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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】2次元分光法及び2次元分光装置
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/45 20060101AFI20230502BHJP
   G01B 9/02 20220101ALI20230502BHJP
【FI】
G01J3/45
G01B9/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019509003
(86)(22)【出願日】2019-01-22
(86)【国際出願番号】 JP2019001885
(87)【国際公開番号】W WO2019167477
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2018038102
(32)【優先日】2018-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、総括実施型研究、研究プロジェクト名「ERATO美濃島知的シンセサイザプロジェクト」に係る産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】美濃島 薫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 峰士
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-282434(JP,A)
【文献】特表2015-530598(JP,A)
【文献】特表2013-507005(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0069309(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107727058(CN,A)
【文献】KATO T , et al.,Non-Scanning Three-Dimensional Imaging Using Two-Dimensional Spectroscopy and Spectral Interferometr,2017 Conference on Lasers and Electro-Optics Pacific Rim(CLEO-PR),IEEE,2017年07月31日,p1-2,DOI:10.1109/CLEOPR.2017.8118724
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00 - G01J 3/52
G01B 9/02
G01B 11/00 - G01B 11/30
G01N 21/00 - G01N 21/61
G02F 1/35
H01S 3/13
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的なチャープ量が異なる第1の光パルス列及び第2の光パルス列を生成する光パルス列生成工程と、
前記第1の光パルス列を、被測定物体の互いに異なる測定領域に照射する光パルス列照射工程と、
前記第1の光パルス列が前記被測定物体の前記測定領域のそれぞれに作用した後の複数の受光対象光パルス列のそれぞれと、前記第2の光パルス列とを干渉させて生成される干渉信号を計測する干渉信号計測工程と、
前記干渉信号から前記被測定物体の前記測定領域ごとの波長情報を取得する波長情報取得工程と、
を備え
前記干渉信号計測工程において、
前記第2の光パルス列を2つに分け、一方の第2の光パルス列の位相を他方の第2の光パルス列に対して90°ずらし、前記複数の受光対象光パルス列のそれぞれと前記一方の第2の光パルス列とを干渉させるとともに、前記複数の受光対象光パルス列のそれぞれと前記他方の第2の光パルス列とを干渉させ、生成されるそれぞれの前記干渉信号を取得し、
前記干渉信号は互いに異なり干渉縞周波数が最も低い波長を示す干渉縞を有し、
前記波長情報取得工程において、
前記干渉縞周波数が最も低い波長を前記被測定物体の前記測定領域ごとの波長情報として取得す
2次元分光法。
【請求項2】
前記波長情報取得工程において、
前記受光対象光パルス列に遅延時間を付加して前記干渉信号を取得し、
時間掃引をかけて前記干渉信号を透過率の波長依存性を互いに逆とした2枚のフィルタをそれぞれ通過させた透過強度を測定し、取得した前記遅延時間に伴う前記透過強度の比に基づいて前記被測定物体の前記測定領域ごとのスペクトル情報を取得する、
請求項1に記載の2次元分光法。
【請求項3】
前記光パルス列照射工程において、前記第1の光パルス列及び前記第2の光パルス列の少なくとも1つの光パルス列のチャープ量を調整することによって、前記波長情報取得工程において取得する前記波長情報の分解能を変化させる、
請求項1または請求項2に記載の2次元分光法。
【請求項4】
相対的なチャープ量が異なる第1の光パルス列及び第2の光パルス列を生成する光源部と、
前記光源部から出射された前記第1の光パルス列を、被測定物体の互いに異なる測定領域に照射する光パルス列照射部と、
前記第1の光パルス列が前記被測定物体の前記測定領域のそれぞれに作用した後の複数の受光対象光パルス列のそれぞれと前記第2の光パルス列との干渉信号を生成する干渉信号生成部と、
前記干渉信号生成部で生成された前記干渉信号に基づいて前記被測定物体の前記測定領域ごとの波長情報を取得する波長情報取得部と、
を備え
前記干渉信号は互いに異なり干渉縞周波数が最も低い波長を示す干渉縞を有し、
前記干渉信号生成部では、前記第2の光パルス列が2つに分けられ、一方の第2の光パルス列の位相は他方の第2の光パルス列に対して90°ずらされ、複数の受光対象光パルス列のそれぞれと前記一方の第2の光パルス列が干渉するとともに、前記複数の受光対象光パルス列のそれぞれと前記他方の第2の光パルス列が干渉し、生成されるそれぞれの前記干渉信号が取得され、
前記波長情報取得部では、前記干渉縞周波数が最も低い波長が前記被測定物体の前記測定領域ごとの波長情報として取得される、
2次元分光装置。
【請求項5】
前記干渉信号生成部は前記受光対象光パルス列に所定の遅延時間を付加する遅延時間調整機構を備え、
前記波長情報取得部は
前記干渉信号生成部で生成された前記干渉信号の一部が通る第1のフィルタと、
前記干渉信号の残りの少なくとも一部が通り、前記第1のフィルタとは逆の透過率の波長依存性を有する第2のフィルタと、
を有し、
前記第1のフィルタと前記第2のフィルタのそれぞれを通過した透過強度を測定し、前記遅延時間に伴う前記透過強度の比に基づいて前記波長情報を取得する、
請求項に記載の2次元分光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次元分光法及び2次元分光装置に関する。本願は、2018年3月2日に、日本に出願された特願2018-038102号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、分光情報を得る手法として、撮像法やフーリエ変換赤外分光法(Fourier Transform Infrared Spectroscopy:FT-IR)、分散型の赤外分光法などをはじめとする多くの手法が用いられている。これらの手法では、2次元の空間情報と1次元の波長情報とを同時に得ることは困難であった。以下、2次元の空間情報と1次元の波長情報とをまとめて、2次元分光情報という場合がある。
【0003】
近年、天文学や地球科学、物性分野などの学術分野では、2次元分光情報に含まれる各情報を同時にリアルタイムで取得可能な2次元分光への期待が高まっている。2次元分光は、面分光、あるいはハイパースペクトルイメージングとも呼ばれる。2次元分光情報が得られれば、例えば取得データから任意の波長の画像を抽出でき、例えば銀河などの拡がった天体について詳細に解析できる。従来の2次元分光法では、例えば2次元平面の各点(複数の測定領域)をスキャンしつつ、各点についてFT-IRを行い、2次元分光情報を取得できる。ところが、従来の2次元分光法では時間掃引に時間がかかるため、測定光路上の空気揺らぎによる影響を受けるという問題や、動的対象物の計測を行えない等の問題があった。一方、一度に2次元分光情報を取得できれば、空気揺らぎなどの影響を受けずに様々な動的対象物の分光計測を正確に行うことができる。
【0004】
2次元分光の手法としては、2次元の空間情報と1次元の波長情報とを、例えば回折格子を用いて一度に取得する手法や、可変バンドパスフィルタで透過させる波長帯を掃引しながら取得する手法などが挙げられる。非特許文献1には、スライサー(Slicer)と呼ばれ、かつ、細長いミラーが複数配置された光学素子を備えたイメージスライサー型面分光ユニットが開示されている。非特許文献2及び非特許文献3には、可変バンドパスフィルタで透過させる波長帯を掃引しつつ、2次元の空間情報と1次元の波長情報とを取得する手法に適用可能な可変バンドパスフィルタが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】北川祐太朗、「次世代を見据えたイメージスライサー型近赤外面分光ユニットの開発」、第44回天文・天体物理若手夏の学校(2014).
【文献】H. R. Morris, C. C. Hoyt, P. Miller and P. J. Treado, “Liquid Crystal Tunable Filter Raman Chemical Imaging,” Appl. Spectrosc. Vol. 50, No. 6, pp. 805-811 (1996).
【文献】K. A. Christensen, N. L. Bradley, M. D. Morris, and R. V. Morrison, “Raman Imaging Using a Tunable Dual-Stage Liquid Crystal Fabry-Perot Interferometer,” Appl. Spectrosc. Vol. 49, No. 8, pp. 1120-1125 (1995).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に開示されているイメージスライサー型面分光ユニットを用いた場合、空間情報の分解能は撮像された画像の分割数に依存し、空間情報の分割数は最大でも24程度に抑えられるが、波長情報の半値幅は1nm程度に縮小できる。一方、非特許文献2に開示されている可変バンドパスフィルタで異なる波長帯の光を透過させて2次元の空間情報と1次元の波長情報とを取得すると、空間分解能が画像素子と略同等にまで向上する。非特許文献2や非特許文献3に開示されているイメージング装置では、非特許文献3に記載されているように、例えばファブリペローフィルタの熱膨張を抑えるために±0.1℃の温度安定度が求められる。つまり、従来の2次元分光では、高解像度と高分解能とを両立させることは難しいという問題があった。
【0007】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであって、高解像度及び高分解能を両立可能な2次元分光法及び2次元分光装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の2次元分光法は、相対的なチャープ量が異なる第1の光パルス列及び第2の光パルス列を生成する光パルス列生成工程と、前記第1の光パルス列を、被測定物体の互いに異なる測定領域に照射する光パルス列照射工程と、前記第1の光パルス列が前記被測定物体の前記測定領域のそれぞれに作用した後の複数の受光対象光パルス列のそれぞれと、前記第2の光パルス列とを干渉させて生成される干渉信号を計測する干渉信号計測工程と、前記干渉信号から前記被測定物体の前記測定領域ごとの波長情報を取得する波長情報取得工程と、を備え、前記干渉信号計測工程において、前記第2の光パルス列を2つに分け、一方の第2の光パルス列の位相を他方の第2の光パルス列に対して90°ずらし、前記複数の受光対象光パルス列のそれぞれと前記一方の第2の光パルス列とを干渉させるとともに、前記複数の受光対象光パルス列のそれぞれと前記他方の第2の光パルス列とを干渉させ、生成されるそれぞれの前記干渉信号を取得し、前記干渉信号は互いに異なり干渉縞周波数が最も低い波長を示す干渉縞を有し、前記波長情報取得工程において、前記干渉縞周波数が最も低い波長を前記被測定物体の前記測定領域ごとの波長情報として取得する。
【0009】
上述の2次元分光法では、前記波長情報取得工程において、前記受光対象光パルス列に遅延時間を付加して前記干渉信号を取得し、時間掃引をかけて前記干渉信号を透過率の波長依存性を互いに逆とした2枚のフィルタをそれぞれ通過させた透過強度を測定し、取得した前記遅延時間に伴う前記透過強度の比に基づいて前記被測定物体の前記測定領域ごとのスペクトル情報を取得する
【0010】
上述の2次元分光法では、前記光パルス列照射工程において、前記第1の光パルス列及び前記第2の光パルス列の少なくとも1つの光パルス列のチャープ量を調整することによって、前記波長情報取得工程において取得する前記波長情報の分解能を変化させる
【0012】
本発明の2次元分光装置は、相対的なチャープ量が異なる第1の光パルス列及び第2の光パルス列を生成する光源部と、前記光源部から出射された前記第1の光パルス列を、被測定物体の互いに異なる測定領域に照射する光パルス列照射部と、前記第1の光パルス列が前記被測定物体の前記測定領域のそれぞれに作用した後の複数の受光対象光パルス列のそれぞれと前記第2の光パルス列との干渉信号を生成する干渉信号生成部と、前記干渉信号生成部で生成された前記干渉信号に基づいて前記被測定物体の前記測定領域ごとの波長情報を取得する波長情報取得部と、を備え、前記干渉信号は互いに異なり干渉縞周波数が最も低い波長を示す干渉縞を有し、前記干渉信号生成部では、前記第2の光パルス列が2つに分けられ、一方の第2の光パルス列の位相は他方の第2の光パルス列に対して90°ずらされ、複数の受光対象光パルス列のそれぞれと前記一方の第2の光パルス列が干渉するとともに、前記複数の受光対象光パルス列のそれぞれと前記他方の第2の光パルス列が干渉し、生成されるそれぞれの前記干渉信号が取得され、前記波長情報取得部では、前記干渉縞周波数が最も低い波長が前記被測定物体の前記測定領域ごとの波長情報として取得される。
【0014】
上述の2次元分光装置において、前記干渉信号生成部は前記受光対象光パルス列に所定の遅延時間を付加する遅延時間調整機構を備え、前記波長情報取得部は、前記干渉信号生成部で生成された前記干渉信号の一部が通る第1のフィルタと、前記干渉信号の残りの少なくとも一部が通り、前記第1のフィルタとは逆の透過率の波長依存性を有する第2のフィルタと、を有し、前記第1のフィルタと前記第2のフィルタのそれぞれを通過した透過強度を測定し、前記遅延時間に伴う前記透過強度の比に基づいて前記波長情報を取得する
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高解像度及び高分解能を両立可能な2次元分光法及び2次元分光装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の2次元分光法を説明するための図であり、チャープ光パルス列の模式図である。
図2】光周波数コムの時間軸上の電場分布(上段)及び周波数軸上の強度分布(下段)を説明するための模式図である。
図3】本発明の第1実施形態の2次元分光装置の構成を示す上面図である。
図4図3に示す2次元分光装置の変形例の構成を示す上面図である。
図5図3に示す2次元分光装置において干渉信号が生成される原理及び被測定物体の1つの測定領域の波長情報を説明するための模式図である。
図6図3に示す2次元分光装置の波長情報取得部の具体的構成の一例を示す上面図である。
図7図6に示す2次元分光装置の干渉信号生成部の一部の構成を示す模式図である。
図8図6に示す2次元分光装置に適用可能なペアフィルタの透過率の波長依存性を示すグラフである。
図9A図6に示す2次元分光装置に適用可能なペアフィルタの透過強度の遅延時間依存性を示す模式図であり、ペアフィルタの一方のフィルタ(F1)の透過強度の遅延時間依存性を示す図である。
図9B図6に示す2次元分光装置に適用可能なペアフィルタの透過強度の遅延時間依存性を示す模式図であり、ペアフィルタの他方のフィルタ(F2)の透過強度の遅延時間依存性を示す図である。
図9C図6に示す2次元分光装置に適用可能なペアフィルタの透過強度の遅延時間依存性を示す模式図であり、ペアフィルタの透過強度の比の遅延時間依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の2次元分光法及び2次元分光装置の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0018】
[原理的説明]
はじめに、本発明の2次元分光法の原理について、説明する。本発明の2次元分光法は、光パルス列生成工程と、光パルス列照射工程と、干渉信号計測工程と、波長情報取得工程と、を備える。光パルス列生成工程では、相対的なチャープ量が異なる第1の光パルス列及び第2の光パルス列を生成する。光パルス列照射工程では、第1の光パルス列を、被測定物体の互いに異なる測定領域に照射する。干渉信号計測工程では、第1の光パルス列が被測定物体の測定領域のそれぞれに作用した後の複数の受光対象光パルス列のそれぞれと第2の光パルス列とを干渉させ、干渉によって生成される干渉信号を計測する。波長情報取得工程では、干渉信号から被測定物体の測定領域ごとの波長情報を取得する。
【0019】
本発明の一実施形態の2次元分光法は、照射する光パルス列照射工程において、2つの光パルス列のうち、少なくとも一方の光パルス列を、時間軸に対する所定の周波数分布を有する光パルスが時系列に複数配された光パルス列(いわゆる、チャープ光パルス列)とする。すなわち、2つの光パルス列のうち、少なくとも一方の光パルス列をチャープさせる。
【0020】
図1は、時間軸に対する所定の周波数分布を有する光パルスCP(k)が時系列に複数配された光パルス列(チャープ光パルス列)APの模式図である。kは、任意の自然数であり、光パルスの時間軸上の番号を表す。それぞれの光パルスCP(k)では、時間軸上で周波数が連続的に変化する。以下、光パルス列APをチャープ光パルス列APという場合がある。チャープ光パルス列APの生成手法は特に限定されない。本実施形態では、チャープ光パルス列APの生成手法の一例として、光周波数コムを分散媒質に通過させることによってチャープ光パルス列APを得る手法について説明する。
【0021】
図2は、光周波数コムの時間軸上の電場分布(上段)及び周波数軸上の強度分布(すなわち、スペクトル分布、下段)を示す模式図である。図2に示すように、光周波数コムのパルスの時間幅τと周波数の広がりΔνとの間には、(1)式に示す関係が成り立つ。
【0022】
【数1】
【0023】
図2の上段に示すように、一定の繰り返し時間Trepで発振される光パルス列は、周波数軸上で見ると一定の周波数間隔frepを有する。繰り返し時間Trepと周波数間隔frepとの間には、(2)式に示す関係が成り立つ。
【0024】
【数2】
【0025】
それぞれの光パルス列は、光源の共振器等の内部で伝搬する多くの縦モードの重ね合わせから成り立っている。光パルス列は、これらの縦モードの重ね合わせの波である搬送波と、搬送波の包絡線を構成する波束によって構成されている。搬送波は、キャリアとも呼ばれる。搬送波の包絡線は、エンベロップとも呼ばれる。搬送波の速度と波束の速度は互いに異なるため、時間の経過に伴い、位相差が生じる。レーザー共振器は分散媒質によって構成される。時間軸上で所定の時間Trepの時間間隔ごとに繰り返し発せられる光パルス列では、隣り合うパルス間に位相のずれφCEOが生じる。位相のずれφCEOの周期は、時間TCEOで一周期する。繰り返し時間Trep、時間TCEO及び位相のずれφCEOの間には、(3)式に示す関係が成り立つ。
【0026】
【数3】
【0027】
時間軸上における上述の超短パルス列をフーリエ変換し、周波数軸上で観測すると、図2の下段に示すように、互いに時間間隔Trepの逆数に相当する繰り返し周波数frepの間隔をあけて並んだ多数の周波数モードが観測される。光周波数コムの全体のスペクトル幅は、超短光パルスの時間幅の逆数(1/τ)に相当する。
【0028】
図2の下段に示すように、光周波数コムのキャリア・エンベロップ・オフセット(Carrier Envelope Offset: CEO)fCEOは、時間TCEOの逆数に相当する。そして、キャリア・エンベロップ・オフセットfCEO、位相のずれφCEO、時間TCEOの間には、(4)式に示す関係が成り立つ。
【0029】
【数4】
【0030】
光コムのm番目のスペクトルの周波数は、繰り返し周波数frepとキャリア・エンベロップ・オフセットfCEOとをパラメータとして、(5)式のように表される。
【0031】
【数5】
【0032】
上述の相互関係をふまえ、光周波数コムをなす複数の周波数モードに関するパラメータを制御することで、搬送波や包絡線を制御できる。さらに、生成された光周波数コムに適当な分散を与えることによって、所望のチャープ量を有するチャープ光パルス列APが得られる。
【0033】
[2次元分光装置]
図3は、本発明の2次元分光装置1Aの構成を示す上面図である。図3に示すように、2次元分光装置1Aは、光パルス列APを出射する光源3と、ハーフミラー12と、光パルス列照射部4と、干渉信号生成部6と、波長情報取得部8と、を備える。ハーフミラー12は、光源3から出射された光パルス列APを複数(図3では2つ)の分割光パルス列DP1,DP2に分ける。光パルス列照射部4は、分割光パルス列(第1の光パルス列)DP1を、被測定物体Sの互いに異なる測定領域に照射する。干渉信号生成部6は、分割光パルス列DP1が被測定物体Sの測定領域のそれぞれに作用した後の複数の受光対象光パルス列EPのそれぞれと分割光パルス列(第2の光パルス列)DP2との干渉信号IMGを生成する。波長情報取得部8は、干渉信号IMGに基づいて被測定物体Sの測定領域ごとの波長情報を取得する。なお、光源3及びハーフミラー12は、相対的なチャープ量が異なる分割光パルス列DP1,DP2を生成する光源部として機能する。
【0034】
光源3は、上述したように所望のチャープ量で制御された光パルス列APを出射する。
光パルス列照射部4は、ハーフミラー12,14及び全反射ミラー16を備える。
【0035】
図3に示す構成では、光源3から発せられた光パルス列APがハーフミラー12によって分割光パルス列DP1,DP2に分けられる。分割光パルス列DP1は、ハーフミラー12及び全反射ミラー16によって反射され、ハーフミラー14を透過し、被測定物体Sに照射される。分割光パルス列D1は、被測定物体Sから反射されるとともに被測定物体Sの分光情報を含み、受光対象光パルス列EPとなって、ハーフミラー14で反射され、干渉信号生成部6に入射する。一方、ハーフミラー12によって分けられた分割光パルス列DP1,DP2のうち分割光パルス列DP2は、そのまま干渉信号生成部6に入射する。
【0036】
なお、受光対象光パルス列EPに被測定物体Sの分光情報が含まれればよい。そのため、分割光パルス列DP1が被測定物体Sの測定領域のそれぞれに作用する際、上述のように分割光パルス列DP1は、被測定物体Sに入射した後、被測定物体Sから反射してもよく、図4に示すように被測定物体Sを通過(透過)してもよい。図4は、本実施形態の2次元分光装置1Aの変形例である2次元分光装置1Bの構成を示す上面図である。図4の構成では、被測定物体Sは、全反射ミラー16と全反射ミラー15との間に配置される。
【0037】
図3及び図4では、光パルス列AP、分割光パルス列DP1,DP2及び受光対象光パルス列EPの光軸のみを図示しているが、これらの光パルス列は、不図示の光学系などによって拡散、集光及びコリメートされている。
【0038】
図5は、干渉信号が生成される原理及び被測定物体Sの一測定領域の波長情報を説明するための模式図である。図5に示すように、干渉信号生成部6では、分割光パルス列DP2と受光対象光パルス列EPが互いに異なる方向からビームスプリッター22に入射し、合わさる。一例として、干渉信号生成部6では、正チャープの分割光パルスDP2と負チャープの受光対象光パルス列EPとの干渉信号IMGが生成される。「負チャープ」は、波長軸(周波数軸)において正チャープとは逆のチャープを表す。分割光パルス列DP2と受光対象光パルス列EPを仮にビームスプリッター22で合わせ、生成された干渉信号IMGを回折格子24で波長分離した場合は、図5に示す<A>,<B>,<C>の各分布が得られる。図5の<A>のグラフは、波長と距離に換算した遅延時間との関係を示している。図5の<B>のグラフは、波長と干渉信号IMG及び包絡線EVの強度との関係を示している。図5の<C>のグラフは、遅延時間と包絡線EVの強度との関係を示している。
【0039】
本実施形態の波長情報取得部8は、干渉信号生成部6に連結しており、例えば干渉信号IMGを複数の画素ごとに検出可能な受光素子及びコンピュータに組み込まれたプログラムなどによって構成されている。
【0040】
[2次元分光法]
本発明の2次元分光法は、光パルス列照射工程と、干渉信号計測工程と、波長情報取得工程と、を備える。光パルス列照射工程では、時間軸に対する所定の周波数分布を有する光パルスが時系列に複数配された光パルス列APが複数に分けられた分割光パルス列DP1,DP2のうち、一方の分割光パルス列DP1を、被測定物体Sの互いに異なる測定領域に照射する。干渉信号計測工程では、分割光パルス列DP1が被測定物体Sの測定領域のそれぞれに作用した後の複数の受光対象光パルス列EPのそれぞれと分割光パルス列DP2とを干渉させて生成される干渉信号IMGを計測する。波長情報取得工程では、干渉信号IMGから被測定物体Sの測定領域ごとの波長情報を取得する。図3に示す2次元分光装置1Aを用いて、上述の各工程を行うことができる。
【0041】
光パルス列照射工程では、光源3から出射された光パルス列APをハーフミラー12で少なくとも2つの分割光パルス列DP1,DP2に分け、一方の分割光パルス列DP1を全反射ミラー16で反射させた後にハーフミラー14を透過させ、被測定物体Sの互いに異なる測定領域に照射する。分割光パルス列DP1は、被測定物体Sから反射し、被測定物体Sの分光情報を波長情報として保有する。光パルス列照射工程では、分割光パルス列DP1を、受光対象光パルス列EPとしてハーフミラー14で反射させ、干渉信号生成部6に入射させる。
【0042】
本実施形態の2次元分光法では、2つの分割光パルス列DP1,DP2のうちの分割光パルス列DP2をハーフミラー12において透過させ、干渉信号生成部6に入射させる。本実施形態では、分割光パルス列DP2は、チャープ光パルス列である受光対象光パルス列EPに対してチャープフリーである。ただし、分割光パルス列DP2が受光対象光パルス列EPに対してチャープフリーである替わりに、分割光パルス列DP2に受光対象光パルス列EPとは時間軸上で逆向きのチャープがかかっていてもよい。
【0043】
干渉信号計測工程では、互いに異なる方向から干渉信号生成部6に入射した受光対象光パルス列EPと分割光パルス列DP2とを合わせ、干渉信号IMGを生成する。干渉信号IMGは、互いに異なり、且つ干渉縞周波数が最も低い波長を示す干渉縞を有する。図5の<B>のグラフに示すように、干渉信号IMGには、波長軸上の間隔が不均一である干渉縞が複数出現する。「最も低い」とは、干渉信号IMGに含まれる干渉縞周波数の中で相対的に最も低いことを意味し、波長軸上の間隔が最も広いことを意味する。
【0044】
波長情報取得工程では、前述の干渉縞周波数が最も低い波長を前記被測定物体の前記測定領域ごとの波長情報として取得する。具体的には、受光素子によって干渉信号IMGを検出する。例えば、分光測定のターゲット波長帯が近赤外であれば、受光素子として、InGaAsのVGA程度のアレイセンサや撮像素子を適用できる。分光測定時の波長帯が可視光であれば、受光素子として、Siからなる8Kの画像素子を用いることができる。その他に、受光素子としては、遠赤外のボロメーターやX線のシンチレータ方式、紫外域のCCDの画像素子が挙げられる。
【0045】
波長情報取得工程では、遅延時間(Delay)を変化させ、光パルス列APのスペクトル形状と略同じ包絡線EVを有する干渉信号IMGを得る。包絡線EVの強度のピーク値は、光源3から出射される光パルス列APの強度に依存する。
【0046】
図6は、図3に示す2次元分光装置1Aの波長情報取得部8の具体的な構成の一例を示した2次元分光装置1Cの上面図である。図6に示す2次元分光装置1Cは、図3に示す2次元分光装置1Aの基本構成に加え、波長情報取得部8として、ハーフミラー31と、全反射ミラー32と、ペアフィルタPFと、2台の撮像カメラ(撮像部)41,42と、画像処理部50と、を備える。撮像カメラ41,42は、互いに同じ画素数を有する。
【0047】
2次元分光装置1Cでは、分割光パルス列DP1の進路上において、ハーフミラー14が全反射ミラー16の手前側に配置されている。被測定物体Sは、ハーフミラー14を透過する分割光パルス列DP1の進路上に配置されている。被測定物体Sに入射した分割光パルス列DP1には、被測定物体Sの各測定領域の波長情報(分光情報)が付加される。分割光パルス列DP1は、各測定領域の波長情報を含む受光対象光パルス列EPとしてハーフミラー14に向けて反射される。受光対象光パルス列EPは、ハーフミラー14及び全反射ミラー16によって反射され、2次元分光装置1A,1Bと同様に干渉信号生成部6に入射する。
【0048】
図7は、2次元分光装置1Cにおける干渉信号生成部6の一部の構成を示す模式図である。図7に示すように、干渉信号生成部6に入射した受光対象光パルス列EPには、例えば遅延時間調整機構26によって、所定の遅延時間が付加される。遅延時間調整機構26は、それぞれの反射面27rが対向するように配置された2個の全反射プリズム27を有する。遅延時間調整機構26が不図示の制御部によって矢印Mに沿って移動することによって、受光対象光パルス列EPの光路長が変わる。遅延時間調整機構26の移動量に応じた遅延時間が受光対象光パルス列EPに付加される。
【0049】
なお、図示していないが、2次元分光装置1A,1B,1Cは、互いに位相差を有する干渉信号IMGを取得する構成を備える。このような構成では、例えば分割光パルス列DP2をさらに2つに分け、一方の分割光パルス列DP2の位相を他方の分割光パルス列DP2に対して所定量(好ましくは、90°)ずらし、それぞれの分割光パルス列DP2と受光対象光パルス列EPとを干渉させ、生成されるそれぞれの干渉信号の包絡線強度を取得する。取得した包絡線強度は、波長情報取得部8に入射する。
【0050】
受光対象光パルス列EPには、干渉信号生成部6に入射した分割光パルス列DP2と所定の遅延時間が付加される。受光対象光パルス列EPは例えばビームスプリッター22によって合波され、干渉信号IMGが生成される。図6に示すように、干渉信号IMG(合波光パルス列MP)は、干渉信号生成部6からハーフミラー31に入射する。ハーフミラー31によって、干渉信号IMGは2つに分けられ、一方の干渉信号IMG1は、全反射ミラー32によって反射され、ペアフィルタPFのフィルタF1に入射する。他方の干渉信号IMG2は、ハーフミラー31からフィルタF2に入射する。なお、フィルタF1,F2は、撮像カメラ41,42の入射部に一体化されていてもよい。
【0051】
図8は、ペアフィルタPFを構成するフィルタF1,F2の透過率の波長依存性の一例を示すグラフである。図8に示すように、ペアフィルタF1,F2の透過率の波長依存性は、互いに逆であることが好ましい。フィルタ(第1のフィルタ)F1の透過率は、波長が増加するにしたがって概ね低下する。一方、フィルタ(第2のフィルタ)F2の透過率は、波長が増加するにしたがって概ね上昇する。このようにペアフィルタF1,F2の透過率の波長依存性が互いに逆であることによって、包絡線EVの強度(以下、包絡線強度ELという場合がある)に関する光強度 比と波長との1対1対応が成立する。
【0052】
図6に示すように、フィルタF1,F2を通過した合波光パルス列MP1,MP2は、撮像カメラ41,42の受光部(図示略)に入射する。撮像カメラ41,42の各受光部の入力情報は、画像処理部50に送信される。画像処理部50は、例えばコンピュータである。画像処理部50には、画像処理プログラム等のプログラムが内蔵されている。画像処理部50は、プログラムを用いて撮像カメラ41,42からの入力情報を適宜処理する。
【0053】
2次元分光装置1Cを用いた2次元分光法は、上述と同様の光パルス列照射工程と、干渉信号計測工程及び波長情報取得工程とを備える。
【0054】
干渉信号計測工程では、被測定物体Sの測定領域のそれぞれに作用した後の複数の受光対象光パルス列EPのそれぞれと、分割光パルス列DP2とを、ビームスプリッター22などを用いて合わせ、互いに干渉させる。被測定物体Sの測定領域ごとのスペクトル情報(波長情報)を取得するために、合波光パルス列MPは、波長情報取得部8に送られる。
【0055】
図9A図9B及び図9Cは、フィルタF1,F2の透過強度の遅延時間依存性を示す模式図である。波長情報取得工程では、遅延時間調整機構26を用いて時間掃引をかけた合波光パルス列MPを分岐して生成された合波光パルス列MP1,MP2は、図8に示す透過率の波長依存性を有するフィルタF1,F2のそれぞれを通過する。このことによって、図9A及び図9Bのそれぞれに示すように遅延時間に伴って透過強度が変化する。撮像カメラ41,42を用いて、前述のように遅延時間に伴う合波光パルス列MP1,MP2の透過強度を取得できる。図9A及び図9Bのそれぞれにおける破線は、フィルタF1またはフィルタF2を透過しなかった場合の合波光パルス列MP1,MP2の透過光強度を表す。
【0056】
被測定物体Sの個々の測定領域は、撮像カメラ41,42の各画素に対応する。図9Cに示すように、フィルタF1,F2における透過強度の比をとると、それぞれのフィルタF1,F2の透過率比と等しい値が表れる。これらのことをふまえ、波長情報取得工程では、ペアフィルタF1,F2を用いることによって、撮像カメラ41,42で取得した被測定物体Sの測定領域ごとの包絡線強度ELの比を画像処理部50で算出する。撮像カメラ41,42の各画素について算出した包絡線強度ELの比に基づいて、各画素の信号強度比を求め、包絡線強度ELの分布内の各強度を発現する波長を決定する。決定された波長と包絡線強度ELとの対応関係に基づいて、撮像カメラ41,42の各画素、すなわち被測定物体Sの各測定領域のスペクトル分布(波長情報)を取得する。
【0057】
遅延時間調整機構26を用いて、遅延時間を変化させたときの各遅延時間の波長情報を取得し、元の遅延時間に対する波長変化と比較する。このことによって、測定対象物における各波長の位相がどの程度変化したかということがわかり、位相スペクトルを計測できる。ただし、その場合の位相スペクトルの変化は、波長に対して一意に決まる位相スペクトルとなる変化に限られる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態の2次元分光法は、上述の光パルス列照射工程、干渉信号計測工程及び波長情報取得工程を備える。本実施形態の2次元分光法によれば、光パルス列照射工程において、光源3から発せられた光パルス列A0の個々の光パルスCP(k)の波長幅(すなわち、チャープ量)を調整することによって、波長情報取得工程において取得する波長情報の分解能を変化させることができる。本実施形態の2次元分光法では、波長分解能は、干渉信号IMGの低周波領域のピークの波長幅によって決まる。このことをふまえ、光周波数コムをなす複数の周波数モードに関するパラメータ(繰り返し周波数frepやキャリア・エンベロップ・オフセットfCEOなど)を制御することによって搬送波や包絡線を制御できる。適当な分散素子を用いることによって、チャープ光パルス列APの個々の光パルスCP(k)のチャープ量を所望の量に調整できる。上述のように、チャープ光パルス列APの光パルスCP(k)のチャープ量を大きくすることで、干渉信号IMGの低周波領域のピークの波長幅を狭くし、2次元分光法の波長分解能を高くすることができる。すなわち、本実施形態の2次元分光法は、分光測定における高解像度及び高分解能を両立できる。
【0059】
チャープ光パルス列APの個々の光パルスCP(k)のチャープ量を調節する手法には、例えば、ハーフミラー12と全反射ミラー16との間に分散媒体を配置し、この分散媒体中に分割光パルス列DP1を通過させる手法がある。分散媒質の代わりに、例えば所定の長さを有するガラスロッドやシングルモードファイバや、回折格子対やプリズムペアを用いてもよい。このように、本実施形態の2次元分光法では、分光測定のキャリアである光パルス列のチャープ量を調整することによって、分光測定時の分解能を変えることができ、2次元分光装置1A,1Bの大型化を抑えられる。
【0060】
本実施形態の2次元分光法によれば、互いにチャープ量の異なる光パルスCP(k)が時系列に並んだチャープ光パルス列を用いてスペクトル干渉を行い、そのスペクトル干渉の結果に基づいて被測定物体Sの測定領域の波長情報を取得できる。また、分光測定のターゲット波長帯を含む波長帯の光を出射可能な光源、及びそのターゲット波長帯に感度を有する受光素子や検出器があれば、任意のターゲット波長帯の2次元分光を行うことができる。言い換えれば、本実施形態の2次元分光法は、使う波長に依存しない。また、分光測定のターゲットの波長帯は、ターゲットの波長帯に合わせて波長変換を行う、あるいはターゲットの波長帯の光周波数コムを用いることによって容易に調整できる。そのため、従来の分光法や分光装置のように、ターゲットの波長帯の変更に伴ってフィルタなどの光学部品を交換する必要もなく、非常に高価な超広帯域の光学部品を使用する必要もない。
【0061】
本実施形態の2次元分光法によれば、前述のようにスペクトル干渉させる分割光パルス列DP2と受光対象光パルス列EPとの相対チャープ量によって、波長分解能を決めるとともに、容易に調整できる。このことによって、従来のように空間情報の高解像度化または波長情報の高分解能化の何れか一方ではなく、高解像度化及び高分解能化を容易に両立できる。
【0062】
本実施形態の2次元分光法によれば、空間情報の分解能は、被測定物体Sに分割光パルス列DP1を照射するために使われる照射光学系(例えば、対物レンズを含む)及び受光素子の画素サイズによって決まる。照射光学系におけるパラメータや受光素子の画素サイズを調整することによって、任意のターゲット波長で高解像度の分光計測画像を取得できる。なお、空間情報の最も高い分解能は、光源3から出射される光パルス列APの回折限界で決まる。
【0063】
本実施形態の2次元分光法によれば、被測定物体Sの測定領域からの信号を、分割光パルス列DP2とのスペクトル干渉によって干渉信号IMGとして検出する。このことによって、干渉信号IMGの検出と同時に、被測定物体Sの測定領域(受光素子の一画素に相当)のそれぞれにおいて何色の信号に反応があったか、すなわちいずれの波長の信号に反応があったかが判明し、波長情報を瞬時に取得できる。このことによって、周囲環境の変化の影響を受けずに2次元分光を行うとともに、測定精度を向上させることができる。
【0064】
本実施形態の2次元分光法及び2次元分光装置1Cによれば、ペアフィルタPFを用いるので、各フィルタF1,F2を通った合成光パルス列MP1,MP2について遅延時間に対して略単調変化する強度比が得られる。このことによって、合成光パルス列MP1,MP2の強度比と遅延時間(すなわち、波長)の組み合わせを一義的に決め、被測定物体Sの各測定領域における分光スペクトルを取得できる。このような手法は、任意のスペクトルを有する光を出射する光源に適用できる。また、被測定物体Sの各測定領域の波長情報を、撮像カメラ41,42の各画素で受光した強度に基づいて特定できる。
【0065】
すなわち、本実施形態の2次元分光法及び2次元分光装置1Cによれば、2次元の空間情報及び1次元の波長情報からなる3次元情報を高精度に取得できる。本実施形態の2次元分光法及び2次元分光装置1Cによれば、1次元の波長情報を、単一の波長や色ではなく、スペクトルすなわち波長依存性を有する強度分布として取得できる。したがって、2次元分光装置1Cをターゲット波長域に依存しないハイパースペクトルカメラのように作動させることができる。
【0066】
本実施形態の2次元分光装置1A,1B,1Cによれば、高解像度及び高分解能の2次元分光を可能とし、上述の2次元分光法と同様の効果が得られる。
【0067】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上述の特定の実施形態に限定されない。本発明は、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、変更可能である。
【0068】
例えば、本発明の2次元分光法に用いるチャープ光パルス列は、上述の実施形態で説明したように光周波数コムによって生成されるものに限定されない。上述の実施形態では、分割光パルス列(第1の光パルス列及び第2の光パルス列)DP1,DP2の両方がチャープされ、互いにチャープ量が異なるものであったが、本発明では、第1の光パルス列及び第2の光パルス列の少なくとも一方がチャープされていてもよい。すなわち、第1の光パルス列及び第2の光パルス列の何れか一方のみがチャープフリーであっても構わない。
【0069】
また、上述の実施形態では、被測定物体Sにおいて分割光パルス列DP1の進行方向の最も手前側の表面から反射した受光対象光パルス列EPのみを考慮している。そのため、図5の<B>のグラフに示すように、干渉信号IMGには、波長軸上の縞間隔が最も広い干渉縞が1つだけ現れる。つまり、干渉信号IMGには、干渉縞周波数が最も低い波長を1つだけ示す干渉縞が現れる。しかしながら、被測定物体Sにおいて分割光パルス列DP1の進行方向の最も手前側の表面に加えて、例えば被測定物体Sの厚み方向の内部からも受光対象光パルス列EPが反射される場合、複数の干渉信号IMGが得られる。つまり、被測定物体Sの厚み方向において受光対象光パルス列EPが反射される位置の数と同数の干渉信号IMGを取得できる。これらの複数の干渉信号IMGによって、受光対象光パルス列EPが反射される各位置について、干渉縞周波数が最も低い波長の情報が得られる。これらの複数の波長に基づいて、被測定物体Sの断層像が得られる。
【0070】
被測定物体Sの断層像を得るためには、被測定物体Sとして、厚み方向に、光パルス列APの少なくとも一部を透過して受光対象光パルス列EPを反射可能な部分を有する物体を配置する。
上述の実施形態の2次元分光装置1A、1B、1Cにおける被測定物体Sとして、光源3から出射される光パルス列APの波長帯において透過性を有する被測定物体Sを配置するだけで、被測定物体Sの断層像の計測が可能となる。
【符号の説明】
【0071】
1A,1B,1C・・・2次元分光装置
AP・・・光パルス列
DP1,DP2・・・分割光パルス列
EP・・・受光対象光パルス列
MP1,MP2・・・合成光パルス列
S・・・被測定物体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C