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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】円すいころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/66 20060101AFI20230502BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20230502BHJP
   F16C 33/46 20060101ALI20230502BHJP
   F16C 33/34 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
F16C33/66 Z
F16C19/36
F16C33/46
F16C33/34
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019153915
(22)【出願日】2019-08-26
(65)【公開番号】P2021032354
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】前佛 誠
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-183804(JP,A)
【文献】特開2017-166641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外輪軌道面を有する外輪と、外周面に内輪軌道面を有する内輪と、前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動可能に設けられる複数の円すいころと、前記複数の円すいころを周方向に略等間隔に保持する保持器と、を備え、
前記保持器は、大径側円環部と、前記大径側円環部と同軸に配置される小径側円環部と、前記大径側円環部と前記小径側円環部とを軸方向に連結し、周方向に略等間隔に設けられる複数の柱部と、周方向に互いに隣り合う前記柱部間に形成され、前記円すいころを転動可能に保持するポケットと、を有する円すいころ軸受であって、
前記保持器は、前記小径側円環部の軸方向内端面と前記円すいころの小径側端面との間に第1隙間を有すると共に、前記大径側円環部の軸方向内端面と前記円すいころの大径側端面との間に第2隙間を有し、
前記第1隙間及び前記第2隙間の寸法は、0.3mm以下にそれぞれ設定され、
前記大径側円環部の軸方向内端面には、潤滑油を蓄える油溝が少なくとも1つ設けられ、
前記油溝は、前記円すいころの大径側端面と前記大径側円環部の軸方向内端面とが前記円すいころの長手方向において重なり合う領域に収まるように設けられ
前記円すいころの大径側端面は、前記大径側端面の中心部に形成される円形状の凹部と、前記凹部の周囲に設けられ、前記大径側円環部の軸方向内端面と接触可能な円環状の接触面と、を有し、
前記油溝は、前記円環状の接触面と前記大径側円環部の軸方向内端面とが前記円すいころの長手方向において重なり合う領域に収まるように設けられることを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項2】
前記油溝は、前記大径側円環部の周方向に沿った環状扇形状に形成されることを特徴とする請求項1に記載の円すいころ軸受。
【請求項3】
前記油溝の長手方向両端辺である一対の端部連結辺は、前記円すいころの前記円環状の接触面の外周縁に倣った円弧形状に形成されることを特徴とする請求項2に記載の円すいころ軸受。
【請求項4】
前記油溝は、前記円すいころの前記円環状の接触面に沿った環状扇形状に形成されることを特徴とする請求項1に記載の円すいころ軸受。
【請求項5】
前記保持器の前記大径側円環部の軸方向内端面において前記円すいころの前記凹部と前記円すいころの長手方向において重なる位置に、潤滑油を蓄える油貯蓄凹部が形成されることを特徴とする請求項4に記載の円すいころ軸受。
【請求項6】
前記大径側円環部の軸方向内端面が凹球面状に形成され、前記円すいころの大径側端面が凸球面状に形成され、
前記大径側円環部の軸方向内端面の凹球面状の曲率半径SRyは、前記円すいころの大径側端面の凸球面状の曲率半径Raの±10%以内に設定されることを特徴とする請求項1に記載の円すいころ軸受。
【請求項7】
潤滑油が軸受内部に断続的に供給される、或いは、軸受内部の潤滑油が微量である潤滑環境下で使用されることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の円すいころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円すいころ軸受に関し、特に、軸受内部に潤滑油が供給される円すいころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、一部のハイブリッド車のトランスミッションのように、エンジン停止時に潤滑油ポンプを停止する機構が登場しており、軸受の焼付き問題を生じさせやすい。また、自動車の被牽引時には潤滑油ポンプが作動せずにタイヤが空転するため、トランスミッション内の軸受に焼付きが生じることがある。このため、潤滑油の供給が断続的である潤滑環境下、或いは、潤滑油が微量である潤滑環境下であったとしても焼付きを防止することができる軸受が求められている。
【0003】
従来の円すいころ軸受100として、図16図19に示すように、内周面に外輪軌道面111aを有する外輪111と、外周面に内輪軌道面112aを有する内輪112と、外輪軌道面111aと内輪軌道面112aとの間に転動可能に設けられる複数の円すいころ113と、複数の円すいころ113を周方向に略等間隔に保持する保持器114と、を備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、保持器114は、大径側円環部115と、大径側円環部115と同軸配置される小径側円環部116と、大径側円環部115と小径側円環部116とを軸方向で連結し、周方向に略等間隔に設けられる複数の柱部117と、周方向に互いに隣り合う柱部117間で、大径側円環部115及び小径側円環部116により囲まれて形成され、円すいころ113を転動可能に保持するポケット118と、を有する。また、円すいころ113は、円すいころ113の周面に設けられる転動面113aと、円すいころ113の大径側端部に設けられる大径側端面113bと、円すいころ113の小径側端部に設けられる小径側端面113cと、を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6354242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そして、上記特許文献1に記載の円すいころ軸受100では、保持器114の大径側円環部115の軸方向内端面115aに、円周方向に沿った1つの油溝120が形成され、油溝120の内部に蓄えられる潤滑油量を多くするために、この油溝120の径方向幅が大径側円環部115の径方向幅の1/3に設定されている。つまり、例えば、大径側円環部115の径方向幅が9mmの場合、油溝120の径方向幅は3mmとなる。この場合、油溝120の単体で毛細管現象を発生させて潤滑油を保持することができないため、上記特許文献1に記載されているように、円すいころ113で油溝120に蓋をする必要があった。
【0007】
しかしながら、図16に示すように、保持器114が円すいころ113の大径側に軸方向に移動した場合、円すいころ113の大径側端面113bと大径側円環部115の軸方向内端面115aとの間の隙間が大きくなって、毛細管現象が働かずに油溝120から潤滑油が漏れ出てしまっていた。
【0008】
さらに、上記特許文献1の図面では、円すいころの大径側端面が平面状に記載されているが、図16図18に示すように、円すいころ113の大径側端面113bが凸球面状に形成されると共に、大径側端面113bの中心部に凹部113dが形成されている場合がある。このような円すいころ113では、例え、円すいころ113と保持器114との間の軸方向の隙間を小さくしたとしても、円すいころ113の凹部113dと油溝120が重なり合う部分の隙間SP(図19参照)から潤滑油が漏れ出てしまっていた。
【0009】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、油溝から潤滑油が漏れ出ることを抑制することができ、潤滑油の供給が断続的である潤滑環境下、或いは、潤滑油が微量である潤滑環境下であったとしても焼付きを防止することができる円すいころ軸受を提供することにある。
【0010】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)内周面に外輪軌道面を有する外輪と、外周面に内輪軌道面を有する内輪と、前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動可能に設けられる複数の円すいころと、前記複数の円すいころを周方向に略等間隔に保持する保持器と、を備え、前記保持器は、大径側円環部と、前記大径側円環部と同軸に配置される小径側円環部と、前記大径側円環部と前記小径側円環部とを軸方向に連結し、周方向に略等間隔に設けられる複数の柱部と、周方向に互いに隣り合う前記柱部間に形成され、前記円すいころを転動可能に保持するポケットと、を有する円すいころ軸受であって、前記保持器は、前記小径側円環部の軸方向内端面と前記円すいころの小径側端面との間に第1隙間を有すると共に、前記大径側円環部の軸方向内端面と前記円すいころの大径側端面との間に第2隙間を有し、前記第1隙間及び前記第2隙間の寸法は、0.3mm以下にそれぞれ設定され、前記大径側円環部の軸方向内端面には、潤滑油を蓄える油溝が少なくとも1つ設けられ、前記油溝は、前記円すいころの大径側端面と前記大径側円環部の軸方向内端面とが前記円すいころの長手方向において重なり合う領域に収まるように設けられることを特徴とする円すいころ軸受。
(2)前記円すいころの大径側端面は、前記大径側端面の中心部に形成される円形状の凹部と、前記凹部の周囲に設けられ、前記大径側円環部の軸方向内端面と接触可能な円環状の接触面と、を有し、前記油溝は、前記円環状の接触面と前記大径側円環部の軸方向内端面とが前記円すいころの長手方向において重なり合う領域に収まるように設けられることを特徴とする(1)に記載の円すいころ軸受。
(3)前記油溝は、前記大径側円環部の周方向に沿った環状扇形状に形成されることを特徴とする(2)に記載の円すいころ軸受。
(4)前記油溝の長手方向両端辺である一対の端部連結辺は、前記円すいころの前記円環状の接触面の外周縁に倣った円弧形状に形成されることを特徴とする(3)に記載の円すいころ軸受。
(5)前記油溝は、前記円すいころの前記円環状の接触面に沿った環状扇形状に形成されることを特徴とする(2)に記載の円すいころ軸受。
(6)前記保持器の前記大径側円環部の軸方向内端面において前記円すいころの前記凹部と前記円すいころの長手方向において重なる位置に、潤滑油を蓄える油貯蓄凹部が形成されることを特徴とする(5)に記載の円すいころ軸受。
(7)前記大径側円環部の軸方向内端面が凹球面状に形成され、前記円すいころの大径側端面が凸球面状に形成され、前記大径側円環部の軸方向内端面の凹球面状の曲率半径SRyは、前記円すいころの大径側端面の凸球面状の曲率半径Raの±10%以内に設定されることを特徴とする(1)に記載の円すいころ軸受。
(8)潤滑油が軸受内部に断続的に供給される、或いは、軸受内部の潤滑油が微量である潤滑環境下で使用されることを特徴とする(1)~(7)のいずれか1つに記載の円すいころ軸受。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、保持器の大径側円環部の軸方向内端面に、潤滑油を蓄える油溝が設けられるため、軸受に潤滑油が供給されず軸受内の潤滑油が微量になったとしても、油溝に蓄えられた潤滑油が円すいころの大径側端面に供給される。このため、潤滑油の供給が断続的である潤滑環境下、或いは、潤滑油が微量である潤滑環境下であったとしても軸受の焼付きを防止することができる。また、油溝が、円すいころの大径側端面と保持器の大径側円環部の軸方向内端面とが円すいころの長手方向において重なり合う領域に収まるように設けられるため、油溝に円すいころの大径側端面により蓋がされる。このため、油溝から潤滑油が漏れ出ることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る円すいころ軸受の一実施形態を説明する断面図である。
図2】保持器と円すいころを径方向外側から見た平面図である。
図3図1に示す保持器を径方向内側から見た模式図である。
図4】油溝と円すいころの大径側端面との位置関係を示す模式図である。
図5】保持器の第1変形例を説明する模式図である。
図6】保持器の第2変形例を説明する模式図である。
図7】保持器の第3変形例を説明する模式図である。
図8】保持器の第4変形例を説明する模式図である。
図9】保持器の第5変形例を説明する模式図である。
図10】保持器の第6変形例を説明する模式図である。
図11】保持器の第7変形例を説明する断面図である。
図12】第7変形例の保持器の図4に対応する模式図である。
図13】保持器の第8変形例を説明する断面図である。
図14】潤滑油ポンプによる軸受への給油を説明する断面図である。
図15】歯車の跳ね掛けによる軸受への給油を説明する断面図である。
図16】従来の円すいころ軸受において、保持器が円すいころの大径側に軸方向に移動したときを説明する断面図である。
図17図16に示す保持器が円すいころの小径側に軸方向に移動したときを説明する断面図である。
図18図16に示す保持器と円すいころを径方向外側から見た平面図である。
図19図16に示す油溝と円すいころの大径側端面との接触位置関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る円すいころ軸受の一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
本実施形態の円すいころ軸受10は、図1に示すように、内周面に外輪軌道面11aを有する外輪11と、外周面に内輪軌道面12aを有する内輪12と、外輪軌道面11aと内輪軌道面12aとの間に転動可能に設けられる複数の円すいころ13と、複数の円すいころ13を周方向に略等間隔に保持する保持器14と、を備える。なお、本実施形態では、ハウジングH(図14参照)の内部を循環する潤滑油が、潤滑油ポンプP(図14参照)などにより軸受内部に適宜供給される。
【0015】
内輪12は、内輪12の大径側端部に設けられる大鍔部12bと、内輪12の小径側端部に設けられる小鍔部12cと、を有する。内輪12の外周面は、略円すい状に形成されている。
【0016】
円すいころ13は、円すいころ13の周面に設けられる転動面13aと、円すいころ13の大径側端部に設けられる大径側端面13bと、円すいころ13の小径側端部に設けられる小径側端面13cと、を有する。また、大径側端面13bは、曲率半径Raの凸球面状に形成されており、その中心部に円形状の凹部13dが形成されている。上記凸球面の中心は、円すいころ13の自転軸上に位置している。
【0017】
保持器14は、合成樹脂製であり、アキシアルドローにより射出成形されており、大径側円環部15と、大径側円環部15と同軸配置される小径側円環部16と、大径側円環部15と小径側円環部16とを軸方向で連結し、周方向に略等間隔に設けられる複数の柱部17と、周方向に互いに隣り合う柱部17間で、大径側円環部15及び小径側円環部16により囲まれて形成され、円すいころ13を転動可能に保持するポケット18と、を有する。
【0018】
また、保持器14は、保持器14の小径側円環部16の軸方向内端面16aと円すいころ13の小径側端面13cとの間に第1隙間S1を有する。また、保持器14は、保持器14の大径側円環部15の軸方向内端面15aと円すいころ13の大径側端面13bとの間に第2隙間S2を有する。また、本実施形態では、第1隙間S1のころ軸方向寸法D1及び第2隙間S2のころ軸方向寸法D2は、0.3mm以下にそれぞれ設定されている。なお、ころ軸方向寸法D1,D2は、円すいころ13の中心軸(自転軸)方向に沿った寸法である。
【0019】
また、保持器14の大径側円環部15の軸方向内端面(以下、単に「ポケット面」とも言う)15aの表面は、粗く形成されており、具体的なポケット面15aの表面粗さ(算術平均粗さ)は3μm~20μmに設定される。
【0020】
そして、大径側円環部15のポケット面15aの粗さは、後述する油溝20が蓄えた潤滑油を円すいころ13に導くように機能する。これにより、ポケット面15aの保油能力及び給油能力を高めることができる。また、後述する油溝20の内面も保油能力を高めるために粗く形成されていた方が好ましい。また、ポケット面15aが保持器成形時の型抜き方向に対してほぼ垂直なため、ポケット面15aを粗く形成したとしても、成形後の離型の際に支障になることはない。なお、ポケット面15aの表面粗さは、全てのポケット18に対して設定してもよいし、一部のポケット18に対して設定してもよい。
【0021】
大径側円環部15のポケット面15aは、曲率半径SRyの凹球面状に形成されている。そして、ポケット面15aの凹球面状の曲率半径SRyは、円すいころ13の大径側端面13bの凸球面状の曲率半径Raの±10%以内に設定されている(0.9Ra≦SRy≦1.1Ra)。これにより、ポケット面15aと円すいころ13の大径側端面13bとの密着度合いが向上するため、高い保油及び給油効果を得ることができる。しかしながら、SRyをRaに一致(SRy=Ra)させて全面当りにしてしまうと、摩擦抵抗が増加してしまうため、僅かに曲率半径をずらして完全密着させない状態が最適である。
【0022】
また、図1図4に示すように、保持器14の大径側円環部15のポケット面15aには、潤滑油を蓄える1つの油溝20が形成されている。そして、油溝20は、有底溝であり、それぞれのポケット18において、大径側円環部15の周方向に沿った環状扇形状に形成されている。なお、油溝20は、全てのポケット18に対して設けられてもよいし、一部のポケット18に対して設けられてもよい。また、油溝20は、1つに限定されず2つ以上であってもよい。
【0023】
図4は、油溝20と円すいころ13の大径側端面13bとの位置関係を示す模式図である。円すいころ13の大径側端面13bは、大径側端面13bの中心部に形成される円形状の凹部13dと、凹部13dの周囲に設けられ、ポケット面15aと接触可能な円環状の接触面13eと、を有する。そして、油溝20は、円すいころ13の大径側端面13bとポケット面15aとが円すいころ13の長手方向において重なり合う領域(円すいころ13の長手方向に見たときに重なり合う領域)に収まるように設けられる。より詳細には、油溝20は、円環状の接触面13eとポケット面15aとが円すいころ13の長手方向において重なり合う領域に収まるように設けられる。これにより、油溝20に円すいころ13の円環状の接触面13e(大径側端面13b)により蓋がされるため、油溝20から潤滑油が漏れ出ることを抑制することが可能となる。
【0024】
また、本実施形態の凹部13dの直径は、一般的な円すいころの凹部よりも小さく形成されている。換言すると、本実施形態の凹部13dの直径は、保持器14の径方向の動き量を含めて凹部13dと油溝20とが円すいころ13の長手方向において重なり合わないような寸法に設定されている。
【0025】
また、図4に示すように、本実施形態では、油溝20は環状扇形状に形成されており、油溝20の長手方向両端辺である一対の端部連結辺21は、円すいころ13の円環状の接触面13eの外周縁に倣った円弧形状に形成されている。これにより、油溝20の潤滑油を蓄える容量を増やすことができる。また、アキシアルドローにより成形される油溝20は、射出成形時に成形金型が移動(離型)する方向である、保持器14の中心軸と同じ方向(軸方向)に延在している。
【0026】
保持器14は、合成樹脂製であり、例えば、アキシアルドローにより射出成形可能である。大径側円環部15のポケット面15aの表面粗さ及び油溝20もこの射出成形により同時に形成可能である。この場合、加工工程の追加、二色成形(ダブルモールド)のような特殊な成形、及び別途製作した保油部材の接着などが不要である。従って、製造コストをほぼ増大させることなく、耐焼付き性を向上することができる。
【0027】
また、保持器14の材料としては、特に制限はなく、例えば、ナイロンなどの一般的な保持器樹脂材を挙げることができる。なお、保持器14の合成樹脂に強化剤として繊維を含有させてもよい。
【0028】
以上説明したように、本実施形態の円すいころ軸受10によれば、保持器14の大径側円環部15のポケット面15aに、潤滑油を蓄える油溝20が設けられるため、軸受10に潤滑油が供給されず軸受10内の潤滑油が微量になったとしても、油溝20に蓄えられた潤滑油が円すいころ13の大径側端面13bに供給される。このため、潤滑油の供給が断続的である潤滑環境下、或いは、潤滑油が微量である潤滑環境下であったとしても軸受10の焼付きを防止することができる。また、油溝20が、円すいころ13の円環状の接触面13eとポケット面15aとが円すいころ13の長手方向において重なり合う領域に収まるように設けられるため、油溝20に円すいころ13の円環状の接触面13eにより蓋がされる。このため、油溝20から潤滑油が漏れ出ることを抑制することができる。
【0029】
また、本実施形態の円すいころ軸受10によれば、油溝20が周方向に沿って形成され、軸受回転時の遠心力の作用方向と油溝20の形成方向が直交するため、油溝20に収容される潤滑油が遠心力により飛散するのを抑制することができる。
【0030】
また、本実施形態の円すいころ軸受10によれば、潤滑油量を大幅に減らすことができるので、潤滑油の攪拌抵抗を低減することができる。また、例えば、歯車による跳ね掛けなどによって潤滑油を微量でも供給できる構造(図15参照)とすれば、潤滑油ポンプや給油路を廃止することもでき、これにより、潤滑システム全体の軽量コンパクト化、低コスト化を図ることができる。
【0031】
また、本実施形態の円すいころ軸受10によれば、潤滑油が軸受内に断続的に供給される、或いは、軸受内の潤滑油が微量である潤滑環境下でも、焼付きを防止して軸受性能や潤滑効果を長期間に亘って維持することができる。このため、本実施形態の円すいころ軸受10は、例えば、一部のハイブリッド車のトランスミッションのようにエンジン停止時に潤滑油ポンプが一時的に停止する機構に好適に用いることができ、また、自動車の被牽引時に潤滑油ポンプが作動せずに潤滑油の十分な供給が困難な状況などに対応することができる。
【0032】
ここで、本明細書における潤滑油が微量である潤滑環境下について説明する。例えば、自動車などのトランスミッションの場合、潤滑油の供給方法として、図14に示す潤滑油ポンプPによる潤滑油の圧送と、図15に示す歯車Gによる潤滑油の跳ね掛けとの2通りが一般的に知られている。
【0033】
潤滑油ポンプPにより潤滑油を圧送する構造としては、図14に示すように、円すいころ軸受10の外輪11がハウジングHに内嵌され、内輪12が回転軸Aに外嵌されており、ハウジングHに軸受10に連通する給油路Rが設けられ、この給油路Rに潤滑油ポンプPが接続される構造が一般的に知られている。この構造の場合、潤滑油ポンプPから圧送された潤滑油が給油路Rを介して軸受10に供給される。
【0034】
また、歯車Gにより潤滑油を跳ね掛ける構造としては、図15に示すように、円すいころ軸受10の外輪11がハウジングHに内嵌され、内輪12が回転軸Aに外嵌されており、回転軸Aに内輪12と隣接して歯車Gが設けられる構造が一般的に知られている。この構造の場合、歯車Gに付着している潤滑油が軸回転に伴う遠心力により飛散し、飛散した潤滑油が軸受10に付着して給油される。
【0035】
上記した2通りの構造では、軸受の焼付きを防止するため、50cc/minから1000cc/min程度の潤滑油量が供給されている。そして、この潤滑油量が10cc/minを下回ると潤滑油不足に伴う油膜不足により発熱や焼付きが起こりやすくなり、0cc/min(無潤滑油)では焼付きが生じる。本発明は、無潤滑状態ではなく希薄潤滑状態への対応であり、潤滑油が微量である潤滑環境下、具体的には、0.01cc/min~10cc/min程度の希薄潤滑状態で大きな効果を発揮する。
【0036】
次に、本明細書における潤滑油が断続的に供給される環境について説明する。例えば、ハイブリッド車では、エンジンを停止したまま電動モータで走行するモードがある。このモード中は、エンジンと直結した潤滑油ポンプだけの構造では、軸受に潤滑油が給油されない状態で走行が行われる。このため、数分程度までの無給油走行状態が発生するが、軸受はこの間に焼付きを起こしてはならない。この電動走行時間はバッテリーの進化と共に延長させたいニーズがある。現状では焼付き防止のために一定間隔毎にエンジンを回し、潤滑油ポンプを作動させる制御を行っている車種もある。この課題を解決するには、電動潤滑油ポンプをシステムに追加するか、本発明のような無潤滑で焼付きにくい軸受の採用が必要となる。本発明では、焼付きまでの時間は油溝に蓄えられる潤滑油量と関連があることから、潤滑油量を増やすことで無潤滑適用時間を数十分から数時間と大幅に延長させることが可能である。潤滑油量の拡大には、例えば、油溝の数の増加や油溝深さの拡大で対応できる。
【0037】
また、乗用車は、故障時やキャンピングカーなどの大型車両での移動先での補助用車両として牽引されることがある。このようなときは、車両の駆動輪を台車などに載せることで空転を防止することが可能であるが、現実には、駆動輪を空転させながら牽引される事例が起こっている。この場合、駆動伝達はなく無負荷空転のため軸受の負担も軽微であるが、円すいころ軸受の場合、一般的に予圧をかけて使用されるため、予圧分の負荷が常に作用している。そして、この空転状態では、エンジンや電動潤滑油ポンプが稼働せず、潤滑油ポンプは停止しているため、軸受は焼付きを起こしやすい。この対策のために、跳ね掛け給油が起こるように駆動装置に工夫を施している車種もある。本発明では、潤滑油ポンプが停止しても、油溝に蓄えられた潤滑油がなくなるまで軸受に給油を行えるため、跳ね掛けが不十分又は跳ね掛けがないような被牽引状態でも耐焼付き性を大幅に向上することができる。
【0038】
また、極寒環境での始動時には、潤滑油が凍結し、潤滑油ポンプによる給油も跳ね掛けによる給油も起こらない現象が一時的に発生する。この場合は、凍結した潤滑油が温まって溶けるまでの間、軸受自身に付着していた僅かな油分で潤滑を賄わなければならない。そして、本発明では、凍結した潤滑油が油溝に蓄えられているため、軸受の発熱に伴い徐々に溶けながら潤滑するため、耐焼付き性を飛躍的に向上することができる。
【0039】
次に、本実施形態の第1変形例として、図5に示すように、油溝20の一対の端部連結辺21を径方向に沿った直線形状に形成してもよい。
【0040】
また、本実施形態の第2変形例として、図6に示すように、油溝20の一対の端部連結辺21を半円形状に形成してもよい。
【0041】
また、本実施形態の第3変形例として、図7に示すように、油溝20の外径側側面を大径側円環部15の外周面に接近させることにより、油溝20の周方向中間部分の径方向幅D3を大きくしてもよい(略三日月状に形成)。これにより、油溝20の潤滑油を蓄える容量を更に増やすことができる。なお、油溝20の径方向幅D3は、油溝20の延在方向と直交する方向の幅である。
【0042】
また、本実施形態の第4変形例として、図8に示すように、円すいころ13の大径側端面13bに凹部13dを形成しなくてもよい。
【0043】
また、本実施形態の第5変形例として、図9に示すように、油溝20の一対の端部連結辺21の内径側の角部に円弧状の面取りRxを施してもよい。
【0044】
また、本実施形態の第6変形例として、図10に示すように、油溝20の一対の端部連結辺21の内径側の角部に直線状の面取りCxを施してもよい。
【0045】
また、本実施形態の第7変形例として、図11及び図12に示すように、油溝20を円すいころ13の円環状の接触面13eに沿った環状扇形状に形成してもよい。また、本変形例では、保持器14のポケット面15aにおいて円すいころ13の凹部13dと円すいころ13の長手方向において重なる位置に、潤滑油を蓄える半円形状の油貯蓄凹部30が形成されている。この油貯蓄凹部30は、凹部13dよりも小さく形成されている。また、油貯蓄凹部30は、大径側円環部15の内周面にも開口している。本変形例によれば、油溝20に加えて油貯蓄凹部30に蓄えた潤滑油により、瞬間的な潤滑油不足に大量の潤滑油を供給することができ、軸受10の耐焼付き性を更に向上することができる。さらに、本実施形態の第8変形例として、図13に示すように、油貯蓄凹部30は、凹部13dよりも大きく形成されてもよい。
【0046】
なお、本発明は、上記実施形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0047】
10 円すいころ軸受
11 外輪
11a 外輪軌道面
12 内輪
12a 内輪軌道面
13 円すいころ
13a 転動面
13b 大径側端面
13c 小径側端面
13d 凹部
13e 円環状の接触面
14 保持器
15 大径側円環部
15a 軸方向内端面(ポケット面)
16 小径側円環部
16a 軸方向内端面
17 柱部
18 ポケット
20 油溝
21 端部連結辺
30 油貯蓄凹部
S1 第1隙間
S2 第2隙間
D1 第1隙間のころ軸方向寸法
D2 第2隙間のころ軸方向寸法
Ra 円すいころの大径側端面の曲率半径
SRy ポケット面の曲率半径
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