(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】サムターン解錠工具及びサムターン解錠方法
(51)【国際特許分類】
E05B 19/20 20060101AFI20230502BHJP
【FI】
E05B19/20
(21)【出願番号】P 2018153730
(22)【出願日】2018-08-17
【審査請求日】2021-04-15
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】597064425
【氏名又は名称】株式会社 フキ
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】荒井 康彦
【審査官】川村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-115295(JP,A)
【文献】特開2010-236355(JP,A)
【文献】登録実用新案第3162548(JP,U)
【文献】特開2003-328611(JP,A)
【文献】特開2006-125093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 1/00-85/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドアに形成されたドアスコープの孔に、前記ドアの正面側から挿通可能な外径を有する棒状体であって、屈折により所定の方向に角度変更可能な屈折部を有する胴部と、
前記胴部の一端に設けられ、前記孔に挿通可能であるとともに、前記ドアに設けられた施錠装置のサムターンを把持するための把持ツールと、
前記孔に挿通された前記把持ツールとともに、前記屈折部が前記ドアの背面側にある状態で、前記ドアの正面側からの操作により、前記把持ツールが前記サムターンを把持可能となる方向に前記屈折部を屈折させ、前記サムターンを把持した前記把持ツールを回動させる第1の操作部と、
前記サムターンの画像を検出する撮像部と、
前記ドアの正面側から前記撮像部の光軸の角度を操作する第2の操作部と、
を有することを特徴とするサムターン解錠工具。
【請求項2】
前記胴部の一端は、略円弧状の湾曲部を有することを特徴とする請求項1記載のサムターン解錠工具。
【請求項3】
前記第1の操作部は、一端が前記把持ツールに接続されるとともに、前記胴部の他端側に延びたワイヤを有することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のサムターン解錠工
具。
【請求項4】
前記胴部に対する前記ワイヤの位置を固定するワイヤストッパーを有することを特徴とする請求項3記載のサムターン解錠工具。
【請求項5】
前記胴部の長さを可変とする伸縮部を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のサムターン解錠工具。
【請求項6】
前記孔に挿入された前記胴部の挿入方向への移動を規制するストッパーを有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のサムターン解錠工具。
【請求項7】
前記把持ツールは、前記サムターンを挟む挟持部を有し、
前記挟持部は、前記サムターンのボタンに沿って前記挟持部の移動をガイドするガイド孔を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のサムターン解錠工具。
【請求項8】
請求項1乃至
7のいずれかに記載のサムターン解錠工具を用いて、前記サムターンを回動させて解錠するサムターン解錠方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サムターン解錠工具及びサムターン解錠方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なドアには、ドアノブやレバー等のハンドルと、ドア枠に設けられたストライクと、ストライクに係止されてドアの開きを防止するラッチボルトが設けられている。ハンドルを回動させると、ラッチボルトが移動して、ストライクから外れるので、ドアを開けることができる。
【0003】
そして、外部からの侵入を防止すべきドアには、各種の施錠装置が設けられている。非常に多く普及している施錠装置としては、室外側の鍵穴に鍵を挿入して回動させることにより、施錠、解錠を行うシリンダー錠がある。さらに、ドアの室内側には、サムターンが設けられている。サムターンは、人が指で摘んで回動させることにより、施錠装置の施錠及び解錠を、室内側から行うため部材である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ドアの施錠装置を鍵により施錠して外出した居住者が、鍵を紛失してしまった場合、戻ったときに、室外側から施錠装置を解錠できなくなってしまう。この場合、専門の業者に依頼して、施錠装置を解錠してもらう必要がある。業者は、鍵穴から工具を挿入して解錠することになるが、この作業は非常に難しく、熟練の業者であっても長時間を要する場合がある。これに対処するため、ドアスコープの孔を利用したサムターン解錠工具が存在する。
【0006】
ドアスコープは、ドアを開けずに来訪者を確認できるようにするために設けられているが、このドアスコープを取り外した孔に、先端にサムターンを操作する操作ツールが設けられた長尺の細長い部材を挿入する。そして、操作ツールによってサムターンを叩いて又はサムターンを挟んで、遠隔から操作して回転させることによって解錠する。
【0007】
しかしながら、ドアスコープの孔は水平方向に形成されているので、サムターン解錠工具は、水平部分を有する必要がある。また、孔から挿入されたサムターン解錠工具は、下方のサムターンに向かって曲がっている必要がある。そして、サムターンは水平方向となっている状態から回動させる必要があるので、これを挟む操作ツールは水平方向とする必要がある。このため、サムターン解錠工具は、孔からサムターンに達するまで、全体として略U字形状とする必要がある。
【0008】
ところが、サムターン解錠工具を孔に挿入する際に全体がU字形状となっていると、把持ツールを設けた先端をドアの正面から孔に挿入する際に、他端がドアの正面に当たってしまうため、挿入することができない。このため、作業が困難となり、長時間を要していた。
【0009】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであり、その目的は、容易且つ短時間でサムターンを回動させて解錠できるサムターン解錠工具及びサムターン解錠方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明のサムターン解錠工具は、ドアに形成されたドアスコープの孔に、前記ドアの正面側から挿通可能な外径を有する棒状体であって、屈折により所定の方向に角度変更可能な屈折部を有する胴部と、前記胴部の一端に設けられ、前記孔に挿通可能であるとともに、前記ドアに設けられた施錠装置のサムターンを把持するための把持ツールと、前記孔に挿通された前記把持ツールとともに、前記屈折部が前記ドアの背面側にある状態で、前記ドアの正面側からの操作により、前記把持ツールが前記サムターンを把持可能となる方向に前記屈折部を屈折させ、前記サムターンを把持した前記把持ツールを回動させる第1の操作部と、を有する。
【0011】
前記胴部の一端は、略円弧状の湾曲部を有していてもよい。前記第1の操作部は、一端が前記把持ツールに接続されるとともに、胴部の他端側に延びたワイヤを有していてもよい。
【0012】
前記胴部に対する前記ワイヤの位置を固定するワイヤストッパーを有していてもよい。前記胴部の長さを可変とする伸縮部を有していてもよい。前記孔に挿入された前記胴部の挿入方向への移動を規制するストッパーを有していてもよい。
【0013】
前記把持ツールは、前記サムターンを挟む挟持部を有し、前記挟持部は、前記サムターンのボタンに沿って前記挟持部の移動をガイドするガイド孔を有していてもよい。
【0014】
前記サムターンの画像を検出する撮像部と、前記ドアの正面側から前記撮像部の光軸の角度を操作する第2の操作部を有していてもよい。
【0015】
上記のサムターン解錠工具を用いて、前記サムターンを回動させて解錠するサムターン解錠方法も、本発明の一態様である。
【発明の効果】
【0016】
以上のような本発明によれば、容易且つ短時間でサムターンを回動させて解錠できるサムターン解錠工具及びサムターン解錠方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態が適用されるドアを示す正面図(A)、背面図(B)である。
【
図2】ドアに設けられたサムターンを示す平面図(A)、側面図(B)である。
【
図3】実施形態のサムターン解錠工具を示す一部断面側面図である。
【
図4】伸縮部の構成を示す側面図(A)、軸方向に切断した断面図(B)、径方向に切断した断面図(C)である。
【
図5】把持ツールを示す平面図(A)、側面図(B)である。
【
図6】実施形態の挿入開始時を示す一部を断面とした側面図である。
【
図7】実施形態の挿入後を示す一部を断面とした側面図である。
【
図8】把持ツールのサムターン把持手順を示す説明図であり、(A)~(E)の左図が平面図、右図が側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。なお、
図3~
図7においては、孔に対する部材の挿通状態を示すために、一部を断面図で示している。また、
図8及び
図9においては、部材の重なり状態を理解し易くするために、一部を透視図で示している。
【0019】
[ドア]
まず、
図1及び
図2を参照して、本実施形態の適用対象となるドアDを説明する。なお、以下の説明では、ドアDの室外側を正面、ドアDの室内側を背面とする。ドアDが設置された建造物の床側又は地面側を下、天井側又は空側を上とする。また、ドアDの正面に向かう人が自分に向かって引っ張る方向を手前側、自分から離れるように押す方向を奥側とする。
【0020】
ドアDは長方形状の板状であり、図示しない蝶番によって、正面から見て右側が壁のドア枠に回動可能に設けられている。なお、左側が回動可能に設けられていてもよい。ドアDの上下の中央部近傍であって、正面から見て左寄りにはハンドルH1が設けられ(
図1(A)参照)、背面から見て右寄りにはハンドルH2が設けられている(
図1(B)参照)。ハンドルH1、H2は、ノブ形状又はレバー形状であり、ドアDに内蔵された図示しないシリンダー錠に、回動可能に取り付けられている。
【0021】
シリンダー錠は、室外側のハンドルH1又はその近傍に設けられた鍵穴Kに、正規の鍵を挿入して回動させることにより、ドアDの開く側の側面からデッドボルトを進退させる。デッドボルトが進出することにより、ドア枠に設けられた図示しないストライクの穴に嵌る施錠状態となり、退入することによりストライクから外れる解錠状態となる。施錠された状態から、鍵穴Kに正規の鍵を挿入して回動することにより、室外から解錠することができる。
【0022】
ハンドルH1、H2は、人が把持して回動させることにより、図示しないラッチボルトをストライクに係脱させる。ハンドルH1、H2は、人が把持して回動させて、手前側に引くことによりドアDを開けることができ、奥側に押すことによりドアDを閉じることができる。この方向は、奥側に押すことにより開き、手前側に引くことにより閉じる構造であってもよい。
【0023】
また、ドアDの上半分の中央部には、ドアスコープが挿入される孔hが形成されている。この孔hは、直径が約12mmの略円筒形の貫通孔であり、軸がドアDの正面及び背面に直交する水平方向となっている。孔hに挿入されるドアスコープは、内部に広角レンズを有する筒状体であって、ドアDを開かなくても室内側から室外側を覗き見ることを可能とする部材である。
【0024】
ドアDの室内側には、
図1(B)に示すように、ハンドルH2の近傍にサムターンSが設けられている。サムターンSは、回動可能な金属製のツマミである。サムターンSを回動させることにより、シリンダー錠の施錠及び解錠を、室内側から行うことができる。ドアDを閉めた後にサムターンSを一方向に回動させることにより、デッドボルトがストライクに嵌るように進出して施錠される。サムターンSを他方向に回動させることにより、デッドボルトがストライクから外れるように退入して解錠される。このようなサムターンSは、人が指で摘んで回動させることができる。
【0025】
さらに、サムターンSには、
図2に示すように、ボタンBが設けられている。このボタンBは、押圧することによりサムターンSを回動可能とする。つまり、ボタンBを押しながらでなければ、サムターンSを回動できないようにして、サムターンSに接触又は衝突しただけで容易に回動して解錠されてしまうことを防止している。
【0026】
本実施形態が使用されるサムターンSは、
図2(A)に示すように、平面視で略半円形状の板状であり、その相反する面に一対のボタンBが設けられている。サムターンSの相反する面は、曲面形状に窪んでいて、窪みの底部にボタンBが配置されている。ボタンBは、平面視で角丸長方形状のブロック状であり、長手方向がサムターンSの回動の軸に沿っている。
【0027】
[サムターン解錠工具]
図3~
図6を参照して、本実施形態のサムターン解錠工具100を説明する。サムターン解錠工具100は、胴部110、把持ツール120、第1の操作部130、パイプストッパー150、撮像部160、第2の操作部170、保持部180を有する。
【0028】
(胴部)
胴部110は、ドアDに形成されたドアスコープの孔hに、ドアDの正面側から挿通可能な外径を有する棒状体である。胴部110は、屈折により所定の方向に角度変更可能な屈折部111を有している。胴部110における屈折部111を構成する部分は、直線状の硬質な部材であって、フレキシブルなワイヤやバネとは相違している。また、胴部110は、略円弧状の湾曲部112を有している。さらに、胴部110は、胴部110の長さを可変とする伸縮部113を有している。
【0029】
より具体的には、胴部110は、断面が円形のパイプである。パイプは、金属製又は樹脂製の硬質な部材であることが好ましい。また、パイプの外径は、約8mm程度とすることが好ましい。胴部110は、主パイプ114、中間パイプ115、先端パイプ116を有する。主パイプ114は、直線状のパイプの一端が、略円弧状に湾曲した部材である。この湾曲部分が湾曲部112を構成している。
【0030】
中間パイプ115は、一端が主パイプ114の湾曲部112側の先端に連結された直線状のパイプである。湾曲部112と中間パイプ115との連結部分は、伸縮部113を構成している。伸縮部113は、
図4に示すように、接続パイプ113a、固定ネジ113bを有する。接続パイプ113aは直線状のパイプであり、
図4(B)、(C)に示すように、外周面の一部に平坦面113cが形成されている。接続パイプ113aの一端は、湾曲部112の端部に挿入され、湾曲部112に形成されたネジ孔112aに固定ネジ113bをねじ込むことにより、固定ネジ113bの先端が平坦面113cを押える。これにより、湾曲部112に対する軸方向の位置が固定される。
【0031】
接続パイプ113aの他端は、中間パイプ115の一端に挿入され、中間パイプ115に形成されたネジ孔115aに固定ネジ113bをねじ込むことにより、固定ネジ113bの先端が平坦面113cを押えるので、中間パイプ115に対する位置が固定される。このように、平坦面113cに対する固定を行うことにより、胴部110の軸周りの回動を抑えている。また、固定ネジ113bを弛めて、主パイプ114と中間パイプ115との間隔を変えることにより、胴部110を伸縮させることができる。
【0032】
先端パイプ116は、一端が中間パイプ115の他端に回動可能に設けられている。先端パイプ116は、屈折部111を構成している。つまり、中間パイプ115の他端には、径方向に挿入されたピン等の軸部が設けられ、先端パイプ116の一端は、この軸部を中心に回動する。先端パイプ116が回動する方向は、主パイプ114の湾曲部112以外の直線部分と同方向である。また、先端パイプ116の回動量θは、略90°となるように規制されている。このため、
図3に示すように、胴部110は、先端パイプ116が回動していない状態では、全体として略L字形となり、回動した状態では、全体として略U字形となる。例えば、先端パイプ116の回動端において、中間パイプ115の側面又は突起等のストッパと先端パイプ116の側面とが当接することによって、先端パイプ116の回動量θを規制することができる。先端パイプ116側にストッパを設けても良い。
【0033】
(把持ツール)
把持ツール120は、
図3、
図5(A)、(B)に示すように、胴部110の一端に設けられ、孔hに挿入可能であるとともに、ドアDに設けられたサムターンSを把持するための部材である。本実施形態の把持ツール120は、先端パイプ116の他端に取り付けられている。屈折部111により胴部110が屈折した場合には、把持ツール120の軸は胴部110の軸の延長線上に対して略直交する方向となり、胴部110が屈折していない場合には、把持ツール120の軸は胴部110の軸の延長線上に沿う方向になる。さらに、把持ツール120は、先端パイプ116の軸周りに回動可能に設けられている。
【0034】
把持ツール120は、基体部121、挟持部122を有する。基体部121は、円筒形状の部材であり、一端が先端パイプ116の他端に取り付けられている。基体部121は、先端パイプ116に対して、軸を中心に回動可能に設けられている。挟持部122は、基体部121の他端に取り付けられた一対のクリップ部材122a、122bである。クリップ部材122a、122bは、それぞれの一端が基体部121に埋め込まれて固定された板状体である。挟持部122は、
図5(B)に示すように、側面視で、基体部121側から間隔が広がった部分に連続して間隔が狭まり、さらに先端が相反する方向に広がるように略S字状に湾曲した形状を有している。一方のクリップ部材122aは、他方のクリップ部材122bよりも長く形成されている。
【0035】
さらに、クリップ部材122a、122bには、
図5(A)に示すように、ガイド孔122cが形成されている。ガイド孔122cは、クリップ部材122a、122bの先端側に、ボタンBの平面視形状と相似形で僅かに小さく形成されている(
図9(C)参照)。つまり、ガイド孔122cは、長手方向が基体部121の軸に沿う角丸長方形状である。なお、把持ツール120の外径は、孔hに挿入可能な12mm以下であることが好ましい。挟持部122は、クリップ部材122a、122bが開いているときには孔hの径よりも広がった部分を有していてもよいが、その場合にも、クリップ部材122a、122bの間隔を狭めることにより孔hに挿入可能な大きさとなっている。
【0036】
(第1の操作部)
第1の操作部130は、
図3に示すように、孔hに挿通された把持ツール120とともに、屈折部111がドアDの背面側にある状態で、ドアDの正面側からの操作により、把持ツール120がサムターンSを把持可能となる方向に、屈折部111を屈曲させる。また、第1の操作部130は、サムターンSを把持した把持ツール120を回動させる。
【0037】
第1の操作部130は、フレキシブルワイヤ131、ワイヤストッパー132、調整部133を有する。フレキシブルワイヤ131は、一端が胴部110の他端側に延びるとともに、他端が把持ツール120に接続された可撓性を有するワイヤである。
【0038】
より具体的には、フレキシブルワイヤ131は胴部110内に挿入されており、その一端は胴部110の一端から露出している。フレキシブルワイヤ131の他端は、把持ツール120の基体部121に取り付けられている。フレキシブルワイヤ131の一端を手前に引っ張ると、把持ツール120が牽引されるとともに、先端パイプ116が約90°回動する。つまり、屈折部111が屈曲することにより、把持ツール120の先端がサムターンSに向かう。これにより、胴部110は略U字形となる。
【0039】
また、フレキシブルワイヤ131を軸周りに回動させることにより、把持ツール120も軸周りに回動する。このため、クリップ部材122a、122bは、サムターンSを挟持した状態で回動して、サムターンSを回動させることができる。
【0040】
ワイヤストッパー132は、胴部110に対するフレキシブルワイヤ131の相対位置を固定する部材である。ワイヤストッパー132は、固定部132a、グリップボルト132bを有する。固定部132aは、球状の中実の部材である。固定部132aには、挿通孔132c、ネジ孔132dが形成されている。挿通孔132cは、固定部132aの径に沿って貫通し、フレキシブルワイヤ131が挿通された孔である。ネジ孔132dは、挿通孔132cに直交し、外周から径に沿って挿通孔132cに達する孔であり、内周にネジ溝が形成されている。
【0041】
グリップボルト132bは、ネジ部132e、グリップ132fを有する。ネジ部132eは、周囲にネジが切られた棒状体であり、ネジ孔132dにねじ込むことにより、先端がフレキシブルワイヤ131に達する。グリップ132fは、ネジ部132eの他端に設けられ、ネジ部132eよりも径が大きく、周囲に凹凸が設けられた円柱形状の部材である。グリップ132fを握って回動させることにより、ネジ部132eを締め付けて、ネジ部132eの先端によってフレキシブルワイヤ131を固定することができる。
【0042】
調整部133は、胴部110とフレキシブルワイヤ131との軸方向の相対位置を調整する部材である。調整部133は、ボルト部133a、ナット部133bを有する。ボルト部133aは、周囲にネジが切られた円筒形状の部材であり、一端が胴部110の端部に取り付けられるとともに、内部にフレキシブルワイヤ131が挿通されている。ナット部133bは内周にネジが切られた六角筒であり、ボルト部133aが挿入される。ボルト部133aの外周のネジが、ナット部133bの内周のネジにねじ込まれる。これにより、ボルト部133aの回動に従って、ボルト部133aと胴部110との軸方向の相対位置が変化する。
【0043】
調整部133は、胴部110の端部とワイヤストッパー132との間に介在し、ボルト部133aを回動させると、ワイヤストッパー132とともにフレキシブルワイヤ131の胴部110に対する相対位置を調整できる。
【0044】
(パイプストッパー)
パイプストッパー150は、孔hに挿入された胴部110の挿入方向への移動を規制する。パイプストッパー150は、
図3に示すように、ブロック部151、ローレットネジ152を有する。ブロック部151は、直方体形状の中実の部材である。ブロック部151には、挿通孔151a、ネジ孔151bが形成されている。挿通孔151aは、水平方向に沿って貫通し、胴部110の主パイプ114が挿通される孔である。ネジ孔151bは、挿通孔151aに直交し、ブロック部151の天面から下方に向かって挿通孔151aに達する孔であり、内周にネジ溝が形成されている。
【0045】
ローレットネジ152は、ネジ部152a、グリップ152bを有する。ネジ部152aは、周囲にネジが切られた棒状体であり、ネジ孔151bにねじ込むことにより、先端が主パイプ114に達する。グリップ152bは、ネジ部152aの他端に設けられ、ネジ部152aよりも径が大きく、周囲に凹凸が設けられた円柱形状の部材である。グリップ152bを握って回動させることにより、ネジ部152aを締め付けて、ネジ部152aの先端によって主パイプ114を固定することができる。
【0046】
(撮像部)
撮像部160は、サムターンSの画像を検出する装置である。撮像部160は、カメラ161、ケーブル162を有する。カメラ161は、CCDカメラである。CCDカメラは、レンズを介して撮像対象からの光線を、撮像素子の受光面に結像させ、光電変換により光の明暗に応じた量の電荷に変換して、順次電気信号として出力する。カメラ161は筒状であり、その径は、胴部110とともに孔hに挿入可能な大きさ、つまり4mm以下である。
【0047】
ケーブル162は、カメラ161からの電気信号を、外部に送信する線状の導体である。ケーブル162は、可撓性を有し、一端がカメラ161に接続され、他端には、モニタMが接続される。ケーブル162は、胴部110に沿って支持されているが、カメラ161に接続された端部、モニタMに接続された端部は、胴部110に支持されておらず、角度変更可能となっている。モニタMとしては、スマートフォン、タブレット端末など、表示装置を備えた情報端末を用いることができる。
【0048】
(第2の操作部)
第2の操作部170は、ドアDの正面側から撮像部160の光軸の角度を操作する部材である。第2の操作部170は、ワイヤ171を有する。ワイヤ171は、一端がカメラ161の先端近傍に取り付けられている。また、ワイヤ171は、胴部110の外周面に設けられた複数のガイドパイプ117に挿通されることにより、胴部110に支持されている。ワイヤ171の他端には、指を挿入可能な円形のリング171aが設けられている。このリング171aを牽引することにより、カメラ161の光軸の角度を変えることができる。
【0049】
(保持部)
保持部180は、胴部110の位置を手で支えるための部材である。保持部180は、グリップ181、パイプ支持部182、ワイヤ支持部183を有する。グリップ181は、手で把持可能な円柱形状の部材である。胴部110に対して、グリップ181は直交する方向に固定されている。
【0050】
パイプ支持部182は、主パイプ114の端部近傍が挿通されて固定される部材である。ワイヤ支持部183は、ワイヤ171をパイプ支持部182とグリップ181との間に支持する。円板状のワイヤ支持部183は、グリップ181の軸方向のネジがねじ込まれた円板状のローレットナットを有し、ローレットナットとグリップ181との間でワイヤ171を挟む。つまり、ローレットナットを弛めた状態で、ワイヤ171を牽引してカメラ161の角度を調整した後、ローレットナットを締め付け固定することにより、ワイヤ171を固定する。
【0051】
[サムターン解錠動作]
以上のようなサムターン解錠工具100による解錠動作は、以下の通りである。なお、本発明は、サムターン解錠工具100を用いてサムターンSを回動させて解錠する方法としても捉えることができる。
【0052】
まず、作業者は、伸縮部113によって胴部110の長さを調節する。つまり、ドアDの正面側から見て、孔hの位置から鍵穴Kの位置までの距離を目安に、固定ネジ113bを弛めて主パイプ114と中間パイプ115との距離を調節して、固定ネジ113bを締め直す。
【0053】
次に、作業者は、
図6に示すように、把持ツール120と胴部110が直線状となった状態で、把持ツール120の先端から、ドアスコープを外したドアDの孔hに挿入する。このとき、把持ツール120は略水平方向となっている。作業者は、そのまま奥側に挿入を進めて、胴部110の主パイプ114も孔hを通過させる。このとき、カメラ161も、孔hから挿入する。そして、
図7に示すように、胴部110の湾曲部112が孔hを通過する際に、把持ツール120が略垂直方向となるように、胴部110の角度を変える。
【0054】
この状態で、
図3に示すように、作業者がフレキシブルワイヤ131を手前に引っ張ることによって、屈折部111を屈折させて、把持ツール120を略水平方向にする。作業者は、グリップボルト132bを締め付けることにより、胴部110に対するフレキシブルワイヤ131の位置を固定する。これにより、把持ツール120の胴部110に対する角度が固定される。なお、調整部133のナット部133bを回動させることによって、把持ツール120の角度を微調整することができる。
【0055】
また、作業者は、リング171aを持ってワイヤ171を手前に引っ張ることによって、カメラ161の光軸が、把持ツール120の先端に向かい、視野範囲に挟持部122が入るようにする。このとき、作業者は、カメラ161により撮像された画像を、モニタMで視認しながら、ワイヤ171の引張量を調整する。カメラ161の方向が定まったら、ワイヤ支持部183によってワイヤ171を固定する。これにより、カメラ161の把持ツール120に対する角度が固定される。
【0056】
さらに、把持ツール120の先端の画像をモニタMで視認しながら、胴部110を軸周りに回動させて、把持ツール120の先端を、サムターンSに向かう位置に合わせる。
図1(B)に示すように、サムターンSは、孔hの直下ではなく、水平方向にずれた位置にあるため、ドアDの背面側にある胴部110は、垂直方向に対して傾斜した方向となる。
【0057】
作業者は、
図3、
図8(A)~(D)に示すように、胴部110を手前に引きながら、サムターンSに向かう把持ツール120の先端を、サムターンSに近づけて、クリップ部材122a、122bによってサムターンSを挟み込む。このとき、
図9(A)~(C)に示すように、ボタンBの縁部に、クリップ部材122a、122bのガイド孔122cの内縁がかかる。このため、クリップ部材122a、122bの位置が、サムターンSの中央から多少ずれていても、ガイド孔122cがボタンBの縁部に沿って移動する。このように、サムターンSを挟んだクリップ部材122a、122bが、ガイド孔122cによってガイドされながら移動して、ボタンBを押圧する。
【0058】
そして、
図3に示すように、パイプストッパー150のローレットネジ152を締め付け固定することによって、胴部110が奥側に移動してサムターンSからクリップ部材122a、122bが外れることを防止する。
【0059】
この状態で、フレキシブルワイヤ131を軸周りに回動させることにより、把持ツール120を軸周りに回動させる。すると、
図8(E)に示すように、クリップ部材122a、122bに挟まれたサムターンSが回動する。これにより、デッドボルトが退入してストライクから外れて解錠されるので、ハンドルH2を回動させてラッチボルトをストライクから外して手前に引くことにより、ドアDを開けることができる。
【0060】
[作用効果]
(1)本実施形態のサムターン解錠工具100は、ドアDに形成されたドアスコープの孔hに、ドアDの正面側から挿通可能な外径を有する棒状体であって、屈折により所定の方向に角度変更可能な屈折部111を有する胴部110と、胴部110の一端に設けられ、孔hに挿通可能であるとともに、ドアDに設けられた施錠装置のサムターンSを把持するための把持ツール120と、孔hに挿通された把持ツール120とともに、屈折部111がドアDの背面側にある状態で、ドアDの正面側からの操作により、把持ツール120がサムターンSを把持可能となる方向に屈折部111を屈折させ、サムターンSを把持した把持ツール120を回動させる第1の操作部130と、を有する。
【0061】
このため、把持ツール120の軸が胴部110の軸の延長線上にある状態で、孔hから挿入することができ、孔hに挿入した後に、屈折部111を屈折すればよい。従って、挿入時には胴部110の端部が邪魔になることがなく、容易に且つ素早く挿入することができる。つまり、容易に且つ短時間でサムターンを回動させて解錠できる。本実施形態では、把持ツール120のサムターンSの軸方向から把持することができるので、滑り難い。また、本実施形態では、胴部110は硬質の部材であり、屈折部111の回動量θが規制されているため、フレキシブルな部材によって角度変更を実現するよりも角度の自由度が少なく、安定してサムターンSを把持できる。
【0062】
(2)胴部110の一端は、略円弧状の湾曲部112を有する。このため、胴部110の角度を変えながらスムーズに挿入することができる。つまり、胴部110に角を有する場合には、孔hへの挿入が困難となるが、湾曲部112に沿って挿入することにより、スムーズに且つ素早く挿入するとができる。
【0063】
(3)第1の操作部130は、一端が把持ツール120に接続されるとともに、胴部110の他端側に延びたフレキシブルワイヤ131を有する。このため、フレキシブルワイヤ131を引っ張る作業によって、把持ツール120の角度を容易に変更できる。
【0064】
(4)胴部110に対するフレキシブルワイヤ131の位置を固定する固定部132aを有する。このため、一旦決めた把持ツール120の胴部110に対する角度を固定しておくことができ、安定した作業を行うことができる。
【0065】
(5)胴部110の長さを可変とする伸縮部113を有する。このため、孔hとサムターンSとの距離に応じて、胴部110の長さを調節できる。伸縮部113の接続パイプ113aの固定部分は平坦面113cを有するため、軸周りに回動し難くなる。
【0066】
(6)孔hに挿入された胴部110の挿入方向への移動を規制するパイプストッパー150を有する。このため、把持ツール120によってサムターンSを把持した後、ドアDに対して胴部110がずれて、把持ツール120がサムターンSから外れることを防止できる。つまり、サムターンSを回そうとするときに、奥側に滑って外れることを防止できる。
【0067】
(7)把持ツール120は、サムターンSを挟む挟持部122を有し、挟持部122は、サムターンSのボタンBに沿って挟持部122の移動をガイドするガイド孔122cを有する。このため、挟持部122がサムターンSを挟む際に、ボタンBにガイド孔122cが沿うことにより、確実にボタンBを押圧することができる。本実施形態では、ドアDの背面側から、把持ツール120のサムターンSの軸方向に滑らせて挟み込むことができるので、ボタンBから外れ難い。
【0068】
(8)サムターンSの画像を検出する撮像部160と、ドアDの正面側から撮像部160の光軸の角度を操作する第2の操作部170を有する。このため、ドアDの正面側からは見えない状況を、視覚により確認することができるので、作業者の技量によらず、正確で安定した作業を行うことができる。
【0069】
[他の実施形態]
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
(1)胴部110は、屈折部111を複数有していてもよい。例えば、湾曲部112に代えて、曲がりの部分を屈折部111により構成して、胴部110を孔hに挿入した後に、第1の操作部130によって屈折部111の角度を変更してもよい。フレキシブルワイヤ131を引っ張ることによって、複数の屈折部111が屈折して、胴部110全体として略U字形となるようにしてもよい。この場合、孔hへの挿入時には、胴部110の全体を直線状にして容易に挿入することができる。
【0070】
(2)解錠の対象となる施錠装置の構成は、上記の態様には限定されない。例えば、室内から施錠装置を解錠させることができるサムターンSを有する装置であればよく、シリンダー錠には限定されない。
【符号の説明】
【0071】
100 サムターン解錠工具
110 胴部
111 屈折部
112 湾曲部
112a ネジ孔
113 伸縮部
113a 接続パイプ
113b 固定ネジ
113c 平坦面
114 主パイプ
115 中間パイプ
115a ネジ孔
116 先端パイプ
117 ガイドパイプ
120 把持ツール
121 基体部
122 挟持部
122a クリップ部材
122b クリップ部材
122c ガイド孔
130 第1の操作部
131 フレキシブルワイヤ
132 ワイヤストッパー
132a 固定部
132b グリップボルト
132c 挿通孔
132d ネジ孔
132e ネジ部
132f グリップ
133 調整部
133a ボルト部
133b ナット部
150 パイプストッパー
151 ブロック部
151a 挿通孔
151b ネジ孔
152 ローレットネジ
152a ネジ部
160 撮像部
161 カメラ
162 ケーブル
170 第2の操作部
171 ワイヤ
171a リング
180 保持部
181 グリップ
182 パイプ支持部
183 ワイヤ支持部
B ボタン
D ドア
H1 ハンドル
H2 ハンドル
K 鍵穴
M モニタ
S サムターン
h 孔