(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィドフィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20230502BHJP
C08L 81/02 20060101ALI20230502BHJP
C08L 81/06 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
C08J5/18 CEZ
C08L81/02
C08L81/06
(21)【出願番号】P 2019514130
(86)(22)【出願日】2019-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2019009242
(87)【国際公開番号】W WO2019176756
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】P 2018047501
(32)【優先日】2018-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018132076
(32)【優先日】2018-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松井 一直
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌平
(72)【発明者】
【氏名】福田 一友
(72)【発明者】
【氏名】青山 滋
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-047360(JP,A)
【文献】特開2009-179766(JP,A)
【文献】特開2007-291222(JP,A)
【文献】特開2008-201926(JP,A)
【文献】特開2007-301784(JP,A)
【文献】特開2007-276456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C08J 5/00- 5/02
C08J 5/12- 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)を主たる構成成分とし、前記樹脂(A)とは異なる熱可塑性樹脂(B)を含む層(P1層)を有し、熱可塑性樹脂(B)が下記化学式を有し、かつ、スルホニル基を有
するポリフェニルスルホンであり、P1層のポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)の含有量WA1と、樹脂(A)とは異なる熱可塑性樹脂(B)の含有量WB1の合計を100重量部とした場合に、熱可塑性樹脂(B)の含有量WB1が、0.1重量部以上50重量部未満であり、P1層がポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)に熱可塑性樹脂(B)が分散相として存在する層であって、さらに、熱可塑性樹脂(B)の分散径において長径および短径の比が1.05以上である二軸延伸ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【化1】
(ただし、式中のR
1~R
2はそれぞれH、OH、メトキシ基、エトキシ基、トリフルオロメチル基、炭素数1~13の脂肪族基、炭素数6~10の芳香族基のいずれかである。)
【請求項2】
熱膨張係数(C)(ppm/℃)、絶縁破壊電圧(R)(kV)および厚み(t)(μm)が下記式(1)および(2)を満たす請求項1に記載の二軸延伸ポリアリーレンスルフィドフィルム。
C<80 ・・・(1)
R>0.17×t+1.0 ・・・(2)
【請求項3】
示差走査熱量(DSC)測定での2nd Runで測定される最も低いガラス転移温度(Tg)と冷結晶化温度(Tcc)の差(Tcc-Tg)が45℃より大きい請求項1または2に記載の二軸延伸ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項4】
DSC測定で最も高いガラス転移温度が200℃以上である、請求項1~3のいずれかに記載の二軸延伸ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項5】
200℃のオーブン内に1000時間静置した後の少なくとも1方向の破断点強度保持率が75%以上である、請求項1~4のいずれかに記載の二軸延伸ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項6】
動的粘弾性(DMA)測定において観測される最も高いtanδのピーク温度が200℃以上である、請求項1~5のいずれかに記載の二軸延伸ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項7】
FT-IRで測定された1093cm
-1の吸光度(I(1093cm
-1))と1385cm
-1の吸光度(I(1385cm
-1))の比から算出される配向度パラメーター(Op=I(1093cm
-1)/I(1385cm
-1))において、長手方向の配向度パラメーター(OpM)と幅方向の配向度パラメータ-(OpT)が下記式を満たす請求項1~6のいずれかに記載の二軸延伸ポリアリーレンスルフィドフィルム。
(Op_M/Op_T)<1.0 ・・・(3)
【請求項8】
熱可塑性樹脂(B)の平均分散径が0.5μmより大きい、請求項1~7のいずれかに記載の二軸延伸ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項9】
250℃で10分間熱処理した後の長手方向(搬送方向)における熱収縮率が5.0%以下である請求項1~8のいずれかに記載の二軸延伸ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項10】
250℃で10分間熱処理した後の長手方向(搬送方向)における熱収縮率が1.0%以下である請求項1~9のいずれかに記載の二軸延伸ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項11】
長手方向の延伸倍率よりも幅方向の延伸倍率が高いことを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載の二軸延伸ポリアリーレンスルフィドフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアリーレンスルフィド系樹脂を主成分とするポリアリーレンスルフィドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィド(以下PPSと略すことがある)フィルムは、優れた耐熱性、電気絶縁性、耐湿熱性などエンジニアプラスチックとして優れた性質を有していることからコンデンサーの誘電体、銅貼り積層板、フレキシブルプリント基板、絶縁テープといった電子部品、モーター絶縁体といった自動車部品などに幅広く使用されている。しかしながら、近年、電子機器の小型化および大容量化が進み、取り扱う電力の増大やそれに伴う発熱の増加から、PPSフィルムにはより高い電気絶縁性や低い熱膨張係数または低い熱収縮率が望まれている。
【0003】
ここで、特許文献1には難燃性を向上させる目的で、シンジオタクチックポリスチレンに水酸化マグネシウム、ガラス繊維およびPPS樹脂を含んだ樹脂組成物が提案されている。さらに、特許文献2にはナトリウム金属元素の含有量を特定量以下にし、酸化防止剤を添加することで電気絶縁性を向上させた2軸延伸のPPSフィルムが提案されている。また、低温や高温の寸法変化を制御する目的で、特許文献3や4には熱可塑性エラストマー、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリフェニルエーテルを含むPPS樹脂組成物が提案されている。しかしながら、上記を組み合わせただけでは電気絶縁性および低熱膨張係数、または低い熱収縮率を両立するPPSフィルムの達成は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-260963号公報
【文献】特開2015-74725号公報
【文献】特開2010-90368号公報
【文献】特開2014-55219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、コンデンサー、絶縁テープやモーター絶縁、回路基板用途に好適に用いることができる、高い電気絶縁性と低い熱膨張係数、または低い熱収縮率を両立したPPSフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)を主たる構成成分とし、前記樹脂(A)とは異なる熱可塑性樹脂(B)を含む層(P1層)を有し、熱可塑性樹脂(B)が下記化学式を有し、かつ、スルホニル基を有し、P1層のポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)の含有量WA1と、樹脂(A)とは異なる熱可塑性樹脂(B)の含有量WB1の合計を100重量部とした場合に、熱可塑性樹脂(B)の含有量WB1が、0.1重量部以上50重量部未満であり、P1層がポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)に熱可塑性樹脂(B)が分散相として存在する層であって、さらに、熱可塑性樹脂(B)の分散径において長径および短径の比が1.05以上である二軸延伸ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【0007】
【0008】
(ただし、式中のR1~R
2
はそれぞれH、OH、メトキシ基、エトキシ基、トリフルオロメチル基、炭素数1~13の脂肪族基、炭素数6~10の芳香族基のいずれかである。)
(2)熱膨張係数(C)(ppm/℃)、絶縁破壊電圧(R)(kV)および厚み(t)(μm)が下記式(1)および(2)を満たす(1)に記載の二軸延伸ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【0009】
C<80 ・・・(1)
R>0.17×t+1.0 ・・・(2)
(3)示差走査熱量(DSC)測定での2nd Runで測定される最も低いガラス転移温度(Tg)と冷結晶化温度(Tcc)の差(Tcc-Tg)が45℃より大きい(1)または(2)に記載の二軸延伸ポリアリーレンスルフィドフィルム。
(4)DSC測定で最も高いガラス転移温度が200℃以上である、(1)~(3)のいずれかに記載の二軸延伸ポリアリーレンスルフィドフィルム。
(5)200℃のオーブン内に1000時間静置した後の少なくとも1方向の破断点強度保持率が75%以上である、(1)~(4)のいずれかに記載の二軸延伸ポリアリーレンスルフィドフィルム。
(6)動的粘弾性(DMA)測定において観測される最も高いtanδのピーク温度が200℃以上である、(1)~(5)のいずれかに記載の二軸延伸ポリアリーレンスルフィドフィルム。
(7)FT-IRで測定された1093cm-1の吸光度(I(1093cm-1))と1385cm-1の吸光度(I(1385cm-1))の比から算出される配向度パラメーター(Op=I(1093cm-1)/I(1385cm-1))において、長手方向の配向度パラメーター(OpM)と幅方向の配向度パラメータ-(OpT)が下記式を満たす(1)~(6)のいずれかに記載の二軸延伸ポリアリーレンスルフィドフィルム。
(Op_M/Op_T)<1.0 ・・・(3)
(8)熱可塑性樹脂(B)の平均分散径が0.5μmより大きい、(1)~(7)のいずれかに記載の二軸延伸ポリアリーレンスルフィドフィルム。
(9)250℃で10分間熱処理した後の長手方向(搬送方向)における熱収縮率が5.0%以下である(1)~(8)のいずれかに記載の二軸延伸ポリアリーレンスルフィドフィルム。
(10)250℃で10分間熱処理した後の長手方向(搬送方向)における熱収縮率が1.0%以下である(1)~(9)のいずれかに記載の二軸延伸ポリアリーレンスルフィドフィルム。
(11)長手方向の延伸倍率よりも幅方向の延伸倍率が高いことを特徴とする(1)~(10)のいずれかに記載の二軸延伸ポリアリーレンスルフィドフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い電気絶縁性と低い熱膨張係数、または低い熱収縮率を両立するポリアリーレンスルフィドフィルムを提供することができる。特にコンデンサーの誘電体、銅貼り積層板、フレキシブルプリント基板、絶縁テープといった電子部品、モーター絶縁体といった自動車部品に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)中に熱可塑性樹脂(B)が球形の分散相として存在している概念図
【
図2】ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)中に熱可塑性樹脂(B)が紡錘形の分散相として存在している概念図
【
図3】ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)中に熱可塑性樹脂(B)が不定形な分散相として存在している概念図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムは、ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)を主たる構成成分とし、樹脂(A)とは異なる熱可塑性樹脂(B)を含む層(P1層)を有し、熱可塑性樹脂(B)が下記化学式を有することが必要である。
【0013】
【0014】
(ただし、式中のR1~R
2
はそれぞれH、OH、メトキシ基、エトキシ基、トリフルオロメチル基、炭素数1~13の脂肪族基、炭素数6~10の芳香族基のいずれかである。)
本発明におけるポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)は、-(Ar-S)-の繰り返し単位を主要構成単位とする好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有するホモポリマーあるいはコポリマーである。Arは結合手が芳香環に存在する芳香環を含む基であり、下記の式(F)~式(Q)などで表される二価の繰り返し単位などが例示されるが、なかでも式(F)で表される繰り返し単位が特に好ましい。
【0015】
【0016】
(ただし、式中のR1,R2は水素、炭素数1から6のアルキル基、炭素数1から6のアルコキシ基およびハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(R)~式(U)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、-(Ar-S)-の単位1モルに対して0~5モル%の範囲であることが好ましく、0~1モル%の範囲であることがより好ましい。
【0017】
【0018】
また、本発明のフィルムに用いるポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)は上記繰り返し単位を有するランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物のいずれかであってもよい。
【0019】
本発明のフィルムにおいてポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)の溶融粘度としては特に制限は無いが、温度310℃、剪断速度1,000(1/sec)のもとで、100~2,000Pa・sの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは200~1,000Pa・sの範囲である。
【0020】
これらポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)の代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)としては、ポリマーの主要構成単位として下記式(V)で示されるp-フェニレンスルフィド単位を好ましくは80モル%以上、より好ましくは85モル%、さらに好ましくは90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドが挙げられる。かかるp-フェニレンスルフィド単位が80モル%未満では、ポリマーの結晶性や熱転移温度などが低く、ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)の特徴である耐熱性、寸法安定性、機械特性などを損なうことがある。
【0021】
【0022】
ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)の製造方法は特に限定されないが、例えば特開平3-74433号公報や特開2002-332351号公報に開示されているように、Caなどのアルカリ土類金属を含む水溶液で処理する工程を含むことが、ポリアリーレンスルフィドの結晶化速度を低減させるために好ましい。なお、フェニレン基以外の芳香環を有する基を含むポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)は、フェニレン基を当該フェニレン基以外の芳香環に代えたモノマーを使用すれば得ることができる。
【0023】
本発明のフィルムに用いるポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)は、本発明の特性を阻害しない範囲であれば、空気中加熱による架橋/高分子量化、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下での熱処理、有機溶媒、熱水および酸水溶液などによる洗浄、酸無水物、アミン、イソシアネ-トおよび官能基ジスルフィド化合物などの官能基含有化合物による活性化など、種々の処理を施した上で使用することも可能である。
【0024】
本発明はポリアリーレンスルフィドを主たる構成成分とするフィルムである。ここで、主たる構成成分とは樹脂組成物全体を100重量部とした場合に、ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)が50質量部以上を占めることを言う。また、フィルムは未延伸フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムの何れでも良く、長期耐熱性および生産性の観点からは二軸延伸フィルムであることが好ましい。フィルムとして二軸延伸フィルムを得る方法としては、逐次二軸延伸法(長手方向に延伸した後に幅方向に延伸を行う方法などの一方向ずつの延伸を組み合わせた延伸法)、同時二軸延伸法(長手方向と幅方向を同時に延伸する方法)、又はそれらを組み合わせた方法を用いることができる。
【0025】
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムに用いる熱可塑性樹脂(B)は、下記化学式のうち少なくとも1種類の構造を含んでおり、より好ましくは化学式(A)、(B)、(C)、(D)を含み、さらに好ましくは化学式(A)、(D)を含むことが好ましい。特に化学式(A)を含む場合に熱膨張係数の低減や電気絶縁性の向上、製膜性(特に延伸性)の向上、に寄与するため好ましく、これは、化学式(A)を含む熱可塑性樹脂(B)とPPS樹脂が相互作用しているためと推定される。なお、熱可塑性樹脂(B)に下記化学式の構造が含まれない場合、十分な熱膨張係数や電気絶縁性が得られなくなるだけでなく、ポリアリーレンスルフィドと混錬した樹脂をフィルム化し延伸した際に熱可塑性樹脂Bとの界面で剥離が生じて、フィルムの破断を招く場合があるため好ましくない。
【0026】
【0027】
(ただし、式中のR1~R6はそれぞれH、OH、メトキシ基、エトキシ基、トリフルオロメチル基、炭素数1~13の脂肪族基、炭素数6~10の芳香族基のいずれかである。)
なお、熱可塑性樹脂(B)としては、例えばポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン等の各種ポリマーおよびこれらのポリマーの少なくとも一種類を含むブレンド物を用いることができる。耐熱性および電気絶縁性の観点から熱可塑性樹脂(B)として、より好ましくはポリフェニルスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルイミドから選ばれる樹脂であり、さらに好ましくはポリフェニルスルホンまたはポリエーテルスルホンであることが好ましい。
【0028】
本発明において、ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)を混合する時期は特に限定されないが、溶融押出し前に、ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の混合物を予備溶融混練(ペレタイズ)してマスターペレット化する方法や、溶融押出し時に混合して溶融混練させる方法がある。中でも、二軸押し出し機などの剪断応力のかかる装置を用いてマスターペレット化する方法などが好ましい。この場合、混練部ではポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)の融点+5℃以上80℃以下の樹脂温度範囲となる様に混練することが好ましく、より好ましくはポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)の融点+10℃以上~80℃以下であり、さらに好ましくはポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)の融点+15℃以上~70℃以下の温度範囲である。また、スクリュー回転数を100rpm以上500rpm以下の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは150rpm以上400rpm以下の範囲である。樹脂温度やスクリュー回転数を好ましい範囲に設定することで、分散相の分散径をコントロールできる。また、二軸押し出し機の(スクリュー軸長さ/スクリュー軸径)の比率は20以上60以下の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは30以上50以下の範囲である。
【0029】
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムは、熱膨張係数(C)(ppm/℃)、絶縁破壊電圧(R)(kV)および厚み(t)(μm)が下記式(1)および(2)を満たすことが好ましい。より好ましくは式(34)および(45)を満たし、さらに好ましくは式(56)および(67)を満たすことである。熱膨張係数(C)が80以上の場合、熱処理を伴うオフラインの加工工程や高温環境での使用の際にフィルムが変形したりすることがあり好ましくない。また、絶縁破壊電圧(R)が下記式の関係を満たさない場合、モーター絶縁材料および電気・電子部品として十分な電気絶縁性が得られない場合がある。
【0030】
C<80 ・・・(1)
R>0.17×t+1.0 ・・・(2)
C<78 ・・・(34)
R>0.17×t+1.2 ・・・(45)
C<77 ・・・(56)
R>0.17×t+1.5 ・・・(67)
また、熱膨張係数および絶縁破壊電圧が下記式を満たす手段としては、化学式(1)に記載のうちいずれかの構造を有する熱可塑性樹脂を含み、二軸延伸フィルムとすることである。ここでいう、二軸延伸フィルムとは分子配向計にて測定される配向度パラメーター(Q)が4300以上かどうかにより判断することができる。配向度パラメーター(Q)はより好ましくは4500以上であり、さらに好ましくは4700以上である。未延伸フィルや一軸延伸フィルムの場合、分子鎖の配向度が十分でなく熱膨張係数や電気絶縁性を満たすことができない場合がある。なお、配向度パラメーター(Q)の値に上限は特に設けないが、破れなどなく安定的に製膜可能なフィルムとして5500以下が実質的な上限となる。
【0031】
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムは、P1層がポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)に熱可塑性樹脂(B)が分散相として存在する層であることが好ましい。ここでいう分散相とは、ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)が構成する海島構造の島成分のことを指す。また、その形状として、熱可塑性樹脂(B)が円形、楕円形、紡錘形、不定形などの状態として本発明のポリアリーレンスルフィドフィルム中に存在することを指し、該フィルムの断面を透過型電子顕微鏡(TEM)観察や走査電子顕微鏡(SEM)観察などによりその形態を確認することができる。
【0032】
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムは、示差走査熱量(DSC)の2nd Runで測定される最も低いガラス転移温度(Tg1)と冷結晶化温度(Tcc)の差(Tcc-Tg1)が45℃より大きいことが好ましい。より好ましくは48℃より大きく、さらに好ましくは50℃より大きいことである。(Tcc-Tg1)が45℃以下の場合は、延伸工程や熱処理工程中に結晶化が過度に進行し破れなどが発生し安定的に製膜できなくなる場合があるので好ましくない。なお、(Tcc-Tg1)を45℃より大きくするには、化学式(1)に記載のうちいずれかの構造を有する熱可塑性樹脂を含むことで達成可能である。
【0033】
ここで言う、冷結晶化温度は、JIS K-7122(1987)に準じて、昇温速度20℃/minで樹脂を25℃から350℃まで20℃/分の昇温速度で加熱(1st Run)、その状態で5分間保持後、次いで25℃以下となるよう急冷し、再度25℃から20℃/minの昇温速度で350℃まで昇温(2nd Run)を行って得られた2nd RUNの示差走査熱量測定チャートにおける、放熱ピークの温度を冷結晶化温度とする。
【0034】
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムは、DSC測定で最も高いガラス転移温度(Tg2)が200℃以上であることが好ましい。より好ましくは、210℃以上であり、さらに好ましくは220℃以上である。Tg2が200℃より低い場合、得られるポリアリーレンスルフィドフィルムの熱膨張係数が大きくなる場合があり好ましくない。Tg2の上限は特に設けないが、ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)の押し出し温度である340℃を超えると、溶融粘度が高くなりすぎて溶融製膜できない場合があるため、実質的にはTg2の上限は340℃以下であることが好ましい。
【0035】
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムに含まれる熱可塑性樹脂(B)が、スルホニル基を有することが好ましい。スルホニル基を含まない場合、耐熱性や機械特性が低下する場合があるため好ましくない。
【0036】
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムは、P1層のポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)の含有量WA1と、樹脂(A)とは異なる熱可塑性樹脂(B)の含有量WB1の合計を100重量部とした場合に、熱可塑性樹脂(B)の含有量WB1が、0.1重量部以上50重量部未満であることが好ましい。より好ましくは熱可塑性樹脂(B)の含有量WB1が、0.1重量部以上30重量部未満であり、さらに好ましくは熱可塑性樹脂(B)の含有量WB1が、0.1重量部以上15重量部未満である。熱可塑性樹脂(B)の含有量が50質量部以上の場合、延伸時に破れが多発して安定的に製膜できなくなる恐れがあり好ましくない。また、熱可塑性樹脂(B)の含有量が0.1重量部よりも少ない場合、熱膨張係数の増加や絶縁破壊電圧の低下を招く恐れがあり好ましくない。
【0037】
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムにおいて、ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)を主たる構成成分とし、樹脂(A)とは異なる熱可塑性樹脂(B)を含む層(P1層)単体であってもよいが、少なくともP1層の片面に樹脂(A)からなる層または、樹脂(B)からなる層をP2層として設けることもできる。さらに、P2層の樹脂成分を1000とした場合の、熱可塑性樹脂(B)の割合がP1層よりも少ない層をP2層として積層した構成も用いることができる。さらに、P2層/P1層/P2層またはP1層/P2層/P1層の様な3層構成だけでなく、P1層とP2層が交互に5層以上積層された構成も用いることができる。積層構成とすることで、機械特性や製膜性の向上に寄与するため好ましい。
【0038】
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムは、ヤング率が2.0GPa以上であることが好ましい。より好ましくは2.5GPa以上であり、さらに好ましくは3.0GPa以上である。ヤング率が2.0GPaよりも小さいとフィルムのコシが低下しハンドリング性が悪化するだけでなく、加工工程中でフィルムが変形する場合があるため好ましくない。
【0039】
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムは、破断点伸度が10%以上であることが好ましい。より好ましくは20%以上であり、さらに好ましくは30%以上であるり、さらに好ましくは80%以上であり、最も好ましくは100%以上である。破断点伸度が10%よりも低いと、フィルムが脆くハンドリング性が低下するだけでなく、加工工程中でフィルム破れが発生しやすくなる場合があり好ましくない。ここで、加工の際の搬送工程を考えると幅方向よりも長手方向の判断点伸度が高い方が好ましく、長手方向の延伸倍率よりも幅方向の延伸倍率を高めることで達成できる場合がある。なお、低い延伸倍率で延伸プロセスを施すことにより破断点伸度を高めることができ、さらに2軸延伸プロセスでられたフィルムをオフライン熱処理(アニール処理)することで、さらに破断点伸度を高めることができる場合がある。
【0040】
本発明におけるポリアリーレンスルフィドフィルムは、200℃のオーブン中に1000時間加熱した後の破断点強度保持率が75%以上であることが好ましい。より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは85%以上である。ここでいう破断点強度保持率とは下記式で表される値であり、破断点強度保持率が75%未満の場合フィルムとしての耐熱性が低く、高温環境下で長時間使用した場合にフィルムが破断する恐れがあるため好ましくない。なお、破断点強度保持率を上記の範囲とするには、化学式(1)に記載のうちいずれかの構造を有する熱可塑性樹脂(B)を含むことで達成可能である。
破断点強度保持率(%)=(加熱後の破断点強度)/(加熱前の破断点強度)×100
本発明におけるポリアリーレンスルフィドフィルムは、動的粘弾性(DMA)測定において1Hzの周波数で測定した際に観測されるtanδの最も高いピーク温度が200℃以上であることが好ましい。より好ましくは、210℃以上であり、さらに好ましくは215℃以上である。tanδの最も高いピーク温度が200℃より低い場合、得られるポリアリーレンスルフィドフィルムの熱膨張係数が大きくなる場合があり好ましくない。tanδのピーク温度に上限は特に設けないが、ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)の押し出し温度である340℃を超えると、溶融粘度が高くなりすぎて溶融製膜できない場合があるため、実質的なtanδの上限値は340℃以下であることが好ましい。
【0041】
本発明におけるポリアリーレンスルフィドフィルムは、ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)中に分散相として存在する熱可塑性樹脂(B)の分散径において、長径と短径の比が1.05以上であることが好ましい。より好ましくは、2.00以上であり、さらに好ましくは3.50以上であり、最も好ましくは4.00以上である。長径と短径の比が1.05未満の場合、フィルム延伸時にポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の界面で剥離が生じ、破れなどが発生するかまたは得られた延伸フィルムの破断点伸度が低下する恐れがあるため好ましくない。長径と短径の比は大きいほどポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の相互作用が強いと考えられ、電気特性や熱特性、寸法安定性の向上に寄与するため好ましい。そのため、上限値は特に設けないが延伸倍率から想定するに長径と短径の比は20.00程度が実質的な上限値となると推定される。
【0042】
本発明におけるポリアリーレンスルフィドフィルムは、FT-IRで測定された1093cm-1の吸光度(I(1093cm-1))と1385cm-1の吸光度(I(1385cm-1))の比から算出される配向度パラメーター(Op=I(1093cm-1)/I(1385cm-1))において、長手方向の配向度パラメーター(OpM)と幅方向の配向度パラメータ-(OpT)が下記式を満たすことが好ましい。より好ましくは下記式(8)を満たし、さらに好ましくは下記式(9)を満たし、さらにより好ましくは下記式(10)を満たし、さらにより好ましくは下記式(11)を満たすことである。配向パラメーターが1.0以上の場合長手方向の熱収縮率が大きくなり、回路基板として使用する際のリフロー工程などでフィルムにシワが発生するため好ましくない。また、配向パラメーターが下記式(3)を満たすためには、本発明のポリアリーレンスルフィドフィルム中に化学式(1)に記載のうちいずれかの構造を有する熱可塑性樹脂(B)を含み、長手方向の延伸倍率よりも幅方向の延伸倍率を高めて2軸延伸し、その2軸配向フィルムを200℃以上の温度で熱処理して熱結晶化させることで達成することができる。ここで、OpM/OpTが1.00より大きい場合は、長手方向(搬送方向、MD方向)の配向の方が幅方向(TD方向)の配向よりも強いことを示し、OpM/OpTが1.00よりも小さい場合は幅方向(TD方向)の配向の方が長手方向(MD方向)の配向よりも強いことを示す。
(OpM/OpT)<1.00 ・・・(3)
(OpM/OpT)<0.95 ・・・(8)
(OpM/OpT)<0.92 ・・・(9)
(OpM/OpT)<0.90 ・・・(10)
(OpM/OpT)<0.85 ・・・(11)
本発明におけるポリアリーレンスルフィドフィルムは、熱可塑性樹脂(B)の平均分散径が0.5μmより大きいことが好ましい。より好ましくは分散径が0.8μm以上であり、さらに好ましくは1.0μm以上であることが好ましい。ここでいう平均分散径とは、該フィルムの断面を透過型電子顕微鏡(TEM)観察や走査電子顕微鏡(SEM)観察などによりその分散形態を確認し、新円状であればその円の直径を分散径とし、もし楕円や紡錘状などの変形した分散形態である場合は、その外接円の直径を分散径とすることができる。平均分散径を0.5μmより大きくするには、ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)のみから構成されるマスターペレットを作成し、それを用いて製膜することで達成される。なお、エポキシ基やイソシアネート基などの反応基末端を有する相溶化剤を添加することで、分散径を小径化する技術などが知られているが、相溶化剤を含有した場合、高温での長期耐久性が低下する場合があり好ましくない。
本発明におけるポリアリーレンスルフィドフィルムは、250℃で10分間熱処理した後の長手方向(搬送方向、MD方向)における熱収縮率が5.0%以下であることが好ましい。より好ましくは3.5%以下であり、さらに好ましくは2.5%以下であり、さらにより好ましくは1.0%以下であることが好ましい。熱収縮率が5.0%より大きい場合は、回路基板として使用する際のリフロー工程において、フィルムにシワが発生したりカールが発生したりする場合があり好ましくない。熱収縮率を5%以下とするためには、ポリアリーレンスルフィドフィルム中に化学式(1)に記載のうちいずれかの構造を有する熱可塑性樹脂(B)を含み、長手方向の延伸倍率よりも幅方向の延伸倍率を高めて2軸延伸し、その2軸配向フィルムを200℃以上の温度で熱処理して熱結晶化させることで達成することができる。さらに、220℃以上に昇温でき30N以下の張力でフィルムを搬送可能なオーブン内で得られた2軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを熱処理(アニール処理)することで、熱収縮率をさらに低減できる場合がある。220℃よりも低い温度では十分な熱処理が施されず、250℃での熱種収縮率が十分に低減できない場合があり好ましくない。また、搬送張力が30Nよりも大きい場合、熱処理中にフィルムに過剰な張力が加わりフィルムの面内にシワが発生したりする場合があり好ましくない。
【0043】
本発明におけるポリアリーレンスルフィドフィルムには、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素及びポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、着色用カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、可塑剤(p-オキシ安息香酸オクチル、N-ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系耐電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(例えば、赤燐、燐酸エステル、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、他の重合体(例えばポリアミドイミド、ポリアリレート、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリサルフォン、ポリフェニレンエーテル等の非晶性樹脂、エラストマー等)を添加することができる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下、実施例7~8、実施例15~17は、参考例7~8、参考例15~17と読み替えるものとする。
【0045】
本発明における物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0046】
(1)厚み
フィルムの厚みは先端直径4mmの円盤状であるダイヤルゲージ厚み計((株)ミツトヨ製)を用いて計測し、5点の平均値を厚みとして用いた。
【0047】
(2)熱膨張係数
熱膨張係数はJIS K7197-1991に準拠して250℃まで昇温した後の降温過程に於いて測定した。25℃、65RH%における初期試料長をL0、温度T1の時の試料長をL1、温度T2の時の試料長をL2とするとT1からT2の平均熱膨張係数を以下の式で求めた。
【0048】
なお、T2=100(℃)、T1=200(℃)、L0=20mmである。
【0049】
熱膨張係数(ppm/℃)=(((L2-L1)/L0)/(T2-T1))×106
昇温、降温速度:5℃/min
試料幅:4mm
荷重:29.4mN。
【0050】
(3)絶縁破壊電圧
フィルムを25cm×25cmの正方形に切り出し、23℃、65%Rhの室内で24時間調湿した後、JIS C2151(2006)に基づいて、交流絶縁破壊試験器(ヤマヨ試験器(有)製、YST-243-50R)を用いて、周波数60Hz、昇圧速度1000V/secで絶縁破壊電圧(BDV)(kV)を測定した。また、式(2)を満たす場合は「〇」とし、満たさない場合は「×」と評価した。
【0051】
(4)配向度(Q)
フィルムを5cm×5cmの正方形に切り出し、分子配向計(王子計測機器株式会社製、MOA-7015)を用いて測定し、配向度(Q)の最小値と最大値の平均値を値として採用した。
【0052】
(5)分散相の確認
フィルムを長手方向に平行かつフィルムに垂直な方向に切断し、凍結超薄切片法で断面試料を作成した。なお、長手方向が判断できない場合は、いずれかの方向を0°とし、フィルム面内に―90℃から90℃まで10°毎に方向を変えて測定し、最もヤング率の高い方向を長手方向とする。分散相のコントラストを明確にするために、オスミウム酸やルテニウム酸、リンタングステン酸などで染色しても良い。切断面を透過型電子顕微鏡(日立製HT7700)を用いて、加速電圧100kVの条件下で観察し、2000倍で写真を撮影し分散相の形状を確認した。得られた写真をイメージアナライザー(Leica MICROSYSTEMS社製Leica Application Suite LAS ver4.6)に画像として取り込み、任意の20個の分散相を選択し、各分散相の外接円をとりその直径の平均値を分散相の大きさとした。また、分散相の長径と短径を読み取りその比を算出した。
【0053】
(6)ガラス転移温度(Tg)・冷結晶化温度(Tcc)・溶融結晶化温度(Tmc)
フィルムを、JIS K-7121(1987)およびJIS K-7122(1987)に準じて、測定装置にはセイコー電子工業(株)製示差走査熱量測定装置“ロボットDSC-RDC220”を、データ解析にはディスクセッション“SSC/5200”を用いて、下記の要領にて測定した。
【0054】
(A)1st Run測定
サンプルパンにフィルムのサンプルを5mgずつ秤量し、昇温速度は20℃/minで樹脂を25℃から350℃まで20℃/分の昇温速度で加熱し、その状態で5分間保持し、次いで25℃以下となるよう急冷した。
【0055】
(B)2nd Run
1st Run測定が完了した後、直ちに引き続いて、再度25℃から20℃/分の昇温速度で350℃まで昇温を行って、その状態を5分間保持し測定を行った。得られた2ndRUNの示差走査熱量測定チャートにおいて、ガラス転移温度(Tg)は、JIS K-7121(1987)に記載の方法に基づいて中間点ガラス転移温度を求めた(各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線とガラス転移の階段状の変化部分の曲線とが交わる点から求めた)。ガラス転移温度が複数存在する場合は、全てにおいて上記処理を実施し、その中から最も低いガラス転移温度をTg1、最も高いガラス転移温度をTg2とした。
【0056】
(C)3rd Run
また、2nd Run測定が完了した後、直ちに引き続いて、350℃から20℃/分の降温速度で25℃まで降温を行って測定を行った。得られた3rd Runの示差走査熱量測定チャートにおいて、結晶化ピークのピークトップの温度でもって溶融結晶化温度(Tmc)とした。
【0057】
(7)破断点伸度・破断点強度・ヤング率
フィルムの破断伸度はASTM-D882(1997)に基づいて、サンプルをフィルムの長手方向(MD)および幅方向(TD)に沿って1cm×20cmの大きさに切り出し、チャック間5cm、引っ張り速度300mm/minにて引っ張ったときの破断伸度およびヤング率を測定した。なお、測定は各サンプルについて5回ずつ行い、それらの平均値でもって、それぞれ破断伸度、強度およびヤング率とした。なお、長手方向が判断できない場合は、いずれかの方向を0°とし、フィルム面内に―90℃から90℃まで10°毎に方向を変えて測定を行い、最もヤング率の高い方向を長手方向とし、その直交方向を幅方向(TD)とした。
【0058】
(8)長期耐熱性試験
200℃に設定したADVANTEK社製のオーブン(DRV420DA)中にフィルムを1cm×20cmの長さの短冊状にサンプリングしたものを1000hr静置し、熱処理されたフィルムの破断点強度を(7)と同様の方法で測定した。破断点強度の保持率については下記式において算出し、さらに、MD方向とTD方向の平均値を破断点伸度保持率とした。
破断点強度保持率(%)=(加熱後の破断点強度)/(加熱前の破断点強度)×100。
【0059】
(9)tanδピーク温度
株式会社 日立ハイテクサイエンス社製DMS6100を使用し、下記の条件で動的粘弾性測定を実施し、最も高いtanδピークを読み取った。
・昇温速度:2℃/min
・開始温度:25℃
・終了温度:240℃
・保持時間:5min
・測定周波数:1Hz。
【0060】
(10)FT-IRによる配向パラメーター測定
FT-IRは(株)パーキンエルマー製の装置(Spectrometer Frontier、Microscope Spotlight 400、Stage Controller)を用いて下記条件で測定した。また、測定の際にはワイヤーグリッドの偏光板を装置に挿入して測定した。試料はステージX軸(奥行方向)方向に対して0°の向きをMD方向となるようにサンプルをセットし、得られた値を長手方向(MD方向)のスペクトルとした。MD方向測定の際のサンプルセット位置から、90°フィルムを回転させてサンプルセットし得られた値を幅方向(TD方向)のスペクトルとした。
・測定モード:顕微-ATRモード
・測定波数:750~4000cm-1
・積算回数:16回
・偏光板方向:0°
上記の測定で得られたスペクトルから、1093cm-1の吸光度(I(1093cm-1))と1385cm-1の吸光度(I(1385cm-1))を用いて、次式から配向度パラメーター(Op)を算出した。MD方向のスペクトルから得られた配向パラメーターをOpMとし、TD方向のスペクトルから得られた配向パラメーターをOpTとした。
Op=I(1093cm-1)/I(1385cm-1)
(11)熱収縮率
フィルムを10mm×150mmの短冊状にサンプリングし、中央100mmの部分に印を付け、顕微鏡を用いて印間の長さを測定した(初期長さ:L0(mm))。次いで、フィルムに3gの重りを吊るし250℃に昇温した状態の熱風オーブンで10分間熱処理し、上記と同様にして印間の長さを測定した(熱処理後長さ:L1(mm))。得られた、L0およびL1を用いて下記式から、熱収縮率を算出した。なお、長手(MD)方向および幅(TD)方向共に測定した。
熱収縮率(%)=(L0-L1)/L0×100。
【0061】
(参考例1)ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)の作製
オートクレーブに、47%水硫化ナトリウム9.44kg(80モル)、96%水酸化ナトリウム3.43kg(82.4モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)13.0kg(131モル)、酢酸ナトリウム2.86kg(34.9モル)、及びイオン交換水12kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら235℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水17.0kgおよびNMP0.3kg(3.23モル)を留出したのち、反応容器を160℃に冷却した。硫化水素の飛散量は2モルであった。
【0062】
次に、主要モノマーとしてp-ジクロロベンゼン(p-DCB)11.5kg(78.4モル)、副成分モノマーとして1,2,4-トリクロロベンゼン 0.007kg(0.04モル)、を加え、NMP22.2kg(223モル)を追添加して反応容器を窒素ガス下に密封し、400rpmで撹拌しながら、200℃から270℃まで0.6℃/分の速度で昇温した。270℃で30分経過後、水1.11kg(61.6モル)を10分かけて系内に注入し、270℃で更に反応を100分間継続した。その後、水1.60kg(88.8モル)を系内に再度注入し、240℃まで冷却した後、210℃まで 0.4℃/分の速度で冷却し、その後室温近傍まで急冷した。内容物を取り出し、32リットルのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別した。得られた粒子を再度38リットルのNMPにより85℃で洗浄した。その後67リットルの温水で5回洗浄、濾別し、0.05重量%酢酸カルシウム水溶液70,000gで5回洗浄、濾別し、PPSポリマー粒子を得た。これを、60℃で熱風乾燥し、120℃で20時間減圧乾燥することによって白色のポリフェニレンスルフィド粉末を得た。得られたポリフェニレンスルフィド樹脂は、ガラス転移温度が91℃、融点が280℃、溶融結晶化温度が188℃であった。
【0063】
(参考例2)ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)のマスターペレット作製。
ニーディングパドル混練部を1箇所設けた同方向回転タイプのベント式二軸混練押出機を320℃に加熱し、フィード口から参考例1で得たポリアリーレンスルフィド系樹脂を80質量部、ポリフェニルスルホン(PPSU:ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社、レーデル R5800-NT)を20質量部となるように供給し、スクリュー回転数200rpmで溶融混練後、ストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングして、PPSUを20質量部含有するマスターペレットを作製した。
【0064】
(参考例3)ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)のマスターペレット作製。
ニーディングパドル混練部を1箇所設けた同方向回転タイプのベント式二軸混練押出機を320℃に加熱し、フィード口から参考例1で得たポリアリーレンスルフィド系樹脂を80質量部、ポリスルホン(PSU:ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社、ユーデル P1700)を20質量部となるように供給し、スクリュー回転数200rpmで溶融混練後、ストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングして、PSUを20質量部含有するマスターペレットを作製した。
【0065】
(参考例4)ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)のマスターペレット作製。
ニーディングパドル混練部を1箇所設けた同方向回転タイプのベント式二軸混練押出機を320℃に加熱し、フィード口から参考例1で得たポリアリーレンスルフィド系樹脂を80質量部、ポリエーテルスルホン(PES:ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社、ベラデル A201)を20質量部となるように供給し、スクリュー回転数200rpmで溶融混練後、ストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングして、PESを20質量部含有するマスターペレットを作製した。
【0066】
(実施例1)
参考例1で得られたポリアリーレンスルフィド系樹脂を95質量部と参考例2で得られたマスターペレット5質量部をドライブレンドした後に、180℃で3時間真空乾燥した。次いで、押出機に供給し、窒素雰囲気下、320℃の温度で溶融させ、Tダイ口金に導入した。次いで、Tダイ口金内より、シート状に押出して溶融単層シートとし、該溶融単層シートを、3.0m/minで回転している、表面温度25℃に保たれたキャストドラム上に静電印加法で密着冷却固化させながらキャストし、未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを加熱された複数のロール群からなる縦延伸機を用い、ロールの周速差を利用して延伸温度102℃でフィルムの長手方向に3.3倍の倍率で延伸した。その後、フィルムの両端部をクリップで担持して、テンターに導き延伸温度100℃でフィルムの幅方向に3.4倍の倍率で延伸した。引き続いて280℃で熱処理を行った後、5%弛緩処理を行い、室温まで冷却した後、フィルムエッジを除去し、厚み29μmのポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および特性を表1に示す。
【0067】
(実施例2~6)
PPSUの添加量が表1となる様に参考例2で作成したマスターペレットを添加し、延伸条件を表1に示した倍率に変更した以外は、実施例1と同様の方法にてそれぞれポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および特性を表1に示す。
【0068】
(実施例7~8)
PPSUの添加量が表1となる様に参考例2で作成したマスターペレットを添加し、参考例1で得られたポリアリーレンスルフィド系樹脂とドライブレンドした後に、180℃で3時間真空乾燥した。次いで、押出機に供給し、窒素雰囲気下、320℃の温度で溶融させ、Tダイ口金に導入した。次いで、Tダイ口金内より、シート状に押出して溶融単層シートとし、該溶融単層シートを、5.0m/minで回転している、表面温度25℃に保たれたキャストドラム上に静電印加法で密着冷却固化させながらキャストし、未延伸フィルムを得た。得られたフィルムの物性および特性を表1に示す。
【0069】
(実施例9~12)
PPSUの添加量が表1となる様に参考例1で作成したポリアリーレンスルフィド系樹脂と参考例2で作成したマスターペレットを添加し、延伸条件を表1に示した条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法にてそれぞれポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および特性を表1に示す。
【0070】
(実施例13~14)
PPSUの添加量が表1となる様に参考例1で作成したポリアリーレンスルフィド系樹脂と参考例2で作成したマスターペレットを添加し、延伸条件を表1に示した条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法にてポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。次いで、得られたフィルムを、250℃に昇温されたオーブン内を10Nの張力でフィルムを搬送しながら2min間アニール処理を施した。得られたフィルムの物性および特性を表1に示す。
【0071】
(実施例15)
PSUの添加量が表1となる様に参考例1で作成したポリアリーレンスルフィド系樹脂と参考例3で作成したマスターペレットを添加し、延伸条件を表1に示した条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法にてそれぞれポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および特性を表1に示す。
【0072】
(実施例16)
実施例15で作成したフィルムを実施例13と同条件でアニール処理を行いポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および特性を表1に示す。
【0073】
(実施例17)
PESの添加量が表1となる様に参考例1で作成したポリアリーレンスルフィド系樹脂と参考例4で作成したマスターペレットを添加し、延伸条件を表1に示した倍率に変更した以外は、実施例1と同様の方法にてそれぞれポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。得られたフィルムについて、実施例13と同条件でアニール処理を行いポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および特性を表1に示す。
【0074】
(比較例1)
参考例1で得られたポリアリーレンスルフィド系樹脂100質量部を180℃で3時間真空乾燥した。次いで、押出機に供給し、窒素雰囲気下、320℃の温度で溶融させ、Tダイ口金に導入した。次いで、Tダイ口金内より、シート状に押出して溶融単層シートとし、該溶融単層シートを、3.0m/minで回転している、表面温度25℃に保たれたキャストドラム上に静電印加法で密着冷却固化させながらキャストし、未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを加熱された複数のロール群からなる縦延伸機を用い、ロールの周速差を利用して延伸温度102℃でフィルムの長手方向に3.3倍の倍率で延伸した。その後、フィルムの両端部をクリップで担持して、テンターに導き延伸温度100℃でフィルムの幅方向に3.4倍の倍率で延伸した。引き続いて280℃で熱処理を行った後、5%弛緩処理を行い、室温まで冷却した後、フィルムエッジを除去し、厚み28μmのポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および特性を表1に示す。
【0075】
【0076】
【符号の説明】
【0077】
1:ポリアリーレンスルフィド系樹脂
2:熱可塑性樹脂(B)