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  • 特許-空気入りタイヤ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 15/06 20060101AFI20230502BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20230502BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20230502BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20230502BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230502BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
B60C15/06 B
B60C1/00 Z
C08L7/00
C08L9/00
C08K3/013
C08K3/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019006272
(22)【出願日】2019-01-17
(65)【公開番号】P2020114707
(43)【公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】山村 健太
(72)【発明者】
【氏名】清水 克典
(72)【発明者】
【氏名】野口 侑利
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-224678(JP,A)
【文献】特開2014-095016(JP,A)
【文献】特開2004-050912(JP,A)
【文献】特開2017-214016(JP,A)
【文献】特開2018-070110(JP,A)
【文献】特開2013-001223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00- 19/12
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部のそれぞれに設けられたビードコアと、前記ビードコアよりもタイヤ径方向外側に配置されたビードフィラーとを有する空気入りタイヤにおいて、
前記ビードフィラーが、前記ビードコアに隣接する下側ビードフィラーと、前記ビードフィラーのタイヤ径方向外側端部側に位置する上側ビードフィラーとからなる2層構造を有し、
前記上側ビードフィラーが、天然ゴム50質量%以上と末端変性ブタジエンゴム15質量%以上とを含むゴム成分100質量部に対して、窒素吸着比表面積N2SAが70m2/g~100m2/gであるカーボンブラックが15質量部~60質量部配合されたゴム組成物で構成され、前記上側ビードフィラーを構成するゴム組成物の硬度が65以下であり、且つ、前記下側ビードフィラーを構成するゴム組成物よりも低硬度であって、前記上側ビードフィラーを構成するゴム組成物の60℃におけるtanδが0.06~0.08であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記上側ビードフィラーを構成するゴム組成物に配合される前記末端変性ブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)から求められる分子量分布(Mw/Mn)が2.0以下であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記上側ビードフィラーを構成するゴム組成物に配合される前記末端変性ブタジエンゴムの末端の官能基が水酸基、アミノ基、アミド基、アルコキシル基、エポキシ基、シロキサン結合基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記上側ビードフィラーを構成するゴム組成物の硬度と前記下側ビードフィラーを構成するゴム組成物の硬度との硬度差ΔHsが20~30の範囲であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビードフィラーが上側ビードフィラーと下側ビードフィラーからなる2層構造を有する空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいては、環境負荷を低減するために走行時の燃費性能を向上することが求められている。そのため、空気入りタイヤの各部を構成するゴム組成物の発熱を抑制することが行われている。近年、燃費性能の更なる改善のために、例えば、空気入りタイヤのビード部に配置されるビードフィラーを構成するゴム組成物についても発熱を抑制することが求められている。
【0003】
ゴム組成物の発熱性の指標としては、一般に動的粘弾性測定による60℃におけるtanδ(以下、「tanδ(60℃)」という。)が用いられ、ゴム組成物のtanδ(60℃)が小さいほど発熱性が小さくなる。そして、ゴム組成物のtanδ(60℃)を小さくする方法として、例えばカーボンブラック等の充填材の配合量を少なくしたり、カーボンブラックの粒径を大きくすることが挙げられる。或いは、シリカを配合することも提案されている(例えば特許文献1を参照)。しかしながら、これらの方法では、必ずしもゴム硬度や耐疲労性が十分に得られず、タイヤに利用したとき(特に、ビードフィラーに用いたとき)に、耐久性への影響が懸念される。そのため、ビードフィラーとして用いることを意図したタイヤ用ゴム組成物において、タイヤにした時の荷重耐久性を良好に維持しながら、低転がり性を向上する更なる対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015‐059181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ビードフィラーが上側ビードフィラーと下側ビードフィラーからなる2層構造を有する空気入りタイヤであって、転がり抵抗が低く、且つ、ビード部の耐久性に優れる空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部のそれぞれに設けられたビードコアと、前記ビードコアよりもタイヤ径方向外側に配置されたビードフィラーとを有する空気入りタイヤにおいて、前記ビードフィラーが、前記ビードコアに隣接する下側ビードフィラーと、前記ビードフィラーのタイヤ径方向外側端部側に位置する上側ビードフィラーとからなる2層構造を有し、前記上側ビードフィラーが、天然ゴム50質量%以上と末端変性ブタジエンゴム15質量%以上とを含むゴム成分100質量部に対して、窒素吸着比表面積N2SAが70m2/g~100m2/gであるカーボンブラックが15質量部~60質量部配合されたゴム組成物で構成され、前記上側ビードフィラーを構成するゴム組成物の硬度が65以下であり、且つ、前記下側ビードフィラーを構成するゴム組成物よりも低硬度であって、前記上側ビードフィラーを構成するゴム組成物の60℃におけるtanδが0.06~0.08であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の空気入りタイヤは、下側ビードフィラーよりも低硬度に設定される上側ビードフィラーを構成するゴム組成物として上述の特定のゴム組成物を用いているので、転がり抵抗を低減しながら、ビード部の耐久性を向上することができる。特に、上側ビードフィラーを構成するゴム組成物が、特定の粒径のカーボンブラックと末端変性ブタジエンゴムとを組み合わせて用いているので、発熱性を悪化させずに、ゴム硬度を適度に高めることが可能になり、前述の性能をバランスよく改善することができる。
【0008】
尚、本発明において、「硬度」とは、JIS K6253に準拠して、デュロメータのタイプAにより温度20℃で測定したゴム組成物の硬度である。また、「カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2 SA」は、JIS6217‐2に準拠して測定するものとする。
【0009】
本発明においては、上側ビードフィラーを構成するゴム組成物に配合される末端変性ブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)から求められる分子量分布(Mw/Mn)が2.0以下であることが好ましい。このように分子量分布を狭くすることで、ゴム物性がより良好になり、転がり抵抗を低減しながら耐久性を向上するには有利になる。尚、「重量平均分子量Mw」と「数平均分子量Mn」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算により測定するものとする。
【0010】
本発明においては、上側ビードフィラーを構成するゴム組成物に配合される末端変性ブタジエンゴムの末端の官能基が水酸基、アミノ基、アミド基、アルコキシル基、エポキシ基、シロキサン結合基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これによりカーボンブラックとの親和性が高まり、カーボンブラックの分散性がより改善されるので、より効果的に、発熱性を低く維持しながらゴム硬度や荷重耐久性を高めることができ、これら性能をバランスよく両立するには有利になる。
【0011】
本発明においては、上側ビードフィラーを構成するゴム組成物の硬度と下側ビードフィラーを構成するゴム組成物の硬度との硬度差ΔHsが20~30の範囲であることが好ましい。これにより、ビードフィラー全体としてビードコア側からタイヤ径方向外側に向かって段階的に硬度が小さくなっていく構造になるため、ビード部の歪みを分散して、ビード部の耐久性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの子午線半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
図1に示すように、本発明の空気入りタイヤは、トレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。図1において、符号CLはタイヤ赤道を示す。尚、図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。以下、図1を用いた説明は基本的に図示の子午線断面形状に基づくが、各タイヤ構成部材はいずれもタイヤ周方向に延在して環状を成すものである。
【0015】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に折り返されている。ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。
【0016】
本発明のビードフィラー6は、上側ビードフィラー6Aと下側ビードフィラー6Bの2層構造を有する。下側ビードフィラー6Bは、ビードコア5のタイヤ径方向外側に隣接する位置に配置される。上側ビードフィラー6Aは、下側ビードフィラー6Bに隣接し、ビードフィラー6の径方向外側端部側に配置される。特に、図示の例では、上側ビードフィラー6Aは、下側ビードフィラー6Bのタイヤ幅方向外側かつタイヤ径方向外側に配置されており、カーカス層4の折り返し部の端部は上側ビードフィラー6Aのタイヤ幅方向外側に接している。上側ビードフィラー6Aは、下側ビードフィラー6Bよりも低硬度に構成されており、それにより、ビードフィラー6全体としてビードコア5側からタイヤ径方向外側に向かって段階的に硬度が小さくなっていく構造になるため、ビード部3の歪みを分散して、ビード部3の耐久性を高めることができる。
【0017】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図示の例では4層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含む。この補強コードは層間で補強コードどうしが互いに交差するように配列されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~60°の範囲に設定されている。尚、図示の例では、ベルト層7のみが設けられているが、更に、ベルト層7の外周側にベルト補強層(不図示)を設けることもできる。
【0018】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側にはトレッドゴム層11が配され、サイドウォール部2におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはサイドゴム層12が配され、ビード部3におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはリムクッションゴム層13が配されている。図示の例のトレッドゴム層11は、トレッド部1の表面に露出するキャップトレッド11Aと、このキャップトレッド11Aの径方向内側に埋設されるアンダートレッド11Bとからなる2層構造を有する。
【0019】
本発明は、基本的に、上側ビードフィラー6Aを後述の特定のゴム組成物で構成するものであるため、ビードフィラー6が上側ビードフィラー6Aおよび下側ビードフィラー6Bからなる2層構造を有する空気入りタイヤであれば、その断面構造は図示の例に限定されない。尚、2層構造を有する空気入りタイヤとしては、トラック・バス用タイヤなど重荷重用タイヤを例示することができる。
【0020】
上側ビードフィラー6Aを構成するタイヤ用ゴム組成物(以下、「本発明のタイヤ用ゴム組成部」と言う場合がある)において、ゴム成分はジエン系ゴムであり、天然ゴムと末端変性ブタジエンゴムとを必ず含む。
【0021】
天然ゴムとしては、タイヤ用ゴム組成物に通常用いられるゴムを使用することができる。天然ゴムを配合することで、タイヤ用ゴム組成物として充分なゴム強度を得ることができる。ゴム成分(ジエン系ゴム)全体を100質量%としたとき、天然ゴムの配合量は50質量%以上、好ましくは50質量%~80質量%、より好ましくは65質量%~80質量%である。天然ゴムの配合量が50質量%未満であるとゴム強度が低下する。
【0022】
末端変性ブタジエンゴムは、分子鎖の片末端または両末端が官能基を有する有機化合物で変性されたブタジエンゴムである。このような末端変性ブタジエンゴムを配合することにより、後述のカーボンブラックとの親和性を高くし分散性を改善するため、発熱性を低く維持しながら、カーボンブラックの作用効果を一層向上して、ゴム硬度を高めることができる。分子鎖の末端を変性する官能基としては、例えばアルコキシシリル基、ヒドロキシル基(水酸基)、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、イミノ基、アルコキシル基、エポキシ基、アミド基、チオール基、エーテル基、シロキサン結合基を挙げることができる。なかでもヒドロキシル基(水酸基)、アミノ基、アミド基、アルコキシル基、エポキシ基、シロキサン結合基から選ばれる少なくとも一つであるとよい。ここで、シロキサン結合基は、-O-Si-O-構造を有する官能基とする。
【0023】
ゴム成分(ジエン系ゴム)全体を100質量%としたとき、末端変性ブタジエンゴムの配合量は、15質量%以上、好ましくは15質量%~50質量%、好ましくは20質量%~35質量%である。末端変性ブタジエンゴムの配合量が15質量%未満であると低燃費性が悪化する。末端変性ブタジエンゴムの配合量が50質量%を超えるとゴム強度が低下する。
【0024】
本発明で使用する末端変性ブタジエンゴムは、ビニル含有量が好ましくは0.1質量%~20質量%、より好ましくは0.1質量%~15質量%である。末端変性ブタジエンゴムのビニル含有量が0.1質量%未満であると、カーボンブラックとの親和性が不足し発熱を充分に低減することが難しくなる。末端変性ブタジエンゴムのビニル含有量が20質量%を超えると、ゴム組成物のガラス転移温度Tgが上昇し、転がり抵抗および耐摩耗性を十分に改良することができない。尚、末端変性ブタジエンゴムのビニル単位含有量は赤外分光分析(ハンプトン法)により測定するものとする。末端変性ブタジエンゴムにおけるビニル単位含有量の増減は、触媒等、通常の方法で適宜調製することができる。
【0025】
本発明で使用する末端変性ブタジエンゴムのガラス転移温度Tgは好ましくは-85℃以下、より好ましくは-90℃~-100℃であるとよい。このようにガラス転移温度Tgを設定することで、発熱性を効果的に低減することができる。ガラス転移温度Tgが-85℃を超えると発熱性を低減する効果が充分に得られなくなる。尚、天然ゴムのガラス転移温度Tgは特に限定されないが、例えば-70℃~-80℃に設定することができる。
【0026】
末端変性ブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)から求められる分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.1~1.6である。このように、末端変性ブタジエンゴムとして分子量分布が狭いものを用いることで、ゴム物性がより良好になり、転がり抵抗を低減しながら、タイヤにした時の耐久性を効果的に向上することができる。末端変性ブタジエンゴムの分子量分布(Mw/Mn)が2.0を超えるとヒステリシスロスが大きくなってゴムの発熱性が大きくなると共に、耐コンプレッションセット性が低下する。
【0027】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、天然ゴム、末端変性ブタジエンゴム以外の他のジエン系ゴムを含有してもよい。他のジエン系ゴムとしては、例えば、末端変性していないブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、アクリロニトリル‐ブタジエンゴム等が挙げられる。これらジエン系ゴムは、単独又は任意のブレンドとして使用することができる。
【0028】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、充填剤としてカーボンブラックが必ず配合される。カーボンブラックを配合することでゴム組成物の強度を高めることができる。特に、本発明で使用するカーボンブラックは、窒素吸着比表面積N2 SAが70m2 /g~100m2 /gである。このように特定の粒径のカーボンブラックを上述の末端変性ブタジエンゴムと組み合わせて配合することで、発熱性を低く維持しながら、ゴム硬度を効果的に高めることができる。カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2 SAが70m2 /g未満であるとタイヤにしたときの耐久性が悪化する。カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2 SAが100m2 /gを超えると発熱性が悪化する。
【0029】
カーボンブラックの配合量は、上述のゴム成分100質量部に対して、15質量部~60質量部、好ましくは30質量部~60質量部、より好ましくは40質量部~50質量部である。カーボンブラックの配合量が15質量部未満であると硬度が低下し、タイヤにしたときの耐久性が低下する。カーボンブラックの配合量が60質量部を超えると発熱性が悪化する。
【0030】
本発明のゴム組成物は、カーボンブラック以外の他の無機充填剤を配合することができる。他の無機充填剤としては、例えばシリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、水酸化アルミニウム等を例示することができる。
【0031】
本発明のタイヤ用ゴム組成物には、上記以外の他の配合剤を添加することができる。他の配合剤としては、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、液状ポリマー、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂など、一般的に空気入りタイヤに使用される各種配合剤を例示することができる。これら配合剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量にすることができる。また混練機としは、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用することができる。
【0032】
このような配合からなる本発明のタイヤ用ゴム組成物の硬度は65以下、好ましくは45~65、より好ましくは55~65である。また、本発明のタイヤ用ゴム組成物の60℃におけるtanδは好ましくは0.06~0.10、より好ましくは0.06~0.08である。本発明のゴム組成物はこのような物性を有するため、転がり抵抗を低減しながら、タイヤにした時の耐久性を向上することができる。特に硬度が65以下であり、2層構造のビードフィラー6における上側ビードフィラー6Aとして適度な硬度を有するため、ビード部3の耐久性を高めるには有利になる。硬度が65を超えると、上側ビードフィラー6Aとしては硬度が高すぎるため、ビード部3の耐久性を向上することができない。また、転がり抵抗を充分に低減することが難しくなる。60℃におけるtanδが0.10を超えると、発熱が悪化し転がり抵抗を低減することができない。尚、これら硬度やtanδは上述の配合のみで決定されるものではなく、例えば混練条件や混練方法によっても調整可能な物性である。
【0033】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上述の配合や物性により、転がり抵抗を低減しながら、タイヤにした時の耐久性を向上することができる。特に、特定の粒径のカーボンブラックと末端変性ブタジエンゴムとを組み合わせて用いているので、発熱を悪化させずに、ゴム硬度を適度に高めることが可能になり、前述の性能をバランスよく改善することができる。そのため、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上述の2層構造を有するビードフィラー6の上側ビードフィラー6Aに用いることが好ましく、このタイヤ用ゴム組成物を上側ビードフィラー6Aに用いた空気入りタイヤは、低燃費性能とビード部の耐久性を向上することができる。
【0034】
上述のように、2層構造を有するビードフィラー6においては、本発明のタイヤ用ゴム組成物が適用される上側ビードフィラー6Aが下側ビードフィラー6Bよりも低硬度に構成される。その際、上側ビードフィラー6Aを構成するゴム組成物(本発明のタイヤ用ゴム組成部)の硬度と下側ビードフィラー6Bを構成するゴム組成物の硬度との硬度差ΔHsを好ましくは20~30、より好ましくは22~27の範囲に設定するとよい。このように硬度差ΔHsを設定することで、ビードフィラー6全体としてビードコア5側からタイヤ径方向外側に向かって段階的に硬度が小さくなっていく構造になるため、ビード部3の歪みを分散して、ビード部3の耐久性を高めることができる。硬度差ΔHsが20未満であると、単一のゴム組成物で構成されたビードフィラー6と実質的な違いが無くなり、ビードフィラー6を2層構造にする効果が充分に得られなくなる。硬度差ΔHsが30を超えると、上側ビードフィラー6Aが相対的に柔軟になりすぎるため、ビード部3の耐久性を充分に確保することが難しくなる。尚、下側ビードフィラー6Bを構成するゴム組成物の硬度は特に限定されないが、好ましくは75~95、より好ましくは80~90の範囲に設定するとよい。下側ビードフィラー6Bを構成するゴム組成物の硬度が75未満であると、上側ビードフィラー6Aとの硬度差が小さくなり、ビードフィラー6を2層構造にする効果が充分に得られなくなる。下側ビードフィラー6Bを構成するゴム組成物の硬度が95を超えると、ビード部3における硬度が過剰になり、ビードフィラー間での亀裂が生じる。
【0035】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0036】
表1~2に示す配合からなる17種類のゴム組成物(標準例1、比較例1~4、実施例1~10)を、それぞれ加硫促進剤および硫黄を除く配合成分を秤量し、1.8Lの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、温度150℃でマスターバッチを放出し室温冷却した。その後、このマスターバッチを1.8Lの密閉式バンバリーミキサーに供し、加硫促進剤及び硫黄を加え2分間混合してゴム組成物を調製した(尚、後述の60℃におけるtanδの値が本発明の範囲から外れる実施例1,8はそれぞれ参考例である)
【0037】
得られたゴム組成物を所定の金型中で20分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を作製し、ゴム硬度と60℃におけるtanδを測定し、表1~2に示した。尚、表1~2において、ゴム組成物の硬度は、JIS K6253に準拠して、デュロメータのタイプAにより温度20℃で測定した。また、60℃におけるtanδは、JIS K6394に準拠して、製粘弾性スペクトロメータを用いて、伸張変形歪率10%±2%、振動数20Hz、温度60℃の条件で測定した。
【0038】
また、得られたゴム組成物を上側ビードフィラーに用いた空気入りタイヤ(タイヤサイズ11R22.5)を作製した。各空気入りタイヤは、図1に示す基本構造を有し、表1~2に示す各項目が異なっている。尚、これら空気入りタイヤは、下側ビードフィラーを構成するゴム組成物として、表3に示す下側ビードフィラーA,B,Cのいずれかを用いている。
【0039】
得られた空気入りタイヤについて、下記に示す方法により、低燃費性能およびビード部耐久性の評価を行った。
【0040】
低燃費性能
各空気入りタイヤを標準リム(リムサイズ22.5×7.50)に組み付けて、室内ドラム試験機(ドラム径:1707.6mm)を用いて、ISO28580に準拠して、空気圧210kPa、荷重4.82kN、速度80km/hの条件で転がり抵抗を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、標準例1の値を100とする指数で示した。この指数値が小さいほど転がり抵抗が低く、低燃費性能に優れることを意味する。
【0041】
ビード部耐久性
各空気入りタイヤを標準リム(リムサイズ22.5×7.50)に組み付けて、室内ドラム試験機(ドラム径:1707mm)を用いて、JIS D‐4230に準拠して、JATMA 2018年版規定荷重耐久性試験終了後に、5時間ごとに荷重を20%ずつ増加して、ビード部に故障が生じるまでの走行距離を測定した。評価結果は、標準例1の測定値を100とする指数で示した。この指数値が大きいほどビード部耐久性に優れることを意味する。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
表1~2において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、TSR20(ガラス転移温度Tg=-65℃)
・SBR:スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製 Nipol 1502(ガラス転移温度Tg=-60℃)
・変性S‐SBR:末端変性溶液重合スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製 Nipol NS612(非油展品、ガラス転移温度Tg=-60℃)
・BR:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製 Nipol BR1220(ガラス転移温度Tg=-105℃)
・変性BR1:末端変性ブタジエンゴム、JSR社製 BR54(ガラス転移温度Tg:-107℃、官能基:シラノール基、分子量分布Mw/Mn=2.5)
・変性BR2:下記の方法で合成した末端変性ブタジエンゴム(ガラス転移温度Tg:-93℃、官能基:ポリオルガノシロキサン基、分子量分布は下記を参照)
・変性BR3:末端変性ブタジエンゴム、日本ゼオン社製 Nipol BR1250H(ガラス転移温度Tg:-96℃、官能基:N-メチルピロリドン基、分子量分布Mw/Mn=1.1)
・CB1:カーボンブラック、東海カーボン社製シーストN(窒素吸着比表面積N2 SA:70m2 /g)
・CB2:カーボンブラック、東海カーボン社製シーストF(窒素吸着比表面積N2 SA:45m2 /g)
・酸化亜鉛:正同化学工業社製 酸化亜鉛3種
・老化防止剤:フレキシス社製 サントフレックス 6PPD
・ステアリン酸:新日理化社製ステアリン酸50S
・硫黄:四国化成工業社製 ミュークロンOT‐20(硫黄含有量:80質量%)
・加硫促進剤:大内新興化学工業社製 ノクセラーCZ
【0045】
変性BR2の合成方法
攪拌機付きオートクレーブに、窒素雰囲気下、シクロヘキサン5670g、1,3‐ブタジエン700gおよび、テトラメチルエチレンジアミン0.17mmolを仕込んだ後、シクロヘキサンと1,3‐ブタジエンとに含まれる重合を阻害する不純物の中和に必要な量のn‐ブチルリチウムを添加し、更に、重合反応に用いる分のn-ブチルリチウムを8.33mmol加えて、50℃で重合を開始した。重合を開始してから20分経過後に、1,3‐ブタジエン300gを30分間かけて連続的に添加した。重合反応中の最高温度は80℃であった。連続添加終了後、更に15分間重合反応を継続し、重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、少量の重合溶液をサンプリングした。サンプリングした少量の重合溶液は、過剰のメタノールを添加して反応停止した後、風乾して、重合体を取得し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析の試料とした。その試料を用いて、重合体(活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖に該当)のピークトップ分子量および分子量分布を測定したところ、それぞれ、「23万」および「1.04」であった。
【0046】
前述の少量の重合溶液をサンプリングした直後、重合溶液に、1,6‐ビス(トリクロロシリル)ヘキサン0.288mmol(重合に使用したn‐ブチルリチウムの0.0345倍モルに相当)を40重量%シクロヘキサン溶液の状態で添加し、30分間反応させた。更に、その後、ポリオルガノシロキサンA0.0382mmol(重合に使用したn‐ブチルリチウムの0.00459倍モルに相当)を20重量%キシレン溶液の状態で添加し、30分間反応させた。その後、重合停止剤として、使用したn‐ブチルリチウムの2倍モルに相当する量のメタノールを添加した。これにより、変性ブタジエンゴムを含有する溶液を得た。この溶液に、ゴム成分100部あたり、老化防止剤として2,4‐ビス(n‐オクチルチオメチル)‐6‐メチルフェノール0.2部を添加した後、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、60℃で24時間真空乾燥して、固形状の変性ブタジエンゴム(変性BR2)を得た。この変性ブタジエンゴム(変性BR2)について、重量平均分子量、分子量分布、カップリング率、ビニル結合含有量、および、ムーニー粘度を測定したところ、それぞれ、「51万」、「1.46」、「28%」、「11質量%」および「46」であった。
【0047】
【表3】
【0048】
表3において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、TSR20(ガラス転移温度Tg=-65℃)
・SBR:スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製 Nipol 1502(ガラス転移温度Tg=-60℃)
・CB:カーボンブラック、東海カーボン社製シーストN(窒素吸着比表面積N2 SA:70m2 /g)
・酸化亜鉛:正同化学工業社製 酸化亜鉛3種
・老化防止剤:フレキシス社製 サントフレックス 6PPD
・ステアリン酸:新日理化社製ステアリン酸50S
・硫黄:四国化成工業社製 ミュークロンOT‐20(硫黄含有量:80質量%)
・加硫促進剤:大内新興化学工業社製 ノクセラーNS‐P
【0049】
表1~2から明らかなように、実施例1~10の空気入りタイヤは、標準例1に対して低燃費性能および荷重耐久性をバランスよく向上した。
【0050】
一方、比較例1の空気入りタイヤは、上側ビードフィラーを構成するゴム組成物が末端変性ブタジエンゴムの代わりにスチレンブタジエンゴムを含むため、低燃費性能およびビード部耐久性が悪化した。比較例2の空気入りタイヤは、上側ビードフィラーを構成するゴム組成物が末端変性ブタジエンゴムの代わりに末端変性溶液重合スチレンブタジエンゴムを含むため、低燃費性能およびビード部耐久性が悪化した。比較例3の空気入りタイヤは、上側ビードフィラーを構成するゴム組成物における末端変性ブタジエンゴムの配合量が少ないため、低燃費性能およびビード部耐久性を向上する効果が得られなかった。比較例4の空気入りタイヤは、上側ビードフィラーを構成するゴム組成物に配合されるカーボンブラックの窒素吸着比表面積が小さすぎるため、低燃費性能およびビード部耐久性が悪化した。
【符号の説明】
【0051】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
6A 上側ビードフィラー
6B 下側ビードフィラー
7 ベルト層
11 トレッドゴム層
12 サイドゴム層
13 リムクッションゴム層
CL タイヤ赤道
図1