IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニヴェルシテ ドゥ パリの特許一覧 ▶ アンスティテュ ナシオナル ドゥ ラ サントゥ エ ドゥ ラ ルシェルシェ メディカル(イーエヌエスエーエールエム)の特許一覧 ▶ アシスタンス パブリク−オピトー ドゥ パリの特許一覧

特許7272796癌の治療に有用なNFATC4を発現する細胞の分泌型細胞外小胞を含有する組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】癌の治療に有用なNFATC4を発現する細胞の分泌型細胞外小胞を含有する組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/12 20150101AFI20230502BHJP
   A61K 35/13 20150101ALI20230502BHJP
   A61K 35/33 20150101ALI20230502BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230502BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20230502BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20230502BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230502BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20230502BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20230502BHJP
   A61K 35/17 20150101ALN20230502BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20230502BHJP
   C12N 5/073 20100101ALN20230502BHJP
   C12N 5/09 20100101ALN20230502BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20230502BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20230502BHJP
   C12N 15/867 20060101ALN20230502BHJP
【FI】
A61K35/12 ZNA
A61K35/13
A61K35/33
A61P35/00
A61P35/04
C12Q1/68
G01N33/53 M
G01N33/574 A
G01N33/68
A61K35/17
C12N5/071
C12N5/073
C12N5/09
C12N5/10
C12N15/113 Z
C12N15/867 Z
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2018551221
(86)(22)【出願日】2017-03-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-05-30
(86)【国際出願番号】 EP2017057374
(87)【国際公開番号】W WO2017167788
(87)【国際公開日】2017-10-05
【審査請求日】2020-03-27
(31)【優先権主張番号】16305362.2
(32)【優先日】2016-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(73)【特許権者】
【識別番号】500248467
【氏名又は名称】アンスティテュ ナシオナル ドゥ ラ サントゥ エ ドゥ ラ ルシェルシェ メディカル(イーエヌエスエーエールエム)
(73)【特許権者】
【識別番号】505138886
【氏名又は名称】アシスタンス パブリク-オピトー ドゥ パリ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100203828
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多村 久美
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン ジョリアック
(72)【発明者】
【氏名】リビア カマルゴ
【審査官】植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】Oncogene,2010年,Vol.29,pp.2292-2301
【文献】Front Oncol,2014年,Vol.4, No.127,pp.1-8
【文献】Cancer Lett,2015年,Vol.361,pp.174-184
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K35/00-35/768
A61K38/00-38/58
A61P 1/00-43/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形癌の治療あるいは転移性固形癌の治療又は予防における使用のための、細胞の分泌型細胞外小胞(secreted extracellular vesicles)(SEV)を含有する組成物であって、前記細胞が、活性化T細胞、細胞質、カルシニューリン依存性4核内因子(nuclear factor of activated T-cells, cytoplasmic, calcineurin-dependent 4 )(NFATC4)を発現する細胞であり、
ここで、前記NFATC4を発現する細胞は、以下:
・エストロゲン受容体α(ERA)を発現する少なくとも1つの乳癌細胞の浸潤指数以下である、インビトロでの浸潤アッセイにおける浸潤指数を有する乳癌細胞、
・SKmel23及びWM164細胞株の少なくとも1つの浸潤指数以下である、インビトロでの浸潤アッセイにおける浸潤指数を有する黒色腫癌細胞、及び
・NFATC4をコードする核酸分子を含む発現ベクターによってトランスフェクトされた細胞、
からなる群から選択される、組成物。
【請求項2】
前記NFATC4を発現する細胞のSEVが、乳癌細胞から精製されており、前記乳癌細胞が、ヒト細胞株T-47D、MCF7、BT-474、ZR-75-1、及びマウス細胞株67NRの少なくとも1つの浸潤指数以下である、インビトロでの浸潤アッセイにおける浸潤指数を有する、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
前記NFATC4を発現する細胞のSEVが、乳癌細胞から精製されており、前記乳癌細胞が、ヒト細胞株T-47D、MCF7、BT-474、ZR-75-1、及びマウス細胞株67NRからなる群から選択される、請求項2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
前記NFATC4を発現する細胞のSEVが、NFATC4をコードする核酸分子を含む発現ベクターによってトランスフェクトされた細胞から精製されている、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
前記NFATC4をコードする核酸分子を含む発現ベクターによってトランスフェクトされた細胞が、以下:
・エストロゲン受容体α(ERA)を発現する少なくとも1つの乳癌細胞の浸潤指数以下である、インビトロでの浸潤アッセイにおける浸潤指数を有する乳癌細胞、
・SKmel23及びWM164細胞株の少なくとも1つの浸潤指数以下である、インビトロでの浸潤アッセイにおける浸潤指数を有する黒色腫癌細胞、及び
・正常細胞、
からなる群から選択される、
請求項4に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
前記正常細胞が、治療されることになる患者由来の自己線維芽細胞、又はHEK293T細胞である、請求項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
前記固形癌が、乳癌、黒色腫、膵臓癌、膠芽腫(glioblastoma)、結腸直腸癌、及び肺癌からなる群から選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
前記NFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物が、静脈内又は腫瘍内経路によって投与されることを意図している、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
細胞の試料からNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物を調製するための方法であって、以下:
a)前記細胞においてNFATC4発現又は活性を誘導し;
b)前記誘導細胞を、その増殖を可能にする条件下で、SEVを含まない培養培地中で培養し;並びに
c)誘導細胞のSEVを精製すること、
を含む、方法。
【請求項10】
SEVを含有する組成物を調製するために使用される細胞が、以下:
・エストロゲン受容体α(ERA)を発現する少なくとも1つの乳癌細胞の浸潤指数以下である、インビトロでの浸潤アッセイにおける浸潤指数を有する乳癌細胞、
・SKmel23及びWM164細胞株の少なくとも1つの浸潤指数以下である、インビトロでの浸潤アッセイにおける浸潤指数を有する黒色腫癌細胞、及び
・正常細胞、
からなる群から選択される、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記正常細胞が、治療されることになる患者由来の自己線維芽細胞である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
NFATC4発現の誘導が、NFATC4をコードする核酸分子を含む発現ベクターで、細胞をトランスフェクトすることによって行われる、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記発現ベクターが、プラスミド又はウイルス発現ベクターである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
トランスフェクトされた細胞のSEVが、超遠心分離によって、以下のステップ:
a)培養した細胞を1350RPMで10分間4℃でスピンし、上清を回収し;
b)回収した上清を3500RPMで20分間4℃でスピンし、上清を回収し;
c)回収した上清を10,000RPMで30分間4℃でスピンし、上清を回収し;
d)回収した上清を40,000RPMで90分間4℃で超遠心分離し、ペレットを回収し;
e)ペレットを冷PBS中に再懸濁し;並びに
f)40,000RPMで90分間4℃で超遠心分離し、ペレットを回収すること、
を用いて精製される、請求項9から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
治療の開始前に採取した固形癌患者の第1の生物学的試料と、治療の開始後の固形癌患者の第2の対応する生物学的試料とから、治療を受けた固形癌患者におけるNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物による治療の治療効率を決定するためのインビトロ方法であって、前記方法は、以下:
a)前記第1及び第2の生物学的試料において少なくともトランスフォーミング成長因子ベータ1(TGFβ1)発現レベルをインビトロで測定し;
b)少なくとも測定されたTGFβ1発現レベルを比較し;並びに
c)前記比較から、前記治療された固形癌患者におけるNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物による治療の効率を決定し、ここで、治療の開始後の生物学的試料において測定されたTGFβ1発現レベルが、治療の開始前の生物学的試料において測定されたTGFβ1発現レベルよりも高い場合に、治療が効率的であると考えられること、
を含み、
ここで、前記NFATC4を発現する細胞は、以下:
・エストロゲン受容体α(ERA)を発現する少なくとも1つの乳癌細胞の浸潤指数以下である、インビトロでの浸潤アッセイにおける浸潤指数を有する乳癌細胞、
・SKmel23及びWM164細胞株の少なくとも1つの浸潤指数以下である、インビトロでの浸潤アッセイにおける浸潤指数を有する黒色腫癌細胞、及び
・NFATC4をコードする核酸分子を含む発現ベクターによってトランスフェクトされた細胞、
からなる群から選択される、方法。
【請求項16】
前記生物学的試料が、腫瘍試料、血液試料、血清試料、及び尿試料からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
固形癌患者の癌試料から、固形癌患者におけるNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物による治療の治療効率を予測するためのインビトロ方法であって、前記方法は、以下:
a)前記癌試料において少なくともTGFβ1発現レベルをインビトロで測定し;
b)前記癌試料を、NFATC4を発現するSEVを含有する組成物と共にインキュベートし;
c)NFATC4を発現する細胞によるSEVを含有する組成物と共にインキュベートした前記癌試料において、少なくともTGFβ1発現レベルをインビトロで測定し;並びに
d)ステップc)で測定したTGFβ1発現レベルが、ステップa)で測定したTGFβ1発現レベルよりも高い場合に、前記固形癌患者におけるNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物による治療を効率的と予測し、そして、ステップc)で測定したTGFβ1発現レベルが、ステップa)で測定したTGFβ1発現レベル以下である場合に、前記固形癌患者におけるNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物による治療を非効率的と予測すること、
を含み、
ここで、前記NFATC4を発現する細胞は、以下:
・エストロゲン受容体α(ERA)を発現する少なくとも1つの乳癌細胞の浸潤指数以下である、インビトロでの浸潤アッセイにおける浸潤指数を有する乳癌細胞、
・SKmel23及びWM164細胞株の少なくとも1つの浸潤指数以下である、インビトロでの浸潤アッセイにおける浸潤指数を有する黒色腫癌細胞、及び
・NFATC4をコードする核酸分子を含む発現ベクターによってトランスフェクトされた細胞、
からなる群から選択される、方法。
【請求項18】
前記固形癌患者の2つの生物学的試料におけるTGFβ1の発現レベルが、核酸レベルで、又はタンパク質レベルで測定される、請求項15から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記固形癌が、乳癌、黒色腫、膵臓癌、膠芽腫、結腸直腸癌、及び肺癌からなる群から選択される、請求項15から18のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は腫瘍学の分野にあり、より詳細には癌及び転移性癌の治療に関する。本発明は、癌の治療あるいは転移性癌の治療又は予防における使用のための、細胞の分泌型細胞外小胞(SEV)を含有する組成物であって、斯かる細胞が、活性化T細胞、細胞質、カルシニューリン依存性4核内因子(NFATC4)を発現する細胞である、組成物に関する。本発明はさらに、癌患者におけるNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物による治療の治療効率を決定又は予測するためのインビトロ方法であって、発現レベルの増大を誘導するNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物の能力に基づく方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
乳癌は世界中の女性の死亡率の主要な原因である。これら患者の主な死因は原発性腫瘍ではなく遠隔転移であり、これは、癌細胞の遊走性及び浸潤性の表現型に直接関連している。さらに、抗癌剤に対するデノボ(de novo)耐性及び獲得耐性は、依然として乳癌の治療における主要な障害である。また、治療に対する耐性は、しばしば、増大した癌の浸潤能及び転移の発生に関連し、いくつかの治療が、最初は原発性癌を治療するのに効率的であるが、同時に、より浸潤性の細胞の出現を促進し、最終的に治療に対する耐性と併せて転移をもたらすことを示唆している。他の癌についても同様である。したがって、原発性癌に対して効率的であるだけでなく、浸潤能及び転移の発生を阻害することになる新たな治療法が必要とされている。
【0003】
また、全ての患者に有効な治療法は無く、任意の所与の治療法に対して耐性である患者の割合は異なることがよく知られている。非効率的な治療の長期投与(費用がかかるだけでなく患者の健康に有害でもある)を避けるために、患者を治療する前又は直後に、所与の患者についての所与の治療法の効率を予測するか又は少なくとも決定する能力を有する試験も必要とされている。
【0004】
別の研究により、分泌型細胞外小胞(SEV)は、腫瘍組織及び多くの体液において容易に検出することができ、かつ、癌患者の腫瘍組織と、血清及び血漿との両方において高濃度で検出されることが明らかになった(Ticknerら、Front Oncol 4、127(2014))。分泌型細胞外小胞(SEV)は、約40nm~数μmのサイズの範囲の細胞分泌小胞を指す一般用語である。その中でも、エクソソームは、最も顕著に説明されたクラスのSEVを含む。エクソソームは、約150nm未満の直径を有し、かつエンドソーム区画の誘導体である。SEVは、親細胞に由来する細胞質及び膜タンパク質を含む。SEVのタンパク質含有量はそれらの細胞起源に依存し、SEVは特定の分子、特にエンドソーム関連タンパク質(例えばCD63)及び多胞体形成に関与するタンパク質に富んでいるだけでなく、標的化/接着分子も含む。注目すべきことに、SEVは、タンパク質だけでなく機能的mRNA、長鎖非コードRNA及びmiRNAも含み、場合によっては、受容細胞にそれらの遺伝物質を送達することが示されている。SEVの積荷(cargo)は、潜在的に特に、腫瘍に対する標的化治療のために興味深く、それは、SEVが細胞外区画に分泌されるためであり、細胞外区画では、それらの内容物がその脂質膜のために分解から保護され、1つの細胞から排出されたSEVは、周囲の細胞と融合することができ、従ってシグナル伝達応答を開始する可能性を有することが知られている(Hendrix, A.ら、Cancer Res.70、9533-9537(2010))。
【0005】
しかしながら、癌細胞由来SEVは、多くが癌の進行及び転移に関与していることが示されている(van der Pol E.ら、Pharmacol Rev 64:A-AD、2012)。注目すべきことに、SEVは、乳癌の腫瘍形成、転移及び薬物耐性における汎用性のあるプロモーターとして機能することが示されている(Yuら、Cancer Sci 106(2015)959-964)。同様に、MFGE8/ラクトアドヘリン27のC1C2-ドメインに融合した膜結合型ルシフェラーゼを暴露する腫瘍由来SEVを用いた研究は、血液循環においてわずか2分間の半減期を示す。それらが循環から消えた数時間後に、SEVは脾臓で回収され、黒色腫由来のSEVはまた、肺、肝臓、及び骨髄-好ましい転移部位と考えられる器官に蓄積した(Peinado, H.ら、Nat.Med.18、883-891(2012);Takahashi, Y.ら、J.Biotechnol.165、77-84(2013))。別の研究は、近年、MDA-MB-231由来のSEVがインビボでT47D細胞に輸送され、その浸潤を増強し得ることを示した(Zomer, A.ら、Cell 161、1046-1057(2015))。これは、周囲及び遠隔組織の両方が原発性腫瘍の特徴をとることが知られているため、腫瘍形成において特に重要である。最近の研究により、乳癌SEVが、腫瘍増殖を促進するプレmiRNA(pre-miRNA)突然変異の部位であることが示されている(Melo, S.A.ら、Cancer Cell 26、707-721(2014))。癌細胞由来SEVの使用は、癌治療に有用というよりもむしろ有害であると思われる。
【0006】
結果として、SEVを用いて癌を治療するためのほとんどの試みは、癌特異的物質に対する免疫応答を促すという発想に依存しており、この発想は、腫瘍特異的ペプチドを充填した抗原提示細胞(APC)由来SEV(特に樹状細胞(DC)由来エクソソーム、免疫応答を開始するのに有用な分子に富んでいる)を用いる。いくつかの免疫応答が観察されているが、観察された治療効率は一般に低かった(van der Pol E.ら、Pharmacol Rev 64:A-AD、2012)。
【0007】
NFAT転写因子のファミリーは5つの遺伝子を含む。NFATファミリーの特定のメンバーを含む分子経路は、乳癌細胞の遊走及び浸潤能において強調されている(Jauliac Sら、(2002)、Nat Cell Biol 4:540-544)。また、発癌におけるNFAT因子の機能についての証拠が増えている(Mancini M、Toker A.(2009)、Nat Rev Cancer 9:810-820)。NFATC4(NFAT3としても知られている)は、Lipocalin 2遺伝子を標的化することによって乳癌細胞の運動性を阻害することが示されている。特に、NFAT3は、低浸潤能のエストロゲン受容体a陽性(ERA+)乳癌細胞で特に発現していること、並びに、NFAT3の発現ベクターによる形質導入は、ERA+(低浸潤能)及びERA-(高浸潤能)乳癌細胞両方の浸潤を阻害することが示されている(Fougere, M.ら、(2010)、Oncogene、29(15)、2292-2301)。
【0008】
しかしながら、SEV組成物は、それを分泌する細胞によって影響を受けるが、SEVの分子組成はそれを分泌する細胞の単なる反映ではない。対照的に、SEVは特定のタンパク質、脂質及びRNAに富んでいるが、他のものは存在しないため、SEVへの分子の分類を制御する特殊なメカニズムが存在することを示している(Villarroya-Beltri C.ら、Semin Cancer Biol.2014 October ;28:3-13;Al-Nedawi, K.ら、Nature Publishing Group 10、619-624(2008);Ohshima, K.ら、PLoS ONE 5、e13247(2010);Soldevilla, B.ら、Hum.Mol.Genet.23、467-478(2014))。特に、SEVは、それを分泌する細胞の膜貫通受容体、特に発癌性膜貫通受容体、例えばEGFRvIIIを含んでいることが知られている(Al-Nedawi, K.ら、Nature Publishing Group 10、619-624(2008))。しかしながら、それを分泌する細胞の転写因子のSEVにおける存在を保証することはできない。例えば、Al-Nedawi, K.らは、EGFRvIII+グリオーマ細胞SEVが発癌性膜貫通受容体EGFRvIIIを含み、それを他のEGFRvIII-グリオーマ細胞に送るが、EGFRvIIIエフェクター、例えばErk1/2及びAktは、SEVにおいてほとんど検出不可能であることを示した。
【0009】
また、低浸潤能及び高浸潤能両方の乳癌細胞株によって分泌されたSEVは、細胞遊走を促進することも示されており(Harris DA、ら、PLoS ONE 10(3):e0117495.)、そのようなSEVはむしろ癌の進行及び浸潤を促進するであろうことを示唆している。
【発明の概要】
【0010】
発明の概要
本発明の文脈において、発明者ら驚くべきことに、ヒト線維芽細胞又は高度に浸潤性の乳癌細胞株によって産生されたSEVとは対照的に、低浸潤性乳癌細胞によって分泌されたSEVであって、NFATC4を発現するSEVは、癌の進行及び浸潤を促進しないが、代わりにインビトロでの浸潤を阻害し、かつインビボ異種移植モデルでの腫瘍増殖及び転移を阻害することを見出した。本発明者らはまた、驚くべきことに、高度に浸潤性の細胞株の浸潤能に対する低浸潤性乳癌細胞によって産生されたSEVの阻害効果が、低浸潤性SEV産生細胞におけるNFATC4の発現を必要とすることも見出した。
【0011】
本発明者らはさらに、低浸潤性SEV産生細胞におけるNFATC4の発現が、高度に浸潤性の乳癌細胞株におけるTGFβ1発現のデノボ誘導をもたらし、これは、SEVがインビトロで乳癌細胞浸潤を調節するために必要であり、かつインビボでの治療効率と相関していることを予期せず見出した。したがって、低浸潤性癌細胞によって産生されたSEVを投与された患者におけるTGFβ1濃度の上昇は、治療の治療効率のバイオマーカーとして使用され得る。
【0012】
したがって、第1の態様では、本発明は、癌の治療あるいは転移性癌の治療又は予防における使用のための、細胞の分泌型細胞外小胞(SEV)を含有する組成物であって、斯かる細胞が、活性化T細胞、細胞質、カルシニューリン依存性4核内因子(NFATC4)を発現する細胞である、組成物に関する。
【0013】
第2の態様では、本発明はまた、細胞の試料からNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物を調製するための方法であって、以下:
a)前記細胞においてNFATC4発現又は活性を誘導し;
b)前記誘導細胞を、その増殖を可能にする条件下で、SEVを含まない培養培地中で培養し;並びに
c)誘導細胞のSEVを精製すること、
を含む、方法に関する。
【0014】
第3の態様では、本発明はまた、治療の開始前に採取した癌患者の第1の生物学的試料と、治療の開始後の癌患者の第2の対応する生物学的試料とから、治療された癌患者におけるNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物による治療の治療効率を決定するためのインビトロ方法であって、以下:
a)前記第1及び第2の生物学的試料において少なくともトランスフォーミング成長因子ベータ1(TGFβ1)発現レベルをインビトロで測定し;
b)測定されたTGFβ1発現レベルを比較し;並びに
c)前記比較から、前記治療された癌患者におけるNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物による治療の効率を決定し、ここで、治療の開始後の生物学的試料において測定されたTGFβ1発現レベルが、治療の開始前の生物学的試料におけるTGFβ1発現レベルよりも高い場合に、治療が効率的であると考えられること、
を含む、方法に関する。
【0015】
第4の態様では、本発明はまた、癌患者の癌試料から、癌患者におけるNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物による治療の治療効率を予測するためのインビトロ方法であって、以下:
a)前記腫瘍試料において少なくともTGFβ1発現レベルをインビトロで測定し;
b)前記癌試料を、NFATC4を発現するSEVを含有する組成物と共にインキュベートし;
c)NFATC4を発現する細胞によるSEVを含有する組成物と共にインキュベートした前記腫瘍試料において、少なくともTGFβ1発現レベルをインビトロで測定し;並びに
d)ステップc)で測定した少なくともTGFβ1発現レベルが、ステップa)で測定した少なくともTGFβ1発現レベルよりも高い場合に、前記癌患者におけるNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物による治療を効率的と予測し、そして、ステップc)で測定した少なくともTGFβ1発現レベルが、ステップa)で測定した少なくともTGFβ1発現レベル以下である場合に、前記癌患者におけるNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物による治療を非効率的と予測すること、
を含む、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】T47D及びMDA-MB-231細胞によって産生されたSEVのサイズ及び特異的マーカーによる特徴付け。NanoSightによって評価した、MDA-MB-231(A)及びT47D(B)によって産生されたSEVのサイズ分布の代表例。SEV濃度(粒子/ml:pp/mL)を粒子サイズ(nm)の関数で示す。(C)SEV特徴付けのためのウェスタンブロット:全細胞タンパク質抽出物を、カルネキシンに対する抗体;CD63及びCD81を用いて両方の細胞型についてSEVタンパク質画分と比較した。
図2】低浸潤性T47D及びMCF7細胞によって産生されたSEVは、高度に浸潤性のMDA-MB-231及びSUM159PT乳癌細胞並びにWM.266.4黒色腫細胞の浸潤を阻害する。(A)WT T47D又はWT MDA-MB-231によって、あるいは2つの異なる女性の肌から得られた2つの異なる原発性真皮線維芽細胞(FHN21、FHN32)によって産生された3,75x108ppのSEVのいずれかで、MDA-MB-231を24時間処理し、そして、インビトロで6時間浸潤アッセイに供した(n=2;*p<0,05)。浸潤指数は、任意に1に設定した対照ウェル中の浸潤性細胞の数と比較した、処理ウェル中の浸潤性細胞の数の割合として計算される。(B)黒色腫細胞株(WM.266.4)を、WT T47Dによって産生された3,75x108ppのSEVで24時間処理し、インビトロで6時間浸潤アッセイに供した(n=3;**p<0,005)。(C)MDA-MB-231を、WT T47D又はWT MCF7のいずれかによって産生された3,75x108ppのSEVで24時間処理し、インビトロで6時間浸潤アッセイに供した(n=3;***p<0,0005)。(D)SUM-159-PTを、WT T47D又はWT MCF7のいずれかによって産生された3,75x108ppのSEVで24時間処理し、インビトロで6時間浸潤アッセイに供した(n=3;***p<0,0005)。
図3】低浸潤性乳癌細胞由来のSEVは、高度に浸潤性の乳癌細胞の増殖を改変しない。T47D-WT由来のSEVの指示量を用いて、高度に浸潤性のMDA-MB-231(n=2)(A)を24時間処理し、かつSUM-159-PT(n=2)(B)を24、48及び72時間処理し、BrdU取り込み(A)又は直接細胞計数(B)のいずれかによって細胞増殖を評価した。(C)高度に浸潤性のMDA-MB-231を、T47D-WT由来のSEVを用いて48時間処理して、細胞アポトーシスを評価した(n=2)。
図4】高浸潤性細胞株(MDA-MB-231及びSUM-159-PT)の浸潤能に対するSEVの阻害効果は、低浸潤性SEV産生細胞株T47DにおけるNFAT3の発現を必要とする。(A)shCtrl、shNFAT3-3又はshNFAT3-4のいずれかを発現するT47D細胞のウェスタンブロット。細胞溶解物全体を抗NFAT3によって暴露し、タンパク質の量を抗アクチンとの暴露によって正規化した。高度に浸潤性のMDA-MB-231(B)又はSUM159PT(C)細胞を、低浸潤性T47D乳癌細胞株WTによって産生されたSEV、あるいは、内在性NFAT3の発現を50%に減少させるshRNA(shNFAT3-3、shNFAT3-4)並びに、対照としてのshRNA対照(shCtrl)を安定して発現するSEVで前処理し又は前処理せずに、それらの浸潤能を試験した(n=3,**p<0.005)。浸潤指数は、任意に1に設定した対照ウェル中の浸潤性細胞の数と比較した、処理ウェル中の浸潤性細胞の数の割合として計算される。
図5】MDA-MB-231細胞におけるTGFb1のデノボ誘導は、乳癌細胞浸潤を調節するためにSEVを必要とする。(A)MDA-MB-231を、アクチノマイシンの存在下又は非存在下で、WT-T47Dによって分泌されたSEVと共にインキュベートし、TGFβ1をELISAによって測定した(n=2;*p<0,05)。(B)高度に浸潤性のMDA-MB-231を、siRNA対照により、又は内在性TGFb1に向けられたsiRNAにより、一時的にトランスフェクトし、低浸潤性WT-T47D乳癌細胞株によって産生されたSEVで前処理し又は前処理せずに、それらの浸潤能について試験した。場合によっては、MDA-MB-231を外因性TGFb1で処理して、siRNAの効果を逆転させた(n=2;*p<0,005)。
図6】WT-T47D細胞によって産生されたSEVは、hTGFB1プロモーターの活性を上方制御する能力がある。(A)hTGFb1プロモーターの模式図。6つの潜在的なNFAT結合部位がNFAT結合部位を用いて見出され、それらはアドレス:ソフトウェア:http://www.fast-db.com/perl/nfat.plで開発され;+1開始部位に対する相対位置が示されている。(B)SUM-159-PT細胞を、pCS4-(n)-b-ガラクトシダーゼ及びhTGFb1プロモータープラスミド又は対照としてのpGL3ベーシックベクターを用いてコトランスフェクトし、WT-T47DからのSEVで処理するか又は処理しないままとした。24時間後、細胞を、ルシフェラーゼ及びb-ガラクトシダーゼ活性について分析した。hTGFb1プロモーター媒介性ルシフェラーゼ活性の定量化はb-ガラクトシダーゼの活性に対して正規化され、pGL3ベーシックベクターの対照ルシフェラーゼ活性と比較した。(n=2;*p<0,005)。
図7A-7B】低浸潤性乳癌細胞株によって産生されたSEVの静脈内注射は、腫瘍増殖及び転移の出現を阻害し、TGFb1の誘導と相関する。(A)100mlのPBS中の1.106個のMDA-MB-231細胞(D3H2LN)を、それぞれ6週齢の雌のマウスAthymic Nude-Foxn1nuマウスの左脂肪体(left Fat Pad)に注射した。腫瘍増殖は、平均腫瘍体積(cm3)として、脂肪体における細胞移植の7日後に、PBSで毎週静脈内注射されたマウスN°629(A及びB)からのデータ、並びに、WT T-47Dによって産生された50.108ppのSEVで毎週静脈内注射されたマウスN°610(A)又はN°625(B)からのデータにより、提示される。血液中の血清TGFb1測定は、ng/mlとして、PBSで毎週静脈内注射されたマウスN°629(A及びB)からのデータ、並びに、WT T47Dによって産生された50.108ppのSEVで毎週静脈内注射されたマウスN°610(A)又はN°625(B)からのデータにより、提示される。(C及びD)42日に開始して、毎週、生物発光画像(原発性腫瘍は黒色組織で遮蔽された)を、Xenogenシステムで取得して、転移性MDA-MB-231細胞によって生成された平均光子束を定量した。転移の定量化は、転移性MDA-MB-231細胞によって生成された平均光子束として、PBSで毎週静脈内注射されたマウスN°629(C及びD)からのデータ、並びに、WT T47Dによって産生された50.108ppのSEVで毎週静脈内注射されたマウスN°610(C)又はN°625(D)からのデータにより、提示される。血中のTGFb1測定は、ng/mlとして、PBSで毎週静脈内注射されたマウスN°629(A及びB)からのデータ、並びに、WT T47Dによって産生された50.108ppのSEVを静脈内に毎週注射されたマウスN°610(C)又はN°625(D)からのデータにより提示される。
図7C-7D】低浸潤性乳癌細胞株によって産生されたSEVの静脈内注射は、腫瘍増殖及び転移の出現を阻害し、TGFb1の誘導と相関する。(A)100mlのPBS中の1.106個のMDA-MB-231細胞(D3H2LN)を、それぞれ6週齢の雌のマウスAthymic Nude-Foxn1nuマウスの左脂肪体(left Fat Pad)に注射した。腫瘍増殖は、平均腫瘍体積(cm3)として、脂肪体における細胞移植の7日後に、PBSで毎週静脈内注射されたマウスN°629(A及びB)からのデータ、並びに、WT T-47Dによって産生された50.108ppのSEVで毎週静脈内注射されたマウスN°610(A)又はN°625(B)からのデータにより、提示される。血液中の血清TGFb1測定は、ng/mlとして、PBSで毎週静脈内注射されたマウスN°629(A及びB)からのデータ、並びに、WT T47Dによって産生された50.108ppのSEVで毎週静脈内注射されたマウスN°610(A)又はN°625(B)からのデータにより、提示される。(C及びD)42日に開始して、毎週、生物発光画像(原発性腫瘍は黒色組織で遮蔽された)を、Xenogenシステムで取得して、転移性MDA-MB-231細胞によって生成された平均光子束を定量した。転移の定量化は、転移性MDA-MB-231細胞によって生成された平均光子束として、PBSで毎週静脈内注射されたマウスN°629(C及びD)からのデータ、並びに、WT T47Dによって産生された50.108ppのSEVで毎週静脈内注射されたマウスN°610(C)又はN°625(D)からのデータにより、提示される。血中のTGFb1測定は、ng/mlとして、PBSで毎週静脈内注射されたマウスN°629(A及びB)からのデータ、並びに、WT T47Dによって産生された50.108ppのSEVを静脈内に毎週注射されたマウスN°610(C)又はN°625(D)からのデータにより提示される。
図8A-8B】低浸潤性乳癌細胞株によって産生されたSEVの腫瘍内注射は、腫瘍増殖及び転移の出現を阻害し、TGFb1の誘導と相関する。(A)100mlのPBS中の1.106個のMDA-MB-231細胞(D3H2LN)を、それぞれ6週齢の雌のマウスAthymic Nude-Foxn1nuマウスの左脂肪体に注射した。腫瘍増殖は、平均腫瘍体積(cm3)として、脂肪体への細胞移植の7日後に、PBSで毎週腫瘍内注射されたマウスN°617(A及びB)からのデータ、並びに、WT T-47Dによって産生された50.108ppのSEVで毎週腫瘍内注射されたマウスN°614(A)又はN°602(B)からのデータにより、提示される。血液中の血清TGFb1測定は、ng/mlとして、PBSで毎週腫瘍内注射されたマウスN°629(A及びB)からのデータ、並びに、WT T47Dによって産生された50.108ppのSEVで毎週静脈内注射されたマウスN°617(A)又はN°602(B)からのデータにより提示される。(C及びD)42日に開始して、毎週、生物発光画像(原発性腫瘍は黒色組織で遮蔽された)を、Xenogenシステムで取得して、転移性MDA-MB-231細胞によって生成された平均光子束を定量した。転移の定量化は、転移性MDA-MB-231細胞によって生成された平均光子束として、PBSで毎週腫瘍内注射されたマウスN°617(C及びD)からのデータ、並びに、WT T47Dによって産生された50.108ppのSEVで毎週腫瘍内注射されたマウスN°614(C)又はN°602(D)からのデータにより提示される。血中のTGFb1測定は、ng/mlとして、PBSで毎週腫瘍内注射されたマウスN°617(A及びB)からのデータ、並びに、WT T47Dによって産生された50.108ppのSEVで毎週腫瘍内注射されたマウスN°614(C)又はN°602(D)からのデータにより提示される。
図8C-8D】低浸潤性乳癌細胞株によって産生されたSEVの腫瘍内注射は、腫瘍増殖及び転移の出現を阻害し、TGFb1の誘導と相関する。(A)100mlのPBS中の1.106個のMDA-MB-231細胞(D3H2LN)を、それぞれ6週齢の雌のマウスAthymic Nude-Foxn1nuマウスの左脂肪体に注射した。腫瘍増殖は、平均腫瘍体積(cm3)として、脂肪体への細胞移植の7日後に、PBSで毎週腫瘍内注射されたマウスN°617(A及びB)からのデータ、並びに、WT T-47Dによって産生された50.108ppのSEVで毎週腫瘍内注射されたマウスN°614(A)又はN°602(B)からのデータにより、提示される。血液中の血清TGFb1測定は、ng/mlとして、PBSで毎週腫瘍内注射されたマウスN°629(A及びB)からのデータ、並びに、WT T47Dによって産生された50.108ppのSEVで毎週静脈内注射されたマウスN°617(A)又はN°602(B)からのデータにより提示される。(C及びD)42日に開始して、毎週、生物発光画像(原発性腫瘍は黒色組織で遮蔽された)を、Xenogenシステムで取得して、転移性MDA-MB-231細胞によって生成された平均光子束を定量した。転移の定量化は、転移性MDA-MB-231細胞によって生成された平均光子束として、PBSで毎週腫瘍内注射されたマウスN°617(C及びD)からのデータ、並びに、WT T47Dによって産生された50.108ppのSEVで毎週腫瘍内注射されたマウスN°614(C)又はN°602(D)からのデータにより提示される。血中のTGFb1測定は、ng/mlとして、PBSで毎週腫瘍内注射されたマウスN°617(A及びB)からのデータ、並びに、WT T47Dによって産生された50.108ppのSEVで毎週腫瘍内注射されたマウスN°614(C)又はN°602(D)からのデータにより提示される。
図9】SEVの腫瘍内注射の腫瘍増殖に対する阻害効果は、T47D-SEV産生細胞におけるNFAT3の発現を必要とし、TGFb1の誘導と相関する。100mlのPBS中の1.106個のMDA-MB-231細胞(D3H2LN)を、それぞれ6週齢の雌のマウスAthymic Nude-Foxn1nuマウスの左脂肪体に注射した。(A)腫瘍増殖は、平均腫瘍体積(cm3)±SEMとして、脂肪体における細胞移植の7日後に、PBSで毎週腫瘍内注射されたマウスから(PBS)、shCtrl感染T47D細胞によって産生された50.108ppのSEVで毎週腫瘍内に注射されたマウスから(50.108 T47D-shCtrl腫瘍内)、shNFAT3-4感染T47D細胞によって産生された50.108ppのSEVで毎週腫瘍内に注射されたマウスから(50.108 T47D-shNFAT3-4腫瘍内)、shNFAT3-3感染T47D細胞によって産生された50.108ppのSEVで毎週腫瘍内に注射されたマウスから提示される、各群につき8匹のマウス。PBSで腫瘍内注射されたマウスで各時点について、両側の対応の無いスチューデントのt検定を用いて、比較を行った。(B)42日に開始して、毎週、生物発光画像(原発性腫瘍は黒色組織で遮蔽された)を、Xenogenシステムで取得して、転移性MDA-MB-231細胞によって生成された平均光子束を定量した。転移の定量化は、転移性MDA-MB-231細胞によって生成された平均光子束として、PBS、あるいは50.108 ppのSEV T47D-shCtrl腫瘍内若しくは50.108 ppのSEV T47D-shNFAT3-4腫瘍内、又は50.108 ppのSEVのshNFAT3-3感染T47D細胞によって産生された50.108ppのSEVで毎週静脈内注射されたマウスからのデータにより提示される。*p<0.05 **p<0.005及び ***p<0.0005。(C)及び(D)血清を、群(A)のマウスから毎週採取し、血清中に存在するTGFb1の濃度を実験の最後にELISAアッセイにより評価した。(C)各群の各点は、1~9週の血清中のTGFb1濃度の60日平均を表す。PBSで腫瘍内注射されたマウスの各群で各時点について、両側の対応の無いスチューデントのt検定を用いて、比較を行った。*p<0.05。(D)データは、(A)におけるように、1~9週のマウスの各群について表される。
図10】T47D細胞によって産生されたSEVの遅延注射は、腫瘍増殖を阻害する。100mlのPBS中の0,5.106個のMDA-MB-231細胞(D3H2LN)を、それぞれ6週齢の雌のAthymic Nude-Foxn1nuマウスの左脂肪体に注射した。(A)腫瘍増殖は、平均腫瘍体積(cm3)+/-SEMとして、27日に開始してPBSで静脈内に毎週注射されたマウスから(PBS)、27日に開始してT47D-WT細胞によって産生された50.108ppのSEVで静脈内に毎週注射されたマウスから提示される。(B)腫瘍増殖は、平均腫瘍体積(cm3)+/-SEMとして、27日に開始してPBSで腫瘍内に毎週注射されたマウスから(PBS)、27日に開始してT47D-WT細胞によって産生された50.108ppのSEVで腫瘍内に毎週注射されたマウスから提示される。両側の対応の無いスチューデントの検定を用いて各時点について比較を行った。*p<0,05、**p<0,005、***p<0,0005.(8匹のマウス/群)。
図11】提案される療法開発の概略図。
図12】NFAT3は、T47D細胞におけるようにHEK細胞において発現される。T47D細胞及びHEK細胞を、非標的化siRNA対照(siCtl)又は内在性NFAT3を標的化するsiRNA(siNFAT3)のいずれかで、一時的にトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、全細胞溶解物を、NFAT3に対する抗体で内在性NFAT3についてプローブした。アクチンに対する抗体で膜をプロービングすることによって、等負荷(equal loading)の対照を評価した。
図13】NFAT3発現HEK細胞の生成。(A)tdTomatoタグと融合されたHEK細胞を感染させるために使用されるNFAT3コンストラクトの表示。(B)T47D乳癌細胞を、NFAT3 WTのベクター対照、ΔNFAT3又は最後の85C末端アミノ酸を欠いたNFAT3のいずれかで一時的にトランスフェクトし、古典的なトランズウェル(トランズウェル)浸潤アッセイにおいてそれらの浸潤能について評価した。(C)HEK産生SEVにおける異なるNFAT3コンストラクトの発現を、示された抗体を用いたウェスタンブロットによって評価した。
図14】HEK細胞によって産生されたSEVのサイズ及び特異的マーカーによる特徴付け。HEK to-Ctl(A)、HEK to-NFAT3(B)によって産生されたSEVのサイズ分布の代表例。HEK to-ΔNFAT3(C)及びHEK to-NFAT3-85C(D)は、NanoSightによって評価された。SEV濃度(粒子/ml:pp/mL)は、粒子サイズ(nm)の関数で示される。
図15】NFAT3発現HEK細胞によって産生されたエクソソームは、高度に浸潤性のMDA-MB-231細胞の浸潤を阻害する。(A)高度に浸潤性の乳癌細胞(MDA-MB-231)を、エクソソームを用いて前処理し又は前処理せずに、それらの浸潤能について試験した、ここで、斯かるエクソソームは、低浸潤性T47D乳癌細胞株WT、あるいはto-NFAT3又はto-ΔNFAT3又はto-NFAT3-85C)のいずれか及び対照としての空ベクター(to-Ctl)を安定して発現するHEKヒト胚細胞株のいずれかによって産生された。*p<0.05 **p<0.005及び***p<0.0005、未処理細胞(-)と比較した。(n=2)。(B)高度に浸潤性の乳癌細胞(SUM-159-PT)を、エクソソームを用いて前処理し又は前処理せずに、それらの浸潤能について試験した、ここで、斯かるエクソソームは、低浸潤性T47D乳癌細胞株WT、あるいはto-NFAT3又はto-ΔNFAT3又はto-NFAT3-85C)のいずれか及び対照としての空ベクター(to-Ctl)を安定して発現するHEKヒト胚細胞株のいずれかによって産生された。*p<0.05 **p<0.005及び***p<0.0005、未処理細胞(-)と比較した。(n=2)(C)高度に浸潤性の膵臓癌細胞(BXPC3)を、エクソソームを用いて前処理し又は前処理せずに、それらの浸潤能について試験した、ここで、斯かるエクソソームは、低浸潤性T47D乳癌細胞株WT、あるいはto-NFAT3又はto-ΔNFAT3又はto-NFAT3-85C)のいずれか及び対照としての空ベクター(to-Ctl)を安定して発現するHEKヒト胚細胞株のいずれかによって産生された。*p<0.05 **p<0.005及び***p<0.0005、未処理細胞(-)と比較した。(n=2)(D)高度に浸潤性の膠芽腫(glioblastoma)癌細胞(U87MG)を、エクソソームを用いて前処理し又は前処理せずに、それらの浸潤能について試験した、ここで、斯かるエクソソームは、低浸潤性T47D乳癌細胞株WT、あるいはto-NFAT3又はto-ΔNFAT3又はto-NFAT3-85C)のいずれか及び対照としての空ベクター(to-Ctl)を安定して発現するHEKヒト胚細胞株のいずれかによって産生された。*p<0.05 **p<0.005及び***p<0.0005、未処理細胞(-)と比較した。(n=2)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
NFATC4を発現する細胞の分泌型細胞外小胞(SEV)を含有する組成物による癌の治療あるいは転移性癌の治療又は予防
第1の態様では、本発明は、癌の治療あるいは転移性癌の治療又は予防における使用のための、組成物、特に、細胞の分泌型細胞外小胞(SEV)を含有する医薬組成物であって、斯かる細胞が、活性化T細胞、細胞質、カルシニューリン依存性4核内因子(NFATC4)を発現する細胞である、組成物、に関する。
【0018】
本発明はまた、癌の治療あるいは転移性癌の治療又は予防を必要とする患者において、癌を治療するため、あるいは転移性癌を治療又は予防するための方法であって、前記患者に、NFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物の治療上有効量を投与すること、を含む、方法に関する。
【0019】
本発明はまた、癌の治療あるいは転移性癌の治療又は予防を目的とする薬物を調製するための、NFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物の使用に関する。
【0020】
本発明はまた、癌の治療のため、あるいは転移性癌の治療又は予防のための、NFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物の使用に関する。
【0021】
分泌型細胞外小胞(SEV)
「分泌型細胞外小胞(secreted extracellular vesicles)」又は「SEV」とは、それらの原形質膜からそれらの微小環境中に細胞によって放出される膜小胞を意味する。本発明の文脈において、SEVは、典型的には、約500nm以下、特に約30~約500nm、又は約40~約500nm、又は約50~約500nmの直径を有する。SEVはリン脂質膜によって取り囲まれており、斯かるリン脂質膜は好ましくは、比較的高レベルのコレステロール、スフィンゴミエリン、及びセラミドを含み、好ましくは界面活性剤耐性膜ドメイン(脂質ラフト)も含む。
【0022】
SEVの膜タンパク質は、細胞と同じ配向(orientation)を有する。SEVは一般に、アクチンβ、膜輸送及び融合に関与するタンパク質(例えばRab、GTPases、アネキシン、及びフロチリン)、輸送に必要なエンドソーム選別複合体(ESCRT)の構成要素の複合体(例えばAlix)、腫瘍感受性遺伝子101(TSG101)、熱ショックタンパク質(HSP、例えばHSPA8、HSP90AA1、HSC70及びHSC90)、インテグリン(例えばCD62L、CD62E又はCD62P)、及びテトラスパン(特にCD63、CD81、CD82、CD53、CD9、及び/又はCD37)、の存在によって特徴づけられる。SEVはまた、RNA、例えばmRNA及びmiRNAも含み得る。
【0023】
SEVは、様々な方法によってそれを分泌する細胞から調製することができ、最も一般的かつ最も好ましい方法は分画遠心分離である。本発明で使用されるSEVを調製するために使用することができる方法は、Yakimchuk, K.、Materials and Methods、vol.5、2015に開示されたものを含む:
【0024】
分画遠心分離
上述したように、この方法は、本発明において最も一般的な技術の1つであり、かつ最も好ましい方法である。
【0025】
この方法は、いくつかのステップからなり、好ましくは約4℃で行われ、少なくとも以下の3つのステップ1)~3)を含む:
1)細胞及び細胞残屑を除去するための低速遠心分離、
2)より大きな小胞(100nmを超えるサイズ)を除去するための高速スピン、そして最後に、
3)SEVをペレット化する高速遠心分離。
【0026】
ステップ1)において、細胞及び細胞残屑は、5~30分間、約1300~3500RPM(1分当たりの回転数)の遠心加速度を用いて除去される。任意により、ステップ1)は、2つの低速遠心分離、非常に低速の第1(例えば約1350RPM)及び最高速の第2(例えば3500RPM)の低速遠心分離を含むことができる。
【0027】
特に、1350RPMで10分間約4℃でスピンし、次いで3500RPMで20分間約4℃でスピンすることが、ステップ1)で使用され得る。
【0028】
ステップ2)では、より大きな小胞(100nmを超えるサイズ)が、15~45分間約10000RPMの遠心加速度を用いて除去される。特に、約10,000RPM30分間約4℃でスピンすることが、ステップ2)で使用され得る。
【0029】
好ましくは少なくとも2回行われるステップ3)では、SEVは約40 000RPMの遠心加速度を用いてペレット化される(60~120分間)。特に、40,000RPMで90分間約4℃でスピンすることが、ステップ3)で使用され得る。
【0030】
特に好ましいプロトコルは以下に記載した通りである:
a)培養した細胞を1350RPMで10分間4℃でスピンし、上清を回収し;
b)回収した上清を3500RPMで20分間4℃でスピンし、上清を回収し;
c)回収した上清を10,000RPMで30分間4℃でスピンし、上清を回収し;
d)回収した上清を40,000RPMで90分間4℃で超遠心分離し、ペレットを回収し;
e)ペレットを冷PBS中に再懸濁し;並びに
f)40,000RPMで90分間4℃で超遠心分離し、ペレットを回収する。
【0031】
密度勾配遠心分離
このアプローチは、超遠心分離とショ糖密度勾配とを組み合わせる。
【0032】
より具体的には、密度勾配遠心分離を使用して、非小胞性粒子、例えばタンパク質及びタンパク質/RNA凝集体からSEVを分離する。したがって、この方法は、異なる密度の粒子から小胞を分離する。適切な遠心分離時間は非常に重要であり、そうでなければ、それらが同様の密度を有する場合、夾雑粒子が依然としてSEV画分に見られる。最近の研究は、遠心分離を行う前にショ糖勾配への超遠心分離からのSEVペレットの適用を示唆している。
【0033】
サイズ排除クロマトグラフィー
サイズ排除クロマトグラフィーは、分子量ではなくサイズに基づいて巨大分子を分離するために使用される。この技術は、複数の細孔及びトンネルを含む多孔質ポリマービーズを充填したカラムを適用する。分子はその直径に応じてビーズを通過する。小さな半径の分子がカラムの細孔を通って移動するにはより時間がかかるが、巨大分子はカラムからより早く溶出する。サイズ排除クロマトグラフィーは、大分子と小分子の正確な分離を可能にする。また、異なる溶出溶液をこの方法に適用することができる。
【0034】
濾過
限外濾過膜をSEVの単離に使用することもできる。微小胞のサイズに依存して、この方法はタンパク質及び他の巨大分子からのSEVの分離を可能にする。SEVはまた、多孔質構造を介してそれらを捕捉することによって単離され得る(図2)。最も一般的な濾過膜は、0.8μm、0.45μm又は0.22μmの孔径を有し、800nm、400nm又は200nmよりも大きなSEVを収集するために使用することができる。特に、マイクロピラー(micropillar)多孔質シリコン線毛構造が、40~100nmのSEVを単離するために設計された。最初のステップ中に、より大きな小胞は除去される。次のステップでは、SEV集団が濾過膜上で濃縮される。単離ステップは比較的短いが、この方法は、PBS緩衝液とシリコン混蔵とのプレインキュベーションを必要とする。次のステップでは、SEV集団が濾過膜上で濃縮される。
【0035】
ポリマーベースの沈殿
ポリマーベースの沈殿法は、通常、生体液とポリマー含有沈殿液との混合、4℃でのインキュベーション、及び低速での遠心分離を含む。ポリマーベースの沈殿に使用される最も一般的なポリマーの1つはポリエチレングリコール(PEG)である。このポリマーによる沈殿は、単離SEVに対する穏やかな影響及び中性pHの使用を含む多くの利点を有する。SEVの単離のためにPEGを適用するいくつかの市販のキットが作製された。最も一般的に使用されるキットはExoQuick(商標)(System Biosciences、Mountain View、CA、USA)である。このキットは容易かつ迅速に実行でき、追加の装置を必要としない。最近の研究は、ExoQuick(商標)法で超遠心分離を用いて、SEVの最高収量が得られたことを実証した。
【0036】
免疫学的分離
SEVの免疫学的分離のいくつかの技術が、表面SEV受容体又はSEV細胞内タンパク質に基づいて開発されている。しかしながらこれら方法は一般に、SEVタンパク質の検出、分析及び定量化のために主として適用される。
【0037】
篩い分けによる単離
この技術は、膜を介して生体液からSEVを篩い分け、そして圧力又は電気泳動によって濾過を行うことによって、SEVを単離する。
【0038】
NFATC4
「活性化T細胞、細胞質、カルシニューリン依存性4核内因子(Nuclear factor of activated T-cells, cytoplasmic, calcineurin-dependent 4)」又は「NFATC4」は本明細書で使用される場合、Entrez Geneデータベースにおける公式記号NFATC4でヒト遺伝子によってコードされたタンパク質を指す。(Gene ID:4776)又はその変異体は以下の通りである。NFATC4遺伝子は、「活性化T細胞、細胞質4核内因子」、「T細胞転写因子NFAT3」、「NFAT3」、「NF-AT3」、及び「NF-ATC4」としても知られている。この遺伝子はいくつかのmRNA及びタンパク質アイソフォームをコードし、それらの全ては本発明の文脈においてNFATC4の定義に含まれる。NFATC4の種々のアイソフォームのcDNA及びタンパク質配列は、以下の表1に記載される:
【0039】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【表1-9】
【表1-10】
【表1-11】
【表1-12】
【表1-13】
【表1-14】
【表1-15】
【0040】
上述したように、NFATC4の全てのアイソフォームは、本発明の文脈においてNFATC4の定義に含まれる。しかしながら、好ましい実施形態では、本発明に係る使用のための組成物中に存在するSEVを分泌する細胞は、上記表1に開示されたNFATC4のアイソフォーム2、902アミノ酸タンパク質(配列番号4)、又はその変異体を発現する。他の好ましいアイソフォームは、上記表1に開示されたアイソフォーム4(配列番号8、832アミノ酸)及び7(配列番号14、965アミノ酸)であり、それは、これらアイソフォームがアイソフォーム2と以下に記載した変異体「ΔNFATC4」の配列を共有するためであり、かつ、ΔNFATC4を発現する細胞のSEVが発明者らによって非常に効率的であることが示されているためである。
【0041】
本発明の文脈において、NFATC4の全てのアイソフォームがNFATC4の定義に含まれるだけでなく、NFATC4の機能を維持するか又は天然NFATC4と比較して機能が向上した全ての変異体も含まれる。これらは特に対立遺伝子変異体を含む。
【0042】
特に関心のある変異体はΔNFATC4であり、これは上記表1に開示されたNFATC4のアイソフォーム2に対応し、その521個のN末端アミノ酸が切断されている(Molkentinら、(1998)Cell 93:215-228の図1AのRescued NF-AT3参照):ΔNFATC4アミノ酸配列を以下に示す:
DCAGILKLRNSDIELRKGETDIGRKNTRVRLVFRVHVPQGGGKVVSVQAASVPIECSQRSAQELPQVEAYSPSACSVRGGEELVLTGSNFLPDSKVVFIERGPDGKLQWEEEATVNRLQSNEVTLTLTVPEYSNKRVSRPVQVYFYVSNGRRKRSPTQSFRFLPVICKEEPLPDSSLRGFPSASATPFGTDMDFSPPRPPYPSYPHEDPACETPYLSEGFGYGMPPLYPQTGPPPSYRPGLRMFPETRGTTGCAQPPAVSFLPRPFPSDPYGGRGSSFSLGLPFSPPAPFRPPPLPASPPLEGPFPSQSDVHPLPAEGYNKVGPGYGPGEGAPEQEKSRGGYSSGFRDSVPIQGITLEEVSEIIGRDLSGFPAPPGEEPPA(配列番号15、381アミノ酸)
【0043】
本発明の文脈において、ΔNFATC4アミノ酸配列(配列番号15)を含む任意のNFATC4変異体を発現する細胞のSEVを含有する組成物は、癌の治療、あるいは転移性癌の治療又は予防のために使用することができる。
【0044】
細胞がNFATC4の変異体を発現する場合、前記変異体は好ましくは、上記表1に開示されたNFATC4のアイソフォーム2の85C末端アミノ酸を含む(これは、ΔNFATC4のアイソフォーム2の85C末端アミノ酸と同じである)。
【0045】
NFATC4を発現する細胞
本発明の文脈において、NFATC4を発現する任意の細胞は、SEVの調製のために使用することができる。NFATC4を発現する細胞の比限定的な例としては、以下:
・低い浸潤能を有する癌細胞、及び
・NFATC4を発現するように誘導された任意の細胞、
が挙げられる。
【0046】
本発明の好ましい実施形態では、NFATC4を発現する細胞のSEVは、低い浸潤能を有する癌細胞から精製されている。実際に、そのような癌細胞は一般にNFATC4を発現する。
【0047】
本明細書において、「浸潤能」又は「相対浸潤能」は、ECM分解及びタンパク質分解を含むプロセスで、細胞外マトリックス(ECM)を介して隣接組織に移動する癌細胞の能力を指す。特定の癌細胞の浸潤能は、浸潤アッセイにおいてインビトロ又はインビボで試験することができる。インビトロの浸潤アッセイは、一般に天然又は再構成マトリックスの使用に依存しており、これは試験される癌細胞に応じた好適な孔径(一般に5、8、10、又は12μm)のフィルター(膜とも称される)上に適用され、試験されることになる癌細胞のための化学誘引物質を含有する培地上に置かれる。次に、化学誘引培地に達するためにマトリックス及びフィルターを横切ることができる細胞の数に基づいて、浸潤指数を計算することができる。相対浸潤能は、同じアッセイにおいて既知の低浸潤性(例えばT47D、MCF7)又は高浸潤性(例えばMDA-MB-231、SUM159PT)細胞の数に対する浸潤性細胞の比として計算される。
【0048】
様々なタイプの天然又は再構成マトリックスを使用することができ、これらに限定されるものではないが、細胞から単離された天然マトリックス(例えば「マトリゲル(Matrigel)」、Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫細胞)によって分泌されたゼラチン状タンパク質混合物、コラーゲンI又はIVゲルマトリックス、及びラミニンIゲルマトリックスを含む。インビトロでの浸潤アッセイに用いられる最も一般的なマトリックスは、マトリゲルである。
【0049】
上述したように、フィルターの孔径は試験される細胞のタイプに適合されるべきであり、一般に、細胞のタイプに応じて5、8、10、及び12μmから選択される。乳癌細胞には、8μm孔フィルターが一般に適しているであろう。
【0050】
試験される細胞のタイプに応じて、様々な化学誘引物質を化学誘引培地に使用することもできる。一般に使用される化学誘引物質は、馴化NIH-3T3培地である。
【0051】
浸潤レベルは、細胞のタイプ、マトリックスのタイプ及び厚さ、アッセイの持続時間、並びにフィルター上の初期細胞密度を含む種々のパラメータに依存する。したがって、細胞試料の浸潤能を定義するために、低浸潤能又は高浸潤能の参照細胞試料を新しい細胞試料と並行して試験すべきである。次に、新しい細胞試料の浸潤能を、参照細胞試料の浸潤指数とその浸潤指数との比較によって評価する。
【0052】
ほとんどのタイプの癌について、低浸潤能又は高浸潤能の細胞株が先行技術において定義されている。本発明の文脈において、「低い浸潤能を有する癌細胞」とは、低浸潤能を有すると知られている同じ細胞型の少なくとも1つの癌細胞株の浸潤指数以下である、インビトロでの浸潤アッセイにおいて浸潤指数を有する癌細胞を指す。
【0053】
低浸潤能又は高浸潤能の例を以下の表2に記載する。
【0054】
【表2】
【0055】
乳癌細胞の場合、エストロゲン受容体α(ERA)を発現する乳癌細胞は、一般に低い浸潤能を有し、したがって、NFATC4を発現する細胞のSEVは、エストロゲン受容体α(ERA)を発現する乳癌細胞から精製され得る。
【0056】
あるいは、NFATC4を発現する細胞のSEVは、NFATC4を発現するように誘導された任意の他の細胞から精製され得る。
【0057】
「NFATC4を発現するように誘導された細胞」とは、NFATC4を天然に発現するか、又は発現しない細胞であるが、細胞におけるNFATC4発現を誘導するか又はNFATC4活性を増強することができる少なくとも1つの化合物で処理された細胞を意味する。出発細胞がNFATC4を発現しない場合、その処理は出発細胞におけるNFATC4発現を生じさせるか又はNFATC4活性を増強することができるべきである。出発細胞が既にNFATC4を発現する場合、その処理は出発細胞におけるNFATC4発現を増加させるか又はNFTAC4活性を増強することができるべきである。
【0058】
出発細胞の任意のタイプが使用されてもよく、これらに限定されるものではないが、以下:
・上記で定義した低い浸潤能を有する癌細胞、及び
・正常細胞、
を含む。
【0059】
いずれの場合においても、初代細胞又は細胞株のいずれかが使用され得る。出発細胞の細胞型は特に限定されない。低い浸潤能を有する癌細胞には、以下に記載した癌細胞の任意のタイプが使用され得る。正常細胞の場合、線維芽細胞、上皮細胞、HEK293(ヒト胎児腎臓)、樹状細胞、幹細胞を含む任意の細胞型が使用され得る。「正常細胞」とは、腫瘍の起源を有さず、かつ正常組織に由来するか又は正常組織由来である細胞を意味する。換言すれば、正常細胞とは、初代非癌性細胞、又は正常で健康な初代細胞に由来する細胞株のいずれかを指す。さらに、付着細胞及び懸濁細胞の両方が使用され得るが、付着細胞が好ましい。
【0060】
ヒト患者の治療のために、好ましくは、ヒト細胞(初代又は細胞株、付着又は懸濁、低い浸潤能を有する癌細胞又は正常細胞)が使用されることになる。
【0061】
正常細胞がNFATC4発現の誘導に使用される場合、好ましい実施形態では、前記正常細胞は、治療されることになる患者からの自己細胞(特に自己線維芽細胞)である。別の実施形態では、前記正常細胞はヒト胚細胞、特にHEK293T細胞である。
【0062】
これは実際に、投与されたSEVの組成物に対する任意の免疫応答を制限する。
【0063】
NFATC4発現を誘導するための任意の好適な方法が使用され得る。
【0064】
好ましい実施形態では、NFATC4発現の誘導のために、細胞は、NFATC4をコードする核酸分子を含む発現ベクターによってトランスフェクトされた。
【0065】
「トランスフェクション」とは、当業者に知られている任意の好適な技術によって核酸を細胞内に意図的に導入するプロセスを意味する。特に、本発明の文脈において、トランスフェクションという用語は、核酸を細胞内に導入するためのウイルス及び非ウイルス的方法の両方を含むことが意図される。
【0066】
「発現ベクター」は、本明細書で使用される場合、NFATC4をコードする核酸分子及びその発現を可能にするために必要なエレメントを含むベクターを指す。特に、NFATC4をコードする核酸分子は、適切な調節配列に操作可能に連結される。
【0067】
本明細書で使用される場合、用語「調節エレメント」又は「調節配列」は、所与の宿主細胞又は対象における核酸分子(複数)の発現を可能にし、その発現に寄与し、又は調節する任意のエレメント、あるいはその誘導体(すなわちmRNA)を指し、斯かる発現は複製、重複(duplication)、転写、スプライシング、翻訳、安定性及び/又は核酸(複数)の輸送を含む。調節配列の選択は、ベクターそれ自身及びトランスフェクトされることになる細胞のような因子に依存する可能性があり、かつ共通の一般的知識及びこのトピックに関する刊行物に基づいて当業者により容易に選択されるようになることが当業者によって理解されるであろう。真核細胞系における構成的発現に適したプロモーターとしては、ウイルスプロモーター、例えばSV40プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター又はエンハンサー、アデノウイルス初期及び後期プロモーター、単純ヘルペスウイルス(HSV)-1のチミジンキナーゼ(TK)プロモーター、及びレトロウイルス長末端反復(例えばMoMuLV及びRous肉腫ウイルス(RSV)LTRs)、並びに細胞プロモーター、例えばホスホグリセロキナーゼ(PGK)プロモーターが挙げられる。レンチウイルスベクターに適したプロモーターの例としては、Clontechにより市販されているpLVX-tdTomato-C1 Vectorに存在するプロモーターが挙げられる。
【0068】
発現ベクターは特に、プラスミド及びウイルス発現ベクターから選択され得る。
【0069】
「プラスミドベクター」は、本明細書で使用される場合、複製可能なDNAコンストラクトを指す。好適なプラスミドベクターの代表例としては、限定することなく、pREP4、pCEP4(Invitrogen)、pCI(Promega)、pVAX(Invitrogen)及びpGWiz(Gene Therapy System Inc)が挙げられる。トランスフェクションのために、プラスミドベクターは脂質又はポリマーと複合体化されて、粒子構造、例えばリポソーム、リポプレックス又はナノ粒子を形成することができる。
【0070】
用語「ウイルスベクター」は本明細書で使用される場合、ウイルスゲノムの少なくとも1つのエレメントを含み、かつウイルス粒子に充填され得る核酸ベクターを指す。用語「ウイルス」、「ビリオン(virions)」、「ウイルス粒子」及び「ウイルスベクター粒子」は、互換的に使用され、ウイルス粒子の生成を可能にする好適な条件に従って核酸ベクターが適切な細胞又は細胞株に形質導入される際に形成されるウイルス粒子を指す。本発明の文脈において、用語「ウイルスベクター」は、核酸ベクター(例えばDNAウイルスベクター)並びにその生成したウイルス粒子を含むように広く理解されなければならない。用語「感染性」とは、宿主細胞又は対象に感染及び侵入するウイルスベクターの能力を指す。
【0071】
好ましい実施形態では、NFATC4をコードする核酸分子を含むウイルス発現ベクターが使用される。
【0072】
ウイルスベクターは、複製可能(replication-competent)又は複製選択性であり得(例えば特定の宿主細胞において良好又は選択的に複製するように操作され)、あるいは複製欠損又は複製障害であるように遺伝的に無効化されうる。典型的には、そのようなベクターは市販されているか(例えばInvitrogen、Stratagene、Amersham Biosciences、Promega等において)、又は寄託機関、例えばthe American Type Culture Collection(ATCC、Rockville、Md.)から入手可能であるか、あるいは、それらの配列、構成及び製造方法を記載する多数の刊行物の主題であり、技術者がそれらを適用することを可能にする。
【0073】
好適なウイルスベクターの代表例は、種々の異なるウイルス(例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、麻疹ウイルス、泡沫状ウイルス、アルファウイルス、水疱性口炎ウイルス(vesicular stomatis virus)等から生成される。上記のように、用語「ウイルスベクター」は、ベクターDNA、ゲノムDNA、並びにその生成したウイルス粒子、特に感染性ウイルス粒子を包含する。
【0074】
好ましい実施形態では、NFATC4をコードする核酸分子を含むレトロウイルス発現ベクター(及び特にレンチウイルス発現ベクター)が使用される。レトロウイルスは、分裂細胞に感染し、ほとんどの場合には分裂細胞に組み込まれる特性を有し、これに関して、本発明の文脈において、高レベルのNFATC4を発現する細胞を産生するための使用に特に適している。好適なレトロウイルスは一般に、LTR配列、カプシド形成領域、及びNFATC4をコードする核酸分子を含む。組み換えレトロウイルスは、任意の起源(マウス、霊長類、ネコ、ヒト等)のレトロウイルスに由来することができ、特に、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)、MVS(マウス肉腫ウイルス)、フレンドマウスレトロウイルス(Fb29)、マウス胚性幹細胞ウイルス(MESV)、LNウイルス又はマウス幹細胞ウイルス(MSCV)由来である。それは、ウイルスポリペプチドgag、pol及び/又はenvをトランスで供給することができるカプシド形成細胞株において増殖され、斯かるウイルスポリペプチドはウイルス粒子を構築するために必要とされる。そのような細胞株は文献に記載されている(PA317、Psi CRIP GP +Am-12、HEK 293T等)。本発明で使用されるレトロウイルス(及びより具体的にはレンチウイルス)の発現ベクターは、修飾、特にLTR(真核生物プロモーターによるプロモーター領域の置換)又はカプシド形成領域(異種カプシド形成領域による置換)における修飾を含み得る。本発明の文脈において使用され得る市販のレンチウイルスベクターの例としては、Clontechによって市販されているpLVX-tdTomato-C1ベクターが挙げられる。
【0075】
しかしながら、NFATC4をコードする核酸分子を含む他のタイプのウイルス発現ベクターが使用されてもよい。
【0076】
本発明の文脈において有用なウイルスベクターの例としては、種々のヒト又は動物起源(例えばイヌ、ヒツジ、サルアデノウイルス等)に由来し得るアデノウイルスベクターが挙げられる。任意の血清型を用いることができ、ヒトアデノウイルスが特に好ましく、そして亜属C、例えばAd2、Ad5、Ad6、及び亜属B、例えばAd11、Ad34及びAd35が特に好ましい。引用されたアデノウイルスはATCCから入手可能であるか、又はその配列、構成及び製造方法を記載した多数の刊行物の主題であり、技術者がそれを適用することを可能にする。アデノウイルスベクターが使用される場合、それは好ましくは、おおよそ459位から3328位までに、又はおおよそ459位から3510位までに伸長するE1欠失を有するE1欠損アデノウイルスベクターである(GenBankに受託番号M73260.1で開示されているAd5の配列に対する参照による)。クローニング能(cloning capacity)は、アデノウイルスゲノムの追加の位置(複数)を欠失させることによって、さらに改善され得る(非必須E3領域の全て又は一部(例えばおおよそ27867位から30743までの欠失)あるいは他の必須E2及び/又はE4領域の全て又は一部)。次に、NFATC4をコードする核酸分子は、アデノウイルスゲノムの任意の位置に挿入することができ、E1及び/又はE3領域の代わりに挿入することが特に好ましい。それらは、問題となる領域の天然の転写方向に対してセンス又はアンチセンス方向に配置することができる。
【0077】
本発明の文脈において使用され得るウイルスベクターの他の例としては、ポックスウイルスベクター、例えば鶏痘ベクター(例えばFP9)、カナリア痘ベクター(例えばALVAC)及びワクシニアウイルスベクターが挙げられ、後者が好ましい。好適なワクシニアウイルスとしては、限定するものではないが、Copenhagen株、Wyeth株、NYVAC及び改変アンカラ(modified Ankara)(MVA)株が挙げられる。組み換えポックスウイルスを構築及び産生するための一般的な条件は、当該技術分野においてよく知られている。NFATC4をコードする核酸分子は好ましくは、非必須の遺伝子座でポックスウイルスゲノム内に挿入される。チミジンキナーゼ遺伝子は、Copenhagenワクシニアベクターにおける挿入に、及びMVAベクターにおける挿入のための欠失II又はIIIに特に適している。
【0078】
本発明の文脈に適している他のウイルスベクターは、パラミクソウイルス科から得ることができるモリビリウイルスであり、麻疹ウイルスが特に好ましい。NFATC4をコードする核酸分子の、P及びM遺伝子間、又はH及びL遺伝子間の挿入は特に適切である。
【0079】
あるいは、NFATC4をコードする核酸分子を含む発現ベクターで出発細胞をトランスフェクトする代わりに、出発細胞を、任意の他の好適な方法によって、NFATC4を発現するように又は増強されたNFATC4活性を示すように誘導することができる。注目すべきことに、出発細胞は、化合物と接触され得るか、あるいは、NFATC4発現を誘導若しくは増大するか又はNFATC4活性を増強することができるタンパク質をコードする核酸分子を含む発現ベクターによってトランスフェクトされ得る。
【0080】
癌治療
NFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物は、癌の治療あるいは転移性癌の治療又は予防に使用され得る。
【0081】
本明細書において、「癌」とは、無秩序な又は制御されない細胞増殖を特徴とする悪性新生物を指す。特に、「癌細胞」とは、無秩序な又は制御されない細胞増殖を有する細胞を指す。
【0082】
用語「癌」は、原発性悪性腫瘍(「原発性癌」とも称され、その細胞が元の腫瘍部位以外の対象の体内の部位に移動していないものに対応する)及び二次悪性腫瘍(「二次癌」又は「転移性癌」とも称され、元の腫瘍部位とは異なる二次部位への腫瘍細胞の転移、遊走から生じるもの)を含む。
【0083】
NFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物を用いて治療され得る癌又は治療若しくは予防され得る転移性癌のタイプは、特に限定されない。そのような癌は特に、固形癌の群から選択され得る。固形癌は特に、癌腫(臓器、腺、又は身体構造の内層(上皮細胞)で始まる癌、「上皮癌」としても知られる)、肉腫(結合組織、例えば軟骨、脂肪、筋肉、腱、又は骨で始まる癌)、及び脳腫瘍(脳細胞で始まる癌、例えばグリオーマ、膠芽腫、及び星状細胞腫)を含む。癌はさらに、それが起源となった体の部分にちなんで命名される。癌が広がった場合、それは同じ名前を維持する。本発明の文脈において、癌は特に癌腫の群から選択され得、斯かる癌腫は、特にヒト対象の、乳癌、黒色腫、卵巣癌、消化器癌(結腸直腸癌、食道癌、胃癌を含む胃腸癌、膵臓癌、肝細胞癌、胆管細胞癌及び奇形癌とも称される)、肺癌、前立腺癌、及び咽喉癌、を含むがこれらに限定されない。本発明の文脈において、癌はまた、特にヒト対象の膠芽腫を含むがこれに限定されない脳腫瘍の群から選択され得る。好ましい実施形態では、癌は特に、乳癌、黒色腫、膵臓癌、結腸直腸癌、膠芽腫及び肺癌から選択されてもよく;より好ましくは前記癌は、乳癌、黒色腫、膵臓癌、及び膠芽腫から選択され、最も好ましくは前記癌は乳癌、特に転移性乳癌である。
【0084】
そのような癌はまた、造血性癌の群から、特に白血病、リンパ腫及び骨髄腫からなる群、特にヒト患者の群から選択され得る。
【0085】
本明細書において、用語「治療する」又は「治療」は、臨床的、組織学的、生化学的レベルで観察され得る患者の疾患の改善を意味する。特に、疾患の臨床的、組織学的、又は生化学的症状の任意の緩和は、「治療する」及び「治療」という用語に含まれる。したがって、原発性癌の文脈において、「治療する」又は「治療」は特に、癌の増殖又は転移による拡散を減少させるという事実に関する。したがって、転移性癌の文脈において、「治療する」又は「治療」は特に、転移性癌の増殖又は転移によるさらなる拡散を減少させるという事実に関する。治療は、薬剤の投与及び/又は2回以上の処置を必要とし得る。治療はまた、NFATC4を発現する細胞のSEVと別の抗癌剤とを組み合わせる可能性を含む。この場合、2つの抗癌剤(NFATC4を発現する細胞のSEVと他の抗癌剤)は、逐次又は同時に投与され得る。本明細書において、用語「逐次に」とは、第1の抗癌剤(NFATC4を発現する細胞のSEV又は他の抗癌剤)の投与(1又は複数の投与)、続いて、第1の抗癌剤の投与の停止及び第2の抗癌剤(他の抗癌剤又はNFATC4を発現する細胞のSEV)の投与(1又は複数の投与)することを指す。本明細書において、用語「同時に」とは、同じ期間にわたる2つの抗癌剤(NFATC4を発現する細胞のSEV及び他の抗癌剤)の投与を指す。これは、2つの抗癌剤(NFATC4を発現する細胞のSEV及び他の抗癌剤)の、両方の薬剤を含有する1つの組成物での、又は2つの薬剤のそれぞれを含有する別々の組成物での投与を含む。同じ期間にわたる混合投与(intermixed administration)(ある薬剤と他の薬剤との交互の投与)は、同時投与と考えられる。
【0086】
抗癌剤は、外科的処置、化学療法、放射線療法、免疫療法、及び細胞療法から選択され得る。
【0087】
本明細書において、用語「予防する」又は「予防」とは、疾患に関連する臨床的、組織学的又は生化学的事象の発症を予防又は遅延させるか、あるいはその強度を減少させるという事実を意味する。したがって、癌の文脈において、「予防する」又は「予防」は特に、新たな癌の増殖又は拡散を少なくとも部分的に阻害するという事実に関する。予防は、薬剤の投与及び/又は2回以上の処置を必要とし得る。予防の文脈においても、NFATC4を発現する細胞のSEVは、逐次又は同時のいずれかで別の抗癌剤と組み合わせることができる。
【0088】
本明細書において、用語「患者」は、哺乳動物、例えばヒト、イヌ、ウシ、ウマ、カンガルー、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、マウス、ウサギ、ラット、およびトランスジェニック非ヒト動物を指す。本発明の好ましい実施形態では、対象はヒト対象である。
【0089】
NFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物は、治療上有効量で投与される。
【0090】
本明細書で使用される場合、「治療上有効量(therapeutically efficient amount)」とは、意図される使用に十分な量を指す。本発明に係る抗癌組成物について、それは癌の増殖又は拡散を減少させるのに十分な量を指す。
【0091】
マウスにおいて、マウス1匹につき50.108ppのSEV(Malvernによって市販されているNanoSight装置によって検出された粒子の数)の毎週用量の使用に成功した。そして、マウスが約1.5mLの総血液量を有することを知って、108~1011ppのSEVの毎週用量が成功すると予測することができる。好適な用量は総血液量に基づいて他の種に外挿することができる。例えば、ヒト(約5Lの総血液量)では、少なくとも約15.1012のSEVの容量が企図され得る。本発明の文脈において、組成物中に存在するSEVの数は好ましくは、NanoSight装置(Malvernにより市販)を用いて決定され、この場合、SEVの数は、NanoSight装置によって検出された粒子の数に対応する「pp」として示される。したがって、ヒト(約5Lの総血液量)では、少なくとも約15.1012ppのSEVの用量が企図され得る。
【0092】
投与される用量は、対象の年齢、体表面積又は体重、あるいは投与経路及び関連する生物学的利用能に応じて変化し得る。そのような用量適応は当業者に良く知られている。
【0093】
NFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物は任意の好適な投与経路によって投与することができ、斯かる投与経路は静脈内、腫瘍内、局所、鼻腔内、直腸、経口、経皮、皮下、及び舌下経路を含む。好ましい実施形態では、NFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物は、静脈内又は腫瘍内経路によって投与されることが意図される。
【0094】
選択された投与経路に応じて、当業者は、インビボ送達及び生物学的利用能を最適化するために、上記で定義した化合物又はその薬学的に許容される塩を製剤化する方法を知るであろう。特に、上記で定義したSEVは、好適な薬学的に許容される担体、賦形剤、ビヒクル、保存剤、可溶化剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、甘味料、染料、香味料、浸透圧を調節することを意図した塩、緩衝剤、風味調整剤(taste correctors)、及び抗酸化剤と共に製剤化され得る。これら化合物は当業者に良く知られている。これら化学物質の詳細は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Maack Publishing Co.、Easton、Pa.)の最新版で見ることができる。最適な送達製剤の選択は、選択された投与経路に応じて当業者によって選択されるであろう。
【0095】
静脈内、腫瘍内又は鼻腔内投与のために、薬理学的に適合性の分散剤及び/又は湿潤剤を含有する水性懸濁液、等張生理食塩水溶液、又は滅菌、注射可能な溶液が使用され得る。賦形剤として、水、アルコール、ポリオール、グリセロール、植物油などが使用され得る。
【0096】
局所投与のために、組成物は、ゲル、ペースト、軟膏、クリーム、ローション、水性又は水性-アルコール液体懸濁液、油性溶液、ローション又は血清型の分散液、無水又は親油性ゲル、脂肪相を水相に分散させることによって又はその逆によって得られる液体又は半固体ミルクタイプの稠度を有する乳液、軟性又は半固体のクリーム又はゲルタイプの稠度の懸濁液又は乳液、あるいは、代替的に、イオン性及び/又は非イオン性タイプのマイクロエマルション、マイクロカプセル、微粒子、又は小胞分散体の形態で提示され得る。これら組成物は、標準的な方法に従って調製される。また、SEVのより深い浸透を可能にするために、界面活性剤が組成物中に含まれてもよい。増加した浸透を可能にする薬剤が、例えば鉱油、エタノール、トリアセチン、グリセリン及びプロピレングリコールから選択されてもよく;凝集剤は、例えばポリイソブチレン、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、及び増粘剤を含む群から選択される。
【0097】
直腸投与のために、直腸温度で融解する結合剤、例えばココアバター又は半固体若しくは液体ポリオール、例えばポリエチレングリコール、ワックス、天然油若しくは硬化油、脂肪、などにより調製され得る坐剤を使用することができる。
【0098】
経口投与に適した単位用量投与製剤は特に、錠剤、被覆錠剤、丸剤、カプセル及び軟ゼラチンカプセル、経口粉末、顆粒、溶液および懸濁液を含む。
【0099】
錠剤形態の固体組成物が調製される場合、主要活性成分は、医薬ビヒクル、例えばゼラチン、デンプン、ラクトース、ステアリン酸若しくはステアリン酸マグネシウム、タルク、アラビアゴム又は類似体と混合され得る。錠剤は、サッカロース又は他の好適な材料でコーティングされてもよく、あるいはさらに、延長又は遅延された活性を有するように処理され、所定の量の活性成分を継続的に放出してもよい。
【0100】
カプセル製剤は、活性成分をシンナー(thinner)と混合し、得られた混合物を軟質又は硬質カプセルに、賦形剤とともに注ぐことによって得ることができ、斯かる賦形剤は、例えば植物油、ワックス、脂肪、半固体又は液体ポリオール等である。
【0101】
シロップ又はエリキシル形態の製剤は、活性成分を、甘味料、防腐剤、並びに風味を与える剤及び好適な色素と共に含み得る。賦形剤が使用されてもよく、例えば水、ポリオール、サッカロース、転化糖、グルコース等である。
【0102】
粉末又は水分散性顆粒は、風味調整剤及び甘味料と共に、分散剤、湿潤剤、及び懸濁化剤との混合物中に活性成分を含み得る。
【0103】
皮下投与のために、任意の好適な薬学的に許容されるビヒクルが使用され得る。特に、薬学的に許容される油ビヒクル、例えばゴマ油が使用され得る。
【0104】
癌患者の正常細胞の試料からNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物を調製するための方法
第2の態様では、本発明はまた、細胞の試料からNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物を調製するための方法であって、以下:
a)前記細胞においてNFATC4発現又は活性を誘導し;
b)前記誘導細胞を、その増殖を可能にする条件下で、SEVを含まない培養培地中で培養し;並びに
c)誘導細胞のSEVを精製すること、
を含む、方法に関する。
【0105】
ステップa)において、NFATC4発現又は活性は、上述のように出発細胞において誘導される。特に、上記で開示した任意のタイプの出発細胞を使用することができ(治療されることになる患者の正常細胞、特に自己細胞、特に自己線維芽細胞、あるいは線維芽細胞株、例えばWI38であって、既にワクチンの産生が認められている細胞が好ましい)、上記で開示されたNFATC4発現又は活性の誘導の任意のタイプが使用され得る(NFATC4発現を誘導するためのウイルス、より具体的にはレンチウイルスベクターの使用が好ましい)。
【0106】
ステップb)において、誘導細胞は、その増殖を可能にする条件下で、SEVを含まない培養培地中で培養される。一部の市販の培養培地は既にSEVフリーである。しかしながら、動物由来成分(例えば血清)を含有する培地については、培地のSEV枯渇が行われるべきである。これは、培養培地を30,000~40,000RPMで8~16時間(例えば一晩)約4℃でスピンすることによって行われ得る。
【0107】
誘導細胞の増殖を可能にする条件は、方法で使用される出発細胞のタイプ(初代細胞/細胞系;細胞型、付着/懸濁細胞)に応じて異なり、細胞培養に関する共通の一般的知識に基づいて当業者によって決定され得る。細胞死及びアポトーシス体はSEVペレットの汚染につながる可能性があるため、細胞が良好な状態にあるべきことは重要な点である。したがって、指数関数的増殖における誘導細胞の増幅及び維持を可能にする条件が使用されるべきであり、SEVは、細胞死が顕著になる増殖の対数期の終わり前に、すなわちプラトー前に、精製されるべきである。
【0108】
ステップc)において、SEVは上述したように培養上清から精製される。特に、上述した任意の精製の方法が使用されてもよく、上述のように分画遠心分離が好ましい。
【0109】
治療目的のために、好ましくは全方法を滅菌条件下で行うべきである。
【0110】
癌患者におけるNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物による治療の治療効率を決定又は予測するためのインビトロ方法
本発明者らは、NFATC4を発現する細胞のSEVが、癌細胞におけるトランスフォーミング成長因子ベータ1(TGFβ1)発現を誘導すること、並びに、動物モデルにおける癌の治療のインビボ効率が、治療された患者におけるTGFβ1発現の増加と相関することを示した。
【0111】
それゆえ、第3の態様では、本発明はまた、治療の開始前に採取した癌患者の第1の生物学的試料と、治療の開始後の癌患者の第2の対応する生物学的試料とから、治療された癌患者におけるNFATC4を発現する細胞によるSEVを含有する組成物による治療の治療効率を決定するためのインビトロ方法であって、以下:
a)前記第1及び第2の生物学的試料において少なくともトランスフォーミング成長因子ベータ1(TGFβ1)発現レベルをインビトロで測定し;
b)少なくとも測定されたTGFβ1発現レベルを比較し;並びに
c)前記比較から前記治療された癌患者におけるNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物による治療の効率を決定し、ここで、治療の開始後の生物学的試料において測定された少なくともTGFβ1発現レベルが、治療の開始後の生物学的試料における少なくともTGFβ1発現レベルよりも高い場合に、治療が効率的であると考えられること、
を含む、方法に関する。
【0112】
NFATC4を発現する細胞のSEVによる治療の効率は、治療された患者におけるTGFβ1発現の増加と相関するので、上記方法は、患者の2つの連続する生物学的試料、NFATC4を発現する細胞のSEVによる治療の開始前に採取した第1の試料と、NFATC4を発現する細胞のSEVによる治療の開始後に採取した第2の試料とにおけるTGFβ1発現レベルの比較に依存する。
【0113】
「生物学的試料」とは、TGFβ1発現が測定され得る患者の任意の試料を指す。そのような試料は特に、腫瘍試料、血液試料、血清試料、及び尿試料を含む。比較の目的のために、第1及び第2の試料は好ましくは同じ性質であるべきである(例えば2つの腫瘍試料、2つの血液試料、2つの血清試料、又は2つの尿試料)。
【0114】
「トランスフォーミング成長因子ベータ1」又は「TGFβ1」とは、Entrez Geneデータベース中の公式記号TGFB1を有するヒト遺伝子によってコードされたタンパク質を指す。(Gene ID:7040)。TGFB1遺伝子はまた、「TGF-ベータ-1」、「プレプロ-トランスフォーミング成長因子ベータ-1」、「CED」、「LAP」又は「潜在関連ペプチド(latency-associated peptide)」、「DPD1」、「TGFB」、及び「TGFベータ」としても知られている。TGFβ1のcDNA及びタンパク質配列を以下の表3に記載する:
【0115】
【表3】
【0116】
第4の態様では、本発明はまた、癌患者の癌試料から、癌患者におけるNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物による治療の治療効率を予測するためのインビトロ方法であって、以下:
a)前記腫瘍試料において少なくともTGFβ1発現レベルをインビトロで測定し;
b)前記癌試料を、NFATC4を発現するSEVを含有する組成物と共にインキュベートし;
c)NFATC4を発現する細胞によるSEVを含有する組成物と共にインキュベートした前記腫瘍試料において、少なくともTGFβ1発現レベルをインビトロで測定し;並びに
d)ステップc)で測定した少なくともTGFβ1発現レベルが、ステップa)で測定した少なくともTGFβ1発現レベルよりも高い場合に、前記癌患者におけるNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物による治療を効率的と予測し、そして、ステップc)で測定した少なくともTGFβ1発現レベルが、ステップa)で測定した少なくともTGFβ1発現レベル以下である場合に、前記癌患者におけるNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物による治療を非効率的と予測すること、
を含む、方法に関する。
【0117】
癌患者におけるNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物による治療の治療効率を予測するための方法では、癌細胞によってTGFβ1発現を誘導又は増大させるNFATC4を発現する細胞のSEVの能力が試験される。NFATC4を発現する細胞のSEVとの接触後の癌細胞によるTGFβ1発現の増大は、治療効率を予測することになるが、NFATC4を発現する細胞のSEVとの接触後の癌細胞によるTGFβ1発現の安定性又は減少は、治療非効率性を予測することになる。
【0118】
「癌試料」とは、癌細胞を含む任意の試料を意味し、これらに限定されるものではないが、癌生検、又は完全若しくは部分的な癌の外科的切除、又は血液試料を含む。実際に、循環癌細胞は血液中に存在することが当該技術分野においてよく知られている。
【0119】
癌患者におけるNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物による治療の治療効率を決定又は予測するための上記インビトロ方法のいずれにおいても、前記癌患者の2つの生物学的試料におけるTGFβ1の発現レベルは、任意の好適な方法によって測定することができる。
【0120】
特定の実施形態において、前記癌患者の2つの生物学的試料におけるTGFβ1の発現レベルは、TGFβ1転写産物の量を測定することによって、核酸レベルで測定することができる。TGFβ1転写産物の量は、当業者によって知られている任意の技術によって測定することができる。特に、測定は、抽出されたメッセンジャーRNA(mRNA)試料に対して直接、あるいは当該技術分野においてよく知られている技術によって抽出されたmRNAから調製した逆転写された(retrotranscribed)相補的DNA(cDNA)に対して行うことができる。mRNA又はcDNA試料から、核酸転写産物の量は、当業者によって知られた任意の技術を用いて測定することができ、斯かる技術は、核酸マイクロアッセイ、定量的PCR、次世代シークエンシング及び標識プローブを用いたハイブリダイゼーションを含む。
【0121】
特に、リアルタイム定量的RT-PCR(qRT-PCR)が有用であり得る。例えば、市販のqRT-PCRベースの方法(例えばTaqman(登録商標)Array)を用いることができ、プライマー及び/又はプローブの設計は、以下の表3に開示されたTGFβ1の配列に基づいて容易に行われる。
【0122】
核酸アッセイ又はアレイはまた、インビトロでTGFβ1の発現レベルを評価するために使用することができる。いくつかの実施形態では、核酸マイクロアレイを調製又は購入することができる。アレイは、典型的には、固体支持体と、該支持体に接触する少なくとも1つの核酸(cDNA又はオリゴヌクレオチド)とを含み、ここで、該オリゴヌクレオチドは、標的遺伝子の少なくとも一部に対応する。例えば、アッセイは、膜、チップ、ディスク、試験ストリップ、フィルター、マイクロスフェア、マルチウェルプレート等の形態であり得る。アッセイ系は、標的遺伝子に対応する核酸(cDNA又はオリゴヌクレオチド)が付着した固体支持体を有する。固体支持体は、例えば、プラスチック、シリコン、金属、樹脂、又はガラスを含み得る。アッセイ成分は調製され、遺伝子を検出するためのキットとして一緒にパッケージ化することができる。標的核酸試料の発現プロファイルを決定するために、前記試料は標識され、ハイブリダイゼーション条件下でマイクロアレイと接触され、マイクロアレイ表面に付着したプローブ配列に相補的である標的核酸間で複合体の形成をもたらす。次いで、標識ハイブリダイズされた複合体の存在が検出される。マイクロアレイハイブリダイゼーション技術の多くの変形が当業者に利用可能である。
【0123】
別の特定の実施形態では、前記癌患者の2つの生物学的試料におけるTGFβ1の発現レベルは、タンパク質レベルで測定され得る。例えば、タンパク質レベルで、TGFβ1の発現レベルのインビトロ測定は、当業者に知られている任意の投薬方法によって行うことができ、ELISA又は質量分析法を含むがこれらに限定されない。これら技術は、任意の液体又は固体試料に容易に適合される。実際に、液体又は固体試料のタンパク質は、溶液でのELISA又は質量分析による測定のための当業者に良く知られた様々な技術を用いて抽出することができる。あるいは、生物学的試料におけるタンパク質の発現レベルは、組織切片に対して直接質量分析を用いることによって分析することができる。タンパク質レベルでのTGFβ1発現の測定のために、ELISAが好ましい技術である。
【0124】
上述した、癌患者におけるNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物による治療の治療効率を決定又は予測するためのインビトロ方法のいずれにおいても、試験患者は、上述した任意のタイプの癌に罹患している可能性がある。
【0125】
これは、上述した癌患者におけるNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物による治療の治療効率を決定するためのインビトロ方法に特に当てはまり、斯かる方法は癌試料を培養することを必要としない。本文脈において、治療されることになる患者が罹患している癌は、特に、固形癌から;好ましくは癌腫及び脳腫瘍から、より好ましくは乳癌、黒色腫、膵臓癌、結腸直腸癌、肺癌、及び膠芽腫から選択されてもよく;さらにより好ましくは、前記癌は、乳癌、黒色腫、膵臓癌、及び膠芽腫から選択され、最も好ましくは前記癌は乳癌、特に転移性乳癌である。
【0126】
癌患者におけるNFATC4を発現する細胞のSEVを含有する組成物による治療の治療効率を予測するための上記方法は、任意のタイプの癌に適用することができるが、それは好ましくは、液体癌、例えば白血病又はリンパ腫に罹患している患者に適用される。実際に、液体癌試料は、NFATC4を発現する細胞のSEVとの接触の前後で、TGFβ1発現の測定のためにより容易に培養される。
【0127】
以下の実施例は単に本発明を説明することを意図する。
【実施例
【0128】
実施例
実施例1:低浸潤性乳癌細胞によって産生されたSEVは、癌の進行及び転移を阻害する
材料及び方法
細胞培養
MDA-MB-231、T-47D、MCF7、NIH3T3、HEK293T細胞株は、American Type Culture Collectionからのものであり、SUM-159-PT細胞株はAlex Tokerにより提供され(Harvard Medical School)、MDA-MB-231 D3H2 LN-Luc及び4T1-Red-FLuc細胞株はPerkin Elmerからのものであった。MDA-MB-231 D3H2 LN-Luc細胞株を、イーグルMEM、75μg/mlのゼオシン(Zeocin)中に維持した。4T1-Red-FLuc細胞株は、RPMI 1640、10%のウシ胎仔血清中にあった。MDA-MB-231及びSUM-159-PT細胞を、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、低グルコース(1g/LのD-グルコース)、10%のウシ胎仔血清中に維持した。T-47D及びMCF7を、RPMI 1640、10%のウシ胎仔血清中に維持した。NIH-3T3細胞は、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、高グルコース(4,5g/LのD-グルコース)、10%の新生仔牛血清中にあった。HEK293T細胞株を、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、高グルコース(4,5g/LのD-グルコース)、10%のウシ胎仔血清中に維持した。全ての培地を2mMのL-グルタミン、100U/mLのペニシリン、及び100μg/mLのストレプトマイシンで補充した。
【0129】
SEV産生
SEV枯渇培地の調製
動物由来成分(例えば血清)を含有する培地については、培地のSEV枯渇を実施すべきである。
【0130】
1.最大で20%の血清を含む培地を調製する(より高い血清濃度は推奨されない)。
2.超遠心分離機及びローターを4℃に予冷する。
・SW32Tiローターの場合:
i.ポリアロマー(pollyallomer)38.5mlチューブ(326823)を使用する。それぞれ38mlの培地を充填し、重量でバランスをとる(0.01~0.02grの差を目指す)。
ii.4℃で30,000RPMで一晩スピンする(標準化-18時間)。
・Type 45Tiの場合:
i.枯渇のために標識された65mlの再利用可能なチューブを使用する。それぞれ65mlの培地を充填し、重量でバランスをとる(0.01~0.02grの差を目指す)。
ii.4℃で38,000RPMで一晩スピンする(標準化-15時間)。
3.ペレットを乱さずに上清を注意深く採取する。
4.0.22μmでフィルターし4℃で保存する。1週間以内に使用する。
【0131】
培地変更
細胞タイプについてSEV産生のために最適化された細胞を増殖させ、指定された時点で枯渇したSEVに変更する。
1.SEV枯渇培地から培地を調製し、必要に応じて希釈する。
2.培地を吸引する。
3.150mmのディッシュに対して、7mlのPBSを添加する。
4.全てのPBS又は残りの培地を十分に吸引する。
5.SEV枯渇培地を添加する。
【0132】
SEV産生
細胞タイプについてSEV産生のために最適化された細胞を増殖させ、必要に応じてSEV枯渇培地に変更し、指定された時点でSEV単離を実施した(典型的には培地変更後24~48時間)。
【0133】
注意:細胞は良好な条件であるべきである。細胞死及びアポトーシス体はSEVペレットの汚染につながる可能性がある。
【0134】
SEVが機能的アッセイに使用されることになる場合、無菌条件下で行う。
【0135】
ローターType 45Tiを有する超遠心分離機を予冷する(このローターは冷却に長時間かかるため、産生を開始する前の晩に冷蔵庫に入れておくと良い)。
1.ディッシュから50mlチューブに培地を通す。
2.1350RPMで10分間4℃でスピンする。
【0136】
並行して:代表的な数のディッシュについて(典型的には、30ディッシュの産生につき3枚):
a.PBSで洗浄し、吸引する
b.トリプシンを添加し、分離するまで37℃でインキュベートする
c.10%の血清、好ましくはSEV枯渇した血清を有する培地を添加する
d.細胞を各ディッシュから別々にカウントし、産生に用いられた全細胞を記録する。
e.冷PBSを添加する
f.1350RPMで7分間4℃で遠心分離する。
g.上清を吸収する
h.タンパク質/RNAのために-80℃で凍結する。
【0137】
3.上清を注意深く新しい50mlチューブに移す。ペレットと共にチューブを捨てる。
4.3500RPMで培養室内で20分間4℃でスピンする。
5.上清を注意深く新しい50mlチューブに移す。ペレットと共にチューブを捨てる。
6.遠心分離機5810RローターF-34-6-38で:10,000RPMで30分間4℃でスピンする。
7.上清を注意深く、ローターType 45 Ti用の滅菌超遠心分離チューブ(チューブ355622)に移す。チューブにひびが入っていないことを注意深く確認する。チューブを65mlで充填し、重量でバランスをとる(0.01~0.02grの差を目指す)。ペレット位置をマークするためにローターに近い側でチューブをマークする。この段階で、培地は、超遠心分離前に4℃で数日間(最大3~4日)維持することができる。
【0138】
8.40,000RPMで90分間4℃で超遠心分離する。
9.注意深く、ペレット位置から可能な限り離れて-上清を捨て、可能な最小量を残す(ペレットが見える場合は完全に吸引し、そうでない場合は最大で2mLの培地を残す)。
10.p1000を使用して、ペレットを2mLの冷PBS(又は残りの上清)中に再懸濁し、別のチューブに移す。
11.2mlの冷PBSを添加し、p1000で洗浄し、マークしたペレット位置を慎重に洗浄するよう注意する。同じチューブに移す。
12.2mlのPBSでの洗浄を繰り返し、同じチューブに移す。
13.全てのチューブについて繰り返し、全てを同じチューブに移す。
14.チューブを冷PBSで65mlに充填し、重量のバランスをとる。
15.40,000RPMで90分間4℃で超遠心分離する。
【0139】
16.注意深く、ペレット位置から可能な限り離れて-上清を捨て、可能な最小量を残す。
17.残りの上清中に再懸濁するか、又は冷PBSを最小量で添加して再懸濁する(これは使用される細胞の量及び細胞タイプに依存するであろう)。マークされたペレット位置を慎重に洗浄するよう注意する。滅菌シリコンチューブに移す(sigma T3281)。
18.チューブ、特にペレット位置を、最小量の冷PBSで洗浄する。同じシリコンチューブに移す。
19.採集量を測定し、記録を残す。
20.滅菌シリコンチューブに分注し、-80℃で保存する。
【0140】
重要な観察:
MDA-MB 231及びSUM 159 PT細胞の場合:150mm直径のディッシュ当たり1x10E6の細胞を播種する;3日後、培地をSEV枯渇に変更する;2日後、産生を開始する;
T47-D細胞の場合:150mm直径のディッシュ当たり6x10E6の細胞を播種する;5日後、培地をSEV枯渇に変更する;2日後、産生を開始する;
MCF7細胞の場合:150mm直径のディッシュ当たり7x10E6の細胞を播種する;5日後、培地をSEV枯渇に変更する;2日後、産生を開始する;
150mm直径のディッシュを使用する場合、細胞を25mLの培地中に維持する;
上記で挙げた細胞タイプの全てについて、第1の超遠心分離後であっても目に見えるペレットが得られるので、第1の超遠心分離後とPBS洗浄後の両方で全ての上清を除去して、上清中に依然として浮遊している可能性があるタンパク質による夾雑を避けることが重要である;
SEV枯渇したRPMI及びDMEMを、20%の血清;1%P/S(及びl-glu、RPMIの場合)で調製する。培地を、ON超遠心分離後に濾過し、冷蔵庫内で最大1か月保存することができる。産生用の細胞培地を変更する前に20%のSEV枯渇培地を希釈する場合、新しいボトルの新鮮な培地を使用するべきである。希釈された培地は、産生用の細胞培地を変更する前に希釈時に再濾過するべきである。
【0141】
抗体及び試薬
以下の抗体を使用した:抗CD63(#clone H5C6、BD Biosciences)、抗NFAT3(Sigma;#F1804、Thermo Scientific;#PA1-021、Santa-Cruz Biotechnology;sc-13036)、抗CD9(#clone CBL162、Millipore)、抗Actin(Thermo Scientific;# MA5-15739)、ESR1(Santa-Cruz Biotechnology;sc-543)。
組み換えTGFB1はInvitrogenからのものであった(#PHG9214)
【0142】
SEV特徴付け
SEVのサイズ分布をNanoSightによって評価した。
【0143】
ウェスタンブロット
400 000 T47D又はMDA-MB-231を、laemelli緩衝液中でレーンごとに使用した。各SEVの20ugを、Laemelli緩衝液+2%SDS中でレーンごとに使用した。試料をゲル上にロードする前に95℃で30分間煮沸した。ゲルをニトロセルロース膜上に移し、1時間TBS-0,05% Tween-20中、室温でブロックした。次いで膜を、図に示した異なる抗体と共に一晩インキュベートした。翌日、膜をTBS-0,05% Tween-20中で4回洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体と共に1時間室温でインキュベートした。次いで、膜をTBS-0,05% Tween-20中で4回洗浄し、1時間室温でインキュベートし、ECLで暴露して、タンパク質を可視化した。
【0144】
浸潤アッセイ
浸潤アッセイを、Transwellチャンバ(Becton Dickinson)と、Matrigel(Becton Dickinson)でコーティングされた8-μm細孔膜を用いて、本質的に記載したように行った。関連するsiRNAでトランスフェクトされていないか又はトランスフェクトされた細胞を、10%のウシ胎仔血清を省いた培地で日中4回洗浄することによって飢餓状態にし、最終洗浄後、細胞600ulの10%のウシ胎仔血清を含まない培地。翌日、細胞を、PBS又は0,375.109粒子/ウェルのいずれかで12ウェルプレート中で24時間処理した。場合によっては、5ng/mLの組み換えhTGFβ1(#PHG9214、Invitrogen)又はビヒクルを添加した。翌日、細胞をトリプシン処理し、0.1%のBSAを含有する血清を含まない培地に採取し、細胞を各ウェルに添加した。馴化NIH-3T3培地をチャンバの底部ウェルに添加した。6時間後、侵入しなかった細胞を綿棒を用いてフィルターの上面から除去し、そして、フィルターの下面に侵入した細胞を100%メタノール中で10分間固定し、次いで、クリスタルバイオレットで30分間染色した。各Transwell中の全ての細胞をカウントした。各条件下で侵入した細胞の数を、1の比として任意に設定したPBS条件と比較した。アッセイが、siRNAにより一時的にトランスフェクトされた細胞を用いて行われた場合、細胞の95%が効果的にトランスフェクトされたので、細胞はクリスタルバイオレットで染色された。場合によっては、5ng/mLの組み換えTWEAKを、アッセイ中に細胞に6時間添加した。
【0145】
増殖及びアポトーシスアッセイ
アポトーシス試験
高度に浸潤性のMDA-MB-231(A)を24時間、及びSUM-159-PT(B)を24時間、SEVの指示量で処理し、細胞アポトーシスを評価した。SEV処理の24時間後、細胞上清を除去し、細胞をトリプシン処理し、冷PBS中で2回洗浄した。細胞を、冷結合緩衝液(10mMのHEPES pH7.4、140mMのNaCl、2.5mMのCaCl2、0.1% BSA)中で1.106細胞/mLの濃度に再懸濁した。次いで、100μLの細胞(1x105~1x106)をポリプロピレンFACSチューブに入れ、10μLの標識Annexin Vを細胞に添加した。細胞を氷上で15分間インキュベートし、光から保護した。次いで、洗浄することなく、380μLの冷1X結合緩衝液を各チューブに添加し、アネキシン-V標識を、フローサイトメトリーによって直ちに分析して、アポトーシスを評価した。
【0146】
増殖試験
高度に浸潤性のMDA-MB-231(A)を24時間、並びにSUM-159-PT(B)を24、48及び72時間、T47D-WT由来SEVの指示量で処理して、細胞増殖を評価した。MDA-MB-231増殖を、製造業者の推奨に従ってBrdU Incorporationアッセイによって評価した(Roche:# 11444611001)。
【0147】
shRNA
全てのshRNAは、pGIPZレンチウイルスベクターにクローニングされたDharmaconからのものであった。
pGIPZ sh(hNFAT3)-3 5‘-CAATGAACACCACCTTGGA-3’(クローンID:V3LHS_383428、配列番号18)
pGIPZ sh(hNFAT3)4 5’- AGTCTCAGGGAACATCCGC-3’(クローンID:V3LHS_383431、配列番号19)
pGIPZ sh(hTGFβ1)1 5’- ATGCTGTGTGTACTCTGCT-3’(クローンID:V3LHS_356824、配列番号20)
pGIPZ sh(hTGFβ1)2 5’- TGATGTCCACTTGCAGTGT-3’(クローンID:V3LHS_356823、配列番号21)
【0148】
HEK293T細胞におけるshRNAレンチウイルス粒子の産生
・1日目:
細胞を10%SVF/HIGH DMEM中に播種する
【0149】
【表4】
【0150】
・2日目:
1-リン酸カルシウムによるプラスミドトランスフェクション
【0151】
【表5】
【0152】
2-CaCl2の指示量を上記の希釈DNAに添加する
【0153】
【表6】
【0154】
3-試薬を漏出することなく完全に混合するのに十分な速度でチューブをボルテックスする。ボルテックス中、指示量の2x HBSSを滴下する:
【0155】
【表7】
【0156】
4-室温で3分間インキュベートする。明白亜色の沈殿物がインキュベーション中に出現するはずである(沈殿物は常に明らかではない場合がある)。
5-トランスフェクションミックスの全量(300μL又は2.1mL)を細胞に滴下する。
(注意:正確な容量はピペッティングロスのためにわずかに減少することがあるが、これはトランスフェクション効率に悪影響を与えないであろう)
6-細胞を37℃で5%のCO2で10~16時間インキュベートする
【0157】
・3日目:
1-低血清培地(reduced serum medium)を調製する:
a.高グルコースDMEM
b.5%胎児ウシ
c.2mMのL-グルタミン
d.1xペニシリン/ストレプトマイシン
2-リン酸カルシウム含有培地を細胞から除去し、14mlの低血清培地に換える。
3-細胞を37℃で5%のCO2でさらに48時間インキュベートする。
【0158】
・5日目:ウイルス粒子の回収及び濃縮
1-15mLの滅菌蓋付きコニカルチューブに培地を除去することによって、培地変更から48時間後にウイルス粒子含有上清を回収する。
2-1600×g、4℃で10分間の遠心分離によって非付着細胞及び残屑をペレット化し、細胞残屑をペレット化する。
3-残りの細胞残屑を除去するための低速遠心分離ステップの後に上清を滅菌した0.22~0.45μmの低タンパク質結合フィルターを通す濾過ステップ。濾過したウイルス培地は超遠心分離チューブに直接入れる。
4-スイングバケット(swinging-bucket)超遠心分離ローターでの超遠心分離によって濃縮する。変化した上清を滅菌超遠心分離チューブに移す。血清を含まないDMEMでの超遠心分離中にチューブの破損を避けるために、チューブをほぼ満たす容量にする。
SW28ローターの場合、23,000rpmで2時間4℃で遠心分離する。
5-所望の再懸濁容量のDMEM(無血清)をチューブの底のペレットにピペッティングする。
6-可視ペレット(目に見える場合)は、トランスフェクトされた細胞の培養培地からの血清タンパク質から大部分が構成されている。ウイルス粒子は、タンパク質ペレットから除去する必要がある。ペレットにDMEMを添加した後、10分間4℃でインキュベートする。次いで、気泡の形成を避けながら、約30回やさしく上下にピペットする。
7-再懸濁したペレットを滅菌微量遠心チューブに移し、フルスピードで3~4分間遠心分離する。この遠心分離は血清タンパク質をペレット化することになり、これはチューブの底に付着する。遠心分離後に、上清を新しい微量遠心チューブに移し、100ulのPBS中に再懸濁する(1回の感染につき20ulが使用されることになる。レンチウイルス粒子は常に-80℃で保存する。
【0159】
レンチウイルス粒子による細胞の感染及び選抜
・1日目:
細胞を、その対応する培地中の10%SVF+ABにおける24ウェルプレートに播種する
【0160】
【表8】
【0161】
・2日目:
4ug/mlのPolybreneで補充した対応する培地の250ulで、培地を交換する
細胞に直接、20ulのウイルスを加えることによって感染させる
インキュベーターに4時間入れる
4時間後、ポリブレン(polybrene)で補充した対応する培地の1ml/ウェルを添加する
【0162】
・6日目:
細胞をトリプシン処理して、それを25cmのフラスコに移す
【0163】
・9日目:
細胞を実験室に戻し、それを以下に移す:
【0164】
【表9】
【0165】
フラスコがコンフルエント(confluent)である場合、FACSの選別に進むことができる。
【0166】
・細胞選別:
10.106細胞/mlの選別のための濃度を有するべきである
1.細胞をトリプシン処理し、それらをカウントする
2.細胞を1回PBSで洗浄する
3.2X ABで完成したPBSの必要量で細胞を再懸濁する
4.細胞をセルストレーナー(cell strainer)に通して凝集体を除去する
5.細胞をPolypropylene Facsチューブに移す
6.2X ABで完成した100%のSVFを含有する選別細胞を受けるためのチューブを準備する
7.SVFを含まないが2X ABを含む対応する培地を含有する選別細胞を増殖させるための6ウェルプレートを準備する(選別細胞が加えられることになる場合、そこには20%のSVF最終があることになる)
8.次いで、異なる検証試験を実現するのに十分となるまで細胞を増殖させる。
9.クローンを凍結させることを忘れないこと。
【0167】
siRNA
全てのsiRNAは、Dharmaconからのon Target plus smartpoolであった。
ヒトTGFβ1の場合、siRNAは以下のものであった:
siRNA1 5’- AUUGAGGGCUUUCGCUUA-3’(配列番号22),
siRNA2 5’- CCGAGAAGCGGUACCUGAA-3’(配列番号23),
siRNA3 5’- GCAGAGUACACAGCAUA-3’(配列番号24),
siRNA4 5’- GGACUAUCCACCUGCAAGA-3’(配列番号25),
siRNA対照はDharmaconからの有効な非ターゲティングスマートプール(validated non targeting smartpool)であった。配列は製造業者によって提供されなかった(参照Dharmacon:D-001810-02-20)。一時的にヒトTGFβ1をサイレンシングするために、本発明者らは、上記の特異的siRNAsを30nMで使用し、製造業者の指示に従って48時間DharmaFECTで細胞をトランスフェクトした。内在性TGFβ1の効果的なダウンレギュレーションをELISAによって確認した。
【0168】
ヒトTGFβ1のためのELISA
細胞上清において
TGFβ1のためのELISAを、製造業者に指示されたように100μlの活性化された細胞上清に対してR&D systemsからのキット(#DY240)を用いて行った
マウス血清において
血液をマウスから採取し、血清分離をBD Microtainer SSR Tubes(#365968)で行った。TGFβ1のためのELISAを、製造業者に指示されたように1μlの活性化された血清に対してR&D systemsからのキット(#DY240)を用いて行った
【0169】
プラスミド構築
ヒトTGFβ1プロモーター(PGL3-hTGFβ1-1670)を、PGL3ベーシックベクター(Promega)中にMDA-MB-231から単離したテンプレートとしてのゲノムDNAを用いてPCRによってクローニングした。全ての構築はシークエンシングによって確認した。pCS2-(n)-βgalは既に記載されている(Jauliac, Sら、(2002)Nature Cell Biology、4(7)、540-544)。
【0170】
細胞を、製造業者の指示に従ってLipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて適切なプラスミドにより一時的にトランスフェクトした。
【0171】
異なる構築の配列:
・PGL3ベーシック(basic)(Promega、空ベクター):配列番号26;
・PGL3-hTGFβ1-1670プロモーター(hTGFβ1プロモーターの制御下でのルシフェラーゼの発現):配列番号27;
【0172】
ルシフェラーゼアッセイ
細胞を、Lipofectamine 2000を用いて、PGL3ベーシックプラスミド又はPGL3-hTGFβ1-1670ルシフェラーゼプロモーターコンストラクトのいずれか、及びpCS2-(n)-β-ガラクトシダーゼプラスミドによりコトランスフェクトした。翌日、細胞を、6ウェルプレート中で24時間PBS又は1.109粒子/ウェルのいずれかで処理した。24時間後、細胞をReporter Lysis Buffer(Promega)で溶解し、ルシフェラーゼ及びβ-gal活性を、ルミノメーターでLuciferase Assay System(Promega)及びGalacton-plus(Tropix)を使用して測定した。ルシフェラーゼ活性は、対応するβ-gal活性に対して正規化された。
【0173】
マウス実験:
異種移植及びインビボでのフォローアップ
・Hsd:AthymicNude-Foxn1nu雌マウスにおけるMB-231 D3H2 LN-Lucについて
6週齢のHsd:AthymicNude-Foxn1nu雌マウスはEnvigo社からのものであった。マウスをいずれかの操作の前にIUH動物施設で1週間飼育した。マウスが7週齢に達したら、100μlのPBSで希釈した1~0.5.106個のMDA-MB-231 D3H2 LN-Luc細胞を、第2の右下脂肪体に注射した。3日後、成功した異種移植を、PBSで希釈したXenoLight D-Luciferin, Potassium Saltを注射することによる発光によって可視化し、発光はXenogen systemで30秒間起こった。各条件につき8匹のマウスの群を同等の発光で確立した。実験は2か月間行った。最初の月に、腫瘍サイズを月曜日及び木曜日にキャリパーで測定した。毎週火曜日に、マウスに、異なる実験に記載されているように2か月間腫瘍内又は静脈内に、50.108個のSEV T47D-WT、T47D-shCtrl、T47D-shNFAT3-3又はT47D-shNFAT3-4を毎週注射した。毎週金曜日に、血液を眼窩後方から採取した。2か月目から転移が現れ始めるので、腫瘍サイズが測定されたら、転移形成の評価を月曜日及び木曜日に行った。マウスに、PBSで希釈したXenoLight D-Luciferin, Potassium Saltを注入し、生物発光画像(原発性腫瘍は黒色組織で遮蔽された)をXenogenシステムで取得して、転移性MDA-MB-231 D3H2 LN-Luc細胞によって生成された平均光子束を定量した。転移の定量化は、転移性MDA-MB-231 D3H2 LN-Luc細胞によって生成された平均光子束として提示される。2か月の終わりに、マウスを屠殺し、原発性腫瘍並びに肺、腋窩リンパ節及び肝臓を、その後の免疫蛍光標識のために-80℃で保存した。
【0174】
結果
低浸潤性乳癌T47D及びMCF7細胞によって産生されたSEVの特徴付け
SEVMDA-MB-231及びT47D細胞によって産生されたSEVのサイズ分布の代表例は、図1A(MDA-MB-231)及び図1B(T47D)に表され、MDA-MB-231及びT47D 細胞によって産生されたSEVが、100~200nmの同様の平均サイズを有することを示す。
【0175】
MDA-MB-231及びT47D細胞によって産生されたSEVはまた、ウェスタンブロットによっても特徴づけられ、カルネキシンに対する抗体;CD63及びCD81を用いて全細胞抽出物と比較した(図1C)。結果は、精製された試料がSEVのみを含有することを示し、これはCD63マーカーを発現するが、カルネキシンは発現しないためであり、前記試料には細胞は存在しないことを示している。
【0176】
低浸潤性乳癌T47D-WT及びMCF7-WT細胞によって産生されたSEVは、高度に浸潤性のMDA-MB-231及びSUM-159-PT乳癌細胞及びWM.266.4黒色腫細胞の浸潤を特異的に阻害する。
【0177】
異なる細胞株からのSEVを、古典的なトランズウェル(transwell)浸潤アッセイにおいて、高度に浸潤性の乳癌細胞(MDA-MB-231、SUM159PT)又は黒色腫細胞(WM.266.4)の浸潤を調節するその特異的な能力を試験するために産生した。5つのタイプの細胞をSEVの産生のために選択した:2つの低浸潤性乳癌細胞株(T47D-WT、MCF7)、1つの高度に浸潤性の乳癌細胞株(MDA-MB-231)、及び若年及び高齢のヒト検体から得られた2つのヒト線維芽細胞(FHN21-WT、20歳;FHN32-WT、74歳)。
【0178】
結果を図2に提示し、以下のことを示している:
・若年及び高齢ヒト検体から得られたヒト線維芽細胞(FHN21-WT及びFHN32-WT)によって産生されたSEV、並びに高度に浸潤性の乳癌細胞株(MDA-MB-231)によって産生されたSEVは、高度に浸潤性の乳癌細胞株MDA-MB-231の浸潤指数を有意に変化させない(図2A参照);
・2つの低浸潤性乳癌細胞株、T47D-WT及びMCF7-WT細胞によって産生されたSEVは、高度に浸潤性の乳癌細胞株MDA-MB-231(図2A及び2C参照)及びSUM-159-PT(図2D参照)の浸潤指数を約50%有意に減少させる。2つの異なる低浸潤性乳癌細胞株は同じ効果を有するという事実は、低浸潤性乳癌細胞株によって産生されたSEVの阻害効果が、SEV産生細胞株に対して特異的ではないが、一般的な効果であるということを強調している;
・低浸潤性乳癌細胞株T47D-WT及びMCF7-WT細胞によって産生されたSEVはまた、高度に浸潤性の黒色腫細胞株WM.266.4の浸潤指数を約60%有意に減少させる(図2B参照)。2つの低浸潤性乳癌細胞株が高度に浸潤性の黒色腫細胞株に対して同じ効果を有するという事実は、低浸潤性乳癌細胞株によって産生されたSEVの阻害効果が、その元の細胞タイプが何であっても、高度に浸潤性の乳癌細胞株に対して特異的ではないが、高度に浸潤性の細胞株に対して一般的な効果であるということを強調している。
【0179】
低浸潤性乳癌細胞(T47D-WT)からのSEVは、高度に浸潤性の乳癌細胞(MDA-MB-231及びSUM-159-PT)の増殖を改変しない
高度に浸潤性の乳癌細胞株MDA-MB-231及びSUM159PTの増殖を変化させる低浸潤性乳癌細胞株T47D-WT由来のSEVの能力を、さらに評価し、並びにそれらの高度に浸潤性の乳癌細胞株MDA-MB-231のアポトーシスを誘導する能力を評価した。
【0180】
結果を図3に提示し、低浸潤性乳癌細胞株T47D-WT由来のSEVは、高度に浸潤性の乳癌細胞株MDA-MB-231(図3A参照)及びSUM159PT(図3B参照)の増殖を改変せず、かつ、高度に浸潤性の乳癌細胞株MDA-MB-231のアポトーシスを誘導しないことを示す。
【0181】
高度に浸潤性の細胞株(MDA-MB-231及びSUM-159-PT)の浸潤能に対する、低浸潤性乳癌細胞株T47Dによって産生されたSEVの阻害効果は、低浸潤性SEV産生細胞株T47D-WTにおけるNFAT3の発現を必要とする。
本発明者らは、低浸潤性乳癌細胞株が、その低い浸潤能に必要とされる高浸潤性の乳癌細胞株と比較して特に多量のNFAT3を発現することを以前に示した(Fougere, M.、ら、(2010)Oncogene、29(15)、2292-2301)。
【0182】
それゆえ、SEV産生細胞(T47D-WT)における内在性NFAT3が、高浸潤性細胞株の細胞浸潤を鈍らせるためにこれらSEVに必要とされ得るという仮説が立てられた。この可能性を試験するために、内在性NFAT3の発現を50%に減少させる2つのshRNA(ShNFAT3-3、ShNFAT3-4)によって内在性NFAT3発現が減少されたT47D細胞、あるいはshRNA対照(shCtrl)によって変更されなかったT47D細胞を生成した(図4A参照)。SEVはshRNA発現T47D細胞株から産生され、高度に浸潤性の細胞株MDA-MB-231及びSUM-159-PTの浸潤能に対して試験した。
【0183】
結果は、図4B及び図4Cに提示され、SEV-T47D産生細胞株における内在性NFAT3の発現が、乳癌細胞浸潤を妨げるのに絶対的に必要であるということを実証し、これは、内在性NFAT3(ShNFAT3-3、ShNFAT3-4)の発現を50%に減少させるshRNAを発現するT47D細胞株から産生されたSEVが、shRNAを有さないT47D細胞株(T47D-WT)又は対照shRNAを発現するT47D細胞株(shCtrl)から産生されたSEVとは対照的に、高度に浸潤性の細胞株MDA-MB-231及びSUM-159-PTの浸潤指数を減少させないためである。これらデータは、SEV産生細胞株におけるNFAT3発現が浸潤性阻害能を高浸潤性細胞株に転移する鍵であることを初めて示す。
【0184】
MDA-MB-231細胞におけるTGFβ1のデノボ誘導は、SEVが乳癌細胞浸潤をを調節するためにに必要とされる。
T47D-WT細胞株によって産生されたSEVが高度に浸潤性の乳癌細胞株浸潤を妨げることができるメカニズムを明らかにし始めるために、受容細胞(MDA-MB-231)におけるSEVによる異なる因子の調節を評価した。
【0185】
図5Aに提示されたデータは、T47D-WT細胞由来のSEVが、MDA-MB-231におけるTGFβ1分泌の増加を誘導することを示す。また、このTGFβ1分泌の増加は活性転写を必要とし、これは転写阻害剤(アクチノマイシン)による細胞の前処理がこの分泌の増加を完全に防ぐためである。これらの結果は重要である。なぜなら、これらは、TGFβ1分泌の増加が、受容細胞(MDA-MB-231)で起こる活性機構(active mechanism)であり、かつ潜在的SEV TGFβ1タンパク質の寄与に関連していないことを実証するためである。
【0186】
次に、このTGFβ1分泌の増加が、SEVが細胞浸潤を阻害するために必要である可能性を試験した。この目的のために、TGFβ1に対するsiRNA(siTGFB1)又は対照siRNA(siCtrl)によって、受容細胞(MDA-MB-231)において一過性のトランスフェクションアッセイで、内在性TGFβ1を独立して下方制御した。内在性TGFβ1の損失を補うために、受容細胞を外因性TGFβ1で処理した。図5Bに提示された結果は、SEVによるTGFβ1分泌の増加が、細胞浸潤を阻害するために絶対的に必要とされることを実証し、これは、TGFβ1が下方制御されると、受容shCtrl細胞(siCtrl、+SEV)と比較して、SEVはもはや、細胞浸潤を妨げることができないためである(siTGFB1、+SEV)。また、SEVとともに外因性TGFβ1を戻すことは、細胞浸潤を阻害するSEVの能力を回復するのに十分である(siTGFB1、+SEV、+TGFβ1)。さらに、以前に内在性TGFb1を下方制御することなく外因性TGFβ1を添加することは(siCtrl、+/-SEV、+TGFb1)浸潤を阻害するのに十分ではなく、外因性TGFb1単独での治療が細胞浸潤を阻害するのに十分でないことを示している。これら結果は、高度に浸潤性の細胞株を受ける際に低浸潤性細胞株由来のSEVがTGFβ1分泌の転写増加を誘導することを実証し、これは浸潤を阻害するSEVの能力に絶対的に必要である。
【0187】
T47D-WT細胞によって産生されたSEVは、hTGFB1プロモーターの活性を上方制御する能力がある。
hTGFb1プロモーターの模式図を図6Aに示す。http://www.fast-db.com/perl/nfat.plで入手可能なソフトウェアを用いて決定されたNFAT結合部位を用いて、6つの潜在的なNFAT-結合部位が見出された。+1開始部位に対する位置が示されている。
【0188】
したがって、T47D-WT細胞によって産生されたSEVが、hTGFB1プロモーターの活性を上方制御することができるかを試験した。結果は、図6Bに提示され、T47D-WT細胞によって産生されたSEVが実際にhTGFB1プロモーターの活性を上方制御することを示している。
【0189】
低浸潤性乳癌細胞株T47D-WTによって産生されたSEVの静脈内又は腫瘍内注射は、腫瘍増殖及び転移の出現を阻害し、TGFβ1の誘導と相関する。
次に、低浸潤性乳癌細胞によって産生されたSEVが、インビトロで行ったものと同じ阻害効果をインビボモデルで誘導し得るかを試験した。この目的のために、ルシフェラーゼ遺伝子(D3H2LN)を発現するMDA-MB-231細胞を、6週齢の雌マウスAthymic Nude-Foxn1nuマウスの左脂肪体に注射した。低浸潤性乳癌細胞株T47D-WTによって産生されたSEV、又は対照としてのPBSを、細胞の異種移植の1週間後に、尾静脈内又は腫瘍内のいずれかに毎週注射した。腫瘍増殖のモニタリングを、10週間、キャリパー測定によって行った。
【0190】
結果は、静脈内注射については図7、及び腫瘍内注射については図8に提示され、初めて、かつインビトロでは細胞増殖の阻害がないにも関わらず(図3)、T47D-WT細胞由来のSEVが、腫瘍増殖を有意に妨げることができること(静脈内:図7A、マウスN°610;腫瘍内:図8A、マウスN°614)を、インビボでPBSを注射されたマウスと比較して(静脈内:図7A マウスN°629;腫瘍内:図8A、マウスN°617)示している。
興味深いことに、両方の注射タイプ(静脈内又は腫瘍内)において、SEVの阻害効果は、処置マウスの血液中のTGFβ1の誘導と密接に相関した。実際に、SEVの毎週注射が腫瘍増殖速度を改変しなかったマウスは、PBSを注射されたマウスと比較して(静脈内:図7B マウスN°629;腫瘍内:図8B マウスN°617)、血液中のTGFβ1の増加を示さなかった(静脈内:図7B マウスN°625;腫瘍内:図8B マウスN°602)。
【0191】
同じ群のマウスにおいて、転移形成を、転移性MDA-MB-231細胞によって生成された平均光子束によって、Xenogen systemで、42日目からの生物発光イメージングによって評価した(原発性腫瘍は黒色組織で遮蔽された)。結果は、静脈内注射については図7に、及び腫瘍内注射については図8に提示され、尾静脈内又は腫瘍内のいずれかに、T47D-WT細胞由来のSEVを注射されたマウスが、PBSを注射されたマウスと比較して(静脈内:図7C マウスN°629;腫瘍内:図8C、マウスN°617)、有意に減少した転移の発生(unveiling)及び増殖を有すること(静脈内:図7C、マウスN°610;腫瘍内:図8C、マウスN°614)を初めて示している。
【0192】
また、腫瘍増殖について示されたように、転移に対するSEVの阻害効果は、血液中のTGFβ1の誘導と密接に相関した。実際に、SEVの毎週注射が転移の出現を改変しなかったマウスは、PBSを注射されたマウスと比較して(静脈内:図7D マウスN°629;腫瘍内:図8D マウスN°617)、血液中のTGFβ1の増加を示さなかった(静脈内:図7D マウスN°625;腫瘍内:図8D マウスN°602)。
【0193】
これら結果は重要であり、低浸潤性乳癌細胞由来のSEVが、インビボでの腫瘍増殖及び転移の出現を妨げることができ、かつ血液循環におけるTGFβ1の増加と密接に相関することを初めて実証する。このTGFβ1の増加は、癌患者におけるSEV注射の効率を評価するための良いツールとなり得る。
【0194】
SEVの腫瘍内注射の腫瘍増殖に対する阻害効果は、T47D-SEV産生細胞におけるNFAT3の発現を必要とし、TGFβ1の誘導と相関する。
【0195】
次に、内在性NFAT3がshRNAによって下方制御された低浸潤性乳癌細胞によって産生されたSEVが、インビボモデルで同じ阻害効果を誘導し得るかを試験した。
【0196】
この目的のために、ルシフェラーゼ遺伝子(D3H2LN)を発現するMDA-MB-231細胞を、6週齢の雌マウスAthymic Nude-Foxn1nuマウスの左脂肪体に注射した。内在性NFAT3の発現を50%に減少させるshRNA(ShNFAT3-3、ShNFAT3-4)によって、又はshRNA対照(shCtrl)によってトランスフェクトされたT47D細胞によって産生されたSEV、あるいは対照としてのPBSを、細胞の異種移植の1週間後に、腫瘍内に毎週注射した。腫瘍増殖のモニタリングは、10週間キャリパー測定によって行った。結果は、図9Aに提示され、初めて、インビトロでの細胞増殖の阻害がないにも関わらず、T47D-shCtrl細胞由来のSEVが、PBSを注入されたマウスと比較して、インビボで有意に腫瘍増殖を妨げることができたことを示している(約50%の減少)。また、内在性NFAT3がSEV産生細胞において下方制御された場合(T47D-shNFAT3-3、T47D-shNFAT3-4)、それぞれのSEVは、もはや腫瘍増殖を阻害することができず、かつ増殖速度は、PBSで処置した対照マウスと同じであった(図9A参照)。これら結果は重要であり、初めて、低浸潤性乳癌細胞由来のSEVが、インビボでの腫瘍増殖を妨げるためにSEV産生細胞において内在性NFAT3の発現を必要とすることを実証する。
【0197】
同じ群のマウスにおいて、転移形成を、転移性MDA-MB-231細胞によって生成された平均光子束により、Xenogen systemで、生物発光イメージングによって評価した(原発性腫瘍は黒色組織で遮蔽された)。結果は図9Bに提示され、T47D-shCtrl由来のSEVを注射されたマウスが、PBSを注入されたマウスと比較して、有意に減少した転移の発生及び増殖を有することを示している。また、内在性NFAT3がSEV産生細胞において下方制御された場合(T47D-shNFAT3-3、T47D-shNFAT3-4)、そのそれぞれのSEVはもはや転移形成を妨げず、かつ発生及び増殖速度は、PBSで処置した対照マウスと同一であった(図9B参照)。これら結果は、本発明者らが得たインビトロのデータを拡張し、初めて、低浸潤性乳癌由来のSEVが、インビボでの転移形成を妨げることができ、かつSEV産生細胞における内在性NFAT3の発現を必要とすることを実証する。
【0198】
また、T47D-shCtrl細胞由来のSEVの抗癌効果は、TGFβ1平均血清濃度の増加と相関することが今一度見出された(図9C及び9D参照)。
【0199】
低浸潤性乳癌細胞株T47D-WTによって産生されたSEVの静脈内又は腫瘍内注射は、腫瘍が定着すると、腫瘍増殖及び転移の出現を阻害する。
次に、臨床条件を模倣するために、低浸潤性乳癌細胞によって産生されたSEVが、腫瘍確立後のインビボモデルで同じ阻害効果を誘導し得るかを試験した。この目的のために、ルシフェラーゼ遺伝子(D3H2LN)を発現するMDA-MB-231細胞を、6週齢の雌マウスAthymic Nude-Foxn1nuマウスの左脂肪体に注射した。T47D細胞によって産生されたSEVを、D3H2LN注射後に最初にD27で注射した。腫瘍増殖のモニタリングを、SEV注射後5週間キャリパー測定によって行った。結果を図10A及びBに提示し、どの投与経路であっても(静脈内又は腫瘍内)、かつインビトロで細胞増殖の阻害がないにもかかわらず、T47D細胞由来のSEVは、PBSを注入されたマウスと比較して、腫瘍の確立から27日後にインビボで有意に腫瘍増殖を妨げることができたことを初めて示している(約50%の減少)。
【0200】
結論
上記結果は、以下のことを示している:
・ヒト線維芽細胞により又は高度に浸潤性の乳癌細胞株により産生されたSEVとは異なり、2つの低浸潤性乳癌細胞株によって産生されたSEVは、2つの高度に浸潤性の乳癌細胞株及び高度に浸潤性の黒色腫細胞株の浸潤指数を減少させることができる。これは、低浸潤性癌細胞によって産生されたSEVが、癌の進行及び転移を減少させるために使用することができることを示している。
【0201】
・浸潤性乳癌細胞株の増殖に対するインビトロでの効果がないにもかかわらず、低浸潤性乳癌細胞株によって産生されたSEVは、さらに、インビボの異種移植モデルにおいて腫瘍増殖及び転移の両方を妨げることが見出され、さらに、低浸潤性癌細胞によって産生されたSEVが、癌の進行及び転移を減少させるために使用することができることを実証する。
【0202】
・高度に浸潤性の細胞株(MDA-MB-231及びSUM-159-PT)の浸潤能に対する、低浸潤性乳癌細胞株T47Dによって産生されたSEVの阻害効果は、低浸潤性SEV産生細胞におけるNFAT3の発現を必要とする。
【0203】
・低浸潤性SEV産生細胞におけるNFAT3の発現は、高度に浸潤性の乳癌細胞株におけるTGFβ1のデノボ誘導をもたらし、これは、SEVがインビトロでの乳癌細胞浸潤を調節するために必要とされる。インビボで、低浸潤性乳癌細胞株によって産生されたSEVに対する応答は、TGFβ1血清濃度と相関することが見出された。したがって、低浸潤性癌細胞によって産生されたSEVを投与された患者におけるTGFβ1濃度の上昇は、治療の治療効率のバイオマーカーとして使用され得る。
【0204】
実施例2:改変された自己又は非自己線維芽細胞によって産生されたSEVは、浸潤を阻害する
低浸潤性乳癌細胞によるNFAT3の発現は、癌の進行及び転移を阻害するためにこれらの細胞由来のSEVに重要であることが見出されているので、NFAT3を発現するように誘導された健康な線維芽細胞の、癌の進行及び転移を阻害する能力をさらに試験した。
【0205】
これに基づいて、提案された治療法開発の概略図を図10に示す。
【0206】
材料及び方法
他に特定しない限り、対応する試験について、実施例1と同じプロトコルが使用される。
【0207】
Balbcマウス皮膚からの線維芽細胞単離
剃毛したBalbcマウスからの皮膚を、Dispase II(Sigma;#000000004942078001)に一晩37℃の5%CO2で置くことになる。24時間後、真皮を表皮から分離し、真皮を非常に小さな部分に切断し、プラスチック培養プレート上に付着させる。次いで、10mlのダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、高グルコース(4,5g/LのD-グルコース)、10%のウシ胎仔血清を添加することになる。線維芽細胞が培養に沿って現れ、増幅されて、それらを後述する異なるレンチウイルスコンストラクトで感染させることができることになる。
【0208】
プラスミド構築
ヒトNFAT3 WT、NFAT3-85C、ΔNFAT3 WT、ΔNFAT3-85Cを、既に記載したテンプレートプラスミドを用いて(Fougere, M.、ら、(2010)Oncogene、29(15)、2292-2301)ClontechからのpLVX-tdTomato-C1プラスミドにおけるtd Tomatoタグとの融合で、PCRによってクローニングした。全ての構築をシークエンシングにより確認した。
【0209】
ヒトCD63を、Curie InstituteのDr Clothilde Theryにより与えられたテンプレートとしてのプラスミドを用いて、ClontechからのpLVX-tdTomato-C1プラスミドにおけるtd Tomatoタグとの融合で、PCRによりクローニングした。全ての構築をシークエンシングにより確認した。
【0210】
細胞を、製造業者の指示に従ってLipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて適切なプラスミドで一時的にトランスフェクトした。
【0211】
異なる構築の配列:
・pLVX-tdTomato-C1(Clonetech、空ベクター):配列番号28、配列番号34のタンパク質tdTomato-C1をコードする;
・pLVX-tdTomato-C1-HA hNFAT3 WT(上記表1に定義されたNFATC4のアイソフォーム2の発現ベクター):配列番号29、配列番号35のタンパク質tdTomato-C1をコードする;
・pLVX-tdTomato-C1-HA hNFAT3-85C(上記表1に定義されたNFATC4のアイソフォーム2の発現ベクター、85C末端アミノ酸が切断されている):配列番号30、配列番号36のタンパク質tdTomato-C1をコードする;
・pLVX-tdTomato-C1 hΔNFAT3 WT(上記表1に定義されたNFATC4のアイソフォーム2の発現ベクター、521N末端アミノ酸が切断されている):配列番号31、配列番号37のタンパク質tdTomato-C1をコードする;
・pLVX-tdTomato-C1 hΔNFAT3-85C(上記表1に定義されたNFATC4のアイソフォーム2の発現ベクター、521N末端及び85C末端アミノ酸が切断されている):配列番号32;
・pLVX-tdTomato-C1-hCD63(hCD63の発現ベクター):配列番号33。
【0212】
HEK293T細胞におけるレンチウイルス粒子の産生
2日目のステップ2を除いて、実施例1に記載されたものと同じプロトコルが使用される:
【0213】
【表10】
【0214】
実施例3:
材料及び方法
レンチウイルスプラスミド構築
以下の実施例2の発現ベクターを使用した:
・pLVX-tdTomato-C1(Clonetech、空ベクター、「to-Ctl」とも称される):配列番号28、配列番号34のタンパク質tdTomato-C1をコードする;
・pLVX-tdTomato-C1-HA hNFAT3 WT(上記表1に定義されたNFATC4のアイソフォーム2の発現ベクター、「to-NFAT3 WT」とも称される):配列番号29、配列番号35のタンパク質tdTomato-C1をコードする;
・pLVX-tdTomato-C1-HA hNFAT3-85C(上記表1に定義されたNFATC4のアイソフォーム2の発現ベクター、85C末端アミノ酸が切断されている、「to-NFAT3-85C」とも称される):配列番号30、配列番号36のタンパク質tdTomato-C1をコードする;
・pLVX-tdTomato-C1 hΔNFAT3 WT(上記表1に定義されたNFATC4のアイソフォーム2の発現ベクター、521N末端アミノ酸が切断されている、「to-ΔNFAT3」とも称される):配列番号31、配列番号37のタンパク質tdTomato-C1をコードする;
【0215】
HEK293T細胞におけるレンチウイルス粒子の産生
・1日目:
10%SVF/HIGH DMEMに細胞を播種する
【0216】
【表11】
【0217】
・2日目:
1-リン酸カルシウムによるプラスミドトランスフェクション
レンチウイルスORF発現ベクターの場合
【0218】
【表12】
【0219】
2-CaCl2の指示量を上記の希釈DNAに添加する
【0220】
【表13】
【0221】
3-試薬を漏出することなく完全に混合するのに十分な速度でチューブをボルテックスする。ボルテックスしながら、2x HBSSの指示量を滴下する:
【0222】
【表14】
【0223】
4-室温で3分間インキュベートする。明白亜色の沈殿物がインキュベーション中に出現するはずである(沈殿物は常に明らかではない場合がある)。
5-トランスフェクションミックスの全量(300μt又は2.1mL)を細胞に滴下する。
(注意:正確な容量はピペッティングロスのためにわずかに減少することがあるが、これはトランスフェクション効率に悪影響を与えないであろう)
6-細胞を37℃で5%のCO2で10~16時間インキュベートする
【0224】
・3日目:
1-低血清培地を調製する:
a.高グルコースDMEM
b.5%胎児ウシ
c.2mMのL-グルタミン
d.1xペニシリン/ストレプトマイシン
2-リン酸カルシウム含有培地を細胞から除去し、14mlの低血清培地に換える。
3-細胞を37℃で5%のCO2でさらに48時間インキュベートする。
【0225】
・5日目:ウイルス粒子の回収及び濃縮
1-15mLの滅菌蓋つきコニカルチューブに培地を除去することによって、培地変更から48時間後にウイルス粒子含有上清を回収する。
2-1600×g、4℃で10分間の遠心分離によって非付着細胞及び残屑をペレット化して、細胞残屑をペレット化する。
3-残りの細胞残屑を除去するための低速遠心分離ステップの後に、上清を、滅菌した0.22~0.45μmの低タンパク質結合フィルターを通す濾過ステップ。濾過したウイルス培地は超遠心分離チューブに直接入れる。
4-スイングバケット超遠心分離ローターでの超遠心分離によって濃縮する。変化した上清を滅菌超遠心分離チューブに移す。超遠心分離によって濃縮するDMEMでの超遠心分離中にチューブの破損を避けるために、チューブをほぼ満たす容量にする。SW28ローターの場合、23,000rpmで2時間4℃で遠心分離する。
5-所望の再懸濁容量のDMEM(無血清)をチューブの底のペレットにピペッティングする。
6-可視ペレット(目に見える場合)は、トランスフェクトされた細胞の培養培地からの血清タンパク質から大部分が構成されている。ウイルス粒子は、タンパク質ペレットから除去する必要がある。ペレットにDMEMを添加した後、10分間4℃でインキュベートする。次いで、気泡の形成を避けながら、約30回やさしく上下にピペットする。
7-再懸濁したペレットを滅菌微量遠心チューブに移し、フルスピードで3~4分間遠心分離する。この遠心分離は血清タンパク質をペレット化することになり、これはチューブの底に付着する。遠心分離後に、上清を新し微量遠心チューブに移し、100ulのPBSに再懸濁する(1回の感染につき20ulが使用されることになる。レンチウイルス粒子は常に-80℃で保存する。
【0226】
レンチウイルス粒子による細胞の感染及び選抜
・1日目:
細胞を、その対応する培地中の10%SVF+ABにおける24ウェルプレートに播種する
【0227】
【表15】
【0228】
・2日目:
1-4ug/mlのPolybreneで補充した対応する培地の250ulで培地を交換する
2-細胞に直接、20ulのウイルスを加えることによって感染させる
3-インキュベーターに4時間入れる
4-4時間後、ポリブレンで補充した対応する培地の1ml/ウェルを添加する
【0229】
・6日目:
1-細胞をトリプシン処理して、それを25cmのフラスコに移す
【0230】
・9日目:
1-細胞を実験室に戻し、それを以下に移す:
【0231】
【表16】
【0232】
フラスコがコンフルエントである場合、FACSの選別に進むことができる。
【0233】
細胞選別:
10.10 6 細胞/mlの選別のための濃度を有するべきである
1.細胞をトリプシン処理し、それらをカウントする
2.細胞を1回PBSで洗浄する
3.2X ABで完成したPBSの必要量で細胞を再懸濁する
4.細胞をセルストレーナー(cell strainer)に通して凝集体を除去する
5.細胞をPolypropylene Facsチューブに移す
6.2X ABで完成した 100%のSVFを含有する選別細胞を受けるためのチューブを準備する
7.SVFを含まないが2X ABを含む対応する培地を含有する選別細胞を増殖させるための6ウェルプレートを準備する(選別細胞が加えられることになる場合、そこには20%のSVF最終があることになる)
8.次いで、異なる検証試験を実現するのに十分となるまで細胞を増殖させる。
9.クローンを凍結させることを忘れないこと。
【0234】
抗体及び試薬
以下の抗体を使用した:Anti-CD63(#clone H5C6、BD Biosciences)、抗NFAT3(Sigma;#F1804、Thermo Scientific;#PA1-021、Santa-Cruz Biotechnology;sc-13036)、抗CD9(#clone CBL162、Millipore)、抗アクチン(Thermo Scientific;# MA5-15739)、抗tdTomato(SICGENANTIBODIES;#AB8181-200)。
【0235】
細胞を、製造業者の指示に従って、Lipofectamine 2000(Invitrogen)又はsiRNAのためのDharmaFECT(Dharmacon)を用いて適切なプラスミドにより一時的にトランスフェクトした。
【0236】
結果
HEK細胞株は、T47D乳癌細胞株のように内在性NFAT3を発現する
本発明者らは、非乳癌細胞株においてNFAT3 WT又はNFAT3突然変異体を過剰発現させることによってSEVの阻害能力を転移又は増強する可能性を試験するために、MCF7及びT47D以外の別の細胞株を用いる可能性を評価したかった。この目的のために発明者らは、増殖が容易で編集可能な細胞株であるHEK細胞株を選択した。本発明者らは、最初に、非標的siRNA対照(siCtl)又は内在性NFAT3を標的とするsiRNA(siNFAT3)のいずれかで一時的にトランスフェクトすることによって、内在性NFAT3の潜在的発現を評価した。対照として、本発明者らは、内在性NFAT3を発現するT47D乳癌細胞株を使用した。結果は、図12に提示され、HEK細胞株が内在性NFAT3を発現することを示しており、この発現はT47D乳癌細胞株におけるようにsiNFAT3処理によって下方制御されている。
【0237】
HEKクローンを産生するために使用されるNFAT3突然変異体
図13Aには、HEKクローンを生成するために使用されるtdTomatoタグに融合された異なるNFAT3突然変異体が図示される。野生型NFAT3(NFAT3 WT)、又は最初の342 N末端アミノ酸を欠いた恒常的活性(constitutively active)NFAT3突然変異体(ΔNFAT3)、又は浸潤を阻害するのに必要な領域を欠失した不活性突然変異体(NFAT3-85C)のいずれかを使用した。
【0238】
T47D乳癌細胞株におけるNFAT3過剰発現の特徴付け
T47D乳癌細胞を、対照ベクター、あるいはNFAT3 WT、ΔNFAT3、又は最後の85C末端アミノ酸を欠くNFAT3を発現するベクターのいずれかで一時的にトランスフェクトし、古典的なトランズウェル浸潤アッセイでその浸潤能について評価した。
【0239】
結果は、図13Bに提示され、以下のことを示している:
・NFAT3の過剰発現WT(NFAT3 WT)は、空ベクター(ベクター)でトランスフェクトされた細胞と比較して、T47D乳癌細胞の浸潤指数を約50%減少させる。
・ΔNFAT3の過剰発現(ΔNFAT3)、恒常的活性NFAT3突然変異体は、空ベクター(ベクター)でトランスフェクトされた細胞と比較して、NFAT3 WTよりも良好な程度にT47D乳癌細胞の浸潤指数を約70%減少させる。
・NFAT3の過剰発現-85C(NFAT3-85C)、浸潤を阻害するのに必要な領域を欠失した不活性突然変異体は、ベクタートランスフェクト細胞(ベクター)及びNFAT3 WT又はΔNFAT3トランスフェクト細胞と比較して、もはや浸潤指数を減少させることができない。
【0240】
to-Ctl、to-NFAT3 WT、to-ΔNFAT3及びto-NFAT3-85Cを発現するHEK細胞によって産生されたSEVの特徴付け
to-Ctl、to-NFAT3 WT、to-ΔNFAT3及びto-NFAT3-85cを発現するHEK細胞によって産生されたSEVのサイズ分布の代表例を、図14A(HEK to-Ctl)、図14B(HEK to- NFAT3 WT)、図14C(HEK to-ΔNFAT3)及び図14D(HEK to-NFAT3-85c)に表し、HEKクローンによって産生されたSEVが、100~200nmの同様の平均サイズを有することを示している。
【0241】
NFAT3 WT及びNFAT3突然変異体を発現するHEK細胞株の生成
本発明者らは、レンチウイルス感染及びピューロマイシン選抜によって、to-Ctl、to-NFAT3 WT、to-ΔNFAT3又はto-NFAT3-85Cを発現する安定なHEKクローンを生成した。
【0242】
結果は、図13Cに提示され、HEKクローンがto-Ctl、to-NFAT3 WT又はto-ΔNFAT3、又はto-NFAT3-85Cを安定して発現することを示している。
【0243】
NFAT3過剰発現HEK細胞によって産生されたSEVは、NFAT3を内在的に発現する細胞、例えばT47D細胞で産生されたSEVよりも、高浸潤性の乳癌MDA-MB-231細胞、膵臓癌BXPC3細胞、及び膠芽腫癌細胞の浸潤をより高度に阻害し、かつ、HEK細胞は、対照ウイルスに安定して感染した(HEK to-Ctl)。
【0244】
対照ウイルス(HEK to-Ctl)で、あるいは、NFAT3 WT(HEK to-NFAT3)又はNFAT3恒常的活性突然変異体(HEK to-ΔNFAT3)又は最後の85C末端アミノ酸を欠失したNFAT3の不活性突然変異体(HEK to-NFAT3-85C)をコードするウイルスで、安定して感染されたHEK細胞由来のSEVは、古典的なトランズウェル浸潤アッセイにおいて、高度に浸潤性の乳癌細胞(MDA-MB-231、SUM-159-PT)、膵臓癌細胞(BXPC3)及び膠芽腫癌細胞(U87MG)の浸潤を調節する特異的能力を試験する目的で産生された。対照として、細胞を、PBS、又はT47D乳癌細胞株で産生されたSEVのいずれかで処理した。
【0245】
結果は、図15に提示され、以下のことを示している:
・低浸潤性乳癌細胞株T47Dによって産生されたSEVは、全ての試験された細胞株の浸潤指数を約40%~60%有意に減少させる:高度に浸潤性の乳癌細胞株MDA-MB-231(図15A参照)及びSUM-159-PT(図15B参照)、膵臓細胞株BXPC3(図15C参照)、及び膠芽腫細胞株U87MG(図15D参照)。
【0246】
・対照ウイルス(HEK to-Ctl)に感染したHEK細胞株によって産生されたSEVは、高度に浸潤性の乳癌細胞株MDA-MB-231(図15A参照)、及び膠芽腫細胞株U87MG(図15D参照)の浸潤指数を約40%~45%有意に減少させるが、膵臓細胞株BXPC3(図15C参照)及びSUM-159-PT(図15B参照)の浸潤指数は減少させない。
これらの結果は、NFAT3がHEK細胞株によって内在的に発現されるという事実と一致している(図12参照、内在性NFAT3を標的とするsiRNA(siNFAT3)によってHEK細胞を標的化することは、siRNA対照(siCtl)でトランスフェクトしたHEK細胞と比較して、NFAT3発現の特異的減少がもたらされることを示している)。
【0247】
・NFAT3 WTをコードするウイルスに感染したHEK細胞株(HEK to-NFAT3)によって産生されたSEVは、全ての試験された細胞株の浸潤指数を約40%-60%有意に減少させる:高度に浸潤性の乳癌細胞株MDA-MB-231(図15A参照)及びSUM-159-PT(図15B参照)、膵臓細胞株BXPC3(図15C参照)、及び膠芽腫細胞株U87MG(図15D参照)。この減少は、T47D細胞株において(MDA-MB-231については図15A、及びU87MGについては図15D参照)あるいはHEK to-Ctl細胞株において(SUM-159PTについては図15B、及びBXPC3については図15C参照)のいずれかで産生されたSEVで癌細胞が処理される場合よりも高くなる傾向にある。
【0248】
・NFAT3の恒常的活性突然変異体に感染したHEK細胞株(HEK to-ΔNFAT3)によって産生されたSEVは、全ての試験された細胞株の浸潤指数を約60-80%有意に減少させる:高度に浸潤性の乳癌細胞株MDA-MB-231(図15A参照)及びSUM-159-PT(図15B参照)、及び膵臓細胞株BXPC3(図15C参照)、及び膠芽腫細胞株U87MG(図15D参照)。この減少は、図15における全ての癌細胞株について、HEK to-ΔNFAT3細胞株で産生されたSEVで癌細胞が処理される場合よりもさらに高い。
【0249】
・その最後の85C末端アミノ酸を欠失したNFAT3の不活性突然変異体に感染したHEK細胞株(HEK to-NFAT3-85C)によって産生されたSEVは、もはや、高度に浸潤性の乳癌細胞株MDA-MB-231(図15A参照)及びSUM-159-PT(図15B参照)、及び膵臓細胞株BXPC3(図15C参照)、及び膠芽腫細胞株U87MG(図15D参照)の浸潤指数を減少させることができない。
【0250】
これら結果は、SEV産生細胞におけるNFAT3の発現(内在性及び/又は外因性)は、SEVが乳癌、膵臓癌及び膠芽腫癌細胞の浸潤を阻害するために絶対的に必要とされることを、再度実証する。この阻害の強さは、WT NFAT3の異所性発現によって増強することができる(HEK to-NFAT3)。また、この浸潤の阻害は、NFAT3の恒常的活性突然変異体の異所性発現によって(浸潤指数の阻害の80%まで)さらに増強することができる(HEK to-ΔNFAT3)。試験された全ての癌細胞株での浸潤指数の阻害におけるNFAT3の役割の特異性は、その最後の85C末端アミノ酸を欠失したNFAT3の不活性突然変異体を発現するHEK細胞で産生されたSEVによる浸潤がないことによって実証される(HEK to-NFAT3-85C)。
【0251】
これら結果は、別の細胞株(HEK)におけるNFAT3の異所性発現が、この他の細胞株によって産生されたSEVにおけるNFAT3の阻害効果を転移させるのに十分であることをさらに実証する。
【0252】
書誌参考文献
Al-Nedawi, K. et al. Intercellular transfer of the oncogenic receptor EGFRvIII by microvesicles derived from tumour cells. Nature Publishing Group 10, 619-624 (2008).
Fougere, M., et al. (2010). NFAT3 transcription factor inhibits breast cancer cell motility by targeting the Lipocalin 2 gene. Oncogene, 29(15), 2292-2301.
Harris DA, et al. (2015) Exosomes Released from Breast Cancer Carcinomas Stimulate Cell Movement. PLoS ONE 10(3): e0117495.
Hendrix, A. et al. An Ex(o)citing Machinery for Invasive Tumor Growth. Cancer Res. 70, 9533-9537 (2010).
Jauliac S, et al. (2002). The role of NFAT transcription factors in integrin-mediated carcinoma invasion. Nat Cell Biol 4: 540-544.
Jauliac, S et al. (2002). The role of NFAT transcription factors in integrin-mediated carcinoma invasion. Nature Cell Biology, 4(7), 540-544.
Mancini M, Toker A. (2009). NFAT proteins: emerging roles in cancer progression. Nat Rev Cancer 9: 810-820.
Melo, S. A. et al. Cancer exosomes perform cell-independent microRNA biogenesis and promote tumorigenesis. Cancer Cell 26, 707-721 (2014).
Molkentin JD, Lu JR, Antos CL, Markham B, Richardson J, Robbins J et al. (1998). A calcineurin-dependent transcriptional pathway forcardiac hypertrophy. Cell 93: 215-228.
Ohshima, K. et al. Let-7 microRNA family is selectively secreted into the extracellular environment via exosomes in a metastatic gastric cancer cell line. PLoS ONE 5, e13247 (2010).
Peinado, H. et al. Melanoma exosomes educate bone marrow progenitor cells toward a pro-metastatic phenotype through MET. Nat. Med. 18, 883-891 (2012).
Soldevilla, B. et al. Tumor-derived exosomes are enriched in ΔNp73, which promotes oncogenic potential in acceptor cells and correlates with patient survival. Hum. Mol. Genet. 23, 467-478 (2014).
Takahashi, Y. et al. Visualization and in vivo tracking of the exosomes of murine melanoma B16-BL6 cells in mice after intravenous injection. J. Biotechnol. 165, 77-84 (2013).
Tickner, J. A., Urquhart, A. J., Stephenson, S.-A., Richard, D. J. & O'Byrne, K. J. Functions and therapeutic roles of exosomes in cancer. Front Oncol 4, 127 (2014).
van der Pol E. et al. Classification, Functions, and Clinical Relevance of Extracellular Vesicles. Pharmacol Rev 64:A-AD, 2012.
Villarroya-Beltri C. et al. Sorting it out: regulation of exosome loading. Semin Cancer Biol. 2014 October ; 28: 3-13.
Yakimchuk, K. “Exosomes: isolation methods and specific markers,” Materials and Methods, vol. 5, 2015.
Zomer, A. et al. In Vivo imaging reveals extracellular vesicle-mediated phenocopying of metastatic behavior. Cell 161, 1046-1057 (2015).
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A-7B】
図7C-7D】
図8A-8B】
図8C-8D】
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【配列表】
0007272796000001.app