(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】物体検出システムおよび物体検出装置
(51)【国際特許分類】
G01S 15/87 20060101AFI20230502BHJP
G01S 7/526 20060101ALI20230502BHJP
G01S 15/10 20060101ALI20230502BHJP
G01S 7/292 20060101ALI20230502BHJP
G01S 13/87 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
G01S15/87
G01S7/526 J
G01S15/10
G01S7/292 200
G01S13/87
(21)【出願番号】P 2019001420
(22)【出願日】2019-01-08
【審査請求日】2021-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅江 一平
(72)【発明者】
【氏名】井奈波 恒
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-200276(JP,A)
【文献】特表2013-538344(JP,A)
【文献】国際公開第2016/042697(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0084958(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0067207(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1物体検出装置を備え、
前記複数の第1物体検出装置の各々は、
所定の周波数帯域の範囲内に設定される複数の第1周波数のうち、他の第1物体検出装置とは異なる第1周波数の第1波動を、前記他の第1物体検出装置と略同時に、送信波として送信する送信部と、
物体での反射に応じて戻ってきた前記送信波に基づく受信波を受信する受信部と、
前記受信波に対する周波数解析の結果と、前記複数の第1周波数に関する情報と、に基づいて、前記受信波に含まれる1以上の第2波動の1以上の第2周波数と、前記複数の第1周波数と、の対応関係を判別する判別部と、
前記判別部の判別結果に応じて取得される情報に基づいて、前記物体に関する情報を検出する検出部と、を備え
、
前記判別部は、前記周波数解析の結果として得られる前記1以上の第2周波数の数と、前記複数の第1周波数の数と、が一致しない場合、前記所定の周波数帯域の範囲内で前記1以上の第2周波数よりも低域側および高域側の少なくとも一方に存在し、前記受信波が低域側または高域側に遷移した場合に前記受信波が受信されない周波数帯域を示す空き帯域に基づいて、前記1以上の第2周波数と前記複数の第1周波数との対応関係を判別する、
物体検出システム。
【請求項2】
前記送信部、前記受信部、前記判別部、および前記検出部を各々が備える複数の第2物体検出装置をさらに備え、
前記複数の第1物体検出装置の各々の前記送信部は、前記他の第1物体検出装置および前記複数の第2物体検出装置と同時並行的に、前記第1波動を、第1情報を識別情報として含むように符号化した上で、前記送信波として送信し、
前記複数の第2物体検出装置の各々の前記送信部は、他の第2物体検出装置および前記複数の第1物体検出装置と同時並行的に、前記第1波動を、前記第1情報とは異なる第2情報を前記識別情報として含むように符号化した上で、前記送信波として送信し、
前記複数の第1物体検出装置および前記複数の第2物体検出装置の各々は、前記判別部の判別結果に応じて、前記送信波と前記受信波との前記識別情報の類似度に対応した相関値を取得する相関処理部をさらに備え、
前記複数の第1物体検出装置および前記複数の第2物体検出装置の各々の前記検出部は、前記相関値と閾値との比較結果に基づいて、前記物体に関する情報を検出する、
請求項
1に記載の物体検出システム。
【請求項3】
前記複数の第1周波数は、それぞれ、前記所定の周波数帯域を仮想的に分割することで構成される互いに重複しない複数の帯域の範囲内に設定される、
請求項1
または2に記載の物体検出システム。
【請求項4】
前記検出部は、前記送信波が送信されたタイミングと、前記受信波が受信されたタイミングと、の差に基づいて、前記物体に関する情報として、前記物体までの距離を検出する、
請求項1~
3のうちいずれか1項に記載の物体検出システム。
【請求項5】
前記送信部は、第1モードとして、前記第1波動を前記送信波として送信し、前記第2のモードとして、前記所定の周波数帯域の中心周波数の近傍の第3周波数の第3波動を前記送信波として送信し、
前記物体検出システムは、
前記検出部の検出結果としての前記物体までの距離に応じて、前記送信部による前記送信波の送信態様を、
前記第1モードと、前記第2モードと、のいずれかに制御する制御部を、さらに備える、
請求項
4に記載の物体検出システム。
【請求項6】
前記複数の第1物体検出装置の各々の前記送信部および前記受信部は、超音波を送受信可能な単一の振動子を含む送受信部として一体的に構成されており、
前記所定の周波数帯域は、前記振動子のスペックに応じて設定される、
請求項1~
5のうちいずれか1項に記載の物体検出システム。
【請求項7】
所定の周波数帯域に含まれる周波数の波動を送受信可能な物体検出装置であって、
所定の周波数帯域の範囲内に含まれる、前記物体検出装置と他の物体検出装置とを含む複数の物体検出装置に対してそれぞれ設定される複数の第1周波数のうちの1つの第1周波数で信号レベルがピークとなる第1波動を送信波として送信する送信部と、
物体での反射に応じて戻ってきた前記送信波に基づく受信波を受信する受信部と、
前記受信波に対する周波数解析の結果と、前記複数の第1周波数に関する情報と、に基づいて、前記第1波動に対応する波動として前記受信波に含まれる第2波動の信号レベルがピークとなる第2周波数を判別する判別部と、
前記判別部の判別結果に応じて取得される情報に基づいて、前記物体に関する情報を検出する検出部と、を備え、
、
前記判別部は、前記周波数解析の結果として得られる前記1以上の第2周波数の数と、前記複数の第1周波数の数と、が一致しない場合、前記所定の周波数帯域の範囲内で前記1以上の第2周波数よりも低域側および高域側の少なくとも一方に存在し、前記受信波が低域側または高域側に遷移した場合に前記受信波が受信されない周波数帯域を示す空き帯域に基づいて、前記1以上の第2周波数と前記複数の第1周波数との対応関係を判別する、
物体検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物体検出システムおよび物体検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、送信波と、物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波と、の相関値を取得(算出)し、当該相関値に基づいて、送信波と受信波との類似度が所定以上のレベルであるか否かを判定し、判定結果に基づいて、TOF(Time Of Flight)法などにより、物体に関する情報の一つとしての物体までの距離を検出する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来の技術においては、物体に関する情報を検出するための物体検出装置が複数設けられたシステムが実現されることがある。このようなシステムにおいては、物体に関する情報をより詳細に検出するために、複数の物体検出装置の各々から、送信波を略同時(同時並行的)に送信することが必要となる。この場合、受信波として戻ってきた送信波の送信元を簡単な方法で判別することができれば望ましい。
【0005】
そこで、本開示の課題の一つは、複数の物体検出装置から送信波を略同時に送信する構成において、受信波として戻ってきた送信波の送信元を簡単な方法で判別することが可能な物体検出システムおよび物体検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一例としての物体検出システムは、複数の第1物体検出装置を備え、複数の第1物体検出装置の各々は、所定の周波数帯域の範囲内に設定される複数の第1周波数のうち、他の第1物体検出装置とは異なる第1周波数の第1波動を、他の第1物体検出装置と略同時に、送信波として送信する送信部と、物体での反射に応じて戻ってきた送信波に基づく受信波を受信する受信部と、受信波に対する周波数解析の結果と、複数の第1周波数に関する情報と、に基づいて、受信波に含まれる1以上の第2波動の1以上の第2周波数と、複数の第1周波数と、の対応関係を判別する判別部と、判別部の判別結果に応じて取得される情報に基づいて、物体に関する情報を検出する検出部と、を備え、判別部は、周波数解析の結果として得られる1以上の第2周波数の数と、複数の第1周波数の数と、が一致しない場合、所定の周波数帯域の範囲内で前記1以上の第2周波数よりも低域側および高域側の少なくとも一方に存在し、受信波が低域側または高域側に遷移した場合に受信波が受信されない周波数帯域を示す空き帯域に基づいて、1以上の第2周波数と複数の第1周波数との対応関係を判別する。
【0007】
上記のような構成によれば、送信波の送信に使用する周波数としての第1周波数を第1物体検出装置毎に異ならせ、送信波(第1波動)と受信波(第2波動)との周波数の対応関係を判別するという簡単な方法で、受信波として戻ってきた送信波の送信元を判別することができる。
【0008】
また、このような構成によれば、たとえばドップラーシフトによる大幅な周波数の遷移によって第1周波数の数と第2周波数の数とが一致しない場合であっても、空き帯域を考慮して、第1周波数と第2周波数との対応関係を容易に判別することができる。
【0009】
また、上述した物体検出システムは、送信部、受信部、判別部、および検出部を各々が備える複数の第2物体検出装置をさらに備え、複数の第1物体検出装置の各々の送信部は、他の第1物体検出装置および複数の第2物体検出装置と同時並行的に、第1波動を、第1情報を識別情報として含むように符号化した上で、送信波として送信し、複数の第2物体検出装置の各々の送信部は、他の第2物体検出装置および複数の第1物体検出装置と同時並行的に、第1波動を、第1情報とは異なる第2情報を識別情報として含むように符号化した上で、送信波として送信し、複数の第1物体検出装置および複数の第2物体検出装置の各々は、判別部の判別結果に応じて、送信波と受信波との識別情報の類似度に対応した相関値を取得する相関処理部をさらに備え、複数の第1物体検出装置および複数の第2物体検出装置の各々の検出部は、相関値と閾値との比較結果に基づいて、物体に関する情報を検出する。このような構成によれば、識別情報をさらに利用して、より多くの物体検出装置の判別を簡単に実現することができる。
【0010】
また、上述した物体検出システムにおいて、複数の第1周波数は、それぞれ、所定の周波数帯域を仮想的に分割することで構成される互いに重複しない複数の帯域の範囲内に設定される。このような構成によれば、帯域分割に基づく方法により、互いに異なる複数の第1周波数を容易に設定することができる。
【0011】
また、上述した物体検出システムにおいて、検出部は、送信波が送信されたタイミングと、受信波が受信されたタイミングと、の差に基づいて、物体に関する情報として、物体までの距離を検出する。このような構成によれば、物体までの距離を容易に検出することができる。
【0012】
この場合において、物体検出システムは、送信部は、第1モードとして、第1波動を送信波として送信し、第2のモードとして、所定の周波数帯域の中心周波数の近傍の第3周波数の第3波動を前記送信波として送信し、物体検出システムは、検出部の検出結果としての前記物体までの距離に応じて、前記送信部による前記送信波の送信態様を、前記第1モードと、第2モードと、のいずれかに制御する制御部を、さらに備える。このような構成によれば、所定の周波数帯域の一部の帯域のみを使用する第1モードと、所定の周波数帯域のうち効率的にパワーを出すことができる中心周波数の近傍の帯域を使用する第2モードとを、状況に応じて切り替えることができる。
【0013】
なお、上述した物体検出システムにおいて、複数の第1物体検出装置の各々の送信部および受信部は、超音波を送受信可能な単一の振動子を含む送受信部として一体的に構成されており、所定の周波数帯域は、振動子のスペックに応じて設定される。このような構成によれば、送信波および受信波を送受信するための構成を簡単化することができるとともに、所定の周波数帯域を容易に設定することができる。
【0014】
本開示の他の一例としての物体検出装置は、所定の周波数帯域に含まれる周波数の波動を送受信可能な物体検出装置であって、所定の周波数帯域の範囲内に含まれる、物体検出装置と他の物体検出装置とを含む複数の物体検出装置に対してそれぞれ設定される複数の第1周波数のうちの1つの第1周波数で信号レベルがピークとなる第1波動を送信波として送信する送信部と、物体での反射に応じて戻ってきた送信波に基づく受信波を受信する受信部と、受信波に対する周波数解析の結果と、複数の第1周波数に関する情報と、に基づいて、第1波動に対応する波動として受信波に含まれる第2波動の信号レベルがピークとなる第2周波数を判別する判別部と、判別部の判別結果に応じて取得される情報に基づいて、物体に関する情報を検出する検出部と、を備え、判別部は、周波数解析の結果として得られる1以上の第2周波数の数と、複数の第1周波数の数と、が一致しない場合、所定の周波数帯域の範囲内で前記1以上の第2周波数よりも低域側および高域側の少なくとも一方に存在し、受信波が低域側または高域側に遷移した場合に受信波が受信されない周波数帯域を示す空き帯域に基づいて、1以上の第2周波数と複数の第1周波数との対応関係を判別する。
【0015】
上記のような構成によれば、同様の構成を有する物体検出装置が複数存在する場合に、送信波の送信に使用する周波数としての第1周波数を物体検出装置毎に異ならせ、送信波(第1波動)と受信波(第2波動)との周波数の対応関係を判別するという簡単な方法で、受信波として戻ってきた送信波の送信元を判別することができる。
また、このような構成によれば、たとえばドップラーシフトによる大幅な周波数の遷移によって第1周波数の数と第2周波数の数とが一致しない場合であっても、空き帯域を考慮して、第1周波数と第2周波数との対応関係を容易に判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施形態にかかる物体検出システムを備えた車両を上方から見た外観を示した例示的かつ模式的な図である。
【
図2】
図2は、実施形態にかかるECU(電子制御装置)および距離検出装置の概略的なハードウェア構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【
図3】
図3は、実施形態にかかる距離検出装置が物体までの距離を検出するために利用する技術の概要を説明するための例示的かつ模式的な図である。
【
図4】
図4は、実施形態にかかる距離検出装置の詳細な構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【
図5】
図5は、実施形態にかかる送信波の周波数の一例を示した例示的かつ模式的な図である。
【
図6】
図6は、実施形態にかかる受信波の周波数の一例を示した例示的かつ模式的な図である。
【
図7】
図7は、実施形態にかかる送信波の周波数の他の一例を示した例示的かつ模式的な図である。
【
図8】
図8は、実施形態にかかる距離検出装置が物体に関する情報を検出するために実行する一連の処理を示した例示的かつ模式的なフローチャートである。
【
図9】
図9は、実施形態の変形例にかかる物体検出システムの詳細な構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。以下に記載する実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、あくまで一例であって、以下の記載内容に限られるものではない。
【0018】
<実施形態>
図1は、実施形態にかかる物体検出システムを備えた車両1を上方から見た外観を示した例示的かつ模式的な図である。詳細は後述するが、実施形態にかかる物体検出システムは、超音波の送受信を行い、当該送受信の時間差などを取得することで、周囲に存在する人間を含む物体(たとえば後述する
図2に示される障害物O)に関する情報を検知する車上センサシステムである。
【0019】
図1に示されるように、物体検出システムは、一対の前輪3Fと一対の後輪3Rとを含んだ四輪の車両1の内部に搭載されたECU(電子制御装置)100と、車両1の外装に搭載された距離検出装置201~204と、を備えている。距離検出装置201~204は、「物体検出装置」の一例である。
【0020】
図1に示される例では、一例として、距離検出装置201~204が、車両1の外装としての車体2の後端のたとえばリヤバンパにおいて、互いに異なる位置に設置されている。
【0021】
ここで、実施形態において、距離検出装置201~204が有するハードウェア構成および機能は、それぞれ同一である。したがって、以下では、簡単化のため、距離検出装置201~204を総称して距離検出装置200と記載することがある。
【0022】
なお、実施形態において、距離検出装置200の設置位置は、
図1に示される例に限られるものではない。距離検出装置200は、車体2の前端のたとえばフロントバンパに設置されてもよいし、車体2の側面に設置されてもよいし、リヤバンパ、フロントバンパ、および側面のうち2つ以上に設置されてもよい。また、実施形態では、距離検出装置200の個数も、
図1に示される例に限られるものではない。ただし、実施形態の技術は、距離検出装置200が複数存在する構成に有効である。
【0023】
図2は、実施形態にかかるECU100および距離検出装置200のハードウェア構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【0024】
図2に示されるように、ECU100は、通常のコンピュータと同様のハードウェア構成を備えている。より具体的に、ECU100は、入出力装置110と、記憶装置120と、プロセッサ130と、を備えている。
【0025】
入出力装置110は、ECU100と外部(
図1に示される例では距離検出装置200)との間における情報の送受信を実現するためのインターフェースである。
【0026】
記憶装置120は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などといった主記憶装置、および/または、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などといった補助記憶装置を含んでいる。
【0027】
プロセッサ130は、ECU100において実行される各種の処理を司る。プロセッサ130は、たとえばCPU(Central Processing Unit)などといった演算装置を含んでいる。プロセッサ130は、記憶装置120に記憶されたコンピュータプログラムを読み出して実行することで、たとえば自動駐車などといった各種の機能を実現する。
【0028】
一方、
図2に示されるように、距離検出装置200は、送受信部210と、制御部220と、を備えている。
【0029】
送受信部210は、圧電素子などの振動子211を有しており、当該振動子211により、超音波の送受信を実現する。
【0030】
より具体的に、送受信部210は、振動子211の振動に応じて発生する超音波を送信波として送信し、当該送信波として送信された超音波が外部に存在する物体で反射されて戻ってくることでもたらされる振動子211の振動を受信波として受信する。
図2に示される例では、送受信部210からの超音波を反射する物体として、路面RS上に設置された障害物Oが例示されている。
【0031】
なお、
図2に示される例では、送信波の送信と受信波の受信との両方が単一の振動子211を有した単一の送受信部210により実現される構成が例示されている。しかしながら、実施形態の技術は、たとえば、送信波の送信用の第1の振動子と受信波の受信用の第2の振動子とが別々に設けられた構成のような、送信側の構成と受信側の構成とが分離された構成にも当然に適用可能である。
【0032】
制御部220は、通常のコンピュータと同様のハードウェア構成を備えている。より具体的に、制御部220は、入出力装置221と、記憶装置222と、プロセッサ223と、を備えている。
【0033】
入出力装置221は、制御部220と外部(
図1に示される例ではECU100および送受信部210)との間における情報の送受信を実現するためのインターフェースである。
【0034】
記憶装置222は、ROMやRAMなどといった主記憶装置、および/または、HDDやSSDなどといった補助記憶装置を含んでいる。
【0035】
プロセッサ223は、制御部220において実行される各種の処理を司る。プロセッサ223は、たとえばCPUなどといった演算装置を含んでいる。プロセッサ223は、記憶装置333に記憶されたコンピュータプログラムを読み出して実行することで、各種の機能を実現する。
【0036】
ここで、実施形態にかかる距離検出装置200は、いわゆるTOF(Time Of Flight)法と呼ばれる技術により、物体までの距離を検出する。以下に詳述するように、TOF法とは、送信波が送信された(より具体的には送信され始めた)タイミングと、受信波が受信された(より具体的には受信され始めた)タイミングとの差を考慮して、物体までの距離を算出する技術である。
【0037】
図3は、実施形態にかかる距離検出装置200が物体までの距離を検出するために利用する技術の概要を説明するための例示的かつ模式的な図である。より具体的に、
図3は、実施形態にかかる距離検出装置200が送受信する超音波の信号レベル(たとえば振幅)の時間変化をグラフ形式で例示的かつ模式的に示した図である。
図3に示されるグラフにおいて、横軸は、時間に対応し、縦軸は、距離検出装置200が送受信部210(振動子211)を介して送受信する信号の信号レベルに対応する。
【0038】
図3に示されるグラフにおいて、実線L11は、距離検出装置200が送受信する信号の信号レベル、つまり振動子211の振動の度合の時間変化を表す包絡線の一例を表している。この実線L11からは、振動子211がタイミングt0から時間Taだけ駆動されて振動することで、タイミングt1で送信波の送信が完了し、その後タイミングt2に至るまでの時間Tbの間は、慣性による振動子211の振動が減衰しながら継続する、ということが読み取れる。したがって、
図3に示されるグラフにおいては、時間T2が、いわゆる残響時間に対応する。
【0039】
実線L11は、送信波の送信が開始したタイミングt0から時間Tpだけ経過したタイミングt4で、振動子211の振動の度合が、一点鎖線L21で表される所定の閾値Th1を超えた(または以上の)ピークを迎える。この閾値Th1は、振動子211の振動が、検知対象の物体(たとえば
図2に示される障害物O)により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信によってもたらされたものか、または、検体対象外の物体(たとえば
図2に示される路面RS)により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信によってもたらされたものか、を識別するために予め設定された値である。
【0040】
なお、
図3には、閾値Th1が時間経過によらず変化しない一定値として設定された例が示されているが、実施形態において、閾値Th1は、時間経過とともに変化する値として設定されてもよい。
【0041】
ここで、閾値Th1を超えた(または以上の)ピークを有する振動は、検知対象の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信によってもたらされたものだとみなすことができる。一方、閾値Th1以下の(または未満の)ピークを有する振動は、検知対象外の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信によってもたらされたものだとみなすことができる。
【0042】
したがって、実線L11からは、タイミングt4における振動子211の振動が、検知対象の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信によってもたらされたものである、ということが読み取れる。
【0043】
なお、実線L11においては、タイミングt4以降で、振動子211の振動が減衰している。したがって、タイミングt4は、検知対象の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信が完了したタイミング、換言すればタイミングt1で最後に送信された送信波が受信波として戻ってくるタイミング、に対応する。
【0044】
また、実線L11においては、タイミングt4におけるピークの開始点としてのタイミングt3は、検知対象の物体により反射されて戻ってきた送信波としての受信波の受信が開始したタイミング、換言すればタイミングt0で最初に送信された送信波が受信波として戻ってくるタイミング、に対応する。したがって、実線L11においては、タイミングt3とタイミングt4との間の時間ΔTが、送信波の送信時間としての時間Taと等しくなる。
【0045】
上記を踏まえて、TOF法により検知対象の物体までの距離を求めるためには、送信波が送信され始めたタイミングt0と、受信波が受信され始めたタイミングt3と、の間の時間Tfを求めることが必要となる。この時間Tfは、タイミングt0と、受信波の信号レベルが閾値Th1を超えたピークを迎えるタイミングt4と、の差分としての時間Tpから、送信波の送信時間としての時間Taに等しい時間ΔTを差し引くことで求めることができる。
【0046】
送信波が送信され始めたタイミングt0は、距離検出装置200が動作を開始したタイミングとして容易に特定することができ、送信波の送信時間としての時間Taは、設定などによって予め決められている。したがって、TOF法により検知対象の物体までの距離を求めるためには、結局のところ、受信波の信号レベルが閾値Th1を超えたピークを迎えるタイミングt4を特定することが重要となる。
【0047】
ところで、上述した実施形態のような、距離検出装置200が複数設けられた構成においては、周囲に存在する物体に関する情報をより詳細に検出するために、複数の距離検出装置200の各々から、送信波を略同時(同時並行的)に送信することが必要となる。この場合、受信波として戻ってきた送信波の送信元を簡単な方法で判別することができれば望ましい。
【0048】
ここで、受信波として戻ってきた送信波の送信元を判別するための一つの方法として、複数の距離検出装置200の各々に、他の距離検出装置200とは異なる識別情報を含むように符号化された符号化信号を、送信波として送信させる方法が考えられる。この方法において、複数の距離検出装置200の全てを互いに判別可能にするためには、距離検出装置200の個数に応じて、識別情報の符号長を長くする必要がある。しかしながら、識別情報の符号長を長くすると、その分、送信波の送信時間が長くなるので、近距離に存在する物体に関する情報を検出するために一般的に求められる迅速性が損なわれることがある。
【0049】
そこで、実施形態は、複数の距離検出装置200の各々を以下のように構成することで、受信波として戻ってきた送信波の送信元を簡単な方法で判別(し、かつ近距離に存在する物体に関する情報の検出の迅速性を確保)することを実現する。
【0050】
図4は、実施形態にかかる距離検出装置200の詳細な構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。なお、
図4に示される例では、送信側の構成と受信側の構成とが分離されているが、このような図示の態様は、あくまで説明の便宜のためのものである。したがって、実施形態では、前述したように、送信波の送信と受信波の受信との両方が(単一の)振動子211を有した(単一の)送受信部210により実現される。ただし、前述の繰り返しになるが、実施形態の技術は、送信側の構成と受信側の構成とが分離された構成にも当然に適用可能である。
【0051】
図4に示されるように、距離検出装置200は、送信側の構成として、送波器411と、符号生成部412と、搬送波出力部413と、乗算器414と、増幅回路415と、を有している。なお、送波器411は、「送信部」の一例である。
【0052】
また、距離検出装置200は、受信側の構成として、受波器421と、増幅回路422と、フィルタ処理部423と、周波数解析部424と、判別部425と、フィルタ処理部426と、相関処理部427と、包絡線処理部428と、閾値処理部429と、検出部430と、を有している。なお、受波器421は、「受信部」の一例である。
【0053】
図4に示される構成の少なくとも一部は、専用のハードウェア(アナログ回路)によって実現され、残りの部分は、ハードウェアとソフトウェアとの協働の結果、より具体的には、距離検出装置200のプロセッサ223が記憶装置222からコンピュータプログラムを読み出して実行した結果として実現されうる。
【0054】
まず、送信側の構成について簡単に説明する。
【0055】
送波器411は、前述した振動子211によって構成され、当該振動子211により、増幅回路415から出力される(増幅後の)送信信号に応じた送信波を送信する。
【0056】
ここで、実施形態において、送波器411は、周囲に存在する物体に関する情報をより詳細に検出することを実現するために、たとえばECU100の制御のもとで、他の距離検出装置200の送波器411と同時並行的に送信波を送信する。したがって、実施形態では、前述したように、受信波として戻ってきた送信波の送信元を何らかの方法で特定することが必要となる。しかしながら、送信元の特定を符号長の長い識別情報の付与のみによって実現すると、前述したように、物体検出の迅速性が損なわれるという不都合が発生することがある。
【0057】
そこで、実施形態において、送波器411は、少なくとも2つの距離検出装置200の判別を識別情報の付与に依存することなく可能にするために、次の
図5に示されるように、所定の周波数帯域を仮想的に分割することで構成される2つの帯域のうちの一方を使用して、送信波を送信する。
【0058】
図5は、実施形態にかかる送信波の周波数の一例を示した例示的かつ模式的な図である。
図5に示される例において、横軸は、周波数を表し、縦軸は、信号レベル(たとえばPSD:パワースペクトル密度)を表している。
【0059】
図5に示されるように、実施形態において、送信波は、所定の周波数帯域FBを仮想的に2分割することで構成される互いに重複しない2つの帯域B1およびB2のうちの一方を利用して送信される。帯域B1の中心周波数f1は、所定の周波数帯域FBの中心周波数fcから所定の周波数Δfを減算したものに対応し、帯域B2の中心周波数f2は、所定の周波数帯域FBの中心周波数fcに所定の周波数Δfを加算したものに対応する。
【0060】
なお、所定の周波数帯域FBは、たとえば、振動子211のスペックに応じて設定される。したがって、所定の周波数帯域FBの下限周波数faおよび上限周波数fbは、それぞれ、振動子211が能力的に送信可能な最大および最小の周波数に対応する。
【0061】
ここで、実施形態にかかる物体検出システムは、
図1に示される4つの距離検出装置200を2つずつ2組に分類し、各組を構成する2つの距離検出装置200のうち一方の送波器411により、帯域B1およびB2のうち一方の範囲内の周波数の送信波を送信し、2つの距離検出装置200のうち他方の送波器411により、帯域B1およびB2のうち他方の範囲内の周波数の送信波を送信する、という動作を同時並行的に実行する。このような動作は、たとえばECU100の制御のもとで実行される。
【0062】
上記の動作によれば、たとえば反射をもたらす物体と車両1との相対速度の発生に起因するドップラーシフトが発生しないと仮定した場合、帯域B1およびB2の範囲内の周波数で送信される送信波は、それぞれ、帯域B1およびB2の範囲内の同一の周波数の受信波として受信されるはずである。この場合、受信波に対する周波数解析の結果と、送信波の2つの周波数に関する(予め決められた)情報と、に基づいて、受信波の周波数と送信波の周波数との対応関係を特定することが可能である。したがって、上記の動作によれば、識別情報の付与に依存することなく、受信波として戻ってきた送信波の送信元を特定することが可能である。
【0063】
なお、送信波の2つの周波数に関する情報としては、たとえば、物体検出システムに設けられた4つの距離検出装置200のうち2つの距離検出装置200毎に設定される、送信波の信号レベルがピークとなる2つの周波数を示す情報が含まれている。また、受信波に対する周波数解析の結果としては、たとえば、受信波の信号レベルが閾値以上のピークとなる周波数を示す情報が含まれている。
【0064】
ここで、実施形態では、車両1と、当該車両1の周囲に存在する送信波の反射をもたらす物体と、の間の相対速度に起因するドップラーシフトが生じない場合、送信波の信号レベルがピークとなる(2つの距離検出装置200毎に設定された)周波数と、受信波の信号レベルがピークとなる周波数と、が略一致する。したがって、このような場合、判別部425は、送信波に含まれる波動と受信波に含まれる波動との送受信に関する対応関係を容易に判別することが可能である。
【0065】
また、4つの距離検出装置200が略同時(同時並行的)に送信波を送信した際においてドップラーシフトが生じた場合であっても、当該ドップラーシフトによる周波数の遷移の度合が比較的小さい場合には、所定の周波数帯域FBの範囲内に設定された送信波の周波数が2つ存在し、周波数解析の結果として検出される受信波の周波数が所定の周波数帯域FBの範囲内に2つ存在する場合が想定される。このような場合、高域側の周波数の送信波と、高域側の周波数の受信波と、が送受信に関して互いに対応しており、低域側の周波数の送信波と、低域側の周波数の受信波と、も送受信に関して互いに対応しているはずであるので、判別部425は、信波に含まれる波動と受信波に含まれる波動との送受信に関する対応関係をその通りに判別する。なお、送信波に含まれる2つの波動のそれぞれの2つの周波数の間隔と、受信波に含まれる2つの波動のそれぞれの2つの周波数の間隔とは、ドップラーシフトが生じた場合でも一致するはずであるので、判別部425は、送信波に含まれる波動と受信波に含まれる波動との送受信に関する対応関係の判別に、2つの周波数の間隔を利用してもよい。
【0066】
このようにして、実施形態にかかる距離検出装置200は、送信波に含まれる波動と受信波に含まれる波動との送受信に関する対応関係を特定することで、互いに対応する送信波および受信波の送受信のタイミングの差を取得し、車両1または当該車両1の周囲に存在する物体が移動している場合であっても、当該車両1の周囲に存在する物体までの距離などを取得する。
【0067】
なお、車両1と、当該車両1の周囲に存在する物体と、の間の相対速度がさらに大きくなると、さらなるドップラーシフトが生じるが、4つの距離検出装置200が略同時に送信波を送信した際において、さらなるドップラーシフトが生じると、周波数解析の結果として検出される受信波の周波数が所定の周波数帯域FBの範囲内に1つしか存在しなくなる可能性がある。これに対して、詳細は後述するが、実施形態によれば、受信波の周波数が所定の周波数帯域FBの範囲内に1つしか存在しなくなる場合であっても、受信波に対する周波数解析の結果と、送信波の2つの周波数に関する情報と、に基づいて、受信波の周波数と送信波の周波数との対応関係を特定することが可能である。したがって、実施形態によれば、ドップラーシフトの発生の有無に関わらず、識別情報の付与に依存することなく、受信波として戻ってきた送信波の送信元を特定することが可能である。
【0068】
このように、実施形態において、送波器411は、所定の周波数帯域FBの範囲内に設定される2つの第1周波数のうち、他の距離検出装置200とは異なる第1周波数の第1波動を、他の距離検出装置200と同時並行的に、送信波として送信する。2つの第1周波数は、それぞれ、振動子211のスペックに応じて設定される所定の周波数帯域FBを仮想的に分割することで構成される互いに重複しない2つの帯域B1およびB2の範囲内に設定される。
【0069】
ところで、上記のような帯域分割に基づく方法で識別可能な距離検出装置200の個数は、帯域分割によって構成される帯域の個数に対応する。したがって、所定の周波数帯域FBを
図5に示されるような形で2分割するだけでは、2つの距離検出装置200の判別しか実現することができない。
【0070】
しかしながら、
図1に示されるように、実施形態は、4つの距離検出装置200を想定している。そこで、実施形態は、上記のような帯域分割に基づく方法と、送信波に識別情報を付与する方法と、を組み合わせて実施することで、4つの距離検出装置200の判別を可能にする。以下では、前者の方法として、たとえば、所定の周波数帯域FBを2つの帯域に分割し、一方の帯域を2つの距離検出装置200に割り当て、他方の帯域を残りの2つの距離検出装置200に割り当てる方法が使用され、後者の方法として、たとえば、2つの識別情報を用い、一方の識別情報を2つの距離検出装置200に割り当て、他方の識別情報を残りの2つの距離検出装置200に割り当てる方法が使用される例について説明する。
【0071】
すなわち、
図4に戻り、符号生成部412は、たとえば0または1のビットの連続からなるビット列の符号に対応した信号(パルス信号)を生成する。このビット列の長さは、送信信号に付与される識別情報の符号長に対応する。
【0072】
なお、前述した通り、識別情報の符号長を長くすると、その分、送信波の送信時間が長くなり、物体検出の迅速性が損なわれることがある。したがって、実施形態において、識別情報の符号長は、4つ全ての距離検出装置200を互いに識別可能な程度の符号長よりも短い、2つの距離検出装置200を互いに識別可能な程度の符号長を有するように設定される。これにより、
図5に示されるような帯域分割に基づく方法と組み合わせることで、2×2=4つの距離検出装置200の判別が可能になる。
【0073】
搬送波出力部413は、識別情報を付与する対象の信号としての搬送波を出力する。たとえば、搬送波は、
図5に示される帯域B1またはB2の範囲内の周波数の正弦波として構成される。
【0074】
乗算器414は、符号生成部412からの出力と、搬送波出力部413からの出力と、を乗算することで、識別情報を付与するように搬送波の変調を実行する。そして、乗算器414は、識別情報が付与された変調後の搬送波を、送信波のもととなる送信信号として、増幅回路415に出力する。なお、実施形態において、変調方式は、たとえば振幅変調方式や位相変調方式などといった、一般的によく知られた複数の変調方式の単独または2以上の組み合わせが用いられうる。
【0075】
増幅回路415は、乗算器414から出力される送信信号を増幅し、増幅後の送信信号を送波器411に出力する。
【0076】
このように、実施形態では、4つの距離検出装置200を2つの第1距離検出装置(たとえば距離検出装置201および202)と2つの第2距離検出装置(たとえば距離検出装置203および204)とに分類した場合、各第1距離検出装置は、上記のような帯域分割によって構成される複数の帯域のうち、他の第1距離検出装置とは異なる帯域の範囲内の周波数の送信波を、他の第1距離検出装置および第2距離検出装置と同時並行的に送信する。このとき、各第1距離検出装置は、送信波を、第1情報を識別情報として含むように符号化した上で送信する。同様に、各第2距離検出装置は、上記のような帯域分割によって構成される複数の帯域のうち、他の第2距離検出装置とは異なる(第1距離検出装置との関係では重複していても問題ない)帯域の範囲内の周波数の送信波を、他の第2距離検出装置および第1距離検出装置と同時並行的に送信する。このとき、各第2距離検出装置は、送信波を、上記の第1情報とは異なる第2情報を識別情報として含むように符号化した上で送信する。
【0077】
次に、受信側の構成について簡単に説明する。
【0078】
受波器421は、前述した振動子211によって構成され、当該振動子211により、物体により反射された送信波を受信波として受信する。
【0079】
増幅回路422は、受波器421が受信した受信波に応じた信号としての受信信号を増幅する。
【0080】
フィルタ処理部423は、増幅回路422により増幅された受信信号にフィルタリング処理を施し、ノイズを抑制する。
【0081】
ここで、実施形態では、前述したように、受信波として戻ってきた送信波の送信元を識別するために、送信波の周波数と受信波の周波数との対応関係を特定する必要がある。この点に関して、ドップラーシフトが発生しないと仮定した場合、送信波の周波数と受信波の周波数とは基本的に一致するはずなので、両者の対応関係を特定することは容易である。しかしながら、ドップラーシフトが発生する場合、次の
図6に示されるように、受信波に対する周波数解析の結果と、送信波の周波数に関する情報と、に基づいて、送信波の周波数と受信波の周波数との対応関係を特定する必要がある。
【0082】
図6は、実施形態にかかる受信波の周波数の一例を示した例示的かつ模式的な図である。より具体的に、
図6は、
図5に示される帯域B1およびB2の範囲内の2つの周波数の送信波が物体で反射された結果として受波器421により受信される受信波の周波数の一例を示した図である。なお、
図6に示される例において、横軸は、周波数を表し、縦軸は、信号レベル(たとえばPSD:パワースペクトル密度)を表している。
【0083】
図6に示される例では、送信波が受信波として受信される際に、ドップラーシフトによる周波数の高域側への遷移が発生している。より具体的に、
図6に示される帯域B11(中心周波数f11)は、
図5に示される帯域B1(中心周波数f1)が高域側に遷移したものに対応し、
図6に示される帯域B12(中心周波数f12)は、
図5に示される帯域B2(中心周波数f2)が高域側に遷移したものに対応する。
【0084】
ここで、実施形態において、受波器421は、振動子211を送波器411と共用しているので、振動子211のスペックに応じた所定の周波数帯域FBの範囲内の周波数の受信波しか受信することができない。これに対して、
図6に示される例では、帯域B11の中心周波数f12は、所定の周波数帯域FBの下限周波数faと上限周波数fbとの間に存在しているが、帯域B12の中心周波数f12が、所定の周波数帯域FBの上限周波数fbよりも高域側に外れている。したがって、
図6に示される例では、帯域B11の範囲内の周波数の受信波は正常に受信されるが、帯域B12の範囲内の周波数の受信波は正常に受信されにくい。
【0085】
ところで、
図6に示される帯域B11および帯域B12の関係(たとえば中心周波数f11およびf12の間の間隔)と、
図5に示される帯域B1および帯域B2の関係(たとえば中心周波数f1およびf2の間の間隔)とは、ドップラーシフトの発生の有無に関わらず、一致するはずである。これを踏まえれば、2つの周波数の送信波が1つの周波数の受信波としてしか正常に受信されない
図6に示される例のような状況であっても、当該1つの周波数の受信波が、2つの周波数の送信波のいずれに対応するかを判別することが可能である。
【0086】
たとえば、
図6に示される例において、帯域B11の範囲内の周波数の受信波が、
図5に示される帯域B2の範囲内の周波数の送信波に対応すると仮定すると、所定の周波数帯域FBの範囲内で帯域B11よりも低域側には、
図5に示される帯域B1と同様の信号レベルを示す帯域が存在するはずである。しかしながら、
図6に示される例において、所定の周波数帯域FBの範囲内で帯域B11よりも低域側は、空き帯域Xとなっている。したがって、
図6に示される例において、帯域B11の範囲内の周波数の受信波は、
図5に示される帯域B1の範囲内の周波数の送信波に対応すると判別することが可能である。
【0087】
より具体的に、
図6に示されるように、信号レベルが閾値以上のピークとなる受信波の周波数として所定の周波数帯域FBの範囲内で実際に検出される帯域B11の中心周波数f11と上限周波数fbとの間の間隔、および、帯域B11の中心周波数f11と下限周波数faとの間の間隔の各々と、送信波の信号レベルがピークとなる中心周波数f1およびf2の間の間隔である2×Δfと、の大小関係に応じて、ドップラーシフトによる周波数の遷移の方向、すなわち空き帯域の位置を特定することが可能である。
【0088】
たとえば、
図6に示される例では、中心周波数f11と上限周波数fbとの間の間隔が2×Δfよりも小さく、中心周波数f11と下限周波数faとの間の間隔が2×Δfよりも大きいことが読み取れる。このような場合、判別部425は、中心周波数f2(
図5参照)で信号レベルがピークとなるよう帯域B2を利用して送信された波動が、ドップラーシフトによる周波数の遷移の結果として、上限周波数fbよりも高い周波数で信号レベルがピークとなる波動(所定の周波数帯域FBの範囲内からは外れているので実際には検出不能の波動)になったと判別する。すなわち、このような場合、判別部425は、所定の周波数帯域FBの範囲内で実際に検出される帯域B11の中心周波数f11と下限周波数faとの間に、空き帯域Xが存在すると判別する。
【0089】
一方、仮に、信号レベルが閾値以上のピークとなる受信波の周波数として所定の周波数帯域FBの範囲内で実際に検出される1つの周波数と上限周波数fbとの間の間隔が2×Δfよりも大きく、当該1つの周波数と下限周波数faとの間の間隔が2×Δfよりも小さい場合、判別部425は、中心周波数f1(
図5参照)で信号レベルがピークとなるよう帯域B1を利用して送信された波動が、ドップラーシフトによる周波数の遷移の結果として、下限周波数faよりも低い周波数で信号レベルがピークとなる波動(所定の周波数帯域FBの範囲内からは外れているので実際には検出不能の波動)になったと判別する。すなわち、このような場合、判別部425は、所定の周波数帯域FBの範囲内で実際に検出される1つの周波数と上限周波数fbとの間に、空き帯域が存在すると判別する。
【0090】
なお、空き帯域の位置の判別方法は、ここに記載した方法に限られるものではない。空き帯域の位置を判別する他の方法として、たとえば、所定の周波数帯域FBの範囲内で実際に検出される1つの周波数が、下限周波数faと上限周波数fbとのどちらに近いかに基づいて、空き帯域の位置を判別する方法も考えられる。
【0091】
また、実施形態では、4つの距離検出装置200の各々が送受信する波動の対応関係を判別する構成が例示されている。しかしながら、実施形態の技術は、判別の対象となる距離検出装置200の数を4つに制限するものではなく、実施の態様に応じて様々な数の距離検出装置200に対する判別を実施することが可能である。たとえば、8つの距離検出装置200が略同時(同時並行的)に送信波を送信する構成においては、所定の周波数帯域FBを2つに分割するとともに、4種類の識別情報を使用すれば、8つの距離検出装置200の判別を適切に実現することが可能である。
【0092】
また、実施形態では、帯域分割に基づく方法を、送信波に識別情報を付与する方法以外の他の方法と組み合わせることで、距離検出装置200の判別を実現する構成も考えられる。さらに、実施形態では、当該他の方法と、帯域分割に基づく方法と、送信波に識別情報を付与する方法と、の全てを組み合わせることで、距離検出装置200の判別を実現する構成も考えられる。
【0093】
なお、ドップラーシフトの度合が
図6に示される例よりも小さい場合は、所定の周波数帯域FBの範囲内に収まる2つの帯域の範囲内の2つの周波数の受信波が両方とも正常に受信される場合も考えられる。この場合は、受信波の2つの周波数の低域側および高域側の両方に存在する空き帯域の大きさを比較して、周波数の遷移の方向を特定すれば、受信波の周波数と送信波の周波数との対応関係を判別することも可能である。
【0094】
このように、実施形態では、受信波に対する周波数解析の結果と、送信波の周波数に関する情報と、に着目すれば、空き帯域を考慮して、受信波の周波数と、送信波の周波数と、の対応関係を判別することが可能である。
【0095】
したがって、
図4に戻り、周波数解析部424は、フィルタ処理部423によるフィルタリング処理を経た受信信号に対して、FFT(高速フーリエ変換)などに基づく周波数解析(スペクトル解析)を実行する。
【0096】
そして、判別部425は、周波数解析部424による周波数解析の結果と、送信波(つまり送信信号)の周波数に関する情報と、に基づいて、上述したような手順で、受信波の周波数と送信波の周波数との対応関係を特定する。より具体的に、判別部425は、周波数解析の結果として得られる受信信号の周波数の関係が、送信信号の周波数の関係と一致しない場合、所定の周波数帯域FBの範囲内で受信信号の周波数よりも低域側または高域側に存在する空き帯域に基づいて、受信信号の周波数と送信信号の周波数との対応関係を判別する。
【0097】
そして、フィルタ処理部426は、判別部425による判別結果に基づいて、1以上の周波数の1以上の信号が含まれうる受信信号から、所定の周波数帯域(たとえば送信信号の周波数に対応した周波数帯域)の信号を抽出する。なお、フィルタ処理部426は、次の相関処理部427による相関処理をより正確に実行するために、送信信号の周波数と整合をとるような周波数の補正を、抽出した信号に対して施してもよい。
【0098】
そして、相関処理部427は、たとえば送信側の構成から取得される送信信号と、フィルタ処理部426によるフィルタリング処理を経た信号と、に基づいて、送信波と受信波との識別情報の類似度に対応した相関値を取得する。相関値は、一般的によく知られた相関関数などに基づいて算出される。
【0099】
そして、包絡線処理部428は、相関処理部427により取得された相関値に対応した信号の波形の包絡線を求める。
【0100】
そして、閾値処理部429は、包絡線処理部428により求められた包絡線の値と、所定の閾値と、を比較する。
【0101】
検出部430は、閾値処理部429による比較結果に基づいて、受信波の信号レベルが閾値を超えたピークを迎えるタイミング(たとえば
図2に示されるタイミングt4)を特定し、TOF法により、物体までの距離を検出する。
【0102】
なお、実施形態において、距離検出装置200における上述した各構成は、距離検出装置200自身の制御部220の制御のもとで動作してもよいし、外部のECU100の制御のもとで動作してもよい。
【0103】
このように、実施形態にかかる4つの距離検出装置200の各々は、判別部425による判別処理と、相関処理部427による相関処理と、に基づいて、受波器421により受信された受信波から、特定の識別情報が付与された特定の周波数の受信波を抽出し、当該受信波の受信タイミングと送信波の送信タイミングとの差に基づいて、物体までの距離を検出する。
【0104】
なお、実施形態において、4つの距離検出装置200の各々は、必ずしも、自身が送信した送信波に対応した受信波に基づいて物体までの距離を検出しなくてもよい。たとえば、距離検出装置201は、距離検出装置202が送信した送信波に対応する受信波と、距離検出装置201が送信した送信波と、に基づいて、超音波の往復の飛行距離を検出してもよい。距離検出装置201と距離検出装置202との位置関係は固定であるので、当該位置関係を考慮すれば、超音波の往復の飛行距離に基づいて、物体までの距離を検出することが可能である。
【0105】
ところで、振動子211のスペックに応じて設定される所定の周波数帯域FBのうち、最も効率的にパワーを出すことができる帯域は、所定の周波数帯域FBの中心周波数fcの近傍の帯域である。これに対して、前述したような帯域分割に基づく方法は、中心周波数fcの近傍の帯域のみを使用する方法ではないので、たとえば遠距離にある物体の検出などのために強いパワーで送信波を送信する必要がある場合において最善の方法とはならない可能性がある。
【0106】
そこで、実施形態において、距離検出装置200は、上述した
図5に示される2つの帯域B1およびB2を使用して送信波を送信するモードと、次の
図7に示される1つの帯域B0を使用して送信波を送信するモードとを、状況に応じて切り替えうる。
【0107】
図7は、実施形態にかかる送信波の周波数の他の一例を示した例示的かつ模式的な図である。
図7に示される例において、横軸は、周波数を表し、縦軸は、信号レベル(たとえばPSD:パワースペクトル密度)を表している。
【0108】
図7に示される例において、帯域B0の中心周波数は、所定の周波数帯域FBの中心周波数fcと一致するので、帯域B0は、最も効率的にパワーを出すことができる帯域である。したがって、たとえば遠距離にある物体の検出などのために強いパワーで送信波を送信する必要がある場合に、上述した
図5に示される2つの帯域B1およびB2を使用して送信波を送信するモードから、帯域B0の範囲内の周波数を使用して送信波を送信するモードへの切り替えが実施されれば、状況に応じた適切な距離の検出を実現することが可能である。ただし、帯域B0の範囲内の周波数のみを使用するモードでは、送信波に付与する識別情報の符号長を、全ての距離検出装置200を判別可能な程度に長く設定する必要がある。
【0109】
このように、実施形態において、距離検出装置200の制御部220は、検出部430の検出結果としての物体までの距離に応じて、送波器411による送信波の送信態様を、帯域分割に基づく方法で送信波を送信する第1モード(たとえば中近距離モード)と、所定の周波数帯域FBの中心周波数fcの近傍の周波数の波動を送信波として送信する第2モード(たとえば遠距離モード)と、のいずれかに制御しうる。なお、実施形態では、このような制御がECU100によって実行されてもよい。
【0110】
以下、実施形態において実行される処理の流れについて説明する。
【0111】
図8は、実施形態にかかる距離検出装置200が物体に関する情報を検出するために実行する一連の処理を示した例示的かつ模式的なフローチャートである。
【0112】
図8に示されるように、実施形態では、まず、S801において、送波器411は、符号生成部412、搬送波出力部413、乗算器414、および増幅回路415により生成される送信信号に応じた送信波を車両1の外に向けて送信する。
【0113】
たとえば、
図1に示される4つの距離検出装置200を2つの第1距離検出装置(たとえば距離検出装置201および202)と2つの第2距離検出装置(たとえば距離検出装置203および204)とに分類した場合を考える。この場合、各第1距離検出装置の送波器411は、S801において、上記のような帯域分割によって構成される複数の帯域のうち、他の第1距離検出装置とは異なる帯域の範囲内の周波数の送信波を、第1情報を識別情報として含むように符号化した上で、他の第1距離検出装置および第2距離検出装置と同時並行的に送信する。同様に、各第2距離検出装置の送波器411は、S801において、上記のような帯域分割によって構成される複数の帯域のうち、他の第2距離検出装置とは異なる(第1距離検出装置との関係では重複していても問題ない)帯域の範囲内の周波数の送信波を、第1情報とは異なる第2情報を識別情報として含むように符号化した上で、他の第2距離検出装置および第1距離検出装置と同時並行的に送信する。なお、各距離検出装置200が使用する帯域および識別情報は、ECU100などによって決定されうる。
【0114】
そして、S802において、受波器421は、車両1の外に存在する物体で反射された結果として車両1側に戻ってくる送信波としての受信波を受信する。この受信波に対応した受信信号は、増幅回路422により増幅された後、フィルタ処理部423に出力される。
【0115】
そして、S803において、フィルタ処理部423は、増幅回路422により増幅された受信信号にフィルタリング処理を施し、ノイズを抑制する。
【0116】
そして、S804において、周波数解析部424は、フィルタ処理部423によるフィルタリング処理を経た受信信号に対して、FFT(高速フーリエ変換)などに基づく周波数解析(スペクトル解析)を実行する。これにより、受信波に含まれる1以上の受信波の周波数が特定される。
【0117】
そして、S805において、判別部425は、周波数解析部424による周波数解析の結果として取得される受信波の1以上の周波数と、全ての距離検出装置200によって送信される送信波の複数(
図5に示されるような帯域分割では実質的に2つ)の周波数の関係と、に基づいて、受信波の周波数と送信波の周波数との対応関係を判別する。なお、前述したように、受信波の周波数と送信波の周波数とは一致しない場合は、受信波の1以上の周波数の高域側および低域側の少なくとも一方に存在する空き帯域を考慮すれば、受信波の周波数と送信波の周波数との対応関係を判別することが可能である。
【0118】
そして、S806において、フィルタ処理部426は、判別部425による判別結果に基づいて、1以上の周波数の1以上の信号が含まれうる受信信号から、所定の周波数帯域(たとえば送信信号の周波数に対応した周波数帯域)の信号を抽出する。
【0119】
そして、S807において、相関処理部427は、たとえば送信側の構成から取得される送信信号と、フィルタ処理部426によるフィルタリング処理を経た信号と、に基づいて、送信波と受信波との識別情報の類似度に対応した相関値を取得する。
【0120】
そして、S808において、検出部430は、相関処理部427により取得された相関値に基づいて、送信波の反射をもたらす物体までの距離を検出する。
【0121】
より具体的に、S808において、検出部430は、まず、包絡線処理部428による処理を経た相関値と閾値との比較結果を閾値処理部429から取得する。そして、検出部430は、閾値処理部429から取得した情報に基づいて、送信波が送信されたタイミングと、当該送信波と所定以上のレベルで類似(一致)する識別情報が付与された受信波が受信されたタイミングと、を特定する。そして、検出部430は、両者のタイミングの差に基づいて、TOF法により、送信信号を反射した物体までの距離を検出する。そして、処理が終了する。
【0122】
以上説明したように、実施形態にかかる物体検出システムは、複数の距離検出装置200を備えている。複数の距離検出装置200の各々は、送波器411と、受波器421と、判別部425と、検出部430と、を備えている。送波器411は、所定の周波数帯域FBの範囲内に設定される複数の周波数のうち、他の距離検出装置200とは異なる周波数の波動を、他の距離検出装置200と同時並行的に、送信波として送信する。受波器421は、物体での反射に応じて戻ってきた送信波に基づく受信波を受信する。判別部425は、受信波に対する周波数解析の結果と、送信波の複数の周波数に関する情報と、に基づいて、受信波に含まれる1以上の波動の1以上の周波数と、送信波の複数の周波数と、の対応関係を判別する。検出部430は、判別部525の判別結果に応じて取得される情報に基づいて、物体に関する情報を検出する。
【0123】
別の表現で表すと、実施形態において、各距離検出装置200は、所定の周波数帯域FBに含まれる周波数の波動を送受信可能な装置であり、送波器411と、受波器421と、判別部425と、検出部430と、を備えている。送波器411は、所定の周波数帯域FBの範囲内に含まれる、自身を備えた距離検出装置200と他の距離検出装置200とを含む複数の距離検出装置200に対してそれぞれ設定される複数の第1周波数のうちの1つの第1周波数で信号レベルがピークとなる波動(第1波動)を送信波として送信する。受波器421は、物体での反射に応じて戻ってきた送信波に基づく受信波を受信する。判別部425は、受信波に対する周波数解析の結果と、複数の第1周波数に関する情報と、に基づいて、第1波動に対応する波動として受信波に含まれる波動(第2波動)の信号レベルがピークとなる第2周波数を判別する。検出部430は、判別部425の判別結果に応じて取得される情報に基づいて、物体に関する情報を検出する。
【0124】
上記のような構成によれば、送信波の送信に使用する周波数を距離検出装置200毎に異ならせ、送信波と受信波との周波数の対応関係を判別するという簡単な方法で、受信波として戻ってきた送信波の送信元を判別することができる。また、識別情報の付与のみに依存して距離検出装置200の判別を実現する場合に比べて、送信波の送信時間を短くすることができるので、近距離に存在する物体に関する情報の検出の迅速性を確保することもできる。
【0125】
また、実施形態において、判別部425は、周波数解析の結果として得られる受信波の1以上の周波数の数と、送信波の複数の周波数の数と、が一致しない場合、所定の周波数帯域FBの範囲内で受信波の周波数よりも低域側および高域側の少なくとも一方に存在する空き帯域に基づいて、受信波の周波数と送信波の周波数との対応関係を判別する。このような構成によれば、たとえばドップラーシフトの発生によって送信波の周波数の数と受信波の周波数の数とが一致しない場合であっても、空き帯域を考慮して、送信波の周波数と受信波の周波数との対応関係を容易に判別することができる。
【0126】
また、実施形態において、
図1に示される4つの距離検出装置200を2つの第1距離検出装置(たとえば距離検出装置201および202)と2つの第2距離検出装置(たとえば距離検出装置203および204)とに分類した場合を考える。この場合、各第1距離検出装置の送波器411は、他の第1距離検出装置とは異なる帯域の範囲内の周波数の送信波を、第1情報を識別情報として含むように符号化した上で、他の第1距離検出装置および第2距離検出装置と同時並行的に送信し、各第2距離検出装置の送波器411は、他の第2距離検出装置とは異なる(第1距離検出装置との関係では重複していても問題ない)帯域の範囲内の周波数の送信波を、第1情報とは異なる第2情報を識別情報として含むように符号化した上で、他の第2距離検出装置および第1距離検出装置と同時並行的に送信する。
【0127】
ここで、実施形態において、各距離検出装置200は、対応する判別部425の判別結果に応じて、送信波と受信波との識別情報の類似度に対応した相関値を取得する相関処理部427を有している。そして、各距離検出装置200の検出部430は、相関値と閾値との比較結果に基づいて、物体に関する情報を検出する。このような構成によれば、識別情報をさらに利用して、より多くの距離検出装置200の判別を簡単に実現することができる。
【0128】
また、実施形態において、送信波の送信に使用する複数の周波数は、それぞれ、所定の周波数帯域FBを仮想的に分割することで構成される互いに重複しない複数の帯域の範囲内に設定される。このような構成によれば、帯域分割に基づく方法により、互いに異なる複数の周波数を容易に設定することができる。
【0129】
また、実施形態において、検出部430は、送信波が送信されたタイミングと、受信波が受信されたタイミングと、の差に基づいて、物体に関する情報として、物体までの距離を検出する。このような構成によれば、物体までの距離を容易に検出することができる。
【0130】
また、実施形態において、各距離検出装置200は、制御部220を有している。制御部220は、検出部430の検出結果としての物体までの距離に応じて、送波器411による送信波の送信態様を、他の距離検出装置200とは異なる周波数の波動を送信波として送信する第1モードと、所定の周波数帯域FBの中心周波数fcの近傍の周波数の波動を送信波として送信する第2モードと、のいずれかに制御しうる。このような構成によれば、所定の周波数帯域FBの一部の帯域のみを使用する第1モードと、所定の周波数帯域FBのうち効率的にパワーを出すことができる中心周波数fcの近傍の帯域を使用する第2モードとを、状況に応じて切り替えることができる。
【0131】
なお、実施形態において、各距離検出装置200の送波器411および受波器421は、超音波を送受信可能な単一の振動子211を含む送受信部210として一体的に構成されており、所定の周波数帯域FBは、振動子211のスペックに応じて設定される。このような構成によれば、送信波および受信波を送受信するための構成を簡単化することができるとともに、所定の周波数帯域FBを容易に設定することができる。
【0132】
<変形例>
なお、上述した実施形態では、本開示の技術が、超音波の送受信によって物体に関する情報を検知する構成に適用されているが、本開示の技術は、超音波以外の波動としての、音波やミリ波、電磁波などの送受信によって物体に関する情報を検知する構成にも適用することが可能である。
【0133】
また、上述した実施形態では、本開示の技術を適用する対象として、物体までの距離を検出する距離検出装置が例示されているが、本開示の技術は、物体に関する情報として、物体の有無のみを検出する物体検出装置にも適用可能である。
【0134】
また、上述した実施形態では、帯域分割に基づく方法と、送信波に識別情報を付与する方法と、を組み合わせて実施することで、複数の距離検出装置の判別を実現する構成が例示されている。しかしながら、帯域分割によって構成される帯域の数を距離検出装置の個数以上に設定すれば、帯域分割に基づく方法のみによっても、複数の距離検出装置の判別を実現することは可能である。なお、帯域分割によって構成される帯域の数が3以上場合であっても、空き帯域の判別方法は上述した実施形態と実質的に同様であるため、詳しい説明は省略する。
【0135】
また、上述した実施形態では、物体に関する情報(物体までの距離)を検出する検出部が1つだけ設けられた距離検出装置(
図4参照)が例示されているが、本開示の技術は、次の
図9に示されるような、物体に関する情報を検出する検出部が複数設けられた距離検出装置も想定している。
【0136】
図9は、実施形態の変形例にかかる物体検出システムの詳細な構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【0137】
図9に示されるように、変形例にかかる物体検出システムは、送信側の構成として、3つの送信部910、930、および950を有しているとともに、受信側の構成として、3つの受信部920、940、および960を有している。なお、
図9に示される例では、たとえば、送信部910と受信部920との組み合わせと、送信部930と受信部940との組み合わせと、送信部950と受信部960との組み合わせとが、それぞれ1つの距離検出装置(物体検出装置)を構成する。
【0138】
図9に示される変形例において、送信部910は、送波器911と、符号生成部912と、搬送波出力部913と、乗算器914と、増幅回路915と、を有している。これらの構成の機能および動作は、上述した実施形態(
図4など参照)にかかる距離検出装置200の送信側の構成の機能および動作と実質的に同様であるので、ここではこれ以上の説明を省略する。
【0139】
なお、送波器931および951以外の図示がスペースの都合で省略されているが、送信部930および950は、送波器931および951以外にも、送信波のもととなる送信信号を生成するための各種の構成を、送信部910と同様に有している。
【0140】
一方、
図9に示される変形例において、受信部920は、受波器921と、増幅回路922と、フィルタ処理部923と、周波数解析部924と、判別部925と、を有している。これらの構成の機能および動作は、上述した実施形態(
図4など参照)にかかる受波器421、増幅回路422、フィルタ処理部423、周波数解析部424、および判別部425の機能および動作と実質的に同様であるので、ここではこれ以上の説明を省略する。
【0141】
ここで、
図9に示される変形例において、受信部920は、上述した実施形態(
図4など参照)にかかるフィルタ処理部426、相関処理部427、包絡線処理部428、閾値処理部429、および検出部430の組み合わせからなる構成と同様の構成(以下、信号処理系統と表現する)を、送信部910、930、および950と同数有している。
【0142】
すなわち、
図9に示される変形例において、受信部920は、3つの信号処理系統A~Cを有している。信号処理系統Aは、フィルタ処理部926A、相関処理部927A、包絡線処理部928A、閾値処理部929A、および検出部930Aの組み合わせとして構成されている。同様に、信号処理系統Bは、フィルタ処理部926B、相関処理部927B、包絡線処理部928B、閾値処理部929B、および検出部930Bの組み合わせとして構成されており、信号処理系統Cは、フィルタ処理部926C、相関処理部927C、包絡線処理部928C、閾値処理部929C、および検出部930Cの組み合わせとして構成されている。
【0143】
信号処理系統Aは、判別部925の判別結果に応じて、受信波に含まれる1以上の周波数の受信波のうちの1つに対応した受信信号に基づいて、各種の処理を実行する。また、信号処理系統Bは、判別部925の判別結果に応じて、受信波に含まれる1以上の周波数の受信波のうちの1つに対応した受信信号であって、信号処理系統Aとは異なる周波数の受信信号に基づいて、各種の処理を実行する。また、信号処理系統Cは、受信波に含まれる1以上の周波数の受信波のうちの1つに対応した受信信号であって、信号処理系統AおよびBとは異なる周波数の受信信号に基づいて、各種の処理を実行する。
【0144】
なお、信号処理系統A~Cの機能および動作については、上述した実施形態(
図4など参照)にかかる信号処理系統の機能および動作と実質的に同様であるので、ここではこれ以上の説明を省略する。また、受波器941および961以外の構成の図示がスペースの都合で省略されているが、受信部940および960は、それぞれ受信部920と同様の構成を有している。
【0145】
このように、
図9に示される変形例において、受信部920は、3つの送信部910、930、および950から送信される送信波のもととなる送信信号と、当該送信波の反射波としての受信波に応じた受信信号と、の3つの相関値を同時に取得することが可能である。同様に、受信部940および960も、それぞれが3つの相関値を同時に取得することが可能である。したがって、
図9に示される変形例によれば、3種類の異なる情報を同時に考慮して、物体までの距離をより詳細に検出することができる。
【0146】
なお、
図9に示される変形例において、送波器911と受波器921との組み合わせが同一の振動子によって構成されてもよいし、別々の振動子によって構成されてもよいことは、上述した実施形態と同様である。また、送波器931と受波器941との組み合わせ、および送波器951と受波器961との組み合わせについても、同様のことが言える。
【0147】
また、
図9に示される変形例では、送信側の構成と受信側の構成とがそれぞれ3つずつ設けられ、受信側の構成の各々に設けられる信号処理系統も3つ設けられているが、「3」という数字自体に特別な技術的意味は無い。したがって、これらの構成の個数は、それぞれ2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。
【0148】
また、送信側の構成の個数と、受信側の構成の個数とは、必ずしも一致していなくてもよく、送信側の構成の個数と、受信側の構成の各々に設けられる信号処理系統の個数とも、必ずしも一致していなくてもよい。
【0149】
以上、本開示の実施形態および変形例を説明したが、上述した実施形態および変形例はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上述した新規な実施形態および変形例は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上述した実施形態および変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0150】
200、201、202、203、204 距離検出装置
210 送受信部
220 制御部
211 振動子
411、911、931、951 送波器
421、921、941、961 受波器
425、925 判別部
427、927A、927B、927C 相関処理部
430、930A、930B、930C 検出部