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特許7272270エアバッグ用ノンコート基布、エアバッグおよびエアバッグ用ノンコート基布の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】エアバッグ用ノンコート基布、エアバッグおよびエアバッグ用ノンコート基布の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D03D 1/02 20060101AFI20230502BHJP
   D06C 7/02 20060101ALI20230502BHJP
   B60R 21/235 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
D03D1/02
D06C7/02
B60R21/235
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019550272
(86)(22)【出願日】2019-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2019033551
(87)【国際公開番号】W WO2020059443
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2018174652
(32)【優先日】2018-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】保坂 太紀
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104278392(CN,A)
【文献】特開2014-181430(JP,A)
【文献】特開2013-040415(JP,A)
【文献】特開2008-081873(JP,A)
【文献】特開平09-105047(JP,A)
【文献】国際公開第2013/084322(WO,A1)
【文献】米国特許第05540965(US,A)
【文献】英国特許出願公開第01169907(GB,A)
【文献】特開2007-162187(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 1/00-27/18
B60R 21/16-21/33
D06C 3/00-29/00
D06G 1/00-5/00
D06H 1/00-7/24
D06J 1/00-1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド繊維からなり、基布緯糸方向に20cm毎に測定した(A)~(C)の通気度のCV値が、下記要件を満たし、
基布緯糸方向に20cm毎に測定した引張強力のCV値が1.5%以下、かつ引裂強力のCV値が3.0%以下である、エアバッグ用ノンコート基布。
(A)ASTM D6476法による動的通気度のCV値が6.0%以下。
(B)ASTM D3886法による500Pa差圧における通気度のCV値が10.0%以下。
(C)JIS L 1096による20KPa差圧における通気度のCV値が10.0%以下。
【請求項2】
基布緯糸方向に20cm毎に測定した引張強力のCV値が1.5%以下、かつ引裂強力のCV値が3.0%以下である、請求項1記載のエアバッグ用ノンコート基布。
【請求項3】
アバッグ用ノンコート基布を製造する方法であり、
前記エアバッグ用ノンコート基布は、ポリアミド繊維からなり、基布緯糸方向に20cm毎に測定した(A)~(C)の通気度のCV値が、下記要件を満たし、
熱セット工程と、前記熱セット工程の前に、基布表面温度を調整する工程とを有し、
前記基布表面温度を40~70℃に調整した後に、前記熱セット工程を施す、エアバッグ用ノンコート基布の製造方法。
(A)ASTM D6476法による動的通気度のCV値が6.0%以下。
(B)ASTM D3886法による500Pa差圧における通気度のCV値が10.0%以下。
(C)JIS L 1096による20KPa差圧における通気度のCV値が10.0%以下。
【請求項4】
請求項1または2記載のエアバッグ用ノンコート基布が縫製された、エアバッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ用ノンコート基布、エアバッグおよびエアバッグ用ノンコート基布の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、基布緯糸方向の通気度が均一であるエアバッグ用ノンコート基布、該エアバッグ用ノンコート基布が縫製されたエアバッグ、および該エアバッグ用ノンコート基布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両衝突時における乗員の安全を確保するために、車両には、各種エアバッグが装着されつつある。各種エアバッグとしては、運転者保護用、助手席者保護用、膝保護用、座席シートに内蔵された胸部保護用、窓上部の天井内に装着された頭部保護用等が例示される。主にノンコート基布が用いられる運転者保護用、助手席保護用エアバッグには、エアバッグの内圧を調整する通気孔(ベントホール)が具備され、内圧を適正に調整・維持するように意図されている。しかしながら、ノンコート基布の通気度にバラツキがある場合、該ベントホールにて所定の内圧に調整・維持できない懸念がある。そのため、エアバッグに用いる基布には、均一な通気度が求められている。
【0003】
また、エアバッグは、展開した際に、高圧な空気が高速で付与される。そのため、エアバッグは、従来の低圧・定圧下での通気度に加え、動的通気度、高圧通気度などの基布形態が変化するような形態においても、均一な通気度であることが求められている。
【0004】
さらに、エアバッグは展開した際の衝撃やバッグ内圧により破裂しない性質(耐バースト性)が求められる。そのため、基布は、耐バースト性の優れたエアバッグを得るために、均一な機械特性(引張強力、引裂強力等)を備える必要がある。
【0005】
均一な通気度および機械特性を得る方法として、たとえば、特許文献1には、ローラーセット工程とテンターセット工程を併用した工程にて加工したポリエステルフィラメントからなる基布が提案されている。また、均一な通気度と燃焼性を達成する手段として、特許文献2には、ローラー収縮セット工程を通して仕上げた織物が提案されている。さらに、特許文献3には、製織時のタテ糸張力を幅方向で一定に保つことにより、クリンプ率を均一化し、均一な通気度を得る方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-8344号公報
【文献】特開平9-105047号公報
【文献】特開2008-81873号公報
【発明の概要】
【0007】
特許文献1に開示された技術は、ローラーセット工程とテンターセット工程を併用しているため高コストである。また、特許文献1に開示された技術は、織物表面状態を変化させて通気度を均一化させているため、高圧通気度や動的通気度のような基布表面状態を変化させる通気度形態において、均一な通気度を達成することができない。また、特許文献1に開示された技術は、機械強度の均一性に関する言及はない。また、特許文献2に開示された技術は、ローラーセット工程を通して収縮加工している。そのため、特許文献2に開示された技術は、幅方向の機械強度均一性が充分でない。また、特許文献2に開示された技術は、高圧通気度や動的通気度のような基布表面状態を変化させる通気度形態において、均一な通気度を達成することができない。さらに、特許文献3に開示された技術は、高密度で製織した基布に関する技術であり、低密度で製織した基布には適用できない。また、特許文献3には、機械強度の均一性に関する言及はない。
【0008】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたものであり、通気度の均一性かつ、機械特性の均一性に優れるエアバッグ用ノンコート基布、該エアバッグ用ノンコート基布が縫製されたエアバッグ、および該エアバッグ用ノンコート基布の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
上記課題を解決する本発明のエアバッグ用ノンコート基布は、ポリアミド繊維からなり、基布緯糸方向に20cm毎に測定した(A)~(C)の通気度のCV値が、下記要件を満たすことを特徴とするエアバッグ用ノンコート基布である。
(A)ASTM D6476法による動的通気度のCV値が6.0%以下。
(B)ASTM D3886法による500Pa差圧における通気度のCV値が10.0%以下。
(C)JIS L 1096による20KPa差圧における通気度のCV値が10.0%以下。
【0010】
また、上記課題を解決する本発明のエアバッグ用ノンコート基布の製造方法は、上記エアバッグ用ノンコート基布を製造する方法であり、熱セット工程と、前記熱セット工程の前に、基布表面温度を調整する工程とを有し、前記基布表面温度を40~70℃に調整した後に、前記熱セット工程を施す、エアバッグ用ノンコート基布の製造方法である。
【0011】
さらに、上記課題を解決する本発明のエアバッグは、上記エアバッグ用ノンコート基布が縫製された、エアバッグである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[エアバッグ用ノンコート基布]
本発明の一実施形態のエアバッグ用ノンコート基布(以下、単に基布ともいう)は、ポリアミド繊維が製織された織物である。また、本実施形態の基布は、基布緯糸方向に20cm毎に測定した(A)~(C)の通気度のCV値が、下記要件を満たす。
(A)ASTM D6476法による動的通気度のCV値が6.0%以下。
(B)ASTM D3886法による500Pa差圧における通気度のCV値が10.0%以下。
(C)JIS L 1096による20KPa差圧における通気度のCV値が10.0%以下。
(ポリアミド繊維が製織された織物)
【0013】
ポリアミド繊維は、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン12、ナイロン46や、ナイロン6とナイロン6,6との共重合ポリアミド、ナイロン6にポリアルキレングリコール、ジカルボン酸、アミン等を共重合させた共重合ポリアミド等からなる繊維等が例示される。ポリアミド繊維は、得られるエアバッグの耐衝撃性が優れる点から、ナイロン6またはナイロン6,6からなる繊維であることが好ましい。
【0014】
本実施形態において、ポリアミド繊維の総繊度は、特に限定されない。一例を挙げると、ポリアミド繊維の総繊度は、235dtex以上であることが好ましく、280dtex以上であることがより好ましい。また、ポリアミド繊維の総繊度は、940dtex以下であることが好ましく、700dtex以下であることがより好ましい。ポリアミド繊維の総繊度が上記範囲内であることにより、得られるエアバッグは、必要な機械的特性(引張強力や引裂強力等)が得られやすい。また、得られる基布は、軽量性やコンパクト性が優れる。なお、ポリアミド繊維の総繊度は、JIS L1013(1999) 8.3.1 A法に基づいて算出し得る。
【0015】
また、ポリアミド繊維の単繊維繊度は、特に限定されない。一例を挙げると、ポリアミド繊維の単繊維繊度は、1dtex以上であることが好ましく、1.5dtex以上であることがより好ましく、2dtex以上であることがさらに好ましい。また、ポリアミド繊維の単繊維繊度は、8dtex以下であることが好ましく、7dtex以下であることがより好ましい。ポリアミド繊維は、単繊維繊度を1dtex以上とすることにより、製造時の単繊維切れをより抑えやすく、製造されやすい。また、ポリアミド繊維は、単繊維繊度を8dtex以下とすることにより、得られる経糸や緯糸の柔軟性が向上する。なお、ポリアミド繊維の単繊維繊度は、総繊度をフィラメント数で除することにより算出し得る。また、フィラメント数は、JIS L1013(1999) 8.4の方法に基づいて算出し得る。
【0016】
ポリアミド繊維の単繊維の断面形状は、特に限定されない。一例を挙げると、単繊維の断面形状は、円形であってもよく、Y型、V型、扁平型等の各種非円形であってもよく、中空部を有するものであってもよい。これらの中でも、単繊維の断面形状は、製糸性の点から、円形であることが好ましい。
【0017】
ポリアミド繊維全体の説明に戻り、本実施形態のポリアミド繊維の引張強度は、8.0cN/dtex以上であることが好ましく、8.4cN/dex以上であることがより好ましい。ポリアミド繊維の引張強度が上記範囲内であることにより、得られる基布は、充分な機械的特性(引張強力や引裂強力等)が得られやすい。なお、引張強度の上限は特に限定されない。なお、ポリアミド繊維の引張強度は、JIS L1013(1999) 8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定することにより算出し得る。
【0018】
ポリアミド繊維の伸度は、20%以上であることが好ましく、21%以上であることがより好ましい。また、ポリアミド繊維の伸度は、25%以下であることが好ましく、24%以下であることがより好ましい。ポリアミド繊維の伸度が上記範囲内である場合、得られる織物は、タフネス性、破断仕事量が優れる。また、上記範囲内の伸度を示すポリアミド繊維は、製糸性および製織性が向上し得る。なお、ポリアミド繊維の伸度は、上記引張強度を算出する際に得られるS-S曲線における最大強力を示した点の伸びに基づいて算出し得る。
【0019】
ポリアミド繊維は、紡糸工程、延伸工程、加工工程における生産性、または、得られる織物の特性を改善するために、適宜、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、可塑剤、増粘剤、顔料、難燃剤等の添加剤が配合されてもよい。
【0020】
基布全体の説明に戻り、本実施形態の基布は、基布緯糸方向に20cm毎に測定したASTM D6476法による動的通気度のCV値が6.0%以下、ASTM D3886法による500Pa差圧における通気度のCV値が10.0%以下、20KPa差圧における通気度のCV値が10.0%以下である。それぞれの通気度において、上記したそれぞれのCV値を超えると、エアバッグに用いる基布の裁断位置により、内圧性能にバラツキが生じ得る。また、本実施形態の基布は、上記3種の通気度において高い均一性を持つ。いずれかの通気度が均一でない場合、エアバッグクッションの大きさやインフレータの種類、乗員の加速度差異等により、内圧性能のバラツキが生じる虞がある。なお、CV値は、通常、基布の全幅方向で測定して算出し得る。基布の幅が小さい場合は、測定点が少なくとも5点以上あればよい。
【0021】
本実施形態の基布のASTM D6476法による動的通気度は、700mm/s以下が好ましく、600mm/s以下であるとより好ましい。動的通気度が上記範囲内であることにより、エアバッグに必要な内圧性能が得られやすい。
【0022】
本実施形態の基布のASTM D3886法による500Pa差圧における通気度は、3.0L/dm2/min以下が好ましく、2.5L/dm2/min以下であるとより好ましい。500Pa差圧における通気度が上記範囲内であることにより、エアバッグに必要な内圧性能が得られやすい。
【0023】
本実施形態の基布のJIS L 1096(1999)による20KPa差圧における通気度は、1.5L/cm2/min以下が好ましく、1.2L/dm2/min以下であるとより好ましい。20KPa差圧における通気度が上記範囲内であることにより、エアバッグに必要な内圧性能が得られやすい。
【0024】
本実施形態の基布は、基布緯糸方向に20cm毎に測定した引張強力のCV値が1.5%以下であることが好ましく、引裂強力のCV値が3.0%以下であることが好ましい。それぞれの強力において、上記CV値を満たすことにより、エアバッグに用いる基布の裁断位置により、乗員拘束性能にバラツキが生じにくい。なお、引張強力はJIS K 6404-3(1999)による引張強力、引裂強力はJIS K 6404-4(1999)による引裂強力である。
【0025】
本実施形態の基布の引張強力は、経方向および緯方向ともに600N/cm以上であることが好ましく、625N/cm以上であることがより好ましく、650N/cm以上であることがさらに好ましい。引張強力の上限は特に限定されない。引張強力が上記範囲内であることにより、得られるエアバッグは、展開時に必要な機械的強度が得られやすい。
【0026】
本実施形態の基布の引裂強力は、経方向および緯方向ともに100N以上であることが好ましく、125N以上であることがより好ましい。引裂強力の上限は特に限定されない。引裂強力が上記範囲内であることにより、得られるエアバッグは、展開時に必要な機械的強度が得られやすい。
【0027】
基布は、目付けが220g/m2以下であることが好ましく、215g/m2以下であることがより好ましい。基布の目付けが上記範囲内であることにより、得られるエアバッグは重量が大きくなりすぎず、適切である。ところで、基布の軽量化は、自動車の燃費とも直結する。そのため、目付けの下限は低ければ低いほどよい。一方、目付けの下限は、要求される耐熱容量の点から、150g/m2以上であることが好ましい。なお、目付けは、JIS L 1096(1999) 8.4.2に基づいて算出し得る。
【0028】
基布は、厚みが0.35mm以下であることが好ましく、0.33mm以下であることがより好ましい。基布の厚みが上記範囲内である場合、エアバッグが装着される車両は、乗員スペースが確保されやすい。また、車両は、車内の意匠性の自由度が高められやすい。厚みが0.35mmを超える場合、基布は、コンパクト性が低下する傾向がある。
【0029】
[エアバッグ]
本発明の一実施形態のエアバッグは、上記実施形態の基布(エアバッグ用ノンコート基布)が縫製されたエアバッグである。本実施形態のエアバッグは、従来公知の方法により製造し得る。すなわち、エアバッグは、たとえば基布を袋状に縫製し、インフレータなどの付属機器を取り付けられることにより製造される。
【0030】
エアバッグを構成する基布は、上記実施形態により詳述したとおり、基布緯糸方向の通気度および引張強力、引裂強力の均一性に優れる。そのため、本実施形態のエアバッグは、基布の裁断位置によらず、均一な内圧保持性能・乗員拘束性能が得られる。そのため、エアバッグは、運転者保護用、助手席者保護用、膝保護用、座席シートに内蔵された胸部保護用、窓上部の天井内に装着された頭部保護用等として有用である。
【0031】
[エアバッグ用ノンコート基布の製造方法]
本発明の一実施形態のエアバッグ用ノンコート基布の製造方法(以下、単に基布の製造方法ともいう)は、上記実施形態の基布(エアバッグ用ノンコート基布)の製造方法である。基布の製造方法は、熱セット工程と、熱セット工程の前に、基布表面温度を調整する工程(余熱工程)とを有する。余熱工程は、基布表面温度を40~70℃に調整する工程である。なお、以下に示される他の工程は、いずれも例示であり、公知の他の工程に適宜置き換えられてもよい。
【0032】
本実施形態によれば、まず、基布に関連して上記した経糸が整経され、織機に設置される。同様に緯糸が織機に設置される。織機は、特に限定されない。織機は、ウォータージェットルーム、エアジェットルーム、レピアルーム等が例示される。これらの中でも、高速製織が比較的容易であり、生産性を高めやすい点から、織機は、ウォータージェットルームが好ましい。経糸および緯糸は、いずれも同じ種類のポリアミド繊維であることが好ましい。また、経糸および緯糸は、いずれも同じ織密度となるよう製織されることが好ましい。なお、本実施形態において、「同じ種類のポリアミド繊維」とは、ポリマー種類、総繊度、物理特性が同等な繊維であることを意味する。また、「織密度が同じ」とは、製織後の経糸および緯糸の織密度の差が、1.5本以内であることを意味する。なお、織密度は、JIS L 1096(1999) 8.6.1に基づいて算出し得る。
【0033】
製織の条件は、特に限定されない。一例を挙げると、製織は、経糸張力が60~100cN/本に調整して行われることが好ましい。経糸張力が上記範囲内である場合、緯糸が打ち込まれる際に、張力の加えられた経糸が扁平形状化し、通気度を低くコントロールできる。経糸張力が60cN/本以上の場合、経糸が緯糸を拘束する力が適切であり、所定の密度を達成しやすい。また、経糸張力が100cN/本以下の場合、低い通気度が得られる、かつ、経糸に擦過による毛羽等が発生しにくく、優れた生産性が維持されやすい。
【0034】
経糸張力を調整する方法は特に限定されない。一例を挙げると、経糸張力は、織機の経糸送り出し速度を調整する方法、緯糸の打ち込み速度を調整する方法等により調整し得る。なお、経糸張力が上記範囲であるかどうかは、たとえば織機稼動中に経糸ビームとバックローラーの中央部分とにおいて、経糸1本当たりに加わる張力を張力測定器で測ることにより、確認し得る。
【0035】
本実施形態の基布の製造方法において、製織における開口タイミングは、330度以上であることが好ましい。また、開口タイミングは、0度(360度)以下であることが好ましく、340度以下であることがより好ましい。開口タイミングが上記範囲内である場合、製織時の緯糸の張力が均一になり、均一な引張強力が得られやすい。開口タイミングが330度以上である場合、緯糸の張力が均一になり、引張強力のバラツキが生じにくい。一方、開口タイミングが0度以下である場合、緯糸の拘束が充分に行われ、製織性が優れる。なお、本実施形態において、「開口タイミング」とは、筬の運動1往復(織機1回転)を360度とし、各タイミングを0~360度の間で表したものである。タイミング0度(360度)は、筬が織前側最も前方へ移動したタイミングをいう。
【0036】
製織が終わると、得られた織物は、必要に応じて、精練加工が施される。精練工程では、織物は、たとえば複数の槽に入れられ、水洗される。その際、精練剤(たとえば非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤)が適宜配合される。各槽の水温は、好適には40~70℃程度である。これにより、精練剤が活性化され、織糸に付着した油剤やワックス等が効率的に除去され得る。
【0037】
本実施形態の基布の製造方法においては、得られた織物に熱セット前の余熱工程が行われる。熱セット前の余熱工程では、基布表面温度が40~70℃に調整され、42~69℃に調整されることがより好ましい。また、表面温度の基布緯糸方向のCV値は0.04%以下であることが好ましい。熱セット前の基布温度が上記範囲内である場合、基布緯糸方向の基布構造が均一になり、ひいては通気度および機械強度をより均一にすることができる。なお、熱セット工程前の余熱工程は、特に限定はされない。余熱工程は、熱風乾燥機、サクションドラム乾燥機、ノンタッチドライヤー等により実施され得る。
【0038】
ここで、緯糸方向の物性バラツキについて述べる。基布緯糸方向の物性バラツキとは、すなわち基布構造のバラツキに由来し、基布構造のバラツキは、基布を構成する繊維の扁平度、緊張状態、拘束状態、クリンプ率等に影響される。これら基布構造を決める因子は、一般的に、繊維のガラス転移点を超えた状態で、熱セット加工を施すことで変化せしめることができる。該技術背景から、従来の加工工程においても、熱セット時間を延ばす、熱セット温度を高くする等の方法により、均一な通気度は得られることが見出されていた。しかしながら、このような従来の方法によれば、過度な熱収縮により、幅方向の均一な強度は得られず、また、過度な熱セットにより繊維が収縮し、所定の通気度を得るには至っていなかった。本発明者は、このような状況を鑑み、各種試験を繰り返した結果、熱セット工程前に、さらに余熱工程を施すことにより、本実施形態の基布に、より均一な通気度特性および機械特性を付与し得ることを見出した。
【0039】
熱セット前の余熱工程の後、基布表面温度が調整された基布に熱セット加工が施されてもよい。熱セット温度は、特に規定はされない。一例を挙げると、熱セット温度は120~200℃であることが好ましく、熱セット時間は30~40秒程度が好ましい。また、熱セット時の経糸方向の張力は0.1~0.5kg/cm、熱セット時の緯糸方向の張力は0.1~0.3kg/cmであることが好ましい。熱セット工程に用いる機器は、特に限定されない。一例を挙げると、熱セット工程に用いる機器は、幅方向の基布収縮をコントロールできる、ピンテンター、クリップテンターなどである。
【0040】
以上により得られた基布は、基布緯糸方向の通気度、機械強度の均一性に優れる。そのため、基布は、裁断位置によらず均一な内圧特性、乗員拘束性能を達成することができるため、エアバッグ用の基布として特に有用である。
【0041】
以上、本発明の一実施形態について説明した。本発明は、上記実施形態に格別限定されない。なお、上記した実施形態は、以下の構成を有する発明を主に説明するものである。
【0042】
(1)ポリアミド繊維からなり、基布緯糸方向に20cm毎に測定した(A)~(C)の通気度のCV値が、下記要件を満たすことを特徴とするエアバッグ用ノンコート基布。
(A)ASTM D6476法による動的通気度のCV値が6.0%以下。
(B)ASTM D3886法による500Pa差圧における通気度のCV値が10.0%以下。
(C)JIS L 1096による20KPa差圧における通気度のCV値が10.0%以下。
【0043】
(2)基布緯糸方向に20cm毎に測定した引張強力のCV値が1.5%以下、かつ引裂強力のCV値が3.0%以下である、(1)記載のエアバッグ用ノンコート基布。
【0044】
(3)(1)または(2)記載のエアバッグ用ノンコート基布を製造する方法であり、熱セット工程と、前記熱セット工程の前に、基布表面温度を調整する工程とを有し、前記基布表面温度を40~70℃に調整した後に、前記熱セット工程を施す、エアバッグ用ノンコート基布の製造方法。
【0045】
(4)(1)~(3)のいずれかに記載のエアバッグ用ノンコート基布が縫製された、エアバッグ。
【実施例
【0046】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。なお、以下の実施例において、それぞれの特性値は、以下の方法により算出した。
【0047】
<特性値の算出方法>
(総繊度)
総繊度は、JIS L1013(1999) 8.3.1 A法により、所定荷重0.045cN/dtexで正量繊度を測定することにより算出した。
(フィラメント数)
フィラメント数は、JIS L1013(1999) 8.4の方法に基づいて算出した。
(単繊維繊度)
単繊維繊度は、総繊度をフィラメント数で除することにより算出した。
(フィラメントの引張強度および伸度)
引張強度および伸度は、JIS L1013(1999) 8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定することにより算出した。その際、オリエンテック社製“テンシロン”(TENSILON)UCT-100を用い、掴み間隔を25cmとし、引張速度を30cm/分に設定した。なお、伸度は、S-S曲線における最大強力を示した点の伸びに基づいて算出した。
(織密度)
経糸および緯糸のそれぞれの織密度は、JIS L 1096(1999) 8.6.1に基づいて算出した。具体的には、試料を平らな台上に置き、不自然なしわや張力を除いて、基布片端から20cm毎に2.54cmの区間の経糸および緯糸の本数を数え、それぞれの平均値を算出した。なお、CV値は上記20cm毎に採取したデータの標準偏差を平均値で除し、100を掛けて算出した。
(目付け)
目付けは、JIS L 1096(1999) 8.4.2に基づき、20cm×20cmの試験片を基布片端から20cm毎に採取し、それぞれの質量(g)を量り、その平均値を1m2当たりの質量(g/m2)に換算することにより算出した。なお、CV値は上記20cm毎に採取したデータの標準偏差を平均値で除し、100を掛けて算出した。
(厚み)
厚みは、JIS L 1096(1999) 8.5 A法に基づき、基布片端から20cm毎に、直径が1.05cmの円形の測定子の厚さ測定機を用いて、1.0kPaの加圧下、厚さを落ち着かせるために10秒間待った後に厚さを測定した。なお、CV値は上記20cm毎に採取したデータの標準偏差を平均値で除し、100を掛けて算出した。
(基布表面温度)
基布表面温度は、Fluke社製放射温度計を用いて、基布緯糸方向の5カ所を5回測定し、その平均値を算出した。
【0048】
<実施例1>
(糸の準備)
経糸および緯糸として、ナイロン6,6からなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度が6.52dtexの単繊維72フィラメントで構成され、総繊度470dtexであり、引張強度が8.4cN/dtex、伸度が23.5%であり、無撚りの合成繊維フィラメントを準備した。
(製織)
上記の糸を経糸および緯糸として使用し、ウォータージェットルームで、経糸および緯糸の織密度がいずれも54本/2.54cmである幅200cmの織物を製織した。その際、経糸張力を94cN/本に調整し、開口タイミングは340度とし、織機回転数は600rpmとした。
(精練および熱セット)
次いで、得られた織物を、表1に記載の条件にて、常法により適宜精練し、乾燥した。その後、熱風乾燥機によって表面温度を42℃に保持した基布を、ピンテンター乾燥機を用いて幅入れ率0%、オーバーフィード率0%の寸法規制の下で、180℃にて1分間の熱セット加工を施した。
【0049】
<実施例2>
(糸の準備)
経糸および緯糸として、実施例1と同様の合成繊維フィラメントを準備した。
(製織)
次いで、実施例1と同様の方法により製織した。
(精練および熱セット)
次いで、得られた織物を、表1に記載の条件にて、実施例1と同様の方法により適宜精練、乾燥した。その後、熱風乾燥機によって表面温度を65℃に保持した基布を、実施例1と同様の方法により、熱セット加工した。
【0050】
<比較例1>
(糸の準備)
経糸および緯糸として、実施例1と同様の合成繊維フィラメントを準備した。
(製織)
次いで、実施例1と同様の方法により製織した。
(精練および熱セット)
次いで、得られた織物を、表1に記載の条件にて、実施例1と同様の方法により適宜精練、乾燥した。その後、熱風乾燥機による余熱加工を行わず、実施例1と同様の方法により、熱セット加工した。余熱加工を実施しない状態での基布表面温度は23℃であった。
【0051】
<実施例3>
(糸の準備)
経糸および緯糸として、ナイロン6,6からなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度が2.57dtexの単繊維136フィラメントで構成され、総繊度350dtexであり、引張強度が8.4cN/dtex、伸度が23.5%であり、無撚りの合成繊維フィラメントを準備した。
(製織)
上記の糸を経糸および緯糸として使用し、ウォータージェットルームで、経糸および緯糸の織密度がいずれも60本/2.54cmである、幅200cmの織物を製織した。その際、経糸張力を70cN/本に調整し、開口タイミングは340度とし、織機回転数は600rpmとした。
(精練および熱セット)
次いで、得られた織物を、表1に記載の条件にて、常法により適宜精練し、乾燥した。その後、熱風乾燥機によって表面温度を44℃に保持した基布を、ピンテンター乾燥機を用いて幅入れ率0%、オーバーフィード率0%の寸法規制の下で、160℃にて1分間の熱セット加工を施した。
【0052】
<実施例4>
(糸の準備)
経糸および緯糸として、実施例3と同様の合成繊維フィラメントを準備した。
(製織)
次いで、実施例3と同様の方法により製織した。
(精練および熱セット)
次いで、得られた織物を、表1に記載の条件にて、実施例3と同様の方法により適宜精練、乾燥した。その後、熱風乾燥機によって表面温度を69℃に保持した基布を、実施例1と同様の方法により、熱セット加工した。
【0053】
<比較例2>
(糸の準備)
経糸および緯糸として、実施例3と同様の合成繊維フィラメントを準備した。
(製織)
次いで、実施例3と同様の方法により製織した。
(精練および熱セット)
次いで、得られた織物を、表1に記載の条件にて、実施例3と同様の方法により適宜精練、乾燥した。その後、熱風乾燥機による余熱加工を行わず、実施例3と同様の方法により、熱セット加工した。余熱加工を実施しない状態での基布表面温度は24℃であった。
【0054】
<実施例5>
(糸の準備)
経糸および緯糸として、ナイロン6,6からなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度が3.46dtexの単繊維136フィラメントで構成され、総繊度470dtexであり、引張強度が8.4cN/dtex、伸度が23.5%であり、無撚りの合成繊維フィラメントを準備した。
(製織)
上記の糸を経糸および緯糸として使用し、ウォータージェットルームで、経糸および緯糸の織密度がいずれも53本/2.54cmである、幅200cmの織物を製織した。その際、経糸張力を100cN/本に調整し、開口タイミングは340度とし、織機回転数は600rpmとした。
(精練および熱セット)
次いで、得られた織物を、表1に記載の条件にて、常法により適宜精練し、乾燥した。その後、熱風乾燥機によって表面温度を44℃に保持した基布を、ピンテンター乾燥機を用いて幅入れ率0%、オーバーフィード率0%の寸法規制の下で、160℃にて1分間の熱セット加工を施した。
【0055】
<比較例3>
(糸の準備)
経糸および緯糸として、実施例5と同様の合成繊維フィラメントを準備した。
(製織)
次いで、実施例5と同様の方法により製織した。
(精練および熱セット)
次いで、得られた織物を、表1に記載の条件にて、実施例5と同様の方法により適宜精練、乾燥した。その後、熱風乾燥機による余熱加工を行わず、実施例5と同様の方法により、熱セット加工した。余熱加工を実施しない状態での基布表面温度は24℃であった。
【0056】
<実施例6>
(糸の準備)
経糸および緯糸として、ナイロン6,6からなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度が3.46dtexの単繊維136フィラメントで構成され、総繊度470dtexであり、引張強度が8.4cN/dtex、伸度が23.5%であり、無撚りの合成繊維フィラメントを準備した。
(製織)
上記の糸を経糸および緯糸として使用し、ウォータージェットルームで、経糸および緯糸の織密度がいずれも50本/2.54cmである、幅200cmの織物を製織した。その際、経糸張力を90cN/本に調整し、開口タイミングは340度とし、織機回転数は600rpmとした。
(精練および熱セット)
次いで、得られた織物を、表1に記載の条件にて、常法により適宜精練し、乾燥した。その後、熱風乾燥機によって表面温度を43℃に保持した基布を、ピンテンター乾燥機を用いて幅入れ率0%、オーバーフィード率0%の寸法規制の下で、160℃にて1分間の熱セット加工を施した。
【0057】
<比較例4>
(糸の準備)
経糸および緯糸として、実施例6と同様の合成繊維フィラメントを準備した。
(製織)
次いで、実施例6と同様の方法により製織した。
(精練および熱セット)
次いで、得られた織物を、表1に記載の条件にて、実施例6と同様の方法により適宜精練、乾燥した。その後、熱風乾燥機による余熱加工を行わず、実施例6と同様の方法により、熱セット加工した。余熱加工を実施しない状態での基布表面温度は24℃であった。
【0058】
実施例1~6および比較例1~4で得られたそれぞれの基布について、以下の評価方法により、引張強力、引裂強力、動的通気度、500Pa差圧通気度、20KPa差圧通気度を評価した。結果を表1に示す。
【0059】
[評価方法]
(基布の引張強力)
引張強力は、JIS K 6404-3(1999) 6.試験方法B(ストリップ法)に基づいて、経方向および緯方向のそれぞれについて、基布片端から20cm毎に採取し、幅の両側から糸を取り除いて幅30mmとし、定速緊張型の試験機にて、つかみ間隔150mm、引張速度200mm/minで試験片が切断するまで引っ張り、切断に至るまでの最大荷重を測定し、経方向および緯方向のそれぞれについて平均値を算出した。なお、CV値は上記20cm毎に採取したデータの標準偏差を平均値で除し、100を掛けて算出した。
【0060】
(基布の引裂強力)
引裂強力は、JIS K 6404-4(1999) 6.試験方法B(シングルタング法)に基づいて、長辺200mm、短辺76mmの試験片を経方向および緯方向の両方に基布片端から20cm毎に採取し、試験片の短辺の中央に短辺方向と直角に75mmの切込みを入れ、定速緊張型の試験機にて、つかみ間隔75mm、引張速度200mm/minで試験片が切れるまで引き裂き、その時の引裂き荷重を測定した。得られた引裂き荷重のチャート記録線より、最初のピークを除いた極大点の中から大きい順に3点選び、その平均値を算出した。最後に経方向および緯方向のそれぞれについて、平均値を算出した。なお、CV値は上記20cm毎に採取したデータの標準偏差を平均値で除し、100を掛けて算出した。
【0061】
(動的通気度)
動的通気度は、ASTM D6476法に基づき、TEXTEST社製FX3350を用いて、基布片端から緯方向に20cm毎に測定した。なお、測定タンクは400cm3を用いた。CV値は上記20cm毎に採取したデータの標準偏差を平均値で除し、100を掛けて算出した。
【0062】
(500Pa差圧通気度)
500Pa差圧通気度は、ASTM D3886法に基づき、TEXTEST社製FX3300を用いて、基布片端から緯方向に20cm毎に測定した。なお、機器の差圧設定値は500Pa、測定面積は100cm2を用いた。CV値は上記20cm毎に採取したデータの標準偏差を平均値で除し、100を掛けて算出した。
【0063】
(20KPa差圧通気度)
20KPa差圧通気度は、JIS L 1096(1999) 8.27.1A法に準じて、基布片端から緯方向に20cm毎に測定した。口径100mmの円筒の一端に基布を取付け、取付け箇所から空気の漏れがないように固定し、レギュレーターを用いて試験差圧を20KPaに調整し、そのときに基布を通過する空気量を流量計で測定した。CV値は上記20cm毎に採取したデータの標準偏差を平均値で除し、100を掛けて算出した。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示されるように、実施例1~6で作製した基布は、基布緯糸方向の通気度均一性が優れていた、また、引張強力および引裂強力の均一性にも優れていた。
【0066】
一方、比較例1~4で作製した基布は、基布緯糸方向の通気度、および機械強力のバラツキが大きかった。そのため、この基布は裁断時に採取する基布位置によって、エアバッグの内圧保持性・乗員拘束性能にバラツキが生じる懸念がある。