(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】工作機械の送り軸の熱誤差の予測方法、装置及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
G06N 3/126 20230101AFI20230502BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20230502BHJP
【FI】
G06N3/126
B23Q17/00 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022206206
(22)【出願日】2022-12-23
【審査請求日】2023-03-08
(31)【優先権主張番号】202111609309.7
(32)【優先日】2021-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516333551
【氏名又は名称】東莞理工学院
(73)【特許権者】
【識別番号】522499324
【氏名又は名称】東莞市固達機械制造有限公司
【氏名又は名称原語表記】DONGGUAN GOODA MACHINERY MANUFACTURING CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Building 1, NO. 216, Huanchang North Road, Changping Town, Dongguan City, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】尹 玲
(72)【発明者】
【氏名】張 斐
(72)【発明者】
【氏名】凌 益民
【審査官】坂庭 剛史
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102736558(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104680024(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109146209(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 3/12- 3/126
G06N 20/00-99/00
G06F 18/27
B23Q 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の送り軸の熱誤差測量値を時系列に従って採集して熱誤差訓練母集団を形成するステップS1と、
ARMAモデルを作成し、
遺伝的アルゴリズムによりパラメータ変数p、qとベクトルα
i、β
jを最適化するステップS3、及び、
ステップS3に最適化されたパラメータ変数p、qとベクトルα
i、β
jをARMAモデルに代入してGA-ARMAモデルを取得し、GA-ARMAモデルにより、工作機械の送り軸の熱誤差を予測するステップS4を含み、
ステップS3は、
ハイブリッド符号化により、変数p、qとベクトルα
i、β
jを符号化して複数の個体遺伝子を個体数として形成し、個体遺伝子を(p 、q 、α
1 、α
2 、…、α
maxp 、β
1 、β
2 、…、β
maxq)として定義し、そのうち、maxpとmaxqは、それぞれpとqとの最大値であり、すべての個体遺伝子の適応値を算出するステップS3-1、
ルーレット方式によるアルゴリズムにより、個体数から二つの個体の遺伝子を親世代として選択するステップS3-2、
二つの親世代の個体の遺伝子をランダムで交叉操作して次世代の個体遺伝子を形成するステップS3-3、
次世代の個体遺伝子を変異して新しい個体遺伝子を取得し、この新しい個体遺伝子の適応値を算出し、新しい個体遺伝子を個体数に追加するステップS3-4、及び、
終了の条件が満たされるまでステップS3-2乃至ステップS3-4を繰り返し、適応値が最高になる個体遺伝子をパラメータ変数p、qとベクトルα
i、β
jとして選択するステップS3-5
を含み、
前記ランダムで交叉操作することは、
親世代における二つの個体遺伝子に含まれている要素をそれぞれ並べる、ステップS3-3-1、
0~1間の乱数を順にそれぞれ生成するステップS3-3-2、
乱数が0.5よりも大きい場合に、番号が親世代の二つの個体遺伝子と対応する要素を置換し、乱数が0.5以下である場合にそのままにすることにより、二つの次世代の個体遺伝子を取得するステップS3-3-3、及び、
二つの次世代の個体遺伝子の適応値をそれぞれ算出し、適応値が大きい次世代の個体遺伝子を保留するステップS3-3-4
を含む、
ことを特徴とする工作機械の送り軸の熱誤差予測方法。
【請求項2】
個体遺伝子の適応値を算出することは、
個体遺伝子に含まれている変数p、qとベクトルα
i、β
jをARMAモデルに代入し、訓練母集団における各タイミングと対応する測量値を算出すること、及び、
各タイミングでの予測値と測量値との差分の絶対値をそれぞれ算出して、総和を求め、求められた和の逆数を適応値とすること、を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の工作機械の送り軸の熱誤差予測方法。
【請求項3】
前記S3-5における終了の条件は、100回だけ繰り返しを行っても依然として、最大の適応値がまだ更新されないということである、ことを特徴とする請求項1に記載の工作機械の送り軸の熱誤差予測方法。
【請求項4】
前記S3-4における次世代の個体遺伝子を変異して新しい個体遺伝子を取得することは、一つの0~1間の数値をランダムで生成し、当該数値が変異率よりも小さい場合に、当該個体遺伝子における一つの要素をランダムで置換することを含み、
前記変異率を取得することは、異なる変異率におけるGA-ARMAモデルの平均絶対誤差MAEを算出し、最小の平均絶対誤差MAEと対応する変異率を選ぶことを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の工作機械の送り軸の熱誤差予測方法。
【請求項5】
前記熱誤差訓練母集団を採集することは、
工作機械を4000rpm~10000rpmにおけるランダムな回転速度で、二時間だけアイドリングして稼働させてから、稼働を止めて1.5時間だけ冷却するステップS1-1、
所定時間をおいて工作機械の送り軸の変形量をサンプリングするステップS1-2、及び、
ステップS1-2における変形量を時系列でソートして訓練母集団を取得するステップS1-3を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の工作機械の送り軸の熱誤差予測方法。
【請求項6】
工作機械の送り軸の熱誤差測量値を時系列で採集し、熱誤差訓練母集団を形成するための採集モジュール、
ARMAモデルを作成するためのものであって、
ARMAモデルは、
遺伝的アルゴリズムによりパラメータ変数p、qとベクトルα
i、β
jとを最適化するための最適化モジュール、
最適化されたパラメータ変数p、qとベクトルα
i、β
jをARMAモデルに代入してGA-ARMAモデルを取得し、GA-ARMAモデルにより、工作機械の送り軸の熱誤差を予測するための予測モジュール、を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の工作機械の送り軸の熱誤差予測方法。
【請求項7】
コンピューター読み取り可能な記録媒体であって、前記コンピューター読み取り可能な記録媒体に記憶されているコンピュータープログラムがプロセッサーにより実行されると請求項1乃至5のいずれか一項に記載の工作機械の送り軸の熱誤差予測方法を実現する、ことを特徴とするコンピューター読み取り可能な記録媒体。
【請求項8】
コンピューター読み取り可能な記録媒体、プロセッサー及び前記コンピューター読み取り可能な記録媒体に記憶されている工作機械の送り軸の熱誤差予測プログラムを含み、前記工作機械の送り軸の熱誤差予測プログラムを実行すると請求項1乃至5のいずれか一項に記載の工作機械の送り軸の熱誤差予測方法を実現する、ことを特徴とするコンピューター装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の熱誤差を補償する技術分野に関し、特に、工作機械の送り軸の熱誤差を予測する方法、装置及び記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル制御の工作機械の誤差は、主に、幾何誤差、熱誤差及び他の誤差からなり、熱誤差が工作機械における誤差全体の40%~70%を占めることから、熱誤差を減らすことにより、工作機械の加工精度を効果的に高めることができる。また、工作機械の熱誤差を減らす方法は、熱誤差を予防する方法と熱誤差を補償する方法がある。
【0003】
熱誤差を予防する方法は、熱に安定性が良い材料を用いて工作機械を製造し、この方法は、そもそもの誤差を削減することができる一方、生産にコストが大幅に高まる。熱誤差補償法は、熱誤差モデルを作成することにより、工作機械の熱誤差を相殺したり削減したりする反対方向の誤差を作ることから、工作機械に熱誤差が削減される。熱誤差を補償する補償する方法は、熱誤差を予防する方法よりも、経済性や汎用性が良くなる。
【0004】
ARMA(自動回帰移動平均)モデルは、AR(自動回帰)モデルとMA(移動平均)モデルとの利点を兼有し、その前の値とその前の変動について相応する処理を行ったものである。ARMAモデルは、その精度が大幅にパラメータ(p、qと重み付けられた重み)への選び方によるものであるが、パラメータを識別する従来の方法は、異なるpとqを組み合わせ、モデルを作成し、赤池情報量規準(AIC)とベイズ情報量規準(BIC)によりモデルのパラメータを識別するものである。しかし、この手法は、pとqへの選び方しか考えず、モデルの作成にかける時間が長い。つまり、ARMAモデルは、工作機械の送り軸の熱誤差モデルとして、熱誤差を予測すると、予測の効率が低く、予測の正確性も低い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ARMAモデルを熱誤差モデルとして熱誤差を予測すると、予測の効率が低く、予測の正確性も低いという問題に対して、予測の効率が高く、正確性が高い工作機械の送り軸の熱誤差を予測する方法、装置、記録媒体及びコンピューター装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、工作機械の送り軸の熱誤差予測方法を提供する。
工作機械の送り軸の熱誤差予測方法は、遺伝的アルゴリズム(GA)に全体から最適解を探す強い能力により、ARMAモデルのパラメータを識別し、若干の世代だけ進化された最も良い個体をARMAモデルのパラメータ、つまりp、q及び重さとすることにより、従来の識別パラメータ方法において、pとqについて取りうる値の範囲が大き過ぎないという問題を解決することができる。
【0007】
具体的に、
工作機械の送り軸の熱誤差の測量値を時系列で採集し、熱誤差訓練母集団を形成するステップS1、
ARMAモデルを作成し、
遺伝的アルゴリズムにより、パラメータ変数p、qとベクトルα
i、β
j;を最適化するステップS3、及び、
ステップS3に最適化されたパラメータ変数p、qとベクトルα
i、β
jをARMAモデルに代入してGA-ARMAモデルを取得し、GA-ARMAモデルにより、工作機械の送り軸の熱誤差を予測するステップS4を含む。
【0008】
さらに、前記遺伝的アルゴリズムにより、パラメータ変数p、qとベクトルαi、βjを最適化することは、
ハイブリッド符号化により、変数p、qとベクトルαi、βjを符号化し複数の個体遺伝子を個体数として形成し、個体遺伝子を(p 、q 、α1 、α2 、…、αmaxp 、β1 、β2 、…、βmaxq)として定義し、そのうち、maxpとmaxqがそれぞれpとqとの最大値であり、すべての個体遺伝子の適応値を算出するステップS3-1、
ルーレット方式によるアルゴリズムにより、個体数から二つの個体遺伝子を親世代として選択するステップS3-2、
二つの親世代の個体遺伝子をランダムで交叉操作して次世代の個体遺伝子を形成するステップS3-3、
次世代の個体遺伝子を変異して新しい個体遺伝子を取得し、この新しい個体遺伝子の適応値を算出し、新しい個体遺伝子を個体数に追加するステップS3-4、及び、
終了の条件が満たされるまでステップS3-2乃至ステップS3-4を繰り返し、適応値が最高になる個体遺伝子をパラメータ変数p、qとベクトルαi、βjとして選択するステップS3-5を含む。
【0009】
さらに、前記ランダムで交叉操作することは、
親世代の二つ個体遺伝子に含まれている要素をそれぞれ並べるステップS3-3-1、
0~1間の乱数を順にそれぞれ生成するステップS3-3-2、
乱数が0.5よりも大きい場合に、番号が親世代の二つの個体遺伝子と対応する要素を置換し、乱数が0.5以下である場合に、そのままにすることにより、二つの次世代の個体遺伝子を取得するステップS3-3-3、及び、
二つの次世代の個体遺伝子の適応値をそれぞれ算出し、適応値が大きい次世代の個体遺伝子を保留するステップS3-3-4を含む。
【0010】
さらに、個体遺伝子の適応値を算出することは、
個体遺伝子に含まれている変数p、qとベクトルαi、βjをARMAモデルに代入して、訓練母集団における各タイミングと対応する測量値を算出すること、及び、
各タイミングでの予測値と測量値との差分の絶対値をそれぞれ算出し、総和を求め、求められた和の逆数を適応値とすること、を含む。
【0011】
さらに、前記S3-5における終了の条件は、100回だけ繰り返しを行っても依然として、最大の適応値がまだ更新されないということである。
【0012】
さらに、前記S3-4における次世代の個体遺伝子を変異して新しい個体遺伝子を取得することは、0~1間の数値をランダムで生成し、当該数値が変異率よりも小さい場合に、当該個体遺伝子における一つの要素をランダムで置換することを含み、
前記変異率を取得することは、異なる変異率におけるGA-ARMAモデルの平均絶対誤差MAEを算出し、最小の平均絶対誤差MAEと対応する変異率を選ぶことを含む。
【0013】
さらに、前記熱誤差訓練母集団を採集することは、
工作機械を4000rpm~10000rpmにおけるランダム回転速度で、2時間だけアイドリングして稼働させてから、稼働を止めて、1.5時間だけ冷却する;ステップS1-1、
所定時間をおいて工作機械の送り軸の変形量をサンプリングするステップS1-2;及び、
ステップS1-2における変形量を時系列でソートして、訓練母集団を取得するステップS1-3を含む。
【0014】
また、本発明は、
工作機械の送り軸の熱誤差測量値を時系列で採集し、熱誤差訓練母集団を形成するための採集モジュールと、
ARMAモデルを作成するためのものであって、ARMAモデルは、
遺伝的アルゴリズムによりパラメータ変数p、qとベクトルα
i、β
jを最適化するための最適化モジュール、及び、
最適化されたパラメータ変数p、qとベクトルα
i、β
jをARMAモデルに代入してGA-ARMAモデルを取得し、GA-ARMAモデルにより、工作機械の送り軸の熱誤差を予測するための、予測モジュールを含む、工作機械の送り軸の熱誤差予測装置を提供する。
【0015】
また、本発明は、コンピューター読み取り可能な記録媒体であって、前記コンピューター読み取り可能な記録媒体に記憶されているコンピュータープログラムがプロセッサーにより実行されると上記の工作機械の送り軸の熱誤差予測方法を実現する、コンピューター読み取り可能な記録媒体を提供する。
【0016】
また、本発明は、コンピューター装置であって、コンピューター読み取り可能な記録媒体、プロセッサー及び前記コンピューター読み取り可能な記録媒体に記憶されている工作機械の送り軸の熱誤差予測プログラムを含み、前記工作機械の送り軸の熱誤差予測プログラムを実行すると上記の工作機械の送り軸の熱誤差予測方法を実現する、コンピューター装置を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、その有益な効果が以下の通りである。
本発明が提供する工作機械の送り軸の熱誤差予測方法は、p、qと重み付けられた重さを効果的に識別することができると共に、pとqについて取りうる値の範囲が大き過ぎないという問題を解決することができ、また、GA-ARMAモデルにより、工作機械の送り軸の熱誤差を予測することから、予測の効率が高く、正確性が高く、工作機械における異なる回転速度に応じて、予測の安定性が良い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】工作機械の送り軸の熱誤差の予測方法のフローチャートである。
【
図2】同様の動作状態での工作機械の熱誤差である。
【
図3】異なる回転速度での熱誤差のデータ(訓練母集団)である。
【
図4】異なる回転速度での熱誤差のデータ(試験集団)である。
【
図5】遺伝的アルゴリズムのフローチャートである。
【
図6】GA識別ARMAモデルのパラメータのフローチャートである。
【
図8】訓練母集団におけるGA-ARMAのMAEである。
【
図9】試験集団におけるGA-ARMAモデルのMAEである。
【
図10】異なる回転速度と対応する自己適応で進化する回数の図である。
【
図11】GA-ARMAが異なる回転速度にパラメータを識別する図である。
【
図12】4000rpmでの熱誤差のデータをブフィッティングする図である。
【
図13】本発明の実施例が提供する工作機械の送り軸の熱誤差の予測装置の構成の模式図である。
【
図14】本発明の他の実施例が提供する工作機械の送り軸のコンピューター装置の構成の模式図である。
【0019】
ここで補足説明するのは、
図8と
図9に、折れ線1がCR=0.01、折れ線2がCR=0.05、折れ線3がCR=0.1、折れ線4がCR=0.2、折れ線5がCR=0.3、折れ線6がCR=0.4、折れ線7がCR=0.5、折れ線8がCR=0.6、折れ線9がCR=0.7、折れ線10がCR=0.8、それぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施例の目的、技術手段や利点を一層明確にするためには、以下に、本発明の実施例における図面を参照しながら、本発明の実施例に係る技術手段を明確的に、かつ、完全的に、説明するが、係る実施例は、本発明の実施例の一部に過ぎず、全ての実施例ではない。一般的に、ここでの図面に示されている本発明の実施例の手段は、異なる配置により、設置されたり設計されたりすることが可能である。
【0021】
故に、以下に図面に提供されている本発明の実施例への詳細な説明は、保護しようとする本発明の範囲を制限するものでなく、本発明における言及される実施例を提供するものに過ぎない。本発明における実施例に基づいて、当業者が創造性を有さない労働を出すことに限り得られる他の実施例の全ては、いずれも本発明が保護しようとする範囲に含まれる。
【0022】
注意すべきことは、類似な符号や英文字が以下の図面において類似な項目を示すことから、ある項目が、ある図面に定義されると、次の図面に、それをさらに定義したり解釈したりする必要性が無くなる。
【0023】
本実施例は、三軸を持ったデジタル制御工作機械を例に挙げて、工作機械の送り軸の熱誤差の予測方法を提供する。同方法は、以下のステップを含む。
ステップS1は、熱誤差を検測するシステムを作り、工作機械の送り軸の熱誤差の測量値を時系列で採集し、熱誤差訓練母集団を形成し、具体的に、
工作機械を4000rpm~10000rpmのランダムな回転速度で、二時間だけアイドリングし稼働してから、稼働を止めて1.5時間だけ冷却するステップS1-1、
8minの間隔をおいて工作機械の送り軸の変形量をサンプリングし、具体的に、CARTOのソフトウェアを実行して工作機械における最初変形量を採集し、前記変形量がレーザー干渉計による測量値から工作機械における最初変形量を引いたものであり、その式が
ステップS1-2における変形量を時系列で並べ、データ集合を取得し、データ集合を互いに排反する二つの集合に分け、その一つが訓練母集団となり、もう一つが試験集団となるステップS1-3を含む。
【0024】
前記熱誤差検測システムは、レーザー干渉計とCARTOソフトウェアを含み、前記レーザー干渉計は、送信部、受信部及び環境補償部を含み、前記送信部は、レーザー光を三つの部分に分けて、それぞれを線性と角度との測量に用いるためのものであり、前記受信部は、レーザー光を反射するためのものであり、レーザー干渉計の受信部は、三つのコーナーキューブ鏡を含み、前記環境補償器は、工作機械の環境条件を測量しながら、現在の空気湿度、空気圧力に基づいて、レーザー光の波長を補償するものである。
【0025】
試験によると、同様の動作状態に、
図2に示すように、工作機械の熱誤差変化量が異なる。加工を実際実施するときに現れる現象に備えるためには、本実施例において、工作機械が異なる動作状態で動作するように設計し、実際加工の場合を模擬し、つまり、異なるランダムな回転速度に係る複数のグループのデータ集合を採集する。訓練母集団における異なる回転速度での熱誤差のデータは、
図3に示すように参照される。訓練母集団における回転速度での熱誤差のデータは、
図4に示すように参照される。
【0026】
ステップS2は、ARMAモデルを作成し、
ARMAモデルは、時系列によるモデルに該当し、ARとMAの利点を備え、x
tとε
tについて、算術平均することなく、重み付けて平均することから、モデルのブフィッティング精度が一層高まる。
【0027】
ステップS3は、遺伝的アルゴリズムにより、パラメータ変数p、qとベクトルα
i、β
jを最適化する。遺伝的アルゴリズムのフローチャートは、
図5に示すように参照される。遺伝的アルゴリズムにより、パラメータ変数p、qとベクトルα
i、β
jを最適化するフローチャートは、
図6に示すように参照される。この実施例では、遺伝的アルゴリズムについて、交叉操作、変異操作又は収束条件を最適化することは、具体的に、以下のステップを含む。
ステップS3-1は、ハイブリッド符号化により、変数p、qとベクトルα
i、β
jを符号化し、複数の個体遺伝子を個体数として形成し、個体数の初期数を30とし、個体遺伝子を(p 、q 、α
1 、α
2 、…、α
maxp 、β
1 、β
2 、…、β
maxq)として定義し、そのうち、maxpとmaxqは、それぞれpとqの最大値であり、すべての個体遺伝子の適応値を算出する。ハイブリッド符号化は、p、qについて取りうる値の範囲によるものであり、pとqの範囲は、サンプリングの総数によるものである。この実施例では、[0 、n/10]を取る。nがサンプリングの総数である。ベクトルα
i、β
jは、重さである。α
1 +α
2 +…+α
maxpの希望値が1であり、β
1+β
2 +…+β
maxqの希望値が1である。
ステップS3-2は、ルーレット方式によるアルゴリズムにより、個体数から二つの個体遺伝子を親世代として選択する。
ステップS3-3は、二つの親世代の個体遺伝子をランダムで交叉操作し、次世代の個体遺伝子を形成し、
図7に示すように具体的に、以下のステップを含む。
ステップS3-3-1は、親世代における二つの個体遺伝子に含まれている要素をそれぞれ並べる。
ステップS3-3-2は、0~1間の乱数を順にそれぞれ生成する。
ステップS3-3-3は、乱数が0.5よりも大きい場合に、番号が親世代の二つ個体遺伝子と対応する要素を置換し、乱数が0.5以下である場合に、そのままにすることにより、二つの次世代の個体遺伝子を取得する。
ステップS3-3-4は、二つの次世代の個体遺伝子の適応値をそれぞれ算出し、適応値が大きい次世代の個体遺伝子を保留する。
【0028】
S3-4は、変異率CRが0.05となるように特定し、次世代の個体遺伝子を変異し、新しい個体遺伝子を取得し、この新しい個体遺伝子の適応値を算出し、新しい個体遺伝子を個体数に追加し、前記変異ということは、0と1との間の数をランダムで生成し、数値が変異率よりも小さい場合に、当該遺伝子に新しいランダム値を配り、さもなければ操作しないこと、を含む。
【0029】
前記変異率を特定することは、個体遺伝子に含まれている変数p、qとベクトルαi、βjをARMAモデルに代入して、訓練母集団における異なる変異率CRでのARMAモデルの平均絶対誤差MAEを取得し、試験集団における異なる変異率CRでのARMAモデルの平均絶対誤差MAEを取得する。
【0030】
この実施例は、平均絶対誤差MAEにより、異なる変異率におけるARMAモデルの性能を評価する。MAEの式は、
【0031】
平均絶対誤差MAEが低いほど、ARMAモデルの性能が高く、熱誤差の予測が正確になる。
図8に示すように、訓練母集団において、CR=0.01とCR=0.05とのMAEが概ね同じである一方、CR=0.01である場合に、その変異率が過少になり、収束速度が遅くなり、識別にかける時間が概ねCR=0.05の方の4倍になり、
図9に示すように、試験集団において、CR=0.05である場合に、MAEが最小になる。故に、この実施例においては、遺伝的アルゴリズムの変異率を0.05とする。
【0032】
前記個体遺伝子の適応値を算出することは、個体遺伝子に含まれている変数p、qとベクトルα
i、β
jをARMAモデルに代入して、訓練母集団における各タイミングと対応する測量値を取得し、各タイミングでの予測値と測量値との差分の絶対値をそれぞれ算出し、総和を求め、求められた逆数を適応値とする。前記適応値の式は、
S3-5は、ステップS3-2乃至ステップS3-4を繰り返す。100回だけ繰り返しても、最大となる適応値が依然として更新されない場合に、繰り返しが終了となる。適応値が最高になる個体遺伝子をパラメータ変数p、qとベクトルα
i、β
jとして選ぶ。
【0033】
ステップS4は、ステップS3に最適化されたパラメータ変数p、qとベクトルαi、βjをARMAモデルに代入してGA-ARMAモデルを取得し、GA-ARMAモデルにより、工作機械の送り軸の熱誤差を予測する。
【0034】
この実施例は、遺伝的アルゴリズムGAに全体から最適解を探す強い能力により、ARMAモデルのパラメータを識別することから、p、qと重み付けられた重さを識別することができ、しかも、pとqについて取りうる値の範囲が大き過ぎないという問題を解決することができる。GA-ARMAモデルにより、工作機械の送り軸の熱誤差を予測することから、予測の効率が高く、正確性が高い。工作機械における異なる回転速度に備える場合に、予測の安定性が良い。遺伝的アルゴリズムの交叉操作を最適化し、物種の多様性を保つと共に、収束の効率が高まる。遺伝的アルゴリズムの収束条件を最適化し、遺伝的アルゴリズムに5000世代だけ変わらず進化することを、個体数が100回だけ進化しても依然として最大となる適応値が更新されないと進化を止めることに変わる。
【0035】
そして、GA-ARMAモデルの効率が高まり、汎用性が一層強まる。変異率CRが0.05であるように選択すると、GA-ARMAモデルにより工作機械の送り軸の誤差が小さいと予測し、正確性が高まる。
【0036】
従来の識別ARMAモデルは、pythonのstatsmodelsラブによりモデルを作成したものであり、p∈[1 、5]とq∈[1 、10]ように設計し、pとqを二つずつ組み合わせ、モデルを作成し、モデルにおけるAICとBICを取得し、AICとBICの重み付け平均値が最小になるp、qをモデルのパラメータとして選択する。
【0037】
GA-ARMAモデルでは、遺伝的アルゴリズムの初期個体数の規模が30であり、変異率が0.05であり、自己適応で進化する回数がハイブリッド符号化されたものである。
【0038】
パラメータを識別すると、二種類のARMAモデルにおけるpとqの範囲が一致するように保ち、GA-ARMAモデルにより訓練されたpとqは、
図11に示される。
【0039】
従来の識別ARMAモデルとGA-ARMAモデルを作成し、モデルパラメータのかける時間をそれぞれ識別し、表1に示される。
表1 パラメータのかける時間の識別(単位、秒)
【0040】
表1から分かるように、異なる回転速度の工作機械は、従来の識別ARMAモデルとGA-ARMAモデルによるパラメータを識別することにかける平均時間は、それぞれ12.143秒と2.122秒となる。GA-ARMAによる識別速度は、概ね、従来の識別ARMAモデルの6倍になる。
【0041】
従来の識別ARMAモデルとGA-ARMAモデルについては、訓練母集団のデータをブフィッティングしたグラフが
図12(工作機械の回転速度を4000rpmとして例に挙げる)に示される。
【0042】
図12から分かるように、従来の識別ARMAモデルと熱誤差グラフについてブフィッティングの誤差が極めて大きい一方、GA-ARMAとそもそもの熱誤差グラフは、基本的にブフィッティングされる。
【0043】
二つモデルによる予測の性能を量化するために、平均二乗誤差(MSE)によりモデルを評価し、MSEの式が
【0044】
従来の識別方法(AICとBIC)とGAは、同じ訓練母集団を用いて、ARMAモデルパラメータを識別し、訓練MSEを算出する。訓練された二つのモデルを適用して、同じ試験集団に誤差を予測し、MSEを試験して算出する。従来の識別ARMAモデルとGA-ARMAモデルの訓練MSEと試験MSEは、表2と表3に示される。
【0045】
【0046】
表2から分かるように、従来の識別ARMAモデルの訓練MSEは、最小が17.29μm、最大が384.90μmである。GA-ARMAモデルの訓練MSEは、最小が3.079μm、最大が15.299μmである。GA-ARMAモデルの最大訓練MSEは、従来の識別ARMAモデルの最小訓練MSEよりも小さいことから、GA-ARMAモデルによりそもそもの熱誤差のデータをブフィッティングする能力が遥かに、従来の識別ARMAモデルのほうよりも強い。
【0047】
【0048】
表3から分かるように、従来の識別ARMAモデルの試験MSEは、最小が12.36μm、最大が297.98μmである。GAARMAモデルの試験MSEは、最小が5.79μm、最大が16.00μmである。故に、GA-ARMAモデルにより工作機械の熱誤差を予測する能力は、遥かに、従来の識別ARMAモデルのほうよりも強い。
【0049】
故に、この実施例が提供するGA-ARMAモデルは、訓練のブフィッティング精度と試験の予測精度とが共に、従来の識別ARMAモデルの方よりも優れる。従来の識別ARMAモデルが工作機械の異なる回転速度に備える時に能力が比較的に安定でない一方、GA-ARMAモデルが工作機械の異なる回転速度に備える時に、その表現が近く、安定性が高い。
【0050】
図13に示すように、本発明の実施例は、
工作機械の送り軸の熱誤差の測量値を時系列で採集し、熱誤差訓練母集団を形成するための採集モジュール、
ARMAモデルを作成するためのものであって、ARMAモデルは、
遺伝的アルゴリズムによりパラメータ変数p、qとベクトルα
i、β
jを最適化するための最適化モジュール、及び、
最適化されたパラメータ変数p、qとベクトルα
i、β
jをARMAモデルに代入してGA-ARMAモデルを取得し、GA-ARMAモデルにより工作機械の送り軸の熱誤差を予測するための予測モジュールを含む、工作機械の送り軸の熱誤差予測装置を提供する。
【0051】
本発明の実施例は、コンピューター読み取り可能な記録媒体であって、前記読み取り可能な記録媒体に記憶されているコンピュータープログラムがプロセッサーにより実行されると実施例1に記載の工作機械の送り軸の熱誤差予測方法を実現するコンピューター読み取り可能な記録媒体を提供する。
【0052】
また、
図14に示すように、本発明の実施例は、コンピューター読み取り可能な記録媒体、プロセッサー及び前記コンピューター読み取り可能な記録媒体に記憶されている工作機械の送り軸の熱誤差予測プログラムを含み、前記工作機械の送り軸の熱誤差予測プログラムを実行すると実施例1に記載の工作機械の送り軸の熱誤差予測方法を実現する、コンピューター装置を提供する。
【0053】
本発明が提供する実施例では、理解すべことについて、開示された装置や方法が他の形態により実現されてもよい。例えば、以上に記載された装置に係る実施例は、例示的なものに過ぎず、例えば、前記手段への分けが、論理的に機能への分けに過ぎず、実際に実現される時に他の分け形態とされてもよい。例えば、複数の手段或いは部分は、組み合わせられてもよいし、他のシステムに集積されてもよい、幾つかの特徴が省略されてもよい、実行されなくてもよい。
【0054】
上記は、ソフトウェアの機能手段の形態により実現される集積手段は、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記憶されてもよい。上記のソフトウェア機能手段が記録媒体に記憶されることは、若干の命令により、コンピューター装置(パソコン、サーバー装置、又はネットワーク設備など)又はプロセッサー(processor)が本発明における各実施例に記載されている方法の各ステップを実行するようになる。また、前記の記録媒体は、USBフラッシュドライブ、携帯ハードディスクドライブ、読み出し専用メモリ(Read-Only Memory、ROMとも呼ばれる)、ランダムアクセスメモリ(Random Access Memory、RAMとも呼ばれる)、磁気ディスク或いは光ディスクなどのプログラムコードを記憶可能な媒体とされてもよい。
【0055】
以上は、本発明における具体的な実施形態に過ぎず、本発明による保護範囲がそれに限らず、当業者としては、だれでも、本発明が開示している技術範囲に限り、容易に想到可能な変化又は置換が、いずれも、本発明の保護範囲に含まれる。故に、本発明の保護範囲は、請求の範囲に準ずるべきである。
【要約】 (修正有)
【課題】予測の効率が高く、正確性が高い工作機械の送り軸の熱誤差を予測する方法を提供する。
【解決手段】熱誤差を予測する方法は、工作機械の送り軸の熱誤差の測量値を時系列で採集し、熱誤差訓練母集団を形成するステップ、ARMAモデルを作成するステップと、遺伝的アルゴリズムによりパラメータ変数p、qとベクトルα
i、β
jを最適化するステップ及び最適化するステップにおいて最適化されたパラメータ変数p、qとベクトルα
i、β
jをARMAモデルに代入してGA-ARMAモデルを取得し、GA-ARMAモデルにより工作機械の送り軸の熱誤差を予測するステップを含む。
【選択図】
図1