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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20230502BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/30 A
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020553382
(86)(22)【出願日】2019-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2019041271
(87)【国際公開番号】W WO2020085286
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2018202085
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】田桑 謙
(72)【発明者】
【氏名】小池 信行
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-164969(JP,A)
【文献】特開2018-059012(JP,A)
【文献】特開2015-104883(JP,A)
【文献】特開2006-159902(JP,A)
【文献】国際公開第2015/108064(WO,A1)
【文献】特開2014-046598(JP,A)
【文献】特開平11-058653(JP,A)
【文献】国際公開第2012/018099(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性ポリエステル樹脂(A)を主成分とする第1層上に、(メタ)アクリル系樹脂(B)を主成分とする第2層を有し、前記第1層中の非晶性ポリエステル樹脂(A)の含有量は第1層の全重量に対して80重量%以上であり、前記第2層中の(メタ)アクリル系樹脂(B)の含有量は第2層の全重量に対して70重量%以上であり、前記非晶性ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量が10,000~80,000であり、前記(メタ)アクリル樹脂(B)の重量平均分子量が100,000~150,000であり、前記非晶性ポリエステル樹脂(A)はポリカーボネート樹脂ではない、熱可塑性樹脂積層体。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル樹脂(B)が下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と、下記一般式(2)で表される脂肪族ビニル構成単位(b)とを含む、請求項1に記載の熱可塑性樹脂積層体。
【化5】
(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R2は炭素数1~16の炭化水素基である。)
【化6】
(式中、R3は水素原子またはメチル基であり、R4は、炭素数1~4の炭化水素基で置換されていてもよい、シクロヘキシル基、シクロヘキサジエン基、およびシクロヘキセン基から選択される。)
【請求項3】
前記(メタ)アクリル樹脂(B)が下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と、下記一般式(2)で表される脂肪族ビニル構成単位(b)と、下記式(3)で示される芳香族ビニル構成単位(b’)を含み、前記(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と前記脂肪族ビニル構成単位(b)と前記芳香族ビニル構成単位(b’)との合計割合が前記(メタ)アクリル樹脂(B)中の全構成単位の合計に対して90~100モル%であり、前記(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と前記脂肪族ビニル構成単位(b)と前記芳香族ビニル構成単位(b’)との合計の構成単位に対して前記(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)の割合が55モル%以上85モル%以下である、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂積層体。
【化5】
(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R2は炭素数1~16の炭化水素基である。)
【化6】
(式中、R3は水素原子またはメチル基であり、R4は、炭素数1~4の炭化水素基で置換されていてもよい、シクロヘキシル基、シクロヘキサジエン基、およびシクロヘキセン基から選択される。)
【化7】
(式中、R5は水素原子またはメチル基であり、R6は炭素数1~4の炭化水素基で置換されていてもよいフェニル基である。)
【請求項4】
前記第1層中のポリカーボネート樹脂の含有量が20重量%未満である、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂積層体。
【請求項5】
前記非晶性ポリエステル樹脂(A)は、前記非晶性ポリエステル樹脂(A)を構成する全ジオール単位中、脂環式ジオールおよび/または複素環式ジオール由来の単位を50~100モル%含む、請求項1~のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂積層体。
【請求項6】
前記脂環式ジオールおよび/または複素環式ジオールは、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトール、および3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンからなる群から選択される1種以上を含む、請求項に記載の熱可塑性樹脂積層体。
【請求項7】
前記脂環式ジオールおよび/または複素環式ジオールは、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、および、1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトールからなる群から選択される1種以上を含む、請求項またはに記載の熱可塑性樹脂積層体。
【請求項8】
前記非晶性ポリエステル樹脂(A)は、前記非晶性ポリエステル樹脂(A)を構成する全ジオール単位中、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール由来の単位を20~40モル%および1,4-シクロヘキサンジメタノール由来の単位を60~80モル%含み、かつ、前記非晶性ポリエステル樹脂(A)を構成する全ジオール単位中、脂環式ジオール由来の単位を90~100モル%含む、請求項1~のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂積層体。
【請求項9】
前記第1層はポリカーボネート樹脂を含まない、請求項1~のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂積層体。
【請求項10】
前記非晶性ポリエステル樹脂(A)は、前記非晶性ポリエステル樹脂(A)を構成する全ジカルボン酸単位中、芳香族ジカルボン酸単位を90~100モル%含む、請求項1~のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂積層体。
【請求項11】
前記非晶性ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が110~135℃の範囲であり、前記(メタ)アクリル樹脂(B)のガラス転移温度が110~135℃の範囲である、請求項1~10のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂積層体。
【請求項12】
前記非晶性ポリエステル樹脂(A)と前記(メタ)アクリル樹脂(B)とのガラス転移温度の差の絶対値が10℃以内である、請求項1~11のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂積層体。
【請求項13】
前記熱可塑性樹脂積層体の厚みは、0.15~2.0mmの範囲である、請求項1~12のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂積層体。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂積層体を含む、加飾用フィルム。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂積層体を含む、ディスプレイ前面板。
【請求項16】
請求項1~13のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂積層体を熱成形して得られる熱成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性の基板材料や保護材料の光学用途に使用される熱可塑性樹脂積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車内装や小型携帯機等の筐体には、意匠層が施された加飾フィルムと、樹脂成形体とを一体化した加飾成形体が用いられる。具体的には、加飾フィルムを熱成形(真空成形、圧空成形、圧空真空成形、熱曲げ成形等)により予備成形した後、これを金型内にセットし、そこに溶融樹脂を射出して射出成形体を形成すると同時に予備成形された加飾フィルムと一体化させる方法(インサート成形法)等が広く用いられている。樹脂成形体と加飾フィルムとを加飾フィルムの意匠層側から一体化することで、立体感や深みのある成形体を得ることが出来る、当該加飾成形体は長期使用時の摩耗による意匠層劣化が無い、表面硬度や防指紋特性等の機能を容易に付与することが出来る等の特長がある。
【0003】
加飾フィルムを構成する被印刷透明材料としては、ポリカーボネート樹脂やアクリル樹脂が挙げられる。ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性および耐熱性に優れるものの、表面硬度が低いために成形体表面に容易に傷がつくという問題がある。一方、アクリル樹脂は、高い表面硬度を持ち、耐擦傷性に優れるものの、フィルムの取り扱い時や運搬時に割れや欠け等の破損を生じやすい問題がある。
【0004】
ポリカーボネート樹脂の特長である耐衝撃性や耐熱性と、アクリル樹脂の特長である耐擦傷性を両立させる方法として、ポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂との積層フィルム(特許文献1)やポリカーボネート樹脂とビニル共重合樹脂の積層フィルム(特許文献2)が提示されている。特許文献1では、アクリル樹脂を成形体表面、ポリカーボネート樹脂を印刷面としたフィルムを用いることで、アクリル樹脂の耐擦傷性とポリカーボネート樹脂の耐衝撃性や耐熱性の両立を可能としている。しかしながら、上記多層フィルムについては、熱成形時に白化、クラック、発泡、シワ等の成形不良が生じやすいために成形条件が非常に狭くなるうえ、深絞りやシャープなエッジ形状等の意匠性の高い熱賦形には対応出来ない問題がある。また情報表示機器前面板等の用途では、表面平滑性を維持したまま熱賦形を必要とする例がある。例えばポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂との積層フィルムの例ではポリカーボネート樹脂のガラス転移温度よりもはるかに低い温度で熱賦形する必要があり、良好な熱賦形品を得ることがさらに困難であるうえ、成形時の残留歪みが大きくなる傾向があり、環境の変化により形状変化を発生しやすくなる問題があった。特許文献2についても、特許文献1と同様の原因により、良好な熱賦形品を得ることが困難であるうえ、成形時の残留歪みが大きくなる傾向があり、環境の変化により形状変化を発生しやすくなる問題があった。
【0005】
ポリカーボネート樹脂の特長である耐衝撃性や耐熱性と、アクリル樹脂の特長である耐擦傷性を両立させ、かつ熱賦形性を向上させる方法として、ポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂との積層シートにおいて、荷重たわみ温度(ISO75、1.8MPa荷重)を下げたポリカーボネート樹脂組成物を用いる方法(特許文献3)やポリカーボネート樹脂層に異なる樹脂(芳香族ポリエステル)をポリマーアロイする事によって、ポリカーボネート樹脂層のガラス転移温度を下げる技術が提案されている(特許文献4)。しかしながら、上記の方法で、深絞りやシャープなエッジ形状等の意匠性の高い熱賦形は困難である。また、これら方法では共重合や予備混練を必要とするため、製造コストが高価になりやすく経済性に劣る問題がある。また、特にアクリル系樹脂の吸水率が高いため、熱成形前に十分に乾燥させないと発泡等の外観不良を生じる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭64-69625号公報
【文献】特開2013-220590号公報
【文献】特開2008-238618号公報
【文献】特開2009-196153号公報
【発明の概要】
【0007】
以上のような状況から、透明性の基板材料や保護材料の光学用途に使用される新規な熱可塑性樹脂積層体が依然として求められている。
【0008】
本発明は、例えば以下のとおりである。
【0009】
[1] 非晶性ポリエステル樹脂(A)を主成分とする第1層上に、(メタ)アクリル系樹脂(B)を主成分とする第2層を有する、熱可塑性樹脂積層体。
[2] 前記(メタ)アクリル樹脂(B)が下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と、下記一般式(2)で表される脂肪族ビニル構成単位(b)と、必要に応じて下記式(3)で示される芳香族ビニル構成単位(b’)を含み、前記(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と前記脂肪族ビニル構成単位(b)と前記芳香族ビニル構成単位(b’)との合計割合が前記(メタ)アクリル樹脂(B)中の全構成単位の合計に対して90~100モル%であり、前記(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と前記脂肪族ビニル構成単位(b)と前記芳香族ビニル構成単位(b’)との合計の構成単位に対して前記(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)の割合が55モル%以上85モル%以下である、[1]に記載の熱可塑性樹脂積層体。
【化1】
(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R2は炭素数1~16の炭化水素基である。)
【化2】
(式中、R3は水素原子またはメチル基であり、R4は、炭素数1~4の炭化水素基で置換されていてもよい、シクロヘキシル基、シクロヘキサジエン基、またはシクロヘキセン基から選択される。)
【化3】
(式中、R5は水素原子またはメチル基であり、R6は炭素数1~4の炭化水素基で置換されていてもよいフェニル基である。)
[3] 前記第1層中のポリカーボネート樹脂の含有量が20重量%未満である、[1]または[2]に記載の熱可塑性樹脂積層体。
[4] 前記非晶性ポリエステル樹脂(A)は、前記非晶性ポリエステル樹脂(A)を構成する全ジオール単位中、脂環式ジオールおよび/または複素環式ジオール由来の単位を50~100モル%含む、[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体。
[5] 前記脂環式ジオールおよび/または複素環式ジオールは、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトール、および3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンからなる群から選択される1種以上を含む、[4]に記載の熱可塑性樹脂積層体。
[6] 前記脂環式ジオールおよび/または複素環式ジオールは、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、および、1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトールからなる群から選択される1種以上を含む、[4]または[5]に記載の熱可塑性樹脂積層体。
[6a] 前記非晶性ポリエステル樹脂(A)は、前記非晶性ポリエステル樹脂(A)を構成する全ジオール単位中、脂環式ジオールおよび/または複素環式ジオール由来の単位を90~100モル%含む、[1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体。
[7] 前記非晶性ポリエステル樹脂(A)は、前記非晶性ポリエステル樹脂(A)を構成する全ジオール単位中、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール由来の単位を20~40モル%および1,4-シクロヘキサンジメタノール由来の単位を60~80モル%含み、かつ、前記非晶性ポリエステル樹脂(A)を構成する全ジオール単位中、脂環式ジオール由来の単位を90~100モル%含む、[1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体。
[7a] 前記非晶性ポリエステル樹脂(A)は、前記非晶性ポリエステル樹脂(A)を構成する全ジオール単位中、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール由来の単位を25~40モル%および1,4-シクロヘキサンジメタノール由来の単位を60~75モル%含み、かつ、前記非晶性ポリエステル樹脂(A)を構成する全ジオール単位中、脂環式ジオール由来の単位を90~100モル%含む、[7]に記載の熱可塑性樹脂積層体。
[8] 前記第1層はポリカーボネート樹脂を実質的に含まない、[1]~[7]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体。
[8a] 前記第1層はポリアクリレート樹脂を実質的に含まない、[1]~[8]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体。
[9] 前記非晶性ポリエステル樹脂(A)は、前記非晶性ポリエステル樹脂(A)を構成する全ジカルボン酸単位中、芳香族ジカルボン酸単位を90~100モル%含む、[1]~[8]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体。
[9a] 前記非晶性ポリエステル樹脂(A)は、ジカルボン酸構成単位としてテレフタル酸(PTA)由来の構成単位を含み、ジオール構成単位として、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール(CBDO)と1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)との組合せ、1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトール(ISB)とエチレングリコール(EG)と1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)との組合せ、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン(スピログリコール)(SPG)とエチレングリコール(EG)と1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)との組合せ、またはエチレングリコール(EG)と1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)との組合せ由来の構成単位を含む、[1]~[9]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体。
[10] 前記非晶性ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量が、10,000~80,000であり、前記(メタ)アクリル樹脂(B)の重量平均分子量が、100,000~150,000である、[1]~[9]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体。
[11] 前記非晶性ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度が110~135℃の範囲であり、前記(メタ)アクリル樹脂(B)のガラス転移温度が110~135℃の範囲である、[1]~[10]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体。
[12] 前記非晶性ポリエステル樹脂(A)と前記(メタ)アクリル樹脂(B)とのガラス転移温度の差の絶対値が10℃以内である、[1]~[11]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体。
[13] 前記熱可塑性樹脂積層体の厚みは、0.15~2.0mmの範囲である、[1]~[12]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体。
[13a] 前記第1層の厚みは、100~1900μm(好ましくは150~1500μmの範囲であり、より好ましくは200~1000μm)の範囲であり、前記第2層の厚みは、10~500μm(好ましくは30~300μm、より好ましくは50~100μm)の範囲である、[1]~[12]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体。
[13b] 前記第1層の厚みは、前記熱可塑性樹脂積層体全体の厚みの75%以上(より好ましくは80%以上)である、[1]~[12]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体。
[14] [1]~[13]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体を含む、加飾用フィルム。
[15] [1]~[13]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体を含む、ディスプレイ前面板。
[16] [1]~[13]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体を熱成形して得られる熱成形体。
[16a] [1]~[13]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体をインサート成形して得られる成形体。
[17] [1]~[13]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体を90~200℃の環境下で熱成形またはインサート成形することを含む、成形体の製造方法、または成形方法。
[17a] [1]~[13]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂積層体を90~200℃の環境下で熱曲げすることを含む、成形体の製造方法、または成形方法。
【0010】
本発明の熱可塑性樹脂積層体は、透明性の基板材料や保護材料の光学用途に好適に使用することができる。
本発明の好ましい態様によれば、熱成形(圧空成形、熱曲げ成形)性やインサート成形性、機械的特性(例えば耐衝撃性、表面硬度)、並びに高温下および高温高湿下での形状安定性の少なくとも一つに優れる。
本発明の好ましい態様によれば、熱可塑性樹脂積層体は、熱成形(圧空成形、熱曲げ成形)性やインサート成形性に優れるとともに、機械的特性(例えば耐衝撃性、表面硬度)に優れる。
本発明の特に好ましい態様によれば、熱可塑性樹脂積層体は、熱成形(圧空成形、熱曲げ成形)性やインサート成形性に優れ、しかも、機械的特性(例えば耐衝撃性、表面硬度)、並びに高温下および高温高湿下での形状安定性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下で本発明について詳細に説明するが、本発明は例示される製造例や実施例等に限定されるものではなく、本発明の内容を大きく逸脱しない範囲であれば任意の方法に変更して行うことも出来る。
【0012】
本発明の一形態は、非晶性ポリエステル樹脂(A)を主成分とする第1層上に、(メタ)アクリル系樹脂(B)を主成分とする第2層を有する、熱可塑性樹脂積層体(以下「積層体」ともいう)である。本形態の熱可塑性樹脂積層体は、熱成形(圧空成形、熱曲げ成形)性やインサート成形性に優れ、熱成形時の白化、クラック、発泡、シワ等の成形不良が抑制されるため、深絞りやシャープなエッジ形状等の多様な成形条件における成形に適用することができる。
以下、実施形態に係る熱可塑性樹脂積層体の構成について、順に説明する。
【0013】
1.第1層
第1層は、非晶性ポリエステル樹脂(A)を主成分として含む。第1層に含まれる非晶性ポリエステル樹脂(A)は、1種類であっても2種類以上であってもよい。ここで「非晶性ポリエステル樹脂」とは、結晶部分を持たない、すなわち融点を持たないポリエステル樹脂を指す。「非晶性ポリエステル樹脂(A)を主成分とする」とは、例えば、第1層中の非晶性ポリエステル樹脂(A)の含有量が、第1層の全重量に対して80重量%以上を占めることをいう。第1層中の非晶性ポリエステル樹脂(A)の含有量は、80重量%を超えることが好ましく、85重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましく、95重量%以上であることが一層好ましく、98重量%以上であることが特に好ましい。一実施形態において、第1層中の非晶性ポリエステル樹脂(A)の含有量は100重量%である。一実施形態において、第1層中の樹脂成分の全重量(100重量%)の全量が非晶性ポリエステル樹脂(A)である。
非晶性ポリエステル樹脂(A)の含有量を増やすことで、ポリカーボネート樹脂に匹敵する耐衝撃性を維持しつつ、本発明の熱可塑性樹脂積層体の熱成形(圧空成形、熱曲げ成形)性やインサート成形性を向上させることが出来る。一般に、ポリエステル樹脂は、高温環境下(例えば熱成形時、特にインサート成形時;使用環境での高温高湿環境下;等)で結晶化が生じ、白化による透明性悪化が生じる場合がある。本発明では、非晶性のポリエステル樹脂を用いることにより、高温環境下においても、結晶化が抑制され、透明性に優れた積層体が得られる。
【0014】
一実施形態において、非晶性ポリエステル樹脂(A)は、次にあげるジカルボン酸由来の構成単位(ジカルボン酸構成単位)とジオール由来の構成単位(ジオール構成単位)とから成る重縮合体(以下「重縮合体(A)」ともいう)を含む。好ましくは、次にあげるジカルボン酸構成単位とジオール構成単位から選択される少なくとも3つ以上の構成単位から成る重縮合体である。
【0015】
ジカルボン酸構成単位としては、特に制限はされないが、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸及びこれらのエステル形成性誘導体;テレフタル酸(以下、PTAとも称する)、イソフタル酸、フタル酸、2-メチルテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸及びこれらのエステル形成性誘導体から選択される少なくとも一つのジカルボン酸成分に由来するジカルボン酸構成単位が例示出来る。
【0016】
一実施形態において、非晶性ポリエステル樹脂(A)は、非晶性ポリエステル樹脂(A)を構成する全ジカルボン酸単位中、芳香族ジカルボン酸単位を90~100モル%含む。
【0017】
ジオール構成単位としては、特に制限はされないが、エチレングリコール(以下、EGとも称する)、トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテル化合物類;1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール(以下、CHDMとも称する)、1,2-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6-デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7-デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール、ノルボルネンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロドデカンジメタノール、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール(以下、CBDOとも称する)等の脂環式ジオール類;3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、5-メチロール-5-エチル-2-(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-1,3-ジオキサン(以下、SPGとも称する)等の環状アセタール類、1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトール(以下、ISBとも称する)のような複素環式ジオール;4,4’-(1-メチルエチリデン)ビスフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、4,4’-シクロヘキシリデンビスフェノール(ビスフェノールZ)、4,4’-スルホニルビスフェノール(ビスフェノールS)等のビスフェノール類;前記ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物;ヒドロキノン、レゾルシン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルベンゾフェノン等の芳香族ジヒドロキシ化合物;及び前記芳香族ジヒドロキシ化合物のアルキレンオキシド付加物から選択される少なくとも一つのジオール成分に由来するジオール構成単位が例示出来る。
【0018】
中でも、ジオール構成単位としては、透明性や耐熱性、耐衝撃性の点から脂環式ジオールおよび複素環式ジオールの少なくとも1種由来の単位を持つことが好ましい。
なお、脂環式ジオールは環式脂肪族炭化水素部分とジオール部分との両方の構造をあわせもつ物質をさす。環式脂肪族炭化水素は、3~18個の炭素原子の、非芳香族の飽和または部分的に不飽和の炭素環(3~6員)を1以上含む基(例えば単環式の、二環式の、三環式の、縮合環、またはスピロ多環式の炭化水素環を含む基)を意味する。炭素環は、非置換であっても置換されていてもよい。
複素環式ジオールは、複素環構造部分とジオール部分との両方の構造をあわせもつ物質をさす。複素環は、環原子として1~8個のヘテロ原子を含み、残りの環原子が炭素原子である3~12員の、非芳香族の、飽和もしくは部分的に不飽和の、単環式または多環式環を意味する。複素環は、非置換であっても置換されていてもよい。ヘテロ原子は、N、O、およびSから独立して選択される。
【0019】
ジオールとしては、好ましくは2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール(CBDO)、1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトール(ISB)、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン(スピログリコール)(SPG)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)からなる群から選択される1種以上を選択することが好ましい。ジオール由来の単位として、脂環式ジオールであるCBDO、複素環式ジオールであるISB、SPG等の嵩高い構造を持つ場合には透明性を維持したまま耐熱性を向上させることが出来る。CHDMの構造を持つ場合には透明性を維持したまま耐衝撃性を向上させることが出来る。一実施形態において、ジオールは、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール(CBDO)、および、1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトール(ISB)からなる群から選択される1種以上を含む。
【0020】
非晶性ポリエステル樹脂(A)における、全ジオール構成単位中の脂環式ジオールおよび/または複素環式ジオール由来の単位の割合は50~100モル%であることが好ましい。全ジオール構成単位中の脂環式/複素環式ジオール構成単位の割合が50モル%以上であれば、積層体の耐熱性や耐衝撃性が向上し得る。非晶性ポリエステル樹脂(A)における、全ジオール構成単位中の脂環式ジオールおよび/または複素環式ジオール由来の単位の割合はより好ましくは90~100モル%であり、さらに好ましくは95~100モル%である。
なお、本明細書において「脂環式ジオールおよび/または複素環式ジオール由来の単位」は、脂環式ジオールおよび複素環式ジオールの少なくとも一つのジオール由来の単位を指し、「全ジオール構成単位中の脂環式ジオールおよび/または複素環式ジオール由来の単位の割合」は、全ジオール構成単位(100モル%)に対する脂環式ジオールおよび複素環式ジオールの合計量(モル%)の割合を指す。
【0021】
非晶性ポリエステル樹脂(A)は、透明性、耐衝撃性の点から、ガラス転移温度は80℃以上が好ましく、95℃以上であることがより好ましく、100℃以上がさらに好ましく、110℃以上であることが特に好ましい。また、本明細書においてガラス転移温度(Tg)とは、示差走査熱量測定装置を用い、試料10mg、昇温速度10℃/分で測定し、セカンドヒーティングでの中点法で算出したときの温度である。
【0022】
一実施形態において、非晶性ポリエステル樹脂(A)は、ジオール単位として脂環式ジオールおよび/または複素環式ジオール由来の単位を含み、ガラス転移温度は110~135℃である。かかる場合には、本発明の熱可塑性樹脂積層体の熱成形(圧空成形、熱曲げ成形)性やインサート成形性に優れ、かつ高温下および高温高湿下での形状安定性に優れた熱成形品が得られる。
【0023】
これを満たす非晶性ポリエステル樹脂(A)の組成としては、ジカルボン酸構成単位としてPTAを選択することが好ましく、ジオール構成単位として、(i)CBDOとCHDMとの組合せ、(ii)ISBとEGとCHDMとの組合せ、(iii)SPGとEGとCHDMとの組合せ、(iv)EGとCHDMとの組合せ等を選択することが好ましい。中でも、熱賦形性(熱成形性、熱曲げ)および形状安定性の面で、非晶性ポリエステル樹脂(A)のジオール構成単位は、(i)CBDOとCHDMとの組合せ、または、(ii)ISBとEGとCHDMとの組合せであることがより好ましい。
【0024】
ジオール構成単位として、(i)CBDOとCHDMとを含む場合、非晶性ポリエステル樹脂(A)における、全ジオール構成単位(100モル%)中のCBDOに由来するジオール構成単位の割合は、20~40モル%であることが好ましく、CHDMに由来するジオール構成単位の割合は、60~80モル%であることが好ましい。前記CBDOに由来するジオール構成単位の割合が20モル%以上であれば、高温下および高温高湿下での形状安定性が一層良好なものとなる。前記CBDOに由来するジオール構成単位の割合が40モル%以下であれば非晶性を示すポリエステル樹脂が通常得られ、高温下でも結晶化による白化が抑制され、透明性に優れる積層体が得られる。また、前記CHDMに由来するジオール構成単位の割合が60モル%以上であれば耐衝撃性が向上し得る。前記CHDMに由来するジオール構成単位の割合が80モル%以下であれば非晶性を示すポリエステル樹脂が通常得られ、高温下でも結晶化による白化が抑制され、透明性に優れる積層体が得られる傾向にある。さらに、前記非晶性ポリエステル樹脂(A)を構成する全ジオール単位中、脂環式ジオール由来の単位を90~100モル%含むことが好ましい。
【0025】
好ましい形態において、非晶性ポリエステル樹脂(A)は、前記非晶性ポリエステル樹脂(A)を構成する全ジオール単位(100モル%)中、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール(CBDO)由来の単位を25~40モル%および1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)由来の単位を60~75モル%含み、かつ、前記非晶性ポリエステル樹脂(A)を構成する全ジオール単位中、脂環式ジオール由来の単位を90~100モル%含む。かかる場合には、熱成形(特に、熱曲げ成形)性および高温下および高温高湿下での形状安定性が向上した熱可塑性樹脂積層体が得られる。
【0026】
上記条件を満たす、PTA、CBDO、CHDMから成る非晶性ポリエステル樹脂(A)としては、商品名「TRITAN TX2001」、「TRITAN TX1001」、「TRITAN TX1501HF」(Eastman Chemical社製)等が例示出来る。
【0027】
ジオール構成単位として、(ii)ISBとEGとCHDMとを含む場合、非晶性ポリエステル樹脂(A)における、全ジオール構成単位(100モル%)中のISBに由来するジオール構成単位の割合は、5~30モル%であることが好ましく、EGに由来するジオール構成単位の割合は25~45モル%であることが好ましく、CHDMに由来するジオール構成単位の割合は40~55モル%であることが好ましい。前記ISBに由来するジオール構成単位の割合が5モル%以上であれば、高温下および高温高湿下での形状安定性が良好なものとなる。前記ISBに由来するジオール構成単位の割合が30モル%以下であれば非晶性を示すポリエステル樹脂が通常得られ、高温下でも結晶化による白化が抑制され、透明性に優れる積層体が得られる。また、前記EGに由来するジオール構成単位の割合が25モル%以上であれば非晶性を示すポリエステル樹脂が通常得られ、高温下でも結晶化による白化が抑制され、透明性に優れる積層体が得られる傾向にある。前記EGに由来するジオール構成単位の割合が45モル%以下であれば、高温下および高温高湿下での形状安定性が良好なものとなる。また、前記CHDMに由来するジオール構成単位の割合が40モル%以上であれば耐衝撃性が向上し得る。前記CHDMに由来するジオール構成単位の割合が80モル%以下であれば非晶性を示すポリエステル樹脂が通常得られ、高温下でも結晶化による白化が抑制され、透明性に優れる積層体が得られる傾向にある。
【0028】
上記条件を満たす、PTA、ISB、EG、CHDMから成る非晶性ポリエステル樹脂(A)としては、商品名「ECOZEN BS400D」、「ECOZEN YF401D」、「ECOZEN BS100D」(SK Chemicals社製)等が例示出来る。
【0029】
非晶性ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、耐衝撃性および成形性の点で、10,000~80,000であることが好ましく、30,000~50,000がより好ましい。
【0030】
非晶性ポリエステル樹脂(A)を製造する方法は特に制限はなく、従来公知の方法を適用することが出来る。例えば、エステル交換法、直接エステル化法等の溶融重合法、又は溶液重合法等が挙げられる。非晶性ポリエステル樹脂(A)には、一般に用いられる各種の添加剤を添加しても良く、添加剤としては、エステル交換触媒、エステル化触媒、エーテル化防止剤、熱安定剤、光安定剤等の各種安定剤、重合調整剤等が挙げられる。
【0031】
非晶性ポリエステル樹脂(A)中の重縮合体(A)の割合は90重量%以上が好ましい。
非晶性ポリエステル樹脂(A)には、一般に用いられる各種の添加剤を添加しても良く、添加剤としては、例えば、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、光拡散剤、難燃剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、染顔料等が挙げられる。非晶性ポリエステル樹脂(A)中の各種の添加剤の含有量は、例えば、0重量%~10重量%である。
【0032】
非晶性ポリエステル樹脂(A)は、リン原子を10~100ppm含むことが好ましい。非晶性ポリエステル樹脂中のリン原子の濃度(リン濃度)は、例えば、ICP発光分析により測定することができる。非晶性ポリエステル樹脂(A)がリン原子を上記範囲で含む事により、非晶性ポリエステル樹脂(A)の色調、熱安定性、成形性、機械的強度が優れたものとなる。リン原子は非晶性ポリエステル樹脂(A)中にモノリン酸エステル及び/又はモノ亜リン酸エステル化合物として含まれることが好ましい。モノリン酸エステル及び/又はモノ亜リン酸エステル化合物は、添加剤として非晶性共重合ポリエステル樹脂の重合時に添加され得る。モノリン酸エステル化合物としては、リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸ブチル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジブチル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリフェニル等のリン酸エステルが例示され、モノ亜リン酸エステル化合物としては、亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸ブチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジブチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリブチル、亜リン酸トリフェニルが例示される。これらの中で、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルが特に好ましい。モノリン酸エステル及び/又はモノ亜リン酸エステル化合物は非晶性ポリエステル(重縮合体(A))の重合時、特に重縮合時の飛散によるロスを考慮して、上記範囲でリン原子を含むように添加することが好ましい。本発明で用いられる非晶性ポリエステル樹脂(A)中に含まれるリン原子がモノリン酸エステル及び/又はモノ亜リン酸エステル化合物以外の化合物由来である場合、例えば二リン酸エステル由来である場合、より具体的には1,3-フェニレンビス(ジキシレニルホスフェート)由来である場合には、成形時に発泡を生じる等、十分な成形安定性が得られない為好ましくない場合がある。また、本発明で用いられる非晶性ポリエステル樹脂(A)にモノリン酸エステルをリン原子の量が所定量となるように、単軸または二軸押出し機等で溶融混練した場合も、成形時に発泡を生じる等、十分な成形安定性が得られない為好ましくない場合がある。
【0033】
第1層は、透明性を阻害しない範囲で、非晶性ポリエステル樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂や非晶性ポリエステル樹脂(A)以外のゴム系材料を含んでいても良い。
例えば、第1層中の非晶性ポリエステル樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂の含有量は、第1層の全重量に対して、好ましくは30重量%以下であり、より好ましくは20重量%以下であり、さらに好ましくは15重量%以下であり、特に好ましくは10重量%以下である。第1層中の非晶性ポリエステル樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂の含有量は、例えば、5重量%以下である。一実施形態では、第1層は、非晶性ポリエステル樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂を実質的に含まない(例えば0重量%である)。
例えば、第1層中の非晶性ポリエステル樹脂(A)以外のゴム系材料の含有量は、第1層の全重量に対して、好ましくは30重量%以下であり、より好ましくは20重量%以下であり、さらに好ましくは15重量%以下であり、特に好ましくは10重量%以下である。第1層中の非晶性ポリエステル樹脂(A)以外のゴム系材料の含有量は、例えば、5重量%以下である。一実施形態では、第1層は、非晶性ポリエステル樹脂(A)以外のゴム系材料を実質的に含まない(例えば0重量%である)。
【0034】
非晶性ポリエステル樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリアクリレート樹脂等が挙げられる。
【0035】
熱成形性の観点から、第1層中のポリカーボネート樹脂の含有量が第1層の全重量に対して20重量%未満であることが好ましい。ポリカーボネート樹脂の含有量が大きすぎる場合、熱成形時に白化、クラック、発泡、シワ等の成形不良が生じやすく、深絞りやシャープなエッジ形状等の意匠性の高い熱賦形が難しい場合がある。第1層中のポリカーボネート樹脂の含有量は、より好ましくは10重量%以下である。第1層中のポリカーボネート樹脂の含有量は、例えば、5重量%以下である。一実施形態では、第1層は、ポリカーボネート樹脂を実質的に含まない(例えば0重量%である)。
【0036】
また、吸水による寸法変化の観点から、例えば、第1層中の、ポリアクリレート樹脂の含有量が、第1層の全重量に対して10重量%未満であることが好ましく、7重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下であることがさらに好ましく、1重量%以下であることが一層好ましい。一実施形態では、第1層は、ポリアクリレート樹脂を実質的に含まない(例えば0重量%である)。
【0037】
ゴム系材料としては、ブタジエン-アクリロニトリル-スチレン系コアシェル型ゴム、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン系コアシェル型ゴム、メチルメタクリレート-ブチルアクリレート-スチレン系コアシェル型ゴム、オクチルアクリレート-ブタジエン-スチレン系コアシェル型ゴム、アルキルアクリレート-ブタジエン-アクリロニトリル-スチレン系コアシェル型ゴム、ブタジエン-スチレン系コアシェル型ゴム、メチルメタクリレート-ブチルアクリレート系コアシェル型ゴム等が挙げられる。ゴム系材料を用いる場合、ゴム系材料の平均粒子径は1μm以下が好ましく、より好ましくは0.8μm以下、さらに好ましくは0.7μm以下である。ゴム系材料の平均粒子径が1μm以下であれば、ゴム系材料に光が当たって散乱する確率が小さく、透明性の低下が抑制される。ゴム系材料の屈折率は、非晶性ポリエステル樹脂(A)の屈折率との絶対値差が好ましくは0.020以下であり、より好ましくは0.018以下、さらに好ましくは0.015以下である。前記の屈折率の絶対値差が0.020以下であれば、非晶性ポリエステル樹脂(A)とゴム系材料との界面での光の散乱が抑制され、透明性の低下が抑制される。透明性を阻害しない範囲でゴム系材料を添加することにより、本発明の熱可塑性樹脂積層体にさらに耐衝撃性を付与することが出来る。
【0038】
第1層には、一般に用いられる各種の添加剤を添加しても良く、添加剤としては、例えば、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、光拡散剤、難燃剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、染顔料等が挙げられる。混合の方法は特に限定されず、全量コンパウンドする方法、マスターバッチをドライブレンドする方法、全量ドライブレンドする方法等を用いることが出来る。第1層中の各種の添加剤の含有量は、例えば、0重量%~10重量%である。
【0039】
2.第2層
第2層は、(メタ)アクリル系樹脂(B)を主成分として含む。第2層に含まれる(メタ)アクリル系樹脂(B)は、1種類であっても2種類以上であってもよい。
【0040】
なお、本明細書において「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸またはメタクリル酸を意味する。
「(メタ)アクリル系樹脂(B)を主成分とする」とは、例えば、第2層中の(メタ)アクリル系樹脂(B)の含有量が、第2層の全重量に対して70重量%以上を占めることをいう。第2層中の(メタ)アクリル系樹脂(B)の含有量は、80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。(メタ)アクリル系樹脂(B)の含有量を増やすことで、本発明の熱可塑性樹脂積層体の熱成形(圧空成形、熱曲げ成形)性やインサート成形性、表面硬度が向上する。
【0041】
(メタ)アクリル系樹脂(B)は、特に制限されないが、例えば、本発明の熱可塑性樹脂積層体の熱成形(圧空成形、熱曲げ成形)性やインサート成形性、表面硬度、高温下および高温高湿下での形状安定性の観点から、前記一般式(1)で表された(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と、前記一般式(2)で表される脂肪族ビニル構成単位(b)と必要に応じて下記式(3)で示される芳香族ビニル構成単位(b’)とを含み、前記(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と前記脂肪族ビニル構成単位(b)と前記芳香族ビニル構成単位(b’)との合計割合が(メタ)アクリル系樹脂(B)中の全構成単位の合計(100モル%)に対して80~100モル%であり、前記(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と前記脂肪族ビニル構成単位(b)と前記芳香族ビニル構成単位(b’)との合計の構成単位(100モル%)に対して前記(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)の割合が55モル%以上85モル%以下である(メタ)アクリル系樹脂を好ましく使用できる。
【化4】
【0042】
(メタ)アクリル系樹脂(B)を構成する前記式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の構成単位(a)(本明細書中「(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)」ともいう)において、R1は水素原子またはメチル基であり、R2は炭素数1~16の炭化水素基である。例えば、R2は、炭素数1~16のアルキル基、または、炭素数1~4の炭化水素基(好ましくは炭素数1~4のアルキル基)で置換されていてもよい炭素数5~16のシクロアルキル基であり、炭素数1~10のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましい。構成単位(a)が複数存在する場合、複数存在するR1、R2はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。前記(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、構成単位(a)はR2がメチル基、エチル基、ブチル基、ラウリル基、ステアリル基、シクロヘキシル基、およびイソボルニル基から選ばれる少なくとも1種である(メタ)アクリル酸エステルモノマーに由来する構成単位であることが好ましく、具体的には(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類が挙げられる。構成単位(a)は、より好ましくは、メタアクリル酸メチルおよびアクリル酸メチルから選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位である。(メタ)アクリル系樹脂(B)の構成単位(a)をメタアクリル酸メチルおよびアクリル酸メチルから選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位とすることで、本発明の熱可塑性樹脂積層体に用いる(メタ)アクリル樹脂(B)は透明性に優れたものになる。
【0043】
前記式(2)で表される脂肪族ビニルモノマー由来の構成単位(b)(本明細書中「脂肪族ビニル構成単位(b)」ともいう)において、R3は水素原子又はメチル基であり、R4は炭素数1~4の炭化水素基(好ましくは炭素数1~4のアルキル基)で置換されていてもよい、シクロヘキシル基、シクロヘキサジエン基、およびシクロヘキセン基から選択される。
本明細書中において、「炭化水素基」は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよく、置換基を有していてもよい。
【0044】
構成単位(b)が複数存在する場合、複数存在するR3、R4はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。より好ましくは、R3が水素原子またはメチル基、R4がシクロヘキシル基、シクロヘキサジエン基、またはシクロヘキセン基から選択される少なくとも1種である構成単位であり、さらに好ましくはR3が水素原子またはメチル基、R4がシクロヘキシル基である。このような構成単位とすることで、高温下および高温高湿環境での形状安定性に優れた積層体が得られる。
【0045】
前記式(3)で表される芳香族ビニルモノマー由来の構成単位(b’)(本明細書中「芳香族ビニル構成単位(b’)」ともいう)において、R5は水素原子又はメチル基であり、R6は炭素数1~4の炭化水素基(好ましくは炭素数1~4のアルキル基;例えばメチル基、ブチル基)で置換されていてもよいフェニル基から選択される
【0046】
好ましい一形態において、(メタ)アクリル系樹脂(B)は、前記式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と、前記式(3)で示される芳香族ビニル構成単位(b’)とを含み、その構成単位(a)と構成単位(b’)の合計に対する構成単位(a)の割合が55~85モル%である(メタ)アクリル系樹脂(B’)において、芳香族ビニル構成単位(b’)中の芳香族二重結合の70%以上(好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95以上)を水素化して得られる熱可塑性樹脂である。すなわち、(メタ)アクリル系樹脂(B’)は、(メタ)アクリル樹脂(B)を水素化する前の熱可塑性樹脂である。
【0047】
(メタ)アクリル系樹脂(B)において、前記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と、前記一般式(2)で表される脂肪族ビニル構成単位(b)および前記一般式(3)で表される芳香族ビニル構成単位(b’)の合計とのモル比は、55:45~85:15の範囲であり、60:40~80:20の範囲であるとより好ましく、70:30~80:20の範囲であるとさらに好ましい。(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)と脂肪族ビニル構成単位(b)と芳香族ビニル構成単位(b’)との合計に対する(メタ)アクリル酸エステル構成単位(a)のモル比が55モル%以上であれば、非晶性ポリエステル樹脂(A)層との十分な密着性が得られる。また、該(a)のモル比が85モル%以下であれば、得られる熱可塑性樹脂積層体は高温高湿環境での形状安定性に優れる。
【0048】
(メタ)アクリル系樹脂(B)は、例えば、後述する方法により、(メタ)アクリル系樹脂(B’)の芳香族ビニル構成単位(b’)中の全芳香族二重結合の70%以上を水素化することにより得られる。
【0049】
(メタ)アクリル系樹脂(B)は、構成単位(b’)におけるR6(炭素数1~4の炭化水素置換基を有することのあるフェニル基)のフェニル基の芳香族二重結合の一部または全部が水添された構成単位(すなわち、構成単位(b))を含んでよく、R6がフェニル基である構成単位(すなわちフェニル基の芳香族二重結合が水素化していない構成単位)を含んでもよい。R6のフェニル基の芳香族二重結合の一部または全部が水添された構成単位(すなわち、一般式(2)で表される構成単位(b)に相当する)としては、具体的には、シクロヘキサン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、α-メチルシクロヘキサン、α-メチルシクロヘキセン、α-メチルシクロヘキサジエン、o-メチルシクロヘキサン、o-メチルシクロヘキセン、o-メチルシクロヘキサジエン、p-メチルシクロヘキサン、p-メチルシクロヘキセン、p-メチルシクロヘキサジエンに由来する構成単位が挙げられ、これらから選ばれる少なくとも1種の構成単位を含んでもよい。中でも、シクロヘキサンおよびα-メチルシクロヘキサンから選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位を含むことが好ましい。
【0050】
(メタ)アクリル系樹脂(B)が水素化する前の(メタ)アクリル系樹脂(B’)は、例えば、前記(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、芳香族ビニルモノマーとを重合することにより製造することが出来る。重合には、公知の方法を用いることが出来、例えば、塊状重合法、溶液重合法などにより製造することが出来る。塊状重合法は、上記モノマー、重合開始剤を含むモノマー組成物を完全混合槽に連続的に供給し、100~180℃で連続重合する方法等により行われる。上記モノマー組成物は、必要に応じて連鎖移動剤を含んでも良い。
【0051】
重合開始剤は特に限定されないが、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、過酸化ベンゾイル、1,1-ジ(t-ヘキシルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、t-ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-アミルパーオキシノルマルオクトエート、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、ジ-t-ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0052】
連鎖移動剤は必要に応じて使用し、例えば、α-メチルスチレンダイマーが挙げられる。
【0053】
溶液重合法に用いられる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の炭化水素系溶媒、酢酸エチル、イソ酪酸メチル等のエステル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、メタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒を挙げることが出来る。
【0054】
本発明の熱可塑性樹脂積層体に用いる(メタ)アクリル系樹脂(B)は、(メタ)アクリル酸エステルモノマーと芳香族ビニルモノマーを重合して(メタ)アクリル系樹脂(B’)を得た後に、該(メタ)アクリル系樹脂(B’)における芳香族ビニル構成単位中の芳香族二重結合の70%以上を水素化して得られる。上記水素化反応に用いられる溶媒は、前記の重合溶媒と同じであっても異なっていても良い。例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の炭化水素系溶媒、酢酸エチル、イソ酪酸メチル等のエステル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、メタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒を挙げることが出来る。
【0055】
水素化の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることが出来る。例えば、水素圧力3~30MPa、反応温度60~250℃でバッチ式あるいは連続流通式で行うことが出来る。温度を60℃以上とすることにより反応時間がかかり過ぎることがなく、また250℃以下とすることにより分子鎖の切断やエステル部位の水素化を起こすことが少ない。
【0056】
水素化反応に用いられる触媒としては、例えば、ニッケル、パラジウム、白金、コバルト、ルテニウム、ロジウム等の金属又はそれら金属の酸化物あるいは塩あるいは錯体化合物を、カーボン、アルミナ、シリカ、シリカ・アルミナ、珪藻土等の多孔性担体に担持した固体触媒等が挙げられる。
【0057】
本発明の熱可塑性樹脂積層体に用いる(メタ)アクリル系樹脂(B)は、前記(メタ)アクリル系樹脂(B’)において、芳香族ビニル構成単位中の芳香族二重結合の70%以上(好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95以上)を水素化して得られたものである。即ち、(メタ)アクリル系樹脂(B)において、芳香族ビニル構成単位中に残存する芳香族二重結合の割合は30%以下である。30%を超える範囲であると(メタ)アクリル系樹脂(B)の透明性が低下し、その結果、本発明の熱可塑性樹脂積層体の透明性が低下する場合がある。上記芳香族ビニル構成単位中に残存する芳香族二重結合の割合は、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは10%未満、一層好ましくは5%以下、特に好ましくは5%未満の範囲である。
【0058】
(メタ)アクリル系樹脂(B)における、前記一般式(2)で表される脂肪族ビニル構成単位(b)と前記一般式(3)で表される芳香族ビニル構成単位(b’)とのモル比は、透明性の観点から、100:0~70:30が好ましく、100:0~80:20がより好ましく、100:0~90:10がさらに好ましく、100:0~95:5が特に好ましい。
【0059】
また、(メタ)アクリル系樹脂(B)は、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、光拡散剤、難燃剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、染顔料等の、一般に用いられる添加剤を含んでも良い。非晶性ポリエステル樹脂(A)中の各種の添加剤の含有量は、例えば、0重量%~10重量%である。
【0060】
(メタ)アクリル系樹脂(B)の重量平均分子量(Mw)は、特に制限はないが、強度及び成形性の観点から、100,000~150,000であることが好ましく、110,000~140,000であることがより好ましい。
本明細書において、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0061】
(メタ)アクリル系樹脂(B)のガラス転移温度は110~135℃の範囲であることが好ましい。より好ましくは120~130℃である。(メタ)アクリル系樹脂(B)のガラス転移温度が110℃未満であると、本発明で提供される熱可塑性樹脂積層体が高温下および高温高湿環境において寸法変化や反りを生じる場合があるため、好ましくない。また、(メタ)アクリル系樹脂(B)のガラス転移温度が135℃より高温であると、深絞りやシャープなエッジ形状等の意匠性の高い熱賦形が困難になるうえ、成形時の残留歪みが大きくなる傾向があり、環境の変化により形状変化を発生しやすくなるため、好ましくない。
【0062】
また、前記非晶性ポリエステル樹脂(A)と前記ビニル共重合樹脂(B)とのガラス転移温度差TgB-TgA(℃)の絶対値は10℃以下が好ましい。これにより、熱賦形性、耐衝撃性、表面硬度、高温下および高温高湿下での形状安定性の少なくとも一つが向上し得る。
【0063】
本発明の熱可塑性樹脂積層体に用いる(メタ)アクリル系樹脂(B)層には、(メタ)アクリル系樹脂(B)の他に、透明性を損なわない範囲で他の樹脂をブレンドすることが出来る。他の樹脂の例としては、例えば、ポリスチレン、メタクリル酸メチル-スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリエステル等が挙げられる。具体的には、商品名:エスチレンMS200(新日鉄住金化学(株)製)、レジスファイR-100(電気化学工業(株)製)、XIRAN SZ15170(Polyscope社製)、トーヨースチロールT080(東洋スチレン(株)製)等が挙げられる。また、第2層は、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、光拡散剤、難燃剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、染顔料等の、一般に用いられる各種の添加剤を含んでも良い。第2層中の添加剤の含有量は例えば0~10重量%である。
【0064】
3.熱可塑性樹脂積層体
本発明の熱可塑性樹脂積層体は、非晶性ポリエステル樹脂(A)を主成分とする第1層上に(メタ)アクリル系樹脂(B)を主成分とする第2層を有する。
第1層と第2層との間にはさらなる層(例えば接着剤層、プライマー層等)が存在していてもよい。好ましくは、第1層の直上に第2層が積層される。
第2層は、第1層の少なくとも一方の側に設ければよく、他方の側の構成に特に制限はない。第1層の両側に第2層を設けてもよい。
【0065】
熱可塑性樹脂積層体の製造方法としては、多色射出成形法、フィルムインサート法、溶融押出法、押出ラミネート法、熱プレス法、溶液流延法等の公知の積層化技術を用いることが出来る。また、これらの積層化のために樹脂間に適した接着剤、あるいは接着性樹脂を用いても良い。
【0066】
溶融押出法による熱可塑性樹脂積層体の作製について更に詳述する。本発明の熱可塑性樹脂積層体の作製には、公知の溶融押出法である、Tダイ押出法、インフレーション法等を用いることが出来るが、厚みムラの少ない積層体を得るという点から、Tダイ押出法を選択することが望ましい。樹脂を溶融させる装置としては一般的に用いられる押出機を使用すれば良く、単軸押出機でも多軸押出機でも良い。押出機は一つ以上のベント有していても良く、ベントを減圧にして溶融している樹脂から水分や低分子物質等を除去しても良い。また、押出機の先端あるいは下流側には必要に応じて金網フィルターや焼結フィルター、ギヤポンプ等を設けても良い。樹脂を積層させる方法としては、フィードブロック法やマルチマニホールド法等の公知の方法を用いることが出来る。Tダイには、コートハンガーダイ、フィッシュテールダイ、スタックプレートダイ等の種類があり、いずれを選択することも出来る。
【0067】
押出時の樹脂温度は200~320℃が好ましい。200℃以上であれば樹脂の十分な流動性が得られ、転写ロール表面の形状が転写され、得られる熱可塑性樹脂積層体が平滑性に優れるものとなる。一方、320℃以下であれば、樹脂の分解が抑制され、外観不良、着色、耐熱変形性の低下、臭気による作業環境の悪化等を防止または抑制できる。より好ましくは押出時の樹脂温度が220~300℃である。押出温度が上記範囲にある場合、得られる熱可塑性樹脂積層体の平滑性や透明性は優れたものになる。
【0068】
Tダイから押出された溶融樹脂の冷却方法は従来公知の方法を用いることが出来るが、一般的には冷却ロールにて冷却する。本発明に使用する非晶性ポリエステル樹脂(A)および(メタ)アクリル系樹脂(B)は実質的に非晶性の樹脂であるため、冷却ロールの温度は幅広く設定することが可能であるが、冷却ロールからの剥離時の外観不良発生が無く、平滑性が良好なシート成形品を得る場合、冷却ロールの温度は非晶性ポリエステル樹脂(A)または(メタ)アクリル系樹脂(B)のいずれか高い方のガラス転移温度(Tg)以上かつTg+20℃以下とするのが好ましく、さらに好ましくはTg以上かつTg+10℃以下である。上記の範囲の冷却ロール温度とし、装置に応じて吐出速度と引取速度をコントロールすることが好ましい。冷却ロールの温度が上記範囲にある場合、得られる熱可塑性樹脂積層体は平滑性に優れたものになる。
【0069】
本発明における熱可塑性樹脂積層体の厚みは0.1~2.0mmの範囲であることが好ましい。0.1mm未満の範囲であるとフィルム自体の腰が弱く、ハンドリング性が乏しくなる場合がある。ハンドリング性の観点で、熱可塑性樹脂積層体の厚みは、0.15mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、0.3mm以上がさらに好ましい。また、2.0mmを超える範囲であると熱成形時の予熱効率が悪いうえ、深絞りやシャープなエッジ形状等の意匠性の高い熱賦形が困難になる場合がある。熱成形性の面から、熱可塑性樹脂積層体の厚みは、1.5mm以下がより好ましく、1.0mm以下がさらに好ましい。一実施形態において、熱可塑性樹脂積層体の厚みは、好ましくは0.15~2.0mmの範囲であり、より好ましくは0.2~1.5mmの範囲であり、さらに好ましくは0.3~1.0mmの範囲である。熱可塑性樹脂積層体、積層体を構成する第1層および第2層の各層の厚みは後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0070】
本発明における熱可塑性樹脂積層体の、非晶性ポリエステル樹脂(A)を含む第1層の厚みは熱可塑性樹脂積層体全体の厚みの75%以上(より好ましくは80%以上)であることが好ましく、100~1900μmの範囲であることが好ましい。第1層の厚みが熱可塑性樹脂積層体全体の厚みの75%以上であれば、十分な耐衝撃性が得られ得る。また、100μm以上であれば耐衝撃性や耐候性が得られる。1900μm以下であれば高温高湿環境での反りの発生を防止または抑制でき、しかも十分な耐衝撃性が得られる。第1層の厚みは、好ましくは100~1500μmの範囲であり、より好ましくは150~1500μmの範囲であり、さらに好ましくは200~1000μm、一層好ましくは200~800μmの範囲である。
第2層の厚みは、表面硬度や形状安定性の点で、例えば、10~500μmの範囲が好ましく、30~300μmの範囲がより好ましく、30~100μmの範囲がさらに好ましく、50~100μmの範囲が一層好ましく、50~70μmの範囲がより一層好ましい。
層構成としては耐擦傷性や耐候性の観点から、第2層((メタ)アクリル樹脂(B)層)を最表層に配置することが好ましく、例えば第1層/第2層の2種2層や第2層/第1層/第2層の2種3層等が挙げられる。
【0071】
本発明の熱可塑性樹脂積層体には、その片面または両面にハードコート処理、反射防止処理、防汚処理、帯電防止処理、耐候性処理および防眩処理のいずれか一つ以上を施すことが出来る。それらの処理の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることが出来る。例えば、熱硬化性あるいは光硬化性皮膜を塗布する方法、反射低減塗料を塗布する方法、誘電体薄膜を蒸着する方法、帯電防止塗料を塗布する方法等が挙げられる。コーティング剤は公知のものを用いることが出来、例えば、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、紫外線硬化型アクリル樹脂等の有機系コーティング剤、シラン化合物等のシリコン系コーティング剤、金属酸化物等の無機系コーティング剤、有機無機ハイブリッド系コーティング剤が挙げられる。
【0072】
本発明の熱可塑性樹脂積層体は、熱成形(圧空成形、熱曲げ成形)性やインサート成形性に優れる。好ましい態様では、耐衝撃性、表面硬度、高温下および高温高湿下での形状安定性の少なくとも一つに優れるという特徴を有し、該熱可塑性樹脂積層体は、透明性の基板材料や保護材料の光学用途等に好適に用いられる。一実施形態によれば、上記実施形態の熱可塑性樹脂積層体を含む加飾用フィルムが提供される。一実施形態によれば、上記実施形態の熱可塑性樹脂積層体を含む、ディスプレイ前面板が提供される。
【0073】
さらなる実施形態によれば、上記実施形態の熱可塑性樹脂積層体を熱成形して得られる熱成形体が提供される。他のさらなる実施形態によれば、上記実施形態の熱可塑性樹脂積層体をインサート成形して得られる成形体が提供される。実施形態の成形体は、パソコン、携帯電話などの表示面の構成部品、自動車外装用および内装用部材、携帯電話端末、パソコン、タブレット型PC、カーナビなどにおける曲面を有する筐体や前面板などに使用することが可能である。例えば、一実施形態の成形体は、自動車、電機・電子機器、家電製品、または航空機の用途に用いられる部品・部材である。
【0074】
さらなる実施形態によれば、上記実施形態の熱可塑性樹脂積層体を90~200℃(好ましくは100~180℃)の環境下で熱成形(例えば圧空成形もしくは熱曲げ成形)またはインサート成形することを含む、成形体の製造方法が提供される。さらなる実施形態によれば、上記実施形態の熱可塑性樹脂積層体を90~200℃(好ましくは100~180℃)の環境下で熱成形(例えば圧空成形もしくは熱曲げ成形)またはインサート成形することを含む、成形方法が提供される。一実施形態は、上記実施形態の熱可塑性樹脂積層体を100~120℃の環境下で熱曲げすることを含む、成形体の製造方法または成形方法である。
一実施形態によれば、上記実施形態の熱可塑性樹脂積層体を、(非晶性ポリエステル樹脂(A)または(メタ)アクリル系樹脂樹脂(B)のガラス転移温度のいずれか高い方+10℃)以上(非晶性ポリエステル樹脂(A)または(メタ)アクリル系樹脂樹脂(B)のガラス転移温度のいずれか高い方+50℃)以下の温度で、絞り比1.0~5.0、コーナーの曲率半径Rが1~30mmである金型を用いて圧空真空成形することを含む、成形方法または成形体の製造方法が提供される。
一実施形態によれば、上記実施形態の熱可塑性樹脂積層体を、(非晶性ポリエステル樹脂(A)または(メタ)アクリル系樹脂樹脂(B)のガラス転移温度のいずれか低い方-20℃)以上(非晶性ポリエステル樹脂(A)または(メタ)アクリル系樹脂樹脂(B)のガラス転移温度のいずれか低い方-0℃)以下の温度で曲率半径Rが1~30mmである金型を用いて熱曲げ成形することを含む、成形方法または成形体の製造方法が提供される。
【実施例
【0075】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例および比較例により何ら制限されるものではない。本明細書において、%は特記しない限り重量パーセントを示す。
実施例および比較例における共重合体および熱可塑性樹脂積層体の評価は以下のように行った。
【0076】
<共重合体の水素化率>
以下の合成例にて得られたビニル共重合樹脂について、水素化反応前後のUVスペクトル測定における260nmの吸収の減少率により水素化率を求めた。水素化反応前の樹脂の濃度(C1)における吸光度(A1)、水素化反応後の樹脂の濃度(C2)における吸光度(A2)から、以下の式より算出した。なお、樹脂の濃度とは、吸光度測定に用いる溶液中の樹脂濃度を指す。
水素化率(%)=[1-(A2×C1)/(A1×C2)]×100
【0077】
<厚み測定>
以下の実施例、比較例にて得られた熱可塑性樹脂積層体および単層体について、デジタルマイクロメーター(ソニーマグネスケール(株)製:M-30)を用いて測定し、取得した熱可塑性樹脂積層体の測定点10点の平均を熱可塑性樹脂積層体および単層体の厚みとした。
【0078】
<熱賦形性評価>
1.熱成形性
以下の実施例、比較例にて得られた熱可塑性樹脂積層体(総厚み:300μm)および単層体(厚み:300μm)について、(株)浅野研究所製グリップ式高速熱板加熱圧空成形機にて、絞り比とコーナーR形状とが異なる2種類の金型での成形性を評価した(条件1:絞り比1.8、コーナーR形状(コーナー部分の曲率半径R)10mm、条件2:絞り比3.2、コーナーR形状(コーナー部分の曲率半径R)3mm)。樹脂層(A)および樹脂層(B)のうちいずれかガラス転移温度が高い方の樹脂のガラス転移温度以上の温度範囲(5℃刻み)で熱賦形可能か否かを確認し、熱賦形可能であると確認できた温度範囲のうちの最も高い温度で得た熱成形品について、賦形率の算出および外観観察を行った。賦形率は、金型寸法から算出した金型の容積と熱賦形成形品の容積(水充填にて測定)とから賦形率(%)=熱賦形成形品の容積/金型の容積×100を算出した。賦形率が100%に近いほど良好な結果である。賦形率および外観観察の結果に基づいて、熱成形性を以下の指標で評価した。結果を表1に示す。
良好(◎):賦形率が98.0%以上であり、かつ、目視で観察して白化、偏肉、またはシワの外観不良を生じなかった
可(○):賦形率が98.0%以上であり、かつ、目視で観察して白化、偏肉、またはシワの外観不良を生じなかったが、熱賦形成形品を金型から取り出す際に金型への張りつきが認められた
不良(×):賦形率が98.0%より低いものおよび/または白化、偏肉、またはシワの外観不良を生じた
【0079】
2.熱曲げ性
以下の実施例、比較例にて得られた熱可塑性樹脂積層体(総厚み:800μm)および単層体(厚み:800μm)を、25mm×150mmに切削した短冊状シートを赤外線ヒーターにより、樹脂(A)または樹脂(B)のガラス転移温度のいずれか低い方より5℃低い温度に予熱し、5MPaの圧力で5分間熱プレスすることにより、90°の二次元曲げ(曲率半径R=3mm)金型での熱曲げ成形を実施した。熱曲げ成形品の二次元曲げ賦形率(%)=熱曲げ角度(測定値)/二次元曲げ金型形状(90°)×100)を求めた。二次元曲げ賦形率が100%に近いほど良好な結果である。二次元曲げ賦形率が80%以上であるものを「良好:○」とし、80%より低いものを「不良:×」とした。
【0080】
<機械的特性評価>
1.耐衝撃性評価
以下の実施例、比較例にて得られた熱可塑性樹脂積層体(総厚み:300μm)および単層体(厚み:300μm)について、(メタ)アクリル系樹脂(B)層を上側、非晶性ポリエステル樹脂(A)層を下側として、落球試験にて評価した。落球試験は、φ50のフランジの間にサンプルを固定し、φ20mm、32.6gの金属球を落とし、底部に装着した試験片が破断したときの高さを50mm間隔で計測する方法で行った。破断時点での高さが300mm以上のものを良好(○)とした。
【0081】
2.表面硬度評価
以下の実施例、比較例にて得られた熱可塑性樹脂積層体(総厚み:300μm)および単層体(厚み:300μm)について、鉛筆硬度はJIS K 5600-5-4:1999に準じて、各種硬度の鉛筆(三菱鉛筆(株)製 ユニ)を用いて(メタ)アクリル系樹脂(B)層の鉛筆硬度を測定した。鉛筆硬度3H以上のものを良好(○)とした。
【0082】
3.形状安定性評価
以下の実施例、比較例にて得られた熱可塑性樹脂積層体(総厚み:300μm)および単層体(厚み:300μm)を用い、前記熱賦形評価(条件1)にて取得した熱賦形品を、温度85℃、湿度85%に設定した恒温恒湿機内で5日間静置した。試験前後での熱賦形成形品の容積変化(水充填にて測定)から容積収縮率(%)=試験後の熱賦形成形品の容積/試験前の熱賦形成形品の容積×100を算出した。容積収縮率が小さいほど良好な結果である。以下の指標で評価した。
良好(◎):容積収縮率(%)が1.0%以下である
可(○):容積収縮率(%)が1.0%を超え1.5%以下である
不良(×):容積収縮率(%)が1.5%を超える
【0083】
合成例1〔(メタ)アクリル系樹脂(B1)の製造〕
精製したメタクリル酸メチル(三菱ガス化学(株)製)77.0モル%と、精製したスチレン(和光純薬工業(株)製)23.0モル%と、重合開始剤としてt-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(アルケマ吉富(株)製、商品名:ルペロックス575)0.002モル%からなるモノマー組成物を、ヘリカルリボン翼付き10L完全混合槽に1kg/hで連続的に供給し、平均滞留時間2.5時間、重合温度150℃で連続重合を行った。重合槽の液面が一定となるよう底部から連続的に抜き出し、脱溶剤装置に導入してペレット状の(メタ)アクリル系樹脂(B1’)を得た。
得られた(メタ)アクリル系樹脂(B1’)をイソ酪酸メチル(関東化学(株)製)に溶解し、10重量%イソ酪酸メチル溶液を調整した。1000mLオートクレーブ装置に(メタ)アクリル系樹脂(B1’)の10重量%イソ酪酸メチル溶液を500重量部、10重量%パラジウム/炭素(Pd/C)(NEケムキャット(株)製)を1重量部仕込み、水素圧9MPa、200℃で15時間保持してベンゼン環部位を水素化した。フィルターにより触媒を除去し、脱溶剤装置に導入してペレット状の(メタ)アクリル系樹脂(B1)を得た。H-NMRによる測定の結果、(メタ)アクリル系樹脂(B1)におけるメタクリル酸メチル(MMA)構成単位の割合は75モル%であった。また、波長260nmにおける吸光度測定の結果、(メタ)アクリル系樹脂(B1)のベンゼン環部位の水素化率は99%であった。得られた(メタ)アクリル系樹脂(B1)のガラス転移温度(Tg)は120℃であった。
【0084】
合成例2〔(メタ)アクリル系樹脂(B2)の製造〕
合成例1で使用したメタクリル酸メチルの使用量を62.0モル%とし、またスチレンの使用量を38.0モル%とした以外は合成例1と同様にして(メタ)アクリル系樹脂(B2)を得た。H-NMRによる測定の結果、(メタ)アクリル系樹脂(B2)におけるメタクリル酸メチル構成単位の割合は60モル%であり、波長260nmにおける吸光度測定の結果、(メタ)アクリル系樹脂(B2)のベンゼン環部位の水素化率は99%であった。得られた(メタ)アクリル系樹脂(B2)のガラス転移温度(Tg)は120℃であった。
【0085】
製造例1〔非晶性ポリエステル樹脂組成物(A3)の製造〕
非晶性ポリエステル樹脂(A1)である商品名「TRITAN TX2001」(Eastman Chemicals社製、ガラス転移温度(Tg):117℃、ジカルボン酸成分PTA=100(モル%)/ジオール成分CBDO:CHDM=35:65(モル%)、リン濃度17ppm)とポリカーボネート樹脂(A4)であるポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製ユーピロンS-1000、ガラス転移温度(Tg):143℃)とを、それぞれ重量比90:10となるよう乾式混合した熱可塑性樹脂混合物を軸径30mmの二軸押出機に連続的に導入し、シリンダ温度270℃、吐出速度25kg/hの条件で押し出し、非晶性ポリエステル樹脂組成物(A3)を得た。得られた非晶性ポリエステル樹脂組成物(A3)のガラス転移温度(Tg)は120℃であった。
【0086】
実施例1〔樹脂(B1)/樹脂(A1)〕
軸径32mmの単軸押出機と、軸径65mmの単軸押出機と、全押出機に連結されたフィードブロックと、フィードブロックに連結されたTダイとを有する多層押出装置を用いて熱可塑性樹脂積層体を共押出成形した。具体的には、軸径32mmの単軸押出機に合成例1で得た(メタ)アクリル系樹脂(B1)を連続的に導入し、シリンダ温度250℃、吐出速度10.0kg/hの条件で押し出した。また、軸径65mmの単軸押出機に非晶性ポリエステル樹脂(A1)として、商品名「TRITAN TX2001」(Eastman Chemicals社製、ガラス転移温度(Tg):117℃、ジカルボン酸成分PTA=100(モル%)/ジオール成分CBDO:CHDM=35:65(モル%)、リン濃度17ppm)を連続的に導入し、シリンダ温度280℃、吐出速度50.0kg/hで押し出した。全押出機に連結されたフィードブロックは2種3層の分配ピンを備えており、これを温度280℃に設定して、単軸押出された(メタ)アクリル系樹脂(B1)と非晶性ポリエステル樹脂(A1)とを流動状態でフィードブロックに導入し積層した。その先に連結された温度280℃のTダイでシート状に押し出し、上流側から温度110℃、120℃、120℃とした3本の鏡面ロールで冷却し、非晶性ポリエステル樹脂(A1)の片面に(メタ)アクリル系樹脂(B1)を積層した熱可塑性樹脂積層体(1-1)を得た。非晶性ポリエステル樹脂(A1)(Tg:117℃)と(メタ)アクリル系樹脂(B1)(Tg:120℃)とのガラス転移温度差は3℃であった。得られた熱可塑性樹脂積層体(1-1)の総厚みは300μm、各層の厚みは中央付近で(B1)/(A1)=50μm/250μmであった。
【0087】
また軸径65mm単軸押出機の吐出速度を150.0kg/hとした以外は上記と同様の方法で、総厚み800μm、各層厚みが中央付近で(B1)/(A1)=50μm/750μmの熱可塑性樹脂積層体(1-2)を得た。
【0088】
得られた熱可塑性樹脂積層体(1-1)(総厚み:300μm)は熱賦形性評価(条件1)で熱成形温度145~170℃の範囲で熱賦形可能であったため、熱成形温度170℃で取得した熱成形品を熱成形性および形状安定性評価に用いた。総合判定は良(◎)であった。
【0089】
実施例2〔樹脂(B2)/樹脂(A1)〕
実施例1で使用した(メタ)アクリル系樹脂(B1)の代わりに合成例2で得た(メタ)アクリル系樹脂(B2)を導入した以外は実施例1と同様にして、非晶性ポリエステル樹脂(A1)の片面に(メタ)アクリル系樹脂(B2)を積層した熱可塑性樹脂積層体(2-1)を得た。非晶性ポリエステル樹脂(A1)(Tg:117℃)と(メタ)アクリル系樹脂(B2)(Tg:120℃)とのガラス転移温度差は3℃であった。得られた熱可塑性樹脂積層体(2-1)の総厚みは300μm、各層の厚みは中央付近で(B2)/(A1)=50μm/250μmであった。
【0090】
また軸径65mm単軸押出機の吐出速度を150.0kg/hとした以外は上記と同様の方法で、厚み800μm、各層厚みが中央付近で(B2)/(A1)=50μm/750μmの熱可塑性樹脂積層体(2-2)を得た。
【0091】
得られた熱可塑性樹脂積層体(2-2)(総厚み:300μm)は熱賦形性評価(条件1)で熱成形温度145~170℃の範囲で熱賦形可能であったため、熱成形温度170℃で取得した熱成形品を熱成形性および形状安定性評価に用いた。総合判定は良(◎)であった。
【0092】
実施例3〔樹脂(B1)/樹脂(A2)〕
実施例1で使用した非晶性ポリエステル樹脂(A1)の代わりに非晶性ポリエステル樹脂(A2)として、商品名「TRITAN TX1001」(Eastman Chemicals社製、ガラス転移温度(Tg):110℃、ジカルボン酸成分PTA=100(モル%)/ジオール成分CBDO:CHDM=23:77(モル%)、リン濃度15ppm)を導入した以外は実施例1と同様にして、非晶性ポリエステル樹脂(A2)の片面に(メタ)アクリル系樹脂(B2)を積層した熱可塑性樹脂積層体(3-1)を得た。非晶性ポリエステル樹脂(A2)(Tg:110℃)と(メタ)アクリル系樹脂(B2)(Tg:120℃)のガラス転移温度差は10℃であった。得られた熱可塑性樹脂積層体(3-1)の総厚みは300μmm、各層の厚みは中央付近で(B1)/(A2)=50μm/250μmであった。
【0093】
また軸径65mm単軸押出機の吐出速度を150.0kg/hとした以外は上記と同様の方法で、総厚み800μm、各層厚みが中央付近で(B1)/(A2)=50μm/750μmの熱可塑性樹脂積層体(3-2)を得た。
【0094】
得られた熱可塑性樹脂積層体(3-1)(総厚み:300μm)は熱賦形性評価(条件1)で熱成形温度145~170℃の範囲で熱賦形可能であったため、熱成形温度170℃で取得した熱成形品を熱成形性および形状安定性評価に用いた。総合判定は良(◎)であった。
【0095】
実施例4〔樹脂(B1)/樹脂(A3)〕
実施例1で使用した熱可塑性樹脂組成物(A1)の代わりに製造例1で得た非晶性ポリエステル樹脂組成物(A3)を導入した以外は実施例1と同様にして、非晶性ポリエステル樹脂組成物(A3)の片面に(メタ)アクリル系樹脂(B1)を積層した熱可塑性樹脂積層体(4-1)を得た。非晶性ポリエステル樹脂組成物(A3)(Tg:120℃)と(メタ)アクリル系樹脂(B1)(Tg:120℃)のガラス転移温度差は0℃であった。得られた熱可塑性樹脂積層体(4-1)の総厚みは300μm、各層の厚みは中央付近で(B1/(A3)=50μm/250μmであった。
【0096】
また軸径65mm単軸押出機の吐出速度を150.0kg/hとした以外は上記と同様の方法で、総厚み800μm、各層厚みが中央付近で(B1)/(A3)=50μm/750μmの熱可塑性樹脂積層体(4-2)を得た。
【0097】
得られた熱可塑性樹脂積層体(4-1)(総厚み:300μm)は熱賦形性評価(条件1)で熱成形温度145~170℃の範囲で熱賦形可能であったため、熱成形温度170℃で取得した熱成形品を熱成形性および形状安定性評価に用いた。総合判定は良(◎)であった。
【0098】
実施例5〔樹脂(B1)/樹脂(A5)〕
実施例1で使用した非晶性ポリエステル樹脂(A1)の代わりに非晶性ポリエステル樹脂(A5)として、商品名「Easter 5011」(Eastman Chemical社製、ガラス転移温度(Tg):80℃、ジカルボン酸成分PTA=100(モル%)/ジオール成分EG:CHDM=65:35(モル%)、リン濃度36ppm)を導入した以外は実施例1と同様にして、非晶性ポリエステル樹脂(A5)の片面に(メタ)アクリル系樹脂(B1)を積層した熱可塑性樹脂積層体(5-1)を得た。非晶性ポリエステル樹脂(A5)(Tg:80℃)と(メタ)アクリル系樹脂(B1)(Tg:120℃)のガラス転移温度差は40℃であった。得られた熱可塑性樹脂積層体(5-1)の総厚みは300μmm、各層の厚みは中央付近で(B1)/(A5)=50μm/250μmであった。
【0099】
また軸径65mm単軸押出機の吐出速度を150.0kg/hとした以外は上記と同様の方法で、総厚み800μm、各層厚みが中央付近で(B1)/(A5)=50μm/750μmの熱可塑性樹脂積層体(5-2)を得た。
【0100】
得られた熱可塑性樹脂積層体(5-1)(総厚み:300μm)は熱賦形性評価(条件1)で熱成形温度135~165℃の範囲で熱賦形可能であったため、熱成形温度165℃で取得した熱成形品を熱成形性および形状安定性評価に用いた。総合判定は可(○)であった。
【0101】
比較例1〔樹脂(B1)/ポリカーボネート樹脂(A4)〕
実施例1で使用した非晶性ポリエステル樹脂(A1)の代わりに樹脂(A4)としてポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「ユーピロンS-1000」、ガラス転移温度(Tg):143℃)を用いた以外は実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂の片面に(メタ)アクリル系樹脂(B1)を積層した熱可塑性樹脂積層体(C2-1)を得た。ポリカーボネート樹脂(A4)(Tg:143℃)と(メタ)アクリル系樹脂(B1)(Tg:120℃)とのガラス転移温度差は23℃であった。得られた熱可塑性樹脂積層体(C1-1)の総厚みは300μm、各層の厚みは中央付近で(B1)/(A4)=50μm/250μmであった。
【0102】
また軸径65mm単軸押出機の吐出速度を150.0kg/hとした以外は上記と同様の方法で、厚み800μm、各層厚みが中央付近で(B1)/(A4)=50μm/750μmの熱可塑性樹脂積層体(C1-2)を得た。
【0103】
得られた熱可塑性樹脂積層体(C1-1)(総厚み:300μm)は熱賦形性評価(条件1)で熱成形温度170~185℃の範囲で熱賦形可能であったため、熱成形温度185℃で取得した熱成形品を熱成形性および形状安定性評価に用いた。総合判定は不良(×)であった。
【0104】
比較例2〔樹脂(B3)/ポリカーボネート樹脂(A4)〕
比較例1で使用した(メタ)アクリル系樹脂(B1)の代わりに樹脂(B3)としてポリメタクリル酸メチル樹脂(三菱化学(株)製アクリペットVH000、ガラス転移温度(Tg):108℃)を用いた以外は比較例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂の片面にポリメタクリル酸メチル樹脂(B3)を積層した熱可塑性樹脂積層体(C2-1)を得た。ポリカーボネート樹脂(Tg:143℃)とポリメタクリル酸メチル樹脂(B3)(Tg:108℃)とのガラス転移温度差は35℃であった。得られた熱可塑性樹脂積層体(C2-1)の総厚みは300μm、各層の厚みは中央付近で(B3)/(A4)=50μm/250μmであった。
【0105】
また軸径65mm単軸押出機の吐出速度を150.0kg/hとした以外は上記と同様の方法で、厚み800μm、各層厚みが中央付近で(B3)/(A4)=50μm/750μmの熱可塑性樹脂積層体(C2-2)を得た。
【0106】
得られた熱可塑性樹脂積層体(C2-1)(総厚み:300μm)は熱賦形性評価(条件1)で熱成形温度170~185℃の範囲で熱賦形可能であったため、熱成形温度185℃で取得した熱成形品を熱成形性および形状安定性評価に用いた。総合判定は不良(×)であった。
【0107】
比較例3〔樹脂(A1)〕
軸径65mmの単軸押出機と、押出機に連結されたTダイとを有する単層押出装置を用いて単軸押出機に非晶性ポリエステル樹脂(A1)として、商品名「TRITAN TX2001」(Eastman Chemicals社製、ガラス転移温度(Tg):117℃、ジカルボン酸成分PTA=100(モル%)/ジオール成分CBDO:CHDM=35:65(モル%)、リン濃度17ppm)を連続的に導入し、シリンダ温度280℃、吐出速度30.0kg/hで押し出した。その先に連結された温度280℃のTダイでシート状に押し出し、上流側から温度115℃、115℃、117℃とした3本の鏡面ロールで冷却し、非晶性ポリエステル樹脂(A1)単層体(C3-1)を得た。得られた単層体(C3-1)の厚みは300μmであった。
【0108】
また軸径65mm単軸押出機の吐出速度80.0kg/hとした以外は上記と同様の方法で、厚み800μmの非晶性ポリエステル樹脂(A1)単層体(C3-2)を得た。
【0109】
得られた非晶性ポリエステル樹脂(A1)単層体(C3-1)(厚み:300μm)は熱賦形性評価(条件1)で熱成形温度145~170℃の範囲で熱賦形可能であったため、熱成形温度170℃で取得した熱成形品を熱成形性および形状安定性評価に用いた。総合判定は不良(×)であった。
【0110】
比較例4〔樹脂(A2)〕
比較例3で使用した非晶性ポリエステル樹脂(A1)の代わりに樹脂(A2)として非晶性ポリエステル樹脂(A2)として、商品名「TRITAN TX1001」(Eastman Chemicals社製、ガラス転移温度(Tg):110℃、ジカルボン酸成分PTA=100(モル%)/ジオール成分CBDO:CHDM=23:77(モル%)、リン濃度15ppm)を用いた以外は比較例3と同様にして、非晶性ポリエステル樹脂(A2)単層体(C4-1)を得た。得られた非晶性ポリエステル樹脂(A2)単層体(C4-1)の厚み300μmであった。
【0111】
また軸径65mm単軸押出機の吐出速度80.0kg/hとした以外は上記と同様の方法で、厚み800μmの非晶性ポリエステル樹脂(A2)単層体(C4-2)を得た。
【0112】
得られた非晶性ポリエステル樹脂(A2)単層体(C4-1)(厚み:300μm)は熱賦形性評価(条件1)で熱成形温度145~170℃の範囲で熱賦形可能であったため、熱成形温度170℃で取得した熱成形品を熱成形性および形状安定性評価に用いた。総合判定は不良(×)であった。
【0113】
比較例5〔樹脂(A4)〕
比較例3で使用した非晶性ポリエステル樹脂(A1)の代わりに樹脂(A4)としてポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製ユーピロンS-1000、ガラス転移温度(Tg):143℃)を用いた以外は比較例3と同様にして、ポリカーボネート樹脂(A4)単層体(C5-1)を得た。得られたポリカーボネート樹脂(A4)単層体(C5-1)の厚みは300μmであった。
【0114】
また軸径65mm単軸押出機の吐出速度80.0kg/hとした以外は上記と同様の方法で、厚み800μmのポリカーボネート樹脂(A4)単層体(C5-2)を得た。
【0115】
得られたポリカーボネート樹脂(A4)単層体(C5-1)(厚み:300μm)は熱賦形性評価(条件1)で熱成形温度170~185℃の範囲で熱賦形可能であったため、熱成形温度185℃で取得した熱成形品を熱成形性および形状安定性評価に用いた。総合判定は不良(×)であった。
【0116】
比較例6〔樹脂(B1)〕
比較例3で使用した非晶性ポリエステル樹脂(A1)の代わりに合成例1で得た(メタ)アクリル系樹脂(B1)を用いた以外は比較例3と同様にして、(メタ)アクリル系樹脂(B1)単層体(C6-1)を得た。得られた(メタ)アクリル系樹脂(B1)単層体(C6-1)の厚みは300μmであった。
【0117】
また軸径65mm単軸押出機の吐出速度80.0kg/hとした以外は上記と同様の方法で、厚み800μmの(メタ)アクリル系樹脂(B1)単層体(C6-2)を得た。
【0118】
得られた(メタ)アクリル系樹脂(B1)単層体(C6-1)(厚み:300μm)は熱賦形性評価(条件1)で熱成形温度145~170℃の範囲で熱賦形可能であったため、熱成形温度170℃で取得した熱成形品を熱成形性および形状安定性評価に用いた。総合判定は不良(×)であった。
【0119】
比較例7〔樹脂(B2)〕
比較例3で使用した非晶性ポリエステル樹脂(A1)の代わりに合成例2で得た(メタ)アクリル系樹脂(B2)を用いた以外は比較例3と同様にして、(メタ)アクリル系樹脂(B2)単層体(C7-1)を得た。得られた(メタ)アクリル系樹脂(B2)単層体(C7-1)の厚みは300μmであった。
【0120】
また軸径65mm単軸押出機の吐出速度80.0kg/hとした以外は上記と同様の方法で、厚み800μmの(メタ)アクリル系樹脂(B2)単層体(C7-2)を得た。
【0121】
得られた(メタ)アクリル系樹脂(B2)単層体(C7-1)(300μm)は熱賦形性評価(条件1)で熱成形温度145~170℃の範囲で熱賦形可能であったため、熱成形温度170℃で取得した熱成形品を熱成形性および形状安定性評価に用いた。総合判定は不良(×)であった。
【0122】
比較例8〔樹脂(B3)〕
比較例3で使用した非晶性ポリエステル樹脂(A1)の代わりにポリメタクリル酸メチル樹脂(B3)(三菱化学(株)製アクリペットVH000、ガラス転移温度(Tg):108℃)を用いた以外は比較例3と同様にして、ポリメタクリル酸メチル樹脂(B3)単層体(C8-1)を得た。得られたポリメタクリル酸メチル樹脂(B3)単層体(C8-1)の厚みは300μmであった。
【0123】
また軸径65mm単軸押出機の吐出速度80.0kg/hとした以外は上記と同様の方法で、厚み800μmのポリメタクリル酸メチル樹脂(B3)単層体(C8-2)を得た。
【0124】
得られたポリメタクリル酸メチル樹脂(B3)単層体(C8-1)(厚み:300μm)は熱賦形性評価(条件1)で熱成形温度135~160℃の範囲で熱賦形可能であったため、熱成形温度160℃で取得した熱成形品を熱成形性および形状安定性評価に用いた。総合判定は不良格(×)であった。
【0125】
<成形体の評価>
実施例および比較例で製造した熱可塑性樹脂積層体および単層体についての熱賦形性、機械的特性、および形状安定性の評価結果を以下の表1に示す。
【表1】
A1: 非晶性ポリエステル樹脂 Eastman Chemicals社製「TRITAN TX2001」(Tg:117℃、ジカルボン酸成分PTA=100(モル%)/ジオール成分CBDO:CHDM=35:65(モル%)、Mw:40,500、リン濃度17ppm)
A2: 非晶性ポリエステル樹脂 Eastman Chemicals社製「TRITAN TX1001」(Tg:110℃、ジカルボン酸成分PTA=100(モル%)/ジオール成分CBDO:CHDM=23:77(モル%)、Mw:74,600、リン濃度15ppm)
A3: 非晶性ポリエステル樹脂(A1)とポリカーボネート樹脂(A4)との混合物(重量比90:10)(Tg:120℃)
A4: ポリカーボネート樹脂 三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「ユーピロンS-1000」(Tg:143℃、Mw:45,800)
A5: 非晶性ポリエステル樹脂 Eastman Chemical社製「Easter 5011」(Tg:80℃、ジカルボン酸成分PTA=100(モル%)/ジオール成分EG:CHDM=65:35(モル%)、Mw:40,600、リン濃度36ppm)

B1:(メタ)アクリル系樹脂(Tg:120℃)(MMA-スチレン共重合体の水素化樹脂;水素化率99%;MMA:75モル%、Mw:125,000
B2:(メタ)アクリル系樹脂(Tg:120℃)(MMA-スチレン共重合体の水素化樹脂;水素化率99%;MMA:60モル%、Mw:132,000)
B3:ポリメタクリル酸メチル樹脂 三菱化学(株)製「アクリペットVH000」(Tg:108℃、Mw:140,000)
【0126】
表1から、本発明の非晶性ポリエステル樹脂(A)を主成分とする第1層上に、(メタ)アクリル系樹脂(B)を主成分とする第2層を有する、実施例の熱可塑性樹脂積層体は、熱成形性に優れ、しかも、機械的特性および形状安定性にも優れることが確認される。特に、本発明の積層体は、深絞りでシャープなエッジ形状の金型を用いる条件2においても、白化、偏肉、またはシワなどの外観不良が防止され、熱賦形性に優れることがわかる。
特に、非晶性ポリエステル樹脂(A)として、脂環式ジオールであるCBDOを特定の割合で含有する非晶性ポリエステル樹脂(A1)および(A2)を用いた場合(実施例1~4)には、深絞りでシャープなエッジ形状の金型(条件2)を用いる場合においても熱成形性が良好であり、しかも、形状安定性にも優れていた。
【0127】
一方、ポリカーボネート樹脂と(メタ)アクリル系樹脂(B)との積層体(比較例1~2)は、深絞りでシャープなエッジ形状の金型を用いる条件2においては成形不良となった。
また、非晶性ポリエステル樹脂(A)の単層体(比較例3~4)、ポリカーボネート樹脂の単層体(比較例5)、(メタ)アクリル系樹脂(B)の単層体(比較例6~8)は、熱賦形性には優れるが、耐衝撃性、表面硬度、および形状安定性の少なくとも一つに劣ることが確認された。
【0128】
なお、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。また、本明細書は、本願の優先権主張の基礎となる日本国特許出願である特願2018-202085号(2018年10月26日出願)の特許請求の範囲、明細書、および図面の開示内容を包含する。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。