(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】ベーン型圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/344 20060101AFI20230502BHJP
【FI】
F04C18/344 361H
F04C18/344 351M
(21)【出願番号】P 2020073855
(22)【出願日】2020-04-17
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保山 翔太
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-65767(JP,A)
【文献】特開2019-65745(JP,A)
【文献】特開2002-48080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/344
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
冷媒を吸入する吸入口及び冷媒を吐出する吐出口を備え、シリンダ室を内部に区画し、前記回転軸を支持するハウジングと、
前記シリンダ室内で前記回転軸と一体回転可能に設けられ、複数のベーン溝が形成されたロータと、
各々の前記ベーン溝に各々が出没可能に設けられた複数のベーンと、を備え、
複数の前記ベーンと前記ロータとにより前記シリンダ室内に複数の圧縮室が形成され、
各々の前記ベーンの底面と各々の前記ベーン溝との間はベーン背圧室とされ、
前記ハウジングは、吐出領域を前記ハウジングの内部に区画し、前記圧縮室内で圧縮された冷媒は前記吐出領域および前記吐出口を介して外部に吐出され、
前記ハウジングは、
前記シリンダ室を区画する第1端面を有し、前記第1端面に開口して前記回転軸を挿入して支持する第1の挿入孔を備える第1区画壁と、
前記シリンダ室を区画する第2端面を有し、前記第2端面に開口して前記回転軸を挿入して支持する第2の挿入孔を備え、前記ロータを挟んで軸方向において前記第1区画壁の反対側に配置された第2区画壁と、を含み、
前記第1端面には、前記第1の挿入孔の開口に対して径方向に離間するとともに少なくとも吸入行程において前記ベーン背圧室に対向して連通する後側背圧溝が形成され、
前記第2端面には、前記第2の挿入孔の開口から径方向に延び、前記ベーン背圧室に対向して連通する前側背圧溝が形成され、
前記後側背圧溝における角度範囲は、前記前側背圧溝における角度範囲よりも大きく、
前記回転軸の回転方向における前記後側背圧溝の後端部は前記前側背圧溝の後端部よりも後側に位置し、前記回転軸の回転方向における前記後側背圧溝の前端部は前記前側背圧溝の前端部よりも後側に位置し、
前記後側背圧溝と前記前側背圧溝とは、前記ベーン背圧室を介して相互に連通する、
ベーン型圧縮機。
【請求項2】
前記回転軸の軸方向視において、前記後側背圧溝における前記回転軸の回転方向前側の一部と、前記前側背圧溝における前記回転軸の回転方向後側の一部とは重なる、
請求項1に記載のベーン型圧縮機。
【請求項3】
前記回転軸の軸方向視において、前記後側背圧溝における前記回転軸の回転方向前側の一部と、前記前側背圧溝における前記回転軸の回転方向後側の一部とは重ならない、
請求項1に記載のベーン型圧縮機。
【請求項4】
前記第2区画壁には、前記吐出領域の下部と前記第2の挿入孔とを連通し潤滑油を前記第2の挿入孔に供給する第1の貫通孔と、前記第1の貫通孔の途中から分岐して前記吐出領域の下部と前記ベーン背圧室とを連通する第2の貫通孔を有し、前記ベーン背圧室に背圧を間欠的に供給する背圧供給路が設けられており、
前記回転軸が回転することに伴って、
前記ベーン背圧室が、前記後側背圧溝に対向して前記後側背圧溝に連通し、かつ、前記前側背圧溝および前記背圧供給路に対向しないという第1状態と、
前記第1状態よりも後のタイミングで、前記ベーン背圧室が、前記前側背圧溝に対向して前記前側背圧溝に連通し、かつ、前記後側背圧溝および前記背圧供給路に対向しない第2状態と、
前記第2状態よりも後のタイミングで、前記ベーン背圧室が、前記背圧供給路に対向して連通し、かつ、前記後側背圧溝および前記前側背圧溝に対向しない第3状態と、が形成される、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のベーン型圧縮機。
【請求項5】
前記回転軸が回転することに伴って、前記第1状態よりも後であって且つ前記第2状態よりも前のタイミングに、前記ベーン背圧室が、前記後側背圧溝および前記前側背圧溝の双方に対向して連通するという状態が形成される、
請求項4に記載のベーン型圧縮機。
【請求項6】
前記後側背圧溝は、吸入から圧縮初期行程にかけて前記ベーン背圧室に対向して連通する、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のベーン型圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、ベーン型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特開昭62-248891号公報(特許文献1)に開示されるように、ベーン型圧縮機においては、ハウジング内にシリンダ室および吐出領域が形成され、回転軸およびロータがシリンダ室内で回転可能に設けられる。ロータには複数のベーン溝が形成され、複数のベーン溝には複数のベーンが各々出没可能に設けられる。ロータおよび複数のベーンによって複数の圧縮室が形成される。各圧縮室で圧縮された冷媒は吐出領域に吐出され、分離され、一部は吐出領域から外部に圧縮されたガスの状態で吐出され、一部は吐出領域内で潤滑油として貯留される。
【0003】
シリンダ室を区画している区画壁(サイドブロック等とも称される)には、背圧供給路と、円弧状(扇状)等の形状を有する背圧溝とが形成される。各ベーンの底面と各ベーン溝との間はベーン背圧室とされる。ベーン背圧室が背圧供給路に対向することで、吐出圧相当の圧力を有する潤滑油が、吐出領域から背圧供給路(特許文献1においては高圧穴)を通してベーン背圧室に供給される。あるいは、ベーン背圧室が背圧溝に対向することで、ベーン背圧室の圧力が背圧溝内の圧力に応じて調整されたり、背圧溝からベーン背圧室に潤滑油が供給されたりする。背圧溝からの潤滑油や背圧供給路からの潤滑油により、ベーン背圧室に付与される圧力(背圧)が最適化され、動力消費量の低減やチャタリングの抑制が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたベーン型圧縮機においては、背圧供給溝が区画壁(サイドブロック)に形成されると共に、背圧溝が所定の角度範囲にわたって、周方向に長く延在して形成されている。当該構成の場合、ベーン背圧室が長い区間にわたって背圧溝と連通するため、たとえば、圧縮行程の後半から吐出行程の後半までの間の区間など、必要背圧が高い区間において高い背圧をベーン背圧室に供給するように設定した場合には、吸入行程から圧縮行程の初期までの間の区間など、必要背圧が低い区間において必要以上の背圧がベーン背圧室に供給される可能性がある。
【0006】
本明細書は、必要以上の背圧がベーン背圧室に供給されることを抑制することにより、動力消費量の低減を図ることが可能なベーン型圧縮機を開示することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に基づくベーン型圧縮機は、回転軸と、冷媒を吸入する吸入口及び冷媒を吐出する吐出口を備え、シリンダ室を内部に区画し、上記回転軸を支持するハウジングと、上記シリンダ室内で上記回転軸と一体回転可能に設けられ、複数のベーン溝が形成されたロータと、各々の上記ベーン溝に各々が出没可能に設けられた複数のベーンと、を備え、複数の上記ベーンと上記ロータとにより上記シリンダ室内に複数の圧縮室が形成され、各々の上記ベーンの底面と各々の上記ベーン溝との間はベーン背圧室とされ、上記ハウジングは、吐出領域を上記ハウジングの内部に区画し、上記圧縮室内で圧縮された冷媒は上記吐出領域および上記吐出口を介して外部に吐出され、上記ハウジングは、上記シリンダ室を区画する第1端面を有し、上記第1端面に開口して上記回転軸を挿入して支持する第1の挿入孔を備える第1区画壁と、上記シリンダ室を区画する第2端面を有し、上記第2端面に開口して上記回転軸を挿入して支持する第2の挿入孔を備え、上記ロータを挟んで軸方向において上記第1区画壁の反対側に配置された第2区画壁と、を含み、上記第1端面には、上記第1の挿入孔の開口に対して径方向に離間するとともに少なくとも吸入行程において上記ベーン背圧室に対向して連通する後側背圧溝が形成され、上記第2端面には、上記第2の挿入孔の開口から径方向に延び、上記ベーン背圧室に対向して連通する前側背圧溝が形成され、上記後側背圧溝における角度範囲は、上記前側背圧溝における角度範囲よりも大きく、上記回転軸の回転方向における上記後側背圧溝の後端部は上記前側背圧溝の後端部よりも後側に位置し、上記回転軸の回転方向における上記後側背圧溝の前端部は上記前側背圧溝の前端部よりも後側に位置し、上記後側背圧溝と上記前側背圧溝とは、上記ベーン背圧室を介して相互に連通する。
【0008】
上記ベーン型圧縮機においては、上記回転軸の軸方向視において、上記後側背圧溝における上記回転軸の回転方向前側の一部と、上記前側背圧溝における上記回転軸の回転方向後側の一部とは重なっていてもよい。
【0009】
上記ベーン型圧縮機においては、上記回転軸の軸方向視において、上記後側背圧溝における上記回転軸の回転方向前側の一部と、上記前側背圧溝における上記回転軸の回転方向後側の一部とは重ならなくてもよい。
【0010】
上記ベーン型圧縮機においては、上記第2区画壁には、上記吐出領域の下部と上記第2の挿入孔とを連通し潤滑油を上記第2の挿入孔に供給する第1の貫通孔と、上記第1の貫通孔の途中から分岐して上記吐出領域の下部と上記ベーン背圧室とを連通する第2の貫通孔を有し、上記ベーン背圧室に背圧を間欠的に供給する背圧供給路が設けられており、上記回転軸が回転することに伴って、上記ベーン背圧室が、上記後側背圧溝に対向して上記後側背圧溝に連通し、かつ、上記前側背圧溝および上記背圧供給路に対向しないという第1状態と、上記第1状態よりも後のタイミングで、上記ベーン背圧室が、上記前側背圧溝に対向して上記前側背圧溝に連通し、かつ、上記後側背圧溝および上記背圧供給路に対向しない第2状態と、上記第2状態よりも後のタイミングで、上記ベーン背圧室が、上記背圧供給路に対向して連通し、かつ、上記後側背圧溝および上記前側背圧溝に対向しない第3状態と、が形成されていてもよい。
【0011】
上記ベーン型圧縮機においては、上記回転軸が回転することに伴って、上記第1状態よりも後であって且つ上記第2状態よりも前のタイミングに、上記ベーン背圧室が、上記後側背圧溝および上記前側背圧溝の双方に対向して連通するという状態が形成されていてもよい。
【0012】
上記ベーン型圧縮機においては、上記後側背圧溝は、吸入から圧縮初期行程にかけて上記ベーン背圧室に対向して連通していてもよい。
【発明の効果】
【0013】
上記構成によれば、必要以上の背圧がベーン背圧室に供給されることを抑制することにより、動力消費量の低減を図ることが可能なベーン型圧縮機を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態におけるベーン型圧縮機10を示す断面図である。
【
図2】
図1中のII-II線に沿った矢視断面図である。
【
図3】
図1中のIII-III線に沿った矢視断面図である。
【
図4】
図1中のIV-IV線に沿った矢視断面図である。
【
図5】
図1中のV-V線に沿った矢視断面図である。
【
図6】実施の形態におけるベーン型圧縮機10によって形成される第1状態S1、状態SC、第2状態S2および第3状態S3を説明するための図である。
【
図7】比較例のベーン型圧縮機10Zにおける底壁部13p(第1区画壁)および背圧溝13f1,13f2の構成を示す図であり、実施の形態における
図4に対応している。
【
図8】比較例におけるベーン型圧縮機10Zのリヤサイドプレート15(第2区画壁)および背圧溝15f1,15f2の構成を示す図であり、実施の形態における
図5に対応している。
【
図9】回転軸16およびロータ18の回転角度と、ベーン背圧室41の圧力との関係を示したシミュレーション結果に基づくグラフである。
【
図10】実施の形態の変形例におけるベーン型圧縮機に適用されている背圧溝の構成を示す図であり、実施の形態における
図6に対応している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態について、以下、図面を参照しながら説明する。以下の説明において同一の部品および相当部品には同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。
【0016】
[実施の形態]
(ベーン型圧縮機10)
図1~
図6を参照して、実施の形態におけるベーン型圧縮機10について説明する。
図1は、ベーン型圧縮機10を示す断面図である。
図2は、
図1中のII-II線に沿った矢視断面図であり、
図3は、
図1中のIII-III線に沿った矢視断面図である。
【0017】
ベーン型圧縮機10は、ハウジング11、回転軸16、ロータ18、および複数のベーン19を備える。ハウジング11は、冷媒を吸入する吸入口22および冷媒を吐出する吐出口34を備え、内部にシリンダ室14dを区画し、回転軸16を支持する。本実施の形態においては、ハウジング11は、リヤハウジング12、フロントハウジング13、およびリヤサイドプレート15を含む。
【0018】
リヤハウジング12は、周壁12aを有し(
図2,
図3)、フロントハウジング13は、シリンダ部14と、第1区画壁としての底壁部13p(
図1)とを有する。シリンダ部14は底壁部13pと一体に形成される。シリンダ部14は筒状に形成され、リヤハウジング12の周壁12aの内側に配置される。フロントハウジング13は、底壁部13pがリヤハウジング12の開口部を塞ぐようにリヤハウジング12に固定される。
【0019】
第2区画壁としてのリヤサイドプレート15は略円盤状の形状を有し、リヤハウジング12の周壁12aの内側に配置される(
図1)。リヤサイドプレート15は、軸方向(回転軸16の軸心Oが延びる方向)に対して直交する端面15s(第2端面)を有し、ロータ18を挟んで軸方向において底壁部13pの反対側に配置される。リヤサイドプレート15がシリンダ部14の後端に固定されることにより、リヤサイドプレート15の端面15sは、シリンダ部14とともにシリンダ室14dを区画する。
【0020】
底壁部13pも、軸方向(回転軸16の軸心Oが延びる方向)に対して直交する端面13s(第1端面)を有する。底壁部13pの端面13sも、シリンダ部14とともにシリンダ室14dを区画する。シリンダ室14dは、リヤサイドプレート15の端面15sと底壁部13pの端面13s(
図1)との間に位置する。
【0021】
フロントハウジング13(底壁部13p)は軸孔13h(第1の挿入孔)を有し、リヤサイドプレート15は軸孔15h(第2の挿入孔)を有する。軸孔13hは端面13s(第1端面)に開口しており、回転軸16を挿入して支持する。軸孔15hは、端面15s(第2端面)に開口しており、回転軸16を挿入して支持する。回転軸16はシリンダ室14d内に延在する。回転軸16は、リヤサイドプレート15に形成された軸孔15hを通り抜けるように軸孔15hに挿通されていてもよいし、回転軸16の少なくとも一部が軸孔15h内に位置するように軸孔15hに挿入されていてもよい。
【0022】
フロントハウジング13に回転軸16を挿入するための軸孔13hを設けるという構成、およびリヤサイドプレート15に回転軸16を挿入するための軸孔15hを設けるという構成は、いずれも必須の構成ではなく、回転軸16は他の手段によって回転可能に軸支されていてもよい。フロントハウジング13およびリヤサイドプレート15は回転軸16を回転可能に支持する。
【0023】
回転軸16とフロントハウジング13との間には、リップシール型の軸封装置17aが設けられる。回転軸16はシリンダ室14dを貫通するように配置される。ロータ18は、シリンダ室14d内で回転軸16と一体回転可能に設けられる。ロータ18の前端面は底壁部13pのシリンダ室14d側の端面13sと対向し、ロータ18の後端面はリヤサイドプレート15のシリンダ室14d側の端面15sと対向する。
【0024】
図2および
図3に示すように、シリンダ部14の内周面14cは楕円状の形状を有し、ロータ18の外周面18cは正円状の形状を有する。ロータ18の外周面18cには複数のベーン溝18aが形成される。複数のベーン溝18aの各々には、複数のベーン19の各々が出没可能に設けられる。各々のベーン19の底面と各々のベーン溝18aとの間はベーン背圧室41とされる。複数のベーン溝18a(ベーン背圧室41)の各々には後述する吐出領域35(
図1)内の潤滑油が供給される。
【0025】
回転軸16およびロータ18が回転することに伴って、ベーン19の先端はシリンダ部14の内周面14cに接触する。シリンダ室14d内には複数の圧縮室21が形成される。ロータ18の外周面18c、シリンダ部14の内周面14c、複数のベーン19、底壁部13pの端面13s(
図1)、および、リヤサイドプレート15の端面15s(
図1)により、複数の圧縮室21が形成される。
【0026】
図1および
図2に示すように、リヤハウジング12には吸入口22が形成される。吸入口22の内側には逆止弁(図示せず)が設けられる。シリンダ部14には、凹部14aおよび一対の吸入孔23(
図2)が形成される。凹部14aは、シリンダ部14の外周面の周方向における全周に亘って延在する。凹部14aおよびリヤハウジング12の内周面により、吸入空間20が区画される。吸入行程の際、圧縮室21と吸入空間20とは、吸入孔23を介して連通する。
【0027】
図1および
図3に示すように、シリンダ部14には、一対の凹部14b(
図3)が形成される。一対の凹部14bは、回転軸16を挟んで互いに反対側に位置する。一対の凹部14bおよびリヤハウジング12の内周面により、一対の吐出室30が区画される。シリンダ部14には、一対の吐出口31(
図3)が形成される。吐出口31は、吐出弁32によって開閉する。
【0028】
圧縮室21で圧縮された冷媒ガスは、吐出弁32を押し退け吐出口31を経由して吐出室30へ吐出される。吐出室30は、吸入空間20よりも後方側に位置し、吸入空間20と吐出室30とは、軸方向において互いに異なる位置に形成される。吸入空間20は、吐出室30よりも底壁部13pの近く位置し、吐出室30は、吸入空間20よりもリヤサイドプレート15の近く位置する。
【0029】
リヤハウジング12には吐出口34が形成される。ハウジング11内の空間のうちのリヤサイドプレート15に対してシリンダ室14dとは反対側の位置に、吐出領域35が形成される。吐出領域35は、リヤサイドプレート15に対して軸方向においてシリンダ部14の反対側に位置している。吐出領域35内には油分離器36が設けられる。
【0030】
リヤサイドプレート15には連通孔37が形成され、連通孔37は、吐出室30と油分離器36とを連通させる。油分離器36は、冷媒ガス中に含まれる潤滑油を分離する。吐出室30内の冷媒(圧縮室21内で圧縮された冷媒)は、連通孔37および油分離器36を通して吐出領域35に吐出される。吐出領域35は、圧縮室21内で圧縮された冷媒から分離された潤滑油を貯留するとともに、圧縮室21内で圧縮された冷媒を吐出口34を通して外部に吐出する。
【0031】
リヤサイドプレート15には、油通路15d1、環状通路15d2、および、油通路15d3,15d4が形成される。油通路15d1は、吐出領域35の下部と環状通路15d2とを連通させる。環状通路15d2は、軸孔15hを取り囲むように形成される。油通路15d1および環状通路15d2は、第1の貫通孔に相当し、吐出領域35の下部と軸孔15h(第2の挿入孔)とを連通し潤滑油を軸孔15hに供給する。油通路15d3は、環状通路15d2と油通路15d4とを連通させる。回転軸16の後端は油通路15d4の内側に位置している。油通路15d1、環状通路15d2、および、油通路15d3,15d4も、第1の貫通孔として機能することができ、吐出領域35の下部と軸孔15h(第2の挿入孔)とを連通し潤滑油を軸孔15hに供給する。
【0032】
(ベーン背圧室41)
上述のとおり、各々のベーン19の底面と各々のベーン溝18aとの間はベーン背圧室41(
図2,
図3)とされる。ベーン19は、ベーン背圧室41内の圧力変化によって、ベーン溝18aに対して出没する。
【0033】
(後側背圧溝13a1,13a2)
図4は、
図1中のIV-IV線に沿った矢視断面図である。図示上の便宜のため、
図4にはハッチング線を付していない。
図1,
図2,
図4に示すように、フロントハウジング13の底壁部13pの端面13sには、後側背圧溝13a1,13a2が形成されている。
【0034】
後側背圧溝13a1,13a2は、回転軸16の軸心Oを中心として、互いに反対側の位置に配置されている。後側背圧溝13a1,13a2は、いずれも底壁部13pのうちのシリンダ室14d側の端面13s(第1端面)上に開口している。後側背圧溝13a1,13a2は、いずれも所定の周長さを有する円弧状に延びるように形成されている。後側背圧溝13a1,13a2は、軸孔13h(開口)に対して径方向に離間するとともに、少なくとも吸入行程においてベーン背圧室41に対向して連通する。後側背圧溝13a1,13a2は、吸入から圧縮初期行程にかけてベーン背圧室41に対向して連通してもよい。
【0035】
後側背圧溝13a1は、前端部13enおよび後端部13stを有する。前端部13enは、後側背圧溝13a1における、回転軸16の回転方向における前端に位置する部分であり、後端部13stは、後側背圧溝13a1における、回転軸16の回転方向における後端に位置する部分である。
【0036】
回転軸16およびロータ18の回転によってベーン背圧室41が移動する際、ベーン背圧室41は、後側背圧溝13a1のうちの後端部13stに最初に対向し、後側背圧溝13a1のうちの前端部13enに最後に対向する。後端部13stは、ベーン背圧室41が最初に対向する部分であり、前端部13enは、ベーン背圧室41が最後に対向する部分である。
【0037】
(前側背圧溝15c1,15c2)
図5は、
図1中のV-V線に沿った矢視断面図である。
図1に示されるV-V線の位置および矢視方向に基づけば、後側背圧溝13a1,13a2、ロータ18および複数のベーン19などは、
図5中には本来的には現れない。説明上の便宜のため、これらの各要素を
図5中に図示している。説明上の便宜のため、
図4中にも、前側背圧溝15c1,15c2を仮想的に図示している。
図1,
図3,
図5に示すように、リヤサイドプレート15の端面15sには、前側背圧溝15c1,15c2が形成されている。
【0038】
前側背圧溝15c1,15c2は、回転軸16の軸心Oを中心として、互いに反対側の位置に配置されている。前側背圧溝15c1,15c2は、いずれもリヤサイドプレート15のうちのシリンダ室14d側の端面15s(第2端面)上に開口している。前側背圧溝15c1,15c2は、いずれも所定の周長さを有する円弧状に延びるように形成されている。前側背圧溝15c1,15c2は、軸孔15h(開口)に接続されており、軸孔15hから径方向外側に延び、ベーン背圧室41に対向して連通する。前側背圧溝15c1,15c2は、軸孔15hを介して互いに連通している。
【0039】
前側背圧溝15c1は、前端部15enおよび後端部15stを有する。前端部15enは、前側背圧溝15c1における、回転軸16の回転方向における前端に位置する部分であり、後端部15stは、前側背圧溝15c1における、回転軸16の回転方向における後端に位置する部分である。
【0040】
回転軸16およびロータ18の回転によってベーン背圧室41が移動する際、ベーン背圧室41は、前側背圧溝15c1のうちの後端部15stに最初に対向し、前側背圧溝15c1のうちの前端部15enに最後に対向する。後端部15stは、ベーン背圧室41が最初に対向する部分であり、前端部15enは、ベーン背圧室41が最後に対向する部分である。
【0041】
(後側背圧溝13a1,13a2および前側背圧溝15c1,15c2の位置関係)
図4,
図5に示すように、回転軸16の回転方向において、後側背圧溝13a1の後端部13stは、前側背圧溝15c1の後端部15stよりも後側に位置し、後側背圧溝13a1の前端部13enは、前側背圧溝15c1の前端部15enよりも後側に位置する。これらの位置関係については、後側背圧溝13a2および前側背圧溝15c2についても同様である。
【0042】
本実施の形態においては、軸方向に対して平行な方向から後側背圧溝13a1と前側背圧溝15c1とを視た場合、後側背圧溝13a1と前側背圧溝15c1とは重なっておらず、周方向において互いに離間している。これらの位置関係については、後側背圧溝13a2および前側背圧溝15c2についても同様である。
【0043】
(背圧供給路15e1,15e2)
図1および
図5を参照して、リヤサイドプレート15には、背圧供給路15e1および背圧供給路15e2も設けられる。背圧供給路15e1,15e2は、回転軸16を挟んだ位置に設けられている。背圧供給路15e1は、ロータ18の回転方向において前側背圧溝15c1の前側に位置し、背圧供給路15e2は、ロータ18の回転方向において前側背圧溝15c2の前側に位置する。
【0044】
軸方向に対して平行な方向から背圧供給路15e1,15e2などを視た場合、背圧供給路15e1、前側背圧溝15c1、および後側背圧溝13a1は、回転軸16の周方向において互いに離間して設けられており、背圧供給路15e2、前側背圧溝15c2、および後側背圧溝13a2も、回転軸16の周方向において互いに離間して設けられている。
【0045】
各背圧供給路15e1,15e2は、第1の貫通孔の途中(ここでは環状通路15d2)から分岐する第2の貫通孔を有しており、ここでは第2の貫通孔は軸方向に沿ってフロント側に向かって延びている。この第2の貫通孔の一端は、リヤサイドプレート15の端面15s(第2端面)上で開口しており、この第2の貫通孔の他端は、環状通路15d2(
図1)上において開口している。各背圧供給路15e1,15e2は、環状通路15d2(
図1)および油通路15d1を介して吐出領域35の下部に連通している。吐出領域35の下部に貯留された潤滑油は、背圧供給路15e1,15e2を通してベーン背圧室41に間欠的に供給される。
【0046】
(第1状態S1、第2状態S2、および第3状態S3)
シリンダ室14dから見てフロント側に設けられた後側背圧溝13a1,13a2、ならびに、シリンダ室14dから見てリア側に設けられた前側背圧溝15c1,15c2、および背圧供給路15e1,15e2は、回転軸16の回転により、各々がベーン背圧室41と連通または非連通とされる。
【0047】
回転軸16がロータ18とともに回転することに伴って、以下に述べる第1状態S1、第2状態S2および第3状態S3が少なくとも形成される。
図6は、ベーン型圧縮機10によって形成される第1状態S1、状態SC、第2状態S2および第3状態S3を説明するための図である。
図6中には説明上の便宜のため、後側背圧溝13a1,13a2、ロータ18および複数のベーン19を図示している。
【0048】
図6に示すように、第1状態S1においては、ベーン背圧室41が、後側背圧溝13a1に対向して後側背圧溝13a1に連通し、かつ、前側背圧溝15c1および背圧供給路15e1に対向しない。この状態はたとえば、吸入行程の初期と圧縮行程の初期との間に形成される。第1状態S1の際には、ベーン背圧室41は、後側背圧溝13a1のみに対向しており、前側背圧溝15c1や背圧供給路15e1からの高い圧力が、このベーン背圧室41に供給されることはほとんど、あるいはまったくない。
【0049】
第2状態S2は、第1状態S1よりも後のタイミングで形成され、第2状態S2においては、ベーン背圧室41が、前側背圧溝15c1に対向して前側背圧溝15c1に連通し、かつ、後側背圧溝13a1および背圧供給路15e1に対向しない。この状態はたとえば、圧縮行程の後半に形成される。第2状態S2の際には、ベーン背圧室41は、前側背圧溝15c1のみに対向しており、後側背圧溝13a1からの低い圧力が、このベーン背圧室41に供給されることはほとんど、あるいはまったくない。
【0050】
第3状態S3は、第2状態S2よりも後のタイミングで形成され、第3状態S3においては、ベーン背圧室41が、背圧供給路15e1に対向する。この状態はたとえば、圧縮行程の後半から吐出行程にかけて形成される。背圧供給路15e1からの高圧がベーン背圧室41に供給される。第3状態S3においては、ベーン背圧室41は前側背圧溝15c1にも対向していてもよいし、対向していなくてもよい。これらが連通または非連通とされることによって、ベーン背圧室41からの高圧が前側背圧溝15c1にも供給されたり、供給されなくなったりする。
【0051】
本実施の形態においては、回転軸16を中心としたベーン背圧室41の1回の回転のうち、ベーン背圧室41が後側背圧溝13a1に対向する角度範囲θAは、ベーン背圧室41が前側背圧溝15c1に対向する角度範囲θCよりも大きい。後側背圧溝13a1と前側背圧溝15c1とは、ベーン背圧室41を介して相互に連通する。後側背圧溝13a2と前側背圧溝15c2とは、ベーン背圧室41を介して相互に連通する。
【0052】
図6に示すように、本実施の形態においてはさらに、回転軸16が回転することに伴って、第1状態S1よりも後であって且つ第2状態S2よりも前のタイミングに、他の状態SCが形成される。他の状態SCにおいては、ベーン背圧室41が、後側背圧溝13a1および前側背圧溝15c1の双方に対向して後側背圧溝13a1および前側背圧溝15c1の双方に連通する。これらが連通していることによって、前側背圧溝15c1からの高圧が後側背圧溝13a1に供給され、あるいはその逆向きの圧力移動が行なわれる。
【0053】
(高圧ガス供給通路15f)
図1に示すように、リヤサイドプレート15の上部には高圧ガス供給通路15fが形成されている。高圧ガス供給通路15fは、吐出領域35の上部(冷媒ガス雰囲気)と、たとえば前側背圧溝15c1とを連通する。高圧ガス供給通路15fは、吐出領域35側に位置する大径部15gと、前側背圧溝15c1側に位置する小径部15jとを有する。大径部15gと小径部15jとの間には弁孔が形成される。大径部15g内には、球状の弁体33がこの弁孔を開閉可能なように収容される。弁体33は、バネ33sにより開弁方向に付勢されている。ベーン型圧縮機10が起動された後、吐出領域35の圧力が所定値以上になると弁体33が高圧ガス供給通路15f(弁孔)を閉鎖する。
【0054】
(ベーン型圧縮機10の作用)
図2を参照して、ロータ18がベーン19とともに回転されると、圧縮室21を形成している一対のベーン19のうちの先行するベーン19が、吸入孔23の始端を通過する。この際に、ベーン19が飛び出す分だけベーン背圧室41、後側背圧溝15a1および前側背圧溝15c1の双方(または、ベーン背圧室41、後側背圧溝13a1および前側背圧溝13c1の双方)による容積が拡大するため圧力が低下する。吸入空間20内の冷媒ガスは、吸入孔23を通して圧縮室21内に流入する。圧縮室21を形成している一対のベーン19のうちの後行するベーン19が吸入孔23を通過し終えると、この圧縮室21では圧縮行程が始まり、冷媒ガスが圧縮される。
【0055】
先行するベーン19が吐出口31(
図3)を通過することで吐出行程が開始される。圧縮された冷媒ガスは吐出弁32を開き、吐出口31を通して吐出室30へ吐出される。吐出室30へ吐出された冷媒ガスは連通孔37内を流れ、冷媒ガス中に含まれる油は油分離器36によって分離される。冷媒ガス中に含まれる油(潤滑油)は吐出領域35の底部に貯留され、冷媒ガスは吐出口34を通して外部回路に送られる。
【0056】
ベーン型圧縮機10が停止している状態では吐出領域35の圧力とベーン背圧室41の圧力とが均衡している。弁体33はバネ33sにより付勢されており高圧ガス供給通路15fを閉鎖していない(開通している)。この状態でベーン型圧縮機10が起動されると、吐出口31から連通孔37を経て、吐出圧力相当の圧縮ガスが吐出領域35に供給される。吐出圧力相当の圧縮ガスは、高圧ガス供給通路15fおよび前側背圧溝15c1を介してベーン背圧室41に供給される。
【0057】
ベーン19は、適正な背圧でシリンダ部14の内周面14cに圧接される。起動直後においてベーン19の躍動(チャタリング)が防止され、圧縮動作、およびロータ18とベーン19との摺動面などの潤滑動作が適正に行なわれる。ベーン型圧縮機10の起動後、所定時間が経過して吐出領域35内の圧力が上昇し、弁体33の前後に作用する差圧がバネ33sの付勢力を超えると、弁体33は高圧ガス供給通路15fを閉鎖する。
【0058】
吐出領域35(
図1)の底部に貯留された吐出圧力(高圧)を有する潤滑油は、吐出領域35の底部から、油通路15d1、環状通路15d2、油通路15d3,15d4、および軸孔15hへと流れる。潤滑油はその後、軸孔15hから前側背圧溝15c1,15c2を流れ、各背圧溝に供給される。
【0059】
さらに、吐出領域35の底部に貯留された吐出圧力(高圧)を有する潤滑油は、背圧供給路15e1,15e2を経由して、前側背圧溝15c1,15c2に供給される。ベーン型圧縮機10の運転時には、このようにして、ベーン背圧室41に潤滑油(背圧)が供給され、ベーン19は突出する方向に付勢される。
【0060】
図6に示すように、上述のとおり本実施の形態においては、回転軸16がロータ18とともに回転することに伴って、第1状態S1、第2状態S2および第3状態S3が少なくとも形成される。このことにより得られる特別顕著な効果について、以下の比較例と比較しながら説明する。
【0061】
[比較例]
図7は、比較例のベーン型圧縮機10Zにおける底壁部13p(第1区画壁)および背圧溝13f1,13f2の構成を示す図であり、実施の形態における
図4に対応している。
図8は、比較例におけるベーン型圧縮機10Zのリヤサイドプレート15(第2区画壁)および背圧溝15f1,15f2の構成を示す図であり、実施の形態における
図5に対応している。
【0062】
背圧溝13f1は、実施の形態における後側背圧溝13a1および前側背圧溝15c1を底壁部13p上で組み合わせたような形状を有しており、実施の形態における後側背圧溝13a1および前側背圧溝15c1の場合とは異なり、軸方向および周方向において互いに分離された2つの空間ではない。背圧溝13f2、背圧溝15f1および背圧溝15f2についても同様である。
【0063】
すなわち
図7および
図8に示す比較例においては、背圧溝が所定の角度範囲にわたって、周方向に長く延在して形成されている。当該構成の場合、ベーン背圧室41が長い区間にわたってこれらの背圧溝と連通するため、たとえば、圧縮行程の後半から吐出行程の後半までの間の区間など、必要背圧が高い区間において高い背圧をベーン背圧室41に供給するように設定した場合には、吸入行程から圧縮行程の初期までの間の区間など、必要背圧が低い区間において必要以上の背圧がベーン背圧室41に供給される可能性がある。
【0064】
これに対して実施の形態におけるベーン型圧縮機10では、たとえば、圧縮行程の後半から吐出行程の後半までの間の区間など、必要背圧が高い区間において高い背圧をベーン背圧室41に供給するように設定した場合には、前側背圧溝15c1,15c2の圧力が高められる。
【0065】
前側背圧溝15c1と後側背圧溝13a1とは、軸方向および周方向において互いに離間しており、前側背圧溝15c1内に供給される高められた圧力は、後側背圧溝13a1に伝わることはほとんどない。したがって、吸入行程から圧縮行程の初期までの間の区間など、必要背圧が低い区間において必要以上の背圧がベーン背圧室41に供給される可能性を低くすることが可能となっており、これらについては、前側背圧溝15c2についても同様である。したがって本実施の形態のベーン型圧縮機10によれば、必要以上の背圧がベーン背圧室41に供給されることを抑制することにより、動力消費量の低減を図ることが可能となっている。
【0066】
図9は、回転軸16およびロータ18の回転角度と、ベーン背圧室41の圧力との関係を示したシミュレーション結果に基づくグラフである。実施の形態に基づく実施例の場合には、比較例の場合に比べて、10°(吸入行程の初期)から110°(圧縮行程の前半)までの範囲において、ベーン背圧室41の圧力を小さくすることができていることがわかる。
【0067】
上述のとおり、本実施の形態においては(
図6参照)、回転軸16を中心としたベーン背圧室41の1回の回転のうち、ベーン背圧室41が後側背圧溝13a1に対向する角度範囲θAは、ベーン背圧室41が前側背圧溝15c1に対向する角度範囲θCよりも大きい。吸入、圧縮および吐出の一連のサイクルの中の前半の長い期間に、ベーン背圧室41に低い圧力を設定し、必要以上の背圧がベーン背圧室41に供給されることを抑制することにより、動力消費量の低減を図ることが可能となっている。仕様に応じて、角度範囲θA,θCの大小関係は、上記とは逆であってもよい。
【0068】
図6に示すように、本実施の形態においてはさらに、回転軸16が回転することに伴って、第1状態S1よりも後であって且つ第2状態S2よりも前のタイミングに、他の状態SCが形成される。他の状態SCにおいては、ベーン背圧室41が、後側背圧溝13a1および前側背圧溝15c1の双方に対向して後側背圧溝13a1および前側背圧溝15c1の双方に連通する。
【0069】
これらが連通していることによって、前側背圧溝15c1からの高圧が後側背圧溝13a1に供給され、あるいはその逆向きの圧力移動が行なわれる。吸入、圧縮および吐出の一連のサイクルの中の前半の長い期間に、ベーン背圧室41に過度に低い圧力が設定されることを抑制することで、必要圧力以上の適正な圧力を確保しながらも、チャタリングの抑制が可能となる。
【0070】
また、本実施の形態においては、吐出領域35がリヤ側に設けられており、背圧供給路15e1,15e2もリヤサイドプレート15に設けられており、装置の軸方向における簡素化や簡略化を図ることが可能になっている。背圧供給路は、仕様に応じてフロント側に設けられていてもよい。
【0071】
図10は、実施の形態の変形例におけるベーン型圧縮機に適用されている背圧溝の構成を示す図であり、実施の形態における
図6に対応している。
図10に示すように、軸方向に対して平行な方向から後側背圧溝13a1と前側背圧溝15c1とを視た場合(すなわち回転軸16の軸方向視において)、後側背圧溝13a1の回転軸16の回転方向前側の一部と前側背圧溝15c1の回転軸16の回転方向後側の一部とは、重なっていてもよい。吸入、圧縮および吐出の一連のサイクルの中の前半の長い期間に、ベーン背圧室41に過度に低い圧力が設定されることを抑制することで、必要圧力以上の適正な圧力を確保しながらも、チャタリングの抑制が可能となる。
【0072】
本実施の形態においては、フロント側に後側背圧溝13a1,13a2が設けられており、リヤ側に前側背圧溝15c1,15c2が設けられている。このような構成に限られず、フロント側に前側背圧溝が設けられ、リヤ側に後側背圧溝が設けられてもよい。
【0073】
ハウジング11においては、底壁部13pとシリンダ部14とが一体に形成されているが、この構成に代えて、底壁部13pをフロントサイドプレートとしてシリンダ部14と別体に形成し、軸方向において間隔を空けて配置されたフロントサイドプレートとリヤサイドプレート15との間にシリンダ部14を配置する構成としてもよい。当該構成の場合、フロントサイドプレートが第1区画壁を構成し、リヤサイドプレートが第2区画壁を構成する。
【0074】
以上、実施の形態について説明したが、上記の開示内容はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0075】
10,10Z ベーン型圧縮機、11 ハウジング、12 リヤハウジング、12a 周壁、13 フロントハウジング、13a1,13a2,15a1 後側背圧溝、13c1,15c1,15c2 前側背圧溝、13en,15en 前端部、13f1,13f2,15f1,15f2 背圧溝、13h,15h 軸孔、13p 底壁部、13s,15s 端面、13st,15st 後端部、14 シリンダ部、14a,14b 凹部、14c 内周面、14d シリンダ室、15 リヤサイドプレート、15d1,15d3,15d4 油通路、15d2 環状通路、15e1,15e2 背圧供給路、15f 高圧ガス供給通路、15g 大径部、15j 小径部、16 回転軸、17a 軸封装置、18 ロータ、18a ベーン溝、18c 外周面、19 ベーン、20 吸入空間、21 圧縮室、22 吸入口、23 吸入孔、30 吐出室、31,34 吐出口、32 吐出弁、33 弁体、33s バネ、35 吐出領域、36 油分離器、37 連通孔、41 ベーン背圧室、O 軸心、S1 第1状態、S2 第2状態、S3 第3状態、SC 状態。