(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】濃縮装置及び濃縮方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20230502BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20230502BHJP
C12N 1/02 20060101ALN20230502BHJP
【FI】
C02F1/44 A
C12M1/00
C12N1/02
(21)【出願番号】P 2021013736
(22)【出願日】2021-01-29
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100188307
【氏名又は名称】太田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】松井 康弘
(72)【発明者】
【氏名】井上 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】片山 浩之
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-087098(JP,A)
【文献】特開昭62-079358(JP,A)
【文献】特開2005-177743(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0237142(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0090617(US,A1)
【文献】KATAYAMA, Hiroyuki et al.,Development of a Virus Concentration Method and Its Application to Detection of Enterovirus and Norwalk Virus from Coastal Seawater,Applied and Environmental Microbiology,2002, Vol.68, No.3, P.1033-1039
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/44
B01D61/00-71/82
C12N1/00-1/38
C12M1/00-3/10
G01N30/00-30/96
G01N1/00-1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負電荷に帯電した陰電荷膜と、
前記陰電荷膜の上流側に配置され、試料水を供給する試料水供給部と、
前記試料水供給部から前記陰電荷膜への流路上に配置された第1電磁弁と、
前記陰電荷膜の上流側において前記試料水供給部と並列に配置され、酸性溶液を貯留する酸性溶液貯留タンクと、
前記酸性溶液貯留タンクから前記陰電荷膜への流路上に配置された第2電磁弁と、
前記陰電荷膜の上流側において前記試料水供給部及び前記酸性溶液貯留タンクと並列に配置され、アルカリ性溶液を貯留するアルカリ性溶液貯留タンクと、
前記アルカリ性溶液貯留タンクから前記陰電荷膜への流路上に配置された第3電磁弁と、
前記陰電荷膜の下流側に配置され、流体を外部に排出する排出口と、
前記陰電荷膜から前記排出口への流路上に配置された第4電磁弁及び第1吸引ポンプと、
前記陰電荷膜の下流側において前記排出口と並列に配置され、流体を回収する回収容器と、
前記陰電荷膜から前記回収容器への流路上に配置された第5電磁弁と、
前記第1電磁弁、前記第2電磁弁、前記第3電磁弁、前記第4電磁弁及び前記第5電磁弁の開閉を制御する制御部と、
を備える、濃縮装置
であって、
前記制御部は、
前記第1電磁弁及び前記第4電磁弁を開き、前記第2電磁弁、前記第3電磁弁及び前記第5電磁弁を閉じ、前記第1吸引ポンプを駆動させる第1ステップと、
前記第2電磁弁及び前記第4電磁弁を開き、前記第1電磁弁、前記第3電磁弁及び前記第5電磁弁を閉じ、前記第1吸引ポンプを駆動させる第2ステップと、
前記第3電磁弁を開き、前記第1電磁弁、前記第2電磁弁、前記第4電磁弁及び前記第5電磁弁を閉じる第3ステップと、
を順に実行する、濃縮装置。
【請求項2】
前記第1電磁弁の上流側において、前記試料水供給部と並列に配置され、前記試料水に対して混合する混合溶液を貯留する混合溶液貯留タンクをさらに備える、請求項1に記載の濃縮装置。
【請求項3】
前記混合溶液を下流側に送液する第1送液ポンプと、
前記試料水を下流側に送液する第2送液ポンプと、
をさらに備え、
前記制御部は、前記第1送液ポンプ及び前記第2送液ポンプによる送液を制御する、
請求項2に記載の濃縮装置。
【請求項4】
前記第1電磁弁の上流側において、前記試料水供給部から供給された前記試料水を貯蔵する加圧タンクをさらに備える、請求項1から3のいずれか一項に記載の濃縮装置。
【請求項5】
前記回収容器の内部を陰圧にする第2吸引ポンプをさらに備える、請求項1から
4のいずれか一項に記載の濃縮装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記第5電磁弁を閉じ、前記第2吸引ポンプを駆動することによって前記回収容器の内部を陰圧にする第4ステップと、
前記第1電磁弁、前記第2電磁弁、前記第3電磁弁及び前記第4電磁弁を閉じ、前記第5電磁弁を開く第5ステップと、
を順に実行する、請求項
5に記載の濃縮装置。
【請求項7】
前記濃縮装置は、一体化した1つの装置として構成されている、請求項1から
6のいずれか一項に記載の濃縮装置。
【請求項8】
前記濃縮装置は、全体が筐体の内部に収容されることにより一体化した装置として構成されている、請求項
7に記載の濃縮装置。
【請求項9】
前記筐体は、ユーザが把持することが可能な持ち手を備える、請求項
8に記載の濃縮装置。
【請求項10】
前記濃縮装置は、車輪をさらに備える、請求項1から
9のいずれか一項に記載の濃縮装置。
【請求項11】
負電荷に帯電した陰電荷膜と、
前記陰電荷膜の上流側に配置され、試料水を供給する試料水供給部と、
前記試料水供給部から前記陰電荷膜への流路上に配置された第1電磁弁と、
前記陰電荷膜の上流側において前記試料水供給部と並列に配置され、酸性溶液を貯留する酸性溶液貯留タンクと、
前記酸性溶液貯留タンクから前記陰電荷膜への流路上に配置された第2電磁弁と、
前記陰電荷膜の上流側において前記試料水供給部及び前記酸性溶液貯留タンクと並列に配置され、アルカリ性溶液を貯留するアルカリ性溶液貯留タンクと、
前記アルカリ性溶液貯留タンクから前記陰電荷膜への流路上に配置された第3電磁弁と、
前記陰電荷膜の下流側に配置され、流体を外部に排出する排出口と、
前記陰電荷膜から前記排出口への流路上に配置された第4電磁弁及び第1吸引ポンプと、
前記陰電荷膜の下流側において前記排出口と並列に配置され、流体を回収する回収容器と、
前記陰電荷膜から前記回収容器への流路上に配置された第5電磁弁と、
を備える、濃縮装置が実行する方法であって、
前記第1電磁弁及び前記第4電磁弁を開き、前記第2電磁弁、前記第3電磁弁及び前記第5電磁弁を閉じ、前記第1吸引ポンプを駆動させる第1ステップと、
前記第2電磁弁及び前記第4電磁弁を開き、前記第1電磁弁、前記第3電磁弁及び前記第5電磁弁を閉じ、前記第1吸引ポンプを駆動させる第2ステップと、
前記第3電磁弁を開き、前記第1電磁弁、前記第2電磁弁、前記第4電磁弁及び前記第5電磁弁を閉じる第3ステップと、
を含む、濃縮方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、濃縮装置及び濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌やウイルスなどを含む微生物は、一般的に中性からアルカリ性の水域では、負電荷を帯び、酸性の水域では正電荷を帯びるという性質を有する。従来、この性質を利用して、水中から微生物を捕捉する方法が知られている。例えば、非特許文献1には、陰電荷膜を用いて水中から微生物を捕捉する、陰電荷膜法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Katayama et al, “Development of a Virus Concentration Method and Its Application to Detection of Enterovirus and Norwalk Virus from Coastal Seawater”, Appl Environ Microbiol, 2002年3月, Vol. 68, No. 3, p.1033-1039
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば、浄水場、下水処理場、水再生施設又は海水淡水化施設等の水処理インフラにおいて、陰電荷膜法を適用して水中のウイルスを検出することは容易ではない。例えば、水処理インフラの現場で陰電荷膜法を実施しようとする場合、陰電荷膜法による処理を行う専用の装置を作業員が現場で組み立てる必要があるため、作業員を手配する必要がある上、手間と時間を要する。また、水処理インフラで試料水を採水した後、水処理インフラの現場から離れた実験室で陰電荷膜法の処理を行う場合には、当該実験室まで適切に運搬及び保管するための、容器などの道具や、運搬作業が別途必要となる。この場合、採水現場と陰電荷膜の処理を行う実験室が離れているため、水処理インフラの施設における試料水の採水状況に応じて、陰電荷膜法を用いた対応方針を変更することが困難であるという問題も発生し得る。また、陰電荷膜法による処理を行う設備の操作は、作業員が行う必要があるため、作業員に負担がかかっていた。
【0005】
本開示は、陰電荷膜法による処理の利便性を向上可能な濃縮装置及び濃縮方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
幾つかの実施形態に係る濃縮装置は、負電荷に帯電した陰電荷膜と、前記陰電荷膜の上流側に配置され、試料水を供給する試料水供給部と、前記試料水供給部から前記陰電荷膜への流路上に配置された第1電磁弁と、前記陰電荷膜の上流側において前記試料水供給部と並列に配置され、酸性溶液を貯留する酸性溶液貯留タンクと、前記酸性溶液貯留タンクから前記陰電荷膜への流路上に配置された第2電磁弁と、前記陰電荷膜の上流側において前記試料水供給部及び前記酸性溶液貯留タンクと並列に配置され、アルカリ性溶液を貯留するアルカリ性溶液貯留タンクと、前記アルカリ性溶液貯留タンクから前記陰電荷膜への流路上に配置された第3電磁弁と、前記陰電荷膜の下流側に配置され、流体を外部に排出する排出口と、前記陰電荷膜から前記排出口への流路上に配置された第4電磁弁及び第1吸引ポンプと、前記陰電荷膜の下流側において前記排出口と並列に配置され、流体を回収する回収容器と、前記陰電荷膜から前記回収容器への流路上に配置された第5電磁弁と、前記第1電磁弁、前記第2電磁弁、前記第3電磁弁、前記第4電磁弁及び前記第5電磁弁の開閉を制御する制御部と、を備える。これにより、濃縮装置における陰電荷膜法による処理が自動化されるため、陰電荷膜法による処理を行うに際し、作業員による労務負担を軽減することができる。そのため、陰電荷膜法による処理の利便性を向上可能である。
【0007】
一実施形態において、前記第1電磁弁の上流側において、前記試料水供給部と並列に配置され、前記試料水に対して混合する混合溶液を貯留する混合溶液貯留タンクをさらに備えてよい。これにより、混合溶液を混合した試料水を陰電荷膜に供給可能である。
【0008】
一実施形態において、前記混合溶液を下流側に送液する第1送液ポンプと、前記試料水を下流側に送液する第2送液ポンプと、をさらに備え、前記制御部は、前記第1送液ポンプ及び前記第2送液ポンプによる送液を制御してよい。これにより、試料水に対する混合溶液の混合量が制御部によって自動制御される。
【0009】
一実施形態において、前記第1電磁弁の上流側において、前記試料水供給部から供給された前記試料水を貯蔵する加圧タンクをさらに備えてよい。試料水を、一定以上の圧力で陰電荷膜に供給することができる。
【0010】
一実施形態において、前記制御部は、前記第1電磁弁及び前記第4電磁弁を開き、前記第2電磁弁、前記第3電磁弁及び前記第5電磁弁を閉じ、前記第1吸引ポンプを駆動させる第1ステップと、前記第2電磁弁及び前記第4電磁弁を開き、前記第1電磁弁、前記第3電磁弁及び前記第5電磁弁を閉じ、前記第1吸引ポンプを駆動させる第2ステップと、前記第3電磁弁を開き、前記第1電磁弁、前記第2電磁弁、前記第4電磁弁及び前記第5電磁弁を閉じる第3ステップと、を順に実行してよい。これにより、陰電荷膜法による処理が実行され、微生物の濃縮液が精製される。
【0011】
一実施形態において、前記回収容器の内部を陰圧にする第2吸引ポンプをさらに備えてよい。これにより、回収容器の内部を陰圧にして、濃縮液を回収容器に引き込むことができる。
【0012】
一実施形態において、前記制御部は、前記第5電磁弁を閉じ、前記第2吸引ポンプを駆動することによって前記回収容器の内部を陰圧にする第4ステップと、前記第1電磁弁、前記第2電磁弁、前記第3電磁弁及び前記第4電磁弁を閉じ、前記第5電磁弁を開く第5ステップと、を順に実行してよい。これにより、陰電荷膜法による処理において、微生物の濃縮液が適切に回収容器に回収される。
【0013】
一実施形態において、前記濃縮装置は、一体化した1つの装置として構成されていてよい。これにより、陰電荷膜法による処理を行うことが必要な場所に、濃縮装置を運搬することができる。そのため、陰電荷膜法による処理の利便性が高まる。
【0014】
一実施形態において、前記濃縮装置は、全体が筐体の内部に収容されることにより一体化した装置として構成されていてよい。これにより、濃縮装置の運搬が容易になるとともに、濃縮装置内部の各機構が保護される。
【0015】
一実施形態において、前記筐体は、ユーザが把持することが可能な持ち手を備えてよい。これにより、持ち手を把持して、濃縮装置を持ち運ぶことが可能になる。
【0016】
一実施形態において、前記濃縮装置は、車輪をさらに備えてよい。これにより、濃縮装置を地面を走行させて運搬可能になる。
【0017】
幾つかの実施形態に係る濃縮方法は、負電荷に帯電した陰電荷膜と、前記陰電荷膜の上流側に配置され、試料水を供給する試料水供給部と、前記試料水供給部から前記陰電荷膜への流路上に配置された第1電磁弁と、前記陰電荷膜の上流側において前記試料水供給部と並列に配置され、酸性溶液を貯留する酸性溶液貯留タンクと、前記酸性溶液貯留タンクから前記陰電荷膜への流路上に配置された第2電磁弁と、前記陰電荷膜の上流側において前記試料水供給部及び前記酸性溶液貯留タンクと並列に配置され、アルカリ性溶液を貯留するアルカリ性溶液貯留タンクと、前記アルカリ性溶液貯留タンクから前記陰電荷膜への流路上に配置された第3電磁弁と、前記陰電荷膜の下流側に配置され、流体を外部に排出する排出口と、前記陰電荷膜から前記排出口への流路上に配置された第4電磁弁及び第1吸引ポンプと、前記陰電荷膜の下流側において前記排出口と並列に配置され、流体を回収する回収容器と、前記陰電荷膜から前記回収容器への流路上に配置された第5電磁弁と、を備える、濃縮装置が実行する濃縮方法であって、前記第1電磁弁及び前記第4電磁弁を開き、前記第2電磁弁、前記第3電磁弁及び前記第5電磁弁を閉じ、前記第1吸引ポンプを駆動させる第1ステップと、前記第2電磁弁及び前記第4電磁弁を開き、前記第1電磁弁、前記第3電磁弁及び前記第5電磁弁を閉じ、前記第1吸引ポンプを駆動させる第2ステップと、前記第3電磁弁を開き、前記第1電磁弁、前記第2電磁弁、前記第4電磁弁及び前記第5電磁弁を閉じる第3ステップと、を含む。これにより、濃縮装置における陰電荷膜法による処理が自動化されるため、陰電荷膜法による処理を行うに際し、作業員による労務負担を軽減することができる。そのため、陰電荷膜法による処理の利便性を向上可能である。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、陰電荷膜法による処理の利便性を向上可能な濃縮装置及び濃縮方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】陰電荷膜法の処理を実行可能な設備の比較例を説明するための概略構成図である。
【
図2】
図1の設備により実行される陰電荷膜法の処理手順を説明するための概略図である。
【
図3】
図1の設備により実行される陰電荷膜法の処理手順を説明するための概略図である。
【
図4】
図1の設備により実行される陰電荷膜法の処理手順を説明するための概略図である。
【
図5】本開示の一実施形態に係る濃縮装置の概略構成図である。
【
図6】
図5の濃縮装置により実行される陰電荷膜法の処理の第1ステップを説明するための概略図である。
【
図7】
図5の濃縮装置により実行される陰電荷膜法の処理の第2ステップを説明するための概略図である。
【
図8】
図5の濃縮装置により実行される陰電荷膜法の処理の第3ステップを説明するための概略図である。
【
図9】
図5の濃縮装置により実行される陰電荷膜法の処理の第4ステップを説明するための概略図である。
【
図10】
図5の濃縮装置により実行される陰電荷膜法の処理の第5ステップを説明するための概略図である。
【
図11】
図5の濃縮装置により実行される陰電荷膜法の処理の各ステップにおいて制御部により制御される機能部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0021】
まず、陰電荷膜法によって細菌やウイルスなどを含む微生物の濃縮液を精製する設備の比較例について説明する。本明細書では、一例として、ウイルスの濃縮液を精製する場合について説明するが、細菌などの他の微粒子に対しても、同様の設備及び方法を適用可能である。細菌やウイルスなどを含む微生物は、中性からアルカリ性の水域では、負電荷に帯電するという性質を有する。陰電荷膜法による処理を実行する試料水は、中性からアルカリ性であるため、これらの微生物は、試料水中で負電荷に帯電している。
【0022】
図1は、陰電荷膜法の処理を実行可能な設備の比較例を説明するための概略構成図である。
図1に示すように、比較例に係る設備1は、陰電荷膜2と、アスピレータ3と、吸引ビン4と、を備える。
図1において、各構成要素を結合する実線は、流体を流す配管を示す。
【0023】
陰電荷膜2は、負電荷に帯電した膜であり、例えばMillipore社製の混合セルロース膜(以下、単に「HA膜」とも言う)を用いることができる。陰電荷膜2には、ウイルスを捕捉可能で、水分子などの流体を構成する分子を透過可能な孔が設けられている。陰電荷膜2の孔の孔径は、陰電荷膜2で捕捉するウイルス等に応じて、適宜定められてよい。
【0024】
陰電荷膜2の上流側には、流体を供給するための配管5が設けられている。
図1に示す比較例では、配管5には、それぞれの手順ごとに3本の異なる配管5a、5b及び5cを手動で繋ぎ変えることで、それぞれ異なる流体が配管5を経由して陰電荷膜2に供給される。配管5に配管5a、5b及び5cが繋ぎ変えられる代わりに、配管5に投入する溶液を変えることで、それぞれ異なる流体が配管5を経由して陰電荷膜2に供給されてもよい。
【0025】
3本の配管5a、5b及び5cのうち第1配管5aは、配管5と、試料水供給口6とをつなぐ配管である。試料水供給口6からは、ウイルスを含みうる試料水が第1配管5aに供給される。なお、試料水供給口6からは、水処理インフラの施設から採水された試料水に、所定の溶液が混合された溶液が供給されてもよい。所定の溶液は、例えば塩化マグネシウム溶液であってよい。所定の溶液には、試料水の性質に応じて適宜の溶液が用いられてよい。また、所定の溶液は、試料水の性質に応じて、用いられなくてもよい。
【0026】
3本の配管5a、5b及び5cのうち第2配管5bは、配管5と、酸性の水溶液が貯留された酸性溶液貯留タンク7とをつなぐ配管である。酸性溶液貯留タンク7からは、酸性の水溶液が第2配管5bに供給される。本明細書では、酸性の水溶液は、一例として硫酸溶液であるとして説明するが、これに限られない。
【0027】
3本の配管5a、5b及び5cのうち第3配管5cは、配管5と、アルカリ性の水溶液が貯留されたアルカリ性溶液貯留タンク8とをつなぐ配管である。アルカリ性溶液貯留タンク8からは、アルカリ性の水溶液が第3配管5cに供給される。本明細書では、アルカリ性の水溶液は、一例として水酸化ナトリウム水溶液であるとして説明するが、これに限られない。
【0028】
各手順で連結された3本の配管5a、5b及び5cのそれぞれから、配管5を介して、陰電荷膜2に流体が供給される。陰電荷膜2には、試料水、酸性の水溶液及びアルカリ性の水溶液のいずれか1つのみが、同じタイミングで供給される。すなわち、同じタイミングで、試料水、酸性の水溶液及びアルカリ性の水溶液の2つ以上が供給されないように、それぞれの手順ごとに配管5a、5b及び5cが手動で繋ぎ変えられる。
【0029】
アスピレータ3は、陰電荷膜2に対して下流側に配置される。アスピレータ3は、減圧状態を作り出すことにより、陰電荷膜2に供給された流体を引き込む。
図1に示す比較例では、試料水及び酸性の水溶液が陰電荷膜2に供給される場合に、アスピレータ3が駆動されて、流体がアスピレータ3側に引き込まれ、外部に排出される。
【0030】
吸引ビン4は、陰電荷膜2に対して下流に配置され、アスピレータ3と並列に配置される。吸引ビン4は、減圧状態を作り出すことにより、陰電荷膜2に供給された流体を引き込んで、内部に設けられた濃縮液回収容器10に、流体を回収する。
図1に示す比較例では、アルカリ性の水溶液が陰電荷膜2に供給される場合に、流体が吸引ビン4に引き込まれ、濃縮液回収容器10に回収される。
【0031】
次に、
図1の比較例に係る設備を用いた、陰電荷膜法による処理方法について説明する。
図2から
図4は、
図1の設備1により実行される陰電荷膜法の処理手順を説明するための概略図である。
図2から
図4における太線は、流体の流れを表す。
【0032】
まず、配管5に第1配管5aが接続され、アスピレータ3が駆動されることによって、
図2に示すように、試料水が試料水供給口6から第1配管5aを経由して陰電荷膜2に供給される。試料水が陰電荷膜2を通ると、試料水中に含まれる陽イオンは、正電荷に帯電しているため、負電荷に帯電した陰電荷膜2に捕捉される。また、試料水中に含まれるウイルスは、陰電荷膜2の孔よりも大きいため、陰電荷膜2に捕捉される。陰電荷膜2として、このときにウイルスを捕捉可能なものが使用される。例えば、陰電荷膜2として、孔径0.45μm、口径13-90mmのHA膜を使用することができる。陽イオン及びウイルスが捕捉された試料水は、アスピレータ3により、陰電荷膜2の下流に配置された配管11及び11aを通して排水される。
【0033】
次に、第1配管5aに代えて第2配管5bが配管5に接続され、アスピレータ3が駆動されることによって、
図3に示すように、酸性溶液貯留タンク7から第2配管5bを通り硫酸溶液が陰電荷膜2に供給される。これにより、陰電荷膜2の酸洗浄が行われる。つまり、硫酸溶液を陰電荷膜2に供給し、アスピレータ3で下流に流すことにより、陰電荷膜2に捕捉された陽イオンが、陰電荷膜2からはがされて硫酸溶液とともに配管11及び11aを通して排水される。硫酸溶液は、酸洗浄が可能な任意のものであってよく、例えばpH3.0で、0.5mMの硫酸溶液を用いることができる。また、硫酸溶液は、適宜の量が供給されてよく、例えば供給された試料水の10分の1の容量が供給されてよい。酸洗浄により、陰電荷膜2にはウイルスが付着して残っている状態となる。
【0034】
そして、第2配管5bに代えて第3配管5cが配管5に接続され、
図4に示すように、アルカリ性溶液貯留タンク8から第3配管5cを通り水酸化ナトリウム水溶液が陰電荷膜2に供給される。これにより、陰電荷膜2に捕捉され、負電荷に帯電したウイルスが、陰電荷膜2からはがされて水酸化ナトリウム水溶液とともに、配管11及び11bを通って吸引ビン4に流れ、濃縮液回収容器10に回収される。水酸化ナトリウム水溶液は、ウイルスを回収可能な任意のものであってよく、例えばpH10.5-10.8で、1.0mMの水酸化ナトリウム水溶液を用いることができる。また、水酸化ナトリウム水溶液は、適宜の量が供給されてよく、例えば1-10mlが供給されてよい。
【0035】
なお、濃縮液回収容器10には、ウイルスを回収した水酸化ナトリウム水溶液を中和するための溶液が、予め入れられていることが好ましい。例えば、濃縮液回収容器10には、5-50μlの0.2Nの硫酸溶液と、10-100μlのpH8.0の緩衝液とが、予め入れられていることが好ましい。
【0036】
このように、
図2から
図4を参照して説明した処理により、設備1で陰電荷膜法を行うことにより、試料水中のウイルスを濃縮液回収容器10に精製することができる。
【0037】
上述した設備1による陰電荷膜法は、例えば、浄水場、下水処理場、水再生施設又は海水淡水化施設等の水処理インフラに適用可能である。しかしながら、水処理インフラに対して、上述の設備1による陰電荷膜法を適用するに際し、例えば水処理インフラの現場で陰電荷膜法を実施しようとする場合、処理で使用する設備1を、作業員が現場で組み立てる必要がある。また、設備1を用いて陰電荷膜法による処理を行う場合には、上述したように配管を繋ぎ変える作業を、作業員が行う必要がある。そのため、設備1の組立て・解体や、配管の繋ぎ変えを行うことが可能な技能を持った作業員を手配する必要がある。また、設備1の組立て及び解体のための手間と時間が必要となる。採水対象となる水処理インフラが屋外にある場合、追加的な設備が必要となる可能性があり、その場合、さらなる手間と時間が必要となり得る。さらに、現場でのトラブル対応に備えて、現場に常時作業員を配置しておく必要がある。また、水処理インフラの現場では、施設への立ち入り人数や時間が制限される場合があり、多くの作業員を派遣できなかったり、作業や採水にかけられる時間を長く確保できなかったりする場合がある。
【0038】
また、水処理インフラで試料水を採水した後、水処理インフラの現場から離れた実験室で陰電荷膜法の処理を行う場合には、当該実験室まで適切に運搬及び保管するための、容器などの道具や、運搬作業が別途必要となる。この場合、採水現場と陰電荷膜の処理を行う実験室が離れているため、水処理インフラの施設における試料水の採水状況に応じて、陰電荷膜法を用いた対応方針を変更することが困難であるという問題も発生し得る。
【0039】
また、陰電荷膜法は、細菌やウイルスなどの微生物を高い回収率で捕捉可能であるが、設備1において、
図2から
図4を参照して説明した作業は、作業員が行う必要があった。そのため、作業員に負担がかかっていた。また、
図2から
図4を参照して説明した作業を的確に行うことは容易ではなく、また、煩雑である。特に、水処理インフラでの緊急時や非常時に水質管理を行う必要が生じた場合、必ずしも、陰電荷膜法を行う設備1の作業に精通していない担当者が、設備1の運転作業を実施する必要が生じることがあり、的確な作業が行われない結果、適切に微生物を回収できないおそれがある。
【0040】
また、実務上は、水処理インフラの運転管理や水質管理を行うに際しては、必ずしも、陰電荷膜法を行うに適した設備や環境の条件が整っていない場合があり、より簡便に陰電荷膜法の処理を実施可能であることが望まれる。陰電荷膜法の処理の煩雑さに起因し、特に立入り制限が厳格な水処理インフラにおいては、単発的な試料採取による陰電荷膜法の実施が行われるに留まらざるを得ないという問題もある。
【0041】
以下、上述した問題を解決可能な濃縮装置について説明する。
【0042】
図5は、本開示の一実施形態に係る濃縮装置100の概略構成図である。
図5に示すように、濃縮装置100は、制御部101と、陰電荷膜102と、第1吸引ポンプ103と、第2吸引ポンプ104と、混合溶液貯留タンク105と、試料水供給部106と、酸性溶液貯留タンク107と、アルカリ性溶液貯留タンク108と、加圧タンク109と、濃縮液回収容器110と、を備える。
図5において、各構成要素を結合する実線は、流体を流す配管を示す。
図5に示すように、濃縮装置100は、さらに、第1送液ポンプP1と、第2送液ポンプP2と、第1流量計M1と、第2流量計M2と、第3流量計M3と、圧力センサSと、第1電磁弁V1と、第2電磁弁V2と、第3電磁弁V3と、第4電磁弁V4と、第5電磁弁V5と、第6電磁弁V6と、を備える。
図5において、各構成要素を結合する破線は、制御部101との間で送受信させる信号の送信経路を示す。
【0043】
制御部101は、濃縮装置100が備える各構成要素をはじめとして、濃縮装置100の全体を制御及び管理するプロセッサである。制御部101は、第1吸引ポンプ103と、第2吸引ポンプ104と、第1送液ポンプP1と、第2送液ポンプP2と、第1電磁弁V1と、第2電磁弁V2と、第3電磁弁V3と、第4電磁弁V4と、第5電磁弁V5と、第6電磁弁V6と、に対し、制御信号を送信することにより、これらの構成要素の制御を行う。また、制御部101は、第1流量計M1、第2流量計M2及び第3流量計M3から、測定された流量に関する情報を取得するとともに、圧力センサSから、測定された圧力に関する情報を取得する。制御部101により実行される処理は、マイクロコンピュータ、Raspberry Pi又はArduino等により設計されてよいが、これらに限られるものではない。制御部101は、制御手順を規定したプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサで構成される。プロセッサにより実行されるプログラムは、例えば濃縮装置100の内部又は外部の記憶媒体等に格納される。
【0044】
陰電荷膜102は、負電荷に帯電した膜であり、例えばHA膜を用いることができる。陰電荷膜102は、
図1に示した比較例の陰電荷膜2と同様に構成されていてよい。
【0045】
陰電荷膜102の上流側には、流体を供給するための上流側配管111が設けられている。上流側配管111には、3本の異なる配管111a、111b及び111cが連結されており、これら3本の配管111a、111b及び111cから、それぞれ異なる流体が上流側配管111を経由して陰電荷膜2に供給される。
【0046】
第1配管111aは、上流側配管111と、加圧タンク109とをつなぐ配管である。第1配管111aには第1電磁弁V1が設けられている。第1電磁弁V1は、試料水供給部106から陰電荷膜102への流路上に配置され、加圧タンク109に貯蔵された流体の陰電荷膜102への供給を制御する。加圧タンク109の上流側には、混合溶液貯留タンク105と試料水供給部106とが設けられている。
【0047】
混合溶液貯留タンク105には、試料水供給部106から供給される試料水に対して混合される溶液(以下、単に「混合溶液」とも言う)が貯留されている。混合溶液は、例えば塩化マグネシウム溶液であってよいが、これに限られるものではない。所定の溶液には、試料水の性質に応じて適宜の溶液が用いられてよい。本実施形態では、混合溶液は、塩化マグネシウム溶液であるとして、以下説明する。混合溶液貯留タンク105には、塩化マグネシウム溶液を供給する第4配管112aが連結され、第4配管112aを介して、加圧タンク109に繋がる混合配管112に、塩化マグネシウム溶液が供給される。第4配管112aには、塩化マグネシウム溶液の流量を制御する第1送液ポンプP1と、第4配管112aの内部を流れる流体の流量を測定する第1流量計M1とが配置されている。第1流量計M1が測定した流量に関する情報は制御部101に送信され、制御部101は、取得した流量に関する情報に基づいて第1送液ポンプP1による送液を制御する。
【0048】
試料水供給部106は、水処理プラントから採水された試料水を供給する。試料水供給部106は、水処理プラントからホース又はチューブなどで採水された試料水を供給する機構として構成されていてもよく、水処理プラントで採水された試料水を貯水するタンクとして構成されていてもよい。試料水供給部106には、試料水を供給する第5配管112bが連結され、第5配管112bを介して、加圧タンク109に繋がる混合配管112に、試料水が供給される。第5配管112bには、試料水の流量を制御する第2送液ポンプP2と、第5配管112bの内部を流れる流体の流量を測定する第2流量計M2とが配置されている。第2流量計M2が測定した流量に関する情報は制御部101に送信され、制御部101は、取得した流量に関する情報に基づいて第2送液ポンプP2による送液を制御する。
【0049】
第1送液ポンプP1及び第2送液ポンプP2は、流体を下流側に送液可能なポンプである。第1送液ポンプP1及び第2送液ポンプP2は、例えば、軟質チューブをローラーでしごいて送液するペリスタポンプ(登録商標)であってもよい。第1送液ポンプP1及び第2送液ポンプP2を用いることにより、試料水に対する混合溶液の混合量が制御部101によって自動制御される。
【0050】
試料水と、塩化マグネシウム溶液とは、同時に混合配管112に供給され、混合配管112で混合されて、加圧タンク109に供給される。加圧タンク109は、試料水と塩化マグネシウム溶液とが混合された溶液(以下、単に「混合後溶液」とも言う)を保管するタンクである。加圧タンク109は、大気圧より高い圧力を加えた状態で、混合後溶液を密閉保管することが可能である。加圧タンク109には圧力センサSが取り付けられている。圧力センサSは、加圧タンク109の内部の圧力を測定し、測定した圧力に関する情報を制御部101に送信する。
【0051】
第2配管111bは、上流側配管111と、酸性溶液貯留タンク107とをつなぐ配管である。酸性溶液貯留タンク107は、酸性の水溶液(酸性溶液)を貯留するタンクである。本明細書では、酸性の水溶液は、一例として硫酸溶液であるとして説明するが、これに限られない。第2配管111bには第2電磁弁V2が設けられている。第2電磁弁V2は、酸性溶液貯留タンク107から陰電荷膜102への流路上に配置され、酸性溶液貯留タンク107に貯蔵された酸性の水溶液の陰電荷膜102への供給を制御する。
【0052】
第3配管111cは、上流側配管111と、アルカリ性溶液貯留タンク108とをつなぐ配管である。アルカリ性溶液貯留タンク108は、アルカリ性の水溶液(アルカリ性溶液)を貯留するタンクである。本明細書では、アルカリ性の水溶液は、一例として水酸化ナトリウム水溶液であるとして説明するが、これに限られない。第3配管111cには第3電磁弁V3が設けられている。第3電磁弁V3は、アルカリ性溶液貯留タンク108から陰電荷膜102への流路上に配置され、アルカリ性溶液貯留タンク108に貯蔵されたアルカリ性の水溶液の陰電荷膜102への供給を制御する。
【0053】
陰電荷膜102の下流側には、陰電荷膜102を通った流体を排出するための下流側配管113が設けられている。下流側配管113には、2本の異なる配管113a及び113bが連結されている。
【0054】
第6配管113aには、第4電磁弁V4と、第1吸引ポンプ103と、第3流量計M3とが設けられている。第6配管113aは、排出口114から流体を排出する。第4電磁弁V4は、陰電荷膜102から排出口114への流路上に配置され、陰電荷膜102を通った流体の、第6配管113aからの排出を制御する。第1吸引ポンプ103は、陰電荷膜102から、第6配管113a側に流体を引き込むポンプである。第1吸引ポンプ103は、例えば減圧状態を作り出すことによって流体を引き込むアスピレータにより構成されている。第3流量計M3は、第6配管113aの内部を流れる流体の流量を測定する。第3流量計M3が測定した流量に関する情報は制御部101に送信され、制御部101は、取得した流量に関する情報に基づいて第1吸引ポンプ103による流体の引き込みを制御する。
【0055】
第7配管113bには、第5電磁弁V5が設けられている。第7配管113bは、下流側配管113と、濃縮液回収容器110とをつなぐ配管である。第5電磁弁V5は、陰電荷膜102から回収容器110への流路上に配置され、陰電荷膜102を通った流体の、濃縮液回収容器110への引き込みを制御する。濃縮液回収容器110は、陰電荷膜102で捕捉されたウイルスを含む流体(濃縮液)を回収する容器である。濃縮液回収容器110は、密閉可能な容器により構成されている。
【0056】
濃縮液回収容器110には、配管114が取り付けられている。配管114には、第6電磁弁V6と、第2吸引ポンプ104とが設けられている。配管114は、配管114の一端が濃縮液回収容器110の内部の空間に位置するように配置される。第2吸引ポンプ104は、濃縮液回収容器110の内部の気体を引き込んで外部に排出するポンプである。第6電磁弁V6は、濃縮液回収容器110の内部の気体の、外部への引き込みを制御する。
【0057】
濃縮装置100は、一体化(パッケージ化)した1つの装置として構成されている。濃縮装置100は、例えばL字アングル等のフレームを用いて形成された構造体に各機能部が固定されることにより、全体として一体化した装置として構成されていてよい。
【0058】
あるいは、濃縮装置100は、
図5に模式的に示すように、全体が、例えばジュラルミンケースなどの筐体120の内部に収容されることにより、一体化した装置として構成されていてもよい。筐体120に収容されることにより、濃縮装置100の運搬が容易になるとともに、濃縮装置100内部の各機構が保護される。濃縮装置100は、筐体120の外部から電力を取得するための電源ケーブルをさらに備えていてもよい。あるいは、濃縮装置100は、筐体120の内部に、電力を供給可能なバッテリ等の電力源を備えていてもよい。濃縮装置100は、筐体120の外部に、ユーザが手で把持することが可能な持ち手を備えていてもよい。濃縮装置100が持ち手を備えることにより、ユーザは、持ち手を把持して、濃縮装置100を持ち運び可能である。
【0059】
フレーム又は筐体120により一体化された濃縮装置100は、車輪を備えていてもよい。車輪は例えば筐体120に設けられてもよい。車輪により、ユーザは、濃縮装置100を地面を走行させて運搬可能となる。
【0060】
次に、
図5に示した濃縮装置100による陰電荷膜法の処理手順について、
図6から
図11を参照して説明する。
図6から
図10は、濃縮装置100により実行される陰電荷膜法の処理の各ステップを説明するための概略図である。
図6から
図10における太線は、流体の流れを表す。
図11は、濃縮装置100により実行される陰電荷膜法の処理の各ステップにおいて制御部101により制御される機能部を、一覧で示す図である。
図11において、「開」は、電磁弁が開いていることを示し、「閉」は、電磁弁が閉じていることを示す。また、
図11において、「on」は、第1送液ポンプP1、第2送液ポンプP2、第1流量計M1から第3流量計M3、圧力センサS、第1吸引ポンプ103及び第2吸引ポンプ104が駆動されていることを示し、「off」は、第1流量計M1から第3流量計M3、圧力センサS、第1吸引ポンプ103及び第2吸引ポンプ104が停止されていることを示す。
【0061】
濃縮装置100による陰電荷膜法の処理は、制御部101による制御によって実現される。すなわち、濃縮装置100では、陰電荷膜法の処理が自動化されている。具体的には、制御部101は、第1電磁弁V1から第6電磁弁V6と、第1送液ポンプP1と、第2送液ポンプP2と、第1流量計M1から第3流量計M3と、圧力センサSと、第1吸引ポンプ103及び第2吸引ポンプ104と、を制御することにより、陰電荷膜法の処理を実行する。
【0062】
図6は、
図5の濃縮装置100により実行される陰電荷膜法の処理の第1ステップを説明するための概略図である。第1ステップにおいて、
図11に示すように、制御部101は、第1電磁弁V1及び第4電磁弁V4を開き、その他の電磁弁を閉じる。また、制御部101は、第1送液ポンプP1と、第2送液ポンプP2と、第1流量計M1から第3流量計M3と、圧力センサSと、第1吸引ポンプ103とを駆動し、第2吸引ポンプ104を停止させた状態にする。
【0063】
これにより、制御部101は、第1流量計M1及び第2流量計M2から、それぞれ第4配管112a及び第5配管112bの流量に関する情報を取得する。制御部101は、取得した流量に関する情報に基づき、第1送液ポンプP1及び第2送液ポンプP2を制御する。
【0064】
第1ステップでは、第1電磁弁V1及び第4電磁弁V4が開かれ、第1吸引ポンプ103が駆動されていることにより、
図6に示すように、試料水と塩化マグネシウム溶液とが混合配管112で混合され、加圧タンク109から陰電荷膜102に供給される。制御部101は、第1流量計M1、第2流量計M2、第1送液ポンプP1及び第2送液ポンプP2を連動して制御することにより、試料水と塩化マグネシウム溶液とを混合配管112で混合することができる。
【0065】
制御部101は、圧力センサSから、加圧タンク109の圧力に関する情報を取得する。制御部101は、混合配管112で混合された混合後溶液を、一定量以上陰電荷膜102に供給する場合には、加圧タンク109を加圧させて、陰電荷膜102に供給してよい。これにより、混合後溶液を、一定以上の圧力で陰電荷膜102に供給することができる。なお、濃縮装置100の仕様により、混合後溶液を加圧する必要がない場合には、濃縮装置100は、加圧タンク109を備えていなくてもよい。
【0066】
混合配管112で混合された混合後溶液は、陰電荷膜102に供給されて、溶液中の陽イオンとウイルスとが捕捉される。陰電荷膜102からは、陽イオンとウイルスとが捕捉された後の液体が、第6配管113aから外部に排出される。このとき、排出される液体の流量が第3流量計M3により測定され、測定された流量に関する情報が制御部101に送信される。制御部101は、取得した流量に関する情報に基づき第1吸引ポンプ103による吸引量を制御することができる。
【0067】
制御部101は、例えば第1ステップを開始してから所定時間経過した後、又は、第1ステップにおいて所定量の流体を排出した後、などの適宜定められたタイミングで、第1ステップを終了し、第2ステップに移行する。
【0068】
図7は、
図5の濃縮装置100により実行される陰電荷膜法の処理の第2ステップを説明するための概略図である。第2ステップにおいて、
図11に示すように、制御部101は、第2電磁弁V2及び第4電磁弁V4を開き、その他の電磁弁を閉じる。また、制御部101は、第3流量計M3及び第1吸引ポンプ103を駆動し、第1送液ポンプP1、第2送液ポンプP2、第1流量計M1、第2流量計M2、圧力センサS及び第2吸引ポンプ104を停止させた状態にする。
【0069】
これにより、
図7に示すように、酸性溶液貯留タンク107から陰電荷膜102に硫酸溶液が供給される。これにより、陰電荷膜102の酸洗浄が行われ、陰電荷膜102に捕捉された陽イオンが、陰電荷膜2からはがされて硫酸溶液とともに下流側に流れる。酸洗浄された後の液体は、第6配管113aから外部に排出される。このとき、排出される液体の流量が第3流量計M3により測定され、測定された流量に関する情報が制御部101に送信される。制御部101は、取得した流量に関する情報に基づき第1吸引ポンプ103による吸引量を制御することができる。
【0070】
制御部101は、第2ステップにおいて、供給された硫酸溶液を全て外部に排出させた後、第2ステップを終了し、第3ステップに移行する。
【0071】
図8は、
図5の濃縮装置100により実行される陰電荷膜法の処理の第3ステップを説明するための概略図である。第3ステップにおいて、
図11に示すように、制御部101は、第3電磁弁V3を開き、その他の電磁弁を閉じる。また、制御部101は、第1送液ポンプP1、第2送液ポンプP2、第1流量計M1から第3流量計M3、圧力センサS、第1吸引ポンプ103及び第2吸引ポンプ104を停止させた状態にする。
【0072】
これにより、
図8に示すように、酸性溶液貯留タンク107から陰電荷膜102に水酸化ナトリウム水溶液が供給される。水酸化ナトリウム水溶液は、陰電荷膜102の膜面に流れる。濃縮装置100は、必要に応じて、このときに配管内の空気抜きをするための機構を別途備えていてもよい。水酸化ナトリウム水溶液は、陰電荷膜102上で数mmの厚さとなる量が、供給されることが好ましい。
【0073】
制御部101は、陰電荷膜102に水酸化ナトリウム水溶液を供給すると、第3ステップを終了し、第4ステップに移行する。
【0074】
図9は、
図5の濃縮装置100により実行される陰電荷膜法の処理の第4ステップを説明するための概略図である。第4ステップにおいて、
図11に示すように、制御部101は、第6電磁弁V6を開き、その他の電磁弁を閉じる。また、制御部101は、第2吸引ポンプ104を駆動し、第1送液ポンプP1、第2送液ポンプP2、第1流量計M1から第3流量計M3、圧力センサS及び第1吸引ポンプ103を停止させた状態にする。
【0075】
これにより、濃縮液回収容器110の内部の空間から気体が外部に排出され、濃縮液回収容器110の内部が陰圧となる。
【0076】
制御部101は、例えば、第4ステップを開始してから予め定められた所定時間が経過した後、第4ステップを終了し、第5ステップに移行する。
【0077】
図10は、
図5の濃縮装置100により実行される陰電荷膜法の処理の第5ステップを説明するための概略図である。第5ステップにおいて、
図11に示すように、制御部101は、第5電磁弁V5を開き、その他の電磁弁を閉じる。また、制御部101は、第1送液ポンプP1、第2送液ポンプP2、第1流量計M1から第3流量計M3、圧力センサS、第1吸引ポンプ103及び第2吸引ポンプ104を停止させた状態にする。
【0078】
第4ステップにより、濃縮液回収容器110の内部が陰圧となっているため、第5電磁弁V5が開かれることにより、第3ステップで陰電荷膜102に供給された水酸化ナトリウム水溶液が、陰電荷膜102に捕捉されたウイルスとともに、濃縮液回収容器110に引き込まれ、ウイルスの濃縮液が適切に回収容器に回収される。このようにして、陰電荷膜法による処理が実行され、試料水中のウイルスを濃縮した濃縮液を、濃縮液回収容器10に精製することができる。
【0079】
このように、本実施形態に係る濃縮装置100は、制御部101により、第1電磁弁V1から第6電磁弁V6の開閉が制御されて、陰電荷膜法による処理が実行される。つまり、濃縮装置100において、陰電荷膜法による処理が自動化されている。そのため、陰電荷膜法による処理を行うに際し、作業員による労務負担を軽減することができる。例えば、濃縮装置100では、制御部101が電磁弁や各種ポンプを制御することによって、陰電荷膜法による処理が実行されるため、作業員が目視で確認したり、手動で溶液の流路を操作したりする必要がなくなる。これにより、濃縮装置100によれば、陰電荷膜法による処理の利便性が高まる。また、自動化により、作業員が作業を行ったときに発生し得る人為的なミスを減らすことができるとともに、細菌やウイルスなどの微生物の回収効率を一定の水準に安定化させることができる。
【0080】
また、本実施形態に係る濃縮装置100は、一体化した1つの装置として構成されているため、陰電荷膜法による処理を行うことが必要な場所に運搬することができる。つまり、濃縮装置100そのものが、可搬化されている。そのため、濃縮装置100を運搬することで、様々な水処理プラントの現場で、試料水を採取して陰電荷膜法による処理を行うことができる。これにより、例えば、緊急時、非常時又は一時的に処理を行いたいという要求がある場合等、多様な目的に応じて、必要とされる場所に濃縮装置100を運搬し、陰電荷膜法による処理を実行することができる。また、陰電荷膜法による処理を行う設備が整っていない環境下であっても、濃縮装置100を搬送して、陰電荷膜法による処理を行うことができる。このようにして、濃縮装置100によれば、陰電荷膜法による処理の利便性が高まる。特に、筐体120に持ち手がついていたり、車輪がついていたりする場合には、運搬が容易である。
【0081】
上記実施形態では、濃縮装置100が細菌やウイルスなどを含む微生物の濃縮液を自動制御で精製する場合の例について説明したが、濃縮装置100は、液中で負電荷に帯電して浮遊する微粒子やコロイド分散系に対しても、同様に適用可能である。
【0082】
上述した濃縮装置100は、多様な分野及び用途に用いることができる。例えば、上述した濃縮装置100は、浄水場、下水処理場、水再生施設又は海水淡水化施設等の水処理インフラの水質管理や処理性能を把握するために用いることができる。また、上述した濃縮装置100は、例えば、河川、海洋、親水域、プール又は水浴場等の水域における環境の動態調査を行うことができる。また、上述した濃縮装置100は、例えば、水域や環境インフラを網羅する都市の微生物感染リスクを把握するための水質検査に用いることができる。また、上述した濃縮装置100は、飲料用又は加工食品の製造に使用される液体の質的リスク、安全把握又は品質管理を目的として、リスクを定量化したり、安全と判定できる閾値との比較検証を行ったりするために用いることができる。また、上述した濃縮装置100は、工業用水、灌漑・農業用水などの水質検査に用いることができる。また、上述した濃縮装置100は、例えば、ミスト散布、加湿装置又は打ち水等の温湿度管理に用いられる液体の質的リスク、安全把握又は品質管理を行うために用いることができる。また、上述した濃縮装置100は、緊急時又は災害時用の水等、常設水質調査設備の使用が制限されている水に対して用いることができる。また、上述した濃縮装置100は、例えば、キャンピングカー、大型バス、船舶、潜水艦、航空機又は宇宙ステーション等の、居住施設が併設された乗り物又は交通機関において使用される水の品質検査に用いることができる。また、上述した濃縮装置100は、医薬品製造又は人工透析療法等の医療に関連する水の品質管理検査に用いることができる。
【0083】
上述した濃縮装置100は、試料水供給部106から供給される試料水の流量と、排出口114から排出される排水の流量とを測定し、これらの流量を比較することにより、例えば濃縮装置100における流体漏洩等の不具合を検出する機能をさらに有していてもよい。
【0084】
上述した濃縮装置100は、タイマー等により自動的に採水を開始及び停止する機構を有していてもよい。また、上述した濃縮装置100は、遠隔操作により採水を開始及び停止する機構を有していてもよい。このように、タイマーや遠隔操作の機能を有する場合、濃縮装置100を駆動させる現場に作業員を立ち会わせることなく、陰電荷膜法による処理を実行させることができる。
【0085】
本開示は、上述した実施形態で特定された構成に限定されず、特許請求の範囲に記載した開示の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。例えば、各構成部、各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再構成可能であり、複数の構成部またはステップなどを1つに組み合わせたり、あるいは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 設備
2、102 陰電荷膜
3 アスピレータ
4 吸引ビン
5、11、11a、11b、114 配管
5a、111a 第1配管
5b、111b 第2配管
5c、111c 第3配管
6 試料水供給口
7、107 酸性溶液貯留タンク
8、108 アルカリ性溶液貯留タンク
10、110 濃縮液回収容器
100 濃縮装置
101 制御部
103 第1吸引ポンプ
104 第2吸引ポンプ
105 混合溶液貯留タンク
106 試料水供給部
109 加圧タンク
111 上流側配管
112 混合配管
112a 第4配管
112b 第5配管
113 下流側配管
113a 第6配管
113b 第7配管
114 排出口
120 筐体
M1 第1流量計
M2 第2流量計
M3 第3流量計
P1 第1送液ポンプ
P2 第2送液ポンプ
S 圧力センサ
V1 第1電磁弁
V2 第2電磁弁
V3 第3電磁弁
V4 第4電磁弁
V5 第5電磁弁
V6 第6電磁弁