(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】刺激応答性複合材料
(51)【国際特許分類】
C08J 7/02 20060101AFI20230502BHJP
【FI】
C08J7/02 Z
(21)【出願番号】P 2019098177
(22)【出願日】2019-05-27
【審査請求日】2022-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武野 明義
(72)【発明者】
【氏名】高橋 紳矢
(72)【発明者】
【氏名】加藤 未桜
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-014089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーズを有する高分子フィルムと、
前記クレーズ内で前記高分子フィルムと一体化している過冷却性物質
とを含む複合材料
であって、
前記過冷却性物質が、酢酸ナトリウム水和物、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、エチル2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸、及びビスマスとインジウムとスズからなる合金、から選択されるいずれか一つの物質であることを特徴とする複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺激応答性の複合材料に関する。具体的には、過冷却性を持つ物質を含み、物質と部材とが一体化した複合材料であって、外部からの物理的または化学的刺激により、弾性率等の機械的特性が変化することで、外部環境に適した特性、特に高強度となる特性を示す複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やガラス繊維は、優れた強度を有し、軽量なために熱硬化性及び熱可塑性樹脂の繊維強化樹脂複合材料として、スポーツ用品、自動車用途、航空宇宙用途など広く利用されている。繊維強化樹脂複合材料は、常に高強度かつ高弾性率である必要はない。むしろ平常時は、柔軟で扱い安い素材であることが望ましい。このような要望に対して刺激応答性材料が開発されており、温度、PHや光などに応答する材料が種々開発されている。
【0003】
特許文献1には、温度応答性を有する生分解性ポリマー及びその製造方法が開示されている。特許文献1の生分解性ポリマーは、温度に応答してゲル化する。特許文献1の生分解性ポリマーは医療用材料などの用途を想定しており、一定以上の強度を必要とする衣類等には適していない。また、特許文献1の応答性材料は、その温度およびPHに環境を維持し続ける必要がある。
【0004】
特許文献2には、伸縮ファイバーと、この伸縮ファイバーを用いた伸縮シート、並びにこの伸縮シートを用いたアシスト装置が開示されている。特許文献2の伸縮ファイバーは、多様な人の動作を支援することを目的としており、電場応答性を持つゲル状層と電極からなり、電場が与えられることで伸縮する。このため、機械的特性を特定の電場により制御することができる。しかし、常時電場を加えるための電源を必要とする。
【0005】
特許文献3は、自己修復性材料と修復剤内包マイクロカプセルの製造方法を開示している。特許文献3の自己修復性材料を内包したマイクロカプセルは、マイクロカプセル化した樹脂成分が触媒とともに、放出されて自己修復を行う。特許文献3の自己修復技術は、劣化を抑制する効果はあるが、自身の弾性率を高めることは難しく、繰り返し利用することには適していない。
【0006】
一方で、高強度の加工品を得るために、過冷却現象を利用する検討が従来から行われている。過冷却現象とは、融点より温度が低下しても凝固しない現象のことであり、このような現象を生じる物質を、ここでは過冷却性物質という。過冷却状態の物質に刺激を与えると相変化して速やかに固体となり、このとき熱を放出したり高強度に固化することが知られている。特許文献4には、過冷却液状の金属溶滴を基材に衝突させて高強度の金属膜を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5171146号公報
【文献】特開2016-047004号公報
【文献】特開2017-218519号公報
【文献】特表平05-503249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
刺激応答性複合材料に過冷却性物質を適用することができれば、衝撃を加えた瞬間に高強度となる素材を得ることが可能となる。しかしながら、過冷却状態とはエネルギー的には準安定状態であり、過冷却状態を維持した状態で使用されている物品は、現在知られていない。
【0009】
本発明はかかる現状に鑑みてなされた発明であって、その解決しようとする課題は、新規な刺激応答性複合材料の提供である。本発明によって提供される複合材料は、平常時には過冷却性物質を過冷却状態に維持して柔軟性を示している一方、緊急時には刺激によって硬化し強度を増す複合材料である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の複合材料は、クレーズを有する高分子フィルムと、前記クレーズ内で前記高分子フィルムと一体化している過冷却性物質とを含む複合材料である。
【0011】
本発明の複合材料は、過冷却性物質が、酢酸ナトリウム水和物、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、エチル2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸、およびビスマスとインジウムとスズからなる合金、から選択される一の物質であることを特徴とする。
【0012】
(削除)
【0013】
本発明の複合材料は、高分子の中空長尺物またはフィルムと、過冷却性物質である有機物、金属、または無機物が一体化した構造を持つ複合材料である。本発明の複合材料は刺激応答性を有しており、外部から強い衝撃を受けたり、故意に刺激を与えることで、過冷却性物質が、過冷却状態から、安定な結晶状態すなわち安定状態に移行する。その結果、ヤング率が高くなり、強度が向上する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の複合材料は、刺激を加えることにより強度を向上させることができる。本発明の複合材料により、平常時には柔軟である一方、緊急時には高強度となる物品を製造することができる。
【0015】
本発明の複合材料に含まれる過冷却性物質は、外部から刺激が加えられると、自発的に高強度の安定状態へと移行する。すなわち、別途エネルギー源を準備する必要がなく、機構として小型軽量化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、
参考例の長尺の複合材料の製造装置を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に従ったフィルム状の複合材料の第一ステップの製造装置を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に従ったフィルム状の複合材料の第二ステップの製造装置を示す図である。
【
図4】
図4(a)は、過冷却性物質のN,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミドの構造式であり、
図4(b)は、過冷却性物質のエチル2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸の構造式である。
【
図5】
図5は、酢酸ナトリウムの濃度と結晶化速度の関係を示す図である。
【
図6】
図6は、酢酸ナトリウムを用いた複合材料の強度を示す図である。
【
図7】
図7は、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミドを用いた複合材料の強度を示す図である。
【
図8】
図8は、エチル2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸を用いた複合材料の強度を示す図である。
【
図9】
図9は、ビスマス,インジウム,スズからなる合金を用いた複合材料の強度を示す図である。
【
図10】
図10は、酢酸ナトリウムが一体化したフィルムの応力歪み曲線である。
【
図11】
図11は、本発明の複合材料と弾性率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明にかかる複合材料の好適な実施の形態とその製造方法を示す。
【0018】
本発明の複合材料に用いられる過冷却性物質は、酢酸ナトリウム水和物、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、エチル2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸、および組成比がビスマス32.5%,インジウム51%,スズ16.5%である合金である。以下においては、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミドをDCHBSAとも称する。同様に、エチル2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸をECDPAと称し、組成比がビスマス32.5%,インジウム51%,スズ16.5%である合金をFields metalまたはFMと称することもある。
図4(a)にDCHBSAの構造式を示し、
図4(b)に、ECDPAの構造式を示す。
【0019】
本発明で用いる過冷却性物質の融点を、以下の表1に示す。これらの物質は、融点以下の環境下で使用するとき、過冷却状態で、液体又は非晶状態となっている。
【表1】
【0020】
本発明の複合材料の母材として、高分子化合物である樹脂が好適に用いられる。中空長尺物、すなわち参考例のチューブの材料としては、ポリエチレン(以下、PEと称することもある)またはポリ塩化ビニル(以下PVCと称することもある)を使用することができる。高分子フィルムの材料としては、ポリプロピレン(以下PPと称することもある)を使用することができる。
【0021】
参考例の複合材料に用いるチューブの内径は、過冷却性物質を過冷却状態に維持するために、2mm以下であることが好ましい。
【0022】
複合材料に用いる高分子フィルムにはクレーズを形成して、クレーズの中に過冷却性物質を収容することが好ましい。クレーズとは、応力の作用により高分子化合物の表面に発生する細かいひび割れであり、クレーズの内部には、応力方向に配向したフィブリル(分子鎖の束)と微小なボイド(空隙)が存在する。
【0023】
以下に、内径2mm以下のチューブに過冷却性物質を充填した参考例の複合材料の製造方法と、クレーズを有する高分子フィルムと過冷却性物質とが一体化している複合材料の製造方法とを、図面を参照しつつ説明する。なお、以下における「複合する」との記載は、「2種以上の物質が一体をなす」「一体化する」との意味であり、化学結合の有無や、混合の均一度を限定するものではない。
【0024】
図1に、チューブ1に過冷却性物質を充填して
参考例の長尺の複合材料を製造する製造装置を模式的に示す。装置は、吸引容器2と、ポンプ3と、過冷却性物質供給手段4を備えている。長尺の複合材料の製造方法は、以下のとおりである。最初に、過冷却性物質供給手段4にチューブ1の一端部を接続し、ポンプ3により減圧した吸引容器2にチューブ1の他端部を取り付けて、チューブ1中に融点以上の温度の過冷却物質を減圧吸引する。次に、チューブ1の両端を熱融着により閉鎖する。最後に、過冷却性物質を充填したチューブ1全体に熱を加え、内部の過冷却性物質を融解させた後、徐冷して長尺の複合材料を得る。
【0025】
図2および
図3に、高分子フィルム10に過冷却性物質を複合してフィルム状の複合材料を製造する製造装置を模式的に示す。
図2に示したクレーズ形成装置20は複合材料製造の第一ステップで使用する装置であって、複数のローラ21とブレード22を備えている。クレーズ形成装置20は、高分子フィルム10に一定の張力を与えた状態でローラ21の間を通過させ、ブレード22の先端を高分子フィルム10に接触させて、高分子フィルム10にクレーズを発生させる。
図3に示したクリープ処理装置は複合材料を製造する第二ステップで使用する装置であって、クレーズの発生した高分子フィルムに対してクレーズの領域を広げる処理を行う。クリープ処理装置は、高分子フィルム固定手段と重り23を備えている。クリープ処理装置は、クレーズの発生した高分子フィルム10を吊り下げて下端部に重り23を取りつけ、高分子フィルム10に張力を与えた状態で、熱処理する。クリープ処理を行わない高分子フィルムを用いると刺激応答性が充分に得られないが、第一ステップと第二ステップの工程を行った高分子フィルム10を適用することで、好適な特性を有する複合材料を製造することができる。さらに、クレーズが形成された高分子フィルム10をエタノールに浸漬し、その後、過冷却性物質に浸漬する。この工程によって、高分子フィルム10のクレーズ表面を覆ったエタノールと過冷却性物質を置換することができ、フィルム状の複合材料が得られる。
【0026】
図11に、好適な製造方法によって得られた、複合材料の弾性率の一覧を示す。液体状態または非晶状態と示した複合材料の値は過冷却状態の弾性率である。固体状態または結晶状態と示した複合材料の値は、刺激を受けて硬化した状態の弾性率である。いずれの複合材料も、刺激により弾性率が高くなり、硬化している。これらの複合材料の特性については、実施例で詳細に述べる。
【実施例】
【0027】
(参考例1)
内径2mm、外径4mmのポリエチレン製チューブに過冷却性物質の酢酸ナトリウム水溶液を充填して、刺激応答性複合材料を得た。また、内径2mm、外径2.8mmのポリ塩化ビニル製チューブに酢酸ナトリウム水溶液を充填して、刺激応答性複合材料を得た。
【0028】
ポリエチレン製チューブに、酢酸ナトリウムの水溶液濃度が、50重量%、55重量%、57重量%、60重量%である水溶液を充填して得た4種類の複合材料について、外部から刺激を加えたときの結晶化速度を確認した。確認結果を
図5に示す。いずれの複合材料も、結晶化が4.5mm/s以上の速度で進むことが確認された。
【0029】
参考例の複合材料の力学的特性について説明する。
図6(a)は、ポリエチレン製チューブに酢酸ナトリウム水溶液を充填して得た複合材料のヤング率を示したグラフである。図中、中央の値が過冷却状態の複合材料のヤング率を示し、右側の値が安定状態の複合材料のヤング率を示している。左側の値は、対比のための、チューブ単体のヤング率である。
図6(b)は、同一の複合材料の最大応力を示したグラフであって、中央が過冷却状態の複合材料、右が安定状態の複合材料、左側がチューブ単体の、それぞれの最大応力を示している。
図6(c)は、ポリ塩化ビニル製チューブに酢酸ナトリウム水溶液を充填して得た複合材料のヤング率を示したグラフであって、図中、中央の値が過冷却状態の複合材料のヤング率を示し、右側の値が安定状態の複合材料のヤング率を示し、左側の値が対比のためのポリ塩化ビニル製チューブ単体のヤング率を示している。
図6(d)は、同一の複合材料の最大応力を示したグラフであって、左側がチューブ単体の最大応力を示しており、中央が過冷却状態の複合材料の最大応力を示しており、右が安定状態の複合材料の最大応力を示している。
【0030】
本参考例において、ポリエチレンチューブを用いた複合材料は、刺激を与えた後の安定状態において、過冷却状態の約2倍のヤング率を示した。最大応力は、過冷却状態と安定状態との間に大きな違いがなかった。ポリ塩化ビニル製チューブ用いた複合材料は、刺激を与えた後の安定状態において、過冷却状態と比較して、ヤング率が約26倍、最大応力が約4倍となった。これは、ポリ塩化ビニルと酢酸アトリウム水溶液の体積比が、ほぼ1:1であり、物性に対する酢酸ナトリウム水溶液の寄与度が高いことに由来する。
【0031】
参考例の刺激応答性複合材料は、刺激が加わって安定状態となったときに、刺激が加わる前の過冷却状態よりも硬くてもろい物性となったことが定量的に確認された。
【0032】
(参考例2)
内径2mm、外径4mmのポリエチレン製チューブに過冷却性物質のN,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(DCHBSA)を充填して、刺激応答性複合材料を得た。また、内径2mm、外径2.8mmのポリ塩化ビニル製チューブにDCHBSAを充填して、刺激応答性複合材料を得た。
【0033】
本
参考例の複合材料の力学的特性について説明する。
図7(a)は、ポリエチレン製チューブにDCHBSAを充填して得た複合材料のヤング率を示したグラフである。図中、中央の値が過冷却状態の複合材料のヤング率を示し、右側の値が安定状態の複合材料のヤング率を示している。左側の値は、対比のための、チューブ単体のヤング率である。
図7(b)は、同一の複合材料の最大応力を示したグラフであって、中央が過冷却状態の複合材料、右が安定状態の複合材料、左側がチューブ単体の、それぞれの最大応力を示している。
図7(c)は、ポリ塩化ビニル製チューブにDCHBSAを充填して得た複合材料のヤング率を示したグラフであって、図中、中央の値が過冷却状態の複合材料のヤング率を示し、右側の値が安定状態の複合材料のヤング率を示し、左側の値が対比のためのポリ塩化ビニル製チューブ単体のヤング率を示している。
図7(d)は、同一の複合材料の最大応力を示したグラフであって、左側がチューブ単体の最大応力を示しており、中央が過冷却状態の複合材料の最大応力を示しており、右が安定状態の複合材料の最大応力を示している。
【0034】
本参考例において、ポリエチレンチューブを用いた複合材料は、刺激を与えた後の安定状態において、過冷却状態の約3倍のヤング率を示した。最大応力は、過冷却状態と安定状態との間に大きな違いがなかった。ポリ塩化ビニル製チューブ用いた複合材料は、刺激を与えた後の安定状態において、過冷却状態と比較して、ヤング率が約9倍、最大応力が約4倍となった。これは、ポリ塩化ビニルとDCHBSAの体積比が、ほぼ1:1であり、物性に対するDCHBSAの寄与度が高いことに由来する。
【0035】
本参考例の刺激応答性複合材料は、刺激が加わって安定状態となったときに、刺激が加わる前の過冷却状態よりも硬くてもろい物性となったことが定量的に確認された。DCHBSAは、過冷却状態で非晶質のガラス状となっているため、過冷却状態でもチューブ単体よりも最大応力が高くなる特性が確認された。
【0036】
(参考例3)
内径2mm、外径4mmのポリエチレン製チューブに過冷却性物質のエチル2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸(ECDPA)を充填して、刺激応答性複合材料を得た。また、内径2mm、外径2.8mmのポリ塩化ビニル製チューブにECDPAを充填して、刺激応答性複合材料を得た。
【0037】
本
参考例の複合材料の力学的特性について説明する。
図8(a)は、ポリエチレン製チューブにECDPAを充填して得た複合材料のヤング率を示したグラフである。図中、中央の値が過冷却状態の複合材料のヤング率を示し、右側の値が安定状態の複合材料のヤング率を示している。左側の値は、対比のための、チューブ単体のヤング率である。
図8(b)は、同一の複合材料の最大応力を示したグラフであって、中央が過冷却状態の複合材料、右が安定状態の複合材料、左側がチューブ単体の、それぞれの最大応力を示している。
図8(c)は、ポリ塩化ビニル製チューブにECDPAを充填して得た複合材料のヤング率を示したグラフであって、図中、中央の値が過冷却状態の複合材料のヤング率を示し、右側の値が安定状態の複合材料のヤング率を示し、左側の値が対比のためのポリ塩化ビニル製チューブ単体のヤング率を示している。
図8(d)は、同一の複合材料の最大応力を示したグラフであって、左側がチューブ単体の最大応力を示しており、中央が過冷却状態の複合材料の最大応力を示しており、右が安定状態の複合材料の最大応力を示している。
【0038】
本参考例において、ポリエチレンチューブを用いた複合材料は、刺激を与えた後の安定状態において、過冷却状態の約3倍のヤング率を示した。最大応力は、過冷却状態と安定状態との間に大きな違いがなかった。ポリ塩化ビニル製チューブ用いた複合材料は、刺激を与えた後の安定状態において、過冷却状態と比較して、ヤング率が約80倍、最大応力が約7倍となった。これは、ポリ塩化ビニルとECDPAの体積比が、ほぼ1:1であり、物性に対するECDPAの寄与度が高いことに由来する。
【0039】
本参考例の刺激応答性複合材料は、刺激が加わって安定状態となったときに、刺激が加わる前の過冷却状態よりも硬くてもろい物性となったことが定量的に確認された。ECDPAは、過冷却状態で液体となっているが、粘度が高いために過冷却状態でもチューブ単体よりも最大応力が高く、また、安定状態で非常に硬度が高いことが定量的に確認された。
【0040】
(参考例4)
内径2mm、外径4mmのポリエチレン製チューブに過冷却性物質として、組成比がビスマス32.5%,インジウム51%,スズ16.5%である合金(FM)を充填して、刺激応答性複合材料を得た。また、内径2mm、外径2.8mmのポリ塩化ビニル製チューブにFMを充填して、刺激応答性複合材料を得た。
【0041】
本
参考例の複合材料の力学的特性について説明する。
図9(a)は、ポリエチレン製チューブにFMを充填して得た複合材料のヤング率を示したグラフである。図中、中央の値が過冷却状態の複合材料のヤング率を示し、右側の値が安定状態の複合材料のヤング率を示している。左側の値は、対比のための、チューブ単体のヤング率である。
図9(b)は、同一の複合材料の最大応力を示したグラフであって、中央が過冷却状態の複合材料、右が安定状態の複合材料、左側がチューブ単体の、それぞれの最大応力を示している。
図9(c)は、ポリ塩化ビニル製チューブにFMを充填して得た複合材料のヤング率を示したグラフであって、図中、中央の値が過冷却状態の複合材料のヤング率を示し、右側の値が安定状態の複合材料のヤング率を示し、左側の値が対比のためのポリ塩化ビニル製チューブ単体のヤング率を示している。
図9(d)は、同一の複合材料の最大応力を示したグラフであって、左側がチューブ単体の最大応力を示しており、中央が過冷却状態の複合材料の最大応力を示しており、右が安定状態の複合材料の最大応力を示している。
【0042】
本参考例において、ポリエチレンチューブを用いた複合材料は、刺激を与えた後の安定状態において、過冷却状態とほぼ同等のヤング率を示した。最大応力は、過冷却状態の方が安定状態よりも大きくなった。ポリ塩化ビニル製チューブ用いた複合材料は、刺激を与えた後の安定状態において、過冷却状態と比較して、ヤング率が約1.3倍、最大応力には有意な差は認められなかった。本参考例は、過冷却性物質が金属であり、過冷却状態でも高硬度であるため、刺激への応答前後の物性値の変化は他の物質よりも見かけ上小さくなった。
【0043】
(実施例1)
クレーズを有するポリプロピレン製フィルムに過冷却性物質の酢酸ナトリウム水溶液を複合して、刺激応答性複合材料を得た。酢酸ナトリウムの添加率が、5重量%、3.2重量%、1重量%である複合材料について、酢酸ナトリウムが過冷却状態の時と、安定状態の時について引っ張り試験を行って応力歪み曲線を得た。
【0044】
図10(a)は、酢酸ナトリウム転化率3重量%の複合材料が過冷却状態の時に行った引っ張り試験の結果と、酢酸ナトリウム転化率5重量%の複合材料が安定状態の時に行った引っ張り試験の結果とを示したグラフである。ここで、図中、ひずみが0.6の時に最大応力17MPaを示しているのが、過冷却状態の複合材料である。ひずみが0.4から0.6の時に最大応力7Mpaを示しているのが、安定状態の複合材料である。
【0045】
図10(b)は、酢酸ナトリウム1重量%の複合材料について、過冷却状態の時と安定状態のそれぞれの場合に行った引っ張り試験の結果を示したグラフである。ここで、図中、ひずみが1.4の時に最大応力27MPaを示しているのが、過冷却状態の複合材料である。ひずみが1.2の時に最大応力28Mpaを示しているのが、安定状態の複合材料である。
【0046】
過冷却状態のときと安定状態のときとで、複合材料の力学的特性に変化が生じていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の複合材料は、通常は衣服として機能しつつ、緊急時には強固な防護服に変化する衣服に利用が可能である。また、たとえば、小さく丸めて保存しておき、使用時には強固な梯子に変化させることができる。必要な時に、成形品に充分な強度を付与することができるので、軽量化と相まってこれまで利用が限定されていた製品にも利用可能性がある。
【符号の説明】
【0048】
1 チューブ
2 吸引容器
3 ポンプ
4 過冷却性物質供給手段
10 高分子フィルム
20 クレーズ形成装置
21 ローラ―
22 ブレード