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特許7272739硫黄酸化物を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法
<図1>
  • 特許-硫黄酸化物を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法 図1
  • 特許-硫黄酸化物を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法 図2
  • 特許-硫黄酸化物を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法 図3
  • 特許-硫黄酸化物を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法 図4
  • 特許-硫黄酸化物を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法 図5
  • 特許-硫黄酸化物を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法 図6
  • 特許-硫黄酸化物を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法 図7
  • 特許-硫黄酸化物を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法 図8
  • 特許-硫黄酸化物を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法 図9
  • 特許-硫黄酸化物を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法 図10
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】硫黄酸化物を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 1/12 20060101AFI20230502BHJP
   C07C 9/04 20060101ALI20230502BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20230502BHJP
   B01J 38/04 20060101ALI20230502BHJP
   B01J 38/10 20060101ALI20230502BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20230502BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20230502BHJP
   B01J 23/96 20060101ALI20230502BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20230502BHJP
   B01D 53/96 20060101ALI20230502BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230502BHJP
【FI】
C07C1/12 ZAB
C07C9/04
B01J35/02 H
B01J38/04 A
B01J38/10 Z
B01J23/46 301Z
B01J23/755 Z
B01J23/96 Z
B01D53/86 243
B01D53/96 500
C07B61/00 300
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018147043
(22)【出願日】2018-08-03
(65)【公開番号】P2020019751
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-07-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000222037
【氏名又は名称】東北電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 孔一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 孝之
(72)【発明者】
【氏名】田附 匡
(72)【発明者】
【氏名】進藤 学
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-131835(JP,A)
【文献】特開平11-179204(JP,A)
【文献】特開昭51-131494(JP,A)
【文献】特開昭51-075002(JP,A)
【文献】特開2011-131213(JP,A)
【文献】特開2007-260669(JP,A)
【文献】特表2004-516927(JP,A)
【文献】岡田 治 他,Ru系メタン化触媒の硫黄被毒の研究,燃料協会誌,1989年,第68巻,第1号,39-44
【文献】Takayuki Abe, et al.,CO2 methanation property of Ru nanoparticle-loaded TiO2 prepared by a polygonal barrel-sputtering method,Energy & Environmental Science,2009年,Vol.2, No.3,315-321
【文献】井上光浩, 他,多角バレルスパッタリング法を用いて調製したRu-Ni/TiO2触媒の CO2メタン化反応特性,富山大学研究推進機構水素同位体科学研究センター研究報告,2016年,Vol.36,39-44
【文献】飯塚秀宏, 他,炭酸ガスの接触水素化に関する基礎研究 ,化学工学論文集,1993年,Vol.19, No.5 ,870-877
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01J
B01D
C07B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄酸化物(SOx)を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法において、
前記硫黄酸化物を含む二酸化炭素は、石炭火力発電、石油火力発電、製鉄所、化学プラントから発生するものであり、硫黄酸化物濃度が20ppm以下か否かを予め測定する工程と、
前記硫黄酸化物濃度が20ppmを超えている場合に、前記硫黄酸化物濃度を20ppm以下とする二酸化炭素の脱硫処理工程と、
前記硫黄酸化物濃度が20ppm以下である二酸化炭素と還元剤である水素とを混合する混合ガス生成工程と、
前記混合ガス生成工程において得られた前記混合ガスを、粉末状の担体表面にナノ粒子が分散担持された水素還元用触媒を用いて低温還元するメタン生成工程と、
前記メタン生成工程に引き続き、前記水素還元用触媒に対し、パージガスとしてArガスまたはArガスと水素ガスとの混合ガスを吹き付けることにより前記水素還元用触媒の表面を覆った硫黄酸化物を除去して前記水素還元用触媒の性能回復を図る触媒再生工程と
を順次備え、前記触媒再生工程は前記二酸化炭素を導入しつつ触媒の再生とメタンの生成を行うものであることを特徴とする、硫黄酸化物を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法。
【請求項2】
請求項1に記載された、硫黄酸化物を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法において、
前記粉末状の担体表面にナノ粒子が分散担持された水素還元用触媒は、
前記粉末状の担体については、その径が0.1~30μmであり、その材料がアルミナ、シリカ、マグネシア、チタニア、ジルコニア、ニオビア、シリカ-アルミナ、ゼオライト、リン酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも一つの酸化物または少なくとも前記一つの酸化物を含む材料からなり、
また、前記ナノ粒子については、その90%以上は粒径が10nm未満の粒子であり、Fe、Co、Ni、Cu、Ru、Rh、Pd、Ag、Ir、PtおよびAuからなる金属群から選択される少なくとも一つの金属粒子または少なくとも二つの金属からなる合金粒子を含む材料粒子である、硫黄酸化物を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法。
【請求項3】
請求項2に記載された、硫黄酸化物を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法において、
前記粉末状の担体表面にナノ粒子が分散担持された水素還元用触媒は、
粉末状のチタニア担体に、前記Ruのナノ粒子が担持されてなる水素還元用触媒であることを特徴とする、硫黄酸化物を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法。
【請求項4】
請求項2に記載された、硫黄酸化物を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法において、
前記粉末状の担体表面にナノ粒子が分散担持された水素還元用触媒は、
粉末状のジルコニア担体に、前記Niのナノ粒子が担持されてなる水素還元用触媒であることを特徴とする、硫黄酸化物を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載された、硫黄酸化物を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法において、
低温還元温度は、300℃未満であることを特徴とする、硫黄酸化物を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄酸化物を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素は、地球温暖化の主要因となる温室効果ガスの中においても温暖化への寄与度がきわめて高いため、その排出量の削減に加え、排出される二酸化炭素を水素還元によりメタン化し再利用することが提案されている。
しかしながら、二酸化炭素を水素により還元しメタンを生成する際に用いる既存の触媒の反応温度は、少なくとも300℃以上であるため、このような高い反応温度によって新たな二酸化炭素が排出する事態を回避することができないという問題がある。
【0003】
これに対し、例えば、特許文献1や特許文献2には、多角バレルスパッタリング法、すなわち、多角型バレル装置内において、スパッタリングにより、チタニア等の微粒触媒担体に対しRu等のナノ粒子を分散担持させてなる、新たな二酸化炭素の水素還元用触媒の製造法が紹介されている。
ここで、「水素還元用触媒」とは、「二酸化炭素を水素により還元してメタンを生成する反応において用いる触媒」として定義されるので、以下では、「水素還元用触媒」の語を、かかる定義された意味にて用いることとする。
そして、この製造法によって得られた二酸化炭素の水素還元用触媒を用いて二酸化炭素の水素還元を行えば、大気圧下でしかも低温下、例えば300℃を下回る温度、さらには200℃以下においても高転化率にて二酸化炭素をメタン化することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-131835号公報
【文献】特開2013-163675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、現在、地球温暖化を抑制するためには、二酸化炭素の排出量の削減は不可欠な課題であり、発電所に代表されるエネルギー転換部門、特に、二酸化炭素の排出量が多いとされる石炭火力発電部門などにおいては、二酸化炭素の排出量の削減が強く求められているため、石炭火力発電所などから排出される二酸化炭素をメタンなどの有用物に転化することで、二酸化炭素自体の排出を極力削減する努力がなされている。
【0006】
本発明者らは、前記特許文献1や特許文献2において提案されているメタン化技術を採用して、数十ppmを超える硫黄酸化物を含む二酸化炭素のメタン化を試みたところ、その排ガス中にガス成分として多量の硫黄酸化物を含むためか、当初、満足できるメタン生成を行うことができなかった。
しかしながら、さらに鋭意検討を重ねたところ、石炭火力発電所などから排出される排出ガスを模擬して、種々のSO濃度(2.5~100ppm)の硫黄酸化物を含む二酸化炭素を調製して準備し、これらSO濃度が異なる種々の二酸化炭素を処理対象として、水素還元用触媒を用いた水素還元法を繰り返し実施したところ、以下のような知見を得た。
【0007】
すなわち、
1)SO濃度を20ppm以下に減量した二酸化炭素の場合であれば、これに前記公知の水素還元用触媒を用いた水素還元法を適用すれば、最長では100時間以上にわたって、高効率にて二酸化炭素のメタン化反応が進行し、短い場合でも、数十時間にわたり、メタン化反応が進行すること、
2)メタン化反応後に、触媒性能の低下によるメタン収率の低下や、触媒の失活が生じた際においても、不活性ガス(Arガス)または不活性ガス(Arガス)と水素ガスの混合ガスなどをパージする触媒再生処理を行えば少なくとも20%、最大で100%の触媒性能の回復が実現できること、
3)二酸化炭素のSO濃度が20ppmを超えた領域、例えば、二酸化炭素が60ppmのSOを含有する場合には、数時間にて触媒は失活するが、予めSOxを吸着除去する脱硫処理を行って、二酸化炭素中のSO濃度を20ppm以下に抑制する処理を施せば、二酸化炭素のメタン化が長時間にわたり高効率に実施できることを知見した。
【0008】
そこで、本発明は、前記知見に基づいてなされたものであり、石炭火力発電所などから排出される排出ガスなどに代表される、硫黄酸化物を含む二酸化炭素に対して、十分に満足できるレベルまでメタン化が可能なメタン生成方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明の硫黄酸化物(SO)を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法は、
硫黄酸化物を含む二酸化炭素は、石炭火力発電、石油火力発電、製鉄所、化学プラントから発生するものであり、硫黄酸化物濃度が20ppm以下か否かを予め測定する工程と、
前記硫黄酸化物濃度が20ppmを超えている場合に、前記硫黄酸化物濃度を20ppm以下とする二酸化炭素の脱硫処理工程と、
前記硫黄酸化物濃度が20ppm以下である二酸化炭素と還元剤である水素とを混合する混合ガス生成工程と、
前記混合ガス生成工程において得られた前記混合ガスを、粉末状の担体表面にナノ粒子が分散担持された水素還元用触媒を用いて低温還元するメタン生成工程と、
前記メタン生成工程に引き続き、前記水素還元用触媒に対し、パージガスとしてArガスまたはArガスと水素ガスとの混合ガスを吹き付けることにより水素還元用触媒の表面を覆った硫黄酸化物を除去して前記水素還元用触媒の性能回復を図る触媒再生工程と
を順次備え、前記触媒再生工程は前記二酸化炭素を導入しつつ触媒の再生とメタンの生成を行うものであることを特徴とする。
そして、本発明のメタンの生成方法によれば、メタン生成工程に引き続き、パージガスとしてArガスまたはArガスと水素ガスとの混合ガスを吹き付ける触媒再生工程を備え、しかもこの触媒再生工程は、二酸化炭素を導入しつつ触媒の再生とメタンの生成を行うものであるため、水素還元用触媒の性能回復を図ると共にメタンの再生をも一緒に行うことができるので、一旦低下したメタンの生成率の回復を図ることができる。
【0012】
また、本発明の硫黄酸化物(SOx)を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法は、
粉末状の担体表面にナノ粒子が分散担持された二酸化炭素の水素還元用触媒において、その粉末状の担体については、その径が0.1~30μmであり、その材料がアルミナ、シリカ、マグネシア、チタニア、ジルコニア、ニオビア、シリカ-アルミナ、ゼオライト、リン酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも一つの酸化物または少なくとも一つの酸化物を含む材料からなり、
また、そのナノ粒子については、その90%以上は粒径が10nm未満の粒子であり、
Fe、Co、Ni、Cu、Ru、Rh、Pd、Ag、Ir、PtおよびAuからなる群から選択される少なくとも一つの金属粒子または少なくとも二つの金属からなる合金粒子を含む材料粒子であることを特徴とするものである。
そして、本発明のメタンの生成方法によれば、二酸化炭素の水素還元用触媒を用いることにより、大気圧下、かつ、低い反応温度において二酸化炭素を高効率でメタン化することができる。
【0013】
また、本発明に係る硫黄酸化物を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法は、
粉末状の担体表面にナノ粒子が分散担持された二酸化炭素の水素還元用触媒として、粉末状のチタニア担体にRuのナノ粒子が担持されてなる二酸化炭素の水素還元用触媒または粉末状のジルコニア担体にNiのナノ粒子が担持されてなる二酸化炭素の水素還元用触媒を用いることを特徴とするものである。
そして、本発明のメタンの生成方法によれば、これらの二酸化炭素還元用触媒を用いることにより、大気圧下、かつ、低い反応温度、具体的には、例えば300℃未満、さらには200℃以下の温度域においても二酸化炭素を高効率でメタン化することができる。
【0014】
また、本発明に係る硫黄酸化物を含む二酸化炭素からメタンを生成する方法は、
石炭火力発電、石油火力発電、製鉄所、化学プラントから発生する、硫黄酸化物を含有する二酸化炭素に対して適用することを特徴とするものである。
そして、本発明のメタンの生成方法は、これら石炭火力発電、石油火力発電、製鉄所、化学プラントから発生する、硫黄酸化物を含む二酸化炭素に対して大気圧下かつ低温にて適用することができるとともに、大気中に新たな二酸化炭素を排出させずに、排気ガスの二酸化炭素を高効率でメタン化が実現できるので、環境対策上優れた効果を有するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、硫黄酸化物の共存下においては、満足できるメタンの生成が困難とされた従来の水素還元用触媒を用いた水素還元法を、処理する二酸化炭素中の硫黄酸化物の含有量を20ppm以下に減量した上で、大気圧下、低温において適用することで、高収率でメタンを生成することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】硫黄酸化物を含まない二酸化炭素について、水素還元法によりメタン生成を行った際の反応温度と触媒性能(メタン収率)との関係を示す図である。
図2】Ru担持TiO触媒を用い、10時間水素還元を行った後、種々の硫黄酸化物(SO)を含む二酸化炭素を160℃にて水素還元を行った際のメタンの収率の経時変化を示す図である。
図3】Ru担持TiO触媒を用い、2時間水素還元を行った後、種々の硫黄酸化物(SO)を含む二酸化炭素を200℃にて水素還元を行った際のメタンの収率の経時変化を示す図である。
図4】Ni担持ZrO触媒を用い、10時間水素還元を行った後、SO濃度10ppmの二酸化炭素を260℃にて水素還元を行った際のメタンの収率の経時変化を示す図である。
図5】SO濃度2.5ppmの二酸化炭素の水素還元時間とメタン収率の関係および触媒再生処理によって回復するメタン収率の変化を示す図である。
図6】SO濃度10ppmの二酸化炭素の水素還元時間とメタン収率の関係および触媒再生処理によって回復するメタン収率の変化を示す図である。
図7】SO濃度60ppmの二酸化炭素を図10の装置の活性炭に導入して、活性炭出口のSO濃度とRu担持TiO触媒によるメタン収率との経時的な関係を示した図である。
図8】Ru担持TiO触媒およびNi担持ZrO触媒の製造装置である多角バレルスパッタ装置の概略を示す構成図である。
図9】水素還元用触媒の触媒性能(メタン収率)を評価するための常圧固定床流通式反応装置の概略を示す構成図である。
図10図9に示す常圧固定床流通式反応装置の触媒層の前段にSOを吸着除去するための活性炭層を設けた常圧固定床流通式反応装置の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面等を参照して本発明の実施のための形態について説明する。
【0018】
<本発明において用いる水素還元用触媒およびその製造方法>
本発明に用いる水素還元用触媒としては、300℃未満の反応温度を有するものが望ましく、例えば、粉末状の微粒子担体の表面に、微粒子担体よりも粒径の小さいナノ粒子(粒径がnmオーダーの粒子)を乾式法であるスパッタリング法により分散担持させた水素還元用触媒が挙げられる。
図8には、前記水素還元用触媒を製造するために用いた多角バレルスパッタ装置の概略が示されている。
【0019】
前記多角バレルスパッタリング装置は、粉末状の微粒子担体4の表面にナノ粒子を高分散担持させる真空チャンバー1を有しており、かかる真空チャンバー1は直径200mmの円筒部とその内部に設置された断面が多角形のバレル(例えば八角形バレル2)とを備えている。
なお、本実施の形態では、八角形バレル2を用いているが、これに限定されるものではなく、八角形以外の多角形のバレル、例えば六角形バレルを用いることも可能である。
【0020】
真空チャンバー1には、水平方向に平行な軸が設けられ、かかる軸を中心に回転動作あるいは搖動動作を行う回転機構が設けられている。また、真空チャンバー1の円筒部の中心軸上にはスパッタリングターゲット5が配置されており、八角形バレルの搖動動作あるいは回転動作により担持処理を行う際に、ターゲットを微粒子担体の位置する方向に向けることでスパッタ効率を上げることができる。
また、真空チャンバーの外側には機械的振動機構3を設け、前記八角形バレル2内の粉体に振動を加えることにより、凝集を防ぐことができる。
【0021】
微粒子担体としては、その平均粒径が、0.1~30μmであり、材料がアルミナ、シリカ、マグネシア、チタニア、ジルコニア、ニオビア、シリカ-アルミナ、ゼオライト、リン酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも一つの酸化物、あるいはこの酸化物を含む材料から選択することができる。
また、前記担体表面に担持される、ナノ粒子は、その90%以上は、粒径10nm未満の粒子であり、Fe、Co、Ni、Cu、Ru、Rh、Pd、Ag、Ir、PtおよびAuからなる群から選択される少なくとも一つの金属粒子、または、少なくとも二つの金属からなる合金粒子を含む材料粒子である。
【0022】
<二酸化炭素の水素還元によるメタンの生成>
次に、反応装置として、図9に示す常圧固定床流通式反応装置を用いて、硫黄酸化物を含まない二酸化炭素、および、硫黄酸化物を2.5~100ppmまで含む二酸化炭素について、前記多角バレルスパッタ装置において製造された担持触媒を水素還元用触媒として用いた水素還元法により、メタン生成を行った。
【0023】
そのメタン生成の具体的な操作手順は、以下のとおりである。
(1)硫黄酸化物を含まない二酸化炭素の場合
まず、最初に前記多角バレルスパッタリング装置により製造された水素還元用触媒を用いて、硫黄酸化物を含まない二酸化炭素について、水素還元を行って生成するメタンの収率を測定し、この場合の前記水素還元用触媒の性能を確認した。具体的には、前記常圧固定床流通式反応装置を用いて、触媒試料を反応層(反応管)7に充填し、Arガスの供給により管内を不活性雰囲気とした後、セラミックスヒーター10にて昇温速度100℃/hで加熱した。
【0024】
次に、触媒層温度が規定値に達した後、ガスクロマトグラフ測定により組成分析済みの、10%CO/Ar(10ml/分)とH(4ml/分)との混合ガス(CO/H=1/4(v/v)を供給して、メタン化反応を行った。
この場合の反応後の出口ガスの組成については、生成反応が定常状態となった後(約30分後)、熱伝導検出器(TCD)を用いてガスクロマトグラフ測定にて分析を行った。そのときの分析条件は、キャリアガス:Ar(流量30ml/min)、カラム:活性炭(内径3mm、長さ2m)、カラム温度:150℃、検出器温度:170℃である。
そして、メタンの収率を以下の式にて算出した。
メタン収率(%)=[(生成したCHの量(mol)/{(生成したCHの量(mol)+未反応のCOの量(mol)}]×100
なお、本実施の形態においては、前記したArガス置換→昇温→反応→ガスクロマトグラフ測定による分析を繰り返すことにより、温度とメタン収率の関係を求めた。
【0025】
(2)硫黄酸化物を含む二酸化炭素の場合
次に、SOを含有しない10%CO+H混合ガスを供給し、メタン化反応を2時間または10時間行った後、このCO+H混合ガスにおいて、CO中のSO濃度を100ppmとなる場合から2.5ppmとなる場合まで順次調製して(総流量:90ml)、メタン化反応を行ったところ、CO中のSO濃度が2.5ppm~20ppmである場合においては、比較的長時間にわたり高収率でメタンが得られることが明らかとなった。
以下、詳細は実施例において後述する。
なお、この場合の反応後の出口ガスの組成は、前記(1)と同様の条件にて、熱伝導検出器(TCD)を用いてガスクロマトグラフ測定にて分析を行い、メタン収率を求めた。
また、メタンの収率とともに、炎光光度検出器(FPD)を用いて反応前後のSO濃度についても測定を行った。
【0026】
<触媒の再生処理>
更に、本発明者らは、硫黄酸化物を含む二酸化炭素からのメタン生成反応においてそのメタン収率が低下した水素還元用触媒について、その再利用が可能であるか否か(触媒の再生)についても検討を行った。
触媒の再生の検討においては、種々のSO濃度の条件下の水素還元に用いた使用済み触媒について、不活性ガス(Ar:14ml/min)または不活性ガス(Ar:10ml/min)と水素ガス(H:4ml/min)との混合ガスにより使用済み触媒をパージして行った。
【0027】
<水素還元前の脱硫処理>
また、二酸化炭素中の硫黄酸化物濃度が高い場合、例えば60ppmのSO濃度では、水素還元用触媒の破過により、満足できるメタンの生成が困難となるため、水素還元前に硫黄酸化物を除去する脱硫処理についても検討を行った。
具体的には、メタン反応のために供給されるガス中のSO量の低減を目的として、図10に示すように、前工程としてSOの除去を行うための脱硫装置に相当する活性炭層9(1g)を設けた上で、この活性炭層9へ60ppmのSO濃度を有するガスを供給し、活性炭層出口におけるSO濃度とメタン収率との経時的な変化について検討を行ったところ、その結果は、図7に示すとおりである。
【実施例
【0028】
以下、上記で説明した処理手順に基づいて行った実施例について具体的に説明する。
1.水素還元用触媒の製造
本発明においては、水素還元用触媒として、図8に示す前記多角バレルスパッタ装置を用いたバレルスパッタ法により製造された、粉末状の担体表面にナノ粒子が分散担持されてなる触媒、具体的にはTiO微粒子担体にRuのナノ粒子を担持させてなるRu担持TiO触媒(Ru/TiO触媒)およびZrO微粒子担体にNiナノ粒子を担持させてなるNi担持ZrO触媒(Ni/ZrO触媒)を用いた。
【0029】
Ru担持TiO触媒については、平均粒径0.2μmのTiO微粒子を装入した八角形バレルを真空チャンバーに設置し、圧力が8×10-4Pa以下となるまで真空排気し、続いてArガスをチャンバー内に導入し、Ruターゲット(50×100mm)を用いてArガス圧:0.8Pa、高周波圧力:100Wの条件にて2時間スパッタリング処理を行うことにより製造することができる。その際に、前記八角形バレルを振幅:±75°、回転速度:4.3rpmの条件にて搖動させ、スパッタリング処理終了後は、八角形バレル内に徐々にNガスを導入し内部圧力を大気圧下に戻すように操作した。
そして、このようにして製造されたRu担持TiO触媒は、TiO担体の平均粒径が0.2μm、Ru触媒の平均粒径が2.5nmであった。
【0030】
また、Ni担持ZrO触媒についても、平均粒径1μmのZrO微粒子担体およびNiターゲット(50×100mm)を用いたが、その他の製造条件については、前記Ru担持TiO触媒の場合と同様にしてNi担持ZrO触媒を製造した。
製造されたNi担持ZrO触媒は、ZrO担体の平均粒径が1.0μm、Ni触媒の平均粒径が4.2nmであった。
【0031】
2.本発明で用いる水素還元用触媒と従来のウェット法で製造された触媒との性能比較
(1)硫黄酸化物を含まない二酸化炭素の場合
バレルスパッタ法により製造された、Ru担持TiO触媒およびNi担持ZrO触媒を水素還元用触媒として用いて、図9に示す常圧固定床流通式反応装置により、段落0025に記載された手法によってメタンの生成を行なった。
測定された反応温度とメタン収率との関係から、前記触媒の性能確認を行ない、その結果を図1に示す。
図1には、本発明において用いたバレルスパッタ法により製造されたRu担持TiO触媒およびNi担持ZrO触媒のほか、従来法であるウェット法により製造されたNi担持ZrO触媒についても、合わせて記載した。
【0032】
前記ウェット法により製造されたNi担持ZrO触媒では、200℃前後でメタン生成が開始され、メタンの収率は、250℃において20%であった。
これに対し、多角バレルスパッタリング法により製造されたRu担持TiO触媒では、メタンの生成反応開始温度は80℃であり、その収率は、160℃では96.9%であり、200℃までには100%に達している。また、多角バレルスパッタリング法により製造されたNi担持ZrO触媒では、前記Ru担持TiO触媒に対し、反応温度は高温側に移行するものの、メタンの生成開始温度は、180℃であり、前記ウェット法により製造された従来のNi担持ZrO触媒に対し、50℃ほど低温側に移行しているため、260℃では72%に達している。
以上のとおり、多角バレルスパッタ法を用いて製造されたRu系触媒やNi系触媒は、二酸化炭素からメタンを生成する際の水素還元用触媒として、従来のウェット法により製造されたNi系触媒に比べて、より低温での触媒活性に適したものとなっていることが確認された。
【0033】
(2)硫黄酸化物を含む二酸化炭素の場合
次に、本発明の実施の形態で用いられる前記Ru担持TiO触媒(または前記Ni担持ZrO触媒)を硫黄酸化物を含む二酸化炭素の水素還元用触媒として、種々の濃度において用いた場合の触媒性能について評価を行った。
具体的には、本発明の適用対象の一つである、例えば石炭火力発電所等から排出される二酸化炭素ガス中には、通常数十ppmのSOが含まれているため、SO濃度を2.5~100ppmの範囲で含む二酸化炭素の導入前および導入後の経過時間とメタン収率との関係から、以下に示す実施例1~3の結果に基づいて、効率的なメタン生成が可能であるか評価を行った。
【0034】
(実施例1)
実施例1では、具体的には、反応温度を160℃とし、当初、二酸化炭素中にはSOを添加せず、メタン化を開始し、10時間後、メタン収率を安定化させた状態において、二酸化炭素中のSO濃度が設定された目標値となるようにSOの添加を開始し、SOの導入前および導入後の経過時間に対するメタンの収率を測定した。
表1および図2は、水素還元用触媒として前記Ru担持TiO触媒を用いた場合のSOの導入前および導入後の経過時間とメタンの収率との関係について、各SO濃度毎のメタン収率の経時変化として示すものである。
表1および図2によれば、導入される二酸化炭素中の硫黄酸化物の含有量が20ppm以下の2.5ppmである実施例1-1および10ppmである実施例1-2では、硫黄酸化物を含む二酸化炭素の導入後も引き続き高収率にて長時間にわたりメタンの生成を行うことができた。
これに対し、二酸化炭素中の硫黄酸化物の含有量が20ppmを超える50ppmである比較例1-1では、硫黄酸化物を含有する二酸化炭素の導入後、急激にメタンの収率が低下し、メタンの生成を行うことができなかった。
【0035】
【表1】
【0036】
(実施例2)
実施例2は、実施例1において、SOを添加した二酸化炭素の導入前のメタン収率の安定化時間を10時間から2時間に変更するとともに、反応温度を160℃から200℃に変更し、その他の条件については実施例1と同様の条件において、実施したものである。
表2および図3に、SOの導入前および導入後の経過時間とメタンの収率との関係について、各SO濃度毎のメタンの収率の経時変化として示す。
表2および図3によれば、導入される二酸化炭素中の硫黄酸化物の含有量が20ppm以下の10ppmである実施例2-1および20ppmである実施例2-2では、硫黄酸化物を含む二酸化炭素の導入後も引き続き高収率にて長時間にわたりメタンの生成を行うことができた。
これに対し、二酸化炭素中の硫黄酸化物の含有量が20ppmを超える100ppmである比較例2-1では、硫黄酸化物を含有する二酸化炭素の導入後、急激にメタンの収率が低下し、メタンの生成を行うことができなかった。
【0037】
【表2】
【0038】
(実施例3)
実施例3では、具体的には、反応温度を260℃とし、当初、二酸化炭素中にはSOを添加せず、メタン化を開始し、10時間後、メタン収率を安定化させた状態において、二酸化炭素中のSO濃度が設定された目標値となるようにSOの添加を開始し、SOの導入前および導入後の経過時間に対するメタンの収率を測定した。
表3および図4は、水素還元用触媒として前記Ni担持ZrO触媒を用いた場合のSOの導入前および導入後の経過時間とメタンの収率の関係について、導入される二酸化炭素中の硫黄酸化物の含有量が10ppmである場合のメタンの収率の経時変化を実施例3として示したものである。
表3および図4によれば、導入される二酸化炭素中の硫黄酸化物の含有量が20ppm以下の10ppmである場合には、硫黄酸化物を含む二酸化炭素の導入後も引き続き高収率にて長時間にわたりメタンの生成を行うことが理解できる。
【0039】
【表3】


【0040】
以上の実施例1~3や表1~表3および図2図4によれば、二酸化炭素中に含まれる硫黄酸化物濃度を20ppm以下に減量して調製すれば、TiO微粒子担体にRuのナノ粒子を担持させてなるRu担持TiO触媒またはZrO微粒子担体にNiナノ粒子を担持させてなるNi担持ZrO触媒などが水素還元用触媒として使用可能であることが明らかである。
【0041】
3.水素還元前の脱硫処理
以上によれば、本発明のメタンの生成方法では、排ガスの二酸化炭素中に含まれる硫黄酸化物濃度が20ppmを超えて高い場合は、その二酸化炭素に脱硫処理を施して、その中に含まれる硫黄酸化物濃度を20ppm以下に低減化させる必要がある。
具体的には、段落0026に記載した脱硫処理を施して、例えばSO濃度が60ppmの二酸化炭素である場合は、図10に示す常圧固定床流通式反応装置の活性炭を用いて脱硫処理を施すことが好ましい。
【0042】
図7は、この点に関し、SO濃度60ppmの二酸化炭素を図10の常圧固定床流通式反応装置の活性炭に導入して、活性炭出口のSO濃度とRu担持TiO触媒によるメタン収率との経時的な関係を示したものである。
そして、この図7の結果によれば、SO導入後10時間までは、SOが活性炭に吸着除去されて活性炭出口からSOが観測されない(SO濃度が0ppmである)ため、この間のメタン収率は約45%で一定である。そして、SO濃度が20ppm位まではメタン収率40%を超えて安定であるが、その後、触媒の破過によりSO濃度が増えると、メタン収率の低下が始まり、24時間後にはメタン収率が0%となって、触媒は失活したことが確認された。
【0043】
したがって、SO導入後その濃度が20ppmを超えない10数時間までは、メタンの収率が約40%を超えて安定して維持できていることから、SO濃度が20ppm以下の範囲では、触媒が被毒されず、安定してメタン化反応が行われていると推定される。
そのため、本発明では、当初、硫黄酸化物濃度が高い二酸化炭素の排ガスであっても、これに活性炭層を用いた脱硫処理を施してSO濃度20ppm以下の二酸化炭素に調製すれば、触媒の被毒による失活を抑制して長時間かつ高収率でメタンの生成が可能である。
【0044】
4.触媒の再生処理
次に、本発明者らは、本発明に用いる水素還元用触媒がメタン化反応後に、その触媒性能が低下したり、触媒の失活が生じた場合でも、触媒をパージする再生処理を施せば、触媒の性能がかなり回復可能であることを知見したので、次の実施例4において、使用済みの触媒を用いてその再利用の可能性について確認を行った。
【0045】
(実施例4)
実施例4は、使用された触媒について再生処理を行った具体例を示すものであり、表4および図5図6は、前記実施例1の表1に示される実施例1-1および実施例1-2に使用された前記Ru担持TiO触媒に対して行った再生処理の内容と、再生処理後のメタンの収率を示すものである。
表4に示す実施例4-1は、実施例1-1にて用いられた前記Ru担持TiO触媒の再生処理を行なったものである。
具体的には、図5に示すとおり、実施例4-1の再生処理においては、実施例1-1と同じ条件で引き続き、SO濃度2.5ppmを含有する二酸化炭素を導入しつつ、パージガスとしてまずArガスを導入し、25時間経過後にAr+Hガスに切り替え、さらに58時間のガス供給を行い合計83時間の再生処理を施した。その結果、50.0%まで落ちていたメタン収率がメタン化工程におけるSO含有二酸化炭素導入時のメタン収率である60.0%まで回復することが確認された。
【0046】
実施例4-2は、実施例1-2にて用いられた前記Ru担持TiO触媒について再生処理を行ったものである。
具体的には、図6に示すとおり、実施例4-2の再生処理においては、実施例1-2と同じ条件で引き続き、SO濃度10ppmを含有する二酸化炭素を導入しつつ、パージガスとしてArガスを6時間導入することで、一度失活したメタン収率を15%まで回復させることができた。さらに引き続き、Ar+Hガス雰囲気にてSOを含まない二酸化炭素を28時間導入することで、メタン化工程におけるSO含有二酸化炭素導入時の40%までメタン収率を回復することが確認された。
【0047】
以上のとおり、SO濃度が20ppm以下含む二酸化炭素のメタン化において用いられた水素還元用触媒について、その触媒の再生処理を施すことにより、SO含有二酸化炭素導入時のメタン収率まで回復できることが明らかとなった。
【0048】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、300℃未満の低温下においても硫黄酸化物を含む二酸化炭素を原料として高転化率でメタンを生成することができるため、大気中に排出される二酸化炭素の低減化に資することができるから、地球温暖化対策等においてきわめて有用である。
【符号の説明】
【0050】
1 真空チャンバー
2 八角形バレル
3 機械的振動機構
4 微粒子担体
5 スパッタリングターゲット
6 触媒層
7 反応層(反応管)
8 石英ウール
9 活性炭層
10セラミックスヒーター
図1
図2
図3
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