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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】線量計算方法、線量計算プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20230502BHJP
【FI】
A61N5/10 Q
A61N5/10 S
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019003717
(22)【出願日】2019-01-11
(65)【公開番号】P2020110367
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-12-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2018年日本原子力学会 春の年会 開催日 平成30年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】能任 琢真
【審査官】神ノ田 奈央
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-221860(JP,A)
【文献】特開平04-052598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を照射する線源を有する放射線照射室の周囲に設けられた放射線遮蔽用の遮蔽体と、前記遮蔽体の外側に設けられた構造体との間に形成される室外空間の線量を計算する方法であって、
前記線源から照射されて前記遮蔽体を透過する放射線のうち少なくとも一部が前記遮蔽体内で散乱して、前記室外空間内に設定した所定の評価点に到達すると仮定して、
前記線源から照射された放射線が前記遮蔽体内で散乱して前記評価点に到達することによる第一の線量を求めるステップと、前記線源から照射された放射線が前記遮蔽体を透過した後に、前記遮蔽体の外側の前記室外空間で多重反射して前記構造体の前記室外空間側の表面から前記評価点に到達することによる第二の線量を求めるステップと、前記線源から照射された放射線が前記遮蔽体を透過した後に、前記遮蔽体の外側の前記室外空間で多重反射して前記遮蔽体の前記室外空間側の表面から前記評価点に到達することによる第三の線量を求めるステップと、前記第一の線量と前記第二の線量と前記第三の線量とを合算して前記評価点の線量を求めるステップを有し、
前記第一の線量は、前記線源から放射線の照射方向に所定距離だけ離れた前記放射線照射室内の位置での最大線量率と、前記遮蔽体の透過率と、方向利用率と、前記遮蔽体の前記室外空間側の表面における放射線の照射面積と、放射線の照射方向の軸線と前記遮蔽体の前記室外空間側の表面との交点である第一の反射点における前記評価点に対する反射率と、前記線源から前記第一の反射点までの距離と、前記第一の反射点から前記評価点までの距離とに基づいて求められ、
前記第二の線量は、前記室外空間での放射線の多重反射の反射率と、前記最大線量率と、前記透過率と、前記方向利用率と、前記構造体の前記室外空間側の表面における放射線の照射面積と、放射線の照射方向の軸線と前記構造体の前記室外空間側の表面との交点である第二の反射点における前記評価点に対する反射率と、前記線源から前記第二の反射点までの距離と、前記第二の反射点から前記評価点までの距離とに基づいて求められ
前記第三の線量は、前記室外空間での放射線の多重反射の反射率と、前記最大線量率と、前記透過率と、前記方向利用率と、前記構造体の前記室外空間側の表面における放射線の照射面積と、放射線の照射方向の軸線と前記遮蔽体の前記室外空間側の表面との交点である第三の反射点における前記評価点に対する反射率と、前記線源から前記第二の反射点までの距離と、前記第三の反射点から前記評価点までの距離とに基づいて求められることを特徴とする線量計算方法。
【請求項2】
前記室外空間での放射線の多重反射の反射率を、エネルギーの減衰によらず一定値と仮定して、前記第二の線量を求めることを特徴とする請求項1に記載の線量計算方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の線量計算方法をコンピュータに実行させることを特徴とする線量計算プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば放射線施設の線量計算方法、線量計算プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子リニアック(直線加速器)等の放射線発生装置が設置された放射線照射室では、管理区域外への放射線の漏洩を抑え、管理区域境界の実効線量を法令で定める値以下にするため、コンクリートや鉄を使った厚い遮蔽壁が設けられる。
【0003】
国内では、放射線施設の管理区域境界の線量評価は、非特許文献1に記載の簡易計算式で計算するのが一般的である。また、より複雑な遮蔽の場合は、対象を3次元モデル化した上で、モンテカルロ法による放射線輸送計算により、実効線量を計算することができる。
【0004】
上記の他に、放射線施設の線量評価の簡易計算式は非特許文献2~4にまとめられている。特に、非特許文献2には、X線の利用線錐が照射室の迷路に向けられ、X線が迷路壁を透過したのちに、迷路の奥側の壁で1回散乱し、照射室出入り口に到達するX線の実効線量の簡易計算式について、図5を用いて以下のように記載されている。
【0005】
【数1】
【0006】
ただし、DwTは照射室入り口Eでの線量、Wは照射線量、Umは方向利用率、Bprは迷路壁Mの透過率、αpは壁Pにおける反射率、Apは壁Pにおける最大照射範囲、dpは線源Sから壁Pの中心までの距離、d’’は壁Pの中心から照射室入り口Eまでの距離である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】「放射線施設のしゃへい計算実務マニュアル2015」、公益財団法人原子力安全技術センター、放射線障害防止法出版物編集委員会発行、平成27年3月
【文献】International Atomic Energy Agency, “Radiation protection in the design of radiotherapy facilities. Safety Reports Series No. 47”, Vienna (Austria): International Atomic Energy Agency, 2006, ISBN-10: 92-0-100505-9
【文献】National Council on Radiation Protection and Measurements, “Structural shielding design and evaluation for megavoltage x- and gamma-ray radiotherapy facilities. NCRP Report No. 151.” Bethesda, MD (USA): National Council on Radiation Protection and Measurements, 2005, ISBN-13: 978-0-929600-87-1
【文献】McGinley PH, “Shielding techniques for radiation oncology facilities.” Madison, WI (USA): Medical Physics, 2002, ISBN-13: 978-1930524071
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年の免震構造の普及により、照射室直下の免震層の線量評価のニーズが増えている。
【0009】
上記の従来の簡易計算法では、免震層のある床に向けて照射したX線のように、X線が床を透過し、免震層内の天井の低い空間で反射するような経路を通る評価点については、精度良く評価することが難しい。
【0010】
また、従来のモンテカルロ法による線量計算は、簡易計算式に比べ計算時間が必要であり、計算体系によっては数日から1週間程度必要である。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、放射線照射室の床下などの室外空間の線量を精度良く計算することのできる線量計算方法、線量計算プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る線量計算方法は、放射線を照射する線源を有する放射線照射室の周囲に設けられた放射線遮蔽用の遮蔽体の外側の室外空間の線量を計算する方法であって、線源から照射されて遮蔽体を透過する放射線のうち少なくとも一部が遮蔽体内で散乱して、室外空間内に設定した所定の評価点に到達すると仮定して、線源から照射された放射線が遮蔽体内で散乱して評価点に到達する寄与の値と、線源から照射された放射線が遮蔽体を透過した後に、遮蔽体の外側の室外空間で多重反射して評価点に到達する寄与の値とを合算して評価点の線量を求めることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る他の線量計算方法は、上述した発明において、室外空間での放射線の多重反射の反射率を、エネルギーの減衰によらず一定値と仮定して、室外空間で多重反射して評価点に到達する寄与の値を求めることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る他の線量計算方法は、上述した発明において、線源から照射された放射線のエネルギーと、遮蔽体の材質と、室外空間を挟んで遮蔽体の表面に対向する物体の材質と、線源から照射された放射線が遮蔽体を透過した後に、物体の表面で反射して評価点に向かう放射線による線量率と、物体の表面で反射した後、遮蔽体の表面で反射して評価点に向かう放射線による線量率とに基づいて、室外空間での放射線の多重反射の反射率を求め、求めた反射率を用いて、室外空間で多重反射して評価点に到達する寄与の値を求めることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る線量計算プログラムは、上述した線量計算方法をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る線量計算方法によれば、放射線を照射する線源を有する放射線照射室の周囲に設けられた放射線遮蔽用の遮蔽体の外側の室外空間の線量を計算する方法であって、線源から照射されて遮蔽体を透過する放射線のうち少なくとも一部が遮蔽体内で散乱して、室外空間内に設定した所定の評価点に到達すると仮定して、線源から照射された放射線が遮蔽体内で散乱して評価点に到達する寄与の値と、線源から照射された放射線が遮蔽体を透過した後に、遮蔽体の外側の室外空間で多重反射して評価点に到達する寄与の値とを合算して評価点の線量を求めるので、例えば放射線照射室の床下などの室外空間の線量を、モンテカルロ法によることなく迅速かつ精度良く計算することができるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係る他の線量計算方法によれば、室外空間での放射線の多重反射の反射率を、エネルギーの減衰によらず一定値と仮定して、室外空間で多重反射して評価点に到達する寄与の値を求めるので、室外空間の線量を迅速に計算することができるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明に係る他の線量計算方法によれば、線源から照射された放射線のエネルギーと、遮蔽体の材質と、室外空間を挟んで遮蔽体の表面に対向する物体の材質と、線源から照射された放射線が遮蔽体を透過した後に、物体の表面で反射して評価点に向かう放射線による線量率と、物体の表面で反射した後、遮蔽体の表面で反射して評価点に向かう放射線による線量率とに基づいて、室外空間での放射線の多重反射の反射率を求め、求めた反射率を用いて、室外空間で多重反射して評価点に到達する寄与の値を求めるので、着目する経路に多重反射を含む放射線の線量を迅速かつ精度良く計算することができるという効果を奏する。
【0019】
また、本発明に係る線量計算プログラムによれば、上述した線量計算方法をコンピュータに実行させるので、室外空間の線量をモンテカルロ法によることなく迅速かつ精度良く計算することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明に係る線量計算方法、線量計算プログラムの実施の形態の説明図である。
図2図2は、本発明に係る線量計算方法、線量計算プログラムの実施の形態を示すフローチャート図である。
図3図3は、モンテカルロ法による計算結果と、本発明による計算結果の比較図である。
図4図4は、反射率の計算フローチャートの一例を示す図である。
図5図5は、従来の線量評価方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明に係る線量計算方法、線量計算プログラムの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0022】
(線量計算方法)
まず、本発明に係る線量計算方法の実施の形態について説明する。
【0023】
図1に示すように、線源Sが放射線照射室に設置されており、線源SからX線(放射線)がビーム状(X-ray beam)に照射されるものする。放射線照射室の床は放射線遮蔽用の遮蔽体aで構成され、遮蔽体aの直下には空間b(室外空間)が配置されているものとする。本実施の形態では、放射線照射室として医療用リニアック室を想定し、空間bとして免震層を想定している。
【0024】
線源Sからビーム状に照射したX線について、遮蔽体a内で散乱し空間b内の評価点Eに到達するX線(経路I)、遮蔽体aを透過した後に空間bで多重反射を起こし、最終的に空間bの下側の床(または奥側の壁)eの表面dで反射し評価点Eに到達するX線(経路II)、遮蔽体aを透過した後に空間bの中で多重反射を経て、最終的に遮蔽体aの表面cで散乱し評価点Eに到達するX線(経路III)の3経路に分けて考える。図1に、X線の経路を示す。
【0025】
X線の経路Iの実効線量率D(Sv/h)は、遮蔽体aと空間bの境界の壁表面cでの散乱とみなし、以下の式(2)で計算する。ここで、WはX線の線源Sから真下に1m離れた位置での最大線量率(Gy/h)、Bは遮蔽体aの透過率、FはGyをSvに変える換算係数(Sv/Gy)、Uは方向利用率、AはX線利用線錐の表面cにおける照射面積、αは表面cでの反射点(X線利用線錐の中心軸と表面cの交点)における角度θでの反射率、dC0は線源Sから表面cでの反射点までの距離、dは表面c上の反射点から評価点Eまでの距離である。
【0026】
【数2】
【0027】
X線の経路IIの実効線量率D(Sv/h)については、次のように考える。X線の一部は遮蔽体aを透過した後に遮蔽体表面cと床表面dを往復するように多重反射を繰り返す。また、床表面dでの反射の際に、一部が反射率αで評価点Eに向かう。多重反射の反射率を一定値rとし、公比rの無限等比級数の和として扱い、X線の経路IIの実効線量率Dを以下の式(3)で計算する。ここで、AはX線利用線錐の床表面dにおける照射面積、αは床表面dでの反射点(X線利用線錐の中心軸と床表面dの交点)における角度θでの反射率、dF0は線源Sから床表面dでの反射点までの距離、dは床表面d上の反射点から評価点Eまでの距離である。
【0028】
【数3】
【0029】
X線の経路IIIの実効線量率D(Sv/h)は、遮蔽体aを透過し、床表面dから表面cに反射率rで反射したX線が、空間b内で多重反射を起こすと考え、経路IIと同様に無限等比級数の和の式を使い、以下の式(4)で計算できる。ここで、αは表面cでの反射点(X線利用線錐の中心軸と表面cの交点)における角度θでの反射率である。
【0030】
【数4】
【0031】
上記の3式(式(2)~(4))をまとめたものが空間bの評価点Eにおける実効線量率D(Sv/h)である。特に、線源Sから真下1mの位置での照射面積をAICとすると、AIC=A/dC0 =A/dF0 であるため、以下の式(5)で表すことができる。
【0032】
【数5】
【0033】
評価点Eが空間bの中間の高さの場合、反射率がα=αとなる。また、反射点から評価点Eまでの距離は、X線利用線錐の中心軸から評価点Eまでの距離dに近似(d≒d≒d)することができる。
【0034】
評価点Eが空間b内のX線利用線錐が直接届く範囲とその近傍にある場合は、本発明の方法で得られる実効線量率が過小評価になるため注意が必要である。単純なX線の透過線が支配的になるからである。
【0035】
透過率Bの計算は周知の手法を使うことができる。一例として、上記の非特許文献1に記載の手法により、X線のエネルギー、遮蔽体の材質(コンクリート、鉄、鉛など)と厚さから求めることができる。
【0036】
反射率α,α,αの計算は周知の手法を使うことができる。一例として、ChiltonとHuddlestonの半経験式により、X線のエネルギーと反射角から求めることができる。
【0037】
多重反射の反射率rは、例えば、後述の方法により計算することが可能であるが、後述の方法に限定されない。なお、反射率rは、加速器エネルギーや表面c、床表面dの材質に応じた値がデータベース化され、計算時に必要な値が得られることが望ましい。
【0038】
したがって、実際の計算では、X線の照射条件(線源から1m離れた位置での最大線量率、照射面積、方向利用率)、施設のレイアウト、遮蔽体aの遮蔽率、評価点Eの位置、空間b内の多重反射の反射率r、表面c、床表面dでの反射角に応じた反射率が必要である。換算係数Fは定数であり、1を使用する。
【0039】
(線量計算プログラム)
次に、本発明に係る線量計算プログラムの実施の形態について説明する。本実施の形態に係る線量計算プログラムは、上記の線形計算方法をコンピュータに実行させるものである。
【0040】
図2は、本実施の形態の線量計算プログラムのフローチャートの一例である。この計算プログラムでは、空間b内の任意の点の実効線量を計算する。
【0041】
まず、X線の照射条件(線源Sから1m離れた位置での最大線量率、照射面積、方向利用率、加速器エネルギー)、遮蔽体aの構造(材質、厚さ)、評価点Eの位置をパラメーターとして入力する(ステップS1)。透過率や反射率を入力パラメーターとしてもよい。
【0042】
加速器エネルギーと遮蔽体aの構造から、遮蔽体aの透過率Bが得られる(ステップS4)。評価点Eの位置に応じて、反射点から評価点Eの距離と反射角を求め(ステップS2)、エネルギーと反射角に応じた反射率α,α,αが得られる(ステップS3)。予め準備したデータベースから加速器エネルギーや表面c、床表面dの材質に応じた多重反射の反射率rが得られる(ステップS5)。以上の値を使うことで、評価点Eの実効線量が計算される(ステップS6)。
【0043】
本実施の形態によれば、線源Sから照射されて遮蔽体aを透過するX線のうち少なくとも一部が遮蔽体a内で散乱して評価点Eに到達すると仮定して、線源Sから照射されたX線が遮蔽体a内で散乱して評価点Eに到達する寄与の値と、線源Sから照射されたX線が遮蔽体aを透過した後に、遮蔽体aの外側の空間bで多重反射して評価点Eに到達する寄与の値とを合算して評価点Eの実効線量を求める。このため、従来、適切な簡易計算式がなかった医療用リニアック室直下の免震層の実効線量を、モンテカルロ法によることなく迅速かつ精度良く計算することができる。
【0044】
また、空間bのような層間でのX線の多重反射がある場合に、エネルギーの減衰によらず多重反射の反射率rを一定値と仮定して、無限等比級数の和の考え方を使って定式化し、空間bで多重反射して評価点Eに到達する寄与の値を求めるので、空間bの実効線量を迅速に計算することができる。
【0045】
なお、上記の実施の形態は、ビーム状にX線が照射される施設であればいかなる施設にも適用可能であり、医療用リニアックに限定されない。また、線源からのX線の照射方向は床方向に限定されず、例えば照射室の天井方向や、側壁方向に遮蔽体と同様の構造がある場合に、適用可能である。
【0046】
(線量計算装置)
次に、本発明に係る線量計算装置の実施の形態について説明する。
【0047】
本実施の形態に係る線量計算装置は、上述した線量計算方法を装置として具現化したものであり、例えば入力部、記憶部、演算部、出力部とからなる。この線量計算装置は、例えばCPUを有するコンピュータ、メモリ、ディスプレイ、キーボード等のハードウェア、これらハードウェアを用いて実行されるコンピュータプログラム等のソフトウェアにより構成することができる。
【0048】
入力部は、上記のステップS1の入力パラメータを入力するためのものであり、例えばキーボードなどで構成することができる。記憶部は、加速器エネルギーや表面c、床表面dの材質に応じた値などの計算用データを記憶するデータベースなどで構成することができる。
【0049】
演算部は、上記のステップS2~S6の各計算を実行するものであり、例えばコンピュータと演算ソフトウェアなどで構成することができる。出力部は、上記の演算部による演算処理結果を出力するものであり、例えばディスプレイやプリンタなどで構成することができる。
【0050】
このように構成した線量計算装置によれば、従来、適切な簡易計算式がなかった医療用リニアック室直下の免震層の実効線量を、モンテカルロ法によることなく迅速かつ精度良く計算することができる。
【0051】
(本発明の効果の検証)
次に、本発明の効果を検証するために行った計算結果について説明する。
【0052】
本検証では、上記の線量計算方法による計算結果(実施例)と、モンテカルロ法による計算結果(比較例)を比較することによって、本発明の効果を検証した。計算条件は、X線が遮蔽体aから2.295m離れた位置から真下に円錐状に照射されるものとし、照射条件はW=360Gy/h、AIC=0.16m、U=1とした。遮蔽体aと床eは普通コンクリートとし、遮蔽体aの厚さは1.8m、透過率は上記の非特許文献1に記載の手法により求めてB=1.18×10-42.1/180とした。空間bの高さは1.0mとし、評価点EはX線利用線錐の中心軸から水平方向に3~9m離れ、空間bの中間の高さに位置するものとした。また、空間b内の多重反射の反射率rは0.4とした。比較例のモンテカルロ計算コードには、MCNP5を使用し、利用線錐の中心軸からの水平距離1m毎の点を評価した。
【0053】
図3に比較結果を示す。この図に示すように、本実施例と比較例の結果の差は最大で19%であった。したがって、本発明によれば、従来、適切な簡易計算式がなかった医療用リニアック室直下の免震層の実効線量を比較的精度良く計算できることがわかる。
【0054】
(多重反射の反射率の計算方法)
次に、上記の多重反射の反射率の計算方法の一例について説明する。
【0055】
上記の実施の形態では、空間b内でX線が多重反射を生じ、その時の反射率(多重散乱率)をエネルギーの減衰によらず一定値として扱うことで実効線量を簡易に計算できる方法を示したが、X線のエネルギーや周囲の材質に応じた多重反射の反射率が必要である。そこで、反射率を以下のようにして計算する。
【0056】
まず、評価点Eが空間bの中間の高さの場合の実効線量率D、DをそれぞれD’、D’とする。反射率がα=αに、反射点から評価点Eまでの距離がd=dになるため、比を取ると以下の式(6)が成り立ち、反射率rを求めるにはD’とD’を求めればよいことがわかる。
【0057】
【数6】
【0058】
図4は、多重反射の反射率rを求める計算プログラムのフローチャートの一例である。この図に示すように、まず、加速器エネルギーと遮蔽体aおよび床eの材質をパラメーターとして入力する(ステップS11)。床表面dおよび床eでのX線の相互作用を無視させたモンテカルロ計算により、空間bの中間高さに位置する評価点Eで実効線量Dが算出される(ステップS13)。同じ位置にある評価点Eに対し、遮蔽体a側から評価点Eに到達するX線のみの実効線量を求めるモンテカルロ計算により、実効線量D+D’を計算する(ステップS12)。さらに、床e側から評価点Eに到達するX線のみの実効線量を求めるモンテカルロ計算により、実効線量D’を計算する(ステップS15)。DとD+D’から、D’を求め(ステップS14)、D’とD’から反射率rを求める(ステップS16)。
【0059】
上記の反射率rの計算方法によれば、1つの照射条件から、プログラム内の実効線量の計算方法を変えるだけで遮蔽体a透過後の空間bにおける多重反射の反射率rを計算により求めることができる。着目する経路に多重反射を含むX線の実効線量計算が可能になる。
【0060】
以上説明したように、本発明に係る線量計算方法によれば、放射線を照射する線源を有する放射線照射室の周囲に設けられた放射線遮蔽用の遮蔽体の外側の室外空間の線量を計算する方法であって、線源から照射されて遮蔽体を透過する放射線のうち少なくとも一部が遮蔽体内で散乱して、室外空間内に設定した所定の評価点に到達すると仮定して、線源から照射された放射線が遮蔽体内で散乱して評価点に到達する寄与の値と、線源から照射された放射線が遮蔽体を透過した後に、遮蔽体の外側の室外空間で多重反射して評価点に到達する寄与の値とを合算して評価点の線量を求めるので、例えば放射線照射室の床下などの室外空間の線量を、モンテカルロ法によることなく迅速かつ精度良く計算することができる。
【0061】
また、本発明に係る他の線量計算方法によれば、室外空間での放射線の多重反射の反射率を、エネルギーの減衰によらず一定値と仮定して、室外空間で多重反射して評価点に到達する寄与の値を求めるので、室外空間の線量を迅速に計算することができる。
【0062】
また、本発明に係る他の線量計算方法によれば、線源から照射された放射線のエネルギーと、遮蔽体の材質と、室外空間を挟んで遮蔽体の表面に対向する物体の材質と、線源から照射された放射線が遮蔽体を透過した後に、物体の表面で反射して評価点に向かう放射線による線量率と、物体の表面で反射した後、遮蔽体の表面で反射して評価点に向かう放射線による線量率とに基づいて、室外空間での放射線の多重反射の反射率を求め、求めた反射率を用いて、室外空間で多重反射して評価点に到達する寄与の値を求めるので、着目する経路に多重反射を含む放射線の線量を迅速かつ精度良く計算することができる。
【0063】
また、本発明に係る線量計算プログラムによれば、上述した線量計算方法をコンピュータに実行させるので、室外空間の線量をモンテカルロ法によることなく迅速かつ精度良く計算することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上のように、本発明に係る線量計算方法、線量計算プログラムは、医療用リニアック室などの放射線照射室の直下にある免震層などの室外空間の光子線による放射線量を計算するのに有用であり、特に、実効線量を迅速かつ精度良く計算するのに適している。
【符号の説明】
【0065】
E 評価点
S 線源
a 遮蔽体
b 空間
c 表面
d 表面
e 床(または壁)
図1
図2
図3
図4
図5