(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】ボンド磁石及び該ボンド磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20230502BHJP
H01F 1/059 20060101ALI20230502BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20230502BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20230502BHJP
B29C 70/88 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/059 160
H01F1/057 180
B22F3/00 C
B29C70/88
(21)【出願番号】P 2019003080
(22)【出願日】2019-01-11
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 忍
(72)【発明者】
【氏名】小玉 健二
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0178771(US,A1)
【文献】特開2005-286315(JP,A)
【文献】特開2018-098064(JP,A)
【文献】特開2016-094683(JP,A)
【文献】国際公開第2010/071111(WO,A1)
【文献】特開2011-056456(JP,A)
【文献】特開2019-001872(JP,A)
【文献】特開2018-090953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/059
H01F 1/057
B22F 3/00
B29C 70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石粉末と、
該磁石粉末の粒子同士を結合する、セルロースナノファイバから成るバインダと
を備え
、
前記バインダ以外の結合剤を含有しないことを特徴とするボンド磁石。
【請求項2】
前記磁石粉末がSmFeN系磁石の粉末の粉末であることを特徴とする請求項1に記載のボンド磁石。
【請求項3】
セルロースナノファイバの含有率が0.5~7質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のボンド磁石。
【請求項4】
セルロースナノファイバの含有率が5~15質量%であるセルロースナノファイバ-水混合物を用意する工程と、
前記セルロースナノファイバ-水混合物と磁石粉末を、該セルロースナノファイバ-水混合物の質量と該磁石粉末の質量の合計に占める水の質量の割合が9~28質量%となるように混合
し、前記セルロースナノファイバ以外の結合剤を混合することなくボンド磁石材料を作製する工程と、
前記ボンド磁石材料を
、0.2~2GPaの範囲内の圧力を印加することで所定の形状に成形することにより成形体を作製する工程と、
前記成形体から水を蒸発させることによりボンド磁石を作製する工程と
を有することを特徴とするボンド磁石の製造方法。
【請求項5】
セルロースナノファイバの含有率が5~15質量%であるセルロースナノファイバ-水混合物を用意する工程と、
前記セルロースナノファイバ-水混合物と磁石粉末を、該セルロースナノファイバ-水混合物の質量と該磁石粉末の質量の合計に占める水の質量の割合が9~28質量%となるように混合
し、前記セルロースナノファイバ以外の結合剤を混合することなくボンド磁石材料を作製する工程と、
前記ボンド磁石材料を
、0.2~2GPaの範囲内の圧力を印加することで所定の形状に成形しながら該ボンド磁石材料から水を蒸発させる工程と
を有することを特徴とするボンド磁石の製造方法。
【請求項6】
前記磁石粉末がSmFeN系磁石の粉末の粉末であることを特徴とする請求項4又は5に記載のボンド磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボンド磁石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボンド磁石は、磁性粉末をバインダと混合して固めたものであって、磁性粉末を焼結した焼結磁石よりも、複雑な形状のものを容易に作製することができること、作製時に高温(焼結磁石では1000℃前後)に加熱する必要がないこと、割れや欠けが生じ難いこと等の特長を有する。
【0003】
従来のボンド磁石では多くの場合、フェノール樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂がバインダとして用いられている。しかし、例えば自動車用モータでは使用時に150~180℃という温度に達するのに対して、フェノール樹脂やエポキシ樹脂等をバインダとしたボンド磁石はこのような温度での耐熱性を有しないため、自動車用モータの磁石として使用することはできない。
【0004】
特許文献1に記載のボンド磁石では、バインダとしてポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂を用いている(以下、「PPSボンド磁石」と呼ぶ)。PPSは融点が約280℃であるため、PPSボンド磁石は自動車用モータの使用時における温度域での耐熱性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
PPSボンド磁石を作製する際には、PPS樹脂を融点よりもやや高い温度(通常、300~320℃)に加熱して溶融させた状態で成形を行う。しかし、PPS樹脂をこのような温度に加熱すると、PPS樹脂が徐々に分解し、硫黄原子を含む分子から成る有毒ガスが発生する。そのため、PPSボンド磁石は、製造時の安全性が低く、且つ、環境に悪影響を与えてしまう。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、自動車用モータの使用時における温度域での耐熱性を有しつつ、安全且つ環境に悪影響を与えることなく製造することができるボンド磁石を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係るボンド磁石は、
磁石粉末と、
該磁石粉末の粒子同士を結合する、セルロースナノファイバから成るバインダと
を備え、
前記バインダ以外の結合剤を含有しないことを特徴とする。
【0009】
セルロースナノファイバ(Cellulose Nano Fiber、以下「CNF」とする。)は、セルロース(cellulose)の繊維から成り、植物の繊維を太さが10~50nm、長さが0.1~20μmとなるように微細に解きほぐしたものである。
【0010】
本発明に係るボンド磁石は、磁石粉末と、該磁石粉末の粒子同士を結合する、CNFから成るバインダを備える。このボンド磁石は、温度を180℃まで上昇させても、バインダであるCNFが溶融することがなく、自動車用モータの使用時の温度域である150~180℃において耐熱性を有する。
【0011】
また、本発明に係るボンド磁石は、以下に述べる方法で製造することにより、有毒ガスが発生することなく、安全且つ環境に悪影響を与えることなく製造することができる。
【0012】
本発明に係るボンド磁石の製造方法は、
セルロースナノファイバの含有率が5~15質量%であるセルロースナノファイバ-水混合物を用意する工程と、
前記セルロースナノファイバ-水混合物と磁石粉末を、該セルロースナノファイバ-水混合物の質量と該磁石粉末の質量の合計に占める水の質量の割合が9~28質量%となるように混合し、前記セルロースナノファイバ以外の結合剤を混合することなくボンド磁石材料を作製する工程と、
前記ボンド磁石材料を、0.2~2GPaの範囲内の圧力を印加することで所定の形状に成形することにより成形体を作製する工程と、
前記成形体から水を蒸発させることによりボンド磁石を作製する工程と
を有することを特徴とする。
【0013】
CNFは、例えば、パルプを水に分散させた分散液を加圧してノズルから噴射させ、噴流同士を衝突させてパルプの繊維を微細に解きほぐすことにより作製される。このような方法で製造されたCNFは、通常はセルロースナノファイバ-水混合物(CNF-水混合物)の状態で販売されている。
【0014】
CNF-水混合物におけるCNFの含有率を5~15質量%、且つ、セルロースナノファイバ-水混合物の質量と磁石粉末の質量の合計に占める水の質量の割合(これを、「ボンド磁石材料の含水率」とする)を9~28質量%とすることにより、ボンド磁石材料を所定の形状に成形した際に、当該形状が維持された成形体を作製することができる。
【0015】
一方、CNF-水混合物におけるCNFの含有率が5質量%未満であると、ボンド磁石材料全体がペースト状となり、成形することが困難となる。CNF-水混合物におけるCNFの含有率が15質量%を超えると、磁石粉末との混合に時間を要するようになると共に、CNFの分散に偏りが生じ易くなる。また、CNF-水混合物におけるCNFの含有率が15質量%を超えると、成形後の成形体があまり収縮しないことから密度が高くならなかったり、成形体に亀裂が生じ易くなるという問題が生じるうえに、磁気特性が低下する。ボンド磁石材料の含水率が9質量%未満であると、CNFの結着力が弱くなり、成形体から水を蒸発させる際に成形体にひび割れが生じることがある。ボンド磁石材料の含水率が28質量%を超えると、成形体が柔らかくなり、水を蒸発させる際に成形体が膨張したり成形体にひび割れが生じることがある。
【0016】
前記成形体から水を蒸発させる際には、該成形体を常温に維持した状態で行ってもよいし、加熱してもよい。その際、磁石粉末が酸化することを防ぐために、成形体を真空中(減圧下)又は不活性ガス中に置くことが望ましい。真空中(減圧下)に置くことにより、水の蒸発を促進させることができるという効果も得られる。また、成形体を加熱する場合には、水に含まれる溶存酸素又は磁石粉末の粒子に吸着している吸着酸素等によって、乾燥工程において磁石粉末が酸化することを抑えるために、乾燥温度を150℃以下とすることが望ましい。また、加熱時間は、酸化を抑えるためには短い方が好ましいが、成形体を急激に加熱すると成形体中の水が突沸して成形体の形状が崩れるおそれがある。これらの点を勘案して、加熱時間は予備実験を行うこと等により、適宜定めればよい。成形体の加熱には、ヒーター、白熱ランプ、あるいは電子レンジその他のマイクロ波を用いた加熱装置等を用いることができる。
【0017】
本発明に係るボンド磁石の製造工程では上記のように、成形体から水を蒸発させることにより固化させる。そのため、製造時に有毒ガスを発生させることがなく、安全に、且つ環境に悪影響を与えることなく製造することができる。
【0018】
磁石粉末には、希土類元素("R"とする)、鉄(Fe)及び硼素(B)を主な構成元素とするRFeB系磁石(特に、Rとして主にネオジム(Nd)を有するNdFeB系磁石)の粉末、サマリウム(Sm)、鉄及び窒素(N)を主な構成元素とするSmFeN系磁石の粉末、サマリウム及びコバルト(Co)を主な構成元素とするSmCo系磁石の粉末等を用いることができる。特に、SmFeN系磁石の粉末は、NdFeB系磁石の粉末よりも水に対する耐食性が高く錆び難いため、好ましい。
【0019】
上記製造方法(以下、「第1の態様」の製造方法とする)では成形体を作製した後に該成形体から水を蒸発させるが、その代わりに、ボンド磁石材料を所定の形状に成形しながら該ボンド磁石材料から水を蒸発させること、言い換えれば、成形と水の蒸発を同時並行で行うこともできる。すなわち、本発明に係るボンド磁石の製造方法の他の態様(以下、「第2の態様」の製造方法とする)は、
セルロースナノファイバの含有率が5~15質量%であるセルロースナノファイバ-水混合物を用意する工程と、
前記セルロースナノファイバ-水混合物と磁石粉末を、該セルロースナノファイバ-水混合物の質量と該磁石粉末の質量の合計に占める水の質量の割合が9~28質量%となるように混合し、前記セルロースナノファイバ以外の結合剤を混合することなくボンド磁石材料を作製する工程と、
前記ボンド磁石材料を、0.2~2GPaの範囲内の圧力を印加することで所定の形状に成形しながら該ボンド磁石材料から水を蒸発させる工程と
を有することを特徴とする。
【0020】
なお、ボンド磁石材料を所定の形状に成形しながら該ボンド磁石材料から水を蒸発させる工程においては、例えば磁石粉末及びセルロースナノファイバは通過せず水のみが通過するフィルタや隙間を成形型に設けておくことにより、それらフィルタや隙間から水を蒸発させることができる。その際、成形型の周囲を真空にしたり、成形型内のボンド磁石材料を加熱することにより、水の蒸発を促進させてもよい。
【0021】
第1及び第2の態様の製造方法において、前記ボンド磁石材料を作製した後であって前記成形体を作製する前に、前記ボンド磁石材料に含まれる水の一部を蒸発させる工程を行うことができる。これにより、ボンド磁石材料を作製する際には相対的に水の含有率が高い状態でCNF-水混合物と磁石粉末を混合するため、ボンド磁石材料内の磁石粉末が均一に近くなるように混合することができる。また、成形体を作製する際には相対的に水の含有率が低い状態で成形を行うため、成形体の形状を維持し易くなる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、自動車用モータの使用時における温度域での耐熱性を有し、安全且つ環境に悪影響を与えることなく製造することができるボンド磁石を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係るボンド磁石製造方法((a)~(f))及びボンド磁石((g))の一実施形態を示す概略図。
【
図2】本実施形態のボンド磁石の一例につき、(a)上面及び(b)側面の外見を示す写真。
【
図3】本実施形態のボンド磁石の実施例及び従来のボンド磁石につき、室温における磁石密度及び最大エネルギー積(BH)
maxを測定した結果を示すグラフ。
【
図4】実施例のボンド磁石につき、室温から180℃までの温度範囲で残留磁束密度B
rを測定した結果を示すグラフ。
【
図5】実施例のボンド磁石につき、室温から180℃までの温度範囲で保磁力H
cJを測定した結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1~
図5を用いて、本発明に係るボンド磁石及びその製造方法の実施形態を説明する。
【0025】
まず、
図1を用いて、本発明に係る第1の態様のボンド磁石の製造方法につき、その実施形態を説明する。初めに、CNF-水混合物11を用意する(
図1(a))。CNF-水混合物11は、株式会社スギノマシーンにより「BiNFi-s」(登録商標)との商品名で販売されている。CNF-水混合物11におけるCNFの含有率は、5~15質量%の範囲内となるようにする。例えば、上記「BiNFi-s」では規格品として、CNFの含有率が5質量%及び10質量%のものが販売されており、それらを本実施形態のCNF-水混合物11として用いることができる。また、規格品を加熱して水の一部を蒸発させることにより、これら規格品よりもCNFの含有率が高いCNF-水混合物11を得ることができる。ここでCNF-水混合物11中のCNFの含有率が小さすぎると後述の成形体14の形状を維持し難くなる。一方、該含有率が大きすぎると、成形体14があまり収縮しないことから密度が高くならなかったり、成形体14に亀裂が生じ易くなるという問題が生じるうえに、磁気特性が低下する。そのため、CNFの含有率は5~15質量%の範囲内とする。なお、CNFの含有率が5質量%よりも小さい場合には、フィルター等を用いて脱水することにより、CNFの含有率を5~15質量%の範囲内となるように調整しても良い。また、CNFの含有率が15質量%よりも大きい場合には、水を添加することにより、CNFの含有率を5~15質量%の範囲内となるように調整しても良い。
【0026】
それと共に、磁石粉末12を用意する。磁石粉末12には、RFeB系磁石の粉末、SmFeN系磁石の粉末、SmCo系磁石の粉末等を用いることができる。その中でSmFeN系磁石の粉末は、酸化し難く、且つFeよりも高価なCoを使用する必要がないという点で優れている。磁石粉末12の作製方法は、従来のボンド磁石を製造する際に用いられている方法と同じであるため、説明を省略する。
【0027】
次に、CNF-水混合物11と磁石粉末12を、両者の質量の合計に占める水の質量の割合(ボンド磁石材料13の含水率)が9~28質量%の範囲内となるように混合する(
図1(b))ことにより、ボンド磁石材料13を作製する(同(c))。ボンド磁石材料13は、CNF-水混合物11中のCNFの含有率を上記範囲内にすると共に、該ボンド磁石材料13の含水率を上記範囲内にすることにより、次に述べる成形体14の形状を維持することができる程度の適度な粘性を有する流動体となる。
【0028】
次に、ボンド磁石材料13を成形する(
図1(d))ことにより成形体14を作製する(同(e))。ボンド磁石材料13の成形には、圧縮成形や射出成形の手法を用いることができる。圧縮成形では、
図1(d)に示すように、ボンド磁石材料13をモールド131に充填したうえで、プレス機(図示せず)を用いてパンチ132によってボンド磁石材料13に圧力を印加することにより、成形体14を作製することができる。圧縮成形時の圧力は、本実施形態では2~20tonf/cm
2(約0.2~2GPa)としたが、この範囲には限定されない。射出成形では、例えば二軸混練押出器によりCNF-水混合物11と磁石粉末12を混練したうえでモールド内に押し出すことにより、成形体14を作製することができる。
【0029】
次に、得られた成形体14から水を蒸発させる(
図1(f))。その際、成形体14を常温に維持したままにしてもよいし、成形体14を加熱してもよい。成形体14を加熱する場合には、温度を150℃以下とすることが望ましい。また、加熱の有無に依らず、成形体14は真空中(減圧下)又は不活性ガス中に置くことが望ましい。
【0030】
以上の操作により、本発明に係るボンド磁石20が得られる(
図1(g))。本発明に係るボンド磁石20は、磁石粉末と、該磁石粉末の粒子21同士を結合するCNFから成るバインダ22とを備える。ボンド磁石20の磁石粉末に含まれる磁石の種類は、上述した製造時に用いる原料のものと同じである。
【0031】
上記実施形態の製造方法では成形体14を作製した後に該成形体14から水を蒸発させたが、ボンド磁石材料13を成形しながら水を蒸発させるようにしてもよい。その際、例えばモールド131とパンチ132の間に、磁石粉末及びセルロースナノファイバは通過せず水のみが通過する隙間を設けたり、モールド131の一部に、磁石粉末及びセルロースナノファイバは通過せず水のみが通過する大きさの目を有するフィルタを設けること等により、成形体14から蒸発する水をモールド131の外に排出することができる。また、モールド131の周囲を真空にしたり、モールド131内の成形体14を加熱することにより、成形体14からの水の蒸発を促進させてもよい。
【実施例】
【0032】
次に、本発明に係るボンド磁石を作製したうえで磁気特性を測定した実験の結果を説明する。
【0033】
(1) 実験1
この実験では、CNF-水混合物11中のCNFの含有率は10質量%とした。磁石粉末12にはSmFeN系磁石(実施例1~11)又はNdFeB系磁石(実施例12)の粉末を用いた。SmFeN系磁石の磁石粉末12の作製方法は以下の通りである。まず、Sm:19.3質量%、Zr:1.7質量%、Co:4.0質量%、N:3.3質量%、Fe:残部となるように、Nを除く各元素を含有する合金を溶解し、得られた溶湯を、単ロール超急冷装置を用いてロール上に落下させて急冷するとによりリボン状のフレーク粉を作製した。このフレーク粉をピンミルで粉砕し、目開き53μmの篩を用いて分級する。その後、窒素原子を有する分子を含むガス(この例ではアンモニアと水素の混合ガス)中で加熱することで窒化させることにより、SmFeN系磁石の磁石粉末12が得られた。NdFeB系磁石の磁石粉末12の作製方法は、原料の合金の組成が異なる(Nd:24.8質量%、Pr:0.84質量%、B:0.92質量%、Fe:残部)点と、窒素原子を有する分子を含むガス中での加熱を行わない点を除いて、SmFeN系磁石の磁石粉末12の作製方法と同様である。
【0034】
ボンド磁石材料13における磁石粉末12の含有率は、67質量%~91質量%の範囲内とした(後掲の表1参照)。比較例として、磁石粉末12としてSmFeN系磁石の粉末を用い、含有率が50質量%である試料の作製を試みた。
【0035】
成形体14は、圧縮成形により作製した。圧縮成形時の圧力は2~20tonf/cm2(約0.2~2GPa)の範囲内とした(後掲の表1参照)。なお、ボンド磁石材料13に一度に12tonf/cm2(約1.2GPa)を超える圧力を印加すると、圧縮によってボンド磁石材料13から生じる水をモールド131から十分に排出することができないため、成形不良を生じてしまう。そのため、圧縮成形時の圧力が12tonf/cm2を超える場合には、まず、12tonf/cm2以下の圧力で仮成形を行い、それによってボンド磁石材料13から生じる水をモールド131から排出した後に、12tonf/cm2を超える圧力で本成形を行った。
【0036】
図2に、作製したボンド磁石の一例の写真を示す。作製したボンド磁石は円筒形であり(a)上面を、(b)は側面を、それぞれ示している。作製したボンド磁石は外見上、通常のボンド磁石と何らの相違も見られない。
【0037】
作製した各実施例及び比較例の試料につき、ボンド磁石材料13中の磁石粉末12の含有率、圧縮成形時の圧力、成形状態(後述)、ボンド磁石20の密度、及び室温での磁気特性を表1に示す。ここで成形状態は、圧縮成形により所定の形状の成形体14が得られたものを「○」、モールド131から取り出したときに成形体14がわずかに変形したものを「△」、モールド131から取り出したときに形状を保つことができず成形体14を(従って、ボンド磁石20も)得ることができなかったものを「×」とした。磁気特性は、成形状態が「○」及び「△」である試料を対象として、残留磁束密度B
r、保磁力H
cJ、最大エネルギー積(BH)
maxを測定した。
【表1】
【0038】
各実施例の試料では、成形状態が○(実施例2~12)又は△(実施例1)であり、ボンド磁石20を得ることができた。それに対して比較例では、ボンド磁石材料13が圧縮成形後も柔らかく、成形型を外す際に形状を維持することができなかった。
【0039】
図3に、実施例1~11(SmFeN系ボンド磁石)の室温での磁気特性のうち最大エネルギー積(BH)
maxについて、磁石密度との関係をグラフで示す。グラフ中の菱形の点が各実施例の測定結果を示している。このグラフには併せて、バインダとしてエポキシ樹脂を用い、16又は20tonf/cm
2(約1.6又は2GPa)の圧力を印加しつつアルゴンガス中において温度170℃で1時間加熱することにより硬化させた、従来のSmFeN系ボンド磁石の磁石密度と最大エネルギー積(BH)
maxの関係を測定したデータを丸印(
図3中に「従来」と記載)で示す。磁石密度と最大エネルギー積(BH)
maxには一次関数で表される関係がある。本発明の各実施例と従来のSmFeN系ボンド磁石のデータは同じ一次関数で近似することができる。このことは、本発明の各実施例のSmFeN系ボンド磁石が従来のSmFeN系ボンド磁石と同等の最大エネルギー積(BH)
maxを有することを意味している。
【0040】
次に、実施例4の試料につき、室温から180℃まで温度を上昇させる実験を行った。この試料は、温度が180℃に達しても、バインダが溶解することなく形状を維持することができた。この試料につき、室温から180℃までの温度範囲で残留磁束密度B
r及び保磁力H
cJを測定した。残留磁束密度B
rの測定結果を
図4に、保磁力H
cJの測定結果を
図5に、それぞれ示す。残留磁束密度B
r及び保磁力H
cJは共に、温度の上昇に伴って低下するものの、180℃において残留磁束密度B
rが5.4kG、保磁力H
cJが4.7kOeという値が得られる。
【0041】
(2) 実験2
この実験では、CNFの含有率が5質量%、10質量%及び15質量%である3種類のCNF-水混合物11を用いた。これら3種類のCNF-水混合物11についてそれぞれ、実験1で用いたSmFeN系磁石の粉末と同じ組成を有する磁石粉末12とCNF-水混合物11の配合比が質量比で10/1(磁石粉末12が90.9質量%)、10/1.5(同87.0質量%)、10/2(同83.3質量%)、10/2.5(同80.0質量%)、10/3(同76.9質量%)、10/3.5(同74.1質量%)、10/4(同71.4質量%)、10/4.5(同69.0質量%)、10/5(同66.7質量%)及び10/10(同50.0質量%)という異なる複数種のボンド磁石材料13を作製した。それらのボンド磁石材料13につき、含水率、及び12.0tonf/cm
2(約1.2GPa)の圧力で圧縮成形した成形体14の成形状態を表2に示す。ここで成形状態の評価基準は、実験1と同様である。
【表2】
【0042】
この実験結果より、CNF-水混合物11中のCNFの含有率が5~15質量%の範囲内では、当該含有率に依らずに、ボンド磁石材料13の含水率が9~28質量%の範囲内にあるときに、成形状態が○又は△、すなわち成形体14が得られることがわかる。成形体14が得られれた例におけるボンド磁石20中のCNFの含有率(CNFの質量を、CNFの質量と磁石粉末12の質量の和で除した値)は、磁石粉末12とCNF-水混合物11の配合比が10/1、CNF-水混合物11におけるCNFの含有率が5質量%のときに最小である0.5質量%(1×0.05/(10+1×0.05))となり、前者が10/5、後者が15質量%のときに最大である7質量%(5×0.15/(10+5×0.15))となる。
【0043】
本発明は上記実施形態・実施例に限定されず、種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0044】
11…CNF-水混合物
12…磁石粉末
13…ボンド磁石材料
131…モールド
132…パンチ
14…成形体
20…ボンド磁石
21…磁石粉末の粒子
22…バインダ