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特許7272144複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20230502BHJP
【FI】
F02D45/00 368Z
F02D45/00 362
F02D45/00 364G
F02D45/00 345
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019125302
(22)【出願日】2019-07-04
(65)【公開番号】P2021011838
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 和宏
(72)【発明者】
【氏名】森下 慎也
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-26365(JP,A)
【文献】特開2019-39412(JP,A)
【文献】特開2010-24903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数気筒4ストロークエンジンの回転速度の変動幅が所定の範囲内にある状態である定速回転状態において、前記エンジンのクランク軸の所定の回転角度毎に出力されるパルス信号が検出される度に、一の気筒における燃焼から次の気筒における燃焼までのクランク軸の回転角度である第1角度の間に出力される前記パルス信号の数である第1個数の前記パルス信号が検出されるのに要する経過時間を計測する計時手段と、
今回計測された前記第1個数の前記パルス信号が検出されるのに要した経過時間である第1時間と今回計測された前記第1個数の前記パルス信号の直前に計測された前記第1個数の前記パルス信号が検出されるのに要した経過時間である第2時間との偏差である第1偏差を算出する偏差算出手段と、
所定の数である第2個数の連続する前記パルス信号に対応する前記第1偏差を積算することにより得られる値である積算値を算出する積算値算出手段と、
前記積算値の少なくとも何れか1つが所定の閾値である第1閾値よりも大きい場合に前記エンジンにおいて失火が発生したと判定する第1判定手段と、
を備える、
複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置であって、
失火が発生していない状態における前記エンジンの回転速度と負荷とスロットル開度との関係を示すデータである第1データを格納しているデータ記憶手段を更に備え、
前記積算値算出手段は、前記エンジンの回転速度及び負荷から前記第1データに基づいて特定されるスロットル開度である第1開度を前記エンジンの実際のスロットル開度である第2開度から減ずることによって得られる偏差である第2偏差が所定の閾値である第2閾値よりも大きい場合に成立する条件である第1条件及び前記エンジンの始動時の回転速度の最大値が所定の閾値である第3閾値未満である場合に成立する条件である第2条件の何れか一方又は両方が成立するときは、前記第2個数よりも少ない第3個数の連続する前記パルス信号に対応する前記第1偏差を積算することにより前記積算値を算出する、
ことを特徴とする、複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載された複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置であって、
前記積算値算出手段は、前記第1条件及び前記第2条件の何れか一方又は両方が成立するときであっても、前記エンジンの回転速度が所定の回転速度である第1回転速度よりも高い場合は、前記第2個数の連続する前記パルス信号に対応する前記第1偏差を積算することにより前記積算値を算出する、
ことを特徴とする、複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置であって、
前記積算値算出手段は、前記第1条件及び前記第2条件の何れか一方又は両方が成立するときであっても、前記エンジンの回転速度が所定の回転速度である第2回転速度よりも高い場合は、前記第2回転速度よりも低い所定の回転速度である第3回転速度まで前記エンジンの回転速度を低下させた後に前記第2個数の連続する前記パルス信号に対応する前記第1偏差を積算することにより前記積算値を算出する、
ことを特徴とする、複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載された複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置であって、
前記第2個数は前記第1個数に等しい、
ことを特徴とする、複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載された複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置であって、
前記第1判定手段により前記エンジンにおいて失火が発生したと判定された回数を前記エンジンの1つのサイクルに相当する前記クランク軸の回転角度において前記積算値に対応する前記パルス信号が検出された順序毎にグループ分けして前記エンジンの複数のサイクルに相当する前記クランク軸の回転角度に亘って積算することにより得られる値である失火判定回数を算出する失火判定集計手段と、
前記失火判定回数の少なくとも何れか1つが所定の閾値である第4閾値よりも大きい場合に前記エンジンにおいて失火が発生したとの判定を確定する第2判定手段と、
を更に備える、
ことを特徴とする複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置。
【請求項6】
請求項5に記載された複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置であって、
前記第2判定手段により前記エンジンにおいて失火が発生したとの判定が確定された場合に前記エンジンを停止させる停止手段を更に備える、
ことを特徴とする複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばガスエンジンヒートポンプ(GHP)等のヒートポンプが備える圧縮機の駆動源として使用されるエンジンにおいて失火が発生すると、例えば排気温度の過剰な上昇による排気浄化触媒の焼損及び/又はエンジンの回転速度の変動に伴う異常振動の発生等の問題に繋がる虞がある。このような問題を回避するためには、エンジンにおける失火の発生を迅速に(瞬時に)検出し、例えばエンジンを停止したり警報を発したりする等、必要な措置を早急に講ずる必要がある。このため、当該技術分野においては、例えばサーミスタ等を用いる温度センサを排気経路に配設して排気温度を検出することが広く行われている。しかしながら、例えば部品点数及びコストを削減する観点からは、上記のように温度センサを排気経路に配設すること無く、エンジンにおける失火の発生を検出することが望ましい。
【0003】
そこで、当該技術分野においては、複数気筒4ストロークエンジンの一の気筒における燃焼から次の気筒における燃焼までの経過時間のバラツキに基づいてエンジンにおける失火の発生を検出する技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。当該従来技術においては、クランク軸の所定の回転角度毎に出力されるパルス信号が検出される度に、一の気筒における燃焼から次の気筒における燃焼までのクランク軸の回転角度の間に出力されるパルス信号の数である第1個数のパルス信号が検出されるのに要する経過時間が計測される。更に、今回計測された第1個数のパルス信号が検出されるのに要した経過時間である第1時間と今回計測された第1個数のパルス信号の直前に計測された第1個数のパルス信号が検出されるのに要した経過時間である第2時間との偏差が算出される。このようにして上記パルス信号が検出される度に算出される偏差が連続する所定の個数ずつ積算される。このようにして積算された積算値と所定の閾値との大小関係に基づいて、エンジンにおける失火の有無が判定される。
【0004】
上記従来技術によれば、温度センサを排気経路に配設すること無く、エンジンにおける失火の発生を検出することができる。しかしながら、上記従来技術においては上記のように第1時間と第2時間との偏差をクランク軸の所定の回転角度分だけ積算する必要があり、エンジンにおける失火の有無を判定するまでに一定の時間が必要となる。一方、上述したように、エンジンにおける失火の発生に伴う問題を回避するためには、エンジンにおける失火の発生を迅速に(瞬時に)検出し、例えばエンジンを停止したり警報を発したりする等、必要な措置を早急に講ずる必要がある。ところが、上記偏差の積算数に対応するクランク軸の所定の回転角度を減少して失火判定に要する期間を短縮することにより失火判定を迅速化すると、例えば外乱等の影響によりエンジンの失火が誤って判定される虞がある。このように、上記従来技術によっては、エンジンにおける失火の発生を迅速且つ正確に検出することは困難である。
【0005】
一方、当該技術分野においては、排気ガスの状態を表す失火診断パラメータの変化に基づいて多気筒エンジンにおける失火の有無を診断し、失火が発生したと診断される場合はエンジンの全ての気筒に対する燃料カットを実施して排気温度の上昇を抑制する技術が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。当該従来技術によれば、エンジンに失火が生じていると診断された場合は全気筒の燃料カットが行われるので、エンジンにおける失火の発生に伴う問題を確実に回避することができる。
【0006】
しかしながら、上記従来技術においては、排気の温度及び空燃比の少なくとも一方を失火診断パラメータとして採用しており、これらのパラメータを取得するためには、温度センサ及び/又は空燃比センサを排気経路に配設する必要がある。また、上記従来技術においては、全ての気筒に対する燃料カットを実施した場合においても、エンジン自体の慣性エネルギにより所定の期間に亘ってエンジンの回転が継続されることを前提としている。ところが、例えばGHP等の用途においては、例えば自動車等の用途に比べて、エンジン自体及びエンジンに連結された動力伝達機構等の慣性質量が小さい。その結果、上記従来技術におけるように失火が発生したと診断された場合にエンジンの全ての気筒に対する燃料カットが実施されると、エンジンが直ちに停止(ストール)してしまい、例えばGHPの稼働を継続することができなくなってしまう。
【0007】
以上のように、当該技術分野においては、温度センサを排気経路に配設すること無く、エンジンにおける失火の発生を迅速且つ正確に検出することが可能な技術が依然として求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-26365号公報
【文献】特開2000-248989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、当該技術分野においては、温度センサを排気経路に配設すること無く、エンジンにおける失火の発生を迅速且つ正確に検出することが可能な技術が依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に鑑み、本発明者は、鋭意研究の結果、複数気筒4ストロークエンジンのクランク軸の所定の回転角度毎に出力されるパルス信号が検出される度に、一の気筒における燃焼から次の気筒における燃焼までに出力されるパルス信号の数である第1個数のパルス信号が検出されるのに要する経過時間を計測し、今回計測された第1個数のパルス信号が検出されるのに要した経過時間と直前に計測された第1個数のパルス信号が検出されるのに要した経過時間との偏差を算出し、当該偏差を連続する所定数ずつ積算した値が所定の閾値よりも大きい場合に当該エンジンにおいて失火が発生したと判定する失火判定装置において、失火が発生していない状態に想定される当該エンジンのスロットル開度よりも実際のスロットル開度が大きい場合及び/又は当該エンジンの始動時における回転速度の最大値が所定の閾値よりも低い場合は上記偏差の積算数を少なくすることにより、温度センサを排気経路に配設すること無く、エンジンにおける失火の発生を迅速且つ正確に検出することができることを見出した。
【0011】
上記に鑑み、本発明に係る複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置(以降、「本発明装置」と称される場合がある。)は、計時手段と、偏差算出手段と、積算値算出手段と、第1判定手段と、を備える、複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置である。
【0012】
計時手段は、定速回転状態において、複数気筒4ストロークエンジンのクランク軸の所定の回転角度毎に出力されるパルス信号が検出される度に、第1個数のパルス信号が検出されるのに要する経過時間を計測する。第1個数とは、当該エンジンにおける一の気筒における燃焼から次の気筒における燃焼までのクランク軸の回転角度である第1角度の間に出力されるパルス信号の数である。定速回転状態とは、当該エンジンの回転速度の変動幅が所定の範囲内にある状態である。
【0013】
偏差算出手段は、第1時間と第2時間との偏差である第1偏差を算出する。第1時間は今回計測された第1個数のパルス信号が検出されるのに要した経過時間であり、第2時間は今回計測された第1個数のパルス信号の直前に計測された第1個数のパルス信号が検出されるのに要した経過時間である。
【0014】
積算値算出手段は、所定の数である第2個数の連続するパルス信号に対応する第1偏差を積算することにより得られる値である積算値を算出する。典型的には、第2個数は上述した第1個数に等しい。
【0015】
第1判定手段は、積算値の少なくとも何れか1つが所定の閾値である第1閾値よりも大きい場合に当該エンジンにおいて失火が発生したと判定する。
【0016】
本発明装置は、失火が発生していない状態における当該エンジンの回転速度と負荷とスロットル開度との関係を示すデータである第1データを格納しているデータ記憶手段を更に備える。
【0017】
更に、本発明装置においては、第1条件及び第2条件の何れか一方又は両方が成立するときは第2個数よりも少ない第3個数の連続するパルス信号に対応する第1偏差を積算することにより積算値を算出するように積算値算出手段が構成されている。第1条件は、当該エンジンの回転速度及び負荷から第1データに基づいて特定されるスロットル開度である第1開度を当該エンジンの実際のスロットル開度である第2開度から減ずることによって得られる偏差である第2偏差が所定の閾値である第2閾値よりも大きい場合に成立する条件である。第2条件は、当該エンジンの始動時の回転速度の最大値が所定の閾値である第3閾値未満である場合に成立する条件である。
【0018】
1つの好ましい態様において、積算値算出手段は、第1条件及び第2条件の何れか一方又は両方が成立するときであっても、当該エンジンの回転速度が所定の回転速度である第1回転速度よりも高い場合は、第2個数の連続するパルス信号に対応する第1偏差を積算することにより積算値を算出するように構成される。
【0019】
もう1つの好ましい態様において、積算値算出手段は、第1条件及び第2条件の何れか一方又は両方が成立するときであっても、当該エンジンの回転速度が所定の回転速度である第1回転速度よりも高い場合は、第1回転速度よりも低い第2回転速度まで当該エンジンの回転速度を低下させた後に第2個数の連続するパルス信号に対応する第1偏差を積算することにより積算値を算出するように構成される。
【0020】
更にもう1つの好ましい態様において、本発明装置は、失火判定集計手段と、第2判定手段と、を更に備える。失火判定集計手段は、失火判定回数を算出する。失火判定回数は、第1判定手段により当該エンジンにおいて失火が発生したと判定された回数を、当該エンジンの1つのサイクルに相当するクランク軸の回転角度において積算値に対応するパルス信号が検出された順序毎にグループ分けして、当該エンジンの複数のサイクルに相当するクランク軸の回転角度に亘って積算することにより得られる値である。第2判定手段は、失火判定回数の少なくとも何れか1つが所定の閾値である第4閾値よりも大きい場合に当該エンジンにおいて失火が発生したとの判定を確定する。
【0021】
上記態様において、本発明装置は停止手段を更に備え得る。停止手段は、第2判定手段により当該エンジンにおいて失火が発生したとの判定が確定された場合に当該エンジンを停止させる。
【発明の効果】
【0022】
上記のように、本発明装置においては、第1条件及び第2条件の何れか一方又は両方が成立するときは、第2個数よりも少ない第3個数の連続するパルス信号に対応する第1偏差を積算することにより積算値を算出する。即ち、第1条件及び/又は第2条件の成立によりエンジンにおいて失火が発生している可能性が高いと判断される場合は、積算値を算出するために積算される第1偏差の数を低減する。これにより、温度センサを排気経路に配設すること無く、エンジンにおける失火の発生を迅速且つ正確に検出することができる。
【0023】
また、1つの好ましい態様において、積算値算出手段は、第1条件及び第2条件の何れか一方又は両方が成立するときであっても、当該エンジンの回転速度が所定の回転速度である第1回転速度よりも高い場合は、第2個数の連続するパルス信号に対応する第1偏差を積算する。即ち、第1条件及び/又は第2条件の成立により当該エンジンにおいて失火が発生している可能性が高いと判断される場合であっても、当該エンジンの回転速度が高い場合は、積算値を算出するために積算される第1偏差の数を低減しない。この場合、積算値を算出するために積算される第1偏差の数は低減されないものの、当該エンジンの回転速度が高いため、積算値を算出するために要する時間は短い。これにより、温度センサを排気経路に配設すること無く、エンジンにおける失火の発生をより高い精度にて迅速且つ正確に検出することができる。
【0024】
更に、もう1つの好ましい態様において、積算値算出手段は、第1条件及び第2条件の何れか一方又は両方が成立するときであっても、当該エンジンの回転速度が所定の回転速度である第1回転速度よりも高い場合は、第1回転速度よりも低い第2回転速度まで当該エンジンの回転速度を低下させた後に第2個数の連続するパルス信号に対応する第1偏差を積算することにより積算値を算出する。即ち、第1条件及び/又は第2条件の成立により当該エンジンにおいて失火が発生している可能性が高いと判断される場合であっても、当該エンジンの回転速度が高い場合は、積算値を算出するために積算される第1偏差の数を低減しない。この場合、積算値を算出するために積算される第1偏差の数は低減されないものの、当該エンジンの回転速度が高いため、積算値を算出するために要する時間は短い。これにより、温度センサを排気経路に配設すること無く、エンジンにおける失火の発生をより高い精度にて迅速且つ正確に検出することができる。更に、積算値を算出する前に当該エンジンの回転速度を低下させるので、例えば排気温度の過剰な上昇による排気浄化触媒の焼損及び/又はエンジンの回転速度の変動に伴う異常振動の発生等、エンジンにおける失火の発生に起因する問題を低減又は回避することができる。
【0025】
加えて、更にもう1つの好ましい態様において、本発明装置は、上述した失火判定集計手段及び第2判定手段を更に備える。詳しくは後述するように、失火判定集計手段によって算出される失火判定回数と第4閾値との大小関係に基づいてエンジンにおける失火の有無を判定することにより、例えば外乱等に起因して積算値が第1閾値を超える度にエンジンにおいて失火が発生したとの誤判定が下されることを回避することができる。更に、第4閾値よりも大きい失火判定回数に対応するパルス信号が出力されたタイミング(クランク軸の回転角度)に基づいて、失火が発生している気筒を特定することもできる。
【0026】
尚、上述したように、上記態様において、本発明装置は、第2判定手段により当該エンジンにおいて失火が発生したとの判定が確定された場合に当該エンジンを停止させる停止手段を更に備えることができる。これにより、例えば排気温度の過剰な上昇による排気浄化触媒の焼損及び/又はエンジンの回転速度の変動に伴う異常振動の発生等、エンジンにおける失火の発生に起因する問題をより確実に低減又は回避することができる。
【0027】
本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の各実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第1実施形態に係る複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置(第1装置)が適用されるエンジンの構成を示す模式図である。
図2】第1装置の構成の一例を示す模式的なブロック図である。
図3】(a)及び(b)はエンジンにおける失火の有無に応じたパルス信号の推移の一例を示す模式的なタイムチャートである。
図4】パルス信号Pが検出される度に算出された第1偏差DTのパルス信号Pの検出数CNTの増加に伴う推移の一例を示すグラフである。
図5】パルス信号Pが検出される度に算出された積算値RCのパルス信号Pの検出数CNTの増加に伴う推移の一例を示すグラフである。
図6】第1装置によって実行される失火判定ルーチンにおける処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図7】本発明の第2実施形態に係る複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置(第2装置)によって実行される失火判定ルーチンにおける処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図8】本発明の第3実施形態に係る複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置(第3装置)によって実行される失火判定ルーチンにおける処理の流れの1つの例を示すフローチャートである。
図9】第3装置によって実行される失火判定ルーチンにおける処理の流れのもう1つの例を示すフローチャートである。
図10】本発明の第4実施形態に係る複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置(第4装置)の構成の一例を示す模式的なブロック図である。
図11】第4装置が備える失火判定集計手段によって算出(集計)される失火判定回数Kn(n=1~24)のパルス信号Pの検出数CNTの増加に伴う推移の一例を示す模式的なグラフである。
図12】第4装置によって実行される失火確定ルーチンにおける処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
《第1実施形態》
以下、本発明の第1実施形態に係る複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置(以降、「第1装置」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0030】
〈エンジンの構成〉
第1装置に関する説明に先立ち、第1装置が適用されるエンジンの構成に関する説明を以下に述べる。図1は、第1装置が適用される複数気筒4ストロークエンジンの構成を示す模式図である。図1に示すエンジン11は、直列配置された4つの気筒12(12a~12d)を有する4気筒4ストロークエンジンであり、例えば、ヒートポンプ式空気調和装置が備える圧縮機の駆動源として使用することができる。各気筒12には、ピストン13が往復運動可能に収容されている。各ピストン13は、コネクティングロッド14を介してクランク軸15に連結されている。各ピストン13の往復運動は、コネクティングロッド14を介してクランク軸15の回転運動に変換される。
【0031】
各気筒12の燃焼室16には、外部の空気が供給される吸気通路17が連通されている。この吸気通路17の途中には、スロットル弁18が設けられている。また、吸気通路17には、スロットル弁18の上流側において、燃料管路21が連通されている。この燃料管路21には、ガス電磁弁22、ガスレギュレータ23及び燃料調整弁24が配設されている。そして、燃料ガス供給源(例えば、燃料タンク等)から燃料管路21に導入された燃料ガス(例えば、プロパンガス及び天然ガス等)は、ガス電磁弁22、ガスレギュレータ23及び燃料調整弁24を介して吸気通路17へと供給される。従って、スロットル弁18の上流側において吸気通路17に供給された空気及び燃料ガスからなる混合気は、スロットル弁18によって流量が調整され、燃焼室16に導入される。
【0032】
各気筒12の燃焼室16には点火プラグ26が設けられており、燃焼室16に導入された混合気は点火プラグ26が備える火花放電用電極(図示せず)における火花放電によって点火され、爆発・燃焼する。このときに生じた高温高圧の燃焼ガスによりピストン13が往復運動し、クランク軸15が回転することにより、エンジン11の駆動力が得られる。そして、この燃焼後の混合気(排気ガス)は、各気筒12の燃焼室16に連通する排気通路27へと排出される。
【0033】
尚、吸気通路17及び排気通路27の燃焼室16に臨む各々の開口部には、吸気弁17a及び排気弁27aが設けられている。一方、クランク軸15には、適宜の伝動部材(例えば、タイミングベルト等)を介して、カム軸28が駆動連結されている。クランク軸15及びカム軸28間の回転伝達比は1/2であり、クランク軸15の2回転に対しカム軸28が1回転するように構成されている。そして、吸気弁17a及び排気弁27aは、クランク軸15の回転に伴うカム軸28の回転に合わせて開閉動作する。
【0034】
そして、エンジン11は、各気筒12において、燃料(混合気)の吸入・圧縮・燃焼(爆発)・排気の全行程(4ストローク/1サイクル)を繰り返すことにより、コネクティングロッド14を介してピストン13の往復運動をクランク軸15に伝え、クランク軸15を回転させる。尚、4つの気筒12a~12dの点火タイミングは等間隔であり(位相差は等しく)、クランク軸15は1サイクル毎に2回転する。即ち、4つの気筒12a~12dのうち一の気筒における燃焼から次の気筒における燃焼までのクランク軸15の回転角度(第1角度)は180°(=360°×2/4)である。
【0035】
上記のような構成を有するエンジン11は、エンジン用電子制御装置(ENG-ECU)30によって制御される。即ち、ENG-ECU30は、スロットル弁18、ガス電磁弁22及び燃料調整弁24の各々と電気的に接続されており、これらの作動を制御する。また、ENG-ECU30は、点火プラグ26に電力を供給するイグニッションコイル31をスイッチング動作させるイグナイタ32と電気的に接続されており、当該イグナイタ32等を介して点火プラグ26による放電(点火)を制御する。
【0036】
尚、クランク軸15には、所定角度DN(例えば、30°)間隔に配設された複数(12個)の突起33aを有するロータ33が一体的に回転するように連結されている。そして、ENG-ECU30は、径方向においてロータ33(突起33a)に対向するように配置されたクランクポジションセンサ34と電気的に接続されている。このクランクポジションセンサ34は、クランク軸15の回転に伴ってロータ33の突起33aが通過する毎に、即ちクランク軸15が所定角度DNだけ回転する度にパルス信号Pを生成・出力する。ENG-ECU30は、パルス信号Pに基づいてクランク軸15の回転量及び回転速度等を検出する。
【0037】
そして、ENG-ECU30は、検出したクランク軸15の回転量等に基づいてスロットル弁18等の作動を制御することにより、例えば、エンジン回転速度(クランク軸15の回転速度)が一定になるように制御する。以降、このような制御は「定速回転制御」と称呼される場合があり、エンジン回転速度(クランク軸15の回転速度)が一定に維持されている状態は「定速回転状態」と称呼される場合がある。ENG-ECU30は、定速回転状態において、パルス信号Pに基づいてエンジン11における失火の有無を判定することができる。この場合、第1装置はENG-ECU30によって構成される。但し、ENG-ECU30以外の電子制御装置(ECU)によって第1装置としての機能の一部又は全部が達成されていてもよい。尚、以下の説明においては、第1装置としての機能の全てがENG-ECU30によって達成されているものとする。
【0038】
また、カム軸28にも、同様の複数の突起を有するロータ35が一体的に回転するように連結されている。そして、ENG-ECU30は、径方向においてロータ35に対向するように配置されたカムポジションセンサ36と電気的に接続されている。このカムポジションセンサ36は、カム軸28の回転に伴ってロータ35の突起が通過する毎に、即ちカム軸28が所定角度だけ回転する度にパルス信号を生成・出力する。ENG-ECU30は、このパルス信号に基づいてカム軸28の回転量及び回転速度等を検出する。
【0039】
〈第1装置の構成〉
次に、第1装置の構成について説明する。図2は、第1装置の構成の一例を示す模式的なブロック図である。第1装置101は、計時手段110と、偏差算出手段120と、積算値算出手段130と、第1判定手段140と、を備える、複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置である。尚、第1装置101が更に備えるデータ記憶手段150については後述する。
【0040】
計時手段110は、定速回転状態において、複数気筒4ストロークエンジン11のクランク軸の所定の回転角度毎に出力されるパルス信号Pが検出される度に、第1個数n1のパルス信号Pが検出されるのに要する経過時間Tを計測する。第1個数n1とは、エンジン11における一の気筒における燃焼から次の気筒における燃焼までのクランク軸の回転角度である第1角度の間に出力されるパルス信号Pの数である。定速回転状態とは、エンジン11の回転速度NEの変動幅が所定の範囲内にある状態である。尚、エンジン11が定速回転状態に有るか否かは、上記のように検出されるパルス信号Pに基づいて判定することができる(図2中の一点鎖線を参照)。
【0041】
図3は、エンジン11における失火の有無に応じたパルス信号Pの推移の一例を示す模式的なタイムチャートである。(a)はエンジンにおいて失火が発生していない状態におけるパルス信号Pの推移の一例を示し、(b)はエンジンにおいて失火が発生している状態におけるパルス信号Pの推移の一例を示す。図1に示したエンジン11においては、クランク軸15が所定角度DN(例えば、30°)だけ回転する度にパルス信号Pが出力され、計時手段110によって検出される。また、上述したようにエンジン11において、一の気筒における燃焼から次の気筒における燃焼までのクランク軸15の回転角度である第1角度は180°である。従って、第1角度の間に出力されるパルス信号Pの数である第1個数n1は6つ(n1=180°/30°=6)である。即ち、図1に示した例においては、計時手段110が、パルス信号Pが検出される度に(即ち、クランク軸15が30°回転する度に)6つのパルス信号Pが検出されるのに要する経過時間Tを計測する。
【0042】
偏差算出手段120は、第1時間TRと第2時間TLとの偏差である第1偏差DTを算出する。第1時間TRは今回計測された第1個数n1のパルス信号Pが検出されるのに要した経過時間Tであり、第2時間TLは今回計測された第1個数n1のパルス信号Pの直前に計測された第1個数n1のパルス信号Pが検出されるのに要した経過時間Tである。
【0043】
図1に示した例においては、計時手段110は、パルス信号Pが検出される度に(即ち、クランク軸15が30°回転する度に)第1個数n1(6つ)のパルス信号Pが検出されるのに要する経過時間Tを計測する。従って、図1に示した例においては、第1時間TRは、一のパルス信号Pが検出された時点から当該パルス信号Pから数えて6つ後のパルスPが検出されるまでの期間の時間的な長さである。換言すれば、第1時間はTR、一のパルス信号Pが検出された時点におけるクランク角からクランク軸15が第1角度(180°)だけ回転するのに要する経過時間Tである。一方、第2時間TLは、一のパルス信号Pから数えて6つ前のパルスPが検出された時点から当該パルス信号Pが検出された時点までの期間の時間的な長さである。換言すれば、第2時間はTL、クランク軸15が第1角度(180°)だけ回転して一のパルス信号Pが検出される時点におけるクランク角へと到達するのに要した経過時間Tである。
【0044】
上述したように、第1偏差DTは、第1時間TRと第2時間TLとの偏差である(DT=TR-TL)。従って、第1偏差DTは、一のパルス信号Pが検出された時点におけるクランク角から第1角度(180°)だけ後のクランク角までの範囲におけるクランク軸15の回転速度と、上記一のパルス信号Pが検出された時点におけるクランク角から第1角度(180°)だけ前のクランク角から当該一のパルス信号Pが検出された時点におけるクランク角までの範囲におけるクランク軸15の回転速度と、の差に対応する。従って、何れの気筒においても失火が発生していない場合、パルス信号Pが検出される毎に(計測される第1時間TRと第2時間TLとの偏差として)算出される第1偏差DTのうちの何れも大きい値とはならない(図3の(a)を参照)。一方、何れかの気筒において失火が発生している場合、パルス信号Pが検出される毎に算出される第1偏差DTのうちの何れかが大きい値となる(図3の(b)を参照)。
【0045】
図4は、パルス信号Pが検出される度に算出された第1偏差DTのパルス信号Pの検出数CNTの増加に伴う推移の一例を示すグラフである。図4に示すグラフはあくまでも1つの例であり、例えば第1偏差DTの大きさ(絶対値)等は実際に算出される値を厳密に反映するものではないが、パルス信号Pが検出される毎に算出される個々の第1偏差DTの値は必ずしも大きくなく、また例えば外乱等に起因する突発的な第1偏差DTの増大も起こり得る。従って、エンジン11における失火の有無についての判定(失火判定)の精度を高める観点からは、パルス信号Pの各々が検出される毎に算出される第1偏差DTを連続する所定の数だけ積算することにより、より精度の高い失火判定を可能とする判定指標を得ることができる。
【0046】
そこで、積算値算出手段130は、所定の数である第2個数n2の連続するパルス信号Pに対応する第1偏差DTを積算することにより得られる値である積算値RCを算出する。第2個数n2の具体的な値は特に限定されないが、過度に小さい場合は、例えば、第1偏差DTを積算することによって達成される上述した効果を十分に得ることができない虞がある。一方、第2個数n2の具体的な値が過度に大きい場合は、例えば、失火に起因する燃焼行程におけるクランク軸15の回転速度の気筒間における差異が平均化されてしまい、失火判定が困難となる虞がある。
【0047】
尚、上述したように、第1偏差DTは、一のパルス信号Pが検出された時点におけるクランク角から第1角度(180°)だけ後のクランク角までの範囲におけるクランク軸15の回転速度と、上記一のパルス信号Pが検出された時点におけるクランク角から第1角度(180°)だけ前のクランク角から当該一のパルス信号Pが検出された時点におけるクランク角までの範囲におけるクランク軸15の回転速度と、の差に対応する。即ち、第1偏差DTは、一の気筒における混合気の燃焼状態と、その前の気筒における混合気の燃焼状態と、の違いを反映するものである。従って、一の気筒における燃焼から次の気筒における燃焼までのクランク軸の回転角度(第1角度)に対応する範囲において第1偏差DTを積算することにより、エンジンにおける失火の発生に起因する第1偏差DTの増大については累積・強調し、例えば外乱等に起因する突発的な第1偏差DTの増大については平滑化することができる。その結果、エンジンにおける失火の発生をより高い精度にて迅速且つ正確に検出することができる。このため、典型的には、第2個数n2は上述した第1個数n1に等しい。
【0048】
例えば、k個目に検出された(即ち、CNT=k)パルス信号P(k)に対応する第1時間及び第2時間がそれぞれTR(k)及びTL(k)として表される場合、当該パルス信号Pに対応する第1偏差はDT(k)として表される(DT(k)=TR(k)-TL(k))。更に、当該パルス信号Pに対応する積算値RC(k)は、例えば、以下の式(1)によって算出することができる。尚、式(1)中、n2は上述した第2個数を表す。
【0049】
【数1】
【0050】
具体的には、例えば、図3に示すように、一のパルス信号P(1)に対応する第1時間及び第2時間をそれぞれTR(1)及びTL(1)とする場合、当該パルス信号P(1)の次のパルス信号P(2)に対応する第1時間及び第2時間はそれぞれTR(2)及びTL(2)となる。以降同様にして、前述した第1個数(この場合は6つ)のパルス信号Pの最後のパルス信号P(6)に対応する第1時間及び第2時間はそれぞれTR(6)及びTL(6)となる。この場合、積算値RC(1)は以下の式(2)によって算出される。
【0051】
【数2】
【0052】
図5は、パルス信号Pが検出される度に算出された積算値RCのパルス信号Pの検出数CNTの増加に伴う推移の一例を示すグラフである。図5からも明らかであるように、積算値RCにおいては、第2個数n2は上述した第1個数n1に等しいため、エンジン11における失火の発生に起因する第1偏差DTの増大については累積・強調され、例えば外乱等に起因する突発的な第1偏差DTの増大については平滑化される。従って、このような積算値RCに基づいて失火判定を行うことにより、エンジン11における失火の発生をより高い精度にて迅速且つ正確に検出することができる。
【0053】
そして、第1判定手段140は、積算値RCの少なくとも何れか1つが所定の閾値である第1閾値Th1よりも大きい場合にエンジン11において失火が発生したと判定する。定速回転状態は、上述したように、エンジン11の回転速度(クランク軸15の回転速度)が一定(の範囲内)に維持されている状態である。従って、エンジン11の何れの気筒においても失火が発生していない場合は、第1時間TRと第2時間TLとの偏差である第1偏差DTも第1偏差DTの積算値である積算値RCも何れも非常に小さいか或いは0(ゼロ)である。逆に、エンジン11の何れかの気筒において失火が発生している場合は、この失火が発生している気筒の燃焼行程に対応する第1偏差DT及び積算値RCが他の第1偏差DT及び積算値RCよりも大きくなる。このため、第1判定手段140は、定速回転状態において積算値RCの少なくとも何れか1つが第1閾値Th1よりも大きい場合に、当該エンジンにおいて失火が発生したと判定することができる。
【0054】
尚、第1閾値Th1の具体的な値は、エンジン11において失火が発生している可能性が高いと判断するのに好適な積算値RCの値に基づいて適宜設定される。このような積算値RCの具体的な値は、例えば特定の気筒において失火が発生している状態にあるエンジン11の積算値RCの値を測定する実験等を事前に行うことによって特定することができる。
【0055】
以上のようにして、第1装置101は、温度センサを排気経路に配設すること無く、エンジン11における失火の発生を迅速且つ正確に検出することができる。しかしながら、エンジンにおける失火の有無を判定するための指標となる積算値を得るためには上記のように第1時間TRと第2時間TLとの偏差である第1偏差DTをクランク軸の所定の回転角度分(即ち、所定の第2個数n2)だけ積算する必要があり、一定の時間が必要となる。
【0056】
一方、上述したように、エンジンにおける失火の発生に伴う問題を回避するためには、エンジンにおける失火の発生を迅速に(瞬時に)検出し、例えばエンジンを停止したり警報を発したりする等、必要な措置を早急に講ずる必要がある。ところが、上記偏差の積算数に対応するクランク軸の所定の回転角度を減少して失火判定に要する期間を短縮することにより失火判定を迅速化すると、例えば外乱等の影響により失火判定の精度が低下し、エンジンの失火が誤って判定される虞がある。
【0057】
そこで、第1装置101は、図2に示すように、失火が発生していない状態におけるエンジン11の回転速度NEと負荷Lとスロットル開度TAとの関係を示すデータである第1データを格納しているデータ記憶手段150を更に備える。
【0058】
上記のように、第1データは、失火が発生していない状態における当該エンジンの回転速度と負荷とスロットル開度との関係を示すデータである。このような第1データは、例えば、エンジンにおいて失火が発生していない状態において、種々の運転状態における当該エンジンの回転速度と負荷とスロットル開度との関係を特定する実験を事前に行うことによって得ることができる。より詳しくは、例えば、失火が発生していない状態にあるエンジン11の回転速度と負荷との種々の組み合わせにおけるスロットル開度を測定する実験を事前に行うことにより、上記第1データを得ることができる。
【0059】
データ記憶手段150は例えばROM及び/又はRAM等の記憶装置であり、第1データは電子データとしてデータ記憶手段150に格納される。また、第1データは、上述した関係を表すデータテーブル(マップ)或いは当該関係を表す関数等として、データ記憶手段150に格納することができる。
【0060】
更に、第1装置101においては、第1条件及び第2条件の何れか一方又は両方が成立するときは第2個数n2よりも少ない第3個数n3の連続するパルス信号Pに対応する第1偏差DTを積算することにより積算値RCを算出するように積算値算出手段130が構成されている。具体的には、例えば、式(2)を参照しながら示した例においては、エンジン11における一の気筒における燃焼から次の気筒における燃焼までのクランク軸の回転角度である第1角度(180°)の間に出力されるパルス信号Pの数である第1個数n1に等しい第2個数n2(即ち、6つ)分の第1偏差DTを積算することにより積算値RCを算出した。しかしながら、第1装置101においては、第1条件及び第2条件の何れか一方又は両方が成立するときは、この第2個数n2(6つ)よりも少ない第3個数n3(例えば、1つ又は2つ等)の連続するパルス信号Pに対応する第1偏差DTを積算することにより積算値RCが算出される。従って、積算値RCの算出に要する時間が短縮される。尚、この場合、当然のことながら、第1偏差DTの積算数の第2個数n2から第3個数n3への変更に伴い、積算値RCに基づく失火判定のための閾値である第1閾値Th1の値も適宜調整される。
【0061】
第1条件は、エンジン11の回転速度NE及び負荷Lから第1データに基づいて特定されるスロットル開度である第1開度TA1をエンジン11の実際のスロットル開度である第2開度TA2から減ずることによって得られる偏差である第2偏差DA(DA=TA2-TA1)が所定の閾値である第2閾値Th2よりも大きい(DA>Th2)場合に成立する条件である。エンジン11の回転速度NEは、例えば、クランク軸15が所定角度DNだけ回転する度にクランクポジションセンサ34によって出力されるパルス信号Pに基づいて算出することができる。エンジン11の負荷Lは、例えば、圧縮機211及び212の吐出側及び吸入側に配設された図示しない圧力センサによって検出される圧縮機211及び212の吐出側と吸入側との間における圧力差に基づいて検出することができる。
【0062】
図2における破線の矢印によって示されるように、上記のようにして取得されるエンジン11の回転速度NE及び負荷Lから、データテーブル(マップ)又は関数としての第1データに基づいて、失火が発生していない状態にあるエンジン11において想定されるスロットル開度である第1開度TA1を特定又は算出することができる。一方、エンジン11の実際のスロットル開度である第2開度TA2は、例えば、エンジン400の吸気管の途中に介装されたスロットル弁(図示せず)の開度を検出するスロットルポジションセンサ(図示せず)によって検出することができる。
【0063】
エンジン11において失火が発生していない場合、第1開度TA1と第2開度TA2とは一致する筈である。一方、エンジン11において失火が発生している場合、負荷Lに応じた回転速度NEを維持するためにスロットル開度TAが増大し、第1開度TA1よりも第2開度TA2が大きくなる筈である。従って、第1開度TA1を第2開度TA2から減ずることによって得られる偏差である第2偏差DAが大きいほど、エンジン11において失火が発生している可能性が高いと判断することができる。このような観点から、第2偏差DAが第2閾値Th2よりも大きい場合に成立する条件を第1条件としている。
【0064】
尚、第2閾値Th2の具体的な値は、エンジン11において失火が発生している可能性が高いと判断するのに好適なスロットル開度TAの増大量に基づいて適宜設定される。このようなスロットル開度TAの増大量の具体的な値は、例えば失火が発生している状態にあるエンジン11のスロットル開度TA及び失火が発生していない状態にあるエンジン11のスロットル開度TAを回転速度NEと負荷Lとの種々の組み合わせにおいて測定する実験等を事前に行うことによって特定することができる。
【0065】
第2条件は、エンジン11の始動時の回転速度NEの最大値NEmaxが所定の閾値である第3閾値Th3未満である(NEmax<Th3)場合に成立する条件である。例えばエンジン11を圧縮機の駆動源として使用するヒートポンプの始動時等において所定の条件下にてENG-ECU30によってエンジン11が始動される場合、失火が発生していない状態にあるエンジン11の始動直後の回転速度NEは所定の最大値に到達する筈である。一方、エンジン11において失火が発生している場合は、失火が発生していない状態に比べて、エンジン11の始動直後の回転速度NEの最大値がより小さくなる。従って、エンジン11の始動時の回転速度NEの最大値NEmaxが所定の閾値である第3閾値Th3よりも小さいほど、エンジン11において失火が発生している可能性が高いと判断することができる。このような観点から、エンジン11の始動時の回転速度NEの最大値NEmaxが第3閾値Th3未満である場合に成立する条件を第2条件としている。
【0066】
尚、第3閾値Th3の具体的な値は、エンジン11において失火が発生している可能性が高いと判断するのに好適なエンジン11の始動直後の回転速度NEの最大値に基づいて適宜設定される。このような回転速度NEの最大値の具体的な値は、例えば失火が発生している状態にあるエンジン11の始動直後の回転速度NEの最大値を測定する実験等を事前に行うことによって特定することができる。
【0067】
以上の説明から明らかであるように、上述した第1条件及び第2条件はエンジン11において失火が発生している可能性が高い場合に成立する条件である。従って、上述したように積算値RCが第1閾値Th1よりも大きいか否かのみに基づいて失火判定を行う場合に比べて、第1条件及び第2条件の何れか一方又は両方が成立するか否かと積算値RCが第1閾値Th1よりも大きいか否かとの両方に基づいて失火判定を行う場合は、失火判定の精度がより高くなる。これにより、上述したように積算値RCの算出における第1偏差DTの積算数を減らしても、失火判定の精度の低下を招くこと無く、失火判定に要する期間を短縮して、エンジンにおける失火の発生を迅速且つ正確に検出することができる。
【0068】
〈第1装置の作動〉
ここで、以上説明してきた第1装置101によって実行される失火判定ルーチンにつき詳しく説明する。図6は、第1装置101によって実行される失火判定ルーチンにおける処理の流れの一例を示すフローチャートである。尚、当該ルーチンは、第1装置101としての機能を達成するECUを構成するCPUによって所定の短い周期にて実行される。
【0069】
当該ルーチンが開始されると、CPUは、ステップS110において、エンジン11が定速回転状態にあるか否かを判定する。具体的には、CPUは、エンジン11の回転速度NEの変動幅が所定の範囲内にあるか否かを判定する。エンジン11が定速回転状態にない場合は、十分に高い精度にて失火判定を行うことが困難であるので、CPUは、ステップS110において「No」と判定し、当該ルーチンを一旦終了する。一方、エンジン11が定速回転状態にある場合は、十分に高い精度にて失火判定を行うことが可能であるので、CPUは、ステップS110において「Yes」と判定して、次のステップS120へと処理を進める。
【0070】
次のステップS120において、CPUは、パルス信号Pが検出される度に、上述した第1個数n1のパルス信号Pが検出されるのに要する経過時間Tを計測する。次に、CPUは、ステップS130へと処理を進め、上述した第1時間TR及び第2時間TLを算出し、第1時間TRと第2時間TLとの偏差である第1偏差DTを算出する(DT=TL-TR)。
【0071】
次に、CPUは、ステップS140へと処理を進め、エンジン11の回転速度NE、負荷L及びスロットル開度TA(第1データに基づくスロットル開度である第1開度TA1及び実際のスロットル開度である第2開度TA2)に基づいて、上述した第1条件及び第2条件の何れか一方又は両方が成立するか否かを判定する。第1条件及び第2条件の何れも成立しない場合、CPUは、ステップS140において「No」と判定して、次のステップS150において、第1偏差DTの積算数を通常の第2個数n2に設定する。一方、第1条件及び第2条件の何れか一方又は両方が成立する場合、CPUは、ステップS140において「Yes」と判定して、次のステップS160において、第1偏差DTの積算数を通常の第2個数n2よりも少ない第3個数n3に設定する。更に、CPUは、積算値RCに基づく失火判定のための閾値である第1閾値Th1の値も第3個数n3に応じた値に変更する。
【0072】
次に、CPUは、ステップS170へと処理を進め、ステップS150又はS160において設定された積算数に応じて第1偏差DTを積算することにより積算値RCを算出し、次のステップS180へと処理を進める。次のステップS180において、CPUは、算出された積算値RCが第1閾値Th1よりも大きいか否かを判定する。算出された全ての積算値RCが第1閾値Th1以下である場合、CPUは、ステップS180において「No」と判定し、当該ルーチンを一旦終了する。一方、少なくとも何れか1つの積算値RCが第1閾値Th1よりも大きいよりも大きい場合、CPUは、ステップS180において「Yes」と判定し、次のステップS190へと処理を進め、エンジン11において失火が発生していると判定し、当該ルーチンを一旦終了する。
【0073】
〈効果〉
以上説明してきたように、第1装置においては、クランク軸の所定の回転角度毎に出力されるパルス信号が検出される度に、一の気筒における燃焼から次の気筒における燃焼までの開花時間を計測し、連続する2つの経過時間の間の偏差である第1偏差を算出し、第1偏差を所定の第2個数ずつ積算して得られる積算値の少なくとも何れか1つが所定の閾値よりも大きい場合にエンジンにおいて失火が発生したと判定する。これにより、温度センサを排気経路に配設すること無く、エンジンにおける失火の発生を正確に検出することができる。
【0074】
上記に加えて、第1装置においては、第1条件及び第2条件の何れか一方又は両方が成立するときは、第2個数よりも少ない第3個数の第1偏差を積算することにより積算値を算出する。これにより、エンジンにおける失火の発生を迅速且つ正確に検出することができる。
【0075】
《第2実施形態》
以下、本発明の第2実施形態に係る複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置(以降、「第2装置」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0076】
上述したように、第1装置においては、第1条件及び/又は第2条件の成立によりエンジンにおいて失火が発生している可能性が高いと判断される場合は、積算値を算出するために積算される第1偏差の数(積算数)を低減する。これにより、失火判定の精度を維持しつつ、エンジンにおける失火の発生を迅速に検出することができる。
【0077】
しかしながら、エンジンの回転速度が十分に高い場合は、個々のパルス信号が検出される間隔が短いため、積算値を算出するために積算される第1偏差の数(積算数)を低減するまでも無く、積算値を迅速に算出して、エンジンにおける失火の発生を迅速に検出することができる。
【0078】
〈第2装置の構成〉
そこで、第2装置は、上述した第1装置であって、積算値算出手段130は、上述した第1条件及び第2条件の何れか一方又は両方が成立するときであっても、エンジン11の回転速度NEが所定の回転速度である第1回転速度NE1よりも高い場合は、第2個数n2の連続するパルス信号Pに対応する第1偏差DTを積算することにより積算値RCを算出する、ことを特徴とする、複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置である。換言すれば、第2装置においては、たとえ第1条件及び/又は第2条件が成立するときであっても、エンジン11の回転速度NEが第1回転速度NE1よりも高い場合は、積算値RCを算出するために積算される第1偏差DTの数(積算数)が低減されない。
【0079】
上記第1回転速度NE1の大きさは、積算値RCを算出するために積算される第1偏差DTの数(積算数)を減らさなくても十分に短い時間内に積算値RCを算出することが可能となるエンジン11の回転速度NEに基づいて定めることができる。例えば、第1回転速度NE1の具体的な大きさは、排気温度の過剰な上昇による排気浄化触媒の焼損及び/又はエンジンの回転速度の変動に伴う異常振動の発生等、エンジンにおける失火の発生に起因する問題が許容不可能な程度にまで進行するのに要する時間の長さが積算値RCを算出するのに要する時間の長さよりも長くなるエンジン11の回転速度NEを特定する実験等を事前に行うことによって適宜定めることができる。
【0080】
〈第2装置の動作〉
ここで、以上説明してきた第2装置によって実行される失火判定ルーチンにつき詳しく説明する。図7は、第2装置によって実行される失火判定ルーチンにおける処理の流れの一例を示すフローチャートである。尚、当該ルーチンは、第2装置としての機能を達成するECUを構成するCPUによって所定の短い周期にて実行される。
【0081】
図7に示す失火判定ルーチンは、ステップS140とS160との間にステップS142が追加されている点を除き、第1装置によって実行される図6に示した失火判定ルーチンと同様である。従って、以下の説明においては、主として上記相違点について説明し、共通点についての説明は省略する。
【0082】
当該ルーチンが開始されてからステップS140に到るまでの処理の流れは、図6に示した失火判定ルーチンと同様である。ステップS140において、CPUは、エンジン11の回転速度NE、負荷L及びスロットル開度TA(第1データに基づくスロットル開度である第1開度TA1及び実際のスロットル開度である第2開度TA2)に基づいて、上述した第1条件及び第2条件の何れか一方又は両方が成立するか否かを判定する。第1条件及び第2条件の何れも成立しない場合、CPUは、ステップS140において「No」と判定して、次のステップS150において、第1偏差DTの積算数を通常の第2個数n2に設定する。このステップS150以降の処理の流れも、図6に示した失火判定ルーチンと同様である。
【0083】
一方、第1条件及び第2条件の何れか一方又は両方が成立する場合、CPUは、ステップS140において「Yes」と判定するが、当該ルーチンにおいては、ステップS160へと処理を進める前に、新たに追加されたステップS142へと処理を進める。ステップS142において、CPUは、エンジン11の回転速度NEが第1回転速度NE1よりも高いか否かを判定する。エンジン11の回転速度NEが第1回転速度NE1以下である場合(NE≦NE1)、CPUは、ステップS142において「No」と判定し、次のステップS160へと処理を進め、第1偏差DTの積算数を通常の第2個数n2よりも少ない第3個数n3に設定する。更に、CPUは、積算値RCに基づく失火判定のための閾値である第1閾値Th1の値も第3個数n3に応じた値に変更する。このステップS160以降の処理の流れも、図6に示した失火判定ルーチンと同様である。
【0084】
一方、エンジン11の回転速度NEが第1回転速度NE1よりも高い場合(NE>NE1)、CPUは、ステップS142において「Yes」と判定し、ステップS160ではなくステップS150へと処理を進め、第1偏差DTの積算数を通常の第2個数n2に設定する。このステップS150以降の処理の流れも、図6に示した失火判定ルーチンと同様である。
【0085】
〈効果〉
以上説明してきたように、第2装置においては、たとえ第1条件及び/又は第2条件が成立するときであっても、エンジン11の回転速度NEが第1回転速度NE1よりも高い場合は、積算値RCを算出するために積算される第1偏差DTの数(積算数)が低減されない。しかしながら、エンジンの回転速度が十分に高いので、個々のパルス信号が検出される間隔が短いため、積算値を迅速に算出することができる。従って、第2装置によれば、温度センサを排気経路に配設すること無く、エンジンにおける失火の発生を迅速且つ正確に検出することができる。
【0086】
《第3実施形態》
以下、本発明の第3実施形態に係る複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置(以降、「第3装置」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0087】
上述したように、第2装置においては、たとえ第1条件及び/又は第2条件が成立するときであっても、エンジン11の回転速度NEが第1回転速度NE1よりも高い場合は、積算値RCを算出するために積算される第1偏差DTの数(積算数)が低減されない。しかしながら、エンジンの回転速度が十分に高いので、個々のパルス信号が検出される間隔が短いため、積算値を迅速に算出することができる。従って、第2装置によれば、温度センサを排気経路に配設すること無く、エンジンにおける失火の発生を迅速且つ正確に検出することができる。
【0088】
しかしながら、エンジン11の回転速度NEが非常に高い場合、回転速度NEを維持すると、例えば排気温度の過剰な上昇による排気浄化触媒の焼損及び/又はエンジンの回転速度の変動に伴う異常振動の発生等、エンジンにおける失火の発生に起因する問題に繋がる虞がある。
【0089】
〈第3装置の構成〉
そこで、第3装置は、上述した第1装置又は第2装置であって、積算値算出手段130は、上述した第1条件及び第2条件の何れか一方又は両方が成立するときであっても、エンジン11の回転速度NEが所定の回転速度である第2回転速度NE2よりも高い場合は、第2回転速度NE2よりも低い所定の回転速度である第3回転速度NE3までエンジン11の回転速度NEを低下させた後に、第2個数n2の連続するパルス信号Pに対応する第1偏差DTを積算することにより積算値RCを算出する、ことを特徴とする、複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置である。換言すれば、第3装置においては、第2装置と同様に、たとえ第1条件及び/又は第2条件が成立するときであっても、エンジン11の回転速度NEが第2回転速度NE2よりも高い場合は、積算値RCを算出するために積算される第1偏差DTの数(積算数)が低減されない。但し、第3装置においては、エンジン11の回転速度NEを第2回転速度NE2よりも低い第3回転速度NE3まで下げてから積算値RCが算出される。
【0090】
上記第2回転速度NE2の大きさは、積算値RCを算出するために積算される第1偏差DTの数(積算数)を減らさなくても上述したような失火の発生に起因する問題が許容不可能な程度にまでは進行しないエンジン11の回転速度NEに基づいて定めることができる。例えば、第2回転速度NE2の具体的な大きさは、特定の気筒において失火が発生している状態にあるエンジン11の回転速度NEを種々に変更して、上述したような失火の発生に起因する問題が許容不可能な程度にまで進行するのに要する時間の長さが第2個数n2の連続するパルス信号Pが出力されるのに要する時間の長さよりも短くなるエンジン11の回転速度NEを特定する実験等を事前に行うことによって適宜定めることができる。
【0091】
〈第3装置の作動1〉
ここで、以上説明してきた第3装置によって実行される失火判定ルーチンにつき詳しく説明する。図8は、前述した第1装置に基づく第3装置によって実行される失火判定ルーチンにおける処理の流れの1つの例を示すフローチャートである。尚、当該ルーチンは、第3装置としての機能を達成するECUを構成するCPUによって所定の短い周期にて実行される。
【0092】
図8に示す失火判定ルーチンは、ステップS140とS160との間のステップS142がステップS144に置き換えられている点及び当該ステップS144とステップS150との間にステップS146が新たに追加されている点を除き、第2装置によって実行される図7に示した失火判定ルーチンと同様である。従って、以下の説明においては、主として上記相違点について説明し、共通点についての説明は省略する。
【0093】
当該ルーチンが開始されてからステップS140に到るまでの処理の流れは、図7に示した失火判定ルーチンと同様である。ステップS140において、CPUは、エンジン11の回転速度NE、負荷L及びスロットル開度TA(第1データに基づくスロットル開度である第1開度TA1及び実際のスロットル開度である第2開度TA2)に基づいて、上述した第1条件及び第2条件の何れか一方又は両方が成立するか否かを判定する。第1条件及び第2条件の何れも成立しない場合、CPUは、ステップS140において「No」と判定して、次のステップS150において、第1偏差DTの積算数を通常の第2個数n2に設定する。このステップS150以降の処理の流れも、図7に示した失火判定ルーチンと同様である。
【0094】
一方、第1条件及び第2条件の何れか一方又は両方が成立する場合、CPUは、ステップS140において「Yes」と判定するが、当該ルーチンにおいては、ステップS142ではなく、新たに追加されたステップS144へと処理を進める。ステップS144において、CPUは、エンジン11の回転速度NEが第2回転速度NE2よりも高いか否かを判定する。エンジン11の回転速度NEが第2回転速度NE2以下である場合(NE≦NE2)、CPUは、ステップS144において「No」と判定し、次のステップS160へと処理を進め、第1偏差DTの積算数を通常の第2個数n2よりも少ない第3個数n3に設定する。更に、CPUは、積算値RCに基づく失火判定のための閾値である第1閾値Th1の値も第3個数n3に応じた値に変更する。このステップS160以降の処理の流れも、図7に示した失火判定ルーチンと同様である。
【0095】
一方、エンジン11の回転速度NEが第2回転速度NE2よりも高い場合(NE>NE2)、CPUは、ステップS144において「Yes」と判定し、次のステップS146へと処理を進める。ステップS146において、CPUは、エンジン11の回転速度を、第2回転速度NE2よりも低い第3回転速度NE3まで低下させる。これにより、上述したようなエンジンにおける失火の発生に起因する問題を低減又は回避することができる。その後、CPUは、ステップS150へと処理を進め、第1偏差DTの積算数を通常の第2個数n2に設定する。このステップS150以降の処理の流れも、図7に示した失火判定ルーチンと同様である。
【0096】
〈第3装置の作動2〉
次に、第3装置によって実行される失火判定ルーチンのもう1つの例につき詳しく説明する。図9は、前述した第2装置に基づく第3装置によって実行される失火判定ルーチンにおける処理の流れの1つの例を示すフローチャートである。当該ルーチンもまた、第3装置としての機能を達成するECUを構成するCPUによって所定の短い周期にて実行される。
【0097】
図9に示す失火判定ルーチンは、ステップS140とS160との間のステップS142とステップS150との間にステップS144及びステップS146が新たに追加されている点を除き、第2装置によって実行される図7に示した失火判定ルーチンと同様である。従って、以下の説明においては、主として上記相違点について説明し、共通点についての説明は省略する。
【0098】
当該ルーチンが開始されてからステップS140に到るまでの処理の流れは、図7に示した失火判定ルーチンと同様である。ステップS140において、CPUは、エンジン11の回転速度NE、負荷L及びスロットル開度TA(第1データに基づくスロットル開度である第1開度TA1及び実際のスロットル開度である第2開度TA2)に基づいて、上述した第1条件及び第2条件の何れか一方又は両方が成立するか否かを判定する。
【0099】
第1条件及び第2条件の何れも成立しない場合、CPUは、ステップS140において「No」と判定して、次のステップS150において、第1偏差DTの積算数を通常の第2個数n2に設定する。このステップS150以降の処理の流れも、図7に示した失火判定ルーチンと同様である。一方、第1条件及び第2条件の何れか一方又は両方が成立する場合、CPUは、ステップS140において「Yes」と判定し、次のステップS142へと処理を進める。ステップS142において、CPUは、エンジン11の回転速度NEが第1回転速度NE1よりも高いか否かを判定する。
【0100】
エンジン11の回転速度NEが第1回転速度NE1以下である場合(NE≦NE1)、CPUは、ステップS142において「No」と判定し、次のステップS160へと処理を進め、第1偏差DTの積算数を通常の第2個数n2よりも少ない第3個数n3に設定する。更に、CPUは、積算値RCに基づく失火判定のための閾値である第1閾値Th1の値も第3個数n3に応じた値に変更する。このステップS160以降の処理の流れも、図6に示した失火判定ルーチンと同様である。一方、エンジン11の回転速度NEが第1回転速度NE1よりも高い場合(NE>NE1)、CPUは、ステップS142において「Yes」と判定し、新たに追加されたステップS144へと処理を進める。
【0101】
ステップS144において、CPUは、エンジン11の回転速度NEが第2回転速度NE2よりも高いか否かを判定する。エンジン11の回転速度NEが第2回転速度NE2以下である場合(NE≦NE2)、CPUは、ステップS144において「No」と判定し、次のステップS160へと処理を進め、第1偏差DTの積算数を通常の第2個数n2よりも少ない第3個数n3に設定する。更に、CPUは、積算値RCに基づく失火判定のための閾値である第1閾値Th1の値も第3個数n3に応じた値に変更する。このステップS160以降の処理の流れも、図7に示した失火判定ルーチンと同様である。
【0102】
一方、エンジン11の回転速度NEが第2回転速度NE2よりも高い場合(NE>NE2)、CPUは、ステップS144において「Yes」と判定し、次のステップS146へと処理を進める。ステップS146において、CPUは、エンジン11の回転速度を、第2回転速度NE2よりも低い第3回転速度NE3まで低下させる。これにより、上述したようなエンジンにおける失火の発生に起因する問題を低減又は回避することができる。その後、CPUは、ステップS150へと処理を進め、第1偏差DTの積算数を通常の第2個数n2に設定する。このステップS150以降の処理の流れも、図7に示した失火判定ルーチンと同様である。
【0103】
尚、図8に示す失火判定ルーチンにおいて、第2回転速度NE2は第1回転速度NE1よりも高い。従って、当該ルーチンによれば、エンジンの回転速度NEが十分に高い場合は積算値RCの算出に要する時間の長さがそもそも短いので第1偏差DTの積算数を減らさないが、エンジンの回転速度が過度に高い場合はエンジンにおける失火の発生に起因する問題が生ずる虞があるのでエンジンの回転速度NEを下げてから積算値RCが算出される。
【0104】
〈効果〉
以上説明してきたように、第3装置においては、たとえ第1条件及び/又は第2条件が成立するときであっても、エンジン11の回転速度NEが第2回転速度NE2よりも高い場合は、積算値RCを算出するために積算される第1偏差DTの数(積算数)が低減されない。しかしながら、エンジンの回転速度が十分に高いので、個々のパルス信号が検出される間隔が短いため、積算値を迅速に算出することができる。従って、第3装置によれば、温度センサを排気経路に配設すること無く、エンジンにおける失火の発生を迅速且つ正確に検出することができる。
【0105】
上記に加えて、第3装置においては、エンジン11の回転速度NEが第2回転速度NE2よりも高い場合は、積算値RCを算出する前に、エンジン11の回転速度NEが第2回転速度NE2よりも低い第3回転速度NE3まで下げられる。従って、上述したようなエンジンにおける失火の発生に起因する問題を低減又は回避することができる。
【0106】
《第4実施形態》
以下、本発明の第4実施形態に係る複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置(以降、「第4装置」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0107】
上述した第1装置乃至第3装置を始めとする種々の実施形態に係る本発明装置においては、クランク軸の所定の回転角度毎に出力されるパルス信号が検出される度に、一の気筒における燃焼から次の気筒における燃焼までの開花時間を計測し、連続する2つの経過時間の間の偏差である第1偏差を算出し、第1偏差を所定の第2個数ずつ積算して得られる積算値が所定の閾値よりも大きい場合にエンジンにおいて失火が発生したと判定する。これにより、温度センサを排気経路に配設すること無く、エンジンにおける失火の発生を正確に検出することができる。
【0108】
しかしながら、エンジンにおける失火の継続的な発生に起因するエンジンの回転変動ではなく、例えばノイズ、負荷変動、外乱(例えば、強風等)及び発生頻度の低い突発的な失火等の影響による偶発的なエンジンの回転変動により積算値が増大し、エンジンにおいて失火が発生したと判定される場合がある。このような誤判定に基づいて、例えばエンジンの停止及び警報の発報等の措置が徒に繰り返されることは望ましくない。
【0109】
〈第4装置の構成〉
そこで、第4装置104は、上述した第1装置乃至第3装置を始めとする種々の実施形態に係る本発明装置であって、図10に示すように、失火判定回数Knを算出する失火判定集計手段160と、失火判定回数Knの少なくとも何れか1つが所定の閾値である第4閾値Th4よりも大きい場合にエンジン11において失火が発生したとの判定を確定する第2判定手段170と、を更に備える、ことを特徴とする複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置である。第4閾値Th4は、エンジン11の1サイクルが経過する度に集計される各々の失火判定回数Knに基づいてエンジン11において失火が発生しているとの判定を確定するのに好適な値に設定される。このような第4閾値Th4の具体的な値は、例えば特定の気筒において失火が発生している状態にあるエンジン11の失火判定回数Knの値を測定する実験等を事前に行うことによって特定することができる。
【0110】
判定失火回数Knは、第1判定手段140によりエンジン11において失火が発生したと判定された回数をエンジン11の1つのサイクルに相当するクランク軸15の回転角度において積算値RCに対応するパルス信号Pが検出された順序毎にグループ分けしてエンジン11の複数のサイクルに相当するクランク軸15の回転角度に亘って集計することにより得られる値である。失火判定集計手段160及び第2判定手段170としての機能は、第4装置としての機能の全て又は一部を達成するECU(例えば、ENG-ECU30等)によって達成される。
【0111】
例えば、失火判定集計手段160は、エンジン11の1つのサイクルに相当するクランク軸15の回転角度においてx番目に出力(検出)されるパルス信号Pに対応する積算値RCが第1閾値Th1よりも大きい場合、失火判定回数Kxの値を「1」だけ増やす(カウントアップする)。一方、失火判定集計手段160は、エンジン11の1つのサイクルに相当するクランク軸15の回転角度においてy番目に出力(検出)されるパルス信号Pに対応する積算値RCが第1閾値Th1以下である場合、失火判定回数Kyの値を増やさず(カウントアップせず)に維持する。このようにして、失火判定集計手段160は、第1判定手段140によりエンジン11において失火が発生したと判定された回数をエンジン11の1つのサイクルに相当するクランク軸15の回転角度において積算値RCに対応するパルス信号Pが検出された順序毎にグループ分けしてエンジン11の複数のサイクルに相当するクランク軸15の回転角度に亘って集計することにより、判定失火回数Knを算出することができる。
【0112】
尚、図1に示したエンジン11においては、上述したように、クランク軸15が所定角度DN(30°)だけ回転する度にパルス信号Pが出力される。従って、エンジン11の1つのサイクルに相当するクランク軸15の回転角度(360°×2=720°)において24個(720°/30°=24)のパルス信号Pが出力(検出)され、それぞれのパルス信号Pに対応する24個の積算値RCが算出される。従って、この場合、エンジン11の1つのサイクルにおいて1番目から24番目に出力(検出)されるパルス信号Pに対応する24個の失火判定回数Kn(n=1~24)がそれぞれ集計される。換言すれば、一のパルス信号Pに対応して特定の失火判定回数Knが更新された場合、当該失火判定回数Knが次に更新されるのは1サイクル(クランク軸15の2回転=720°)後の時点となる。
【0113】
また、失火判定集計手段160は、上記のようにして得られる失火判定回数Knをエンジン11の複数のサイクルに相当するクランク軸15の回転角度に亘って集計した後に、全ての失火判定回数Knの値を一旦0(ゼロ)に戻す(クリアする)。従って、例えば、失火判定集計手段160によってエンジン11の10サイクル(240個のパルス信号P)に亘って失火判定回数Knが集計される場合、失火判定回数Knの値は、最大でも失火判定回数Knが集計されるサイクル数に等しい値(即ち、10)となる。
【0114】
上記の結果、エンジン11が高速低負荷状態において運転されている場合においても、特定の気筒12において失火が継続的に発生している場合は、1サイクル(クランク軸15の2回転=720°)毎に発生する回転変動により、複数のサイクルに亘って集計される失火判定回数Knのうち該当する気筒12に対応する失火判定回数Knが漸増する。従って、第4装置によれば、特定の気筒12における失火の発生回数を顕在化させて、失火が発生している気筒12を特定することができる。
【0115】
図11は、第4装置が備える失火判定集計手段によって算出(集計)される失火判定回数Kn(n=1~24)のパルス信号Pの検出数CNTの増加に伴う推移の一例を示す模式的なグラフである。パルス信号Pの検出数CNTは、エンジン11の所定のサイクル数に相当する数まで計数される度(上述した例においては、パルス信号Pの検出数が「240」に到達する度)に「1」に戻される。尚、図11に示すグラフは、便宜上、連続関数的に描かれているが、実際にはエンジン11の1サイクルが経過する度に全ての失火判定回数Kn(n=1~24)がそれぞれ個別に更新される。
【0116】
図11に示す例においては、検出数CNTが「24」の倍数付近となるタイミングにおいて対応する失火判定回数Knが著しく増加している。これにより、当該タイミングに相関して燃焼行程にある気筒12において頻繁に失火が発生していることが推定される。
【0117】
第2判定手段170は、各々の失火判定回数Kn(n=1~24)を更新する度に、当該失火判定回数Knと第4閾値Th4との大小関係を判定し、失火判定回数Knの少なくとも何れか1つが所定の閾値である第4閾値Th4よりも大きい場合にエンジン11において失火が発生したとの判定を確定する。このように失火判定回数Knを利用してエンジン11において失火が発生したとの判定を確定することにより、例えば外乱等に起因して積算値DTが第1閾値Th1を超える度にエンジン11において失火が発生したとの誤判定が下されることを回避することができる。更に、第4閾値Th4よりも大きい失火判定回数Knに対応するパルス信号Pが出力されたタイミング(クランク軸15の回転角度)に基づいて、失火が発生している気筒12を特定することもできる。
【0118】
一方、失火判定回数Knの何れもが第4閾値Th4以下である場合、第2判定手段170は、エンジン11において失火が発生していないとの判定を確定する。そして、第2判定手段170は、全ての失火判定回数Knについてエンジン11において失火が発生しているとの判定が確定されること無くエンジン11の所定のサイクル数に亘る失火判定回数Knの集計が完了すると、全ての失火判定回数Kn(n=1~24)を一旦0(ゼロ)に戻して(クリアして)、改めて各々の失火判定回数Knの集計を開始する。
【0119】
〈第4装置の作動〉
ここで、以上説明してきた第4装置によって実行される失火確定ルーチンにつき詳しく説明する。図12は、前述した第1装置に基づく第4装置によって実行される失火確定ルーチンにおける処理の流れの一例を示すフローチャートである。尚、当該ルーチンは、第4装置としての機能を達成するECUを構成するCPUによって所定の短い周期にて実行される。
【0120】
尚、図12に示す失火確定ルーチンは、ステップS180以降の処理の流れが、ステップS190において失火の発生を判定するか否かであったのに対し、ステップS210乃至S270において失火判定回数Knを算出して失火の発生を確定するか否かに変更されている点を除き、第1装置によって実行される図6に示した失火判定ルーチンと同様である。従って、以下の説明においては、主として上記相違点について説明し、共通点についての説明は省略する。
【0121】
当該ルーチンが開始されてからステップS180に到るまでの処理の流れは、図6に示した失火判定ルーチンと同様である。ステップS180において、CPUは、前のステップS170において算出された積算値RCが第1閾値Th1よりも大きいか否かを判定する。積算値RCが第1閾値Th1よりも大きい場合、CPUは、ステップS180において「Yes」と判定し、次のステップS210へと処理を進め、対応する判定失火回数Knの値を「1」だけ増やす(カウントアップする)。一方、積算値RCが第1閾値Th1以下である場合、CPUは、ステップS180において「No」と判定し、次のステップS220へと処理を進め、対応する判定失火回数Knの値を増やさず(カウントアップせず)に維持する。
【0122】
次に、CPUは、ステップS230へと処理を進め、上記のようにして更新された判定失火回数Knが第4閾値Th4よりも大きいか否かを判定する。判定失火回数Knが第4閾値Th4よりも大きい場合、CPUは、ステップS230において「Yes」と判定し、次のステップS240へと処理を進め、エンジン11において失火が発生しているとの判定を確定し、当該ルーチンを一旦終了する。一方、判定失火回数Knが第4閾値Th4以下である場合、CPUは、ステップS230において「No」と判定し、次のステップS250へと処理を進め、この時点におけるパルス信号Pの検出数CNTがエンジン11の所定のサイクル数に相当する数であるCNTmax(上述した例においては、CNTmax=240)に到達しているか否かを判定する。
【0123】
パルス信号Pの検出数CNTがCNTmaxに到達している場合、CPUは、ステップS250において「Yes」と判定し、次のステップS260へと処理を進め、検出数CNTを「1」に戻し、エンジン11の1つのサイクルに相当するクランク軸15の回転角度(720°)において積算値RCに対応するパルス信号Pが検出された順序を示すnを「1」に戻す。更に、全ての失火判定回数Knの値を一旦0(ゼロ)に戻し(クリアし)、当該ルーチンを一旦終了する。
【0124】
一方、パルス信号Pの検出数CNTがCNTmaxに未だ到達していない場合、CPUは、ステップS250において「No」と判定し、次のステップS270へと処理を進め、上述した検出数CNT及び順序nの値をそれぞれ「1」だけ増やし(カウントアップし)、当該ルーチンを一旦終了する。但し、上述したように、「n」はエンジン11の1つのサイクルに相当するクランク軸15の回転角度(720°)において積算値RCに対応するパルス信号Pが検出された順序を示す。従って、この場合におけるnの最大値は24であり、24に到達しているnの値はステップS270において「1」に更新される。
【0125】
尚、図12においては前述した第1装置に基づく構成を有する第4装置によって実行される失火確定ルーチンを例示したが、第4装置は、前述した第2装置及び第3装置を始めとする種々の実施形態に係る本発明装置に基づく構成を有することができる。このような第4装置によって実行される失火確定ルーチンの具体例としては、例えば、図7乃至図9に示した第2装置乃至第3装置によって実行される失火判定ルーチンにおけるステップS180以降の処理の流れがステップS210乃至S270において失火判定回数Knを算出して失火の発生を確定するか否かに変更されているルーチン等を挙げることができる。
【0126】
〈効果〉
以上説明してきたように、第4装置においては、第1判定手段140によりエンジン11において失火が発生したと判定された積算値RCの数をエンジン11の1つのサイクルに相当するクランク軸15の回転角度においてパルス信号Pが検出された順序毎にグループ分けして複数のサイクルに亘って集計することにより得られる失火判定回数Knの何れかが第4閾値Th4よりも大きい場合にエンジン11において失火が発生したとの判定を確定する。
【0127】
上記により、エンジン11における失火の継続的な発生に起因するエンジン11の回転変動ではなく、例えばノイズ、負荷変動、外乱(例えば、強風等)及び発生頻度の低い突発的な失火等の影響による偶発的なエンジン11の回転変動により積算値RCが増大し、エンジン11において失火が発生したと判定される可能性を低減することができる。その結果、このような誤判定に基づいて、例えばエンジン11の停止及び警報の発報等の措置が徒に繰り返されることを回避することができる。
【0128】
〈第4装置の変形例〉
例えば排気温度の過剰な上昇による排気浄化触媒の焼損及び/又はエンジンの回転速度の変動に伴う異常振動の発生等、エンジンにおける失火の発生に起因する問題を低減又は回避する観点からは、第4装置によってエンジン11において失火が発生しているとの判定が確定された場合、例えばエンジン11の停止及び警報の発報等の措置が速やかに実行されることが望ましい。より好ましくは、第4装置によってエンジン11において失火が発生しているとの判定が確定された場合は、エンジン11が可及的速やかに停止されるべきである。
【0129】
そこで、1つの変形例に係る第4装置は、上述した第4装置であって、第2判定手段によりエンジン11において失火が発生したとの判定が確定された場合にエンジン11を停止させる停止手段を更に備えることを特徴とする複数気筒4ストロークエンジンの失火判定装置である。
【0130】
上記「停止手段」の構成は、エンジン11を速やかに停止させることが可能である限り特に限定されない。停止手段の具体例としては、例えば、エンジン11が備える全ての気筒12への燃料の供給を遮断することができるように構成された手段をあげることができる。
【0131】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施形態及び変形例につき、時に添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施形態及び変形例に限定されると解釈されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることが可能であることは言うまでも無い。
【符号の説明】
【0132】
11…エンジン、12,12a~12d…気筒、15…クランク軸、30…ECU(電子制御装置)、34…クランクポジションセンサ、101…本発明装置(第1装置)、104…本発明装置(第4装置)、110…計時手段、120…偏差算出手段、130…積算値算出手段、140…第1判定手段、150…データ記憶手段、160…失火判定集計手段、及び170…第2判定手段。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12