(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】車両用ドラムブレーキ
(51)【国際特許分類】
F16D 65/22 20060101AFI20230502BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20230502BHJP
F16D 121/24 20120101ALN20230502BHJP
F16D 127/06 20120101ALN20230502BHJP
F16D 129/10 20120101ALN20230502BHJP
F16D 125/66 20120101ALN20230502BHJP
【FI】
F16D65/22
B60T13/74 G
F16D121:24
F16D127:06
F16D129:10
F16D125:66
(21)【出願番号】P 2019098117
(22)【出願日】2019-05-24
【審査請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】中野 啓太
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-504811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00-71/04
B60T 13/74
F16D 121/24
F16D 125/66
F16D 127/06
F16D 129/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラムロータの内周面に面した第一制動部材および第二制動部材と、
前記第一制動部材と前記第二制動部材との間の間隔を広げることにより前記第一制動部材および前記第二制動部材を前記内周面に押し付ける制動機構と、
前記制動機構によって前記第一制動部材および前記第二制動部材が前記内周面に押し付けられた制動状態で前記第一制動部材と前記第二制動部材との間に介在した介在位置と、前記第一制動部材と前記第二制動部材の間から抜け出た離脱位置と、の間で移動可能に設けられた可動部材と、
前記可動部材を前記介在位置と前記離脱位置との間で動かす駆動機構と、
前記第一制動部材と前記第二制動部材との間に位置し前記第一制動部材と接続された第一部位と、
前記第一制動部材と前記第二制動部材との間に位置し前記第二制動部材と接続された第二部位と、
を備
え、
前記可動部材は、前記介在位置において、前記第一部位と前記第二部位との間に介在する、車両用ドラムブレーキ。
【請求項2】
前記第一部位は、前記間隔が大きくなるほど前記第一制動部材と前記第二部位との間の長さを長くする長さ可変機構を有した、請求項
1に記載の車両用ドラムブレーキ。
【請求項3】
前記第一部位および前記第二部位は、第一方向に延び、
前記可動部材は、前記第一方向と交差した第二方向に前記第一部位および前記第二部位のうち少なくとも一方の部位を押圧し、
前記少なくとも一方の部位は、前記第一方向に向かうにつれて前記第二方向に向けて延び前記可動部材に押圧される受面を有し、
前記可動部材は、前記受面と面し前記第一方向に向かうにつれて前記第二方向に向けて延びるとともに前記受面を押圧する押面を有し、
前記押面が前記受面を押圧するよう付勢する付勢機構を備えた、
請求項
1または
2に記載の車両用ドラムブレーキ。
【請求項4】
前記第一部位および前記第二部位は、前記ドラムロータの回転中心と平行な方向と交差した第一方向に延び、
前記可動部材は、前記ドラムロータの回転中心と略平行な第二方向に移動する、請求項
1~
3のうちいずれか一つに記載の車両用ドラムブレーキ。
【請求項5】
前記制動機構および前記駆動機構の作動を制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、前記間隔を広げるよう前記制動機構を制御している状態で、前記可動部材が前記介在位置と前記離脱位置との間で移動するよう前記駆動機構を制御する、請求項1~
4のうちいずれか一つに記載の車両用ドラムブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用ドラムブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
二つのブレーキシューの間の間隔を広げるとともに当該間隔を広げたまま保持することが可能な機械式の制動機構を備えた車両用ドラムブレーキが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の車両用ドラムブレーキでは、機械式の一つの制動機構により、走行時の制動に加えて駐車時の制動も実行されるため、比較的高いトルク出力が必要となって構成が大型化したり、高い応答性が得られ難かったりしやすい。
【0005】
そこで、本開示の課題の一つは、例えば、制動状態を機械的に保持することが可能な車両用ドラムブレーキであって、より小型化したり応答性をより高くしたりすることができるような、改善された新規な構成を有した車両用ドラムブレーキを得ること、である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の車両用ドラムブレーキは、例えば、ドラムロータの内周面に面した第一制動部材および第二制動部材と、上記第一制動部材と上記第二制動部材との間の間隔を広げることにより上記第一制動部材および上記第二制動部材を上記内周面に押し付ける制動機構と、上記制動機構によって上記第一制動部材および上記第二制動部材が上記内周面に押し付けられた制動状態で上記第一制動部材と上記第二制動部材との間に介在した介在位置と、上記第一制動部材と上記第二制動部材の間から抜け出た離脱位置と、の間で移動可能に設けられた可動部材と、上記可動部材を上記介在位置と上記離脱位置との間で動かす駆動機構と、上記第一制動部材と上記第二制動部材との間に位置し上記第一制動部材と接続された第一部位と、上記第一制動部材と上記第二制動部材との間に位置し上記第二制動部材と接続された第二部位と、を備え、上記可動部材は、上記介在位置において、上記第一部位と上記第二部位との間に介在する。
【0007】
上記車両用ドラムブレーキでは、第一制動部材と第二制動部材との間に、可動部材を介在させることにより、制動機構の作動によって得られた制動状態を、制動機構の作動が解除された状態において、機械的に保持することができる。駆動機構は、可動部材を、介在位置と離脱位置との間で動かす。よって、このような構成によれば、例えば、従来の車両用ドラムブレーキに対する比較的簡素でありかつ比較的小型である構造の追加によって、二つの制動部材による制動状態を機械的に保持する機能を、与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態の車両用ドラムブレーキの車幅方向内方に見た場合の例示的かつ模式的な正面図である。
【
図2】
図2は、実施形態の車両用ドラムブレーキに含まれるロッドの例示的かつ模式的な断面図であって、解除状態を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態の車両用ドラムブレーキに含まれるロッドの例示的かつ模式的な断面図であって、制動状態を示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態の車両用ドラムブレーキに含まれるロッドの例示的かつ模式的な断面図であって、
図3よりもシュークリアランスがより広がった場合の制動状態を示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態の車両用ドラムブレーキに含まれるロッドの例示的かつ模式的な断面図であって、
図3よりもシュークリアランスがより広がった場合の解除状態であって、オートアジャスタによって第一部材の長さが長くなった状態を示す図である。
【
図6】
図6は、実施形態の車両用ドラムブレーキに含まれる可動部材および駆動機構の例示的かつ模式的な側面図である。
【
図7】
図7は、実施形態の車両用ドラムブレーキに含まれる第一部材、第二部材、および可動部材の車幅方向内方に見た場合の例示的かつ模式的な正面図である。
【
図8】
図8は、実施形態の車両用ドラムブレーキに含まれる第一部材、第二部材、および可動部材の車幅方向内方に見た場合の例示的かつ模式的な正面図であって、
図7よりもシュークリアランスがより広がった場合を示す図である。
【
図9】
図9は、実施形態の車両用ドラムブレーキの制御装置を含む例示的なブロック図である。
【
図10】
図10は、実施形態の車両用ドラムブレーキにおいて可動部材による制動状態の機械的な保持が開始される場合の例示的なタイミングチャートである。
【
図11】
図11は、実施形態の車両用ドラムブレーキにおいて可動部材による制動状態の機械的な保持が終了される場合の例示的なタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0010】
また、本明細書において、序数は、部品や部位等を区別するために便宜上付与されており、優先順位や順番を示すものではない。
【0011】
また、各図において、二つのブレーキシュー3L,3Tの間の隙間が広がる方向と平行な一方向を矢印Xで示し、ホイール(不図示)およびドラムロータDの回転中心Axと平行な方向のうち車幅方向外方を矢印Yで示し、方向Xおよび方向Yと直交する方向を矢印Zで示す。方向X、方向Y、および方向Zは、互いに直交している。
【0012】
[実施形態]
[ブレーキ装置の基本構成]
図1は、ブレーキ装置1の車幅方向内方に見た場合の正面図である。ブレーキ装置1は、円筒状のホイールの周壁(不図示)の内側に収容されている。ブレーキ装置1は、車両用ドラムブレーキの一例である。
【0013】
また、ブレーキ装置1は、バッキングプレート2、二つのブレーキシュー3(3L,3T)、アンカ4、ホイールシリンダ52、およびロッド6を備えている。
【0014】
バッキングプレート2は、ホイールの回転中心Axの軸方向、すなわち車幅方向(方向Y)と交差しかつ直交して広がった円盤状の形状を有している。バッキングプレート2は、車体との接続部材(不図示)と接続される。接続部材は、例えば、アーム、リンク、取付部材のような、サスペンションの一部である。
【0015】
また、ブレーキ装置1の構成部品は、バッキングプレート2の少なくとも車幅方向外側に設けられている。バッキングプレート2は、ブレーキ装置1の構成部品を直接的または間接的に支持する。バッキングプレート2は、支持部材等とも称される。
【0016】
バッキングプレート2の中央部には、回転中心Axに沿う貫通孔2aが設けられ、貫通孔2aの周囲には、接続部材との結合に用いられる複数の開口部2bが設けられている。このブレーキ装置1は、駆動輪および非駆動輪のいずれにも用いることができる。ブレーキ装置1が駆動輪に用いられる場合、バッキングプレート2の貫通孔2aを不図示の車軸が貫通する。
【0017】
ブレーキ装置1は、方向Xに離間した二つのブレーキシュー3を備えている。二つのブレーキシュー3は、円筒状のドラムロータDの内周面Diに沿って円弧状に伸びている。ドラムロータDは、ホイール(不図示)の回転中心Ax回りに、ホイールと一体に回転する。
【0018】
二つのブレーキシュー3は、それぞれ、バッキングプレート2の車幅方向外側の面2cに沿って移動可能に、バッキングプレート2に支持されている。ブレーキシュー3の端部3aは、アンカ4に設定された回転中心C1回りに回転可能に支持されている。回転中心C1は、ホイールの回転中心Axと平行である。
【0019】
ブレーキ装置1は、二つのブレーキシュー3を動かすアクチュエータとして、液圧によって作動するホイールシリンダ52を備えている。液圧回路51(
図9参照)からホイールシリンダ52内に所定の圧力が印加されると、ホイールシリンダ52から二つの可動部(ピストン、不図示)が突出する。これら可動部の突出により、二つのブレーキシュー3は、それぞれ、回転中心C1回りに回転し、端部3b間の間隔が広がるように、移動する。これにより、二つのブレーキシュー3は、ホイールの回転中心Axの径方向外側に移動する。各ブレーキシュー3の外周部には、円筒面に沿う帯状のライニング31が設けられている。よって、二つのブレーキシュー3の、回転中心Axの径方向外方への移動により、ライニング31とドラムロータDの内周面Diとが接触する。ライニング31と内周面Diとの摩擦によりドラムロータDひいてはホイールが制動される(制動状態)。
【0020】
また、ブレーキ装置1は、復帰部材11を備えている。復帰部材11は、ホイールシリンダ52によるブレーキシュー3を押す作動が解除された場合に、二つのブレーキシュー3を、内周面Diと接触する制動位置から内周面Diと接触しない非制動位置へ移動させる(解除状態)。復帰部材11は、例えば、コイルスプリングのような付勢部材である。復帰部材11は、各ブレーキシュー3に、もう一方のブレーキシュー3に近付く方向の力、すなわち内周面Diから離れる方向の力を与える。
【0021】
[ロッド]
ロッド6は、二つのブレーキシュー3の端部3aよりも端部3bに近い中間部3c間で、方向Xに沿って延びており、中間部3c間に介在している。ロッド6の方向Xの長さにより、解除状態における二つのブレーキシュー3の間隔が定まる。ロッド6は、ストラットとも称されうる。
【0022】
図2は、解除状態におけるロッド6の断面図である。
図2に示されるように、ロッド6は、ブレーキシュー3Tと接続された第一部材61と、ブレーキシュー3Lと接続された第二部材62と、を有している。第一部材61および第二部材62は、いずれも方向Xに延びており、棒状の形状を有している。第一部材61および第二部材62は、互いに方向Xに相対移動可能に設けられており、二つのブレーキシュー3の制動状態と解除状態との間の間隔の変化に応じて、ロッド6の全長が変化する。ただし、
図2に示される解除状態では、第一部材61および第二部材62は、互いに方向Xに突き当たる。よって、二つのブレーキシュー3の間隔、ひいては各ブレーキシュー3とドラムロータDの内周面Diとの隙間は、解除状態におけるロッド6の全長L11によって定まる。ブレーキシュー3Tは、第一制動部材の一例であり、ブレーキシュー3Lは、第二制動部材の一例であり、第一部材61は、第一部位の一例であり、第二部材62は、第二部位の一例である。
【0023】
図3は、制動状態におけるロッド6の断面図である。
図2,3に示されるように、第一部材61は、ブレーキシュー3Tと接続され、第二部材62は、ブレーキシュー3Lと接続されている。第一部材61および第二部材62は、二つのブレーキシュー3の間に位置され、第一部材61は、ブレーキシュー3Tと第二部材62との間に位置され、第二部材62は、ブレーキシュー3Lと第一部材61との間に位置されている。
【0024】
第一部材61は、ブレーキシュー3Tの回転中心Axの径方向外方への移動、言い換えると方向X(
図1,2における右方)への移動に伴って、当該方向Xへ移動し、第二部材62は、ブレーキシュー3Tの回転中心Axの径方向外方への移動、言い換えると方向Xの反対方向(
図1,2における左方)への移動に伴って、当該方向Xの反対方向へ移動する。よって、ブレーキ装置1が、解除状態から制動状態に遷移し、二つのブレーキシュー3の方向Xの間隔が広がると、ロッド6の全長L21は、全長L11よりも長くなる。制動状態におけるロッド6の全長L21と、解除状態におけるロッド6の全長L11との差分は、ブレーキシュー3L,3TとドラムロータDの内周面Diとの間の隙間の大きさ、すなわちシュークリアランスに対応する。
【0025】
図4は、ブレーキシュー3の摩耗等により、シュークリアランスが広がった場合における、制動状態でのロッド6の断面図である。
図3,4を比較すれば明らかとなるように、シュークリアランスが広がった後(
図4)における全長L22は、シュークリアランスが広がる前(
図3)における全長L21よりも長い。制動状態における二つのブレーキシュー3の端部3b間の間隔は、シュークリアランスの拡大に応じて、拡大する。
【0026】
[オートアジャスタ]
本実施形態のブレーキ装置1は、オートアジャスタ7を有している。オートアジャスタ7は、シュークリアランスの拡大、言い換えると二つのブレーキシュー3間の間隔の拡大に応じて、ロッド6の長さを長くする。なお、本実施形態では、オートアジャスタ7は、第一部材61の方向Xの長さを変化させるが、第二部材62の方向Xの長さを変化させてもよい。オートアジャスタ7は、長さ可変機構の一例である。
【0027】
オートアジャスタ7は、第一部材61および第二部材62に設けられている。第一部材61は、ベース61a、回転部材61b、および直動部材61cを有している。
【0028】
ベース61aは、ブレーキシュー3Tに接続されている。ベース61aは、ブレーキシュー3Tに、方向Xおよびその反対方向には移動不能に、支持されている。また、ベース61aは、ブレーキシュー3Tに、回転部材61bの中心軸C2回りに回転不能に、支持されている。中心軸C2は、方向Xに延びている。
【0029】
回転部材61bは、ベース61aに接続されている。回転部材61bは、ベース61aに、方向Xおよびその反対方向には移動不能に、支持されている。また、回転部材61bは、ベース61aに、中心軸C2回りに回転可能に、支持されている。
【0030】
直動部材61cは、筒状の形状を有し、筒内には雌ねじ61c1が設けられている。回転部材61bのベース61aとは反対側の外周には、雌ねじ61c1内に挿入され当該雌ねじ61c1と噛み合う雄ねじ61b1が設けられている。
【0031】
第二部材62は、ブレーキシュー3Lと接続されている。第二部材62は、ブレーキシュー3Lに、方向Xおよびその反対方向には移動不能に、支持されている。また、第二部材62は、ブレーキシュー3Lに、中心軸C2回りに回転不能に、支持されている。
【0032】
直動部材61cは、第二部材62と接続されている。直動部材61cは、第二部材62に、方向Xに移動可能に、支持されている。また、直動部材61cは、第二部材62に、中心軸C2回りに回転不能に、支持されている。なお、直動部材61cは、第二部材62に設けられた有底凹部内に、方向Xおよびその反対方向に移動可能に収容されているが、直動部材61cと第二部材62との接続部分は、このような構成には限定されない。
【0033】
回転部材61bには、アジャスタホイール71が設けられている。アジャスタホイール71の外周には、複数の鋸歯71aが、等間隔(等ピッチ)で設けられている。鋸歯71aには、爪アーム72の爪72aが噛み合っている。爪アーム72は、例えば、ブレーキシュー3Tの制動状態と解除状態との間での動きに連動してアジャスタホイール71の外周に沿って往復移動するよう構成されるとともに、爪アーム72の、制動状態と解除状態との間での往復のストロークは、シュークリアランスの拡大に伴い大きくなるよう構成されている。このような構成において、シュークリアランスが所定範囲内の状態では、爪アーム72の爪72aは、鋸歯71aの緩斜面(不図示)上を中心軸C2の周方向に沿って往復移動する。ただし、シュークリアランスが所定範囲を超えるように従前よりも拡大した状態となると、爪72aのストロークが増大し、爪72aは、鋸歯71aの緩斜面を乗り越え、次の鋸歯71aの緩斜面上に移動する。爪アーム72には、付勢機構(不図示)によって、当該爪アーム72の鋸歯71aと噛み合う爪72aを所定位置に戻す付勢力が与えられている。この付勢力により、爪72aが鋸歯71aを押圧し、これにより、アジャスタホイール71ひいては回転部材61bが、所定回転方向に回転する。ここで、上述したように、直動部材61cは、中心軸C2回りには回転不能であるとともに、中心軸C2の軸方向(方向X)には移動可能である。よって、雄ねじ61b1と雌ねじ61c1との噛み合い、雄ねじ61b1の回転、および雌ねじ61c1の回り止めにより、回転直動変換機構が構成され、当該回転部材61bの回転に応じて、回転部材61bと直動部材61cとの中心軸C2の軸方向の長さ、すなわち方向Xの長さが変化する。ここで、回転部材61bおよび直動部材61cは、回転部材61bの所定回転方向の回転によって長くなるよう構成されている。このような構成により、シュークリアランスの拡大、言い換えると二つのブレーキシュー3間の間隔の拡大に応じて、ロッド6の長さが長くなる。
【0034】
図5は、解除状態におけるロッド6の断面図であって、オートアジャスタ7の伸長によってロッド6の長さが長くなった状態を示す図である。回転部材61bと直動部材61cとの長さL32が、
図2~4におけるオートアジャスタ7の長さL31よりも長くなっており、これにより、ロッド6の全長L12が、
図2の場合におけるロッド6の全長L11よりも長くなっている。
図5の解除状態と
図4の制動状態との間のシュークリアランスは、
図2の解除状態と
図4の制動状態との間のシュークリアランスよりも小さくなる。
【0035】
[制動状態の機械的な保持]
図6は、可動部材8および当該可動部材8の駆動機構9の側面図である。また、
図7,8は、第一部材61、第二部材62、および介在位置Piに位置した可動部材8の正面図であって、
図7は、可動部材8が
図3の制動状態を機械的に保持した状態を示し、
図8は、可動部材8が
図4の制動状態を機械的に保持した状態を示す。
【0036】
本実施形態のブレーキ装置1は、
図3,4に示されるような制動状態において第一部材61と第二部材62との間に可動部材8を介在させることにより、制動機構5の作動によって得られた制動状態を、制動機構5の作動が解除された状態において、機械的に保持することができるよう、構成されている。
【0037】
図6に示されるように、駆動機構9は、可動部材8を、第一部材61と第二部材62との間に介在する介在位置Piと、当該介在位置Piから離脱した離脱位置Pdと、の間で動かす。駆動機構9は、電動モータ92、ピニオン93、およびラック94を有している。このような構成において、電動モータ92のシャフトの回転に応じてピニオン93が回転すると、ピニオン93と噛み合ったラック94が直動する。ピニオン93およびラック94は、ラック&ピニオン式の回転直動変換機構を構成している。なお、回転直動変換機構は、ラック&ピニオン式とは異なる構成を有してもよい。他の型式の回転直動変換機構としては、例えば、雄ねじと雌ねじとを有し、それらのうち一方が回転し、他方が回り止めされた所謂ねじ式の構成がある。
【0038】
このような構成において、可動部材8は、介在位置Piと離脱位置Pdとの間で、バッキングプレート2と交差しかつ直交する方向に動く。この場合、
図6に示されるように、電動モータ92は、バッキングプレート2の面2cとは反対側の面2d上に設けられ、可動部材8のベース81は、バッキングプレート2に設けられた貫通孔2eを貫通する。
【0039】
また、可動部材8は、ベース81と周壁82とを有している。ベース81は、棒状の形状を有し、長手方向に等間隔(等ピッチ)で設けられた歯を有したラック94が設けられている。周壁82は、半円筒状の形状を有しており、内周面82aおよび外周面82bを有している。周壁82は、介在位置Piにおいて、ロッド6の外周の周囲の略半分を取り囲む。すなわち、内周面82aは、ロッド6の外周面と面し、外周面82bは、内周面82aに対してロッド6の外周面の反対側に位置されている。
【0040】
図7,8に示されるように、可動部材8の、ロッド6の中心軸C2の軸方向の両端部には、傾斜面82cが設けられている。傾斜面82cは、ロッド6の中心軸C2の軸方向、すなわち方向Xに向かうにつれて、中心軸C2の径方向に向かうように延びている。他方、第一部材61および第二部材62の、傾斜面82cと面する位置には、それぞれ、傾斜面61c2,62aが設けられている。具体的に、第一部材61の傾斜面61c2は、方向X(
図7,8の右方、第一方向)に向かうにつれて中心軸C2の径方向外方(第二方向)に向けて延びる円錐面状(円錐外面状)の形状を有し、当該傾斜面61c2と面した可動部材8の傾斜面82cは、方向Xに向かうにつれて中心軸C2の径方向外方(第二方向)に向けて延びる円錐面状(円錐内面状)の形状を有している。また、第二部材62の傾斜面62aは、方向Xの反対方向(
図7,8の左方、第一方向)に向かうにつれて中心軸C2の径方向外方(第二方向)に向けて円錐面状(円錐外面状)の形状を有し、当該傾斜面61c2と面した可動部材8の傾斜面82cは、方向Xに向かうにつれて中心軸C2から離れる円錐面状(円錐内面状)の形状を有している。傾斜面61c2,62a,82cの円錐形状の頂角の大きさは、同じである。傾斜面61c2と傾斜面62aとは、傾斜面61c2と傾斜面62aとの中間に位置しロッド6の中心軸C2と直交した仮想平面に対して面対称であり、可動部材8に設けられる二つの傾斜面82cは、当該二つの傾斜面82cの中間に位置しロッド6の中心軸C2と直交した仮想平面に対して面対称である。
【0041】
このような構成において、駆動機構9が、可動部材8を、離脱位置Pdからロッド6の中心軸C2の径方向内方に動かすと、可動部材8は、
図7,8に示されるような傾斜面61c2と傾斜面62aとの間の介在位置Piに位置する。介在位置Piにあっては、上述したように、可動部材8の二つの傾斜面82cは、それぞれ、第一部材61の傾斜面61c2および第二部材62の傾斜面62aと当接する。ここで、可動部材8の傾斜面82cの内径は、ロッド6の傾斜面61c2,62aの内径よりも僅かに小さく設定されており、
図7,8に示される可動部材8の介在状態にあっては、周壁82の半円筒形状が、ロッド6の外周面によって弾性的に径方向に広がるよう、構成されている。これにより、可動部材8の傾斜面82cからロッド6の傾斜面61c2,62aには、
図6~8中の矢印Fで示す付勢力が印加され、当該付勢力が追加される分、傾斜面82cと傾斜面61c2,62aとの間の摩擦力が増加する。傾斜面82cは押面の一例であり、傾斜面61c2,62aは受面の一例であり、周壁82は、付勢機構の一例である。また、中心軸C2の軸方向(方向X)が第一方向の一例であり、中心軸C2の径方向が第二方向の一例である。
【0042】
このような構成により、
図7に示されるように、傾斜面61c2と傾斜面62aとの間の中心軸C2の軸方向(方向X)の間隔が比較的狭い場合には、周壁82の直径が比較的広がって傾斜面82cが中心軸C2から比較的遠くに位置され、
図8に示されるように、傾斜面61c2と傾斜面62aとの間の中心軸C2の軸方向(方向X)の間隔が比較的広い場合には、周壁82の直径が比較的狭まって傾斜面82cが中心軸C2から比較的近くに位置される。よって、シュークリアランスの拡大に応じて、第一部材61と第二部材62との中心軸C2の軸方向の間隔が広がった場合にあっても、可動部材8は、当該第一部材61と第二部材62との間に介在し、制動状態を機械的に保持することができる。
【0043】
[制動状態の機械的な保持に関する制御]
図9は、ブレーキ装置1の制御装置100を含むブロック図、
図10は、可動部材8による制動状態の機械的な保持が開始される場合のタイミングチャート、
図11は、可動部材8による制動状態の機械的な保持が終了される場合のタイミングチャートである。
【0044】
図9に示されるように、ブレーキ装置1は、制動状態の機械的な保持に関し、制御装置100、制動機構5、および駆動機構9を備えている。制動機構5は、液圧回路51とホイールシリンダ52とを有し、駆動機構9は、モータ駆動回路91と、電動モータ92と、を有している。液圧回路51は、車両用ドラムブレーキに設けられる公知の構成を有しており、ポンプや、アキュムレータ、電磁弁、チェック弁等を有し、車両の各輪のホイールシリンダ52に、所要の圧力を印加することができる。電動モータ92としては、直流モータや交流モータの種々の型式のものを採用することができる。モータ駆動回路91は、電動モータ92の型式に応じた回路構成を有している。制御装置100は、液圧回路51の電気部品や電子部品を電気的に制御することによりホイールシリンダ52の作動を制御するとともに、モータ駆動回路91の電気部品や電子部品を電気的に制御することにより電動モータ92の作動を制御する。
【0045】
制御装置100は、例えば、electronic control unit(ECU)である。制御装置100の一部は、ソフトウエアを実行するcentral processing unit(CPU)やコントローラのようなハードウエアによって構成されてもよいし、制御装置100は、全体的にハードウエアによって構成されてもよい。制御装置100は、制御部とも称されうる。制御装置100は、例えば、絶縁体によって絶縁された導体配線が設けられた回路基板と、当該回路基板上に実装された電子部品や電気部品等の部品と、を有している。
【0046】
図10に示されるように、機械的な保持の作動要求がONとなると(t11)、制御装置100は、ホイールシリンダ52の液圧が上昇して二つのブレーキシュー3が制動状態となるよう、液圧回路51の制御を開始する(t12)。制動状態となる液圧が得られると(t13)、その後、制御装置100は、可動部材8が離脱位置Pdから介在位置Piへ移動するよう、モータ駆動回路91の制御を開始する(t14)。可動部材8が介在位置Piへ位置すると(t15)、その後、制御装置100は、ホイールシリンダ52の液圧が低下するよう、液圧回路51の制御を開始する(t16)。ホイールシリンダ52内の液圧の低下に伴い、ロッド6の中心軸C2の軸方向の圧縮力が増大し、これにより、第一部材61と第二部材62との間に可動部材8が介在したロッド6によって、二つのブレーキシュー3による制動状態が機械的に保持された状態が得られる。
【0047】
他方、
図11に示されるように、機械的な保持の解除要求がONとなると(t21)、制御装置100は、制動機構5の押圧力により二つのブレーキシュー3が制動状態となるよう、液圧回路51の制御を開始する(t22)。制動状態となる液圧が得られると(t23)、その後、制御装置100は、可動部材8が介在位置Piから離脱位置Pdへ移動するよう、モータ駆動回路91の制御を開始する(t24)。その後、可動部材8は離脱位置Pdへ位置するが(t25)、この状態では、制動機構5の押圧力により二つのブレーキシュー3が制動状態となっているため、当初の車両の制動状態が維持される。
【0048】
以上、説明したように、本実施形態では、第一部材61と第二部材62との間、ひいてはブレーキシュー3T(第一制動部材)とブレーキシュー3L(第二制動部材)との間に、可動部材8を介在させることにより、制動機構5の作動によって得られた制動状態を、制動機構5の作動が解除された状態において、機械的に保持することができる。駆動機構9は、可動部材8を、介在位置Piと離脱位置Pdとの間で動かす。このような構成によれば、例えば、従来のブレーキ装置に対する比較的簡素でありかつ比較的小型の構造の追加によって、二つのブレーキシュー3(制動部材)による制動状態を機械的に保持する機能を、与えることができる。また、このような構成によれば、例えば、可動部材8は、走行時の制動状態と解除状態との切り替えには関与しないため、制動機構5による制動の応答性が損なわれずに済むという利点がある。
【0049】
また、本実施形態では、可動部材8は、ブレーキシュー3Tに接続された第一部材61(第一部位)と、ブレーキシュー3Lに接続された第二部材62(第二部位)との間に介在する。このような構成によれば、例えば、二つのブレーキシュー3の間に可動部材8が直接介在する構成と比較して、可動部材8をより小さくすることができる。これにより、例えば、駆動機構9をより小型化できるなどの効果が得られる。
【0050】
また、本実施形態では、第一部材61は、二つのブレーキシュー3間の間隔が大きくなるほどブレーキシュー3と第二部材62との間の長さが長くなる、オートアジャスタ7(長さ可変機構)を有している。このような構成によれば、例えば、解除状態におけるブレーキシュー3とドラムロータDの内周面Diとの間の隙間、すなわちシュークリアランスが、ブレーキシュー3のライニング31の摩耗等に応じて大きくなるのを、抑制することができる。
【0051】
また、本実施形態では、可動部材8は、傾斜面82c(押面)を有し、第一部材61は、傾斜面82cに押圧される傾斜面61c2(受面)を有し、第二部材62は、傾斜面82cに押圧される傾斜面62a(受面)を有する。傾斜面61c2および当該傾斜面61c2を押圧する傾斜面82cは、方向X(第一方向)に向かうにつれて中心軸C2の径方向外方(第二方向)に向けて延び、傾斜面62aおよび当該傾斜面62aを押圧する傾斜面82cは、方向Xの反対方向(第一方向)に向かうにつれて中心軸C2の径方向外方(第二方向)に向けて延びている。周壁82(付勢部材)は、その弾性によって、傾斜面82cを傾斜面61c2,62aに押圧する。このため、第一部材61と第二部材62との中心軸C2の軸方向(第一方向)の間隔が変化した場合にあっても、傾斜面61c2,62aと当接する傾斜面82cのロッド6の中心軸C2からの距離が変化可能である上、当該距離が変化した場合にあっても傾斜面82cから傾斜面61c2,62aへの押圧力が得られるため、傾斜面82cが傾斜面61c2,62aを押圧した状態、すなわち、可動部材8が第一部材61と第二部材62との間に介在した状態が得られる。このような構成によれば、例えば、二つのブレーキシュー3の間の間隔が広がった場合、言い換えるとブレーキシュー3のシュークリアランスが広がった場合にあっても、可動部材8の介在による二つのブレーキシュー3の制動状態の機械的な保持が、実現されうる。
【0052】
また、本実施形態では、可動部材8は、介在位置Piと離脱位置Pdとの間で、ドラムロータDの回転中心Axと略平行な方向に移動する。ここで、仮に、可動部材8がドラムロータDの回転中心Axと交差する方向に移動する構成であったとすると、可動部材8や電動モータ92が、ブレーキシュー3やホイールシリンダ52と干渉しやすく、ブレーキ装置1において配置され難い。この点、上記構成によれば、例えば、可動部材8や電動モータ92が、ブレーキシュー3やホイールシリンダ52と干渉し難くなり、ブレーキ装置1において配置され易い。
【0053】
また、本実施形態では、制御装置100は、二つのブレーキシュー3の制動状態、すなわち、二つのブレーキシュー3間の間隔を広げるよう制動機構5を制御している状態で、可動部材8が介在位置Piと離脱位置Pdとの間で移動するよう駆動機構9を制御する。ここで、仮に、二つのブレーキシュー3が解除状態であって、当該二つのブレーキシュー3の間の間隔が狭い状態であったとすると、可動部材8は、当該二つのブレーキシュー3の間に介在する介在位置Piへ移動し難くなるとともに、当該介在位置Piから移動し難くなる。この点、上記構成によれば、例えば、二つのブレーキシュー3の制動状態において、当該二つのブレーキシュー3の間の間隔が広がっているため、可動部材8が、介在位置Piと離脱位置Pdとの間で移動しやすくなる。
【0054】
以上、本発明の実施形態が例示されたが、上記実施形態は一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、型式、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。
【0055】
例えば、受面は、第一部位および第二部位のうちいずれか一方のみに設けられてもよい。また、第一部位および第二部位のうち一方は、制動部材と固定された制動部材の一部であってもよい。
【符号の説明】
【0056】
1…ブレーキ装置(車両用ドラムブレーキ、3T…ブレーキシュー(第一制動部材)、3L…ブレーキシュー(第二制動部材)、5…制動機構、61…第一部材(第一部位)、61c2…傾斜面(受面)、62…第二部材(第二部位)、62a…傾斜面(受面)、7…オートアジャスタ(長さ可変機構)、8…可動部材、82…周壁(付勢機構)、82c…傾斜面(押面)、Pi…介在位置、Pd…離脱位置、9…駆動機構、100…制御装置、D…ドラムロータ、Di…内周面、X…方向(第一方向)。