(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】バイオフィルム形成抑制コート剤及びバイオフィルム形成抑制積層体
(51)【国際特許分類】
C09D 175/04 20060101AFI20230502BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
C09D175/04
B32B27/40
(21)【出願番号】P 2019071025
(22)【出願日】2019-04-03
【審査請求日】2022-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】荻原 直人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 洸洋
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-147927(JP,A)
【文献】特開2013-227257(JP,A)
【文献】特開平11-246310(JP,A)
【文献】特表2003-528164(JP,A)
【文献】特開2019-078588(JP,A)
【文献】特開2019-084519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 175/04
B32B 27/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミンオキシド基を含み、かつ、質量平均分子量が10,000~10,000,000であるウレタン系ポリマー(a)を含むことを特徴とするバイオフィルム形成抑制コート剤。
【請求項2】
ウレタン系ポリマー(a)が、アミンオキシド基を0.25~5mmol/g含む請求項1に記載のバイオフィルム形成抑制コート剤。
【請求項3】
ウレタン系ポリマー(a)が、下記一般式1~3で表される少なくともいずれかの構造を有する請求項1
又は2に記載のバイオフィルム形成抑制コート剤。
【化1】
【化2】
【化3】
(式中、
R
1、R
3、R
6はそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキレン基を、
R
2、R
4、R
5、R
7、R
8はアルキル基、アリール基、アラルキル基、ピリジル基を、
YはOまたはNHを表し、
**はウレタン系ポリマーの主鎖との結合位置を表す。)
【請求項4】
さらに架橋剤を含む請求項1~
3いずれか1項に記載のバイオフィルム形成抑制コート剤。
【請求項5】
基材上に、請求項1~
4いずれか1項に記載のバイオフィルム形成抑制コート剤からなる塗膜を有する、バイオフィルム形成抑制積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオフィルム形成抑制コート剤及び該コート剤からなる塗膜を有する、バイオフィルム形成抑制積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオフィルムは生物膜やスライムとも言われ、一般に水系で細菌やカビ等の微生物が物質の表面に付着・増殖することによって微生物細胞内から多糖やタンパク質などの高分子物質を産生して構造体を形成したものを指す。バイオフィルムが形成される前後で比較すると、バイオフィルムが一度形成された場合、洗浄・除去、抗生物質、薬剤、熱、乾燥等に対して著しく高い抵抗性を示す。その結果、付着・増殖した微生物を原因とする危害が発生して様々な産業分野で問題を引き起こす。
【0003】
例えば、カテーテル等の医療機器の管内に細菌が付着しバイオフィルムを形成することで詰まりの原因となり、処すべき治療を施すことが不可能となる。また、バイオフィルムが剥がれ落ち、細菌の凝集体が体内に侵入し、深刻な疾病となる恐れがある。食品プラントの配管内にバイオフィルムが形成されると、バイオフィルムが剥がれ落ち、製品内への異物混入につながるだけでなく、微生物由来の毒素で食中毒の原因となる。更に、金属表面へのバイオフィルム形成は金属腐食の原因となり、設備の老朽化を促進する。また、水槽の内面にバイオフィルムが形成されると、水槽内の生物に悪影響を及ぼす。
【0004】
このように、バイオフィルムの形成抑制が求められており、種々の方法が検討されている。
【0005】
特許文献1では、アルカリ無機塩を主成分とするバイオフィルム崩壊剤に、低分子量のアミンオキシド界面活性剤を含むバイオフィルム用処理剤が開示され、一度形成されたバイオフィルムを、低分子量の界面活性剤によって洗浄する手法が開示されている。しかし、一度形成されたバイオフィルムをはがすことは困難であり、洗浄作業による労働的負担が大きい。また洗浄作業の際、多量の水を使用するため処理問題や環境汚染問題を伴う。
【0006】
特許文献2では、アミノ基及び4級アンモニウム基から選ばれる基を1種類以上有し、かつ、アニオン性基を有するビニル系モノマーに由来する高分子化合物を特徴とする、バイオフィルムの形成を抑制する方法が開示され、該高分子化合物が、微生物の付着防止、殺菌、抗菌作用を発揮し、バイオフィルムの形成を抑制する手法が開示されている。しかし、該高分子化合物は耐水性が劣り、バイオフィルム形成抑制性が不十分である。
【0007】
特許文献3では、ホスホリルコリン基含有地オール化合物とそれらを付加縮合させてなる両性のウレタン樹脂が開示されており、生体適合性に優れることが開示されている。しかしながら、構造が強直で一部の基材への密着性、追従性が悪く、溶剤溶解性にも劣るため、ハンドリング面で課題を抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2008-156389号公報
【文献】特開2010-163429号公報
【文献】特開2011-162522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、安全性、塗工性及び耐水性に優れ、かつ、長期間のバイオフィルム形成抑制を可能とする、バイオフィルム形成抑制コート剤及び該コート剤からなる塗膜を有する、バイオフィルム形成抑制積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記<1>~<6>のバイオフィルム形成抑制コート剤、及び<7>のバイオフィルム形成抑制積層体に関する。
【0011】
<1>アミンオキシド基を含み、かつ、質量平均分子量が10,000~10,000,000であるウレタン系ポリマー(a)を含むことを特徴とするバイオフィルム形成抑制コート剤。
【0012】
<2>ウレタン系ポリマー(a)が、アミンオキシド基を0.25~5mmol/g含む<1>に記載のバイオフィルム形成抑制コート剤。
【0013】
<3>ウレタン系ポリマー(a)が、3級アミノ基を有するウレタン系ポリマーと酸化剤との反応生成物であるか、又は、アミンオキシド基を有するジオール化合物とポリイソシアネーとを重合してなるポリマーである、 <1>または<2>に記載のバイオフィルム形成抑制コート剤。
【0014】
<4>ウレタン系ポリマー(a)、下記一般式1~3で表される少なくともいずれかの構造を有する<1>~<3>いずれか1項に記載のバイオフィルム形成抑制コート剤。
【化1】
【化2】
【化3】
(式中、
R
1、R
3
、R
6はそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキレン基を、
R
2、R
4、R
5、R
7、R
8はアルキル基、アリール基、アラルキル基、ピリジル基を、
YはOまたはNHを表し、
**はウレタン系ポリマーの主鎖との結合位置を表す。)
【0015】
<5>さらに架橋剤を含む<1>~<4>いずれか1項に記載のバイオフィルム形成抑制コート剤。
【0016】
<6>基材上に、<1>~<5>いずれか1項に記載のバイオフィルム形成抑制コート剤からなる塗膜を有する、バイオフィルム形成抑制積層体。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、安全性、塗工性及び耐水性に優れ、かつ、長期間のバイオフィルム形成抑制を可能とする、バイオフィルム形成抑制コート剤を提供することができる。
本発明のバイオフィルム形成抑制コート剤は、医療機器、製造設備又は水槽内面等、微生物が付着し、バイオフィルムが形成することが想定される物質表面に、好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のバイオフィルム形成抑制コート剤は、アミンオキシド基を含み、かつ、質量平均分子量が10,000~10,000,000であるウレタン系ポリマー(a)を含むことを特徴とする。アミンオキシド基を含むポリマーであることにより、優れた安全性、塗工性及び耐水性だけでなく、長期間のバイオフィルム形成抑制効果の維持を可能とする。
【0019】
<バイオフィルム形成抑制コート剤>
<ウレタン系ポリマー(a)>
本発明のウレタン系ポリマー(a)は、アミンオキシド基を含み、かつ、質量平均分子量が10,000~10,000,000であればよく、従来公知のポリマーを用いることができ、2種以上を併用してもよい。具体的には、下記一般式(1)(2)(3)で表される構造を含むことが好ましい。
【0020】
【化1】
【化2】
【化3】
(式中、
R
1、R
3
、R
6はそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキレン基を、
R
2、R
4、R
5、R
7、R
8はアルキル基、アリール基、アラルキル基、ピリジル基を、
YはOまたはNHを表し、
**はウレタン系ポリマーの主鎖との結合位置を表す。)
【0021】
本発明におけるウレタン系ポリマー(a)は、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とアミンオキシド基の導入源となるモノマーとを必須成分とし、必要に応じて用いられるポリアミン成分や単官能の水酸基成分や単官能のアミン成分との反応生成物である。アミンオキシド基の導入源となるモノマーとは、アミンオキシド基を有するモノマー、または、その前駆体となる3級アミノ基を有するモノマーが挙げられる。
【0022】
また、本発明におけるウレタン系ポリマー(a)は、以下のような2つの方法で得ることができる。即ち、アミンオキシド基を有するジオール化合物とポリイソシアネートとを重合して、アミンオキシド基を有するウレタン系ポリマー(a)を得ることができる。
あるいは、3級アミノ基を有するウレタン系ポリマーを得た後、前記3級アミノ基に酸化剤を反応させ、ポリマーにアミンオキシド基を導入することができる。副反応を生じ難いという点で後者の方法が好ましい。なお、3級アミノ基に酸化剤を反応させることを、以下「オキシド化」ともいう。
【0023】
[3級アミノ基含有モノマー]
オキシド化前の前駆体としての3級アミノ基含有モノマーとしては、炭素数1~20の3級アミノ基含有ジオールが挙げられる。例えば、N-アルキルジアルカノールアミン、N,N-ジアルキルモノアルカノールアミンが挙げられる。
N-アルキルジアルカノールアミンとしては、例えば、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-プロピルジエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン及びN-メチルジプロパノールアミンが挙げられる。
N,N-ジアルキルモノアルカノールアミンとしては、例えば、N,N-ジメチルエタノールアミンが挙げられる。
その他、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ベンジルアミン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)シクロヘキシルアミン、ジエタノール-p-トルイジン、ジイソプロパノール-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)アニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3-クロロアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-ピリジンカルボアミド、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-α-アミノピリジン、1,4-ビス(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、3-ジエチルアミノプロパン-1,2-ジオール、3-ジメチルアミノプロパン-1,2-ジオール等が、3級アミノ基含有モノマーとして挙げられる。
【0024】
[ポリオール成分]
ポリオール成分は特に限定されるものではないが、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ブチルエチルペンタンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のグリコール類や、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール、水添ポリイソプレンポリオールまたはポリエーテルポリオールとポリイソシアネートの反応物であるポリウレタンポリオール、多価アルコールのポリエーテル付加物等が挙げられる。
【0025】
[カルボキシル基を有するポリオール成分]
架橋剤と反応する官能基を有するポリオールとしては、カルボキシル基含有ポリオールが挙げられる。例えば、ジメチロールブタン酸、ジメチロールプロピオン酸、およびこれらの誘導体(カクロラクトン付加物、エチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物など)、3-ヒドロキシサリチル酸、4-ヒドロキシサリチル酸、5-ヒドロキシサリチル酸、2-カルボキシー1,4-シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。なかでも、ジメチロールブタン酸、ジメチロールプロピオン酸は、樹脂中のカルボキシル基濃度を増加させることができるという点において本発明では好ましい。
【0026】
[ポリイソシアネート成分]
ポリイソシアネート成分としては、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0027】
芳香族ポリイソシアネートとしては、1,3-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-トルイジンジイソシアネート、2,4,6-トリイソシアネートトルエン、1,3,5-トリイソシアネートベンゼン、ジアニシジンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4’,4”-トリフェニルメタントリイソシアネート等を挙げることができる。
【0028】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0029】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、ω,ω’-ジイソシアネート-1,3-ジメチルベンゼン、ω,ω’-ジイソシアネート-1,4-ジメチルベンゼンω,ω’-ジイソシアネート-1,4-ジエチルベンゼン、1,4-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,3-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0030】
脂環族ポリイソシアネートとしては、3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス( シクロヘキシルイソシアネート)、1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス( イソシアネートメチル)シクロヘキサン等を挙げることができる。
【0031】
また、上記ポリイソシアネートにトリメチロールプロパンのような3官能のアルコールを付加してなるいわゆるアダクト体、上記ポリイソシアネートと水とが反応したビュウレット体、上記ポリイソシアネートがイソシアヌレート環を形成してなる三量体等も併用することができる。前述の多価アルコールポリエーテル付加物とジイソシアネートとの反応物もポリイソシアネート成分として使用することができる。
【0032】
ウレタン系ポリマーを得る際に用いられるポリイソシアネートとしては、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート( イソホロンジイソシアネート)等が好ましい。
【0033】
[ポリアミン成分]
ウレタン系ポリマーを得る際には、必要に応じてポリアミン成分を用いることが出来る。ポリアミン成分としては、例えば、エチレンジアミン、イソホロンジアミン、フェニレンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、トリレンジアミン、ヒドラジン、ピペラジン、ヘキサメチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4-ジアミン、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等のジアミンを挙げることができる。イソホロンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミンは、反応の制御が容易で衛生性に優れていることから好ましい。
ポリアミン成分を用いることにより、ウレタン結合よりも凝集力の高いウレア結合が形成されるので、凝集力の大きな粘着剤を得ることができる。
【0034】
[単官能の水酸基成分]
ウレタン系ポリマーを得る際に末端停止剤の1つとして用いられる単官能の水酸基成分としては特に限定はなく、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ヘキサノール、1-オクタノール、2-ジエチルアミノエタノール等が挙げられ、これらの群から選ばれた1種または2種以上の使用ができる。なかでも、2-ジエチルアミノエタノールは末端に3級アミノ基を導入できるという点で好ましい。
【0035】
[単官能のアミン成分]
単官能の水酸基成分と同様に末端停止剤の1つとして用いられる単官能のアミン成分としては特に限定はなく、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、シクロヘキシルアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミンなどを挙げることができる。
これら単官能の水酸基成分および/または単官能のアミン成分を末端封止剤として用いることで、ウレタン系ポリマーの経時安定性を向上させることが出来る。
【0036】
本発明においてウレタン系ポリマーの調製は、必須成分であるポリオール成分とポリイソシアネート成分とアミンオキシド基の導入源となるモノマーとを、必要に応じて用いられるポリアミン成分や単官能の水酸基成分や単官能のアミン成分の全ての成分を同時に反応させてもよいし(ワンショット法)、逐次的に反応させてもよい。所望のウレタン系ポリマーを主たる生成物として確実に生成させるために、少なくともこれらの成分のいずれかを逐次的に反応させる逐次反応が好ましい。逐次反応によってウレタン系ポリマーを調製する場合、例えば、次の方法を適用することが出来る。
【0037】
ポリオール成分とポリイソシアネート成分とアミンオキシド基の導入源となるモノマーとをポリイソシアネート成分過剰の条件下に反応させて、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを得る工程、次いで上記ウレタンプレポリマーとポリアミン成分とを反応させて、末端がイソシアネート基であるポリウレタンポリウレアを得る工程、最後に、残るイソシアネート基と単官能の水酸基成分および/または単官能のアミン成分を反応させる工程を含む方法。
【0038】
なお、逐次反応の進め方は、先に例示した方法に限定されるものではない。
【0039】
本発明のウレタン系ポリマーは、原料を無溶剤下で反応させて製造しても、有機溶剤中で反応させて製造しても良い。
有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系化合物、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、酢酸メトキシエチル等のエステル系化合物、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系化合物、トルエン、キシレン等の芳香族化合物、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族化合物、塩化メチレン、クロロベンゼン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素化合物などの各種溶剤を使用することができる。
【0040】
また、ウレタン系ポリマーの合成時には、必要に応じて触媒を添加することができ、たとえばジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジオクチルチンジラウレート、ジブチルチンジマレート等金属系触媒;1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7、1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン-5、6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7等の3級アミン;トリエタノールアミンのような反応性3級アミン等が挙げられ、これらは単独でも、2種類以上を併用してもよい。
イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーは、上記ポリオール成分とポリイソシアネート成分とアミンオキシド基の導入源となるモノマーとを、有機溶剤中で触媒の存在下に120℃ 以下で反応させて得ることが好ましく、70~110℃ で1~20時間反応させることがより好ましい。110℃よりも高温にすると反応速度の制御が困難になり、所定の分子量と構造を有するウレタンプレポリマーが得にくくなる。
イソシアネート基とポリアミン成分との反応は、有機溶剤中で60℃以下で行うことが好ましい。それより高温だと反応速度の制御が困難になり、所定の分子量と構造を有するウレタン系ポリマーが得にくくなる。
【0041】
[オキシド化]
3級アミノ基含有不飽和モノマー、または、3級アミノ基を有するウレタンポリマーを含む溶液に、オキシド化剤を加えて20℃~100℃の範囲で0.1~100時間、好ましくは1~50時間反応させることによって、3級アミノ基をオキシド化することができる。
【0042】
オキシド化剤としては、過酸化物又はオゾン等の酸化剤が用いられる。
過酸化物としては、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸ソーダ、過酢酸、メタクロロ過安息香酸、ベンゾイルパーオキシド、t-ブチルハイドロパーオキシド等が挙げられ、過酸化水素が好ましく、通常は水溶液の形で用いられる。程度の違いはあるが、過酸化物にはラジカル発生剤としての機能もあるので、3級アミノ基含有不飽和モノマー(a1)を必須の原料とするビニル系ポリマーの場合には、重合後にオキシド化することが好ましい。また、後述するウレタン系ポリマーの場合にも副反応が生じないように、重合後にオキシド化することが好ましい。
一般的にはオキシド化剤の使用量は、オキシド化可能な官能基、即ち、3級アミノ基に対して、0.2~3倍モル当量の割合で使用し、更に0.5~2倍モル当量使用するのがより好ましい。
【0043】
得られたポリマー溶液は、残存した過酸化物を公知の方法で処理した後、使用することもできる。具体的には還元剤添加処理、イオン交換処理、活性炭処理、金属触媒による処理等があげられる。
得られたポリマー溶液はそのまま使用することもできるが、必要に応じて再沈殿、溶媒留去等の公知の方法でアミンオキシド基含有ポリマーを単離して使用することも出来る。また、単離したアミンオキシド基含有ポリマーは、必要ならば再沈殿や、溶剤洗浄、膜分離、吸着処理等によってさらに精製できる。
【0044】
<アミンオキシド基含有量>
アミンオキシド基は、バイオフィルム形成抑制性をポリマーに付与する。ウレタン系ポリマー(a)中のアミンオキシド基含有量は、好ましくは0.25~5mmol/gであり、より好ましくは0.5~2mmol/gである。0.25~5mmol/gであることにより、長時間水中に浸漬しても最適なバイオフィルム形成抑制能を維持することができる。
ウレタン系ポリマー(a)中のアミンオキシド基含有量は、アミンオキシド基を有するモノマーを重合してウレタン系ポリマー(a)を得る場合には、重合に用いたアミンオキシド基を有するモノマーの量から求めることができる。一方、3級アミノ基含有モノマーを必須とするモノマーを重合した後に得られたポリマーをオキシド化する場合には、下記数式1によって算出できる。
【0045】
【0046】
<質量平均分子量(Mw)>
ウレタン系ポリマー(a)の質量平均分子量は、10,000~10,000,000であり、好ましくは5,000~6,000,000であり、より好ましくは10,000~600,000であり、特に好ましくは10,000~100,000である。
分子量が10,000以上であることにより、凝集力を付与でき、塗工基材からの剥離を抑制でき、長期間のバイオフィルム形成抑制効果を発揮する。また、10,000,000以下であることにより、適正な粘度になることから、塗工適性が向上する。そのため、ウレタン系ポリマー(a)の質量平均分子量を、上記特定範囲内に限定する。
【0047】
<架橋剤>
本発明のバイオフィルム形成抑制コート剤は、架橋剤を含むことができる。架橋剤を含むことにより、前述のウレタン系ポリマー(a)が架橋性基を有する場合、塗膜に架橋を形成して耐水性を向上させることができる。
本発明で用いることのできる架橋剤としては、前述のウレタン系ポリマー(a)中に含まれるカルボキシル基と反応するものが好ましく、例えば、エポキシ基、イソシアネート基、及びアジリジニル基から選ばれる少なくとも一種の官能基を有するものの他、金属キレート化合物、カルボジイミド基含有化合物等が挙げられる。これらの架橋剤は、塗膜の弾性率や耐性を上げる目的で使用したり、接着力を調製したりするために用いることができる。
【0048】
[エポキシ基を有する架橋剤]
本発明で用いられるエポキシ基を有する架橋剤としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであればよく、特に限定されるものではない。
2官能エポキシ基を有する架橋剤としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレンオキサイドジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、テトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリブタジエンジグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ジヒドロキシベンゾフェノンジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、ジヒドロキシアントラセン型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテル、N,N-ジグリシジルアニリン等の芳香族エポキシ化合物、上記記載の芳香族エポキシ化合物の水素添加物、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル等の脂環式エポキシ化合物などが挙げられる。
エポキシ基を3つ以上有する架橋剤としては、例えば、トリグリシジルイソシアヌレート、トリスフェノール型エポキシ化合物、テトラキスフェノール型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物等が挙げられる。
【0049】
[イソシアネート基を有する架橋剤]
本発明で用いられるイソシアネート基を有する架橋剤としては、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有した化合物であればよく、特に限定されるものではない。
2官能イソシアネート化合物としては、例えば、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等を挙げることができる。
3官能イソシアネート化合物としては、上記で説明したジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、水と反応したビュウレット体、イソシアヌレート環を有する3量体が挙げられる。
また、イソシアネート基を有する架橋剤中のイソシアネート基は、ブロック化されていても良いし、ブロック化されていなくても良い。
本発明で用いられるブロック化イソシアネート架橋剤としては、前記イソシアネート化合物中のイソシアネート基がε-カプロラクタム、MEKオキシム、シクロヘキサノンオキシム、ピラゾール、フェノール等でブロックされたブロック化イソシアネート化合物であればよく、特に限定されるものではない。
【0050】
[アジリジニル基を有する架橋剤]
本発明で用いられるアジリジン化合物としては、1分子中に2個以上のアジリジン基を有した化合物であればよく、特に限定されるものではない。アジリジン化合物としては、例えば、2,2’-ビスヒドロキシメチルブタノールトリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、4,4-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン等が挙げられる。
【0051】
[カルボジイミド基含有化合物]
本発明で用いられるカルボジイミド基含有化合物としては、日清紡績株式会社のカルボジライトシリーズを用いることができ、V-02、V-04、V-06、V-10などの水性タイプ、V-01、V-03、V-05、V―07、V―09などの油性タイプ等が挙げられる。
【0052】
[β-ヒドロキシアルキルアミド基含有化合物]
本発明では、β-ヒドロキシアルキルアミド基含有化合物も架橋剤として用いることができる。
β-ヒドロキシアルキルアミド基含有化合物としては、分子内にβ-ヒドロキシアルキルアミド基を含有する化合物であればよく、特に限定されるものではない。β-ヒドロキシアルキルアミド基含有化合物としては、N,N,N’,N’-テトラキス(ヒドロキシエチル)アジパミド(エムスケミー社製PrimidXL-552)をはじめとする種々の化合物を挙げることができる。
【0053】
本発明において、架橋剤は、一種のみを単独で用いてもよいし、複数を併用しても良い。架橋剤の使用量は、ウレタン系ポリマー(a)中に含まれる官能基の種類やモル数を考慮して決定すればよく、特に限定されるものではないが、通常はウレタン系ポリマー(a)100質量部に対して0.1質量部~100質量部の範囲で用いられる。ウレタン系ポリマー(a)中に含まれる官能基のモル数よりも少ない範囲で配合することで、未反応の架橋剤が遊離する懸念をなくすことができる。この範囲であれば、目的とするバイオフィルム形成抑制の各効果に、特に優れた性能が発現される。
【0054】
<バイオフィルム形成抑制コート剤の調整>
本発明のバイオフィルム形成抑制コート剤は、コート剤100質量%中、前記ウレタン系ポリマー(a)を1~50質量%含むことが好ましく、5~30質量%含むことがより好ましい。ウレタン系ポリマー(a)含有量を1質量%以上とすることで、アミンオキシド基によるバイオフィルム形成抑制の効果を発揮することができる。また、本発明のバイオフィルム形成抑制コート剤は、ウレタン系ポリマー(a)以外の成分を含んでも良い。
【0055】
<溶媒>
本発明のバイオフィルム形成抑制コート剤は、ウレタン系ポリマー(a)以外の成分として溶媒を含有してもよく、2種以上を併用して含んでもよい。溶媒は、アミンオキシド量に依存するウレタン系ポリマー(a)の溶解性や印刷条件等を考慮し、従来公知の溶媒から適宜選択することができる。
例えば、ウレタン系ポリマー(a)中のアミンオキシド量がの多い場合、水、メタノールやエタノール等のアルコール類、アセトンやエチルメチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフランやジエチルエーテル等のエーテル類、酢酸メチルや酢酸エチル等のエステル類、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ギ酸や酢酸等の有機酸、N,N-ジメチルホルムアミド等の有機塩基を選択することができる。一方、ウレタン系ポリマー(a)中のアミンオキシド量がの少ない場合、アセトンやエチルメチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフランやジエチルエーテル等のエーテル類、酢酸メチルや酢酸エチル等のエステル類、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルに加え、ジクロロメタンやトリクロロメタン等のハロゲン溶媒を選択することができる。
【0056】
さらに、本発明のバイオフィルム形成抑制コート剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、各種の添加剤を含有してもよい。
【0057】
<バイオフィルム形成抑制積層体>
本発明のバイオフィルム形成抑制積層体は、基材上に、本発明のバイオフィルム形成抑制コート剤からなる塗膜を有するものである。
塗膜を形成する方法としては、基材に応じて、様々な塗膜形成方法(塗工・印刷・乾燥方法)を選択することができる。一例として、グラビア・オフセット等の各種印刷方式のほか、インクジェット方式、スプレー方式、浸漬方式等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。塗工後の乾燥は、溶媒を除去できればよく、バイオフィルム形成抑制コート剤に含まれる溶媒等から適宜乾燥温度を選択することができる。工業的には、40~180℃で2分間程度であるのが望ましい。さらに、本発明のバイオフィルム形成抑制コート剤が架橋剤を含む場合、架橋反応を促進させるための工程を設けることが好ましい。架橋条件は、一般的に40~150℃で6~24時間であるが、これらに限定されない。
バイオフィルム形成抑制コート剤からなる塗膜の厚みは、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択でき、0.5~2μmでも十分効果を発揮する。
【0058】
<基材>
本発明のバイオフィルム形成抑制コート剤は、バイオフィルムの危害が懸念される広い分野に適用することが可能であるため、医療機器、製造設備又は水槽内面等、微生物が付着し、バイオフィルムが形成することが想定される物質表面に、好適に用いることができる。そのため、基材としては、上記用途で従来公知に用いられる基材であれば制限無く使用することができ、例えば、プラスチック、ガラス、セラミックス、金属等の材質からなる基材が挙げられる。
【実施例】
【0059】
以下の実施例により、本発明を具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における、「部」及び「%」は、「質量部」及び「質量%」を表す。
【0060】
<質量平均分子量(Mw)の測定方法>
ウレタン系ポリマー(a)の質量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレン換算で計測した値を採用した。測定装置及び測定条件としては、下記条件1によることを基本とし、試料の溶解性等により条件2とした。ただし、重合体種によっては、さらに適宜適切なキャリア(溶離液)及びそれに適合したカラムを選定した。その他の事項については、JISK7252-1~4:2008に基づいた。なお、難溶の高分子化合物については下記条件の下、溶解可能な濃度で測定した。
また、ウレタン系ポリマー(a)の分子量測定が困難な場合は、アミンオキシド前駆体ポリマーの質量平均分子量をウレタン系ポリマー(a)の質量平均分子量とした。アミンオキシド前駆体ポリマーの質量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレン換算で計測した値を採用し、測定装置及び測定条件としては、下記条件3によった。
(条件1)
カラム:TOSOHTSKgelSuperHZM-H、
TOSOHTSKgelSuperHZ4000 及び
TOSOHTSKgelSuperHZ10,000を連結したもの。
キャリア:テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0mL/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
注入量:0.1mL
(条件2)
カラム:TOSOHTSKgelSuperAWM-Hを2本連結したもの。
キャリア:10mMLiBr/N-メチルピロリドン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0mL/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
注入量:0.1mL
(条件3)
カラム:TOSOHTSKgelSuperAW4000、
TOSOHTSKgelSuperAW3000 及び
TOSOHTSKgelSuperAW2500を連結したもの。
キャリア:N,N-ジメチルホルムアミド(1L)、トリエチルアミン(3.04g)、 LiBr(0.87g)の混合液
測定温度:40℃
キャリア流量:0.6mL/min
【0061】
<酸価の測定方法>
酸価は、樹脂1g中に含有する酸基は中和するのに必要とする水酸化カリウムのmmolで、測定方法は既知の方法でよく、一般的にはJISK0070に準じて行われる。その手法を以下に示した。
試料を0.5~2g精秤する(固形分量:Sg)。精秤した試料に中性エタノール10mLを加え溶解させる。得られた溶液を0.1mol/lエタノール性水酸化カリウム溶液(力価:F)で電位差滴定を行なう。電位差曲線が極大となった点を終点とし、この時の滴定量(AmL)を用い次の(式2)により酸価を求めた。
(式2) 酸価(mmol/g)=(A×F×0.1)/S
【0062】
<アミン価の測定方法>
アミン価は、樹脂1g中に含有するアミノ基を中和するのに必要とする塩酸の当量と同量の水酸化カリウムのmmolである。アミン価の測定方法については、以下の方法により行った。
試料を0.5~2g精秤する(固形分量:Sg)。精秤した試料に中性エタノール10mLを加え溶解させる。得られた溶液を0.1mol/lエタノール性塩酸溶液(力価:f)で電位差滴定を行なう。電位差曲線が極大となった点を終点とし、この時の滴定量(AmL)を用い次の(式3)によりアミン価を求めた。
(式3) アミン価(mmol/g)=(A×f×0.1)/S
【0063】
<アミンオキシド基含有ウレタン系ポリマー(a)の合成>
(製造例1)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、3級アミノ基含有ジオールとしてN-メチルジエタノールアミンを4.75部、ポリオール成分としてP2011(クラレポリオールP2011(ポリエステルポリオール、株式会社クラレ製、水酸基価56.1)を130.10部、ポリイソシアネート成分としてヘキサメチレンジイソシアネートを19.6部仕込み、窒素気流下、撹拌しながら60℃まで昇温し、均一に溶解させた。続いて、これに触媒としてジブチル錫ジラウレート0.002部を投入し、110℃で3時間反応させた。
その後、温度を40℃に低下し、ポリアミン成分としてイソホロンジアミン0.60部を滴下し、鎖延長反応を行った。さらに末端停止剤としてジエチルエタノールアミンを1.65部加え、40℃で30分反応させることで、アミンオキシド前駆体ポリマー、即ち3級アミノ基を有するポリマーの溶液を得た、
次に、得られた3級アミノ基を有するポリマーの溶液に、オキシド化剤として35%過酸化水素水を3.91部(3級アミノ基と等モル量)加え、70℃で16時間反応させることでアミノ基のオキシド化を行った。アミンオキシド変換率が98%を超えたことを確認後、冷却して取り出し、その後、オーブンで溶媒を完全に揮発させ、ウレタン系ポリマー(a)を得た。
得られたポリマーのアミンオキシド基含有量は、0.26mmol/gであった。
また、得られたウレタン系ポリマー(a)の質量平均分子量は15200であった。
【0064】
(製造例2~6)(比較製造例1~2)
製造例1と同様の方法で、表1の組成及び仕込み質量部に従って合成を行い、ポリマー(製造例2~6)(比較製造例1~2)を合成した。
【0065】
得られたウレタン系ポリマーについて、特性値を表1に示す。
【0066】
【0067】
以下に、表1中の略称を示す。
MDEA:N-メチルジエタノールアミン
DMAP:3-ジメチルアミノプロパン-1,2-ジオール
DMBA:ジメチロールブタン酸
P2011:クラレポリオールP2011(ポリエステルポリオール、株式会社クラレ製、水酸基価56.1)
PEG♯2000:PEG♯2000(ポリエチレングリコール、日油株式会社製、分子量2,000)
D2000:ユニオールD2000(ポリプロピレングリコール、日油株式会社製、分子量2,000)
HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
IPDI:イソホロンジイソシアネート
IPDA:イソホロンジアミン
DEEA:ジエチルエタノールアミン
HPO:35%過酸化水素水
【0068】
<バイオフィルム形成抑制コート剤の調整>
[実施例1]
(バイオフィルム形成抑制コート剤1)
得られたアミンオキシド基含有ポリマー(製造例1)10.0部をエタノール90.0部で希釈し、10%塗液を調製し、バイオフィルム形成抑制コート剤1を得た。
【0069】
[実施例2~10、比較例1~2]
(バイオフィルム形成抑制コート剤2~12)
実施例1と同様にして、表2の組成及び仕込み質量部にてバイオフィルム形成抑制コート剤2~12を調整した。
【0070】
【0071】
以下に、表2中の略称を示す。
ALCH:川研ファインケミカル株式会社製、アルミキレート化合物
PZ33:日本触媒株式会社製、多官能アジリジン化合物
V02:日清紡株式会社製、水性カルボジイミド基含有化合物
EX321L:ナガセケムテックス株式会社製、多官能脂肪族エポキシ化合物
XL552:エムスケミー株式会社製、ヒドロキシアルキルアミド基含有化合物
EtOH:エタノール
EtOAc:酢酸エチル
【0072】
<バイオフィルム形成抑制コート剤の評価>
実施例及び比較例で得られたバイオフィルム形成抑制コート剤(塗液)について、以下の評価を行った。結果を表3に示す。
【0073】
[耐水性]
得られたコート剤1-12を、精密秤量した浅型金属容器に2.0g添加し、150℃で10分加熱し乾燥させた。オーブンから取り出し、浅型金属容器ごと精密秤量した後、浅型金属容器にイオン交換水5.0gを加え一晩静置した。浅型金属容器からイオン交換水を吸引排出した後、再度150℃で10分乾燥し、浅型金属容器を精密秤量した。下記式で水への溶解度を算出し、耐水性を4段階の評価基準に基づいて評価した。
水への溶解度(%)=100-[(z-x)/(y-x)]×100
x:浅型金属容器の質量(g)
y:イオン交換水で処理する前の質量(g)
z:イオン交換水で処理した後の質量(g)
◎:水への溶解度≦2%:非常に良好
○:2%<水への溶解度≦4%:良好
△:4%<水への溶解度≦10%:使用可能
×:10%<水への溶解度:使用不可
【0074】
<バイオフィルム形成抑制積層体の製造と評価>
得られたコート剤1-12を、各々75μm厚ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(パナック(株)製;ルミラー#75、表面オゾン処理済)上に、乾燥後膜厚が1.0μmになるようバーコーターで塗工し、80℃で2分乾燥した後、80℃で24時間加熱し、積層体1-12を得た。別途、黄色ブドウ球菌(ATCC 25923)を、37℃で24時間前培養し、増殖させた。菌液をリン酸緩衝水(PBW)に加えて、1%菌液を調製した。
得られた積層体を、1.5cm×1.5cmの大きさに切り取り、塗工面が上向きになるように24ウェルマイクロプレート(ファルコン社製)の各ウェルに1枚ずつセットし、滅菌水1.0mL加え、37℃で24時間浸漬した。
次いで、24ウェルマイクロプレートから、滅菌水1.0mLを除去し、別途調製した黄色ブドウ球菌液1.0mLを加え、25℃で24時間又は25℃で168時間、それぞれ培養した。24時間又は168時間培養後、菌液を除去し、塗膜を滅菌水1.2mLで3回洗浄し、0.1%クリスタルバイオレット水溶液(和光純薬工業株式会社製)を添加し、20分間静置してバイオフィルムを染色した。その後、滅菌水1.2mLで3回洗浄し、風乾して、バイオフィルムが染色された積層体を得た。
上記染色された積層体について、33%酢酸溶液2.0mLを用いてクリスタルバイオレットを抽出し、マイクロプレートリーダーを用いて、抽出液の吸光度を測定した。
バイオフィルム形成抑制性を、吸光度から以下の4段階の評価基準で評価した。結果を表3に示す。
◎:吸光度≦0.10:非常に良好
○:0.10<吸光度≦0.13:良好
△:0.13<吸光度≦0.20:使用可能
×:0.20<吸光度:使用不可
【0075】
【0076】
表3から、比較例1で用いたポリマーは、アミンオキシド基の濃度が低いため、培養24時間後、および、168時間後のバイオフィルム形成抑制性が乏しかった。比較例2で用いたポリマーは、分子量が小さく、コーティングしたポリマーが剥がれ落ちたため、培養24時間後のバイオフィルム形成抑制性が乏しかった。
【0077】
一方、アミンオキシド基を含み、かつ、質量平均分子量が10,000~10,000,000であるウレタン系ポリマー(a)を含むバイオフィルム形成抑制コート剤は、耐水性に優れ、かつ、長期的なバイオフィルム形成抑制性能で優れた効果を示すことが確認された。
特に、ウレタン系ポリマー(a)中のアミンオキシド基含有量が、0.25~5mmol/gであると、長時間水中に浸漬しても最適なバイオフィルム形成抑制能を維持することを確認した。また、カルボキシル基を有するポリオール成分を用いた場合に、耐水性及び長期バイオフィルム形成抑制能に優れることが示された。