ13の指向性範囲外に配置されている。複数の集音マイク11aは、それぞれ話者P1,P2との間隔が相違するよう配置されている。つまり、一方の話者P1(より詳細には、一方の話者P1の口部)と各集音マイク11aとの間隔は相違しており、他方の話者P2(より詳細には、他方の話者P2の口部)と各集音マイク11aとの間隔は相違している。複数の集音マイク11aとしては、
図2の音声処理装置と同様、単一指向性マイク、双指向性マイク等の指向性マイクや、無指向性マイク等を用いることができる。なお、集音マイク11aによって生成された音声信号は、集音アンプを経てアナログデジタル変換部(A/D変換部)に入力される(集音アンプ及びA/D変換部についてはいずれも不図示)。このA/D変換部は、集音マイク1によって生成されたアナログ音声信号をデジタル音声信号に変換する。このA/D変換部によって変換されたデジタル音声信号は、制御ユニット12に出力される。
【0036】
(指向性スピーカ)
当該音声処理装置は、1つの指向性スピーカ13を有する。指向性スピーカ13は、ブースX内の天壁W3又は天壁W3近傍に配置される。指向性スピーカ13は、話者P1,P2からの距離が略等しい位置に配置される。指向性スピーカ13は、複数のスピーカ素子を有するアレイスピーカである。指向性スピーカ13は、各スピーカ素子の放音方向を変更可能に構成されている。
【0037】
(音声処理部14)
音声処理部14は、振幅調節手段及び特定帯域強調手段を有する。前記振幅調節手段は、
図2の音声処理装置と同様、複数の集音マイク11aに集音され、音声処理部14に出力された音声信号の振幅を調節する。前記振幅調節手段は、
図2の音声処理装置と同様、振幅調節回路を含んで構成される。
【0038】
前記振幅調節手段は、複数の集音マイク11aで集音された音声信号の振幅を指向性スピーカ13による放音対象の話者P1,P2毎に調節してもよい。つまり、前記振幅調節手段は、複数の集音マイク11aで集音された音声信号の振幅を第1のスピーカ素子群及び第2のスピーカ素子群に対して異なる振幅で出力してもよい。例えば前記振幅調節手段は、後述する音源位置算出部15で算出される一方の音源(一方の話者P1)から発せられた声について、一方の話者P1に放音される音声(後述する放音方向制御部16で一方の話者P1に向けられたスピーカ素子群から放音される音声)の音圧を所定の音圧以下に調節し、かつ音源位置算出部15で算出される他方の音源(他方の話者P2)に放音される音声(放音方向制御部16で他方の話者P2に向けられたスピーカ素子群から放音される音声)の音圧を所定の音圧以上に調節する。また同時に、前記振幅調節手段は、他方の話者P2から発せられた声について、他方の話者P2に放音される音声の音圧を所定の音圧以下に調節し、かつ一方の話者P1に放音される音声の音圧を所定の音圧以上に調節する。この構成によると、話者P1,P2に対し、相手の話者P1,P2の声を選択的に聞き取りやすくすることができるので、ブースX内における会話の円滑化が阻害されることを抑制しつつ、会話全体の音圧をより低く抑えることで、会話内容の外部への漏洩をより確実に抑制することができる。
【0039】
前記特定帯域強調手段は、
図2の音声処理装置と同様、複数の集音マイク11aによって集音された声の特定の音域を増幅する。前記特定帯域強調手段は、
図2の音声処理装置と同様、例えば公知のイコライザーを含んで構成される。
【0040】
なお、音声処理部14は、前記振幅調節手段及び前記特定帯域強調手段以外の音声処理手段を有していてもよい。音声処理部14は、
図2の音声処理装置と同様、複数の集音マイク11aに集音され、音声処理部14に出力された音声信号に時間的遅延を施す遅延手段を有していてもよく、出力信号において急峻なピークが一定時間以上持続した場合にこのピーク成分をハウリング音と判定し、この周波数成分を除去するハウリング抑制手段を有していてもよい。
【0041】
(音源位置算出部)
音源位置算出部15は、CPU(Central Processing Unit)及びROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリを含むコンピュータによって構成することができる。音源位置算出部15は、例えば話者P1,P2から発せられる声が各集音マイク11aに到達する時間差を基に音源位置(具体的には話者P1,P2の口部位置)を算出する。また、音源位置算出部15は、話者P1,P2から発せられる声の音量や位相差を基に音源位置を算出してもよい。
【0042】
(放音方向制御部)
放音方向制御部16は、CPU及びROM、RAM等のメモリを含むコンピュータによって構成することができる。放音方向制御部16は、指向性スピーカ13の各スピーカ素子の放音方向を制御する。放音方向制御部16は、指向性スピーカ13が有する全てのスピーカ素子の放音方向が話者P1,P2(具体的には、音源位置算出部15で算出した話者P1,P2の口部位置)のいずれかに向くよう制御することが好ましい。
【0043】
<利点>
当該音声処理装置は、複数の集音マイク11aによって集音された音声信号の音源位置を算出する音源位置算出部15と、音源位置算出部15で算出された音源位置に指向性スピーカ13の放音方向を制御する放音方向制御部16とを備えるので、一方の話者P1,P2が比較的小さい声で発音した場合でも、相手の話者P1,P2に会話内容を選択的かつ確実に伝達することができる。従って、当該音声処理装置は、会話の円滑化を図ることができると共に、会話内容の外部への漏洩を確実に抑制することができる。
【0044】
[第三実施形態]
<音声処理装置>
図7を参照して、本発明の第三実施形態に係る音声処理装置について説明する。
図7の音声処理装置は、室内空間において区分されるブースXに備えられる。当該音声処理装置は、
図2の音声処理装置と同様、メイン空間Yと、このメイン空間Yと1又は複数の間仕切り10によって区分される複数のブースXとを備える室内空間に備えられる。当該音声処理装置は、1つのブースXに対応して設けられる。
【0045】
当該音声処理装置は、前記室内空間において区分されるブースX内の複数の話者P1,P2の声を集音する複数のマイク(集音マイク)と、複数の集音マイクによって集音された音声信号少なくとも振幅を調節する振幅調節手段を有する音声処理部と、この音声処理部によって調節された音声を話者P1,P2に向けて放音する指向性スピーカ13とを備える。また、当該音声処理装置は、前記複数の集音マイクによって集音された音声信号の音源位置を算出する音源位置算出部と、この音源位置算出部で算出された音源位置に指向性スピーカ13の放音方向を制御する放音方向制御部とを備える。当該音声処理装置は、
図4の音声処理装置と同様の集音ユニット11を備えており、この集音ユニット11が複数のマイクを有している。集音ユニット11は、複数の話者P1,P2の中間位置に配置されることが好ましい。また、当該音声処理装置は、
図4の音声処理装置と同様の制御ユニット12を備えており、この制御ユニット12が前記音声処理部、前記音源位置算出部及び前記放音方向制御部を有している。
【0046】
当該音声処理装置は、集音ユニット11と指向性スピーカ13とが近接して配置されている(つまり、複数の集音マイクと指向性スピーカ13とが近接して配置されている)。具体的には、当該音声処理装置は、集音ユニット11及び指向性スピーカ13がいずれもブースX内の天壁W3又は天壁W3近傍に配置されている。当該音声処理装置は、集音ユニット11がブースX内の天壁W3又は天壁W3近傍に配置される以外、
図4の音声処理装置と同様の構成とすることができる。
【0047】
<利点>
当該音声処理装置は、複数の集音マイクが指向性スピーカ13の指向性範囲外に配置されるので、集音ユニット11及び指向性スピーカ13が近接して配置される場合でも、ブースX内における会話の円滑化を図ると共に、会話内容の外部への漏洩を抑制することができる。
【0048】
当該音声処理装置は、集音ユニット11及び指向性スピーカ13がブースX内の天壁W3又は天壁W3近傍に配置されているので、天壁W3で吸収される前の話者P1,P2の声を複数の集音マイクで集音し、前記特定帯域強調手段で前記複数の集音マイクで集音された音声信号の高音域を増幅させたうえ、指向性スピーカ13によって音声信号をブースX内の天壁W3近傍から下方に向けて放音することができる。そのため、当該音声処理装置は、天壁W3で吸収される音を補完しやすい。
【0049】
[第四実施形態]
<音声処理装置>
図8を参照して、本発明の第四実施形態に係る音声処理装置について説明する。
図8の音声処理装置は、室内空間において区分されるブースXに備えられる。当該音声処理装置は、
図2の音声処理装置と同様、メイン空間Yと、このメイン空間Yと1又は複数の間仕切り10によって区分される複数のブースXとを備える室内空間に備えられる。当該音声処理装置は、1つのブースXに対応して設けられる。
【0050】
当該音声処理装置は、集音ユニット11及び指向性スピーカ13が近接してテーブルAの天板上に配置される以外、
図7の音声処理装置と同様の構成とすることができる。指向性スピーカ13は、音声を天壁W3に向けて放音可能に構成されており、天壁W3で反射した音声が話者P1,P2に向かうよう設定されている。
【0051】
<利点>
当該音声処理装置は、集音ユニット11及び指向性スピーカ13がテーブルAの天板上に配置されるので、設置が容易であると共に設置コストを抑えることができる。また、当該音声処理装置は、制御ユニット12が音声処理部を有しており、この音声処理部が特定帯域強調手段を有するので、複数の集音マイクによって集音された音声信号の高音域を増幅することができる。そのため、当該音声処理装置は、指向性スピーカ13から放音される高音域の音声の一部が天壁W3で吸収される場合でも、話者P1,P2の肉声に近い声を相手の話者P1,P2に伝えることができる。
【0052】
[その他の実施形態]
前記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、前記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて前記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0053】
前述の各実施形態の構成は適宜組み合わせることが可能であり、例えば当該音声処理装置におけるマイク及び指向性スピーカの個数は必要に応じて変更可能である。当該音声処理装置は、複数のマイク及び/又は複数の指向性スピーカを備える場合、これらのマイク及び指向性スピーカの個数は、ブース内において想定される話者の人数等に対応して設定することができる。
【0054】
当該音声処理装置におけるマイク及び/又は指向性スピーカの設置場所は特に限定されるものではない。例えば前記マイク及び/又は前記指向性スピーカは、ブースを区分する間仕切りに設置されてもよい。
【0055】
当該音声処理装置は、ブースを区分する1又は複数の間仕切りを有するセミオープンスペースに備えられることが好ましいが、1又は複数の間仕切りを有しないオープンスペースに備えられてもよい。
【0056】
当該音声処理装置は、音源位置算出部及び放音方向制御部を有する場合であっても、この音源位置算出部及び放音方向制御部の具体的構成は前述の実施形態の構成に限定されない。前記音源位置算出部は、例えば話者P1,P2の頭部を検出するセンサを含んで構成されてもよく、前記放音方向制御部は複数の平面スピーカの放音方向を制御してもよい。
【0057】
前記音声処理部は、必ずしも特定帯域強調手段を有しなくてもよい。また、
図1の音声処理装置の音声処理部に代えて
図4の音声処理装置の制御ユニットを用いてもよく、
図4、
図7及び
図8の音声処理装置の制御ユニットに代えて
図1の音声処理部を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上説明したように、本発明の音声処理装置は、会話の円滑化を図ると共に、会話内容の外部への漏洩を抑制することができるので、事務スペースと打合せブースとが間仕切りによって区分されるオフィス空間に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1,11a 集音マイク
2,14 音声処理部
2a 振幅調節手段
2b 特定帯域強調手段
3a,3b,13 指向性スピーカ
10 間仕切り
11 集音ユニット
12 制御ユニット
15 音源位置算出部
16 放音方向制御部
A テーブル
B 椅子
O 開放領域
P1,P2 話者
W1 側壁
W2 底壁
W3 天壁
X ブース
Y メイン空間