(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】参照電極として導電性ダイヤモンド電極を有する三極電極、装置及び、電気化学的測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/30 20060101AFI20230502BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
G01N27/30 311Z
G01N27/416 311L
G01N27/30 B
G01N27/416 316Z
G01N27/416 311G
G01N27/416 353Z
(21)【出願番号】P 2020554974
(86)(22)【出願日】2019-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2019043000
(87)【国際公開番号】W WO2020091033
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2018206319
(32)【優先日】2018-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「機能性ダイヤモンド電極の創製および電気化学応用」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栄長 泰明
(72)【発明者】
【氏名】夏井 敬介
(72)【発明者】
【氏名】児玉 伴子
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-529981(JP,A)
【文献】国際公開第2014/077017(WO,A1)
【文献】特開2001-147211(JP,A)
【文献】特開2015-039544(JP,A)
【文献】特開2007-139725(JP,A)
【文献】特開平11-083799(JP,A)
【文献】特開2006-078375(JP,A)
【文献】特開昭64-010165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用電極がホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極であり、参照電極がホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極であり、対電極がホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極である、作用電極、参照電極及び対電極からなる三極電極
を有し、オゾン水濃度、尿酸濃度、溶液pH、又は塩素濃度のいずれかを測定することができる、電気化学的測定装置。
【請求項2】
作用電極がホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極であり、参照電極がホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極であり、対電極がホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極である、作用電極、参照電極及び対電極からなる三極電極を有し、
作用電極、参照電極、及び対電極が試料溶液であるオゾン水に接触可能であり、
作用電極と対電極との間に電圧を印加する電圧印加部を有し、
作用電極と対電極との間に電圧を印加したときの電流値を測定する電流値測定部を有する、オゾン水濃度測定装置。
【請求項3】
請求項
2に記載のオゾン水濃度測定装置、及びオゾン発生装置を備えた、オゾン水生成装置。
【請求項4】
作用電極がホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極であり、参照電極がホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極であり、対電極がホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極である、作用電極、参照電極及び対電極からなる三極電極を有し、
作用電極、参照電極、及び対電極が試料溶液である尿酸溶液に接触可能であり、
作用電極と対電極との間に電圧を印加する電圧印加部を有し、
作用電極と対電極との間に電圧を印加したときの電流値を測定する電流値測定部を有する、尿酸濃度測定装置。
【請求項5】
作用電極がホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極であり、参照電極がホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極であり、対電極がホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極である、作用電極、参照電極及び対電極からなる三極電極を有し、
作用電極、参照電極、及び対電極が試料溶液に接触可能であり、
作用電極と対電極との間に電流を流す電流印加部を有し、
作用電極と対電極との間の電流値を一定としたときの電位を測定する電位測定部を有する、pH測定装置。
【請求項6】
作用電極がホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極であり、参照電極がホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極であり、対電極がホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極である、作用電極、参照電極及び対電極からなる三極電極を有し、
作用電極、参照電極、及び対電極が試料溶液である塩素溶液に接触可能であり、
作用電極と対電極との間に電圧を印加する電圧印加部を有し、
作用電極と対電極との間に電圧を印加したときの電流値を測定する電流値測定部を有する、塩素濃度測定装置。
【請求項7】
作用電極がホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極であり、参照電極がホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極であり、対電極がホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極である、作用電極、参照電極及び対電極からなる三極電極を有し、オゾン水濃度、尿酸濃度、溶液pH、及び塩素濃度からなる群より選択される2以上の測定対象を、前記三極電極により測定することができる、電気化学的測定装置。
【請求項8】
オゾン水濃度、尿酸濃度、溶液pH、及び塩素濃度からなる群より選択される測定対象に応じて、測定アルゴリズムを変更する機能を有する、請求項
7に記載の装置。
【請求項9】
請求項
1~
8のいずれか1項に記載の装置を制御するための、プログラム。
【請求項10】
請求項
9に記載のプログラムを記録した、情報記録媒体。
【請求項11】
請求項
1~
3、
7及び
8のいずれか1項に記載の装置を使用する、オゾン水濃度測定方法
であって、
試料溶液であるオゾン水に、少なくとも作用電極及び対電極を接触させ、前記作用電極と前記対電極との間に電圧を印加し、当該電圧下における電流値を測定することにより、印加した電圧及び測定した電流値から、限界電流-電圧曲線を測定し、当該限界電流-電圧曲線において所定の電圧に対応する限界電流値から、予め作成済みの限界電流値とオゾン濃度との関係を示した検量線に基づいて、オゾン水のオゾン濃度を算出する、前記方法。
【請求項12】
請求項
1、
4、
7及び
8のいずれか1項に記載の装置を使用する、尿酸濃度測定方法
であって、
試料溶液である尿酸溶液に、少なくとも作用電極及び対電極を接触させ、前記作用電極と前記対電極との間に電圧を印加し、当該電圧下における電流値を測定することにより、印加した電圧及び測定した電流値から、限界電流-電圧曲線を測定し、当該限界電流-電圧曲線において所定の電圧に対応する限界電流値から、予め作成済みの限界電流値と尿酸濃度との関係を示した検量線に基づいて、溶液の尿酸濃度を算出する、前記方法。
【請求項13】
請求項
1、
5、
7及び
8のいずれか1項に記載の装置を使用する、pH測定方法
であって、
試料溶液に作用電極と対電極及び参照電極を接触させ、前記作用電極と前記対電極との間に一定値の電流を流し、当該電流下における電位を測定することにより、印加した電流及び測定した電位値から、限界電流-電圧曲線を測定し、当該限界電流-電圧曲線において所定の電流に対応する限界電位値から、予め作成済みの限界電位値と溶液pHとの関係を示した検量線に基づいて、溶液のpHを測定する、前記方法。
【請求項14】
請求項
6~
8のいずれか1項に記載の装置を使用する、塩素濃度測定方法
であって、
試料溶液である塩素溶液に、少なくとも作用電極及び対電極を接触させ、前記作用電極と前記対電極との間に電圧を印加し、当該電圧下における電流値を測定することにより、印加した電圧及び測定した電流値から、限界電流-電圧曲線を測定し、当該限界電流-電圧曲線において所定の電圧に対応する限界電流値から、予め作成済みの限界電流値と塩素濃度との関係を示した検量線に基づいて、溶液の塩素濃度を算出する、前記方法。
【請求項15】
試料溶液に電解質を含ませない、請求項
11~
14のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項16】
以下の工程、
(i)基材上に成膜したホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極(BDD電極)を3つ用意し、第1のBDD電極を作用電極とし、第2のBDD電極を参照電極とし、第3のBDD電極を対電極とし、それぞれ基板上に固定する工程、
(ii) 前記BDD電極を導電性ケーブルに接続する工程、
(iii)前記導電性ケーブルの一部及び前記BDD電極の一部を絶縁性材料で覆い絶縁処理を行う工程、
を含む、三極電極の製造方法。
【請求項17】
さらに、工程(ii)が、BDD電極と導電性ケーブルとの間にピンヘッダを配置し、該ピンヘッダがBDD電極に重なるように接着剤で固定し、該ピンヘッダとBDD電極間を導電性ペーストで接続する工程、及び、導電性ケーブルをピンヘッダに接続する工程を含み、
工程(iii)が、前記導電性ケーブルの一部及び前記BDD電極の一部と共に、前記ピンヘッダも絶縁性材料で覆い絶縁処理を行う工程を含む、
請求項
16に記載の製造方法。
【請求項18】
(i)絶縁材料の基材の一つの面にホウ素をドープした導電性のダイヤモンド薄膜を成膜し、次いで、ダイヤモンド薄膜に溝を加工し、互いに絶縁された三極電極を作製し、基板上の第1のホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極(BDD電極)を作用電極とし、第2のBDD電極を参照電極とし、第3のBDD電極を対電極とする工程、
(ii)加工後のダイヤモンド電極を固定して電気回路と接続するための電極を取り付け、次いで各BDD電極を導電性ケーブルに接続する工程、
(iii)前記導電性ケーブルの一部及び前記BDD電極の一部を絶縁性材料で覆い絶縁処理を行う工程、
を含む、三極電極の製造方法。
【請求項19】
基板が平板状又は円筒状である、請求項
16~
18のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、参照電極として導電性ダイヤモンド電極を有する三極電極、装置及び、電気化学的測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ素ドープダイヤモンド電極は、ガラス状炭素や白金電極などの他の従来型の電極材料と比較して特性が優れており、近年、注目を集めている。熱伝導性が高いことや硬度が極めて高いというダイヤモンドの周知の特性の他に、ホウ素ドープダイヤモンド電極は、広い電位窓、小さいバックグランド電流、及び吸着耐性が高く、化学的に不活性であるといった魅力的な特性を有する。また、ホウ素ドープダイヤモンド電極は物理的、化学的に安定で耐久性に優れる。ダイヤモンド電極は、例えば非特許文献1に解説されている。
【0003】
オゾン水は、その殺菌作用や脱臭作用等から、産業用や衛生用、さらには医療や介護などにおいて広く応用されている。例えば塩素と異なりオゾンは残留しないことから洗浄方法として利用されている。しかしながら、オゾン水の濃度は短い時間で減衰することから、使用の現場では正確な濃度を確認することが望ましく、オゾン濃度測定法が求められていた。オゾン水の濃度測定方法としては、ヨウ化カリウム等の試薬の色の変化を見る方法、紫外線吸収法、隔膜ポーラログラフ法などがあるが、簡便な測定方法が求められていた。
【0004】
特許文献1はオゾン水濃度測定装置及びオゾン水濃度測定方法を記載している。開示されている方法は、いわゆる電圧降下の問題を回避するために、作用電極面積を0.0039cm2以下とすること、すなわちマイクロ電極を使用することにより、無電解質のオゾン水濃度測定を実現している。また、対電極は白金電極であり、参照電極としては銀/塩化銀参照電極が使用されている。ところが、銀/塩化銀参照電極は、系に塩化物イオンを含む溶液を存在させる必要があり、操作性が煩雑であったり、装置の電極部分の微小化に問題があった。また、参照電極としてAg/AgClペーストを使用する場合には安定性の問題があった。
【0005】
特許文献2は、溶存オゾン濃度測定装置及び溶存オゾン濃度測定方法を記載している。この文献に記載の方法は、オゾン水に電解質を添加しなければ濃度測定ができない。また、開示されている方法は、白金製の対電極、及び銀/塩化銀参照電極を使用するものである。
【0006】
作用電極の面積が大きい場合においても、無電解質のオゾン水濃度を高精度に測定する手段が望まれていた。また、より簡便な構成でオゾン水濃度を高精度に測定する方法が望まれていた。
【0007】
尿酸は、従来、ウリカーゼとペルオキシダーゼを組み合わせた酵素法により測定されていた。この方法では、酵素ウリカーゼが尿酸を酸化する際に生じる過酸化水素を定量する。しかしながら、この方法では、酵素及び発色剤が必要であり、必ずしも簡便な測定法とはいえない。尿酸を測定する別の方法として、酵素反応を利用した吸光度法もある。この方法では、酵素反応による尿酸の紫外光の吸光度減少を計測する。しかしながら、この方法では光源及び酵素が必要であり、必ずしも簡便な測定法とはいえない。尿酸を測定する別の方法としては、還元法がある。還元法では、試薬を尿酸により還元し、発色剤により定量する。しかしながら、この方法も光源及び酵素が必要であり、必ずしも簡便な測定法とはいえない。尿酸濃度を測定する簡便な方法が望まれていた。
【0008】
溶液のpHは、従来、一般的にガラス電極により測定されていた。この方法では電位差を測定する。この方法は、測定結果は正確であるが、ガラス及び溶液が必要であり、取扱いに注意が必要である。なおかつ、ガラス電極では、小型化に限界がある。参照電極は一般的にAg/AgCl電極であり、かつ飽和KCl溶液及び塩橋を必要とするが、特に飽和KCl溶液の小型化が困難である。溶液のpHを測定する別の方法としては、水素電極、キンヒドロン電極及びアンチモン電極を用いる方法が知られているが、水素ガス、キンヒドロン(試薬)等が必要であり、測定系の構成が簡便ではない。また、測定の正確性も乏しく、この方法はあまり用いられていない。溶液のpHを測定する簡便な方法が望まれていた。
【0009】
塩素は、従来、DPD法などの比色法、電極を用いたポーラログラフ法等により測定されていた。これらの測定方法については、厚生労働省告示第318号(平成15年9月29日)[水道法施行規則第17条第2項の規定に基づく遊離残留塩素及び結合残留塩素の検査方法]に詳細な記述がある。例えばDPD法は、試料溶液中の残留塩素がジエチル-p-フェニレンジアミン(DPD)と反応して発色する桃赤色を、測定作業者が標準比色表と比色して残留塩素濃度を測定する方法である。この方法では試薬のコストが大きく、測定結果にも個人差が生じる可能性があり、測定後の廃液処理が必要であり、また測定においてはサンプル採取が必要なため残留塩素濃度を連続的に測定できないという問題がある。また、電極を用いたポーラログラフ法は、作用電極に流れる電流値を測定して残留塩素濃度を測定する方法である。しかしながら従来のポーラログラフ法は、特許文献3に示すように作用電極に白金電極を用いているため、残留塩素の酸化電流ピークが電位窓の限界付近にしか現れず、電位窓にかかってしまい正確な測定が阻害されるという問題がある。溶液の塩素濃度を測定する簡便な方法が望まれていた。
【0010】
参照電極(基準電極ともいう)について説明すると、三極電極方式によるボルタンメトリー測定において、参照電極は電位の基準となるため、非常に重要である。電極が参照電極として機能するには、電極表面での電極反応が可逆であり、液中の物質との平衡が成立している必要がある。例えば、一般的なAg/AgCl参照電極は、銀の棒の表面を塩化銀で覆った上で、それを塩化物溶液、例えば飽和KCl溶液中に浸す必要がある。この構成により
[化1]
AgCl + e- ←→ Ag + Cl-
という電極反応が可能となる。
【0011】
例えば非特許文献2は参照電極について解説している。当該文献の89頁の参照電極の項では、理想的な参照電極として、次のような性質をもっていることが必要である、と記載されている:
(1) 参照電極表面での電極反応が可逆であって、電解液中のある化学種とNernstの平衡電位式に従って応答(Nernst応答ともいう)すること。
(2) その電位は時間に対して安定であること。
(3) その電位は微少電流が流れたとしても、すぐ最初の電位に戻ること(ヒステリシスがない)。
(4) Ag/AgClのような場合には、固体層が電解液中で溶解しないこと。
(5) 温度が変化しても、一定の温度になれば一定の電位を出すこと(温度ヒステリシスがないこと)。
【0012】
金属電極単独では、可逆の電極反応及び溶液中の物質との平衡が成立せず、したがって参照電極として機能しないのが技術常識である。例えば銀の棒単独では通常、参照電極として機能しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】国際公開第2014/077017号パンフレット(特許第5265803号対応)
【文献】特開2007-212232
【文献】特公昭55-017939号公報
【非特許文献】
【0014】
【文献】ダイヤモンド電極、栄長泰明(著)、日本化学会(編)、化学の要点シリーズ14巻、共立出版、2015年(ISBN 978-4-320-04419-7)
【文献】電気化学測定法、藤嶋昭、相澤益男、井上徹著、技報堂出版株式会社、1984年(ISBN 4-7655-0356-9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ある実施形態において、本発明は、上記の問題を少なくとも部分的に解決する、電気化学的測定に使用することのできる三極電極、装置、及びこれらを用いた測定法を提供することを目的とする。別の実施形態において、本発明は、電気化学的な方法を用いたオゾン水濃度の測定方法及び装置を提供することを課題とする。さらなる実施形態において、本発明は、電気化学的な方法を用いた尿酸の測定方法及び装置を提供することを課題とする。さらなる実施形態において、本発明は、電気化学的な方法を用いたpHの測定方法及び装置を提供することを課題とする。さらなる実施形態において、本発明は、電気化学的な方法を用いた塩素の測定方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、従来使用されているような、白金製の対電極、銀/塩化銀参照電極を用いることなく、作用電極・対電極・参照電極の3電極を導電性ダイヤモンド電極で構成し、無電解質のオゾン水に含まれるオゾン濃度を測定したところ、驚くべきことに無電解質のオゾン水濃度を高精度に測定することができることを見出し、これを一実施形態として包含する本発明を完成した。さらに、本発明者らは、前記三極電極を用いて、無電解質の尿酸溶液に含まれる尿酸濃度を測定したところ、驚くべきことに無電解質の尿酸を高精度に測定することができることを見出し、これを一実施形態として包含する本発明を完成した。さらに、本発明者らは、前記三極電極を用いて、溶液に含まれるpHを測定したところ、驚くべきことにpHを高精度に測定することができることを見出し、これを一実施形態として包含する本発明を完成した。さらに、本発明者らは、作用電極・対電極・参照電極の3電極を導電性ダイヤモンド電極で構成した三極電極を用いて、溶液に含まれる塩素を測定したところ、驚くべきことに塩素を高精度に測定することができることを見出し、これを一実施形態として包含する本発明を完成した。
【0017】
すなわち本開示は、以下の実施形態を包含する:
[1] 作用電極として導電性ダイヤモンド電極を有し、参照電極として導電性ダイヤモンド電極を有し、対電極を有する、三極電極。
[2] 対電極が導電性ダイヤモンド電極又は白金電極である、実施形態1に記載の三極電極。
[3] 導電性ダイヤモンド電極がホウ素(B)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、及びケイ素(Si)からなる群より選択される不純物がドープされた導電性ダイヤモンド電極である、実施形態1又は2に記載の三極電極。
[4] 導電性ダイヤモンド電極がホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極である、実施形態3に記載の三極電極。
[5] 作用電極がホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極であり、参照電極がホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極であり、対電極がホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極である、実施形態1~4のいずれかに記載の三極電極。
[6] 実施形態1~5のいずれかに記載の三極電極を有する、電気化学的測定装置。
[7] オゾン水濃度、尿酸濃度、溶液pH、又は塩素濃度のいずれかを測定することができる、実施形態6に記載の電気化学的測定装置。
[8] 実施形態1~5のいずれかに記載の三極電極を有し、
作用電極、参照電極、及び対電極が試料溶液であるオゾン水に接触可能であり、
作用電極と対電極との間に電圧を印加する電圧印加部を有し、
作用電極と対電極との間に電圧を印加したときの電流値を測定する電流値測定部を有する、オゾン水濃度測定装置。
[9] 実施形態8に記載のオゾン水濃度測定装置、及びオゾン発生装置を備えた、オゾン水生成装置。
[10] 実施形態1~5のいずれかに記載の三極電極を有し、
作用電極、参照電極、及び対電極が試料溶液である尿酸溶液に接触可能であり、
作用電極と対電極との間に電圧を印加する電圧印加部を有し、
作用電極と対電極との間に電圧を印加したときの電流値を測定する電流値測定部を有する、尿酸濃度測定装置。
[11] 実施形態1~5のいずれかに記載の三極電極を有し、
作用電極、参照電極、及び対電極が試料溶液に接触可能であり、
作用電極と対電極との間に電流を流す電流印加部を有し、
作用電極と対電極との間の電流値又は電流密度を一定としたときの電位を測定する電位測定部を有する、pH測定装置。
[12] 実施形態1~5のいずれかに記載の三極電極を有し、
作用電極、参照電極、及び対電極が試料溶液である塩素溶液に接触可能であり、
作用電極と対電極との間に電圧を印加する電圧印加部を有し、
作用電極と対電極との間に電圧を印加したときの電流値を測定する電流値測定部を有する、塩素濃度測定装置。
[13] 実施形態1~5のいずれかに記載の三極電極を有し、オゾン水濃度、尿酸濃度、溶液pH、及び塩素濃度からなる群より選択される2以上の測定対象を、前記三極電極により測定することができる、電気化学的測定装置。
[14] オゾン水濃度、尿酸濃度、溶液pH、及び塩素濃度からなる群より選択される測定対象に応じて、測定アルゴリズムを変更する機能を有する、実施形態13に記載の装置。
[15] 実施形態7~14のいずれかに記載の装置を制御するための、プログラム。
[16] 実施形態15に記載のプログラムを記録した、情報記録媒体。
[17] 実施形態7~9、13及び14のいずれかに記載の装置を使用する、オゾン水濃度測定方法。
[18] 試料溶液であるオゾン水に、少なくとも作用電極及び対電極を接触させ、前記作用電極と前記対電極との間に電圧を印加し、当該電圧下における電流値を測定することにより、印加した電圧及び測定した電流値から、限界電流-電圧曲線を測定し、当該限界電流-電圧曲線において所定の電圧に対応する限界電流値から、予め作成済みの限界電流値とオゾン濃度との関係を示した検量線に基づいて、オゾン水のオゾン濃度を算出する、実施形態17に記載のオゾン水濃度測定方法。
[19] 実施形態7、10、13及び14のいずれかに記載の装置を使用する、尿酸濃度測定方法。
[20] 試料溶液である尿酸溶液に、少なくとも作用電極及び対電極を接触させ、前記作用電極と前記対電極との間に電圧を印加し、当該電圧下における電流値を測定することにより、印加した電圧及び測定した電流値から、限界電流-電圧曲線を測定し、当該限界電流-電圧曲線において所定の電圧に対応する限界電流値から、予め作成済みの限界電流値と尿酸濃度との関係を示した検量線に基づいて、溶液の尿酸濃度を算出する、実施形態19に記載の尿酸濃度測定方法。
[21] 実施形態7、11、13及び14のいずれかに記載の装置を使用する、pH測定方法。
[22] 試料溶液に作用電極と対電極及び参照電極を接触させ、前記作用電極と前記対電極との間に一定値の電流を流し、当該電流下における電位を測定することにより、印加した電流及び測定した電位値から、限界電流-電圧曲線を測定し、当該限界電流-電圧曲線において所定の電流に対応する限界電位値から、予め作成済みの限界電位値と溶液pHとの関係を示した検量線に基づいて、溶液のpHを測定する、実施形態21に記載のpH測定方法。
[23] 実施形態12~14のいずれかに記載の装置を使用する、塩素濃度測定方法。
[24] 試料溶液である塩素溶液に、少なくとも作用電極及び対電極を接触させ、前記作用電極と前記対電極との間に電圧を印加し、当該電圧下における電流値を測定することにより、印加した電圧及び測定した電流値から、限界電流-電圧曲線を測定し、当該限界電流-電圧曲線において所定の電圧に対応する限界電流値から、予め作成済みの限界電流値と塩素濃度との関係を示した検量線に基づいて、溶液の塩素濃度を算出する、実施形態23に記載の塩素濃度測定方法。
[25] 試料溶液に電解質を含ませない、実施形態17~24のいずれかに記載の測定方法。
[26] 以下の工程、
(i)基材上に成膜したホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極(BDD電極)を3つ用意し、第1のBDD電極を作用電極とし、第2のBDD電極を参照電極とし、第3のBDD電極を対電極とし、それぞれ基板上に固定する工程、
(ii) 前記BDD電極を導電性ケーブルに接続する工程、
(iii)前記導電性ケーブルの一部及び前記BDD電極の一部を絶縁性材料で覆い絶縁処理を行う工程、
を含む、三極電極の製造方法。
[27] さらに、工程(ii)が、BDD電極と導電性ケーブルとの間にピンヘッダを配置し、該ピンヘッダがBDD電極に重なるように接着剤で固定し、該ピンヘッダとBDD電極間を導電性ペーストで接続する工程、及び、導電性ケーブルをピンヘッダに接続する工程を含み、
工程(iii)が、前記導電性ケーブルの一部及び前記BDD電極の一部と共に、前記ピンヘッダも絶縁性材料で覆い絶縁処理を行う工程を含む、
実施形態26に記載の製造方法。
[28] (i)絶縁材料の基材の一つの面にホウ素をドープした導電性のダイヤモンド薄膜を成膜し、次いで、ダイヤモンド薄膜に溝を加工し、互いに絶縁された三極電極を作製し、基板上の第1のホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極(BDD電極)を作用電極とし、第2のBDD電極を参照電極とし、第3のBDD電極を対電極とする工程、
(ii)加工後のダイヤモンド電極を固定して電気回路と接続するための電極を取り付け、次いで各BDD電極を導電性ケーブルに接続する工程、
(iii)前記導電性ケーブルの一部及び前記BDD電極の一部を絶縁性材料で覆い絶縁処理を行う工程、
を含む、三極電極の製造方法。
[29] 基板が平板状又は円筒状である、実施形態26~28のいずれかに記載の製造方法。
[30] 作用電極としてホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極を有し、参照電極としてホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極を有し、対電極としてホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極を有する三極電極を有する電気化学的測定装置。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2018-206319号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、銀/塩化銀参照電極のような煩雑な構成の参照電極を用いることなく、種々の用途に使用可能な三極電極が得られる。また、ある実施形態において、例えば無電解質のオゾン水濃度を高精度に測定することが可能となる。また、ある実施形態において、例えば尿酸を高精度に測定することができる。また、ある実施形態において、例えば溶液pHを高精度に測定することができる。また、ある実施形態において、例えば塩素を高精度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】作用電極及び対電極をBDD電極とし、参照電極をAg/AgCl電極として、オゾン水についてリニアスイープボルタンメトリー(LSV)を行った結果を示す。
【
図2】
図1の結果に基づき+0.15Vにおける限界電流値と、吸光度法により測定したオゾン濃度との関係をプロットしたものである。横軸はオゾン(O
3)濃度(ppm)、縦軸は電流密度である。
【
図3】作用電極をBDD電極とし、対電極をPt電極とし、参照電極をAg/AgCl電極又はBDD電極として、0.1M KCl溶液中における1mMフェリシアン化カリウムのCVを示す。走査速度は0.1V/secとした。
【
図4】オゾン水濃度測定を行った実験系の模式図である。
【
図5】作用電極及び対電極をBDD電極とし、参照電極をBDD電極として、オゾン水についてLSVを行った結果を示す。
【
図6】
図5の結果に基づき-0.7Vにおける限界電流値と、吸光度法により測定したオゾン濃度との関係をプロットしたものである。横軸はオゾン(O
3)濃度(ppm)、縦軸は電流密度である。
【
図7】作用電極及び対電極をBDD電極とし、参照電極をSUS316電極として、オゾン水についてLSVを行った結果を示す。
【
図8】
図7の結果に基づき-0.7Vにおける限界電流値と、吸光度法により測定したオゾン濃度との関係をプロットしたものである。横軸はオゾン(O
3)濃度(ppm)、縦軸は電流密度である。
【
図9】作用電極、対電極、及び参照電極がBDDである平板電極の模式図である。
【
図10】平板電極の各構成を具体的に示した写真である。白い板はセラミック基板である。右側に3つある部材がホウ素ドープダイヤモンド電極(BDD電極)である。これらは、シリコン基板上に成膜したBDD電極である。中央にピンヘッダを配置した。また左にケーブル付き端子を配置した。
【
図13】作用電極、対電極及び参照電極のいずれもがBDDである平板型の三極電極を使用して、オゾン水についてLSVを行った結果を示す。
【
図14】
図13の結果に基づき-0.7Vにおける限界電流値と、吸光度法により測定したオゾン濃度との関係をプロットしたものである。横軸はオゾン(O
3)濃度(ppm)、縦軸は電流密度である。
【
図15】BDD三極電極を用いて、尿酸溶液について、CV測定を行った結果を示す。
【
図16】
図15の結果に基づき+0.75Vにおける電流密度と、尿酸濃度とをプロットした結果を示す。横軸は尿酸濃度(μM)、縦軸は+0.75Vにおける電流密度である。
【
図17】BDD三極電極を用いて、尿酸溶液について、LSV測定を行った結果を示す。
【
図18】
図17の結果に基づき+0.58Vにおける電流密度と、尿酸濃度とをプロットした結果を示す。横軸は尿酸濃度(μM)、縦軸は+0.58Vにおける電流密度である。
【
図19】BDD三極電極を用いて、pHの異なる溶液について、クロノポテンシオメトリー(CP)法により電気化学的測定を行った結果を示す。
【
図20】CP法について、60秒後の電位とpHとをプロットした結果を示す。横軸はpH、縦軸は60秒後の電位(E vs. BDD/V)である。
【
図21】BDD三極電極を作製する手順の例を示す。1は基材(絶縁体)であり、2は導電性ダイヤモンド薄膜であり、3は溝である。
【
図23】
図22のBDD三極電極を取り付けた完全固体型三極電極構造の例を示す。
【
図24】ダイヤモンド電極9枚を同時に成膜したものである。写真は一部を分割した後のものである。
【
図25】BDD三極電極を用いて、LSVにより塩素濃度を測定した結果を示す。
【
図26】
図25の結果に基づき、-1.85Vにおける電流密度と、塩素濃度とをプロットした結果を示す。横軸は塩素濃度(ppm)、縦軸は-1.85Vにおける電流密度である。
【
図27】塩素測定に使用したBDD三極電極の写真である。WEは作用電極であり、REは参照電極であり、CEは対電極である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
ある実施形態において本発明は、作用電極として導電性ダイヤモンド電極を有し、参照電極として導電性ダイヤモンド電極を有し、対電極を有する、三極電極を提供する。本明細書においてこれを本発明の三極電極ということがある。対電極は導電性ダイヤモンド電極又は白金など慣用の金属材料であり得る。
【0021】
ある実施形態において、導電性ダイヤモンド電極は、ホウ素(B)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、及びケイ素(Si)からなる群より選択される不純物がドープされた導電性ダイヤモンド、例えばホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極であり得る。
【0022】
ある実施形態において、作用電極がホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極であり、参照電極がホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極であり、対電極がホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極である三極電極を提供する。本明細書においてこれを、BDD三極電極ということがある。
【0023】
ある実施形態において、本発明の三極電極を有する電気化学的測定装置が提供される。別の実施形態においてBDD三極電極を有する電気化学的測定装置が提供される。ある実施形態において本発明は、オゾン水濃度測定装置を提供する。この装置は、本発明の三極電極を有する。すなわちある実施形態において本発明は、作用電極として導電性ダイヤモンド電極を有し、参照電極として導電性ダイヤモンド電極を有し、対電極を有するオゾン水濃度測定装置を提供する。別の実施形態において、本発明の三極電極を有する、尿酸濃度測定装置が提供される。別の実施形態において、本発明の三極電極を有する、pH測定装置が提供される。別の実施形態において、本発明の三極電極を有する、塩素濃度測定装置が提供される。別の実施形態において、本発明の三極電極を有し、オゾン水濃度、尿酸濃度、溶液pH、又は塩素濃度を、前記三極電極により測定することができる、電気化学的測定装置が提供される。別の実施形態において、本発明の三極電極(例えばBDD三極電極)を有し、オゾン水濃度、尿酸濃度、溶液pH、及び塩素濃度からなる群より選択される2以上の測定対象を、前記三極電極(すなわち、同一の三極電極)により測定することができる、電気化学的測定装置が提供される。本明細書においてこれをマルチタスク型測定装置ということがある。
【0024】
ある実施形態において、本発明のオゾン水濃度測定装置は、作用電極、参照電極、及び対電極が試料溶液であるオゾン水に接触可能であり、作用電極と対電極との間に電圧を印加する電圧印加部を有し、作用電極と対電極との間に電圧を印加したときの電流値を測定する電流値測定部を有する。ある実施形態において、本発明のオゾン水濃度測定装置は、さらにオゾン発生装置を備えていてもよい。すなわちある実施形態において本発明は、オゾン水濃度測定装置(オゾン水濃度測定部ともいう)及びオゾン発生装置(オゾン発生部ともいう)を備えた、オゾン水生成装置又はシステムを提供する。オゾン発生装置は、慣用のオゾン発生手段又はオゾン発生機構を有し得る。オゾン発生機構としては例えば電気分解法、放電法、無声放電法、コロナ放電法、紫外線ランプ法、冷プラズマ法等によるオゾン発生機構が挙げられるがこれに限らない。電気分解法では導電性ダイヤモンド電極を使用しうる。例えば非特許文献1を参照のこと。
【0025】
別の実施形態において、本発明の尿酸濃度測定装置は、作用電極、参照電極、及び対電極が試料溶液である尿酸を含む可能性のある溶液(以下、単に尿酸溶液ともいう)に接触可能であり、作用電極と対電極との間に電圧を印加する電圧印加部を有し、作用電極と対電極との間に電圧を印加したときの電流値を測定する電流値測定部を有する。
【0026】
別の実施形態において、本発明のpH測定装置は、作用電極、参照電極、及び対電極が試料溶液に接触可能であり、作用電極と対電極との間に電流を流す電流印加部を有し、作用電極と対電極との間の電流値を一定としたときの電位を測定する電位測定部を有する。
【0027】
別の実施形態において、本発明の塩素濃度測定装置は、作用電極、参照電極、及び対電極が試料溶液である塩素を含む可能性のある溶液(以下、単に塩素溶液ともいう)に接触可能であり、作用電極と対電極との間に電圧を印加する電圧印加部を有し、作用電極と対電極との間に電圧を印加したときの電流値を測定する電流値測定部を有する。
【0028】
ある実施形態において、本発明は、オゾン水濃度測定方法を提供する。この方法には、本発明の三極電極、又は本発明のオゾン水濃度測定装置を使用することができる。ある実施形態において、オゾン水濃度を測定する際、試料溶液に電解質を含ませないことができる。ある実施形態において、オゾン発生装置により発生させたオゾンを含んだオゾン水の濃度を、本発明のオゾン水濃度測定装置により、又は本発明のオゾン水濃度測定方法により測定し得る。別の実施形態において、本発明は、尿酸濃度測定方法を提供する。この方法には、本発明の三極電極、又は本発明の尿酸濃度測定装置を使用することができる。ある実施形態において、尿酸濃度を測定する際、試料溶液に電解質を含ませないことができる。別の実施形態において、本発明は、試料溶液のpHを測定する方法を提供する。この方法には、本発明の三極電極、又は本発明のpH測定装置を使用することができる。ある実施形態において、溶液pHを測定する際、試料溶液に電解質を添加せずともよい。別の実施形態において、本発明は、塩素濃度測定方法を提供する。この方法には、本発明の三極電極、又は本発明の塩素濃度測定装置を使用することができる。ある実施形態において、塩素濃度を測定する際、試料溶液に電解質を含ませないことができる。
【0029】
オゾン水濃度の測定原理は次のとおりである。すなわち溶液中に電極を浸漬し、電位を印加する。ある電位を超えると、溶液中の物質が電極表面で酸化還元反応し、電流が流れる。このときの電流値は物質の濃度に比例するので、定量が可能となる。オゾンの場合は、還元側で
[化2]
O3 + 2H+ + 2e- → O2 + H2O
という反応が進行する。そのためオゾンの還元反応の電流値を計測することでオゾン水中のオゾン濃度が定量可能である。例えば特許文献1を参照のこと。
【0030】
また、尿酸の場合は、酸化側で
[化3]
尿酸 + O2 + H2O → 5-ヒドロキシイソ尿酸 + H2O2
という反応が進行する。そのため尿酸の酸化反応の電流値を計測することで溶液中の尿酸濃度が定量可能である。
【0031】
また、溶液のpHを測定する場合は、還元側で
[化4]
2H+ + 2e- → H2
という反応が進行する。そのためプロトン(H+)の還元反応の電流値を計測することで溶液中のpHが測定可能である。
【0032】
また、塩素の場合は、還元側で
[化5]
2HClO + 2e- → Cl- + ClO-+ H2O
という反応が進行する。そのためHClOの還元反応の電流値を計測することで溶液中の有効塩素濃度が定量可能である。
【0033】
ある実施形態において、本発明のオゾン水濃度測定方法では、試料溶液であるオゾン水に、少なくとも作用電極及び対電極を接触させ、前記作用電極と前記対電極との間に電圧を印加し、当該電圧下における電流値を測定することができる。このとき、ポテンシオスタットにより、参照電極に対する電位として作用電極に印加する電圧を所定の範囲で掃引し、電位の掃引の際に作用電極と対電極との間を流れる応答電流を測定しうる。これにより、印加した電圧及び測定した電流値から、限界電流-電圧曲線を測定し、当該限界電流-電圧曲線において所定の電圧に対応する限界電流値から、予め作成済みの限界電流値とオゾン濃度との関係を示した検量線に基づいて、オゾン水のオゾン濃度を算出することができる。すなわち、情報処理装置(情報処理部)により、ポテンシオスタットで掃引した電圧及び測定した電流値から、限界電流-電圧曲線を測定し、この限界電流-電圧曲線において、所定の電圧に対応する限界電流値から、予め作成しておいた検量線に基づいてオゾン濃度を算出しうる。
【0034】
ある実施形態において、本発明の尿酸濃度測定方法では、試料溶液である尿酸溶液に、少なくとも作用電極及び対電極を接触させ、前記作用電極と前記対電極との間に電圧を印加し、当該電圧下における電流値を測定することができる。このとき、ポテンシオスタットにより、参照電極に対する電位として作用電極に印加する電圧を所定の範囲で掃引し、電位の掃引の際に作用電極と対電極との間を流れる応答電流を測定しうる。これにより、印加した電圧及び測定した電流値から、限界電流-電圧曲線を測定し、当該限界電流-電圧曲線において所定の電圧に対応する限界電流値から、予め作成済みの限界電流値と尿酸濃度との関係を示した検量線に基づいて、溶液の尿酸濃度を算出することができる。すなわち、情報処理装置により、ポテンシオスタットで掃引した電圧及び測定した電流値から、限界電流-電圧曲線を測定し、この限界電流-電圧曲線において、所定の電圧に対応する限界電流値から、予め作成しておいた検量線に基づいて尿酸濃度を算出しうる。
【0035】
ある実施形態において、本発明のpH測定方法では、試料溶液に作用電極と対電極及び参照電極を接触させ、前記作用電極と前記対電極との間に電流を流す。このとき参照電極は抵抗を高く設定しているため、作用電極と参照電極との間には電流は流れない。作用電極に電位を印加すると、測定対象物質(水素イオンH+)が電極表面で電気化学的に酸化され(このときH2が発生する)、対電極との間に電流が流れる。このとき、作用電極と参照電極との間の電位が被験試料に含まれる測定対象物質(水素イオン)の濃度に比例するため、ガルバノスタットにより電流を一定にして、その電流値での電位値と測定対象物質(H+)の濃度との関係を予め求めておけば、その関係から、得られた電位に対応する被検溶液中の測定対象物質(H+)の濃度、すなわちpHを知ることができる。
【0036】
一例として、pHは、クロノポテンシオメトリーを用い、次の手順で決定する。予め各種異なったpH溶液を調製しておき、各溶液に一定電流を印加してポテンシオメトリー測定を行う。検出された電位値を各溶液の既知pHに対してプロットすることにより検量線を作成する。次に測定試料溶液から得られた電位値を当該検量線と対比することにより、被試料溶液のpHを知ることができる。
【0037】
クロノポテンシオメトリー(chronopotentiometry)は、作用電極の電流を印加し、その際の電位の時間の変化を測定する方法である。本発明では、クロノポテンシオメトリー測定は、例えば-100nA、-200nA、-300nA、-400nA、-500nA、-1.0μA、-2.0μA、-3.0μA、-4.0μA、-5.0μA以上の電流で行うことができ、また-1nA、-2nA、-5nA、-10nA、-20nA、-30nA、-50nA、-100nA以下の電流で行うことができる。或いは、クロノポテンシオメトリー測定は、例えば-400nA/cm2、-800nA/cm2、-1.2μA/cm2、-1.6μA/cm2、-2.0μA/cm2、-4.0μA/cm2、-8.0μA/cm2、-12μA/cm2、-16μA/cm2、-20μA/cm2以上の電流密度で行うことができ、また-4nA/cm2、-8nA/cm2、-20nA/cm2、-40nA/cm2、-80nA/cm2、-120nA/cm2、-200nA/cm2、-400nA/cm2以下の電流密度で行うことができる。ある実施形態において、クロノポテンシオメトリー測定は、例えば-5.0μA~-1nAの範囲に含まれる一定電流のステップ電流を印加して行うことができる。
【0038】
ある実施形態において、本発明の塩素濃度測定方法では、試料溶液である塩素溶液に、少なくとも作用電極及び対電極を接触させ、前記作用電極と前記対電極との間に電圧を印加し、当該電圧下における電流値を測定することができる。このとき、ポテンシオスタットにより、参照電極に対する電位として作用電極に印加する電圧を所定の範囲で掃引し、電位の掃引の際に作用電極と対電極との間を流れる応答電流を測定しうる。これにより、印加した電圧及び測定した電流値から、限界電流-電圧曲線を測定し、当該限界電流-電圧曲線において所定の電圧に対応する限界電流値から、予め作成済みの限界電流値と塩素濃度との関係を示した検量線に基づいて、溶液の塩素濃度を算出することができる。すなわち、情報処理装置により、ポテンシオスタットで掃引した電圧及び測定した電流値から、限界電流-電圧曲線を測定し、この限界電流-電圧曲線において、所定の電圧に対応する限界電流値から、予め作成しておいた検量線に基づいて塩素濃度を算出しうる。
【0039】
電気化学的測定を行うと、電極の表面が徐々に汚れることがある。電極表面の汚れを除去し、センサーの性能を維持するために、三極電極をクリーニング(洗浄操作)することができる。クリーニング条件は、特に限定されないが、例えば0.1M NaClO4(pH=7.10)溶液を使用し、酸化側では+2.5V以上,還元側では-2.5V以下の高電位を印加することにより電極表面をクリーニングすることができる。
【0040】
ある実施形態において、本発明の電気化学的測定装置、例えばオゾン水濃度測定装置、尿酸濃度測定装置、pH測定装置、又は塩素濃度測定装置は、測定セル、ポテンシオスタット及び/又はガルバノスタット、並びに情報処理装置を備え得る。或いは本発明の電気化学的測定装置、例えばオゾン水濃度測定装置、尿酸濃度測定装置、pH測定装置、又は塩素濃度測定装置は、ポテンシオスタット及び/又はガルバノスタット、並びに情報処理装置に接続されていてもよい。測定セルには試料溶液、例えばオゾン水、尿酸溶液、特定のpHを有する溶液、又は塩素溶液を貯留し得る。作用電極、参照電極及び対電極は、測定セル内の試料溶液に接触可能に配置する。ポテンシオスタットは、作用電極、参照電極及び対電極の電圧を制御しうるよう、作用電極、参照電極及び対電極に接続する。ガルバノスタットは、作用電極、参照電極及び対電極の電流を制御しうるよう、作用電極、参照電極及び対電極に接続する。情報処理装置はポテンシオスタット又はガルバノスタットにより得られた電流値及び/又は電圧値に基づいて試料溶液中の測定対象物質の濃度を算出し得る。
【0041】
ポテンシオスタットは、作用電極、対電極及び参照電極に電圧を印加する電圧印加部及び当該印加電圧における電流値を測定する電流測定部を有する。ポテンシオスタットは、情報処理装置によって制御可能であり、作用電極、対電極及び参照電極から電圧信号及び電流信号を受信するとともに、これら作用電極、対電極及び参照電極を制御可能である。すなわち、ポテンシオスタットは、参照電極に対する電位として作用電極に印加する電圧を所定の範囲で掃引し、電位の掃引の際に作用電極と対電極との間を流れる応答電流を測定する。具体的には、参照電極に対して作用電極の電位を、例えば+2.0V~-2.0V、例えば+1.0~-0.8V、+0.7~+0.4V、又は0~-1.0V、例えば+1.5~-2.0V、+1.5V~-1.0V、+1.5V~-0V、+1.0V~-0V、-0.6V~-2.0V、-0.6V~-1.9V、例えば-0.6V~-1.85Vの間で、例えば0.1V/sの走査速度で走査し、その電圧下における還元反応または酸化反応に伴う、作用電極と対電極との間の電流値を測定し得る。なお、本明細書において走査速度は0.1V/sに限られず、例えば0.01V/s~1.0V/sや0.05V/s~0.5V/s等の範囲で適当に設定し得る。
【0042】
ある実施形態において、情報処理装置は、ポテンシオスタットによって、掃引した所定の範囲における電圧と、その応答電流値から限界電流-電圧曲線を求めることができる。そして、この限界電流-電圧曲線において、所定の電圧(測定対象物質がオゾンであれば、例えば、-0.7V)に対応する限界電流値から、予め作成しておいた検量線に基づいて測定対象物質の濃度を算出することができる。検量線は、既知濃度の測定対象物質に対して、所定の範囲で電圧を掃引し、掃引の際に作用電極と対電極との間を流れる応答電流を測定し、掃引した所定範囲における電圧と、その応答電流値から限界電流-電圧曲線を求め、当該限界電流-電圧曲線において、所定の電圧(測定対象物質がオゾンであれば、例えば、-0.7V)における限界電流値と、測定対象物質濃度との関係をプロットすることにより得られる。なお、限界電流-電圧曲線において、検量線を作成するための基準となる所定の電圧は、測定対象物質がオゾンである場合にも上記の-0.7Vに限らず、限界電流-電圧曲線において、各既知濃度における限界電流値がそれぞれ明確にわかる部分の電圧を基準とすれば良い。他の測定対象物質についても、検量線を作成するための基準電圧は一つの値に限らず、限界電流-電圧曲線において、各既知濃度における限界電流値がそれぞれ明確にわかる部分の電圧を基準とすることができる。さらに、情報処理装置は、測定対象物質濃度を測定するに際して、作用電極の参照電極に対する電位を、例えば、+2.0V~-2.0V、例えば+1.0~-2.0Vの間で、例えば0.1V/sの割合で変化させるようにポテンシオスタットを制御し得る。
【0043】
ある実施形態において、情報処理装置は、ガルバノスタットによって、電流値を一定として、電位の経時変化を記録することができる。そして、クロノポテンシオメトリー法により、所定の電流下で、一定時間経過後、例えば電流を流してから50秒経過後の測定電位値から、予め作成しておいた検量線に基づいて測定溶液のpHを算出することができる。
【0044】
ある実施形態において情報処理装置は、CPU、メモリ、HDD等の外部記憶装置、モデム等の通信インターフェース、ディスプレイ、マウス及びキーボードなどの入力手段を有し得る。情報処理装置は、内部メモリや外部記憶装置等の所定領域に設定したプログラム又はソフトウェアにしたがい、電気信号を解析し、オゾン濃度の算出を行いうる。情報処理装置は、汎用機器でも専用機器でもよい。
【0045】
電気化学的測定、及び演算処理を含めた一連の動作(ピーク電位の決定、一定とする電流又は電流密度の決定、検量線の作成等を含む)は、プログラム又はソフトウエアにより情報処理装置を制御して行ってもよい。すなわちある実施形態において、本発明の電気化学的測定法を実行するためのプログラム又はソフトウエアが提供される。プログラム又はソフトウエアは情報処理装置に組込まれたものでもよく、或いは情報記録媒体に記録され、該情報記録媒体が本発明の装置又は情報処理装置に格納されてもよい。ある実施形態において、該プログラム又はソフトウエアが記録された情報記録媒体が提供される。ある実施形態において、該プログラム若しくはソフトウエアが組込まれた、電気化学的測定装置が提供される。別の実施形態において、該情報記録媒体が格納された、電気化学的測定装置が提供される。
【0046】
ある実施形態において、本発明のマルチタスク型測定装置を制御するための情報処理装置は、オゾン水濃度測定アルゴリズム、尿酸濃度測定アルゴリズム、溶液pH測定アルゴリズム、及び塩素濃度測定アルゴリズムからなる群より選択される2以上のアルゴリズムを実行可能なソフトウェア又はプログラムを備え得る。別の実施形態において、オゾン水濃度測定用アルゴリズム、尿酸濃度測定用アルゴリズム、溶液pH測定用アルゴリズム、及び塩素濃度測定用アルゴリズムからなる群より選択される2以上のアルゴリズムを実行可能なソフトウェア又はプログラムが提供される。
【0047】
ある実施形態において、ソフトウェア又はプログラムは、測定対象(オゾン水濃度、尿酸濃度、溶液pH、又は塩素濃度)に応じて、測定アルゴリズムを変更する機能を有しうる。該ソフトウェア又はプログラムを備えた電気化学測定装置は、測定対象に応じて、測定アルゴリズムを変更することができる。ある実施形態において、本発明の電気化学測定装置は、測定対象に応じて、測定アルゴリズムを変更する切り替え機構又は切り替えスイッチを有する(ハードウェアによる構成)。別の実施形態において、測定アルゴリズムの変更はソフトウェア又はプログラムにより行われ得る。例えば表示画面のタッチパネルを操作して測定モードを切り替えることができる(ソフトウェアによる構成)。装置の使用者は、測定対象に応じて、該スイッチにより、又はタッチパネルを操作する等して、測定モードを簡便に切り替えることができる。
【0048】
ある実施形態において、本発明の電気化学測定装置は、さらにフールプルーフ(foolproof)機構を備えうる。例えば、使用者が塩素を測定することを意図して切り替えスイッチを操作し次いで測定を行ったところ、電位が全く検出されなかった場合、使用者が切り替えスイッチを誤って操作し塩素測定モードではなくオゾン水測定モードに切り替えていた可能性がある。この場合、オゾン測定のための掃引(酸化側)を行い電位が全く検出されなかった後、フールプルーフ機構により、該装置はさらに、塩素測定のための掃引(還元側)を行いうる。そして塩素測定結果を表示し得る。ある実施形態において、本発明の電気化学測定装置は切り替えスイッチ及びフールプルーフ機構を備えうる。ある実施形態において、フールプルーフ機構はソフトウェア又はプログラムにより実装され得る。
【0049】
ある実施形態において、本発明は三極電極の製造方法を提供する。第1の製造方法は、以下の工程、
(i)基材上に成膜したBDD電極を3つ用意し、第1のBDD電極を作用電極とし、第2のBDD電極を参照電極とし、第3のBDD電極を対電極とし、それぞれ基板上に固定する工程、
(ii)前記BDD電極を導電性ケーブルに接続する工程、
(iii)前記導電性ケーブルの一部及び前記BDD電極の一部を絶縁性材料で覆い絶縁処理を行う工程、
を含み得る。例えば
図10-12を参照のこと。
【0050】
ある実施形態においてさらに、第1の製造方法の上記工程(ii)は、BDD電極と導電性ケーブルとの間にピンヘッダを配置し、ピンヘッダ端子がBDD電極に重なるように接着剤で固定し、ピンヘッダ端子とBDD電極間を導電性ペーストで接続する工程、及び、導電性ケーブルをピンヘッダに接続する工程を含み、
第1の製造方法の上記工程(iii)は、前記導電性ケーブルの一部及び前記BDD電極の一部と共に、前記ピンヘッダも絶縁性材料で覆い絶縁処理を行う工程を含み得る。導電性ペーストは銀ペースト等であり得る。
【0051】
本発明の三極電極の第2の製造方法は、以下の工程、
(i)絶縁材料の基材の一つの面にホウ素をドープした導電性のダイヤモンド薄膜を成膜し、次いで、ダイヤモンド薄膜に溝を加工し、互いに絶縁された三極電極を作製し、基板上の第1のホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極(BDD電極)を作用電極とし、第2のBDD電極を参照電極とし、第3のBDD電極を対電極とする工程、
(ii)加工後のダイヤモンド電極を固定して電気回路と接続するための電極を取り付け、次いで各BDD電極を導電性ケーブルに接続する工程、
(iii)前記導電性ケーブルの一部及び前記BDD電極の一部を絶縁性材料で覆い絶縁処理を行う工程、
を含み得る。絶縁材料は窒化ケイ素等であり得る。ダイヤモンド薄膜への溝の加工は、レーザー加工機等によって行うことができる。例えば
図21、22、23及び27を参照のこと。これらはあくまでBDD三極電極の製造方法の例であって、最終的に互いに絶縁された三極電極が得られ、電気化学的測定を行うことができれば、三極電極の製造方法はこれらに限定されない。
【0052】
ダイヤモンド層を成膜するための基材の形状は特に限定されず、最終的に製造される電極において、導電性ダイヤモンドの多結晶体薄膜が露出して電極として使用可能であれば、どのような形状でもよい。ある実施形態において、基材の形状は、平板状、円筒状、棒状、円錐状、円錐台状、楕円錐状、楕円錐台状、角錐状、角錐台状、球状、又は半球状であり得るがこれに限らない。ある実施形態において基材は平板状、円筒状又は棒状であり得る。
【0053】
基材は絶縁性基材でもよく、導電性基材でもよい。ある実施形態において基材はシリコン、ニオブ、窒化ケイ素、炭化ケイ素又は高強度金属、例えばタングステン又はモリブデンであり得るがこれに限らない。導電性ダイヤモンド電極を製造するには、まず、平板状の基材を用意する。基材は、目的に応じて、電解研磨や切削加工などにより適宜加工し得る。次いで、CVD装置を用いて基材の表面の全部又は一部に導電性ダイヤモンド薄膜を成膜する。
【0054】
第1のBDD電極(作用電極)、第2のBDD電極(参照電極)及び、第3のBDD電極(対電極)を載せる基板の形状は特に限定されず、目的の測定対象や装置の構成に応じて、種々の形状とすることができる。ある実施形態において、基板の形状は、平板状、円筒状、棒状、円錐状、円錐台状、楕円錐状、楕円錐台状、角錐状、角錐台状、球状、又は半球状であり得るがこれに限らない。ある実施形態において基板は平板状又は円筒状であり得る。
【0055】
基板は絶縁性基材とすることができる。基板としてはセラミック基板が挙げられるがこれに限らない。基板上に、接着剤又は接着テープなどでBDD電極、ピンヘッダ、導電性ケーブル等を固定し得る。
【0056】
ある実施形態において、導電性ダイヤモンド薄膜を得るには、ダイヤモンドを成膜させる際に微量の不純物をドープし得る。導電性ダイヤモンド薄膜を得るために使用可能な不純物としては、ホウ素(B)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、ケイ素(Si)等が挙げられる。例えば炭素源を含む原料ガスに、ホウ素を得るためにはジボラン、トリメトキシボラン、酸化ホウ素、ホウ素トリメトキシドを、硫黄を得るためには酸化硫黄、硫化水素を、酸素を得るためには酸素若しくは二酸化炭素を、窒素を得るためにはアンモニア若しくは窒素を、ケイ素を得るためにはシラン等を加えることができる。例えば高濃度でホウ素をドープした導電性ダイヤモンド電極は広い電位窓と、他の電極材料と比較してバックグランド電流が小さいといった有利な性質を有する。そこで本明細書では以下にホウ素ドープ導電性ダイヤモンド電極について例示的に記載する。他の不純物をドープした導電性ダイヤモンド電極を用いてもよい。本明細書では、特に断らない限り、電位と電圧は同義に用い相互に置き換え可能とする。本明細書ではホウ素ドープ導電性ダイヤモンド電極をBDD電極と記載することがある。
【0057】
基材への不純物混入ダイヤモンド又は不純物を含まないダイヤモンドの蒸着処理は、700~1200℃で1~12時間、例えば1~3時間行うことができる。蒸着はプラズマ蒸着であり得る。また、蒸着処理のためのプラズマ出力は500W~5000W、例えば1kW~3kW、例えば3.0kWとすることができ、チャンバー圧力は30~120 Torr、例えば60 Torrとし得る。導電性ダイヤモンド薄膜は通常のマイクロ波プラズマ化学気相成長法(MPCVD)で成膜し得る。これには、シリコン単結晶(100)等の基板を成膜装置内にセットし、高純度水素ガスを担体ガスとした成膜用ガスを流す。成膜用ガスには、炭素、ホウ素が含まれている。炭素、ホウ素を含む高純度水素ガスを流している成膜装置内にマイクロ波を与えてプラズマ放電を起こさせると、成膜用ガス中の炭素源から炭素ラジカルが生成し、基板にSi単結晶上にsp3構造を保ったまま、かつホウ素を混入しながら堆積してダイヤモンドの薄膜が形成される。なお本明細書において「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。下限値を含まない場合は「未満」、上限値を含まない場合は「を超える」をそれぞれ使用する。
【0058】
ある実施形態において、成膜させた導電性ダイヤモンド層は、アズ グローン状態(as grown、基材上に結晶を成長させたままの状態)としうる。別の実施形態では成膜させた導電性ダイヤモンド層は水素終端化してもよく、又は酸素終端化してもよい。水素終端化は、陰極還元、例えば導電性ダイヤモンド電極に、-1.8Vの電圧を印加し0.1M硫酸(H2SO4)中に30分間漬ける陰極還元により行い得る。酸素終端化は、陽極酸化、例えば導電性ダイヤモンド電極に+3.0Vの電圧を印加して、0.1M過塩素酸中に約30分漬ける陽極酸化又は酸素プラズマ処理により行い得る。
【0059】
ダイヤモンド薄膜の膜厚は成膜時間の調整により制御することができる。ダイヤモンド薄膜を電気化学的試験・分析用の電極として使用する際には、膜厚は、目的に応じて、10μm以上、5μm以上、1μm以上等とし得る。
【0060】
ダイヤモンド電極の製造方法は、特開2006-098281号、特開2011-152324号、特開2006-010357号、特開2011-174822号、特開2015-039544号公報等に開示されている。マイクロ電極の製造方法は国際公開第2014/077017号パンフレットに開示されている。参照によりこれらの文献の記載を本明細書に組み入れる。
【0061】
ある実施形態において、電気化学的測定(例えばオゾン水濃度測定、尿酸濃度測定、溶液pH測定、又は塩素濃度測定)に用いる本発明のBDD作用電極はマイクロ電極とは言えない大きさの表面積をもつこともあり得る。ある実施形態において、電気化学的測定に用いる本発明のBDD作用電極は試料溶液(例えばオゾン水、尿酸溶液、pHを有する溶液、又は塩素溶液)に接触する表面積が、400,000μm2未満ではない。ある実施形態において、電気化学的測定に用いる本発明のBDD作用電極は、試料溶液に接触する表面積が、400,000μm2以上、例えば500,000μm2以上、例えば1mm2以上、10mm2以上、1cm2以上等であり得る。
【0062】
ある実施形態において、製造工程の複雑なマイクロ電極を用いる必要がなく、本発明の電極に又はそれを用いる方法により、無電解質のオゾン水濃度を高精度に測定することが可能となる。また、ある実施形態において、従来使用されているような、白金製の対電極、銀/塩化銀参照電極を用いる必要が無く、本発明の電極に又はそれを用いる方法により、無電解質のオゾン水濃度を高精度に測定することが可能となる。また、ある実施形態において、従来使用されているような、白金製の対電極、銀/塩化銀参照電極を用いる必要が無く、本発明の電極に又はそれを用いる方法により、尿酸濃度を高精度に測定することが可能となる。また、ある実施形態において、従来使用されているような、白金製の対電極、銀/塩化銀参照電極を用いる必要が無く、本発明の電極に又はそれを用いる方法により、溶液pHを高精度に測定することが可能となる。また、ある実施形態において、従来使用されているような、白金製の対電極、銀/塩化銀参照電極を用いる必要が無く、本発明の電極に又はそれを用いる方法により、塩素濃度を高精度に測定することが可能となる。
【0063】
参照電極は電位の基準となるため非常に重要である一方、飽和KCl溶液又は塩橋を必要とするなどその構成が煩雑であることから、測定の妨げとなったり、迅速な測定の障壁となっていた。本発明によれば、簡便な構成で三極電極を実現することができる。また本発明の三極電極により、オゾン水濃度を簡便かつ高感度に測定することができる。また本発明の三極電極により、尿酸濃度を簡便かつ高感度に測定することができる。また本発明の三極電極により、溶液pHを簡便かつ広い範囲で測定することができる。また本発明の三極電極により、塩素濃度を簡便かつ高感度に測定することができる。本発明の測定方法は電気化学的測定であるため、酵素法と異なり、使用毎に酵素を使い捨てにする必要がなく、ランニングコストが低い。また、吸光度法と異なり、光源や吸光度計を必要とせず、構成が簡便である。またガラス電極法における参照電極と異なり、飽和塩化カリウム溶液の補充及び濃度管理を必要とせず、参照電極がメンテナンスフリーであり、かつ、小型化が容易である。さらに、本発明の三極電極及び/又は装置により、オゾン水濃度、尿酸濃度、溶液pH、及び塩素濃度からなる群より選択される2以上の測定対象を測定することができる。
【0064】
本発明のBDD三極電極を用いると、作用電極のクリーニングが容易となる。また、参照電極に液体を使用する必要がなくなる。オゾンや塩素は腐食性が強く、これらの被験物質を測定すると、電極表面が徐々に汚れることがある。連続的に測定を行うためには、或いは繰り返し装置を使用するためには、作用電極をクリーニングすることが望ましい。ところが作用電極をクリーニングするときに、参照電極がAg/AgCl電極であると、飽和KCl溶液や塩橋といった構成がクリーニングの妨げとなったり、参照電極の取り外し及び再度の取付を必要とする等、洗浄操作が煩雑となる。三極電極がBDD三極電極である場合、いずれの電極も化学的に不活性なダイヤモンドであることから、強力な条件、例えば高電位を印加してクリーニングを行うことができる。これは、オゾン水濃度、尿酸濃度、溶液pH、及び塩素濃度からなる群より選択される測定対象を測定するときに特に有利である。
【実施例】
【0065】
以下の実施例は、例示のみを意図したものであり、何ら本発明の技術的範囲を限定することを意図するものではない。特に断らない限り、試薬は、市販されているか、又は当技術分野で慣用の手法、公知文献の手順に従って入手又は調製する。当業者であれば、本発明の精神から逸脱することなく、記載する手順を改変することができる。
【0066】
[実施例1 ホウ素ドープダイヤモンド電極の製造方法]
シリコン基板上に成膜したホウ素ドープダイヤモンド電極(BDD電極)は、以下の手順で作製した。すなわち、マイクロ波プラズマCVD装置(コーンズテクノロジー社製)を使用し、プラズマ発生用の水素ガスをチャンバー内に導入してプラズマを発生させた。次いで、炭素源としてアセトンを使用し、ホウ素源としてトリメトキシボランを使用し、キャリアガスとして水素ガスを使用し、アセトン及びトリメトキシボランを所定の混合比(ホウ素ドープ量が1%)で混合した混合液体をキャリアガスである水素ガスによるバブリングを行って気化して原料ガスとした。次いでこの原料ガスを、プラズマ用水素ガスとは別ラインでチャンバー内に導入した。
【0067】
具体的には前処理としてシリコン基板Si(100)表面をダイヤモンドパウダーで核付けし、次に炭素源としてアセトン50 mLとトリメチルボラン(ホウ素濃度1%)4 mLを用いて、プラズマ出力5000 Wで6時間、圧力110 Torrの条件で基板上に製膜した(コーンズテクノロジー社製、モデルA×5400)。
【0068】
[実施例2 銀塩化銀参照電極でのオゾン水濃度測定]
まず、参照電極として銀塩化銀電極(Ag/AgCl)を使用し、オゾン濃度の電気化学的測定を行った。すなわち、作用電極(Working Electrode、WE)及び対電極(Counter Electrode、CE)をBDD電極として、参照電極(Reference Electrode、RE)をAg/AgCl電極として、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)を行った。実験系の模式図を
図4に示す。
【0069】
セルは、テフロン(登録商標)製セルであり、作用電極の面積は0.502 cm2、直径は8 mmとした。また作用電極と参照電極の距離は2 mmとした。作用電極の前処理として、0.1 M過塩素酸中で、5 min、+3.5 Vを印加した。オゾン水生成器は、ChemO3(日科ミクロン社製)であり、超純水からオゾン水を生成した。なお、オゾンのモル吸光係数は
[数1]
ε = 3000/cm・M
であり、これはオゾン濃度
[数2]
c [M]= A/1[cm]/ε[/cm M]
であることによる。電気化学的測定では、LSVでオゾンの還元電流を測定した。分光測定では、UV吸光でオゾンの濃度を見積した。
【0070】
さまざまなオゾン濃度のオゾン水について、+0.7Vから-0.4Vまで、スキャン速度0.1V/sで走査し、電流値をモニタリングした。結果を
図1及び
図2に示す。
図1において、+0.15V付近にオゾンの検出ピークが濃度依存性がある状態で確認できる。また
図2に示すように、測定サンプルのオゾン濃度に対して+0.15Vにおける電流密度をプロットするとその間には相関があることが確認できた。
【0071】
[実施例3 参照電極としてのBDD電極の検討]
次に、作用電極にBDD、対電極にPt、参照電極として、Ag/AgCl又はBDDを用いて、0.1M KCl中における1mM フェリシアン化カリウムのサイクリックボルタンメトリー(CV)を行った。スキャン速度は0.1V/sで走査し、電流値をモニタリングした。結果を
図3に示す。
【0072】
フェリシアン化カリウムの酸化還元電位測定においてBDDを参照電極として使用した場合、Ag/AgClを参照電極として使用した場合と比較して、酸化還元電位にずれが生じるのみで、その他の挙動に特に大きな差は見られなかった。このことから、Ag/AgClの代わりに、BDDを参照電極として使用しうると考えられた。そこで実際にオゾン水濃度測定を行った。
【0073】
[BDD参照電極を用いたオゾン水濃度測定]
実験は作用電極と対電極にBDDを使用し、参照電極としてBDDを使用した。実験系は
図4の模式図のように構築した。また、他の金属電極が単独で参照電極として機能するか否かを確認するために、参照電極としてBDDの代わりにオゾン耐性に優れるSUS316ステンレス鋼を使用した。これはオゾンの腐食作用が強く、通常の金属では不適当と考えられたため、比較対照として、オゾン耐性に優れるSUS316ステンレス鋼を選択したものである。測定セルは標準セルを使用し、任意でサンプリングをしたオゾン水をLSVにより測定した。
【0074】
結果を
図5、
図6、
図7及び
図8に示す。オゾン水の測定において、参照電極としてBDDを使用した場合は、電位とその時に流れる電流密度との間に良好な相関関係を確認できたが、SUS316を使用した場合には相関関係が確認できなかった。相関係数についても参照電極としてBDDを使用した場合にはR
2=0.96~0.98前後と良好であったのに対して、SUS316を使用した場合にはR
2=0.09~0.30前後であった。これらの検証結果より、オゾン耐性のある金属材料であればどのようなものでも参照電極として使用できるというわけではなく、導電性ダイヤモンド電極だからこそ、参照電極として使用可能であると言える。以上のことより、BDDを参照電極として使用し、オゾン水濃度を電気化学的に測定することができた。すなわち、オゾン水濃度を電気化学的に測定する場合に使用する参照電極としてBDDが適している。
【0075】
[実施例4 BDD三極電極の製造方法]
次に、作用電極、対電極、及び参照電極がBDDである平板電極を以下の手順により作製した。
図9に模式図を示す。
図10は各構成を具体的に示した写真である。
図10中、白い板はセラミック基板である。右側に3つある部材がホウ素ドープダイヤモンド電極(BDD電極)である。これらは、シリコン基板上に成膜したBDD電極である。中央にピンヘッダを配置した。また左にケーブル付き端子を配置した。次に、これらの構成を以下の手順で加工した:
1.シリコン基板上に成膜したBDD電極をレーザ加工機で2mmx10mmに切断し、2.5mmピッチでセラミック基板上に接着剤で固定する。その際、電極表面に接着剤や指紋が付かないように注意する。
2.ピンヘッダ右側端子がBDD電極に重なるように接着剤で固定する。次に、ピンヘッダ右側端子とBDD電極間を導電性銀ペーストで接続する。
3.ケーブル付き端子をピンヘッダ左側端子に接続する。
4.ケーブルの先端をセラミック基板に接着テープ等で固定する。
5.前記2.銀ペースト接続部から、ピンヘッダを介して、端子付きケーブルまでのすべてをシリコン樹脂により覆って、絶縁処理を行う。特定の実施形態では、絶縁処理を行う長さは、セラミック基板右端から50mm前後とし得る。
6.この時にBDD電極の右側数mm、例えば5mm以上を残す。
7.BDD電極表面とケーブル左側先端の導通を確認する。
8.ケーブル3本の間がそれぞれ絶縁されていることを確認する。
加工した平板型の三極電極の写真を
図11及び
図12に示す。
図11及び12中の番号は上記の手順番号に対応する。
【0076】
作製した作用電極、対電極及び参照電極のいずれもがBDDである平板型の三極電極を使用して、オゾン水についてリニアスイープボルタンメトリー(LSV)を行った。測定セルは標準セルを使用し、任意でサンプリングをしたオゾン水をLSVにより測定した。
【0077】
結果を
図13及び
図14に示す。結論として、オゾン水の測定において、参照電極としてBDDを使用した場合は、電位とその時に流れる電流密度との間に良好な相関関係を確認することができた。相関係数もR
2=0.92~0.98前後と良好であった。10ppm以下でもオゾンを測定でき、また1ppm以下でもオゾンを測定することができた。
【0078】
[実施例5 オゾン水濃度測定装置を備えたオゾン水生成装置]
BDD作用電極、BDD参照電極、及びBDD対電極を有するオゾン水測定装置とオゾン発生装置とを連結して、オゾン水生成装置を構築する。このオゾン水生成装置は、オゾンを発生するオゾン発生装置と、当該オゾン発生装置によって発生したオゾンを含んだオゾン水のオゾン濃度を測定するオゾン水濃度測定装置とを備えた装置或いはシステムである。
【0079】
[実施例6 BDD三極電極を用いた尿酸の電気化学的検出]
BDD三極電極は、実施例4と同じものを使用した。ただし測定の前に、0.1M NaClO4(pH=7.10)溶液を使用し電極を電気化学的に前処理した。また作用電極が陰極還元状態となるような条件で測定を開始した。作用電極、対電極、参照電極のいずれについても、有効電極面積は約0.1cm2とした。リン酸緩衝溶液(pH=6.653)中に尿酸を0~100μMの濃度にてそれぞれ溶解させ、CV及びLSV法を用いて電気化学的測定を行った。CVは-1.0V~+1.5Vの範囲で行った。LSVは0.0V~+1.5Vの範囲で行った。
【0080】
CVの結果を
図15及び16に示す。CVの結果から+0.75Vをピーク電位とした。また、+0.75Vにおける尿酸濃度との関係をプロットした検量線を
図16に示す。
図16のとおり、尿酸濃度と電流密度との間に良好な相関関係が見られた(R
2=約0.99)。LSVの結果を
図17及び18に示す。LSVの結果から、+0.58Vをピーク電位とした。また、+0.58Vにおける尿酸濃度との関係をプロットした検量線を
図18に示す。
図18のとおり、尿酸濃度と電流密度との間に良好な相関関係が見られた(R
2=約0.99)。
【0081】
[実施例7 BDD三極電極を用いたpHの電気化学的測定]
BDD三極電極は、実施例4と同じものを使用した。作用電極、対電極、参照電極のいずれについても、有効電極面積は約0.1cm2とした。Briton-Robinson-Buffer(BRB)を使用した。各試料溶液のpHは、それぞれ、2.057、4.190、6.099、8.054、10.145にて調整した。測定はクロノポテンシオメトリー法にて行った。まず10秒間、0μA/cm2で保持し、その後、-2.0μA/cm2の電流を50秒間流した。
【0082】
結果を
図19及び20に示す。
図19がクロノポテンシオメトリーの結果であり、
図20が、60秒後の電位とpHとをプロットした結果である。
図20のとおり、pHと電位との間に相関関係が得られた。
【0083】
[実施例8 BDD三極電極を用いた塩素の電気化学的検出]
BDD三極電極は、以下の手順で作製した。電極基材に窒化ケイ素等の絶縁材料を用い、その表面にCVD装置を用いて導電性ダイヤモンド薄膜を成膜した。その後、レーザー加工機等によってダイヤモンド薄膜に溝を加工し、互いに絶縁された3電極を作製した(
図22)。さらに、加工後のダイヤモンド電極を固定して電気回路と接続するための電極を取り付けた(
図27)。
図22のダイヤモンド電極サイズは約10mm×10mmの正方形である。また、作製した
図27のBDD三極電極は、作用電極、対電極、参照電極のいずれについても、有効電極面積を約0.25cm
2とした。0.1M NaClO
4(pH=5.10 HClO
4でpH調製)中にNaClO(OCl
-)を180ppmとなるよう溶解させ、それをBlank溶液で希釈し、各濃度の塩素水を調製した。その後、LSV法により測定を行った。LSVは、0.0V~-2.2Vの範囲で行った。なお、測定の前に、0.1M NaClO
4(pH=7.10)溶液を使用し電極を電気化学的に前処理した。また作用電極が陰極還元状態となるような条件で測定を開始した。
【0084】
結果を
図25及び26に示す。LSVの結果から、-1.85Vをピーク電位とした。検量線は、-1.85Vのときの電流密度でプロットした。
図26のとおり、有効塩素濃度と電流密度との間に良好な相関関係が見られた(R
2=約0.98)。
【0085】
技術常識によれば金属電極単独では可逆の電極反応及び溶液中の物質との平衡が成立せず、したがって参照電極として機能しえない。ところが本発明者らが、作用電極、対電極及び参照電極の3電極をいずれも導電性ダイヤモンド電極で構成し、無電解質のオゾン水濃度を測定したところ、驚くべきことに、無電解質のオゾン水濃度を高精度に測定することができた。尿酸、溶液pH、塩素についても、同様に測定対象を効果的に測定することができた。金属電極単独では参照電極として機能しないという技術常識に鑑みれば、これは予想外の知見であり、驚くべきことであった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明により、構成の簡便な三極電極が実現できる。これは例えば無電解質のオゾン水濃度測定等に利用し得る。また、これは例えば尿酸濃度測定に利用し得る。また、これは例えば溶液のpH測定に利用し得る。また、これは例えば塩素濃度測定に利用し得る。さらに、本発明により、複数種の被験試料を測定可能な、マルチタスク型測定装置が実現できる。
【0087】
本明細書において言及された文献はいずれも、参照によりその全内容を本明細書に組み入れる。
【符号の説明】
【0088】
1 基材
2 導電性ダイヤモンド薄膜
3 溝