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特許7272025タイヤトレッド用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】タイヤトレッド用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/06 20060101AFI20230502BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230502BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20230502BHJP
   C08L 61/04 20060101ALI20230502BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
C08L9/06
C08K3/04
C08L9/00
C08L61/04
B60C1/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019049827
(22)【出願日】2019-03-18
(65)【公開番号】P2020152752
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】中川 隆太郎
【審査官】長岡 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-044262(JP,A)
【文献】特開2017-101142(JP,A)
【文献】特開2007-002070(JP,A)
【文献】特開2007-269843(JP,A)
【文献】特開2002-212250(JP,A)
【文献】特開2011-241364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 7/00-21/02
C08L 61/00-61/34
C08K 3/00- 3/40
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン-ブタジエン共重合体ゴムを80質量部以上含むジエン系ゴム100質量部に対し、
窒素吸着比表面積(NSA)が120m/g以上のカーボンブラックを80~250質量部、
重量平均分子量が2000~40000でありかつガラス転移温度(Tg)が-25℃以上の液状芳香族ビニル-共役ジエン系ゴムを15質量部以上、および
カシュー油とフェノールとホルムアルデヒドとの重縮合物であり、カシュー変性率が15質量%以上であるフェノール樹脂を3~40質量部配合してなる
ことを特徴とするタイヤキャップトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
フェノール樹脂用の硬化剤を含まないことを特徴とする請求項1に記載のタイヤキャップトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
平均ガラス転移温度(Tg)が-30℃以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤキャップトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のタイヤキャップトレッド用ゴム組成物をキャップトレッドに使用した空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤトレッド用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものであり、詳しくは、ドライグリップ性能を向上させ、破断強度を高めて耐摩耗性に優れるタイヤトレッド用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、競技用の空気入りタイヤに求められる性能は多岐にわたり、特に高速走行時の乾燥路面での操縦安定性(ドライグリップ性能)が優れることが要求されている。
そこで、例えばドライグリップ性能を向上させるため、高比表面積のフィラーや高軟化点樹脂の多量配合がなされている。
しかし、高比表面積のフィラーを多量配合すると、破断強度が低下し、これにより耐摩耗性が悪化してしまう。一方、高軟化点樹脂を多量配合すると、熱ダレ性能が悪化し、競技におけるタイム低下の原因となる。
【0003】
ドライグリップ性能を高める試みとして、例えば下記特許文献1には、ゴム、シランカップリング剤、金属塩、カシュー変性フェノール樹脂のような変性樹脂を含むゴム組成物が開示されている。
しかしながら、当該技術では、ドライグリップ性能および破断強度を、本発明で求めるレベルにまで向上させることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-217543公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は、ドライグリップ性能および破断強度を共に高め得るタイヤトレッド用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムを含むジエン系ゴムに対し、特定の窒素吸着比表面積(NSA)範囲を有するカーボンブラックと、特定の重量平均分子量およびガラス転移温度(Tg)を有する液状芳香族ビニル-共役ジエン系ゴムと、カシュー油で一定量以上変性されたフェノール樹脂とを特定量でもって配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は以下の通りである。
【0007】
1.スチレン-ブタジエン共重合体ゴムを80質量部以上含むジエン系ゴム100質量部に対し、
窒素吸着比表面積(NSA)が120m/g以上のカーボンブラックを80~250質量部、
重量平均分子量が2000~40000でありかつガラス転移温度(Tg)が-25℃以上の液状芳香族ビニル-共役ジエン系ゴムを15質量部以上、および
カシュー油で15質量%以上変性されたフェノール樹脂を3~40質量部配合してなる
ことを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。
2.フェノール樹脂用の硬化剤を含まないことを特徴とする前記1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
3.平均ガラス転移温度(Tg)が-30℃以上であることを特徴とする前記1または2に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
4.タイヤキャップトレッドに用いられる、前記1~3のいずれかに記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
5.前記1~3のいずれかに記載のタイヤトレッド用ゴム組成物をキャップトレッドに使用した空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0008】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムを80質量部以上含むジエン系ゴム100質量部に対し、窒素吸着比表面積(NSA)が120m/g以上のカーボンブラックを80~250質量部、重量平均分子量が2000~40000でありかつガラス転移温度(Tg)が-25℃以上の液状芳香族ビニル-共役ジエン系ゴムを15質量部以上、およびカシュー油で15質量%以上変性されたフェノール樹脂を3~40質量部配合してなることを特徴としているので、ドライグリップ性能および破断強度を共に高め得るタイヤトレッド用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0010】
(ジエン系ゴム)
本発明で使用されるジエン系ゴムは、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)を必須成分とする。本発明で使用されるジエン系ゴム全体を100質量部としたときに、SBRの配合量は、80~100質量部である。なお本発明では、SBR以外にも、通常のゴム組成物に配合することができる任意のジエン系ゴムを用いることができ、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。
【0011】
(カーボンブラック)
本発明で使用するカーボンブラックは、窒素吸着比表面積(NSA)が120m/g以上であることが必要である。
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)が120m/g未満であると、ドライグリップ性能が低下し、また破断強度も低下する。
本発明で使用するカーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は100~300m/gであることが好ましく、130~250m/gであることがさらに好ましい。
なお、カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、JIS K6217-2に準拠して求めた値である。
【0012】
(液状芳香族ビニル-共役ジエン系ゴム)
本発明では、重量平均分子量が2000~40000でありかつガラス転移温度(Tg)が-25℃以上の液状芳香族ビニル-共役ジエン系ゴムを配合する。このような液状芳香族ビニル-共役ジエン系ゴムを配合することにより、ゴム組成物のガラス転移温度(Tg)が上昇し、ドライグリップ性能を高めることができる。また該液状芳香族ビニル-共役ジエン系ゴムは、ジエン系ゴムとなじみやすく、かつ本発明で使用されるフェノール樹脂の分散性を高め、本発明の効果を高めることができる。
液状芳香族ビニル-共役ジエン系ゴムとしては、ドライグリップ性能が向上するという観点から、液状スチレン-ブタジエン共重合体(液状SBR)が好ましい。液状SBRは、重量平均分子量が2000~40000であり、好ましくは3000~20000のものを使用することができる。また液状SBRのガラス転移温度は前記のように-25℃以上であり、-20℃~-5℃がさらに好ましい。
なお、本発明で言う重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で分析されるポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。またTgは、示差走査熱量測定(DSC)により20℃/分の昇温速度条件によりサーモグラムを測定し、転移域の中点の温度とする。
なお、本発明で使用される液状ゴムは、23℃で液体である。したがって、この温度では固体である前記ジエン系ゴムとは区別される。
【0013】
(フェノール樹脂)
本発明で使用されるフェノール樹脂は、カシュー油で変性されたカシュー変性フェノール樹脂であり、該樹脂は、カシュー油とフェノールとホルムアルデヒドとの重縮合物であり、公知の樹脂である。
本発明で使用されるフェノール樹脂は、特定のカシュー変性率を有する。すなわち、本発明で使用されるフェノール樹脂は、カシュー油で15質量%以上変性されていることが必要である。当該カシュー変性率が15質量%未満では、破断強度が悪化する。本発明において、カシュー変性率は、15~30質量%が好ましい。
なお、カシュー変性率は、公知の手段、例えばNMRを用いて測定することができる。
【0014】
(ゴム組成物の配合割合)
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、窒素吸着比表面積(NSA)が120m/g以上のカーボンブラックを80~250質量部、重量平均分子量が2000~40000でありかつガラス転移温度(Tg)が-25℃以上の液状芳香族ビニル-共役ジエン系ゴムを15質量部以上、およびカシュー油で15質量%以上変性されたフェノール樹脂を3~40質量部配合してなることを特徴とする。
前記カーボンブラックの配合量が80質量部未満であると、発熱が低下し、ドライグリップ性能が悪化し、逆に250質量部を超えると、破断強度が低下する。
前記液状芳香族ビニル-共役ジエン系ゴムの配合量が15質量部未満であると配合量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができない。
前記フェノール樹脂の配合量が3質量部未満であると、配合量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができない。逆に40質量部を超えると、耐摩耗性が悪化する。
【0015】
また、本発明のゴム組成物において、前記カーボンブラックの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、100~250質量部であることが好ましい。
前記液状芳香族ビニル-共役ジエン系ゴムの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、5~100質量部であることが好ましい。
前記フェノール樹脂の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、5~25質量部であることが好ましい。
【0016】
(その他成分)
本発明におけるゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤;加硫又は架橋促進剤;酸化亜鉛、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウムのような各種充填剤;老化防止剤;可塑剤などのゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0017】
本発明のゴム組成物は、フェノール樹脂用の硬化剤を含まないことが好ましい。硬化剤の存在下でフェノール樹脂を硬化させてしまうと、破断強度が悪化する恐れがある。
なおフェノール樹脂用の硬化剤としては、公知の硬化剤をすべて例示することができるが、具体的には、ヘキサメチレンテトラミン、HMMM(ヘキサメトキシメチロールメラミンの部分縮合物)、PMMM(ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテルの部分縮合物)、ヘキサエトキシメチルメラミン、パラ-ホルムアルデヒドのポリマー、メラミンのN-メチロール誘導体等が挙げられる。
【0018】
また本発明のゴム組成物は、平均ガラス転移温度(平均Tg)が-30℃以上であることが好ましい。このように平均Tgを規定することにより、ドライグリップ性能が向上する。
なお本明細書で言う平均Tgは、各成分のガラス転移温度に、各成分の重量分率を乗じた積の合計、すなわち加重平均に基づき算出される値である。なお計算時には各成分の重量分率の合計を1.0とする。また、前記各成分とは、ジエン系ゴム、可塑剤および樹脂を意味する。なお、可塑剤は、ゴム組成物に含まれない場合もあり得る。
さらに好ましい前記平均Tgは、-25℃~-5℃である。
【0019】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物の加硫物において、前記フェノール樹脂は、加硫物中で軟化剤または可塑剤のような機能を果たしていると推測される。
【0020】
また本発明のゴム組成物は従来の空気入りタイヤの製造方法に従って空気入りタイヤを製造するのに適しており、キャップトレッド、とくに競技用空気入りタイヤのキャップトレッドに適用するのがよい。
【実施例
【0021】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0022】
実施例1~4および比較例1~4
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、ゴムをミキサー外に放出して室温冷却した。次いで、該ゴムを同ミキサーに再度入れ、加硫促進剤および硫黄を加えてさらに混練し、ゴム組成物を得た。次に得られたゴム組成物を所定の金型中で160℃、20分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を得、以下に示す試験法で加硫ゴム試験片の物性を測定した。
【0023】
ドライグリップ性能:JIS K6394に基づき、(株)東洋精機製作所製の粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪=10%、振幅=±2%、周波数=20Hzの条件下でtanδ(100℃)を測定し、この値をもってドライグリップ性能を評価した。結果は、比較例1を100として指数表示した。指数が大きいほど、ドライグリップ性能が良好であることを示す。
【0024】
破断強度:JIS K6251に準拠し、引張試験にて破断伸びを100℃で評価した。結果は比較例1の値を100として指数表示した。この指数が大きいほど破断強度に優れることを示す。
【0025】
【表1】
【0026】
*1:SBR(ZSエラストマー株式会社製Nipol NS460、SBR100質量部にオイル成分37.5質量部を添加した油展品、表1ではSBR本体の質量部を示した)
*2:カーボンブラック(東海カーボン株式会社製シースト9、窒素吸着比表面積(NSA)=142m/g)
*3:液状SBR(Cray Valley社製 RICON 100、Tg=-15℃、重量平均分子量=6,400)
*4:フェノール樹脂1(カシュー社製商品名1200W、カシュー変性率=10質量%)
*5:フェノール樹脂2(カシュー社製商品名5208、カシュー変性率=20質量%)
*6:フェノール樹脂3(カシュー社製商品名1321、カシュー変性率=30質量%)
*7:オイル(昭和シェル石油株式会社製エキストラクト4号S)
*8:老化防止剤(Solutia Europe社製Santoflex 6PP)
*9:ワックス(大内新興化学工業株式会社製パラフィンワックス)
*10:硫黄(鶴見化学工業株式会社製金華印油入微粉硫黄)
*11:加硫促進剤(大内新興化学工業株式会社製ノクセラーCZ-G)
*12:硬化剤(大内新興化学工業(株)製ヘキサメチレンテトラミン)
【0027】
表1の結果から、実施例1~4のゴム組成物は、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムを80質量部以上含むジエン系ゴム100質量部に対し、窒素吸着比表面積(NSA)が120m/g以上のカーボンブラックを80~250質量部、重量平均分子量が2000~40000でありかつガラス転移温度(Tg)が-25℃以上の液状芳香族ビニル-共役ジエン系ゴムを15質量部以上、およびカシュー油で15質量%以上変性されたフェノール樹脂を3~40質量部の範囲で配合したので、比較例1に比べて、ドライグリップ性能および破断強度が共に向上していることが分かる。
これに対し、比較例2は液状芳香族ビニル-共役ジエン系ゴムを配合していないので、比較例1に比べて破断強度が悪化した。
比較例3はフェノール樹脂の配合量が本発明で規定する下限未満であるので、比較例1と同様の結果を示した。
比較例4はフェノール樹脂のカシュー変性率が本発明で規定する下限未満であるので、比較例1に比べて破断強度が悪化した。