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特許7272723通気式固体培養装置及び通気式固体培養方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】通気式固体培養装置及び通気式固体培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230502BHJP
   C12M 1/36 20060101ALI20230502BHJP
   C12M 1/38 20060101ALI20230502BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20230502BHJP
   C12M 1/16 20060101ALN20230502BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12M1/36
C12M1/38 Z
C12N1/00 C
C12M1/16 103
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022187060
(22)【出願日】2022-11-24
【審査請求日】2022-11-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000223931
【氏名又は名称】株式会社フジワラテクノアート
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】狩山 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】岡本 敏宏
(72)【発明者】
【氏名】原田 年康
(72)【発明者】
【氏名】脇本 勝正
(72)【発明者】
【氏名】徳山 真好
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-014381(JP,A)
【文献】特開平11-225741(JP,A)
【文献】特開平06-000078(JP,A)
【文献】特開平08-196264(JP,A)
【文献】特開平08-131155(JP,A)
【文献】特開平09-154569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12N 1/00- 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置内に取り込んだ外気の温湿度を調整し、調整された調整空気を培養基質に通気させた後に、培養基質を通過した空気をすべて装置外に排気しながら微生物を培養する通気式固体培養装置であって、
前記通気式固体培養装置は、空気取入口、送風機、空気調節機構、培養室、空気排出口及び制御機器を備え、
前記空気調節機構は、冷却手段、加熱手段、水噴霧手段及び蒸気噴霧手段で構成されており、
前記制御機器による空気調節制御は、前記空気調節機構を構成する各手段について、調整前空気の温湿度の状態が前記調整空気の温湿度の設定値に到達するのに適した手段の組合せを、前記設定値毎に前記調整前空気の温湿度の状態に対応付けており、
前記制御機器は、前記調整空気の温湿度の前記設定値が特定されたときに、前記調整前空気の状態に基づいて、前記空気調節機構を構成する各手段のうち、前記調整前空気の温湿度を前記設定値に到達させるのに適した手段の組合せを選択し、
選択された前記手段の組合せは、前記制御機器に制御されて、前記調整前空気の温湿度を調整することを特徴とする通気式固体培養装置。
【請求項2】
前記手段の組合せが、温度調整用の加熱手段と湿度調整用の蒸気噴霧手段の組合せ、温度調整用の水噴霧手段と湿度調整用の蒸気噴霧手段の組合せ、温度調整用の冷却手段と湿度調整用の水噴霧手段の組合せ、及び温度調整用の冷却手段と湿度調整用の加熱手段の組合せ、のうちのいずれかである請求項1に記載の通気式固体培養装置。
【請求項3】
装置内に取り込んだ外気の温湿度を調整し、調整された調整空気を培養基質に通気させた後に、培養基質を通過した空気をすべて装置外に排気しながら微生物を培養する通気式固体培養装置を用いた通気式固体培養方法であって、
前記通気式固体培養装置は、空気取入口、送風機、空気調節機構、培養室、空気排出口及び制御機器を備え、
前記空気調節機構は、冷却手段、加熱手段、水噴霧手段及び蒸気噴霧手段で構成されており、
前記制御機器による空気調節制御は、前記空気調節機構を構成する各手段について、調整前空気の温湿度の状態が前記調整空気の温湿度の設定値に到達するのに適した手段の組合せを、前記設定値毎に前記調整前空気の温湿度の状態に対応付けており、
前記制御機器により、前記調整空気の温湿度の前記設定値が特定されたときに、前記調整前空気の状態に基づいて、前記空気調節機構を構成する各手段のうち、前記調整前空気の温湿度を前記設定値に到達させるのに適した手段の組合せを選択し、
選択された前記手段の組合せは、前記制御機器に制御されて、前記調整前空気の温湿度を調整させることを特徴とする通気式固体培養方法。
【請求項4】
前記手段の組合せが、温度調整用の加熱手段と湿度調整用の蒸気噴霧手段の組合せ、温度調整用の水噴霧手段と湿度調整用の蒸気噴霧手段の組合せ、温度調整用の冷却手段と湿度調整用の水噴霧手段の組合せ、及び温度調整用の冷却手段と湿度調整用の加熱手段の組合せ、のうちのいずれかである請求項3に記載の通気式固体培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装置内に外気を取り込み、培養基質を通過した空気をすべて装置外に排気しながら微生物を培養する通気式固体培養装置及び通気式固体培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体培養装置は、一般的には送風空気を装置内で循環させて運転している。しかし、例えば種麹や酵素の製造では、雑菌が多いと製品の品質低下を招く。このため、送風空気を装置内で循環させることなく、培養基質を通過した空気をすべて装置外に排出するワンウェイ方式と呼ばれる空調制御方式が最適であった。
【0003】
特許文献1の図2に示された培養装置は、内部空気循環経路がなく、培養室へ送り込む空気(外気)は送風機から空気調和装置を通って吹込ダクトから下室へ吹き込み、培養床を通過して上室に設けた排気ダクトから排気されるようになっている(段落[0018])。
【0004】
また、従来の固体培養装置では培養基質に供給する空気の温湿度を調整する場合には、加温では加熱手段、冷却では冷却手段、加湿は水噴霧手段、除湿は冷却手段及び加熱手段を使用していて、調整の目的に応じて手段が固定されていた。さらに、蒸気噴霧手段を装置の殺菌目的で備えた固体培養装置は存在していたが、固体培養を行っているときに培養基質に供給する空気を調整する手段として蒸気噴霧手段を使用することはなかった。
【0005】
特許文献2の図1に示された培養装置は、空気取入口から取り込んだ空気(外気)が、空調機の冷却機等を通して容器の底部から培養装置本体内部へ通気し、この通気は循環することなく天蓋の放出口から流量計を通して外部へ放出されるされるようになっている(段落[0019])。
【0006】
特許文献3の第1図に示された製麹装置は、ワンウェイ方式を採用したものではないが、外気を導入することなく、空気が密閉された循環系路内を循環させることにより装置系外よりの雑菌の混入を防ぐようにしている(2頁左下欄11行目~14行目)。同製麹装置は、製麹室に送風機と空調機が連結されており、空調機内に冷却器、加熱器、加湿器及びエリミネーターがこの順序に配置されている(2頁左下欄18行目~20行目、第1図)。
【0007】
この空調機内において、麹層を貫通して温度の上昇した空気は、冷却器で冷却され、次いで加湿器で加湿され、又は冷却器で冷却された後加熱器で加熱され、その後加湿器で加湿されることになる(2頁右下欄1行目~4行目)。この空調制御において、除湿乾燥の必要が生じた場合は、加熱器によって空気を加温することにより相対湿度を下げ、あるいは冷却器で空気を冷却することによって絶対湿度を下げ、さらに加熱器で加熱することにより、相対湿度を下げることができる(2頁右下欄7行目~12行目)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平9-154569号公報
【文献】特許第4316021号公報
【文献】特開昭58-86075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1及び2記載の培養装置のように、導入した外気が培養原料を通過してすべて排出されるワンウェイ方式の培養装置は、外気の変動に合わせながら、外気を温湿度の設定値まで一気に調節しなければならないため、温湿度の調整が困難であった。この課題は、装置が大規模になると一層不利になり、あわせて、外気を温湿度の設定値まで一気に調節する制御では、調節手段の負担が大きくなり、ランニングコストやイニシャルコストが増大するという課題があった。
【0010】
また、特許文献3に記載の製麹装置においては、冷却後に加熱する制御や除湿後に加湿する制御が含まれており、エネルギーロスが生じる虞があった。
【0011】
本発明は、前記のような従来の課題を解決するものであり、制御が的確で応答も迅速であり制御性に優れた通気式固体培養装置及び通気式固体培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明の通気式固体培養装置は、装置内に取り込んだ外気の温湿度を調整し、調整された調整空気を培養基質に通気させた後に、培養基質を通過した空気をすべて装置外に排気しながら微生物を培養する通気式固体培養装置であって、前記通気式固体培養装置は、空気取入口、送風機、空気調節機構、培養室、空気排出口及び制御機器を備え、前記空気調節機構は、冷却手段、加熱手段、水噴霧手段及び蒸気噴霧手段で構成されており、前記制御機器は、前記調整空気の温湿度の設定値が特定されたときに、調整前空気の状態に基づいて、前記空気調節機構を構成する各手段のうち、前記調整前空気の温湿度を前記設定値に到達させるのに適した手段の組合せを選択し、選択された前記手段の組合せは、前記制御機器に制御されて、前記調整前空気の温湿度を調整することを特徴とする。
【0013】
本発明の通気式固体培養方法は、装置内に取り込んだ外気の温湿度を調整し、調整された調整空気を培養基質に通気させた後に、培養基質を通過した空気をすべて装置外に排気しながら微生物を培養する通気式固体培養装置を用いた通気式固体培養方法であって、前記通気式固体培養装置は、空気取入口、送風機、空気調節機構、培養室、空気排出口及び制御機器を備え、前記空気調節機構は、冷却手段、加熱手段、水噴霧手段及び蒸気噴霧手段で構成されており、前記制御機器により、前記調整空気の温湿度の設定値が特定されたときに、調整前空気の状態に基づいて、前記空気調節機構を構成する各手段のうち、前記調整前空気の温湿度を前記設定値に到達させるのに適した手段の組合せを選択し、選択された前記手段の組合せは、前記制御機器に制御されて、前記調整前空気の温湿度を調整させることを特徴とする。
【0014】
前記本発明の通気式固体培養装置及び通気式固体培養方法によれば、調整空気の温湿度の設定値が特定されたときに、空気調節機構を構成する各手段のうち、調整前空気を設定値に到達させるのに適した手段の組合せで運転されることにより、調整前空気の状態が変化したり、調整空気の温湿度の設定値が変化すると、それに適した手段の組合せに変更されるので、取り込んだ調整前空気を効率的に調整空気の温湿度の設定値になるように調整することができる。このため、本発明に係る空気調節制御は、制御が的確で応答も迅速になり制御性に優れている。また、制御性に優れていることにより、エネルギーロスが減りランニングコスト及びイニシャルコストを削減することができる。さらに、加温と加湿の効果がある蒸気噴霧手段を培養基質に供給する調整空気の調整用に備えているので、温度調整用の手段として加熱手段を使用したときに、湿度調整用の手段として蒸気噴霧手段を使用すると、加熱手段の負担を軽減させることができる。このことによっても、ランニングコスト及びイニシャルコストを削減することができる。
【0015】
前記本発明の通気式固体培養装置及び通気式固体培養方法においては、前記手段の組合せが、温度調整用の加熱手段と湿度調整用の蒸気噴霧手段の組合せ、温度調整用の水噴霧手段と湿度調整用の蒸気噴霧手段の組合せ、温度調整用の冷却手段と湿度調整用の水噴霧手段の組合せ、及び温度調整用の冷却手段と湿度調整用の加熱手段の組合せ、のうちのいずれかであることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、温度調整用に1つの手段、湿度調整用に1つの手段の計2つの手段が選択されるので、過不足のない制御ができ、各手段の使用量を最小限にして調整空気の温湿度の設定値に効率よく到達させることが可能となり、エネルギーロスを減らす効果が一層高まる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の効果は前記のとおりであり、調整空気の温湿度の設定値が特定されたときに、空気調節機構を構成する各手段のうち、調整前空気を設定値に到達させるのに適した手段の組合せで運転されることにより、調整前空気の状態が変化したり、調整空気の温湿度の設定値が変化すると、それに適した手段の組合せに変更されるので、取り込んだ調整前空気を効率的に調整空気の温湿度の設定値になるように調整することができる。このため、本発明に係る空気調節制御は、制御が的確で応答も迅速になり制御性に優れている。また、制御性に優れていることにより、エネルギーロスが減りランニングコスト及びイニシャルコストを削減することができる。さらに、加温と加湿の効果がある蒸気噴霧手段を培養基質に供給する調整空気の調整用に備えているので、温度調整用の手段として加熱手段を使用したときに、湿度調整用の手段として蒸気噴霧手段を使用すると、加熱手段の負担を軽減させることができる。このことによっても、ランニングコスト及びイニシャルコストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る通気式固体培養装置の縦断面図。
図2】本発明の一実施形態に係る制御機器による空気調節制御を示すブロック図。
図3】本発明の一実施形態に係る制御機器による空気調節制御の流れを示すフローチャート。
図4】本発明の一実施形態において、各ポジションと空気調節機構を構成する各手段の組合せの対応関係の一例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。本発明は、装置内に取り込んだ外気の温湿度を空気調節機構4(図1参照)により調整するものである。下記実施形態において、空気調節機構4に入る前の空気を「調整前空気」とい、空気調節機構4を出た空気を「調整空気」という。また、「制御性」とは制御の的確さや制御の応答性のことである。よって、制御性に優れているとは、制御が的確であったり、応答が迅速であるという意味である。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る通気式固体培養装置1の縦断面図を示している。通気式固体培養装置1は、空気取入口2、送風機3、空気調節機構4、培養室5、空気排出口6、送風ダクト7、制御機器8(図2参照)、を備えている。送風ダクト7は送風機3を通過してから流入口54までのダクトのことをいう。空気調節機構4は、送風ダクト7内にあり、冷却手段41、加熱手段42、水噴霧手段43及び蒸気噴霧手段44で構成されている。以下、空気調節機構を構成する各手段を総称するときは「4つの手段」という。
【0021】
培養室5は、断熱箱体51内の空間である。培養室5は水平回転可能な円形の培養床52によって床上と床下に仕切られている。培養床52は多孔板で形成されており、培養床52上に堆積させた培養基質53に対して通気が行えるようになっている。断熱箱体51には、温湿度が調整された調整空気を給気する流入口54と、通風後の空気を排気する排気筒56が接続されている。また、空気取入口2を形成するダクトの内部には、粗塵フィルタ及び除菌フィルタを設けている。
【0022】
通気式固体培養装置1は、空気取入口2から装置内に取り込んだ調整前空気の温湿度を4つの手段41~44により調整し、調整された調整空気を培養基質53に通気させた後に、培養基質53を通過した空気をすべて空気排出口6から装置外に排気しながら微生物を培養するものである。すなわち、通気式固体培養装置1の空気調節制御方式は、調整空気を装置内で循環させることなく、培養基質通過後にすべて装置外に排気するワンウェイ方式である。
【0023】
空気取入口2から装置内に取り込む前の外気の温湿度は、乾球温度センサ47及び湿球温度センサ48により測定される。4つの手段41~44により調整された調整空気の温湿度は、乾球温度センサ45及び湿球温度センサ46により測定される。乾球温度センサ47の測定値が外気の温度であり、外気の湿度は、乾球温度センサ47と湿球温度センサ48の測定値に基づいて算出される。乾球温度センサ45の測定値が調整空気の温度であり、調整空気の湿度は、乾球温度センサ45と湿球温度センサ46の測定値に基づいて算出される。
【0024】
乾球温度センサ47及び湿球温度センサ48の測定位置は装置外であり、乾球温度センサ45及び湿球温度センサ46の測定位置は、4つの手段41~44を経た調整空気の温湿度を測定可能な位置であり、送風ダクト7内の流入口54付近でもよく、培養床52の下部であってもよい。これらのセンサは一例であり、同様の測定が可能なセンサであればよい。
【0025】
以下、図1を参照しながら、通気式固体培養装置1内の空気の流れ及び各部の構成について、具体的に説明する。送風機3の運転により、送風ダクト7内に調整前空気が取り込まれるとともに、送風ダクト7内の空気が培養室5に向けて送風される。空気取入口2から取り込まれた調整前空気は、送風ダクト7内に設けた空気調節機構4により、温湿度が調整された調整空気となる。空気調節機構4を構成する4つの手段は、制御機器8(図2参照)により運転する手段の組合せが選択され、選択された手段の組合せで指定された各手段は、制御機器8に制御されて、調整空気の温湿度を調整する。この制御の詳細は後に説明する。
【0026】
冷却手段41は、熱交換器411内に冷水を循環させ、熱交換器411を通過する空気を冷却して送風温度を調整することができる。制御機器8は、乾球温度センサ45及び湿球温度センサ46の測定値に基づいて、出力値であるコントロールバルブの開度を制御することにより、熱交換器411へ供給する冷水の量を調整して送風温度を調整する。冷却手段41は、空気を冷却できればよく、他の構成でもよい。
【0027】
加熱手段42は、熱交換器421内に蒸気を供給させるものであり、熱交換器421を通過する空気を加熱して送風温度を調整することができる。制御機器8は、乾球温度センサ45及び湿球温度センサ46の測定値に基づいて、出力値であるコントロールバルブの開度を制御することにより、熱交換器421へ供給する蒸気の量を調整して送風温度又は送風湿度を調整する。
【0028】
加熱手段42は、空気を加熱できればよく、例えば電熱ヒータでもよい。この場合、制御機器8は、乾球温度センサ45及び湿球温度センサ46の測定値に基づいて、出力値である電気ヒーターの能力の発揮度合い(%)を制御することにより、送風温度又は送風湿度を調整する。
【0029】
前記のように加熱手段42の加熱源として蒸気を用いる場合は、熱交換器421にスチームトラップを設けてもよいし、熱交換器421のスチームトラップを無くしたものを用いてもよい。スチームトラップを無くした場合は、蒸気配管の末端を大気開放する。
【0030】
水噴霧手段43は、2流体ノズル431を備えており、2流体ノズル431に圧縮空気及び水が供給され、水が微細な霧状になって噴出し、送風ダクト7内の空気を加湿することができる。また、噴出時の気化熱により、送風ダクト7内の空気の温度を下げる効果も得られる。2流体ノズル431に代えて1流体ノズルを使用してもよい。
【0031】
水噴霧手段43は、圧縮空気と水の配管にそれぞれ開閉可能な電磁弁を設けている。制御機器8は、乾球温度センサ45及び湿球温度センサ46の測定値に基づいて、出力値である2つの電磁弁の開時間を同時に制御することにより、送風温度又は送風湿度を調整する。例えば水噴霧の制御周期を20秒とすると、測定値に応じて開時間を20秒の50%の10秒とする。
【0032】
水噴霧手段43のノズルが複数本ある場合には、制御機器8は、乾球温度センサ45及び湿球温度センサ46の測定値に基づいて、開く時間ではなく、噴霧するノズルの本数で制御することもできる。例えば、ノズルが10本あるとすると、出力値に応じて各ノズルに設けられた電磁弁の開く個数を10本の30%の3本とする。また、電磁弁の開時間の制御と、ノズルの本数の制御を組み合わせて制御することも有効である。
【0033】
蒸気噴霧手段44は、蒸気噴霧ノズル441を備えており、送風ダクト7内に蒸気を噴霧して、送風ダクト7内の空気を加湿することができ、同時に加温する効果もある。制御機器8は、乾球温度センサ45及び湿球温度センサ46の測定値に基づいて、出力値であるコントロールバルブの開度を制御することにより、噴霧する蒸気の量を調整して送風湿度を調整する。
【0034】
4つの手段41~44を経た調整空気の温湿度は、培養室5内に流入する前に、乾球温度センサ45及び湿球温度センサ46により測定される。これらの測定値は、制御機器8(図2参照)に送られ、詳細は後述するとおり、制御機器8は選択された手段の組合せで指定されている各手段を制御し、調整前空気の温湿度の調整を実行する。
【0035】
調整空気は断熱箱体51に設けた流入口54から培養室5内に流入し、以後培養基質53を通過し、通過した空気は断熱箱体51に設けた排気口55、排気筒56を経て、空気排出口6から装置外に排気される。
【0036】
以下、通気式固体培養装置1の空気調節制御について説明する。図2は制御機器8による空気調節制御を示すブロック図である。図3は制御機器8による空気調節制御の流れを示すフローチャートである。本実施形態に係る空気調節制御は、装置内に取り込んだ調整前空気の温湿度を調整空気の温湿度の設定値に調整にするという制御である。設定温度は20~40℃程度で、設定湿度(相対湿度)はRH90~98%程度である。例えば、本実施形態に係る空気調節制御により、温湿度が15℃、RH60%の調整前空気を、温湿度が25℃、RH95%の調整空気にする。
【0037】
本実施形態に係る空気調節制御は、空気調節機構4を構成する4つの手段41~44について、調整前空気の温湿度の状態が調整空気の温湿度の設定値に到達するのに適した手段の組合せを、当該設定値毎に調整前空気の温湿度の状態に対応付けている。制御機器8は、調整空気の温湿度の設定値、調整前空気の温湿度の状態に基づいて、4つの手段41~44から運転する手段の組合せを選択し、選択された手段の組合せを制御して調整前空気の温湿度を調整する。調整前空気の温湿度の状態とは、調整前空気の温湿度の測定値でもよく、調整前空気の温湿度が特定の範囲内にあるということでもよい。後者は後述するとおり各手段の運転状況に基づいて判断可能である。
【0038】
手段の組合せの対応付けの要領や内容は特に限定はないが、調整空気の温湿度の設定値が特定されたときに、当該設定値に到達させるのに適した手段の組合せが、調整前空気の温湿度の状態に対応付けられていればよい。この場合、制御機器8は、調整空気の温湿度の設定値と、調整前空気の温湿度の状態を認識すると、この条件に対応する手段の組合せを選択することになる。
【0039】
本願発明者らは、ポジション分けに基づく手段の組合せの対応付けを導き出した。ポジションとは、温度と湿度で規定された座標平面を、調整空気の温湿度の設定値毎に、複数の領域に区分したときの各領域のことである。各ポジションには、4つの手段41~44から選択された特定の手段の組合せが対応付けられている。この場合、調整前空気の温湿度の状態があるポジションに属するとすると、当該ポジションに対応付けられた手段の組合せの運転により、調整前空気の温湿度が調整空気の温湿度の設定値になるように調整されることになる。
【0040】
前記のように、ポジション分けは、調整空気の温湿度の設定値毎に定められたものであるので、設定値が異なれば、ポジション分けも異なるものになる。したがって、制御機器8に調整空気の温湿度の設定値が入力されると、制御機器8は当該設定値に対応したポジション分けに従って、調整前空気の温湿度の状態により手段の組合せを選択することになる。
【0041】
ポジション分けの一例について、図4を参照して説明する。図4は各ポジションと空気調節機構4を構成する各手段41~44の組合せの対応関係の一例を示した図である。図4に示したように、温度調整用の加熱手段42と湿度調整用の蒸気噴霧手段44の組合せにより調整空気の温湿度の設定値まで調整されることができる調整前空気の状態の領域をポジションA、温度調整用の水噴霧手段43と湿度調整用の蒸気噴霧手段44の組合せにより調整空気の温湿度の設定値まで調整されることができる調整前空気の状態の領域をポジションB、温度調整用の冷却手段41と湿度調整用の水噴霧手段43の組合せにより調整空気の温湿度の設定値まで調整されることができる調整前空気の状態の領域をポジションC、温度調整用の冷却手段41と湿度調整用の加熱手段42の組合せにより調整空気の温湿度の設定値まで調整されることができる調整前空気の状態の領域をポジションDとする。
【0042】
図4に示したように、ポジションA~Dのそれぞれに、手段の組合せが対応付けられているので、空気調節制御中は、制御機器8はポジションA~Dに応じて、4つの手段41~44から選択された手段の組合せを選択する。図4の例は、各ポジションについて、4つの手段41~44から2つを選択した例であるが、後述するとおり、4つの手段41~44から選択する手段は3つ以上であってもよい。
【0043】
前記のとおり、ポジション分けは調整空気の温湿度の設定値毎に定められたものである。このため、前記のポジションA~Dの例において、設定値が異なれば、ポジションA~Dの領域も異なったものとなり、対応する手段の組合せも異なる場合がある。
【0044】
したがって、調整空気の温湿度の設定値が特定されると、これに対応するポジション分けが特定される。後は、現在の調整前空気の温湿度の状態が分かれば、この状態がいずれのポジションに属するのかを判断すればよい。現在のポジションを判断する直接的な方法として、外気の温湿度を測定し、測定値がいずれのポジションに属しているのか判断することが挙げられるが、詳細は後述する。
【0045】
現在のポジションを判断する別の方法として、各ポジションで使用している手段の運転状況である出力値により判断する方法がある。手段への「出力値」とは、手段が持つ能力のうちの何%を発揮させるかという値のことである。具体的には、前記のとおり、冷却手段41の出力値はコントロールバルブの開度、加熱手段42の出力値はコントロールバルブの開度又は電気ヒーターの能力の発揮度合い、水噴霧手段43の出力値は電磁弁の開時間又は噴霧するノズルの本数、蒸気噴霧手段44の出力値はコントロールバルブの開度である。
【0046】
現在のポジションを出力値により判断する方法を採用したときは、培養開始時には、初期設定のポジションを強制的に選択すればよい。この場合、初期設定のポジションの組合せで指定されている各手段を制御して、調整前空気の温湿度を調整する(図3のステップ100~102)。指定されている手段の出力値により判断して、初期設定のポジションが実際の調整前空気の状態に適したポジションではなかった場合には、ポジションを移行するべきと判断し、適切なポジションに変更する(図3のステップ103、104)。
【0047】
ポジション移行の判断方法は次のとおりである。各ポジションで使用している2つの手段の内、どちらかの出力値がある一定値よりも小さくなったときに、その手段による温湿度の調整効果が必要のない調整前空気の状態又は温湿度の設定値になったと認定することができ、ポジションが移行したと判断する(図3のステップ103)。
【0048】
調整空気の温湿度の設定値が一定で、外気の温湿度の変化により調整前空気の状態が変化することにより、ポジションが移行するときについて説明する。温湿度の設定値に対する調整前空気の状態が、図4においてポジションAで、組合せ1で運転しているとする。調整前空気の状態が変化していくにつれて、温度調整用の加熱手段42の出力値がある一定値よりも小さくなったとする。このとき、加熱手段42の効果である加温効果が必要のない調整前空気の状態に変わったと認定することができ、制御機器8はポジションAからポジションBに移行したと判断する(図3のステップ103)。
【0049】
ポジションBに移行したことにより、制御機器8は、図4においてポジションBに対応する組合せ2を選択する(図3のステップ104)。このことにより、組合せ2で指定されている温度調整用の水噴霧手段43と湿度調整用の蒸気噴霧手段44の運転が開始する(図3のステップ102)。
【0050】
ポジションBで組合せ2の運転をしているときに、調整前空気の状態が変化していくにつれて、湿度調整用の蒸気噴霧手段44の出力値がある一定値よりも小さくなったとする。このとき、蒸気噴霧手段44での加湿が必要ない調整前空気の状態に変わったと認定することができ、制御機器8はポジションBからポジションCに移行したと判断する(図3のステップ103)。
【0051】
ポジションCに移行したことにより、制御機器8は、図4においてポジションCに対応する組合せ3を選択する(図3のステップ104)。このことにより、組合せ3で指定されている温度調整用の冷却手段41と湿度調整用の水噴霧手段43の運転が開始する(図3のステップ102)。
【0052】
次に、ポジションCで組合せ3を運転していて、ポジションBに戻る場合を説明する。調整前空気の状態が変化していくにつれて、温度調整用の冷却手段41の出力値がある一定値よりも小さくなったとする。このとき、冷却手段41の効果である冷却効果が必要のない調整前空気の状態に変わったと認定することができ、制御機器8はポジションCからポジションBに移行したと判断する。(図3のステップ103)
【0053】
ポジションBに移行したことにより、制御機器8は、図4においてポジションBに対応する組合せ2を選択する(図3のステップ104)。このことにより、組合せ2で指定されている温度調整用の水噴霧手段43と湿度調整用の蒸気噴霧手段44の運転が開始する。(図3のステップ102)。
【0054】
次に、調整前空気の状態が一定で、調整空気の温湿度の設定値が変化することにより、ポジションが移行するときについて説明する。時間経過とともに培養基質53は発熱し、培養基質の温度を制御するために調整空気の温湿度の設定値は変化していく。現在の調整空気の温湿度の設定値に対する調整前空気の状態が、図4においてポジションAで、組合せ1で運転しているとする。調整空気の温湿度の設定値が変化していくにつれて、温度調整用の加熱手段42の出力値がある一定値よりも小さくなったとする。このとき、加熱手段42の効果である加温効果が必要のない調整空気の状態に変わったと認定することができ、制御機器8はポジションAからポジションBに移行したと判断する(図3のステップ103)。
【0055】
ポジションBに移行したことにより、制御機器8は、図4においてポジションBに対応する組合せ2を選択する(図3のステップ104)。このことにより、組合せ2をで指定されている温度調整用の水噴霧手段43と湿度調整用の蒸気噴霧手段44の運転が開始する(図3のステップ102)。前記のように、調整空気の温湿度の設定値が変化する場合にも、調整前空気の状態が変化する場合と同様に、各ポジションで使用している手段の出力値により、ポジションの移行を判断することができる。
【0056】
以上、現在のポジションを、使用している手段の出力値により判断する方法について説明したが、外気の温湿度を測定して、現在の外気状態がどのポジションに属するのかを判断してもよい。前記のとおり、調整空気の温湿度の設定値が特定されると、これに対応するポジション分けが特定されるので、現在の外気の温湿度を測定すれば、この測定値がいずれのポジションに属するのかが直接的に判断可能である。装置内に取り込む外気の温湿度の測定は、図1に示した乾球温度センサー47と湿球温度センサー48で測定し、制御機器8に送られる(図2)。
【0057】
現在のポジションを手段の出力値により判断する方法、外気の温湿度を測定して判断する方法のいずれの場合であっても、ポジションが移行する毎に、図3のステップ102~105を繰り返し、組合せを選択していく。これにより、培養中に温湿度の設定値の変更や調整前空気の状態の変動があっても、組合せで指定されている各手段が制御機器8に制御されて、調整空気の温湿度を調整することができる。
【0058】
前記実施形態では、4つの手段41~44から選択したポジションに適した手段の組合せを選択して運転し、ポジションが移行する毎に、移行したポジションに適した手段の組合せを選択して調整前空気の温湿度が調整されることになる。この場合、ポジションに適した手段の組合せで運転中に調整前空気の状態が変化したり、調整空気の温湿度の設定値が変化すると、新たなポジションに適した手段の組合せを選択して、調整前空気の状態が調整空気の温湿度の設定値に到達するように効率的に調整されることになる。
【0059】
また、前記実施形態においては、蒸気噴霧手段44を備えており、蒸気噴霧は加温と加湿の効果がある。このため、温度調整用の手段として加熱手段42を使用したときに、湿度調整用の手段として蒸気噴霧手段44を使用すると(図4の組合せ1参照)、加熱手段42の負担を軽減させることができる。このことによっても、ランニングコスト及びイニシャルコストを削減することができる。
【0060】
以上、空気調節制御の実施形態について説明したが、本発明に係る空気調節制御は、調整空気の温湿度の設定値が特定されたときに、調整前空気の状態に基づいて、空気調節機構4を構成する各手段のうち、当該設定値に到達させるのに適した手段の組合せを制御機器8が選択するというものである。この空気調節制御では、調整前空気の状態が変化したり、調整空気の温湿度の設定値が変化すると、それに適した手段の組合せに変更されるので、取り込んだ調整前空気を効率的に調整空気の温湿度の設定値になるように調整することができる。このため、本発明に係る空気調節制御は、制御が的確で応答も迅速になり制御性に優れている。制御性に優れていることにより、エネルギーロスが減りランニングコスト及びイニシャルコストを削減することもできる。
【0061】
さらに、図4に示した組合せでは、4つの手段41~44のうち、使用する手段はポジションに関係なく、温度調整用に1つの手段、湿度調整用に1つの手段の計2つの手段が選択されている。このため、過不足のない制御ができ、各手段の使用量を最小限にして調整空気の温湿度の設定値に到達させることが可能となり、エネルギーロスを減らす効果を一層高めることができる。
【0062】
4つの手段41~44から選択する手段は、2つに限るものではなく3つ以上としてもよい。3つ以上であっても、手段の組み合わせを構成でき、2つの場合と同様の効果が得られる。3つの手段を使用する例として、ポジションBで運転するときについて説明する。ポジションBは図4の組合せでは水噴霧手段43と蒸気噴霧手段44の2つの手段を使用しているが、その2つの手段に冷却手段41を加えて3つの手段で制御することもできる。このとき、冷却手段41の出力値を固定値とし、温度調整用の水噴霧手段43と、湿度調整用の蒸気噴霧手段44を制御して調整空気の温湿度を調整する。
【0063】
前記のとおり、本実施形態に係る空気調節制御は温湿度の制御性に優れているが、手段の組合せの選択を適宜変更することにより、制御性がより高まる。図4に示した組合せはこの観点から選択した一例である。具体的には、4つの手段41~44は、温度調整用としても湿度調整用としても使用可能なものもあるが、使用したときに温度への影響と湿度への影響が異なる場合がある。例えば、蒸気噴霧手段44は、湿度への影響は大きいが、温度への影響は小さい。このため、図4に示した組合せにおいては、蒸気噴霧手段44は湿度調整用として選択しており(組合せ1、2)、温度調整用としては選択していない。すなわち、図4に示した組合せは、各手段の温度への影響と湿度への影響を考慮した上で、温度調整用の手段には温度調整に適した手段を選択し、湿度調整用の手段には湿度調整に適した手段を選択しているので制御性がより高まる。
【0064】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、前記実施形態は適宜変更したものであってもよい。例えば、図1に示した通気式固体培養装置1において、水噴霧手段43と蒸気噴霧手段44の配置順を逆にしてもよく、送風機3を加熱手段42の下流側に配置してもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 通気式固体培養装置
2 空気取入口
3 送風機
4 空気調節機
41 冷却手段
42 加熱手段
43 水噴霧手段
44 蒸気噴霧手段
5 培養室
53 培養基質
6 空気排出口
8 制御機器
【要約】
【課題】温湿度の制御性に優れ、安定した温湿度制御が可能な通気式固体培養装置及び通気式固体培養方法を提供する。
【解決手段】装置内に取り込んだ外気の温湿度を調整し、調整された調整空気を培養基質53に通気させた後に、培養基質53を通過した空気をすべて装置外に排気しながら微生物を培養する通気式固体培養装置1であって、通気式固体培養装置1は、空気取入口2、送風機3、空気調節機構4、培養室5、空気排出口6及び制御機器8を備え、空気調節機構4は、冷却手段41、加熱手段42、水噴霧手段43及び蒸気噴霧手段44で構成されており、制御機器8は、調整空気の温湿度の設定値が特定されたときに、調整前空気の状態に基づいて、空気調節機構4を構成する各手段41~44のうち、調整前空気の温湿度を設定値に到達させるのに適した手段の組合せを選択し、選択された手段の組合せは、制御機器8に制御されて、調整前空気の温湿度を調整する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4