(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】ナノデバイス、フォースセンサ、力の測定方法、および試薬キット
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20230502BHJP
B82Y 15/00 20110101ALI20230502BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
B82Y15/00
(21)【出願番号】P 2019098897
(22)【出願日】2019-05-27
【審査請求日】2022-02-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的先端研究開発支援事業、「DNAナノバイオデバイスを用いた心筋細胞の力場イメージングと光制御技術の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩城 光宏
【審査官】幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-168831(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0057805(US,A1)
【文献】特表2017-505104(JP,A)
【文献】国際公開第2010/010862(WO,A1)
【文献】M. Iwaki et al.,A programmable DNA origami nanospring that reveals force-induced adjacent binding of myosin VI beads.,Nat. Commun.,2016年12月12日,7:13715,p.1-10,doi: 10.1038/ncomms13715
【文献】Nandhini Ponnuswamy et al.,Oligolysine-based coating protects DNA nanostructures from low-salt denaturation and nuclease degradation.,Nat. Commun.,2017年05月31日,8:15654,p.1-9,doi: 10.1038/ncomms15654
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノデバイスであって、
コイル構造および第1のハンドルを備え、
前記コイル構造が、スカフォールドおよび複数のステイプルを含み、
前記スカフォールドが、1本鎖ポリヌクレオチドであり、
前記ステイプルが、それぞれ、前記スカフォールドに相補的な塩基配列を含む1本鎖オリゴヌクレオチドであり、
前記第1のハンドルが、前記スカフォールドに相補的な第1の塩基配列と前記スカフォールドに相補的でない第2の塩基配列を含む1本鎖オリゴヌクレオチドであり、
前記スカフォールドが、前記ステイプルとのハイブリダイズにより架橋され、以て4ヘリックスバンドルコイルを形成しており、
前記ステイプルによる前記スカフォールドの架橋が、ヌクレオチドの二重螺旋の周期性と異なる周期性で実施され、
前記第1のハンドルが、前記コイル構造の一方の端部において、前記スカフォールドの少なくとも2つのヘリックス形成部位とハイブリダイズしている、ナノデバイス。
【請求項2】
さらに、第2のハンドルを備え、
前記第2のハンドルが、前記スカフォールドに相補的な第1の塩基配列と前記スカフォールドに相補的でない第2の塩基配列を含む1本鎖オリゴヌクレオチドであり、
前記第2のハンドルが、前記コイル構造の他方の端部において、前記スカフォールドの少なくとも2つのヘリックス形成部位とハイブリダイズしている、請求項1に記載のナノデバイス。
【請求項3】
前記スカフォールドが、環状1本鎖ポリヌクレオチドである、請求項1または2に記載のナノデバイス。
【請求項4】
前記スカフォールドの長さが、7500~8500残基である、請求項1~3のいずれか1項に記載のナノデバイス。
【請求項5】
前記ステイプルの長さが、それぞれ、10~100残基である、請求項1~4のいずれか1項に記載のナノデバイス。
【請求項6】
前記ステイプルによる前記スカフォールドの架橋周期が、32残基である、請求項1~5のいずれか1項に記載のナノデバイス。
【請求項7】
前記スカフォールドが、周期的にヌクレオチド残基の挿入および/または欠失を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のナノデバイス。
【請求項8】
前記スカフォールドが、隣接する2つのヘリックス形成部位にヌクレオチド残基の挿入を含み、且つ、残りの2つのヘリックス形成部位にヌクレオチド残基の欠失を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のナノデバイス。
【請求項9】
前記スカフォールドが、スカフォールドが32残基ごとに2残基のヌクレオチドの挿入または欠失を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のナノデバイス。
【請求項10】
前記第1および/または第2のハンドルの長さが、それぞれ、20~200残基である、請求項1~9のいずれか1項に記載のナノデバイス。
【請求項11】
前記第1および/または第2のハンドル中の前記第1の塩基配列の長さが、それぞれ、
10~100残基である、請求項1~10のいずれか1項に記載のナノデバイス。
【請求項12】
前記第1および/または第2のハンドル中の前記第2の塩基配列の長さが、それぞれ、10~100残基である、請求項1~11のいずれか1項に記載のナノデバイス。
【請求項13】
さらに、第1のアンチハンドルを備え、
前記第1のアンチハンドルが、前記第1のハンドル中の前記第2の塩基配列に相補的な塩基配列を含む1本鎖オリゴヌクレオチドと、対象物に対する結合性を有する物質とを備える分子であり、
前記第1のアンチハンドルが、前記第1のハンドル中の前記第2の塩基配列とハイブリダイズしている、請求項1~12のいずれか1項に記載のナノデバイス。
【請求項14】
さらに、第2のアンチハンドルを備え、
前記第2のアンチハンドルが、前記第2のハンドル中の前記第2の塩基配列に相補的な塩基配列を含む1本鎖オリゴヌクレオチドと、対象物に対する結合性を有する物質とを備える分子であり、
前記第2のアンチハンドルが、前記第2のハンドル中の前記第2の塩基配列とハイブリダイズしている、請求項2~13のいずれか1項に記載のナノデバイス。
【請求項15】
前記ポリヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチドが、DNAである、請求項1~14のい
ずれか1項に記載のナノデバイス。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載のナノデバイスを備えるフォースセンサ。
【請求項17】
請求項1~15のいずれか1項に記載のナノデバイスにかかる力を測定することを含む、力の測定方法。
【請求項18】
前記力が、10~60pNの力である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記測定が、オリゴリジン-PEGの存在下で実施される、請求項17または18に記載
の方法。
【請求項20】
コイル構造および第1のハンドルを含む試薬キットであって、
前記コイル構造が、スカフォールドおよび複数のステイプルを含み、
前記スカフォールドが、1本鎖ポリヌクレオチドであり、
前記ステイプルが、それぞれ、前記スカフォールドに相補的な塩基配列を含む1本鎖オリゴヌクレオチドであり、
前記第1のハンドルが、前記スカフォールドに相補的な第1の塩基配列と前記スカフォールドに相補的でない第2の塩基配列を含む1本鎖オリゴヌクレオチドであり、
前記スカフォールドが、前記ステイプルとのハイブリダイズにより架橋され、以て4ヘリックスバンドルコイルを形成しており、
前記ステイプルによる前記スカフォールドの架橋が、ヌクレオチドの二重螺旋の周期性と異なる周期性で実施され、
前記第1のハンドルが、前記コイル構造の一方の端部において、前記スカフォールドの少なくとも2つのヘリックス形成部位とハイブリダイズできるように構成されている、試薬キット。
【請求項21】
さらに、第2のハンドルを含み、
前記第2のハンドルが、前記スカフォールドに相補的な第1の塩基配列と前記スカフォールドに相補的でない第2の塩基配列を含む1本鎖オリゴヌクレオチドであり、
前記第2のハンドルが、前記コイル構造の他方の端部において、前記スカフォールドの少なくとも2つのヘリックス形成部位とハイブリダイズできるように構成されている、請求項20に記載の試薬キット。
【請求項22】
前記スカフォールドが、環状1本鎖ポリヌクレオチドである、請求項20または21に記載の試薬キット。
【請求項23】
前記スカフォールドの長さが、7500~8500残基である、請求項20~22のいずれか1項に記載の試薬キット。
【請求項24】
前記ステイプルの長さが、それぞれ、10~100残基である、請求項20~23のいずれか1項に記載の試薬キット。
【請求項25】
前記ステイプルによる前記スカフォールドの架橋周期が、32残基である、請求項20~24のいずれか1項に記載の試薬キット。
【請求項26】
前記スカフォールドが、周期的にヌクレオチド残基の挿入および/または欠失を含む、請求項20~25のいずれか1項に記載の試薬キット。
【請求項27】
前記スカフォールドが、隣接する2つのヘリックス形成部位にヌクレオチド残基の挿入を含み、且つ、残りの2つのヘリックス形成部位にヌクレオチド残基の欠失を含む、請求項20~26のいずれか1項に記載の試薬キット。
【請求項28】
前記スカフォールドが、スカフォールドが32残基ごとに2残基のヌクレオチドの挿入または欠失を含む、請求項20~27のいずれか1項に記載の試薬キット。
【請求項29】
前記第1および/または第2のハンドルの長さが、それぞれ、20~200残基である、請求項20~28のいずれか1項に記載の試薬キット。
【請求項30】
前記第1および/または第2のハンドル中の前記第1の塩基配列の長さが、それぞれ、10~100残基である、請求項20~29のいずれか1項に記載の試薬キット。
【請求項31】
前記第1および/または第2のハンドル中の前記第2の塩基配列の長さが、それぞれ、10~100残基である、請求項20~30のいずれか1項に記載の試薬キット。
【請求項32】
さらに、第1のアンチハンドルを含み、
前記第1のアンチハンドルが、前記第1のハンドル中の前記第2の塩基配列に相補的な塩基配列を含む1本鎖オリゴヌクレオチドと、対象物に対する結合性を有する物質とを備える分子であり、
前記第1のアンチハンドルが、前記第1のハンドル中の前記第2の塩基配列とハイブリダイズできるように構成されている、請求項20~31のいずれか1項に記載の試薬キット。
【請求項33】
さらに、第2のアンチハンドルを含み、
前記第2のアンチハンドルが、前記第2のハンドル中の前記第2の塩基配列に相補的な塩基配列を含む1本鎖オリゴヌクレオチドと、対象物に対する結合性を有する物質とを備える分子であり、
前記第2のアンチハンドルが、前記第2のハンドル中の前記第2の塩基配列とハイブリダイズできるように構成されている、請求項21~32のいずれか1項に記載の試薬キット。
【請求項34】
前記ポリヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチドが、DNAである、請求項20~33の
いずれか1項に記載の試薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理的なレンジの力を測定するために利用可能なナノデバイスおよびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞や組織が生み出す機械的な力は、形態形成(発生)、幹細胞分化、心血管系の機能等の種々の生命現象と関連している。しかしながら、そのような力を定量的に評価する技術は乏しい。そのため、そのような力を定量的に評価する技術の開発が求められている。
【0003】
特許文献1および非特許文献1には、DNAorigami技術で製造したコイル構造がバネとして機能することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】M. Iwaki et al. A programmable DNA origami nanospring that reveals force-induced adjacent binding of myosin VI heads. Nature Communications volume 7, Article number: 13715 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、生理的なレンジの力を測定するために利用可能なナノデバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、鋭意研究を進めた結果、DNAorigami技術で製造した4ヘリックスバンドルコイルにオリゴヌクレオチドのハンドルをハイブリダイズさせることにより、生理的なレンジの力を測定するために利用可能なナノデバイスが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の通り例示できる。
[1]
ナノデバイスであって、
コイル構造および第1のハンドルを備え、
前記コイル構造が、スカフォールドおよび複数のステイプルを含み、
前記スカフォールドが、1本鎖ポリヌクレオチドであり、
前記ステイプルが、それぞれ、前記スカフォールドに相補的な塩基配列を含む1本鎖オリゴヌクレオチドであり、
前記第1のハンドルが、前記スカフォールドに相補的な第1の塩基配列と前記スカフォールドに相補的でない第2の塩基配列を含む1本鎖オリゴヌクレオチドであり、
前記スカフォールドが、前記ステイプルとのハイブリダイズにより架橋され、以て4ヘリックスバンドルコイルを形成しており、
前記ステイプルによる前記スカフォールドの架橋が、ヌクレオチドの二重螺旋の周期性と異なる周期性で実施され、
前記第1のハンドルが、前記コイル構造の一方の端部において、前記スカフォールドの
少なくとも2つのヘリックス形成部位とハイブリダイズしている、ナノデバイス。
[2]
さらに、第2のハンドルを備え、
前記第2のハンドルが、前記スカフォールドに相補的な第1の塩基配列と前記スカフォールドに相補的でない第2の塩基配列を含む1本鎖オリゴヌクレオチドであり、
前記第2のハンドルが、前記コイル構造の他方の端部において、前記スカフォールドの少なくとも2つのヘリックス形成部位とハイブリダイズしている、前記ナノデバイス。
[3]
前記スカフォールドが、環状1本鎖ポリヌクレオチドである、前記ナノデバイス。
[4]
前記スカフォールドの長さが、7500~8500残基である、前記ナノデバイス。
[5]
前記ステイプルの長さが、それぞれ、10~100残基である、前記ナノデバイス。
[6]
前記ステイプルによる前記スカフォールドの架橋周期が、32残基である、前記ナノデバイス。
[7]
前記スカフォールドが、周期的にヌクレオチド残基の挿入および/または欠失を含む、前記ナノデバイス。
[8]
前記スカフォールドが、隣接する2つのヘリックス形成部位にヌクレオチド残基の挿入を含み、且つ、残りの2つのヘリックス形成部位にヌクレオチド残基の欠失を含む、前記ナノデバイス。
[9]
前記スカフォールドが、スカフォールドが32残基ごとに2残基のヌクレオチドの挿入または欠失を含む、前記ナノデバイス。
[10]
前記第1および/または第2のハンドルの長さが、それぞれ、20~200残基である、前記ナノデバイス。
[11]
前記第1および/または第2のハンドル中の前記第1の塩基配列の長さが、それぞれ、10~100残基である、前記ナノデバイス。
[12]
前記第1および/または第2のハンドル中の前記第2の塩基配列の長さが、それぞれ、10~100残基である、前記ナノデバイス。
[13]
さらに、第1のアンチハンドルを備え、
前記第1のアンチハンドルが、前記第1のハンドル中の前記第2の塩基配列に相補的な塩基配列を含む1本鎖オリゴヌクレオチドと、対象物に対する結合性を有する物質とを備える分子であり、
前記第1のアンチハンドルが、前記第1のハンドル中の前記第2の塩基配列とハイブリダイズしている、前記ナノデバイス。
[14]
さらに、第2のアンチハンドルを備え、
前記第2のアンチハンドルが、前記第2のハンドル中の前記第2の塩基配列に相補的な塩基配列を含む1本鎖オリゴヌクレオチドと、対象物に対する結合性を有する物質とを備える分子であり、
前記第2のアンチハンドルが、前記第2のハンドル中の前記第2の塩基配列とハイブリダイズしている、前記ナノデバイス。
[15]
前記ポリヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチドが、DNAである、前記ナノデバイス。
[16]
前記ナノデバイスを備えるフォースセンサ。
[17]
前記ナノデバイスにかかる力を測定することを含む、力の測定方法。
[18]
前記力が、10~60pNの力である、前記方法。
[19]
前記測定が、オリゴリジン-PEGの存在下で実施される、前記方法。
[20]
コイル構造および第1のハンドルを含む試薬キットであって、
前記コイル構造が、スカフォールドおよび複数のステイプルを含み、
前記スカフォールドが、1本鎖ポリヌクレオチドであり、
前記ステイプルが、それぞれ、前記スカフォールドに相補的な塩基配列を含む1本鎖オリゴヌクレオチドであり、
前記第1のハンドルが、前記スカフォールドに相補的な第1の塩基配列と前記スカフォールドに相補的でない第2の塩基配列を含む1本鎖オリゴヌクレオチドであり、
前記スカフォールドが、前記ステイプルとのハイブリダイズにより架橋され、以て4ヘリックスバンドルコイルを形成しており、
前記ステイプルによる前記スカフォールドの架橋が、ヌクレオチドの二重螺旋の周期性と異なる周期性で実施され、
前記第1のハンドルが、前記コイル構造の一方の端部において、前記スカフォールドの少なくとも2つのヘリックス形成部位とハイブリダイズできるように構成されている、試薬キット。
[21]
さらに、第2のハンドルを含み、
前記第2のハンドルが、前記スカフォールドに相補的な第1の塩基配列と前記スカフォールドに相補的でない第2の塩基配列を含む1本鎖オリゴヌクレオチドであり、
前記第2のハンドルが、前記コイル構造の他方の端部において、前記スカフォールドの少なくとも2つのヘリックス形成部位とハイブリダイズできるように構成されている、前記試薬キット。
[22]
前記スカフォールドが、環状1本鎖ポリヌクレオチドである、前記試薬キット。
[23]
前記スカフォールドの長さが、7500~8500残基である、前記試薬キット。
[24]
前記ステイプルの長さが、それぞれ、10~100残基である、前記試薬キット。
[25]
前記ステイプルによる前記スカフォールドの架橋周期が、32残基である、前記試薬キット。
[26]
前記スカフォールドが、周期的にヌクレオチド残基の挿入および/または欠失を含む、前記試薬キット。
[27]
前記スカフォールドが、隣接する2つのヘリックス形成部位にヌクレオチド残基の挿入を含み、且つ、残りの2つのヘリックス形成部位にヌクレオチド残基の欠失を含む、前記試薬キット。
[28]
前記スカフォールドが、スカフォールドが32残基ごとに2残基のヌクレオチドの挿入または欠失を含む、前記試薬キット。
[29]
前記第1および/または第2のハンドルの長さが、それぞれ、20~200残基である、前記試薬キット。
[30]
前記第1および/または第2のハンドル中の前記第1の塩基配列の長さが、それぞれ、10~100残基である、前記試薬キット。
[31]
前記第1および/または第2のハンドル中の前記第2の塩基配列の長さが、それぞれ、10~100残基である、前記試薬キット。
[32]
さらに、第1のアンチハンドルを含み、
前記第1のアンチハンドルが、前記第1のハンドル中の前記第2の塩基配列に相補的な塩基配列を含む1本鎖オリゴヌクレオチドと、対象物に対する結合性を有する物質とを備える分子であり、
前記第1のアンチハンドルが、前記第1のハンドル中の前記第2の塩基配列とハイブリダイズできるように構成されている、前記試薬キット。
[33]
さらに、第2のアンチハンドルを含み、
前記第2のアンチハンドルが、前記第2のハンドル中の前記第2の塩基配列に相補的な塩基配列を含む1本鎖オリゴヌクレオチドと、対象物に対する結合性を有する物質とを備える分子であり、
前記第2のアンチハンドルが、前記第2のハンドル中の前記第2の塩基配列とハイブリダイズできるように構成されている、前記試薬キット。
[34]
前記ポリヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチドが、DNAである、前記試薬キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、生理的なレンジの力を測定するために利用可能なナノデバイスを提供できる。本発明の一態様によれば、同ナノデバイスを利用して生理的なレンジの力を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】正方格子状に束ねられた第1~第4のヘリックスおよび4ヘリックスバンドルコイルの模式図。
【
図5】フォースセンサのPEGコートの結果を示す図(写真)。
【
図6】フォースセンサを利用した心筋細胞の拍動の測定結果を示す図(写真)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
<1>本発明のナノデバイス
本発明のナノデバイスは、コイル構造および少なくとも1つのハンドルを備えるナノデバイスである。
【0013】
本発明において、「コイル」とは、3次元コイルを意味する。「3次元コイル」とは、螺旋(helix;3次元曲線)状のコイルを意味してよい。「3次元コイル」とは、具体的
には、コイルバネ状のコイルを意味してよい。
【0014】
本発明のナノデバイスまたはそのコイル構造は、バネ(具体的にはコイルバネ)として機能できる。本発明のナノデバイスまたはそのコイル構造を、「ナノスプリング」ともいう。
【0015】
コイル構造は、バネとして機能してよい。コイル構造は、具体的には、外からの力に応答してバネとして機能してよい。コイル構造は、より具体的には、ハンドルを介して伝達される力に応答してバネとして機能してよい。
【0016】
コイル構造は、スカフォールドおよび複数のステイプルを含む。コイル構造は、特に、スカフォールドおよび複数のステイプルからなるものであってよい。下記のステイプルに関する記載は、特記しない限り、複数のステイプルにそれぞれ独立に適用できる。
【0017】
スカフォールドは、ステイプルとのハイブリダイズによりコイル構造を形成する。スカフォールドは、具体的には、ステイプルとのハイブリダイズにより4ヘリックスバンドル(four-helix bundle)コイルを形成する。すなわち、コイル構造は、具体的には、4ヘ
リックスバンドルコイルである。ここでいう「ヘリックス」とは、ヌクレオチドの二重螺旋(具体的には、スカフォールドとステイプルがハイブリダイズして形成される二本鎖ヌクレオチド)を意味する。「4ヘリックスバンドルコイル」とは、4本のヘリックスが束ねられて(バンドル(bundle)されて)形成されたコイルを意味する。4本のヘリックスは、正方格子(square lattice)状に束ねられていてよい。すなわち、4本のヘリックスが正方格子状に束ねられ、さらに、束ねられた4本のヘリックスがコイル構造を形成してよい。説明の便宜上、4本のヘリックスを、それぞれ、「第1~第4のヘリックス」ともいう。正方格子状に束ねられた第1~第4のヘリックスおよび4ヘリックスバンドルコイルの模式図を
図1に示す。スカフォールドは、より具体的には、ステイプルとのハイブリダイズにより架橋され、以てコイル構造を形成する。言い換えると、スカフォールドとステイプルのハイブリダイズにより第1~第4のヘリックスが架橋され、以てコイル構造が形成される。第1~第4のヘリックスは、それぞれ隣接するヘリックスと架橋される。第1のヘリックスは第2と第4のヘリックスに、第2のヘリックスは第3と第1のヘリックスに、第3のヘリックスは第4と第2のヘリックスに、第4のヘリックスは第1と第3のヘリックスに、それぞれ隣接してよい。すなわち、第1のヘリックスは第2と第4のヘリックスに、第2のヘリックスは第3と第1のヘリックスに、第3のヘリックスは第4と第2のヘリックスに、第4のヘリックスは第1と第3のヘリックスに、それぞれ架橋されてよい。すなわち、第1のヘリックスが第2と第4のヘリックスに、第2のヘリックスが第3と第1のヘリックスに、第3のヘリックスが第4と第2のヘリックスに、第4のヘリックスが第1と第3のヘリックスに、それぞれ架橋されることにより、第1~第4のヘリックスが正方格子(square lattice)状に束ねられ、以てコイル構造が形成されてよい。4ヘリックスバンドルコイルを形成する条件については、例えば、特開2014-168831の記載
を参照できる。
【0018】
「スカフォールド」とは、コイル構造を形成する際の足場となる分子を意味する。スカフォールドは、1本鎖ポリヌクレオチドである。スカフォールドは、環状であってもよく、線状であってもよい。スカフォールドは、特に、環状であってよい。すなわち、スカフォールドは、特に、環状1本鎖ポリヌクレオチドであってよい。
【0019】
スカフォールドの長さは、所望のデバイス構造が得られる限り、特に制限されない。スカフォールドの長さは、例えば、6000残基以上、6500残基以上、7000残基以上、7500残基以上、8000残基以上、8500残基以上、9000残基以上、9500残基以上、または10000残基以上であってもよく、20000残基以下、15000残基以下、12000残基以下、11000残基以下、10000残基以下、950
0残基以下、9000残基以下、8500残基以下、または8000残基以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。スカフォールドの長さは、具体的には、例えば、6500~10000残基、7000~9000残基、または7500~8500残基であってもよい。
【0020】
スカフォールドの塩基配列は、所望のデバイス構造が得られる限り、特に制限されない。スカフォールドの塩基配列としては、配列番号1に示す塩基配列が挙げられる。また、スカフォールドの塩基配列としては、配列番号1に示す塩基配列のバリアント配列も挙げられる。すなわち、スカフォールドは、配列番号1に示す塩基配列またはそのバリアント配列を有していてよい。「塩基配列を有する」とは、特記しない限り、当該塩基配列を含むことを意味し、当該塩基配列からなる場合も包含される。バリアント配列としては、配列番号1に示す塩基配列に対し80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、または99%以上の配列同一性を有する塩基配列も挙げられる。配列同一性は、例えば、BLAST等のアラインメントプログラムにより算出することができる
。
【0021】
スカフォールドは、4ヘリックスバンドルコイルの第1~第4のヘリックスをそれぞれ構成する部分配列(すなわち、4ヘリックスバンドルコイルの第1~第4のヘリックスそれぞれの一方のストランドとなる部分配列)を含む。スカフォールド中の、4ヘリックスバンドルコイルの第1~第4のヘリックスを構成する部分配列を、それぞれ、「第1~第4のヘリックス形成部位」ともいう。例えば、配列番号1に示す塩基配列からなるスカフォールドを用いて実施例に記載の4ヘリックスバンドルコイルを形成する場合、配列番号1の、17~2106位が第1のヘリックス形成部位、2145~4234位が第2のヘリックス形成部位、4257~6104位が第3のヘリックス形成部位、6131~7978位が第4のヘリックス形成部位であってよい。
【0022】
スカフォールドは、4ヘリックスバンドルコイルの形成の際に、ステイプルとのハイブリダイズにより折り曲げられる。スカフォールド中の折り曲げられる部位を、「スカフォールドクロスオーバ」ともいう。スカフォールドの第1~第4のヘリックス形成部位は、スカフォールドクロスオーバを介してそれぞれ接続されている。言い換えると、4ヘリックスバンドルコイルの第1~第4のヘリックスは、スカフォールドクロスオーバを介してそれぞれ接続されている。すなわち、スカフォールドクロスオーバは、スカフォールドの部分配列であって、スカフォールドの第1~第4のヘリックス形成部位を接続する(すなわち、4ヘリックスバンドルコイルの第1~第4のヘリックスを接続する)部分配列であってよい。スカフォールドクロスオーバは、ステイプルとハイブリダイズしていない一本鎖領域を含んでいてよい。少なくとも、ハンドルとハイブリダイズするスカフォールドクロスオーバは、ハンドルがハイブリダイズするための一本鎖領域を含む。スカフォールドクロスオーバは、特に、ステイプルとハイブリダイズしていない一本鎖領域からなるものであってよい。すなわち、スカフォールドクロスオーバは、特に、スカフォールドの部分配列であって、スカフォールドの第1~第4のヘリックス形成部位を接続し(すなわち、4ヘリックスバンドルコイルの第1~第4のヘリックスを接続し)且つ、ステイプルとハイブリダイズしていない部分配列であってもよい。例えば、配列番号1に示す塩基配列からなるスカフォールドを用いて実施例に記載の4ヘリックスバンドルコイルを形成する場合、配列番号1の、2107~2144位が第1と第2のヘリックス形成部位間のスカフォールドクロスオーバ、4235~4256位が第2と第3のヘリックス形成部位間のスカフォールドクロスオーバ、6105~6130位が第3と第4のヘリックス形成部位間のスカフォールドクロスオーバ、7979~8064位と1~16位が第4と第1のヘリックス形成部位間のスカフォールドク
ロスオーバであってよい。なお、線状スカフォールドの場合、当該線状スカフォールドを環状にしたと仮定した場合に上記のスカフォールドクロスオーバの条件を満たす部位を「スカフォールドクロスオーバ」とみなしてよい。
【0023】
スカフォールドクロスオーバの位置は、所望のデバイス構造が得られる限り、特に制限されない。コイル構造は、その両端にスカフォールドクロスオーバを有する。コイル構造は、さらに、その内部にスカフォールドクロスオーバを有していてもよく、いなくてもよい。コイル構造は、特に、その両端にのみスカフォールドクロスオーバを有していてよい。コイル構造は、特に、均一なコイル構造の形成の観点から、その両端にのみスカフォールドクロスオーバを有していてよい。コイル構造は、具体的には、その一方の端部に第1と第4のヘリックスを接続するスカフォールドクロスオーバと第2と第3のヘリックスを接続するスカフォールドクロスオーバを、その他方の端部に第1と第2のヘリックスを接続するスカフォールドクロスオーバと第3と第4のヘリックスを接続するスカフォールドクロスオーバを、それぞれ有していてよい。
【0024】
「ステイプル」とは、コイル構造を形成する際にスカフォールドを架橋する分子を意味してよい。ステイプルは、1本鎖オリゴヌクレオチドである。ステイプルは、通常、線状であってよい。すなわち、ステイプルは、通常、線状1本鎖オリゴヌクレオチドであってよい。ステイプルは、具体的には、スカフォールドと相補的なオリゴヌクレオチドである。すなわち、ステイプルは、スカフォールドと相補的な塩基配列を含む。ステイプルは、特に、スカフォールドと相補的な塩基配列からなるものであってよい。
【0025】
ステイプルは、スカフォールドの少なくとも2つの部分配列に相補的である。「ステイプルがスカフォールドの少なくとも2つの部分配列に相補的である」とは、塩基配列がスカフォールドの少なくとも2つの部分配列にそれぞれ相補的な部分配列を含むことを意味する。ステイプルは、スカフォールドの2つ、3つ、または4つの部分配列に相補的であってよい。ステイプルは、特に、スカフォールドの2つまたは3つの部分配列に相補的であってよい。ステイプルは、さらに特には、スカフォールドの3つの部分配列に相補的であってよい。「スカフォールドの少なくとも2つの部分配列」とは、スカフォールドの第1~第4のヘリックス形成部位から選択される少なくとも2つ(例えば2つ、3つ、または4つ)のヘリックス形成部位中の部分配列を意味する。当該少なくとも2つ(例えば2つ、3つ、または4つ)のヘリックス形成部位は、隣接するヘリックス形成部位の組み合わせであれば、特に制限されない。「或るヘリックス形成部位と隣接するヘリックス形成部位」とは、4ヘリックスバンドルコイルにおいて当該或るヘリックス形成部位と隣接するヘリックス形成部位を意味する。すなわち、第1のヘリックス形成部位は第2と第4のヘリックス形成部位に、第2のヘリックス形成部位は第3と第1のヘリックス形成部位に、第3のヘリックス形成部位は第4と第2のヘリックス形成部位に、第4のヘリックス形成部位は第1と第3のヘリックス形成部位に、それぞれ隣接してよい。ステイプル中の、スカフォールドの部分配列に相補的な各部分配列を、「ハイブリダイズ部位」ともいう。すなわち、ステイプルは、少なくとも2つ(例えば2つ、3つ、または4つ)のハイブリダイズ部位を含む。ステイプルは、特に、少なくとも2つ(例えば2つ、3つ、または4つ)のハイブリダイズ部位からなるものであってよい。すなわち、ステイプルは、スカフォールドとハイブリダイズしないヌクレオチド残基を含まなくてよい。
【0026】
ステイプルの各ハイブリダイズ部位は、それと相補的なスカフォールドの部分配列にハイブリダイズできる。ステイプルがスカフォールドの少なくとも2つの部分配列(すなわち、スカフォールドの第1~第4のヘリックス形成部位から選択される少なくとも2つのヘリックス形成部位中の部分配列)にハイブリダイズすることにより、当該少なくとも2つのヘリックス形成部位が架橋され、以て当該少なくとも2つのヘリックス形成部位が束ねられる、すなわち、当該少なくとも2つのヘリックス形成部位をそれぞれ含むヘリックスが束ねられる。具体的には、例えば、ステイプルがスカフォールドの第1~第3のヘリックス形成部位中の部分配列に相補的なハイブリダイズ部位を含む場合、ステイプルによってスカフォールドの第1~第3のヘリックス形成部位が架橋され、以てスカフォールド
の第1~第3のヘリックス形成部位が束ねられる、すなわち、コイル構造の第1~第3のヘリックスが束ねられる。ステイプルによる架橋部位を、「ステイプルクロスオーバ」ともいう。
【0027】
ステイプルの長さは、所望のデバイス構造が得られる限り、特に制限されない。ステイプルの長さは、例えば、10残基以上、15残基以上、20残基以上、25残基以上、30残基以上、35残基以上、または40残基以上であってもよく、100残基以下、90残基以下、80残基以下、70残基以下、60残基以下、50残基以下、45残基以下、40残基以下、35残基以下、または30残基以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。ステイプルの長さは、具体的には、例えば、10~100残基、10~60残基、20~50残基、25~40残基、または30~35残基であってもよい。ステイプルの長さは、特に、32残基であってもよい。ステイプルの長さは、例えば、全ステイプルの内の80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%のステイプルに共通であってよい。
【0028】
ステイプル中の各ハイブリダイズ部位の長さは、所望のデバイス構造が得られる限り、特に制限されない。ステイプル中の各ハイブリダイズ部位の長さは、例えば、5残基以上、7残基以上、10残基以上、15残基以上、または20残基以上であってもよく、50残基以下、45残基以下、40残基以下、35残基以下、30残基以下、25残基以下、20残基以下、15残基以下、10残基以下、または7残基以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。ステイプル中の各ハイブリダイズ部位の長さは、具体的には、例えば、5~20残基、5~15残基、または5~10残基であってもよく、5~50残基、10~30残基、または15~20残基であってもよい。ステイプルは、例えば、同一の長さの少なくとも2つ(例えば2つ、3つ、または4つ)のハイブリダイズ部位を含んでいてもよく、そうでなくてもよい。ステイプルは、例えば、短いハイブリダイズ部位と長いハイブリダイズ部位を含むものであってもよい。ステイプルは、具体的には、例えば、短いハイブリダイズ部位2つと長いハイブリダイズ部位1つを含むものであってもよい。ステイプルは、より具体的には、例えば、5~20残基、5~15残基、または5~10残基のハイブリダイズ部位2つと5~50残基、10~30残基、または15~20残基のハイブリダイズ部位1つを含むものであってもよい。ステイプル中の各ハイブリダイズ部位の長さは、特に、8残基または16残基であってもよい。ステイプルは、特に、8残基のハイブリダイズ部位2つと16残基のハイブリダイズ部位1つを含むものであってもよい。ステイプル中の各ハイブリダイズ部位の長さは、例えば、全ステイプルの内の80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%のステイプルに共通であってよい。
【0029】
ステイプルの種類数は、所望のデバイス構造が得られる限り、特に制限されない。ステイプルの種類数は、スカフォールドの塩基配列や長さ、ステイプルの長さ等の諸条件に応じて適宜設定できる。ステイプルの種類数は、例えば、ステイプルの種類数=スカフォールドの第1~第4のヘリックス形成部位の長さの合計/ステイプルの長さとして設定されてよい。ステイプルの種類数は、例えば、100以上、150以上、200以上、または250以上であってもよく、500以下、400以下、300以下、250以下、200以下、または150以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。ステイプルの種類数は、具体的には、例えば、200~300であってもよい。
【0030】
ステイプルは、後述するような4ヘリックスバンドルコイルを形成するための周期性が得られるように設計することができる。
【0031】
ステイプルは、例えば、cadnanoを利用して設計することができる。
【0032】
スカフォールドとステイプルとのハイブリダイズの程度は、所望のデバイス構造が得られる限り、特に制限されない。スカフォールドにおけるステイプルとハイブリダイズするヌクレオチド残基(ステイプルと2本鎖を形成するヌクレオチド残基)の比率は、例えば、スカフォールドの全ヌクレオチド残基に対して、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、または99%以上であってよく、且つ100%未満である。スカフォールドにおけるステイプルとハイブリダイズするヌクレオチド残基(ステイプルと2本鎖を形成するヌクレオチド残基)の比率は、例えば、スカフォールドクロスオーバを除くスカフォールドの全ヌクレオチド残基に対して、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%であってよい。
【0033】
4ヘリックスバンドルコイルは、例えば、ステイプルによるスカフォールドの架橋(すなわち、ステイプルとのハイブリダイズによるスカフォールドの架橋)をヌクレオチドの二重螺旋の周期性と異なる周期性で実施することにより、形成することができる。
【0034】
すなわち、ステイプルによるスカフォールドの架橋は、ヌクレオチドの二重螺旋の周期性と異なる周期性で実施されてよい。ヌクレオチドの二重螺旋の周期性(具体的には、2本鎖DNAの周期性)は10.5残基で360度である。よって、ステイプルによるスカフ
ォールドの架橋周期は、例えば、10.5残基の整数倍以外の周期(具体的には、21残基の整数倍以外の周期)であってよい。ステイプルによるスカフォールドの架橋周期は、具体的には、例えば、32残基であってよい。「ステイプルによるスカフォールドの架橋周期が32残基である」とは、スカフォールドが32残基ごとにステイプルによって架橋されていることを意味する。なお、架橋周期は、特記しない限り、ステイプルの残基数を基準とするものとする。すなわち、スカフォールドはヌクレオチドの挿入および/または欠失を含んでいてよいため、スカフォールドの残基数を基準とする架橋周期は、上記例示したステイプルの残基数を基準とする架橋周期の数値とは異なる場合がある。すなわち、例えば、スカフォールドの或るヘリックス形成部位が32残基ごとに2残基のヌクレオチドの挿入または欠失を含み、且つ架橋周期が32残基である場合、スカフォールドの当該或るヘリックス形成部位は34残基または30残基ごとに他のヘリックス形成部位(具体的には、隣接するヘリックス形成部位)と架橋されてよい。具体的には、例えば、スカフォールドの第1と第2のヘリックス形成部位が32残基ごとに2残基のヌクレオチドの挿入を含み、スカフォールドの第3と第4のヘリックス形成部位が32残基ごとに2残基のヌクレオチドの欠失を含み、且つ架橋周期が32残基である場合、スカフォールドの第1と第2のヘリックス形成部位は34残基の周期で架橋され、スカフォールドの第3と第4のヘリックス形成部位は30残基の周期で架橋され、スカフォールドの第1と第4のヘリックス形成部位は第1のヘリックス形成部位34残基に対し第4のヘリックス形成部位30残基の周期で架橋され、スカフォールドの第2と第3のヘリックス形成部位は第2のヘリックス形成部位34残基に対し第3のヘリックス形成部位30残基の周期で架橋されてよい。
【0035】
スカフォールドは、ヌクレオチド残基の挿入および/または欠失を含んでいてよい。「スカフォールドがヌクレオチド残基の挿入または欠失を含む」とは、ステイプルに対してスカフォールドのヌクレオチド残基数が多いまたは少ないことを意味する。すなわち、「スカフォールドがヌクレオチド残基の挿入を含む」とは、スカフォールドとステイプルのハイブリダイズ時に、スカフォールドとステイプルとのハイブリダイズ部位において、スカフォールドがステイプルと結合していない余分なヌクレオチド残基を含むことを意味してよい。また、「スカフォールドがヌクレオチド残基の欠失を含む」とは、スカフォールドとステイプルのハイブリダイズ時に、スカフォールドとステイプルとのハイブリダイズ部位において、ステイプルがスカフォールドと結合していない余分なヌクレオチド残基を含むことを意味してよい。
【0036】
スカフォールドは、例えば、少なくとも1つのヘリックス形成部位にヌクレオチド残基の挿入を含んでいてよい。スカフォールドは、特に、2つのヘリックス形成部位にヌクレオチド残基の挿入を含んでいてよい。また、スカフォールドは、例えば、少なくとも1つのヘリックス形成部位にヌクレオチド残基の欠失を含んでいてよい。スカフォールドは、特に、2つのヘリックス形成部位にヌクレオチド残基の欠失を含んでいてよい。スカフォールドは、具体的には、例えば、少なくとも1つのヘリックス形成部位にヌクレオチド残基の挿入を含み、且つ、別の少なくとも1つのヘリックス形成部位にヌクレオチド残基の欠失を含んでいてよい。スカフォールドは、特に、2つのヘリックス形成部位にヌクレオチド残基の挿入を含み、且つ、残りの2つのヘリックス形成部位にヌクレオチド残基の欠失を含んでいてよい。スカフォールドは、さらに特には、隣接する2つのヘリックス形成部位にヌクレオチド残基の挿入を含み、且つ、残りの2つのヘリックス形成部位にヌクレオチド残基の欠失を含んでいてよい。
【0037】
スカフォールドは、周期的にヌクレオチド残基の挿入および/または欠失を含んでいてよい。スカフォールドにおけるヌクレオチド残基の挿入および/または欠失の周期は、所望のデバイス構造が得られる限り、特に制限されない。ヌクレオチド残基の挿入または欠失の周期は、例えば、16残基以上、24残基以上、または32残基以上であってよく、100残基以下、70残基以下、50残基以下、または40残基以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。ヌクレオチド残基の挿入または欠失の周期は、具体的には、例えば、16~100残基、16~50残基、または24~40残基であってもよい。ヌクレオチド残基の挿入または欠失の周期は、特に、32残基周期であってもよい。なお、ヌクレオチド残基の挿入または欠失の周期は、特記しない限り、ステイプルの残基数を基準とするものとする。例えば、スカフォールドが32残基ごとに2残基のヌクレオチドの挿入または欠失を含む場合、スカフォールド上でのヌクレオチド残基の挿入または欠失の周期は、それぞれ、34残基または30残基になる。
【0038】
挿入または欠失するヌクレオチド残基の数は、所望のデバイス構造が得られる限り、特に制限されない。挿入または欠失するヌクレオチド残基の数は、例えば、1周期あたり、1残基以上、2残基以上、3残基以上、4残基以上、または5残基以上であってもよく、10残基以下、9残基以下、8残基以下、7残基以下、6残基以下、5残基以下、4残基以下、3残基以下、2残基以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。挿入または欠失するヌクレオチド残基の数は、具体的には、例えば、1周期あたり、1~3残基であってもよい。挿入または欠失するヌクレオチド残基の数は、特に、1周期あたり、2残基であってもよい。挿入または欠失するヌクレオチド残基の数は、さらに特には、32残基あたり、2残基であってもよい。1周期あたり2残基以上のヌクレオチドを挿入または欠失する場合、それらのヌクレオチド残基は、まとめて(すなわち互いに隣接する位置で)挿入または欠失してもよく、そうでなくてもよい。1周期あたり2残基以上のヌクレオチド残基を挿入または欠失する場合、それらのヌクレオチド残基は、特に、まとめて(すなわち互いに隣接する位置で)挿入または欠失してよい。
【0039】
スカフォールドとステイプルとのハイブリダイズ部位における挿入または欠失するヌクレオチド残基の位置は、所望のデバイス構造が得られる限り、特に制限されない。スカフォールドとステイプルとのハイブリダイズ部位における挿入または欠失するヌクレオチド残基の位置は、例えば、スカフォールドとステイプルとのハイブリダイズ部位の中心(すなわち、ステイプルの各ハイブリダイズ部位の中心)であってよい。具体的には、例えば、ステイプルのハイブリダイズ部位の長さが16残基である場合、スカフォールドとステイプルとのハイブリダイズ部位における挿入または欠失するヌクレオチド残基の位置は、ステイプルの16残基目と17残基目の間の位置であってよい。
【0040】
各ヘリックス(すなわち、第1~第4のヘリックスのそれぞれ)は、例えば、所定の距離を開けて、ステイプルクロスオーバ、ステイプルの継ぎ目、およびヌクレオチド残基の挿入または欠失を含んでいてよい。各ヘリックスは、具体的には、例えば、所定の距離を開けて、2つのステイプルクロスオーバ(すなわち、隣接する2本のヘリックスとそれぞれ架橋するためのステイプルクロスオーバ)、ステイプルの継ぎ目、およびヌクレオチド残基の挿入または欠失を含んでいてよい。これらの構成要素間の距離は、所望のデバイス構造が得られる限り、特に制限されない。これらの構成要素間の距離は、例えば、4残基以上、5残基以上、6残基以上、7残基以上、8残基以上、9残基以上、10残基以上、12残基以上、または15残基以上であってもよく、24残基以下、20残基以下、15残基以下、12残基以下、10残基以下、9残基以下、8残基以下、7残基以下、または6残基以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。これらの構成要素間の距離は、例えば、4~24残基、5~15残基、または6~10残基であってもよい。これらの構成要素間の距離は、特に、8残基であってよい。すなわち、各ヘリックスは、特に、8残基ごとに、2つのステイプルクロスオーバ、ステイプルの継ぎ目、およびヌクレオチド残基の挿入または欠失を含んでいてよい。なお、これらの構成要素間の距離は、特記しない限り、ステイプルの残基数を基準とするものとする。これらの構成要素の順番は、所望のデバイス構造が得られる限り、特に制限されない。例えば、隣接する2つのヘリックス形成部位が同一位置にヌクレオチド残基の挿入を含む場合、当該2つのヘリックス形成部位を架橋するステイプルクロスオーバとヌクレオチド残基の挿入の位置との距離は、特に、ステイプルの残基数を基準として16残基であってよい。また、例えば、隣接する2つのヘリックス形成部位が同一位置にヌクレオチド残基の欠失を含む場合、当該2つのヘリックス形成部位を架橋するステイプルクロスオーバとヌクレオチド残基の欠失の位置との距離は、特に、ステイプルの残基数を基準として16残基であってよい。
【0041】
隣接する2つのヘリックス形成部位を架橋するステイプルクロスオーバの位置は、例えば、残りの2つのヘリックス形成部位の一方または両方におけるステイプルの継ぎ目の位置と同一であってよい。隣接する2つのヘリックス形成部位を架橋するステイプルクロスオーバの位置は、特に、残りの2つのヘリックス形成部位におけるステイプルの継ぎ目の位置と同一であってよい。隣接する2つのヘリックス形成部位がヌクレオチド残基の挿入を含む場合、当該2つのヘリックス形成部位におけるヌクレオチド残基の挿入の位置は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。隣接する2つのヘリックス形成部位がヌクレオチド残基の挿入を含む場合、当該2つのヘリックス形成部位におけるヌクレオチド残基の挿入の位置は、特に、同一であってよい。隣接する2つのヘリックス形成部位がヌクレオチド残基の欠失を含む場合、当該2つのヘリックス形成部位におけるヌクレオチド残基の欠失の位置は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。隣接する2つのヘリックス形成部位がヌクレオチド残基の欠失を含む場合、当該2つのヘリックス形成部位におけるヌクレオチド残基の欠失の位置は、特に、同一であってよい。なお、「或る構成要素が2つのヘリックス形成部位において同一の位置にある」とは、当該或る構成要素が2つのヘリックス形成部位においてスカフォールドの延在方向(すなわち、コイル構造の延在方向)と直交する単一の平面上に位置することを意味してよい。
【0042】
スカフォールドとステイプルのハイブリダイズによるコイル構造の形成は、DNAオリガ
ミ技術を利用して実施することができる。スカフォールドとステイプルのハイブリダイズによるコイル構造の形成は、具体的には、例えば、特開2014-168831の記載に従って実施
することができる。すなわち、例えば、スカフォールドとステイプルを混合し、高温(例えば80℃)から低温(例えば24℃)の範囲で徐々に温度を低下させることにより、コイル構造を形成することができる。
【0043】
本発明のナノデバイスは、少なくとも1つのハンドルを備える。本発明のナノデバイス
は、例えば、1つまたは2つのハンドルを備えていてよい。本発明のナノデバイスが1つのハンドルを備える場合、当該ハンドルを「第1のハンドル」ともいう。本発明のナノデバイスが2つのハンドルを備える場合、当該ハンドルをそれぞれ「第1および第2のハンドル」ともいう。言い換えると、本発明のナノデバイスは、第1のハンドルを備えていてよい。すなわち、本発明のナノデバイスは、具体的には、コイル構造および第1のハンドルを備えるナノデバイスであってよい。本発明のナノデバイスは、さらに、第2のハンドルを備えていてもよい。また、言い換えると、少なくとも1つのハンドルは、第1のハンドルを含んでいてよい。少なくとも1つのハンドルは、さらに、第2のハンドルを含んでいてよい。少なくとも1つのハンドルは、特に、第1および第2のハンドルからなるものであってよい。本発明のナノデバイスが複数のハンドル(例えば第1および第2のハンドル)を備える場合、下記のハンドルに関する記載は、特記しない限り、複数のハンドルにそれぞれ独立に適用できる。
【0044】
「ハンドル」とは、スカフォールドクロスオーバに結合(ハイブリダイズ)して用いられる分子を意味してよい。ハンドルは、外からの力をコイル構造に伝達してよい。ハンドルは、具体的には、力の測定対象となる物質からの力をコイル構造に伝達してよい。力の測定対象となる物質を、「測定対象物」ともいう。ハンドルは、特に、アンチハンドルとの組み合わせで、外からの力(具体的には、測定対象物からの力)をコイル構造に伝達してよい。
【0045】
ハンドルは、1本鎖オリゴヌクレオチドである。ハンドルは、環状であってもよく、線状であってもよい。ハンドルは、特に、線状であってよい。すなわち、ハンドルは、特に、線状1本鎖オリゴヌクレオチドであってよい。ハンドルは、具体的には、スカフォールドと部分的に相補的なオリゴヌクレオチドである。すなわち、ハンドルは、スカフォールドに相補的な塩基配列(すなわちスカフォールドに相補的な部分配列)とスカフォールドに相補的でない塩基配列(すなわちスカフォールドに相補的でない部分配列)を含む。ハンドルは、特に、スカフォールドに相補的な塩基配列とスカフォールドに相補的でない塩基配列からなるものであってよい。
【0046】
ハンドルは、スカフォールドの少なくとも2つの部分配列に相補的である。「ハンドルがスカフォールドの少なくとも2つの部分配列に相補的である」とは、ハンドルがスカフォールドの少なくとも2つの部分配列にそれぞれ相補的な部分配列を含むことを意味する。ハンドルは、スカフォールドの2つ、3つ、または4つの部分配列に相補的であってよい。ハンドルは、特に、スカフォールドの2つまたは3つの部分配列に相補的であってよい。「スカフォールドの少なくとも2つの部分配列」とは、スカフォールドの第1~第4のヘリックス形成部位から選択される少なくとも2つ(例えば2つ、3つ、または4つ)のヘリックス形成部位中の部分配列を意味する。当該少なくとも2つ(例えば2つ、3つ、または4つ)のヘリックス形成部位は、隣接するヘリックス形成部位の組み合わせであれば、特に制限されない。ハンドル中の、スカフォールドの部分配列に相補的な各部分配列を、「コイル構造結合部位」ともいう。すなわち、ハンドルは、少なくとも2つ(例えば2つ、3つ、または4つ)のコイル構造結合部位を含む。ハンドルの各コイル構造結合部位は、具体的には、スカフォールドクロスオーバに相補的であってよい。ハンドルの各ハンドル部位は、より具体的には、スカフォールドクロスオーバの一部または全部の塩基配列に相補的であってよい。すなわち、「コイル構造結合部位」とは、具体的には、ハンドル中の、スカフォールドクロスオーバに相補的な部分配列を意味してよい。「コイル構造結合部位」とは、より具体的には、ハンドル中の、スカフォールドクロスオーバの一部または全部の塩基配列に相補的な部分配列を意味してよい。
【0047】
ハンドルの各コイル構造結合部位は、それと相補的なスカフォールドの部分配列(具体的には、それと相補的なスカフォールドクロスオーバの一部または全部の塩基配列)にハ
イブリダイズできる。ハンドルとスカフォールドのハイブリダイズにより、スカフォールドが架橋されてもよい。
【0048】
なお、ハンドルの説明において、スカフォールドクロスオーバは、ヘリックス形成部位の一部とみなしてよい。具体的には、スカフォールドクロスオーバを構成するヌクレオチド残基は、それぞれ、当該スカフォールドクロスオーバを介して接続される2つのヘリックス形成部位の内の近い方の一部とみなしてよい。すなわち、例えば、第1と第2のヘリックス形成部位が100残基のスカフォールドクロスオーバを介して接続されている場合、第1のヘリックス形成部位に近い50残基のヌクレオチドは第1のヘリックス形成部位の一部として、第2のヘリックス形成部位に近い50残基のヌクレオチドは第2のヘリックス形成部位の一部として、それぞれみなしてよい。具体的には、例えば、配列番号1の、17~2106位が第1のヘリックス形成部位、2107~2144位が第1と第2のヘリックス形成部位間のスカフォールドクロスオーバ、2145~4234位が第2のヘリックス形成部位である場合、2107~2125位は第1のヘリックス形成部位の一部として、2126~2144位は第2のヘリックス形成部位の一部として、それぞれみなしてよい。すなわち、例えば、「ハンドルのコイル構造結合部位が或るヘリックス形成部位に相補的である」とは、ハンドルのコイル構造結合部位が、スカフォールドクロスオーバの、当該或るヘリックス形成部位の一部とみなされる塩基配列に相補的であることを意味してよい。また、例えば、「ハンドルのコイル構造結合部位が或るヘリックス形成部位にハイブリダイズする」とは、ハンドルのコイル構造結合部位が、スカフォールドクロスオーバの、当該或るヘリックス形成部位の一部とみなされる塩基配列にハイブリダイズすることを意味してよい。
【0049】
ハンドル中の、スカフォールドに相補的でない塩基配列(すなわちスカフォールドに相補的でない部分配列)を、「アンチハンドル結合部位」ともいう。アンチハンドル結合部位は、具体的には、スカフォールドクロスオーバに相補的でない。アンチハンドル結合部位は、より具体的には、スカフォールドクロスオーバの一部または全部の塩基配列に相補的でない。すなわち、「アンチハンドル結合部位」とは、具体的には、ハンドル中の、スカフォールドクロスオーバに相補的でない部分配列を意味してよい。「アンチハンドル結合部位」とは、より具体的には、ハンドル中の、スカフォールドクロスオーバの一部または全部の塩基配列に相補的でない部分配列を意味してよい。
【0050】
アンチハンドル結合部位は、スカフォールドにハイブリダイズしない。アンチハンドル結合部位は、具体的には、スカフォールドクロスオーバにハイブリダイズしない。アンチハンドル結合部位は、より具体的には、スカフォールドクロスオーバの一部または全部の塩基配列にハイブリダイズしない。すなわち、「アンチハンドル結合部位がスカフォールドに(具体的には、スカフォールドクロスオーバに、より具体的には、スカフォールドクロスオーバの一部または全部の塩基配列に)相補的でない」とは、アンチハンドル結合部位がスカフォールドに(具体的には、スカフォールドクロスオーバに、より具体的には、スカフォールドクロスオーバの一部または全部の塩基配列に)ハイブリダイズしない程度に塩基配列の相補性が低いことを意味してよい。「アンチハンドル結合部位がスカフォールドに(具体的には、スカフォールドクロスオーバに、より具体的には、スカフォールドクロスオーバの一部または全部の塩基配列に)ハイブリダイズしない」とは、スカフォールドとハンドルのハイブリダイズを実施した際に、アンチハンドル結合部位がスカフォールドに(具体的には、スカフォールドクロスオーバに、より具体的には、スカフォールドクロスオーバの一部または全部の塩基配列に)ハイブリダイズするハンドルの量または比率が十分に小さいことを意味してよい。「アンチハンドル結合部位がスカフォールドに(具体的には、スカフォールドクロスオーバに、より具体的には、スカフォールドクロスオーバの一部または全部の塩基配列に)ハイブリダイズしない」とは、例えば、スカフォールドとハンドルのハイブリダイズを実施した際に、スカフォールドにハイブリダイズしたハンドルの総量に対する、アンチハンドル結合部位がスカフォールドに(具体的には、ス
カフォールドクロスオーバに、より具体的には、スカフォールドクロスオーバの一部または全部の塩基配列に)ハイブリダイズしたハンドルの量の比率が、5%以下、2%以下、1%以下、または0%であることを意味してよい。
【0051】
アンチハンドル結合部位は、当該部位内で分子内二次構造を形成しないようにデザインされてよい。すなわち、アンチハンドル結合部位は、アンチハンドルとの結合に使用されていない場合には1本鎖として存在するようにデザインされてよい。アンチハンドル結合部位は、具体的には、ハンドルとアンチハンドルの結合(ハイブリダイズ)を実施する温度において当該部位内で分子内二次構造を形成しないようにデザインされてよい。「アンチハンドル結合部位が当該部位内で分子内二次構造を形成しない」とは、アンチハンドル結合部位内で分子内二次構造を形成するハンドルの量または比率が十分に小さいことを意味してよい。「アンチハンドル結合部位が当該部位内で分子内二次構造を形成しない」とは、例えば、所定の温度(例えば、ハンドルとアンチハンドルの結合(ハイブリダイズ)を実施する温度)において、ハンドルの総量に対するアンチハンドル結合部位内で分子内二次構造を形成したハンドルの量の比率が、5%以下、2%以下、1%以下、または0%であることを意味してよい。
【0052】
アンチハンドル結合部位は、コイル構造結合部位と分子内二次構造を形成しないようにデザインされてよい。アンチハンドル結合部位は、具体的には、ハンドルとアンチハンドルの結合(ハイブリダイズ)を実施する温度においてコイル構造結合部位と分子内二次構造を形成しないようにデザインされてよい。「アンチハンドル結合部位がコイル構造結合部位と分子内二次構造を形成しない」とは、アンチハンドル結合部位がコイル構造結合部位と分子内二次構造を形成するハンドルの量または比率が十分に小さいことを意味してよい。「アンチハンドル結合部位がコイル構造結合部位と分子内二次構造を形成しない」とは、例えば、所定の温度(例えば、ハンドルとアンチハンドルの結合(ハイブリダイズ)を実施する温度)において、ハンドルの総量に対するアンチハンドル結合部位がコイル構造結合部位と分子内二次構造を形成したハンドルの量の比率が、5%以下、2%以下、1%以下、または0%であることを意味してよい。
【0053】
ハンドルの長さは、所望のデバイス構造が得られる限り、特に制限されない。ハンドルの長さは、例えば、20残基以上、25残基以上、30残基以上、35残基以上、40残基以上、45残基以上、50残基以上、60残基以上、70残基以上、80残基以上、90残基以上、または100残基以上であってもよく、200残基以下、150残基以下、120残基以下、100残基以下、90残基以下、80残基以下、70残基以下、60残基以下、50残基以下、45残基以下、40残基以下、35残基以下、または30残基以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。ハンドルの長さは、具体的には、例えば、20~200残基、30~150残基、50~80残基、または60~70残基であってもよい。ハンドルの長さは、特に、64残基であってもよい。
【0054】
ハンドル中の各コイル構造結合部位の長さは、所望のデバイス構造が得られる限り、特に制限されない。ハンドル中の各コイル構造結合部位の長さは、例えば、5残基以上、7残基以上、10残基以上、15残基以上、または20残基以上であってもよく、50残基以下、45残基以下、40残基以下、35残基以下、30残基以下、25残基以下、20残基以下、15残基以下、10残基以下、または7残基以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。ハンドル中の各コイル構造結合部位の長さは、具体的には、例えば、5~20残基、5~15残基、または5~10残基であってもよく、5~50残基、10~30残基、または15~20残基であってもよい。ハンドルは、例えば、同一の長さの少なくとも2つ(例えば2つ、3つ、または4つ)のコイル構造結合部位を含んでいてもよく、そうでなくてもよい。ハンドルは、例えば、短いコイル構造結合部位と長いコイル構造結合部位を含むものであってもよい。ハンドルは、具体的には、例
えば、短いコイル構造結合部位1つまたは2つと長いコイル構造結合部位1つを含むものであってもよい。
【0055】
ハンドル中のコイル構造結合部位の合計の長さは、所望のデバイス構造が得られる限り、特に制限されない。ハンドル中のコイル構造結合部位の合計の長さは、例えば、10残基以上、15残基以上、20残基以上、25残基以上、30残基以上、または35残基以上であってもよく、100残基以下、90残基以下、80残基以下、70残基以下、60残基以下、50残基以下、45残基以下、40残基以下、35残基以下、30残基以下、25残基以下、20残基以下、または15残基以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。ハンドル中のコイル構造結合部位の合計の長さは、具体的には、例えば、10~100残基、20~100残基、25~50残基、または30~35残基であってもよい。ハンドル中のコイル構造結合部位の合計の長さは、特に、32残基であってもよい。
【0056】
ハンドル中のアンチハンドル結合部位の長さは、所望のデバイス構造が得られる限り、特に制限されない。ハンドル中のアンチハンドル結合部位の長さは、例えば、10残基以上、15残基以上、20残基以上、25残基以上、30残基以上、または35残基以上であってもよく、100残基以下、90残基以下、80残基以下、70残基以下、60残基以下、50残基以下、45残基以下、40残基以下、35残基以下、30残基以下、25残基以下、20残基以下、または15残基以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。ハンドル中のアンチハンドル結合部位の長さは、具体的には、例えば、10~100残基、20~100残基、25~50残基、または30~35残基であってもよい。ハンドル中のアンチハンドル結合部位の長さは、特に、32残基であってもよい。
【0057】
ハンドルは、コイル構造に結合している。ハンドルは、具体的には、コイル構造の端部に結合していてよい。本発明のナノデバイスが2つのハンドル(例えば第1および第2のハンドル)を備える場合、それらのハンドルは、それぞれ、コイル構造の別の端部に結合していてよい。すなわち、第1のハンドルは、コイル構造の一方の端部に結合していてよい。また、第2のハンドルは、コイル構造の他方の端部に結合していてよい。ハンドルは、スカフォールドとハイブリダイズすることにより、コイル構造に結合している。ハンドルは、具体的には、そのコイル構造結合部位がスカフォールドとハイブリダイズすることにより、コイル構造に結合している。ハンドルは、コイル構造の端部に少なくとも2本のヘリックスにまたがるように結合している。すなわち、ハンドル(具体的には、そのコイル構造結合部位)は、コイル構造の端部において、スカフォールドの少なくとも2つのヘリックス形成部位(スカフォールドクロスオーバを構成する部分も含む)とハイブリダイズしている。ハンドルは、コイル構造の端部に、2本、3本、または4本のヘリックスにまたがるように結合していてよい。すなわち、ハンドル(具体的には、そのコイル構造結合部位)は、コイル構造の端部において、スカフォールドの2つ、3つ、または4つのヘリックス形成部位(スカフォールドクロスオーバを構成する部分も含む)とハイブリダイズしていてよい。或るハンドル(例えば第1のハンドル)は、例えば、第1と第4のヘリックスまたは第1と第3と第4のヘリックスに結合していてよい。別のハンドル(例えば第2のハンドル)は、例えば、第2と第3のヘリックスまたは第2と第3と第4のヘリックスに結合していてよい。ハンドル(具体的には、そのコイル構造結合部位)は、具体的には、コイル構造の端部に位置するスカフォールドクロスオーバにハイブリダイズしていてよい。すなわち、「ハンドルがコイル構造の端部においてスカフォールドの少なくとも2つのヘリックス形成部位とハイブリダイズする」とは、ハンドルの少なくとも2つのコイル構造結合部位が、コイル構造の端部に位置するスカフォールドクロスオーバの、当該少なくとも2つのヘリックス形成部位の一部とみなされる塩基配列にそれぞれハイブリダイズすることを意味してよい。具体的には、例えば、「ハンドルがコイル構造の端部にお
いてスカフォールドの第1と第4のヘリックス形成部位とハイブリダイズする」とは、ハンドルの2つのコイル構造結合部位が、コイル構造の端部に位置するスカフォールドクロスオーバの、第1のヘリックス形成部位の一部とみなされる塩基配列と第4のヘリックス形成部位の一部とみなされる塩基配列にそれぞれハイブリダイズすることを意味してよい。ハンドルが少なくとも2本のヘリックスに結合することにより、例えば、60pN等の後述するような強度の力の測定にも耐えるナノデバイスが得られる。
【0058】
ハンドルは、アンチハンドル結合部位がコイル構造結合部位中に挿入されないように構成されてよい。すなわち、ハンドルは、全てのコイル構造結合部位がハンドル中に連続して配置されるように構成されてよい。
【0059】
ハンドルは、例えば、cadnanoを利用して設計することができる。
【0060】
本発明のナノデバイスは、さらに、少なくとも1つのアンチハンドルを備えていてもよい。本発明のナノデバイスは、例えば、1つまたは2つのアンチハンドルを備えていてよい。第1のハンドルに対応する(すなわち第1のハンドルのアンチハンドル結合部位に結合する)アンチハンドルを、「第1のアンチハンドル」ともいう。第2のハンドルに対応する(すなわち第2のハンドルのアンチハンドル結合部位に結合する)アンチハンドルを、「第2のアンチハンドル」ともいう。すなわち、本発明のナノデバイスは、第1のアンチハンドルを備えていてよい。具体的には、本発明のナノデバイスが第1のハンドルを備える場合に、本発明のナノデバイスは、第1のアンチハンドルを備えていてよい。また、本発明のナノデバイスは、第2のアンチハンドルを備えていてよい。具体的には、本発明のナノデバイスが第2のハンドルを備える場合に、本発明のナノデバイスは、第2のアンチハンドルを備えていてよい。すなわち、本発明のナノデバイスは、第1および/または第2のアンチハンドルを備えていてよい。また、言い換えると、少なくとも1つのアンチハンドルは、第1および/または第2のアンチハンドルを含んでいてよい。少なくとも1つのアンチハンドルは、特に、第1および第2のアンチハンドルからなるものであってよい。本発明のナノデバイスが複数のハンドル(例えば第1および第2のハンドル)を備える場合、本発明のナノデバイスは、複数のアンチハンドル(例えば第1および第2のアンチハンドル)を備えていてもよく、そうでなくてもよい。すなわち、本発明のナノデバイスが複数のハンドル(例えば第1および第2のハンドル)を備える場合、本発明のナノデバイスは、例えば、複数のハンドルの一部に対応するアンチハンドルのみを備えていてもよく、複数のハンドルの全てに対応するアンチハンドルを備えていてもよい。例えば、本発明のナノデバイスが第1および第2のハンドルを備える場合、本発明のナノデバイスは、第1および/または第2のアンチハンドルを備えていてよい。本発明のナノデバイスが複数のアンチハンドル(例えば第1および第2のアンチハンドル)を備える場合、下記のアンチハンドルに関する記載は、特記しない限り、複数のアンチハンドルにそれぞれ独立に適用できる。
【0061】
「アンチハンドル」とは、ハンドルのアンチハンドル結合部位に結合(ハイブリダイズ)して用いられる分子を意味してよい。アンチハンドルは、外からの力をハンドルに伝達してよい。アンチハンドルは、具体的には、測定対象物からの力をハンドルに伝達してよい。アンチハンドルは、特に、ハンドルとの組み合わせで、外からの力(具体的には、測定対象物からの力)をコイル構造に伝達してよい。
【0062】
アンチハンドルは、1本鎖オリゴヌクレオチドである。アンチハンドルは、環状であってもよく、線状であってもよい。アンチハンドルは、特に、線状であってよい。すなわち、アンチハンドルは、特に、線状1本鎖オリゴヌクレオチドであってよい。アンチハンドルは、具体的には、ハンドルのアンチハンドル結合部位に相補的なオリゴヌクレオチドである。すなわち、アンチハンドルは、ハンドルのアンチハンドル結合部位に相補的な塩基
配列を含む。アンチハンドルは、特に、ハンドルのアンチハンドル結合部位に相補的な塩基配列からなるものであってよい。アンチハンドル中の、ハンドルのアンチハンドル結合部位に相補的な塩基配列を、「ハンドル結合部位」ともいう。アンチハンドルのハンドル結合部位は、具体的には、ハンドルのアンチハンドル結合部位の一部または全部の塩基配列に相補的であってよい。すなわち、「ハンドル結合部位」とは、具体的には、アンチハンドル中の、ハンドルのアンチハンドル結合部位の一部または全部の塩基配列に相補的な塩基配列を意味してよい。
【0063】
アンチハンドルは、対象物に対する結合性を有する物質で修飾されている。対象物は、特に制限されない。対象物としては、力の測定対象となる物質(すなわち測定対象物)が挙げられる。対象物に対する結合性を有する物質を、「対象物結合物質」ともいう。すなわち、アンチハンドルは、言い換えると、対象物結合物質で修飾された1本鎖オリゴヌクレオチドである。また、アンチハンドルは、言い換えると、1本鎖オリゴヌクレオチドで修飾された対象物結合物質でもある。また、アンチハンドルは、言い換えると、1本鎖オリゴヌクレオチドと対象物結合物質とを備える分子でもある。対象物結合物質は、1本鎖オリゴヌクレオチドの末端に結合していてよい。対象物結合物質は、本発明のナノデバイスの利用目的や対象物の種類等の諸条件に応じて、適宜選択できる。対象物結合物質としては、ビオチン;細胞接着性ペプチド等のペプチド;抗体やビオチン結合タンパク質等のタンパク質が挙げられる。細胞接着性ペプチドとしては、RGDモチーフを持つペプチドが
挙げられる。ビオチン結合タンパク質としては、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラビジンが挙げられる。ビオチンは、ビオチン結合タンパク質を備える対象物に対して結合性を有する。ビオチン結合タンパク質は、ビオチンを備える対象物に対して結合性を有する。細胞接着性ペプチドは、細胞等のインテグリンを備える対象物に対して結合性を有する。抗体は、対応するエピトープを備える対象物に対して結合性を有する。
【0064】
アンチハンドルは、本来的に1本鎖オリゴヌクレオチドと対象物結合物質とを備える分子であってもよく、1本鎖オリゴヌクレオチドと対象物結合物質とを備えるようにデザインされた分子であってもよい。例えば、ハンドル結合部位を有しない対象物結合物質にハンドル結合部位を含む1本鎖オリゴヌクレオチドを付加することによりアンチハンドルを製造してもよい。
【0065】
アンチハンドルのハンドル結合部位の長さは、所望の結合強度が得られる限り、特に制限されない。アンチハンドルのハンドル結合部位の長さは、例えば、10残基以上、15残基以上、20残基以上、25残基以上、30残基以上、または35残基以上であってもよく、100残基以下、90残基以下、80残基以下、70残基以下、60残基以下、50残基以下、45残基以下、40残基以下、35残基以下、30残基以下、25残基以下、20残基以下、または15残基以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。アンチハンドルのハンドル結合部位の長さは、具体的には、例えば、10~100残基、20~100残基、25~50残基、または30~35残基であってもよい。アンチハンドルのハンドル結合部位の長さは、特に、32残基であってもよい。
【0066】
スカフォールド、ステイプル、ハンドル、およびアンチハンドルは、いずれも、任意のポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドであってよい。すなわち、スカフォールド、ステイプル、ハンドル、およびアンチハンドルは、いずれも、リン酸、糖、および塩基が一つずつ結合した「ヌクレオチド」が縮合重合し「ポリヌクレオチド」または「オリゴヌクレオチド」を形成したものであれば、任意のものであってよい。糖は、デオキシリボースであってもよく、リボースであってもよく、それ以外の糖であってもよい。すなわち、スカフォールド、ステイプル、ハンドル、およびアンチハンドルは、いずれも、例えば、DNAであってもよく、RNAであってもよく、BNA等の人工核酸であってもよく、DNAとRNAの
キメラ配列等のそれらのキメラ配列であってもよい。スカフォールド、ステイプル、ハン
ドル、およびアンチハンドルは、いずれも、特に、DNAであってよい。なお、RNAにおける「U」塩基とDNAにおける「T」塩基は、配列同一性の算出の際に同一塩基とみなしてよい
。
【0067】
スカフォールド、ステイプル、ハンドル、およびアンチハンドル等の、本発明のナノデバイスの構成要素は、いずれも、適宜、修飾がなされていてよい。修飾としては、本発明のナノデバイスの伸縮(具体的にはコイル構造の伸縮)を測定するために利用することができる修飾が挙げられる。修飾として、具体的には、蛍光分子等の検出用ラベルの付加が挙げられる。蛍光分子としては、Cy3が挙げられる。検出用ラベルの付加等の修飾の態様
は、本発明のナノデバイスの伸縮(具体的にはコイル構造の伸縮)の測定手段等の諸条件に応じて、適宜選択できる。例えば、ステイプルが検出用ラベル等の修飾を有していてもよく、ハンドルが検出用ラベル等の修飾を有していてもよく、アンチハンドルが検出用ラベル等の修飾を有していてもよい。ステイプルは、例えば、コイル構造が周期的に検出用ラベル等の修飾を有するように修飾されていてもよい。ステイプルは、例えば、コイル構造が128残基周期で検出用ラベル等の修飾を有するように修飾されていてもよい。本発明のナノデバイスが複数個の検出用ラベルを有するように修飾を実施することにより、例えば、高感度での検出が可能となり得る。修飾は、例えば、1本鎖オリゴヌクレオチドの末端になされていてよい。
【0068】
本発明のナノデバイスは、スカフォールド、ステイプル、ハンドル、およびアンチハンドル等の、本発明のナノデバイスの構成要素を結合(ハイブリダイズ)することにより、製造することができる。本発明のナノデバイスの構成要素の結合(ハイブリダイズ)順序は、所望のデバイス構造が得られる限り、特に制限されない。本発明のナノデバイスの構成要素は、例えば、一部または全部をまとめて結合してもよく、順次結合してもよい。例えば、予めコイル構造を形成し、コイル構造にハンドルやアンチハンドル等の他の構成要素を結合してもよい。また、例えば、全ての構成要素が共存した状態でハイブリダイズを実施することにより、それらをまとめて結合してもよい。ハイブリダイズの条件については、上述したスカフォールドとステイプルのハイブリダイズによるコイル構造の形成についての記載を準用できる。製造された本発明のナノデバイスは、適宜、分離精製して使用してよい。
【0069】
本発明のナノデバイスは、力の測定に利用することができる。力の測定については、後述する本発明の方法についての記載を準用できる。
【0070】
また、本発明は、コイル構造および少なくとも1つのハンドルを含むセットを提供する。同セットは、さらに、少なくとも1つのアンチハンドルを含んでいてもよい。また、本発明は、コイル構造および/またはアンチハンドルと併用するためのハンドルを提供する。また、本発明は、ハンドルおよび/またはアンチハンドルと併用するためのコイル構造を提供する。また、本発明は、コイル構造および/またはハンドルと併用するためのアンチハンドルを提供する。また、本発明は、力の測定に用いるための、本発明のナノデバイス、コイル構造および少なくとも1つのハンドルを含むセット(例えば、コイル構造、少なくとも1つのハンドル、および少なくとも1つのアンチハンドルを含むセット)、コイル構造および/またはアンチハンドルと併用するためのハンドル、ハンドルおよび/またはアンチハンドルと併用するためのコイル構造、またはコイル構造および/またはハンドルと併用するためのアンチハンドルを提供する。そのようなセットは、例えば、試薬キットとして提供されてよい。そのようなセットは、例えば、力の測定に用いるための試薬キットとして提供されてよい。力の測定については、後述する本発明の方法についての記載を準用できる。コイル構造とハンドルは、結合(ハイブリダイズ)した状態で提供されてもよく、結合(ハイブリダイズ)していない状態で提供されてもよい。コイル構造とハンドルが結合(ハイブリダイズ)していない状態で提供される場合、コイル構造とハンドル
は、それぞれ、結合(ハイブリダイズ)した場合に本発明のナノデバイスが形成されるように構成されていればよい。ハンドルとアンチハンドルは、結合(ハイブリダイズ)した状態で提供されてもよく、結合(ハイブリダイズ)していない状態で提供されてもよい。ハンドルとアンチハンドルが結合(ハイブリダイズ)していない状態で提供される場合、ハンドルとアンチハンドルは、それぞれ、結合(ハイブリダイズ)した場合に本発明のナノデバイスが形成されるように構成されていればよい。
【0071】
<2>本発明のフォースセンサ
本発明のフォースセンサは、本発明のナノデバイスを備えるフォースセンサである。
【0072】
本発明のフォースセンサは、本発明のナノデバイスを備えること以外は、特に制限されない。本発明のフォースセンサは、本発明のナノデバイスからなるものであってもよく、本発明のナノデバイスに加えて他の構成要素を備えていてもよい。本発明のフォースセンサは、本発明のナノデバイスを備えること以外は、測定する力の種類や測定対象物の種類等の諸条件に応じて適宜設定できる。
【0073】
本発明のフォースセンサは、力の測定に利用することができる。力の測定については、後述する本発明の方法についての記載を準用できる。
【0074】
<3>本発明の方法
本発明の方法は、本発明のナノデバイスを用いた力の測定方法である。本発明の方法は、具体的には、本発明のナノデバイスにかかる力を測定することを含む、力の測定方法であってよい。本発明のナノデバイスは、例えば、本発明のフォースセンサの形態で用いることができる。
【0075】
具体的には、第1および第2のハンドルを力の測定対象となる物質(すなわち測定対象物)にそれぞれ結合し、本発明のナノデバイスにかかる力を測定することができる。すなわち、例えば、第1および第2のハンドルを測定対象物AおよびBにそれぞれ結合し、本発明のナノデバイスにかかる力を測定することにより、対象物AおよびBの間に生じる力を測定することができる。すなわち、対象物AおよびBの間に生じる力は、第1および第2のハンドルを測定対象物AおよびBにそれぞれ結合した際の本発明のナノデバイスにかかる力として測定することができる。測定対象物としては、細胞、生体組織、生体成分、それらと相互作用する物質が挙げられる。生体成分としては、細胞内または生体組織内の成分が挙げられる。また、生体成分としては、タンパク質が挙げられる。生体成分として、具体的には、細胞内または生体組織内のタンパク質が挙げられる。細胞、生体組織、または生体成分と相互作用する物質としては、細胞培養皿等の器具が挙げられる。測定対象物AおよびBの組み合わせは、測定する力の種類等の諸条件に応じて適宜設定できる。例えば、測定対象物AおよびBとして細胞を選択することにより、細胞間に生じる力を測定できる。また、例えば、測定対象物AおよびBとして組織を選択することにより、組織間に生じる力を測定できる。また、例えば、測定対象物AおよびBとしてタンパク質等の生体成分を選択することにより、タンパク質等の生体成分間に生じる力を測定できる。また、例えば、測定対象物AおよびBとして細胞と細胞培養皿等の器具をそれぞれ選択することにより、細胞と細胞培養皿等の器具間に生じる力を測定できる。本発明のナノデバイスは、適宜、測定対象物が存在する系に配置して利用することができる。例えば、細胞内の生体成分間に生じる力を測定する場合、例えば、本発明のナノデバイスを細胞内に導入し、測定を実施することができる。ハンドルは、アンチハンドル結合部位を介して測定対象物と結合することができる。すなわち、例えば、測定対象物がハンドル結合部位を有する場合、ハンドルは測定対象物と直接的に結合することができる。その場合、測定対象物はアンチハンドルを兼ねる。あるいは、例えば、アンチハンドルを介してハンドルを対象物と間接的に結合することができる。例えば、ビオチンを備えるアンチハンドルを介して、
ハンドルとビオチン結合タンパク質を備える測定対象物とを結合することができる。また、例えば、細胞接着性ペプチドを備えるアンチハンドルを介して、ハンドルと細胞等のインテグリンを備える測定対象物とを結合することができる。
【0076】
測定される力は、本発明のナノデバイスを用いて測定可能なものであれば、特に制限されない。測定される力としては、生理的なレンジの力が挙げられる。生理的なレンジの力としては、上記例示したような測定対象物間に生じる力が挙げられる。すなわち、生理的なレンジの力として、具体的には、細胞間に生じる力、組織間に生じる力、タンパク質等の生体成分間に生じる力、細胞と細胞培養皿等の器具間に生じる力が挙げられる。測定される力としては、所定の強度範囲の力が挙げられる。所定の強度範囲は、例えば、1pN以上、2pN以上、3pN以上、5pN以上、7pN以上、10pN以上、15pN以上、20pN以上、25pN以上、30pN以上、35pN以上、40pN以上、45pN以上、または50pN以上であってもよく、60pN以下、55pN以下、50pN以下、45pN以下、40pN以下、35pN以下、30pN以下、25pN以下、または20pN以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。所定の強度範囲は、具体的には、例えば、1~60pN、5~60pN、10~60pN、20~60pN、または30~60pNであってもよい。
【0077】
本発明の方法は、例えば、オリゴリジン-PEGの存在下で実施されてよい。例えば、本
発明のナノデバイスを予めオリゴリジン-PEGでコーティングしてから利用することによ
り、本発明の方法をオリゴリジン-PEGの存在下で実施することができる。本発明の方法
をオリゴリジン-PEGの存在下で実施することにより、例えば、本発明のナノデバイスの
分解が防止される。本発明の方法をオリゴリジン-PEGの存在下で実施することにより、
特に、DNaseが存在する条件における本発明のナノデバイスの分解が防止される。DNaseが存在する条件としては、細胞培養条件が挙げられる。オリゴリジン-PEGにおけるリジン
の残基数は、例えば、2以上、3以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、または10以上であってもよく、20以下、15以下、12以下、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、または5以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。オリゴリジン-PEGにおけるリジンの残基数は、具体的には、例えば、2~2
0、5~15、または7~12であってもよい。オリゴリジン-PEGにおけるPEG部分の分子量は、例えば、重量平均分子量として、1000以上、2000以上、3000以上、4000以上、5000以上、または7000以上であってもよく、20000以下、15000以下、10000以下、7000以下、5000以下、または4000以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。オリゴリジン-PEGにおけ
るPEG部分の分子量は、具体的には、例えば、重量平均分子量として、1000~200
00、2000~15000、または3000~10000であってもよい。
【0078】
オリゴリジン-PEGの使用量は、例えば、本発明のナノデバイス中のリン酸基の数に対
するオリゴリジン-PEG中のリジン残基の比率に換算して、25%以上、50%以上、7
5%以上、または100%以上であってもよく、200%以下、150%以下、125%以下、または100%以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。オリゴリジン-PEGの使用量は、具体的には、例えば、本発明のナノデバイス中のリ
ン酸基の数に対するオリゴリジン-PEG中のリジン残基の比率に換算して、50~100
%であってもよい。
【0079】
本発明のナノデバイスにかかる力は、本発明のナノデバイスの伸縮(具体的にはコイル構造の伸縮)に基づいて測定することができる。本発明のナノデバイスの伸縮を測定する手段は、特に制限されない。本発明のナノデバイスの伸縮を測定する手段は、測定する力の種類や測定対象物の種類等の諸条件に応じて適宜設定できる。本発明のナノデバイスの伸縮は、例えば、蛍光を利用して測定することができる。すなわち、例えば、蛍光分子の
位置を測定することにより、蛍光分子の位置の変位を測定することができ、以て本発明のナノデバイスの伸縮を測定することができる。蛍光分子の位置は蛍光シグナルの発生位置として測定することができる。具体的には、例えば、M. Iwaki et al. A programmable DNA origami nanospring that reveals force-induced adjacent binding of myosin VI heads. Nature Communications volume 7, Article number: 13715 (2016)に記載の手法により、蛍光スポットの形状変化に基づいて本発明のナノデバイスの伸縮を測定することができる。また、例えば、本発明のナノデバイスの伸縮に伴う蛍光強度の変化に基づき、本発明のナノデバイスの伸縮を測定することができる。すなわち、例えば、測定対象物間の距離の変化(すなわち本発明のナノデバイスの伸縮)に伴い蛍光強度が増大または減少するように構成し、蛍光強度の変化に基づいて本発明のナノデバイスの伸縮を測定することができる。また、本発明のナノデバイスの伸縮は、例えば、直接観察することもできる。具体的には、例えば、コイル構造の変化をクライオ電子顕微鏡等の電子顕微鏡を用いて直接観察することにより、本発明のナノデバイスの伸縮を測定することができる。
【実施例】
【0080】
以下、非限定的な実施例を参照して、本発明をさらに具体的に説明する。
【0081】
以下の手順でフォースセンサを製造した。
【0082】
スカフォールドとして、M13ファージ由来の環状1本鎖DNAを改変した8064 bpの環状1本
鎖DNA(配列番号1)を設計した。ステイプルおよびハンドルを、フリーソフトウェアCaDNAnoを用いて設計した。スカフォールドとステイプルは、第1~第4のヘリックスが正方格子(square lattice)状に束ねられ、以てコイル構造(4ヘリックスバンドルコイル)が形成されるように構成した(
図1)。ステイプルのデザインを
図2に示す。ハンドルのデザインを
図3に示す。アンチハンドルのデザインを
図4に示す。本実施例においては、配列番号1の、17~2106位が第1のヘリックス形成部位、2107~2144位が第1と第2のヘリックス形成部位間のスカフォールドクロスオーバ、2145~4234位が第2のヘリックス形成部位、4235~4256位が第2と第3のヘリックス形成部位間のスカフォールドクロスオーバ、4257~6104位が第3のヘリックス形成部位、6105~6130位が第3と第4のヘリックス形成部位間のスカフォールドクロスオーバ、6131~7978位が第4のヘリックス形成部位、7979~8064位と1~16位が第4と第1のヘリックス形成部位間のスカフォールドクロスオ
ーバである。なお、上述の通り、ハンドルの説明において、スカフォールドクロスオーバは、ヘリックス形成部位の一部とみなしてよい。ハンドルAは、第1と第4のヘリックス
形成部位にハイブリダイズするようにデザインした。ハンドルAは、具体的には、配列番
号1の1~16位(第1のヘリックス形成部位の一部とみなしてよい)と7979~7994位(第
4のヘリックス形成部位の一部とみなしてよい)にハイブリダイズするようにデザインした。ハンドルBは、第2と第3のヘリックス形成部位にハイブリダイズするようにデザイ
ンした。ハンドルBは、具体的には、配列番号1の2126~2144位(第2のヘリックス形成
部位の一部とみなしてよい)と6105~6117位(第3のヘリックス形成部位の一部とみなしてよい)にハイブリダイズするようにデザインした。ステイプル、ハンドルAとB、およびアンチハンドルAとBを、DNA合成メーカーから購入した。ステイプルの一部(フォースセ
ンサの端から128 bp毎に配置されたステイプル)は、蛍光色素Cy3で5’末端を修飾した形態で購入した。アンチハンドルAは、5’末端をチオール化した形態で購入した。アンチハンドルBは、3’末端をビオチン化した形態で購入した。購入したアンチハンドルAは、架
橋剤であるsmccを介して、細胞接着性のRGDモチーフを有するペプチド(RGDfK)を5’末
端に共有結合させた。
【0083】
50 nMスカフォールドに対してそれぞれ10倍量(500 nM)のステイプル、ハンドル、お
よびアンチハンドルを混合後、10 mM Tris-HCl, 1 mM EDTA, 14 mM MgCl2条件下にて市販のサーマルサイクラーを用いてアニーリングを行った。アニーリングは、80℃から60℃ま
で2時間かけて冷却し、続けて、60℃から24℃まで24時間かけて冷却することにより行っ
た。得られたナノ構造物は、2%のアガロースゲル電気泳動を行い、凝集した構造物や欠
損のある構造物を分離したのち、最も移動度の大きいシャープなバンドを切り出し、スピンカラムにて精製を行い、フォースセンサを得た。
【0084】
得られたフォースセンサに対してDNA分解酵素耐性を付与するために、オリゴリジン-ポリエチレングリコール(PEG)コートを施した(
図5)。分子量5000でリジン残基を10個
有するPEG(ALAMANDA Polymers)とフォースセンサを、リジン残基の数とフォースセンサ内のリン酸基の数が1:16, 1:8, 1:4, 1:2, 1:1, 2:1, 4:1の比率となるように混合し室温で1分間静置した。アガロースゲル電気泳動にてフォースセンサの移動度を確認し、移動
度の少ない条件(すなわち、電気的に中性付近で、適度にPEGコートされ、センサの凝集
のない条件)を確認した。その結果、特に、上記比率が1:2~1:1の場合にセンサの凝集を防ぎ、且つDNA分解酵素耐性が得られると期待された(
図5)。また、特に、上記比率が4:1の場合にセンサの凝集が認められた(
図5)。上記比率が1:2となる条件でPEGコートしたフォースセンサを以下の実験に用いた。
【0085】
細胞培養皿へのフォースセンサの固定は以下の手順で行った。PBSに溶解した1 mg/mlのビオチン化BSAを培養皿に添加し、1時間室温でコートした。培養皿をPBSで洗い、PBSに溶解した0.2 mg/mlニュートラアビジンを添加し、1時間室温でコートした。培養皿をPBSで
洗い、フォースセンサ200 pMとビオチン化RGDfK 100 nMを添加して、30分間室温でコートし、PBSで培養皿に固定されなかったフォースセンサを洗い流した。固定したフォースセ
ンサの密度を蛍光観察によって確認した(Olympus, IX83; 対物レンズx100; 励起波長,532 nm; 測定波長, 590 nm)(
図6)。培養皿にラット新生児の心筋細胞を播種し、37℃、5% CO
2下で24時間の培養を行った。上記観察条件にて心筋細胞に結合したフォースセンサの動態を蛍光観察し、蛍光スポットの形状変化に基づいてフォースセンサの伸縮の有無を確認した。すなわち、心筋細胞が拍動した場合、フォースセンサが培養皿に対して水平方向へ牽引され、以て蛍光スポットの形状変化が生じる。観察の結果、心筋細胞の拍動に合わせたフォースセンサの伸縮が確認された(
図6)。
【0086】
上記のようなフォースセンサは、例えば、生理的なレンジの様々な大きさの力を測定可能である(すなわち、力計測のダイナミックレンジが広い)点で優れている。また、上記のようなフォースセンサは、例えば、センサからの蛍光シグナルが既存のものよりも10倍以上明るいため、力計測の時間分解能および力分解能が既存のセンサよりも高い点で優れている。また、上記のようなフォースセンサは、例えば、光によるセンサの操作が可能である点において、優れている。
【0087】
<配列表の説明>
配列番号1:スカフォールドの塩基配列
配列番号2:ハンドルAの塩基配列
配列番号3:ハンドルBの塩基配列
配列番号4:アンチハンドルAの塩基配列
配列番号5:アンチハンドルBの塩基配列
【配列表】