(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】カルコブトロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 257/02 20060101AFI20230502BHJP
C07F 3/04 20060101ALN20230502BHJP
【FI】
C07D257/02
C07F3/04
(21)【出願番号】P 2021538471
(86)(22)【出願日】2019-11-20
(86)【国際出願番号】 KR2019015962
(87)【国際公開番号】W WO2020141723
(87)【国際公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-08-02
(31)【優先権主張番号】10-2019-0000085
(32)【優先日】2019-01-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521286330
【氏名又は名称】トンク・ライフ・サイエンス・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】DONGKOOK LIFE SCIENCE CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】クォン,ヒョクチョル
(72)【発明者】
【氏名】キム,キョンジュン
(72)【発明者】
【氏名】ムン,ボヒョン
(72)【発明者】
【氏名】イム,デソン
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-538770(JP,A)
【文献】特表2017-530971(JP,A)
【文献】Inorganic Chemistry,1997年12月17日,Vol.36,No.26,p6086-6093,doi:10.1021/ic970123t
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイクレン(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン)と4,4-ジメチル-3,5,8-トリオキサビシクロ[5,1,0]オクタンとを反応させて、3-(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1-イル)ブタン-1,2,4-トリオールを得、これを次にハロ酢酸と反応させてクルードブトロールを製造する第1ステップと、
イオン交換樹脂を用いて前記クルードブトロールを1次精製する第2ステップと、
1次精製されたクルードブトロールを結晶化により2次精製する第3ステップと、
を含む、純度99%以上のブトロール(2、2’,2”-(10-((2R,3S)-1,3,4-トリヒドロキシブタン-2-イル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリイル)トリ酢酸)を得る製造方法
であって、
前記第3ステップは、結晶化溶媒として、含水率20%以上(v/v)のメタノール水溶液を用いて行われる、
製造方法。
【請求項2】
第2ステップが、陰イオン交換樹脂及び陽イオン交換樹脂を併用して行われる請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記陰イオン交換樹脂が、第4級アンモニウム、第3級アンモニウム、第3級アミン、第2級アミン、及び第1級アミンからなる群より選択され、前記陽イオン交換樹脂が、スルホン酸基及びカルボキシル基からなる群より選択される請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
ハロ酢酸が、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、及びヨード酢酸からなる群より選択される請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
結晶化前のpHが3.5~4.5である請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項
1記載の製造方法により得られたブトロールと、炭酸カルシウムとを反応させることによりカルコブトロールを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低純度ブトロールの効率的な精製方法により99%を超える純度の高純度ブトロールを製造し、高純度ブトロールを用いて高純度のカルコブトロールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガドブトロール(Gadobutrol)は、核スピン断層撮影のためのガドリニウム(Gadolinium)含有造影剤であり、ガドリニウム含有MRI造影剤(contrast agent)の分野において、ガドブトロールは、全世界的にガドビスト(Gadovist)またはガダビスト(Gadavist)という商品名で市販されている。
【0003】
ガドブトロールを含む殆どのガドリニウム含有造影剤の場合、製剤中に過大量の錯体形成リガンドをカルシウム錯体の形で適用するのが有利であることが明らかになった。カルシウム錯体の役割は、(例えば、ガラスに由来する外来イオンとの再錯体化を用いた数年間の貯蔵によって)製剤中の遊離ガドリニウムの放出を防止することである。
【0004】
すなわち、ガドビストにおいてカルコブトロールはガドブトロール(Gadobutrol )のガレノス製剤での添加剤であり、前記製剤(溶液)中の遊離ガドリニウムの放出を防止する重要な剤として使用される。
【0005】
カルコブトロールの合成方法は、文献(Inorg.Chem.1997,36,6086-6093)に詳細に記述されているが、94%の純度を有する物質をもたらすことが知られている。
【0006】
韓国登録特許第10-1057939号公報では、ブトロール(リガンド)は、極性の違い又は水素結合形成能力によりいかなるpHにおいても結晶化により精製できないと記載している。また、様々な比較例を通じてブトロールの結晶化を試みたが、結晶を生成できなかったと記載している。さらに、カルコブトロールをイオン交換カラムやPrep.HPLCを介しても精製できないと説明している。
【0007】
これにより、上記特許では、純粋なカルコブトロールを得るためには、
図1に示すように、純粋なガドブトロールを合成し、脱錯体化反応を進め、そしてカルコブトロールを結晶化することにより、高純度のカルコブトロールを合成しなければならないと記載している。
【0008】
しかし、
図1に示す製造方法は、ブトロールから純粋なガドブトロールを製造し、再びブトロールを合成するので、非常に長いステップのプロセスのため経済的ではない。また、その製造方法は、脱錯体化反応時に発生する毒性の強いガドリニウム不純物がガドブトロール中に存在し得るという点で好ましくない。
【0009】
韓国登録特許第10-1693400号公報では、純度98%のブトロールを合成し、比較的純粋なブトロールを用いて純度99.5%のカルコブトロールを合成している。この特許の核心は、
図2に示すように、ブトロール-エステルを結晶化により精製して純度99.7%の中間体を合成することにより、ブトロール純度を確保することができることにある。
【0010】
しかし、上記方法もまた、高純度のブトロールを合成するためには、高純度のブトロール-エステルを合成して加水分解する工程をさらに行う必要があるという欠点がある。そのため、より簡便な製造方法で低純度のブトロールを精製して高純度のブトロールを得る方法が必要であり、高純度のブトロールを用いて高純度のカルコブトロールを製造する方法が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】韓国登録特許第10-1057939号
【文献】韓国登録特許第10-1693400号
【非特許文献】
【0012】
【文献】Inorg.Chem.1997,36,6086-6093
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、簡単な製造方法によりブトロールを製造した後、精製工程を経て高純度のブトロールを製造し、そして高純度のブトロールを用いて高純度のカルコブトロールを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、純度約65%のブトロールを精製して純度99%以上の高純度のブトロールを得る方法を提供し、そしてこのような高純度のブトロールを用いて高純度のカルコブトロールを製造する方法を提供する。
【0015】
純度94%以下のブトロールは、一般的な方法では結晶化による精製を行うことができないことが知られている。また、純度約65%のクルード(Crude)ブトロールの精製により高純度のブトロールを得ることは非常に困難である。本発明者らは、驚くべきことに、純度65%のブトロールをイオン交換樹脂及び結晶化方法により精製する場合、純度99%以上のブトロールを効率的に合成できるという知見を得て本発明に至った。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、ガドブトロールの脱錯体化工程を含まないため、有毒なガドリニウムを処理する工程がなく、不純物として発生する可能性のあるガドリニウムを生成しない。また、本発明によれば、イオン交換樹脂と結晶化方法を用いる比較的簡単な精製工程により高純度のブトロールを得ることができる。本発明は、このように精製された高純度のブトロールを用いて追加精製工程なしに高純度のカルコブトロールを製造することができるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】従来技術によるカルコブトロールの製造方法を示す図である。
【
図2】従来技術によるカルコブトロールの製造方法を示す図である。
【
図3】本発明によりサイクレンからブトロールを製造する方法を示す図である。
【
図4】クルードブトロールに対するHPLC分析データを示す図である。
【
図5】クルードブトロールの1次精製後のHPLC分析データを示す図である。
【
図6】クルードブトロールの追加精製後のHPLC分析データを示す図である。
【
図7】クルードブトロールの追加結晶化後のHPLC分析データを示す図である。
【
図9】プロトンNMRによる元素分析の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
出発物質のサイクレン(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン)と4,4-ジメチル-3,5,8-トリオキサビシクロ[5,1,0]オクタンとを反応させ、反応物に塩酸を添加してから、これを還流させ真空濃縮し、そして濃縮物にエタノールを添加して、トリオール-4塩酸塩(3-(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1-イル)ブタン-1,2,4-トリオール-4塩酸塩)を得る。トリオール-4塩酸塩を、塩基条件下で、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、及びヨード酢酸からなる群より選択されるハロ酢酸と反応させてブトロールを合成し、そして、反応物のpHを調整して濃縮し、メタノールでスラリーにして、余分な塩を取り除く。濾過されたメタノールを濃縮し、濃縮物を逆浸透(RO)装置に通してさらに塩を取り除くか、又は陽イオン樹脂に吸着してアンモニア水で溶出した後、濃縮して純度約65%のクルードブトロールを得ることができる。(スキーム1(
図3)、及びHPLCデータ1(
図4))
【0019】
クルードブトロールを、陰イオン交換樹脂及び陽イオン交換樹脂を用いる1次精製工程に供し、純度85%のブトロールを得る。その後、メタノール水溶液を結晶化溶媒として用いる結晶化により、高純度のブトロールが得られる(HPLCデータ2(
図5)、及びデータ3(
図6))
【0020】
得られた高純度のブトロールの追加の結晶化を行うと、より高純度のブトロールが得られる(
図7参照)。
【0021】
このように、上述した結晶化工程において結晶化が可能であり、精製が容易である。種晶を使用すると、結晶化速度を速めることができる。
【0022】
好ましい結晶化溶媒は、含水率20%以上(v/v)のメタノールであり、最も好ましい結晶化溶媒は、含水率20%~50%のメタノールである。含水率10%以内では、特定の不純物が容易に除去されない。
【0023】
上記の方法で製造されたブトロールは非常に高品質であることを特徴とし、高純度のブトロールを用いて高純度のカルコブトロールを効率よく製造することができる。したがって、本発明の製造方法は、製造工程の簡素化による経済的な製造方法であり、環境に優しい製造方法である。上記精製工程は、極めて低い純度のブトロールを精製することによって、高純度のブトロールを合成することができる工程である。
【0024】
以下、実施例について説明するが、本発明の範囲は実施例により限定されるものではない。
【0025】
HPLC分析条件
HPLCカラム-ODSハイパーシル、3μm、125×4.6mm
移動相A:2.0gのオクタンスルホン酸ナトリウム塩一水和物を精製水に溶解させ、硫酸を使用してpHを2に調整することにより得られる。
移動相B:アセトニトリル
流速:1.0ml/分
UV検出波長:197nm
サンプル濃度:移動相Aに7mg/1mlを溶解させてから測定する。
注入バッファー:10μl
移動相条件:
図8
【0026】
実施例1.クルード(Crude)ブトロール(2,2’,2”-(10-((2R,3S)-1,3,4-トリヒドロキシブタン-2-イル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリイル)トリ酢酸)の製造
サイクレン(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン)100gを精製水500mlに溶解させ、40~45℃に昇温し、そこに4,4-ジメチル-3,5,8-トリオキサビシクロ[5,1,0]オクタン84gをゆっくりと滴下した。24時間反応させた後、反応液に塩酸408mlを滴下し、続いて75℃で2時間撹拌した。反応液を真空濃縮し、そこにエタノール500mlを加えた。得られた溶液を還流下で攪拌し、冷却して生成された結晶を濾過した。
【0027】
生成された結晶を精製水500mlに溶解させ、そこにクロロ酢酸170gを添加した。得られた溶液を、45%NaOHを用いてpH9~10に調整し、70℃に昇温し、そして、pHを9~10に維持しつつ12時間撹拌した。
【0028】
冷却後、反応液を、HClを使用してpH5に調整し、濃縮した。濃縮物にメタノール800mlを添加してから、これを60℃で1時間攪拌後、40~50℃で濾過した。
【0029】
濾液を濃縮し、精製水500mlに溶解させて、陽イオン樹脂IR-120 1000mlに吸着させた。
【0030】
アンモニア水4Lで樹脂を洗浄して溶出させ、濃縮した。
【0031】
実施例2.ブトロール(2,2’,2”-(10-((2R,3S)-1,3,4-トリヒドロキシブタン-2-イル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリイル)トリ酢酸)の精製
濃縮されたブトロールを精製水500mlに溶解させ、陰イオンIRA-67 100mlと陽イオンIR-120 100mlとの混合物を含有するカラムに通液させた。通液されて出てきたブトロール溶出液を、その混合物を含有するカラムに再循環させ、そして、この作業を数回繰り返した。樹脂を洗浄し、溶出液と洗浄液を合わせ、陽イオンでpH3.5~4.5に調整し、濾過した後に濃縮した。濃縮物に精製水100mlを添加してから、これを80℃に昇温して完全に溶解させた後、そこにメタノール500mlを添加した。得られた溶液を徐々に室温まで冷却し、少量のシーディング(seeding)を行った。2日間攪拌した後、生成された結晶を濾過した。結晶を50℃で真空乾燥させてブトロール90gを得た(サイクレンからの総収率34.4%、純度94%)。
【0032】
生成された結晶を精製水360mlに溶解させ、そこにメタノール900mlを添加し、続いて2日間撹拌した。生成された結晶を濾過し、50℃で真空乾燥させてブトロール68gを得た(結晶化収率80%、純度99.5%以上)。
【0033】
ブトロール結晶の純度が99.5%以下であるか、不純物が除去されない場合は、さらに結晶化を行う。
【0034】
1H-NMR(D
2O,400MHz):3.1~3.9(m,28H)
[元素分析]
図9
【0035】
実施例3.カルコブトロールの製造
実施例2で製造された高純度のブトロール(純度99.5%以上)10gを精製水100mlに溶解させ、そこにCaCO32.22gを添加した。混合物を室温で1時間攪拌し、0.2μmフィルターで濾過濃縮した後、凍結乾燥させてカルコブトロール10.7gを得た(収率99%、純度99.5%以上)。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によるカルコブトロールの製造方法は、比較的簡単な工程で高純度のカルコブトロールを製造できるので、製薬業界で医薬品の製造に利用可能である。