(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】燃料噴射弁
(51)【国際特許分類】
F02M 61/18 20060101AFI20230502BHJP
【FI】
F02M61/18 320Z
F02M61/18 330A
F02M61/18 330Z
(21)【出願番号】P 2019114738
(22)【出願日】2019-06-20
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】金田 浩毅
(72)【発明者】
【氏名】片岡 一
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 雅之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 典嗣
(72)【発明者】
【氏名】中川 陽介
(72)【発明者】
【氏名】大隈 正寛
(72)【発明者】
【氏名】吉留 紗緒
(72)【発明者】
【氏名】高井 源
【審査官】菅野 京一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-025835(JP,A)
【文献】特開2017-150377(JP,A)
【文献】特開2017-002876(JP,A)
【文献】特開2009-243358(JP,A)
【文献】特開2015-025392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 39/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側に燃料通路(100)を形成するノズル筒部(11)、前記ノズル筒部の一端を塞ぐノズル底部(12)、前記ノズル底部の前記ノズル筒部側の面(150)と前記ノズル筒部とは反対側の面(122、160)とを接続し前記燃料通路内の燃料を噴射する複数の噴孔(13)、および、前記ノズル底部の前記ノズル筒部側の面(121)において前記噴孔の周囲に形成される環状の弁座(14)を有するノズル(10)と、
前記ノズルの内側で往復移動可能に設けられ、前記弁座に当接すると前記噴孔を閉じ、前記弁座から離間すると前記噴孔を開くニードル(30)と、
前記ニードルを開弁方向または閉弁方向に移動させることが可能な駆動部(55)と、を備え、
前記噴孔は、前記ノズル底部の前記ノズル筒部側の面(150)に形成される入口開口部(131)、前記ノズル底部の前記ノズル筒部とは反対側の面(122、160)に形成される出口開口部(132)、および、前記入口開口部と前記出口開口部とを接続する噴孔内壁(133)を有し、前記出口開口部の面積が前記入口開口部の面積より大きく、
複数の前記噴孔のうち1つ以上の前記噴孔は、前記出口開口部の最長径と最短径との比が1より大きい前記噴孔である非真円噴孔(63、65)であり、
複数の前記噴孔のうち前記出口開口部の最長径と最短径との比が1の前記噴孔である真円噴孔(61、62、64、66)の噴孔開き角をθ(deg)、前記真円噴孔から噴射される燃料噴霧の開き角をθf(deg)、前
記噴孔から燃料が噴射されるときの前記燃料通路内の燃料の平均圧力をP(MPa)とし、
前記真円噴孔の噴孔軸(Axh1)と前記出口開口部との交点を頂点(Pv1)とし、前記真円噴孔の前記噴孔軸を含む第1仮想平面(VP1)による断面において2つの母線の成す角を
θf=θ+0.5×P^0.6
とする仮想錐を仮想真円錐(Vc1)と定義し、
前記非真円噴孔の最大の噴孔開き角をθ1(deg)、最小の噴孔開き角をθ2(deg)、前記非真円噴孔から噴射される燃料噴霧の最大の開き角をθf1(deg)、前記非真円噴孔から噴射される燃料噴霧の最小の開き角をθf2(deg)とし、
前記非真円噴孔の噴孔軸(Axh1)と前記出口開口部との交点を頂点(Pv2)とし、前記非真円噴孔の前記噴孔軸を含む第2仮想平面(VP2)による断面において2つの母線の成す角が最大となる角を
θf1=θ1+0.5×P^0.6+17×e^(-0.13×θ1)
とし、
前記非真円噴孔の前記噴孔軸を含み前記第2仮想平面と交差する第3仮想平面(VP3)による断面において2つの母線の成す角が最小となる角を
θf2=θ2+0.5×P^0.6
とする仮想錐を仮想非真円錐(Vc2)と定義したとき、
少なくとも隣り合う2つの前記噴孔は、前記仮想非真円錐と、前記仮想真円錐または前記仮想非真円錐とが干渉しないよう形成されている燃料噴射弁。
【請求項2】
内側に燃料通路(100)を形成するノズル筒部(11)、前記ノズル筒部の一端を塞ぐノズル底部(12)、前記ノズル底部の前記ノズル筒部側の面(150)と前記ノズル筒部とは反対側の面(122、160)とを接続し前記燃料通路内の燃料を噴射する複数の噴孔(13)、および、前記ノズル底部の前記ノズル筒部側の面(121)において前記噴孔の周囲に形成される環状の弁座(14)を有するノズル(10)と、
前記ノズルの内側で往復移動可能に設けられ、前記弁座に当接すると前記噴孔を閉じ、前記弁座から離間すると前記噴孔を開くニードル(30)と、
前記ニードルを開弁方向または閉弁方向に移動させることが可能な駆動部(55)と、を備え、
前記噴孔は、前記ノズル底部の前記ノズル筒部側の面(150)に形成される入口開口部(131)、前記ノズル底部の前記ノズル筒部とは反対側の面(122、160)に形成される出口開口部(132)、および、前記入口開口部と前記出口開口部とを接続する噴孔内壁(133)を有し、前記出口開口部の面積が前記入口開口部の面積より大きく、
複数の前記噴孔は、前記出口開口部の最長径と最短径との比が1より大きい前記噴孔である非真円噴孔(71、72、73、74)であり、
前記噴孔から燃料が噴射されるときの前記燃料通路内の燃料の平均圧力をP(MPa)とし、
前記非真円噴孔の最大の噴孔開き角をθ1(deg)、最小の噴孔開き角をθ2(deg)、前記非真円噴孔から噴射される燃料噴霧の最大の開き角をθf1(deg)、前記非真円噴孔から噴射される燃料噴霧の最小の開き角をθf2(deg)とし、
前記非真円噴孔の噴孔軸(Axh1)と前記出口開口部との交点を頂点(Pv2)とし、前記非真円噴孔の前記噴孔軸を含む第2仮想平面(VP2)による断面において2つの母線の成す角が最大となる角を
θf1=θ1+0.5×P^0.6+17×e^(-0.13×θ1)
とし、
前記非真円噴孔の前記噴孔軸を含み前記第2仮想平面と交差する第3仮想平面(VP3)による断面において2つの母線の成す角が最小となる角を
θf2=θ2+0.5×P^0.6
とする仮想錐を仮想非真円錐(Vc2)と定義したとき、
少なくとも隣り合う2つの前記噴孔は、前記仮想非真円錐と前記仮想非真円錐とが干渉しないよう形成されている燃料噴射弁。
【請求項3】
前記非真円噴孔は、前記出口開口部の短径方向が、前記非真円噴孔から噴射される燃料の噴射方向に沿うよう形成されている請求項1または2に記載の燃料噴射弁。
【請求項4】
1つ以上の前記非真円噴孔は、前記入口開口部が真円形状であり、前記出口開口部が前記入口開口部の形状と同じ曲率の2つの半円(Ch1)を直線(Lh1)で繋いだ形状である請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料噴射弁。
【請求項5】
1つ以上の前記非真円噴孔は、前記入口開口部および前記出口開口部が同じ扁平率の楕円形状である請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料噴射弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、噴孔内壁のデポジットの堆積を抑制し、燃料の噴射特性の経時変化の抑制を図った燃料噴射弁が知られている。
【0003】
例えば特許文献1の燃料噴射弁では、噴孔内壁のうち燃料が流れない部分の面積が小さくなるよう噴孔の断面の形状を扁平にすることで、噴孔内壁のデポジットの堆積を抑制しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の燃料噴射弁では、複数の噴孔から噴射される燃料噴霧同士の干渉による課題については何ら考慮されていない。特許文献1の燃料噴射弁では、燃料噴霧同士の干渉により閉空間が形成されることで、負圧が発生し、空気導入ができなくなり、燃料噴霧同士が収縮し合体するおそれがある。そのため、高ペネ化によるシリンダ内の濡れや噴霧特性の悪化を招くおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、噴霧の干渉を抑制可能な燃料噴射弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る燃料噴射弁の第1の態様は、ノズル(10)とニードル(30)と駆動部(55)とを備えている。ノズルは、内側に燃料通路(100)を形成するノズル筒部(11)、ノズル筒部の一端を塞ぐノズル底部(12)、ノズル底部のノズル筒部側の面(150)とノズル筒部とは反対側の面(122、160)とを接続し燃料通路内の燃料を噴射する複数の噴孔(13)、および、ノズル底部のノズル筒部側の面(121)において噴孔の周囲に形成される環状の弁座(14)を有する。
【0008】
ニードルは、ノズルの内側で往復移動可能に設けられ、弁座に当接すると噴孔を閉じ、弁座から離間すると噴孔を開く。駆動部は、ニードルを開弁方向または閉弁方向に移動させることが可能である。
【0009】
噴孔は、ノズル底部のノズル筒部側の面(150)に形成される入口開口部(131)、ノズル底部のノズル筒部とは反対側の面(122、160)に形成される出口開口部(132)、および、入口開口部と出口開口部とを接続する噴孔内壁(133)を有し、出口開口部の面積が入口開口部の面積より大きい。複数の噴孔のうち1つ以上の噴孔は、出口開口部の最長径と最短径との比が1より大きい噴孔である非真円噴孔(63、65)である。
【0010】
複数の噴孔のうち出口開口部の最長径と最短径との比が1の噴孔である真円噴孔(61、62、64、66)の噴孔開き角をθ(deg)、真円噴孔から噴射される燃料噴霧の開き角をθf(deg)、噴孔から燃料が噴射されるときの燃料通路内の燃料の平均圧力をP(MPa)とする。
【0011】
真円噴孔の噴孔軸(Axh1)と出口開口部との交点を頂点(Pv1)とし、真円噴孔の噴孔軸を含む第1仮想平面(VP1)による断面において2つの母線の成す角を
θf=θ+0.5×P^0.6
とする仮想錐を仮想真円錐(Vc1)と定義する。
【0012】
非真円噴孔の最大の噴孔開き角をθ1(deg)、最小の噴孔開き角をθ2(deg)、非真円噴孔から噴射される燃料噴霧の最大の開き角をθf1(deg)、非真円噴孔から噴射される燃料噴霧の最小の開き角をθf2(deg)とする。
【0013】
非真円噴孔の噴孔軸(Axh1)と出口開口部との交点を頂点(Pv2)とし、非真円噴孔の噴孔軸を含む第2仮想平面(VP2)による断面において2つの母線の成す角が最大となる角を
θf1=θ1+0.5×P^0.6+17×e^(-0.13×θ1)
とする。
【0014】
非真円噴孔の噴孔軸を含み第2仮想平面と交差する第3仮想平面(VP3)による断面において2つの母線の成す角が最小となる角を
θf2=θ2+0.5×P^0.6
とする仮想錐を仮想非真円錐(Vc2)と定義したとき、少なくとも隣り合う2つの噴孔は、仮想非真円錐と、仮想真円錐または仮想非真円錐とが干渉しないよう形成されている。
【0015】
本発明では、複数の噴孔のうち1つ以上の噴孔を、出口開口部の最長径と最短径との比が1より大きい噴孔である非真円噴孔とすることで、噴孔内壁のデポジットの堆積を抑制できる。
【0016】
また、非真円噴孔および真円噴孔についてそれぞれ仮想非真円錐と仮想真円錐を定義し、少なくとも隣り合う2つの噴孔を、仮想非真円錐と、仮想真円錐または仮想非真円錐とが干渉しないよう形成することで、噴孔から噴射される燃料噴霧同士の干渉を抑制できる。そのため、燃料噴霧間に閉空間は形成されず、負圧も発生せず、空気を導入することができる。これにより、燃料噴霧同士が収縮し合体するのを抑制できる。したがって、噴霧の高ペネ化によるシリンダ内の濡れや噴霧特性の悪化を抑制できる。
【0017】
本発明に係る燃料噴射弁の第2の態様では、複数の噴孔は、出口開口部の最長径と最短径との比が1より大きい噴孔である非真円噴孔(71、72、73、74)である。噴孔から燃料が噴射されるときの燃料通路内の燃料の平均圧力をP(MPa)とする。
【0018】
非真円噴孔の最大の噴孔開き角をθ1(deg)、最小の噴孔開き角をθ2(deg)、非真円噴孔から噴射される燃料噴霧の最大の開き角をθf1(deg)、非真円噴孔から噴射される燃料噴霧の最小の開き角をθf2(deg)とする。
【0019】
非真円噴孔の噴孔軸(Axh1)と出口開口部との交点を頂点(Pv2)とし、非真円噴孔の噴孔軸を含む第2仮想平面(VP2)による断面において2つの母線の成す角が最大となる角を
θf1=θ1+0.5×P^0.6+17×e^(-0.13×θ1)
とする。
【0020】
非真円噴孔の噴孔軸を含み第2仮想平面と交差する第3仮想平面(VP3)による断面において2つの母線の成す角が最小となる角を
θf2=θ2+0.5×P^0.6
とする仮想錐を仮想非真円錐(Vc2)と定義したとき、少なくとも隣り合う2つの噴孔は、仮想非真円錐と仮想非真円錐とが干渉しないよう形成されている。
【0021】
第2の態様でも、第1の態様と同様、噴霧の高ペネ化によるシリンダ内の濡れや噴霧特性の悪化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1実施形態による燃料噴射弁を示す断面図。
【
図2】第1実施形態による燃料噴射弁を内燃機関に適用した状態を示す図。
【
図5】第1実施形態による燃料噴射弁の真円噴孔を含む断面図。
【
図6】第1実施形態による燃料噴射弁の真円噴孔を示す模式図。
【
図7】第1実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔を示す模式図。
【
図8】第1実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔を示す模式図。
【
図9】第1実施形態による燃料噴射弁の燃料噴射中の非真円噴孔を示す図。
【
図10】第1実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔を含む断面図。
【
図11】第1実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔を含む断面図。
【
図12】第1実施形態による燃料噴射弁の仮想非真円錐を説明するための図。
【
図13】第1実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔の「噴孔開き角」と「非真円噴孔の形状に起因して増大する燃料噴霧の開き角」との関係を示す図。
【
図14】第1実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔の噴孔軸の定義の仕方について説明するための図。
【
図15】第1実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔の噴孔軸の定義の仕方について説明するための図。
【
図16】第1実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔の噴孔軸の定義の仕方について説明するための図。
【
図17】第1実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔の噴孔軸の定義の仕方について説明するための図。
【
図18】第1実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔の噴孔軸の定義の仕方について説明するための図。
【
図19】第1実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔の噴孔軸の定義の仕方について説明するための図。
【
図20】第1実施形態による燃料噴射弁の「噴孔開き角」と「噴霧開き角」との関係を示す図。
【
図21】第1実施形態による燃料噴射弁の燃料噴射終了時の非真円噴孔を示す図。
【
図22】第1実施形態による燃料噴射弁の燃料噴射終了時の非真円噴孔を示す断面図。
【
図23】第2実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔を示す模式図。
【
図24】第2実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔を示す模式図。
【
図25】第2実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔の噴孔軸の定義の仕方について説明するための図。
【
図26】第2実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔の噴孔軸の定義の仕方について説明するための図。
【
図27】第2実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔の噴孔軸の定義の仕方について説明するための図。
【
図28】第2実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔の噴孔軸の定義の仕方について説明するための図。
【
図29】第2実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔の噴孔軸の定義の仕方について説明するための図。
【
図30】第2実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔の噴孔軸の定義の仕方について説明するための図。
【
図31】第2実施形態による燃料噴射弁の「噴孔開き角」と「噴霧開き角」との関係を示す図。
【
図32】第3実施形態による燃料噴射弁のノズル底部および噴孔を示す図。
【
図33】第4実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔を示す図。
【
図34】第5実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔を示す図。
【
図35】第6実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔を示す図。
【
図36】第7実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔を示す図。
【
図37】第8実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔を示す図。
【
図38】第9実施形態による燃料噴射弁のノズル底部および噴孔を示す図。
【
図39】第10実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔を含む断面図。
【
図41】第11実施形態による燃料噴射弁の非真円噴孔を示す断面図。
【
図42】第12実施形態による燃料噴射弁のノズル底部および噴孔を示す図。
【
図43】第13実施形態による燃料噴射弁のノズル底部および噴孔を示す図。
【
図44】第14実施形態による燃料噴射弁のノズル底部および噴孔を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、複数の実施形態による燃料噴射弁を図面に基づき説明する。なお、複数の実施形態において実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。また、複数の実施形態において実質的に同一の構成部位は、同一または同様の作用効果を奏する。
(第1実施形態)
【0024】
第1実施形態による燃料噴射弁を
図1に示す。燃料噴射弁1は、例えば内燃機関としてのガソリンエンジン(以下、単に「エンジン」という)80に適用され、燃料としてのガソリンを噴射しエンジン80に供給する(
図2参照)。
【0025】
図2に示すように、エンジン80は、円筒状のシリンダブロック81、ピストン82、シリンダヘッド90、吸気弁95、排気弁96等を備えている。ピストン82は、シリンダブロック81の内側で往復移動可能に設けられている。シリンダヘッド90は、シリンダブロック81の開口端を塞ぐよう設けられている。シリンダブロック81の内壁とシリンダヘッド90の壁面とピストン82との間には、燃焼室83が形成されている。燃焼室83は、ピストン82の往復移動に伴い容積が増減する。
【0026】
シリンダヘッド90は、インテークマニホールド91およびエギゾーストマニホールド93を有している。インテークマニホールド91には、吸気通路92が形成されている。吸気通路92は、一端が大気側に開放されており、他端が燃焼室83に接続している。吸気通路92は、大気側から吸入された空気(以下、「吸気」という)を燃焼室83に導く。
【0027】
エギゾーストマニホールド93には、排気通路94が形成されている。排気通路94は、一端が燃焼室83に接続しており、他端が大気側に開放されている。排気通路94は、燃焼室83で生じた燃焼ガスを含む空気(以下、「排気」という)を大気側へ導く。
【0028】
吸気弁95は、図示しない駆動軸に連動して回転する従動軸のカムの回転により往復移動可能なようシリンダヘッド90に設けられている。吸気弁95は、往復移動することで燃焼室83と吸気通路92との間を開閉可能である。排気弁96は、カムの回転により往復移動可能なようシリンダヘッド90に設けられている。排気弁96は、往復移動することで燃焼室83と排気通路94との間を開閉可能である。
【0029】
本実施形態では、燃料噴射弁1は、インテークマニホールド91の吸気通路92のシリンダブロック81側に搭載される。燃料噴射弁1は、中心線が燃焼室83の中心線に対し傾斜するよう、または、捩れの関係となるよう設けられる。ここで、燃焼室83の中心線は、燃焼室83の軸であり、シリンダブロック81の軸と一致する。本実施形態では、燃料噴射弁1は、燃焼室83の側方に設けられる。すなわち、燃料噴射弁1は、エンジン80にサイド搭載されて使用される。
【0030】
また、シリンダヘッド90の吸気弁95と排気弁96との間、すなわち、燃焼室83の中央に対応する位置に点火装置としての点火プラグ97が設けられる。点火プラグ97は、燃料噴射弁1から噴射される燃料が直接付着しない位置であって、燃料と吸気とが混合された混合気(可燃空気)に着火可能な位置に設けられる。このように、エンジン80は、直噴式のガソリンエンジンである。
【0031】
燃料噴射弁1は、複数の噴孔13が燃焼室83の径方向外側の部分に露出するよう設けられる。燃料噴射弁1には、図示しない燃料ポンプにより燃料噴射圧相当に加圧された燃料が供給される。燃料噴射弁1の複数の噴孔13から、円錐状の燃料噴霧Foが燃焼室83内に噴射される。
【0032】
図3に示すように、本実施形態では、吸気弁95、排気弁96は、それぞれ2つずつ、エンジン80に設けられている。2つの吸気弁95は、それぞれ、インテークマニホールド91のシリンダブロック81側の2つに分岐した端部に設けられている。2つの排気弁96は、それぞれ、エギゾーストマニホールド93のシリンダブロック81側の2つに分岐した端部に設けられている。燃料噴射弁1は、シリンダブロック81の軸を含み2つの吸気弁95の間および2つの排気弁96の間を通る仮想平面VP100に中心線が沿うよう、インテークマニホールド91に設けられる。
【0033】
次に、燃料噴射弁1の基本的な構成について、
図1に基づき説明する。
燃料噴射弁1は、ノズル10、ハウジング20、ニードル30、可動コア40、固定コア51、弁座側付勢部材としてのスプリング52、固定コア側付勢部材としてのスプリング53、駆動部としてのコイル55等を備えている。
【0034】
ノズル10は、例えばマルテンサイト系ステンレス等の金属により形成されている。ノズル10は、所定の硬度を有するよう焼入れ処理が施されている。
図1、4、5に示すように、ノズル10は、ノズル筒部11、ノズル底部12、噴孔13、および、弁座14等を有している。
【0035】
ノズル筒部11は、略円筒状に形成されている。ノズル底部12は、ノズル筒部11の一端を塞いでいる。噴孔13は、ノズル底部12のノズル筒部11側の面すなわち内壁と、ノズル筒部11とは反対側の面122とを接続するよう形成されている(
図5参照)。噴孔13は、ノズル底部12に複数形成されている。本実施形態では、噴孔13は、6つ形成されている(
図4参照)。弁座14は、ノズル底部12のノズル筒部11側の面において噴孔13の周囲に環状に形成されている。噴孔13については、後に詳述する。
【0036】
ハウジング20は、第1筒部材21、第2筒部材22、第3筒部材23、インレット部24等を有している。
【0037】
第1筒部材21、第2筒部材22および第3筒部材23は、いずれも略円筒状に形成されている。第1筒部材21、第2筒部材22および第3筒部材23は、第1筒部材21、第2筒部材22、第3筒部材23の順に同軸となるよう配置され、互いに接続している。
【0038】
第1筒部材21および第3筒部材23は、例えばフェライト系ステンレス等の磁性材料により形成され、磁気安定化処理が施されている。第2筒部材22は、例えばオーステナイト系ステンレス等の非磁性材料により形成されている。第2筒部材22は、磁気絞り部として機能する。
【0039】
第1筒部材21は、第2筒部材22とは反対側の端部の内壁がノズル10のノズル筒部11の外壁に嵌合するよう設けられている。インレット部24は、例えばフェライト系ステンレス等の磁性材料により筒状に形成されている。インレット部24は、一端が第3筒部材23の第2筒部材22とは反対側の端部に接続するよう設けられている。
【0040】
ハウジング20の内側には、燃料通路100が形成されている。燃料通路100は、噴孔13に接続している。すなわち、ノズル10のノズル筒部11は、内側に燃料通路100を形成している。インレット部24の第3筒部材23とは反対側には、図示しない配管が接続される。これにより、燃料通路100には、燃料供給源(燃料ポンプ)からの燃料が配管を経由して流入する。燃料通路100は、燃料を噴孔13に導く。
【0041】
インレット部24の内側には、フィルタ25が設けられている。フィルタ25は、燃料通路100に流入する燃料中の異物を捕集する。ここで、フィルタ25の最大通過粒径は、閉弁時の弁軸方向におけるニードル本体301とサック壁面150との隙間より小さくしておいてもよい。
【0042】
ニードル30は、例えばマルテンサイト系ステンレス等の金属により棒状に形成されている。ニードル30は、所定の硬度を有するよう焼入れ処理が施されている。
【0043】
ニードル30は、燃料通路100内をハウジング20の軸方向へ往復移動可能なようハウジング20内に収容されている。ニードル30は、ニードル本体301、シート部31、大径部32、鍔部34等を有している。
【0044】
ニードル本体301は、棒状に形成されている。シート部31は、ニードル本体301のノズル10側の端部に形成され、弁座14に当接可能である。
【0045】
大径部32は、ニードル本体301の弁座14側の端部のシート部31近傍に形成されている。大径部32は、外径がニードル本体301の弁座14側の端部の外径より大きく設定されている。大径部32は、外壁がノズル10のノズル筒部11の内壁と摺動するよう形成されている。これにより、ニードル30は、弁座14側の端部の軸方向の往復移動が案内される。大径部32には、外壁の周方向の複数箇所が切り欠かれるようにして切欠き部33が形成されている。これにより、燃料は、切欠き部33とノズル筒部11の内壁との間を流通可能である。
【0046】
鍔部34は、ニードル本体301のシート部31とは反対側の端部から径方向外側へ延びるよう略円筒状に形成されている。
【0047】
ニードル本体301には、軸方向穴部35、径方向穴部36が形成されている。軸方向穴部35は、ニードル本体301のシート部31とは反対側の端面から軸方向に延びるようにして形成されている。径方向穴部36は、ニードル本体301の径方向に延びて軸方向穴部35とニードル本体301の外壁とを接続するよう形成されている。これにより、ニードル30に対しノズル10とは反対側の燃料は、軸方向穴部35および径方向穴部36を経由してニードル本体301の外壁と第1筒部材21の内壁との間へ流通可能である。
【0048】
ニードル30は、シート部31が弁座14から離間(離座)または弁座14に当接(着座)し、噴孔13を開閉する。以下、適宜、ニードル30が弁座14から離間する方向を開弁方向といい、ニードル30が弁座14に当接する方向を閉弁方向という。
【0049】
可動コア40は、例えばフェライト系ステンレス等の磁性材料により筒状に形成されている。可動コア40は、磁気安定化処理が施されている。可動コア40は、ハウジング20の第1筒部材21および第2筒部材22の内側に設けられている。
【0050】
可動コア40は、略円柱状に形成されている。可動コア40には、凹部41、軸穴42、通孔43が形成されている。
【0051】
凹部41は、可動コア40のノズル10側の端面の中央からノズル10とは反対側へ凹むようにして形成されている。軸穴42は、可動コア40の軸を通るよう、可動コア40のノズル10とは反対側の端面と凹部41の底面とを接続するようにして形成されている。通孔43は、可動コア40のノズル10側の端面と、可動コア40のノズル10とは反対側の端面とを接続するよう形成されている。通孔43は、凹部41の径方向外側において可動コア40の周方向に等間隔で複数形成されている。
【0052】
可動コア40は、軸穴42にニードル本体301が挿通された状態でハウジング20の内側に設けられている。すなわち、可動コア40は、ニードル本体301の径方向外側に設けられている。可動コア40は、ニードル本体301に対し軸方向に相対移動可能である。可動コア40の軸穴42を形成する内壁は、ニードル本体301の外壁と摺動可能である。
【0053】
可動コア40は、ノズル10とは反対側の端面のうち軸穴42周りの部分が、鍔部34のノズル10側の端面に当接、または、鍔部34のノズル10側の端面から離間可能である。
【0054】
固定コア51は、例えばフェライト系ステンレス等の磁性材料により略円筒状に形成されている。固定コア51は、磁気安定化処理が施されている。固定コア51は、可動コア40のノズル10とは反対側に設けられている。固定コア51は、外壁が第2筒部材22および第3筒部材23の内壁に接続するようハウジング20の内側に設けられている。固定コア51のノズル10側の端面は、可動コア40の固定コア51側の端面に当接可能である。
【0055】
固定コア51の内側には、円筒状のアジャスティングパイプ54が圧入されている。スプリング52は、例えばコイルスプリングであり、固定コア51の内側のアジャスティングパイプ54とニードル30との間に設けられている。スプリング52の一端は、アジャスティングパイプ54に当接している。スプリング52の他端は、ニードル本体301および鍔部34のノズル10とは反対側の端面に当接している。スプリング52は、可動コア40をニードル30とともにノズル10側、すなわち、閉弁方向に付勢可能である。スプリング52の付勢力は、固定コア51に対するアジャスティングパイプ54の位置により調整される。
【0056】
コイル55は、略円筒状に形成され、ハウジング20のうち特に第2筒部材22および第3筒部材23の径方向外側を囲むようにして設けられている。また、コイル55の径方向外側には、コイル55を覆うようにして筒状のホルダ26が設けられている。ホルダ26は、例えばフェライト系ステンレス等の磁性材料により形成されている。ホルダ26は、一端の内壁が第1筒部材21の外壁に接続し、他端の内壁が第3筒部材23の外壁に磁気的に接続している。
【0057】
コイル55は、電力が供給(通電)されると磁力を生じる。コイル55に磁力が生じると、磁気絞り部としての第2筒部材22を避けて、可動コア40、第1筒部材21、ホルダ26、第3筒部材23および固定コア51に磁気回路が形成される。これにより、固定コア51と可動コア40との間に磁気吸引力が発生し、可動コア40は、ニードル30とともに固定コア51側に吸引される。これにより、ニードル30が開弁方向に移動し、シート部31が弁座14から離間し、開弁する。その結果、噴孔13が開放され、噴孔13から燃料が噴射される。このように、コイル55は、通電されると、可動コア40を固定コア51側に吸引しニードル30を弁座14とは反対側、すなわち開弁方向に移動させることが可能である。
【0058】
なお、可動コア40が磁気吸引力により固定コア51側(開弁方向)に吸引されると、ニードル30の鍔部34は、固定コア51の内側を軸方向に移動する。このとき、鍔部34の外壁と固定コア51の内壁とは摺動する。そのため、ニードル30は、鍔部34側の端部の軸方向の往復移動が固定コア51により案内される。
【0059】
また、可動コア40は、磁気吸引力により固定コア51側(開弁方向)に吸引されると、固定コア51側の端面が固定コア51の可動コア40側の端面に衝突する。これにより、可動コア40は、開弁方向への移動が規制される。
【0060】
可動コア40が固定コア51側に吸引されている状態でコイル55への通電を停止すると、ニードル30および可動コア40は、スプリング52の付勢力により、弁座14側へ付勢される。これにより、ニードル30が閉弁方向に移動し、シート部31が弁座14に当接し、閉弁する。その結果、噴孔13が閉塞される。
【0061】
スプリング53は、例えばコイルスプリングであり、一端が可動コア40の凹部41の底面に当接し、他端がハウジング20の第1筒部材21の内壁の段差面に当接した状態で設けられている。スプリング53は、可動コア40を固定コア51側、すなわち、開弁方向に付勢可能である。スプリング53の付勢力は、スプリング52の付勢力よりも小さい。そのため、コイル55に通電されていないとき、ニードル30は、スプリング52によりシート部31が弁座14に押し付けられ、可動コア40は、スプリング53により鍔部34に押し付けられる。
【0062】
図1に示すように、第3筒部材23の径方向外側は、樹脂からなるモールド部56によりモールドされている。当該モールド部56から径方向外側へ突出するようコネクタ部57が形成されている。コネクタ部57には、コイル55へ電力を供給するための端子571がインサート成形されている。
【0063】
インレット部24から流入した燃料は、フィルタ25、固定コア51およびアジャスティングパイプ54の内側、軸方向穴部35、径方向穴部36、ニードル30とハウジング20の内壁との間、ニードル30とノズル筒部11の内壁との間、すなわち、燃料通路100を流通し、噴孔13に導かれる。なお、燃料噴射弁1の作動時、可動コア40およびニードル30の周囲は燃料で満たされた状態となる。また、燃料噴射弁1の作動時、可動コア40の通孔43、ニードル30の軸方向穴部35、径方向穴部36を燃料が流通する。そのため、可動コア40およびニードル30は、ハウジング20の内側で軸方向に円滑に往復移動可能である。
【0064】
本実施形態の燃料噴射弁1の使用時に想定される燃料通路100内の燃料の圧力は、例えば20MPa程度である。
【0065】
次に、本実施形態の噴孔13について、詳細に説明する。なお、
図5では、ニードル30の図示を省略している。
【0066】
図5に示すように、ノズル10は、サック壁面150、入口開口部131、出口開口部132、噴孔内壁133、噴孔13、弁座14を有している。
【0067】
サック壁面150は、ノズル底部12のノズル筒部11側の面121の中央からノズル筒部11とは反対側へ凹み、内側にサック室15を形成する。サック室15は、サック壁面150とニードル30のシート部31との間に形成される。
【0068】
弁座14は、面121のサック壁面150の周囲に環状に形成されている。弁座14は、ノズル筒部11側からサック壁面150側に向かうに従いノズル筒部11の軸Ax1に近付くようテーパ状に形成されている。
【0069】
噴孔13は、サック壁面150とノズル底部12のノズル筒部11とは反対側の面122とを接続し燃料通路100内の燃料を噴射する。なお、サック壁面150および面122は、曲面状に形成されている。
【0070】
図5に示すように、噴孔13は、ノズル底部12のノズル筒部11側の面であるサック壁面150に形成される入口開口部131、ノズル底部12のノズル筒部11とは反対側の面122に形成される出口開口部132、および、入口開口部131と出口開口部132とを接続する噴孔内壁133を有する。
【0071】
ここで、入口開口部131は、ノズル底部12に孔(噴孔13)を開けることによりサック壁面150に沿って形成される仮想的な面としての閉じられた領域を意味し、この領域の面積を入口開口部131の面積とする。また、出口開口部132は、ノズル底部12に孔(噴孔13)を開けることによりノズル底部12のノズル筒部11とは反対側の面122に沿って形成される仮想的な面としての閉じられた領域を意味し、この領域の面積を出口開口部132の面積とする。6つの噴孔13は、いずれも、出口開口部132の面積が入口開口部131の面積より大きい。
【0072】
本実施形態では、6つの噴孔13は、噴孔内壁133が入口開口部131側から出口開口部132側へ向かうに従い噴孔13の軸である噴孔軸Axh1から離れるようテーパ状に形成されている。
【0073】
図5に示すように、噴孔軸Axh1を含む断面において、1の噴孔13の2つの噴孔内壁133の成す角を、「噴孔開き角」という。また、噴孔軸Axh1を含む断面において、1の噴孔13から噴射された燃料噴霧Foの2つの輪郭の成す角を、「燃料噴霧の開き角」という。
【0074】
図4に示すように、本実施形態では、噴孔13の入口開口部131は、ノズル底部12の周方向に並ぶよう6つ形成されている。ここで、説明のため、6つの噴孔13のそれぞれを噴孔61、62、63、64、65、66とする。本実施形態では、噴孔61、62、63、64、65、66の入口開口部131の中心は、軸Ax1を中心とするピッチ円Cp1上に等間隔で配置されている。また、
図2、3において、噴孔61、62、63、64、65、66から噴射された燃料噴霧Foを、それぞれ、F61~66で示す。
【0075】
噴孔61、64は、間にノズル筒部11の軸Ax1が位置するよう、ノズル筒部11の軸Ax1を含む仮想平面VP101上に形成されている。すなわち、仮想平面VP101は、噴孔61、64を通る。また、噴孔61、64は、それぞれの噴孔軸Axh1が仮想平面VP101に含まれるよう形成されている。
【0076】
噴孔62、66の入口開口部131は、ノズル筒部11の軸Ax1を含み仮想平面VP101に垂直な仮想平面VP102に対し噴孔61側に形成されている。噴孔63、65の入口開口部131は、仮想平面VP102に対し噴孔64側に形成されている。
【0077】
噴孔63、65は、出口開口部132の最長径a1と最短径b1との比が1より大きい。そのため、噴孔63、65は、噴孔軸Axh1方向から見たとき、出口開口部132の形状が楕円形状、すなわち、非真円形状となる(
図4参照)。ここで、噴孔63、65を、「非真円噴孔」とする。噴孔63、65を、適宜、「オーバル噴孔」または「楕円噴孔」とよぶ。ここで、「オーバル噴孔」とは、出口開口部132の形状が、非真円であって、卵型、楕円、トラック形状等のオーバル形状である噴孔のことである。楕円は、2つの焦点からの距離の和が一定の円である。本実施形態では、噴孔63、65の出口開口部132の形状は、2つの焦点を有する楕円である。以下、「オーバル噴孔」といった場合、出口開口部132の形状が卵型、楕円またはトラック形状である噴孔13を含むものとする。また、「非真円噴孔」は、「オーバル噴孔」、「楕円噴孔」、「トラック噴孔」を含むものとする。また、「最長径」とは、その形状の幅のうち最も長い幅を意味し、噴孔63、65の出口開口部132の形状では長軸の長さに対応する。「最短径」とは、その形状の幅のうち最も短い幅を意味し、噴孔63、65の出口開口部132の形状では短軸の長さに対応する。
【0078】
噴孔61、62、64、66は、出口開口部132最長径a2と最短径b2との比が1である。そのため、噴孔61、62、64、66は、噴孔軸Axh1方向から見たとき、出口開口部132の形状が真円形状となる(
図4参照)。ここで、噴孔61、62、64、66を、「真円噴孔」とする。
【0079】
上述のように、本実施形態では、複数の噴孔13のうち1つ以上(2つ)の噴孔13は、出口開口部132の最長径と最短径との比が1より大きい噴孔13である非真円噴孔である。
【0080】
図6に示すように、真円噴孔としての噴孔61、62、64、66は、入口開口部131および出口開口部132の形状が真円形状である。また、入口開口部131および出口開口部132は、同軸上に形成されている。そのため、噴孔軸Axh1を含む仮想平面である第1仮想平面VP1による断面において、噴孔内壁133の成す角θは、出口開口部132の周方向で一定である。
【0081】
<5>
図7に示すように、非真円噴孔としての噴孔63、65は、入口開口部131および出口開口部132の形状が楕円形状である。また、入口開口部131および出口開口部132は、長軸および短軸の方向が一致するよう、同軸上に形成されている。そのため、噴孔軸Axh1を含む仮想平面である第2仮想平面VP2による断面において、噴孔内壁133の成す角が最大となる角をθ1、噴孔軸Axh1を含む仮想平面である第3仮想平面VP3による断面において、噴孔内壁133の成す角が最小となる角をθ2とすると、第2仮想平面VP2と第3仮想平面VP3とは直交する。
【0082】
また、出口開口部132の長径の長さをa1、短径の長さをb1とし、入口開口部131の長径の長さをa10、短径の長さをb10とすると、非真円噴孔としての噴孔63、65の扁平率は、a1/b1=a10/b10となる。つまり、非真円噴孔は、入口開口部131および出口開口部132が同じ扁平率の楕円形状である。ここで、「長径」とは、その形状の幅のうち最も長い幅を意味し、楕円における「長軸」に対応する。「短径」とは、その形状の幅のうち最も短い幅を意味し、楕円における「短軸」に対応する。
【0083】
<3>
図8に示すように、非真円噴孔としての噴孔63、65は、出口開口部132の短径方向が、非真円噴孔から噴射される燃料の噴射方向に沿うよう形成されている。なお、短径方向と噴射方向とが一致する場合、噴孔軸Axh1を通り軸Ax1に平行な仮想平面上に短軸があることになる。また、加工によるばらつき程度を含んでいても、「沿う」と表現する。ここで、「短径方向」は、ノズル筒部11の軸Ax1方向から見たとき、出口開口部132の短径すなわち短軸に沿う方向に対応する。また、「燃料の噴射方向」は、ノズル筒部11の軸Ax1方向から見たとき、噴孔軸Axh1に沿う方向に対応する。なお、
図8、9において、「長径方向」は、出口開口部132の長径すなわち長軸に沿う方向に対応する。
【0084】
図5に示すように、複数の噴孔13のうち出口開口部132の最長径と最短径との比が1の噴孔13である真円噴孔(64)の噴孔開き角をθ(deg)、真円噴孔から噴射される燃料噴霧Foの開き角をθf(deg)、真円噴孔から燃料が噴射されるときの燃料通路100内の燃料の平均圧力をP(MPa)とする。
【0085】
真円噴孔の噴孔軸Axh1と出口開口部132との交点を頂点Pv1とし、真円噴孔の噴孔軸Axh1を含む第1仮想平面VP1による断面において2つの母線の成す角を
θf=θ+0.5×P^0.6 ・・・式1
とする仮想錐を仮想真円錐Vc1と定義する(
図5参照)。ここで、「^」は、べき乗を表す。ここで、上記式1における「0.5×P^0.6」は、「噴孔開き角」(θ)と「燃料噴霧の開き角」(θf=θ+0.5×P^0.6)との差であり、「燃料通路100内の燃圧により増大する燃料噴霧の開き角」に対応する。Pが20(MPa)の場合、0.5×P^0.6は約3.0である。
【0086】
図10、11に示すように、非真円噴孔(63)の最大の噴孔開き角をθ1(deg)、最小の噴孔開き角をθ2(deg)、非真円噴孔から噴射される燃料噴霧Foの最大の開き角をθf1(deg)、非真円噴孔から噴射される燃料噴霧Foの最小の開き角をθf2(deg)とする。
【0087】
非真円噴孔の噴孔軸Axh1と出口開口部132との交点を頂点Pv2とし、非真円噴孔の噴孔軸Axh1を含む第2仮想平面VP2による断面において2つの母線の成す角が最大となる角を
θf1=θ1+0.5×P^0.6+17×e^(-0.13×θ1) ・・・式2
とする(
図10参照)。ここで、上記式2における「17×e^(-0.13×θ1)」は、「噴孔開き角」(θ1)および「燃料通路100内の燃圧により増大する燃料噴霧の開き角」(0.5×P^0.6)の和と「燃料噴霧の開き角」(θf1=θ1+0.5×P^0.6+17×e^(-0.13×θ1))との差であり、「非真円噴孔の形状に起因して増大する燃料噴霧の開き角」に対応する。
【0088】
非真円噴孔の噴孔軸Axh1を含み第2仮想平面VP2と交差する第3仮想平面VP3による断面において2つの母線の成す角が最小となる角を
θf2=θ2+0.5×P^0.6 ・・・式3
とする仮想錐を仮想非真円錐Vc2と定義したとき(
図10、11、12参照)、6つの噴孔13のうち、少なくとも隣り合う2つの噴孔13は、仮想真円錐Vc1または仮想非真円錐Vc2と、仮想真円錐Vc1または仮想非真円錐Vc2とが干渉しないよう形成されている。ここで、上記式3における「0.5×P^0.6」は、「噴孔開き角」(θ2)と「燃料噴霧の開き角」(θf2=θ2+0.5×P^0.6)との差であり、「燃料通路100内の燃圧により増大する燃料噴霧の開き角」に対応する。
【0089】
本実施形態では、6つの噴孔13のうち、全ての噴孔13は、仮想真円錐Vc1または仮想非真円錐Vc2と、仮想真円錐Vc1または仮想非真円錐Vc2とが干渉しないよう形成されている。
【0090】
図13に示すのは、「噴孔開き角」(θ1)を変化させた場合の「噴孔開き角」(θ1)と「非真円噴孔の形状に起因して増大する燃料噴霧の開き角」(非真円噴孔+α噴霧開き角)との関係を示す解析結果である。
図13に示すように、「噴孔開き角」(θ1)が大きくなる程、「非真円噴孔の形状に起因して増大する燃料噴霧の開き角」は小さくなる。ここで、「噴孔開き角」(θ1)と「非真円噴孔の形状に起因して増大する燃料噴霧の開き角」(非真円噴孔+α噴霧開き角)との関係の近似曲線LCs1は、上記式2における「17×e^(-0.13×θ1)」に対応する。
【0091】
次に、「楕円噴孔」の噴孔軸Axh1の定義の仕方について説明する。
【0092】
<手順1>
図14、15に示すように、適当な2つの平行な平面P101、P102で噴孔13を切断する。
【0093】
<手順2>
図16に示すように、手順1で切断した噴孔13の各断面SD1、SD2の幅が最長となる部分を通る直線L1、L2と各断面SD1、SD2の外縁端との交点をPe11、Pe12、Pe21、Pe22とする。
【0094】
<手順3>
図17に示すように、手順2で設定した交点Pe21と交点Pe11とを結んで延長した直線L3と、交点Pe22と交点Pe12とを結んで延長した直線L4との交点を仮想錐Vc101の頂点Pv101とする。
【0095】
<手順4>
図18に示すように、手順3で設定した頂点Pv101を中心とする球B101を作成し、球B101と仮想錐Vc101(噴孔内壁133)との交線Lx101の内側に形成される面を仮想面VPx101とする。仮想面VPx101の内側において、仮想面VPx101の幅が最長となる部分を通る直線L101を2分する点Pt101(
図19参照)と頂点Pv101とを結ぶ直線が噴孔軸Axh1となる。
【0096】
図20に示すように、真円噴孔から噴射される燃料噴霧の開き角(噴霧開き角)は、「噴孔開き角」に、「燃料通路100内の燃圧により増大する燃料噴霧の開き角」に対応する「0.5×P^0.6」を足した大きさとなる。また、非真円噴孔から噴射される燃料噴霧の開き角(噴霧開き角)は、長径側においては、「噴孔開き角」に「0.5×P^0.6」を足し、さらに、「非真円噴孔の形状に起因して増大する燃料噴霧の開き角」に対応する「17×e^(-0.13×θ1)」を足した大きさとなる。
【0097】
図20に示すように、長径側との比較として、非真円噴孔から噴射される燃料噴霧の開き角は、真円噴孔から噴射される燃料噴霧の開き角より大きい。
【0098】
非真円噴孔の噴霧広角化により、非真円噴孔から噴射された燃料噴霧の長さは、真円噴孔から噴射された燃料噴霧の長さより短くなる。よって、非真円噴孔は、真円噴孔と比べ、燃料噴霧の低ペネトレーション化の効果が高いといえる。
【0099】
本実施形態では、真円噴孔としての噴孔61、62、64、66、および、非真円噴孔としての噴孔63、65を
図4に示すように配置し、全ての噴孔13(噴孔61~66)は、仮想非真円錐Vc2と、仮想真円錐Vc1または仮想非真円錐Vc2とが干渉しないよう形成されている。そのため、燃料噴霧間に閉空間は形成されず、負圧も発生せず、空気を導入することができる。これにより、燃料噴霧同士が収縮し合体するのを抑制できる。したがって、噴霧の高ペネ化によるシリンダ内の濡れや噴霧特性の悪化を抑制できる。よって、少なくとも1つの非真円噴孔を含むことで噴孔内壁133のデポジットの堆積を抑制するとともに燃料噴霧の低ペネトレーション化を図りつつ、噴孔13から噴射される燃料噴霧同士が干渉しないよう噴孔13を形成し噴孔開き角を適宜設定することで噴霧の高ペネ化によるシリンダ内の濡れや噴霧特性の悪化を抑制できる。
【0100】
図2~4に示すように、本実施形態では、サイド搭載においてシリンダ内壁に近い噴孔63、65、すなわち、「楕円噴孔」から噴射された燃料噴霧F63、F65の低ペネトレーション化が実現される。よって、シリンダ内壁の濡れを効果的に抑制できる。
【0101】
図9に示すように、非真円噴孔において、燃料の噴射中は、長径方向(長軸側)に燃料を延ばし、液膜状に燃料を噴出することで、分裂を促進し、燃料噴霧の微粒化を図ることができる。一方、オーバル噴孔においては、ニードル30着座後の噴射終了時、噴孔内の燃料は、長径方向(長軸側)のR部に集まり、液糸状に噴出されるため、燃料キレが悪くなり、ノズル10の外壁の噴孔周りの濡れが多くなることがある(
図21、22参照)。
【0102】
また、
図4に示すように、非真円噴孔としての噴孔63の出口開口部132の扁平率a1/b1(>1)は、真円噴孔としての噴孔64の出口開口部132の扁平率a2/b2(=1)より大きい。また、出口開口部132の扁平率が大きい非真円噴孔(63、65)の入口開口部131の面積は、出口開口部132の扁平率が小さい真円噴孔(61、62、64、66)の入口開口部131の面積より小さい。
【0103】
本実施形態では、ニードル30着座後の噴孔13からの燃料の噴射終了時、入口開口部131の面積が小さいため燃料が流れづらく出口開口部132の扁平率が大きい非真円噴孔(63、65)からサック室15に空気が流入するとともに、入口開口部131の面積が大きいため燃料が流れ易く出口開口部132の扁平率が小さい真円噴孔(61、62、64、66)から燃料を噴き切って噴射終了する。そのため、燃料濡れし易い扁平率の大きい噴孔13からの低圧燃料の噴射量が低減し、燃料濡れを抑制できる。したがって、燃料噴霧の広角化と噴霧変化の影響の最小化とを両立しながら、チップウェットを従来技術と同等レベルに抑えることが可能である。
【0104】
以上説明したように、<1>本実施形態では、複数の噴孔13のうち1つ以上の噴孔13を、出口開口部132の最長径と最短径との比が1より大きい噴孔である非真円噴孔とすることで、噴孔内壁133のデポジットの堆積を抑制できる。
【0105】
また、非真円噴孔および真円噴孔についてそれぞれ仮想非真円錐Vc2と仮想真円錐Vc1を定義し、少なくとも隣り合う2つの噴孔13を、仮想非真円錐Vc2と、仮想真円錐Vc1または仮想非真円錐Vc2とが干渉しないよう形成することで、噴孔13から噴射される燃料噴霧同士の干渉を抑制できる。そのため、燃料噴霧間に閉空間は形成されず、負圧も発生せず、空気を導入することができる。これにより、燃料噴霧同士が収縮し合体するのを抑制できる。したがって、噴霧の高ペネ化によるシリンダ内の濡れや噴霧特性の悪化を抑制できる。
【0106】
また、<3>本実施形態では、非真円噴孔としての噴孔63、65は、出口開口部132の短径方向が、非真円噴孔から噴射される燃料の噴射方向に沿うよう形成されている。そのため、長軸方向の噴孔内壁133に燃料を沿わせて液膜を薄膜化し、微粒化できる。
【0107】
また、<5>本実施形態では、1つ以上の非真円噴孔(63、65)は、入口開口部131および出口開口部132が同じ扁平率の楕円形状である。そのため、噴孔13をレーザ加工する場合において、焦点を固定してレーザの走査ができ、非真円噴孔を容易に形成することができる。
【0108】
(第2実施形態)
第2実施形態による燃料噴射弁の一部を
図23に示す。第2実施形態は、非真円噴孔の構成が第1実施形態と異なる。
【0109】
<4>
図23に示すように、本実施形態では、非真円噴孔としての噴孔63、65は、入口開口部131が半径R1の真円形状であり、出口開口部132が入口開口部131の形状と同じ曲率の2つの半円Ch1を直線Lh1で繋いだ形状である。そのため、噴孔63、65は、噴孔軸Axh1方向から見たとき、出口開口部132の形状がトラック形状、すなわち、非真円形状となる(
図23参照)。ここで、噴孔63、65を、「非真円噴孔」とする。また、噴孔63、65を、適宜、「トラック噴孔」とよぶ。半円Ch1の半径R2は、入口開口部131の半径R1と同じである。
【0110】
非真円噴孔としての噴孔63、65は、入口開口部131の最長径a10と最短径b10との比、および、扁平率a10/b10が1である(
図23参照)。
【0111】
非真円噴孔としての噴孔63、65は、出口開口部132の最長径a1と最短径b1との比、および、扁平率a1/b1が1より大きい(
図23参照)。本実施形態では、入口開口部131の最短径b10と出口開口部132の最短径b1とは同じである。なお、出口開口部132を形成する2つの半円Ch1の中心間の距離Xは、噴孔63、65の噴孔開き角により決定する。
【0112】
<3>
図24に示すように、非真円噴孔としての噴孔63、65は、出口開口部132の短径方向が、非真円噴孔から噴射される燃料の噴射方向に沿うよう形成されている。ここで、「短径方向」は、ノズル筒部11の軸Ax1方向から見たとき、出口開口部132の短径すなわち出口開口部132の幅のうち最も小さい幅の方向D1に沿う方向に対応する。また、「燃料の噴射方向」は、ノズル筒部11の軸Ax1方向から見たとき、噴孔軸Axh1に沿う方向に対応する。なお、
図24において、「長径方向」は、出口開口部132の長径すなわち出口開口部132の幅のうち最も大きい幅の方向D2に沿う方向に対応する。
【0113】
本実施形態では、非真円噴孔としての噴孔63、65について、第1実施形態の非真円噴孔と同様に仮想非真円錐Vc2を定義したとき、6つの噴孔13のうち、全ての噴孔13は、仮想真円錐Vc1または仮想非真円錐Vc2と、仮想真円錐Vc1または仮想非真円錐Vc2とが干渉しないよう形成されている。
【0114】
次に、「非真円噴孔」すなわち「トラック噴孔」の噴孔軸Axh1の定義の仕方について説明する。
【0115】
<手順1>
図25に示すように、適当な2つの平行な平面P101、P102で噴孔13を切断する。
【0116】
<手順2>
図26、27に示すように、手順1で切断した噴孔13の各断面SD1、SD2のそれぞれにおいて、断面SD1、SD2の外縁端の2つの直線部に平行、かつ、等距離の直線L1、L2を設定する。
【0117】
<手順3>
図28、29に示すように、手順2で設定した直線L1、L2を含む平面P103で噴孔13を切断する。
【0118】
<手順4>
図30に示すように、手順3で切断した噴孔13の断面SD3の外縁端のうち噴孔内壁133に対応する部分を延長した直線L3、L4の交点Px101と、直線L3、L4から等距離の位置を通る直線が噴孔軸Axh1となる。
【0119】
図31に示すように、トラック噴孔から噴射される燃料噴霧の開き角(噴霧開き角)は、楕円噴孔から噴射される燃料噴霧の開き角より大きい。よって、トラック噴孔は、楕円噴孔と比べ、燃料噴霧の低ペネトレーション化の効果が高いことがわかる。
【0120】
以上説明したように、<4>本実施形態では、1つ以上の非真円噴孔(63、65)は、入口開口部131が真円形状であり、出口開口部132が入口開口部131の形状と同じ曲率の2つの半円Ch1を直線Lh1で繋いだ形状である。そのため、楕円噴孔と比べ、出口開口部132の外縁端のR部の曲率半径を大きくでき、燃料がR部から抜け易くなる。これにより、ノズル10の先端の濡れを抑制できる。
【0121】
(第3実施形態)
第3実施形態による燃料噴射弁について
図32に基づき説明する。第3実施形態は、噴孔13の構成が第1実施形態と異なる。
【0122】
本実施形態では、ノズル10は、第1実施形態で示した噴孔64を有していない。つまり、本実施形態では、噴孔13は、ノズル10に5つ形成されている。ここで、噴孔61、62、63、65、66の入口開口部131の中心は、軸Ax1を中心とするピッチ円Cp1上に等間隔で配置されている。
【0123】
(第4実施形態)
第4実施形態による燃料噴射弁について
図33に基づき説明する。第4実施形態は、非真円噴孔としての噴孔13の構成が第2実施形態と異なる。
【0124】
本実施形態では、非真円噴孔としての噴孔13は、入口開口部131および出口開口部132の形状がともにトラック形状である。「トラック形状」の定義は、第2実施形態で示したのと同じである。
【0125】
本実施形態では、入口開口部131の扁平化により燃料噴霧のさらなる広角化を実現できる。
【0126】
(第5実施形態)
第5実施形態による燃料噴射弁について
図34に基づき説明する。第5実施形態は、非真円噴孔としての噴孔13の構成が第1実施形態と異なる。
【0127】
本実施形態では、非真円噴孔としての噴孔13は、入口開口部131の形状が楕円形状であり、出口開口部132の形状がトラック形状である。ここで、入口開口部131は、長軸の方向DL1が、出口開口部132の長径の方向DL2と直交するよう形成されている。より詳細には、出口開口部132の形状は、入口開口部131の楕円を短軸方向で2つに分割し、それぞれの端部を直線で繋いだトラック形状である。
【0128】
本実施形態では、出口開口部132の最小のRを大きくしつつ、噴孔内壁を滑らかに繋げることができる。
【0129】
(第6実施形態)
第6実施形態による燃料噴射弁について
図35に基づき説明する。第6実施形態は、非真円噴孔としての噴孔13の構成が第1実施形態と異なる。
【0130】
本実施形態では、非真円噴孔としての噴孔13は、入口開口部131の形状が真円形状であり、出口開口部132の形状が、入口開口部131の形状と同じ曲率の2つの真円Cr1の一部を2つの曲線LC1で繋いだ形状である。
【0131】
本実施形態では、噴孔13の開き方向のガイドにより燃料が噴孔内壁に沿って流れ、燃料噴霧のさらなる広角化を実現できる。
【0132】
(第7実施形態)
第7実施形態による燃料噴射弁について
図36に基づき説明する。第7実施形態は、非真円噴孔としての噴孔13の構成が第1実施形態と異なる。
【0133】
本実施形態では、非真円噴孔としての噴孔13は、入口開口部131の形状が真円形状であり、出口開口部132の形状が楕円形状である。
【0134】
本実施形態では、出口開口部132の扁平化による燃料噴霧の広角化と燃料の流量調量の両立を図ることができる。
【0135】
(第8実施形態)
第8実施形態による燃料噴射弁について
図37に基づき説明する。第8実施形態は、非真円噴孔としての噴孔13の構成が第1実施形態と異なる。
【0136】
本実施形態では、非真円噴孔としての噴孔13は、入口開口部131および出口開口部132の形状がともに楕円形状である。ここで、入口開口部131と出口開口部132とは、短径すなわち短軸の長さLs1が同じである。
【0137】
本実施形態では、入口開口部131および出口開口部132の扁平化により燃料噴霧のさらなる広角化を実現できる。
【0138】
(第9実施形態)
第9実施形態による燃料噴射弁の一部を
図38に示す。第9実施形態は、非真円噴孔としての噴孔13の構成が第1実施形態と異なる。
【0139】
本実施形態では、非真円噴孔としての噴孔63は、入口開口部131および出口開口部132の形状がともに長方形状となるよう形成されている。ここで、噴孔63は、出口開口部132の長辺の長さa3と短辺の長さb3との比、および、扁平率a3/b3が1より大きい。
【0140】
また、非真円噴孔としての噴孔65は、入口開口部131が真円形状であり、出口開口部132がトラック形状である。ここで、噴孔65は、出口開口部132の長径の長さa1と短径の長さb1との比、および、扁平率a1/b1が1より大きい。つまり、噴孔65は、第2実施形態における噴孔65と同じ構成である。
【0141】
(第10実施形態)
第10実施形態による燃料噴射弁の一部を
図39、40に示す。第10実施形態は、噴孔13の構成が第1実施形態と異なる。
【0142】
本実施形態では、ノズル10には、ノズル凹部16が形成されている。ノズル凹部16は、ノズル底部12のノズル筒部11とは反対側の面122からノズル筒部11側へ円形に凹むよう形成されている(
図39、40参照)。
【0143】
非真円噴孔としての噴孔13は、サック壁面150とノズル凹部16の底面160とを接続するよう形成されている。そのため、噴孔13の入口開口部131は、ノズル底部12のノズル筒部11側の面であるサック壁面150に形成されている。また、噴孔13の出口開口部132は、ノズル底部12のノズル筒部11とは反対側の面である底面160に形成されている。
【0144】
図40に示すように、入口開口部131および出口開口部132がともに楕円形状である。なお、入口開口部131と出口開口部132とは、同じ扁平率の楕円形状に形成されている。また、面122におけるノズル凹部16の開口部の形状は、真円形状である。なお、面122におけるノズル凹部16の開口部の形状は、真円形状に限らず、非真円形状やオーバル形状、出口開口部132と同じ扁平率の楕円形状であってもよい。ノズル凹部16の開口部の面積を小さくするほど、配置自由度を確保できる。
【0145】
(第11実施形態)
第11実施形態による燃料噴射弁の一部を
図41に示す。第11実施形態は、噴孔13の構成が第10実施形態と異なる。
【0146】
本実施形態では、ノズル凹部16の形状が第10実施形態と異なる。本実施形態では、ノズル凹部16の底面160は、噴孔軸Axh1に沿って出口開口部132側から入口開口部131側へ向かうに従い噴孔軸Axh1から離れるようテーパ状に形成されている。そのため、噴孔軸Axh1を含む仮想平面による断面において、噴孔内壁133と底面160との成す角、すなわち、抜け角を、第10実施形態と比べて大きくすることができる。これにより、燃料の噴射時、燃料がノズル底部12の外壁に表面張力で引き付けられ難くなり、ノズル底部12の外壁の濡れを抑制できる。
【0147】
(第12実施形態)
第12実施形態による燃料噴射弁の一部を
図42に示す。第12実施形態は、噴孔13の構成が第1実施形態と異なる。
【0148】
本実施形態では、真円噴孔としての噴孔61、62、64、66の入口開口部131の中心は、軸Ax1を中心とするピッチ円Cp1上に配置されている。非真円噴孔としての噴孔63、65の入口開口部131の中心は、ピッチ円Cp1の外側に配置されている。
【0149】
(第13実施形態)
第13実施形態による燃料噴射弁の一部を
図43に示す。第13実施形態は、噴孔13の構成が第1実施形態と異なる。
【0150】
本実施形態では、真円噴孔としての噴孔61、62、64、66の入口開口部131の中心は、軸Ax1を中心とするピッチ円Cp1上に配置されている。非真円噴孔としての噴孔63、65の入口開口部131の中心は、ピッチ円Cp1の内側に配置されている。
【0151】
(第14実施形態)
第14実施形態による燃料噴射弁の一部を
図44に示す。第14実施形態は、噴孔13の構成が第1実施形態と異なる。
【0152】
本実施形態では、噴孔13は、ノズル底部12に4つ形成されている。ここで、説明のため、4つの噴孔13のそれぞれを噴孔71、72、73、74とする。本実施形態では、噴孔71、72、73、74は、第1実施形態の噴孔63、65と同様、非真円噴孔である。つまり、本実施形態では、複数の噴孔13の全てが非真円噴孔である。噴孔71、72、73、74の入口開口部131の中心は、軸Ax1を中心とするピッチ円Cp1上に等間隔で配置されている。
【0153】
以上説明したように、<2>本実施形態では、複数の噴孔13を、出口開口部132の最長径と最短径との比が1より大きい噴孔である非真円噴孔とすることで、噴孔内壁133のデポジットの堆積を抑制できる。
【0154】
また、非真円噴孔について仮想非真円錐Vc2を定義し、少なくとも隣り合う2つの噴孔13を、仮想非真円錐Vc2と仮想非真円錐Vc2とが干渉しないよう形成することで、噴孔13から噴射される燃料噴霧同士の干渉を抑制できる。そのため、噴霧の高ペネ化によるシリンダ内の濡れや噴霧特性の悪化を抑制できる。
【0155】
(他の実施形態)
上述の第1実施形態では、6つの噴孔のうち2つが非真円噴孔で、4つが真円噴孔である例を示した。これに対し、他の実施形態では、複数の噴孔のうち1つ以上が非真円噴孔であればよい。すなわち、第14実施形態のように、複数の噴孔のうち全てが非真円噴孔であってもよい。この場合、少なくとも隣り合う2つの噴孔は、それぞれの仮想非真円錐と仮想非真円錐とが干渉しないよう形成される。
【0156】
また、上述の第1実施形態では、非真円噴孔の出口開口部の形状が、2つの焦点を有する正確な楕円である例を示した。これに対し、他の実施形態では、非真円噴孔は、出口開口部の最長径と最短径との比が1より大きいのであれば、出口開口部が、2つの焦点を有する正確な楕円形に限らず、正確な楕円形以外の、曲線で閉じられた領域からなる形状や多角形等どのような形状であってもよい。また、他の実施形態では、噴孔は、6つに限らず、1~5つ、または、7つ以上ノズルに形成されていてもよい。
【0157】
また、上述の第1実施形態では、噴孔13の入口開口部131の面積が噴孔13によって異なる例を示した。これに対し、他の実施形態では、噴孔13の入口開口部131の面積は、全ての噴孔13で同じであってもよい。
【0158】
また、他の実施形態では、少なくとも隣り合う2つの噴孔が、仮想非真円錐と、仮想真円錐または仮想非真円錐とが干渉しないよう形成されているのであれば、他の噴孔については、仮想非真円錐と、仮想真円錐または仮想非真円錐とが干渉するよう形成されてていてもよい。
【0159】
また、上述の実施形態では、噴孔から燃料が噴射されるときの燃料通路内の燃料の平均圧力P(MPa)が20(MPa)の例を示した。これに対し、他の実施形態では、複数の噴孔が上記式1~3の関係を満たすよう形成されるのであれば、Pは、20より低くてもよいし、20より高くてもよい。つまり、噴孔は、燃料噴射弁の使用時に想定される燃料通路内の燃料の圧力に応じ、適宜、形成できる。
【0160】
また、他の実施形態では、非真円噴孔は、出口開口部の短径方向が、非真円噴孔から噴射される燃料の噴射方向に沿うよう形成されていなくてもよい。
【0161】
また、他の実施形態では、燃料噴射弁は、どのような姿勢でエンジン80に搭載してもよい。
【0162】
また、他の実施形態では、ノズルのノズル筒部とノズル底部とは、別体に形成されていてもよい。また、他の実施形態では、ハウジング20の第1筒部材21とノズルまたはノズル筒部とは、一体に形成されていてもよい。
【0163】
また、他の実施形態では、ハウジング20の第1筒部材21と第2筒部材22と第3筒部材23とは、一体に形成されていてもよい。この場合、例えば、第2筒部材22を薄肉に形成し、磁気絞り部とすればよい。
【0164】
また、上述の実施形態では、燃料噴射弁をエンジンにサイド搭載する例を示した。これに対し、他の実施形態では、シリンダヘッドの中央において点火プラグと燃料噴射弁とを隣接して配置する、いわゆるセンター搭載としてもよい。
【0165】
また、上述の実施形態では、直噴式のガソリンエンジンに燃料噴射弁を適用する例を示した。これに対し、他の実施形態では、燃料噴射弁を、例えばディーゼルエンジンやポート噴射式のガソリンエンジン等に適用してもよい。
【0166】
このように、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0167】
1 燃料噴射弁、10 ノズル、100 燃料通路、11 ノズル筒部、12 ノズル底部、13、61~66、71~74 噴孔、14 弁座、30 ニードル、55 コイル(駆動部)、131 入口開口部、132 出口開口部、133 噴孔内壁、Axh1 噴孔軸、VP1 第1仮想平面、VP2 第2仮想平面、VP3 第3仮想平面、Vc1 仮想真円錐、Vc2 仮想非真円錐