(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】コネクタ用端子材
(51)【国際特許分類】
C25D 5/50 20060101AFI20230502BHJP
C25D 5/12 20060101ALI20230502BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20230502BHJP
H01R 13/03 20060101ALI20230502BHJP
C22C 9/00 20060101ALN20230502BHJP
【FI】
C25D5/50
C25D5/12
C25D7/00 H
H01R13/03 D
C22C9/00
(21)【出願番号】P 2019181011
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 直輝
(72)【発明者】
【氏名】牧 一誠
(72)【発明者】
【氏名】船木 真一
(72)【発明者】
【氏名】石川 誠一
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-056424(JP,A)
【文献】特開2010-168598(JP,A)
【文献】国際公開第2018/135482(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面がCu又はCu合金からなる基材の上に、Ni又はNi合金からなるNi層が形成され、該Ni層の上にCu
6Sn
5を有するCu-Sn金属間化合物層が形成され、該Cu-Sn金属間化合物層の上にSn又はSn合金からなるSn層が形成されており、
前記Ni層の厚さが0.1μm以上1.0μm以下であり、前記Cu-Sn金属間化合物層の厚さが0.2μm以上2.5μm以下であり、前記Sn層の厚さが0.5μm以上3.0μm以下であり、
前記Cu-Sn金属間化合物層及び前記Sn層の断面をEBSD法により0.1μmの測定ステップで解析して、隣接するピクセル間の方位差が2°以上である境界を結晶の粒界とみなしたとき、前記Cu-Sn金属間化合物層における前記Cu
6Sn
5の平均結晶粒径をDcとし、前記Sn層の平均結晶粒径をDsとすると、Dcが0.5μm以上であり、Ds/Dcが5以下であることを特徴とするコネクタ用端子材。
【請求項2】
前記Cu-Sn金属間化合物層は、前記Ni層の上に形成されるCu
3Sn層と、該Cu
3Sn層の上に形成される前記Cu
6Sn
5層とからなり、前記Ni層に対する前記Cu
3Sn層の被覆率は20%以上であることを特徴とする請求項1に記載のコネクタ用端子材。
【請求項3】
前記Sn層は凝固組織からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のコネクタ用端子材。
【請求項4】
前記Sn層は、前記EBSD法により画定した結晶粒界のうち、前記方位差が15°以上の結晶の粒界長さをLaとし、前記方位差が2°以上15°未満の結晶の粒界長さをLbとすると、Lbの割合(Lb/(Lb+La))が0.1以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のコネクタ用端子材。
【請求項5】
少なくとも表面がCu又はCu合金からなる基材の表面に、Ni又はNi合金からなるNiめっき、Cu又はCu合金からなるCuめっき、Sn又はSn合金からなるSnめっきをこの順に施して、それぞれのめっき層を形成した後、加熱してリフロー処理することにより、前記基材の上にNi又はNi合金からなるNi層が形成され、該Ni層の上にCu及びSnの金属間化合物からなるCu-Sn金属間化合物層が形成され、該Cu-Sn金属間化合物層の上にSn又はSn合金からなるSn層が形成されたコネクタ用端子材を製造する方法であって、
前記Ni又はNi合金からなるNiめっきの厚さを0.1μm以上1.0μm以下とし、前記Cu又はCu合金からなるCuめっきの厚さを0 .05μm以上10μm以下とし、前記Sn又はSn合金からなるSnめっきの厚さを0 .5μm以上4.0μm以下とし、前記リフロー処理は、20℃/秒以上75℃/秒以下の昇温速度で240℃以上に加熱する一次加熱の後に、240℃以上300℃以下の温度で1秒以上15秒以下の時間加熱
し、ピーク温度到達後にピーク温度に保持する二次加熱を行う加熱工程と、前記加熱工程の後に、30℃/秒以下の冷却速度で
錫の融点近傍まで冷却する一次冷却工程と、前記一次冷却後に100℃/秒以上300℃/秒以下の冷却速度で冷却する二次冷却工程とを有することを特徴とするコネクタ用端子材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や民生機器等の電気配線の接続に使用されるコネクタ用端子材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や民生機器等の電気配線の接続に使用されるコネクタ用端子材は、一般に、Cu又はCu合金からなる基材の表面に電解めっきにより形成したSnめっき膜を加熱溶融、凝固させたリフロー錫めっき材が使用されている。
このような端子材において、近年では、エンジンルーム等の高温環境で使用され、あるいは大電流通電により端子自体が発熱する環境で使用されることが多くなってきている。このような高温での環境下では、母材から外方拡散したCuがSn層と反応してCu-Sn金属間化合物として表面まで成長し、そのCuが酸化することにより、接触抵抗が上昇することが問題となっており、高温環境下においても長時間安定した電気的接続信頼性を維持する端子材が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1では、Cu又はCu合金からなる基材の表面に、Ni層、Cu-Sn合金層(Cu-Sn金属間化合物層)からなる中間層、Sn又はSn合金からなる表面層がこの順で形成された端子材が開示されている。この場合、Ni層が基材上にエピタキシャル成長しており、Ni層の平均結晶粒径を1μm以上、Ni層の厚さを0.1~1.0μm、かつ中間層の厚さを0.2~1.0μm、表面層の厚さを0.5~2.0μmとすることで、Cu又はCu合金からなる下地基材に対するバリア性を高め、Cuの拡散をより確実に防止して耐熱性を向上させ、高温環境下でも安定した接触抵抗を維持することができるSnめっき材が得られている。
【0004】
特許文献2には、銅または銅合金からなる基材の表面上に、厚さ0.05~1.0μmのNiまたはNi合金層が形成され、最表面側にSnまたはSn合金層が形成され、NiまたはNi合金層とSnまたはSn合金層の間にCuとSnを主成分とする拡散層またはCuとNiとSnを主成分とする拡散層が1層以上形成された端子材が開示されている。また、これらの拡散層のうちSnまたはSn合金層に接する拡散層の厚さが0.2~2.0μmであり且つCu含有量が50重量%以下、Ni含有量が20重量%以下であると記載されている。
【0005】
特許文献3には、Cu系基材の表面に複数のめっき層を有し、その表層部分を構成する平均厚さ0.05~1.5μmのSn又はSn合金からなるSn系めっき層の上に、硬度が10~20Hvで平均厚さが0.05~0.5μmに形成したSn-Ag被覆層が形成された端子材が開示されている。また、Sn-Ag被覆層は、Sn粒子とAg3Sn粒子とを含み、Sn粒子の平均粒径が1~10μmで、Ag3Sn粒子の平均粒径が10~100nmであると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-122403号公報
【文献】特開2003-293187号公報
【文献】特開2010-280946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1や特許文献2記載のように基材の表面を覆うNi層は、基材からのCuの拡散を抑制し、その上のCu-Sn金属間化合物層はNiのSn層への拡散を抑制する効果があり、この効果によって高温環境下で長時間安定した電気的接続信頼性を維持できる。しかし、場合によっては高温環境下でNiがSn層に拡散し、これによりNi層の一部が損傷して、その損傷部分から基材のCuがSn層に拡散して表面に到達し、酸化してしまうことにより接触抵抗が増大するという問題がある。
特許文献3記載のようにAgめっき層を表面に形成することにより、表面の酸化を防止できるが、コストが高いという問題がある。
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、Ni層、Cu-Sn金属間化合物層、Sn層が順次形成されてなる端子材における耐熱性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、Cu又はCu合金からなる基材の表面にNi層、Cu-Sn金属間化合物層、Sn層が順次形成されてなる端子材における上記課題の解決策について鋭意研究した結果、以下の知見を見出した。
まず、Cu-Su金属間化合物層はNiの拡散障壁として機能するから、リフロー時間を長くしてこのCu-Su金属間化合物層を厚くすることが考えられたが、その分、Snが多く消費されてSn層が薄くなり、結局、耐熱性の低下を招くため、解決策として適切でない。
【0010】
一方、特許文献1記載の端子材においては、Ni層とSn層との間のCu-Sn金属間化合物層は、Sn層との界面が凹凸状に形成されている。すなわち、Sn層に向かって突出した形の島状部分が多数つながった状態となっており、Cu-Sn金属間化合物層に、局部的に厚い箇所と薄い箇所とが生じている。その薄い部分でNiがSn層に拡散することでNi層が損傷し、その損傷した部分から基材のCuがSn層に拡散することが確認された。このCu-Sn金属間化合物層の薄い部分が生じるのは、その上に形成されているSn層中へのCu-Sn金属間化合物の成長が局部的に進行し易い箇所と進行しにくい箇所とが存在することが要因であると考えられる。したがって、この局部的に薄い部分が生じないようにCu-Sn合金層を可能な限りフラットに成長させることが重要であり、そのために、Sn層中にCuの拡散経路をできるだけ多く形成することが有効であるとの知見を得た。このような知見の下、本発明を以下の構成とした。
【0011】
本発明のコネクタ用端子材は、少なくとも表面がCu又はCu合金からなる基材の上に、Ni又はNi合金からなるNi層が形成され、該Ni層の上にCu6Sn5を有するCu-Sn金属間化合物層が形成され、該Cu-Sn金属間化合物層の上にSn又はSn合金からなるSn層が形成されており、前記Ni層の厚さが0.1μm以上1.0μm以下であり、前記Cu-Sn金属間化合物層の厚さが0.2μm以上、好ましくは0.3μm以上、さらに好ましくは0.4μm以上かつ2.5μm以下、好ましくは2.0μm以下であり、前記Sn層の厚さが0.5μm以上、好ましくは0.8μm以上、さらに好ましくは1.0μm以上で、かつ3.0μm以下、好ましくは2.5μm以下、さらに好ましくは2.0μm以下であり、前記Cu-Sn金属間化合物層及び前記Sn層の断面をEBSD法により0.1μmの測定ステップで解析して、隣接するピクセル間の方位差が2°以上である境界を結晶の粒界とみなしたとき、前記Cu-Sn金属間化合物層における前記Cu6Sn5の平均結晶粒径をDcとし、前記Sn層の平均結晶粒径をDsとすると、Dcが0.5μm以上であり、Ds/Dcが5以下である。
【0012】
このコネクタ用端子材では、Cu-Sn金属間化合物層中のCu6Sn5の平均結晶粒径Dcを0.5μm以上と大きくすることで、Cu-Sn金属間化合物層の薄い箇所、すなわちCu6Sn5の結晶粒界を少なくすることで、Ni層損傷の起点を少なくしている。また、Cu-Sn金属間化合物層中のCu6Sn5の平均結晶粒径Dcに対するSn層の平均結晶粒径Dsの比率(Ds/Dc)を5以下とすることで、Cu-Sn金属間化合物層中のCu6Sn5の結晶に対するSn層の粒界が多くなり、Sn層中へのCuの拡散経路が増えて、Cu-Sn金属間化合物層を従来よりも均一に近い厚さで成長させることができる。
Ni層の厚さは0.1μm未満では基材からのCuの拡散を防止する効果に乏しく、1.0μmを超えると曲げ加工等により割れが発生するおそれがある。
Cu-Sn金属間化合物層の厚さが0.2μm未満であると、高温環境下でNiのSn層への拡散を十分に抑制できないおそれがあり、2.5μmを超えるとSn層がCu-Sn金属間化合物層の過剰形成により消費されることで薄くなり、耐熱性が低下する。
Sn層の厚さは0.5μm未満では高温時にCu-Sn金属間化合物が表面に露出し易くなり、そのCu-Sn金属間化合物が酸化されてCuの酸化物が形成され易くなることから接触抵抗が増加し、一方、3.0μmを超えるとコネクタの使用時の挿抜力の増大を招き易い。
【0013】
このコネクタ用端子材の一つの実施態様として、前記Cu-Sn金属間化合物層は、前記Ni層の上に形成されるCu3Sn層と、該Cu3Sn層の上に形成される前記Cu6Sn5層とからなり、前記Ni層に対する前記Cu3Sn層の被覆率は20%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上である。
【0014】
Cu-Sn金属間化合物層がCu3Sn層とCu6Sn5層との二層構造とされ、その下層を構成するCu3Sn層がNi層を覆うことにより、Ni層の健全性を維持して、基材のCuの拡散を防止し、接触抵抗の増大等を抑制することができる。Cu3Sn層の被覆率は大きいほど、Cu6Sn5層の結晶粒径が大きくなり、その分Niの拡散経路となるCu6Sn5の結晶粒界の数が少なくなり、高温時のNi層の損傷を抑制することができる。Cu3Sn層の被覆率は20%以上あるとよい。
【0015】
さらに、コネクタ用端子材の他の実施態様として、前記Sn層は、前記EBSD法により画定した結晶粒界のうち、前記方位差が15°以上の結晶の粒界長さをLaとし、前記方位差が2°以上15°未満の結晶の粒界長さをLbとすると、これらの粒界長さの合計に占めるLbの割合(Lb/(Lb+La))が0.1以上である。
このLbの割合(Lb/(Lb+La))は、方位差が小さい結晶粒界が占める長さの割合である。この割合を大きくすることにより、微細なSn結晶が多くなる。すなわちSn層中へのCuの拡散経路となるSnの粒界が多くなるため、Cu-Sn金属間化合物層がより均一に近い厚さとなる。
この粒界長さの割合が0.1未満では、相対的に結晶粒径の大きいSnが多くなる。すなわちSn層中へのCuの拡散経路となるSnの粒界が少なくなるため、Cu-Sn金属間化合物層は凹凸が多く局部的に薄い箇所を有する状態となり易い。
【0016】
本発明のコネクタ用端子材の製造方法は、少なくとも表面がCu又はCu合金からなる基材の表面に、Ni又はNi合金からなるNiめっき、Cu又はCu合金からなるCuめっき、Sn又はSn合金からなるSnめっきをこの順に施して、それぞれのめっき層を形成した後、加熱してリフロー処理することにより、前記基材の上にNi又はNi合金からなるNi層が形成され、該Ni層の上にCu及びSnの金属間化合物からなるCu-Sn金属間化合物層が形成され、該Cu-Sn金属間化合物層の上にSn又はSn合金からなるSn層が形成されたコネクタ用端子材を製造する方法であって、前記Ni又はNi合金からなるNiめっきの厚さを0.1μm以上1.0μm以下とし、前記Cu又はCu合金からなるCuめっきの厚さを0 .05μm以上10μm以下とし、前記Sn又はSn合金からなるSnめっきの厚さを0 .5μm以上4.0μm以下とし、前記リフロー処理は、20℃/秒以上75℃/秒以下の昇温速度で240℃以上に加熱する一次加熱の後に、240℃以上300℃以下の温度で1秒以上15秒以下の時間加熱し、ピーク温度到達後にピーク温度に保持する二次加熱を行う加熱工程と、前記加熱工程の後に、30℃/秒以下の冷却速度で錫の融点近傍まで冷却する一次冷却工程と、前記一次冷却後に100℃/秒以上300℃/秒以下の冷却速度で冷却する二次冷却工程とを有する。
【0017】
この製造方法では、リフロー処理において、二次加熱から一次冷却工程までの時間を制御することで、CuとSnとを十分に反応させて、Cu-Sn金属間化合物の粒径を大きく成長させ、その後、一次冷却工程を経た後、Snの融点近傍からの二次冷却工程によりSn層の粒径を微細に制御する。Sn層の粒径は二次冷却工程の開始温度および冷却速度にて制御することができる。
また、このように熱処理することによりSn層の組織を凝固組織とすることができる。Sn層を凝固組織とすることにより、Sn層の内部応力を解放させ、ウイスカの発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、Ni層、Cu-Sn金属間化合物層、Sn層が順次形成されてなる端子材における耐熱性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係るコネクタ用端子材の一実施形態を模式化して示す断面図である。
【
図2】
図1のコネクタ用端子材の製造時におけるリフロー条件の温度と時間の関係をグラフにした温度プロファイルである。
【
図3】試料A27の145℃×240時間保持後の皮膜断面のSEM像と、Sn層とCu-Sn金属間化合物層を剥離して観察したNi層の表面SEM像である。
【
図4】試料B2と試料A48の145℃×240時間保持後のNi層表面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のコネクタ用端子材の実施形態を詳細に説明する。
図1に示すように、一実施形態のコネクタ用端子材1は、少なくとも表面がCu又はCu合金からなる基材2の上に、Ni又はNi合金からなるNi層3が形成され、該Ni層3の上にCu及びSnの金属間化合物からなるCu-Sn金属間化合物層4が形成され、該Cu-Sn金属間化合物層4の上にSn又はSn合金からなるSn層5が形成されている。
【0021】
基材2は帯板状に形成された条材であり、表面がCu又はCu合金からなるものであれば、特に、その組成が限定されるものではない。
【0022】
Ni層は、基材の表面にNi又はNi合金を電解めっきして形成されたものであり、0.1μm以上1.0μm以下の厚さに形成される。このNi層の厚さは0.1μm未満では基材からのCuの拡散を防止する効果に乏しく、1.0μmを超えると曲げ加工等により割れが発生するおそれがある。
【0023】
Cu-Sn金属間化合物層は、後述するように、Ni層の上に、Cu又はCu合金からなるCuめっき、Sn又はSn合金からなるSnめっきをこの順に施した後にリフロー処理することにより、CuとSnとが反応して形成されたものである。このCu-Sn金属間化合物層は、全体としては0.2μm以上2.5μm以下の厚さに形成されるが、Ni層の上に形成されるCu3Sn層と、Cu3Sn層の上に配置されるCu6Sn5層との二層構造を有している。また、Ni層に対するCu3Sn層の被覆率は20%以上である。
【0024】
Cu-Sn金属間化合物層の厚さが0.2μm未満であると、Cuの拡散障壁としての機能が損なわれ、高温環境下で接触抵抗が増大するおそれがある。その厚さが2.5μmを超えると、その分、Sn層が多く消費されてSn層が薄くなり、耐熱性の低下を招く。Cu-Sn金属間化合物層の厚さは、好ましくは0.3μm以上、さらに好ましくは0.4μm以上であり、また、好ましくは2.0μm以下である。
Cu3Sn層がNi層を覆うことにより、Ni層の健全性を維持して、基材のCuの拡散を防止し、接触抵抗の増大等を抑制することができる。Cu3Sn層の被覆率は大きいほど、Cu6Sn5層の結晶粒径が大きくなり、その分、Cu6Sn5層の結晶粒がSn層の結晶粒界と多く接することになり、Cuの拡散経路を多くして、Cu-Sn金属間化合物層を均一に成長させることができる。Cu3Sn層の被覆率は20%以上あるとよい。Cu3Sn層の被覆率は好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上である。
このCu3Sn層は、Ni層の全面を被覆しているとは限らず、Ni層上にCu3Sn層が形成されていない部分が存在する場合があるが、その場合は、Ni層にCu6Sn5層が直接接触している。
なお、被覆率は、端子材の皮膜部分を集束イオンビーム(FIB;Focused Ion Beam)により断面加工し、皮膜の断面を走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で観察し、Ni層とCu-Sn金属間化合物層との界面長さに対して、Ni層に接しているCu3Sn層の界面長さの比率で求められる。
【0025】
Sn層は、Ni層の上にCuめっき及びSnめっきを施した後にリフロー処理することによって形成されたものである。このSn層の厚さは0.5μm以上3.0μm以下である。Sn層の厚さが0.5μm未満では高温時にCu-Sn金属間化合物が表面に露出し易くなり、そのCu-Sn金属間化合物が酸化されて表面にCuの酸化物が形成され易くなることから接触抵抗が増加し、一方、3.0μmを超えるとコネクタの使用時の挿抜力の増大を招き易い。Sn層の厚さは、好ましくは0.8μm以上、さらに好ましくは1.0μm以上であり、好ましくは2.5μm以下、さらに好ましくは2.0μm以下である。
【0026】
Cu-Sn金属間化合物層及びSn層の断面をEBSD法により0.1μmの測定ステップで解析して、隣接するピクセル間の方位差が2°以上である境界を結晶の粒界とみなしたとき、Cu-Sn金属間化合物層の平均結晶粒径をDcとし、Sn層の平均結晶粒径をDsとすると、Dcが0.5μm以上であり、Ds/Dcが5以下である。
Cu-Sn金属間化合物層の平均結晶粒径Dcを0.5μm以上と大きくすることで、Cu-Sn金属間化合物層の凹凸が小さくなり、局部的に薄すぎる箇所の発生を少なくすることができる。また、Cu-Sn金属間化合物層の平均結晶粒径Dcに対するSn層の平均結晶粒径Dsの比率(Ds/Dc)を5以下とすることで、Cu-Sn金属間化合物層の結晶に対するSn層の粒界が多くなり、Sn層中へのCuの拡散経路が増えて、Cu-Sn金属間化合物層を均一な厚さで成長させることができる。Dcは好ましくは0.6μm以上、Ds/Dcは好ましくは4以下、より好ましくは3以下である。
【0027】
また、Sn層は、前述したEBSD法により画定した結晶粒界のうち、方位差が15°以上の結晶の粒界長さをLaとし、方位差が2°以上15°未満の結晶の粒界長さをLbとすると、Lbの割合(Lb/(Lb+La))が0.1以上である。
このLbの割合(Lb/(Lb+La))は、方位差が小さい結晶粒界が占める長さの割合であり、この割合を大きくすることにより、微細なSn結晶が多くなる。すなわちSn層中へのCuの拡散経路となるSnの粒界が多くなるため、Cu-Sn金属間化合物層がより均一に近い厚さとなる。
この粒界長さLbの割合が0.1未満では、相対的に結晶粒径の大きいSnが多くなることが判明した。すなわちSn層中へのCuの拡散経路となるSnの粒界が少なくなるため、Cu-Sn金属間化合物層は凹凸が多く局部的に薄い箇所を有する状態となり易い。Lbの割合は好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上である。
【0028】
このように構成したコネクタ用端子材1は、基材2の上にNi又はNi合金からなるNiめっき、Cu又はCu合金からなるCuめっき、Sn又はSn合金からなるSnめっきを順に施した後に、加熱してリフロー処理することにより形成される。
【0029】
Niめっきは一般的なNiめっき浴を用いればよく、例えば硫酸ニッケル(NiSO4)と塩化ニッケル(NiCl2)、硼酸(H3BO3)を主成分としたワット浴などを用いることができる。めっき浴の温度は20℃以上60℃以下、電流密度は5~60A/dm2以下とされる。
【0030】
Cuめっきは一般的なCuめっき浴を用いればよく、例えば硫酸銅(CuSO4)及び硫酸(H2SO4)を主成分とした硫酸銅浴等を用いることができる。めっき浴の温度は20~50℃、電流密度は1~50A/dm2とされる。このCuめっきにより形成されるCuめっき層の膜厚は0.05μm以上10μm以下とされる。
【0031】
Snめっきのためのめっき浴としては、一般的なSnめっき浴を用いればよく、例えば硫酸(H2SO4)と硫酸第一錫(SnSO4)を主成分とした硫酸浴を用いることができる。めっき浴の温度は15~35℃、電流密度は1~30A/dm2とされる。このSnめっき層の膜厚は0.1μm以上5.0μm以下とされる。
【0032】
リフロー処理はCuめっき層及びSnめっき層を加熱して一旦溶融させたのち急冷すればよい。例えば、Cuめっき及びSnめっきを施した後の処理材をCO還元性雰囲気にした加熱炉内で20℃/秒以上75℃/秒以下の昇温速度で240℃以上に加熱する一次加熱の後に、240℃以上300℃以下の温度で1秒以上15秒以下の時間加熱する二次加熱を行う加熱工程と、前記加熱工程の後に、30℃/秒以下の冷却速度で冷却する一次冷却工程と、前記一次冷却後に100℃/秒以上300℃/秒以下の冷却速度で冷却する二次冷却工程とを有する処理とする。二次加熱の温度設定については、例えば一次加熱で到達した温度で保持しても良いし、あるいは一次加熱で目標温度より低い温度まで加熱した後目標温度まで徐々に上げても良いし、あるいは上記の温度範囲内で適宜変化させても良い。リフロー処理における温度と時間の関係の一例を
図2に示す。このリフロー処理により、
図1に示すようにNi層3の上に、Cu-Sn金属間化合物層4、Sn層5が順次形成されたコネクタ用端子材1が得られる。Cu-Sn金属間化合物層4は、主としてCu
3Sn層41とCu
6Sn
5層42とからなる。Ni層3とCu-Sn金属間化合物層4との間にCuめっき層の一部が残る場合もある。なお、Cu-Sn金属間化合物中のCu
6Sn
5の粒径を大きくするという観点からは、一次冷却工程においてSnの融点近傍まで徐冷し、その後の二次冷却工程で急冷する、というプロセスが好ましい。
【0033】
このリフロー処理において、Snを融点以上に加熱すると共に、一次加熱と二次加熱の条件を調整することで、CuとSnとを十分に反応させて、Cu-Sn金属間化合物の粒径を大きく成長させ、その後、緩やかに冷却する一次冷却工程を経た後、Snの融点付近からの二次冷却工程によりSn層の粒径を微細に制御する。Sn層の粒径は二次冷却工程の開始温度および冷却速度にて制御することができる。またこのように熱処理することにより、Sn層を凝固組織とすることができる。
【0034】
このコネクタ用端子材1は、所定の外形にプレス打抜きされ、曲げ加工等の機械的加工が施されて、雄端子あるいは雌端子に成形される。
この端子は、Cu-Sn金属間化合物層に局部的に薄くなる部分が少なく、Cu-Sn金属間化合物層がより均一に近い厚さで成長しており、高温環境下でもNi層の損傷が抑制されるため、低い接触抵抗を維持でき、優れた耐熱性を発揮することができる。
【0035】
なお、上記実施形態では、電解めっきにより基材の上にNiめっき、Cuめっき、Snめっきを積層したが、電解めっきに限らず、無電解めっきやPVD,CVD等の一般的な成膜方法によって成膜してもよい。
【実施例】
【0036】
板厚0.2mmの銅合金(Mg;0.7質量%-P;0.005質量%)のH材を基材とし、電解めっきにより、Niめっき、Cuめっき、Snめっきを順に施した。各めっき条件は実施例、比較例とも同じで、表1に示す通りとし、めっき時間を調整して膜厚を制御した。表1中、Dkはカソードの電流密度、ASDはA/dm2の略である。
【0037】
【0038】
めっき処理を施した後、加熱してリフロー処理を行った。このリフロー処理は、最後の錫めっき処理をしてから1分後に行い、加熱工程(一次加熱、二次加熱)、一次冷却工程、二次冷却工程を行った。各めっき層の厚さ(Niめっき、Cuめっき、Snめっきの厚さ)、リフロー条件(一次加熱の昇温速度及び到達温度、二次加熱の昇温速度及びピーク温度、ピーク温度での保持時間(ピーク温度保持時間)、一次冷却速度、二次冷却速度)は、表2に示す通りとした。
なお、一次冷却速度、二次冷却速度の各欄は、その2段ずつが、めっき層の厚さのNiめっき層の厚さの欄と対応している。例えば、Niめっき層の厚さが「~0.3」、Cuめっき層の厚さが「0.05~10」、Snめっき層の厚さが「0.5~1.2」の場合、一次冷却速度「3~30」「30~50」、二次冷却速度「100~300」「50~100」である。
【0039】
【0040】
得られた試料について、Ni層、Cu-Sn金属間化合物層、Sn層のそれぞれの厚さを測定するとともに、Cu-Sn金属間化合物層におけるCu6Sn5の結晶粒径Dc、Sn層の結晶粒径Ds、Ni層との界面におけるCu3Sn層の被覆率を測定し、Cu6Sn5の平均結晶粒径DcとSn層の平均結晶粒径Dsとの比(Ds/Dc)、Sn層における方位差が15°以上の結晶の粒界長さをLaとし、方位差が2°以上15°未満の結晶の粒界長さをLbとした場合のLbの割合(Lb/(Lb+La))を求めた。
【0041】
(各層の厚さ)
Ni層、Cu-Sn金属間化合物層、Sn層のそれぞれの厚さは、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製蛍光X線膜厚計(SEA5120A)にて測定した。
【0042】
(平均結晶粒径及びDs/Dcの算出)
Cu6Sn5の結晶粒径Dc、Sn層の結晶粒径Dsは、圧延方向に垂直な面、すなわちRD(Rolling direction)面を測定面として、集束イオンビーム(FIB)により断面加工し、その断面をEBSD装置(TSL社製、OIM 結晶方位解析装置)と解析ソフト(TSL社製、OIM Analysis ver.7.1.0)によって、電子線加速電圧15kV、測定ステップ0.1μmで1000μm2以上の測定面積で解析して、隣接するピクセル間の方位差が2°以上である境界を結晶の粒界とみなして作成した結晶粒界マップから測定した。
結晶粒径は、結晶粒界マップにおいて、測定する層を横断するように母材と平行な方向に引いた線分から求めた。具体的には、その線分を通る結晶粒の数が最大となるように線分を引き、当該線分の長さをその線分を通る結晶粒の数で除したものを結晶粒径とした。測定数は線分長さの合計が100μm以上となるまでの数とした。
【0043】
(Cu3Sn層の被覆率)
Cu3Sn層の被覆率は、端子材の皮膜部分を集束イオンビーム(FIB)により断面加工し、皮膜の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した表面の走査イオン像(SEM像)から、Cu-Sn金属間化合物層とNi層との界面長さに対するCu3Sn層とNi層との界面長さの割合として求めた。
【0044】
(Lbの割合(Lb/(Lb+La)))
Sn層において、前述したEBSD法にて測定した結晶粒界マップから、方位差が15°以上の結晶の粒界長さをLaとし、方位差が2°以上15°未満の結晶の粒界長さをLbとし、Lbの割合(Lb/(Lb+La))を求めた。
表3に各実施例・比較例におけるDc、Ds/Dc、Cu-Sn金属間化合物層(Cu-SnIMCと表記)厚さ、Sn層厚さ、Ni層厚さ、Cu3Sn被覆率、Lbの割合を示す。
【0045】
【0046】
これらの試料につき、接触抵抗、残留Sn、曲げ加工性について評価した。なお、接触抵抗および残留Snについては、以下に示す高温保持試験後の評価結果、曲げ加工性は、高温保持試験前の評価結果である。
【0047】
(接触抵抗)
大気中で高温保持し、接触抵抗を測定した。保持条件は、Sn層の厚さが1.2μm以下の試料では125℃で1000時間までとし、1.2μmより厚い試料では145℃で1000時間までとした。測定方法はJIS-C-5402に準拠し、4端子接触抵抗試験機(山崎精機研究所製:CRS-113-AU)により、摺動式(1mm)で0から50gまでの荷重変化-接触抵抗を測定し、荷重を50gとしたときの接触抵抗値で評価した。1000時間経過後においても接触抵抗が2mΩ以下であったものをA、1000時間経過後には2mΩを上回るが、500時間経過時点では2mΩ以下であったものをB、500時間経過時点で2mΩを上回ったものをCとした。
【0048】
(残留Sn)
リフロー直後の合金化していないSnの膜厚に対する、高温保持試験実施後も合金化せず残ったSnの膜厚の割合を残留Snとして評価した。すなわち、リフロー直後に合金化していないSnが高温保持試験後にどの程度残ったかを示している。高温保持試験条件は接触抵抗の場合と同様とした。1000時間経過後に50%を超えるものをA、25%を超えて50%以下のものをB、25%以下であったものをCとした。
【0049】
(曲げ加工性)
曲げ加工性は、試料をBadWay:圧延垂直方向に幅10mm×長さ60mmに切出し、JIS Z 2248に規定される金属材料曲げ試験方法に準拠し、曲げ半径Rと押し金具の厚さtとの比R/t=1として180°曲げ試験を行い、曲げ部の表面及び断面にクラック等が認められるか否かを光学顕微鏡にて倍率50倍で観察した。クラック等が認められず、表面状態も曲げの前後でクラック等、大きな変化が認められなかったものを「OK」、クラックが認められたものを「NG」とした。
【0050】
これらの結果を表4に示す。
【0051】
【0052】
これらの結果より、Ni層の厚さが0.1μm以上1.0μm以下であり、Cu-Sn金属間化合物層の厚さが0.2μm以上2.5μm以下であり、Sn層の厚さが0.5μm以上3.0μm以下であり、Cu-Sn金属間化合物層の平均結晶粒径Dcが0.5μm以上であり、Dcに対するSn層の平均結晶粒径をDsの比率Ds/Dcが5以下のものは、いずれも耐熱性(接触抵抗、残留Sn)がBランク以上となることが確認された。また、いずれの実施例においても曲げ割れは認められず、良好な加工性を有していることも確認された。
【0053】
これに対し比較例は、Ds/DcやCu-Sn金属間化合物層の厚さ、Ni層の厚さ等のいずれかが本発明の範囲から外れており、その結果、耐熱性がCランクとなるか、あるいは曲げ加工性がNGであった。
【0054】
図3は、その左側に試料A27の145℃×240時間保持した場合の皮膜断面のSEM像、右側にSn層とCu-Sn金属間化合物層を剥離して観察したNi層の表面SEM像を示す。
断面SEM像において、高温保持後のCu-Sn金属間化合物層はCu
6Sn
5からなり、Cu-Sn金属間化合物層の薄い部位の直下にてNi層の損傷が確認された。Ni層の表面SEM像から、Ni層の損傷は網目状であることが確認された。このように本発明の実施例においても、より長時間高温保持すると、Ni層の損傷が進行してNi層の一部が消失し、母材からのCuの外方拡散が進行するため耐熱性が劣化していくが、比較例に比べ劣化の速度は遅い。
【0055】
図4に試料B2と試料A48の145℃×240時間保持した場合のNi層表面SEM像を示す。左側が試料B2、右側が試料A48である。この
図4と
図3のNi層表面SEM像を比較すると、A27よりもCu
3Sn層被覆率の低いB2の方が、Ni層の損傷は大きい。一方、A27よりもCu
3Sn層被覆率の高いA48では、Ni層の損傷がA27よりも少ない。このように、Cu
3Sn被覆率の高い試料ではNi層の損傷が抑えられていることが明らかである。Ni層の損傷が生じ易い場所は、Cu-Sn金属間化合物層の薄い部位、すなわちCu
6Sn
5の島状結晶の端部近傍であるが、Cu
3Sn層の被覆率が高くなると、Cu
6Sn
5層の島状結晶がより平坦に近くなり、極端に薄い部位が減少するためNi層の損傷が抑制され、耐熱性の向上が期待できる。
【符号の説明】
【0056】
1 コネクタ用端子材
2 基材
3 Ni層
4 Cu-Sn金属間化合物層
41 Cu3Sn層
42 Cu6Sn5層
5 Sn層