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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】検査機管理システム及び検査機管理方法
(51)【国際特許分類】
   G01H 17/00 20060101AFI20230502BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20230502BHJP
【FI】
G01H17/00 Z
G01M99/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019124499
(22)【出願日】2019-07-03
(65)【公開番号】P2021012025
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植村 広
(72)【発明者】
【氏名】山田 大貴
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特許第6511573(JP,B1)
【文献】特開2020-003363(JP,A)
【文献】特開2002-350271(JP,A)
【文献】特開昭63-208913(JP,A)
【文献】特開平09-243503(JP,A)
【文献】特開平07-248782(JP,A)
【文献】国際公開第96/013702(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0370259(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 17/00
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品の振動検査の品質基準を定めるための第一検査機と、前記品質基準に基づいて製品の振動検査を行う第二検査機と、前記第一検査機及び前記第二検査機の管理を行う管理装置と、を備え、
前記管理装置は、
前記第一検査機及び前記第二検査機それぞれの伝達関数を取得すると共に、当該第二検査機によって製品の振動検査を行わせるために、前記伝達関数に基づいて、周波数毎の補正値を示す補正関数を取得する取得部と、
前記補正関数に基づいて、前記第二検査機の伝達関数を前記第一検査機の伝達関数に合わせるための処理を行い、当該第二検査機によって振動検査を実行させる検査管理部と、
前記補正関数の修正が必要であると判定されると、前記第二検査機による測定データに基づいて修正用関数を生成する演算処理部と、
修正が必要である前記補正関数を、前記修正用関数に基づいて修正する修正部と、
を有する、検査機管理システム。
【請求項2】
前記取得部は、前記第二検査機の伝達関数を、前記第一検査機の伝達関数で除算することで、前記補正関数を取得する、請求項1に記載の検査機管理システム。
【請求項3】
前記演算処理部は、前記第二検査機による測定データを入力データとする機械学習を行うことで、学習済みモデルを生成し、当該学習済みモデルの不良品の重要因子に基づいて、前記修正用関数として、周波数毎の重要度を示す重要度関数を生成する、請求項1又は2に記載の検査機管理システム。
【請求項4】
前記演算処理部は、
複数の製品についての前記第二検査機による測定データに基づいて、複数の前記重要度関数を求め、
複数の前記重要度関数の平均を求めると共に、当該重要度関数の平均を正規化することで、前記補正関数を修正するために用いられる最終的な重要度関数を生成する、請求項3に記載の検査機管理システム。
【請求項5】
製品の振動検査の品質基準を定めるための第一検査機、及び、前記品質基準に基づいて製品の振動検査を行う第二検査機の管理を行う方法であって、
前記第一検査機及び前記第二検査機それぞれの伝達関数を取得すると共に、当該第二検査機によって製品の振動検査を行わせるために、前記伝達関数に基づいて、周波数毎の補正値を示す補正関数を取得し、
前記補正関数に基づいて、前記第二検査機の伝達関数を前記第一検査機の伝達関数に合わせるための処理を行い、
前記補正関数の修正が必要であるか否かの判定を行い、
修正が必要であると判定されると、前記第二検査機による測定データに基づいて修正用関数を生成し、
修正が必要である前記補正関数を、前記修正用関数に基づいて修正する、
検査機管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査機管理システム及び検査機管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電動パワーステアリング等の回転部を有する機械製品は、組み立てが完了すると、軸及び軸受等を含む回転部の振動検査が行われる。この振動検査は、機械製品に振動センサを取り付け、回転部を回転させ、その際の振動波形を取得することで行われる。特許文献1には、振動センサによって、回転機械装置の診断を行うシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-116420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
振動検査の品質基準は、特定の検査機(以下、「基準機」と称する。)により定められる。これに対して、実際の製品(電動パワーステアリング)の生産ラインでは、別の第二検査機(以下、「実機」と称する。)によって、検査が行われることがある。基準機と実機とでは個体が異なるため、検査機自身の振動特性が異なる場合がある。
【0005】
基準機と実機とで振動特性が異なると、同じ製品に対して振動測定を行っても検査結果が異なる可能性があり、合否判定に影響が及ぶ。つまり、前記のとおり、基準機とは別の実機によって、実際に製品の振動測定の検査が行われると、検査結果の精度が安定しない場合がある。
【0006】
そこで、本開示は、基準機となる第一検査機とは別の第二検査機によって、実際に製品の振動測定の検査が行われる場合において、その第二検査機による製品の検査結果の精度を安定させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の検査機管理システムは、製品の振動検査の品質基準を定めるための第一検査機と、前記品質基準に基づいて製品の振動検査を行う第二検査機と、前記第一検査機及び前記第二検査機の管理を行う管理装置と、を備え、前記管理装置は、前記第一検査機及び前記第二検査機それぞれの伝達関数を取得すると共に、当該第二検査機によって製品の振動検査を行わせるために、前記伝達関数に基づいて、周波数毎の補正値を示す補正関数を取得する取得部と、前記補正関数に基づいて、前記第二検査機の伝達関数を前記第一検査機の伝達関数に合わせるための処理を行い、当該第二検査機によって振動検査を実行させる検査管理部と、前記補正関数の修正が必要であると判定されると、前記第二検査機による測定データに基づいて修正用関数を生成する演算処理部と、修正が必要である前記補正関数を、前記修正用関数に基づいて修正する修正部と、を有する。
【0008】
前記検査機管理システムでは、製品の振動検査の品質基準を定めるための第一検査機とは別の第二検査機によって、実際に製品の振動検査が行われる。このような場合であっても、補正関数に基づいて第二検査機の伝達関数を第一検査機の伝達関数に合わせるための処理が行われる。そして、第二検査機によって振動検査が実行される。また、補正関数の修正が必要であると判定されると、その修正が行われる。よって、第一検査機とは別の第二検査機によって、実際に製品の振動検査が行われる場合であっても、その第二検査機による製品の検査結果の精度を安定させることが可能となる。
【0009】
また、好ましくは、前記取得部は、前記第二検査機の伝達関数を、前記第一検査機の伝達関数で除算することで、前記補正関数を取得する。この構成により、周波数毎の補正値を示す補正関数が取得される。
【0010】
また、好ましくは、前記演算処理部は、前記第二検査機による測定データを入力データとする機械学習を行うことで、学習済みモデルを生成し、当該学習済みモデルの不良品の重要因子に基づいて、前記修正用関数として、周波数毎の重要度を示す重要度関数を生成する。この構成により、補正関数を修正するために有効となる重要度関数が求められ、この重要度関数に基づいて、修正が必要である補正関数を修正することができる。
【0011】
また、好ましくは、前記演算処理部は、複数の製品についての前記第二検査機による測定データに基づいて、複数の前記重要度関数を求め、複数の前記重要度関数の平均を求めると共に、当該重要度関数の平均を正規化することで、前記補正関数を修正するために用いられる最終的な重要度関数を生成する。この場合に得られる最終的な重要度関数によれば、補正関数の修正の精度が高まる。
【0012】
また、本開示は、製品の振動検査の品質基準を定めるための第一検査機、及び、前記品質基準に基づいて製品の振動検査を行う第二検査機の管理を行う方法であって、前記第一検査機及び前記第二検査機それぞれの伝達関数を取得すると共に、当該第二検査機によって製品の振動検査を行わせるために、前記伝達関数に基づいて、周波数毎の補正値を示す補正関数を取得し、前記補正関数に基づいて、前記第二検査機の伝達関数を前記第一検査機の伝達関数に合わせるための処理を行い、前記補正関数の修正が必要であるか否かの判定を行い、修正が必要であると判定されると、前記第二検査機による測定データに基づいて修正用関数を生成し、修正が必要である前記補正関数を、前記修正用関数に基づいて修正する。
【0013】
前記検査機管理方法は、製品の振動検査の品質基準を定めるための第一検査機とは別の第二検査機によって、実際に製品の振動検査が行われる。このような場合であっても、補正関数に基づいて第二検査機の伝達関数を第一検査機の伝達関数に合わせるための処理が行われる。そして、第二検査機によって振動検査が実行される。また、補正関数の修正が必要であると判定されると、その修正が行われる。よって、第一検査機とは別の第二検査機によって、実際に製品の振動検査が行われる場合であっても、その第二検査機による製品の検査結果の精度を安定させることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本開示の発明によれば、製品の振動検査の品質基準を定めるための第一検査機とは別の第二検査機によって、実際に製品の振動測定の検査が行われる場合において、その第二検査機による製品の検査結果の精度を安定させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】検査機管理システムの構成を示す説明図である。
図2】検査機管理システムを用いて行われる処理を説明するフロー図である。
図3】不良品の測定データの一例を示す。
図4】(A)は、ハンマリング試験に基づく基準機の伝達関数を示し、(B)は、ハンマリング試験に基づく実機の伝達関数を示す。
図5】補正関数を取得する演算の説明図である。
図6】実機の測定データを補正関数により補正した結果を示す説明図である。
図7】不良品について取得された測定データに、修正済みの補正関数を乗算し、補正後の検査結果を取得する演算の説明図である。
図8】補正関数の修正処理を示すフロー図である。
図9】(A)は、良品の測定データを示す図であり、(B)は、不良品の測定データを示す図である。
図10】機械学習のイメージ図である。
図11】(A)は、複数の重要度関数の説明図であり、(B)は、重要度関数の平均を示す説明図であり、(C)は、変換された重要度関数の説明図であり、(D)は、更に変換された重要度関数の説明図である。
図12】修正後の補正関数を生成するための演算の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔本開示の検査機管理システムの概要〕
図1は、検査機管理システムの構成を示す説明図である。図1に示す検査機管理システム10は、製品の振動検査を行う検査機を含み、この検査機によって検査が行われるように当該検査機の管理を行う。前記製品としては、回転部を有する機械製品であり、例えば自動車に用いられる電動パワーステアリングである。電動パワーステアリングは、組み立てが完了すると、軸及び軸受等を含む回転部の振動検査が行われる。この振動検査が実機12によって行われる。
【0017】
振動検査の品質基準は、特定の第一検査機11(以下、これを「基準機11」と称する。)により定められる。つまり、基準機11の検査結果により、製品が良品(OK品)であるのか不良品(NG品)であるのかが定められる。基準機11は一台のみである。
【0018】
これに対して、実際の製品(電動パワーステアリング)の生産ラインでは、基準機11とは別である第二検査機12(以下、これを「実機12」と称する。)によって、検査が行われる。基準機11及び実機12それぞれは、製品に取り付けられる振動センサからの測定データを取得し、製品の振動検査を行う。図1に示す形態では、生産性向上のため、複数台の実機12(実機A、実機B・・・)それぞれによって、電動パワーステアリングの振動検査が行われる。
【0019】
基準機11と実機12とは、共に振動測定の検査機であるが、個体が異なるため、検査機自身の振動特性が異なる場合がある。振動特性が異なると、伝達関数が異なる。基準機11と実機12とで、振動特性、つまり、伝達関数が異なると、同じ製品に対して振動測定を行っても検査結果が異なる可能性があり、合否判定に影響が及ぶ。例えば、不良品について、基準機11では正確に不良品(NG品)であると判定されるが、実機12の場合、良品(OK品)であると誤って判定される場合がある。
【0020】
そこで、本開示の検査機管理システム10では、基準機11と実機12との振動特性、つまり、伝達関数を近づけるために、実機12の伝達関数の補正がされる。そのために、基準機11の伝達関数と実機12の伝達関数とに基づいて、補正関数が生成される。その補正関数によって、実機12による測定データが補正されて、その実機12による検査結果が得られる。補正関数は、基準機11の伝達関数に基づくことから、実機12により得られる検査結果は、基準機11により得られる検査結果と同等となるはずである。なお、複数の実機12の間でも振動特性が異なる場合がある。そこで基準機11の伝達関数を基準として、複数の実機12それぞれについての補正関数が生成される。
【0021】
実機12による測定データが補正関数によって補正されて検査結果を取得する場合であっても、その検査結果に誤りが発生する場合がある。例えば、不良品と判定されるべきものについて、補正前の実機12は正しく不良品と判定するのに、補正後の実機12は良品と判定してしまう場合がある。その原因として、補正関数が不十分であることが考えられる。そこで、本開示の検査機管理システム10は、補正関数を生成すると共に、補正関数の修正を行う機能を有する。検査機管理システム10の構成、及び検査機管理システム10が行う処理の具体例について、以下、説明する。
【0022】
〔検査機管理システム10の構成〕
図1に示すように、検査機管理システム10は、基準機11及び実機12の他に、管理装置13を備える。管理装置13は、プロセッサ(CPU)、記憶装置、入出力装置等を有するコンピュータによって構成される。管理装置13が有する各機能は、前記コンピュータに記憶されているコンピュータプログラムがプロセッサによって実行されることで発揮される。
【0023】
管理装置13は、コンピュータプログラムがプロセッサによって実行されることで実現される機能部として、取得部20、検査管理部21、演算処理部22、及び修正部23を備える。実機12及び基準機11それぞれと管理装置13とは、有線又は無線の信号線を通じて繋がっている。実機12及び基準機11それぞれと管理装置13との間でデータの送受信が可能である。
【0024】
取得部20は、基準機11及び実機12それぞれの伝達関数を取得する。伝達関数は、後にも説明するが、基準機11及び実機12それぞれに対してハンマリング試験を行うことによって取得される。ハンマリングにより取得された伝達関数は、入力に対する、基準機11及び実機12の周波数応答を示す情報である。取得部20は、更に、基準機11及び実機12の伝達関数に基づいて、周波数毎の補正値を示す補正関数を取得する。補正関数は、実機12によって製品の振動検査を行わせるために取得される。
【0025】
本開示の発明では、前記伝達関数の他に、後に説明する重要度関数が用いられる。伝達関数及び重要度関数はそれぞれ、周波数毎の振動レベル、重要度を示す離散的な関数である。
【0026】
検査管理部21は、前記補正関数に基づいて、実機12の伝達関数を基準機11の伝達関数に合わせるための処理を行い、実機12によって振動検査を実行させる。後に説明するが、補正関数の修正が不要であると判定されると、検査管理部21は、その修正関数を用いた実機12による検査の開始指令を行う。
【0027】
演算処理部22は、前記補正関数の修正が必要であると判定されると、実機12による測定データに基づいて修正用関数を生成する。本開示では、前記修正用関数は、周波数毎の重要度を示す重要度関数である。補正関数の修正の要否の判定は、不良品を良品として誤って判定した結果に基づいて行われる。誤って判定された場合、修正が必要であると判定される。
【0028】
修正部23は、修正が必要である前記補正関数を、前記修正用関数(前記重要度関数)に基づいて修正する。
各機能部の具体的な処理については、後に説明する。
【0029】
〔検査機管理システム10が行う処理の具体例〕
図2は、検査機管理システム10を用いて行われる処理を説明するフロー図である。以下において、特に説明のない処理については、管理装置13が実行する処理である。実機12は複数台設けられているが、以下の説明では、代表として一つの実機12に関して説明する。
【0030】
〔不良品のデータ取得工程〕
実機12により、不良品の検査が行われ、各不良品の測定データが取得される(図2のステップS1)。なお、不良品であることの特定は、例えば検査員(人)によって予め行われている。図3は、不良品の測定データd1の一例を示す。管理装置13の取得部20が測定データd1を取得する。取得部20は、実機12の振動測定により得られた波形データをFFT等の周波数解析し、その解析結果として測定データd1を取得する。測定データd1は、周波数毎のレベル(振動レベル)を示すデータであり、離散的である。
【0031】
〔伝達関数の取得工程〕
実機12及び基準機11それぞれの伝達関数が取得される(図2のステップS2)。実機12に対してハンマリング試験が行われる。この試験の振動波形により、取得部20は、実機12の伝達関数(振動特性)を取得する。また、基準機11に対してハンマリング試験が行われる。この試験の振動波形により、取得部20は、基準機11の伝達関数(振動特性)を取得する。図4(A)は、ハンマリング試験に基づく基準機11の伝達関数F0を示す。図4(B)は、ハンマリング試験に基づく実機12の伝達関数F1を示す。図4(A)(B)に示すように、基準機11と実機12とで伝達関数は異なっている。
【0032】
〔補正関数f0の取得〕
基準機11の伝達関数F0及び実機12の伝達関数F1に基づいて、実機12の補正関数が取得される(図2のステップS3)。具体例に説明すると、図5に示すように、実機12の伝達関数F1を基準機11の伝達関数F0で除算することで、実機12のための補正関数f0が得られる。補正関数f0は、周波数毎の補正値(補正割合)を示すデータとして取得される。補正関数f0は、取得部20によって取得される。なお、実機12により得られた測定データd1が補正関数f0を用いて補正されると、その実機12による検査結果は、基準機11の検査結果と同じになるはずである。
【0033】
このように、取得部20によって、基準機11及び実機12それぞれの伝達関数が取得されると共に(図2のステップS2)、実機12によって製品の振動検査を行わせるために、前記伝達関数に基づいて、周波数毎の補正値を示す補正関数が取得される(図2のステップS3)。
【0034】
〔補正関数の評価〕
実機12のための補正関数f0が得られると、その補正関数f0の評価が行われる(図2のステップS4)。そのために、不良品について、実機12による測定データd1を補正関数f0によって補正した検査結果と、実機12による測定データd1を補正しないでそのまま取得した検査結果とに基づいて、次に定義する「誤判定」の発生の有無の判定が行われる。
【0035】
「誤判定」:前記補正関数f0による補正を行わない検査結果に基づくと、不良品を、正しく不良品であると判定するが、前記補正関数f0により補正した検査結果に基づくと、その不良品を、誤って良品であるとする判定。
【0036】
図6は、実機12の測定データd1を補正関数f0により補正した結果を示す説明図である。補正した検査結果K0は、測定データd1に補正関数f0を乗算することで得られる。つまり、測定データd1の周波数毎のレベルに、補正関数f0における周波数毎の補正値(補正割合)を乗算することで、補正した検査結果K0が得られる。この処理は、補正関数f0に基づいて、実機12の伝達関数を基準機11の伝達関数に合わせるための処理である。この処理(前記乗算)は、管理装置13の検査管理部21によって行われる。
【0037】
不良品についての補正した検査結果K0が、実機12により、全て不良品であると判定される場合、誤判定はないと判定される。これに対して、実機12により、不良品についての補正した検査結果K0の内の所定数が良品であると判定される場合、誤判定があると判定される。本開示では、不良品についての補正した検査結果K0の内のひとつでも良品と判定される場合、誤判定があると判定される。なお、この誤判定の有無についての判定(調査)は、作業員によって行われてもよい。
【0038】
このように、複数の不良品の中で、誤判定がされた不良品が存在しているか否かについての判定が、補正関数f0の評価として行われる。誤判定がない場合、検査管理部21から検査開始許可の指令が出され、生成されている補正関数f0を、そのまま実機12による振動検査に採用し、実機12を用いた製品の振動検査が継続的に行われる(図2のステップS7)。これに対して、誤判定がある場合、検査管理部21から検査開始不許可の指令が出され、補正関数f0の修正処理が、管理装置13の修正部23によって行われる(図2のステップS5)。
【0039】
〔補正関数の修正〕
修正部23が行う補正関数f0の修正処理の概要について説明する。補正関数f0は、重要度関数Lに基づいて修正される。補正関数f0の修正の手段は、機械学習による。本開示では、ディープラーニングに関する技術を用いて補正関数f0が修正される。修正処理の具体例については、後に説明する。修正された補正関数を「f1」とする。
【0040】
補正関数(f0)が重要度関数によって修正されると、修正された補正関数f1の再評価が行われる(図2のステップS6)。不良品について取得された測定データd1に、修正済みの補正関数f1を作用させる。つまり、図7に示すように、不良品について取得された測定データd1に、修正済みの補正関数f1を乗算し、補正後の検査結果K1を取得する。
【0041】
再評価は、前記〔補正関数の評価(図2のステップS4)〕と同じ処理による。つまり、不良品についての補正した検査結果K1が、全て不良品であると判定される場合、誤判定はないと判定される。これに対して、不良品についての補正した検査結果の内の一つでも良品と判定される場合、誤判定がある、と判定される。全ての不良品について誤判定がないと判定されるまで(図2のステップS6でNoと判定されるまで)補正関数の修正処理が繰り返し実行される。
【0042】
以上のように、本開示の検査機管理システム10では、基準機11の振動特性(伝達関数)と実機12の振動特性(伝達関数)とは異なる。このため、実機12によって製品の検査を行うために、補正関数f0に基づいて、実機12の伝達関数F1を基準機11の伝達関数F0に合わせるための処理が行われる。しかし、補正関数f0が十分でない場合がある。そこで、補正関数f0の修正が必要であるか否かの判定が行われる(図2のステップS4)。修正が必要であると判定されると、実機12による測定データに基づいて修正用関数として重要度関数が生成される。そして、修正が必要である補正関数f0が、修正用関数(重要度関数)に基づいて修正される。
【0043】
〔補正関数の修正処理の具体例〕
図8は、補正関数の修正処理を示すフロー図である。補正関数の修正処理が機械学習によって実行されるため、学習用データが取得される(図8のステップS11)。複数の製品について実機12によって振動検査が行われる。管理装置13の取得部20が、各製品の測定データを取得する。図9(A)は、良品の測定データd1を示す図であり、図9(B)は、不良品の測定データd1を示す図である。
【0044】
取得された複数の測定データd1の一部が、前記学習用データとなり、残りが評価用データとされる。ここで用いられる製品には、複数の良品と複数の不良品とが含まれる。各測定データd1には、良品又は不良品を示す識別データが対応付けられている。このため、管理装置13の演算処理部22は、測定データd1を入力とする教師ありの機械学習を実行することができる(図8のステップS12)。この機械学習により、良品又は不良品の判定結果を出力する学習済みモデルが生成される。
【0045】
図10は、前記機械学習のイメージ図である。機械学習に用いられる測定データd1は、周波数データである。つまり、測定データd1は、周波数毎のレベルを示すデータである。測定データd1は、実機12の振動測定により得られた波形データが、FFT等の周波数解析されることで生成される。測定データd1は、周波数毎のレベルを示すデータであり、離散的である。そこで、この測定データd1がそのまま学習用の入力データとして用いられる。本開示の機械学習はディープラーニングであり、複数の中間層が設定されている。機械学習では、中間層の間の重みが求められる。
【0046】
機械学習によって、学習済みモデルが生成されると、演算処理部22は、前記評価用データを用いて、学習済みモデルの精度判定を行う(図8のステップS13)。正確さの指標が所定値(例えば95%)以上になるまで、ディープラーニングの構造及びハイパーパラメータ等が変更され、機械学習が繰り返し実行される。
【0047】
正確さの指標が所定値(例えば95%)を超えると(ステップS13において「Yes」の場合)、その学習済みモデルに基づいて重要度関数が求められる(図8のステップS14)。重要度関数は、演算処理部22によって取得される。つまり、演算処理部22は、前記学習済みモデルを用いて、不良品の重要因子を求め、重要度関数を生成する。具体的に説明すると、例えば、前記評価用データの内の一つである、第一の不良品の測定データd1に対して、学習済みモデルの中間層の間の重み及びバイアスが、出力層から逆に計算される(逆誤差伝播法)。これにより、因子毎(つまり、周波数毎)の不良品判定のための重要度(寄与値)が算出される。この重要度の値は、周波数毎に求められる。求められた周波数毎の重要度が、前記第一の不良品の重要度関数となる。
【0048】
このように、演算処理部22は、良品及び不良品の実機12による測定データd1を入力データとする機械学習を行うことで、学習済みモデルを生成する。演算処理部22は、逆誤差伝播法により、生成した前記学習済みモデルの不良品の重要因子に基づいて、周波数毎の重要度を示す重要度関数を生成する。
なお、学習済みモデルの中間層間の重み及びバイアスを出力層から逆に計算する技術については、公知の技術であり、例えば、https://arxiv.org/abs/1412.6806、https://arxiv.org/abs/1705.05598に基づく。
【0049】
前記の重要度関数を求める処理は、前記評価用データに含まれる他の不良品のデータについても実行される。図11(A)に示すように、N個の不良品のデータにより、N個の重要度関数Lが求められる。
【0050】
N個の重要度関数Lが求められると、演算処理部22は、これら重要度関数Lの平均を求める(図11(B)参照)。つまり、周波数毎の重要度の値の平均が求められる。平均が求められた重要度関数Lを平均重要度関数Laと称する。更に、平均重要度関数Laは、重要度の最大値が1となるように変換される(図11(C)参照)。これは、後に行う製品の良品及び不良品の判定において、誤りの発生を抑えるためである。つまり、重要度の最大が過剰に大きいと、修正後の周波数波形の振幅が極めて大きくなり、後の検査において、多くの製品の測定データを不良品であると判定してしまう可能性がある。しかし、本開示では、重要度の最大値が1となるように平均重要度関数Laが変換されることで、前記のような判定を防ぐことが可能となる。この変換は、演算処理部22によって行われる。
【0051】
更に、重要度の最大値が「1」となるように変換された平均重要度関数La(以下、「変換平均重要度関数Lb」と称する。)は、更に、次のように変換される。つまり、変換平均重要度関数Lbの平均値が「1」となるように、変換平均重要度関数Lbが変換される(図11(D)参照)。これは、重要度が極めて低い(ゼロに近い)周波数が存在する場合、これを前記補正関数に作用させて(乗算して)修正した補正関数を生成すると、その補正関数の場合、ロバスト性がなくなる場合があるためである。そこで、本開示のように、変換平均重要度関数Lbの平均値が「1」となるように、当該変換平均重要度関数Lbを変換することで、前記のようなロバスト性がなくなるのを防ぐことが可能となる。この変換は、演算処理部22によって行われる。
【0052】
このように、変換平均重要度関数Lbの平均値が「1」となるよう、当該変換平均重要度関数Lbを変換することで得られた、最終的な重要度関数が、補正関数f0を修正するために用いられる重要度関数Lc(これを「修正用重要度関数Lc」と称する)となる。以上のように、演算処理部22は、複数の製品(不良品)についての実機12による測定データd1に基づいて、複数の重要度関数Lを求める。演算処理部22は、更に、複数の重要度関数Lの平均を求めると共に、重要度関数Lの平均を正規化することで、補正関数f0を修正するために用いられる最終的な重要度関数(修正用重要度関数Lc)を生成する。
【0053】
生成された修正用重要度関数Lcに基づいて、実機12の補正関数f0が修正される(図8のステップS15)。つまり、図12に示すように、実機12の補正関数f0に、修正用重要度関数Lcを乗算することで、修正後の補正関数f1が生成される。この演算は、管理装置13の修正部23によって行われる。以上より、補正関数f0の修正の処理が完了する。
【0054】
〔本開示の検査機管理システム10について〕
以上のように、本開示の検査機管理システム10は、基準機(第一検査機)11と、実機(第二検査機)12と、管理装置13とを備える。基準機11は、製品の振動検査の品質基準を定めるための検査機であって、製品の振動検査を行う。第二検査機12は、実際の生産ラインにおいて、前記品質基準に基づいて製品の振動検査を行う。管理装置13は、基準機11及び実機12の管理を行う。
【0055】
この検査機管理システム10によって実行される管理方法は、次のとおりである。
基準機11及び実機12それぞれの伝達関数が取得される。実機12によって製品の振動検査を行わせるために、前記伝達関数に基づいて、周波数毎の補正値を示す補正関数が取得される。前記補正関数に基づいて、実機12の伝達関数を基準機11の伝達関数に合わせるための処理が行われる。具体的には、図6に示すように、測定データd1に補正関数f0が乗算される。
そして、前記補正関数の修正が必要であるか否かの判定が行われる。修正が必要であると判定されると、実機12による測定データに基づいて修正用関数(重要度関数)が生成される。修正が必要である前記補正関数が、前記修正用関数(重要度関数)に基づいて修正される。
【0056】
本開示の検査機管理システム10では、製品の振動検査の品質基準を定めるための基準機11とは別の実機12によって、実際に製品の振動検査が行われる。このような場合であっても、補正関数に基づいて実機12の伝達関数を基準機11の伝達関数に合わせるための処理が行われる。そして、実機12によって振動検査が実行される。また、補正関数の修正が必要であると判定されると、その修正が行われる。よって、基準機11とは別の実機12によって、実際に製品の振動検査が行われる場合であっても、その実機12による製品の検査結果の精度を安定させることが可能となる。
【0057】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0058】
10:検査機管理システム 11:基準機(第一検査機)
12:実機(第二検査機) 13:管理装置
20:取得部 21:検査管理部
22:演算処理部 23:修正部
F0:実機の伝達関数 F1:基準機の伝達関数
L:重要度関数 d1:測定データ
f0,f1:補正関数
図1
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