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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】溶接装置及び溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/073 20060101AFI20230502BHJP
   B23K 9/09 20060101ALI20230502BHJP
   B23K 9/173 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
B23K9/073 530
B23K9/09
B23K9/173 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018183589
(22)【出願日】2018-09-28
(65)【公開番号】P2020049534
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006622
【氏名又は名称】株式会社安川電機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100171099
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】村上 真史
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 史紀
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3203250(JP,U)
【文献】特開2012-096276(JP,A)
【文献】特開2010-075983(JP,A)
【文献】特開2010-234441(JP,A)
【文献】上山 智之、田中 学他,交流および直流パルスミグ溶接のアーク安定化制御方法,溶接学会論文集,日本,溶接学会,2005年12月12日,第23巻、第1号,53-64,https://www.jstage.jst.go.jp/article/qjjws/23/1/23_1_53/_pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/073
B23K 9/09
B23K 9/173
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
消耗電極と溶接対象物との間に電流を出力する溶接電源と、
前記溶接対象物を正極としてピーク電流を出力し、前記消耗電極において溶滴を成長させる正極ピーク期間と、前記溶接対象物を正極としてベース電流を出力する正極ベース期間と、前記溶接対象物を負極としてベース電流を出力する負極ベース期間と、前記溶接対象物を負極としてピーク電流を出力する負極ピーク期間と、前記負極ベース期間と、前記正極ベース期間とを順に含むパターンを繰り返すように前記溶接電源を制御する交流パルス制御部と、
前記負極ピーク期間の終了から前記正極ピーク期間の開始までの間において、前記負極ベース期間を前記正極ベース期間よりも長くして、前記負極ベース期間に前記消耗電極から前記溶接対象物に前記溶滴を移行させるように極性の切り替えタイミングを設定する切替タイミング設定部と、
を備える溶接装置。
【請求項2】
前記切替タイミング設定部は、前記正極ピーク期間の終了から前記負極ピーク期間の開始までの間において、前記正極ベース期間を前記負極ベース期間よりも長くするように極性の切り替えタイミングを設定する、請求項1記載の溶接装置。
【請求項3】
目標電流に基づいて前記正極ピーク期間の終了から前記負極ピーク期間の開始までの長さ、及び前記負極ピーク期間の終了から前記正極ピーク期間の開始までの長さを設定する期間設定部を更に備える、請求項1又は2記載の溶接装置。
【請求項4】
前記極性を変えずに前記正極ピーク期間を繰り返す正極回数と、前記極性を変えずに前記負極ピーク期間を繰り返す負極回数とを目標入熱に基づいて設定する回数設定部を更に備え、
前記交流パルス制御部は、前記正極ベース期間を介して前記正極回数の前記正極ピーク期間を繰り返す正極期間と、前記正極ベース期間と、前記負極ベース期間と、前記負極ベース期間を介して前記負極回数の前記負極ピーク期間を繰り返す負極期間と、前記負極ベース期間と、前記正極ベース期間と順に含む前記パターンを繰り返すように前記溶接電源を制御する、請求項1~3のいずれか一項記載の溶接装置。
【請求項5】
消耗電極と溶接対象物との間に溶接電源により電流を出力することと、
前記消耗電極と前記溶接対象物との間に前記溶接対象物を正極としてピーク電流を出力し、前記消耗電極において溶滴を成長させる正極ピーク期間と、前記溶接対象物を正極としてベース電流を出力する正極ベース期間と、前記溶接対象物を負極としてベース電流を出力する負極ベース期間と、前記消耗電極と前記溶接対象物との間に前記溶接対象物を負極としてピーク電流を出力する負極ピーク期間と、前記負極ベース期間と、前記正極ベース期間とを順に含むパターンを繰り返すように前記溶接電源を制御することと、
前記負極ピーク期間の終了から前記正極ピーク期間の開始までの間において、前記負極ベース期間を前記正極ベース期間よりも長して、前記負極ベース期間に前記消耗電極から前記溶接対象物に前記溶滴を移行させるように極性の切り替えタイミングを設定することと、
を含む溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接装置及び溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、消耗電極と溶接対象物との間に正極性電流と逆極性電流とを交互に印加する交流パルスアーク溶接装置が開示されている。この装置は、逆極性でパルス電流を出力する第1ステップを実行し、その後逆極性でベース電流を出力して短絡を発生させる第2ステップを実行し、その後正極性でパルス電流を出力する第3ステップを実行し、その後正極性でベース電流を出力する第4ステップを実行する制御手段を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-285701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、溶接品質の向上に有効な溶接装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る溶接装置は、消耗電極と溶接対象物との間に電流を出力する溶接電源と、溶接対象物を正極としてピーク電流を出力する正極ピーク期間と、溶接対象物を負極としてピーク電流を出力する負極ピーク期間とを、ベース電流を出力するベース期間を介して交互に繰り返すように溶接電源を制御する交流パルス制御部と、を備え、交流パルス制御部は、正極ピーク期間の後、溶接対象物を正極としてベース電流を出力する正極ベース期間と、溶接対象物を負極としてベース電流を出力する負極ベース期間とを順に経て負極ピーク期間に移行するように溶接電源を制御する。
【0006】
本開示の他の側面に係る溶接方法は、消耗電極と溶接対象物との間に溶接電源により電流を出力することと、消耗電極と溶接対象物との間に溶接対象物を正極としてピーク電流を出力する正極ピーク期間と、消耗電極と溶接対象物との間に溶接対象物を負極としてピーク電流を出力する負極ピーク期間とを、ベース電流を出力するベース期間を介して交互に繰り返すように溶接電源を制御することと、を含み、正極ピーク期間の後、溶接対象物を正極としてベース電流を出力する正極ベース期間と、溶接対象物を負極としてベース電流を出力する負極ベース期間とを順に経て負極ピーク期間に移行するように溶接電源を制御する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、溶接品質の向上に有効な溶接装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】溶接システムの構成を例示する模式図である。
図2】溶接装置の構成を例示する模式図である。
図3】溶接コントローラの機能的な構成を例示するブロック図である。
図4】電流波形を例示するグラフである。
図5】電流波形の変形例を示すグラフである。
図6】ロボットコントローラ及び溶接コントローラのハードウェア構成を例示するブロック図である。
図7】溶接の詳細条件の設定手順を例示するフローチャートである。
図8】溶接電源の制御手順を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0010】
〔溶接システム〕
図1に示す溶接システム1は、溶接対象物(以下、「ワークW」という。)のアーク溶接作業の少なくとも一部を自動実行するためのシステムである。溶接システム1は、溶接装置10と、ロボットシステム30とを備える。
【0011】
ロボットシステム30は、ロボット40と、ロボット40を制御するロボットコントローラ200とを有する。ロボット40は、溶接対象位置に溶接用のツール(例えば溶接トーチ11)を配置する。例えばロボット40は、6軸の垂直多関節ロボットであり、基部41と、ツール保持部42と、多関節アーム50とを有する。基部41は、ロボット40の作業エリアにおいて例えば床面に設置されている。なお、基部41が台車等の可動部に設置される場合もある。
【0012】
多関節アーム50は、基部41とツール保持部42とを接続し、基部41に対するツール保持部42の位置及び姿勢を変更する。多関節アーム50は、例えばシリアルリンク型であり、旋回部51と、第一アーム52と、第二アーム53と、手首部54と、アクチュエータ71,72,73,74,75,76とを有する。
【0013】
旋回部51は、鉛直な軸線Ax1まわりに旋回可能となるように、基部41の上部に設けられている。すなわち多関節アーム50は、軸線Ax1まわりに旋回部51を旋回可能とする関節61を有する。第一アーム52は、軸線Ax1に交差(例えば直交)する軸線Ax2まわりに揺動可能となるように基部41に接続されている。すなわち多関節アーム50は、軸線Ax2まわりに第一アーム52を揺動可能とする関節62を有する。なお、ここでの交差とは、所謂立体交差のように、互いにねじれの関係にある場合も含む。以下においても同様である。第二アーム53は、軸線Ax1に交差する軸線Ax3まわりに揺動可能となるように、第一アーム52の端部に接続されている。すなわち多関節アーム50は、軸線Ax3まわりに第二アーム53を揺動可能とする関節63を有する。軸線Ax3は軸線Ax2に平行であってもよい。
【0014】
手首部54は、旋回アーム55及び揺動アーム56を有する。旋回アーム55は、第二アーム53の中心に沿って第二アーム53の端部から延出しており、第二アーム53の中心に沿う軸線Ax4まわりに旋回可能である。すなわち多関節アーム50は、軸線Ax4まわりに旋回アーム55を旋回可能とする関節64を有する。揺動アーム56は、軸線Ax4に交差(例えば直交)する軸線Ax5まわりに揺動可能となるように旋回アーム55の端部に接続されている。すなわち多関節アーム50は、軸線Ax5まわりに揺動アーム56を揺動可能とする関節65を有する。
【0015】
ツール保持部42は、揺動アーム56の中心に沿う軸線Ax6まわりに旋回可能となるように、揺動アーム56の端部に接続されている。すなわち多関節アーム50は、軸線Ax6まわりにツール保持部42を旋回可能とする関節66を有する。
【0016】
アクチュエータ71,72,73,74,75,76は、例えば電動モータを動力源とし、多関節アーム50の複数の関節61,62,63,64,65,66をそれぞれ駆動する。例えばアクチュエータ71は、軸線Ax1まわりに旋回部51を旋回させ、アクチュエータ72は軸線Ax2まわりに第一アーム52を揺動させ、アクチュエータ73は軸線Ax3まわりに第二アーム53を揺動させ、アクチュエータ74は軸線Ax4まわりに旋回アーム55を旋回させ、アクチュエータ75は軸線Ax5まわりに揺動アーム56を揺動させ、アクチュエータ76は軸線Ax6まわりにツール保持部42を旋回させる。
【0017】
上述したロボット40の構成はあくまで一例である。ロボット40は、基部41に対するツール保持部42の位置及び姿勢を多関節アーム50により変更する限りいかに構成されていてもよい。例えばロボット40は、上記6軸の垂直多関節ロボットに冗長軸を追加した7軸のロボットであってもよい。
【0018】
溶接装置10は、溶接個所に消耗電極を供給し、消耗電極とワークWとの間に溶接用の電力を供給する装置である。消耗電極とは、溶接材として溶融し、消耗する電極である。例えば溶接装置10は、溶接トーチ11と、ペールパック12と、ガスボンベ13と、送給装置14と、溶接電源20と、溶接電源20を制御する溶接コントローラ100とを有する。なお、図において溶接コントローラ100は溶接電源20と別になっているが、溶接電源20に内蔵されていてもよい。
【0019】
溶接トーチ11は、上述のようにツール保持部42により保持され、溶接個所まで消耗電極(例えば溶接ワイヤ16)を案内する。ペールパック12は、溶接トーチ11に溶接ワイヤ16を供給する。例えばペールパック12は、コイル状に巻かれた溶接ワイヤ16を収容し、コンジットケーブル15を介して溶接トーチ11に接続されている。
【0020】
ガスボンベ13は、溶接トーチ11にシールドガスを供給する。シールドガスとしては、二酸化炭素、アルゴン又はこれらの混合ガス等が挙げられる。例えばガスボンベ13は、ガスホース17を介して溶接トーチ11に接続されている。
【0021】
送給装置14は、溶接トーチ11に供給された溶接ワイヤ16をワークW側に送る。例えば送給装置14は、溶接トーチ11に設けられており、サーボモータ等のアクチュエータを動力源として溶接ワイヤ16の正送および逆送を行う。正送とは、溶接ワイヤ16の先端がワークWに近付くように溶接ワイヤ16を前進させることを意味する。逆送とは、溶接ワイヤ16の先端がワークWから遠ざかるように溶接ワイヤ16を後退させることを意味する。
【0022】
溶接電源20は、溶接ワイヤ16とワークWとの間に電流を出力する。図2に示すように、例えば溶接電源20は、一次整流回路21と、インバータ回路22と、変圧器23と、二次整流回路24と、極性切替部28と、リアクトル25と、電流センサ26と、電圧センサ27とを有する。
【0023】
一次整流回路21は、商用電源PSの交流電力を直流化する。インバータ回路22は、一次整流回路21により直流化された直流電力を制御指令に従った振幅・周波数の交流電力に変換する。変圧器23は、一次側(インバータ回路22側)と二次側とを絶縁しつつ、一次側の電圧及び電流を変更して二次側に出力する。二次整流回路24は、変圧器23の二次側の交流電力を直流化して溶接ワイヤ16とワークWとの間に出力する。極性切替部28は、二次整流回路24から出力される電力の極性を切り替える。具体的に、極性切替部28は、ワークWが正極となる正極性出力と、ワークWが負極となる負極性出力とを切り替える。リアクトル25は、二次整流回路24からの出力電力(例えば二次整流回路24から極性切替部28への出力電力)を平滑化する。電流センサ26は、二次整流回路24からの出力電流を検出する。電圧センサ27は、二次整流回路24からの出力電圧を検出する。なお、極性切替部28は必ずしも溶接電源20に内蔵されていなくてもよい。極性切替部28は、溶接電源20とは別のユニットとして構成され、溶接電源20と、溶接ワイヤ16及びワークWとの間に介在していてもよい。
【0024】
(溶接コントローラ)
溶接コントローラ100は、予め設定された溶接条件に従って、溶接ワイヤ16の供給と、溶接ワイヤ16への電力出力(溶接ワイヤ16とワークWとの間への電力出力)とを行うように送給装置14及び溶接電源20を制御する。例えば溶接コントローラ100は、ワークWを正極としてピーク電流を出力する正極ピーク期間と、ワークWを負極としてピーク電流を出力する負極ピーク期間とを、ベース電流を出力するベース期間を介して交互に繰り返すように溶接電源20を制御し、正極ピーク期間の後、ワークWを正極としてベース電流を出力する正極ベース期間と、ワークWを負極としてベース電流を出力する負極ベース期間とを順に経て負極ピーク期間に移行するように溶接電源20を制御する。
【0025】
ピーク電流は、例えば発熱により溶接ワイヤ16の溶融を進行させる大きさに設定されている。ベース電流は、ピーク電流より小さく設定されており、例えば溶接ワイヤ16の溶融を進行させないが、溶接ワイヤ16とワークWとの間のアークを維持する大きさに設定されている。溶接コントローラ100は、負極ピーク期間の後、負極ベース期間と正極ベース期間とを順に経て正極ピーク期間に移行するように溶接電源20を制御してもよい。
【0026】
図3に示すように、例えば溶接コントローラ100は、機能上の構成(以下、「機能モジュール」という。)として、交流パルス制御部111と、溶接指令取得部112と、期間設定部113と、切替タイミング設定部114と、送給制御部115とを有する。
【0027】
交流パルス制御部111は、上記正極ピーク期間と、上記負極ピーク期間とを、ベース期間を介して交互に繰り返すように溶接電源20を制御する。図4は、交流パルス制御部111による制御に従って溶接電源20が出力する電流の波形を例示するグラフである。図4の横軸は経過時間を示している。図4の縦軸は溶接ワイヤ16からワークW側へ向かう方向を正とする電流値を示している。このため、図4においては、正極ピーク期間P10が負側に図示され、負極ピーク期間P20が正側に図示されている。
【0028】
図4に示すように、交流パルス制御部111は、正極ピーク期間P10と、負極ピーク期間P20とを、ベース期間P30を介して交互に繰り返すように溶接電源20を制御する。より具体的に、交流パルス制御部111は、ベース期間P30を介して正極ピーク期間P10と負極ピーク期間P20とを交互に繰り返すパターンに電流値(例えば電流センサ26により検出される電流値)を追従させるようにインバータ回路22を制御する。交互に繰り返すとは、一つの正極ピーク期間P10と一つの負極ピーク期間P20とを交互に繰り返す場合の他、複数の正極ピーク期間P10と複数の負極ピーク期間P20とを交互に繰り返す場合も含む。
【0029】
交流パルス制御部111は、正極ピーク期間P10の後、正極ベース期間P31と負極ベース期間P32とを順に経て負極ピーク期間P20に移行するように溶接電源20を制御し、負極ピーク期間P20の後、負極ベース期間P32と正極ベース期間P31とを順に経て正極ピーク期間P10に移行するように溶接電源20を制御する。なお、負極ピーク期間P20の後、負極ベース期間P32と正極ベース期間P31とを順に経て正極ピーク期間P10に移行することは必須ではない。交流パルス制御部111は、負極ピーク期間P20の後、負極ベース期間P32のみを経て正極ピーク期間P10に移行するように溶接電源20を制御してもよいし、正極ベース期間P31のみを経て正極ピーク期間P10に移行するように溶接電源20を制御してもよいし、正極ベース期間P31と負極ベース期間P32とを順に経て正極ピーク期間P10に移行してもよい。
【0030】
溶接指令取得部112は、他のコントローラ(例えばロボットコントローラ200)から溶接指令を取得する。溶接指令取得部112は、ロボットコントローラ200からの指令取得に代えて、操作パネル等へのユーザの入力に基づいて溶接指令を取得してもよい。溶接指令は、溶接の開始及び終了の指令と、溶接条件とを含む。溶接条件は、目標ビード幅、目標溶け込み深さ、ワークの厚さ、目標電流、目標電圧、及び溶接ワイヤ16の目標送給速度の少なくとも一つを含む。目標電流は、例えば電流の大きさの平均値に対する目標である。目標電圧は、例えば電圧の大きさの平均値に対する目標である。
【0031】
期間設定部113は、目標電流に基づいて、少なくともベース期間P30の長さを設定する。例えば期間設定部113は、溶接電源20が出力する電流の大きさの平均値が目標電流に一致するように、ベース期間P30の長さを設定する。期間設定部113は、正極ピーク期間P10及び負極ピーク期間P20の長さを固定してベース期間P30の長さを変更してもよいし、正極ピーク期間P10及び負極ピーク期間P20の長さと、ベース期間P30の長さとの両方を変更してもよい。
【0032】
切替タイミング設定部114は、負極ピーク期間P20の終了から正極ピーク期間P10の開始までの間において、負極ベース期間P32を正極ベース期間P31よりも長くするように極性の切り替えタイミングを設定する。切替タイミング設定部114は、正極ピーク期間P10の終了から負極ピーク期間P20の開始までの間において、正極ベース期間P31を負極ベース期間P32よりも長くするように極性の切り替えタイミングを設定してもよい。
【0033】
例えば切替タイミング設定部114は、期間設定部113により設定されたベース期間P30の完了時から所定時間(以下、「オフセット時間」という。)前のタイミングを切り替えタイミングとする。オフセット時間は、期間設定部113によるベース期間P30の可変範囲における最短期間の半分未満となるように予め設定されている。切替タイミング設定部114は、期間設定部113により設定されたベース期間P30において、極性切り替えの前後の期間の比率が所定値となるように切り替えタイミングを設定してもよい。
【0034】
送給制御部115は、目標送給速度に従って溶接ワイヤ16をワークW側に送るように送給装置14を制御する。なお、送給装置14の制御には、送給装置14のアクチュエータを駆動するためのドライバ回路が必要となる。このドライバ回路として、例えばロボットコントローラ200の外部軸用ドライバ回路(ロボット40のアクチュエータ71,72,73,74,75,76以外のアクチュエータ用のドライバ回路)を利用可能である。この場合、送給制御部115は、ロボットコントローラ200を介して送給装置14を制御することとなる。
【0035】
溶接コントローラ100は、目標入熱設定部116と回数設定部117とを更に有してもよい。目標入熱設定部116は、目標ビード幅、目標溶け込み深さ、ワークの厚さ、目標電流、目標電圧及び目標送給速度の少なくとも一つに基づいて目標入熱を算出する。入熱は、単位時間あたりに溶接部に与える平均熱量である。例えば目標入熱設定部116は、目標ビード幅、目標溶け込み深さ又はワークの厚さが大きくなるのに応じて目標入熱を大きくする。
【0036】
回数設定部117は、正極ベース期間を介して正極ピーク期間を繰り返す正極回数と、負極ベース期間を介して負極ピーク期間を繰り返す負極回数とを目標入熱に基づいて設定する。例えば回数設定部117は、目標入熱が大きくなるのに応じて正極期間に対する負極期間の比率が大きくなるように正極回数及び負極回数を設定する。
【0037】
溶接コントローラ100が目標入熱設定部116及び回数設定部117を有する場合、交流パルス制御部111は、図5に示すように、正極ベース期間P31を介して正極回数の正極ピーク期間P10を繰り返す正極期間P1と、負極ベース期間P32を介して負極回数の負極ピーク期間P20を繰り返す負極期間P2とを、ベース期間P30を介して交互に繰り返すように溶接電源20を制御してもよい。
【0038】
(コントローラのハードウェア構成)
図6は、ロボットコントローラ及び溶接コントローラのハードウェア構成を例示するブロック図である。溶接コントローラ100は、回路120を含む。回路120は、少なくとも一つのプロセッサ121と、メモリ122と、ストレージ123と、入出力ポート124と、ドライバ回路126と、通信ポート125とを含む。ストレージ123は、コンピュータによって読み取り可能な不揮発型の記憶媒体(例えばフラッシュメモリ)である。例えばストレージ123は、ベース期間を介して正極ピーク期間と負極ピーク期間とを交互に繰り返すように溶接電源20を制御し、正極ピーク期間の後、正極ベース期間と負極ベース期間とを順に経て負極ピーク期間に移行するように溶接電源20を制御することを溶接コントローラ100に実行させるためのプログラムを記憶している。一例として、ストレージ123は、溶接コントローラ100内に上述の各種機能モジュールを構成するためのプログラムを記憶している。
【0039】
メモリ122は、ストレージ123からロードしたプログラム及びプロセッサ121による演算結果等を一時的に記憶する。プロセッサ121は、メモリ122と協働して上記プログラムを実行することで、溶接コントローラ100の各機能モジュールを構成する。ドライバ回路126は、プロセッサ121からの指令に従って、送給装置14のアクチュエータを駆動する。入出力ポート124は、プロセッサ121からの指令に応じてインバータ回路22、電流センサ26、電圧センサ27及び極性切替部28との間で電気信号の入出力を行う。通信ポート125は、プロセッサ121からの指令に応じ、ロボットコントローラ200との間でネットワーク通信を行う。例えば通信ポート125は、上記溶接指令取得部112による溶接指令の取得に用いられる。
【0040】
ロボットコントローラ200は、コントローラ本体201と、表示デバイス202と、入力デバイス203とを有する。表示デバイス202及び入力デバイス203は、ロボットコントローラ200のユーザインタフェースとして機能する。表示デバイス202は、例えば液晶モニタ等を含み、ユーザに対する情報表示に用いられる。入力デバイス203は、例えばフットスイッチ又はキーボード等であり、ユーザによる入力情報を取得する。表示デバイス202及び入力デバイス203は、所謂タッチパネルとして一体化されていてもよい。表示デバイス202及び入力デバイス203は、ロボット40に対する操作入力に用いられる。表示デバイス202及び入力デバイス203は、ユーザによる溶接条件の入力にも用いられる。
【0041】
コントローラ本体201は、回路220を含む。回路220は、少なくとも一つのプロセッサ221と、メモリ222と、ストレージ223と、入出力ポート224と、複数のドライバ回路225と、通信ポート227とを含む。ストレージ223は、コンピュータによって読み取り可能な不揮発型の記憶媒体(例えばフラッシュメモリ)である。例えばストレージ223は、ロボットコントローラ200にロボット40の制御を実行させるためのプログラムを記憶している。
【0042】
メモリ222は、ストレージ223からロードしたプログラム及びプロセッサ221による演算結果等を一時的に記憶する。プロセッサ221は、メモリ222と協働して上記プログラムを実行することで、ロボット40の制御を実行する。複数のドライバ回路225は、プロセッサ221からの指令に従って、ロボット40のアクチュエータ71,72,73,74,75,76をそれぞれ駆動する。入出力ポート224は、プロセッサ221からの指令に応じて表示デバイス202及び入力デバイス203との間で電気信号の入出力を行う。通信ポート227は、プロセッサ221からの指令に応じ、溶接コントローラ100との間でネットワーク通信を行う。
【0043】
〔溶接方法〕
続いて、溶接方法の一例として、溶接システム1が実行する溶接手順を例示する。この溶接手順は、溶接ワイヤ16とワークWとの間に溶接電源20により電流を出力することと、ベース期間を介して正極ピーク期間と負極ピーク期間とを交互に繰り返すように溶接電源20を制御することと、を含み、正極ピーク期間の後、正極ベース期間と負極ベース期間とを順に経て負極ピーク期間に移行するように溶接電源20を制御する。以下、溶接の詳細条件の設定手順と、溶接電源の制御手順とに分けて、溶接手順を具体的に例示する。
【0044】
(溶接の詳細条件の設定手順)
図7に示すように、溶接コントローラ100は、まず、ステップS01,S02,S03を実行する。ステップS01では、溶接指令取得部112が、ロボットコントローラ200から上記溶接条件を取得する。ステップS02では、期間設定部113が、目標電流に基づいて正極ピーク期間P10、負極ピーク期間P20及びベース期間P30の長さを設定する。ステップS03では、切替タイミング設定部114がワークW及び溶接ワイヤ16の極性の切り替えタイミングを設定する。切替タイミング設定部114は、負極ピーク期間P20の終了から正極ピーク期間P10の開始までの間において、負極ベース期間P32を正極ベース期間P31よりも長くするように極性の切り替えタイミングを設定する。切替タイミング設定部114は、正極ピーク期間P10の終了から負極ピーク期間P20の開始までの間において、正極ベース期間P31を負極ベース期間P32よりも長くするように極性の切り替えタイミングを設定してもよい。
【0045】
次に、溶接コントローラ100は、ステップS04,S05を実行する。ステップS04では、目標入熱設定部116が、目標ビード幅、目標溶け込み深さ、ワークWの厚さ、目標電流、目標電圧及び目標送給速度の少なくとも一つに基づいて目標入熱を算出する。例えば目標入熱設定部116は、目標ビード幅、目標溶け込み深さ又はワークの厚さが大きくなるのに応じて目標入熱を大きくする。ステップS05では、回数設定部117が、正極ベース期間を介して正極ピーク期間を繰り返す正極回数と、負極ベース期間を介して負極ピーク期間を繰り返す負極回数とを目標入熱に基づいて設定する。以上で溶接の詳細条件の設定手順が完了する。なお、ステップS02~S05の実行順序は適宜変更可能である。例えばステップS02,S03をステップS04,S05の後に実行してもよい。
【0046】
(溶接電源の制御手順)
図8に示すように、溶接コントローラ100は、まずステップS11,S12,S13を実行する。ステップS11では、溶接指令取得部112が、ロボットコントローラ200からの溶接開始指令の取得を待機する。ステップS12では、交流パルス制御部111が、ワークWを正極又は負極とし、ピーク電流の出力を開始するように溶接電源20を制御する。ステップS13では、交流パルス制御部111が、ピーク期間(正極ピーク期間又は負極ピーク期間)の経過を待機する。
【0047】
次に、溶接コントローラ100は、ステップS14,S15を実行する。ステップS14では、交流パルス制御部111が、一つ前のピーク期間と同じ極性にてベース電流の出力を開始するように溶接電源20を制御する。ステップS15では、交流パルス制御部111が、極性の切り替え要否を判定する。交流パルス制御部111は、次のピーク期間の極性が一つ前のピーク期間の極性と異なっている場合には極性の切り替えが必要と判定し、次のピーク期間の極性が一つ前のピーク期間の極性と同じである場合には極性の切り替えが不要と判定する。
【0048】
ステップS15において極性の切り替えが必要と判定した場合、溶接コントローラ100は、ステップS16,S17を実行する。ステップS16では、交流パルス制御部111が、極性の切り替えタイミングを待機する。ステップS17では、交流パルス制御部111が、ワークWの極性を切り替える。換言すると、交流パルス制御部111は、ワークWと溶接ワイヤ16との極性を逆転させる。
【0049】
次に、溶接コントローラ100は、ステップS18,S19を実行する。ステップS15において極性の切り替えが不要と判定した場合、溶接コントローラ100は、ステップS16,S17を実行せずにステップS18,S19を実行する。ステップS18では、交流パルス制御部111が、ベース電流の出力開始からベース期間が経過するのを待機する。ステップS19では、溶接指令取得部112が、ロボットコントローラ200からの溶接停止指令の有無を確認する。
【0050】
ステップS19において溶接停止指令がないと判定した場合、溶接コントローラ100は処理をステップS12に戻す。以後、ロボットコントローラ200から溶接停止指令を取得するまでは、極性を切り替えながらピーク電流及びベース電流の出力が繰り返される。
【0051】
ステップS19において溶接停止指令があると判定した場合、溶接コントローラ100はステップS21を実行する。ステップS21では、交流パルス制御部111が、ピーク電流及びベース電流の出力を停止するように溶接電源20を制御する。以上で溶接電源20の制御手順が完了する。
【0052】
〔本実施形態の効果〕
以上に説明したように、溶接装置10は、消耗電極とワークWとの間に電流を出力する溶接電源20と、ワークWを正極としてピーク電流を出力する正極ピーク期間P10と、ワークWを負極としてピーク電流を出力する負極ピーク期間P20とを、ベース電流を出力するベース期間P30を介して交互に繰り返すように溶接電源20を制御する交流パルス制御部111と、を備え、交流パルス制御部111は、正極ピーク期間P10の後、ワークWを正極としてベース電流を出力する正極ベース期間P31と、ワークWを負極としてベース電流を出力する負極ベース期間P32とを順に経て負極ピーク期間P20に移行するように溶接電源20を制御する。
【0053】
正極ピーク期間P10の終了から負極ピーク期間P20の開始までの間に、ワークW側を正極とするベース期間(以下、「正極ベース期間P31」という。)と、ワークW側を負極とするベース期間(以下、「負極ベース期間P32」という。)との二段階の移行期間を介在させることによって、正極ピーク期間P10で成長した溶滴の飛散を抑制することができる。従って、溶接品質の向上に有効である。
【0054】
交流パルス制御部111は、負極ピーク期間P20の後、負極ベース期間P32と正極ベース期間P31とを順に経て正極ピーク期間に移行するように溶接電源20を制御してもよい。この場合、負極ベース期間P32の終了から正極ピーク期間P10の開始までの間に正極ベース期間P31が介在することによって、負極ベース期間P32の終了時に消耗電極に残存している溶滴の飛散を抑制することができる。従って、溶接品質の向上に更に有効である。
【0055】
溶接装置10は、負極ピーク期間P20の終了から正極ピーク期間P10の開始までの間において、負極ベース期間P32を正極ベース期間P31よりも長くするように極性の切り替えタイミングを設定する切替タイミング設定部114を更に備えていてもよい。この場合、負極ピーク期間P20の終了から正極ピーク期間P10の開始までの前において、負極ベース期間P32を正極ベース期間P31より長くすることで、負極ベース期間P32の間に消耗電極からワークWに溶滴をしっかりと移行させることができる。これにより、負極ベース期間P32から正極ベース期間P31への移行時における溶滴の飛散をより確実に抑制することができる。従って、溶接品質の向上に更に有効である。
【0056】
切替タイミング設定部114は、正極ピーク期間P10の終了から負極ピーク期間P20の開始までの間において、正極ベース期間P31を負極ベース期間P32よりも長くするように極性の切り替えタイミングを設定してもよい。この場合、正極ピーク期間P10で成長した溶滴の飛散をより確実に抑制することができる。従って、溶接品質の向上に更に有効である。
【0057】
溶接装置10は、目標電流に基づいてベース期間P30の長さを設定する期間設定部113を更に備えていてもよい。この場合、目標電流への追従と、溶滴の飛散の抑制との両立を図ることができる。従って、溶接品質の向上に更に有効である。
【0058】
溶接装置10は、ベース期間P30を介して正極ピーク期間P10を繰り返す正極回数と、ベース期間P30を介して負極ピーク期間P20を繰り返す負極回数とを目標入熱に基づいて設定する回数設定部117を更に備え、交流パルス制御部111は、正極ベース期間P31を介して正極回数の正極ピーク期間P10を繰り返す正極期間と、負極ベース期間P32を介して負極回数の負極ピーク期間P20を繰り返す負極期間とを、ベース期間P30を介して交互に繰り返すように溶接電源20を制御してもよい。この場合、目標入熱への追従と、溶滴の飛散の抑制との両立を図ることができる。従って、溶接品質の向上に更に有効である。
【0059】
以上、実施形態について説明したが、本発明は必ずしも上述した形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0060】
10…溶接装置、20…溶接電源、111…交流パルス制御部、113…期間設定部、114…切替タイミング設定部、P10…正極ピーク期間、P20…負極ピーク期間、P30…ベース期間、P31…正極ベース期間、P32…負極ベース期間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8