(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-01
(45)【発行日】2023-05-12
(54)【発明の名称】耐震天井構造
(51)【国際特許分類】
E04B 9/18 20060101AFI20230502BHJP
【FI】
E04B9/18 E
(21)【出願番号】P 2019006872
(22)【出願日】2019-01-18
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】山里 和久
(72)【発明者】
【氏名】櫻庭 記彦
【審査官】齋藤 卓司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-223152(JP,A)
【文献】特開2014-020186(JP,A)
【文献】特開2016-151127(JP,A)
【文献】特開昭63-040041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 9/00-9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊り部材を介して建物躯体の上部構造に吊り下げ支持される野縁受けと、
前記野縁受けに取り付けられる野縁と、
前記野縁の下面に取り付けられた天井パネルと、を備えた耐震天井構造であって、
前記天井パネルの上面に直接又は前記野縁を介して固定され、前記天井パネルに沿って水平方向に延在する長尺の水平力伝搬材が設けられ、
前記水平力伝搬材の両端部は、前記建物躯体
と一体で挙動する支持構造部
である受梁または柱材に接合されていることを特徴とする耐震天井構造。
【請求項2】
前記水平力伝搬材は、互いに直交する二方向に延在方向を向けた格子状に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の耐震天井構造。
【請求項3】
二方向に延在する第1水平力伝搬材と第2水平力伝搬材とは、交差部分で互いに影響しないように異なる高さで配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐震天井構造。
【請求項4】
二方向に延在する第1水平力伝搬材と第2水平力伝搬材とは、同一の高さに配置され、
前記第1水平力伝搬材と前記第2水平力伝搬材との交差部分は、少なくとも一方の水平力伝搬材に対して上下方向に開口する切欠凹部が形成され、
該切欠凹部は、他方の水平力伝搬材が当該他方の水平力伝搬材の延在方向に移動可能に嵌合していることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐震天井構造。
【請求項5】
前記水平力伝搬材は、延在方向の中間部で分割され、その分割端部同士を突き合わせた状態で接続金物により連結されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の耐震天井構造。
【請求項6】
前記水平力伝搬材は、野縁受け材と野縁材との組み合わせによって構成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の耐震天井構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐震天井構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば学校、病院、生産施設、体育館、プール、空港ターミナルビル、オフィスビル、劇場、シネコン等の建物の天井として、吊り天井が多用されている。このような吊り天井は、水平の一方向に所定の間隔をあけて並設される複数の野縁と、野縁に直交し、水平の他方向に所定の間隔をあけて並設され、複数の野縁に一体に接続して設けられる複数の野縁受けと、下端を野縁受けに接続し、上端を上階の床材等の上部構造(建物躯体)に固着して配設される複数の吊りボルト(吊り部材)と、野縁の下面にビス留めなどによって一体に取り付けられ、下階の天井面を形成する天井パネルと、を備えて構成されている。
【0003】
一方、このように野縁及び野縁受けの天井下地と天井パネルを吊り部材で吊り下げ支持してなる吊り天井は、地震時に作用する水平方向の加速度を受けて横揺れが発生する。天井パネルは、建物躯体と構造上別々の挙動となり、横揺れが増幅する傾向にあるため、天井パネルが壁や、柱、梁などの建物躯体に衝突して破損し、脱落が生じるおそれがあった。
【0004】
このような吊り天井の脱落を防止するために、耐震部材として斜め部材を設置する方法や国土交通省告示第791号に記載される天井周囲に地震力を負担する壁等を配置する方法が知られている。
その他の例として、例えば特許文献1に示すような、天井パネルの下方に且つ天井パネルに沿って横方向に配設された略棒状の引張材を備え、この引張材を、両端部をそれぞれ建物躯体に接続して配設するとともに、両端部の間の中間部を天井パネルの下方から天井パネル及び/又は野縁に接続固定手段で接続固定して配設することで天井パネルと建物躯体を同調させて、天井パネルの耐震性能を高めた耐震天井構造や吊り天井ではないが支柱と梁で構成されたぶどう棚に直接天井を留め付ける直天井が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
空気中の粉塵量の制御が要求されるクリーンルームや湿潤環境の屋外軒天井や屋内プール、温浴施設等の場合には、気密性を確保するために天井周囲の壁や柱、梁などと天井を構成する部材とのクリアランス(以後、天井クリアランスと呼ぶ)が無いものが好ましい。また、クリーンルームでは、天井裏に多くの設備を有するために耐震部材との干渉が課題となる。
耐震部材として斜め部材を設置する方法は、天井パネルが吊元の上部構造と同調して動き天井周囲の柱や壁と異なる動きをするために、天井周囲に気密性の保持が困難なクリアランスが必要であり、天井周囲に地震力を負担する壁等を配置する方法の場合は、日常的には天井周囲にクリアランスは無いが、地震時には天井パネルと地震力を負担する壁等が衝突して隙間ができるためクリーンルームの気密性が失われてしまう。
ぶどう棚に直接天井を留め付ける直天井や天井パネルの下面に引張材を配置して耐震性をもたせた特許文献1のような構造にすると、地震時にも気密性を保持し易くなるが、ぶどう棚を用いた直天井の場合は、コスト高や荷重増の課題に加えて、天井内設備との干渉調整等による天井懐高さの増加により、天井面の高さが低くなってしまうという問題があった。
また、特許文献1のように天井パネルの下面に引張材を配置して耐震性をもたせた構造にすると、粉塵の付着防止の観点から天井面の凹凸を好まないクリーンルームの要求性能に対して問題があった。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、耐力剛性の高い天井構造を実現できるうえ、天井裏の斜め部材や天井クリアランスを不要とすることができる耐震天井構造を提供することを目的とする。
また、本発明の他の目的は、天井下地部に耐震構造を設けることによって天井仕上面に凹凸等の形状的な制約を生じない耐震天井構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る耐震天井構造は、吊り部材を介して建物躯体の上部構造に吊り下げ支持される野縁受けと、前記野縁受けに取り付けられる野縁と、前記野縁の下面に取り付けられた天井パネルと、を備えた耐震天井構造であって、前記天井パネルの上面に直接又は前記野縁を介して固定され、前記天井パネルに沿って水平方向に延在する長尺の水平力伝搬材が設けられ、前記水平力伝搬材の両端部は、前記建物躯体と一体で挙動する支持構造部である受梁または柱材に接合されていることを特徴としている。
【0009】
本発明では、天井パネルの上面側に配置される水平力伝搬材を水平方向に延在させて配置するとともに、その水平力伝搬材の両端部が建物躯体、又は建物躯体の支持構造部に接合された耐力剛性が高い天井構造を実現することができる。そのため、地震時において、水平力伝搬材の下面側に固定される天井パネルを有する天井部が建物躯体と一体に水平方向に挙動することとなり、天井部の揺れの増幅を抑制することができる。
すなわち、本発明による耐震天井構造では、地震時に作用する天井部の水平慣性力を確実に建物躯体に伝搬させることができ、従来のように天井部が建物の壁、柱、梁などの躯体に衝突することを防止できる。
【0010】
また、本発明では、上述したように天井部が建物躯体と一体に水平方向に挙動するため、天井面と建物躯体、又は建物躯体の支持構造部との間に水平方向のクリアランスを設ける必要がなくなる。そのため、クリーンルーム、屋内プール、温浴施設等の気密性が要求される建物に適用することができる。
さらに、水平力伝搬材が天井パネルよりも上方で天井裏に配置され、天井面(天井の下面)に耐震部材が配置されることがないので、天井面に凹凸を有する形状の耐震部材が露出することがなく、意匠性が低下することもない。
【0011】
また、本発明に係る耐震天井構造は、前記水平力伝搬材は、互いに直交する二方向に延在方向を向けた格子状に配置されていることが好ましい。
【0012】
この場合には、地震時において、建物躯体に作用する直交する二方向の水平力を格子状に配置される二方向の水平力伝搬材から天井部に伝搬させることができる。そのため、天井部が建物躯体とより確実に一体に水平方向に挙動することとなり、天井部の揺れを抑制することができる。
【0013】
また、本発明に係る耐震天井構造は、二方向に延在する第1水平力伝搬材と第2水平力伝搬材とは、交差部分で互いに影響しないように異なる高さで配置されていることが好ましい。
【0014】
この場合には、交差部分で互いに影響しないように設置された二方向に延在する第1水平力伝搬材と第2水平力伝搬材には、地震時に発生する天井面の水平力を伝搬する際に部材を曲げる方向への力が働くことがなくなり、材軸方向への引張力のみ負担する構造となる。このため小さな断面で水平力を伝搬することが可能となり、格子状に配置される水平力伝搬材の高さを抑えることができ、天井裏の高さ寸法の増大を抑制できることから、天井面の高さが低くなることを防止できる。
【0015】
また、本発明に係る耐震天井構造は、二方向に延在する第1水平力伝搬材と第2水平力伝搬材とは、同一の高さに配置され、前記第1水平力伝搬材と前記第2水平力伝搬材との交差部分は、少なくとも一方の水平力伝搬材に対して上下方向に開口する切欠凹部が形成され、該切欠凹部は、他方の水平力伝搬材が当該他方の水平力伝搬材の延在方向に移動可能に嵌合していることを特徴としてもよい。
【0016】
このように、第1水平力伝搬材と第2水平力伝搬材とを同一の高さの位置で交差させる場合には、例えば互いに上下に重なって交差する場合に比べて、第1水平力伝搬材と第2水平力伝搬材を共に天井パネルに直接接合できるため他の部材やその部材の接合部の耐力および剛性に影響されないため、力の流れを単純化できる。
【0017】
また、本発明に係る耐震天井構造は、前記水平力伝搬材は、延在方向の中間部で分割され、その分割端部同士を突き合わせた状態で接続金物により連結されていることが好ましい。
【0018】
この場合には、接続金物によって水平力伝搬材の端部同士を突き合わせた状態で延長方向に同軸に連結することができる。これにより、複数の水平力伝搬材を一体的に設けることができ、建物躯体間の水平方向のスパンが大きな場合でも、複数の水平力伝搬材に建物躯体に作用する水平力を効率よく伝搬させることができる。
【0019】
また、本発明に係る耐震天井構造は、前記水平力伝搬材は、野縁受け材と野縁材との組み合わせによって構成されていることを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の耐震天井構造によれば、耐力剛性の高い天井構造を実現できるうえ、天井裏の斜め部材や天井クリアランスを不要とすることができる。
また、本発明によれば、天井下地部に耐震構造を設けることによって天井仕上面に凹凸等の形状的な制約を生じないうえ、天井パネルや設備とそれらを支持する部材の配置との干渉が少なく、天井部に耐震構造を設けることによって天井面が低くなることもない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態による耐震天井構造を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す耐震天井構造を第2横方向から見た側断面図である。
【
図3】
図1に示す耐震天井構造の1区間を上方から見た平面図であって、野縁受け及び野縁を省略した図である。
【
図4】
図2に示す耐震天井構造において、野縁受け材からなる水平力伝搬材と建物躯体の受梁との接合部の要部を示す側断面図である。
【
図5】
図2に示す耐震天井構造において、野縁材からなる水平力伝搬材と建物躯体の受梁との接合部の要部を示す側断面図である。
【
図6】アルミ押出形材からなる水平力伝搬材の連結部分を示す図であって、(a)は上方から見た平面図、(b)は側断面図、(c)は(a)および(b)に示すA-A線断面図である。
【
図7】アルミ押出形材からなる水平力伝搬材の交差部分を示す図であって、(a)は上方から見た平面図、(b)は(a)に示すB-B線断面図、(c)は(a)に示すC-C線断面図である。
【
図8】耐震天井構造の施工方法を説明する図であって、第1アルミ押出形材と天井板の接合方法および野縁受けでの仮受け方法を示した要部側断面図である。
【
図9】耐震天井構造の施工方法を説明する図であって、第2アルミ押出形材と同じレベルにある野縁との納まり方法および吊りボルトでの仮受け方法を示した要部側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態による耐震天井構造について、図面に基づいて説明する。
【0024】
本実施形態による耐震天井構造1は、
図1及び
図2に示すように、例えば天井の密閉性が要求されるクリーンルーム、生産工場、研究施設、屋内プール、温浴施設等の建物の天井に採用されている。この耐震天井構造1は、新設の建物は勿論、既設の建物を耐震化する改修工事にも適用される。
【0025】
耐震天井構造1は、吊り部材6を介して建物躯体の上部構造に吊り下げ支持される野縁受け2と、野縁受け2に取り付けられる野縁3と、野縁3の下面3aに取り付けられた天井パネル4と、天井パネル4の上面4bに直接又は野縁3を介して固定され、天井パネル4に沿って水平方向に延在する長尺の水平力伝搬材5(5A、5B)と、を備えている。
【0026】
野縁3は、例えばJIS A 6517に規定される薄板鋼材であり、水平に延設され、且つ水平の一方向(
図1及び
図2で紙面左右方向)の第1横方向X1に所定の間隔をあけて平行に複数配設されている(
図3参照)。
【0027】
野縁受け2は、例えばJIS A 6517に規定される薄板鋼材であり、水平に延設され、且つ水平の他方向で第1横方向X1に直交する第2横方向X2(
図2で紙面に直交する方向)に所定の間隔をあけて平行に複数配設されている(
図3参照)。野縁受け2は、野縁3と交差するように配設されるとともに、複数の野縁3上に載置した状態で配設される。そして、各野縁受け2は、野縁3に交差する部分で、野縁接続用金具(以下、クリップ22という)を使用することにより野縁3に接続されている。
【0028】
吊り部材6は、円柱棒状に形成されるとともに外周面に雄ねじの螺刻を有する吊りボルトであり、上端を上階の床材等の上部構造11に固着、または鋼製の根太等に緊結して垂下され、下端側を、吊り部材接続用金具である耐震ハンガー60を用いることにより野縁受け2に接続して複数配設されている。また、複数の吊り部材6は、所定の間隔をあけて分散配置されている。
【0029】
天井パネル4は、例えば2枚のボードを貼り付けて一体に積層形成したものであり、例えば天井付帯設備等の重量と併せて、例えば1m2あたり30kg以下の重量で形成されている。天井パネル4は、複数の野縁3の下面3aにビス留めなどして設置されている。なお、天井パネル4は、1枚および3枚以上のボードで構成されていてもよい。
【0030】
このように耐震天井構造1では、吊り部材6を介して天井上部の建物構造部(上部構造11)に、野縁3と野縁受け2と天井パネル4とが吊り下げ支持されている。また、野縁3と野縁受け2によって天井下地2Aが形成され、この天井下地2Aに取り付けた天井パネル4によって天井部が形成される。そして、この天井部によって天井面4aが形成されている。
【0031】
耐震天井構造1における建物躯体10は、
図1、
図2及び
図4に示すように、壁、柱、梁、床等の建物の主要構造部である。本実施形態では、柱材12同士に一体に接合されて所定の高さに配置された受梁13を有している。
【0032】
柱材12は、第1横方向X1及び第2横方向X2に所定の間隔をあけて複数設けられていてもよい。例えば、柱材12のスパンとして、10m以上×10m以上に設定することができる。
【0033】
受梁13は、
図2に示すように、地震時に天井面4aに発生する水平慣性力を支持し、柱材12、12間に水平に配置される。受梁13は、野縁3及び野縁受け2と平行な第1横方向X1と第2横方向X2に沿って延在するように複数設けられている。
図4及び
図5に示すように、受梁13のウェブ13Aの両面には、梁長方向に直交する方向に平面を向けた補強リブ131が長さ方向に間隔をあけて接合されている。
また、受梁13には、梁長方向に所定の間隔をあけて上部構造から支持された吊材132によって吊り支持されている。吊材132を設けることで、受梁13の自重による撓みを防止できる。
【0034】
柱材12及び受梁13として、例えばH形鋼、I形鋼、溝形鋼などの形鋼や角鋼管などの管材や鉄筋コンクリート造のものを採用できる。本実施形態の受梁13では、H形鋼が採用されており、例えばH-500×200×10×16を横向き(ウェブ13Aを横向き)に配置している。
【0035】
水平力伝搬材5は、地震時に天井面構成部材に働く水平方向の慣性力を天井面4aのレベル付近に耐力及び剛性に有効な支持構造体である建物躯体10に伝搬させる部材である。水平力伝搬材5は、天井パネル4の上方で第1横方向X1及び第2横方向X2に延在するように配設される略棒状の引張材からなる。水平力伝搬材5における第1横方向X1と第2横方向X2に配置される間隔は、例えば2500mmピッチの格子状に配設される。
【0036】
水平力伝搬材5としては、例えばアルミ押出形材、スチール部材、あるいは野縁受け材と野縁材などを採用することができる。
図1乃至
図4に示す水平力伝搬材5として、野縁受け材を採用しており、上述した天井下地2Aの野縁3と野縁受け2とは別で設けられている。この野縁受け材からなる水平力伝搬材5は、リップ溝形鋼もしくは軽溝形鋼で例えば幅38mm、高さ12mm、厚さ1.2mmの寸法のものが使用される。水平力伝搬材5、5同士は、不図示の接合板を使用してビス止めにより連結される。
なお、
図4は、第1水平力伝搬材5Aと受梁13との接合状態を示しているが、第2水平力伝搬材5Bにおける受梁13との接合状態も同じ構造である。
【0037】
水平力伝搬材5は、連結材7を介して受梁13の下端13aに接続されている。連結材7は、
図4に示すように、矩形状の鋼板であって、上部にボルト穴が形成され、このボルト穴を使用してボルト71の締結により受梁13の補強リブ131に固定されている。連結材7の下部には、複数のボルト、ねじ等の固定部材72により水平力伝搬材5に固定されている。
【0038】
図5は、水平力伝搬材5として野縁材を使用した構造を示している。水平力伝搬材5には、水平力伝搬材5の長手方向に沿って延びる帯状の接合板73がねじで固定されている。そして、この接合板73と、受梁13に固定された連結材7とが連結片74によって固定されている。連結片74は、下端が溶接部75を介して接合板73の上端に固定され、上部でボルト76によって連結材7の下部に固定されている。
なお、
図5は、第1水平力伝搬材5Aと受梁13との接合状態を示しているが、第2水平力伝搬材5Bにおける受梁13との接合状態も同じ構造である。
【0039】
また、水平力伝搬材5として、
図6(a)~(c)、及び
図7(a)~(c)に示すように、アルミ押出形材を用いたものであってもよい。ここで、
図6及び
図7では、アルミ押出形材に対して符号51で示している。
アルミ押出形材51は、
図6(a)~(c)に示すように、溝部511と、溝部511の内側で高さ方向の中央部に配置された補強片512と、を有する長尺なアルミ合金の押出成型材である。
【0040】
アルミ押出形材51の延在方向の中間部で分割された接続部は、その分割端部51a、51a同士を突き合わせた状態で接続金物52により連結されている。アルミ押出形材51の端部51a側の両側壁513、513には、それぞれに対向するボルト穴が延在方向に沿って複数形成されている。
【0041】
接続金物52は、下側に開口する溝部材であって、アルミ押出形材51の溝開口側から外嵌可能に設けられている。接続金物52の両側壁521、521には、それぞれに対向するボルト穴が延在方向に沿って複数形成されている。アルミ押出形材51と接続金物52のそれぞれのボルト穴は、接続金物52を分割されたアルミ押出形材51に外嵌させた状態で一致する位置に配置されている。そして、アルミ押出形材51と接続金物52のそれぞれのボルト穴にボルト53を挿通させてナット54で締め付けることで、分割されたアルミ押出形材51、51が延在方向に接続される。
【0042】
図7(a)~(c)に示すように、アルミ押出形材51における第1横方向X1と第2横方向X2との交差部は、互いに干渉しないように構成されている。一方の第1アルミ押出形材51A(5A)には下端51bから上方に凹む下側切欠部55が形成され、他方の第2水平力伝搬材51B(5B)には上端51cから下方に凹む上側切欠部56が形成されている。
【0043】
このように形成した互いに直交するアルミ押出形材51A、51Bは、双方の交差部において、第1アルミ押出形材51Aの下側切欠部55と、第2アルミ押出形材51Bの上側切欠部56とを上下に嵌合させることで、それぞれが同じ高さレベルで格子状に配設されている。なお、交差部で嵌合されたアルミ押出形材51A、51B同士は、接合されていないので、それぞれの軸方向(延在方向)の引張力は各アルミ押出形材51A、51Bの両端部を介して建物躯体10の受梁13(
図1及び
図2参照)に伝達されるようになっている。
【0044】
ここで、本実施形態の水平力伝搬材5の設計例について説明する。この設計例では、上述したアルミ押出形材51を設計対象とする。
先ず、水平力伝搬材1本が負担する天井面における地震時の水平慣性力は、(1)式により安全側の数値を算定する。
例えば、最大設計用水平震度(maxK)を2.2、天井の最大設計用荷重(maxW)を30kg/m2×9.8N/kg、水平力伝搬材の最大設置間隔(支配幅)(maxb)を10m、水平力伝搬材の最大支点間距離(maxl)を2.5mとしたとき、(1)式より水平力伝搬材の最大張力(maxH)は16170Nとなる。
【0045】
【0046】
そして、一例として、アルミ合金A5083-H112のF値(基準強度)は110N/mm2であるので、上記(1)式の結果より設計上必要な有効断面積(mm2)は以下の通りとなる。
アルミ合金A5083-H112:16170N/110N/mm2=147mm2
軽量形鋼を用いた場合には、材料となるメッキ薄板鋼板SPCCのF値は205N/mm2であるので、上記(1)式の結果より設計上必要な有効断面積(mm2)は以下の通りとなる。
メッキ薄板鋼板SPCC:16170N/205N/mm2=79mm2
【0047】
また、天井面構成部材の地震時水平慣性力を水平力伝搬材に直接伝達させるため、天井板に直接接合する場合は、ボードビス接合可能なアルミ合金もしくは厚1.2mm以下の鋼板、野縁を介して接合する場合は野縁材および接合金物が耐力上負担可能なものを条件とする。
アルミ押出型材での計画の場合に25mmせいで設計することで、水平力伝搬部材以外の天井下地材を一般的に流通している在来工法の野縁や野縁受を利用しての設計が可能となる。また、水平力伝搬部材を野縁受に市販のクリップで取り付け可能な形状、かつ吊りボルトでの直接支持が可能な形状とすることで、施工中の仮支持を可能とし、施工を容易にすることができる。
【0048】
次に、水平力伝搬材5の施工方法について、
図8及び
図9等に基づいて詳細に説明する。
ここでは、水平力伝搬材5として、アルミ押出形材51(51A、51B)を使用して説明する。
【0049】
先ず、
図8に示すように、野縁受け2は吊り部材6に耐震ハンガー60によって支持され、野縁3が野縁受け2の下面2aに第2耐震クリップ21によって支持されている。
次に、この状態において、野縁受け2の下側において、野縁受け2と直交する第2横方向X2(野縁3と平行な方向)に延在するように第2アルミ押出形材51Bを仮受けした状態とする。具体的には、野縁受け2の下面2aに第1耐震クリップ21を使用して第2アルミ押出形材51Bを支持する。
なお、第1耐震クリップ21は、例えば爪折クリップ等であって、第2アルミ押出形材51Bに対して着脱可能なクリップを用いてもよい。これにより、野縁受け2に対して第2アルミ押出形材51Bの仮受け状態が解除しやすくなる。
【0050】
また、
図9に示すように、上述した野縁受け2で仮受けした第2アルミ押出形材51B(
図8参照)と同じ高さの位置において、野縁受け2の延在方向(第1横方向X1)に沿って延在するように第1アルミ押出形材51Aを仮設の吊りボルト61で吊り下げて仮受けする。具体的には、第1アルミ押出形材51Aと、吊りボルト61の下端61aにそれぞれボルト63、63が設けられ、その上下のボルト63、63との間にターンバックル62が連結されている。ターンバックル62を回転させることで、第1アルミ押出形材51Aの高さを調整することができる。
ここで、第1アルミ押出形材51Aと干渉する第2横方向X2に延在する野縁3は、その干渉部分を切断しておく。
【0051】
なお、第1アルミ押出形材51Aと第2アルミ押出形材51Bとは、どちらを先に仮受けしてもよいし、同時に仮受けするようにしてもよい。ただし、
図7(a)~(c)に示すように双方が同じ高さで仮受けする場合には、交差部が生じるので、第1横方向X1と第2横方向X2のいずれか一方向に配列されるアルミ押出形材51のみを先行させて仮受けしてから、他方向に配列されるアルミ押出形材51を仮受けさせることが好ましい。
【0052】
次に、
図1に示すように、仮受けした状態の第1アルミ押出形材51Aと第2アルミ押出形材51Bのそれぞれの両端部を建物躯体の受梁13の下面13aに接合する(
図1及び
図2参照)。
【0053】
そして、第1アルミ押出形材51Aと第2アルミ押出形材51Bを受梁13に固定した後、天井板の留め付けを行う。第1アルミ押出形材51Aと第2アルミ押出形材51Bはともに、呼び径3.5mm以上のビスを用いて天井板と100mmピッチ以下で接合する。その際、第1アルミ押出形材51Aを第1耐震クリップ21から取り外して野縁受け2との仮受けを解除する。なお、第1アルミ押出形材51Aと野縁受け2との仮受けが緊結状態にない場合は解除しない状態であってもかまわない。
【0054】
次に、上述した耐震天井構造の作用について、図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態では、
図1及び
図2に示すように、天井パネル4の上面側に配置される水平力伝搬材5を水平方向に延在させて配置するとともに、その水平力伝搬材5の両端部が建物躯体10と一体で挙動する支持構造部である受梁13に接合された耐力剛性が高い天井構造を実現することができる。そのため、地震時において、水平力伝搬材5の下面側に固定される天井パネル4を有する天井部が建物躯体10と一体に水平方向に挙動することとなり、天井部が建物の壁、柱、梁などの躯体に衝突することを防止できる。
【0055】
また、本実施形態では、上述したように天井部が建物躯体10と一体に水平方向に挙動するため、天井面4aと建物躯体10との間に水平方向のクリアランスを設ける必要がなくなる。そのため、クリーンルーム、屋内プール、温浴施設等の気密性が要求される建物に適用することができる。
さらに、本実施形態では、水平力伝搬材5が天井パネル4よりも上方で天井裏に配置され、天井面4a(天井パネルの下面)に耐震部材が配置されることがないので、天井面に凹凸を有する形状の耐震部材が露出することがなく、意匠性が低下することもない。
【0056】
また、本実施形態では、地震時において、天井部に作用する水平力を格子状に配置される二方向の第1水平力伝搬材5Aと第2水平力伝搬材5Bおよび受梁13により建物躯体10に伝搬させることができる。そのため、天井部が建物躯体10とより確実に一体に水平方向に挙動することとなり、天井部の揺れの増幅を抑制することができる。
【0057】
また、本実施形態では、第1水平力伝搬材5Aと第2水平力伝搬材5Bのうち一方の切欠凹部に他方の水平力伝搬材5が嵌合することで、第1水平力伝搬材5Aと第2水平力伝搬材5Bとを同一の高さの位置で交差させることができる。
そのため、格子状に配置される水平力伝搬材5の高さを一般的に流通している在来工法の25mmせいの野縁材の高さに抑えることができ、天井裏の高さ寸法の増大を抑制できる。
【0058】
また、本実施形態では、接続金物によって水平力伝搬材5の端部同士を突き合わせた状態で延長方向に同軸に連結することができる。これにより、複数の水平力伝搬材5を一体的に設けることができ、受梁13の水平方向のスパンが大きな場合でも、複数の水平力伝搬材5により天井部に作用する水平力を効率よく受梁13に伝搬させることができる。
【0059】
上述のように本実施形態による耐震天井構造では、耐力剛性の高い天井構造を実現できるうえ、建物躯体の変形に追従するため天井クリアランスが不要とすることができる。
また、本実施形態では、在来工法を用いた天井下地材に加え、野縁材と同じ高さレベルに野縁材と同じ高さの小断面な耐震材を水平方向に設置する構造であるため、天井裏に多くの設備を有する部位でも干渉を避けられ、大きな耐震部材を設置するために階高さを大きくしたり、天井面を低くする必要がない。
【0060】
以上、本発明による耐震天井構造の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0061】
例えば、本実施形態では、水平力伝搬材5A、5Bの延在方向が互いに直交する二方向で、格子状に配置されているが、このように二方向に直交した格子状に配置されていることに限定されることはない。要は、水平力伝搬材5は天井パネル4に沿って水平方向に延在する長尺の部材であればよいのである。
【0062】
また、本実施形態では、二方向に延在する第1水平力伝搬材5Aと第2水平力伝搬材5Bとが同一の高さに配置されているが、双方の水平力伝搬材5A、5Bが同じ高さレベルであることに制限されることはなく、上下にずれた位置に配置されていてもよい。
例えば、
図1乃至
図5に示すように、水平力伝搬材5Aを野縁受けの高さに、水平力伝搬材5Bを野縁の高さに配置しても良い。この場合は、上下にずれた位置に配置されているので、交差部に切欠凹部を形成させて嵌合する必要はない。
【0063】
さらに、第1水平力伝搬材5Aと第2水平力伝搬材5Bとが同一の高さに配置される場合における互いの交差部分の構造として、上述した少なくとも一方の水平力伝搬材5に直交方向に開口する切欠凹部が形成され、切欠凹部に他方の水平力伝搬材5が延在方向に移動可能に嵌合することで交差部分が形成された構成としているが、このような構成に限定されることはない。
【0064】
また、水平力伝搬材5における延在方向の中間部の分割端部同士を突き合わせた状態で接続金物52により連結された構成としているが、これに限定されることはなく、接続金物52を使用しない接続構造を採用することも可能である。
【0065】
また、本実施形態では、水平力伝搬材5をH形鋼の受梁13に接合する構成としているが、受梁13であることに制限されるものではない。例えば、支持構造部として角型鋼管の受梁であってもよいし、鉄筋コンクリート造の受梁であってもかまわない。さらに、水平力伝搬材5の接合部として梁材であることに限定されず、例えば水平力伝搬材5を建物躯体である柱材12に対して接合される構成としてもよい。
【0066】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 耐震天井構造
2 野縁受け
2A 天井下地
3 野縁
4 天井パネル
4a 天井面
5 水平力伝搬材
5A 第1水平力伝搬材
5B 第2水平力伝搬材
6 吊り部材
7 連結材
10 建物躯体
11 上部構造
12 柱材
13 受梁(支持構造部)
51、51A、51B アルミ押出形材
52 接続金物
X1 第1横方向
X2 第2横方向