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特許7272562珪藻土入り造形用材料及び珪藻土製品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】珪藻土入り造形用材料及び珪藻土製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/30 20060101AFI20230502BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20230502BHJP
   B29C 64/165 20170101ALI20230502BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20230502BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20230502BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230502BHJP
【FI】
B28B1/30
B29C64/314
B29C64/165
B33Y80/00
B33Y70/00
B33Y10/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019076919
(22)【出願日】2019-04-15
(65)【公開番号】P2020175510
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】393018369
【氏名又は名称】丸越工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591040236
【氏名又は名称】石川県
(73)【特許権者】
【識別番号】593044160
【氏名又は名称】日本ダイヤコム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105809
【弁理士】
【氏名又は名称】木森 有平
(72)【発明者】
【氏名】木地 一夫
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 直哉
(72)【発明者】
【氏名】山本 俊樹
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-291075(JP,A)
【文献】特開2009-023864(JP,A)
【文献】特開2016-188152(JP,A)
【文献】特開平11-343166(JP,A)
【文献】特開2006-027996(JP,A)
【文献】特開2016-050126(JP,A)
【文献】国際公開第2019/026841(WO,A1)
【文献】特開2018-130835(JP,A)
【文献】特開2018-126974(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121217(WO,A1)
【文献】特開2015-100999(JP,A)
【文献】特開2007-246306(JP,A)
【文献】特開2010-110802(JP,A)
【文献】佐々木直哉,3Dプリンタによる能登珪藻土製品の製造技術の開発,いしかわ工試技術ニュース,2018年07月01日,Vol.43 No.2,P.5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/30
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
C04B 103/00-111/94
C04B 38/00-38/10
B29C 64/314,64/165
B33Y 10/00、70/00、80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪藻土、骨材、樹脂製接着剤、及び、流動性改善剤をこれらの順に多く含む混合割合とするとともに、31~43vol%の珪藻土に対して、骨材として石膏又はシリカ、樹脂製接着剤としてポリビニルアルコール(PVA)、又は、ポリビニルピロリドン(PVP)、及び流動性改善剤としてフュームドシリカ(FS)の割合を調整することを特徴とする粉末固着積層法に使用される珪藻土入り造形用材料。
【請求項2】
31~43vol%の珪藻土に対して、骨材を24~36vol%、樹脂製接着剤を24~32vol%、流動性改善剤を4~9vol%の割合で調整することを特徴とする請求項1記載の粉末固着積層法に使用される珪藻土入り造形用材料。
【請求項3】
前記珪藻土が焼成珪藻土の粉末であり、前記骨材が石膏系材料の粉末であり、前記流動性改善剤がフュームドシリカ(FS)であり、FSはCarrの流動性指数が前記焼成珪藻土の粉末及び前記石膏系材料の粉末の流動性指数よりも高いことを特徴とする請求項1記載の粉末固着積層法に使用される珪藻土入りの造形用材料。
【請求項4】
前記樹脂製接着剤であるポリビニルアルコール(PVA)、又は、ポリビニルピロリドン(PVP)のメジアン径が20±10~100±10μmであることを特徴とする請求項1記載の粉末固着積層法に使用される珪藻土入りの造形用材料。
【請求項5】
前記珪藻土が焼成珪藻土の粉末であり、前記骨材が石膏系材料の粉末であり、前記流動性改善剤がフュームドシリカ(FS)であり、前記樹脂製接着剤がポリビニルアルコール(PVA)、又は、ポリビニルピロリドン(PVP)であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の粉末固着積層法に使用される珪藻土入り造形用材料。
【請求項6】
珪藻土、骨材、樹脂製接着剤、及び、流動性改善剤をこれらの順に多く含む混合割合とする粉末固着式積層法で使用する珪藻土入り造形用材料を用いて、31~43vol%の珪藻土に対して、骨材として石膏又はシリカ、樹脂製接着剤としてポリビニルアルコール(PVA)、又は、ポリビニルピロリドン(PVP)、及び、流動性改善剤としてフュームドシリカ(FS)の割合を調整して、珪藻土製品に表面硬化剤として8.5~18.5mass%のウレタンを含有させたことを特徴とする珪藻土製品。
【請求項7】
珪藻土を31~43vol%以下に対して、骨材、樹脂製接着剤、及び、流動性改善剤の割合を調整することを特徴とする請求項6記載の珪藻土製品。
【請求項8】
前記珪藻土が焼成珪藻土の粉末であり、前記骨材が石膏系材料の粉末であり、前記流動性改善剤がフュームドシリカ(FS)であり、FSはCarrの流動性指数が前記焼成珪藻土の粉末及び前記石膏系材料の粉末の流動性指数よりも高いことを特徴とする請求項6ないし7のいずれか1項記載の珪藻土製品。
【請求項9】
珪藻土、骨材、樹脂製接着剤、及び、流動性改善剤をこれらの順に多く含む混合割合とする珪藻土入り造形用材料を用いて、31~43vol%の珪藻土に対して、骨材として石膏又はシリカ、樹脂製接着剤としてポリビニルアルコール(PVA)、又は、ポリビニルピロリドン(PVP)、及び、流動性改善剤としてフュームドシリカ(FS)の割合を調整して、粉末固着式積層法で珪藻土製品を製造してから、その珪藻土製品に表面硬化剤としてウレタンを含有させることを特徴とする珪藻土製品の製造方法。
【請求項10】
前記珪藻土製品に、前記ウレタンをハケ塗りで塗布するか、又は、気泡が出なくなるまでウレタンに浸漬させることを特徴とする請求項9記載の珪藻土製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、珪藻土を主原料とした混合粉体を用いた珪藻土入り造形用材料及び珪藻土製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
藻類の一種である珪藻の殻の化石よりなる堆積物(堆積岩)である珪藻土は、その特長である耐熱性、断熱性、吸水性、吸放湿性を活かして様々な製品の原材料として利用されている。
例えば、コンロや七輪の耐熱性や断熱性を活かしたピザ窯や、左官技術を応用したバスマット、切出し珪藻土を活用した珪藻土ブロックシリーズなどが開発されている。しかし、一方で、従来技術である切出し成形、プレス成形、シリコン型成形等では、珪藻土を用いて自由で複雑なデザインの製品開発は一般的には難しいと考えられている。
【0003】
特許文献1には、「(課題)融点が1000℃を超えるような高融点金属を注湯可能な粉末固着積層法における造形用材料、及び、機能剤を提供する。(解決手段)70重量%以上の鋳物砂と、当該鋳物砂を相互に結着させるバインダーの粉状前駆体であるところのセメント又は耐熱性を有する樹脂とが混合されてなる粉末固着積層法における造形用材料を製造する。そして、この種の造形用材料とともに、前記粉状前駆体をバインダーに変質させる機能剤を用いる。」ことが開示されている。
【0004】
特許文献2には、「(請求項1) 半水石膏、無機粉体、水溶性ポリマー、石膏硬化促進剤を含む鋳造用立体造形物を構成するための混合粉体であって、 前記半水石膏が18~75重量%、前記無機粉体が13~70重量%、前記水溶性ポリマーが1~10重量%、前記石膏硬化促進剤が5~30重量%であることを特徴とする鋳造用立体造形物を構成するための混合粉体。(請求項2) 前記無機粉体は、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシアの少なくとも1つを含む金属酸化物、無機窒化物、無機炭化物、リン酸塩のうちの少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1の鋳造用立体造形物を構成するための混合粉体。(請求項3) 前記石膏硬化促進剤は、二水石膏、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ土類金属硫酸塩、アルカリ金属塩化物塩、アルカリ土類金属塩化物塩、無機酸のアンモニウム塩、ミョウバン類から選ばれた1種または2種以上から成るものであることを特徴とする請求項1または2の鋳造用立体造形物を構成するための混合粉体。
【0005】
特許文献3には、「(請求項1) 珪藻土を主成分とし、かつ、これに混入されたバインダーを含み、所定形状に造形及び焼成され、全体的に珪藻殻が所有する多数の微細気孔を具備させたことを特徴とする珪藻土焼成製品。(請求項2) バインダーとして、木節粘土と無水珪酸と適量の水、又は、流紋系天然ガラス粉をそれらに加えて使用したことを特徴とする請求項1記載の珪藻土焼成製品。(請求項3) 焼成品が釉薬掛け処理されていることを特徴とする請求項1又は2記載の珪藻土焼成製品。(請求項4) 珪藻土にバインダーと水を混ぜて練り、この混練物を所定形状に造形した後、底部に造形物の収縮バランスを調整するための布を敷設して乾燥させた後、焼成して製品とすることを特徴とする珪藻土焼成製品の製造方法。」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4722988号公報
【文献】特開2015-100999号公報
【文献】特許第2927415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、3Dプリンタにより種々の造形物が生み出されているが、その種類には、粉末焼結法、インクジェット粉末積層法等があり、後者には石膏を主原料とした造形用材料が使用されている。
そこで、石膏などの粉状の造形用材料に、珪藻土を混合することができれば、これまでにない自由で複雑な形状の開発が期待できる。しかし、珪藻土は、吸水性が高くインクジェット粉末積層法の3Dプリンタでは固着性に課題を有するために、単に石膏系材料に珪藻土を加えても、珪藻土の吸放湿性・吸水性等を活かした自由で複雑な形状の珪藻土製品を製造することはできない。
【0008】
ここで、特許文献3は、珪藻土に対してセメント材料を用いて固化するものであるが、セメント材料は、多くの水を用いる必要があることや、多孔質の孔を塞ぐおそれがあり、好ましくない。本願発明者らの研究によれば、セメント材料は固化するのに工業用の石膏材料より多くの水を必要とするため、材料として吸水性の高い珪藻土を使用した場合、インクジェット粉末積層法では固着性に課題を有し好ましくない。
特許文献1と2は、融点が1000℃を超えるような高融点金属を注湯可能な粉末固着積層法における造形用材料であるが、珪藻土は800~1000℃程度で焼成すると、その多孔質性の特長である吸放湿性が失われることが知られており、好ましくない。
【0009】
そこで、本発明の目的は、3Dプリンタなどの造形用材料において、珪藻土を主成分として含み、自由な造形ができる珪藻土入り造形用材料及び珪藻土製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の珪藻土入り造形用材料は、珪藻土、骨材、樹脂製接着剤、及び、流動性改善剤をこれらの順に多く含む混合割合とするとともに、31~43vol%の珪藻土に対して、骨材、樹脂製接着剤、及び、流動性改善剤の割合を調整することを特徴とする。珪藻土の配合割合を31~43vol%にすることで本発明の珪藻土入り造形用材料の中で一番配合割合が多くなり、多孔質の珪藻土の特長(吸放湿性、断熱性、吸水性など)を活かすことができる。
本発明によれば、3Dプリンタでの固着性に課題を有する吸水性の高い珪藻土を主原料としても、珪藻土に対する樹脂製接着剤等の割合を調整することで、多孔質の珪藻土の特長を有する造形物が製造できるようになる。
ここで、珪藻土31~43vol%以下に対して樹脂製接着剤等を24~32vol%の割合で調整することが好ましい。本願発明者等の実験によれば、焼成珪藻土の量を43vol%よりも多くすると、固着性が十分に確保することができなかった。しかし、樹脂製接着剤等を24vol%以上に調整することで、粉末との固着性が確保でき、吸放湿性や吸水性も十分な珪藻土製品を製造することができた。樹脂製接着剤が32vol%より多くなると、焼成珪藻土より配合割合が多くなり多孔質の珪藻土の特長に影響を及ぼすことと、骨材より配合割合が多くなりインクを塗布した際の粘性が上がり(べた付きが生じて)、粉末の積層性に影響を及ぼす可能性がある。
【0011】
また、本発明は、珪藻土、骨材、樹脂製接着剤、及び、流動性改善剤を混合した珪藻土入り造形用材料であって、珪藻土の割合の方が骨材よりも多い主原料とした珪藻土入り造形用材料を用いて、インクジェット粉末積層法で製造してから、その珪藻土製品に8.5~18.5mass%のウレタンを含有させたことを特徴とする珪藻土製品である。
本発明によれば、珪藻土を主原料としても(珪藻土の割合を骨材より多くしても)、多孔質の珪藻土の特長(吸放湿性、断熱性、吸水性など)を有する造形物が製造できるようになる。石膏3Dプリンタで造形試験を行った結果、問題なく造形でき、造形後粉の中から造形物を破損なく取り出すことができた。また、手に粉が付着しなくなる効果を有する。
【0012】
本発明としては、前記製造した珪藻土製品に8.5~18.5mass%のウレタンを含有させることを特徴とする。ウレタンは、造形物に対してハケ塗りと浸漬が可能である。
本発明によれば、ウレタンに浸漬させると、切り出し珪藻土と比較して、吸放湿量を同程度に維持して、かつ曲げ強度を約3倍と大幅に向上させることができた。これら珪藻土製品は、吸放湿性に優れ、曲げ強度も実用化できるものが製造できた。また、水に浸漬しても崩壊するようなことはなかった。
【0013】
本発明としては、前記珪藻土が焼成珪藻土の粉末であり、前記骨材が石膏系材料の粉末であり、前記流動性改善剤がフュームドシリカ(FS)あり、前記樹脂製接着剤がポリビニルアルコール(PVA)、又は、ポリビニルピロリドン(PVP)であることを特徴とする。そして、造形試験で良好な積層性と固着性を得た配合割合は、焼成珪藻土が38vol%、石膏材料が29vol%、流動性改善剤であるFSが9vol%、PVP、又は、PVAが24vol%となった。
【0014】
珪藻土は、能登産の焼成珪藻土を使用した。焼成珪藻土とは、様々な工業炉の断熱材として使用される珪藻土れんがを製造する際に排出される粉体である。具体的な工程は、珪藻土を押出し成形し600~800℃で焼成後、定形のレンガに削り出す際に排出される。珪藻土は、一般に天然の珪藻土のまま製品として使用される事は稀であり、衛生上からも所定の温度で焼成してから使用されることがほとんどである。
【0015】
骨材としては、半水石膏、二水石膏、無水石膏(可溶性無水石膏)、これらの混合物を用いることができる。半水石膏は、石膏を加熱し、脱水して得られる白色の粉末であり、水を加えると発熱・膨張して固まる性質を有する。また、骨材としてはシリカ(無水ケイ酸)等を使用することもできる。骨材の配合割合は、24~36vol%が好ましい。骨材が36vol%よりも多くなると、焼成珪藻土より配合割合が多くなり多孔質の珪藻土の特長(吸放湿性、断熱性、吸水性など)に影響を及ぼす可能性がある。また、骨材が24vol%より少なくなると、樹脂製接着剤の配合割合が多くなりインクを塗布した際の粘性が上がり(べた付く)積層性に影響を及ぼす可能性がある。
【0016】
樹脂製接着剤としては、PVA、PVPなどの水溶性高分子材料とする接着剤を使用した。これらPVA、PVPのメジアン径の上限は、100±10μm以下が好ましい。100±10μm以下のPVA、PVPを使用することで、インクに溶けやすくなり珪藻土の固着性に改善が見られた。また、樹脂製接着剤は粉砕して使用してもよい。粉砕後のメジアン径は20±10μm以上が好ましい。それ以下になると、樹脂製接着剤の吸湿性の影響が大きくなり乾粉の状態で取り扱うことが難しくなる。従って樹脂製接着剤のメジアン径は、20±10~100±10μmが好ましい。
【0017】
流動性改善剤としては、ステアリン酸マグネシウムやステアリン酸カルシウムよりも一次粒子の平均粒径が50nm以下のFSが好ましい。FSの中には親水性や疎水性のものがあるがどちらを使用してもよい。
ここで、前記珪藻土が焼成珪藻土の粉末であり、前記骨材が石膏系材料の粉末であり、前記流動性改善剤がフュームドシリカ(FS)であり、FSはCarrの流動性指数が前記焼成珪藻土の粉末及び前記石膏系材料の粉末の流動性指数よりも高いことを特徴とする。FSの添加量を増やすと、流動性指数が高くなるとともに噴流性指数も高くなり飛散しやすい状態となるので4~9vol%が好ましい。また、FSの流動性としては、焼成珪藻土の粉末や石膏系材料の粉末である骨材よりも流動性指数が高いことにより、FSの添加量を少なくして、珪藻土の流動性指数を3D石膏粉末と同程度の流動性指数にすることができる。なお、焼成珪藻土の粉末の流動性指数と石膏系材料の粉末の流動性指数は、同じ程度か、又は、石膏系材料の流動性指数の方が高いものが好ましい。
【0018】
そして、インクジェット式粉末積層法により珪藻土製品を製造した。珪藻土製品としては、正円形状と楕円形状の試作品(図2のA-1、A-2)を製造するとともに、ピン形状が5mm以上のものと穴径が2mm以上のものを(図2のB-1、B-2)、径の大きさを変えて製造した。ピン形状が5mm以上のものと穴径が2mm以上の製品は、径の大きさを変えて、その径をどこまで小さくできるかの試験品である。
本発明によれば、石膏3Dプリンタで造形試験を行った結果、上記製品のいずれも問題なく造形でき、造形後、粉の中から造形物を破損なく取り出すことができた。これら珪藻土製品(A-1、A-2、B-1、B-2)は、吸放湿性や吸水性に優れ、曲げ強度も実用化できるものが製造できた。また、水に浸漬しても崩壊するようなことはなかった。
【発明の効果】
【0019】
本発明の珪藻土入り造形用材料によれば、石膏系材料等の骨材よりも多く珪藻土を含ませても、多孔質の珪藻土の特長を活かした、吸放湿性、断熱性、吸水性などの特長を有する造形物が製造できるようになる。
また、本発明の珪藻土製品の製造方法によれば、上記珪藻土入り造形用材料により製造された珪藻土製品にウレタンを含有させると、切出し珪藻土と比較して、吸放湿量を同程度に維持して、曲げ強度として約3倍と大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】石膏3Dプリンタの造形方法と材料開発における課題を説明する図である。
図2】本発明の第1の実施形態である珪藻土製品の製造工程を示す図である。
図3】上記第1の実施形態の珪藻土入り造形用材料のメジアン径(頻度の累積が50%になる粒子径)を計測したグラフである。
図4】上記第1の実施形態の樹脂製材料のメジアン径を変えた場合の粒度を示すグラフである。
図5】実施例1-1で造形した試料のウレタン浸漬前後の電子顕微鏡写真である。
図6】3D石膏粉末と実施例1-1で造形した試料のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を適用した具体的な実施の形態について、以下、詳細に説明する。
【0022】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態では、石膏3Dプリンタに代表されるインクジェット粉末積層法で造形する装置に使用される珪藻土入り造形用材料の開発を行った。図1に示すようにこの方法は、粉末を0.1mmずつ積層しインクジェットのノズルからインクが吐出された部分が固まることにより造形していく方法である。従ってこの方法での粉末の材料開発における課題は、粉末の積層性と、粉末とインクとの固着性となる。本発明は、この3Dプリンタで造形可能な粉末の材料開発を行い、珪藻土製品を制作した。図2は、本発明の実施形態である珪藻土製品の製造工程を説明する図である。
【0023】
第1の実施の形態は、珪藻土、骨材、樹脂製接着剤、及び、流動性改善剤をこれらの順に多く含む混合割合とするとともに、メジアン径の異なる4種類の樹脂製接着剤の割合を調整して珪藻土入り造形用材料(開発材料)を作製した。
珪藻土として能登産の焼成珪藻土、骨材としてサンエス石膏株式会社製の石膏系材料、流動性改善剤として株式会社トクヤマ製のFSを使用した。また樹脂製接着剤は、メジアン径の違うBASFジャパン株式会社製のPVP1とPVP2、株式会社日本触媒製のPVP3、デンカ株式会社製のPVAなどの水溶性高分子材料を使用した。
【0024】
表1に各実施例の配合割合と固着性の結果を示す。
【表1】
【0025】
表1に示す配合割合になるよう各材料を秤量し、混合機で約20kgの配合粉末を試作した。この配合粉末を石膏3Dプリンタ(3Dシステムズ社・Projet660Pro)に投入し固着性を確認するための造形試験を行った。
【0026】
第1の実施の形態で使用した焼成珪藻土と石膏系材料、比較として乾燥珪藻土と石膏3Dプリンタ用純正石膏粉末(3D石膏粉末)のメジアン系(頻度の累積が50%になる粒子径)を図3に示す。石膏3Dプリンタの積層幅が100μmであるため、本発明で使用する珪藻土入り造形用材料はメジアン径で100±10μm以下のものが好ましい。
第1の実施の形態で用いた樹脂製接着剤のメジアン径を図4に示す。表1に示すように実施例1-1と1-4は、固着性が良好であり粉の中から破損なく造形物を取り出すことができた。しかし実施例1-2と1-3においては、固着性が悪く、粉の中から造形物を取り出すことができないほど脆いものであった。実施例1-2では、PVPの量が22vol%と少なかったことが原因としてあげられる。実施例1-3では、PVPの量が24vol%であるが、メジアン径が100±10μm以上であったことが原因としてあげられる。
また、実施例1-5においては、メジアン径が82μmであっても、PVAの量が20vol%と少ないと、固着性が悪く粉の中から造形物を取り出すことができなかった。従って、前記樹脂製接着剤がメジアン径で100±10μm以下であり、24vol%以上含むことが好ましい(実施例1-1と実施例1-4)。
【0027】
これらの樹脂製接着剤は、市販品をそのまま使用しているが、乾式の粉砕機を使用してメジアン径で20±10μm程度まで粉砕したものを使用してもよい。メジアン径で20±10μm以下にすると樹脂製接着剤の吸湿性の影響が大きくなり乾粉の状態で取り扱うことが難しくなる。
【0028】
実施例1-1、1-4の珪藻土入り造形用材料を用いて、所定形状の珪藻土製品を製造した。珪藻土製品としては、正円形状と楕円形状の試作品(図2のA-1とA-2)と、ピン形状の直径が1mm以上のものと、穴径が1mm以上のものを、径の大きさを変えて製造した(図2のB-1とB-2)。その結果、ピン形状であれば直径5mm以上、穴径であれば2mm以上のものが製造できることが明らかになった。ウレタンに浸漬させることで、水に浸漬しても崩壊するようなことはなかった。また、手に珪藻土の粉やFSの粉が付着するようなことはなくなった。
【0029】
(第2の実施形態)
第2の実施の形態は、珪藻土として焼成珪藻土、流動性改善剤としてFS、骨材として3D石膏粉末を使用し、表2に示す配合割合で混合した粉末材料の流動性指数と噴流性指数を粉体特性評価装置(ホソカワミクロン株式会社・パウダテスタPT-X)で求めた。流動性指数は、粉体の流動性(=流れ性)、噴流性指数は、粉体の噴流性(=排出性)に関して総合的に把握しようとするもので、Carr(カー).R.Lが実験研究した方法に準拠する。
【0030】
表2に各実施例における珪藻土に対する流動性改善剤の割合と流動性指数、噴流性指数を示す。
【表2】
【0031】
表2に示す実施例2-2、2-3、2-4、2-5では、流動性指数は流動性改善剤の配合量が増えるとともに高くなる傾向を示している。珪藻土に対する流動性改善剤の割合が8.8%(実施例2-3)で流動性指数が40.5となり、メーカ純正の3D石膏粉末(実施例2-1)と同程度(41.0)になる。実施例1-1では、珪藻土に対する流動性改善剤の割合が23.7%で流動性指数が52.0となり、3D石膏粉末と比較すると流動性指数が高く流動性改善剤の配合割合が過剰な状態になっている。従って実施例1-1の石膏系材料と樹脂製接着剤の配合割合を固定した状態で、珪藻土に対する流動性改善剤の割合が8.8%となる4vol%まで流動性改善剤を減らすことができ、その分珪藻土を増やすことができる(想定例1)。今回の実験では、珪藻土を43vol%まで増やすことができたが(想定例1)、流動性改善剤で流動性指数の高いものを使用したり、メジアン径の小さな樹脂製接着剤等を使用したりすることで、更に珪藻土の量を増やすことも期待できる。
また、噴流性指数も実施例2-2、2-3、2-4、2-5では、流動性改善剤の配合量が増えるとともに高くなる傾向を示している。実施例1-1では噴流性指数が74.0になり、噴流性指数から分類される噴流性の程度は、「かなり強い(60~79)」に分類される。これ以上流動性改善剤が増えると噴流性の程度が、「非常に強い(80~100)」に分類され飛散しやすい状態になるため、流動性改善剤の配合割合は9vol%以下が好ましい。
【0032】
(第3の実施形態)
第3の実施形態は、焼成珪藻土60mass%と3D石膏粉末40mass%の配合試料に対して、流動性改善剤としてステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、FSをそれぞれ1~5mass%添加した粉末材料の流動性指数を粉体特性評価装置で求めた。
【0033】
表3に各実施例における流動性指数を示す。
【表3】
【0034】
表3に示すように流動性指数は、実施例3-1の配合試料に対しステアリン酸カルシウムやステアリン酸マグネシウムを1mass%添加しても変化はないが、FSを1mass%添加すると高くなっている。さらにFSの添加量を増やすと流動性指数が高くなる傾向を示している。この結果から流動性改善に最も効果があるのはFSである。
【0035】
表4に各珪藻土入り造形用材料の配合割合の適正範囲となる想定例を示す。
【表4】
【0036】
表4に珪藻土、骨材、樹脂製接着剤、及び、流動性改善剤をこれらの順に多く含む配合割合とした適正範囲の想定例を示す。それぞれ材料ごとの適正範囲は、珪藻土は31~43vol%、骨材は24~36vol%、樹脂製接着剤は24~32vol%、流動性改善剤は4~9vol%になる。珪藻土の配合割合が一番多い理由は、多孔質の珪藻土の特長を活かすためである。また骨材が次に多い理由は、樹脂製接着剤の配合割合が骨材より多くなるとインクを塗布した際の粘性が上がり(べた付きが生じて)、粉末の積層性に影響を及ぼすためである。樹脂製接着剤の下限は、良好な固着性を得るために必要であり、流動性改善剤の上限と下限は、表2に示す実施例を根拠にしている。
【0037】
固着性の良好であった実施例1-1と実施例1-4の造形物は、粉の中から取り出した後、エアーで表面の粉を取り除き、和信化学工業株式会社製のウレタン系硬化剤(ウレタン)に3分間ほど含浸させ、常温で乾燥した。また、実施例1-4の造形物はウレタンをハケ塗りし、常温で乾燥した。その後以下に示す物性評価を行った。
造形物の曲げ強度は、オートグラフ(株式会社島津製作所・AG-5kNXplus)を使用し、幅8mm、厚さ6mm、長さ70mmの試験片をスパン60mm試験速度0.5mm/minの条件で3点曲げ試験を行った。試験はn=3で行い、その平均値を求めた。
造形物の熱伝導率は、50mm角で厚さ6mmの試験片を定常法熱伝導率測定装置(アルバック理工株式会社・GH-1)で測定し、かさ比重は同じ試験片の重量と体積から算出した。造形物の吸放湿性は、曲げ試験後の試験片を相対湿度84.7%と53.5%に調整した容器の中に静置して24時間周期で重量を測定した。相対湿度は、容器の底に塩飽和溶液として塩化カリウムと硝酸マグネシウムを入れ23℃の恒温槽に静置することで調整した。試料の養生は、相対湿度53.5%で重量が恒量に達するまで行った。
造形物の吸水率は、曲げ試験後の試験片を100℃で乾燥後、蒸留水中に浸漬させ24時間後の重量変化から算出した。
【0038】
後処理として硬化剤の含浸が必須であるが、水やアルコール系の硬化剤では造形物が溶けてしまい、唯一ウレタンが造形物を溶かさず硬化させることができた。
【0039】
表5に実施例1-4の造形物に対し、ウレタンをハケ塗りしたものとウレタンに浸漬させたものとの物性評価をまとめた結果を示す。
【表5】
【0040】
ウレタンをハケ塗りすると造形物に対して最小で8.5mass%のウレタンを塗ることができる。また、ウレタンに浸漬させると、造形物に対して最大で18.5mass%のウレタンを含浸させることができる。ウレタンハケ塗りは、最小限のウレタンを含有させることができ、塗布後表面が硬化し粉が手に付かなくなる。一方、ウレタン浸漬は、気泡が出なくなるまで3分間ほど浸漬させるため、最大限のウレタンを含有させることができる。表4に示すようにウレタンに浸漬させるとハケ塗りのものより曲げ強度は約1.5倍に向上する。しかし吸放湿量と熱伝導率に関しては、珪藻土の特長である吸放湿性と断熱性に影響を及ぼすほどの大きな差は認められなかった。従って造形物に対して8.5~18.5mass%のウレタンを含有させることが可能である。
【0041】
図5に実施例1-1で造形した試料のウレタン浸漬前(a)後(c)のSEM像とウレタン浸漬前(b)後(d)のCOMPO像を示す。ウレタン浸漬前後のSEM像では微細組織に違いが確認されなかった。一方、COMPO像ではウレタンに浸漬後にコントラストの暗い部分が増加し、粒子同士の小さな空隙を埋めるようにウレタンが含浸していることがわかる。しかし大きさ100μm前後の空隙が確認されたことからウレタンに浸漬してもすべての空隙を埋めていないので吸放湿性に大きな影響を及ぼさなかった。
【0042】
表6に切出し珪藻土とウレタン浸漬後の造形物の物性評価をまとめた結果を示す。
【表6】
【0043】
切り出し珪藻土とは、珪藻土を大きいブロック塊のまま切出したものであり、珪藻土を練って型に入れて作る練物に比べて、天然珪藻土の無数のミクロの空胞がそのまま残っており、保温性・蓄熱性が高く熱効率が良く、しかも丈夫で、切出し七輪(七輪の形にノミで成形し窯で一昼夜焼いて造る。)などに使用される。
【0044】
ウレタン浸漬後の造形物は、切出し珪藻土と比べて曲げ強度は約3倍高く、吸放湿量は同程度になることが明らかとなった。熱伝導率は石膏材料を配合しているため切出し珪藻土より高く、耐熱性はPVPを配合しているため200℃以上で黒褐色に変色することが確認された。吸水率は切出し珪藻土の12%程度であるが吸水性を有していることが明らかになった。切出し珪藻土より優れている点は、ウレタンに浸漬することで表面が硬化し、粉が手に着かないことと、水に浸漬しても崩壊しないことが挙げられる。
以上のように、骨材である石膏系材料よりも多く珪藻土を含ませても、多孔質の珪藻土の特長を活かした、吸放湿性、断熱性、吸水性などの特徴を有する造形物が製造できるようになる。
【0045】
一般的に石膏3Dプリンタで使用される石膏粉末は半水石膏(CaSO・0.5HO)であり、造形後インクと反応して二水石膏に変化する。しかし、図6に示すように実施例1-1で造形した試料は、3D石膏粉末で造形した試料より二水石膏の最強線を示す2θ=20.7°のピーク強度が低く、そのほとんどが半水石膏のままである。従って造形後の固着性に石膏系材料は、ほとんど寄与していないと考えられるため、骨材としては石膏系材料以外にもシリカ等を使用することができる。
【0046】
以上、本実施の形態では、主に3Dプリンタで用いる造形用材料を例に説明したが、本発明は、石膏系材料を用いる造形用材料に広く適用可能なものである。
【符号の説明】
【0047】
A-1、A-2 珪藻土製品、
B-1、B-2 珪藻土製品

図1
図2
図3
図4
図5
図6