(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20230502BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230502BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
(21)【出願番号】P 2018241875
(22)【出願日】2018-12-25
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】古田 典利
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-056070(JP,A)
【文献】特開2016-085895(JP,A)
【文献】特開2018-073629(JP,A)
【文献】特開2017-059534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(a)及び(b)を含む、全固体リチウムイオン二次電池の製造方法であって:
(a)正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層をこの順で積層して構成された単位電池を1以上有する電池積層体を提供すること、
(b)前記電池積層体を、前記単位電池を構成する層の積層方向において、定圧拘束しながら、初期充電電圧で充電すること
、及び
(c)前記電池積層体を、前記単位電池を構成する層の積層方向において、定寸拘束すること、かつ
前記初期充電電圧が、4.45V超5.00V以下であり、
前記定圧拘束は、前記初期充電の際の前記電池積層体の膨張及び収縮により、前記電池積層体にかかる拘束圧力が過剰に大きくなるのを防ぐように拘束して行い、
前項工程(b)の前記定圧拘束と前項工程(c)の前記定寸拘束とを、それぞれ別個の定圧拘束機構及び定寸拘束機構によって行い、かつ
前記工程(b)において、前記定圧拘束機構で前記電池積層体を定圧拘束しながら、初期充電電圧で充電し、その後、前記工程(c)において、前記電池積層体を、前記定圧拘束機構から取り外して、前記定寸拘束機構で定寸拘束する、
製造方法。
【請求項2】
前記定圧拘束を、バネ、及び/又はピエゾ素子及び/又は液圧を用いて行う、請求項
1に記載の全固体リチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯機器や自動車等の電源として全固体電池が提案されている。
【0003】
電解質として固体電解質を用いる全固体電池では一般に、活物質と固体電解質との接触等を維持するために、全固体電池を構成する各層の積層方向に拘束力を付与することが行われている。
【0004】
また、全固体電池の耐久性等を改良するために、全固体電池を製造した直後であって実際の使用の前に、実際の使用の際の充放電電圧より高い初期充電電圧まで全固体電池を充電する初期充電工程を行うことが提案されている。
【0005】
このような全固体電池の拘束及び初期充電を含めて、全固体電池に関して様々な開発がなされている。
【0006】
例えば、特許文献1では、被拘束体は積層方向長さL1のばらつきを収束するための長さ調整手段を備えており、長さL1に応じて長さ調整手段をセットすることにより、組電池の積層方向の長さが規定長さLTであってかつ被拘束体の拘束圧が規定圧力Pとなるように行われる拘束工程が開示されている。
【0007】
特許文献2では、面方向に積層された複数の平形二次電池を拘束する平形二次電池用拘束装置が開示されている。より具体的には、積層された複数の平形二次電池を載置するためのフレーム、隣接する平形二次電池の間を仕切る板状スペーサー、積層された複数の平形二次電池を積層方向に押圧する押圧プレート、及び押圧プレートに押圧を提供する押圧部材、を具備し、板状スペーサーが板状シリコーンゴム製緩衝部材を有し、かつ押圧が定圧プレスである、平形二次電池の拘束装置が開示されている。
【0008】
特許文献3では、充放電電圧より高い初期充電電圧まで全固体電池を充電する初期充電工程を有する、全固体電池システムの製造方法が開示されている。また、特許文献3では、製造した全固体電池に対して拘束治具を用いて2N・mの拘束圧にて拘束しながら性能評価を行うことが開示されている。
【0009】
特許文献4では、正極とSi負極と固体電解質層との積層体、及び積層体に拘束圧力を付与する拘束部材を備える全固体リチウムイオン電池が開示されており、拘束部材による前記積層体への拘束圧力が0.1MPa以上45MPa以下である、全固体リチウムイオン電池が開示されている。
【0010】
特許文献5では、蓄電モジュールを積層方向に定圧又は定寸で拘束する拘束工程を含む蓄電モジュールへの電解液の注液方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2009-200051号公報
【文献】特開2015-022817号公報
【文献】特開2017-059534号公報
【文献】特開2018-106984号公報
【文献】特開2018-106850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
全固体電池を充放電させると、活物質層(特に負極活物質層)が膨張及び収縮する。これに対して、全固体電池の拘束方法としては、活物質層が膨張及び収縮したときにも全固体電池が略一定の寸法になるように拘束する定寸拘束、及び活物質層が膨張及び収縮したときに全固体電池を拘束する圧力が略一定になるように拘束する定圧拘束が知られている。
【0013】
このうちの定寸拘束では、拘束のための器具を単純な構成にできるという利点を有するものの、充填された際に全固体電池にかかる拘束圧力が過剰に大きくなり、それによって膨張した活物質層自体、他の活物質層、及び/又は固体電解質層が破損する可能性がある。
【0014】
他方で、定圧拘束では、充填された際に全固体電池にかかる拘束圧力が過剰に大きくなるのを防げるという利点を有するものの、拘束のための器具が比較的複雑で大きくなってしまい、結果として拘束器具を含めた全固体電池のエネルギー密度等が小さくなってしまうという問題がある。
【0015】
したがって、本開示は、上記事情を鑑みてなされたものであり、全固体電池を構成する活物質層等の破損の抑制及び全固体電池のエネルギー密度等の向上を両立できる全固体電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本開示の本発明者らは、下記工程(a)~(c)を含む全固体電池の製造方法により、上記課題を解決できることを見出した:
(a)正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層をこの順で積層して構成された単位電池を1以上有する電池積層体を提供すること、
(b)前記電池積層体を、前記単位電池を構成する層の積層方向において、定圧拘束しながら、初期充電電圧で充電すること、及び
(c)前記電池積層体を、前記単位電池を構成する層の積層方向において、定寸拘束すること。
【発明の効果】
【0017】
本開示の全固体電池の製造方法によれば、全固体電池の劣化の抑制及び全固体電池のエネルギー密度の向上を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本開示の方法に用いられる定圧・定寸拘束機構の一態様を示す概念図である。
【
図2】
図2は、本開示にかかる単位電池の一態様を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、定圧拘束機構から定寸拘束機構を取り外したときの一態様を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、説明の便宜上、各図において、同一又は相当する部分には同一の参照符号を付し、重複説明は省略する。実施の形態の各構成要素は、全てが必須のものであるとは限らず、一部の構成要素を省略可能な場合もある。ただし、以下の図に示される形態は本開示の例示であり、本開示を限定するものではない。
【0020】
《全固体電池の製造方法》
本開示の全固体電池の製造方法は、下記工程(a)~(c)を含む:
(a)正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層をこの順で積層して構成された単位電池を1以上有する電池積層体を提供すること、
(b)電池積層体を、単位電池を構成する層の積層方向において、定圧拘束しながら、初期充電電圧で充電すること、及び
(c)電池積層体を、単位電池を構成する層の積層方向において、定寸拘束すること。
【0021】
本開示において、「単位電池を構成する層の積層方向」とは、その単位電池を構成する各層が積層されている方向、すなわち単位電池又はその単位電池を構成する各層の面方向に垂直な方向を指す。
【0022】
全固体電池を製造する本開示の方法によれば、全固体電池を構成する活物質層等の破損の抑制及び全固体電池のエネルギー密度等の向上を両立できる。理論に限定されるものではないが、これは、初期充電の際の活物質層の膨張及び収縮が、実際の電池の使用の際の活物質層の膨張及び収縮よりも大きく、したがって初期充電の際に全固体電池を定圧拘束して、初期充電の際に全固体電池にかかる拘束圧力が過剰に大きくなるのを防げば、その後の実際の使用の際に全固体電池を定寸拘束していても、過剰な拘束圧力による活物質層等の破損が抑制できることによると考えられる。
【0023】
本開示の方法は、例えば
図1に示されている定圧・定寸拘束機構の一態様を用いて、全固体電池を製造することができる。
【0024】
図1(a)は、定圧・定寸拘束機構の側面の概略図である。この定圧・定寸拘束機構は、定圧押圧器10、拘束プレート11、並びに拘束治具12及び13を含む定圧拘束機構と、定寸バー20及び21、拘束プレート22及び23、並びにネジ24~31を含む定寸拘束機構を有し、これらの機構をそれぞれ分離させることができる。また、
図1(a-1)は、定圧拘束機構の横からみる正面の概念図であり、
図1(a-2)は、定寸拘束機構の横から正面の概念図である。
【0025】
このため、本開示にかかる工程(b)を行う際に、定圧拘束機構だけが働き、活物質層の膨張に合わせて、単位電池1~4を有する電池積層体5を定圧拘束することで、活物質層の膨張に由来する亀裂や変形を抑制することができ、その結果、全固体電池の劣化を抑制することができる。
【0026】
また、本開示にかかる工程(c)を行う際に、定圧拘束機構と定寸拘束機構とをそれぞれ分離させて定寸拘束機構だけが働き、電池積層体5を定寸拘束することで、電池抵抗を低減することができる。そして、定圧拘束機構を分離させることによって、全固体電池のエネルギー密度を向上することができる。
【0027】
以下では、各工程の詳細について、説明する。
【0028】
〈工程(a)〉
工程(a)では、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層をこの順で積層して構成された単位電池を1以上有する電池積層体を提供する。
【0029】
本開示の全固体電池を構成する電池積層体は、単位電池を1以上有する。
【0030】
例えば、
図1(a)に示されている電池積層体5は、単位電池1~4を4つ有している。
【0031】
ここで、単位電池は、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層をこの順で積層して構成されている。
【0032】
図2は、本開示にかかる単位電池の一態様を示す概略断面図である。
図2に示されているように、単位電池1は、正極集電体層1a、正極活物質層1b、固体電解質層1c、負極活物質層1d、及び負極集電体層1eをこの順で積層して構成されている。
【0033】
また、単位電池において、正極集電体層は、面方向に突出する正極集電体突出部を有していてよく、この正極集電体突出部には、正極集電タブが電気的に接続されていてよい。同様に、負極集電体層は、負極集電体突出部を有していてよく、この負極集電体突出部には、負極集電タブが電気的に接続されていてよい。このようなそれぞれの極の集電体突出部及び集電タブを介して、全固体電池積層体で発生した電力を外部に取り出すことができる。なお、電池積層体が複数の正極又は負極集電体層を有する場合には、それぞれの極の複数の集電体突出部を、互いに電気的に接続したうえで、それぞれの極の集電タブに電気的に接続することができる。
【0034】
例えば、
図1(a-2)では、単位電池4には、正極及び負極集電体層に電気的に接続されている集電タブ4f及び4gを確認することができる。なお、
図1(a)では、単位電池1~4のそれぞれの片方の集電タブ1f~4fを確認することができる。
【0035】
電池積層体は、単位電池を2以上有する場合、バイポーラ型の電池積層体であってもよく、モノポーラ型の積層体であってもよい。また、積層方向に隣接する2つの単位電池は、正極及び負極集電体層の両方として用いられる正極/負極集電体層を共有してもよい。更に、バイポーラ型及びモノポーラ型の電池積層体のいずれにおいても、積層方向の最外層に位置する集電体層は、同じ電極であってもよく、異なる電極であってもよい。
【0036】
単位電池を1以上有する電池積層体を提供する方法は、特に限定されず、例えば、単位電池を構成する各層を、所望の順番及び数で一層ずつ積層して、電池積層体を形成していてもよく、又は負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層を積層して3層の積層体を形成して、そしてこの3層の積層体と集電体層とをさらに積層して、電池積層体を形成していてもよく、又は単位電池を構成する各層を積層して単位電池を形成して、そして各単位電池を積層して電池積層体を形成していてもよい。
【0037】
また、単位電池を構成する活物質層及び固体電解質層は、それぞれの構成材料を圧粉成形(プレス成形)することによって、形成することができる。
【0038】
例えば、正極活物質、並びに必要に応じて用いる固体電解質、導電助剤、及びバインダー等の全固体電池の正極活物質層に用いられる添加剤を含む構成材料を、圧粉成形することによって、正極活物質層を形成することができる。また、負極活物質、並びに必要に応じて用いる固体電解質、導電助剤、及びバインダー等の全固体電池の負極活物質層に用いられる添加剤を含む構成材料を、圧粉成形することによって、負極活物質層を形成することができる。また、固体電解質、並びに必要に応じて用いる導電助剤及びバインダー等の全固体電池の固体電解質層に用いられる添加剤を含む構成材料を、圧粉成形することによって、固体電解質層を形成することができる。
【0039】
電池積層体の形状は、特に限定されず、例えば、コイン型、ラミネート型、円柱型及び角型等であってもよい。
【0040】
〈工程(b)〉
工程(b)では、電池積層体を、単位電池を構成する層の積層方向において、定圧拘束しながら、初期充電電圧で充電する。
【0041】
例えば、
図1(a)に示されている定圧・定寸拘束機構を用いて、工程(b)及び後述する工程(c)を継続で行うことができる。すなわち、単位電池1~4を有する電池積層体5を定寸拘束機構にセットしたものを、定圧拘束機構にセットして、定寸拘束機構が機能しない状態で先に工程(b)を行い、そして定圧拘束機構から定寸拘束機構を取り外した状態で工程(c)を行うことができる。
【0042】
より具体的には、工程(b)では、電池積層体5を、単位電池1~4を構成する層の積層方向において、定圧拘束しながら、初期充電電圧で充電してよい。
【0043】
ここで、定圧拘束は、定圧押圧器10、拘束プレート11、並びに拘束治具12及び13を含む定圧拘束機構の働きによって達成できる。なお、この場合、定圧拘束機構は、定寸拘束機構に備えられている拘束プレート23を介して、電池積層体5を定圧拘束することができる。
【0044】
定圧押圧器は、単位電池を構成する層が膨張しても、電池積層体に印加される圧力を略一定に保つことができる任意の構成であってよい。例えば、定圧押圧器は、バネ及び/又はピエゾ素子から構成されているものであってもよく、液体を用いる液圧(油圧)式のものであってもよい。いずれの場合においても、必要に応じて、例えばアクチュエータ及びコントローラー等を介して圧力を検出しながら、電池積層体を定圧拘束してよい。
【0045】
また、定圧押圧器の数は、特に限定されず、用いる定圧押圧器の大きさと、電池積層体の面方向の大きさとのバランスを考慮して、適宜設定することができる。
【0046】
例えば、
図1(a)に示されている定圧拘束機構では、定圧押圧器10を9個(
図1(a-1)に示されている)用いて、電池積層体5との接触面である拘束プレート23に面圧にムラを生じないように、均等に、電池積層体5に対して定圧拘束を行うことができる。
【0047】
また、定圧押圧器のバネ定数は、特に限定されず、電池積層体の構成及び大きさ等を考慮して、適宜設定することができる。例えば、電池積層体の面方向の断面積1mm2当たりで、0.5N/mm以上、1.0N/mm以上、1.5N/mm以上、又は2.0N/mm以上であってよく、また5.0N/mm以下、又は3.0N/mm以下であってよい。
【0048】
定圧拘束する際の電池積層体へ印加する圧力は、特に限定されず、電池積層体の構成に合わせて、活物質層の膨張に由来する亀裂や変形が生じない程度で、適宜に設定することができる。例えば、電池積層体へ印加する圧力は、2.0MPa以上、3.0MPa以上、4.0MPa以上、5.0MPa以上、又は7.0MPa以上であってよく、また30.0MPa以下、20.0MPa以下、10.0MPa以下、8.0MPa以下、又は6.0MPa以下であってよい。
【0049】
拘束治具及び拘束プレートは、定圧拘束機構と定寸拘束機構に設置された電池積層体を固定する役割を有する。すなわち、工程(b)において、電池積層体を、初期充電電圧で充電する際に、電池積層体の単位電池を構成する活物質層等が膨張していても、この拘束治具の固定によって、定圧押圧器が電池積層体を定圧拘束することができる。
【0050】
例えば、
図1(a)では、電池積層体5を、初期充電電圧で充電する際に、電池積層体5の単位電池1~4を構成する活物質層等が膨張していても、拘束治具12及び13、並びに拘束プレート11及び21の固定によって、定圧押圧器が電池積層体を定圧拘束することができる。
【0051】
電池積層体を、初期充電電圧で充電することによって、電池積層体を活性化することができる。
【0052】
この初期充電電圧は、製造される全固体電池システムにおいて制御される充放電電圧よりも高い電圧であってよい。例えば、充放電電圧が2.50V以上4.40V以下の範囲内で制御されることを予定する全固体電池システムを製造する場合に、初期充電電圧は4.45Vより大きく5.00V以下の値を選択することができる。
【0053】
また、所定の電圧までの初期充電は、定電流充電により行ってよい。この場合の充電レートは特に限定されず、例えば0.1C~10C程度であってよい。
【0054】
〈工程(c)〉
工程(c)では、電池積層体を、単位電池を構成する層の積層方向において、定寸拘束する。
【0055】
例えば、
図1(a)に示されている電池積層体5に対して、工程(b)を行った後に、そのまま同じ定圧・定寸拘束機構を用いて、定圧拘束機構が機能していない状態で、工程(c)を行うことができる。
【0056】
ここで、定寸拘束は、定寸バー、拘束プレート、及びネジを含む定寸拘束機構によって達成できる。
【0057】
例えば、
図1(a)に示されている定寸バー20及び21と、拘束プレート22及び23と、をネジ24~31で固定して、電池積層体5に対して、拘束寸法を一定にして定寸拘束することができる。
【0058】
なお、定寸バーと拘束プレートとを、ネジ以外による固定してもよい。例えば、定寸バーと定寸プレートとを溶接等によって固定してもよい。
【0059】
工程(c)で定寸拘束された電池積層体を全固体電池として、電池パックに組み付けて、使用に供してよい。
【0060】
例えば、上述した
図1(a)の定圧・定寸拘束機構を用いた場合、
図3(a)及び
図3(b)に示されているように、定寸拘束状態の電池積層体5を、定寸バー20及び21、拘束プレート22及び23、並びにネジ24~31を共に定圧拘束機構から取り外して、全固体電池として、電池パックに組み付けてよい。
【0061】
〈他の工程〉
本開示の方法は、工程(b)と工程(c)との間に、他の工程を更に含んでよい。例えば、本開示の方法は、(b-1)初期充電された電池積層体を、単位電池を構成する層の積層方向において、定圧拘束しながら、放電させること、及び(b-2)工程(b-1)の後、電池積層体を、単位電池を構成する層の積層方向において、定圧拘束しながら、通常充電させること、を更に含んでよい。
【0062】
〈工程(b-1)〉
工程(b-1)では、初期充電された電池積層体を、単位電池を構成する層の積層方向において、定圧拘束しながら、放電させる。
【0063】
放電させる際の電圧は特に限定されない。例えば、2.50V以上4.40V以下の範囲内で制御されることを予定する全固体電池システムを製造する場合に、電圧が3.0Vになるまで放電させてよい。
【0064】
また、所定の電圧までの放電は、定電流放電により行ってよい。この場合の放電レートは特に限定されず、例えば0.1C~10C程度であってよい。
【0065】
〈工程(b-2)〉
工程(b-2)では、工程(b-1)の後、電池積層体を、単位電池を構成する層の積層方向において、定圧拘束しながら、通常充電させる。
【0066】
通常充電電圧は、特に限定されず、電池積層体の構成に合わせて適宜設定してよい。例えば、電池積層体の理論SOC(State Of Charge)の55%~90%に相当する電圧まで充電してよい。
【0067】
所定の電圧までの充電は、定電流充電により行ってよい。この場合の充電レートは特に限定されず、例えば0.1C~10C程度であってよい。
【0068】
通常充電された電池積層体は、定圧拘束状態で1時間から数時間で保持してから、その後の工程(c)を行うことが好ましい。
【0069】
《全固体電池》
上述した方法によって製造される本開示の全固体電池は、単位電池を1以上電池積層体、及び定寸拘束機構を有する。
【0070】
以下では、単位電池を構成する各層の構成材料の具体例を説明する。なお、本開示を容易に理解するために、全固体リチウムイオン二次電池に用いられる単位電池を例として説明するが、本開示の全固体電池は、リチウムイオン二次電池に限定されず、幅広く適用できる。
【0071】
(正極集電体層)
正極集電体層に用いられる導電性材料は、特に限定されず、全固体電池に使用できるものを適宜採用されうる。例えば、正極集電体層に用いられる導電性材料は、SUS、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、又はカーボン等であってよいが、これらに限定されない。
【0072】
正極集電体層の形状として、特に限定されず、例えば、箔状、板状、メッシュ状等を挙げることができる。これらの中で、箔状が好ましい。
【0073】
(正極活物質層)
正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含み、好ましくは後述する固体電解質をさらに含む。そのほか、使用用途や使用目的等に合わせて、例えば、導電助剤又はバインダー等の全固体電池の正極活物質層に用いられる添加剤を含むことができる。
【0074】
正極活物質の材料として、特に限定されない。例えば、正極活物質は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2、Li1+xMn2-x-yMyO4(Mは、Al、Mg、Co、Fe、Ni、及びZnから選ばれる1種以上の金属元素)で表される組成の異種元素置換Li-Mnスピネル等であってよいが、これらに限定されない。
【0075】
導電助剤としては、特に限定されない。例えば、導電助剤は、VGCF(気相成長法炭素繊維、Vapor Grown Carbon Fiber)及びカーボンナノ繊維等の炭素材並びに金属材等であってよいが、これらに限定されない。
【0076】
バインダーとしては、特に限定されない。例えば、バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ブタジエンゴム(BR)若しくはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の材料、又はこれらの組合せであってよいが、これらに限定されない。
【0077】
(固体電解質層)
固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含む。固体電解質として、特に限定されず、全固体電池の固体電解質として利用可能な材料を用いることができる。例えば、固体電解質は、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、又はポリマー電解質等であってよいが、これらに限定されない。
【0078】
硫化物固体電解質の例として、硫化物系非晶質固体電解質、硫化物系結晶質固体電解質、又はアルジロダイト型固体電解質等が挙げられるが、これらに限定されない。具体的な硫化物固体電解質の例として、Li2S-P2S5系(Li7P3S11、Li3PS4、Li8P2S9等)、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-LiBr-Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-GeS2(Li13GeP3S16、Li10GeP2S12等)、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li7-xPS6-xClx等;又はこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0079】
酸化物固体電解質の例として、Li7La3Zr2O12、Li7-xLa3Zr1-xNbxO12、Li7-3xLa3Zr2AlxO12、Li3xLa2/3-xTiO3、Li1+xAlxTi2-x(PO4)3、Li1+xAlxGe2-x(PO4)3、Li3PO4、又はLi3+xPO4-xNx(LiPON)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0080】
(ポリマー電解質)
ポリマー電解質としては、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、及びこれらの共重合体等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
固体電解質は、ガラスであっても、結晶化ガラス(ガラスセラミック)であってもよい。また、固体電解質層は、上述した固体電解質以外に、必要に応じてバインダー等を含んでもよい。具体例として、上述の「正極活物質層」で列挙された「バインダー」と同様であり、ここでは説明を省略する。
【0082】
(負極活物質層)
負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含み、好ましくは上述した固体電解質をさらに含む。そのほか、使用用途や使用目的等に合わせて、例えば、導電助剤又はバインダー等の全固体電池の負極活物質層に用いられる添加剤を含むことができる。
【0083】
負極活物質の材料として、特に限定されず、リチウムイオン等の金属イオンを吸蔵及び放出可能であることが好ましい。例えば、負極活物質は、合金系負極活物質又は炭素材料等であってよいが、これらに限定されない。
【0084】
合金系負極活物質として、特に限定されず、例えば、Si合金系負極活物質、又はSn合金系負極活物質等が挙げられる。Si合金系負極活物質には、ケイ素、ケイ素酸化物、ケイ素炭化物、ケイ素窒化物、又はこれらの固溶体等がある。また、Si合金系負極活物質には、ケイ素以外の元素、例えば、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Sn、Ti等を含むことができる。Sn合金系負極活物質には、スズ、スズ酸化物、スズ窒化物、又はこれらの固溶体等がある。また、Sn合金系負極活物質には、スズ以外の元素、例えば、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Ti、Si等を含むことができる。
【0085】
これらの中で、Si合金系負極活物質は、より好ましいが、電池の充放電に伴い膨張・収縮しやすいことが知られている。この観点からは、Si合金系負極活物質を用いる場合、本開示の効果をより顕著に表現できる。
【0086】
炭素材料として、特に限定されず、例えば、ハードカーボン、ソフトカーボン、又はグラファイト等が挙げられる。
【0087】
負極活物質層に用いられる固体電解質、導電助剤、バインダー等その他の添加剤については、上述した「正極活物質層」及び「固体電解質層」の項目で説明したものを適宜採用することができる。
【0088】
(負極集電体層)
負極集電体層に用いられる導電性材料は、特に限定されず、全固体電池に使用できるものを適宜採用されうる。例えば、負極集電体層に用いられる導電性材料は、SUS、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、又はカーボン等であってよいが、これらに限定されない。
【0089】
負極集電体層の形状として、特に限定されず、例えば、箔状、板状、メッシュ状等を挙げることができる。これらの中で、箔状が好ましい。
【実施例】
【0090】
以下、本開示について実施例の形式で詳細に説明する。以下の実施例は、本開示の用途を何ら限定するものではない。
【0091】
《実施例1》
単位電池1~4を有する電池積層体を準備した。
【0092】
この電池積層体を
図1(a)に示されている定圧・定寸拘束機構にセットした。そして、電池積層体を、単位電池を構成する層の積層方向において、定圧拘束しながら、初期充電電圧で充電した。
【0093】
より具体的には、電池積層体の面方向の断面積3mm2当たり2N/mmのバネ定数の定圧押圧器9個を用いて、電池積層体への印加圧力を5MPaとして定圧拘束した。
【0094】
そして、初期充電は、電圧0から4.55Vまで0.1CAで行った。この初期充電電
圧で充電したときの電池積層体に印加される圧力が5MPaで一定であった。
【0095】
次に、電池積層体の電圧が4.55Vに到達したら、3.0Vまで0.1CAで放電させた。
【0096】
その後、SOC60%相当の電圧3.8Vまで、0.3CAで定電流充電して、3.8Vを1時間保持させた。
【0097】
その後、定圧拘束機構が機能していない状態で、単位電池を構成する層の積層方向において、電池積層体の両端にある拘束プレートと定寸バーとをネジで固定して、この電池積層体を、定寸拘束した。
【0098】
最後に、定寸拘束状態の電池積層体を拘束プレート、定寸バー、及びネジと共に定圧拘束機構から取り外して、定寸拘束状態の実施例1の全固体電池を製造した。
【0099】
《比較例1》
上述した実施例1における電池積層体を製造した後、電池積層体を定寸拘束して、比較例1の全固体電池を製造した。
【0100】
《評価》
〈初期充電後の電池積層体の状態〉
実施例1及び比較例1の電池積層体に対して、初期充電前後のそれぞれの電池積層体の端部をX線で撮影した。
【0101】
その結果、比較例1の電池積層体は、初期充電後に、初期充電前に比べて、正極活物質層、負極活物質層及び固体電解質層の端部が飛び出ており、滑落してしまった部分があった。
【0102】
これに対して、実施例1の電池積層体は、初期充電後に、初期充電前と比べて、変化がほとんどなかった。すなわち、実施例1の電池積層体は、初期充電による電池の劣化が見られなかった。
【0103】
〈電池性能〉
実施例1及び比較例1の全固体電池に対して、インピーダンス評価を行った。
【0104】
その結果、比較例1の全固体電池に比べて、実施例1の全固体電池は、インピーダンスがより小さくなっていることが分かった。すなわち、実施例1の全固体電池の電池性能は、比較例1の全固体電池の電池性能よりも良好であった。
【符号の説明】
【0105】
1、2、3、4 単位電池
5 電池積層体
1a 正極集電体層
1b 正極活物質層
1c 固体電解質層
1d 負極活物質層
1e 負極集電体層
1f、2f、3f、4f、4g 集電タブ
10 定圧押圧器
11 拘束プレート
12、13 拘束治具
20、21 定寸バー
22、23 拘束プレート
24、25、26、27、28、29、30、31 ネジ