(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】非水電解質、非水電解質蓄電素子、非水電解質の水溶性化剤、及び非水電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20230502BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20230502BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230502BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2019057439
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100158540
【氏名又は名称】小川 博生
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】岸本 顕
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-295742(JP,A)
【文献】特開2009-302022(JP,A)
【文献】国際公開第2008/078626(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01G 11/58-11/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチルメチルカーボネートを含む非水溶媒、及び
炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩
を含有し、
上記非水溶媒に占める上記エチルメチルカーボネートの含有量が
60体積%以下である、蓄電素子用の非水電解質。
【請求項2】
上記非水溶媒に占めるジメチルカーボネートの含有量が10体積%以下である請求項
1の非水電解質。
【請求項3】
請求項
1又は請求項
2の非水電解質を備える非水電解質蓄電素子。
【請求項4】
通常使用時の充電終止電圧における正極電位が4.3V(vs.Li/Li
+)以上である請求項
3の非水電解質蓄電素子。
【請求項5】
炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩を含有
し、
エチルメチルカーボネートを含む非水溶媒を含有し、且つ上記非水溶媒に占める上記エチルメチルカーボネートの含有量が60体積%以下である非水電解質に添加されるよう用いられる、非水電解質の水溶性化剤。
【請求項6】
エチルメチルカーボネートを含む非水溶媒と、炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩とを混合することを備え、
上記非水溶媒に占める上記エチルメチルカーボネートの含有量が
60体積%以下である、蓄電素子用の非水電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質、非水電解質蓄電素子、非水電解質の水溶性化剤、及び非水電解質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
一般的に上記非水電解質蓄電素子の非水電解質は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解する電解質塩とを含む。この非水電解質においては、性能改善のために、各種溶媒や添加剤が選択されて用いられている。例えば、非水溶媒として鎖状カーボネートと環状カーボネートとの混合溶媒が用いられた非水電解質が広く知られている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-207633号公報
【文献】特開2011-009230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蓄電素子用の非水電解質は、通常、消防法における危険物第四類(引火性液体)に該当する。消防法上の規制により、日本国内において指定数量を超える量の危険物は、貯蔵所以外の場所で貯蔵すること、並びに製造所、貯蔵所及び取扱所以外の場所で取り扱うことができない。危険物の内、危険物第四類の第一石油類、第二石油類及び第三石油類は、非水溶性液体と水溶性液体とで指定数量が異なり、水溶性液体の指定数量は非水溶性液体の2倍である。例えば、上述の鎖状カーボネートと環状カーボネートとの混合溶媒を含む非水電解質である、エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比30:10:60で混合してなる非水溶媒に、電解質塩としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1.2mol/Lの含有量となるように混合した非水電解質は、指定数量が1000Lである第二石油類非水溶性液体に該当する。ここで、第二石油類に該当する非水電解質が水溶性液体である場合、指定数量が2000Lとなり、2倍の量を貯蔵所以外の場所で貯蔵し、製造所、貯蔵所及び取扱所以外の場所で取り扱うことができるため、産業上有益である。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、水溶性液体である蓄電素子用の非水電解質、このような非水電解質の製造方法、このような非水電解質を備える非水電解質蓄電素子、及び非水電解質の水溶性化剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、エチルメチルカーボネートを含む非水溶媒、及び炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩を含有し、上記非水溶媒に占める上記エチルメチルカーボネートの含有量が65体積%以下である、蓄電素子用の非水電解質(A)である。
【0008】
本発明の他の一態様は、非水溶媒及び炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩を含有し、水溶性液体である、蓄電素子用の非水電解質(B)である。
【0009】
本発明の他の一態様は、当該非水電解質(A)又は当該非水電解質(B)を備える非水電解質蓄電素子である。
【0010】
本発明の他の一態様は、炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩を含有する、非水電解質の水溶性化剤である。
【0011】
本発明の他の一態様は、エチルメチルカーボネートを含む非水溶媒と、炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩とを混合することを備え、上記非水溶媒に占める上記エチルメチルカーボネートの含有量が65体積%以下である、蓄電素子用の非水電解質の製造方法である。
【0012】
本発明の他の一態様は、非水溶媒と、炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩とを混合することを備える、水溶性液体である蓄電素子用の非水電解質の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水溶性液体である非水電解質、このような非水電解質の製造方法、このような非水電解質を備える非水電解質蓄電素子、及び非水電解質の水溶性化剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を示す外観斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一態様に係る非水電解質は、エチルメチルカーボネート(EMC)を含む非水溶媒、及び炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩を含有し、上記非水溶媒に占める上記EMCの含有量が65体積%以下である、蓄電素子用の非水電解質(A)である。
【0016】
当該非水電解質(A)は、上記組成を有することにより水溶性液体となる。当該非水電解質(A)が水溶性液体となる理由は定かでは無いが、以下の理由が推測される。炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンは、疎水基であるフッ素化炭化水素基と親水基であるスルホン酸基とを有するアニオンである。特に、炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基は、フッ素化されており、かつ炭素数が多いことから、高い疎水性を示す。また、高い電子吸引性を有するフッ素化炭化水素基の存在により、スルホン酸基のアニオン性(カチオンとの解離性)が高くなる。このため、このスルホン酸アニオンを有する塩の優れた界面活性作用により、非水溶媒と水との相溶性を高めているものと推測される。また、粘度調整のため等に必要なEMCの含有量が多すぎると水溶性が低下する傾向にあるが、当該非水電解質(A)においては、非水溶媒に占めるEMCの含有量を65体積%以下としていることにより、水溶性が高まり、水溶性液体となる。また、当該非水電解質(A)は、水溶性液体であるため、指定数量が大きくなり、産業上有益である。
【0017】
さらに当該非水電解質(A)は、以下のような理由から、蓄電素子用の非水電解質として有用である。非水溶媒として広く用いられている鎖状カーボネートと環状カーボネートとを比べると、比誘電率の高い環状カーボネートの方が、水溶性が高い。そのため、例えば環状カーボネートのみから構成されている非水電解質は、水溶性液体となる可能性がある。しかし、鎖状カーボネートを含有しない非水電解質は、粘度が高すぎ、良好な蓄電素子性能を発揮することができない。また、鎖状カーボネートの中では、炭素数の最も少ないジメチルカーボネート(DMC)は比較的水溶性が高い傾向にあり、DMCの含有割合を高めることで水溶性液体となる可能性もある。しかし、DMCは、耐酸化性に劣り、高電圧で作動させる蓄電素子の非水電解質に用いることが困難である。一方、ジエチルカーボネート(DEC)等炭素数の多い鎖状カーボネートは、耐酸化性は高いものの水溶性が低い。そこで、当該非水電解質(A)は、粘度調整等のための鎖状カーボネートとして、耐酸化性と水溶性とのバランスの点から、EMCを含有させていることにより、蓄電素子用の非水電解質として有用に機能する。さらに当該非水電解質(A)は、スルホン酸アニオンを有する塩の添加により、蓄電素子の初期抵抗を低減できる点からも有用である。
【0018】
本発明の他の一態様に係る非水電解質は、非水溶媒及び炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩を含有し、水溶性液体である、蓄電素子用の非水電解質(B)である。当該非水電解質(B)は、水溶性液体であるため、指定数量が大きくなり、産業上有益である。さらに当該非水電解質(B)は、スルホン酸アニオンを有する塩の添加により、蓄電素子の初期抵抗を低減できる点からも有用である。
【0019】
なお、「水溶性液体」とは、危険物の規制に関する政令別表第3における「水溶性液体」に該当するものをいい、1気圧において、温度20℃で同容量の純水と穏やかにかきまぜた場合に、流動がおさまった後も当該混合液が均一な外観を維持するものであることをいう。なお、危険物の規制に関する政令は、消防法の規定に基づき制定された政令である。なお、本願明細書において、「同容量の純水と穏やかにかき混ぜる」とは、10mLの純水と10mLの非水電解質とを50mLのビーカーに注ぎ、攪拌棒を用い、回転速度60rpmで、20回かき混ぜることにより行うことをいう。また、「流動がおさまった後」とは、かき混ぜた後、30秒以上静置し、目視で流動が認められなくなったことを確認した後をいう。
【0020】
非水電解質(A)及び非水電解質(B)において、上記非水溶媒に占めるDMCの含有量が10体積%以下であることが好ましい。このように、耐酸化性に劣るDMCの含有割合を低くすることで、非水電解質の耐酸化性が高まり、高電圧の蓄電素子に好適に用いることができる。
【0021】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、当該非水電解質(A)又は当該非水電解質(B)を備える非水電解質蓄電素子(以下、単に「蓄電素子」ともいう。)である。当該蓄電素子は、水溶性液体である非水電解質が用いられているため、指定数量が大きくなり、産業上有益である。
【0022】
当該蓄電素子における通常使用時の充電終止電圧における正極電位が、4.3V(vs.Li/Li+)以上であることが好ましい。通常使用時の充電終止電圧における正極電位が、4.3V(vs.Li/Li+)以上であることにより、高電圧の蓄電素子として機能する。また、本発明の一実施形態に係る非水電解質は、耐酸化性の低いDMCを用いなくとも、炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩により、水溶性液体となっている。このため、本発明の一実施形態に係る非水電解質は、耐酸化性を高めることができ、このような非水電解質を用いた蓄電素子は、通常使用時の充電終止電圧における正極電位が、4.3V(vs.Li/Li+)以上であっても十分に機能する。
【0023】
ここで、通常使用時とは、当該蓄電素子について推奨され、又は指定される充電条件を採用して当該蓄電素子を使用する場合であり、当該蓄電素子のための充電器が用意されている場合は、その充電器を適用して当該蓄電素子を使用する場合をいう。なお、例えば、黒鉛を負極活物質とする蓄電素子では、設計にもよるが、充電終止電圧が4.25Vのとき、正極電位は約4.35V(vs.Li/Li+)である。
【0024】
本発明の一実施形態に係る水溶性化剤は、炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩を含有する、非水電解質の水溶性化剤である。当該水溶性化剤によれば、上記スルホン酸アニオンを有する塩により、非水電解質の水溶性を高めることができる。すなわち、例えば当該水溶性化剤を非水溶性液体である所定の非水電解質に加えることで、水溶性液体である非水電解質を得ることができる。
【0025】
本発明の一実施形態に係る非水電解質の製造方法は、EMCを含む非水溶媒と、炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩とを混合することを備え、上記非水溶媒に占める上記EMCの含有量が65体積%以下である、蓄電素子用の非水電解質の製造方法である。当該非水電解質の製造方法によれば、炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩と、所定の非水溶媒とを用いることで、水溶性液体である非水電解質を得ることができる。
【0026】
本発明の一実施形態に係る非水電解質の製造方法は、非水溶媒と、炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩とを混合することを備える、水溶性液体である蓄電素子用の非水電解質の製造方法である。当該非水電解質の製造方法によれば、炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩を用いることで、水溶性液体である非水電解質を得ることができる。
【0027】
以下、本発明の一実施形態に係る非水電解質、非水電解質の製造方法、非水電解質の水溶性化剤、及び非水電解質蓄電素子について詳説する。
【0028】
<非水電解質>
本発明の一実施形態に係る非水電解質(A)は、蓄電素子の非水電解質として用いられる。当該非水電解質(A)は、非水溶媒、及び炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩を含有する。
【0029】
(非水溶媒)
非水溶媒は、EMCを含む。EMCは鎖状カーボネートの一つであり、低粘度の溶媒である。このため、非水溶媒にEMCを用いることで、当該非水電解質(A)は好適な粘性を示し、蓄電素子用の非水電解質としての良好な特性が発揮される。また、鎖状カーボネートの中でも、EMCを用いることで、当該非水電解質(A)の耐酸化性と水溶性とを両立させることができる。
【0030】
非水溶媒に占めるEMCの含有量の上限は、65体積%であり、60体積%が好ましい。EMCの含有量を上記上限以下とすることで、良好な水溶性を示す非水電解質とすることができる。一方、非水溶媒に占めるEMCの含有量の下限は特に限定されないが、10体積%が好ましく、30体積%がより好ましく、50体積%がさらに好ましい。EMCの含有量を上記下限以上とすることで、好適な粘性等を有する非水電解質とすることができる。また、これらの理由から、非水溶媒に占めるEMCの含有量は、上記のいずれかの下限以上かつ上記のいずれかの上限以下の範囲内であることが好ましい。
【0031】
非水溶媒には、EMC以外の他の鎖状カーボネートが含有されていてもよい。他の鎖状カーボネートとしては、DMC、DEC等を挙げることができる。但し、耐酸化性の点から、非水溶媒に占めるDMCの含有量の上限は、10体積%が好ましく、5体積%がより好ましく、1体積%がさらに好ましく、実質的にDMCが含有されていないことがよりさらに好ましい。
【0032】
また、水溶性、耐酸化性等の観点から、全鎖状カーボネートに占めるEMCの含有量の下限は、80体積%が好ましく、90体積%がより好ましく、95体積%がさらに好ましく、99体積%がよりさらに好ましく、鎖状カーボネートとしては実質的にEMCのみであることが特に好ましい。
【0033】
非水溶媒は、環状カーボネートをさらに含有することが好ましい。環状カーボネートにより、当該非水電解質(A)の水溶性を高めることができる。環状カーボネートは、水素原子の一部又は全部がフッ素等の置換基で置換されたものであってもよい。環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)等が挙げられる。環状カーボネートとしては、EC、PC及びBCが好ましく、EC及びPCがより好ましく、ECとPCとを併用することがさらに好ましい。
【0034】
非水溶媒に占める環状カーボネートの含有量の下限としては、20体積%が好ましく、30体積%がより好ましく、35体積%がさらに好ましく、40体積%がよりさらに好ましい。環状カーボネートの含有量を上記下限以上とすることで、水溶性をより高めることができる。一方、適度な粘度に調整すること等から、非水溶媒に占める環状カーボネートの含有量の上限は、70体積%が好ましく、50体積%が好ましい。また、これらの理由から、非水溶媒に占める環状カーボネートの含有量は、上記のいずれかの下限以上かつ上記のいずれかの上限以下の範囲内であることが好ましい。
【0035】
環状カーボネートに占めるECの体積比率の下限としては、50体積%が好ましく、60体積%がより好ましい。一方、この含有量の上限としては、100体積%であってもよく、90体積%が好ましく、80体積%がより好ましい。また、環状カーボネートに占めるECの体積比率は、上記のいずれかの下限以上かつ上記のいずれかの上限以下の範囲内であることが好ましい。
【0036】
環状カーボネートに占めるPCの体積比率の下限としては、0体積%であってもよく、10体積%が好ましく、20体積%がより好ましい。一方、この含有量の上限としては、50体積%が好ましく、35体積%がより好ましい。また、環状カーボネートに占めるPCの体積比率は、上記のいずれかの下限以上かつ上記のいずれかの上限以下の範囲内であることが好ましい。
【0037】
非水溶媒は、鎖状カーボネート及び環状カーボネート以外の他の非水溶媒をさらに含んでいてもよい。他の非水溶媒としては、エステル、エーテル、アミド、スルホン、ラクトン、ニトリル等を挙げることができる。但し、非水溶媒における鎖状カーボネート及び環状カーボネートの合計含有量の下限としては、90体積%が好ましく、99体積%がより好ましい。また、非水溶媒におけるEMC及び環状カーボネートの合計含有量の下限としては、90体積%が好ましく、99体積%がより好ましい。さらに、非水溶媒におけるEMC、EC及びPCの合計含有量の下限としては、90体積%が好ましく、99体積%がより好ましい。このように、他の非水溶媒の含有量が少ない組成とすることで、水溶性、粘度、耐酸化性等がより良好な非水電解質とすることができる。
【0038】
(スルホン酸アニオンを有する塩)
当該非水電解質(A)に含有されるスルホン酸アニオンを有する塩は、炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩である限り特に限定されるものでは無い。スルホン酸アニオンを有する塩は、1つのフッ素化炭化水素基と1つのスルホン酸基(-SO3
-)とからなるスルホン酸アニオンを有する塩であることが好ましい。
【0039】
炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を構成する炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基のいずれであってもよいが、脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等の脂肪族鎖状炭化水素基や、シクロアルキル基等の脂肪族環状炭化水素基を挙げることができるが、脂肪族鎖状炭化水素基が好ましく、アルキル基がより好ましい。また、炭化水素基の炭素数の上限は特に限定されないが、例えば16が好ましく、10がより好ましい。なお、炭素数が8のフッ素化炭化水素基を有するリチウムヘプタデカフルオロオクタンスルホネートは、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律における第一種特定化学物質に指定されており、日本国内において工業的に使用することができない。従って、工業的に有用である点から、フッ素化炭化水素基の炭素数は8以外が好ましく、7以下であることがより好ましい。
【0040】
フッ素化炭化水素基が有するフッ素原子の数は、1以上であればよいが、5以上が好ましく、9以上がより好ましい。このフッ素原子の数の上限は特に限定されないが、例えば33が好ましく、21がより好ましい。フッ素化炭化水素基は、例えばパーフルオロアルキル基等、炭化水素基の全ての水素原子がフッ素原子で置換されたものであることが特に好ましい。
【0041】
スルホン酸アニオンを有する塩を構成するカチオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン等を挙げることができるが、アルカリ金属イオンが好ましく、リチウムイオン、ナトリウムイオン又はカリウムイオンがより好ましい。
【0042】
好ましいスルホン酸アニオンを有する塩の一例としては、CnF2n+1SO3Aで表される化合物を挙げることができる。上記式中、nは、4以上の整数であり、4以上10以下の整数が好ましく、4以上7以下の整数がより好ましい。Aは、アルカリ金属であり、リチウム、ナトリウム又はカリウムであることが好ましく、リチウム又はカリウムであることがより好ましい。
【0043】
当該非水電解質(A)におけるスルホン酸アニオンを有する塩の含有量の下限としては、0.1質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましい。スルホン酸アニオンを有する塩の含有量を上記下限以上とすることで、非水電解質(A)の水溶性をより高めることができる。一方、このスルホン酸アニオンを有する塩の含有量の上限は、例えば10質量%であってよく、6質量%であってもよく、3質量%であってもよい。また、これらの理由から、非水電解質(A)におけるスルホン酸アニオンを有する塩の含有量は、上記のいずれかの下限以上かつ上記のいずれかの上限以下の範囲内であることが好ましい。蓄電素子の初期抵抗をより低減させる観点からは、スルホン酸アニオンを有する塩の含有量は1質量%未満であってもよい。
【0044】
(電解質塩)
当該非水電解質(A)は、通常、非水溶媒に溶解している電解質塩を含有する。なお、この電解質塩には、炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩は含まれないものとする。電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。上記リチウム塩としては、LiPF6、LiPO2F2、LiBF4、LiPF2(C2O4)2、LiClO4、LiN(SO2F)2等の無機リチウム塩、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等のフッ化炭化水素基を有するリチウム塩等を挙げることができる。
【0045】
上記リチウム塩の中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF6がより好ましい。
【0046】
当該非水電解質(A)における電解質塩の含有量の下限としては、0.1mol/Lが好ましく、0.5mol/Lがより好ましく、1mol/Lがさらに好ましく、1.2mol/Lが特に好ましい。一方、この上限としては、特に限定されないが、2.5mol/Lが好ましく、2mol/Lがより好ましく、1.5mol/Lがさらに好ましい。非水電解質(A)における電解質塩の含有量は、0.1mol/L以上2.5mol/L以下が好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下がより好ましい。
【0047】
当該非水電解質(A)には、非水溶媒、炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩、及び電解質塩以外の他の成分が添加剤として添加されていてもよい。このような添加剤としては、一般的な蓄電素子用の非水電解質に含有される各種添加剤を挙げることができる。上記添加剤としては、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)等の環状サルフェート構造を有する化合物、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン等のスルトン構造を有する化合物、スクシノニトリル等のニトリル系化合物、ジフルオロリン酸リチウム、リチウムテトラフルオロオキサレートホスフェート等のリン含有化合物、リチウムビスオキサレートボラート等のホウ素含有化合物等を挙げることができる。これらの中でも、環状サルフェート構造を有する化合物、及びリン含有化合物が好ましい。
【0048】
当該非水電解質(A)が上記添加剤を含有する場合、その含有量の下限としては、例えば0.1質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましい。一方、この含有量の上限としては、5質量%が好ましく、2質量%がより好ましい場合があり、1質量%がさらに好ましい場合もある。
【0049】
<非水電解質(B)>
本発明の一実施形態に係る非水電解質(B)は、蓄電素子用の非水電解質として用いられる。当該非水電解質(B)は、非水溶媒及び炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩を含有し、水溶性液体である。
【0050】
当該非水電解質(B)の組成は、非水溶媒及び炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩を含有すること以外は特に限定されるものでは無い。当該非水電解質(B)の好適な具体的組成は、上述した非水電解質(A)の組成を適用することができる。
【0051】
<非水電解質の製造方法>
本発明の一実施形態に係る非水電解質の製造方法は、EMCを含む非水溶媒と、炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩とを混合することを備え、上記非水溶媒に占める上記EMCの含有量が65体積%以下である、蓄電素子用の非水電解質の製造方法である。本発明の他の実施形態に係る非水電解質の製造方法は、非水溶媒と、炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩とを混合することを備える。このような製造方法により、上述した非水電解質(A)や非水電解質(B)といった、水溶性液体である蓄電素子用の非水電解質を得ることができる。
【0052】
当該製造方法に用いる非水溶媒及びスルホン酸アニオンを有する塩の具体例は、非水電解質(A)の実施形態として上述したとおりである。非水溶媒とスルホン酸アニオンを有する塩の混合方法も特に限定されず、従来公知の方法で行うことができる。また、この混合の際には、非水溶媒及びスルホン酸アニオンを有する塩以外の他の成分をさらに加えてもよい。スルホン酸アニオンを有する塩と、他の成分が加えられた非水溶媒とを混合してもよい。非水溶媒とスルホン酸アニオンを有する塩との混合後、この混合物に他の成分を添加し、非水電解質としてもよい。上記他の成分としては、上記電解質塩であってよい。
【0053】
<非水電解質の水溶性化剤>
本発明の一実施形態に係る水溶性化剤は、炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩を含有する、非水電解質の水溶性化剤である。当該水溶性化剤は、水溶性液体である非水電解質の製造の際の添加剤として好適に用いることができる。
【0054】
当該水溶性化剤に含まれるスルホン酸アニオンを有する塩の具体例は、非水電解質(A)の成分として上述したスルホン酸アニオンを有する塩と同様である。当該水溶化剤は、スルホン酸アニオンを有する塩以外の成分がさらに含まれていてもよいが、実質的にスルホン酸アニオンを有する塩のみから構成されていているものであってよい。当該水溶性化剤に占めるスルホン酸アニオンを有する塩の含有量は、90質量%以上100質量%以下であってよく、99質量%以上100質量%以下であってもよい。
【0055】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、正極、負極及び非水電解質を有する。以下、蓄電素子の一例として、二次電池について説明する。正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回により交互に重畳された電極体を形成する。この電極体は容器に収納され、この容器内に非水電解質が充填される。非水電解質は、正極と負極との間に介在する。また、容器としては、二次電池の容器として通常用いられる公知の金属容器、樹脂容器等を用いることができる。
【0056】
(正極)
正極は、正極基材、及びこの正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層を有する。
【0057】
正極基材は、導電性を有する。「導電性」を有するとは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が107Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が107Ω・cm超であることを意味する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)に規定されるA1085、A3003等が例示できる。
【0058】
正極基材の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。正極基材の平均厚さの上限としては、50μmが好ましく、40μmがより好ましい。正極基材の平均厚さを上記下限以上とすることで、正極基材の強度を高めることができる。正極基材の平均厚さが上記上限以下とすることで、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。また、これらの理由から、正極基材の平均厚さは5μm以上50μm以下とすることが好ましく、10μm以上40μm以下とすることがより好ましい。「平均厚さ」とは、任意の十点において測定した厚さの平均値をいう。他の部材等に対して「平均厚さ」を用いる場合にも同様に定義される。
【0059】
中間層は、正極基材と正極活物質層との間に配される層である。中間層の構成は特に限定されず、例えば、樹脂バインダ及び導電性を有する粒子を含む。中間層は、例えば、炭素粒子等の導電性を有する粒子を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。
【0060】
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質層は、通常、正極活物質を含むいわゆる正極合剤から形成される層である。正極活物質層を形成する正極合剤は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含んでいてよい。
【0061】
正極活物質としては、リチウムイオン二次電池等に通常用いられる公知の正極活物質の中から適宜選択できる。上記正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LixNi1-x]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγCo(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixNiγMnβCo(1-x-γ-β]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物として、LixMn2O4,LixNiγMn(2-γ)O4等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO4,LiMnPO4,LiNiPO4,LiCoPO4,Li3V2(PO4)3,Li2MnSiO4,Li2CoPO4F等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。正極活物質層においては、これら正極活物質の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0062】
正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。ここで、「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0063】
正極活物質等の粒子を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0064】
正極活物質層における正極活物質の含有量の下限としては、70質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。正極活物質の含有量の上限としては、98質量%が好ましく、96質量%がより好ましい。正極活物質の含有量を上記範囲とすることで、二次電池の電気容量をより大きくすることができる。
【0065】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、黒鉛;ファーネスブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック;金属;導電性セラミックス等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが好ましい。
【0066】
正極活物質層における導電剤の含有量の下限としては、1質量%が好ましく、2質量%がより好ましい。導電剤の含有量の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。導電剤の含有量を上記範囲とすることで、二次電池の電気容量を高めることができる。また、これらの理由から、導電剤の含有量は1質量%以上10質量%以下とすることが好ましく、2質量%以上5質量%以下とすることがより好ましい。
【0067】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0068】
正極活物質層におけるバインダの含有量の下限としては、1質量%が好ましく、2質量%がより好ましい。バインダの含有量の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。バインダの含有量を上記範囲とすることで、活物質を安定して保持することができる。また、これらの理由から、バインダの含有量は1質量%以上10質量%とすることが好ましく、2質量%以上5質量%以下とすることがより好ましい。
【0069】
増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0070】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、アルミナシリケイト等が挙げられる。
【0071】
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤及びフィラー以外の成分として含有してもよい。
【0072】
(負極)
負極は、負極基材、及びこの負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層を有する。負極の中間層の構成は特に限定されず、正極の中間層と同様の構成とすることができる。
【0073】
負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0074】
負極基材の平均厚さの下限としては、3μmが好ましく、5μmがより好ましい。負極基材の平均厚さの上限としては、30μmが好ましく、20μmがより好ましい。負極基材の平均厚さを上記下限以上とすることで、負極基材の強度を高めることができる。負極基材の平均厚さを上記上限以下とすることで、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。また、これらの理由から、負極基材の平均厚さは、3μm以上30μm以下とすることが好ましく、5μm以上20μm以下とすることがより好ましい。
【0075】
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質層は、通常、負極活物質を含むいわゆる負極合剤から形成される層である。負極活物質層を形成する負極合剤は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含んでいてよい。導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、正極活物質層と同様のものを用いることができる。
【0076】
負極活物質としては、リチウムイオン二次電池等に通常用いられる公知の負極活物質の中から適宜選択できる。上記負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;Li4Ti5O12、LiTiO2、TiNb2O7等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。これらの材料の中でも、黒鉛及び非黒鉛質炭素が好ましい。負極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0077】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、X線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。
【0078】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてX線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素の結晶子サイズLcは、通常、0.80~2.0nmである。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチ由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0079】
ここで、「放電状態」とは、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態をいう。開回路状態での金属Li対極の電位は、Liの酸化還元電位とほぼ等しいため、上記単極電池における開回路電圧は、Liの酸化還元電位に対する炭素材料を含む負極の電位とほぼ同等である。つまり、上記単極電池における開回路電圧が0.7V以上であることは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されていることを意味する。
【0080】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。難黒鉛化性炭素は、通常、非黒鉛質炭素の中でも、3次元的な積層規則性を持つ黒鉛構造が生成し難い性質を有する。
【0081】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。易黒鉛化性炭素は、通常、非黒鉛質炭素の中でも、3次元的な積層規則性を持つ黒鉛構造が生成し易い性質を有する。
【0082】
負極活物質の平均粒径は、例えば、1μm以上100μm以下とすることができる。負極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、負極活物質層の電子伝導性が向上する。負極活物質の粒子を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び粉級方法は、例えば、上記正極で例示した方法から選択できる。
【0083】
負極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤及びフィラー以外の成分として含有してもよい。
【0084】
(セパレータ)
セパレータの材質としては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。上記セパレータの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。また、これらの樹脂を複合してもよい。
【0085】
なお、セパレータと電極(通常、正極)との間に、無機層が配設されていても良い。この無機層は、耐熱層等とも呼ばれる多孔質の層である。また、多孔質樹脂フィルムの一方の面に無機層が形成されたセパレータを用いることもできる。上記無機層は、通常、無機粒子及びバインダとで構成され、その他の成分が含有されていてもよい。無機粒子としては、Al2O3、SiO2、アルミノシリケート等が好ましい。
【0086】
(非水電解質)
当該二次電池(蓄電素子)に用いられる非水電解質は、上述した本発明の一実施形態に係る非水電解質(A)又は非水電解質(B)である。
【0087】
非水電解質の非水溶媒に占めるDMCの含有量が10体積%以下の場合等は、非水電解質は高い耐酸化性を有する。従って当該二次電池(蓄電素子)がこのような非水電解質を備える場合、当該二次電池を高い作動電圧で用いることができる。例えば、当該二次電池の通常使用時の充電終止電圧における正極電位は、例えば4.0V(vs.Li/Li+)以上であってもよいが、4.3V(vs.Li/Li+)以上が好ましい。一方、この通常使用時の充電終止電圧における正極電位の上限は、例えば5.2V(vs.Li/Li+)であり、5.0V(vs.Li/Li+)であってもよい。
【0088】
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、公知の方法により製造することができる。当該蓄電素子は、例えば、正極を作製すること、負極を作製すること、正極及び負極を、セパレータを介して積層又は巻回することにより交互に重畳された電極体を形成すること、正極及び負極(電極体)を容器に収容すること、並びに非水電解質を容器に注入することを備える製造方法により製造することができる。これらの工程の後、注入口を封止することにより二次電池(蓄電素子)を得ることができる。
【0089】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、上記正極又は負極において、中間層を設けなくてもよい。また、当該非水電解質蓄電素子の正極及び負極は、明確な層構造を有していなくてもよい。例えば上記正極は、メッシュ状の正極基材に正極活物質が担持された構造などであってもよい。
【0090】
また、上記実施の形態においては、非水電解質蓄電素子が非水電解質二次電池である形態を中心に説明したが、その他の非水電解質蓄電素子であってもよい。その他の非水電解質蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。
【0091】
図1に、本発明に係る非水電解質蓄電素子の一実施形態である矩形状の非水電解質蓄電素子1(非水電解質二次電池)の概略図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。
図1に示す非水電解質蓄電素子1は、電極体2が容器3に収納されている。電極体2は、正極合材を備える正極と、負極合材を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。また、容器3には、本発明の一実施形態に係る非水電解質が注入されている。
【0092】
本発明に係る非水電解質蓄電素子の構成については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記の非水電解質蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を
図2に示す。
図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質蓄電素子1を備えている。上記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例】
【0093】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0094】
実施例及び比較例で用いた非水溶媒及びスルホン酸アニオンを有する塩等の略称を以下に示す。
(非水溶媒)
EC :エチレンカーボネート
PC :プロピレンカーボネート
EMC:エチルメチルカーボネート
【0095】
(スルホン酸アニオンを有する塩等)
LiTFMS:リチウムトリフルオロメタンスルホネート
LiNFBS:リチウムノナフルオロ-1-ブタンスルホネート
KNFBS :カリウムノナフルオロ-1-ブタンスルホネート
LiPFOS:リチウムヘプタデカフルオロ-1-オクタンスルホネート
HTMABr:ヘキシルトリメチルアンモニウムブロマイド
NaBS :ナトリウム1-ブタンスルホネート
PFHA :ウンデカフルオロヘキサン酸
DMOSPAH:ジメチル(n-オクチル)(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩
【0096】
[実施例1]
(非水電解質の調製)
ECとPCとEMCとを体積比30:10:60で混合してなる非水溶媒に、電解質塩としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1.2mol/Lの含有量となるように混合した溶液を作製した。この溶液に、スルホン酸アニオンを有する塩としてLiNFBSを2質量%の含有量となるように混合し、非水電解質を調製した。
【0097】
[実施例2~6、比較例1~8]
非水溶媒の種類及び体積比、電解質塩の含有量、並びにスルホン酸アニオンを有する塩等(スルホン酸アニオンを有する塩又はその代替の塩)の種類及び含有量を表1に示すとおりとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~6及び比較例1~8の各非水電解質を得た。なお、表中の「-」は相当する成分を用いていないことを示す。
【0098】
[評価](水溶性評価)
得られた各非水電解質について、以下の水溶性評価を行った。1気圧20℃の雰囲気下、10mLの純水と10mLの非水電解質とを50mLのビーカーに注ぎ、穏やかにかき混ぜた。具体的には、攪拌棒を用い、回転速度60rpmで、20回かき混ぜた。かき混ぜた後、30秒以上静置し、目視で流動が認められなくなったことを確認した。流動がおさまった後も混合液が均一な外観を維持するものを水溶性液体、二相に分離したものを非水溶性液体と評価した。評価結果を表1に示す。
【0099】
【0100】
上記表1に示されるように、スルホン酸アニオンを有する塩等を含有していない比較例1、炭素数が1のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩であるLiTFMSを含有する比較例2、及びスルホン酸アニオンを有する塩以外の塩を含有する比較例3~6の各非水電解質は、いずれも非水溶性液体であった。さらに、非水溶媒におけるEMCの含有量が65体積%を超える比較例7、8の非水電解質は、炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩を含有しているにも拘らず、非水溶性液体であった。これに対し、非水溶媒に占めるEMCの含有量が65体積%以下であり、かつ炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩を含有する実施例1~6の非水電解質は、水溶性液体となった。
【0101】
[実施例7]
(非水電解質の調製)
ECとPCとEMCとを体積比30:10:60で混合してなる非水溶媒に、電解質塩としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1.2mol/Lの含有量となるように混合した溶液を作製した。この溶液に、スルホン酸アニオンを有する塩としてLiNFBSを0.5質量%の含有量となるように混合し、非水電解質を調製した。
【0102】
(正極の作製)
正極活物質として、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物であるLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2を用いた。質量比で、正極活物質:アセチレンブラック(AB):ポリフッ化ビニリデン(PVDF)=93:4:3の割合(固形物換算)で含み、N-メチルピロリドン(NMP)を分散媒とする正極ペーストを作製した。この正極ペーストを正極基材としての帯状のアルミニウム箔の両面に塗布し、乾燥させてNMPを除去した。これをローラープレス機により加圧して正極活物質層を成型した後、100℃で14時間減圧乾燥して、極板中の水分を除去した。このようにして正極を得た。
【0103】
(負極の作製)
負極活物質として、黒鉛を用いた。質量比で、負極活物質(黒鉛):スチレンブタジエンゴム(SBR):カルボキシメチルセルロース(CMC)=97:2:1の割合(固形分換算)で含み、水を分散媒とする負極ペーストを作製した。この負極ペーストを負極基材としての帯状の銅箔集電体の両面に塗布し、乾燥させて水を除去した。これをローラープレス機により加圧して負極活物質層を成型した後、100℃で12時間減圧乾燥して、極板中の水分を除去した。このようにして負極を得た。
【0104】
(非水電解質蓄電素子の作製)
セパレータとして、無機層が塗工されたポリオレフィン製微多孔膜を用いた。このセパレータを介して、上記正極と上記負極とを積層することにより電極体を作製した。この電極体をアルミニウム製の角形電槽缶に収納し、正極端子及び負極端子を取り付けた。この容器(角形電槽缶)内部に上記非水電解質を注入した後、封口し、実施例7の非水電解質蓄電素子(二次電池)を得た。
【0105】
[実施例8~10、比較例9]
スルホン酸アニオンを有する塩の種類及び含有量を表2に示すとおりとしたこと以外は、実施例7と同様にして、実施例8~10及び比較例9の各非水電解質及び非水電解質蓄電素子を得た。なお、表の添加剤の欄中の「-」は相当するスルホン酸アニオンを有する塩を用いていないことを示す。
【0106】
[評価](初期充放電及びACRの測定)
得られた各非水電解質蓄電素子について、以下の条件にて初期充放電を行った。1サイクル目は、25℃で4.25Vまで充電電流0.2Cの定電流にて充電したのちに、4.25Vで定電圧充電(CCCV)した。充電の終了条件は、電流値が0.02Cに至った時点とした。その後、25℃で2.75Vまで0.2Cの定電流で放電した。2サイクル目は、25℃で4.25Vまで1Cの定電流充電したのちに、4.25Vで定電圧充電した。充電の終了条件は、電流値が0.02Cに至った時点とした。その後、25℃で2.75Vまで1Cの定電流で放電した。全てのサイクルにおいて、充電後及び放電後に、10分間の休止時間を設定した。その後、25℃で2.75Vまで0.2Cの定電流で放電した。
上記初期充放電後の各非水電解質蓄電素子について、1kHzの初期交流抵抗(ACR)を求めた。比較例9の非水電解質蓄電素子のACRを基準(100%)とした相対値として、各非水電解質蓄電素子のACRを表2に示す。
【0107】
【0108】
表2に示されるように、炭素数が4以上のフッ素化炭化水素基を有するスルホン酸アニオンを有する塩を含有する非水電解質を用いることで、蓄電素子の初期抵抗を下げることができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等の電源として使用される非水電解質蓄電素子等に適用できる。
【符号の説明】
【0110】
1 非水電解質蓄電素子
2 電極体
3 容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置