(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】絶縁材用樹脂組成物、絶縁材、絶縁電線及びケーブル
(51)【国際特許分類】
C08L 23/12 20060101AFI20230502BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230502BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20230502BHJP
H01B 3/44 20060101ALI20230502BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
C08L23/12
C08K3/22
C08K3/26
H01B3/44 G
H01B7/02 Z
(21)【出願番号】P 2019559613
(86)(22)【出願日】2018-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2018045216
(87)【国際公開番号】W WO2019117055
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-05-21
(31)【優先権主張番号】P 2017240792
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】山崎 智
(72)【発明者】
【氏名】細水 康平
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-199070(JP,A)
【文献】特開2016-084409(JP,A)
【文献】特開2011-122036(JP,A)
【文献】特開2009-216937(JP,A)
【文献】国際公開第2017/063351(WO,A1)
【文献】特表2018-534398(JP,A)
【文献】国際公開第2016/140253(WO,A1)
【文献】特開2007-084806(JP,A)
【文献】特開2001-064330(JP,A)
【文献】特開2014-060146(JP,A)
【文献】特開2016-190466(JP,A)
【文献】特開2015-151459(JP,A)
【文献】特表2016-519725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00 - 23/36
C08K 3/00 - 3/40
H01B 3/44
H01B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点130℃以上のポリプロピレン系樹脂を含む樹脂成分と、
金属又はケイ素の酸化物および炭酸塩からなる群から選択される少なくとも1種の無機充填材と、を含み、
前記樹脂成分100質量%に対し、前記ポリプロピレン系樹脂の含有量が40質量%以上であり、
前記樹脂成分100質量部に対し、前記無機充填材の含有量が0.2質量部以上4質量部以下であり、
前記無機充填材の平均粒径が10nm以上1000nm以下である、
絶縁電線若しくはケーブルの絶縁被覆、又は絶縁チューブである絶縁材
。
【請求項2】
前記ポリプロピレン系樹脂は架橋されていない、請求項1に記載の絶縁
材。
【請求項3】
前記無機充填材が、球状酸化マグネシウム又は酸化亜鉛である、請求項1又は2に記載の絶縁
材。
【請求項4】
前記無機充填材が、その表面にさらにコート層を有する、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の絶縁
材。
【請求項5】
前記ポリプロピレン系樹脂が、ホモポリプロピレン、ポリプロピレンランダムコポリマー、ポリプロピレンブロックコポリマー、およびオレフィン系エラストマーからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の絶縁
材。
【請求項6】
絶縁材用樹脂組成物から形成された絶縁材であって、
前記絶縁材用樹脂組成物は、
融点130℃以上のポリプロピレン系樹脂を含む樹脂成分と、
金属又はケイ素の酸化物および炭酸塩からなる群から選択される少なくとも1種の無機充填材と、を含み、
前記樹脂成分100質量%に対し、前記ポリプロピレン系樹脂の含有量が40質量%以上であり、
前記樹脂成分100質量部に対し、前記無機充填材の含有量が0.2質量部以上4質量部以下であり、
前記無機充填材の平均粒径が10nm以上1000nm以下であり、
前記ポリプロピレン系樹脂が、ホモポリプロピレン、ポリプロピレンランダムコポリマー、ポリプロピレンブロックコポリマー、およびオレフィン系エラストマーからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記絶縁材は、
前記ポリプロピレン系樹脂を含む樹脂層と前記樹脂層に分散された前記無機充填材の粒子部とを備え、
前記絶縁材は、
絶縁電線若しくはケーブルの絶縁被覆、又は絶縁チューブである絶縁材。
【請求項7】
線状の導体部と、
前記導体部の外周側を覆うように配置される、請求項6に記載の前記絶縁材である絶縁被覆と、
を備える、絶縁電線。
【請求項8】
線状の導体部と、
前記導体部の外周側を覆うように配置される、請求項6に記載の前記絶縁材である絶縁被覆と、
を備えるケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、絶縁材用樹脂組成物、絶縁材、絶縁電線及びケーブルに関するものである。本出願は、2017年12月15日出願の日本出願第2017-240792号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンを主成分とするベース樹脂に無機充填材が分散されたポリエチレン樹脂組成物が知られている。このようなポリエチレン樹脂組成物は、例えば電力ケーブルの絶縁層を構成する絶縁性の材料として使用されている。特許文献1には、無機充填材が添加され、直流電力ケーブルの絶縁層に用いられる架橋ポリエチレン組成物が開示されている。特許文献1によれば、無機充填材を添加することで、上記架橋ポリエチレン組成物から形成された絶縁被覆に直流高電圧を印加した際の空間電荷の蓄積が抑制される旨が開示されている。
【0003】
特許文献2には、ポリエチレン樹脂を含むベース樹脂と、無機充填材とを混合して得られるマスタバッチ、およびそのマスタバッチを用いて製造される絶縁材料が開示されている。
【0004】
特許文献3には、低密度ポリエチレンを含有する基本樹脂(ベース樹脂)と、ナノ無機粒子とを含む絶縁組成物、およびその絶縁組成物から形成された直流用電力ケーブルとが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-121056号公報
【文献】特開2015-183039号公報
【文献】特開2012-23007号公報
【発明の概要】
【0006】
本開示の絶縁材用樹脂組成物は、融点130℃以上のポリプロピレン系樹脂を含む樹脂成分と、金属の酸化物、水酸化物および炭酸塩からなる群から選択される少なくとも1種の無機充填材と、を含む。樹脂成分100質量部に対し、無機充填材の含有量が0.2質量部以上4質量部以下である。また無機充填材の平均粒径は10nm以上1000nm以下である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】絶縁チューブの一例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
上述の特許文献1~3に記載されているように、樹脂と、樹脂中に分散された無機充填材とを含む絶縁材用の樹脂組成物としては、ポリエチレン系の樹脂組成物が広く使用されている。中でもポリエチレンを架橋した架橋ポリエチレンを含むものが多く使用されている。ポリエチレン系の樹脂組成物は、絶縁性に優れ、内部に電荷が蓄積しにくい絶縁材を形成する材料として好適である。一方、ポリエチレン系の樹脂組成物の短所は耐熱性が低いことである。架橋により耐熱性は向上するものの未だ充分ではなく、より耐熱性の高い絶縁材用の樹脂組成物が求められている。
【0009】
そこで、耐熱性と電荷の蓄積しにくさとを両立する絶縁材を形成可能な樹脂組成物を提供することを目的の1つとする。
【0010】
[本開示の効果]
上記絶縁材用樹脂組成物によれば、耐熱性と電荷の蓄積しにくさとを両立する絶縁材を形成可能な樹脂組成物を提供することが可能となる。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。本開示の絶縁材用樹脂組成物は、融点130℃以上のポリプロピレン系樹脂を含む樹脂成分と、金属の酸化物、水酸化物および炭酸塩からなる群から選択される少なくとも1種の無機充填材と、を含む。樹脂成分100質量部に対し、無機充填材の含有量が0.2質量部以上4質量部以下である。また無機充填材の平均粒径は10nm以上1000nm以下である。
【0012】
ポリプロピレンはポリエチレンよりも耐熱性が高く、ポリエチレンの代替材料として想定される樹脂の一つである。しかしながら、絶縁材としてはポリエチレン系の絶縁材が主流である。その理由の一つとして、ポリプロピレンはポリエチレンに比べて結晶化しやすいことがある。結晶性が高い樹脂からなる絶縁層では、電荷が絶縁材内部に蓄積しやすい傾向がある。絶縁材内部の電荷の蓄積量が増大すると、絶縁材内部の電荷蓄積領域(例えば結晶界面)において局所的に分極が生じ、欠陥や絶縁破壊の発生に繋がるおそれがある。絶縁材内部に蓄積される空間電荷は絶縁破壊の一因とも考えられている。そのため耐熱性が高いにも関わらず、ポリプロピレン系の絶縁材の使用例は限定されている。耐熱性の高いポリプロピレン系樹脂を絶縁材として使用するためには、絶縁材内部における電荷の蓄積の問題を解消する必要がある。
【0013】
本発明者らは、検討の結果、添加される無機充填材の量および平均粒径を制御することで、電荷の蓄積量が低減されることを見出した。これは、無機充填材が本来有する第1の電荷蓄積量低減効果と、ポリプロピレン系樹脂の結晶性の緩和による第2の電荷蓄積量低減効果とが相乗的に作用した結果であると考えられる。含有量と平均粒径が制御された無機充填材はポリプロピレン系樹脂内部で適度に分散されやすく、ポリプロピレンの結晶性を適度に乱し、樹脂成分の結晶性を低下させるものと考えられる。また無機充填材がポリプロピレン系樹脂内で適度に分散されることにより、無機充填材の第1の電荷蓄積量低減効果が絶縁材全体にわたって満遍なく発揮される。このようにして、耐熱性と電荷の蓄積しにくさとを両立する絶縁材を形成可能な樹脂組成物が提供される。
【0014】
上記絶縁材用樹脂組成物において、ポリプロピレン系樹脂は架橋されていないのが好ましい。架橋を行う場合、架橋による工程の複雑化や、架橋残渣による絶縁性の低下の問題が生じ得る。また架橋された樹脂はリサイクルが難しい。さらにポリプロピレン系樹脂はポリエチレン系樹脂と異なり、メチル基を有する三級炭素が存在し、架橋を行った場合、同時に三級炭素における分解も生じる。そのため、ポリプロピレン系樹脂は架橋が難しい樹脂である。一方、ポリプロピレン系樹脂は架橋を行わなくても十分に高い耐熱性を有する。これらの理由により、ポリプロピレン系樹脂は架橋されていないものであるのが好ましい。
【0015】
上記絶縁材用樹脂組成物において、上記無機充填材が球状酸化マグネシウム又は酸化亜鉛であってもよい。これらの無機充填材を含有する絶縁材用樹脂組成物は、耐熱性と電荷の蓄積しにくさとを両立する絶縁材を形成するのに好適である。
【0016】
上記絶縁材用樹脂組成物において、無機充填材が、その表面にさらにコート層を有していてもよい。その表面にコート層を有する無機充填材を上記無機充填材として採用することにより、無機充填材の凝集をより効果的に抑制し、樹脂成分中での無機充填材の分散性をより高めることができる。
【0017】
上記絶縁材用樹脂組成物において、ポリプロピレン系樹脂は、ホモポリプロピレン、ポリプロピレンランダムコポリマー、ポリプロピレンブロックコポリマー、およびオレフィン系エラストマーからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。これらのポリプロピレン系樹脂は、上記所望の物性を有する絶縁材を形成するために好適である。
【0018】
本開示の絶縁材は、上記絶縁材用樹脂組成物から形成され、ポリプロピレン系樹脂を含む樹脂層部と、樹脂層部に分散された無機充填材の粒子部と、を備える。このような絶縁材は、耐熱性と電荷の蓄積しにくさとを両立する好適な絶縁材である。
【0019】
絶縁材は、絶縁電線若しくはケーブルの絶縁被覆、又は絶縁チューブであってもよい。本開示の絶縁材は、これらの用途に好適に使用することができる。
【0020】
本開示の絶縁材は、絶縁材用樹脂組成物から形成された絶縁材であって、前記絶縁材用樹脂組成物は、融点130℃以上のポリプロピレン系樹脂を含む樹脂成分と、金属又はケイ素の酸化物、水酸化物および炭酸塩からなる群から選択される少なくとも1種の無機充填材とを含み、前記樹脂成分100質量部に対し、前記無機充填材の含有量が0.2質量部以上4質量部以下であり、前記無機充填材の平均粒径が10nm以上1000nm以下であり、前記ポリプロピレン系樹脂が、ホモポリプロピレン、ポリプロピレンランダムコポリマー、ポリプロピレンブロックコポリマー、およびオレフィン系エラストマーからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記絶縁材は、前記ポリプロピレン系樹脂を含む樹脂層と前記樹脂層に分散された前記無機充填材の粒子部とを備え、
前記絶縁材は、絶縁電線若しくはケーブルの絶縁被覆、又は絶縁チューブである。
このような絶縁材は、耐熱性と電荷の蓄積しにくさとを両立する好適な絶縁材である。
【0021】
本開示の絶縁電線又はケーブルは、線状の導体部と、導部体の外周側を覆うように配置される、上記絶縁材である絶縁被覆と、を備える。このような絶縁電線又はケーブルは、耐熱性と電荷の蓄積しにくさとを両立する好適な絶縁被覆を備え、耐久性に優れた絶縁電線又はケーブルとして好適に使用することができる。
【0022】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の絶縁材用樹脂組成物、絶縁材、絶縁電線及びケーブルのそれぞれの一実施の形態を、必要に応じて図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰り返さない。
【0023】
[絶縁材用樹脂組成物]
まず本実施の形態に係る絶縁材用樹脂組成物について説明する。上記絶縁材用樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂と、無機充填材とを含む。
[樹脂成分]
【0024】
本実施の形態に係る絶縁材用樹脂組成物は、樹脂成分として融点130℃以上のポリプロピレン系樹脂を含む。融点130℃以上のポリプロピレン系樹脂とは、プロピレン由来の単位を分子内に(例えば10モル%以上、好ましくは20モル%以上、30モル%以上または40モル%以上)含む重合体であって、融点が130℃以上のものを意味する。ポリプロピレン系樹脂は、未架橋の状態でも架橋ポリエチレン系樹脂と比較して耐熱性が高い。樹脂成分がこのようなポリプロピレン系樹脂を含むことにより、充分な耐熱性を有する絶縁材を提供することが可能となる。
【0025】
上記ポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレン単独重合体(ポリプロピレンホモポリマー)(h-pp)、プロピレンランダム共重合体(プロピレンランダムコポリマー)(r-pp)、ブロックポリプロピレン(b-pp、ホモポリプロピレンの中にエチレン由来の成分を含む物質が分散したもの)、オレフィン系エラストマー(TPO、ホモポリプロピレンからなる母材にエチレン‐プロピレンゴム微分散させたプロピレン系樹脂)などであって、130℃以上の融点を有するものが挙げられる。r-ppはコモノマーとしてエチレン又はブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1などを含む。r-ppにおけるコモノマーの含有量は例えば1質量%以上40質量%以下である。b-ppはプロピレン由来の単位以外にエチレン又はエチレン-プロピレンゴム(Ethylene Propylene Rubber,EPR)成分などのエチレン由来の成分を含む物質を含む(EPR成分の含有量は概ね20質量%以下である)。オレフィン系エラストマー(TPO)は、b-ppよりも多い量(例えば20質量%超70質量%以下)のエチレン又はエチレン-プロピレンゴム(EPR)成分(またはブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1などを含んでもよい)をプロピレン由来の単位以外に含む。
【0026】
本開示において使用されるポリプロピレン系樹脂は、130℃以上の融点を有する樹脂である。融点が130℃以上のポリプロピレン系樹脂を含有することにより、絶縁材用樹脂組成物から形成される絶縁材は、使用上充分な高温に耐えうる高い耐熱性を有する。その耐熱性は架橋ポリエチレン系の絶縁材と比較しても充分に高い。上記融点は、示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry、DSC)において、固体の試料(ポリプロピレン系樹脂)が融解する温度を測定することにより求められる。融点は、好ましくは140℃以上である。融点の上限は特に限定はないが、融点があまり高すぎると加工しにくいことから、融点は例えば200℃以下であるのが好ましい。
【0027】
ポリプロピレン系樹脂は、架橋されていないものであるのが好ましい。架橋を行う場合、架橋による工程の複雑化、架橋による加工性の低減、手間と時間を伴う架橋工程による生産性の低減、架橋副産物による絶縁特性への悪影響などの問題が起こりうる。また架橋された樹脂はリサイクルが難しい。これに対し、ポリプロピレン系樹脂は未架橋のままでも絶縁材として充分な耐熱性を有することから、敢えて架橋を行う必要性がない。架橋されていないポリプロピレン系樹脂を用いることで、架橋に伴う上記問題の発生を避けることができる。またポリプロピレンはメチル基により置換された三級炭素を有し、架橋反応を行おうとすると、三級炭素での分解反応も進行することから、ポリエチレンと比較して架橋が難しい樹脂でもある。そのためポリプロピレン系樹脂の架橋は行わなくてもよい。
【0028】
絶縁材用樹脂組成物は、樹脂成分として、ポリプロピレン系樹脂以外の他の樹脂成分を含んでもよい。上記他の樹脂成分としては、エチレン、ブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1などのオレフィン系単量体の単独重合体若しくは相互共重合体、上記オレフィン系単量体と他の単量体(酢酸ビニルを含むビニル系単量体など)との共重合体、エチレン、ブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1などのオレフィン系単量体由来の単位を1以上分子内に有するゴム又はエラストマーなどが挙げられる。
【0029】
上記ポリプロピレン系樹脂以外の他の樹脂成分の例としては、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレンなど)、およびエチレン-プロピレンゴムなどが挙げられる。また(ポリ)プロピレン成分を一部に含む、融点が130℃未満の樹脂成分を、上記絶縁材用樹脂組成物の高い耐熱性を損なわない範囲において、上記融点130℃以上のポリプロピレン系樹脂と併用してもよい。
【0030】
絶縁材用樹脂組成物はポリプロピレン系樹脂以外の上記他の樹脂成分を含んでもよいが、その場合であっても、ポリプロピレン系樹脂の高い耐熱性が維持されるような配合比であるのが望ましい。具体的には、樹脂成分全体の含有量を100質量%として、ポリプロピレン系樹脂の含有量が30質量%以上であるのが好ましく、40質量%以上であるのが好ましく、60質量%以上であるのがより好ましく、80質量%以上であるのがさらに好ましく、90質量%以上であるのが特に好ましい。
【0031】
[無機充填材]
本実施の形態に係る絶縁材用樹脂組成物は金属又はケイ素の酸化物、水酸化物および炭酸塩からなる群から選択される少なくとも1種の無機充填材を含む。これらは非導電性の物質である。上記無機充填材を含むことにより絶縁材内部における電荷の蓄積量が低減される。また後述するように、含有量および平均粒径が制御された状態で無機充填材を含有する場合、ポリプロピレン系樹脂の結晶性が適度に乱され結晶性が低下する。結晶性が低下すると、絶縁材内部における電荷の蓄積も低減する傾向がある。そのため、無機充填材の量および平均粒径を制御することにより、無機充填材が本来有する第1の電荷蓄積量低減効果と、ポリプロピレン系樹脂の結晶性の緩和による第2の電荷蓄積量低減効果との相乗的効果によって絶縁材内部における電荷の蓄積量がより充分に低減される。
【0032】
上記無機充填材は、金属又はケイ素の酸化物、水酸化物および炭酸塩からなる群から選択される少なくとも1種である。なかでも周期表の1族、2族と12族から16族に含まれる金属元素である典型金属元素、およびケイ素の酸化物、水酸化物および炭酸塩からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。また上記金属は酸化チタンなどの遷移金属の酸化物、水酸化物および炭酸塩であってもよい。なかでも周期表の2族、12族、13族に含まれる金属元素又はケイ素の酸化物、水酸化物および炭酸塩からなる群から選択される少なくとも1種が特に好ましい。上記典型金属元素の例としては、例えばマグネシウム、カルシウムなどの第2族元素、亜鉛などの第12族元素、アルミニウムなどの第13族元素などが挙げられる。
【0033】
また上記無機充填材としては、具体的には酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタンなどの酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ケイ素などの炭酸塩などが挙げられる。これらは上記樹脂組成物または樹脂組成物から形成される絶縁材内に単独で含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。また樹脂組成物や絶縁材内において、酸化物、水酸化物又は炭酸塩の一部が反応したこれらの反応物として含まれていてもよい。
【0034】
また効果や取り扱いやすさの点から、無機充填材としては球状酸化マグネシウム又は酸化亜鉛が特に好ましい。なお「球状」とは厳密な真球を意味するのではなく、全体が丸みを帯びた立体全体を表すことを意図している。この「球状」の形状には実質的に球体とみなすことができる種々の形状が含まれる。一方、直方体状や立方体状などの多面体状のもの、筒状や柱状、針状のものなどについては上記「球状」には含まれない。そのような形状としては、表面が曲面状の球体に近い形状、回転楕円体状、球が変形したもの(球状の形状の一部が凹んだり欠けたりしたものを含む)などが含まれる。酸化マグネシウムのうち球状のものは電界が集中しやすい角部を有していない点で好ましい。
【0035】
上記無機充填材は、分散性の向上や凝集防止の目的でその表面にさらにコート層を有していてもよい。このようなコート層は、表面処理剤を用いて無機充填材の粒子の表面をコーティングすることにより形成される。表面処理剤としてはカップリング剤、ケイ素系化合物、脂肪酸、脂肪酸石けん、リン酸エステル、有機高分子などが挙げられる。
【0036】
上記カップリング剤としては、シラン系カップリング剤(例えばビニルシラン、アルコキシシランまたはその誘導体など)、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、ジルコネート系カップリング剤もしくはこれらの混合物が挙げられる。上記ケイ素系化合物としては、アミノポリシロキサン、ハイドロゲンジメチコン(メチルハイドロジェンポリシロキサン)などのポリシロキサン、アルキルシラン、アミノシラン、メタクリルシラン、ビニルシラン若しくはアクリルシランなどのシラン化合物、およびシリコーンオイルなどが挙げられる。上記脂肪酸としては、ステアリン酸、オレイン酸などが挙げられる。上記有機高分子としては、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン等のα-オレフィンの単独もしくは相互共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、及びそれらの誘導体等の、表面処理剤として使用可能な有機高分子が挙げられる。
【0037】
無機充填材の含有量は、ポリプロピレン系樹脂を含む樹脂成分100質量部に対し0.2質量部以上4質量部以下である。無機充填材の量が多すぎると無機充填材が凝集しやすく、絶縁材の破壊耐性(特に直流破壊耐性)が低下する。無機充填材の量が少なすぎると、ポリプロピレン系樹脂の結晶性が高いまま維持され、電荷蓄積量低減効果が充分に発揮されなくなる。無機充填材の含有量を、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対し、0.2質量部以上4質量部以下に制御することにより、充分な電荷蓄積量低減効果が発揮される。無機充填材の含有量は、好ましくは1質量部以上である。また好ましくは3質量部以下、より好ましくは2.5質量部以下である。
【0038】
本実施の形態において、無機充填材の平均粒径は10nm以上1000nm以下である。平均粒径が10nm未満であると、平均粒径が細かすぎて取扱いが難しい。また無機充填材が凝集しやすくなるので、かえって電荷が蓄積しやすくなる。逆に無機充填材の平均粒径が1000nmを超える場合、絶縁材の破壊耐性が低下する。無機充填材の平均粒径は30nm以上であるのが好ましい。また800nm以下であるのが好ましく、700nm以下であるのがより好ましい。
【0039】
本開示において、上記平均粒径は、実際に測定される試料の体積と同一体積の球を想定した場合の球の直径に相当する体積球相当径の平均値である。平均粒径を求めるための各粒子の粒径は一次粒子と二次粒子(凝集した状態の粒子)を区別せずに測定される粒子の径である。各粒子の粒径として求められるこの粒径の値は粒子の凝集の影響を考慮しており、未凝集の一次粒子が独立して分散された状態においては一次粒子径の値を、凝集した粒子については凝集体の粒径の値を意味する。このようにして求められる一次粒子径の値および凝集体の粒径から求められる粒子の粒径(体積球相当径)の平均値を上記平均粒径とする。
【0040】
上記平均粒径は、例えば粒子径測定装置において、無機充填材の粒子を溶媒中に分散させ、分散粒子にレーザ光を照射して散乱される散乱光を検出し、その散乱光の強度に基づいて平均粒径を算出する動的光散乱法に基づいて測定することが可能である。動的光散乱法により求められる粒子径から、平均粒径を求めることができる。
【0041】
絶縁材用樹脂組成物は、上記成分以外の他の成分を含んでもよい。絶縁材用樹脂組成物が含んでもよい添加剤としては、酸化防止剤、滑剤、結晶化核剤などが挙げられる。
【0042】
[用途]
本実施の形態に係る絶縁材用樹脂組成物は、絶縁電線やケーブルの絶縁被覆、配線の接点や導体などを被覆する絶縁チューブなどの絶縁材の材料として好適に適用できる。なかでも、直流高電圧が印加された際の空間電荷の蓄積量を低減できることから、直流高電圧用ケーブルの絶縁材を形成するための材料として特に好適である。
【0043】
[絶縁材の構成]
次に
図1および
図2を参照して、本実施の形態にかかる絶縁材の構成を説明する。
図1は絶縁材の一例を示す概略断面図である。
図2は、絶縁材の一例である絶縁チューブの一例を示す概略断面図である。
【0044】
図1を参照して、絶縁材10は、上述の絶縁材用樹脂組成物から形成される。絶縁材10は、ポリプロピレン系樹脂を含む樹脂層部20と、樹脂層に分散された無機充填材の粒子部30と、を備える。
【0045】
上述したとおり、絶縁材用樹脂組成物における無機充填材の含有量および平均粒径は制御されている。そのため、絶縁材用樹脂組成物内において凝集が少ない状態で無機充填材が広く分散される。そのような絶縁材用樹脂組成物から形成される絶縁材10においては無機充填材からなる粒子部30は樹脂層部20内に満遍なく分散されている。このような絶縁材10においては、粒子部30の凝集によって局所的な破壊耐性の低下や電荷蓄積量の増大が起こりにくい。また、このような絶縁材10は全体として電荷の蓄積量が低減される。これは無機充填材が本来有する第1の電荷蓄積量低減効果と、ポリプロピレン系樹脂の結晶性の緩和による第2の電荷蓄積量低減効果との相乗的効果によるものである。これは粒子部30が樹脂層部20内に満遍なく分散されていることにより、ポリプロピレン系樹脂の結晶性が低下するものと考えられる。
【0046】
絶縁材10は、上記絶縁材用樹脂組成物を溶融温度に加熱し、所望の形状に成形した後、必要に応じて熱プレスし、冷却することによって製造することができる。冷却工程においては、冷却速度を高くして急冷する方が、徐冷に比べて結晶化が進行しにくい点で好ましい。ただし、本開示の絶縁材用樹脂組成物は、無機充填材からなる粒子部30により結晶化の進行が制御されるため、急冷と徐冷による電荷蓄積量の差は小さい。そのため、冷却工程の制限が少なく、急冷のための設備が必須でない点で製造プロセスの設計の自由度が高いという利点がある。
【0047】
このようにして形成される絶縁材10の応用例としては、
図2に示すような配線の接点や導体などを被覆するための絶縁チューブ80が挙げられる。またその他の例として、絶縁電線やケーブルの絶縁被覆なども挙げられる。そのうち、絶縁電線およびケーブルの例を下記に示す。
【0048】
[絶縁電線の構成]
図3を参照して、本実施の形態に係る絶縁電線の構成を説明する。
図3は絶縁電線の一例を示す概略断面図である。
図3を参照して、絶縁電線40は、線状の導体部110と、導体部110の外周側を覆うように配置される絶縁被覆120とを備える。絶縁被覆120は、上記絶縁材10の一例である。すなわち、絶縁被覆120は上記絶縁材用樹脂組成物から形成される。
【0049】
図3において、導体部110を構成する導体は、単一の線を引き抜き加工などにより所望の形状になるよう成形した単線であってもよく、撚り線などの複数の線状体からなってもよい。
【0050】
絶縁被覆120は、上記絶縁材用樹脂組成物を押出成形することにより形成することができる。例えば導体部110を構成する導体を搬送しながら上記絶縁材用樹脂組成物を導体の表面に押し出しながら成形することにより形成することができる。
【0051】
このような絶縁被覆120を有する絶縁電線40は、絶縁被覆120内の電荷の蓄積量が少ない電線として好適に使用することができる。
【0052】
なお本願明細書において、絶縁電線とは、
図3に示すように、銅、アルミなどの線状の導体部110と、絶縁材料からなり、上記導体部の外側表面を被覆する絶縁被覆120とを含む電線をいう。
【0053】
[ケーブルの構成]
図4を参照して、本実施の形態に係るケーブルの構成を説明する。
図4はケーブルの一例を示す概略断面図である。
図4を参照して、ケーブル50は、線状で、長手方向に垂直な断面において円形の形状を有する導体部210を備える。ケーブル50は単一の導体部210を有する単芯ケーブルである。その円形の導体部210を中心に、半径方向外側に向かって同心円状に、内部半導電層220、絶縁層230、外部半導電層240、遮蔽部250、押えテープ260、及びシース270がこの順に配置される。
【0054】
図4において、導体部210を構成する導体は、単一の線を引き抜き加工などにより所望の形状になるよう成形した単線であってもよく、撚り線などの複数の線状体からなってもよい。
【0055】
内部半導電層220及び外部半導電層240は、それぞれ、半導電性テープや、導電性のカーボンブラックが配合された半導電性樹脂などの半導電性物質から構成される。内部半導電層220及び外部半導電層240は、半導電性テープを所定の位置に巻きつける、あるいは半導電性樹脂を押出成形する、などの方法により形成することができる。
【0056】
絶縁層230は、上記絶縁材10の一例である。すなわち、絶縁被覆120は上記絶縁材用樹脂組成物から形成される。上記絶縁材用樹脂組成物を押出成形することにより形成することができる。例えば内部半導電層220で被覆された導体を搬送しながら、上記絶縁材用樹脂組成物を内部半導電層220の表面に押し出しながら成形することにより形成することができる。
【0057】
遮蔽部250は、例えば銅製のテープやワイヤシールドなどからなる。これらを外部半導電層240の表面に巻きつけることにより遮蔽部250を形成することができる。
【0058】
押えテープ260は、各部材を固定するために設けられるものであって、絶縁性樹脂などの絶縁性材料からなる。押えテープ260は、遮蔽部250の表面に巻きつけることにより配置される。
【0059】
シース270はポリ塩化ビニルやポリエチレンなどの絶縁性物質からなる被覆材である。シース270は、押えテープ260の表面を被覆するようにポリ塩化ビニルなどの絶縁性物質を押出成形することにより形成することができる。
【0060】
このような絶縁層230を有するケーブル50は、絶縁層230内の電荷の蓄積量が少ないケーブルとして好適に使用することができる。
【0061】
なお本願明細書においてケーブルとは、
図4に示すように、上記絶縁電線の1本、又は複数本の収束体の最も外側の面が絶縁性の被覆層(シース)で覆われた線状体をいう。また上記実施の形態および
図4においては導体部210が単一の単芯ケーブルを示しているが、ケーブルとしては、複数の単芯ケーブルを集合体としてまとめた上で、その集合体の外周を覆うようにシースを形成した多芯ケーブルであってもよい。
【実施例】
【0062】
次に実施例として、本開示の発明の効果を確認するために以下の検証を行い、特性を評価した。
【0063】
[絶縁材用樹脂組成物の調製]
下記表1~表7に示す配合に従って、樹脂成分を構成する樹脂と、無機充填材と、必要に応じてカーボンブラックなどの添加剤とを準備した。所定の量のこれらの成分を、二軸混合機を用いて150℃~200℃の温度設定で充分に混合を行うことにより絶縁材用樹脂組成物を調製し、ペレットとして得た。
【0064】
[評価用シートの作製]
上記のようにして得られたペレットを用い、オープンロール機で縦約200mmx横約200mm×厚み約0.2mmのシート状に加工した。得られたシート状の樹脂組成物成形体を熱プレスすることにより、縦180mm×横180mm×厚み0.2mmのシートを成形した。
【0065】
熱プレス工程およびその後の冷却工程については、下記に示す条件1(急冷)と条件2(徐冷)のいずれかの条件で行った。
【0066】
条件1(急冷)
190℃に加熱した熱プレス機で予熱3分、加圧2分行い、加圧したまま常温のプレス機にサンプルのみ移して冷却を継続した。冷却完了までの時間を約2分とした(約80℃/分の冷却速度)。
【0067】
条件2(徐冷)
190℃に加熱した熱プレス機で予熱3分、加圧2分行い、加圧したまま水冷で常温まで冷却した。冷却完了までの時間を約30分とした(約5.3℃/分の冷却速度)。
【0068】
[0.2mm厚の試料用シートを用いた評価]
上記のようにして作製した0.2mm厚の各試料用シートについて、以下の物性に関し評価を行った。評価手順を下記に示す。
【0069】
[直流破壊電界]
10mmφの真鍮製電極で試料用シートの上下方向の端部を保持し、シートと電極の接触状態が維持されるように固定した。この状態で試料と電極すべてをシリコーン油に浸漬し80℃で20分加熱し、温度が安定したことを確認したのち、直流電圧を印加した。自動昇圧で昇圧(3kV/1s)し、破壊した電圧を記録した。破壊部の厚みをマイクロメーターで測定し、電圧/厚みより電界(kV/mm)を算出し、求められた値を直流破壊電界の値(kV/mm)とした。
【0070】
[体積抵抗]
事前に試料用シートの厚みをマイクロメーターで測定した。高圧側真鍮製73mmφ、下部65mmφ、ガード電極幅2mmの電極にその試料用シートをはさんで保持した。この状態で試料と電極すべてをシリコーン油に浸漬し、80℃で20分加熱した。温度が安定したことを確認したのち、測定した試料用シートの厚みに基づいて、100kV/mm相当の電圧を試料に印加した。10分間電圧を印加した後に測定される電流値に基づいて体積抵抗の値を算出した。
【0071】
[蓄積電荷量]
事前に試料用シートの厚みをマイクロメーターで測定した。高圧側真鍮製73mmφ、下部65mmφ、ガード電極幅2mmの電極にその試料用シートをはさんで保持し、シートと電極の接触状態が維持されるように固定した。測定した試料用シートの厚みに基づいて、100kV/mm相当の電圧を試料に印加した。瞬時昇圧で電圧を上昇させると、瞬時に電荷が蓄積した。電圧の印加開始直後(約20秒以内)の電荷Q0と、電圧を連続して印加し300秒経過した時点での電荷Q1を80℃の条件下で測定し、記録した。得られた電荷から電荷比(Q1/Q0)を算出し、蓄積電荷量の指標とした。
【0072】
[融点]
融点は示差走査熱量計(DSC)にて測定した。初期温度0℃から300℃まで10℃/minの昇温速度で昇温し、最も大きな吸熱ピークが観測された温度を融点とした。
【0073】
[貯蔵弾性率]
動的粘弾性測定装置(Dynamic Mechanical Spectroscopy、DMS)において貯蔵弾性率を測定した。初期温度0℃から300℃まで10℃/minの昇温速度で昇温し、0.08%の伸縮で引張モードで貯蔵弾性率E’を測定した。
【0074】
[引張強さ]
試料用シートからJIS3号のダンベル形状にシートを打ち抜き、引張試験用試料を作製した。各試料用シートについて3点(n=3)測定した。各引張試験用試料において記録された最大応力を各試料用シートの厚み(マイクロメーターで測定)に基づいて応力に換算した。得られた値の平均値をその試料の引張強さとして記録した。
【0075】
各試料の組成、および上記のようにして測定された物性の評価結果を下記表1~表7に示す。表1~表7において、使用した成分は次の通りである。
【0076】
[樹脂成分]
(ポリプロピレン系樹脂)
h-PP:ポリプロピレンホモポリマー、MFR=0.5,密度=0.9、融点160℃
r-PP:プロピレンランダムコポリマー(コモノマーとしてエチレンを1質量%以上7質量%含む)、MFR=1.3,密度=0.9、融点145℃
TPO:オレフィン系熱可塑性エラストマー、MFA=1,密度0.88、融点160℃
【0077】
(その他の樹脂(ポリエチレン系樹脂等))
VLDPE:超低密度ポリエチレン、MFR=0.5,密度=0.87
HDPE:高密度ポリエチレン、MFR=0.8,密度=0.95
LDPE:低密度ポリエチレン、MFR=1.4,密度=0.92
EPR:エチレン-プロピレンゴム(125℃でのムーニー粘度:61(ムーニー単位))
【0078】
(架橋剤)
DCP:ジクミルパーオキサイド
【0079】
(無機充填材)
ZnO(1):酸化亜鉛、平均粒径35nm、ハイドロゲンジメチコン表面処理
ZnO(2):酸化亜鉛、平均粒径100nm、ハイドロゲンジメチコン表面処理、六角板状
ZnO(3):酸化亜鉛、平均粒径290nm、未処理
ZnO(4):酸化亜鉛、平均粒径1000nm、ハイドロゲンジメチコン表面処理
ZnO(5):酸化亜鉛、平均粒径2000nm、ハイドロゲンジメチコン表面処理
TiO2:酸化チタン、平均粒径80nm、アクリルシラン表面処理
MgO(1):酸化マグネシウム、平均粒径250nm、ビニルシラン表面処理
MgO(2):酸化マグネシウム、平均粒径650nm、未処理
SiO2:二酸化ケイ素(シリカ)、平均粒径200nm、アルキルシラン表面処理
Al2O3:酸化アルミニウム(アルミナ)、平均粒径600nm、未処理
CaCO3:炭酸カルシウム、平均粒径150nm、脂肪酸表面処理
Mg(OH)2:水酸化マグネシウム、平均粒径540nm、未処理
CB:カーボンブラック(ケッチェンブラック)
【0080】
また、評価項目における数値の単位は次の通りである。
直流破壊電界(80℃):kV/mm
体積抵抗(80℃、100kV/mm):1014Ω・cm
蓄積電荷量(Q1/Q0)(80℃、100kV/mm):無次元
融点(DSC法):℃
貯蔵弾性率(130℃、DMS法):MPa
引張強さ(25℃、オートグラフ使用):MPa
【0081】
また表1~表7において、実験No.1~No.20は実施例を示す。また実験No.101~No.112は比較例を示す。
【0082】
[結果]
(1)結晶性と蓄積電荷量の関係
結晶性の樹脂は時間をかけて冷却するほど結晶化が進行する。そのため、シート成形時において、熱プレス後、急冷条件(条件1)と徐冷条件(条件2)でシートを冷却し、シートの結晶化度を変更して結晶性と蓄積電荷量の関係を調べた。ポリプロピレン系樹脂としてはプロピレンホモポリマー(h-pp)、プロピレンランダムコポリマー(r-pp)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)の三種類を用いた。結果を表1の実験No.101~106として示す。なお、条件が複雑になるのを防止するために、この段階では無機充填材は未添加であり、表1の結果は全て本開示の比較例の結果である。
【0083】
【0084】
表1に示すように、プロピレンホモポリマー(h-pp)、プロピレンランダムコポリマー(r-pp)、オレフィン系熱可塑性エラストマーのいずれの樹脂を用いた場合においても、急冷したシートよりも徐冷したシートの方が蓄積電荷量が大きくなる。このことから、ポリプロピレン系樹脂製のシートにおいては、徐冷され、結晶化度が高くなると内部に電荷が蓄積しやすくなることが分かる。また無機充填材を含有しないシートの成形においては急冷が必須であり、冷却条件が制限されることから、製造工程上の自由度が制限される。ただし、急冷しても実験No.101およびNo.103の蓄積電荷量は許容レベルである1.5を超えており、未だ充分でないことが分かる。
【0085】
(2)従来例の検証
(2-1)ポリエチレン系樹脂を用いた検証
参照として、ポリエチレン系樹脂を用いたシートを作成し、物性を評価した。結果を表2に示す。実験No.107は未架橋のポリエチレン系樹脂(HDPE)を使用した例である。また実験No.108は架橋ポリエチレン系樹脂(LDPEに架橋剤であるDCPを配合したもの)を使用した例である。また無機充填材としてMgO(1)を配合した。
【0086】
ポリエチレン系樹脂を用いたシートにおいては耐熱性が問題となる。実験No.107のシートにおいては融点が125℃であり、130℃では溶融し貯蔵弾性率を測定することができない。実験No.108に示すように、ポリエチレン系樹脂を架橋することにより耐熱性は向上するものの、130℃での貯蔵弾性率は0.5MPaと極めて低く、シートが軟化していることが分かる。このように、ポリエチレン系樹脂を用いたシートにおいては耐熱性が充分ではないことが実証された。
【0087】
(2-2)カーボンブラックの添加による効果の検証
ポリエチレン系樹脂に、充填材としてカーボンブラックを配合し、効果を検証した。結果を表2の実験No.109として示す。
【0088】
【0089】
表1の実験No.106は、実験No.109のカーボンブラック未配合の例に対応する。表1の実験No.106と表2の実験No.109を比較すると分かるように、カーボンブラックの有無によってシート内部の蓄積電荷量にはほとんど変化がない。むしろカーボンブラックを含有することによってシートの直流破壊電界の値が減少しており、破壊耐性が低下していることが分かる。このように、カーボンブラックはポリエチレン系樹脂に配合される充填材としては不適であることが分かる。
【0090】
(本開示の絶縁材用樹脂組成物の効果の実証例(1):樹脂成分と物性との関係の検証)
次に本開示の絶縁材用樹脂組成物から作製されたシートについて、物性を評価した。まず、樹脂成分の種類を変更した例について、物性との関係を確認した。表3に、ポリプロピレン系樹脂の種類を変更し、物性を比較した結果を示す。また表4においては、ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂とのブレンド物を含む樹脂組成物から作製したシートの評価結果を示す。なお、ポリプロピレン系樹脂は架橋されていない。
【0091】
【0092】
【0093】
表3に示すように、本開示の絶縁材用樹脂組成物から作製されたシートはいずれも蓄積電荷量が1.1以下と小さいことが実証された。また130℃においても充分に高い貯蔵弾性率を有しており、耐熱性の面でも問題がない。なお実験No.3で用いたr-PPはポリプロピレン単位の他にポリエチレン系単位を含むことから、実験No.1~No.4のなかでは耐熱性は低い。それでも130℃において40MPaと充分な貯蔵弾性率を有しており、ポリエチレン系樹脂を用いた表2の実験No.107および実験No.108とは対照的である。
【0094】
表3の実験No.1と実験No.2のシートの違いは、シート成形時の冷却条件のみである。表1に示した通り、ポリプロピレン系樹脂単独では徐冷すると結晶化がより進行し、蓄積電荷量が増加する。これに対し、本開示の絶縁材用樹脂組成物から作製されたシートは、急冷した場合と徐冷した場合とで蓄積電荷量の値が同じである。加えて蓄積電荷量の以外の他の物性においても急冷した場合と徐冷した場合とで実質的に差がない。このように、本開示の絶縁材用樹脂組成物は、シート成形時の冷却条件に制限が少ないのが特徴である。そのため、急冷するための設備が必須ではなく、製造プロセスの設計の自由度が高いという利点がある。
【0095】
また表4に示すように、絶縁材用樹脂組成物に含まれる樹脂成分がポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂とのブレンド物であっても充分な電荷蓄積量低減効果と充分な耐熱性が発揮される。
【0096】
(本開示の絶縁材用樹脂組成物の効果の実証例(2):無機充填材の含有量と物性との関係の検証)
無機充填材である酸化亜鉛の含有量を変更することにより、無機充填材の含有量と物性との関係を調べた(実験No.110、No.9~10、No.111)。結果を表5に示す。
【0097】
【0098】
表5の実験No.9、No.10およびNo.111に示すように、樹脂成分100質量部に対し、無機充填材の含有量が0.2質量部以上であれば蓄積電荷量は1.5以下となる。実験No.110のように、樹脂成分100質量部に対し、無機充填材の含有量が0.1質量部の場合には、無機充填材による電荷蓄積量低減効果が不充分であり、蓄積電荷量が2.1と高くなる。一方、実験No.111に示すように、樹脂成分100質量部に対し、無機充填材の含有量が4質量部を超えると直流破壊電界が大きく低下し、破壊耐性が低下する。そのため、蓄積電荷量が1.5以下という条件を満たし、かつ充分に高い直流破壊電界を維持するためには、樹脂成分100質量部に対し、無機充填材の含有量が0.2質量部以上4質量部以下の範囲になるよう配合を制御する必要があることが分かる。
【0099】
(本開示の絶縁材用樹脂組成物の効果の実証例(3):無機充填材の平均粒径と物性との関係の検証)
無機充填材として平均粒径の異なる酸化亜鉛を用いて物性への影響を調べた(実験No.4、No.11~13、No.112)。結果を表6に示す。
【0100】
【0101】
表6に示すように、平均粒径が1000nm以下であれば蓄積電荷量は1.3以下に維持される(実験No.4およびNo.11~13)。しかしながら、平均粒径が1000nmを超えると、蓄積電荷量が1.5を超えるとともに、直流破壊電界の値も低下し破壊耐性が低下する(No.112)。また表6には記載していないが、平均粒径が10nm未満の無機充填材は、粒径が細かすぎて取り扱いが難しく、分散性に問題があったため物性の評価には至らなかった。これらの結果から、無機充填材の平均粒径は10nm以上1000nm以下である必要が有ることが分かる。
【0102】
(本開示の絶縁材用樹脂組成物の効果の実証例(4):種々の無機充填材と物性との関係の検証)
絶縁材用樹脂組成物が酸化亜鉛以外の無機充填材を含有する場合についても効果を検証した。結果を表7に示す。
【0103】
【0104】
表7に示すように、無機充填材としては、金属又はケイ素の酸化物、水酸化物および炭酸塩からなる群から選択される少なくとも1種である限り、無機充填材の種類の違いによる影響は少ないことが分かる。
【0105】
このように、本実施の形態に係るによれば、耐熱性と電荷の蓄積しにくさとを両立する絶縁材を形成可能な樹脂組成物を提供することが可能となる。また、上記絶縁材用樹脂組成物からなる絶縁材は、絶縁材として充分な耐熱性を有していることから、樹脂成分を架橋することなく未架橋のまま使用することが可能である。未架橋の樹脂はリサイクルがしやすく、架橋副産物等による悪影響も少ない点で有利である。このような絶縁材用樹脂組成物および絶縁材は、絶縁電線若しくはケーブルの絶縁被覆、又は絶縁チューブとして好適に使用することができる。
【0106】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0107】
10 絶縁材
20 樹脂層部
30 粒子部
40 絶縁電線
50 ケーブル
80 絶縁チューブ
110 導体部
120 絶縁被覆
210 導体部
220 内部半導電層
230 絶縁層
240 外部半導電層
250 遮蔽部
260 押えテープ
270 シース