(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】スフェア培養部材、培養容器、穴開き部材の加工方法、及び洗浄容器
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20230502BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
(21)【出願番号】P 2018198005
(22)【出願日】2018-10-20
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154184
【氏名又は名称】生富 成一
(72)【発明者】
【氏名】小関 修
(72)【発明者】
【氏名】田中 郷史
【審査官】竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/115865(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/093954(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/129263(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/020992(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/110004(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/087369(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/183570(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スフェア培養部材の第一の面及び凹部を形成する面を培養面に備えた培養容器であり、
前記スフェア培養部材が、スフェアを捕捉可能にする部材であって、前記部材は前記第一の面と前記第一の面の反対側に第二の面を有すると共に、複数の前記凹部を有しており、
前記凹部の開口部が前記第一の面に形成され、前記開口部ごとに一つの微細穴が前記第二の面に形成され、
前記開口部の円又は内接円の直径aが50μm以上1mm以下であり、前記微細穴の円又は内接円の直径bが1μm以上200μm未満であり、かつa>bであり、
前記培養容器が軟包材を袋状に密封して形成され、前記スフェア培養部材により前記培養容器の内部が二つの空間に区切られ、前記空間のそれぞれにポートを備えた
ことを特徴とする培養容器。
【請求項2】
スフェア培養部材の第一の面及び凹部を形成する面を培養面に備えた培養容器であり、
前記スフェア培養部材が、スフェアを捕捉可能にする部材であって、前記部材は前記第一の面と前記第一の面の反対側に第二の面を有すると共に、複数の前記凹部を有しており、
前記凹部の開口部が前記第一の面に形成され、前記開口部ごとに一つの微細穴が前記第二の面に形成され、
前記開口部の円又は内接円の直径aが50μm以上1mm以下であり、前記微細穴の円又は内接円の直径bが1μm以上200μm未満であり、かつa>bであり、
前記培養容器が軟包材を袋状に密封して形成され、前記スフェア培養部材により前記培養容器の内部が二つの空間に区切られて培養部と気密部が形成され、前記培養面の裏側の前記気密部における前記スフェア培養部材の第二の面に対面する、当該培養容器内の気密部側壁に突起部が備えられ、前記気密部側壁の突起部が前記第二の面における微細穴が配置されていない領域を支持して、前記気密部内に空気層を形成する
ことを特徴とする培養容器。
【請求項3】
スフェア培養部材の第一の面及び凹部を形成する面を培養面に備えた培養容器であり、
前記スフェア培養部材が、スフェアを捕捉可能にする部材であって、前記部材は前記第一の面と前記第一の面の反対側に第二の面を有すると共に、複数の前記凹部を有しており、
前記凹部の開口部が前記第一の面に形成され、前記開口部ごとに一つの微細穴が前記第二の面に形成され、
前記開口部の円又は内接円の直径aが50μm以上1mm以下であり、前記微細穴の円又は内接円の直径bが1μm以上200μm未満であり、かつa>bであり、
前記培養容器が軟包材を袋状に密封して形成され、前記スフェア培養部材により前記培養容器の内部が二つの空間に区切られて培養部と気密部が形成され、前記スフェア培養部材の第二の面に突起部が備えられ、前記培養部材の突起部が前記気密部の側壁と接触して、前記気密部内に空気層を形成する
ことを特徴とする培養容器。
【請求項4】
スフェア培養部材の第一の面及び凹部を形成する面を培養面に備えた培養容器であり、
前記スフェア培養部材が、スフェアを捕捉可能にする部材であって、前記部材は前記第一の面と前記第一の面の反対側に第二の面を有すると共に、複数の前記凹部を有しており、
前記凹部の開口部が前記第一の面に形成され、前記開口部ごとに一つの微細穴が前記第二の面に形成され、
前記開口部の円又は内接円の直径aが50μm以上1mm以下であり、前記微細穴の円又は内接円の直径bが1μm以上200μm未満であり、かつa>bであり、
前記培養容器がディッシュ状に形成され、前記スフェア培養部材により前記培養容器に閉鎖空間が形成され、前記スフェア培養部材の前記第二の面が前記閉鎖空間に配置され、
前記培養容器における前記閉鎖空間側の側壁に易切断部を備えた
ことを特徴とする培養容器。
【請求項5】
前記培養容器における前記閉鎖空間側にポートを備えたことを特徴とする請求項
4記載の培養容器。
【請求項6】
前記培養容器における前記閉鎖空間側に吸引機構又は吸収体を備えたことを特徴とする請求項
4又は5記載の培養容器。
【請求項7】
前記凹部の壁面と前記微細穴が形成された前記第二の面が一体加工されたことを特徴とする請求項
1~4記載の培養容器。
【請求項8】
前記凹部の壁面が、前記開口部から前記微細穴に向かって斜面状に形成されたことを特徴とする請求項
1~4記載の培養容器。
【請求項9】
前記開口部及び/又は前記微細穴が、多角形状に形成されたことを特徴とする請求項
1~4のいずれかに記載の培養容器。
【請求項10】
隣り合う前記開口部の間の幅が、50μm以下であることを特徴とする請求項
1~4のいずれかに記載の培養容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養技術に関し、特にスフェアの作成を効率化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、iPS細胞やES細胞などの幹細胞等の接着細胞を大量に培養する場合には、細胞を培養容器に接着させて増殖させるだけではなく、細胞に対して接着性の低い材料を塗工したマイクロウェルプレートなどの培養容器を使用して、スフェア(スフェロイド,凝集塊)を形成させることによって、細胞をより生体内に近い三次元的な状態で培養する方法が用いられている。
【0003】
具体的には、スフェアを形成する工程、スフェア状態を維持したまま培養して増殖させる工程、及びスフェア状態で分化誘導する工程等が行われている。
また、培養容器にiPS細胞等を接着・増殖させ、その接着状態のままで分化誘導し、得られた分化誘導した細胞をマイクロウェルプレートを使用してスフェアを形成させる方法や、接着状態で分化誘導を行った後、分化誘導した細胞を一度凍結保存し、再度解凍後にスフェアを形成する方法など、各種工程においてスフェア状態での操作が実施されている。
さらに、スフェアの形成後、目的の細胞に分化誘導されたスフェアを生体に投与する前に、リン酸緩衝液や生理食塩水などで洗浄したり、あるいは注射用水などに懸濁する調整工程なども行われている。
【0004】
ここで、マイクロウェルプレートなどの培養容器を使用してスフェアを形成する場合、培地をマイクロウェルプレートに滴下すると、個々のウェルに気泡が残ってしまうという問題があった。すなわち、ウェルに気泡が残るとスフェアの形成が阻害されるが、ウェルから全ての気泡を除去することは、極めて困難であった。
【0005】
また、マイクロウェルプレートを使用してスフェアを培養する場合や、スフェアを特定の組織に分化誘導する場合などにおいては、一般的に培養容器内の培地を全て交換することが要求される。しかしながら、このようなマイクロウェルプレートを用いた手法では、スフェアをウェルの凹部に捕捉したまま凹部内に溜まった培地を交換することが、極めて難しかった。
【0006】
さらに、マイクロウェルプレートなどで形成されたスフェアを実際に治療に使用する場合には、スフェアを別個の容器に回収する必要があるが、これに先だってスフェアを洗浄することによって、スフェアに付着している培地やシングルセルを除去する必要がある。
このようなスフェアの回収や洗浄を行う方法として、メッシュ部材を有する容器を用いる方法がある。この方法では、マイクロウェルプレートで形成したスフェアをピペット操作などで培地に懸濁して回収した後、培地に懸濁したスフェアをメッシュ部材を有する容器に滴下して培地を排出し、さらに生理食塩水などで培地を洗い流すなどの工程によって、スフェアの洗浄を行っていた。
ところが、このような方法では、スフェアを形成しなかったシングルセルをメッシュから除去したり、培地を排出することはできるが、スフェア同士が接触して重なり、更に凝集するため、目的とするサイズのスフェアを得ることが難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2017-536817号公報
【文献】国際公開2015/129263号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、凹部に溜まった培地を交換するために、凹部の底面に穴を形成することが考えられるところ、穴を有する凹部を備えた培養容器に関連する先行技術として、特許文献1に記載の細胞培養インサートを挙げることができる。
この細胞培養インサートは、第一の開放端部と、開口部を有する第二の端部を備え、第二の端部の開口部の上に多孔質膜が配置された構成となっている。このような細胞培養インサートを用いれば、培地交換を容易に行うことができると考えられる。
しかしながら、開口部の上に多孔質膜が配置されているため、シングルセルを好適に排出可能なものではなく、またスフェアの大量培養に適するものではなかった。
【0009】
また、穴を有する凹部を備えた培養容器に関連する先行技術として、特許文献2に記載のスフェロイド作成用デバイスを挙げることができる。
このスフェロイド作成用デバイスは、第一表面と第二表面との間を貫通する複数の孔が形成されており、均一なスフェロイドを大量に作成することが可能なものとなっている。
【0010】
しかしながら、このスフェロイド作成用デバイスは、いわゆるハンギングドロップ法により、培地の表面張力でスフェロイドを底面の穴から飛び出させて培養するものであり、第二表面の開口部は、スフェロイドのサイズよりも大きくなっている。このため、この培養容器は、スフェロイドを凹部に捕捉したまま、凹部に溜まった培地を交換することに適用可能なものではなかった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、スフェアを作成するにあたり、培地交換、スフェアの洗浄、及びスフェアの等間隔配列等を効率よく行うことが可能なスフェア培養部材、培養容器、穴開き部材の加工方法、及び洗浄容器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明のスフェア培養部材は、スフェアを捕捉可能にする部材であって、前記部材は第一の面と前記第一の面の反対側に第二の面を有すると共に、複数の凹部を有しており、前記凹部の開口部が前記第一の面に形成され、前記開口部ごとに一つの微細穴が前記第二の面に形成され、前記開口部の円又は内接円の直径aが50μm以上1mm以下であり、前記微細穴の円又は内接円の直径bが1μm以上200μm未満であり、かつa>bである構成としてある。
【0013】
また、本発明の培養容器は、上記のスフェア培養部材の第一の面及び凹部を形成する面を培養面に備えた構成としてある。
【0014】
また、本発明の穴開き部材の加工方法は、型を用いて部材に複数の穴を開ける穴開き部材の加工方法であって、前記部材は第一の面と前記第一の面の反対側に第二の面を有するフィルムであり、前記穴は、前記第一の面に開口部を有し、前記第二の面に前記開口部ごとに一つの微細穴を有する凹部であり、前記凹部を側面から見た2次元のモデルにおいて、前記フィルムの厚みをtとし、前記型における前記凹部に対応する凸部の高さをhとし、前記型における前記凹部の微細穴に対応する前記凸部の先端部の幅をbとし、前記型における隣り合う前記凸部の先端部の間の幅をaとした場合、t=a×h/2(a+b)の式を満たす前記型と前記フィルムを用いて、前記型で前記フィルムを押すことにより、前記フィルムに前記微細穴を形成する方法としてある。
【0015】
また、本発明の洗浄容器は、上記のスフェア培養部材を備えた構成としてある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スフェアを作成するにあたり、培地交換、スフェアの洗浄、及びスフェアの等間隔配列等を効率よく行うことが可能なスフェア培養部材、培養容器、穴開き部材の加工方法、及び洗浄容器の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係るスフェア培養部材の構造を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るスフェア培養部材に適さない微細穴と適する微細穴についての説明図である。
【
図3】実施例のスフェア培養部材を撮影した顕微鏡写真を示す図である。
【
図4】実施例のスフェア培養部材に培地を滴下し、気泡が排除された状態を撮影した顕微鏡写真を示す図である。
【
図5】微細穴が形成されていない培養部材に培地を滴下し、気泡が残った状態を撮影した顕微鏡写真を示す図である。
【
図6】実施例のスフェア培養部材を用いて形成された培養容器にシングルセルを播種した後、スフェアが形成された状態を撮影した顕微鏡写真を示す図である。
【
図7】別個の培養容器を用いてスフェアを形成し、実施例のスフェア培養部材の凹部にスフェアを収容させ、微細穴から培地を排除した状態を撮影した顕微鏡写真を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る穴開き部材の加工方法で用いられる型の凹部に加工樹脂材料が流れ込む様子を示す説明図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る穴開き部材の加工方法において、型の凹部と凸部の体積が同一の場合を示す説明図である。
【
図10】本発明の実施形態に係る穴開き部材の加工方法において、型の凹部と凸部の体積が異なる場合を示す説明図である。
【
図11】本発明の実施形態に係る穴開き部材の加工方法における式を満たすように作成した型を撮影した顕微鏡写真を示す図である。
【
図12】本発明の実施形態に係る穴開き部材の加工方法における式を満たす型を用いて得られた実施例のスフェア培養部材を撮影した顕微鏡写真を示す図である。
【
図13】本発明の実施形態に係る穴開き部材の加工方法における式を満たさない型を用いて得られた部材を撮影した顕微鏡写真を示す図である。
【
図14】本発明の実施形態に係るスフェア培養部材を培養面に有する袋状の培養容器(培養バッグ)を示す模式図である。
【
図15】本発明の実施形態に係るスフェア培養部材を培養面に有する袋状の培養容器(培養バッグ)において、空気層を形成するための構成を示す模式図である。
【
図16】本発明の実施形態に係るスフェア培養部材を培養面に有するディッシュ状の培養容器(培養ディッシュ)を示す模式図である。
【
図17】本発明の実施形態に係るスフェア培養部材を培養面に有し、吸収体が配置されたディッシュ状の培養容器を示す模式図である。
【
図18】本発明の実施形態に係るスフェア培養部材を培養面に有し、易切断部が側壁に形成されたディッシュ状の培養容器を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のスフェア培養部材、培養容器、穴開き部材の加工方法、及び洗浄容器の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態及び実施例の具体的な内容に限定されるものではない。
【0019】
[スフェア培養部材]
まず、本発明の実施形態のスフェア培養部材について、
図1~
図3を参照して説明する。
図1は、本実施形態のスフェア培養部材の構造を示す模式図であり、スフェア培養部材の一部の平面図と正面図が示されている。
図2は、本実施形態に係るスフェア培養部材に適さない微細穴と適する微細穴についての説明図である。
図3は、後述する実施例で作成したスフェア培養部材を撮影した顕微鏡写真を示す図である。
【0020】
本発明の実施形態のスフェア培養部材は、複数の凹部を有しており、それらの凹部を備えた各区画において、それぞれ一つのスフェアを収容する。
また、本実施形態のスフェア培養部材は、各凹部の底面に、一つの微細穴を有しており、スフェアを捕捉したままで、スフェアとして機能できない不要な細胞(たとえば死細胞)など様々な不要物をこの微細穴を通じて、凹部から除去することが可能になっている。
【0021】
具体的には、
図1に示すように、本実施形態のスフェア培養部材1は、第一の面1-1と第一の面1-1の反対側に第二の面1-2を有すると共に、凹部10における開口部11が、第一の面1-1に形成され、また開口部11ごとに一つの微細穴12が、第二の面1-2に形成されている。
【0022】
また、本実施形態のスフェア培養部材1は、開口部11の円又は内接円の直径aが、50μm以上1mm以下であり、微細穴12の円又は内接円の直径bが、1μm以上200μm未満であり、かつa>bであることが好ましい。
なお、開口部11及び微細穴12の形状は、円や多角形の場合がある。そのため、これらの直径として、円の他に、多角形に内接する円の直径を含めている。
【0023】
ここで、シングルセルの大きさは、6μm~15μm程度であり、10μm程度のものが多い。1個のスフェアは、約300個から数千個程度のシングルセルを凝集させることによって形成させることができる。このようにして形成されたスフェアの大きさは、小さいもので、50μm~100μm程度であり、大きいものでは、200μm~300μm程度である。
【0024】
そこで、本実施形態のスフェア培養部材1における凹部10でスフェアを形成し、またこれを取り出し可能にするために、開口部11の円又は内接円の直径aは、上記の通り50μm以上1mm以下とすることが好ましい。
また、目的とするスフェアのサイズに合わせて、開口部11の円又は内接円の直径aを上記範囲において様々に設定することができる。
【0025】
例えば、開口部11の円又は内接円の直径aの下限を、60μm以上,70μm以上,80μm以上,90μm以上,100μm以上,110μm以上,120μm以上,150μm以上等としてもよい。また、開口部11の円又は内接円の直径aの上限を、1mm以下,900μm以下,800μm以下,700μm以下,500μm以下等としてもよい。
【0026】
本実施形態のスフェア培養部材1における凹部10からシングルセルや、死細胞、デブリなどを好適に排除可能にするために、微細穴12の円又は内接円の直径bは、上記の通り1μm以上200μm未満とすることが好ましい。
また、このような観点から、微細穴12の円又は内接円の直径bを上記範囲において様々に設定することができる。
【0027】
例えば、微細穴12の円又は内接円の直径bの下限を、3μm以上,6μm以上,10μm以上,14μm以上,18μm以上等としてもよい。また、微細穴12の円又は内接円の直径bの上限を、200μm未満,180μm未満,160μm未満,140μm未満,120μm未満,100μm未満,80μm未満,60μm未満,40μm未満,20μm未満としても良い。
【0028】
本実施形態のスフェア培養部材1は、凹部10の壁面13と微細穴12が形成された第二の面1-2が一体加工されたものとすることが好ましい。
また、本実施形態のスフェア培養部材1は、凹部10の壁面13が、開口部11から微細穴12に向かって斜面状に形成されたものとすることが好ましい。
【0029】
すなわち、凹部10が、例えば
図2の(A)や(B)のように、開口部から微細穴に向かって、培養面に対して垂直状の部分を含むものや、培養面に対して平面状の部分を含むものとした場合は、シングルセルなどが凹部内で詰まる可能性が大きくなる。
したがって、本実施形態のスフェア培養部材1において、凹部10の壁面13は、
図2の(C)に示すように、開口部11から微細穴12に向かって斜面状に形成されたものとすることが好ましい。
【0030】
また、本実施形態のスフェア培養部材1において、開口部11及び/又は微細穴12は、
図1に示すように、多角形状に形成されたものとすることが好ましい。細胞は概ね球状であるため、微細穴12を円に形成すると、シングルセルが詰まって排出し難くなる場合があるためである。また、開口部11を円に形成すると、スフェアが取り出し難くなる場合があるためである。
また、開口部11を円に形成すると、スフェア培養部材1の第一の面1-1において、複数の開口部11の間に不要な平面部(デッドスペース)ができるため、そのデッドスペース上にシングルセルが残留してしまうという問題が生じる。
【0031】
このため、開口部11及び/又は微細穴12は、四角形などの多角形状とすることが好ましく、正方形とすることが特に好ましい。
このような正方形の開口部11と微細穴12を有する凹部10を備えた本実施形態のスフェア培養部材1は、四角錐台の雄型を金属やセラミックスで作成して、この型を樹脂に押しつけることによって作成することができる。
【0032】
本実施形態のスフェア培養部材1において、隣り合う開口部11の間の幅は、50μm以下であることが好ましい。
すなわち、隣り合う開口部11の間の幅が広いと、スフェア培養部材1の第一の面1-1において、上記と同様にデッドスペースができるため、その上にシングルセルが残留してしまうという問題が生じる。
このような観点から、隣り合う開口部11の間の幅は、40μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがさらに好ましく、20μm以下であることがさらにまた好ましく、10μm以下であることがさらにまた好ましく、5μm以下であることがさらにまた好ましい。
【0033】
本実施形態のスフェア培養部材1の材料としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂などを好適に用いることができる。例えば、ポリエチレン、エチレンとα-オレフィンの共重合体、エチレンと酢酸ビニルの共重合体、エチレンとアクリル酸やメタクリル酸共重合体と金属イオンを用いたアイオノマー等を挙げることができる。また、ポリオレフィン、スチレン系エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、シリコーン系熱可塑性エラストマー、シリコーン樹脂等を用いることもできる。さらに、シリコーンゴム、軟質塩化ビニル樹脂、ポリブタジエン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、シリコーン系熱可塑性エラストマー、スチレン系エラストマー、例えば、SBS(スチレン・ブタジエン・スチレン)、SIS(スチレン・イソプレン・スチレン)、SEBS(スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン)、SEPS(スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン)、ポリオレフィン樹脂、フッ素系樹脂等を用いてもよい。
【0034】
また、本実施形態のスフェア培養部材1は、培養容器の材料として好適に用いることができ、スフェア培養部材1の第一の面1-1及び凹部10を形成する面を培養面として用いることで、スフェアを凹部10に収容することが可能となっている。
【0035】
さらに、本実施形態のスフェア培養部材1の第一の面1-1及び凹部10には、スフェアやシングルセルが接着しないように、これらに低接着性表面処理塗工を行うことが好ましい。具体的には、細胞接着抑制剤(細胞低接着処理剤)を塗布しておくことが好ましい。
細胞接着抑制剤としては、リン脂質ポリマー、ポリビニルアルコール誘導体、リン脂質・高分子複合体、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、アガロース、キトサン、ポリエチレングリコール、アルブミン等を用いることができる。また、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0036】
図3に実際に製作したスフェア培養部材の顕微鏡写真(600倍)を示す。このスフェア培養部材において、開口部と微細穴は正方形に形成されており、辺の長さはそれぞれ150μm、10μmとなっている。
【0037】
このような本実施形態のスフェア培養部材によれば、培地を滴下した後、微細穴から気泡を好適に除去することが可能である。
図4に実際に製作したスフェア培養部材に培地を滴下し、気泡が排除された状態を撮影した顕微鏡写真を示す。このスフェア培養部材の凹部は、透明に見えており、気泡が存在してないことが分かる。このとき培養部材に滴下された培地が毛細管現象によって凹部の壁面を移動する結果、凹部に存在していた気泡が培地によって微細穴から押し出され、速やかに排出されたことを確認できた。
これに対して、
図5に微細穴が形成されていない培養部材に培地を滴下し、気泡が残った状態を撮影した顕微鏡写真を示す。このように、微細穴が形成されていない培養部材の凹部には気泡が黒く見えており、凹部に気泡が存在していることが分かる。
【0038】
このように、本実施形態のスフェア培養部材によれば、スフェアの形成工程において、シングルセルを懸濁した培地を滴下した際に、気泡を微細穴から排出することができる。
これに対して、微細穴が形成されていない凹部加工部材(微細穴がないこと以外の凹部の加工形状は、本実施形態のスフェア培養容器と共通する)では、培地を滴下すると凹部に気泡が多数残ってしまう。このように、本実施形態のスフェア培養容器は、微細穴による気泡排出効果を奏するものとなっている。
【0039】
また、本実施形態のスフェア培養部材によれば、後述するように、これを用いて培養容器を形成し、当該部材における微細穴側に空気層を構成することができる。
すなわち、この空気層により、凹部に収容された培地が培養容器の側壁(容器を形成する全ての壁)と接触しない状態に維持することができる。このような状態で、培養容器にシングルセルを播種すると、微細穴のサイズがシングルセルのサイズより大きくても、培地の表面張力によって、シングルセルや培地は微細穴を通過することなく、シングルセルは凹部内に捕らえる。これによって、多数のシングルが凹部において積層されて、好適にスフェアを形成することが可能となっている。
【0040】
この培養方法は、いわゆるハンギングドロップ法に類似しているが、本実施形態の培養基材では、出来たスフェアは微細穴を通過することができない。一方、ハンギングドロップ法では、穴から突出した培地の表面張力によって空気中に支持された培地の層においてスフェアが形成される。これに対して、本実施形態の培養基材を用いて形成された培養容器では、スフェアは培養容器における凹部内の表面で形成されるため、この点において、本実施形態の培養基材を用いて行われる培養方法は、ハンギングドロップ法と大きく異なっている。
【0041】
図6に実際に製作したスフェア培養部材を用いて形成された培養容器にシングルセルを滴下してスフェアが形成された状態を撮影した顕微鏡写真を示す。これは、シングルセルを滴下して24時間が経過した状態であり、全ての凹部においてスフェアが形成されている。また、スフェアの周辺には、凝集し切れなかった多数の不要なシングルセルが堆積している。
【0042】
このように、本実施形態のスフェア培養部材によれば、スフェアを重なることなく形成させることが可能である。また、微細穴はスフェアのサイズより小さいため、スフェアが微細穴から排出されることなく、シングルセルを微細穴から排出することが可能となっている。
【0043】
また、
図7に別個の培養容器を用いてスフェアを形成し、実際に製作したスフェア培養部材にスフェアを滴下して、微細穴から培地を排除した状態を撮影した顕微鏡写真を示す。このように、本実施形態の培養部材は、別個の培養容器を用いて作成されたスフェアを、洗浄やカウント(計数)などを行うために、スフェアを捕捉することを目的として、使用することも可能となっている。
【0044】
また、本実施形態のスフェア培養部材によれば、これを用いて作成したスフェアや、他の容器で作成したスフェアを、凹部に捕捉した状態で、培地の交換を適切に行うことができるため、スフェアの培養(分化誘導など)を好適に行うことが可能である。
【0045】
さらに、本実施形態のスフェア培養部材によれば、スフェアを凹部に捕捉した状態で洗浄液を流すことができ、スフェアの洗浄を好適に行うこともできる。
また、複数の凹部からなる各区画に配列させた状態でスフェアを得ることができると共に、これらを凹部に応じた均一なサイズで得ることが可能である。
さらにまた、各区画に配列させた状態でスフェアを得ることができるため、スフェアのカウントを容易に行うことが可能となっている。
【0046】
[穴開き部材の加工方法]
次に、本発明の実施形態の穴開き部材の加工方法について、
図8~
図13を参照しつつ説明する。
本実施形態の穴開き部材の加工方法は、型を用いて部材に複数の穴を開ける穴開き部材の加工方法であって、前記部材は第一の面と前記第一の面の反対側に第二の面を有するフィルムであり、前記穴は、前記第一の面に開口部を有し、前記第二の面に前記開口部ごとに一つの微細穴を有する凹部であり、前記凹部を側面から見た2次元のモデルにおいて、前記フィルムの厚みをtとし、前記型における前記凹部に対応する凸部の高さをhとし、前記型における前記凹部の微細穴に対応する前記凸部の先端部の幅をbとし、前記型における隣り合う前記凸部の先端部の間の幅をaとした場合、t=a×h/2(a+b)の式を満たす前記型と前記フィルムを用いて、前記型で前記フィルムを押すことにより、前記フィルムに前記微細穴を形成することを特徴とする。
【0047】
まず、本実施形態の穴開き部材の加工方法を案出した経緯について説明する。
図8は、本実施形態に係る穴開き部材の加工方法で用いられる型2の凹部に加工樹脂材料3が流れ込む様子を示す説明図である。同図に示すように、型2の凹部に加工樹脂材料3を満たしながら、型2の凸部によって加工樹脂材料3の層に微細穴を形成することで、本実施形態のスフェア培養部材1を形成することができる。
【0048】
そこで、加工樹脂材料3として、その層の厚みが、型2の凹部の高さよりも小さいものを使用してスフェア培養部材を形成したところ、層の厚みが型2の凹部の高さよりも十分に小さい場合であっても、微細穴を形成することが、容易にはできなかった。
また、加工樹脂材料3として、その層の厚みが、型2の凹部の高さよりも非常に小さいものを使用した場合には、微細穴は形成できたが、樹脂を凹部に十分に満たすことができず、凹部の側壁を適切に形成することができなかった。
【0049】
すなわち、本実施形態の穴開き部材の加工方法は、熱インプリント(熱転写)によって行うことができるが、加工樹脂材料(フィルム)の厚みと型の大きさ、深さを適切に調整して穴開けを行う必要があり、単純に熱転写するだけでは、加工樹脂材料を貫通させることはできず、微細穴を適切に形成することはできなかった。
【0050】
一般的な穴開き部材の加工においては、通常、このような問題は生じない。その理由は、例えば部材に1個の貫通穴を形成する場合、当該穴に対応する加工樹脂材料は、容易に除去されて、排除され得るためである。また、貫通させることなく、単に凹部を形成する場合は、加工樹脂材料の厚みに拘わらず、凹部を容易に形成可能なためである。
【0051】
ところが、本実施形態のスフェア培養部材のように、数多くの複数の凹部が等間隔に配列した状態で、かつその凹部の底面に微細穴を有するものを形成することは、容易に行うことができなかった。例えば、150μmの凸部を有する型を用いて100μmの厚みのフィルムを貫通させて10μmの微細穴を有する複数の凹部を備えたスフェア培養部材を得ようとしても、実際には貫通させることができず、微細穴を形成することはできなかった。
【0052】
ここで、
図8に示すように、スフェア培養部材の凹部に位置する加工樹脂材料3は、型2を押しつけるのに伴って横に逃げて型の凹部に山を形成し、スフェア培養部材の凹部の側壁を形成する。しかしながら、加工樹脂材料3の逃げ道が無くなって、それ以上加工樹脂材料3が移動できない状態で、型2の凸部の先端が加工樹脂材料3を貫通していない場合、その型2によっては当該加工樹脂材料3を貫通させることはできない。
そこで、本発明者らは、型2の凹部に形成される山の体積と、加工樹脂材料3の層の厚み、及び型2の凸の間隔を調整することによって、微細穴を有する複数の凹部が配列したスフェア培養部材を加工することに成功した。
【0053】
次に、本実施形態の穴開き部材の加工方法について、分かりやすいように2次元のモデルを用いて説明する。
図9は、本実施形態に係る穴開き部材の加工方法において、型の凹部と凸部の体積が同一の場合を示す説明図である。
同図に示すように、規則的に並んだパターンの1周期分を1ブロックとして考え、1ブロックの長さをLとする。
【0054】
1ブロックの範囲において、型2で押し付けられた加工樹脂材料3は、型2の凹部に連続的に入り込む。型の凸部の先端で加工樹脂材料3を貫通させるためには、加工樹脂材料3を貫通したタイミングで、加工樹脂材料3が型の凹部にちょうど満たされた状態にならなければならない。
すなわち、加工樹脂材料3の層が厚すぎると、型2の凹部に樹脂が充満して、型2を加工樹脂材料3に対してそれ以上押せない状態となり、微細穴が貫通しない。一方、加工樹脂材料3の層が薄すぎると、型2の凹部に樹脂が充満するよりも先に微細穴が貫通するため、型2の凹部に入り込む樹脂がなくなって凹部全体に充満できず、凹部の側壁を適切に形成することができない。
【0055】
したがって、型2により加工樹脂材料3の層を貫通して微細穴を形成でき、かつ型2の凹部に加工樹脂材料3が満たされて凹部の側壁が適切に形成されるためには、2次元のモデルにおいて、以下の式が満たされる必要がある。
1ブロックの長さL×加工樹脂材料(フィルム)の厚みt=凹部の面積
【0056】
すなわち、
図9に示すように、型2の凹部と凸部の体積が同一の場合、型2における凸部の高さをhとし、型2における隣り合う凸部の先端部の間の幅をaとした場合、a×t=a×h/2の式を満たすことが必要である。したがって、加工樹脂材料の厚みtは、以下の式を満たすことが必要である。
t=a×h/2a=h/a
よって、型2における凸部の高さの半分の厚みの加工樹脂材料3の層を使用することで、貫通穴形成と側壁形成を実現することが可能となる。
【0057】
また、同様に、
図10に示すように、型2の凹部と凸部の体積が異なる場合、型2における凸部の高さをhとし、型2における微細穴に対応する凸部の先端部の幅をbとし、型2における隣り合う凸部の先端部の間の幅をaとした場合、(a+b)×t=a×h/2の式を満たすことが必要である。したがって、加工樹脂材料の厚みtは、以下の式を満たすことが必要である。
t=a×h/2(a+b)
すなわち、このような式を満たす厚みの加工樹脂材料3のフィルムを使用することで、貫通穴形成と側壁形成を実現することが可能となる。
【0058】
さらに、図示しないが同様に、型2の凹部と凸部の体積が異なる場合、型2における凸部の高さをhとし、型2における微細穴に対応する凸部の先端部の幅をbとし、型2における隣り合う凸部の先端部の間の幅をaとし、上述したスフェア培養部材1の第一の面1-1において隣り合う開口部10の間の幅をcとした場合、(a+b)×t=(a+c)×h/2の式を満たすことが必要である。したがって、加工樹脂材料の厚みtは、以下の式を満たすことが必要である。
t=(a+c)×h/2(a+b)
すなわち、このような式を満たす厚みの加工樹脂材料3のフィルムを使用することで、貫通穴形成と側壁形成を実現することが可能となる。
【0059】
また、本実施形態において、スフェア培養部材1の第一の面1-1、及び凹部10にスフェアやシングルセルが接着しないように、第一の面1-1及び凹部10に低接着性表面処理塗工を行うことが好ましい。具体的には、細胞接着抑制剤(細胞低接着処理剤)を塗布しておくことが好ましい。
そこで、加工樹脂材料3の層の表面に細胞接着抑制剤を塗布した後、型2を用いて貫通穴形成と側壁形成を行った。
しかしながら、この方法では、型2に細胞接着抑制剤が裏移りしてしまい、スフェア培養部材1の第一の面1-1及び凹部10から剥がれてしまうという問題があった。
【0060】
このため、本実施形態の穴開き部材の加工方法を行うに先立ち、加工樹脂材料3の層の表面に細胞接着抑制剤を塗布すると共に、型2に離型剤を塗工しておくことが好ましい。このように離型剤を塗工した型2を用いることによって、スフェア培養部材1の第一の面1-1と凹部10に低接着性表面処理塗工を好適に行うことが可能である。
【0061】
図11に、本実施形態に係る穴開き部材の加工方法における式を満たす型を撮影した顕微鏡写真(500倍)を示す。また、この型を用いて形成したスフェア培養部材の顕微鏡写真(500倍)を
図12に示す。
このような本実施形態の穴開き部材の加工方法によれば、
図12に示すように、微細穴を有する凹部が均一に形成され、かつ凹部の側壁も適切に形成されたスフェア培養部材を形成することが可能である。
【0062】
これに対して、本実施形態に係る穴開き部材の加工方法における式を満たさない型を用いて得られた部材を撮影した顕微鏡写真(500倍)を
図13に示す。同図に示されるように、このスフェア培養部材では微細穴は形成されているが、側壁が十分に形成できていないことが分かる。
【0063】
このように、本実施形態の穴開き部材の加工方法によれば、例えば10μm程度の微細穴を有する複数の凹部を等間隔に備えたスフェア培養部材を、加工樹脂材料を用いて好適に形成することが可能となっている。
【0064】
[培養容器]
次に、本発明の実施形態の培養容器について、
図14~
図18を参照して説明する。
本実施形態の培養容器は、上述した本実施形態のスフェア培養部材1における第一の面1-1を培養面に備えたことを特徴とする。
【0065】
具体的には、
図14に示すように、本実施形態の培養容器は、軟包材を袋状に密封して形成され、スフェア培養部材1により培養容器の内部が二つの空間(培養部43,気密部44)に区切られ、二つの空間のそれぞれにポート(ポート41(培養部側),ポート42(気密部側))を備えた培養バッグ4とすることが好ましい。これらのポートを備える位置は特に限定されないが、液抜けを良くするためには、同図に示すように、これらのポートを対角位置に備えることが好ましい。
このような培養バッグ4によれば、ポート41を介して培養部43に培地を充填し、スフェア培養部材1においてスフェアを好適に形成させることが可能である。
【0066】
なお、気密部の名称は、本実施形態の培養容器に培地を充填することによって、気密部が、培養容器内に培養部とは別個の密閉空間として形成されることにもとづいている。
【0067】
ここで、スフェア培養部材1の凹部10には微細穴12が形成されているが、通常、凹部10における培地は、気密部44における大気圧で支えられているため、スフェア形成やスフェア培養中に微細穴12から培地が気密部44へ流れ落ちることはない。一方、微細穴12から培地やシングルセルを排出したい場合、気密部44から吸引したり、微細穴12の培地を吸引体などに接触させることや、気密部44に培地を充満させて微細穴12と培地を接触させることで、培地やシングルセルの排出を容易に行うことが可能である。これは、後述する培養容器においても同様である。
【0068】
すなわち、ポート42側に吸引機構を備えて、ポート42を介して気密部44からシングルセルなどを含む培地を排除することができる。このとき、培地をスフェア培養部材の凹部に形成された微細穴12を通じて排除できる一方で、スフェアは微細穴12を通過できずに凹部に捕捉される。
このため、本実施形態の培養容器によれば、スフェアをスフェア培養部材1に捕捉したままで培地を適切に交換することができ、スフェアの培養や洗浄などを好適に行うことが可能となっている。
さらに、このようにして、本実施形態の培養容器によって得られるスフェアは、大きさがほぼ均一で等間隔に配列されたものであるため、利用し易いものとなっている。
【0069】
また、本実施形態の培養容器を、培養容器が軟包材を袋状に密封して形成され、スフェア培養部材により培養容器の内部が二つの空間に区切られて培養部と気密部が形成され、培養面の裏側の気密部におけるスフェア培養部材の第二の面に対面する、当該培養容器内の気密部側壁に突起部が備えられ、気密部側壁の突起部が第二の面における微細穴が配置されていない領域を支持して、気密部内に空気層を形成する構成とすることも好ましい。
【0070】
また、本実施形態の培養容器を、培養容器が軟包材を袋状に密封して形成され、スフェア培養部材により培養容器の内部が二つの空間に区切られて培養部と気密部が形成され、スフェア培養部材の第二の面に突起部が備えられ、培養部材の突起部が気密部の側壁と接触して、気密部内に空気層を形成する構成とすることも好ましい。
【0071】
図15に本実施形態の培養容器の気密部内に空気層を形成するための構成を示す。同図には、スフェア培養部材の一部を側面から見た状態が拡大して示されている。
すなわち、気密部側壁46に突起部(気密部側壁の突起部46-1)が備えられ、この突起部46-1が第二の面1-2における微細穴12が配置されていない領域を支持することによって、気密部内に空気層が形成されている。
【0072】
また、スフェア培養部材の第二の面1-2に突起部(培養部材の突起部14)が備えられ、この培養部材の突起部14が気密部の側壁と接触することによって、気密部内に空気層が形成されてる。
さらに、本実施形態の培養容器において、気密部側壁の突起部46-1と培養部材の突起部14のいずれか一方のみを備えて、気密部内に空気層を形成することも可能である。
【0073】
また、本実施形態の培養容器において、気密部側壁の突起部46-1と培養部材の突起部14の大きさや形状は、特に限定されないが、例えば50μm~200μmの高さとすることができる。また、これらの突起の間隔や幅も特に限定はされないが、間隔が広すぎて部材が撓むことがなければよく、例えば2mm~3mmとすることができる。
【0074】
ここで、気密部側壁の突起部46-1に第二の面1-2における微細穴12が配置されていない領域を支持させる理由は、気密部側壁の突起部46-1が微細穴12を介して培地に接触すると、培地が毛細管現象によって気密部に流れ出てしまうためである。また、スフェアが形成される前には、シングルセルも培地と共に気密部に流れ出てしまうためである。
【0075】
また、本実施形態の培養容器は、
図16に示すように、ディッシュ状に形成され、スフェア培養部材1により培養容器に閉鎖空間(気密部53)が形成され、スフェア培養部材1の第二の面1-2が閉鎖空間に配置された培養ディッシュ5とすることも好ましい。また、この培養ディッシュ5における閉鎖空間側にポート51を備えたものとすることも好ましい。
このような培養ディッシュ5によれば、培養部52に培地を充填し、スフェア培養部材1においてスフェアを好適に形成させることが可能である。
【0076】
また、ポート51側に吸引機構を備えて、ポート51を介して気密部53からシングルセルなどを含む培地を排除することができる。このため、スフェアをスフェア培養部材1に捕捉したままで培地を適切に交換することができ、スフェアの培養や洗浄などを好適に行うことが可能となっている。
さらに、このようにして、本実施形態の培養容器によって得られるスフェアは、大きさがほぼ均一で等間隔に配列されたものであるため、利用し易いものとなっている。
【0077】
また、本実施形態の培養容器は、
図17に示すように、スフェア培養部材1の第二の面1-2が配置された閉鎖空間(気密部53a)側に吸引機構又は吸収体54aを備えた培養ディッシュ5aとすることも好ましい。
本実施形態の培養容器をこのような構成にすれば、吸引機構又は吸収体54aによって、培養部52aからシングルセルなどを含む培地を排除することができる。このとき、培地はスフェア培養部材の凹部に形成された微細穴12を通じて排除できる一方で、スフェアは微細穴12を通過できずに凹部に捕捉される。このため、スフェアをスフェア培養部材1に捕捉したままで培地を適切に交換することができ、スフェアの培養や洗浄などを好適に行うことが可能となっている。
【0078】
さらに、本実施形態の培養容器は、
図18に示すように、閉鎖空間(気密部53b)側の側壁に易切断部55bを備えた培養ディッシュ5bとすることも好ましい。易切断部55bは、気密部53b側の側壁を、嵌め合い型にすることなどにより形成して気密部53bの気密性を保つと共に、側壁を分離可能にすることができる。
本実施形態の培養容器をこのような構成にすれば、スフェアの培養が完了した後に、易切断部55bにおいて培養ディッシュ5bを簡単に切断することができ、作成されたスフェアが収容されているスフェア培養部材を容易に取り外すことが可能である。
【0079】
なお、
図16~
図18に示す構成を組み合わせて、本実施形態の培養容器を作成することもできる。
【0080】
本実施形態の培養容器として、培養バッグを作成する場合、その材料としては、ポリエチレン、エチレン-α-オレフィンの共重合体、環状オレフィンコポリマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、エチレンとアクリル酸やメタクリル酸共重合体と金属イオンを用いたアイオノマー等を挙げることができる。また、ポリオレフィン、スチレン系エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、シリコーン系熱可塑性エラストマー、シリコーン樹脂等を用いることもできる。さらに、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、シリコーン系熱可塑性エラストマー、スチレン系エラストマー、フッ素系樹脂等、またはそれらを組み合わせて用いることが好ましく、ポリエチレン系樹脂を用いることが特に好ましい。
また、本実施形態の培養容器として、培養ディッシュを作成する場合、上述したスフェア培養部材1の材料と同様のものを用いることが可能である。
【0081】
さらに、本実施形態の培養容器は、スフェアや組織などを洗浄するための、洗浄容器としても好適に使用することが可能である。
すなわち、本実施形態の洗浄容器によれば、凹部にスフェアなどを捕捉した状態でPBS(リン酸緩衝生理食塩水)等を流して微細穴から排出することができるため、スフェアなどを容易に洗浄することが可能である。
【0082】
次に、本実施形態の培養容器の用途について、詳細に説明する。
まず、本実施形態の培養容器は、上述したように、スフェアの形成に好適に用いることができる。すなわち、培養容器に備えられたスフェア培養部材の凹部にシングルセルを播種すると、これらが凹部10の斜面を転がって一つに纏まり凝集し、スフェアを形成する。
【0083】
なお、従来のマイクロウェルプレートを用いた場合、スフェア形成は可能であるが、スフェア形成に用いられなかったシングルセルを排除できないという問題があった。また、培地の交換などを適切に行うことが困難であった。
また、バイオリアクターにシングルセルを入れて回転させることで徐々に凝集させてスフェアを形成する方法もある。しかしながら、この方法では、スフェアの均一性が得られ難く、取れ高が劣るという問題があった。
【0084】
また、本実施形態の培養容器は、スフェアの培養に好適に用いることができる。すなわち、スフェア形成後、スフェア状態のまま分化誘導することができる。本実施形態の培養容器によれば、スフェア培養部材の凹部底面に設けられた微細穴を通じて、培地の交換や分化誘導の因子を完全に入れ替えることが可能となっている。
【0085】
なお、従来のマイクロウェルプレートを用いた場合、培地の交換や分化誘導の因子の入れ替えにあたってスフェアが巻き上がり、不具合が発生することが多かった。
また、バイオリアクターでは培地の交換や分化誘導の因子の入れ替えは行えるが、交換効率が悪いという問題があった。
【0086】
さらに、本実施形態の培養容器は、スフェアの洗浄に好適に用いることができる。すなわち、本実施形態の培養容器によれば、スフェアを生理食塩水などで洗浄して、スフェア培養部材の凹部底面に設けられた微細穴を通じて、洗浄液を排出することができる。また、このとき、スフェアは重なることなく、全てのスフェアを均一な条件で通液することが可能である。
【0087】
また、本実施形態の培養容器は、スフェアの配列に好適に用いることができる。すなわち、スフェアを皮下埋め込みなどの方法によって投与する場合等においては、スフェアをゲルなどに固着することが好ましい。本実施形態の培養容器によれば、スフェアを等間隔で配列して得ることができ、これにゲルを注入して固化または、ゲルに転写することを容易に行うことが可能である。
さらに、本実施形態の培養容器は、スフェアの配列に好適に用いることができるため、スフェアをカウントするためにも好適に用いることが可能である。
【実施例】
【0088】
以下、本発明の実施形態のスフェア培養部材、培養容器、及び穴開き部材の加工方法の実施例について説明する。
まず、本実施形態の穴開き部材の加工方法を用いて、スフェア培養部材を作成した。
【0089】
具体的には、四角錐台の凸部を配列した雄型を、シリコンを加工することによって作成した。このとき、四角錐台の底面の一辺の長さを150μmとし、四角錐台の上面の一辺の長さを10μmとした。また、型を3cm×3cmの正方形状に作成し、これに凸部を3.5万個程度形成したものを使用した。さらに、この型の全面に離型剤を塗工した。
図8は、このように作成して得られた型の顕微鏡写真である。
【0090】
次に、この型を加工樹脂材料であるポリエチレンに押しつけることによって、本実施形態のスフェア培養部材を作成した。また、これに先だって、ポリエチレンの表面に細胞接着抑制剤としてリン脂質ポリマーエタノール溶液を塗布した。
【0091】
このとき、型における凸部の高さをhとし、型における凸部の先端部の幅をbとし、型における隣り合う凸部の先端部の間の幅をaとした場合、a=196μm、b=10μm、h=210μmであった。スフェア培養部材を適切に形成するためには、ポリエチレンの厚みtが、上述したt=h×a/2(a+b)の式を満たすことが必要である。
したがって、ポリエチレンの厚みtを210×196/2(196+10)≒99.9μmとすることが必要であり、ポリエチレンの厚みをこのようにすることで、スフェア培養部材において、微細穴を好適に貫通でき、かつ凹部の側壁を好適に形成することができた。
図12は、このように作成して得られたスフェア培養部材の顕微鏡写真である。
【0092】
次に、このスフェア培養部材を培養面として用いた培養ディッシュを作成した。そして、iPS細胞(1231A3株)を使用して、スフェアの形成を行った。播種した細胞数は、およそ1.0×107cellsであった。また、培地としては、StemFit AK02N(品番RCAK02N,味の素株式会社)を使用した。
【0093】
具体的には、10 mM Y-27632(和光純薬工業株式会社)を含む上記培地を培養ディッシュ注入すると共に、上記iPS細胞を含む細胞懸濁液を注入して、一晩静置させた。
図6は、このように作成して得られたスフェアの顕微鏡写真である。同図に示すように、スフェア培養部材の凹部において、ほぼ均一なサイズのスフェアが等間隔に配列している。
【0094】
以上説明したように、本発明の実施形態に係るスフェア培養部材、培養容器、穴開き部材の加工方法、及び洗浄容器によれば、スフェアを作成するにあたり、培地交換、スフェアの洗浄、及びスフェアの等間隔配列を効率よく行うことが可能となる。このとき、本実施形態に係るスフェア培養部材を用いることで、他の部材を用いることなく、これらを一つの部材で行うことができる。
また、10μm程度の微細穴を有する複数の凹部を等間隔に備えた部材を、加工樹脂材料を用いて好適に形成することが可能である。
【0095】
本発明は、以上の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、スフェア培養部材の大きさは、実施例のサイズに限定されず、例えば50万個~100万個のスフェアを形成可能な大きさのものにするなど適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、等間隔に配列された均一なサイズのスフェアを効率的に大量に作成する場合などに、好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0097】
1 スフェア培養部材
1-1 第一の面
1-2 第二の面
10 凹部
11 開口部
12 微細穴
13 壁面
14 培養部材の突起部
2 型
3 加工樹脂材料(フィルム)
4 培養バッグ
41 ポート(培養部側)
42 ポート(気密部側)
43 培養部
44 気密部
45 培養部側壁
46 気密部側壁
46-1 気密部側壁の突起部
5,5a,5b 培養ディッシュ
51 ポート
52,52a,52b 培養部
53,53a,53b 気密部
54a 吸収体
55b 易切断部