(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】電気自動車用のモジュール式レンジエクステンダシステム、及びレンジエクステンダを有する電気自動車
(51)【国際特許分類】
B60L 50/75 20190101AFI20230502BHJP
B60L 50/72 20190101ALI20230502BHJP
B60L 58/40 20190101ALI20230502BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20230502BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20230502BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20230502BHJP
H01M 8/2465 20160101ALI20230502BHJP
H01M 8/249 20160101ALI20230502BHJP
B60K 8/00 20060101ALN20230502BHJP
【FI】
B60L50/75
B60L50/72
B60L58/40
H01M8/00 A
H01M8/00 Z
H01M8/04 Z
H01M8/04858
H01M8/2465
H01M8/249
B60K8/00
(21)【出願番号】P 2021561054
(86)(22)【出願日】2020-04-16
(86)【国際出願番号】 EP2020060718
(87)【国際公開番号】W WO2020212498
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-11-24
(31)【優先権主張番号】102019110317.7
(32)【優先日】2019-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521450584
【氏名又は名称】スタック ハイドロゲン ソルーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダニー,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】プロテ,ジャン-フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー,ヴァルデマール
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2002/025761(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/221471(WO,A1)
【文献】特開2001-102074(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第10314360(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-58/40
B60W 10/00-20/50
H01M 8/00- 8/2495
B60K 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気自動車(52)用のモジュール式レンジエクステンダシステム(20)であって、
直列に接続された複数の燃料電池と、水素及び空気の供給並びに水及び残留ガスの排出のためのインタフェースとをそれぞれ有する、複数の燃料電池基本モジュール(10)と、
前記インタフェースを介して前記燃料電池基本モジュール(10)に空気及び水素を供給するとともに前記インタフェースを介して前記燃料電池基本モジュール(10)から水及び残留ガスを排出するように設計された、媒体供給装置と、
を備え、
異なる出力を供給するために、異なる数の燃料電池基本モジュール(10)が、異なる並列回路の形で相互に電気的に接続可能であり、及び/又は、異なる数の燃料電池基本モジュール(10)が、異なる電圧を供給するために、異なる直列回路の形で相互に電気的に接続可能であり、レンジエクステンダ(22)のそれぞれの変形形態を形成するように前記媒体供給装置を用いて構成可能で
あり、
前記燃料電池基本モジュール(10)は、前記燃料電池基本モジュール(10)の両端に配置されて間に前記それぞれの燃料電池が配置された第1のエンドプレート(14)及び第2のエンドプレート(16)をそれぞれ有し、前記第1のエンドプレート(14)のみが、空気及び水素の供給並びに水の排出のためのインタフェースを有し、
前記燃料電池基本モジュール(10)内で、前記燃料電池は、相互に隣接して配置され、かつ相互に直列に電気的に接続された、空気、水素、水、及び残留ガスのための共通のU字形の媒体ガイド(36)を有する2つのセルスタック(32、34)内に位置しており、各基本モジュールの前記第2のエンドプレート(16)は、前記セルスタック(32、34)のうちの一方のセルスタックから他方のセルスタックへの前記媒体ガイド(36)の方向転換部(38)を有する、
モジュール式レンジエクステンダシステム(20)。
【請求項2】
前記燃料電池基本モジュール(10)は全て、同一の部品構造を有する、
請求項1に記載のモジュール式レンジエクステンダシステム(20)。
【請求項3】
前記燃料電池基本モジュール(10)は独自の制御装置を有し、前記制御装置は、前記レンジエクステンダ(22)のそれぞれの変形形態の共通のハードウェア上で実行可能である、
請求項1又は2に記載のモジュール式レンジエクステンダシステム(20)。
【請求項4】
前記燃料電池基本モジュール(10)は、それぞれ2~8kWの範囲の出力を供給するように設計されている、
請求項1から3のいずれか一項に記載のモジュール式レンジエクステンダシステム(20)。
【請求項5】
各燃料電池基本モジュール(10)用の前記媒体供給装置は、空気を供給するための別個の空気圧縮機(18)を有する、
請求項1から4のいずれか一項に記載のモジュール式レンジエクステンダシステム(20)。
【請求項6】
前記媒体供給装置は、前記燃料電池基本モジュール(10)に空気及び水素を供給するとともに前記燃料電池基本モジュール(10)から水及び残留ガスを排出するための中央媒体供給チャネル(30)を有し、前記燃料電池基本モジュール(10)は、
前記中央媒体供給チャネル(30)の左右で前記媒体供給チャネルに結合可能である、
請求項1から
5のいずれか一項に記載のモジュール式レンジエクステンダシステム(20)。
【請求項7】
電気自動車(52)の車両電気システムのための回路装置(40)であって、
請求項1から
6のいずれか一項に記載のモジュール式レンジエクステンダシステム(20)に基づくレンジエクステンダ(22)の所定の変形形態と、
前記電気自動車(52)の電気駆動機(44)にエネルギーを供給するための高電圧バッテリ(42)と、
を備え、
前記高電圧バッテリ(42)及び前記レンジエクステンダ(22)は、DC電圧変換器を介在させずに並列回路の形で相互接続され、前記レンジエクステンダ(22)は、前記高電圧バッテリ(42)を充電するように設計されており、
前記回路装置(40)はさらに、
前記レンジエクステンダ(22)と前記高電圧バッテリ(42)との間の導電接続を確立及び切断するためのスイッチング装置(48)
を備える、
回路装置(40)。
【請求項8】
請求項
7に記載の回路装置(40)を備える電気自動車(2)。
【請求項9】
前記燃料電池基本モジュール(10)に空気を供給するための前記レンジエクステンダ(22)のそれぞれの空気圧縮機(18)が、
前記電気自動車(52)内の
関連する前記燃料電池基本モジュール(10)以外の位置に配置されている、
請求項
8に記載の電気自動車(52)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車(elektrisch angetriebenes Kraftfahrzeug、電気駆動の自動車)用のモジュール式レンジエクステンダシステム、モジュール式レンジエクステンダシステムのレンジエクステンダの所定の変形形態を有する電気自動車の車両電気システム用の回路装置(Schaltungsanordnung、回路構成)、並びにこの種の回路装置を有する電気自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車は、高電圧バッテリの電流エネルギー密度のために、航続距離が依然として比較的限られていることが多い。航続距離を延長するために、電気自動車にいわゆるレンジエクステンダを使用することが知られている。現在最も多く使用されているレンジエクステンダは、内燃機関を有し、内燃機関は発電機を駆動し、発電機は、高電圧バッテリ及び/又は電気駆動機の電気モータに電力を供給する。
【0003】
さらに、多数の燃料電池を有するレンジエクステンダも知られている。そのようなレンジエクステンダの利点としては、水素と酸素とが通常は反応して水を形成するために、実質的にエミッションフリーであることが挙げられる。通常、燃料電池に基づくそのようなレンジエクステンダは、燃料電池に圧縮空気を供給するために1つ以上の圧縮機を必要とする。圧縮機は、比較的複雑な方法で各レンジエクステンダに適合させる必要がある。さらに、燃料電池に基づくそのようなレンジエクステンダと高電圧バッテリとの電気的な相互接続は、比較的高価である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明は、燃料電池に基づくレンジエクステンダを様々な境界条件に特に容易に適合させることができる解決策を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、独立請求項の主題によって解決される。本発明のさらなる実施形態は、従属請求項に示されている。
【0006】
電気自動車用の本発明によるモジュール式レンジエクステンダシステムは、直列に接続された複数の燃料電池と、水素及び空気の供給並びに水及び残留ガスの排出のためのインタフェースとを各々が有する複数の燃料電池基本モジュールを備える。さらに、モジュール式レンジエクステンダシステムは、インタフェースを介して燃料電池基本モジュールに空気及び水素を供給するとともにインタフェースを介して燃料電池基本モジュールから水及び残留ガスを排出するように設計された媒体供給装置を備える。異なる出力及び/又は電圧を供給するために、異なる数の燃料電池基本モジュールが、異なる直列回路及び/又は並列回路の形で相互に電気的に接続可能であり、レンジエクステンダのそれぞれの変形形態を形成するように媒体供給装置を用いて構成可能である。
【0007】
モジュール式レンジエクステンダシステムでは、個々の燃料電池基本モジュールを、レンジエクステンダのシステム全体、したがって特定の変形形態を形成するために、所望の対応する組み合わせによって適用事例ごとにスケーリング可能であることが不可欠である。各燃料電池基本モジュールの対応する並列回路及び直列回路を使用して、例えば供給可能な電力は異なるが、例えば同じ高電圧を供給可能であるなどの、レンジエクステンダの異なる変形形態を構成することができる。当然ながら、燃料電池基本モジュールは、レンジエクステンダの異なる変形形態では供給可能な電圧が異なるように相互接続可能であってもよい。
【0008】
燃料電池基本モジュールはまた、これらの燃料電池基本モジュールの高度に独立した機能のためにそれぞれの燃料電池基本モジュールに統合される多種多様な周辺部品及びシステム部品を含むことができる。特に、それぞれの境界条件に対応するように適合された構成においては、レンジエクステンダの関連する変形形態の特に高い耐用寿命及び効率を実現することが可能である。これは、とりわけ、境界条件に適合した設計を、レンジエクステンダの関連する変形形態の所定の動作位置で達成することができるという点で可能である。特に、部分負荷範囲に対するレンジエクステンダのそれぞれの変形形態を設計することも可能である。
【0009】
特に、本発明のモジュール式レンジエクステンダシステムにより、それぞれの境界条件に適合したレンジエクステンダの変形形態を、比較的安価に製造できる燃料電池基本モジュールに基づいて構成することが可能である。したがって、燃料電池基本モジュールに基づいて、出力及び電圧レベルが必要に応じて実質的に異なり得る、レンジエクステンダの異なる変形形態を構成及び構築することが可能である。
【0010】
各燃料電池基本モジュールは、例えば、約100cm2の反応性表面及び約80個の燃料電池を有することができる。もちろん、バイポーラプレートの枚数や表面、燃料電池の数を異ならせることも可能である。燃料電池基本モジュールごとに直列に接続された燃料電池は、例えば、80Vの開回路電圧及び48Vの全負荷運転時電圧を供給することができる。しかしながら、燃料電池基本モジュールの設計に応じて、他の開回路電圧及び他の動作点も可能である。
【0011】
モジュール式レンジエクステンダシステムでは、例えば、燃料電池に基づくレンジエクステンダの全く異なる変形形態を全く異なる車両タイプ用に構成することが可能である。したがって、例えば、レンジエクステンダの特に高出力の変形形態を電動ユーティリティビークル用に提供することができ、また例えば、レンジエクステンダの比較的低出力の変形形態を、同じ燃料電池基本モジュールに基づいて電動小型自動車用に構成することも可能である。各燃料電池基本モジュールは、開発、試験、及び発売を一回行うだけでよい。その後、レンジエクステンダの上述の異なる変形形態を、好適に標準化された燃料電池基本モジュールに基づいて構成することができる。
【0012】
特に、モジュール式レンジエクステンダシステムでは、DC電圧変換器を介在させずに電気自動車の高電圧バッテリに並列に接続することができる、特定の電気自動車用の燃料電池に基づくレンジエクステンダを構成することが可能である。したがって、通常はかなり高価であるDC電圧変換器を不要とすることができる。実際、モジュール式レンジエクステンダシステムに基づいて対応的に構成されたレンジエクステンダの電圧レベルは、各燃料電池基本モジュールを直列回路及び並列回路の形で適切に相互接続するだけで、関連する高電圧バッテリの電圧レベルにきわめて容易に適合させることができる。
【0013】
本発明の一実施形態では、燃料電池基本モジュールは全て、同一の部品構造を有する。特に、燃料電池基本モジュールが全て同じ寸法を有することも可能である。したがって、全ての燃料電池基本モジュールを同一の好適に標準化された部品から構成することにより、特に費用効果の高い方法での大量生産が可能である。
【0014】
本発明のさらなる一実施形態では、燃料電池基本モジュールが独自の制御装置を有し、この制御装置は、レンジエクステンダのそれぞれの変形形態の共通ハードウェア上で実行可能である。このことは特に、制御装置のソフトウェアが、必ずしもそれぞれの燃料電池基本モジュールに関連するハードウェア上で実行される必要はなく、むしろ、例えば主制御装置内のサブルーチンとしてなど、レンジエクステンダの制御ユニット上のソフトウェアとして実行され得ることを意味すると理解されるべきである。このことは、各燃料電池基本モジュールに対応する制御ハードウェアを維持する必要がないという利点を有する。したがって、この独自の制御装置はソフトウェアとして理解することができる。したがって、燃料電池基本モジュールは、例えば故障の場合に、交換モジュール、すなわちこれまで取り付けられていなかった別の燃料電池基本モジュールときわめて容易に交換することができる。この目的のために、燃料電池基本モードを制御するための制御装置、センサシステム及び/又はソフトウェア、あるいはより上位レベルのシステム全体のソフトウェア、したがって関連するレンジエクステンダの変形形態を変更又は適合する必要はない。
【0015】
本発明のさらなる一実施形態では、燃料電池基本モジュールが、それぞれ2~8kWの範囲の出力を供給するように設計されている。出力は、燃料電池基本モジュールの同じ反応面に対して、燃料電池基本モジュール内に設けられた膜電極ユニットの特性に応じて異なり得る。これは、全ての燃料電池基本モジュールが少なくとも実質的に全く同一の出力を供給することを目的としたものである。結果として、個々の燃料電池基本モジュールに基づくレンジエクステンダの異なる変形形態は、これらの燃料電池基本モジュールが少なくとも実質的に同じ出力を供給するため、スケーリング又は構成がきわめて単純である。好ましくは、燃料電池基本モジュールは全て、電圧も同じである。
【0016】
本発明のさらなる一実施形態によれば、各燃料電池基本モジュールの媒体供給装置は、空気を供給するための別個の空気圧縮機を有する。特に、燃料電池基本モジュールが全て同一に設計されている場合、又は全て同一の構造を有する場合、全ての燃料電池基本モジュールに対して全く同じ空気圧縮機を使用することもできる。しかしながら、特に、それぞれの燃料電池基本モジュールに合った適切な空気圧縮機を設けることが可能であり、この空気圧縮機は、それぞれの燃料電池基本モジュールの条件に適合される。空気圧縮機に関して、レンジエクステンダの特定の変形形態のための空気圧縮システムを特に容易に構成し組み立てることができる。実際、特定の変形形態では、相互接続する必要のある燃料電池基本モジュールと同じ数の空気圧縮機を設けるだけでよい。したがって、レンジエクステンダの異なる変形形態のための空気圧縮装置の複雑かつ新規な個別の設計が不要である。
【0017】
本発明のさらなる一実施形態では、媒体供給装置が、燃料電池基本モジュールに空気及び水素を供給するとともに燃料電池基本モジュールから水、残留ガス及び空気を排出する中央媒体供給チャネルを有し、燃料電池基本モジュールは、この媒体供給チャネルの左右でこの媒体供給チャネルに結合可能である。空気に加えて、残留ガスは未使用又は未反応の水素を含む。この標準化された構造により、燃料電池基本モジュールの構成が大きく異なる場合であっても、燃料電池基本モジュールを媒体供給チャネルに容易に接続することができる。媒体供給チャネルは、この目的のために標準化されたインタフェースを有し、この標準化されたインタフェースは、それぞれの燃料電池基本モジュールの同様に標準化されたインタフェースと相互作用することができる。したがって、それぞれの燃料電池基本モジュールを媒体供給チャネルの左右でこの媒体供給チャネルにきわめて容易に結合することが可能である。モジュール式レンジエクステンダシステムは、例えば、異なるハウジングの1つ又は複数の変形形態を有することができ、中央媒体供給チャネルをこれらのハウジング内に統合することができる。関連するレンジエクステンダの構成された変形形態に応じて、関連する媒体供給部を有する適切なハウジング変形形態を選択することができる。その場合、各燃料電池基本モジュールを関連する媒体供給チャネルに接続するだけでよい。
【0018】
本発明のさらなる一実施形態によれば、基本モジュールが、燃料電池基本モジュールの両端に配置されて間にそれぞれの燃料電池が配置された第1のエンドプレート及び第2のエンドプレートをそれぞれ有し、第1のエンドプレートのみが、空気及び水素の供給並びに水、残留ガス及び空気の排出のためのインタフェースを有する。これにより、構成されたレンジエクステンダの関連する変形形態の特にコンパクトな設計が可能になる。加えて、それぞれの燃料電池基本モジュール上の全てのインタフェースは、第1のエンドプレートのみに組み込まれるため、比較的小さく保つことができる。
【0019】
本発明のさらなる一実施形態では、燃料電池基本モジュール内で、燃料電池は、相互に隣接して配置され、かつ相互に直列に電気的に接続された、空気、水素、水、及び残留ガスのための共通のU字形の媒体ガイドを有する2つのセルスタック内に位置しており、各基本モジュールの第2のエンドプレートは、一方のセルスタックから他方のセルスタックへの媒体ガイドの方向転換部を有する。相互に隣接して配置された2つのセルスタック及びU字形の媒体ガイドによって、各燃料電池基本モジュールを特にコンパクトかつ平坦に設計することができる。このコンパクトで特に短い設計により、機械的負荷、特に振動に対する比較的良好な堅牢性がもたらされる。また、積み重ねられた燃料電池の数が少ないほど、したがって短い設計であるほど公差の影響が少なくなるため、短くコンパクトな設計によって製造がより容易となる。さらに、燃料電池基本モジュールの高度に自動化された製造も実現することができる。
【0020】
電気自動車の車両電気システムのための本発明の回路装置は、本発明のモジュール式レンジエクステンダシステム又は本発明のモジュール式レンジエクステンダシステムの一実施形態に基づくレンジエクステンダの所定の変形形態と、自動車の電気駆動機にエネルギーを供給するための高電圧バッテリとを含み、高電圧バッテリ及びレンジエクステンダは、DC電圧変換器を介在させずに並列回路の形で相互接続され、レンジエクステンダは、高電圧バッテリを充電するように設計されている。さらに、回路構成は、レンジエクステンダと高電圧バッテリとの間の導電接続を確立及び切断するスイッチング装置を含む。本発明による回路構成は、これ以外の通常の場合には必要とされる比較的高価な部品であるDC電圧変換器を省くことができるという特段の利点を有する。それにより、レンジエクステンダの変形形態は、一方では高電圧バッテリを問題なく充電することができ、他方では、レンジエクステンダが接続又はスイッチオンされたときに損傷を受けないように、特にレンジエクステンダのそれぞれの膜が損傷を受けないように動作可能であるように設計される。このようなスイッチング装置は、例えば、MOSFET、トランジスタ、又は機械的リレーであってもよく、還流ダイオードを安全要素として設けることもできる。
【0021】
本発明による電気自動車は、本発明による回路構成又は回路構成の一実施形態を含む。
【0022】
電気自動車の一実施形態では、燃料電池基本モジュールに空気を供給するためのレンジエクステンダのそれぞれの空気圧縮機が、自動車内の関連する燃料電池基本モジュール以外の位置に配置されている。したがって、空気圧縮機は、それぞれの燃料電池基本モジュールに割り当てることができるが、燃料電池基本モジュール上に直接にローカルに配置される必要はない。このことは、既存の設置スペース又は既存の設置スペースの利用に関して非常に有利な効果を有し得る。それぞれの空気圧縮機は、電気自動車内の適切な位置、特に空気圧縮機が十分な空間を有し、周囲空気を可能な限り良好に吸い込むことができる位置に正確に、個別に又はグループで組み合わせて配置することができる。この場合、燃料電池基本モジュールを、例えば、自動車内の特に衝突の場合に有利であると同時に、例えば自動車の低重心に対してもプラスの効果を有する位置に組み合わせて配置することができる。
【0023】
本発明のさらなる利点、特徴及び実施形態は、以下の図によって説明される。説明において上述した特徴及び特徴の組み合わせ、並びに図面の説明及び/又は図面において以下に単独で示される特徴及び特徴の組み合わせは、それぞれ示される組み合わせだけでなく、他の組み合わせ又は単独でも、本発明の範囲を逸脱することなく使用することができる。
図面において、同一又は機能的に同一の要素には同じ参照符号が付されている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】直列に接続された複数の燃料電池を有し、空気を供給するための圧縮機が割り当てられた燃料電池基本モジュールの概略斜視図である。
【
図2】組み合わされたグループが直列に接続され、これらのグループの一部が相互に並列に接続された、複数の燃料電池基本モジュールの概略図である。
【
図3】個々の燃料電池基本モジュールに基づいて構成されたレンジエクステンダの一変形形態の概略上面図である。
【
図4】U字形の媒体ガイドが概略的に示されている、燃料電池基本モジュールのうちの1つの上面図である。
【
図5】レンジエクステンダの変形形態と高電圧バッテリとの並列回路を含む、電気自動車の車両電気システムのための回路構成の高度に概略化された表現である。
【
図6】燃料電池基本モジュールから構成されるレンジエクステンダの変形形態を有する電気自動車の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1に、燃料電池基本モジュール10を高度に概略化された斜視図で示す。燃料電池基本モジュール10は、直列に接続された複数の燃料電池のスタックとも呼ばれるスタック12を備えるが、これ以上詳細には説明しない。燃料電池は、それぞれのバイポーラプレート及びそれぞれのいわゆる膜電極ユニットを備える。燃料電池基本モジュール10は、スタック12が間に配置された第1のエンドプレート14及び第2のエンドプレート16をさらに備える。
【0026】
さらに、燃料電池基本モジュール10は、水素及び空気の供給並びに水及び残留ガスの排出のための、本明細書に示されていない複数のインタフェースを備える。これにより、第1のプレート14のみが、全てのインタフェースを有する一種のプラグアンドプレイフロントエンドを形成することができる。さらに、空気、したがって酸素を個々の燃料電池に搬送するために使用される圧縮機18が、燃料電池基本モジュール10に付随している。本図とは異なるが、圧縮機18を燃料電池基本モジュール10上に直接配置する必要はない。代わりに、圧縮機18を、関連する自動車への設置の際に燃料電池基本モジュール10とは全く異なる位置に配置してもよい。圧縮機18が、空気、したがって酸素を、対応する導管又は配管によって燃料電池基本モジュール10に搬送することができればよい。
【0027】
図2に、複数の燃料電池基本モジュール10を示す。異なる出力及び/又は電圧を供給するために、異なる数の燃料電池基本モジュール10が、異なる直列回路及び/又は並列回路の形で相互に電気的に接続されてもよく、レンジエクステンダのそれぞれの変形形態を形成するように、本明細書には示されていない媒体供給装置を用いて構成されてもよい。本明細書には示されていないそのような媒体供給装置は、それぞれの燃料電池基本モジュール10の上述のインタフェースを介して空気及び水素を供給し、インタフェースを介してそれぞれの燃料電池基本モジュール10から水及び残留ガスを排出するように設計されている。
【0028】
この例では、相互に直列に接続された燃料電池基本モジュール10のいくつかのグループ19が概略的に示されている。例えば、グループ19ごとに多数の燃料電池基本モジュール10が相互に直列に接続されており、例えば480Vの電圧及び24kWの出力が得られる。もちろん、他の相互接続も可能である。各グループ19を並列に接続することによって、電圧を一定に保ちながら、供給可能な出力を増加させることが可能である。原則として、個々の燃料電池基本モジュール10を対応的に相互接続することによって、適用事例ごとに出力を任意にスケーリングすることが可能である。
【0029】
各燃料電池基本モジュール10は、例えば、約100cm2の反応性表面及び80個の燃料電池を有することができる。他の表面及び数も可能である。したがって、例えば、それぞれの燃料電池基本モジュール10は、全負荷下で80Vの開回路電圧及び48Vの電圧を供給することができ、燃料電池基本モジュール10は、例えば、2~8kWの範囲の出力を供給するように設計することができる。特に、各燃料電池基本モジュール10内の選択された又は設置された膜電極ユニットに応じて、他の電圧及び出力も可能である。
【0030】
特に、燃料電池基本モジュール10は全て、同一の部品構造を有してもよい。したがって、燃料電池基本モジュール10は、同じ部品が随所に設置された、高度に標準化されたユニットを形成する。これにより、相応に低い購入コスト及び生産コストでスケールメリットを高めることが可能になる。したがって、上述の各燃料電池基本モジュール10及び媒体供給装置は、協働してモジュール式レンジエクステンダシステム20を形成し、境界条件又は適用事例に応じて、標準化された燃料電池基本モジュール10を多種多様な構成で相互接続することができる。燃料電池基本モジュールはそれぞれ、独自の制御装置を有することができ、この制御装置は、例えば、レンジエクステンダの特定の構成された変形形態の共通のハードウェア上で実行することができる。
【0031】
図3に、個々の燃料電池基本モジュール10に基づいて構成された、又は組み立てられたレンジエクステンダ22の一変形形態を高度に概略化された上面図で示す。単なる一例として、個々の燃料電池基本モジュール10が全て相互に直列に接続されている。このように構成されたレンジエクステンダ22の負極24及び正極26が概略的に示されている。各燃料電池基本モジュール10は、筐体28内に配置されている。前述の媒体供給装置が、それぞれの燃料電池基本モジュール10に空気及び水素を供給するとともに、それぞれの燃料電池基本モジュール10から水、残留ガス及び空気を排出するための中央媒体供給チャネル30を有する。図示するように、各燃料電池基本モジュール10は、媒体供給チャネル30の左右に配置され、媒体供給チャネル30に結合されている。この目的のために、媒体供給チャネル30は、上述の各燃料電池基本モジュール10のインタフェースと相互作用することの可能な、詳細には示されていないインタフェースを有する。
【0032】
図4に、レンジエクステンダ22内に設置された燃料電池基本モジュール10のうちの1つを概略的に上面図で示す。
図1及び
図2に示す実施形態とは異なり、燃料電池は、本明細書では詳細に説明しないが、この燃料電池基本モジュール10内で、相互に隣接して配置され、かつ直列に電気的に接続された2つのセルスタック32、34内に位置している。燃料電池基本モジュール10は、空気、水素、水及び残留ガスのための概略的にのみ示されたU字形の媒体ガイド36を有し、第2のエンドプレート16は、セルスタック34、32のうちの一方のセルスタックから他方のセルスタックへの媒体ガイドの方向転換部38を有する。第1のエンドプレート1は、本明細書では詳細に図示されていないが、空気及び水素を供給するとともに水及び残留ガスを排出するためのインタフェースのみを有する。
【0033】
この結果、燃料電池基本モジュール10の特にコンパクトな設計がもたらされる。したがって、このように設計された燃料電池基本モジュール10に基づいて構成されたレンジエクステンダ22では、特に平坦な設計及び短い設計を達成することができる。
【0034】
図5に、電気自動車の車両電気システムのための回路装置40(Schaltungsanordnung 40、回路構成40)を、より詳細には図示しないが、高度に概略的に示す。回路装置40は、上述のモジュール式レンジエクステンダシステム20に基づくレンジエクステンダ22の所定の変形形態を有する。さらに、回路装置40は、関連する自動車の電気駆動機44にエネルギーを供給するための高電圧バッテリ42を有する。電気駆動機44に関連する周波数変換器46も概略的に示されている。高電圧バッテリ42及びレンジエクステンダ22は、DC電圧変換器が介在しない並列回路の形で相互接続され、レンジエクステンダ22は、高電圧バッテリ42を充電するように設計されている。
【0035】
レンジエクステンダ22と高電圧バッテリ42との間の導電接続を確立及び切断するための回路装置48も回路装置40の一部である。スイッチング装置48は、例えば、MOSFET、トランジスタ、又は機械的リレーであってもよい。安全要素として、1つ又は複数の還流ダイオード50を設けてもよい。回路装置40がDC電圧変換器を有さないことにより、設置スペース及び対応するコストを節減することができる。対応する好適な予測的調整又は制御によって、レンジエクステンダ22がスイッチオンされても損傷を受けないようにすることができる。
【0036】
図6に、電気自動車52を高度に概略的に示す。回路装置40の一部も概略的に示されている。前述の空気圧縮機18のいくつかも概略的に示されている。空気圧縮機18は、レンジエクステンダ22の関連する又は構成された変形形態の各燃料電池基本モジュール10(図示せず)に割り当てられている。空気圧縮機18は、吸入した空気を、対応するチャネル又は導管を介して、各燃料電池基本モジュール10に搬送することができる。したがって、既に述べたように、空気圧縮機18を燃料電池基本モジュール10上に直接配置する必要がない。代わりに、空気圧縮機18を、特に空間条件がとりわけ良好であると同時に空気圧縮機18が周囲空気をとりわけ良好に吸入することができる、自動車52内の他の適切な位置に配置してもよい。
【0037】
各燃料電池基本モジュール10を、好適な車両重心及び自動車52内の他の位置における好適なパッケージングに対して配置してもよい。個々の空気圧縮機18を、例えば圧縮機モジュールの形で組み合わせてもよい。使用される空気圧縮機18の数は、レンジエクステンダ22の構成に応じて、とりわけその中に設置される燃料電池基本モジュール10の数に応じて変化し得る。したがって、空気圧縮機18の数は、燃料電池基本モジュール10の数に正確に対応する。
【符号の説明】
【0038】
10 燃料電池基本モジュール
12 直列接続された燃料電池スタック
14 第1のエンドプレート
16 第2のエンドプレート
18 空気圧縮機
19 直列接続された燃料電池基本モジュール群
20 モジュール式レンジエクステンダシステム
22 レンジエクステンダの変形形態
24 レンジエクステンダの負極
26 レンジエクステンダの正極
28 レンジエクステンダの筐体
30 中央媒体供給チャネル
32 セルスタック
34 セルスタック
36 U字形の媒体ガイド
38 媒体ガイドの方向転換部
40 回路装置
42 高電圧バッテリ
44 電気駆動機
46 周波数変換器
48 スイッチング装置
50 還流ダイオード
52 自動車