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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】化学発色ステンレス加工品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/38 20060101AFI20230502BHJP
【FI】
C25D11/38 302
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019138429
(22)【出願日】2019-07-29
(65)【公開番号】P2021021112
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】515005080
【氏名又は名称】株式会社アサヒメッキ
(74)【代理人】
【識別番号】100167645
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 一弘
(72)【発明者】
【氏名】川見 和嘉
(72)【発明者】
【氏名】木下 淳之
(72)【発明者】
【氏名】山中 尚
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/047527(WO,A1)
【文献】特開2008-256081(JP,A)
【文献】特開2000-119845(JP,A)
【文献】特開2018-188728(JP,A)
【文献】特開2007-023333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/00-11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス加工品を、処理液を流通するための網目を有し、回転速度0.5~1回転/minで回転するバレル、または処理液を流通するための網目を有し、収容したステンレス加工品を静止して載置可能な筐体のいずれかから選択された容器に積載して収容する処理品収容工程、
容器に収容されたステンレス加工品を、電解研磨する電解研磨処理工程、
電解研磨処理されたステンレス加工品を、クロム酸と硫酸の混合溶液からなる発色処理液に浸漬して、発色皮膜を生成する発色処理工程、
発色処理されたステンレス加工品を、クロム酸とリン酸の混合溶液からなる硬化処理液に浸漬して、発色処理工程で生成された発色皮膜を硬化する硬化処理工程、
とからなる化学発色ステンレス加工品の製造方法であって、
前記処理品収容工程において、容器に積載して収容するステンレス加工品の充填率(被処理加工品体積の容器体積に対する比率を百分率で表示した数値)が50%以上、かつ、被覆率(被処理品加工品が他の被処理加工品との重なりにより覆われる面積の被処理品加工品の面積に対する比率を百分率で表示した数値)が30%以上であることを特徴とする化学発色ステンレス加工品の製造方法。
【請求項2】
ステンレス加工品を、処理液を流通するための網目を有し、回転速度0.5~1回転/minで回転するバレル、または処理液を流通するための網目を有し、収容したステンレス加工品を静止して載置可能な筐体のいずれかから選択された容器に積載して収容する処理品収容工程、
容器に収容されたステンレス加工品を、クロム酸と硫酸の混合溶液からなる発色処理液に浸漬して、発色皮膜を生成する発色処理工程、
発色処理されたステンレス加工品を、クロム酸とリン酸の混合溶液からなる硬化処理液に浸漬して、発色処理工程で生成された発色皮膜を硬化する硬化処理工程、
とからなる化学発色ステンレス加工品の製造方法であって、
前記処理品収容工程において、容器に積載して収容するステンレス加工品の充填率(被処理加工品体積の容器体積に対する比率を百分率で表示した数値)が50%以上、かつ、被覆率(被処理品加工品が他の被処理加工品との重なりにより覆われる面積の被処理品加工品の面積に対する比率を百分率で表示した数値)が30%以上であることを特徴とする化学発色ステンレス加工品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、化学発色ステンレス加工品の製造方法に関する。特に、ステンレス加工品を容器(例、バレル、カゴ)に収容して発色皮膜形成、発色皮膜硬化を行う化学発色ステンレス加工品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼材は、耐腐食性に優れるため工業製品、家庭用品に広く採用されている。しかし、ステンレス鋼材は銀白色の金属光沢が強いため、ステンレス鋼材を使用したステンレス加工品の意匠はクールな色調となり、温かみのある色調を求める使用者に抵抗感を与えるという問題がある。このため、温かみのある色調に発色したステンレス加工品が求められている。
【0003】
ステンレス鋼材を発色する方法としては、ステンレス鋼材を酸化発色させて発色皮膜を生成した後に電解処理して皮膜を硬化させる方法があり、クロム酸を使用したインコ法による酸化発色が広く採用されている(特許文献1)。
【0004】
特許文献2には、鉄鋼製物品の電解クロメート処理する能率を高めるため、バレル式電解クロメート処理の処理液について開示されている。しかしながら、処理能力を高めるための鉄鋼製物品の収容方法については開示されていない。
【0005】
特許文献3には、スパークプラグ用主体金具について、準備工程とクロメート層形成工程からなるバレル方式でクロメート層を形成する方法が開示されている。しかしながら、処理能力を高めるための鉄鋼製物品の収容方法については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭54- 10245号公報
【文献】特開2007-270356号公報
【文献】特開2013-101800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、化学発色処理を行うステンレス加工品(以下、「被処理加工品」という。)を容器に積載して収容した状態で、化学発色皮膜を形成する化学発色ステンレス加工品を高品質かつ高生産性で提供できる化学発色ステンレス加工品の製造方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明の課題は、以下の態様により解決できる。具体的には、
【0009】
(態様1) ステンレス加工品を、処理液を流通するための網目を有し、回転速度0.5~1回転/minで回転するバレル、または処理液を流通するための網目を有し、収容したステンレス加工品を静止して載置可能な筐体のいずれかから選択された容器に積載して収容する収容工程、容器に収容されたステンレス加工品を、電解研磨する電解研磨処理工程、電解研磨処理されたステンレス加工品を、クロム酸と硫酸の混合溶液からなる発色処理液に浸漬して、発色皮膜を生成する発色処理工程、発色処理されたステンレス加工品を、クロム酸とリン酸の混合溶液からなる硬化処理液に浸漬して、発色処理工程で生成された発色皮膜を硬化する硬化処理工程、とからなる化学発色ステンレス加工品の製造方法であって、前記処理品収容工程において、容器に積載して収容するステンレス加工品の充填率(被処理加工品体積の容器体積に対する比率を百分率で表示した数値)が50%以上、かつ、被覆率(被処理品加工品が他の被処理加工品との重なりにより覆われる面積の被処理品加工品の面積に対する比率を百分率で表示した数値)が30%以上であることを特徴とする化学発色ステンレス加工品の製造方法である。
処理液を流通するための網目を有し、回転速度0.5~1回転/minで回転するバレル、または処理液を流通するための網目を有し、収容したステンレス加工品を静止して載置可能な筐体を収容容器として採用することが化学発色ステンレス加工品を高品質かつ高生産性で提供できるからである。
また、容器に積載して収容するステンレス加工品の充填率が50%以上、かつ、被覆率が30%以上とすることで化学発色ステンレス加工品の高生産性を実現できるからである。
【0010】
(態様2) ステンレス加工品を、処理液を流通するための網目を有し、回転速度0.5~1回転/minで回転するバレル、または処理液を流通するための網目を有し、収容したステンレス加工品を静止して載置可能な筐体のいずれかから選択された容器に積載して収容する収容工程、容器に収容されたステンレス加工品を、クロム酸と硫酸の混合溶液からなる発色処理液に浸漬して、発色皮膜を生成する発色処理工程、発色処理されたステンレス加工品を、クロム酸とリン酸の混合溶液からなる硬化処理液に浸漬して、発色処理工程で生成された発色皮膜を硬化する硬化処理工程、とからなる化学発色ステンレス加工品の製造方法であって、前記処理品収容工程において、容器に積載して収容するステンレス加工品の充填率(被処理加工品体積の容器体積に対する比率を百分率で表示した数値)が50%以上、かつ、被覆率(被処理品加工品が他の被処理加工品との重なりにより覆われる面積の被処理品加工品の面積に対する比率を百分率で表示した数値)が30%以上であることを特徴とする化学発色ステンレス加工品の製造方法である。
処理液を流通するための網目を有し、回転速度0.5~1回転/minで回転するバレル、または処理液を流通するための網目を有し、収容したステンレス加工品を静止して載置可能な筐体を収容容器として採用することが化学発色ステンレス加工品を高品質かつ高生産性で提供できるからである。
また、容器に積載して収容するステンレス加工品の充填率が50%以上、かつ、被覆率が30%以上とすることで化学発色ステンレス加工品の高生産性を実現できるからである。
【発明の効果】
【0012】
本願発明によれば、被処理加工品の収容容器への充填率を50%以上、被処理加工品の被覆率を30%以上とすることで、化学発色ステンレス加工品を高品質かつ高生産性で提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本願発明の化学発色ステンレス品の製造方法を構成する工程の流れを示す工程図である。
図2】本願発明の化学発色ステンレス品の製造方法における被処理加工品を、網目を有する回転可能なバレルに収容した態様を示す模式図である。
図3】本願発明の化学発色ステンレス品の製造方法における被処理加工品を、網目を有する静止して載置可能な筐体に収容した態様を示す模式図である。
図4】本願発明の被処理加工品を、網目を有する回転可能なバレルに収容して化学発色ステンレス品とする処理工程を示す模式図である。
図5】本願発明の被処理加工品を、網目を有する静止して載置可能な筐体に収容して化学発色ステンレス品とする処理工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願発明の化学発色ステンレス加工品の製造方法は、図1に示すように、処理品収容工程、電解研磨処理工程、発色処理工程、硬化処理工程からなる。ただし、電解研磨処理工程は、化学発色処理を行うステンレス加工品により任意に選択することができる。
【0015】
1.処理品収容工程
本願発明の処理品収容工程は、被処理加工品を容器に積載して収容する化学発色処理前の準備工程である。化学発色処理の品質安定性を高くするためには、被処理品の形状に合わせて被処理加工品を収容する容器(以下、「収容容器」という。)を適切に選定する必要がある。また、化学発色処理の生産性を高めるためには、被処理加工品の被覆率を高くして、収容容器に対する被処理加工品の充填率を高くする必要がある。以下、被処理加工品、収容容器、接触率、充填率について説明する。
【0016】
(1-1) 被処理加工品
本願発明の被処理加工品は、化学発色処理を行って優れた美観を呈する小物物品、すなわち意匠性に優れた小物物品であれば特に限定されるものではない。具体的には、メダル、スプリング、釘、玩具等が挙げられる。なお、本加工品は化学発色処理をしたステンレス鋼材を加工したものでも、ステンレス鋼材を加工した後に化学発色処理をしたもののいずれでもよい。
本願発明の被処理加工品に採用されるステンレス鋼材は、日本工業規格 (JIS G 0203)で定義されるステンレス鋼、すなわち、炭素を 1.2 % 以下、クロムを 10.5 % 以上含み、耐食性を向上させた合金鋼をいい、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼等から小物物品の特性、加工性から適切に選択することができる。
【0017】
(1-2)収容容器
本願発明の収容容器とは、被処理加工品を収容する容器をいい、被処理加工品を収容して電解研磨処理工程、発色処理工程、硬化処理工程を行うための容器である。容器は、純金属チタン材を成形したものであり、処理液を流通するための網目を有する。網目の大きさは、被処理加工品の大きさにより適宜選択でき、本願発明では、1mm×6mmの網目を選択している。
本願発明の収容容器は、バレル(樽)構造、筐体(籠)構造の容器を被処理加工品の形態に応じて適切に選択できる。
【0018】
図2は、網目を有するバレル(樽)構造容器に被処理加工品(円盤状のメダル)を収容した態様を示す模式図である。バレル(樽)構造容器は、円盤状、角盤状の平面構造を有する被処理加工品に好適に採用できる。
バレル(樽)構造容器は、円柱形状、角柱形状を適宜選択できるが、円柱形状、円柱形状に近い角柱形状が好ましい。なお、バレル(樽)構造容器には、上部をカットした半回転開放型バレルもある。
バレル(樽)構造容器の内部には段差を設けない構造が好ましい。これは、被処理加工品のバレル(樽)構造容器内での動きを、被処理加工品が互いに常時平らに接触して滑るように動かすことで、被処理加工品に安定した発色電位が確保されて被処理加工品の発色ムラが生じず、被処理加工品のキズを防止できるからである。
同様の理由で、本願発明のバレル(樽)構造容器の回転速度は、最小限とすることが好ましく、0.5~1回転/minが好適に採用される。
【0019】
本願発明の被処理加工品のバレル(樽)構造容器への充填率は、50%以上である。充填率を50%以上とすることで、生産性が向上するからである。ここで、充填率とは、被処理加工品の体積/バレル(樽)構造容器の体積を百分率で表示した数値である。
本願発明の被処理加工品のバレル(樽)構造容器内での被覆率は、 ここで、被覆率とは、被処理加工品が他の被処理加工品との重なりより覆われる面積比率を百分率で表示した数値である。
本願発明において、被処理加工品の充填率50%以上、被覆率30%以上とできるのは、本願発明の化学発色ステンレス加工品の製造方法においては、クロメート処理により被処理加工品の表面構造を改質するものであり、電解研磨処理工程、化学発色処理工程、硬化処理工程のいずれにおいても、被処理加工品が被覆されていることは影響しないからである。この点は、表面メッキ処理のように、被処理加工品の表面に新たな皮膜を積層するものとは異なる。
【0020】
図3は、網目を有する静止して載置可能な筐体(籠)構造容器に被処理加工品(釘)を収容した態様を示す模式図である。筐体(籠)構造容器は、上部を開放した丸型形状または角型形状である。釘、スプリング等の立体的構造を有して積層した場合に空隙が生じやすい被処理加工品に好適に採用できる。被処理加工品は、静置して載置される。
【0021】
図4は、本願発明の被処理加工品を、網目を有する回転可能なバレル(樽)構造の容器1に収容して化学発色ステンレス加工品(完成品)とする処理工程を示す模式図である。
バレル(樽)構造の容器1に収容した被処理加工品2を電解処理槽5に浸漬し、電解研磨処理液6中で、純金属チタンで成型されたバレル(樽)構造の容器1を陽極とし、陰極板7との間に直流電流を流して電解研磨処理を行う。
ついで、バレル(樽)構造の容器1に収容した被処理加工品2を発色処理槽8に浸漬し、発色処理液9中で、純金属チタンで成型されたバレル(樽)構造の容器1と参照電極10との間の電位差を計測して、被処理加工品2の表面に極薄の光透過性酸化皮膜(以下、「発色皮膜」という。)を形成する。
さらに、バレル(樽)構造の容器1に収容した被処理加工品2を硬化処理槽11に浸漬し、硬化処理液12中で、純金属チタンで成型されたバレル(樽)構造の容器1を陰極とし、陽極板13との間に直流電流を流して硬化処理を行う。
なお、バレル(樽)構造容器1の回転速度は、0.5~1回転/minである。
【0022】
図5は、本願発明の被処理加工品を、網目を有する静止して載置可能な筐体(籠)構造の容器3に収容して化学発色ステンレス加工品(完成品)とする処理工程を示す模式図である。基本的に収容容器の差であり、上述した網目を有する回転可能なバレル(樽)構造の容器1の処理内容と同様である。
筐体(籠)構造の容器3に収容した被処理加工品2を電解処理槽5に浸漬し、電解研磨処理液6中で、純金属チタンで成型された筐体(籠)構造の容器3を陽極とし、陰極板7との間に直流電流を流して電解研磨処理を行う。
ついで、筐体(籠)構造の容器3に収容した被処理加工品2を発色処理槽8に浸漬し、発色処理液9中で、純金属チタンで成型された筐体(籠)構造の容器3と参照電極10との間の電位差を計測して、被処理加工品2の表面に発色皮膜を形成する。
さらに、筐体(籠)構造の容器3に収容した被処理加工品2を硬化処理槽11に浸漬し、硬化処理液12中で、純金属チタンで成型された筐体(籠)構造の容器3を陰極とし、陽極板13との間に直流電流を流して硬化処理を行う。
なお、筐体(籠)構造の容器3は、被処理加工品2を静置した状態で処理を行う。
【0023】
以下、本願発明の電解研磨処理工程、発色処理工程、硬化処理工程について説明する。
【0024】
2.電解研磨処理工程
本願発明の電解研磨処理工程は、処理品収容工程において容器に収容された被処理加工品を電解研磨する工程である。被処理加工品の態様によっては省略することができる。
電解研磨処理は、電解研磨処理槽に被処理加工品に応じた電解研磨処理液中で、被処理加工品を陽極として、陰極板との間に直流電流を流して、微細な凹凸のある金属表面の凸部分の溶解により金属表面を平滑化し光沢化する研磨方法である。バフ研磨などの物理的研磨により発生した汚れ、異物、加工変質層を除去できる。
【0025】
電解研磨液の種類は過酸化水素水,氷酪酸,燐酸,硫酸,硝酸,クロム酸,重クロム酸ソーダ等の単独または混合酸性水溶液が好ましい。その他、添加剤としてエチレングリコールモノエチルエーテル,エチレングリコールモノブチルエステルやグリセリンを使用することができる。これら添加剤は電解液を安定化させ、濃度変化、経時変化、使用による劣化に対して適正電解範囲を広げる効果がある。
【0026】
具体的には、40~80vol%リン酸、5~30vol%硫酸、15~20vol%水、0~35vol%エチレングリコールからなる電解液中で、40~70℃、3~10min、直流(10~30V、3~60A/dm3)で行うことができる。
【0027】
3.発色処理工程
本願発明の発色処理工程は、被処理加工品、または電解研磨処理を経た被処理加工品の表面に発色皮膜を形成する工程である。被処理加工品は発色皮膜による光の干渉作用を利用して発色する。被処理加工品の素地表面が持つ美麗さを反映した趣のある色調を発現させることが可能である。
【0028】
(3-1)発色処理
発色処理は、硫酸とクロム酸との混合液(以下、「発色処理液」という。)中に被処理加工品を浸漬し、参照電極との電位差により所望する発色皮膜を生成する、いわゆるインコ法を採用する(特開昭48-011243号公報参照)。
光の干渉ピークから光学的に発色皮膜の厚みを求めると、被処理加工品の表面に生成される発色皮膜の厚みは、参照極との電位差(以下、「発色電位」という。)に比例する。その値は、各色調において、6mV(ブルー:90nm)、13mV(ゴールド:150nm)、16mV(レッド:180nm)、19.5mV(グリーン:220nm)である(竹内 武著、実務表面技術33巻11号、1986年 参照)。この発色皮膜の厚みは、被処理加工品に生成されている不動態皮膜の厚み(1~3nm)に比べて有意に大きい。
したがって、被処理加工品に生じる色ムラは、発色皮膜の厚みのばらつきにより生じるため、発色皮膜の厚みを制御することが肝要である。
【0029】
(3-2)発色皮膜
発色皮膜の生成速度を低くすることで、色調の発現を穏やかにして、色むらを低減することができる。被処理加工品の表面に生成される発色皮膜の厚みは、発色電位と相関があるからである。
発色溶液中の硫酸とクロム酸の混合比(クロム酸/硫酸)は、クロム酸15~30wt/vl%に対し、硫酸40~50wt/vl%が好適である。クロム酸濃度を低減することで、発色皮膜の生成速度を低くすることができ、発色皮膜の生成厚みを精密に制御できるからである。
発色皮膜の生成速度は、発色電位速度(mV/sec)で制御することができる。発色電位速度は、0.02~0.08mV/sec、好ましくは0.050~0.065mV/secである。発色電位速度が0.02mV/sec未満であると発色皮膜の生成が遅れ生産性が低下するからである。発色電位速度が0.08mV/secを超えると生成した発色皮膜の厚みが不均一となり、色調の違和感、色ムラが生じるからである。
【0030】
(3-3)マンガンイオン
発色溶液中のクロム酸濃度の低減に伴う発色皮膜の生成速度を補うために、マンガンイオン(Mn2+)を添加することができる。発色溶液に用いるマンガン塩としては、塩酸マンガン(MnCl2)、硫酸マンガン(MnSO4)、硝酸マンガン(Mn(NO3)2)などがあり、これらの中の1種または2種以上を用いることができる。発色溶液中のマンガンイオン(Mn2+)濃度は、0.5~300mmol/Lが好ましく、5~150mmol/Lがより好ましい。マンガンイオン(Mn2+)濃度が0.5mmol/L未満では、発色皮膜の生成を促す効果がなく、マンガンイオン(Mn2+)濃度が300mmol/Lを超えると不溶な部分が残って、発色皮膜の生成に影響を及ぼすからである。
【0031】
4.硬化処理工程
本願発明の硬化処理工程は、発色皮膜を形成した被処理加工品を電解処理して発色皮膜を硬化させる工程である。
硬化処理は、硬化処理槽に被処理加工品をリン酸とクロム酸との混合液からなる硬化処理液中で、被処理加工品を陰極として、陽極板との間に直流電流を流して、電解によりクロムを発色皮膜の多孔部分に埋め込ませることにより発色皮膜を硬化させる硬化処理を施し、被処理加工品表面に金属光沢を有する各種色調の発色を施すようにしたものである。
【0032】
5.色調評価
硬化処理工程を経た被処理加工品の外観について、「色調」を「目視による色の識別」と1976年にCIE(国際照明委員会)で決められたL*、a*、b*表色系(JISZ8781-4:2013)に準拠(以下、「CIELAB」により評価した。なお、分光測色計(コニカミノルタ製、CM-2600d)によりCIELABを測定した。
ここで、CIELABとは、ほぼ完全な色空間であり、国際照明委員会(CIE)が策定したものである。人間の目で見えるすべての色を記述でき、機器固有モデルの基準として利用できるようにしたものである。CIELABの3つの座標、色の明度(L=0は黒、L=100は白の拡散色)、赤/マゼンタと緑の間の位置(a<0は緑寄り、a>0はマゼンタ寄り)、黄/青の間の位置(b<0は青寄り、b>0は黄寄り)に対応している。
【実施例
【0033】
次に本願発明の効果を奏する実施態様を実施例として示す。また、そのまとめを表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
<実施例1~5>
(1)被処理加工品と収容容器
ステンレス鋼板を打ち抜いて成形したメダル(直径20mm、厚さ1mm)を、網目を有する回転可能な純金属チタンで構成されるバレル(樽)構造の容器(直径300mm×長さ1300mm)に積載した。充填率は80%であり、被覆率は40~100%であった。充填率は計算により、被覆率は目視で計測した。
【0036】
(2)電解研磨処理
バレル(樽)構造の容器に収容した被処理加工品を以下の条件で、電解研磨処理を行い、電解研磨処理品を作製した。
[電解研磨処理条件]
・電解研磨液組成 リン酸70ml/L、硫酸20ml/L、エチレングリコール0.2ml/L
・処理温度 70℃
・処理時間 5min
・電解電圧 6V
・電流密度 10A/dm
【0037】
(3)発色処理
電解研磨処理品を、発色電位を変えて、以下の条件で発色処理を行い、発色処理品1~5を作製した。なお、目的の電位に到達後、速やかに容器の引き上げを行った。
〔発色処理条件〕
・発色液組成 三酸化クロム250g/L、硫酸500g/L
・処理温度 65℃
・発色電位 4mV、8mV、15mV、18mV、21mV
【0038】
(4)硬化処理
発色処理品1~5について、以下の条件で硬化処理を行い、化学発色ステンレス加工品(完成品)1~5を作製した。
〔硬化処理条件〕
・硬化液組成 三酸化クロム250g/L、リン酸2.5g/L
・処理温度 25℃
・処理時間 5min
・電流密度 1A/dm2
【0039】
(5)色調評価
化学発色ステンレス加工品(完成品)1~5について、目視で色調を確認した。色調は、表1に示す通り、それぞれ順に、「茶」、「青」、「ゴールド」、「赤紫」、「緑」であった。さらに、分光測色計(コニカミノルタ製、CM-2600d)によりCIELABを計測した。CIELABは、表1に示す通りであった。
【0040】
<実施例6~10>
電解研磨処理工程を省略した以外は、実施例1~5と同様に化学発色ステンレス加工品(完成品)6~10を製作した。
色調は、表1に示す通り、それぞれ順に、「濃茶」、「濃紺」、「濃黄」。「濃赤紫」、「濃緑」であった。さらに、分光測色計(コニカミノルタ製、CM-2600d)によりCIELABを計測した。CIELABは、表1に示す通りであった。
【0041】
<実施例11~15>
(1)被処理加工品と収容容器
ステンレス鋼からなるスプリング(直径10mm、長さ300mm)を、網目を有する回転可能な純金属チタンで構成されるバレル(樽)構造の容器(直径300mm×長さ1300mm)に積載した。充填率は70%であり、被覆率は40~100%であった。充填率は計算により、被覆率は目視で計測した。
【0042】
(2)電解研磨処理
バレル(樽)構造の容器に収容した被処理加工品を以下の条件で、電解研磨処理を行い、電解研磨処理品を作製した。
[電解研磨処理条件]
・電解研磨液組成 リン酸70ml/L、硫酸20ml/L、エチレングリコール0.2ml/L
・処理温度 70℃
・処理時間 5min
・電解電圧 6V
・電流密度 10A/dm
【0043】
(3)発色処理
電解研磨処理品を、発色電位を変えて、以下の条件で発色処理を行い、発色処理品11~15を作製した。なお、目的の電位に到達後、速やかに容器の引き上げを行った。
〔発色処理条件〕
・発色液組成 三酸化クロム250g/L、硫酸500g/L
・処理温度 65℃
・発色電位 4mV、8mV、15mV、18mV、21mV
【0044】
(4)硬化処理
発色処理品11~15について、以下の条件で硬化処理を行い、化学発色ステンレス加工品(完成品)11~15を作製した。
〔硬化処理条件〕
・硬化液組成 三酸化クロム250g/L、リン酸2.5g/L
・処理温度 25℃
・処理時間 5min
・電流密度 1A/dm2
【0045】
(5)色調評価
化学発色ステンレス加工品(完成品)11~15について、目視で色調を確認した。色調は、表1に示す通り、それぞれ順に、「茶」、「青」、「ゴールド」、「赤紫」、「緑」であった。さらに、分光測色計(コニカミノルタ製、CM-2600d)によりCIELABを計測した。CIELABは、表1に示す通りであった。
【0046】
<実施例16~20>
電解研磨処理工程を省略した以外は、実施例1~5と同様に化学発色ステンレス加工品(完成品)16~20を製作した。
色調は、表1に示す通り、それぞれ順に、「濃茶」、「濃紺」、「濃黄」。「濃赤紫」、「濃緑」であった。さらに、分光測色計(コニカミノルタ製、CM-2600d)によりCIELABを計測した。CIELABは、表1に示す通りであった。
【0047】
<実施例21~25>
(1)被処理加工品と収容容器
ステンレス鋼からなるスプリング(直径10mm、長さ30mm)を、網目を有する静止して載置可能な純金属チタンで構成される筐体(籠)構造の容器(直径300mm×長さ300mm)に積載した。充填率は70%であり、被覆率は30~60%であった。充填率は計算により、被覆率は目視で計測した。
【0048】
(2)電解研磨処理
バレル(樽)構造の容器に収容した被処理加工品を以下の条件で、電解研磨処理を行い、電解研磨処理品を作製した。
[電解研磨処理条件]
・電解研磨液組成 リン酸70ml/L、硫酸20ml/L、エチレングリコール0.2ml/L
・処理温度 70℃
・処理時間 5min
・電解電圧 6V
・電流密度 10A/dm
【0049】
(3)発色処理
電解研磨処理品を、発色電位を変えて、以下の条件で発色処理を行い、発色処理品21~25を作製した。なお、目的の電位に到達後、速やかに容器の引き上げを行った。
〔発色処理条件〕
・発色液組成 三酸化クロム250g/L、硫酸500g/L
・処理温度 65℃
・発色電位 4mV、8mV、15mV、18mV、21mV
【0050】
(4)硬化処理
発色処理品21~25について、以下の条件で硬化処理を行い、化学発色ステンレス加工品(完成品)21~25を作製した。
〔硬化処理条件〕
・硬化液組成 三酸化クロム250g/L、リン酸2.5g/L
・処理温度 25℃
・処理時間 5min
・電流密度 1A/dm2
【0051】
(5)色調評価
化学発色ステンレス加工品(完成品)21~25について、目視で色調を確認した。色調は、表1に示す通り、それぞれ順に、「濃茶」、「濃紺」、「濃黄」。「濃赤紫」、「濃緑」であった。さらに、分光測色計(コニカミノルタ製、CM-2600d)によりCIELABを計測した。CIELABは、表1に示す通りであった。
【0052】
<実施例26~30>
(1)被処理加工品と収容容器
ステンレス鋼からなる釘(長さ50mm)を、網目を有する静止して載置可能な純金属チタンで構成される筐体(籠)構造の容器(直径300mm×長さ300mm)に積載した。充填率は50%であり、被覆率は30~60%であった。充填率は計算により、被覆率は目視で計測した。
【0053】
(2)電解研磨処理
バレル(樽)構造の容器に収容した被処理加工品を以下の条件で、電解研磨処理を行い、電解研磨処理品を作製した。
[電解研磨処理条件]
・電解研磨液組成 リン酸70ml/L、硫酸20ml/L、エチレングリコール0.2ml/L
・処理温度 70℃
・処理時間 5min
・電解電圧 6V
・電流密度 10A/dm
【0054】
(3)発色処理
電解研磨処理品を、発色電位を変えて、以下の条件で発色処理を行い、発色処理品26~30を作製した。なお、目的の電位に到達後、速やかに容器の引き上げを行った。
〔発色処理条件〕
・発色液組成 三酸化クロム250g/L、硫酸500g/L
・処理温度 65℃
・発色電位 4mV、8mV、15mV、18mV、21mV
【0055】
(4)硬化処理
発色処理品21~25について、以下の条件で硬化処理を行い、化学発色ステンレス加工品(完成品)26~30を作製した。
〔硬化処理条件〕
・硬化液組成 三酸化クロム250g/L、リン酸2.5g/L
・処理温度 25℃
・処理時間 5min
・電流密度 1A/dm2
【0056】
(5)色調評価
化学発色ステンレス加工品(完成品)26~30について、目視で色調を確認した。色調は、表1に示す通り、それぞれ順に、「濃茶」、「濃紺」、「濃黄」。「濃赤紫」、「濃緑」であった。さらに、分光測色計(コニカミノルタ製、CM-2600d)によりCIELABを計測した。CIELABは、表1に示す通りであった。
【0057】
<まとめ>
(1)本願発明の網目を有する回転可能な純金属チタンで構成されるバレル(樽)構造の容器、網目を有する静止して載置可能な純金属チタンで構成される筐体(籠)構造の容器のいずれにおいても、充填率50%以上、被覆率30%以上で、種々の色調を呈する化学発色ステンレス加工品を色調の再現性よく製造できた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本願発明により、色調再現性に優れ、工業的色調を高度化させた、化学発色化技術を用いた、耐腐食性に優れる化学発色ステンレス加工品を提供できる。
【符号の説明】
【0059】
1 網目を有する回転可能なバレル
2 被処理加工品(円盤)
3 網目を有する静止して載置可能な筐体
4 被処理加工品(釘)
5 電解研磨処理槽
6 電解研磨処理液
7 陰極板
8 発色処理槽
9 発色処理液
10 参照電極
11 硬化処理槽
12 硬化処理液
13 陽極板
図1
図2
図3
図4
図5